説明

アルミニウムドープ酸化亜鉛粒子及びその製造方法

【課題】透明性が高く、ヘイズが低く、かつ導電性が高い薄膜を形成し得るアルミニウムドープ酸化亜鉛粒子を提供すること。
【解決手段】アルミニウムがドープされた本発明の酸化亜鉛粒子は、アルミニウムを0.25〜1.3重量%含み、比表面積が55〜75m2/gである。かつ粉体色がCIE1976(L*a*b*)表色系で表して、L*が85〜91、a*が−9〜−6、b*が8〜14である。この酸化亜鉛粒子は、炭酸塩を含む塩基性水溶液に、亜鉛塩及びアルミニウム塩を含む水溶液を添加混合し、アルミニウム及び亜鉛を含む沈殿を生成させ;前記沈殿を水洗し;水洗後の前記沈殿を、水蒸気を2〜5体積%含む還元雰囲気で焼成することで好適に製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウムがドープされた酸化亜鉛粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性酸化亜鉛は、樹脂、塗料、フィルム、繊維等に配合されて帯電防止のために用いられている。また導電性酸化亜鉛から形成される薄膜はその透明性の故に、透明導電性薄膜として用いられる。導電性酸化亜鉛から形成される薄膜の導電性を高めることを目的として、酸化亜鉛に各種のドーピング元素を添加することが提案されている。例えば特許文献1にはアルミニウム等のIIIB族元素、スズ等のIVB族元素及びFeよりなる群から選択される少なくとも一種のドーピング元素が固溶した導電性酸化亜鉛粉末が提案されている。ドーピング元素の含有量は、酸化亜鉛に対して金属換算で0.01〜10質量%に設定することが同文献には記載されている。
【0003】
前記の文献に記載されているとおり、各種のドーピング元素を酸化亜鉛に添加することで、酸化亜鉛の導電性は改善される。しかし、そのトレードオフとして、酸化亜鉛から形成される導電性薄膜の透明性は低下する傾向にある。そこで本出願人は先に、ドーピング元素を添加せずとも高透明性と高導電性を達成し得る酸化亜鉛粒子を提案した(特許文献2参照)。この酸化亜鉛粒子は、無機化合物の状態の炭素を特定量含むことを特徴とするものである。
【0004】
ところで、アルミニウムがドープされた酸化亜鉛粒子の粉体色に関し、非特許文献1には、L=91、a=−2.1、b=−0.2のものと、L=91、a=−4.8、b=3.2のものが記載されている。同文献には、かかる酸化亜鉛粒子の粉体色は、淡い緑灰色あるいは青灰色であると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2004/058645号パンフレット
【特許文献2】特開2008−230915号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】ハクスイテック株式会社総合情報誌「インフォ」、No.14、2007年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、透明導電性薄膜に対する要求は一層厳しいものとなり、透明性が高く、ヘイズが低く、かつ導電性が高い薄膜を形成し得る酸化亜鉛粒子が求められている。
【0008】
したがって本発明の課題は、前述した従来技術の酸化亜鉛粒子よりも種々の性能が一層向上した酸化亜鉛粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、アルミニウムを0.25〜1.3重量%含み、比表面積が55〜75m2/gであり、かつ粉体色がCIE1976(L*a*b*)表色系で表して、L*が85〜91、a*が−9〜−6、b*が8〜14であることを特徴とするアルミニウムがドープされた酸化亜鉛粒子を提供することによって前記の課題を解決したものである。
【0010】
また本発明は、前記の酸化亜鉛粒子の好適な製造方法として、
炭酸塩を含む塩基性水溶液と、亜鉛塩及びアルミニウム塩を含む水溶液とを混合し、アルミニウム及び亜鉛を含む沈殿を生成させ、
前記沈殿を水洗し、次いで
水洗後の前記沈殿を、水蒸気を2〜5体積%含む還元雰囲気で焼成することを特徴とするアルミニウムがドープされた酸化亜鉛粒子の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、透明性が高く、ヘイズが低く、かつ導電性が高い薄膜を形成し得るアルミニウムドープ酸化亜鉛粒子が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の酸化亜鉛粒子はドーピング元素としてアルミニウムを含むものである。アルミニウムは、酸化亜鉛粒子の導電性を高める目的で酸化亜鉛にドープされる。本発明のアルミニウムドープ酸化亜鉛粒子(以下、「AZO粒子」とも言う。)におけるアルミニウムの含有量は、0.25〜1.3重量%とすることが必要である。酸化アルミニウムでのアルミニウムの含有量が0.25重量%未満である場合には、AZO粒子の導電性を十分に高めることができない。一方、酸化アルミニウムでのアルミニウムの含有量が1.3重量%超になると、AZO粒子の導電性は十分に高くなるが、その反面、AZO粒子の凝集が顕著になり、AZO粒子から形成される膜の透明性が低下する傾向にあり、また膜のヘイズが上昇する傾向にある。
【0013】
本発明のAZO粒子に含まれるアルミニウムの量を前記の範囲内とするためには、例えば後述する製造方法において、仕込みのアルミニウム塩の量を適切に調整すればよい。
【0014】
本発明のAZO粒子におけるアルミニウムの含有量は、AZO粒子を、硝酸等の酸で溶解し、原子吸光分析によって溶液中のアルミニウム濃度を測定することで求められる。
【0015】
本発明のAZO粒子におけるアルミニウムの存在状態は明確ではないが、後述する製造方法に従いAZO粒子を製造した場合には、アルミニウムは単体で存在しているのではなく、酸化物等の化合物の状態で存在しているのではないかと考えられる。また、後述する製造方法に従いAZO粒子を製造した場合には、アルミニウムは、粒子の特定部位に偏在しているのではなく、粒子の全域にわたって概ね均一に分布していると考えられる。
【0016】
本発明のAZO粒子が、特定量のアルミニウムを含有していることは上述のとおりであるところ、該AZO粒子は、アルミニウム以外の他のドーピング元素を実質的に非含有であることが好ましい。他のドーピング元素を含有させることは、AZO粒子の導電性の向上の観点からはプラスに作用する場合があるが、該粒子から形成される膜の透明性を高める観点からはマイナスに作用するからである。他のドーピング元素としては、当該技術分野においてこれまでに知られているものが挙げられる。例えばガリウムやインジウム等のIIIB族元素;ゲルマニウムやスズ等のIVB族元素;鉄、チタン、クロムなどの周期表の第4周期の遷移金属元素が挙げられる。なお「他のドーピング元素が実質的に非含有である」とは、他のドーピング元素を意図的に含有させることは本発明の範囲外であるが、AZO粒子の製造工程において意図せず不可避的に混入する微量の他のドーピング元素の存在や、AZO粒子の製造工程において除去しきれずに不可避的に残留する微量の他のドーピング元素の存在は許容される趣旨である。
【0017】
本発明のAZO粒子が、ドーピング元素を実質的に非含有であることは上述のとおりであるところ、AZO粒子は炭素の含有量が少ないことも好ましい。炭素は、主として、製造されたAZO粒子の保存中に、空気中に含まれる二酸化炭素が酸化亜鉛と反応して、塩基性炭酸亜鉛が生成することでAZO粒子中に混入すると本発明者らは考えている。また、AZO粒子中に含まれるナトリウム等のアルカリ金属が空気中の二酸化炭素と反応してAZO中に混入することも考えられる。そして、炭素はAZO粒子の導電性を低下させる一因であることが本発明者らの検討の結果判明した。この観点から、本発明のAZO粒子においては、炭素の含有量を0.25重量%以下、特に0.15重量%以下に低減させることが有利である。
【0018】
AZO粒子に含まれる炭素の量を低減させるためには、例えば、製造されたAZO粒子を空気と遮断して保存したり、AZO粒子の製造過程において、水洗によってアルカリ金属を極力取り除くなどの手段を採用すればよい。AZO粒子に含まれる炭素の量は、例えば堀場製作所製の炭素・硫黄分析装置EMIA−320V(商品名)を用いて測定される。
【0019】
本発明のAZO粒子は、その色によっても特徴づけられる。具体的には、本発明のAZO粒子は、その粉体色が、CIE1976(L*a*b*)表色系で表して、L*値が85〜91、好ましくは87.5〜89.5であり、a*値が−9〜−6、好ましくは−8.5〜−6.5であり、b*値が8〜14、好ましくは10〜12である。これらの値を有する本発明のAZO粒子の粉体は、一般的に言って、うぐいす色又はそれに類似の色を呈する。これまで知られているAZO粒子の粉体は、先に背景技術の項で述べたとおり、淡い緑灰色あるいは青灰色であり、うぐいす色のものは知られていなかった。AZO粒子の色は、主としてAZO中のバンドキャップないし酸素欠損の量を反映していると、本発明者らは考えている。そして、従来知られていた淡い緑灰色あるいは青灰色を呈するAZO粒子の粉体に比べて、主としてうぐいす色を呈する本発明のAZO粒子の粉体は酸素欠損の量が多いと考えられる。その結果、本発明のAZO粒子は、導電性の高いものとなる。
【0020】
本発明のAZO粒子のL*値、a*値及びb*値を前記の範囲内とするためには、後述するAZO粒子の製造方法において、焼成温度及び焼成雰囲気を適切に制御すればよい。また上述のL*値、a*値及びb*値の測定には、例えば日本電色工業(株)製の分光色差計SE600を用いることができる。
【0021】
本発明のAZO粒子は、従来のAZO粒子と比較して比表面積が大きい点にも特徴の一つを有している。具体的には、具体的には、本発明のAZO粒子は、その比表面積が55〜75m2/gであり、好ましくは63〜69m2/gである。AZO粒子の比表面積が55m2/gに満たないと、該粒子の一次粒子径が大きくなり過ぎて、塗膜のヘイズを下げることが困難である。一方、AZO粒子の比表面積が75m2/g超になると、塗膜の抵抗値を下げることが困難である。この理由は次のとおりである。すなわち、比表面積が大きくなりすぎると、AZO粒子の粒径が小さくなりすぎ、そのことに起因して塗膜中で粒子どうしの間を電流が流れやすくなる。ところで、粒子内の抵抗に比べて、粒子間の抵抗は高いことが知られている。したがって、粒子どうしの間を電流が流れやすくなることは、塗膜の抵抗値の上昇につながる。その結果、塗膜の抵抗値を下げることが困難になる。
【0022】
AZO粒子の比表面積を前記の範囲内とするためには、後述するAZO粒子の製造方法において、焼成温度及び焼成雰囲気を適切に制御すればよい。また比表面積は、例えばユアサアイオニクス(株)製のモノソーブ(商品名)を用い、BET法(He/N2混合ガス)に従い測定することができる。
【0023】
本発明のAZO粒子は、その一次粒子の形状に特に制限はなく、球状や針状、板状等、あるいは不定形であり得る。一次粒子の形状は、後述する製造条件によって適宜調整可能である。
【0024】
本発明のAZO粒子は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積50容量%における体積累積粒径D50が好ましくは2〜6μmであり、更に好ましくは3〜5μmである。粒径の測定方法は、後述する実施例において説明する。
【0025】
本発明のAZO粒子は導電性を有するものである。導電性の程度は、圧粉抵抗値で表して好ましくは1.0×102〜1.0×105Ω・cm、更に好ましくは1.0×102〜1.0×104Ω・cmである。この範囲の圧粉抵抗値は、AZO粒子から導電膜を形成するのに十分に低い値である。圧粉抵抗値の測定方法は、後述する実施例において説明する。
【0026】
次に、本発明の酸化亜鉛粒子の好ましい製造方法について説明する。本製造方法は、以下の(イ)ないし(ハ)の工程に大別される。
(イ)炭酸塩を含む塩基性水溶液と、亜鉛塩及びアルミニウム塩を含む水溶液とを混合し、アルミニウム及び亜鉛を含む沈殿を生成させる工程。
(ロ)前記沈殿を水洗する工程。
(ハ)水洗後の前記沈殿を、水蒸気を2〜5体積%含む還元雰囲気で焼成して、目的とするAZO粒子を得る工程。
以下、それぞれの工程について説明する。
【0027】
(イ)の工程においては、(a)炭酸塩を含む塩基性水溶液と、(b)亜鉛塩及びアルミニウム塩を含む水溶液とを用意する。(a)の溶液の調製のためは、例えば炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩を用いることができる。尤も、水溶性である限りこれらに制限されるものではない。特に好ましい塩は、炭酸ナトリウムや炭酸カリウムである。水溶性炭酸塩は、単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
(b)の溶液の調製のために用いられる亜鉛塩は水溶性のものが好ましく用いられる。そのような亜鉛塩としては、例えば硝酸亜鉛、塩化亜鉛、硫酸亜鉛などが挙げられる。目的とするAZO粒子中での不純物イオン、例えば塩化物イオンや硫酸イオンの量を低減させる観点からは、前記の亜鉛塩は、塩化物や硫酸塩でないことが好ましい。尤も、後述する(ロ)の工程における洗浄を十分に行えば、亜鉛塩として塩化物や硫酸塩を使用しても差し支えはない。(b)の溶液における亜鉛塩の濃度は、亜鉛塩が飽和析出しない限り高くすることができる。
【0029】
同じく(b)の溶液の調製のために用いられるアルミニウム塩は水溶性のものが好ましく用いられる。そのようなアルミニウム塩としては、例えば硝酸アルミニウム、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウムなどが挙げられる。目的とする酸化亜鉛粒子中での不純物イオン、例えば塩化物イオンや硫酸イオンの量を低減させる観点からは、前記のアルミニウム塩は、塩化物や硫酸塩でないことが好ましい。尤も、後述する(ロ)の工程における洗浄を十分に行えば、アルミニウム塩として塩化物や硫酸塩を使用しても差し支えはない。(b)の溶液におけるアルミニウム塩の濃度は、目的とするAZO粒子に含まれるアルミニウムの量が、上述した範囲内となるように適宜調節すればよい。
【0030】
(イ)の工程においては、前記の(a)の溶液と(b)の溶液とを混合する。混合は、(a)の溶液に、(b)の溶液を添加してもよく、あるいはその逆に、(b)の溶液に、(a)の溶液を添加してもよい。特に、(a)の溶液に、(b)の溶液を添加することで、液のpHが局所的に大きく変動しにくくなり、導電性の高いAZO粒子を容易に得ることができるので有利である。この場合、(b)の溶液は逐次添加でもよく、あるいは一括添加でもよい。
【0031】
これらの溶液の混合は、非加熱下に行ってもよく、あるいは加熱下に行ってもよい。加熱下に添加を行う場合には、混合後の液の温度が40〜70℃、特に50〜70℃に維持されるようにすることが好ましい。また、(a)の溶液と(b)の溶液との混合後の混合溶液のpHが7〜10、特に8〜9となるように、両溶液を混合することが好ましい。
【0032】
(a)溶液と(b)の溶液とを混合することによって、アルミニウム及び亜鉛を含む沈殿が液中に生成する。この沈殿が生成した後も、液の攪拌を継続させてエージングを行うことが好ましい。熟成は10分以上、特に30分以上行うことが好ましい。熟成によって塩基性炭酸亜鉛が十分に生成し、それによって粒度の均一性の高い酸化亜鉛粒子が得られやすいので好ましい。
【0033】
次に(ロ)の洗浄工程を行う。洗浄は、前記の沈殿を含む水の導電率が200μS以下、特に100μS以下となるまで十分に行うことが好ましい。このような十分な洗浄を行うことで、前記の沈殿に含まれている各種の不純物、例えば塩化物イオンや硫酸イオンの量を確実に低減させることができる。洗浄の方法としては、例えば反応液を純水でリパルプ洗浄し、次いで固液分離する操作を必要な回数繰り返すことで行われる。
【0034】
洗浄完了後、前記の沈殿を固液分離し、得られた固形分を乾燥する。固液分離には、例えば沈殿物を含む液を濾過したり、沈殿物を含む液から水を蒸発させたりする方法が用いられる。分離された沈殿物を乾燥して得られた乾燥体は、適当な大きさに粉砕されて粉体となされる。この粉体を前記の(ハ)の焼成工程に付す。この焼成工程は、その雰囲気の調整が、目的とするAZO粒子を得る点から重要なファクターの一つである。詳細には、焼成の雰囲気には還元雰囲気を用いるが、その還元雰囲気中に水蒸気を2〜5体積%、特に2〜3体積%含有させることが、目的とするAZO粒子を首尾良く得る点から好ましい。還元雰囲気中に水蒸気を含有させることで、目的とするAZO粒子が首尾良く得られる理由については必ずしも明らかではないが、本発明者らは次のように考えている。すなわち、もともと焼成を行うことで、焼成対象物から水が発生する。水の発生量は、焼成対象物中に含まれている水の量に依存する。したがって、焼成対象物の乾燥の程度に応じて、焼成時に発生する水の量は相違する。つまり、焼成対象物の乾燥の程度に応じて、焼成雰囲気の組成が変化してしまう。特に、雰囲気に含まれる水蒸気の量が少なすぎる場合には、焼成が進みやすくなる傾向にあり、ひいてはBET比表面積が小さくなる傾向にある。これに対して焼成雰囲気に一定量の水蒸気を含ませておくことで、焼成雰囲気の組成が安定し、粒子のBET比表面積の値が安定し、それによって安定した性能を有するAZO粒子が得られると考えられる。
【0035】
焼成工程で用いる還元雰囲気としては、例えば水素ガスを0.5〜4体積%、特に1〜3%含み、かつ前記の範囲の量の水蒸気を含む窒素ガス雰囲気を採用することができる。雰囲気中の水蒸気の濃度は、JIS B8392−9に準拠して測定することができる。
【0036】
焼成工程においては、焼成温度の調整も、目的とするAZO粒子を得る点から重要なファクターの一つである。具体的には、AZO粒子の粒径及び比表面積に関し、焼成温度が低すぎると、粒径が小さく、比表面積が大きいAZO粒子となる傾向があり、逆に焼成温度が高すぎると、粒径が大きく、比表面積が小さいAZO粒子となる傾向がある。AZO粒子の分散性に関しては、焼成温度が低い方が、分散性が良好になる傾向にあるが、AZOの導電性に関しては温度が高い方で導電性が良好になる傾向にある。つまり、AZO粒子の分散性と導電性とはトレードオフの関係にある。これらのことを考慮すると、焼成温度は、焼成温度は400〜700℃、特に450〜600℃に設定することが好ましい。また、焼成温度がこの範囲である場合には、焼成は短時間で完了することが本発明者らの検討の結果判明した。具体的には、焼成温度がこの範囲であることを条件として、焼成時間を好ましくは30分以内、更に好ましくは25分以内、一層好ましくは20分以内とすることができる。焼成時間の下限値は、好ましくは10分、更に好ましくは15分である。焼成を短時間で完了させられることには、焼結が過度に進まず、そのことに起因して、目的とするAZO粒子中に酸素欠損が生成しやすくなるという利点がある。
【0037】
以上の方法によって得られたAZO粒子は、例えばこれを公知の分散媒に分散させることで粒子分散体となすことができる。一例として、本発明のAZO粒子を各種の有機溶媒やバインダ等と混合することで、透明導電性薄膜の形成用のインクを調製することができる。この薄膜は、導電性が高く、かつ透明性も高いものである。また、本発明のAZO粒子を、帯電防止用の導電性付与剤として各種樹脂やゴム、塗料、フィルム、繊維等に配合することもできる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲はかかる実施例に制限されるものではない。
【0039】
〔実施例1〕
(イ)工程
純水10リットルに、硫酸亜鉛8.4kg、硫酸アルミニウム290gを投入し、完全溶解させた。更に純水を加え15リットルにメスアップし、第1の水溶液を得た。これとは別に、炭酸ナトリウム5.4kgを純水70リットルに溶解させて第2の水溶液を得た。第2の水溶液を加熱して60℃で一定とした。撹拌した状態の第2の水溶液に、第1の水溶液を60分間にわたって徐々に滴下した。混合液の温度は60℃に保った。滴下完了後、更に60分間撹拌を行い反応を進行させた。これにより、混合液中に沈殿物が生じた。
【0040】
(ロ)工程
生成した沈殿物をリパルプ洗浄し、該沈殿物を含む液の導電率を200μSにまで低下させた。次いで、固液分離を行って沈殿物を分離した。分離された沈殿物を、120℃で15時間乾燥させて乾燥体を得た。得られた乾燥体を、大阪ケミカル(株)から入手可能な粉砕機であるフォースミル(商品名)で粉砕した。
【0041】
(ハ)工程
粉砕物を、水素ガスを2.5体積%含み、かつ水蒸気を含む窒素ガス雰囲気中で550℃、20分焼成した。水蒸気は、排気中に3%含まれるように、その濃度を調整した。これにより目的とするAZO粒子の粉末を得た。得られたAZO粒子の粉末は、不定形の一次粒子の凝集体であった。このAZO粒子の粉末をボールミルで粉砕した。
【0042】
〔実施例2〕
実施例1において、焼成条件として、550℃、20分の条件を採用した。これ以外は、実施例1と同様にしてAZO粒子の粉末を得た。
【0043】
〔実施例3〕
純水10リットルに、硫酸亜鉛4.8kg、硫酸アルミニウム290gを投入し、完全溶解させた。更に純水を加え15リットルにメスアップし、第1の水溶液を得た。これとは別に、炭酸ナトリウム6.0kgを純水80リットルに溶解させて第2の水溶液を得た。第1の水溶液を加熱して60℃で一定とした。撹拌した状態の第1の水溶液に、第2の水溶液を60分間にわたって徐々に滴下した。混合液の温度は60℃に保った。滴下完了後、更に60分間撹拌を行い反応を進行させた。液のpHは8.0であった。これにより、混合液中に沈殿物が生じた。その後の工程は実施例1と同様にしてAZO粒子の粉末を得た。
【0044】
〔比較例1〕
実施例1において(ハ)工程の焼成雰囲気として、水素ガスを2.5体積%含む窒素ガス雰囲気を用いた。これ以外は実施例1と同様にしてAZO粒子の粉末を得た。
【0045】
〔比較例2〕
実施例1において、焼成条件として、600℃、1時間の条件を採用した。これ以外は、実施例1と同様にしてAZO粒子の粉末を得た。
【0046】
〔比較例3〕
実施例1において、焼成条件として、450℃、20分の条件を採用した。これ以外は、実施例1と同様にしてAZO粒子の粉末を得た。
【0047】
〔比較例4〕
実施例1において、硫酸アルミニウムの使用量を29gにする以外は、実施例1と同様にしてAZO粒子の粉末を得た。
【0048】
〔比較例5〕
実施例1において、硫酸アルミニウム使用量を580gにする以外は、実施例1と同様にしてAZO粒子の粉末を得た。
【0049】
〔評価〕
実施例及び比較例で得られたAZO粒子について、上述の方法でアルミニウムの含有量、炭素の含有量及び比表面積を測定した。また粉体色を日本電色工業(株)製の分光色差計SE600を用いて測定した。更に、以下の方法で、累積体積50容量%における体積累積粒径D50及び圧粉抵抗値を測定した。更に、得られたAZO粒子を原料とするインクを調製し、そのインクから形成された塗膜の抵抗値、ヘイズ及び可視光の透過率を測定した。これらの結果を以下の表1に示す。
【0050】
〔累積体積50容量%における体積累積粒径D50
日機装製のレーザー回折粒度分布測定装置であるマイクロトラック(商品名)を用いて測定した。測定に際しては、前分散として1重量%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液中で超音波分散を5分間行った。
【0051】
〔圧粉抵抗値〕
AZO粒子の粉末を50kgfの圧力で0.5分間プレスし、直径25mm、厚み5mmペレットを作製した。得られたペレットの抵抗値を、ダイヤインスツルメンツ製のPD−41(商品名)を用い、四探針法により測定した。
【0052】
〔塗膜の抵抗値、ヘイズ及び可視光の透過率〕
AZO粒子の粉末9gとメチルエチルケトン15.6gを、50mLのポリ瓶中で混合し、スラリーAを得た。次に、スラリーAに対してアクリル樹脂(三菱レーヨン製のダイヤナールLR167)5.4gを添加した。これをスラリーBとする。スラリーB中へジルコニアビーズを入れ、ビーズミル(ペイントシェーカー)で2時間分散を行った。この分散液からジルコニアビーズを取り除き、透明導電性AZOインクを得た。得られたインクを用い、バーコータで塗膜を形成した。塗膜を80℃で乾燥させた後、その抵抗値をダイヤインスツルメンツ製のMCP−HT250 ハイレスタIP(商品名)を用い、二探針法により測定した。また、得られたインクを用い、バーコータで塗膜を形成した。塗膜を80℃で乾燥させた後、日本電色工業(株)製のヘイズメータであるMODEL 1001DP(商品名)によってヘイズを測定した。測定はJIS K7105に準拠し、積分球式測定法により行った。ヘイズは(散乱光/全光線透過光)×100から算出される。更にこの塗膜について、前記のヘイズメータを用いて波長400〜700nmの可視光の透過率を測定した。
【0053】
【表1】

【0054】
表1に示す結果から明らかなように、実施例のAZO粒子を用いて得られた塗膜は、抵抗値が低く、ヘイズが低く、かつ透明性が高いものであることが判る。これに対して、比較例1のAZO粒子を用いて得られた塗膜は、AZO粒子を製造するときの焼成雰囲気中に水蒸気が含まれていなかったことに起因して、塗膜のヘイズが高いものであることが判る。比較例2のAZO粒子を用いて得られた塗膜は、BET比表面積が小さいことに起因して、塗膜のヘイズが高いものであることが判る。比較例3のAZO粒子を用いて得られた塗膜は、BET比表面積が大きすぎることに起因して、塗膜の抵抗値が高くなってしまった。比較例4のAZO粒子を用いて得られた塗膜は、AZO粒子中のアルミニウムの量が少ないことに起因して導電性が低く、抵抗値が高いものであることが判る。比較例5のAZO粒子を用いて得られた塗膜は、AZO粒子中のアルミニウムの量が多すぎることに起因して粒子の凝集が強く、塗膜のヘイズが高いものであることが判る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムを0.25〜1.3重量%含み、比表面積が55〜75m2/gであり、かつ粉体色がCIE1976(L*a*b*)表色系で表して、L*が85〜91、a*が−9〜−6、b*が8〜14であることを特徴とするアルミニウムがドープされた酸化亜鉛粒子。
【請求項2】
アルミニウム以外のドーピング元素を実質的に非含有である請求項1に記載の酸化亜鉛粒子。
【請求項3】
炭素の含有量が0.25重量%以下である請求項1又は2に記載の酸化亜鉛粒子。
【請求項4】
請求項1に記載のアルミニウムがドープされた酸化亜鉛粒子の製造方法であって、
炭酸塩を含む塩基性水溶液と、亜鉛塩及びアルミニウム塩を含む水溶液とを混合し、アルミニウム及び亜鉛を含む沈殿を生成させ、
前記沈殿を水洗し、次いで
水洗後の前記沈殿を、水蒸気を2〜5体積%含む還元雰囲気で焼成することを特徴とするアルミニウムがドープされた酸化亜鉛粒子の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし3のいずれか一項に記載の酸化亜鉛粒子が分散媒に分散されてなることを特徴とする粒子分散体。

【公開番号】特開2012−62219(P2012−62219A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−207819(P2010−207819)
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】