説明

アルミニウム材熱交換器の耐食処理方法

【課題】NB法によりフラックスろう付けされたアルミニウム材熱交換器、特に自動車用エアコンに用いられるアルミニウム材熱交換器に対し、優れた耐食性及び耐湿性(耐黒変性)を付与すると共に、良好な親水性及び防臭性も付与し得る熱交換器の耐食処理方法を提供する。
【解決手段】NB法によりフラックスろう付けされたアルミニウム材熱交換器の耐食処理方法であって、特定の化成処理工程により、該熱交換器の表面に化成処理皮膜を形成し、次いで特定の親水化処理工程、及び乾燥、焼付け処理工程により、前記化成処理皮膜上に親水化被膜を形成する、アルミニウム材熱交換器の耐食処理方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノコロックろう付け法(以下、NB法ということがある。)によりフラックスろう付けされたアルミニウム材熱交換器(以下、NB熱交換器ということがある。)、特に自動車用エアコンに用いられるアルミニウム材熱交換器の耐食処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用エアコンに用いられる熱交換器は、通常、熱交換の表面積をできるだけ稼ぐためにアルミニウムフィンが狭い間隔で保持され、さらに、これらのフィンに冷媒を供給するためのアルミニウムチューブが入り組んで配置された複雑な構造となっている。エアコン稼働時に空気中の水分がフィン表面に凝縮水として付着するが、濡れ性の劣るフィン表面では略半球状の水滴となったり、フィン間にブリッジ状に存在することになり、排気のスムーズな流れを妨げ、通風抵抗を増大させてしまう。このようにフィン表面の濡れ性が悪いと熱交換効率を低下させることになる。
さらに、アルミニウムフィンやアルミニウムチューブ(以下、「アルミニウムフィン等」という。)を構成するアルミニウムやその合金は、通常、本来防錆性に優れているが、凝縮水がフィン表面に長時間滞留すると、酸素濃淡電池を形成し、又は大気中の汚染成分が次第に付着、濃縮されて水和反応や腐食反応が促進される。この腐食生成物は、フィン表面に堆積し、熱交換特性を害するほか、白い微粉となって送風機により排出される。
【0003】
そこで、これらの問題点を改善するため、例えば、アルミニウム材熱交換器を酸洗浄後、ジルコニウム系化成処理液に浸漬してジルコニウム化成処理し、その後、変性ポリビニルアルコール、リン化合物塩、ホウ素化合物塩、親水性有機化合物、架橋剤等を混合した親水化処理液に浸漬して親水化処理し、アルミニウム表面に良好な親水性と防臭性を付与する表面処理方法等が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
一方、自動車用エアコンに用いられるアルミニウム材熱交換器は、多くのアルミニウムフィンとアルミニウムチューブを組み立てた後、アルミニウムフィン同士やアルミニウムフィンとアルミニウムチューブとを接合するものであるが、アルミニウムの表面には強固で緻密な酸化皮膜が生成しているため,機械的接合法以外のろう付け、はんだ付けなどによる接合は簡単にできず、ろう付け方法としては、真空中でろう付けするVB法(真空ろう付け法)が主に行われていた。
しかしながら、近年、酸化皮膜を効果的に除去、破壊する手段としてハロゲン系フラックスが開発され、ろう付けの管理が容易、炉が安価、ろう付け加工のコストが安価などの理由で、窒素ガス中でろう付けするNB法に代表されるフラックスろう付け法が用いられるようになってきた。
このNB法は、アルミニウムフィン等を組み立てた後、KAlF4及びK2AlF5等のフラックスを用いて、窒素ガス中でアルミニウムフィン等をろう付けする方法であり、自動車用エアコンにおける熱交換器の作製にも適用されてきている。
ところが、このNB法で作製されたNB熱交換器は、アルミニウム表面にフラックスが不可避的に残存するために表面状態が不均一になり、化成処理、親水化処理等の均一な表面処理ができず、耐食性、密着性等が不充分になるというNB熱交換器特有の問題がある。
【0005】
そのため、これまで、NB熱交換器の表面処理においては、(1)フラックス除去工程、(2)化成処理工程(防錆工程)、(3)親水化処理工程が順次施されているが、フラックス除去工程でハロゲン系の廃水が発生するという問題がある。また、フラックス除去工程は化成性を上げるために酸やアルカリでエッチングするものであるが、フラックスのみを除去できないため、アルミニウムフィンに対する過度なエッチングが起こって、均一な化成処理ができないという問題もある。
さらには、人体への安全性の問題からCr6+フリーでの化成処理が必要とされるが、その場合、耐食性が不充分である。またさらに、工程数の削減も求められていた。
【0006】
このような問題に対処するためにNB熱交換器を表面処理する方法として、例えば、NB熱交換器をジルコニウム系化成処理液に浸漬してジルコニウム化成処理し、その後、ポリビニルアルコール、ポリオキシアルキレン変性ポリビニルアルコール、無機架橋剤、グアニジン化合物等を混合した親水化処理液に浸漬して親水化処理し、良好な耐食・親水化効果に加えて防臭効果をも付与する表面処理方法等が提案されている(特許文献2参照)。
【0007】
一方、特に室外機の熱交換フィン材に対し、親水性及び耐食性に優れると共に、着霜防止に優れる皮膜を形成し得る親水化処理剤として、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる金属の珪酸塩、好ましくは珪酸リチウム(a)、ポリビニルアルコール(b)、及び3,000〜300,000の範囲内の重量平均分子量を有し且つ400mgKOH/g以上の樹脂酸価を有するアクリル樹脂(c)を含有する熱交換器フィン材用親水化処理剤が開示され、さらにこの親水化処理剤を、アルミニウムフィン材表面に塗装し焼付けて乾燥膜厚0.2〜5μmの皮膜を形成する熱交換器アルミニウムフィン材の親水化処理方法が開示されている(特許文献3参照)。
【0008】
他方、従来ノンクロメート化成処理液として、ジルコニウムイオンとバナジウムイオンを含む化成処理液を用い、アルミニウム材を表面処理することにより、耐食性に優れるジルコニウム−バナジウム化成処理皮膜が形成されることが知られている。このノンクロメート化成処理技術を利用して、表面にジルコニウム−バナジウム化成皮膜が形成され、さらにその上に親水性皮膜が形成されてなるアルミニウム合金製熱交換器が開示されている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−003282号公報
【特許文献2】特開2006−069197号公報
【特許文献3】特開2001−164175号公報
【特許文献4】特開2000−345362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記特許文献2に記載のNB熱交換器を表面処理する方法によると、NB熱交換器に、ジルコニウム系化合物及び/又はチタニウム系化合物による防錆処理を施し、その後、特定の親水性樹脂及び防錆成分を含有する親水化処理剤組成物により親水化処理することによって、良好な耐食・親水化効果に加えて防臭効果を付与することができる。しかしながら、この技術においては、防錆処理に用いる化成処理液中にはバナジウムイオンは含まれていない。
また、前記引用文献3に開示されている親水化処理剤は、室外機の熱交換フィン材に対するものであり、親水化処理剤は、アルミニウムフィンを組み立てる前のアルミニウム板に対して施されるものであり、NB法で作製された熱交換器に対する親水化処理特有の上記問題は存在しない。
一方、前記特許文献4に記載の技術においては、第2保護層を形成する親水化処理液中には、リン酸化合物及び/又はリチウムイオンは、実質上含まれていない。また、この技術は、アルミニウム合金製熱交換器に適用されるが、該アルミニウム合金製熱交換器がNB熱交換器であることについては、なんら言及されていない。
【0011】
本発明は、このような状況下になされたもので、NB法によりフラックスろう付けされたアルミニウム材製熱交換器、特に自動車用エアコンに用いられるアルミニウム材製熱交換器に対し、優れた耐食性及び耐湿性(耐黒変性)を付与すると共に、良好な親水性及び防臭性も付与し得る熱交換器の耐食処理方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、NB法によりフラックスろう付けされたアルミニウム材熱交換器を、特定の組成及びpH領域を有する化成処理液で化成処理して、化成処理皮膜を形成したのち、特定の組成を有する親水化処理液と接触させ、次いで乾燥、焼付け処理して、その表面に親水化皮膜を形成させ、前記の化成処理皮膜との相互作用により、その目的を達成し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0013】
すなわち、本発明は、
[1] ノコロックろう付け法によりフラックスろう付けされたアルミニウム材熱交換器の耐食処理方法であって、
(a)前記アルミニウム材熱交換器を、ジルコニウム及び/又はチタニウム含有量が10〜10000質量ppm、バナジウム含有量が1〜10000質量ppm、〔(ジルコニウム+チタニウム)/バナジウム〕質量比が0.1〜100及びpHが1.5〜7である化成処理液で化成処理して、化成処理皮膜を形成する工程、
(b)前記(a)工程で化成処理皮膜が形成されたアルミニウム材熱交換器を、親水性樹脂を含むと共に、リン酸、縮合リン酸、ホスホン酸及びそれらの誘導体並びにリチウムイオンの中から選ばれる少なくとも一種を含む親水化処理液と接触させる工程、及び
(c)前記(b)工程で接触処理されたアルミニウム材熱交換器を、焼付け処理して、その表面に親水化皮膜を形成させる工程、
を含むことを特徴とするアルミニウム材熱交換器の耐食処理方法。
[2] 前記(a)工程における化成処理液が、さらにアルミニウムイオン100〜5000質量ppm及び遊離フッ素イオン1〜100質量ppmを含む[1]に記載のアルミニウム材熱交換器の耐食処理方法。
[3] (a)工程における化成処理皮膜において、(Zr+Ti)皮膜量が1〜200mg/g、V皮膜量が1〜200mg/m2であり、かつ〔(Zr+Ti)/V〕質量比が0.1〜100であって、(c)工程における親水化皮膜量が0.05〜5.0g/m2である[1]又は[2]に記載のアルミニウム材熱交換器の耐食処理方法。
[4] 親水性樹脂が、ケン化度90%以上のポリビニルアルコール及び/又は変性ポリビニルアルコールである[1]〜[3]のいずれかに記載のアルミニウム材熱交換器の耐食処理方法。
[5] (b)工程において、親水化処理液が、さらにバナジウムを含み、かつ焼付け処理後の親水化皮膜中のバナジウム濃度が金属換算で0.005〜25質量%である[1]〜[4]のいずれかに記載のアルミニウム材熱交換器の耐食処理方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、NB法によりフラックスろう付けされたアルミニウム材熱交換器、特に自動車用エアコンに用いられるアルミニウム材熱交換器表面に、特定の化成処理液及び親水化処理液を用いて、それぞれ化成処理皮膜及び親水化皮膜を形成し、それらの相互作用により耐食性及び耐湿性(耐黒変性)を大幅に向上させると共に、良好な親水性及び防臭性を付与するNB熱交換器の耐食処理方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のアルミニウム材熱交換器の耐食処理方法(以下、単に処理方法と略記することがある。)は、NB法によりフラックスろう付けされたアルミニウム材熱交換器の耐食処理方法であって、
(a)前記アルミニウム材熱交換器を、ジルコニウムイオン及び/又はチタニウムイオン含有量が10〜10000質量ppm、バナジウムイオン含有量が1〜10000質量ppm、〔(ジルコニウムイオン+チタニウムイオン)/バナジウムイオン〕質量比0.1〜100及びpH1.5〜7である化成処理液で化成処理して、化成処理皮膜を形成する工程、
(b)前記(a)工程で化成処理皮膜が形成されたアルミニウム材熱交換器を、親水性樹脂を含むと共に、リン酸、縮合リン酸、ホスホン酸及びそれらの誘導体並びにリチウムイオンの中から選ばれる少なくとも1種を含む親水化処理液と接触させる工程、及び
(c)前記(b)工程で接触処理されたアルミニウム材熱交換器を、乾燥、焼付け処理して、その表面に親水化皮膜を形成させる工程、
を含むことを特徴とする。
なお、本発明における金属(Li、Ti、Zr、V、Al)イオン量とは、その金属を有する化合物を、該金属イオン換算で表した量を指す。
【0016】
[熱交換器]
本発明に用いる熱交換器は、NB法によりフラックスろう付けされたアルミニウム材熱交換器である。当該熱交換器の表面には、フラックスが不可避的に残存する。
NB熱交換器としては、自動車の空調装置に用いられるアルミニウム材熱交換器が挙げられる。なお、本発明において「アルミニウム材」とは、アルミニウム又はアルミニウム合金のことを指す。
当該熱交換器は、アルミニウム材のフィン及びチューブが、窒素ガス中でろう付けする公知のNB法により接合されている。
NB法で用いるフラックスとしては、リチウムイオンと難溶性の塩を形成するアニオンで構成される塩を含むフラックスであれば特に限定されず、NB法で用いる通常のハロゲン系のフラックスを用いることができる。かかるハロゲン系のフラックスとしては、KAlF4、K2AlF5、K3AlF6、CsAlF4、Cs3AlF6及びCs2AlF5、並びに、これらのうち2種以上の混合物が挙げられる。
【0017】
[(a)化成処理工程]
本発明の処理方法における(a)工程は、前述したNB法によりフラックスろう付けされたアルミニウム材熱交換器を、ジルコニウムイオン及び/又はチタニウムイオン含有量が、金属換算で、10〜10000質量ppm、バナジウムイオン含有量が、金属換算で、1〜10000質量ppm、〔(ジルコニウムイオン+チタニウムイオン)/バナジウムイオン〕質量比0.1〜100及びpH1.5〜7である化成処理液で化成処理して、化成処理皮膜を形成する工程である。ここで、本明細書において、金属イオンの濃度は、特に断りがない限り、金属換算の値をいう。
なお、当該化成処理工程を施す前に、この化成処理効果をより一層向上させる目的で、必要に応じ、被処理NB熱交換器を酸洗浄処理してもよい。酸洗浄処理条件に特に制限はなく、従来アルミニウム材熱交換器の酸洗浄処理に使用されている公知の方法を用いることができる。
【0018】
ジルコニウムイオン及び/又はチタニウムイオンと、バナジウムイオンを含む化成処理液は、ジルコニウム系化合物及び/又はチタニウム系化合物と、バナジウム系化合物とを水に溶解し、ジルコニウムイオン及び/又はチタニウムイオンと、バナジウムイオンを活性種とする溶液である。ジルコニウム系化合物としては、フルオロジルコニウム酸、フッ化ジルコニウム等のジルコニウム化合物、およびそれらのリチウム、ナトリウム、カリウム、アンモニウム等の塩が挙げられる。また酸化ジルコニウム等のジルコニウム化合物をフッ化水素酸等のフッ化物で溶解させてもよい。
チタニウム系化合物としては、フルオロチタン酸、フッ化チタン等のチタニウム化合物、およびそれらのリチウム、ナトリウム、カリウム、アンモニウム等の塩が挙げられ、これらを水に溶解して、チタニウムイオンを活性種とする化成処理液をつくる。また酸化チタニウム等のチタニウム化合物をフッ化水素酸等のフッ化物で溶解させてもよい。
【0019】
<バナジウムイオン>
バナジウムイオンは自己修復効果により、皮膜形成性に優れており、前記化成処理液において、ジルコニウムイオン及び/又はチタニウムイオンと、バナジウムイオンを併用することにより、ジルコニウム及び/又はチタニウム皮膜と共に、バナジウム皮膜が形成する。バナジウムは、ジルコニウム皮膜及び/又はチタニウム皮膜と共存することにより、バナジウムの溶出は微量となる。また、バナジウムが溶出した場合でも、当該溶出したバナジウムイオンは酸化剤としての作用を有し、アルミニウム材を酸化して不動態化し、耐食効果を発揮する。
【0020】
バナジウムイオンを化成処理液に供給するバナジウム化合物としては、2〜5価のバナジウム化合物を用いることができ、具体的にはメタバナジン酸、メタバナジン酸アンモニウム、メタバナジン酸ナトリウム、五酸化バナジウム、オキシ三塩化バナジウム、硫酸バナジル、酸化バナジウム、二酸化バナジウム、バナジウムオキシアセチルアセトネート、塩化バナジウムなどが好ましい。
本発明においては、4価及び5価のバナジウム化合物がより好ましく、具体的にはメタバナジン酸アンモニウム(5価)及び硫酸バナジル(4価)がさらに好ましい。
【0021】
当該化成処理液においては、耐食処理されたNB熱交換器の耐食性及び耐湿性(耐黒変性)を大幅に向上させると共に該熱交換器に良好な親水性及び耐薬品性などを付与する観点から、ジルコニウムイオン及び/又はチタニウムイオン含有量は10〜10000質量ppmを要し、好ましくは30〜5000質量ppm、より好ましくは100〜3000質量ppmであり、バナジウムイオン含有量は1〜10000質量ppmを要し、好ましくは3〜5000質量ppm、より好ましくは30〜3000質量ppmである。また、〔(ジルコニウムイオン+チタニウムイオン)/バナジウムイオン〕質量比は0.1〜100を要し、好ましくは0.2〜20、より好ましくは0.3〜10である。
【0022】
当該化成処理液のpHは1.5〜7であることを要し、このpHが1.5以上であれば、化成処理液によるエッチング過多を起こさずに化成皮膜を形成することができ、pHが7以下であれば、エッチング不足とならずに充分な量の化成皮膜を得ることができる。好ましいpHは3〜6である。このpHの調整は、硫酸、硝酸、アンモニア等の一般的な酸やアルカリで行うことができる。
また、この化成処理液は、上記ジルコニウム系及び/又はチタニウム系、バナジウム系化合物の他に、防錆性を向上させるために、マンガン、亜鉛、セリウム、3価クロム、マグネシウム、ストロンチウム、カルシウム、スズ、銅、鉄、珪素化合物等の金属イオン、ホスホン酸、リン酸、縮合リン酸等リン化合物、フェノール樹脂、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸誘導体、グアニジン、ビグアニジン化合物の防錆剤;密着性向上のためのポリアリルアミン、アミノシラン、エポキシシランなど各種シランカップリング剤等が含有されていてもよい。
【0023】
当該化成処理液には、さらにアルミニウムイオン50〜5000質量ppm及び遊離フッ素イオン1〜100質量ppmを含むことができる。
アルミニウムイオンは基材からも化成処理液に溶出するが、当該基材からの溶出とは別に、アルミニウムイオンを積極的に添加することで、化成処理反応を促進することができる。また、従来のジルコニウムやチタニウム化成処理液の組成よりも、遊離フッ素イオンを高く設定することで、(ジルコニウムイオン+チタニウムイオン)/バナジウムイオン質量比が下がり、より耐食性の良い化成処理皮膜を形成することができる。ジルコニウムイオンやチタニウムイオンのみでも緻密な化成処理皮膜が形成されるが、該皮膜は被覆性が十分でない場合がある。また、ジルコニウムイオンやチタニウムイオンが共存せずにバナジウムイオンのみでは析出しにくく、たとえ皮膜が形成されたとしても、該皮膜は溶出しやすい。
ジルコニウム及び/又はチタニウム−バナジウム皮膜は、緻密で被覆性が高く、かつバナジウムが適度に溶出し、自己修復効果を発揮する。
アルミニウムイオンの好ましい含有量は100〜3000質量ppmであり、より好ましくは200〜2000質量ppmである。また、遊離フッ素イオンの好ましい含有量は5〜80質量ppmであり、より好ましくは15〜50質量ppmである。 アルミニウムイオンの供給源としては、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、フッ化アルミニウム、酸化アルミニウム、明礬、珪酸アルミニウム、アルミン酸ナトリウム等のアルミン酸塩、フルオロアルミニウム酸ナトリウム等のフルオロアルミニウム塩が挙げられる。遊離フッ素イオンの供給源としては、フッ化水素酸、フッ化水素アンモニウム、ジルコニウムフッ化水素酸、チタンフッ化水素酸等のフッ化水素酸及びその塩;フッ化ナトリウム、フッ化ジルコニウム、フッ化チタン等の金属フッ化物;フッ化アンモニウム等が挙げられる。
【0024】
本発明における化成処理の方法は特に限定されず、スプレー法、浸漬法などのいずれであってもよい。化成処理液の温度は、好ましくは50〜70℃であり、さらに好ましくは55〜65℃である。また、化成処理の時間は、好ましくは20〜900秒であり、さらに好ましくは30〜600秒である。この範囲の処理液の温度及び処理の時間であれば、防錆性を有する化成皮膜を形成することができるからである。
このようにして、NB熱交換器に化成処理を施し、その表面に形成された化成処理皮膜において、(Zr+Ti)皮膜量及びV皮膜量を、それぞれ1〜200mg/g、好ましくは5〜150mg/m2、より好ましくは20〜100mg/m2の範囲にすることができ、また〔(Zr+Ti)/V〕質量比を0.1〜100、好ましくは0.1〜10、より好ましくは0.2〜5の範囲にすることができる。
【0025】
[(b)親水化処理工程]
本発明の処理方法における(b)工程は、前述した(a)工程で化成処理皮膜が形成されたアルミニウム材熱交換器を、親水性樹脂を含むと共に、リン酸、縮合リン酸、ホスホン酸及びそれらの誘導体並びにリチウムイオンの中から選ばれる少なくとも1種を含む親水化処理液と接触させる親水化処理工程である。
【0026】
(親水化処理液)
当該親水化処理液は、水系溶媒中に親水性樹脂を含むと共に、リン系化合物としてリン酸、縮合リン酸、ホスホン酸及びそれらの誘導体並びにリチウムイオンの中から選ばれる少なくとも1種を含む水系溶液又は水系分散液である。
なお、当該親水化処理液は、さらにバナジウムイオンを含むことができる。
【0027】
<親水性樹脂>
親水性樹脂に特に制限はないが、分子内に水酸基、カルボキシル基、アミド基、アミノ基、スルホン酸基及び/又はエーテル基を有する水溶性又は水分散性の親水性樹脂であることが好ましい。上記親水性樹脂は、水滴との接触角が40度以下となるような皮膜を形成するものであることが好ましい。このような皮膜は良好な親水性を示すため、上記親水性樹脂を含む親水化処理液を適用すると、充分な親水性を被処理物に付与することができる。上記親水性樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリルアミド、カルボキシメチルセルロース、キトサン、ポリエチレンオキサイド、水溶性ナイロン、これらの重合体を形成するモノマーの共重合体、2−メトキシポリエチレングリコールメタクリレート/アクリル酸2−ヒドロキシルエチル共重合体等のポリオキシエチレン鎖を有するアクリル系重合体等が好ましい。これらは一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
これらの親水性樹脂は、優れた親水性及び耐水性を有するとともに、それ自体の臭気がなく、臭気物質が吸着しにくいので、上記親水性樹脂を含有する当該親水化処理液は、親水性及び防臭性に優れ、又、得られる親水化皮膜は水滴や流水に曝されても劣化しにくいので、所望により含有され、それ自体の埃臭や吸着物質の不快臭を発するシリカ等の無機物や他の残存モノマー成分が露出しにくいので、被処理剤自体が飛散して埃臭を発することが妨げられる。
上記親水性樹脂は、数平均分子量が1000〜100万の範囲内であることが好ましい。数平均分子量が1000以上であると、造膜性、親水性及び他の皮膜物性が良好であり、一方100万以下であると、親水化処理液の粘度が高くなりすぎることがなく、作業性や皮膜物性が良好となる。より好ましい数平均分子量は1万〜20万の範囲である。
なお、上記数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)により測定された標準ポリスチレン換算の値である。
【0029】
上記親水性樹脂は、臭気防止と親水性付与の点で優れていることからポリビニルアルコールであることがより好ましく、なかでもケン化度90%以上のポリビニルアルコール及び/又は変性ポリビニルアルコールであることが特に好ましい。上記ケン化度が90%未満であると、親水性に劣る場合がある。上記ケン化度は、95%以上であることがより好ましい。
上記変性ポリビニルアルコールとしては、ペンダント基中の0.01〜20%が、下記一般式(1)
【0030】
【化1】

【0031】
〔式中、nは1〜500の整数を表し、R1は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、R2は水素原子又はメチル基を表わす。〕で表わされるポリオキシアルキレンエーテル基であるポリオキシアルキレン変性ポリビニルアルコールを用いることができる。
上記ポリオキシアルキレン変性ポリビニルアルコールにおいて、ポリオキシアルキレン変性基がペンダント基中の0.1〜5%であることが好ましく、ポリオキシアルキレン基の重合度nは3〜30であることが好ましい。
上記ポリオキシアルキレン変性ポリビニルアルコールは、ポリオキシアルキレン基の親水性ゆえに、当該親水化処理液において、特に親水性付与の役割を果たす。
【0032】
親水性樹脂は、本発明の親水化処理剤の固形分中、好ましくは10〜99質量%であり、より好ましくは30〜95質量%である。
【0033】
<リン系化合物>
当該親水化処理剤がリン化合物を含有することにより、当該親水化処理剤によってアルミニウム基材表面にはリン化合物を含有する親水化皮膜が形成される。その結果、アルミニウム基材からアルミニウムが溶出しても、親水化皮膜中のリン化合物が当該溶出したアルミニウムと反応してリン酸アルミニウムを形成することで、更なるアルミニウムの溶出を長期間にわたって抑制することができる。
当該親水化処理液がバナジウムイオンを含む場合、該バナジウムイオンは酸化剤としての作用を有し、アルミニウム材を酸化して不動態化し、耐食効果を発揮することが考えられる。リン系化合物として、リン酸、縮合リン酸、ホスホン酸及びそれらの誘導体が用いられる。具体的にはリン酸、ポリリン酸、トリポリリン酸、メタリン酸、ウルトラリン酸、フィチン酸、ホスフィン酸、ヒドロキシエチリデンジホスホン酸、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)、ホスホノブタントリカルボン酸、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウム塩、アクリルホスホン共重合体などを用いることができる。
これらのリン系化合物は一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また当該親水化処理液のリン系化合物の含有量はその種類にもよるが、親水化処理剤の全固形分中におけるリン化合物の濃度は、上記リン化合物による効果を得る観点から、好ましくは0.05〜25質量%であり、より好ましくは0.1〜10質量%である。
【0034】
<バナジウムイオン>
当該親水化処理液には、前述した親水性樹脂と共に、バナジウムイオンを含むことができる。このバナジウムイオンの作用については前述で示したとおりである。
バナジウムイオン源としては、前記(a)工程の化成処理工程で示したバナジウム化合物、好ましくは4価及び5価のバナジウム化合物を用いることが望ましい。
当該親水化処理液がバナジウムイオンを含む場合、前記親水化皮膜中のバナジウム濃度は0.005〜25質量%であることが好ましく、0.05〜2質量%であることがより好ましい。
バナジウムは酸化剤としての作用を有し、アルミニウム基材を酸化して不動態化し、耐食効果を発揮することが考えられる。また、親水化皮膜に取り込まれたバナジウムは継続して同様の効果を有するので、経時的にアルミニウム基材からアルミニウムイオンが溶出しても長期にわたって優れた耐食性が得られる。
【0035】
<リチウムイオン>
当該親水化処理液には、前述した親水性樹脂と共に、リチウムイオンを含むことができる。このリチウムイオン源としては、親水化処理液中でリチウムイオンを形成し得るリチウム化合物であればよく、特に制限されず、例えば水酸化リチウム、硫酸リチウム、炭酸リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム、クエン酸リチウム、乳酸リチウム、リン酸リチウム、シュウ酸リチウム、珪酸リチウム、メタ珪酸リチウムなどを用いることができる。中でも、臭気への影響が少ない点で、水酸化リチウム、硫酸リチウム、炭酸リチウムを用いることが好ましい。リチウムイオン源は一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明においては、このようにリチウムイオンを含む親水化処理液を用い、化成処理皮膜を有するNB法によりフラックスろう付けされたアルミニウム材熱交換器を表面処理して、該化成処理皮膜上に親水化皮膜を形成させることにより、耐食性を大幅に向上させることができる。
【0036】
前記の耐食性を大幅に向上させるメカニズムを推論すると、フラックス、特にハロゲン系フラックス中のカリウムイオン等のアルカリ金属イオンと親水化皮膜からのリチウムイオンとのイオン交換反応を利用して、フラックス残渣と親水化皮膜との界面に難溶性の皮膜形成を行うものである。
イオン交換反応としては、例えば、次の式(2)のような反応が考えられる。
xAlFy + xLi+ → LixAlFy + xK+ (2)
(ただし、x及びyは、x=1,y=4、x=2,y=5又はx=3,y=6である。)
【0037】
フラックス残渣は、主に、フッ化カリウムやフッ化セシウムとフッ化アルミニウムの複合化合物であり、本発明は、リチウムイオンを含む当該親水化処理液による表面処理により、フラックス残渣中のカリウムイオン等と親水化皮膜からのリチウムイオンとのイオン交換反応により、少なくともフラックス残渣と親水化皮膜との界面に難溶性のリチウム塩を含む層を形成して、フラックス残渣の防錆性(耐食性)を向上させることができる。
また、親水化皮膜中のリチウムは長期間にわたって残存するので、上記効果は長期間にわたって持続し得る。
【0038】
当該親水化処理液がリチウムイオンを含む場合、該リチウムイオンはフラックスに吸着して、前記のメカニズムで示すように、アルミニウム材のアルミニウム溶出を抑制するため、防錆効果を発揮する。
当該親水化処理液の固形分中のリチウムの金属換算濃度は、好ましくは0.01〜25質量%であり、より好ましくは0.05〜5質量%である。
【0039】
以上のとおり、アルミニウム基材表面においてアルミニウムの溶出を抑制するバナジウム、リン化合物と、フラックス部分においてフラックスの溶出を抑制するリチウムを併用することにより、NBエバポレータの耐食処理においてお互いに耐食性を補完しあうため、格段に優れた耐食性・耐湿性が得られる
【0040】
<架橋剤>
当該親水化処理液には、それを用いて形成される親水化皮膜の耐水性を向上させる目的で、必要に応じ架橋剤を含有させることができる。
架橋剤としては、ポリビニルアルコールや変性ポリビニルアルコールの水酸基と反応する無機架橋剤や有機架橋剤を用いることができる。
無機架橋剤としては、二酸化珪素などのシリカ化合物、ジルコンフッ化アンモニウムやジルコン炭酸アンモニウムなどのジルコニウム化合物、チタンキレートなどの金属キレート化合物、Ca、Al、Mg、Fe、Znなどの金属塩、等が挙げられる。
一方、有機架橋剤としては、メラミン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ化合物、ブロック化イソシアネート化合物、オキサゾリン化合物、カルボジイミド化合物等が挙げられる。
これらの架橋剤は一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、架橋剤を含有する場合は、親水化処理剤の固形分において0.1〜50質量%が好ましく、0.5〜30質量%がより好ましい。
【0041】
<他の任意成分>
当該親水化処理液には、他の任意成分として、必要に応じて、分散剤、防錆添加剤、顔料、シランカップリング剤、抗菌剤(防腐剤)、界面活性剤、潤滑剤、消臭剤などを適宜含有させることができる。
前記分散剤としては特に限定されず、界面活性剤や、分散樹脂などを挙げることができる。
【0042】
防錆添加剤としては特に限定されず、例えば、タンニン酸、イミダゾール化合物、トリアジン化合物、トリアゾール化合物、グアニジン化合物、ヒドラジン化合物、ジルコニウム化合物等を挙げることができる。なかでも、防錆性を効果的に付与することができることから、ジルコニウム化合物が好ましい。上記ジルコニウム化合物としては特に限定されず、例えば、K2ZrF6等のアルカリ金属フルオロジルコネート;(NH42ZrF6等のフルオロジルコネート等の可溶性フルオロジルコネート等;H2ZrF6等のフルオロジルコン酸等;フッ化ジルコニウム;酸化ジルコニウム等を挙げることができる。
【0043】
顔料としては、例えば酸化チタン(TiO2)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、炭酸カルシウム(CaCO3)、硫酸バリウム(BaSO4)、アルミナ(Al23)、カオリンクレー、カーボンブラック、酸化鉄(Fe23、Fe34)等、酸化アルミニウム(Al23)の無機顔料や、有機顔料等の各種着色顔料等を挙げることができる。
【0044】
シランカップリング剤を含有させると、上記親水性樹脂と上記顔料との親和性が向上し、密着性等を向上させることができる点で好ましい。
上記シランカップリング剤としては特に限定されず、例えば、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、N−〔2−(ビニルベンジルアミノ)エチル〕−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。シランカップリング剤は、縮合物または重合物でもよい。
上記抗菌剤(防腐剤)としては特に限定されず、例えば、2-(4-チアゾリル)ベンズイミダゾール、ジンクピリチオン、ベンゾイソチアゾリン等の従来公知の抗菌剤を使用することができる。
これらの任意成分を含有する場合は、親水化処理剤の固形分中、合計量で0.01〜50質量%が好ましく、0.1〜30質量%がより好ましい。
【0045】
<溶媒>
当該親水化処理液の溶媒は特に限定されないが、廃液処理等の観点から水を主体とする水系溶媒が好ましい。又、造膜性を向上させ、より均一で平滑な皮膜を形成するために溶剤を併用してもよい。溶剤としては、塗料に一般的に用いられ、水と均一に混合することができるものであれば特に限定されず、例えばアルコール系、ケトン系、エステル系、エーテル系の有機溶剤等を挙げることができる。上記溶剤の使用量は、当該親水化処理液中の該溶剤含有量が0.01〜5質量%であることが好ましい。
当該親水化処理液は、処理液としての安定性を向上させるために、pHを調整してもよい。pHの調整は、硫酸、硝酸、アンモニア等の一般的な酸やアルカリで行うことができる。
【0046】
<親水化処理液中の各成分濃度>
当該親水化処理液中の全固形分濃度は、作業性、形成される親水化皮膜の均一性や厚さ、経済性などの観点から、通常1〜11質量%、好ましくは2〜5質量%である。
【0047】
(親水化処理)
本発明においては、前述の(a)工程で化成処理皮膜が形成されたアルミニウム材熱交換器(被処理物)を、前記の当該親水化処理液と接触させることにより、親水化処理を行う。
被処理物は、親水化処理する前に、化成処理されたアルミニウム材熱交換器を従来公知の方法で水洗処理することが好ましい。
前記被処理物と親水化処理液とを接触させる方法としては、浸漬法、スプレー法、塗布法などが挙げられるが、被処理物のアルミニウム材熱交換器は複雑な形状を有することから浸漬法が好ましい。浸漬法を採用する場合、通常室温で10秒間程度浸漬処理する。形成される親水化皮膜の皮膜量は、エアブローによりウェット量をコントロールすることにより、制御することができる。
【0048】
[(c)親水化皮膜形成工程]
この親水化皮膜形成工程は、前述の(b)工程で接触処理されたアルミニウム材熱交換器を、乾燥、焼付け処理して、その表面に親水化皮膜を形成させる工程である。
本発明においては、被処理物を、それ自体の温度が、130〜150℃になるように加熱することで焼付け処理して親水化皮膜を形成する。焼付け時間としては、2〜120分が好ましい。この親水化皮膜の皮膜量は0.1〜5.0g/m2の範囲であることが好ましい。この皮膜量が0.1g/m2未満では耐食性及び耐湿性が不十分となり、一方5.0g/m2を超えると、その量の割には耐食性及び耐湿性の向上効果が発揮されず、むしろ経済的に不利となる。該皮膜量は、より好ましくは0.1〜3.0g/m2、よりさらに好ましくは0.2〜2.0g/m2である。
また、この親水化皮膜においては、リン酸、縮合リン酸、ホスホン酸、その誘導体及びリチウムの中から選ばれる少なくとも一種を、0.05〜25質量%の割合で含むことが好ましく、0.1〜10質量%の割合で含むことがより好ましい。
【0049】
本発明のNB熱交換器の耐食処理方法は、被処理物である熱交換器として、アルミニウム材のフィン及びチューブが、NB法によるフラックスろう付けによって接合され、組み立てられている熱交換器、特に自動車の空調装置に用いられる熱交換器に適用されるものである。
本発明のアルミニウム材熱交換器の耐食処理方法によれば、NB熱交換器の表面に、まず前述した性状を有する化成処理皮膜を形成したのち、この化成処理皮膜上に前述した性状を有する親水化皮膜を形成することにより、両皮膜の相互作用によって、NB熱交換器の耐食性及び耐湿性(耐黒変性)を大幅に向上させ得ると共に、該NB熱交換器に良好な親水性及び防臭性を付与することができる。
【実施例】
【0050】
以下本発明について実施例をあげてさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。また実施例中、「%」、「部」、「ppm」は特に断りのない限り「質量%」、「質量部」、「質量ppm」を意味する。
なお、各例で得られた化成処理液及び親水化処理液を用いて化成処理及び親水化処理された試験熱交換器について、以下に示す物性評価を行った。
【0051】
(1)耐食性
JIS Z 2371に基づき、5質量%食塩水を35℃にて噴霧し、2000時間後の白錆発生面積を下記の評価基準で目視で評価した。
10:白錆発生なし
9:白錆は見られたが、白錆発生面積が10%未満
8:白錆発生面積が10%以上20%未満
7:同20%以上30%未満
6:同30%以上40%未満
5:同40%以上50%未満
4:同50%以上60%未満
3:同60%以上70%未満
2:同70%以上80%未満
1:同80%以上90%未満
【0052】
(2)耐湿性(耐黒変性)
温度55℃、湿度98%以上の雰囲気下で耐湿試験(500時間)を行い、黒変した部分または白化して白錆となった部分の錆発生面積を上記(1)耐食性の評価基準に準じて目視で評価した。
【0053】
(2)親水性
試験熱交換器を流水に72時間接触させた後、水滴との接触角を測定した。接触角が小さい程、親水性が高いと考えられる。接触角の測定は、自動接触角計「CA−Z」(協和界面化学社製)を用いて行った。
親水性は、接触角が40°以下であることが好ましい。
【0054】
(3)臭気
試験熱交換器を水道水流水に72時間接触させた後、臭いを嗅いで6段階評価した。臭気は1.5以下であることが好ましい。
0:無臭
1:やっとかすかに臭いを感じる
2:らくに臭いを感じる
3:明らかに臭いを感じる
4:強く臭いを感じる
5:非常に強く臭いを感じる
【0055】
<試験熱交換器の作製>
熱交換器としては、KAlF4及びK3AlF6のフラックスでろう付けされた自動車用のアルミニウム材製熱交換器を用いた。この熱交換器の、フラックス量は、Kとして50mg/m2(フィン表面)であった。
この熱交換器について、硫酸5%、およびKAlF4及びK3AlF6のフラックス0.5%を含む酸浴中に40℃にて20秒間浸漬処理して酸洗浄を行ったのち、下記の条件で化成処理を行い、次いで下記の条件で親水化処理及び焼付け処理を行い、試験熱交換器を作製した。
(イ)化成処理
前記熱交換器を、化成処理液の浴中に50℃にて60秒間浸漬処理して化成処理を行った。
(ロ)親水化処理及び焼付け処理
上記(イ)の化成処理後の熱交換器を、50℃の温水で30秒間湯洗したのち、親水化処理液の浴中に室温で10秒間浸漬後、エアブローにより、ウェット皮膜量を所定の値に制御する。次いで乾燥炉にて、熱交換器自体の温度が140℃にて5分間維持されるように加熱して焼付け処理し、試験熱交換器を作製した。
【0056】
実施例1
(1)化成処理液の調製
ジルコニウムイオン換算濃度500ppm、メタバナジン酸アンモニウムをバナジウムイオン換算濃度で500ppm、アルミニウムイオン換算濃度200ppm、遊離フッ素イオン10ppmを含有し、かつpHが4である化成処理液を調製した。
(2)親水化処理液の調製
親水化処理液の固形分中に、ポリビニルアルコールが50%、エチレンオキサイド変性ポリビニルアルコールが25%、縮合リン酸が5%、及びシリカが20%含まれるように各成分を配合し、これにイオン交換水を加えて約2%濃度の親水化処理液を調製した。
(3)試験熱交換器の作製
上記(1)で得られた化成処理液を用い、前記(イ)の化成処理を施したのち、前記(2)で得られた親水化処理液を用い、前記(ロ)の親水化処理及び焼付け処理を施し、試験熱交換器を作製し、物性の評価を行った。
化成処理液及び親水化処理液中の各成分の含有量及び物性の評価結果を表1に示す。
試験熱交換器における化成処理皮膜量は、ジルコニウム皮膜:30mg/m2、バナジウム皮膜:15mg/m2であり、親水化皮膜量は0.2g/m2であった。
なお、化成処理皮膜中の各成分の皮膜量は、以下に示す方法に従って測定した。すなわち、フィン部を10mm×10mm以上となるよう張り合わせ、蛍光X線分析装置(島津製作所社製XRF−1700)にて定量した。
また、親水化皮膜の皮膜量は、標準皮膜サンプルの親水皮膜量とこれに含まれる有機炭素量の関係から算出した換算係数を用いて、TOC装置(島津製作所社製TOC−VCSH)の測定値から計算した。
【0057】
実施例2〜22及び比較例1〜5
(1)化成処理液の調製
化成処理液中の各成分の濃度及びpHが表1〜表3に示す値となるように、実施例1(1)と同様にして化成処理液を調製した。
(2)親水化処理液の調製
親水化処理液の各成分の固形分含有量が、表1〜表3に示す値となるように、実施例1(2)と同様にして親水化処理液を調製した。
(3)試験熱交換器の作製
実施例1(3)と同様にして試験熱交換器を作製し、物性の評価を行った。
試験熱交換器の物性の評価結果、並びに化成処理皮膜における各成分の皮膜量及び親水化皮膜量を表1〜表3に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

【0060】
【表3】

【0061】
[注]
(1)化成処理における、Zr(濃度:ppm)はジルコニウムイオン換算濃度、Ti(濃度:ppm)はチタニウムイオン換算濃度、バナジン酸アンモニウム(濃度:ppm)はバナジウムイオン換算濃度、硫酸バナジル(濃度:ppm)はバナジウムイオン換算濃度、Al(濃度:ppm)はアルミニウムイオン換算濃度を表す。
(2)親水化処理における各成分の割合(固形分%)は、親水化処理液の固形分中の各成分の含有量を表す。
(3)PBTC:ホスホノブタントリカルボン酸
(4)ポリビニルアルコール:[ケン化度:99%、数平均分子量:60000]
(5)エチレンオキサイド変性ポリビニルアルコール:[ケン化度:99%、数平均分子量:20000]、ポリオキシエチレン基の含有割合(ポリビニルアルコールの全ペンダント基に対する割合):3%
(6)カルボキシメチルセルロース:[数平均分子量:10000]
(7)ポリビニルスルホン酸ナトリウム:[数平均分子量:20000]
(8)ポリアクリル酸:[数平均分子量:20000]
(9)シリカ(無水シリカ):[1次粒子の平均径:10nm]、無機架橋剤
(10)フェノール樹脂:[レゾール型フェノール、数平均分子量300]、有機架橋剤
【0062】
表1〜表3の実施例及び比較例の物性評価結果から分かるように、本発明における化成処理液及び親水化処理液を用いて、化成処理皮膜及び親水化皮膜を形成してなる、NB法によりフラックスろう付けされたアルミニウム材熱交換器は、2000時間のきびしい塩水噴霧試験に耐える極めて優れた耐食性を有すると共に、耐湿性(耐黒変性)にも優れている。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明のアルミニウム材熱交換器の耐食処理方法は、被処理物である熱交換器として、アルミニウム材のフィン及びチューブが、NB法によるフラックスろう付けによって接合され、組み立てられている熱交換器、特に自動車の空調装置に用いられる熱交換器に適用されるものであって、該NB熱交換器に極めて優れた耐食性及び耐湿性(耐黒変性)を付与し得ると共に、良好な親水性及び防臭性を付与することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノコロックろう付け法によりフラックスろう付けされたアルミニウム材熱交換器の耐食処理方法であって、
(a)前記アルミニウム材熱交換器を、ジルコニウム及び/又はチタニウム含有量が10〜10000質量ppm、バナジウム含有量が1〜10000質量ppm、〔(ジルコニウム+チタニウム)/バナジウム〕質量比が0.1〜100及びpHが1.5〜7である化成処理液で化成処理して、化成処理皮膜を形成する工程、
(b)前記(a)工程で化成処理皮膜が形成されたアルミニウム材熱交換器を、親水性樹脂を含むと共に、リン酸、縮合リン酸、ホスホン酸及びそれらの誘導体並びにリチウムイオンの中から選ばれる少なくとも一種を含む親水化処理液と接触させる工程、及び
(c)前記(b)工程で接触処理されたアルミニウム材熱交換器を、焼付け処理して、その表面に親水化皮膜を形成させる工程、
を含むことを特徴とするアルミニウム材熱交換器の耐食処理方法。
【請求項2】
前記(a)工程における化成処理液が、さらにアルミニウムイオン100〜5000質量ppm及び遊離フッ素イオン1〜100質量ppmを含む請求項1に記載のアルミニウム材熱交換器の耐食処理方法。
【請求項3】
(a)工程における化成処理皮膜において、(Zr+Ti)皮膜量が1〜200mg/g、V皮膜量が1〜200mg/m2であり、かつ〔(Zr+Ti)/V〕質量比が0.1〜100であって、(c)工程における親水化皮膜量が0.05〜5.0g/m2である請求項1又は2に記載のアルミニウム材熱交換器の耐食処理方法。
【請求項4】
親水性樹脂が、ケン化度90%以上のポリビニルアルコール及び/又は変性ポリビニルアルコールである請求項1〜3のいずれかに記載のアルミニウム材熱交換器の耐食処理方法。
【請求項5】
(b)工程において、親水化処理液が、さらにバナジウムを含み、かつ焼付け処理後の親水化皮膜中のバナジウム濃度が金属換算で0.005〜25質量%である請求項1〜4のいずれかに記載のアルミニウム材熱交換器の耐食処理方法。

【公開番号】特開2011−214105(P2011−214105A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−84664(P2010−84664)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】