説明

アルジネート印象材硬化体用保存液

【課題】 アルジネート印象材硬化体の離水や乾燥による寸法変化を高度に抑制でき、その長期保存を可能とする保存液を開発すること。
【解決手段】 糖類、特にトレハロースに代表される非還元糖の水溶液からなるアルジネート印象材硬化体用保存液であり、上記糖類は、水100質量部に対して1〜80質量部溶解しているのが好ましく、保存対象とするアルジネート印象材硬化体は、非還元糖を含有するものである場合において、前記寸法変化が抑制される効果が特に顕著に発揮されて好ましい態様になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルジネート印象材硬化体用の保存液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
歯牙等を修復するために、鋳造歯冠修復処理または欠損補綴処理等を必要とする際には、i)まず、支台歯等の型を取る、ii)次に、その採得された型を用いて、石膏製等の歯顎模型を作製する、iii)作製された歯顎模型を元に補綴物を作製し、作製された補綴物を支台歯等に装着する事が行われる。この支台歯等の型を印象と称し、印象を採得するための硬化材料を印象材と呼んでいる。この印象材として、アルジネート印象材、寒天印象材、シリコーンゴム印象材、ポリサルファイドゴム印象材、あるいは、ポリエーテルゴム印象材等が用いられる。その中でも、アルジネート印象材は、安価かつ取扱いが容易であるため、最も広く用いられる。
【0003】
アルジネート印象材を用いて印象を採得する作業は、以下の手順で行う。i)歯列を模した印象用トレーに、アルジネート印象材を構成する各成分を混練したものを盛り付ける。ii)口腔内の歯牙を包み込むように、印象材を盛り付けたトレーを歯牙に押し付ける。iii)アルジネート印象材が硬化した後に、アルジネート印象材とトレーとを一体として歯牙から外して、口腔外に撤去する。iV)撤去後、アルジネート印象材の硬化体からなる歯牙の型枠に石膏を盛りつけ歯顎模型を作製する。
【0004】
アルジネート印象材は、石膏や珪藻土などの充填材とアルギン酸塩の混合物に対して、大量の水を加えることで、石膏からカルシウムイオンを溶出させ、アルギン酸塩がカルシウムイオンと反応することで硬化する。こうしたアルジネート印象材として様々なものが提案されている。たとえば、印象材性状の改善等を目的として、分子量を分子内のヒドロキシル基数で割った値が40未満、かつ、1分子中のヒドロキシ基数が3個以上の有機ヒドロキシ化合物を含むアルジネート印象材が本出願人により提案されている(特許文献1、2)。また、硬化物からの水分蒸発を防ぐために、キシリットなどの糖アルコールや、ショ糖脂肪酸エステルなどを配合したアルジネート印象材が提案されている(特許文献3、4)。
【0005】
しかし上記のようにアルジネート印象材の硬化体は水を多量に含んでいるため、印象採得後、空気中に30分〜1時間ほど放置しただけでも離水や乾燥によって寸法変化を起こし、印象精度を保つことができない。そのため印象採取後、直ちに、アルジネート印象材の硬化体からなる型枠に石膏を盛りつけ歯顎模型を作製することが求められていた。しかし、この作業は診療時間帯中に、患者の歯科治療と並行して行うことになるため、歯科医師や歯科衛生士にとって、作業負損が非常に大きいものであった。
【0006】
これに対して、印象採得により得られた歯牙の型枠を歯科技工所に送付し、上記の歯顎模型の作製から歯科補綴物の作製までを、歯科技工所内で一括して行うことができれば歯科医師や歯科衛生士にかかる負担を大きく軽減することができ、大変有意義である。したがって、アルジネート印象材の硬化体からなる歯牙の型枠に対して、離水や乾燥を抑制することが必要になるが、こうした方法としては、湿度が80%以上に維持された保湿箱に硬化体を配置して、硬化体からの水の蒸発を防ぐ方法、水中に硬化物を浸漬する方法、テトラクロロジフルオロオクタン及びイソオクタンの混合液からなる保存液に浸漬する方法(特許文献5)等が僅かに知られているだけであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−171219号公報
【特許文献2】特開2004−269385号公報
【特許文献3】特開平10−139615号公報(請求項1、段落番号0014、表1等)
【特許文献4】特開平10−139616号公報(請求項1、段落番号0016、表1等)
【特許文献5】特開昭63−162609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら。湿度が80%以上に維持された保湿箱に歯牙の型枠を配置して、アルジネート印象材の硬化体からの水の蒸発を防ぐ方法や、歯牙の型枠を水中へ浸漬する方法では、離水や乾燥の抑制効果が十分ではなく、型枠を放置できる時間が、ほんの数時間程度延長できるだけでしかなかった。また、テトラクロロジフルオロエタンのようなクロロフルオロ炭化水素及びイソオクタンの混合液からなる保存液に浸漬する方法でも、ある程度の改善は見られるものの、それでも型枠を放置できる時間が1日程度に延長できるのが限度で、前記歯科技工所内での歯科補綴物の一括作製モデルを実現するには効果が不十分であった。さらに、この保存液は水と非混和性の有機溶媒混合液であるため廃棄や通常の取り扱いに難があり、何よりクロロフルオロ炭化水素はオゾン層破壊物質の疑いもあり、使用に注意が必要であった。
【0009】
以上の背景にあって本発明は、アルジネート印象材硬化体の離水や乾燥による寸法変化を高度に抑制でき、その長期保存を可能とする保存液を開発することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、アルジネート印象材硬化体用保存液として、糖類の水溶液を用いることにより上記問題点を解決するに至った。
【0011】
すなわち本発明は、糖類の水溶液からなるアルジネート印象材硬化体用保存液である。
【0012】
また、本発明は、上記アルジネート印象材硬化体用保存液および、アルジネート印象材からなる印象キットも提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の保存液を用いれば、従来の保存方法と比較して、アルジネート印象材硬化体を、離水や乾燥による寸法変化を高度に抑制して長期間保存可能にできる。従って、この保存液を用いれば、アルジネート印象材を用いた歯牙の修復において、支台歯の型を取ったアルジネート印象材硬化体からなる型枠を、この保存液に浸漬する簡単な操作により、その印象精度の低下を長時間にわたって抑えることができる。この結果、たとえば、この型枠を歯科技工所に送付して、歯科技工所内でこれに石膏を盛り付けて歯顎模型を作製することも可能になり、効率的な歯牙の修復が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】印象精度の評価に用いた一対の金型について示す模式図である。
【図2】印象精度の評価方法を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の保存液を用いることにより、アルジネート印象材硬化体において収縮や乾燥による寸法変化が高度に抑制される原因は明らかではないが、以下に説明するように保存液が糖類を含有しているためであると推定される。まず、糖類は水分子との親和性(水和カ)が高いため、アルジネート印象材硬化体を、糖類の水溶液に浸漬すると、該糖類が、硬化体表面の水分子やアルギン酸塩の分子と親和、固定するため離水が防止されると考えられる。
【0016】
さらに、糖類として特に非還元糖を用いた場合に、上記アルジネート印象材硬化体における寸法変化の抑制効果はさらに向上するが、これは非還元糖が硬化体中のアルギン酸分子および水分子とより強く親和し集合体を構成するためと考えられる。即ち、この分子集合体が、アルギン酸塩の分子鎖間、および/または、アルギン酸塩の分子鎖内に入り込むことにより、水酸基やエーテル結合等を有するアルギン酸塩分子と分子集合体との聞に水素結合が形成される。このようにアルギン酸及び水分子の運動が阻害される結果、硬化体の離水や収縮が大幅に抑えられると考えられる。
【0017】
次に、本実施形態のアルジネート印象材硬化体用保存液及びキットを構成する各成分、および保存液の使用に際して、付加的に用いられるその他の成分について説明する。
―糖類―
糖類としては特に限定されるものではないが、糖アルコール類、デオキシ糖、アミノ糖、ウロン酸、単糖類、二糖類、オリゴ糖類、多糖類、またはこれらの混合物などが挙げられる。また、還元糖も非還元糖も制限なく使用できる。
【0018】
糖類の具体例を挙げると、キシリット、ソルビット、アラビット、エリトリット、ガラクチット、スタキット、トルイット、マンニット、リビット、ズルシット、エリスリトールなどの糖アルコール;デオキシリボース、フコース、ラムノースなどのデオキシ糖;グルコサミン、ガラクトサミンなどのアミノ糖;グルクロン酸、ガラクツロン酸などのウロン酸;グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノースなどの単糖類;スクロース、ラクトース、マルトース、ツラノース、セロビオース、トレハロースなどの二糖類;ラフィノース、メレジトース、スタキオース、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、マンナンオリゴ糖、α―シクロデキストリン、β―シクロデキストリンなどのオリゴ糖類;キサンタンガム、プルラン、ヒアルロン酸、グリコーゲン、などの多糖類が挙げられる。
【0019】
これらのうち、非還元糖を用いるのが長期に印象精度を低下抑制する観点から好ましい。ここで、糖類の「還元性」とは、アルカリ性水溶液中で、銀や銅等の重金属イオンに対して還元作用を示す性質を意味する。ここで糖類が還元性を有するか否かは、重金属イオンに対する還元作用を利用したトレンス試薬、ベネジクト試薬、あるいは、フェーリング試薬によって検出する事により確認できる。
【0020】
非還元糖としては、上記の「還元性」を示さない公知の糖類であれば特に制限無く利用できる。その中でも、トレハロースやスクロース等の二糖類、ラフィノース、メレジトース、スタキオース、シクロデキストリン類などのオリゴ糖類などが好ましく。印象精度および保湿性の観点から考えると、二糖類がより好ましく、トレハロースが最適である。
【0021】
糖類の配合量は、水100質量部に対して、1質量部〜80質量部の範囲内であることが好ましく、3質量部〜75質量部の範囲内であることがより好ましく、5質量部〜70質量部の範囲内であることがさらに好ましい。水100質量部に対する糖類の配合量を1質量部以上とすることにより、印象採取後に硬化物をより長時間浸漬しても、印象精度をより高度に保つことができる。但し80質量部以上とした場合、硬化体表面への糖類が析出する問題があり、印象精度を低下させるおそれがあるため好ましくない。
―水―
水は、糖類を溶解する溶媒であり、水道水、イオン交換水、蒸留水等が利用できる。
―添加剤―
本実施形態のアルジネート印象材硬化体用保存液には、以上に説明した各成分以外にも、必要に応じて各種の添加剤を配合することができる。添加剤としては、たとえば、香料、着色料、抗菌剤、防腐剤、pH調整剤、石膏の硬化促進剤等が挙げられ、これらから選択されるいずれか1種または複数種の添加剤を必要に応じて配合することができる。
―アルジネート印象材硬化体用保存液の使用態様―
アルジネート印象材で採取した印象硬化体の表面に、本実施形態のアルジネート印象材硬化体用保存液を接触させることにより、その寸法変化を高度に抑制できる。接触する方法はアルジネート印象材硬化体をアルジネート印象材硬化体用保存液に浸漬するのが最も効果的であるが、この他、霧状にした保存液を吹き付けたり、保存液をしみ込ませた布や紙で覆う等の方法であっても良い。
【0022】
本発明の保存液を用いて印象材硬化体を保存する際の温度は、特に制限されるものではないが、一般的には10〜30℃である。
【0023】
本発明の保存液は予め大量に調合しておき、アルジネート印象材硬化体の保存が求められた時に必要量をこれに供すれば良いが、糖類を保管しておき、上記使用が求められた時に随時必要量を水に溶解して調合し供しても良い。
―アルジネート印象材―
アルジネート印象材は、その包装の状態から粉末タイプ及びペーストタイプの二種類に分類される。粉末タイプのアルジネート印象材は、アルギン酸カリウムやアルギン酸ナトリウムなどのアルギン酸塩;硫酸カルシウム2水塩や硫酸カルシウム半水塩、硫酸カルシウム無水塩などのゲル化反応剤;リン酸3ナトリウム、ピロリン酸ナトリウムなどのゲル化調節剤;珪藻土などの充填材;酸化亜鉛、酸化マグネシウム、フッ化チタンカリウム等の無機化合物、を主成分とした粉末混合体であり、使用直前に必要分だけ歯科医師、或いは歯科衛生士らが規定量の印象材粉末と水とを練和してペースト化して印象採得に用いるものである。一方、ペーストタイプの印象材は、上記アルギン酸塩と充填材とを予め水を含む溶液均一なペースト状とした基材ペーストと、ゲル化反応材とゲル化調節剤、充填材、無機化合物、とを疎水性溶媒を用いてペースト化した硬化材ペーストとからなり、使用直前に両者を規定量づつ練和混合して均一なペーストとした後に印象採得に用いるものである。本実施形態のアルジネート印象材硬化体用保存液に浸漬、保存するものとしては上記の粉末タイプとペーストタイプのいずれも使用することができる。
【0024】
ここで、上記の粉末タイプ、ペーストタイプ何れかのアルジネート印象材が、さらに非還元糖を含有する場合、該アルジネート印象材の硬化体用保存液に浸漬、保存することで、非還元糖を含まないアルジネート印象材を保存する場合と比較して、さらに長期に印象精度の低下を抑制することが可能となり好ましい。ここで、アルジネート印象材中に含有させる非還元糖としてはトレハロースが特に好ましい。その配合量は、アルギン酸塩100質量部に対して、100質量部〜2000質量部の範囲内であることが好ましく、100質量部〜2000質量部の範囲内であることがさらに好ましい。
【0025】
粉末タイプ、ペーストタイプのアルジネート印象材に非還元糖を含有させる場合、その配合形態は特に制限されるものではなく、粉末タイプの場合は、アルジネート印象材粉末、及び水、のどちらに配合しても良く、ペーストタイプの場合も同様に、基材ペースト、硬化材ペーストのどちらに配合しても良い。
―印象キット―
本実施形態の印象キットは、本発明のアルジネート印象材硬化体用保存液及び、上記に示した粉末タイプもしくはペーストタイプ何れかのアルジネート印象材とを組み合わせたキットである。また、アルジネート印象材硬化体用保存液をキットの構成品とするのではなく、粉末状、錠剤状の糖類を構成品としても良い。この場合、アルジネート印象材硬化体用保存液の使用が求められた時に随時水に溶解して調合し使用すれば良い。
【実施例】
【0026】
以下に本発明について、実施例を挙げてより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例にのみ限定されるものではない。
<<原料の略称>>
後述する実施例および比較例のアルジネート印象材の作製に用いた各種原料の略称は以下の通りである。
1.非還元糖
・Cdexα:α―デキストリン
2.使用するアルジネート印象材
・AP−1:硬化材、基材共にトクヤマAP−1ペーストを使用したアルジネート印象材(トクヤマデンタル社製)
・TH−1:硬化材にトクヤマAP−1ペーストを使用し、基材には、AP−1基材ペースト100質量部に対して非還元糖(トレハロース)40質量部を、小型混練機(アイコー産業製アイコーミキサー)を用いて1時間混練し調整したペーストを用いた非還元糖含有アルジネート印象材。
【0027】
<<保存液の評価方法および評価基準>>
後述する実施例および比較例の保存液を用いて、アルジネート印象材の硬化体からなる型枠を保存した際の「印象精度」の変化を次の方法により測定し評価した。
【0028】
すなわち、印象精度の測定は、図1に示す一対の金型を使用した。ここで、図1に示すように、印象精度の測定に用いた一対の金型は、第一の金型10および第二の金型20からなる。第一の金型10は2つの凹部12R,12Lを有し、第二の金型20は、2つの凸部22R、22Lを有する。また、第一の金型10および第二の金型20は、図1に示すように凹部12Rと凸部22R、および、凹部12Lと凸部22L、が一致するように第一の金型10と第二の金型20とを勘合させた場含、両者は実質的に隙間無く勘合できる寸法精度を有する。なお、凸部22R、22Lの形状および寸法は、ブリッジ冠の作製を想定したものであり、凸部22R、22Lの高さHは10mm、頂部の幅Wは8mmである。
【0029】
次に、アルジネート印象材の基材ペーストおよび硬化剤ペーストを、アルジネート印象材自動錬和器APミキサーII(トクヤマデンタル杜製)を用いて混錬(基材ペースト/硬化材ペーストの混合質量比2.0)した。
【0030】
その後、第二の金型20を完全に収納できるサイズの樹脂製トレーに、混練物を流し込んだ後、表面をならした。そして、混練物の表面をならし終えた時点で、ストッブウオッチのボタンを押して、時間の計測を開始した。続いて、20秒経過した時点で、第二の金型20を、凸部22R、22Lが設けられた面が下側を向くようにして、樹脂製トレー内に配置された混練物に圧接させた。この状態で、3分間放置して混練物を硬化させ、その後、第二の金型20を除去することで印象を採得した。
【0031】
次に、印象を採得した後の硬化物の型枠を、底に水を張った密封容器からなる、25℃で湿度80%以上に保たれた保湿箱内に所定の時間放置した。そして、保湿箱から取り出した型枠の印象採得部に印象槙型作製用の超硬石膏(GC杜製ニューフジロック)を流し込んだ後、1時間放置し、石膏を硬化させた。あるいは、印象を採得した後の硬化物をそのまま用いて超硬石膏を流し込んだ後、1時聞放置し、石膏を硬化させた。これにより、保湿箱内での放置時間を変えた複数種類の第二の金型20の石膏模型を得た。
【0032】
その後、図2に示すように、石膏模型30の凸部32R、32Lが設けられた側の面と、第一の金型10の凹部12R、12Lが設けられた側の面とを勘合させた状態で、石膏模型30と第一の金型10との間に形成される隙間長さを顕微鏡(KEYENCE杜製レーザー顕微鎧VK‐8700)を用いて測定した。なお、隙間長さの測定は、図2に示すように、 (1)凹部12Lの底面と、この底面に対向する凸部32Lの頂面との間において、その両端近傍の2点(図2中の符号A、Bで示す位置)、 (2)凸部32Rと凸部32Lとの問の領域において、第一の金型10の表面と、この表面に対向する石膏模型30の表面との間において、その両端近傍の2点(図2中の符号C、Dで示す位置)、および、 (3)凹部12Rの底面と、この底面に対向する凸部32Rの頂面との間においてその両端近傍の2点(図2中の符号E、Fで示す位置)、について各々測定した。そして、A点〜F点で測定した6つの隙間長さの平均値を「印象精度」として求めた。なお、図2において、石膏模型30の代わりに第二の金型20を用いた場合に、上述した場合と同様にして求めた「印象精度」は、5.0μmである。
【0033】
また、後述する表中の「印象精度」の欄に示す「直後」は、硬化直後の硬化物(本発明のアルジネート印象材硬化体用保存液での保管時間0分の硬化物〕を用いて石膏模型30を作製した場合の結果を示す。また、後述する表中の「印象精度」の欄に示す「1日後」、「3日後」、「9日後」は、得られたアルジネート印象材の型枠を、本発明のアルジネート印象材硬化体用保存液に25℃で完全に浸漬した状態で、各々、1日、3日、及び9日保管した後の型枠を用いて石膏模型30を作製した場合の結果を示すものである。保管期間が長くなることに伴う、「印象精度」の変化の大きさで、上記保存液の性能を評価した。
【0034】
(実施例1)
(A)糖類として30gのキシリット、(B)水として100gの蒸留水、を量りとり十分に攪拌溶解させ、本発明のアルジネート印象材硬化体用保存液を調整した。この保存液を用いて、アルジネート印象材AP−1の硬化体からなる型枠を保存した際の「印象精度」の変化を、前記方法により測定し、保存性能を評価した。結果を表2に示した。
【0035】
(実施例2〜13)
実施例1において、使用するアルジネート印象材硬化体用保存液の組成を表1に示した内容に変更した以外は実施例1と同様にして、各保存液の保存性能を評価した。結果を表2に示した。
【0036】
(比較例1)
アルジネート印象材AP−1を用い、その硬化体からなる型枠を、アルジネート印象材硬化体用保存液に完全に浸漬せず、25℃で湿度80%以上の保湿箱内に保管した状態で、各々、1日、3日、及び9日保管する以外、前記<<保存液の評価方法および評価基準>>と同様の方法で各保管して「印象精度」の変化を測定した。結果を表2に示した。
【0037】
(比較例2)
実施例1において、使用するアルジネート印象材硬化体用保存液として、糖類は非含有の水を用いる以外は実施例1と同様にして、その保存性能を評価した。結果を表2に示した。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
(実施例14)
実施例1において、使用するアルジネート印象材としてAP−1に代えてTH−1を用いる以外は実施例1と同様にして、実施例1で調整したのと同じアルジネート印象材硬化体用保存液の保存性能を評価した。結果を表4に示した。
【0041】
(実施例15〜26)
実施例14において、使用するアルジネート印象材硬化体用保存液の組成を表3に示した内容に変更した以外は実施例1と同様にして、各保存液の保存性能を評価した。結果を表4に示した。
【0042】
(比較例3)
実施例14において、使用するアルジネート印象材硬化体用保存液として、糖類は非含有の水を用いる以外は実施例1と同様にして、その保存性能を評価した。結果を表4に示した。
【0043】
【表3】

【0044】
【表4】

【符号の説明】
【0045】
10;第一の金型
12R,12L;凹部
20;第二の金型
22R,22L;第二の金型の凸部
30;石膏模型
32R,32L;石膏模型の凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖類の水溶液からなるアルジネート印象材硬化体用保存液。
【請求項2】
糖類が非還元糖である請求項1に記載のアルジネート印象材硬化体用保存液。
【請求項3】
非還元糖が、トレハロースである請求項2に記載のアルジネート印象材硬化体用保存液。
【請求項4】
糖類の水溶液において、糖類の含有量が、水100質量部に対して1〜80質量部である請求項1〜3のいずれか1項に記載のアルジネート印象材硬化体用保存液。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のアルジネート印象材硬化体用保存液、およびアルジネート印象材からなる印象キット。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−188353(P2012−188353A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−50413(P2011−50413)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(391003576)株式会社トクヤマデンタル (222)
【Fターム(参考)】