説明

アルミニウム合金

【課題】光輝性に優れ、ステンレス鏡面研磨材とよく似た外観の押出形材を製造できるアルミニウム合金の提供。
【解決手段】Siが0.20〜0.60wt%、Feが0.35wt%以下、Cuが0.20wt%以下、Mgが0.45〜0.90wt%、Zrが0.02〜0.20wt%、残部がAl及び不純物であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光輝性に優れ、ステンレス鏡面研磨材とよく似た外観の押出形材を製造できるアルミニウム合金に関する。
【背景技術】
【0002】
建物の窓等には、A6063等のアルミニウム合金の押出形材が多用されているが、これらには耐食性、耐候性を向上するためのアルマイト処理や塗装処理を施される。これら皮膜処理後のアルミニウム合金の押出形材は白っぽい色合いで光輝性が低く、また押出加工時に形成されるダイラインと呼ばれる細かいスジが表面に多数表れているため、高級感が出にくい。アルミニウム合金で光輝性を持たせる手段として、各種研磨処理(機械研磨,化学研磨,電解研磨)の後、アルマイト処理が行われる場合がある。特に光輝性が必要な場合には光輝合金(これら処理により光輝性が得られやすい品種)を用いるが、従来の光輝合金はA6063と比較しても著しい光輝性の向上がなかった。そのため、ビルのフロントの目立つ部分、例えばエントランスやスクリーン等には、鏡面仕上げをしたステンレス材が好んで用いられている。しかしステンレス材にはもらい錆を起こす不都合があって、美しい状態を維持するためには定期的なメンテナンスを行わねばならない。またステンレスのフロント材は、板材を曲げ加工して製作するので製作に手間がかかると共に形状の自由度が乏しく、さらに曲げ加工後にバフ研磨をする必要があるので、コストが非常に高くなる。またステンレス材はアルミよりも遥かに重いため、例えば自動ドア等に用いると駆動用のモーターを大きくしなければならないといった不都合もある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は以上に述べた実情に鑑み、各種研磨処理およびアルマイト処理後の光輝性に優れ、ステンレス鏡面研磨材とよく似た外観の押出形材を製造できるアルミニウム合金の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の課題を達成するために請求項1記載の発明によるアルミニウム合金は、Siが0.20〜0.60wt%、Feが0.35wt%以下、Cuが0.20wt%以下、Mgが0.45〜0.90wt%、Zrが0.02〜0.20wt%、残部がAl及び不純物であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
請求項1記載の発明によるアルミニウム合金は、Siを0.20〜0.60wt%、Feを0.35wt%以下、Mgを0.45〜0.90wt%としたことで、押出加工後に研磨処理を行いアルマイト処理をしたときに、アルミ表面およびアルマイト被膜中の分散物が低減するため、光輝性を向上できる。Cuを0.20wt%以下で添加することで、化学研磨および電解研磨によるアルミ表面の平滑化を促進するため、光輝性を向上できる。Zrを0.02〜0.20wt%添加したことで、アルミ表面およびアルマイト被膜中の分散物が微細化するので光輝性が向上すると共に、ステンレス調の色合いを付与できる。これによりステンレス鏡面研磨材に酷似した、黒っぽく透明感のある外観の押出形材を製造でき、ステンレス鏡面研磨材の代わりに本アルミニウム合金で製造した押出形材を用いることで、もらい錆を防ぐためのメンテナンスが不要になる、製造コストを低減できる、形状の自由度が向上する、軽量化できるといった様々な利点がある。
【発明を実施するための形態】
【0006】
以下、本発明の実施の形態を説明する。本発明のアルミニウム合金は、Siを0.20〜0.60wt%、Feを0.35wt%以下、Cuを0.20wt%以下、Mgを0.45〜0.90wt%、Zrを0.02〜0.20wt%含有する。さらに不純物として、Mn、Cr、Zn、Ti等を含有する場合がある。以下、各成分の働きや成分範囲をこのように限定した理由について説明する。
【0007】
Siは、MgSiを析出させて材料に強度を付与するために添加される。Siが0.60wt%より多いと、押出した形材の外観が悪化し押出性が阻害されると共に、研磨処理を行いアルマイト処理した後のアルミ表面およびアルマイト中の分散物が増加して光輝性が低下する。Siが0.20wt%より少ないと強度が低下する。よって、光輝性を向上しつつ十分な強度を確保するために、Siは0.20〜0.60wt%とした。光輝性を重視するには、必要な強度を得ているか確認の上、Siは少ないほうが好ましい。
【0008】
Feは、0.35wt%より多いと、押出した形材の外観が悪化し押出性が阻害されると共に、研磨処理を行いアルマイト処理した後のアルミ表面およびアルマイト中の分散物が増加して光輝性が低下する。よって、Feは0.35wt%以下とした。なおFeは不純物であり、少ない方が好ましい。
【0009】
Cuは、化学研磨もしくは電解研磨によるアルミ表面の平滑化を促進する効果があるが、0.2wt%より多いとアルマイト後に黄味が発生すると共に耐食性が低下する。よって、Cuは0.20wt%以下とした。
【0010】
Mgは、MgSiを析出させて材料に強度を付与するために添加される。Mgが0.90wt%より多いと、変形抵抗が増加して押出性が阻害されると共に、研磨処理を行いアルマイト処理した後のアルミ表面およびアルマイト中の分散物が増加して光輝性が低下する。Mgが0.45wt%より少ないと強度が低下する。よって、光輝性を向上しつつ十分な強度を確保するために、Mgは0.45〜0.90wt%とした。光輝性を重視するには、必要な強度を得ているか確認の上、Mgは少ないほうが好ましい。
【0011】
Zrは、JIS A6063合金に通常は添加されないが、Zrを微量添加すると、アルマイト処理をしたときにアルマイト被膜中の分散物を微細化し、光輝性を上げる働きがあり、またステンレス調の黒っぽい色合いを付与できることから、添加している。Zrが0.02wt%より少ないとそのような作用が十分得られず、またZrが0.20wt%より多いと粗大な金属間化合物が生成され、強度や外観が低下する。よって、Zrは0.02〜0.20wt%とした。
【0012】
Mn及びCrは、0.10wt%より多いと、焼入れ感受性が低下して強度が低下する。よって、Mn及びCrは0.10wt%以下とする。なお、光輝性向上のためには少ない方が好ましい。
【0013】
Znは、0.10wt%より多いと、アルマイト後に表面欠陥が生じやすくなる。よって、Znは0.10wt%以下とする。なお、光輝性向上のためには少ない方が好ましい。
【0014】
Tiは、0.10wt%より多いと、粗大な化合物が生成され、形材に表面欠陥が生じやすくなる。よって、Tiは0.10wt%以下とする。なお、光輝性向上のためには少ない方が好ましい。
【0015】
その他の不純物は、合計で0.15wt%以下、個々で0.05wt%以下が好ましい。
【0016】
次に、本発明のアルミニウム合金によりビルのフロント用の部材を製作する手順を説明する。まず、上述の元素が添加されたアルミニウム合金溶湯を用い、従前の連続鋳造方法によりビレットを製作する。次に、ビレットの組織を均質化するために、そのビレットを一般的な温度、時間にて均質化処理する。その後、ビレットを熱間押出加工して所定の断面形状に押出す。その後、押出した形材に対して人工時効硬化処理の後、研磨処理(化学研磨,電解研磨,機械研磨など)、およびアルマイト処理等の表面処理を行う。
【0017】
本発明の具体的な実施例を以下に示す。表1に示す実施例1、比較例1,2の合金成分のアルミニウム合金のビレットを作成し、ビレットに同じ条件で均質化処理を行った。その後、熱間押出加工により所定の形状の押出形材を作成し200℃×2時間の人工時効硬化処理を施した上、各押出形材に同一の表面処理(電解研磨+アルマイト)を行い、形材の表面の光沢度と可視光反射率を測定した。アルマイト厚さはいずれも20μmである。光沢度は、変角光沢計により、測定角度60°で測定した。可視光反射率は、分光光度計により、入射角5°で測定した。参考までに、熱反射ガラスと鏡面ガラスの可視光反射率も測定した。光沢度と可視光反射率は、値が大きいほど光輝性が高いことを意味する。機械的性質は、引張試験を行い耐力値にて比較した。なお、比較例1は従来の光輝合金、比較例2はA6063合金である。
【0018】
【表1】

【0019】
表1に示すように、実施例1と比較例1を比較すると、Zrを0.04wt%添加かつSi,Mgを少なくした実施例1の方が、光沢度、可視光反射率が大きくなった。目視では、比較例1はアルミ合金特有の白っぽい濁ったような色合いであるのに対して、実施例1はZrの添加によりステンレス調の黒っぽい色合いとなっており、ステンレス鏡面研磨材に酷似した、黒っぽく透明感のある外観であった。また実施例1は、表面欠陥のない平滑な表面になっており、押出性も問題が無かった。強度については、実施例1は比較例1より低下するものの、比較例2(A6063合金)を上回っており、用途上問題はない。
【0020】
上記の実施例1、比較例1、比較例2について、アルマイト厚さを次第に厚くしていったときの光沢度の変化を調べた。その結果を以下の表2に示す。
【0021】
【表2】

【0022】
表2に示すとおり、実施例1は、比較例1,2と比較して、アルマイト厚さが増えても光沢度の低減が小さいことが分かる。すなわち実施例1は、比較例1,2よりも得られるアルマイトの透明性が高いといえる。
【0023】
以上に述べたように、本発明のアルミニウム合金によれば、ステンレス鏡面研磨材に酷似した押出形材を製作することができ、これをステンレス鏡面研磨材の代わり用いることで、もらい錆を防ぐためのメンテナンスが不要になる、製造コストを低減できる、形状の自由度が向上する、軽量化できるといった様々な利点がある。
【0024】
本発明は以上に述べた実施形態に限定されない。合金成分は、特許請求の範囲に記載した範囲内で適宜変更することができる。加工後の表面処理は任意に行うことができる。用途としては、ビルのフロントに限らず、建材一般および車両部品、照明機器など建材以外の幅広い分野に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Siが0.20〜0.60wt%、Feが0.35wt%以下、Cuが0.20wt%以下、Mgが0.45〜0.90wt%、Zrが0.02〜0.20wt%、残部がAl及び不純物であるアルミニウム合金。

【公開番号】特開2012−149335(P2012−149335A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−109009(P2011−109009)
【出願日】平成23年5月16日(2011.5.16)
【出願人】(000175560)三協立山株式会社 (529)
【出願人】(307021715)三協マテリアル株式会社 (17)