アルデヒド類消臭フィルターとその製造方法
【課題】本発明の課題は、活性炭と共にヒドラジン誘導体をフィルターに担持したとしても、長期にわたってヒドラジン誘導体の消臭性能が低下することのない消臭フィルターを提供するものである。
【解決手段】活性炭混抄紙からなる消臭フィルター材を、正の電荷をもつポリマー溶液に浸漬処理した後、ヒドラジン誘導体溶液に浸漬処理しヒドラジン誘導体を担持させることにより、長期間にわたってタバコ臭に大きな消臭効果の発揮できる消臭フィルターを提供する。
【解決手段】活性炭混抄紙からなる消臭フィルター材を、正の電荷をもつポリマー溶液に浸漬処理した後、ヒドラジン誘導体溶液に浸漬処理しヒドラジン誘導体を担持させることにより、長期間にわたってタバコ臭に大きな消臭効果の発揮できる消臭フィルターを提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【０００１】
本発明は、家庭用または業務用のエアコン、空気清浄機、あるいは自動車などにおける車室内のいやな臭を取り除くフィルター材等として使用し、特にタバコ臭に多く含まれるアルデヒド類を効率的に浄化するフィルターに関する技術である。
【背景技術】
【０００２】
消臭フィルターは、様々な用途に利用されており、その消臭方法は大きく分類して、活性炭やゼオライト等の吸着剤を利用した吸着タイプと、オゾンや光触媒、金属フタロシアニン錯体等のように悪臭物質を分解除去する触媒タイプ、あるいはこの吸着タイプと触媒タイプを併用した併用タイプに分けられる。これらのうち最近では、併用タイプが多くなっており、活性炭の優れた吸着力で悪臭ガスを即効的に捕らえ、捕らえたガスを触媒タイプで分解するものが多く提案されている。
【０００３】
特許文献１においては、合成繊維の不織布からなるフィルター材に、合成樹脂バインダーを介してポリアミン化合物、ヒドラジド化合物から選ばれた少なくとも１種類の消臭性有機化合物及び消臭性無機化合物とが固着されている脱臭フィルター材が開示されている。悪臭成分中のアンモニア、硫化水素や、タバコ臭に多く含まれるアルデヒド類、酢酸などの悪臭に対して優れた消臭性を有するものとして記載されている。
【０００４】
また、特許文献２において、出願人は、無機アミン化合物と、水不溶性ヒドラジン誘導体と、活性炭とを含む混抄紙をハニカム形状に加工し、アンモニア、アセトアルデヒド、酢酸等の悪臭に優れた吸着消臭効果を発揮することができる消臭フィルターを提案している。
【０００５】
【特許文献１】特開２０００−３１２８０９
【特許文献２】特願２００６−３１９３４９
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【０００６】
これらの従来技術は、いずれも悪臭ガスを脱臭するもので、各種ガスを効率的に脱臭する方法として有用な方法である。なかでも、ヒドラジン誘導体は、アルデヒド類を化学吸着するものとしてよく知られているが、特許文献２のように、活性炭と共にフィルターに担持すると、当初は良好な消臭性能を発揮するものの、使用しないまま一ヶ月間放置するとヒドラジン誘導体の消臭性能が極端に低下し、アルデヒド類の消臭能のないものに変化してしまっていることがわかってきた。本発明の課題は、活性炭と共にヒドラジン誘導体をフィルターに担持したとしても、長期にわたってヒドラジン誘導体の消臭性能が低下することのない、特に代表的な悪臭であるタバコ臭について、さらに強力に消臭効果と即効性を発揮し、耐久性のある消臭フィルターを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【０００７】
本発明は悪臭の内でも特にタバコ臭について、さらに大きな消臭効果と即効性と耐久性のある消臭フィルターを提供するために、以下の手段を提供する。
【０００８】
［１］活性炭混抄紙からなる消臭フィルター材を、正の電荷をもつポリマー溶液に浸漬処理した後、ヒドラジン誘導体溶液に浸漬処理しヒドラジン誘導体を担持させたことを特徴とする消臭フィルターの製造方法。
【０００９】
［２］前記正の電荷をもつポリマー溶液が、ポリアリルアミン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリパラフェニレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリエチルイミンから選ばれるポリマー水溶液であることを特徴とする前項１に記載の消臭フィルターの製造方法。
【００１０】
［３］前記ヒドラジン誘導体溶液が、セミカルバジド類、ヒドラジド類、ヒドラジン類から選ばれる１種または複数のヒドラジン誘導体の水溶液であることを特徴とする前項１又は２に記載の消臭フィルターの製造方法。
【００１１】
［４］前項１〜３のいずれか１項の製造方法で作られた消臭フィルターにおいて、消臭フィルターに対し活性炭が４５〜７５質量％、正の電荷をもつポリマーが０．０１〜５質量％、ヒドラジン誘導体が０．５〜２０質量％含まれることを特徴とする消臭フィルター。
【発明の効果】
【００１２】
［１］の発明では、活性炭混抄紙からなる消臭フィルター材を、正の電荷をもつポリマー溶液に浸漬処理した後、ヒドラジン誘導体溶液に浸漬処理しヒドラジン誘導体を担持させているので、活性炭とヒドラジン誘導体の間に正の電荷をもつポリマー層が形成され、直接活性炭とヒドラジン誘導体とが接することが防止され、ヒドラジン誘導体の消臭性能が低下することなく、活性炭とヒドラジン誘導体の消臭効果が最大限に効果を発揮し、アセトアルデヒド、酢酸等の悪臭に優れた吸着消臭効果を発揮することができる消臭フィルターの製造方法となる。特に、タバコ臭の代表的ガスであるアセトアルデヒドは、活性炭には吸着されにくいが、ヒドラジン誘導体には化学吸着する性質があるので、アセトアルデヒド臭を再放出することもなく、耐久性の高い消臭性能を発揮することができる。また、活性炭はアルデヒド類には有効ではないが、その他の多くのガスには有効で、例えば、酢酸、一酸化炭素、トルエン等に優れた吸着性能を発揮する。
【００１３】
［２］の発明では、前記正の電荷をもつポリマー溶液が、ポリアリルアミン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリパラフェニレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリエチルイミンから選ばれるポリマー水溶液であるので、活性炭の表面細孔の多くを塞ぐことなく、活性炭とヒドラジン誘導体の間に正の電荷をもつポリマー層が形成され、直接活性炭とヒドラジン誘導体とが接することが防止されてヒドラジン誘導体の消臭性能が低下することのない消臭フィルターの製造方法となる。
【００１４】
［３］の発明では、前記ヒドラジン誘導体溶液が、セミカルバジド類、ヒドラジド類、ヒドラジン類から選ばれる１種または複数のヒドラジン誘導体の水溶液であるので、混抄紙にヒドラジン誘導体を均一に分散して担持することができ、特にアセトアルデヒドに対して吸着消臭効果が大きく、即効性に優れた消臭フィルターの製造方法とすることができる。
【００１５】
［４］の発明では、前項１〜３のいずれか１項の製造方法で作られた消臭フィルターには、消臭フィルターに対し活性炭が４５〜７５質量％、正の電荷をもつポリマーが０．０１〜５質量％、ヒドラジン誘導体を０．５〜２０質量％と、それぞれ大量に含ませることができることから、アセトアルデヒド、酢酸等の悪臭に特に優れた吸着消臭効果を発揮することができるとともに、短時間で消臭する即効性能と耐久性にも優れた消臭フィルターとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【００１６】
本発明の消臭フィルターは、例えば、ファン等の前後に設置して、悪臭ガスを該消臭フィルター内に通過せしめることによって消臭を行なうもので、ヒドラジン誘導体と、活性炭とを含み、特に、アセトアルデヒド、酢酸等の悪臭やトルエン、一酸化炭素等の有害ガスの吸着除去に優れた効果を発揮し、耐久性にも優れている。
【００１７】
本発明における活性炭混抄紙は通常の湿式抄紙法により製造できる。活性炭と天然パルプを水１００重量部に対し８〜２２．５重量部添加し、水スラリーを作成する。そのスラリーを攪拌しながら所定の固形分濃度に調整し、その後カチオン系ポリマー又はアニオン系ポリマー（例えばアミノアルキルアクリレート４級塩共重合体、アクリルアミド−アクリル酸共重合体を挙げられる。）を０．１〜０．５重量部添加し、得られた凝集体水分散液を抄紙機を使い湿式抄紙法によりシート化し、乾燥処理を行なうことによって活性炭混抄紙を得る。次に、この活性炭混抄紙をコルゲート加工機を用いて、ハニカム形状に加工しフィルター材とするものである。
【００１８】
活性炭としては、椰子殻活性炭、石油ピッチ系球状活性炭、活性炭素繊維、木質系活性炭等の活性炭系炭素多孔質体が、吸着比表面積が非常に高いことから好ましく用いられる。中でも、椰子殻活性炭を用いるのが特に好ましい。
【００１９】
前記消臭フィルターに対し、活性炭は４５〜７５質量％と大量に含ませることが好ましい。前記消臭フィルターに対して、活性炭が４５質量％を下回ると悪臭ガスの吸着スピードが低下するので好ましくない。また、７５質量％を越えて担持させると、必然的にセルロース系繊維の割合が減少する結果、フィルターとしての物理的な強度が低下したり、活性炭が離脱しやすくなるので好ましくない。より好ましくは５０〜７０質量％である。
【００２０】
次に、本発明においては、該活性炭混抄紙からなるフィルターを、正の電荷をもつポリマー溶液に浸漬処理する必要がある。正の電荷をもつポリマーとしては、ポリアリルアミン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリパラフェニレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリエチルイミンを挙げることができる。前記正の電荷をもつポリマー溶液に活性炭混抄紙からなるフィルターを浸漬するとセルロース系繊維と正の電荷をもつポリマーが強く結合するが、活性炭にも付着することから、浸漬処理後にフィルターを水洗することが好ましい。この水洗により余分なポリマーが取り除かれ、活性炭の表面細孔を塞ぐことが防止される。次に正の電荷をもつポリマー溶液で浸漬処理されたフィルターに、さらにヒドラジン誘導体を担持させる。この時該正の電荷をもつポリマー層の存在により、直接活性炭とヒドラジン誘導体とが接することが防止されて、ヒドラジン誘導体の消臭性能が活性炭によって低下することのない消臭フィルターとなる。
【００２１】
また、前記正の電荷をもつポリマーは、消臭フィルターに対し、０．０１〜５質量％含まれるのが良好である。０．０１質量％を下回ると、直接活性炭とヒドラジン誘導体とが接することが多くなり、ヒドラジン誘導体の消臭性能が活性炭によって低下するので好ましくない。５質量％を上回ると活性炭表面がポリマーによって覆われてしまうことから好ましくない。より好ましくは、０．１〜３．０質量％とするのがよい。
【００２２】
前記ヒドラジン誘導体としては、水溶性のものが好ましく、セミカルバジド類、ヒドラジド類、ヒドラジン類から選ばれる１種または複数のヒドラジン誘導体がよい。具体的にセミカルバジド類としては、例えば１，６−ヘキサメチレンビス（Ｎ，Ｎ−ジメチルセミカルバジド）１，１，１’，１’−テトラメチル−４，４’−（メチレン―ジ―Ｐ−フェニレン）ジセミカルバジド、ビュレットリートリ（ヘキサメチレン−Ｎ，Ｎ−ジメチルセミカルバジド）、塩酸セミカルバジド、チオセミカルバジド等を挙げることができる。ヒドラジド類としては、例えばカルボヒドラジド、シュウ酸ヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドテカンニ酸ジヒドラジド、マレイン酸ヒドラジド、イソフタル酸ヒドラジド等を挙げることができる。ヒドラジン類としては、例えばヒドラジン、水加ヒドラジン、モノメチルヒドラジン、ジメチルヒドラジン、ｔ−ブチルヒドラジン塩酸塩、硫酸ヒドラジン、炭酸ヒドラジン、塩酸ヒドラジン、ニ塩酸ヒドラジン、リン酸ヒドラジン、臭酸ヒドラジン等を挙げることができる。また、ヒドラジン誘導体は、たばこ臭に多く含まれるとされるアセトアルデヒド等のアルデヒド成分の化学吸着に有効で、即効性に優れた消臭剤である。
【００２３】
前記消臭フィルターに対し、ヒドラジン誘導体は０．５〜２０質量％含まれることが好ましい。ヒドラジン誘導体の担持量が０．５質量％を下回るとアルデヒド類に対する即効性能が低下し好ましくない。２０質量％を上回ると活性炭の性能を低下させることから好ましくない。より好ましくは、１．０〜１０重量％添加するのがよい。
【００２４】
また、本発明の消臭フィルターにおいては、発明を妨げない範囲で、さらに他の消臭剤や臭気吸着剤や各種添加剤等を担持せしめた構成を採用しても良い。
【００２５】
次ぎに実施例により、本発明を具体的に説明する。なお実施例における各種消臭性能の測定は、本発明のフィルターを４００×３００×１２（ｍｍ）の大きさに裁断し、市販されている空気清浄機のフィルターに置き換え、該空気清浄機を１ｍ３のアクリルボックス内に入れ、各種消臭性能の測定を行った。まず、アクリルボックス内でタバコ５本を燃焼させた後、１０分後の一酸化炭素、アセトアルデヒド、酢酸の初期濃度を検知管で測定し、その後空気清浄機を運転する。
（即効性能試験）
空気清浄機を運転して１分後の各ガスの濃度を検知管で測定し除去率（％）を求める。除去率が９０％以上であるものを「◎」、除去率が８５％以上９０％未満であるものを「○」、除去率が８０％以上８５％未満であるものを「△」、除去率が８０％未満であるものを「×」とし、「○」以上を合格と評価した。
【００２６】
（耐久性能試験）
空気清浄機を運転して３０分後の各ガスの濃度を検知管で測定し除去率（％）を求め、これを５０回繰り返した後の除去率が９０％以上であるものを「◎」、除去率が８５％以上９０％未満であるものを「○」、除去率が８０％以上８５％未満であるものを「△」、除去率が８０％未満であるものを「×」とし、「○」以上を合格と評価した。
【００２７】
（長期耐久性能試験）
一ヵ月後に前記耐久性能試験と同様な試験を行い、除去率が９０％以上であるものを「◎」、除去率が８５％以上９０％未満であるものを「○」、除去率が８０％以上８５％未満であるものを「△」、除去率が８０％未満であるものを「×」とし、「○」以上を合格と評価した。
【実施例】
【００２８】
＜実施例１＞
椰子殻活性炭１０．０重量部と天然パルプ１０．０重量部を水１００質量部に添加し、水スラリーを作成し、さらにアミノアルキルアクリレート４級塩共重合体（カチオン系ポリマー）を０．２重量部添加して得られた凝集体水分散液を、抄紙機を使い湿式抄紙法によりシート化し、乾燥処理を行ない混抄紙（目付１００ｇ／ｍ２）を得た。得られた混抄紙の一部を、コルゲート加工機を用いて波型形状紙に加工した。この波型形状紙と平面形状紙を、エチレンー酢酸ビニル共重合体からなる接着剤で接着して積層し、セル密度が２３０セル／ｉｎｃｈ２のハニカム形状に加工したフィルター材を得た。次にポリアリルアミンの１．５％水溶液にフィルター材を１０分間浸漬し、水洗乾燥した後さらに、アジピン酸ジヒドラジドの３．０％水溶液にフィルター材を１０分間浸漬し、乾燥後所定の大きさに裁断し、空気清浄機に搭載して、上記の即効性能試験、耐久性能試験、長期耐久性能試験を行ない除去率を表１に記載した。
【００２９】
＜実施例２〜８＞
次に、表１のように各構成を変えて消臭フィルターを得た。各性能試験を行ない、除去率を表１に記載した。全て良好な即効性能、耐久性能、長期耐久性能を発揮していた。
【００３０】
＜比較例１＞
実施例１において、ポリアリルアミンの１．５％水溶液に浸漬しなかった以外は実施例１と同様にして消臭フィルターを得、除去率を表２に記載した。
【００３１】
＜比較例２〜６＞
表２のように各構成を変えて消臭フィルターを得た。各性能試験を行ない、除去率を表２に記載したが、良好な即効性能、耐久性能を得られなかった。比較例４は良好な即効性能、耐久性能であったが、フィルターとしての強度が得られなく不合格とした。
【００３２】
【表１】
【００３３】
【表２】
【産業上の利用可能性】
【００３４】
本発明の技術は、家庭用または業務用のエアコン、空気清浄機等のフィルター材、あるいは車などにおける車内空気のいやな臭を取り除くフィルター材、特にタバコ臭を効率よく取り除くフィルター材として広く利用される。
【技術分野】
【０００１】
本発明は、家庭用または業務用のエアコン、空気清浄機、あるいは自動車などにおける車室内のいやな臭を取り除くフィルター材等として使用し、特にタバコ臭に多く含まれるアルデヒド類を効率的に浄化するフィルターに関する技術である。
【背景技術】
【０００２】
消臭フィルターは、様々な用途に利用されており、その消臭方法は大きく分類して、活性炭やゼオライト等の吸着剤を利用した吸着タイプと、オゾンや光触媒、金属フタロシアニン錯体等のように悪臭物質を分解除去する触媒タイプ、あるいはこの吸着タイプと触媒タイプを併用した併用タイプに分けられる。これらのうち最近では、併用タイプが多くなっており、活性炭の優れた吸着力で悪臭ガスを即効的に捕らえ、捕らえたガスを触媒タイプで分解するものが多く提案されている。
【０００３】
特許文献１においては、合成繊維の不織布からなるフィルター材に、合成樹脂バインダーを介してポリアミン化合物、ヒドラジド化合物から選ばれた少なくとも１種類の消臭性有機化合物及び消臭性無機化合物とが固着されている脱臭フィルター材が開示されている。悪臭成分中のアンモニア、硫化水素や、タバコ臭に多く含まれるアルデヒド類、酢酸などの悪臭に対して優れた消臭性を有するものとして記載されている。
【０００４】
また、特許文献２において、出願人は、無機アミン化合物と、水不溶性ヒドラジン誘導体と、活性炭とを含む混抄紙をハニカム形状に加工し、アンモニア、アセトアルデヒド、酢酸等の悪臭に優れた吸着消臭効果を発揮することができる消臭フィルターを提案している。
【０００５】
【特許文献１】特開２０００−３１２８０９
【特許文献２】特願２００６−３１９３４９
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【０００６】
これらの従来技術は、いずれも悪臭ガスを脱臭するもので、各種ガスを効率的に脱臭する方法として有用な方法である。なかでも、ヒドラジン誘導体は、アルデヒド類を化学吸着するものとしてよく知られているが、特許文献２のように、活性炭と共にフィルターに担持すると、当初は良好な消臭性能を発揮するものの、使用しないまま一ヶ月間放置するとヒドラジン誘導体の消臭性能が極端に低下し、アルデヒド類の消臭能のないものに変化してしまっていることがわかってきた。本発明の課題は、活性炭と共にヒドラジン誘導体をフィルターに担持したとしても、長期にわたってヒドラジン誘導体の消臭性能が低下することのない、特に代表的な悪臭であるタバコ臭について、さらに強力に消臭効果と即効性を発揮し、耐久性のある消臭フィルターを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【０００７】
本発明は悪臭の内でも特にタバコ臭について、さらに大きな消臭効果と即効性と耐久性のある消臭フィルターを提供するために、以下の手段を提供する。
【０００８】
［１］活性炭混抄紙からなる消臭フィルター材を、正の電荷をもつポリマー溶液に浸漬処理した後、ヒドラジン誘導体溶液に浸漬処理しヒドラジン誘導体を担持させたことを特徴とする消臭フィルターの製造方法。
【０００９】
［２］前記正の電荷をもつポリマー溶液が、ポリアリルアミン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリパラフェニレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリエチルイミンから選ばれるポリマー水溶液であることを特徴とする前項１に記載の消臭フィルターの製造方法。
【００１０】
［３］前記ヒドラジン誘導体溶液が、セミカルバジド類、ヒドラジド類、ヒドラジン類から選ばれる１種または複数のヒドラジン誘導体の水溶液であることを特徴とする前項１又は２に記載の消臭フィルターの製造方法。
【００１１】
［４］前項１〜３のいずれか１項の製造方法で作られた消臭フィルターにおいて、消臭フィルターに対し活性炭が４５〜７５質量％、正の電荷をもつポリマーが０．０１〜５質量％、ヒドラジン誘導体が０．５〜２０質量％含まれることを特徴とする消臭フィルター。
【発明の効果】
【００１２】
［１］の発明では、活性炭混抄紙からなる消臭フィルター材を、正の電荷をもつポリマー溶液に浸漬処理した後、ヒドラジン誘導体溶液に浸漬処理しヒドラジン誘導体を担持させているので、活性炭とヒドラジン誘導体の間に正の電荷をもつポリマー層が形成され、直接活性炭とヒドラジン誘導体とが接することが防止され、ヒドラジン誘導体の消臭性能が低下することなく、活性炭とヒドラジン誘導体の消臭効果が最大限に効果を発揮し、アセトアルデヒド、酢酸等の悪臭に優れた吸着消臭効果を発揮することができる消臭フィルターの製造方法となる。特に、タバコ臭の代表的ガスであるアセトアルデヒドは、活性炭には吸着されにくいが、ヒドラジン誘導体には化学吸着する性質があるので、アセトアルデヒド臭を再放出することもなく、耐久性の高い消臭性能を発揮することができる。また、活性炭はアルデヒド類には有効ではないが、その他の多くのガスには有効で、例えば、酢酸、一酸化炭素、トルエン等に優れた吸着性能を発揮する。
【００１３】
［２］の発明では、前記正の電荷をもつポリマー溶液が、ポリアリルアミン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリパラフェニレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリエチルイミンから選ばれるポリマー水溶液であるので、活性炭の表面細孔の多くを塞ぐことなく、活性炭とヒドラジン誘導体の間に正の電荷をもつポリマー層が形成され、直接活性炭とヒドラジン誘導体とが接することが防止されてヒドラジン誘導体の消臭性能が低下することのない消臭フィルターの製造方法となる。
【００１４】
［３］の発明では、前記ヒドラジン誘導体溶液が、セミカルバジド類、ヒドラジド類、ヒドラジン類から選ばれる１種または複数のヒドラジン誘導体の水溶液であるので、混抄紙にヒドラジン誘導体を均一に分散して担持することができ、特にアセトアルデヒドに対して吸着消臭効果が大きく、即効性に優れた消臭フィルターの製造方法とすることができる。
【００１５】
［４］の発明では、前項１〜３のいずれか１項の製造方法で作られた消臭フィルターには、消臭フィルターに対し活性炭が４５〜７５質量％、正の電荷をもつポリマーが０．０１〜５質量％、ヒドラジン誘導体を０．５〜２０質量％と、それぞれ大量に含ませることができることから、アセトアルデヒド、酢酸等の悪臭に特に優れた吸着消臭効果を発揮することができるとともに、短時間で消臭する即効性能と耐久性にも優れた消臭フィルターとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【００１６】
本発明の消臭フィルターは、例えば、ファン等の前後に設置して、悪臭ガスを該消臭フィルター内に通過せしめることによって消臭を行なうもので、ヒドラジン誘導体と、活性炭とを含み、特に、アセトアルデヒド、酢酸等の悪臭やトルエン、一酸化炭素等の有害ガスの吸着除去に優れた効果を発揮し、耐久性にも優れている。
【００１７】
本発明における活性炭混抄紙は通常の湿式抄紙法により製造できる。活性炭と天然パルプを水１００重量部に対し８〜２２．５重量部添加し、水スラリーを作成する。そのスラリーを攪拌しながら所定の固形分濃度に調整し、その後カチオン系ポリマー又はアニオン系ポリマー（例えばアミノアルキルアクリレート４級塩共重合体、アクリルアミド−アクリル酸共重合体を挙げられる。）を０．１〜０．５重量部添加し、得られた凝集体水分散液を抄紙機を使い湿式抄紙法によりシート化し、乾燥処理を行なうことによって活性炭混抄紙を得る。次に、この活性炭混抄紙をコルゲート加工機を用いて、ハニカム形状に加工しフィルター材とするものである。
【００１８】
活性炭としては、椰子殻活性炭、石油ピッチ系球状活性炭、活性炭素繊維、木質系活性炭等の活性炭系炭素多孔質体が、吸着比表面積が非常に高いことから好ましく用いられる。中でも、椰子殻活性炭を用いるのが特に好ましい。
【００１９】
前記消臭フィルターに対し、活性炭は４５〜７５質量％と大量に含ませることが好ましい。前記消臭フィルターに対して、活性炭が４５質量％を下回ると悪臭ガスの吸着スピードが低下するので好ましくない。また、７５質量％を越えて担持させると、必然的にセルロース系繊維の割合が減少する結果、フィルターとしての物理的な強度が低下したり、活性炭が離脱しやすくなるので好ましくない。より好ましくは５０〜７０質量％である。
【００２０】
次に、本発明においては、該活性炭混抄紙からなるフィルターを、正の電荷をもつポリマー溶液に浸漬処理する必要がある。正の電荷をもつポリマーとしては、ポリアリルアミン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリパラフェニレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリエチルイミンを挙げることができる。前記正の電荷をもつポリマー溶液に活性炭混抄紙からなるフィルターを浸漬するとセルロース系繊維と正の電荷をもつポリマーが強く結合するが、活性炭にも付着することから、浸漬処理後にフィルターを水洗することが好ましい。この水洗により余分なポリマーが取り除かれ、活性炭の表面細孔を塞ぐことが防止される。次に正の電荷をもつポリマー溶液で浸漬処理されたフィルターに、さらにヒドラジン誘導体を担持させる。この時該正の電荷をもつポリマー層の存在により、直接活性炭とヒドラジン誘導体とが接することが防止されて、ヒドラジン誘導体の消臭性能が活性炭によって低下することのない消臭フィルターとなる。
【００２１】
また、前記正の電荷をもつポリマーは、消臭フィルターに対し、０．０１〜５質量％含まれるのが良好である。０．０１質量％を下回ると、直接活性炭とヒドラジン誘導体とが接することが多くなり、ヒドラジン誘導体の消臭性能が活性炭によって低下するので好ましくない。５質量％を上回ると活性炭表面がポリマーによって覆われてしまうことから好ましくない。より好ましくは、０．１〜３．０質量％とするのがよい。
【００２２】
前記ヒドラジン誘導体としては、水溶性のものが好ましく、セミカルバジド類、ヒドラジド類、ヒドラジン類から選ばれる１種または複数のヒドラジン誘導体がよい。具体的にセミカルバジド類としては、例えば１，６−ヘキサメチレンビス（Ｎ，Ｎ−ジメチルセミカルバジド）１，１，１’，１’−テトラメチル−４，４’−（メチレン―ジ―Ｐ−フェニレン）ジセミカルバジド、ビュレットリートリ（ヘキサメチレン−Ｎ，Ｎ−ジメチルセミカルバジド）、塩酸セミカルバジド、チオセミカルバジド等を挙げることができる。ヒドラジド類としては、例えばカルボヒドラジド、シュウ酸ヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドテカンニ酸ジヒドラジド、マレイン酸ヒドラジド、イソフタル酸ヒドラジド等を挙げることができる。ヒドラジン類としては、例えばヒドラジン、水加ヒドラジン、モノメチルヒドラジン、ジメチルヒドラジン、ｔ−ブチルヒドラジン塩酸塩、硫酸ヒドラジン、炭酸ヒドラジン、塩酸ヒドラジン、ニ塩酸ヒドラジン、リン酸ヒドラジン、臭酸ヒドラジン等を挙げることができる。また、ヒドラジン誘導体は、たばこ臭に多く含まれるとされるアセトアルデヒド等のアルデヒド成分の化学吸着に有効で、即効性に優れた消臭剤である。
【００２３】
前記消臭フィルターに対し、ヒドラジン誘導体は０．５〜２０質量％含まれることが好ましい。ヒドラジン誘導体の担持量が０．５質量％を下回るとアルデヒド類に対する即効性能が低下し好ましくない。２０質量％を上回ると活性炭の性能を低下させることから好ましくない。より好ましくは、１．０〜１０重量％添加するのがよい。
【００２４】
また、本発明の消臭フィルターにおいては、発明を妨げない範囲で、さらに他の消臭剤や臭気吸着剤や各種添加剤等を担持せしめた構成を採用しても良い。
【００２５】
次ぎに実施例により、本発明を具体的に説明する。なお実施例における各種消臭性能の測定は、本発明のフィルターを４００×３００×１２（ｍｍ）の大きさに裁断し、市販されている空気清浄機のフィルターに置き換え、該空気清浄機を１ｍ３のアクリルボックス内に入れ、各種消臭性能の測定を行った。まず、アクリルボックス内でタバコ５本を燃焼させた後、１０分後の一酸化炭素、アセトアルデヒド、酢酸の初期濃度を検知管で測定し、その後空気清浄機を運転する。
（即効性能試験）
空気清浄機を運転して１分後の各ガスの濃度を検知管で測定し除去率（％）を求める。除去率が９０％以上であるものを「◎」、除去率が８５％以上９０％未満であるものを「○」、除去率が８０％以上８５％未満であるものを「△」、除去率が８０％未満であるものを「×」とし、「○」以上を合格と評価した。
【００２６】
（耐久性能試験）
空気清浄機を運転して３０分後の各ガスの濃度を検知管で測定し除去率（％）を求め、これを５０回繰り返した後の除去率が９０％以上であるものを「◎」、除去率が８５％以上９０％未満であるものを「○」、除去率が８０％以上８５％未満であるものを「△」、除去率が８０％未満であるものを「×」とし、「○」以上を合格と評価した。
【００２７】
（長期耐久性能試験）
一ヵ月後に前記耐久性能試験と同様な試験を行い、除去率が９０％以上であるものを「◎」、除去率が８５％以上９０％未満であるものを「○」、除去率が８０％以上８５％未満であるものを「△」、除去率が８０％未満であるものを「×」とし、「○」以上を合格と評価した。
【実施例】
【００２８】
＜実施例１＞
椰子殻活性炭１０．０重量部と天然パルプ１０．０重量部を水１００質量部に添加し、水スラリーを作成し、さらにアミノアルキルアクリレート４級塩共重合体（カチオン系ポリマー）を０．２重量部添加して得られた凝集体水分散液を、抄紙機を使い湿式抄紙法によりシート化し、乾燥処理を行ない混抄紙（目付１００ｇ／ｍ２）を得た。得られた混抄紙の一部を、コルゲート加工機を用いて波型形状紙に加工した。この波型形状紙と平面形状紙を、エチレンー酢酸ビニル共重合体からなる接着剤で接着して積層し、セル密度が２３０セル／ｉｎｃｈ２のハニカム形状に加工したフィルター材を得た。次にポリアリルアミンの１．５％水溶液にフィルター材を１０分間浸漬し、水洗乾燥した後さらに、アジピン酸ジヒドラジドの３．０％水溶液にフィルター材を１０分間浸漬し、乾燥後所定の大きさに裁断し、空気清浄機に搭載して、上記の即効性能試験、耐久性能試験、長期耐久性能試験を行ない除去率を表１に記載した。
【００２９】
＜実施例２〜８＞
次に、表１のように各構成を変えて消臭フィルターを得た。各性能試験を行ない、除去率を表１に記載した。全て良好な即効性能、耐久性能、長期耐久性能を発揮していた。
【００３０】
＜比較例１＞
実施例１において、ポリアリルアミンの１．５％水溶液に浸漬しなかった以外は実施例１と同様にして消臭フィルターを得、除去率を表２に記載した。
【００３１】
＜比較例２〜６＞
表２のように各構成を変えて消臭フィルターを得た。各性能試験を行ない、除去率を表２に記載したが、良好な即効性能、耐久性能を得られなかった。比較例４は良好な即効性能、耐久性能であったが、フィルターとしての強度が得られなく不合格とした。
【００３２】
【表１】
【００３３】
【表２】
【産業上の利用可能性】
【００３４】
本発明の技術は、家庭用または業務用のエアコン、空気清浄機等のフィルター材、あるいは車などにおける車内空気のいやな臭を取り除くフィルター材、特にタバコ臭を効率よく取り除くフィルター材として広く利用される。
【特許請求の範囲】
【請求項１】
活性炭混抄紙からなる消臭フィルター材を、正の電荷をもつポリマー溶液に浸漬処理した後、ヒドラジン誘導体溶液に浸漬処理しヒドラジン誘導体を担持させたことを特徴とする消臭フィルターの製造方法。
【請求項２】
前記正の電荷をもつポリマー溶液が、ポリアリルアミン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリパラフェニレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリエチルイミンから選ばれるポリマー水溶液であることを特徴とする請求項１に記載の消臭フィルターの製造方法。
【請求項３】
前記ヒドラジン誘導体溶液が、セミカルバジド類、ヒドラジド類、ヒドラジン類から選ばれる１種または複数のヒドラジン誘導体の水溶液であることを特徴とする請求項１又は２に記載の消臭フィルターの製造方法。
【請求項４】
請求項１〜３のいずれか１項の製造方法で作られた消臭フィルターにおいて、消臭フィルターに対し活性炭が４５〜７５質量％、正の電荷をもつポリマーが０．０１〜５質量％、ヒドラジン誘導体が０．５〜２０質量％含まれることを特徴とする消臭フィルター。
【請求項１】
活性炭混抄紙からなる消臭フィルター材を、正の電荷をもつポリマー溶液に浸漬処理した後、ヒドラジン誘導体溶液に浸漬処理しヒドラジン誘導体を担持させたことを特徴とする消臭フィルターの製造方法。
【請求項２】
前記正の電荷をもつポリマー溶液が、ポリアリルアミン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリパラフェニレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリエチルイミンから選ばれるポリマー水溶液であることを特徴とする請求項１に記載の消臭フィルターの製造方法。
【請求項３】
前記ヒドラジン誘導体溶液が、セミカルバジド類、ヒドラジド類、ヒドラジン類から選ばれる１種または複数のヒドラジン誘導体の水溶液であることを特徴とする請求項１又は２に記載の消臭フィルターの製造方法。
【請求項４】
請求項１〜３のいずれか１項の製造方法で作られた消臭フィルターにおいて、消臭フィルターに対し活性炭が４５〜７５質量％、正の電荷をもつポリマーが０．０１〜５質量％、ヒドラジン誘導体が０．５〜２０質量％含まれることを特徴とする消臭フィルター。
【公開番号】特開２００８−１８８２５１（Ｐ２００８−１８８２５１Ａ）
【公開日】平成２０年８月２１日（２００８．８．２１）
【国際特許分類】
【出願番号】特願２００７−２６２３２（Ｐ２００７−２６２３２）
【出願日】平成１９年２月６日（２００７．２．６）
【出願人】（３９００１４４８７）住江織物株式会社 (294)
【Ｆターム（参考）】
【公開日】平成２０年８月２１日（２００８．８．２１）
【国際特許分類】
【出願日】平成１９年２月６日（２００７．２．６）
【出願人】（３９００１４４８７）住江織物株式会社 (294)
【Ｆターム（参考）】
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