説明

アルミニウム合金用ノンクロメート化成処理液およびこの化成処理液によるアルミニウム合金の化成処理方法

【課題】化成処理前の酸処理を行うことなく、6価クロメート皮膜と同等もしくはそれ以上の耐食性および塗膜付着性を持たせることができる6価クロムフリーの化成処理液と、この化成処理液による化成処理方法を提供する。
【解決手段】3価クロム化合物とジルコニウム化合物とジカルボン酸とを含有し、3価 クロム化合物として、CrF3・3H2O 、Cr(NO3)3・9H2O のうち少なくとも1種類以上をCrとして10〜2000mg/リットル含み、ジルコニウム化合物として、(NH4)2ZrF6、H2ZrF6、K2ZrF6、Na2ZrF6 のうち少なくとも1種類以上をZrとして10〜2000mg/リットル含み、R1-(COOH)2〔R1=C2 〜C5〕で表すことの出来るジカルボン酸のうち少なくとも1種類以上を0.1〜1000mg/リットル含む化成処理液。アルミニウム合金の基材を、酸による前処理をせず、上記化成処理液を用いて、処理温度30〜60℃、処理時間10秒から10分、pHが1.5 〜 6.0の範囲で処理する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金の表面処理を行うノンクロメート化成処理液(6価クロムを含まない化成処理液)と、この化成処理液を用いたアルミニウム合金の表面の化成処理方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
これまでアルミニウム合金の化成処理としては耐食性および塗膜付着性向上を目的とし、6 価クロムを含む化成処理液による表面処理が施されていた。しかし、近年環境問題への配慮が求められ、それに伴い6 価クロムの使用も禁止の方向に向かっている。例を挙げれば、RoHS( 特定有害物質使用制限) 指令により水銀、カドミウム、鉛、6 価クロムなど電気電子機器に含まれる有害物質の使用が制限され、2006年7 月以降電気電子機器に含有してはならないと規制される。また、ELV(廃自動車) 指令により自動車業界でも2007年7 月以降の全面使用禁止が6 価クロムにおいて発令される。
【0003】
そのため、最近になってアルミニウム合金表面の化成処理は6 価クロムフリー化成処理液が広く使用されるようになってきた。
【0004】
従来より、このような6 価クロムフリーの化成処理液としては、例えば特許文献1に示すように、Zr、Ti等を用いた6 価クロムフリー化成処理薬剤がある。
【特許文献1】特開2002−332575号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来の6 価クロムフリーの化成処理液の場合、耐食性および塗膜付着性は、十分な性能が全く得られていない状況にあった。
【0006】
また、上記従来の6 価クロムフリーの化成処理液の場合、酸性水溶液で処理し、水洗してからでないと化成処理を行うことができないので、この作業が煩わしく処理経費が嵩むこととなる。特に、酸性水溶液として有機酸を用いた場合には、廃液処理に経費が嵩み、CODやBODが増加するといった別の環境問題を生じることとなる。
【0007】
本発明は、かかる実情に鑑みてなされたものであって、化成処理前の酸処理を行うことなく、6 価クロメート皮膜と同等もしくはそれ以上の耐食性および塗膜付着性を持たせることができる6 価クロムフリーの化成処理液と、この化成処理液による化成処理方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明のアルミニウム合金用ノンクロメート化成処理液は、3価クロム化合物とジルコニウム化合物とジカルボン酸とを含有し、3 価クロム化合物として、CrF3・3H2O 、Cr(NO3)3・9H2O のうち少なくとも1種類以上をCrとして10〜2000mg/リットル含み、ジルコニウム化合物として、(NH4)2ZrF6、H2ZrF6、K2ZrF6、Na2ZrF6 のうち少なくとも1種類以上をZrとして10〜2000mg/リットル含み、R1-(COOH)2〔R1=C2 〜C5〕で表すことの出来るジカルボン酸のうち少なくとも1種類以上を0.1〜1000mg/リットル含むものである。また、この化成処理液に、HF、HBF4、H2SiF6のうち少なくとも1種類以上をF として10g/リットル以下含有するものである。
【0009】
また、上記課題を解決するための本発明の化成処理方法は、アルミニウム合金の基材を、酸による前処理をせずに、上記化成処理液を用いて、処理温度30〜60℃、処理時間10秒から10分、pHが1.5〜6.0の範囲で処理するものである。
【0010】
本願発明において、ノンクロメート化成処理液中の3価クロム化合物は、クロム換算で10〜2000mg/リットルであることが好ましい。3価クロム化合物がクロム換算で10mg/リットル未満の場合には化成皮膜の生成速度が極端に低くなり、満足な化成皮膜が形成できない。一方、2000mg/リットルを越えた場合には、クロム添加の効果はそれほど向上せず、経済性を考慮すると、2000mg/リットル以下で十分である。この3価クロム化合物としては、CrF3・3H2O 、Cr(NO3)3・9H2O の中から選ばれる少なくとも1種類以上が用いられる。
【0011】
本発明において、ノンクロメート化成処理液中のジルコニウム化合物は、ジルコニウム換算で10〜2000mg/リットルであることが好ましい。ジルコニウム化合物がジルコニウム換算で10mg/リットル未満の場合には化成皮膜の生成速度が極端に低くなり、満足な化成皮膜が形成できない。一方、2000mg/リットルを越えた場合には、ジルコニウム添加の効果はそれほど向上せず、経済性を考慮すると、2000mg/リットル以下で十分である。このジルコニウム化合物としては、(NH4)2ZrF6、H2ZrF6、K2ZrF6、Na2ZrF6 の中から選ばれる少なくとも1種類以上が用いられる。
【0012】
本発明において、ノンクロメート化成処理液中のジカルボン酸は、0.1〜1000mg/リットルであることが好ましい。ジカルボン酸が0.1mg/リットル未満の場合には化成皮膜の生成速度が極端に低くなり、満足な化成皮膜が形成できない。一方、1000mg/リットルを越えた場合には、ジルコニウム添加の効果はそれほど向上せず、経済性を考慮すると、1000mg/リットル以下で十分である。このジカルボン酸としては、R1-(COOH)2〔R1=C2 〜C5〕で表すことの出来るジカルボン酸の中から選ばれる少なくとも1種類以上が用いられる。具体的なジカルボン酸としては、例えばコハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フマル酸などを挙げることができる。
【0013】
本発明において、ノンクロメート化成処理液には、弗化化合物が含まれていても良い。この場合、弗化化合物は、フッ素換算で10g/リットル以下であることが好ましい。10g/リットルを越えた場合には、弗化化合物添加の効果はそれほど向上せず、経済性を考慮すると、10g/リットル以下で十分である。この弗化化合物としては、HF、HBF4、H2SiF6の中から選ばれる少なくとも1種類以上が用いられる。
【0014】
ノンクロメート化成処理液のpHの範囲は、1.5〜6.0であることが好ましい。この範囲外のときには、沸水黒変が生じ易くなり、塗膜との密着性が悪化する。
【0015】
このノンクロメート化成処理液には、pHの維持や化成処理の促進などのために、適宜に添加剤が配合されていてもよい。
【0016】
本発明のアルミニウム合金の化成処理に供される対象素材としては、例えばアルミニウム、アルミニウム−銅、アルミニウム−亜鉛、アルミニウム−マンガン、アルミニウム−マグネシウム、アルミニウム−マグネシウム−マンガン、アルミニウム−マグネシウム−珪素、アルミニウム−亜鉛−マグネシウム等が挙げられる。更に、対象素材の形状は板状、棒状、線、管でもよく、飲料缶などに適用できる。
【0017】
本発明のアルミニウム合金の化成処理方法は、アルミニウム合金の基材を酸処理せずに、上記化成処理液でそのまま化成処理する。もちろん、酸処理を行ってから化成処理しても良いが、特に変わりはなく酸処理の経費が無駄になるだけにとなる。したがって、前処理は、通常行われるアルカリ脱脂と、その水洗工程だけでよい。
【0018】
本発明のアルミニウム合金の化成処理方法の処理温度としては、室温〜60℃、好ましくは30〜50℃である。処理温度が室温( 例えば25℃) 未満の場合には、皮膜生成速度が遅いため、高濃度仕様となり経済的に不利である。処理温度が60℃を越える場合には、処理浴が白濁し、スラッジが発生し易くなる。また、温度維持に多大なエネルギ−を必要とするため、経済的に不利である。
【0019】
本発明のアルミニウム合金の化成処理方法の処理時間は、化成処理液の組成、処理温度と処理方法によって異なるが、一般的には10秒〜10分の範囲で適宜に決定することができる。処理方法としては、特に限定されるものではなく、上記化成処理液の処理浴中にアルミニウム製品等を浸漬してもよいし、また、上記化成処理液をアルミニウム製品等に噴霧または塗布する等の公知の方法で処理してもよい。
【発明の効果】
【0020】
以上述べたように、本発明の化成処理液によると、化成処理前の酸処理を行うことなく、6 価クロメート皮膜と同等もしくはそれ以上の耐食性および塗膜付着性を有するアルミニウム合金のノンクロメート化成皮膜を形成することができる。
【0021】
また、この化成処理液を用いた化成処理方法では、酸処理とその水洗、酸処理後の廃液処理に伴う工程が不要となり、処理工程の簡略化、処理コストの削減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に、実施例を比較例とともに挙げ、本発明の効果をより具体的に説明をする。ただし、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
[ 素材] ADC-12材(JIS規格)
サイズ :横 70 mm×縦 150 mm ×厚さ0.5 mm
[ 塗装] 熱硬化型アクリル塗料
焼付け温度:160 ℃,膜厚:20-30 μm
[実施例の処理工程]
アルカリ脱脂→水洗→化成処理→水洗→純水洗→乾燥
上記の処理工程において、アルカリ脱脂はグランダクリーナー2106(ミリオン化学(株)製)2 0g/リットルの濃度で50℃、3分浸漬処理をした。また、上記の処理工程中の水洗は、室温で30秒浸漬洗浄、純水洗は室温で30秒掛け流しをし、乾燥は80℃、10分とした。
【0023】
上記の処理工程中、化成処理条件は以下の通りに行った。
−実施例1 〜7 −
Cr(NO3)3・9H2O をCrとして、10〜2000mg/リットル、H2ZrF6をZrとして10〜2000mg/リットル、ジカルボン酸を1000mg/リットルの濃度とし、アンモニア水を用いてpHを4.0に調整し、35℃、3分浸漬処理を行った。
−実施例8 〜15−
Cr(NO3)3・9H2O をCrとして、10〜2000mg/リットル、H2ZrF6をZrとして10〜2000mg/リットル、弗化化合物を合計3g/リットル、ジカルボン酸を1000mg/リットルの濃度とし、アンモニア水を用いてpHを4.0に調整し、35℃、3分浸漬処理を行った。
[比較例の処理工程]
アルカリ脱脂→水洗→酸洗→水洗→化成処理→水洗→純水洗→乾燥
上記の処理工程において、アルカリ脱脂、水洗、純水洗、乾燥は、上記実施例と同じ条件で行った。また、酸洗は、硝酸100g/リットルの濃度で室温、30秒浸漬処理をした。
【0024】
上記の処理工程中、化成処理条件は以下の通りで行った。
−比較例1−
化成処理条件は、Cr(NO3)3・9H2O をCrとして1000mg/リットルの濃度とし、アンモニア水を用いてpHを4.0に調整し、35℃、3分浸漬処理を行った。
−比較例2−
化成処理条件は、H2ZrF6をZrとして1500mg/リットルの濃度とし、アンモニア水を用いてpHを4.0に調整し、35℃、3分浸漬処理を行った。
−比較例3−
化成処理条件は、Cr(NO3)3・9H2O をCrとして1000mg/リットル、HFを3g/リットルの濃度とし、アンモニア水を用いてpHを4.0に調整し、35℃、3分浸漬処理を行った。
−比較例4−
化成処理条件は、H2ZrF6をZrとして1500mg/リットル、H2SiF6を3g/リットルの濃度とし、アンモニア水を用いてpHを4.0に調整し、35℃、3分浸漬処理を行った。
−比較例5−
化成処理条件は、Cr(NO3)3・9H2O をCrとして1000mg/リットル、ジカルボン酸1000mg/リットルの濃度とし、アンモニア水を用いてpHを4.0に調整し、35℃、3分浸漬処理を行った。
−比較例6−
化成処理条件は、H2ZrF6をZrとして1500mg/リットル、ジカルボン酸1000mg/リットルの濃度とし、アンモニア水を用いてpHを4.0に調整し、35℃、3分浸漬処理を行った。
−比較例7−
化成処理条件は、Cr(NO3)3・9H2O をCrとして1000mg/リットル、HBF4を3g/リットル、ジカルボン酸1000mg/リットルの濃度とし、アンモニア水を用いてpHを4.0に調整し、35℃、3分浸漬処理を行った。
−比較例8−
化成処理条件は、H2ZrF6をZrとして1500mg/リットル、HBF4とH2SiF6を合計3g/リットル、ジカルボン酸1000mg/リットルの濃度とし、アンモニア水を用いてpHを4.0に調整し、35℃、3分浸漬処理を行った。
−比較例9〜13−
化成処理条件は、Cr(NO3)3・9H2O をCrとして10〜2000mg/リットル、H2ZrF6をZrとして10〜2000mg/リットルの濃度とし、アンモニア水を用いてpHを4.0に調整し、35℃、3分浸漬処理を行った。
−比較例14〜18−
化成処理条件は、Cr(NO3)3・9H2O をCrとして10〜2000mg/リットル、H2ZrF6をZrとして10〜2000mg/リットル、HBF4を合計3g/リットルの濃度とし、アンモニア水を用いてpHを4.0に調整し、35℃、3分浸漬処理を行った。
−比較例19〜21−
化成処理条件は、Cr(NO3)3・9H2O をCrとして1000mg/リットル、H2ZrF6をZrとして1000mg/リットル、HBF4を3g/リットル、マロン酸、スペリン酸およびクエン酸をそれぞれ1000mg/リットルの濃度とし、アンモニア水を用いてpHを4.0に調整し、35℃、3分浸漬処理を行った。
−比較例22〜24−
上記比較例の処理工程において、酸洗とその後の水洗を行わず、実施例の処理工程と同様にアルカリ脱脂、水洗後、直ちに化成処理した。それ以外は、上記比較例19〜21と同様に処理を行った。
−比較例25−
化成処理条件は、グランダーAL−8EV1(6価クロメート、ミリオン化学(株)製) を
40g/リットルの濃度とし、35℃、2分浸漬処理を行った。
−比較例26−
化成処理条件は、グランダーAL−500X(Zr、Ti系ノンクロメート、ミリオン化学(株)製) を35g/リットルの濃度とし、50℃、2分浸漬処理を行った。
[ 評価]
実施例および比較例ともに作製したそれぞれの試料について耐食性および塗膜付着性により評価した。
【0025】
裸耐食性試験は、化成処理によって形成した化成皮膜の表面に、塩水噴霧試験を24、72、120、240、480および720時間の各時間行い、それぞれの時間に対する白錆発生面積を目視判定により行い、下記基準により4段階で評価した。
【0026】
◎:白錆発生なし、○:白錆発生面積5%以下、
△:白錆発生面積5〜20%、×:白錆発生面積20%以上、
塗膜密着性試験は、化成処理によって形成した化成皮膜の表面に上記した塗装を行った後、一次密着性試験( 碁盤目試験) 、二次密着性試験( 塩水噴霧試験、片側最大テープ剥離幅) 500H、 1000Hを行った。
【0027】
試験方法は、碁盤目試験は1mmの素地に達するカットを100ヶ描き、テープ剥離を行った後、残った塗膜マス目の残存数で評価した。塩水噴霧試験テープ剥離幅は、塗膜にカットを入れ、5%塩水を噴霧している装置に一定時間放置し、その後テープにより剥離を行い、その剥離程度で評価した。
【0028】
実施例1〜15の結果を表1に示す。
【0029】
比較例1〜26の結果を表2に示す。
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
表1および表2の結果から、本願発明に係る実施例1〜15の化成処理液については、6価クロメート皮膜と同等もしくはそれ以上の耐食性および塗膜付着性を有する化成皮膜を、酸洗することなく得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0032】
アルミニウム合金のノンクロメート化成処理に適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3 価クロム化合物とジルコニウム化合物とジカルボン酸とを含有し、3 価 クロム化合物として、CrF3・3H2O 、Cr(NO3)3・9H2O のうち少なくとも1種類以上をCrとして10〜2000mg/リットル含み、ジルコニウム化合物として、(NH4)2ZrF6、H2ZrF6、K2ZrF6、Na2ZrF6 のうち少なくとも1種類以上をZrとして10〜2000mg/リットル含み、R1-(COOH)2〔R1=C2 〜C5〕で表すことの出来るジカルボン酸のうち少なくとも1種類以上を0.1〜1000mg/リットル含むことを特徴とする化成処理液。
【請求項2】
さらに、HF、HBF4、H2SiF6のうち少なくとも1種類以上をF として10g/リットル以下含有することを特徴とした請求項1 の化成処理液。
【請求項3】
アルミニウム合金の基材を、酸による前処理をせずに、請求項1または2の何れか一記載の化成処理液を用いて、処理温度30〜60℃,処理時間10秒から10分、pHが1.5〜6.0の範囲で処理する化成処理方法。

【公開番号】特開2006−316334(P2006−316334A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−142608(P2005−142608)
【出願日】平成17年5月16日(2005.5.16)
【出願人】(597161609)ミリオン化学株式会社 (9)
【Fターム(参考)】