説明

アルドヘキソピラノース中間体の製造法

本発明は、下記式(V)で示されるペンタ−O−アセチル−アルドヘキソピラノースをRNNHで示されるヒドラジン類とRCOOHで示される有機酸の混合物を反応させることによって選択的にアセチル基を除去し、式(VI)で示されるテトラ−O−アセチル−アルドヘキソピラノースを製造する方法に関する。


上記反応式中、Acはアセチル基を示し、Xは−O−又は−S−を示し、Rは水素原子又はC1−6アルキル基を示し、RはC1−6アルキル基等を示す。又は、RとRが一緒になってヒドラジノ基と共に置換されてもよいN−アミノピロリジン等を示し、RはC1−6アルキル基を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、糖尿病、肥満症等の予防又は治療の医薬中間体として有用なアルドヘキソピラノース、詳しくは2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−5−チオ−アルドヘキソピラノース及び2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−アルドヘキソピラノースの工業的に有用な製造法に関する。
【背景技術】
天然から単離されたグルコース誘導体であるフロリジンは、腎臓での過剰なグルコースの再吸収を阻害し、グルコースの排泄を促進して血糖降下作用があることが示された(J.Clin.Invest.,第80巻,1037項,1987年、同第87巻,1510項,1987年)。その後、このグルコースの再吸収が、腎臓近位尿細管のS1サイトに存在するナトリウム依存性グルコース供輸送体2(SGLT2)によることが明らかとなった(J.Clin.Invest.,第93巻,397項,1994年)。
この様な背景から、SGLT2阻害作用に基づく糖尿病治療薬の研究が盛んに行われ、数多くのフロリジン誘導体が報告されている。例えば、化合物Aで示されるアリール β−D−グルコピラノシド化合物が報告されている(ヨーロッパ特許公開EP0850948号)。

その他に、上記化合物に関連した化合物が公開されている(WO0168660号、WO0228872号、WO0380635号、WO0244192号、WO0204606号、WO0301880号、WO0116147号、WO0268439号、WO0253573号、WO0268440号、WO0298893号、WO0300712号、WO0236602号、WO0288157号、WO0127128号、WO0283066号、WO0174834号、WO0174835号、WO0320737号、WO0413118号)。
上記アリール β−D−グルコピラノシドを合成するために、2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−D−グルコピラノース(II)を合成中間体とする場合がある。これまでに、式(II)の化合物の合成法として、1,2,3,4,6−ペンタ−O−アセチル−D−グルコピラノース(I)からの製造法が知られている。

例えば、Excoffierらのヒドラジンアセテートを用いる方法(Carbohydr.Res.,第39巻、368項、1975年)、トリフルオロ酢酸−水を用いる方法、BuSnOMe又はBuSnOを用いる方法、SnClを用いる方法、(BuSn)Oを用いる方法、KOHを用いる方法、アンモニアを用いる方法、ラッビト由来の血清を用いる方法などである。このうち、実験室でのスケールではヒドラジンアセテートを用いる方法が最もよく使われている。
一方で、本発明者らはアリールβ−D−グルコピラノシドの環内酸素原子を硫黄原子に変換したアリール5−チオ−β−D−グルコピラノシド誘導体がSGLT2阻害作用に基づく糖尿病治療薬として極めて有効であることを見出した(WO0414930号、WO0414931号)。アリール5−チオ−β−D−グルコピラノシド誘導体を合成する場合においては、合成中間体として2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−5−チオ−D−グルコピラノース(IV)を必要とする。式(IV)の化合物の合成においては、ベンジルアミン等の1級又は2級アミンを用いる方法もあるが、収率低下や副生成物の除去が困難等の問題があり必ずしも満足する結果ではない。その中で、ヒドラジンアセテート法が最も頻繁に用いられている。

しかしながら、ヒドラジンアセテートは発ガン性が疑われる粉末固体試薬である。工業的スケールで用いる場合、秤量時に拡散することによって試験者が粉末に暴露される可能性がある。また、ヒドラジンアセテートを調整する際、ヒドラジン1水和物及び酢酸のエタノール溶液を濃縮するという極めて爆発の懸念される工程が含まれる。上記方法で濃縮操作せず調整したヒドラジンアセテートをそのまま反応に用いると収率が低下する。ヒドラジンアセテートの結晶の取り扱いを避ける方法として、無水ヒドラジンと酢酸を反応溶液に加えて調整した中で、本反応を実施することが考えられる。しかし、この場合も爆発が懸念される無水ヒドラジンを使用する必要がある。したがって、従来の方法では工業的に利用することが難しい。そこで、取り扱い容易であって選択的にヘミアセタールアシル基を脱保護でき得る試薬の開発が望まれる。
【発明の開示】
本発明は、糖尿病、肥満症等の予防又は治療として期待されるSGLT2阻害剤を製造するための中間体、すなわち、2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−5−チオ−アルドヘキソピラノース及び2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−アルドヘキソピラノースの工業的に有用な製造法を提供することを目的としている。
本発明者は、かかる目的を達成するため鋭意研究した結果、工業的に取り扱いやすい試薬を見出し、本発明を完成した。
すなわち本発明は、アルドヘキソピラノース又は5−チオ−アルドヘキソピラノースのパーアセチル保護体(V)を低級アルキルヒドラジンと有機酸の混合物で処理することにより、選択的にヘミアセタール位のアセチル基を脱保護する方法を提供する。
詳細には、本発明は、下記スキームにより、式(V)で示されるペンタ−O−アセチル−アルドヘキソピラノースを式RNNHで示されるヒドラジン類と有機酸(RCOOH)の混合物を反応させることによって選択的にアセチル基を除去し、式(VI)で示されるテトラ−O−アセチル−アルドヘキソピラノースを製造する方法を提供する。

上記式中、(V)及び(VI)は、エナンチオマー、ジアステレオマー及びこれらの混合物等いずれの立体異性体を含み、Acはアセチル基を示し、Xは−O−又は−S−を示し、Rは水素原子又はC1−6アルキル基を示し、RはC1−6アルキル基、ハロゲン原子で置換されたC1−6アルキル基又は水酸基で置換されたC1−6アルキル基を示す。又は、RとRが一緒になってヒドラジノ基と共に、C1−6アルキル基、カルボキシル基及びC1−6アルコキシC1−6アルキル基からなる群から選択される1−3個の置換基で置換されてもよいN−アミノピロリジン、C1−6アルキル基、カルボキシル基及びC1−6アルコキシC1−6アルキル基からなる群から選択される1−3個の置換基で置換されてもよいN−アミノピペリジン、C1−6アルキル基、カルボキシル基及びC1−6アルコキシC1−6アルキル基からなる群から選択される1−3個の置換基で置換されてもよいN−アミノモルホリン、C1−6アルキル基、カルボキシル基及びC1−6アルコキシC1−6アルキル基からなる群から選択される1−3個の置換基で置換されてもよいN−アミノピペラジン、又はC1−6アルキル基、カルボキシル基及びC1−6アルコキシC1−6アルキル基からなる群から選択される1−3個の置換基で置換されてもよいN−アミノパーヒドロアゼピンを示し、RはC1−6アルキル基を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の他の態様によると、

前記式(V)が上記式(VII)で表される化合物若しくはそのエナンチオマー又はそれらの混合物であり、式(VI)が上記式(VIII)で表される化合物若しくはそのエナンチオマー又はそれらの混合物である方法を提供する(上記式中、Ac、R、R及びRは前記で定義したとおりである。)。
より好ましくは、Rが水素原子又はC1−6アルキル基であり、RがC1−6アルキル基又は水酸基で置換されたC1−6アルキル基である方法を提供する(Rは前記で定義したとおりである。)。
さらに、より好ましくは、Rが水素原子であり、RがC1−6アルキル基又は水酸基で置換されたC1−6アルキル基である方法を提供する(Rは前記で定義したとおりである。)。
また、本発明の他の態様によると、式(V)及び(VI)においてXが−O−である方法を提供する(ここで、Ac、R、R及びRは前記で定義したとおりである。)
上記においてより好ましくは、Rが水素原子又はC1−6アルキル基であり、RがC1−6アルキル基又は水酸基で置換されたC1−6アルキル基である方法を提供する(Rは前記で定義したとおりである。)。
さらに好ましくは、Rが水素原子であり、RがC1−6アルキル基又は水酸基で置換されたC1−6アルキル基である方法を提供する(Rは前記で定義したとおりである。)。
本発明の他の態様によると、

式(V)が上記式(VIV)で表される化合物若しくはそのエナンチオマー又はそれらの混合物で表され、式(VI)が上記式(X)で表される化合物若しくはそのエナンチオマー又はそれらの混合物である前記の方法を提供する(上記式中、Ac、R、R及びRは前記で定義したとおりである。)。
上記においてより好ましくは、Rが水素原子又はC1−6アルキル基であり、RがC1−6アルキル基又は水酸基で置換されたC1−6アルキル基である方法を提供する(Rは前記で定義したとおりである。)。
さらに好ましくは、Rが水素原子であり、RがC1−6アルキル基又は水酸基で置換されたC1−6アルキル基である方法を提供する(Rは前記で定義したとおりである。)。
前記の各方法において、RNNHとRCOOHが1:1のモル比で用いられることが好ましく、更にRが水素原子であり、Rがメチル基であることが好ましい。
本発明において使用されている用語は以下に定義される。(定義中、「Cx−y」とは、その後に続く基がx−y個の炭素原子を有することを示す)
「アルドヘキソピラノース」とは、炭素数6個6員環でアルデヒド基をもつ単糖であり、D体、L体いずれの立体異性体も含む。例えば、グルコピラノース、マンノピラノース、ガラクトピラノース、アロピラノース、アルトロピラノース、グロピラノース、イドピラノース、タロピラノース等が挙げられる。
「5−チオ−アルドヘキソピラノース」とは、アルドヘキソピラノースの環内酸素原子が硫黄原子に置き換わった化合物を意味する。例えば、5−チオ−グルコピラノース、5−チオ−マンノピラノース、5−チオ−ガラクトピラノース等が挙げられる。
「C1−6アルキル基」としては、メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基等が挙げられる。
「ハロゲン原子で置換されたC1−6アルキル基」は、その基上の水素原子が1個以上(例えば、1〜6個、好ましくは、1〜4個)のハロゲン原子(好ましくは、フッ素原子)によって置換されたC1−6アルキル基を示す。例えば、トリフルオロメチル基、1,1,1−トリフルオロエチル基、1,1,1−トリフルオロプロピル基、1,1,1−トリフルオロブチル基、1,3−ジフルオロプロプ−2−イル基などが挙げられる。中でも、1,1,1−トリフルオロエチル基が好ましい。
「水酸基で置換されたC1−6アルキル基」は、その基上の水素原子が1個以上(例えば、1〜6個、好ましくは、1〜4個)の水酸基によって置換されたアルキル基を示し、好ましくは、1個の水酸基によって置換されたC1−6アルキル基であるヒドロキシC1−6アルキル基、より好ましくは、ヒドロキシC1−4アルキル基である。例えば、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基(1−ヒドロキシエチル基など)、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシブチル基などが挙げられる。
「C1−6アルコキシC1−6アルキル基」とは、C1−6アルコキシ基とC1−6アルキル基が複合した形態を有しており、例えば、メトキシメチル基などが挙げられる。
「N−アミノピロリジン」とは、ピロリジンの窒素原子がアミノ基で置換された物を意味する。 C1−6アルキル基、カルボキシル基及びC1−6アルコキシC1−6アルキル基からなる群から選択される1−3個の置換基で置換されてもよいN−アミノピロリジンとしては、1−アミノ−2−メトキシメチルピロリジン等が挙げられる。
「N−アミノピペリジン」とは、ピペリジンの窒素原子がアミノ基で置換されたものを意味する。
「N−アミノモルホリン」とは、モルホリンの4位窒素原子がアミノ基で置換されたものを意味する。
「N−アミノピペラジン」とは、ピペラジンの1位窒素原子がアミノ基で置換されたものを意味する。
「N−アミノパーヒドロアゼピン」とは、パーヒドロアゼピンの窒素原子がアミノ基で置換されたものを意味する。
本反応に用いる出発原料(V)は、市販品を用いても合成品を用いてもよい。例えば、1,2,3,4,6−ペンタ−O−アセチル−5−チオ−D−グルコピラノースは、D−グルコノ−3,6−ラクトンから8工程で合成することができる(Tetrahedron Lett.,第22巻,5061項,1981年、J.Org.Chem.,第31巻,1514項,1966年)。
1,2,3,4,6−ペンタ−O−アセチル−5−チオ−マンノピラノース(J.Carbohydr.Chem.,第8巻,753項,1989年)、1,2,3,4,6−ペンタ−O−アセチル−5−チオ−ガラクトピラノース(Carbohydr.Res.,第76巻,165項,1979年)も既知の方法で合成することができる。
本発明は、以下に示す方法によって遂行することができる。
NNHで示されるヒドラジンとRCOOHで示される有機酸を反応溶媒に加え、ヒドラジン−有機酸混合物を別途調整する。この時、ヒドラジン類と有機酸の混合のモル比は1:1〜1:3であり、好ましくは1:1である。ここで用いられる反応溶媒とは、テトラヒドロフラン、ジオキサン、トルエン、塩化メチレン、クロロホルム、アセトニトリル、酢酸エチル、ジメチルスルホキシド、メタノール、エタノール、N,N−ジメチルホルムアミド等であり、好ましくはメタノール、エタノール、N,N−ジメチルホルムアミドである。
次に、1,2,3,4,6−ペンタ−O−アセチル−5−チオ−アルドヘキソピラノース又は1,2,3,4,6−ペンタ−O−アセチル−アルドヘキソピラノース[式(V)で示される化合物]を上記反応溶媒に溶解し、ヒドラジン類と有機酸の混合物を1当量から3当量、好ましくは1当量から1.5当量加え1〜120時間撹拌する。反応温度は0℃から80℃であり、好ましくは0℃から25℃である。
生成物は、通常の抽出操作の後、再結晶又はカラムクロマトグラフィーにより精製することができる。
本発明は、1,2,3,4,6−ペンタ−O−アセチル−アルドヘキソピラノースの1位アセチル基を選択的に、脱保護でき得る方法を提供するものである。本発明の方法によれば、ベンジルアミン、ピロリジン等のアミン類を用いる方法に比べ、より収率よく目的物を得ることができる(参考例1)。また、操作性に優れ、実験者が試薬に暴露されることも防ぐことができる。
本発明の方法で得られる式(VI)で示されるアルドヘキソピラノース中間体は、糖尿病、肥満症等の予防又は治療として有用なSGLT2阻害剤、すなわちアリールβ−D−グルコピラノシド誘導体を製造するための中間体として有用である。例えば、2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−5−チオ−アルドヘキソピラノースは、WO0414930に公開された方法を利用し、アリール誘導体と縮合し、アリール 5−チオ−β−D−グルコシドを製造することができる(参考例2)。
【実施例】
以下に、実施例をあげて本発明の製造法をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの記載によって限定的に解釈されるものではない。また、下記実施例における収率については出発原料の純度などにより収率が影響を受けているものがある。個々の化合物について製造するための最適化条件を選択することによって、さらに高い収率にすることが可能である。
【実施例1】
メチルヒドラジンを用いた2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−5−チオ−D−グルコピラノースの製造1
1,2,3,4,6−ペンタ−O−アセチル−5−チオ−D−グルコピラノース(42.0g,103mmol)のN,N−ジメチルホルムアミド(300mL)溶液に、メチルヒドラジン(5.76g,125mmol)、酢酸(7.50g,125mmol)とN,N−ジメチルホルムアミド(125mL)の混合物を加え、室温にて2時間撹拌した。さらに、メチルヒドラジン(0.967g,21mmol)、酢酸(1.26g,21mmol)とN,N−ジメチルホルムアミド溶液(21mL)の混合物を加え1時間撹拌し、酢酸エチル(400mL)で希釈した。反応混合物を酢酸エチル(1.0L)飽和食塩水(1.0L)の混合物に注ぎ、有機相を分離した。これを0.5M HCl(400mL)、続いて飽和食塩水(400mL)で洗浄し、MgSOで乾燥、減圧下濃縮した。得られた残査をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=65:35)にて精製し2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−5−チオ−D−グルコピラノース(α/β=91.4/8.6の混合物、26.5g,70%)を無色結晶として得た。
H−NMR(300MHz,CDCl)of the α anomer δ:
2.02,2.04,2.08,2.08(each s,each 3H),
3.70(ddd,J=3.3,5.0 and 8.3Hz,1H),
4.08(dd,J=3.3 and 12.0Hz,1H),
4.38(dd,J=5.0 and 12.0Hz,1H),5.15−5.19(m,2H),
5.31(dd,J=9.6 and 10.9Hz,1H),5.55(t,J=9.6Hz,1H)
【実施例2】
2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−5−チオ−D−グルコピラノースの製造2
1,2,3,4,6−ペンタ−O−アセチル−5−チオ−D−グルコピラノース(34.0g,0.0837mol)のN,N−ジメチルホルムアミド(200mL)溶液に、メチルヒドラジン(6.70mL,0.125mol)、酢酸(7.2mL,0.125mol)及びN,N−ジメチルホルムアミド(25mL)の混合物を氷冷下加えた。反応液を室温にて2.5時間撹拌した後に、反応液に0.5M HCl(300mL)を氷冷下にて加え、これを酢酸エチル(250mL)で2回抽出した。合わせた有機相を水(200mL)、飽和NaHCO水(100mL)、水(100mL)、飽和食塩水(100mL)の順で洗浄し、MgSO、活性炭1gを加えた。不溶物をろ過した後に、ろ液を減圧下濃縮した。得られた残渣をイソプロピルエーテル(70mL)から結晶化し、2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−5−チオ−D−グルコピラノース(26.9g,88%)を無色結晶として得た。
【実施例3】
エチヒドラジンを用いた2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−5−チオ−D−グルコピラノースの製造
1,2,3,4,6−ペンタ−O−アセチル−5−チオ−D−グルコピラノース(100mg,0.217mmol)のN,N−ジメチルホルムアミド(2.0mL)溶液に、エチルヒドラジン(19.6mg,0.326mmol)、酢酸(19.5mg,0.326mmol)とN,N−ジメチルホルムアミド(0.326mL)の混合物を加え、室温にて1時間撹拌した。さらに、エチルヒドラジン(6.5mg,0.108mmol)、酢酸(6.5mg,0.108mmol)とN,N−ジメチルホルムアミド(0.108mL)の混合物を加え、室温にて3時間撹拌した。反応液に酢酸エチルを加え、0.5M HCl、続いて飽和NaHCO水、飽和食塩水で洗浄した。有機相をMgSOで乾燥し、減圧下濃縮した。得られた残査をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=50:50)にて精製し2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−5−チオ−D−グルコピラノース(64mg,81%)を無色結晶として得た。
【実施例4】
N−アミノモルホリンを用いた2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−5−チオ−D−グルコピラノースの製造
1,2,3,4,6−ペンタ−O−アセチル−5−チオ−D−グルコピラノース(100mg,0.217mmol)のN,N−ジメチルホルムアミド(2.0mL)溶液に、N−アミノモルホリン(33.3mg,0.326mmol)、酢酸(19.5mg,0.326mmol)とN,N−ジメチルホルムアミド(0.326mL)の混合物を加え、室温にて115時間撹拌した。反応液に酢酸エチルを加え、0.5M HCl、続いて飽和NaHCO水、飽和食塩水で洗浄した。有機相をMgSOで乾燥し、減圧下濃縮した。得られた残査をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=50:50)にて精製し2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−5−チオ−D−グルコピラノース(49mg,62%)を無色結晶として得た。
【実施例5】
N−アミノピペリジンを用いた2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−5−チオ−D−グルコピラノースの製造
1,2,3,4,6−ペンタ−O−アセチル−5−チオ−D−グルコピラノース(100mg,0.217mmol)のN,N−ジメチルホルムアミド(2.0mL)溶液に、N−アミノピペリジン(32.7mg,0.326mmol)、酢酸(19.5mg,0.326mmol)とN,N−ジメチルホルムアミド(0.326mL)の混合物を加え、室温にて113時間撹拌した。反応液に酢酸エチルを加え、0.5M HCl、続いて飽和NaHCO水、飽和食塩水で洗浄した。有機相をMgSOで乾燥し、減圧下濃縮した。得られた残査をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=50:50)にて精製し2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−5−チオ−D−グルコピラノース(45mg,57%)を無色結晶として得た。
【実施例6】
2−ヒドロキシエチルヒドラジンを用いた2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−5−チオ−D−グルコピラノースの製造
1,2,3,4,6−ペンタ−O−アセチル−5−チオ−D−グルコピラノース(100mg,0.217mmol)のN,N−ジメチルホルムアミド(2.0mL)溶液に、2−ヒドロキシエチルヒドラジン(24.8mg,0.326mmol)、酢酸(19.5mg,0.326mmol)とN,N−ジメチルホルムアミド(0.326mL)の混合物を加え、室温にて3時間撹拌した。反応液に酢酸エチルを加え、0.5M HCl、続いて飽和NaHCO水、飽和食塩水で洗浄した。有機相をMgSOで乾燥し、減圧下濃縮した。得られた残査をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=50:50)にて精製し2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−5−チオ−D−グルコピラノース(62mg,78%)を無色結晶として得た。
【実施例7】
1,1−ジメチルヒドラジンを用いた2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−5−チオ−D−グルコピラノースの製造
1,2,3,4,6−ペンタ−O−アセチル−5−チオ−D−グルコピラノース(100mg,0.217mmol)のN,N−ジメチルホルムアミド(2.0mL)溶液に、1,1−ジメチルヒドラジン(19.5mg,0.326mmol)、酢酸(19.5mg,0.326mmol)とN,N−ジメチルホルムアミド(0.326mL)の混合物を加え、室温にて35時間撹拌した。反応液に酢酸エチルを加え、0.5M HCl、続いて飽和NaHCO水、飽和食塩水で洗浄した。有機相をMgSOで乾燥し、減圧下濃縮した。得られた残査をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=50:50)にて精製し2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−5−チオ−D−グルコピラノース(50mg,63%)を無色結晶として得た。
【実施例8】
メチルヒドラジン−プロピオン酸を用いた2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−5−チオ−D−グルコピラノースの製造
1,2,3,4,6−ペンタ−O−アセチル−5−チオ−D−グルコピラノース(100mg,0.217mmol)のN,N−ジメチルホルムアミド(2.0mL)溶液に、メチルヒドラジン(15mg,0.326mmol)、プロピオン酸(24.2mg,0.326mmol)とN,N−ジメチルホルムアミド(0.326mL)の混合物を加え、室温にて3時間撹拌した。反応液に酢酸エチルを加え、0.5M HCl、続いて飽和NaHCO水、飽和食塩水で洗浄した。有機相をMgSOで乾燥し、減圧下濃縮した。得られた残査をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=50:50)にて精製し2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−5−チオ−D−グルコピラノース(66mg,83%)を無色結晶として得た。
【実施例9】
メチルヒドラジンを用いた2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−D−グルコピラノースの製造
1,2,3,4,6−ペンタ−O−アセチル−D−グルコピラノース(390mg,0.999mmol)のN,N−ジメチルホルムアミド(8.0mL)溶液に、メチルヒドラジン(69mg,1.5mmol)、酢酸(90mg,1.5mmol)とN,N−ジメチルホルムアミド(1.5mL)の混合物を加え、室温にて1時間撹拌した。反応液に酢酸エチルを加え、0.5M HClつづいて飽和食塩水で洗浄した。有機相をMgSOで乾燥し、減圧下濃縮した。得られた残査をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=50:50)にて精製し2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−D−グルコピラノース(α/β=73/27の混合物、350mg,99%)を無色アモルファスとして得た。
[α]20 +72(C 0.69,CHCl
文献値 K.Watanabe.et al.,Carbohydr.Res.,154(1986)165−176
[α]15 +71(C 1.14,CHCl
【実施例10】
メチルヒドラジンを用いた2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−D−ガラクトピラノースの製造
1,2,3,4,6−ペンタ−O−アセチル−β−D−ガラクトピラノース(100mg,0.256mmol)のN,N−ジメチルホルムアミド(2.0mL)溶液に、メチルヒドラジン(17.7mg,0.384mmol)、酢酸(23mg,0.384mmol)とN,N−ジメチルホルムアミド(0.384mL)の混合物を加え、室温にて1時間撹拌した。反応液に酢酸エチルを加え、0.5M HCl、続いて飽和NaHCO水、飽和食塩水で洗浄した。有機相をMgSOで乾燥し、減圧下濃縮した。得られた残査をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=50:50)にて精製し2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−D−ガラクトピラノース(81mg,91%)を得た。
H−NMR(500MHz,CDCl)δ:
2.00,2.06,2.10,2.15(each s,each 3H),3.47(d,JOH,1=3.0Hz,OH),
4.07−4.14(m,2H,H−6,6’),
4.48(ddd,J5,4=0.9,J5,6=6.8,J5,6’=6.8Hz,1H,H−5),
5.16(dd,J2,1=3.0,J2,3=10.7Hz,1H,H−2),
5.41(dd,J3,4=3.0Hz,1H,H−3),5.47(dd,1H,H−4),5.52(t,1H,H−1)
【実施例11】
メチルヒドラジンを用いた2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−D−マンノピラノースの製造
実施例9と同様な方法で、1,2,3,4,6−ペンタ−O−アセチル−D−マンノピラノース(100mg,0.256mmol)から表題化合物を66%の収率で得た。
H−NMR(300MHz,CDCl)δ:
2.01,2.06,2.11,2.17(each s,each 3H),3.60(d,JOH,1=4.2Hz,OH),
4.09−4.29(m,3H,H−5,6,6’),5.24−5.34(m,3H),
5.42(dd,J=3.3,J=10.0Hz,1H,).
参考例1
ピロリジンを用いた2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−5−チオ−D−グルコピラノースの製造
1,2,3,4,6−ペンタ−O−アセチル−5−チオ−D−グルコピラノース(300mg,0.738mmol)のN,N−ジメチルホルムアミド(7.4mL)溶液にピロリジン(68.2mg,0.959mmol)を加え室温にて17時間撹拌した。反応液に1M HCl溶液を加え、酢酸エチルで2回抽出した。合わせた有機相をMgSOで乾燥し、減圧下濃縮した。得られた残査をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=65:35)にて精製し2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−5−チオ−D−グルコピラノース(115mg,43%)を無色結晶として得た。
参考例2
2’−(4’−エチルベンジル)フェニル 5−チオ−β−D−グルコピラノシドの製造
(1)2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−5−チオ−D−グルコピラノース(100mg,0.274mmol)、2−(4−エチルベンジル)フェノール(117mg,0.548mmol)、トリフェニルホスフィン(144mg,0.548mmol)及びTHF(3ml)の混合物に、室温で、ジエチルアゾカルボキシレート(40%トルエン溶液、0.24ml)をゆっくり滴下した。室温で20時間攪拌した後に、反応液を濃縮し得られた残査をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=7:3)にて精製し、無色粉末状の2’−(4’−エチルベンジル)フェニル 2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−5−チオ−β−D−グルコピラノシド(12mg)を得た。
H−NMR(300MHz,CDCl)δ:
1.20(t,J=7.6Hz,3H),1.90(s,3H),2.01(s,3H),2.04(s,3H),
2.05(s,3H),2.60(q,J=7.6Hz,2H),3.20−3.30(m,1H),3.88(s,2H),
4.08−4.17(m,1H),4.25−4.35(m,1H),5.16(dd,J=8.9,9.3Hz,1H),
5.33(d,J=8.6Hz,1H),5.39(dd,J=9.3,10.4Hz,1H),
5.62(dd,J=8.6,8.9Hz,1H),6.94−7.00(m,1H),7.04−7.14(m,6H),
7.17−7.24(m,1H)
ESI m/z=557(M−H)
mp 114.0−119.0℃
(2)2’−(4’−エチルベンジル)フェニル 2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−5−チオ−β−D−グルコピラノシド(310mg,0.555mmol)とメタノール(5ml)の混合物にナトリウムメトキシド(30mg,0.555mmol)を加え、室温にて10時間攪拌した。反応液にDowex−50Wx8イオン交換樹脂を加え中和し、混合物を濾過した。得られたろ液を濃縮し、残査をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=20:1)にて精製し、無色粉末状の標題化合物(170mg)を得た。
H−NMR(300MHz,MeOH−d)δ:
1.19(t,J=7.3Hz,3H),2.58(q,J=7.3Hz,2H),2.88−2.95(m,1H),
3.29−3.31(m,1H),3.55−3.60(m,1H),3.74−3.83(m,2H),
3.90−3.93(m,1H),3.97−3.99(m,2H),5.17(d,J=8.5Hz,1H),
6.91(dt,J=1.2,7.4Hz,1H),7.10−7.19(m,6H),
7.27(d,J=7.9Hz,1H)
ESI m/z=389(M−H)
mp 154.0−169.0℃
【産業上の利用可能性】
本発明は、2,3,4,6−ペンタ−O−アセチル−アルドヘキソピラノース又は2,3,4,6−ペンタ−O−アセチル−5−チオ−アルドヘキソピラノースの、工業的に安全な製造方法を提供するものである。本発明により、SGLT2阻害剤、すなわちアリールβ−D−グルコピラノシド誘導体を製造するための中間体を製造する方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記スキームにより、式(V)で示されるペンタ−O−アセチル−アルドヘキソピラノースをRNNHで示されるヒドラジン類とRCOOHで示される有機酸の混合物を反応させることによって式(VI)で示されるテトラ−O−アセチル−アルドヘキソピラノースを製造する方法:

上記スキーム中、Acはアセチル基を示し、Xは−O−又は−S−を示し、Rは水素原子又はC1−6アルキル基を示し、RはC1−6アルキル基、ハロゲン原子で置換されたC1−6アルキル基又は水酸基で置換されたC1−6アルキル基を示す。又は、RとRが一緒になってヒドラジノ基と共に、C1−6アルキル基、カルボキシル基及びC1−6アルコキシC1−6アルキル基からなる群から選択される1−3個の置換基で置換されてもよいN−アミノピロリジン、C1−6アルキル基、カルボキシル基及びC1−6アルコキシC1−6アルキル基からなる群から選択される1−3個の置換基で置換されてもよいN−アミノピペリジン、C1−6アルキル基、カルボキシル基及びC1−6アルコキシC1−6アルキル基からなる群から選択される1−3個の置換基で置換されてもよいN−アミノモルホリン、C1−6アルキル基、カルボキシル基及びC1−6アルコキシC1−6アルキル基からなる群から選択される1−3個の置換基で置換されてもよいN−アミノピペラジン、又はC1−6アルキル基、カルボキシル基及びC1−6アルコキシC1−6アルキル基からなる群から選択される1−3個の置換基で置換されてもよいN−アミノパーヒドロアゼピンを示し、RはC1−6アルキル基を示す。
【請求項2】

式(V)が上記式(VII)で表される化合物若しくはそのエナンチオマー又はそれらの混合物であり、式(VI)が上記式(VIII)で表される化合物若しくはそのエナンチオマー又はそれらの混合物である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
が水素原子又はC1−6アルキル基であり、RがC1−6アルキル基又は水酸基で置換されたC1−6アルキル基である請求項2記載の方法。
【請求項4】
が水素原子であり、RがC1−6アルキル基又は水酸基で置換されたC1−6アルキル基である請求項3記載の方法。
【請求項5】
Xが−O−である請求項1に記載の方法。
【請求項6】

式(V)が上記式(VIV)で表される化合物若しくはそのエナンチオマー又はそれらの混合物であり、式(VI)が上記式(X)で表される化合物若しくはそのエナンチオマー又はそれらの混合物である請求項1に記載の方法。
【請求項7】
が水素原子又はC1−6アルキル基、RがC1−6アルキル基又は水酸基で置換されたC1−6アルキル基である請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
が水素原子であり、RがC1−6アルキル基又は水酸基で置換されたC1−6アルキル基である請求項5又は6に記載の方法。
【請求項9】
NNHとRCOOHが1:1のモル比で用いられる請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
が水素原子であり、Rがメチル基である請求項9記載の方法。

【国際公開番号】WO2004/106352
【国際公開日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【発行日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−506534(P2005−506534)
【国際出願番号】PCT/JP2004/007556
【国際出願日】平成16年5月26日(2004.5.26)
【出願人】(000002819)大正製薬株式会社 (437)
【Fターム(参考)】