説明

アルミニウムおよび/またはチタンをセラミック酸化物で陽極被覆する製造品およびプロセス

アルミニウムおよび/またはチタンを含む陽極上で直流および交流を使用して、二酸化チタンおよび/または二酸化ジルコニウムを含む耐食性、耐熱性および耐摩耗性セラミック被膜を形成することによる、製造物品ならびに物品を製造するプロセス。任意に、物品は、セラミック被膜の付着後に、塗装などの更なる層で被覆される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム、チタン、アルミニウム合金およびチタン合金加工物の表面上にチタンおよび/またはジルコニウム酸化物被膜を陽極的に形成することに関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムおよびその合金には、様々な工業用途が見出されている。しかしながら、アルミニウムおよびその合金の反応性、ならびに腐食および環境的劣化に対するその傾向のために、これらの金属の露出面に適切な耐食性および保護被膜を提供する必要がある。さらに、かかる被膜は、金属品が他の表面、粒状物質等との接触に繰り返しさらされる使用中に、被膜が完全な状態のままであるように耐摩耗性であるべきである。製造される物品の外観が重要であるとみなされる場合、それに塗布される保護被膜はさらに、均質および装飾的であるべきである。
【0003】
アルミニウムおよびその合金上に有効かつ永久的な保護被膜を提供するために、かかる金属は、基材上にアルミナ被膜を生成する、硫酸、シュウ酸およびクロム酸などの様々な電解質溶液中で陽極酸化されている。アルミニウムおよびその合金の陽極酸化は、塗装またはエナメル被覆よりも有効な被膜を形成することができるが、得られる被覆金属は、その目的の用途に完全に満足の行くものではなかった。被膜はしばしば、工業の最も要求の高い必要性を満たすことが必要とされる、所望の程度の可撓性、硬度、平滑度、耐久性、付着性、耐熱性、耐酸性および耐アルカリ性、耐食性、および/または不浸透性のうちの1つまたは複数を欠いている。
【0004】
強酸性浴(pH<1)を使用してアルミニウムを陽極酸化し、酸化アルミニウムの被膜を付着させることは公知である。この方法の欠点は、形成された陽極酸化被膜の性質である。酸化アルミニウム被膜は、チタンおよび/またはジルコニウムの被膜などの他の酸化物ほど、酸およびアルカリに対して耐性ではない。いわゆるアルミニウムの硬質陽極酸化によって、pH<1および3℃未満の温度で陽極被覆によって付着された、酸化アルミニウムのより硬質な被膜が得られ、腐食およびアルカリ作用に対する十分な耐性を依然として欠いているα相アルミナ結晶質構造が形成される。
【0005】
したがって、前述の欠点のいずれもなく、かつさらに高品質および満足な外観の耐食性、耐熱性および耐摩耗性保護被膜をさらに提供する、アルミニウムおよびその合金の代替の陽極酸化プロセスを開発することが依然として非常に必要とされている。
【0006】
アルミニウムおよびアルミニウム合金は、従来の鉄ホイールよりも耐食性が高く、軽いことから自動車ホイールに一般に使用されている。上記の特性にもかかわらず、露出したアルミニウム基材は、腐食に対して十分に強くなく;酸化アルミニウムフィルムが表面に形成する傾向があり、表面損傷は容易に糸状腐食へと成長する。化成被覆は、耐食性被膜層をアルミニウムおよびその合金(他の多くの金属と共に)に提供する公知の方法である。アルミニウムホイールの従来の化成被覆、すなわちクロム酸塩はしばしば環境上好ましくなく、そのため、その使用は少なくともその理由から最小限にすべきである。非クロム酸塩化成被覆は比較的よく知られている。例えば、クロムまたはリンを使用する必要のない化成被覆組成物および方法が、どちらも本出願と同じ譲受人に譲渡されている米国特許第5,356,490号および米国特許第5,281,282号に教示されている。
【0007】
相手先商標製品製造業者(OEM)は、アルミニウム合金ホイールに関する特定の耐食性試験を有する。特定の化成被覆は、多くの種類の表面に耐食性を付与するのに適しているが、アルミニウム合金ホイールなどの比較的高レベルの耐食性を必要とする他の表面に耐食性を付与するのに許容可能であると考えられていない。
【0008】
したがって、従来のクロム酸塩化成被覆によって提供される耐食性と同様に、比較的高レベルの耐食性が必要な表面に対して少なくとも信頼性のある、被膜、組成物、およびそのためのプロセスを提供することが望ましい。さらに他の共存する、かつ/または他の利点は、以下の説明から明らかである。
【発明の開示】
【0009】
発明の概要
本出願人は、リン含有酸および/または塩の存在下で、複合フッ化物および/または複合オキシフッ化物を含有する陽極酸化溶液を使用して、アルミニウム、チタン、アルミニウム合金またはチタン合金の物品を迅速に陽極酸化して、高い耐食性および耐摩耗性である均質な保護酸化物被膜を形成することができることを発見した。本明細書における「溶液」という用語の使用は、存在する成分すべてが完全に溶解かつ/または分散されることを示すことを意味するものではない。陽極酸化溶液は水性であり、金属、半金属、および/または非金属元素を含有する、1種または複数種の水可溶性および/または水分散性陰イオン種を含有する。本発明の好ましい実施形態において、陽極酸化溶液は、以下の:
a)水可溶性および/または水分散性リン酸および/または塩、好ましくはオキシ塩(陽極酸化溶液中のリン濃度は、少なくとも0.01M、好ましい実施形態では、0.25M以下である);
b)Ti、Zr、Hf、Sn、Al、GeおよびBからなる群から選択される元素の水可溶性および/または水分散性複合フッ化物;
c)水可溶性および/または水分散性ジルコニウムオキシ塩;
d)水可溶性および/または水分散性バナジウムオキシ塩;
e)水可溶性および/または水分散性チタンオキシ塩;
f)水可溶性および/または水分散性アルカリ金属フッ化物;
g)水可溶性および/または水分散性ニオブ塩;
h)水可溶性および/または水分散性モリブデン塩;
i)水可溶性および/または水分散性マンガン塩;
j)水可溶性および/または水分散性タングステン塩;
k)水可溶性および/または水分散性アルカリ金属水酸化物;からなる群から選択される1つまたは複数の成分を含む。
【0010】
本発明の一実施形態において、ニオブ、モリブデン、マンガン、および/またはタングステン塩は、ジルコニウムおよび/またはチタンのセラミック酸化物フィルム中に共付着(co−deposited)される。
【0011】
本発明の方法は、陽極酸化溶液と接触して陰極を提供し、陽極酸化溶液中の陽極として物品を配置し、物品の表面上に保護被膜を形成するのに有効な電圧で、かつ有効な時間、陽極酸化溶液に電流を流すことを含む。直流、パルス直流または交流が使用される。パルス直流または交流が好ましい。パルス電流を使用する場合、平均電圧は、選択される陽極酸化溶液の組成に応じて、好ましくは250ボルト以下、さらに好ましくは200ボルト以下、または最も好ましくは175ボルト以下である。パルス電流が使用される場合のピーク電圧は、好ましくは600ボルト以下、好ましくは500ボルト以下、最も好ましくは400ボルト以下である。一実施形態において、パルス電流のピーク電圧は、好ましさが高くなる順に600、575、550、525、500ボルト以下であり、独立して300、310、320、330、340、350、360、370、380、390、400ボルト以上である。交流が使用される場合、電圧は、200〜600ボルトの範囲である。交流の他の実施形態では、電圧は、好ましさが高くなる順に600、575、550、525、500ボルトであり、独立して300、310、320、330、340、350、360、370、380、390、400ボルト以上である。リン含有成分の存在下にて、直流電流とも呼ばれる非パルス直流が、200〜600ボルトの電圧で使用される。非パルス直流は望ましくは、好ましさが高くなる順に600、575、550、525、500ボルト、独立して300、310、320、330、340、350、360、370、380、390、400ボルト以上の電圧を有する。
【0012】
アルミニウム、アルミニウム合金、チタンまたはチタン合金物品の表面に保護被膜を形成する方法であって、水と、リン含有酸および/または塩と、Ti、Zr、Hf、Sn、Al、Ge、Bからなる群から選択される元素の水可溶性複合フッ化物、水可溶性複合オキシフッ化物、水分散性複合フッ化物、および水分散性複合オキシフッ化物、およびその混合物からなる群から選択される1種または複数種の更なる成分と、で構成される陽極酸化溶液を提供する段階;陽極酸化溶液と接触して陰極を提供する段階;陽極酸化溶液中の陽極としてアルミニウム、アルミニウム合金、チタンまたはチタン合金物品を配置する段階;物品の少なくとも1つの面に保護酸化物被膜を形成するのに有効な時間、陽極酸化溶液を通して陽極と陰極の間に電流を流す段階;を含む方法を提供することが本発明の目的である。他の目的は、物品が主にチタンまたはアルミニウムを含有する方法を提供することである。他の目的は、保護被膜が主に、Ti、Zr、Hf、Sn、Geおよび/またはBの酸化物を含有する方法を提供することである。他の目的は、物品が主にアルミニウムを含み、かつ保護被膜が主に二酸化チタンである方法を提供することである。
【0013】
他の目的は、電流が、平均電圧200ボルト以下を有する直流である方法を提供することである。好ましい実施形態において、保護被膜は主に、二酸化チタンで構成される。保護被膜は好ましくは、厚さ少なくとも1ミクロン/分の速度で形成され;電流は、好ましくは直流または交流である。好ましい実施形態において、陽極酸化溶液は、水、リン含有酸、およびTiおよび/またはZrの水可溶性および/または水分散性複合フッ化物を含む。好ましくは、陽極酸化溶液のpHは1〜6である。
【0014】
好ましくは、リン含有酸および/または塩は、リン酸、リン酸塩、亜リン酸および亜リン酸塩のうちの1つまたは複数を含む。本発明の他の目的は、Pとして測定される濃度0.01〜0.25Mでリン含有酸および/または塩が存在するプロセスを提供することである。
【0015】
好ましい実施形態において、陽極酸化溶液は、H2TiF6、H2ZrF6、H2HfF6、H2GeF6、H2SnF6、H3AlF6、HBF4およびその塩および混合物からなる群から選択される複合フッ化物を使用して調製され、任意にHFまたはその塩を含む。
【0016】
主にアルミニウムまたはチタンで構成される金属物品の表面に保護被膜を形成する方法であって:水と、リン含有オキシ酸および/または塩と、Ti、Zrおよびその組み合わせからなる群から選択される元素の水可溶性複合フッ化物および/またはオキシフッ化物と、で構成される陽極酸化溶液を提供する段階;陽極酸化溶液と接触して陰極を提供する段階;陽極酸化溶液中の陽極として、主にアルミニウムまたはチタンで構成される金属物品を配置する段階;物品の少なくとも1つの面にTiおよび/またはZrの酸化物を含む保護被膜を形成するのに有効な時間、陽極と陰極の間に直流または交流を流す段階;を含む方法を提供することが本発明の他の目的である。
【0017】
他の目的は、陽極酸化溶液が、少なくとも2個、好ましくは4個のフッ素原子、およびTi、Zr、およびその組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つの原子を含む陰イオンを含む複合フッ化物を使用して調製される方法を提供することである。さらに他の目的は、陽極酸化溶液が、H2TiF6、H2ZrF6、およびその塩および混合物からなる群から選択される複合フッ化物を使用して調製される方法を提供することである。好ましくは、複合フッ化物は、少なくとも0.01Mの濃度で陽極酸化溶液中に導入される。直流は好ましくは、平均電圧250ボルト以下を有する。他の目的は、陽極酸化溶液がさらにキレート剤で構成される方法を提供することである。好ましい実施形態において、陽極酸化溶液は、TiおよびZrからなる群から選択される少なくとも1つの元素の少なくとも1種類の複合フッ化物と、Ti、Zr、Hf、Sn、B、AlおよびGeからなる群から選択される少なくとも1つの元素の酸化物、水酸化物、炭酸塩またはアルコキシドである少なくとも1種類の化合物と、を合わせることによって調製される少なくとも1種類の複合オキシフッ化物で構成される。
【0018】
本発明のさらに他の目的は、チタン、チタン合金、アルミニウムまたはアルミニウム合金で構成される少なくとも1つの金属面を有する物品上に保護被膜を形成する方法であって、陽極酸化溶液が、Ti、Zr、Hf、Sn、Ge、Bおよびその組み合わせからなる群から選択される元素の水可溶性複合フッ化物および/またはオキシフッ化物と、リンを含有する酸および/または塩と、を水に溶解することによって調製される、陽極酸化溶液を提供する段階;陽極酸化溶液と接触して陰極を提供する段階;陽極酸化溶液中の陽極として、チタン、チタン合金、アルミニウムまたはアルミニウム合金で構成される金属面を配置する段階;物品の金属面上に保護被膜を形成するのに有効な時間、陽極と陰極の間に直流または交流を流す段階;を含む方法を提供することである。好ましい実施形態において、Ti、Zr、Si、Hf、Sn、B、AlおよびGeからなる群から選択される少なくとも1つの元素の酸化物、水酸化物、炭酸塩またはアルコキシドである、少なくとも1種類の化合物をさらに使用して、陽極酸化溶液が調製される。
【0019】
pH2〜6を有する陽極酸化溶液を提供することも本発明の目的である。陽極酸化溶液のpHは好ましくは、アンモニア、アミン、アルカリ金属水酸化物またはその混合物を使用して調整される。
【0020】
本発明のさらに他の目的は、陽極酸化溶液が、水と、リン含有オキシ酸および/または塩と、チタンおよび/またはジルコニウムの1種または複数種の水可溶性複合フッ化物またはその塩と、ジルコニウムの酸化物、水酸化物、炭酸塩またはアルコキシドと、を合わせることによって調製される、陽極酸化溶液を提供する段階;陽極酸化溶液と接触して陰極を提供する段階;陽極酸化溶液中の陽極として、主にアルミニウムまたはチタンで構成される少なくとも1つの面を有する物品を配置する段階;物品の少なくとも1つの面上に保護被膜を形成するのに有効な時間、陽極と陰極の間に直流または交流を流す段階;を含む、物品の金属面上に保護被膜を形成する方法を提供することである。好ましい実施形態において、水可溶性複合フッ化物はチタンの複合フッ化物であり、電流は直流である。本発明の一態様において、H2TiF6、H2TiF6の塩、H2ZrF6、およびH2ZrF6の塩のうちの1つまたは複数を使用して、陽極酸化溶液を調製する。本発明の他の態様において、ジルコニウム塩基性炭酸塩を使用して、陽極酸化溶液を調製する。
【0021】
本発明の他の目的は、少なくとも300ボルト、好ましくは少なくとも400、最も好ましくは少なくとも500ボルトのピーク電圧で陽極として作用するのに十分なアルミニウムおよび/またはチタンを含有する、少なくとも1つの面を有する基材;それに化学結合するように表面上に陽極付着された、少なくとも1つの面に結合した、Ti、Zr、Hf、Ge、Bおよびその混合物からなる群から選択される少なくとも1つの酸化物を含む耐アルカリ性、耐酸性、耐食性の付着性保護層;を含む製品であって、その保護層がさらに、好ましさが高くなる順に10、5、2.5、1重量%未満の量でリンを含有する、製品を提供することである。好ましい実施形態において、付着性保護層は主に、二酸化チタン、酸化ジルコニウムまたはその混合物で構成される。
【0022】
本発明の他の目的は、付着性保護層上に付着された塗料の層をさらに含む物品を提供することである。その塗装は、クリアコートを含み得る。好ましい実施形態において、製品は主に、チタンまたはアルミニウムで構成される。特に好ましい実施形態において、物品は、主にアルミニウムで構成される自動車ホイールである。その代わりとして、物品は、主にアルミニウムで構成される第1部分と、主にチタンで構成される第2部分と、を有する複合構造物であることができる。
【0023】
本発明の詳細な説明
特許請求の範囲および実施例を除いて、または明確に示されている場合を除いて、材料の量または反応および/または使用の条件を示す本明細書におけるすべての数値量は、本発明の範囲の説明において「約」という単語によって修飾されるものとして理解されたい。しかしながら、指定される数値限界内の実施が一般に好ましい。さらに、明細書全体を通して、それと反対に特に指定がない限り:パーセント、「部」、および比の値は重量または質量による;本発明と関連して所定の目的に適している、または好ましい材料のグループまたは種類の説明は、そのグループまたは種類のメンバーのうちの2つ以上の混合物が等しく適している、または好ましいことを意味する;化学用語での成分の説明は、1つまたは複数の新たに添加された成分と、他の成分が添加される場合に組成物中に既に存在する1つまたは複数の成分との化学反応(1つまたは複数)による組成物内でのその場での生成の説明において指定されるいずれかの組み合わせへの添加時点での成分を意味する。イオン状態の成分の指定はさらに、全体としての組成物に、および組成物に添加される物質に対して電気的中性を生成するのに十分な対イオンが存在することを意味する。このように暗に指定される対イオンは好ましくは、可能な限り、イオン状態で明確に指定される他の成分の中から選択される;そうでなければ、かかる対イオンは、発明の目的に悪影響を及ぼす対イオンを避けることを除いては、自由に選択される;「塗装」という用語およびその文法的な変形形態は、例えば、ラッカー、電着塗装、セラック、磁器エナメル、トップコート、ベースコート、カラーコート等としても知られる、より特殊な種類の保護外部被膜を含む;「モル」という単語は「グラムモル」を意味し、その単語自体およびその文法的な変形形態のすべてが、化学種が、イオン性、中性、不安定性、または仮定的であるか、実際には明確な分子を有する安定な中性物質であるかに関係なく、それに存在する原子の種類および数すべてによって定義されるあらゆる化学種に使用される;「溶液」、「可溶性」、「均質」等の用語は、真に平衡な溶液または均質性だけでなく、分散液も含むものとして理解されたい。
【0024】
本発明に従って陽極酸化にかけられるアルミニウム、チタン、アルミニウム合金またはチタン合金物品についての具体的な制限はない。物品の少なくとも一部は、チタンまたはアルミニウムを50重量%以上、さらに好ましくは70重量%以上含有する金属から作製されることが望ましい。物品は、チタンまたはアルミニウムを好ましさが高くなる順に30、40、50、60、70、80、90、95、100重量%以上含有する金属から作製されることが好ましい。
【0025】
加工物の陽極酸化の実施において、好ましくは0〜90℃の温度に維持された陽極酸化溶液が使用される。その温度は、好ましさが高くなる順に少なくとも5、10、15、20、25、30、40、50℃であり、90、88、86、84、82、80、75、70、65℃以下であることが望ましい。
【0026】
陽極酸化プロセスは、浴、タンクまたは他のかかる容器内に収容されることが好ましい陽極酸化溶液中に加工物の少なくとも一部を浸漬することを含む。物品(加工物)は陽極として機能する。加工物に対して陰極性である第2金属物品も陽極酸化溶液中に配置される。代替方法としては、加工物(陽極)に対してそれ自体が陰極性である容器内に陽極酸化溶液が入れられる。パルス電流を用いる場合、次いで、陽極酸化溶液と接触するアルミニウム物品の表面に所望の厚さの被膜が形成されるまで、好ましさが高くなる順に250ボルト、200ボルト、175ボルト、150ボルト、125ボルトを超えない平均電圧電位が電極間にかけられる。特定の陽極酸化溶液組成を使用した場合、100ボルトを超えない平均電圧でさえ、良い結果が得られる。耐食性および耐摩耗性保護被膜の形成は、可視光発光放電(本明細書において時として「プラズマ」と呼ばれるが、この用語の使用は、真のプラズマが存在することを意味するものではない)をアルミニウム物品表面に発生させる(連続的または断続的または周期的に)のに有効な陽極酸化条件と関連する場合が多いことが確認されている。
【0027】
一実施形態において、直流(DC)は、10〜400アンペア/平方フィートおよび200〜600ボルトで使用される。他の実施形態において、電流は、パルス(pulsed)電流またはパルシング(pulsing)電流である。非パルス直流は望ましくは、範囲200〜600ボルトで使用され;好ましくは電圧は、好ましさが高くなる順に、少なくとも200、250、300、350、400であり、少なくとも経済的理由から、好ましさが高くなる順に700、650、600、550以下である。直流が使用されることが好ましいが、交流も使用することができる(一部の条件下であるが、ACを使用した場合、被膜形成の速度が低い)。周波数は、10〜10,000ヘルツの範囲である;それより高い周波数を使用することができる。各連続電圧パルス間の「オフ」タイムは好ましくは、電圧パルス間の10%から電圧パルス間の1000%まで継続する。「オフ」時間の間、電圧をゼロに下げる必要はない(つまり、電圧は、比較的低いベースライン電圧と比較的高い上限電圧との間でサイクルされる)。このようにして、ベースライン電圧は、ピーク印加上限電圧の0〜99.9%である電圧に調節される。低いベースライン電圧(例えば、ピーク上限電圧の30%未満)は、周期的または断続的な可視光発光放電の発生に有利に働き、高いベースライン電圧(例えば、ピーク上限電圧の60%を超える)は、連続的なプラズマ陽極酸化(人間の眼のフレームリフレッシュ速度0.1〜0.2秒に対して)が生じる傾向がある。電流は、周波数発生機によって活性化される電子または機械スイッチのいずれかでパルス化することができる。平均アンペア数/平方フィートは、好ましさが高くなる順に、少なくとも10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、105、110、115であり、少なくとも経済的理由から、好ましさが高くなる順に、300、275、250、225、200、180、170、160、150、140、130、125以下である。例えば、AC成分を有するDC信号などのさらに複雑な波形も用いることができる。望ましくは200〜600ボルトの電圧を有する交流も使用することができる。陽極酸化溶液中の電解質の濃度が高いと、電圧が低くなると同時に、満足のいく被膜が付着される。
【0028】
以下にさらに詳細に説明されるように、多くの異なる種類の陽極酸化溶液を本発明のプロセスで首尾よく使用することができる。しかしながら、金属、半金属および/または非金属元素を含有する多種多様な水可溶性または水分散性陰イオン種が、陽極酸化溶液の成分として使用するのに適していると考えられる。代表的な元素としては、例えば、リン、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、スズ、ゲルマニウム、ホウ素、バナジウム、フッ化物、亜鉛、ニオブ、モリブデン、マンガン、タングステン等(かかる元素の組み合わせを含む)が挙げられる。本発明の好ましい実施形態において、陽極酸化溶液の成分は、チタンおよび/またはジルコニウムである。
【0029】
理論に束縛されることなく、後にさらに詳細に説明される、複合フッ化物またはオキシフッ化物種の存在下での、アルミニウム、チタン、アルミニウム合金およびチタン合金物品の陽極酸化は、金属/半金属酸化物セラミック(O、OHおよび/またはF配位子を含有する部分加水分解されたガラスを含む)または金属/非金属化合物で構成される表面フィルムの形成を引き起こすと考えられ、表面フィルムを含むその金属は、複合フッ化物またはオキシフッ化物種からの金属および物品からのいくつかの金属を含む。本発明による陽極酸化中にしばしば起こるプラズマまたは火花放電は、陰イオン種を不安定にし、かかるイオン種上の特定の配位子または置換基が、加水分解されるか、またはOおよび/またはOHによって置換されるか、または金属−O結合または金属−OH結合によって金属−有機結合が置換されると考えられる。かかる加水分解および置換反応によって、化学種の水可溶性または水分散性が低くなり、その結果、第2保護被膜を形成する酸化物の表面被膜の形成が誘導される。
【0030】
pH調整剤が、陽極酸化溶液中に存在し得る;適切なpH調整剤の非制限的な例としては、アンモニア、アミンまたは他の塩基が挙げられる。pH調整剤の量は、pH1〜6.5、好ましくは2〜6、最も好ましくは3〜5を達成するのに必要な量に限定され、かつ陽極酸化浴で使用される電解質の種類に依存する。好ましい実施形態において、pH調整剤の量は、1%(w/v)未満である。
【0031】
本発明の特定の実施形態において、陽極酸化溶液は本質的に(さらに好ましくは、全く)クロム、過マンガン酸塩、ホウ酸塩、硫酸塩、遊離フッ化物イオンおよび/または遊離塩化物イオンを含有しない。
【0032】
使用される陽極酸化溶液は好ましくは、水と、Ti、Zr、Hf、Sn、Al、GeおよびB(好ましくは、Tiおよび/またはZr)からなる群から選択される元素の少なくとも1種類の複合フッ化物またはオキシフッ化物と、を含む。複合フッ化物またはオキシフッ化物は、水可溶性または水分散性であるべきであり、好ましくは、少なくとも1つのフッ素原子と、Ti、Zr、Hf、Sn、Al、GeまたはBからなる群から選択される元素の少なくとも1つの原子と、を含む陰イオンを含む。複合フッ化物およびオキシフッ化物(時として、当業者によって「フルオロメタレート(fluorometallate)」と呼ばれる)は好ましくは、以下の実験式(I):
pqrs(I)
(式中、p、q、r、およびsはそれぞれ、負ではない整数を表し;Tは、Ti、Zr、Hf、Sn、Al、Ge、およびBからなる群から選択される化学原子記号を表し;rは、少なくとも1であり;qは、少なくとも1であり;TがBを示さない限り、(r+s)は少なくとも6である)
を有する分子を有する物質である。H原子のうちの1つまたは複数は、アンモニウム、金属、アルカリ土類金属またはアルカリ金属陽イオンなどの適切な陽イオンによって置換される(例えば、複合フッ化物は、かかる塩が水可溶性または水分散性であるという条件で塩の形をとり得る)。
【0033】
適切な複合フッ化物の実例となる例としては、限定されないが、H2TiF6、H2ZrF6、H2HfF6、H2GeF6、H2SnF6、H3AlF6、HBF4およびその塩(完全に、および一部中和された)、およびその混合物が挙げられる。適切な複合フッ化物塩の例としては、SrZrF6、MgZrF6、Na2ZrF6およびLi2ZrF6、SrTiF6、MgTiF6、Na2TiF6およびLi2TiF6が挙げられる。
【0034】
陽極酸化溶液中の複合フッ化物および複合オキシフッ化物の総濃度は好ましくは、少なくとも0.005Mである。一般に、当然のことながら溶解性の制約を除いては、好ましい濃度上限はない。陽極酸化溶液中の複合フッ化物および複合オキシフッ化物の総濃度は、少なくとも0.005、0.010、0.020、0.030、0.040、0.050、0.060、0.070、0.080、0.090、0.10、0.20、0.30、0.40、0.50、0.60Mであり、単に経済的理由であれば、好ましさが高くなる順に2.0、1.5、1.0、0.80M以下であることが望ましい。
【0035】
特に高いpHで複合フッ化物またはオキシフッ化物の溶解性を高めるために、フッ素を含有するが、元素Ti、Zr、Hf、Sn、Al、GeまたはBのいずれも含有しない無機酸(またはその塩)を電解質組成物中に含むことが望ましい。好ましくは、フッ化水素アンモニウムなどのフッ化水素酸またはフッ化水素酸の塩が無機酸として使用される。無機酸は、複合フッ化物またはオキシフッ化物の早すぎる重合または縮合を防ぐか、または遅らせ、そうでなければ(特に、フッ素とTとの原子比6を有する複合フッ化物の場合において)自発的な遅い分解を受けやすく、水不溶性酸化物を形成し得ると考えられる。ヘキサフルオロチタン酸およびヘキサフルオロジルコニウム酸の特定の供給源に、無機酸またはその塩が供給されているが、本発明の特定の実施形態では、より多くの無機酸または無機塩を添加することが望ましい。
【0036】
キレート剤、特にニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、N−ヒドロキシエチル−エチレンジアミン三酢酸、またはジエチレン−トリアミン五酢酸またはその塩など、1分子につき2つ以上のカルボン酸基を含有するキレート剤もまた、陽極酸化溶液に含有される。非制限的な例として、Tiおよび/またはZrシュウ酸塩および/または酢酸塩、ならびにアセチルアセトネートなどの他の安定化配位子など、陽極酸化溶液の陽極付着および通常の浴の寿命を妨げない、当技術分野で公知の第IV族化合物を使用することができる。特に、通電された陽極酸化溶液中で分解する、または好ましくないことに重合する有機材料を避ける必要がある。
【0037】
迅速な被膜形成は一般に、パルスDCを使用して、150ボルト以下(好ましくは100以下)の平均電圧で観察される。平均電圧は、厚さ少なくとも1ミクロン/分、好ましくは3分で少なくとも3〜8ミクロンの速度で本発明の被膜を形成するのに十分な大きさであることが望ましい。単に経済的理由であれば、平均電圧は、好ましさが高くなる順に、150、140、130、125、120、115、110、100、90ボルト未満であることが望ましい。選択された厚さの被膜を付着させるのに必要な時間は、陽極酸化浴の濃度および使用される電流の量(アンペア/平方フィート)に反比例する。非制限的な例として、アンペア/平方フィートを300〜2000アンペア/平方フィートに増加することによって、部品(parts)は、実施例に記載の濃度にて10〜15秒とわずかな時間で厚さ8ミクロンの金属酸化物層で被覆される。所定の時間で最適な部分(part)被膜を得るための正確な濃度および正確な量の決定は、最小限の実験で、本明細書における教示に基づいて当業者によって行われる。
【0038】
本発明の被膜は通常、きめ細かく、望ましくは厚さ少なくとも1ミクロンであり、好ましい実施形態は、塗り厚1〜20ミクロンを有する。それより薄いまたは厚い被膜を塗布することができるが、薄い被膜では、物品の所望の被覆面積が得られない。理論に束縛されることなく、特に絶縁酸化物フィルムについては、塗り厚が増加するにしたがって、フィルム付着速度は最終的に、漸近的にゼロに近い速度に下がると考えられる。本発明の被膜の付着量(add−on mass)は、約5〜200g/m2またはそれ以上の範囲であり、塗り厚および被膜の組成の関数である。被膜の付着量は、好ましさが高くなる順に、少なくとも5、10、11、12、14、16、18、20、25、30、35、40、45、50g/m2であることが望ましい。
【0039】
本発明の好ましい実施形態において、使用される陽極酸化溶液は、水、水可溶性および/または水分散性リンオキシ酸または塩、例えばリン酸塩陰イオンを含有する酸または塩;H2TiF6およびH2ZrF6のうちの少なくとも1つを含む。好ましくは、陽極酸化溶液のpHは中性〜酸性である(さらに好ましくは、6.5〜2)。
【0040】
驚くべきことに、陽極酸化溶液中のリン含有酸および/または塩と複合フッ化物との組み合わせによって、異なる種類の陽極付着された被膜が生成されることが見出された。付着された酸化物被膜は主に、陽極の溶解前に陽極酸化溶液中に存在する陰イオンの酸化物を含む。つまり、このプロセスによって、陽極体から引き出されない物質の付着から主に生じる被膜が得られ、陽極酸化される物品の基材への変化が少なくなる。
【0041】
この実施形態において、陽極酸化溶液は、少なくとも1種類の複合フッ化物、例えばH2TiF6および/またはH2ZrF6を、好ましさが高くなる順に少なくとも0.2、0.4、0.6、0.8.1.0、1.2、1.3、1.4、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5重量%、好ましさが高くなる順に10、9.5、9.0、8.5、8.0、7.5、7.0、6.5、6.0、5.5、5.0、4.5.4.0重量%以下の量で含有することが望ましい。少なくとも1種類の複合フッ化物が、例えば当技術分野で公知の種々の水溶液などの適切な供給源から供給される。H2TiF6については、市販の溶液は一般に、濃度50〜60重量%の範囲であり;H2ZrF6については、かかる溶液は、濃度20〜50%の範囲である。
【0042】
リンオキシ塩は、例えば、オルトリン酸、ピロリン酸、トリリン酸、メタリン酸、ポリリン酸、およびリン酸の他の組み合わされた形態、ならびに亜リン酸および次亜リン酸などの適切な供給源から供給され、一部または完全に中和された形態で陽極酸化溶液中に存在する(例えば、その対イオン(1つまたは複数)がアルカリ金属陽イオン、アンモニウムまたはリンオキシ塩に水可溶性を付与する他のかかる種である、塩として)。有機成分が陽極分解を妨げないという条件で、ホスホン酸塩などの有機リン酸塩等も使用することができる(例えば、種々のホスホン酸塩が、Rhodia社およびSolutia社から入手可能である)。
【0043】
酸状態でのリンオキシ塩の使用が特に好ましい。陽極酸化溶液中のリン濃度は、少なくとも0.01Mである。陽極酸化溶液中のリンの濃度は、好ましさが高くなる順に、少なくとも0.01、0.015、0.02、0.03、0.04、0.05、0.07、0.09、0.10、0.12、0.14、0.16Mであることが好ましい。陽極酸化溶液のpHが酸性(pH<7)である実施形態において、リン濃度は、0.2M、0.3M以上、好ましくは、少なくとも経済的理由から、1.0、0.9、0.8、0.7、0.6M以下である。pHが中性〜塩基性である実施形態において、陽極酸化溶液中のリンの濃度は、好ましさが高くなる順に0.40、0.30、0.25、0.20M以下である。
【0044】
この実施形態に従ってアルミニウムまたはチタン含有基材上に保護セラミック被膜を形成するのに使用される好ましい陽極酸化溶液は、以下の成分:
2TiF6 0.05〜10重量%
3PO4 0.1〜0.6重量%
水 100%までの不足分
を用いて調製される。pHは、アンモニア、アミンまたは他の塩基を使用して2〜6の範囲に調整される。
【0045】
上述の陽極酸化溶液では、150ボルト以下の平均電圧を有するパルスDCを使用して、陽極酸化中の持続「プラズマ」(可視光発光放電)の発生が一般に得られる。最も好ましい操作において、平均パルス電圧は100〜200ボルトである。平均電圧300〜600ボルトを有する、いわゆる「直流電流」とも呼ばれる非パルス直流または交流も使用することができる。
【0046】
本発明に従って製造された陽極酸化被膜の色は一般に、塗り厚および被膜におけるTiとZrの相対量に応じて、ブルーグレーおよびライトグレーからチャコールグレーまでの範囲である。被膜は、塗り厚2〜10ミクロンで高い隠蔽力、および優れた耐食性を有する。図1は、本発明のプロセスに従って陽極被覆され、主に二酸化チタンを含むセラミックの厚さ8ミクロンの層が得られた、400seriesアルミニウム合金の試験パネルの一部の写真を示す。被覆試験パネル(4)は、ライトグレーであるが、優れた隠蔽力が得られた。被覆試験パネルは、塩水噴霧試験前に裸金属に到達するまで被膜に付けられたけがき垂線を有した。ASTMB−117−03による塩水噴霧試験に1000時間かけたにもかかわらず、けがき線から広がる腐食はなかった。
【0047】
図2は、市販の裸アルミニウムホイールの一部の写真である。アルミニウムホイールを試験片に切断し、本発明のプロセスに従って、試験片を陽極被覆し、主に二酸化チタンを含むセラミックの厚さ10ミクロンの層を得た。1つの理論に束縛されることなく、被膜の厚さが増加するにしたがって、被膜のグレーが黒くなると考えられる。被膜は完全に、設計エッジを含むアルミニウムホイールの表面を覆った。被覆アルミニウムホイール部分(3)は、塩水噴霧試験前に裸金属に到達するまで被膜に付けられたけがき垂線(1)を示す。STMB−117−03による塩水噴霧試験に1000時間かけたにもかかわらず、けがき線から広がる腐食および設計エッジ(2)での腐食はなかった。「設計エッジ」についての言及は、2つの面の交差によって形成される線の交点で外角を有する、または生じる、物品における切り口ならびに肩またはくぼみを包含するものと理解されたい。設計エッジ(2)の優れた保護は、同様な試験後に設計エッジでの腐食を示す、クロム含有化成被覆などの化成被覆と比較して向上している。
【0048】
図3は、2つの被覆基材:チタンクランプ(5)およびアルミニウム含有試験パネルの一部(6)の写真を示す。クランプおよびパネルを同時に、同じ陽極酸化浴で本発明のプロセスに従って同じ時間被覆した。基材は同じ組成を有していないが、表面上の被膜は均質かつ単色であるように見えた。本発明に従って基材を陽極被覆し、その結果、主に二酸化チタンを含むセラミックの厚さ7ミクロンの層を得た。被膜の色はライトグレーであり、優れた隠蔽力が得られた、
本発明に従って陽極処理にかける前に、アルミニウム含有金属物品を洗浄および/または脱脂段階にかけることが好ましい。例えば、PARCO洗浄剤305(the Henkel Surface Technologies division of Henkel Corporation,Madison Heights,Michiganの製品)の希釈溶液などのアルカリ性洗浄剤にさらすことによって、物品は化学的に脱脂される。洗浄した後、物品を水ですすぐことが好ましい。次いで、所望の場合には、洗浄に続いて、Henkel社から市販のSC592または他の脱酸溶液などの酸性脱酸素剤/スマット除去剤でエッチングし、続いて陽極酸化前にさらにすすぎを行う。かかる陽極酸化前処理は当技術分野でよく知られている。
【0049】
単に実例としてみなされ、本発明の範囲を制限するものとしてみなされない、多くの具体的な実施例を参照して、本発明をさらに説明する。
【実施例】
【0050】
実施例1
調理器具の平鍋形のアルミニウム合金基材が実施例1の試験物品であった。どちらもHenkel社から市販されている、アルカリ性洗浄剤であるPARCO洗浄剤305、およびAluminium Etchant34などのアルカリ性エッチ洗浄剤の希釈溶液中で物品を洗浄した。次いで、Henkel社から市販の鉄ベースの酸性脱酸素剤であるSC592中でアルミニウム合金をスマット除去した。
【0051】
次いで、以下の成分:
2TiF6 12.0g/L
3PO4 3.0g/L
を使用して調製された陽極酸化溶液を用いて、アルミニウム合金物品を被覆した。
【0052】
アンモニアを使用して、pHを2.1に調整した。ピーク上限電圧500ボルト(近似平均電圧=135ボルト)を有するパルス直流を使用して、アルミニウム含有物品を陽極酸化溶液中で6分間、陽極酸化にかけた。「オン」タイムは10ミリ秒であり、「オフ」タイムは30ミリ秒であった(「オフ」またはベースライン電圧はピーク上限電圧の0%である)。アルミニウム含有物品の表面上に、厚さ11ミクロンの均質なブルーグレーの被膜が形成された。エネルギー分散型分光法を用いて、被覆物品を分析し、主にチタンおよび酸素の被膜を有することが判明した。10重量%未満と推定される微量のリンも被膜中に見られた。
【0053】
実施例2
400seriesアルミニウム合金の試験パネルを実施例1の手順に従って処理した。裸金属に到達するまで試験パネルにけがき線を入れ、以下の試験:ASTMB−117−03による塩水噴霧試験に1000時間かけた。試験パネルは、けがき線に沿って腐食の徴候を示さなかった。図1を参照。
実施例3
保護被膜を持たないアルミニウム合金ホイールの部分が、実施例3の試験物品であった。陽極酸化処理が以下のとおりであったことを除いては、試験物品を実施例1と同様に処理した。
【0054】
以下の成分:
2TiF6(60%) 20.0g/L
3PO4 4.0g/L
を使用して調製された陽極酸化溶液を用いて、アルミニウム合金物品を被覆した。
【0055】
アンモニア水を使用して、pHを2.2に調整した。ピーク上限電圧450ボルト(近似平均電圧=130ボルト)を有するパルス直流を使用して、90°Fでアルミニウム含有物品を陽極酸化溶液中で3分間、陽極酸化にかけた。「オン」タイムは10ミリ秒であり、「オフ」タイムは30ミリ秒であった(「オフ」またはベースライン電圧はピーク上限電圧の0%である)。平均電流密度は40アンペア/ft2であった。アルミニウム合金物品の表面上に、厚さ8ミクロンの均質な被膜が形成された。エネルギー分散型分光法を用いて、物品を分析し、主にチタンおよび酸素の被膜を有することが判明した。微量のリンも被膜中に見られた。
【0056】
裸金属に到達するまで被覆物品にけがき線を入れ、物品を以下の試験:ASTMB−117−03による塩水噴霧試験に1000時間かけた。被覆試験物品は、けがき線に沿ってまたは設計エッジに沿って腐食の徴候を示さなかった。図2を参照。
【0057】
実施例4
アルミニウム合金試験パネルを実施例1と同様に処理した。それもまた浸されたチタン合金クランプを使用して、陽極酸化溶液中に試験パネルを浸した。主にアルミニウムの試験パネルの表面上に、厚さ7ミクロンの均質なブルーグレーの被膜が形成された。主にチタンのクランプの表面上に厚さ7ミクロンの同様なブルーグレーの被膜が形成され、定性的エネルギー分散型分光法を用いて、試験パネルおよびクランプの両方を分析し、微量のリンと共に主にチタンおよび酸素の被膜を有することが判明した。
【0058】
実施例5
陽極酸化処理が以下のとおりであったことを除いては、実施例1の手順に従って6063アルミニウムのアルミニウム合金試験パネルを処理した。リン酸の代わりに亜リン酸を使用し、
2TiF6(60%) 20.0g/L
3PO3(70%) 8.0g/L
を含有する陽極酸化溶液を使用して、アルミニウム合金物品を被覆した。
【0059】
アルミニウム合金物品を陽極酸化溶液中で2分間陽極酸化にかけた。直流としての印加電圧300〜500ボルトにパネルAをさらした。パルス直流としてであるが同じピーク電圧にパネルBをさらした。パネルAとパネルBの両方の表面上に、厚さ5ミクロンの均質なグレーの被膜が形成された。
【0060】
本発明は、具体的な実施例を特に参照して説明されているが、修正形態が企図されることを理解されたい。本明細書に記載の変形形態およびその他の実施形態は、以下の特許請求の範囲において定義される本発明の範囲から逸脱することなく当業者には明らかであるだろう。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲の広さによってのみ制限される。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】図1は、主にチタンおよび酸素を含有するセラミックの厚さ9〜10ミクロンの層で陽極被覆された400 Seriesアルミニウム合金の試験パネルの一部の写真である。試験パネルは、被膜にけがかれた垂直線を示す。げがき線から広がる腐食はない。
【図2】図2は、被覆試験片の写真である。試験片は、市販のアルミニウムホイールのくさび形のセクションである。試験片は、本発明のプロセスに従って陽極被覆されている。被膜は、設計エッジを含む試験片の表面を完全に覆っている。試験片は、被膜にけがかれた垂直線を有する。げがき線から広がる腐食はなく、設計エッジでの腐食はなかった。
【図3】チタンクランプ(5)の写真および本発明に従って被覆されたアルミニウム含有試験パネル(6)の一部の写真を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム、アルミニウム合金、チタンまたはチタン合金物品の表面に保護被膜を形成する方法であって:
A)水と、リン含有酸および/または塩と、Ti、Zr、Hf、Sn、Al、Ge、Bおよびその混合物からなる群から選択される元素の
a)水可溶性複合フッ化物、
b)水可溶性複合オキシフッ化物、
c)水分散性複合フッ化物、
d)水分散性複合オキシフッ化物、からなる群から選択される1つまたは複数の更なる成分と、で構成される陽極酸化溶液を提供する段階;
B)前記陽極酸化溶液と接触して陰極を提供する段階;
C)前記陽極酸化溶液中に陽極として、アルミニウム、アルミニウム合金、チタンまたはチタン合金物品を配置する段階;
D)物品の少なくとも1つの面上に保護被膜を形成するのに有効な時間、前記陽極酸化溶液を通して陽極と陰極の間に電流を流す段階;
を含む方法。
【請求項2】
前記物品が主に、チタンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記物品が主に、アルミニウムを含み、かつ前記保護被膜が主に二酸化チタンである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記保護被膜が主に、Ti、Zr、Hf、Sn、Geおよび/またはBの酸化物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記保護被膜が、二酸化チタンで主に構成される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記電流が、平均電圧200ボルト以下を有する直流である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
段階(D)中に、前記保護被膜が、厚さ少なくとも1ミクロン/分の速度で形成される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記電流が、直流または交流である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記陽極酸化溶液が、水と、リン含有酸と、Tiおよび/またはZrの水可溶性および/または水分散性複合フッ化物と、を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記陽極酸化溶液が、pH1〜6を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記陽極酸化溶液が、H2TiF6、H2ZrF6、H2HfF6、H2GeF6、H2SnF6、H3AlF6、HBF4およびその塩およびその混合物からなる群から選択される複合フッ化物を使用して調製される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記陽極酸化溶液がさらに、HFまたはその塩で構成される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記陽極酸化溶液がさらに、キレート剤で構成される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記リン含有酸および/または塩が、Pとして測定される濃度0.01〜0.25Mで存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
アルミニウムまたはチタンで主に構成される金属物品の表面に保護被膜を形成する方法であって:
A)水と、リン含有オキシ酸および/または塩と、Ti、Zr、およびその組み合わせからなる群から選択される元素の水可溶性複合フッ化物および/またはオキシフッ化物と、で構成される陽極酸化溶液を提供する段階;
B)前記陽極酸化溶液と接触して陰極を提供する段階;
C)前記陽極酸化溶液中に陽極として、アルミニウムまたはチタンで主に構成される金属物品を配置する段階;
D)金属物品の少なくとも1つの面上に、Tiおよび/またはZrの酸化物を含む保護被膜を形成するのに有効な時間、陽極と陰極の間に直流または交流を流す段階;
を含む方法。
【請求項16】
前記陽極酸化溶液が、少なくとも4個のフッ素原子と、Ti、Zr、およびその組み合わせからなる群から選択される少なくとも1個の原子と、を含む陰イオンを含む複合フッ化物を使用して調製される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記陽極酸化溶液が、H2TiF6、H2ZrF6、およびその塩およびその混合物からなる群から選択される複合フッ化物を使用して調製される、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記複合フッ化物が、少なくとも0.01Mの濃度で陽極酸化溶液中に導入される、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記直流が、平均電圧250ボルト以下を有する、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
前記陽極酸化溶液がさらに、キレート剤で構成される、請求項15に記載の方法。
【請求項21】
前記陽極酸化溶液が、TiおよびZrからなる群から選択される少なくとも1つの元素の少なくとも1種類の複合フッ化物と、Ti、Zr、Hf、Sn、B、AlおよびGeからなる群から選択される少なくとも1つの元素の酸化物、水酸化物、炭酸塩またはアルコキシドである少なくとも1種類の化合物と、を合わせることによって調製される、少なくとも1種類の複合オキシフッ化物で構成される、請求項15に記載の方法。
【請求項22】
前記陽極酸化溶液が、pH2〜6を有する、請求項15に記載の方法。
【請求項23】
チタン、チタン合金、アルミニウムまたはアルミニウム合金で構成される少なくとも1つの金属面を有する物品上に保護被膜を形成する方法であって:
A)陽極酸化溶液を提供する段階であって、前記陽極酸化溶液が、Ti、Zr、Hf、Sn、Ge、Bおよびその組み合わせからなる群から選択される元素の水可溶性複合フッ化物および/またはオキシフッ化物と、リンを含有する酸および/または塩と、を水に溶解することによって調製される段階;
B)前記陽極酸化溶液と接触して陰極を提供する段階;
C)前記陽極酸化溶液中に陽極として、チタン、チタン合金、アルミニウムまたはアルミニウム合金で構成される前記金属面を配置する段階;
D)物品の前記金属面上に、保護被膜を形成するのに有効な時間、陽極と陰極の間に直流または交流を流す段階;
を含む方法。
【請求項24】
前記陽極酸化溶液のpHが、アンモニア、アミン、アルカリ金属水酸化物またはその混合物を使用して調整される、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記リン含有酸および/または塩が、Pとして測定される濃度0.01〜0.25Mで存在する、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記陽極酸化溶液がさらに、キレート剤で構成される、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
Ti、Zr、Si、Hf、Sn、B、AlおよびGeからなる群から選択される少なくとも1つの元素の酸化物、水酸化物、炭酸塩またはアルコキシドである、少なくとも1種類の化合物をさらに使用して、前記陽極酸化溶液が調製される、請求項23に記載の方法。
【請求項28】
前記保護被膜が、Ti、Zr、Hf、Sn、Geおよび/またはBの酸化物を主に含む、請求項23に記載の方法。
【請求項29】
2TiF6、H2TiF6の塩、H2ZrF6、およびH2ZrF6の塩のうちの1つまたは複数を使用して、陽極酸化溶液が調製される、請求項23に記載の方法。
【請求項30】
塩基性炭酸ジルコニウムを使用して、陽極酸化溶液が調製される、請求項27に記載の方法。
【請求項31】
前記の1種または複数種の水可溶性複合フッ化物がチタンの複合フッ化物であり、かつ前記電流が直流である、請求項23に記載の方法。
【請求項32】
a)少なくとも300ボルトのピーク電圧で陽極として作用するのに十分なアルミニウムおよび/またはチタンを含有する少なくとも1つの面を有する基材;
b)前記の少なくとも1つの面に結合された、Ti、Zr、Hf、Ge、Bおよびその混合物からなる群から選択される元素の少なくとも1種類の酸化物を主に含有する付着性保護層;
を含む製造物品であって、前記保護層がさらに、Pとして測定される10%未満の量でリンを含有する、製造物品。
【請求項33】
前記付着性保護層が、二酸化チタンで主に構成される、請求項32に記載の物品。
【請求項34】
前記付着性保護層が、二酸化チタンおよび酸化ジルコニウムの混合物で構成される、請求項32に記載の物品。
【請求項35】
前記付着性保護層上に付着された塗装の層をさらに含む、請求項32に記載の物品。
【請求項36】
前記製造物品が、アルミニウムで主に構成される自動車ホイールである、請求項32に記載の物品。
【請求項37】
前記付着性保護層が、二酸化ジルコニウムで主に構成される、請求項36に記載の物品。
【請求項38】
保護層上に付着された、少なくとも1つの塗料の層をさらに含む、請求項36に記載の物品。
【請求項39】
前記の少なくとも1つの塗料の層が、クリアコートを含む、請求項38に記載の物品。
【請求項40】
前記製造物品が、チタンで主に構成される、請求項32に記載の物品。
【請求項41】
前記製造物品が、アルミニウムで主に構成される第1部分と、チタンで主に構成される第2部分と、を有する複合構造物である、請求項33に記載の物品。
【請求項42】
アルミニウムおよび/またはチタンを含有する少なくとも1つも面を有する物品上に保護被膜を形成する方法であって:
A)水と、リン含有酸および/または塩と、
a)Ti、Zr、Hf、Sn、Al、GeおよびBからなる群から選択される元素の水可溶性および/または水分散性複合フッ化物;
b)水可溶性および/または水分散性ジルコニウムオキシ塩;
c)水可溶性および/または水分散性バナジウムオキシ塩;
d)水可溶性および/または水分散性チタンオキシ塩;
e)水可溶性および/または水分散性ニオブ塩;
f)水可溶性および/または水分散性モリブデン塩;
g)水可溶性および/または水分散性マンガン塩;
h)水可溶性および/または水分散性タングステン塩;
からなる群から選択される1種または複数種の更なる成分と、で構成される陽極酸化溶液を提供する段階;
B)前記陽極酸化溶液と接触して陰極を提供する段階;
C)前記陽極酸化溶液中に陽極として、アルミニウムおよび/またはチタンを含有する少なくとも1つの面を有する物品を配置する段階;
D)物品の少なくとも1つの面上に保護被膜を形成するのに有効な時間、前記陽極酸化溶液を通して陽極と陰極の間に電流を流す段階;
を含む方法。
【請求項43】
前記pHが2〜6であり、かつ前記陽極酸化溶液がさらに、水可溶性および/または水分散性アルカリ金属フッ化物および/または水酸化物を含む、請求項42に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2008−518098(P2008−518098A)
【公表日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−538168(P2007−538168)
【出願日】平成17年10月25日(2005.10.25)
【国際出願番号】PCT/US2005/038396
【国際公開番号】WO2006/047526
【国際公開日】平成18年5月4日(2006.5.4)
【出願人】(500233681)ヘンケル・コマンディットゲゼルシャフト・アウフ・アクチエン (6)