説明

アルミニウム溶湯用ろ過フィルター

【課題】TiBなどの結晶粒微細化剤は適量通過させることができ、他の介在物は除去することができるアルミニウム溶湯用ろ過フィルターを提供する。
【解決手段】本発明のアルミニウム溶湯用ろ過フィルターは、アルミナを含む骨材粒子100重量部を、無機質結合材5〜20重量部にて結合してなるアルミニウム溶湯用ろ過フィルターであって、該結合材中に、SiO7〜15wt%、B40〜60wt%、Al5〜30wt%、を含み、フィルター中に、NaO0.01〜0.5wt%、KO0.01〜0.5wt%、CaO0.1〜0.5wt%を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム溶湯中に混在する介在物などをろ過するために用いるアルミニウム溶湯用ろ過フィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムは、例えば、アルミニウム溶湯を鋳造してインゴットを作製し、これを圧延して薄板などに形成される。アルミニウム溶湯中に非金属介在物が混入していると圧延の際に表面欠陥などが生じることがある。
そこで、これらを除去するためにフィルターを用いて、アルミニウム溶湯をろ過している。
【0003】
このようなフィルターとしては、例えば、電融アルミナ及び焼結アルミナの1種以上からなる骨材粒子100重量部を無機質結合材10〜20重量部にて結合してなり、該無機質結合材の原料組成がSiO2が25重量%を超え〜35重量%、B23が30〜40重量%、Al23が20〜35重量%、残部MgOからなることを特徴とするアルミニウム溶湯濾過用フィルター(下記特許文献1参照)、
【0004】
電融アルミナ及び焼結アルミナの一方又は両方からなる骨材粒子と結合材とからなり、該結合材は該骨材粒子100重量部に対して10〜22重量部となる量で存在しており、該結合材は15〜35重量%のAl2 3 、35〜52重量%のB2 3 、7重量%以上15重量%未満のSiO2 を含み、残部がMgOであることを特徴とする金属溶湯濾過用セラミックフィルター(下記特許文献2参照)、
【0005】
焼結アルミナ、電融アルミナ、炭化珪素および窒化珪素の1種以上よりなる骨材粒子を無機質結合材により結合させたアルミニウム溶湯用濾材であって、骨材粒子100重量部に対して4〜20重量部の無機質結合材にて結合してなり、該無機質結合材の原料組成が、B15〜40重量%、Al20〜45重量%、SiO15〜25重量%、残部はMgO、CaO及びSrOの1種以上よりなることを特徴とするアルミニウム溶湯用濾材(下記特許文献3参照)、
【0006】
セラミック製充填体の表面に針状結晶を析出させてなることを特徴とする金属溶湯用濾材(下記特許文献4参照)などが開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−29423号公報
【特許文献2】特開平10−286416号公報
【特許文献3】特開平5−138339号公報
【特許文献4】特開平7−90400号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来では、高純度のアルミニウムを製造するため、フィルターのろ過性能を向上させ、アルミニウム溶湯中の介在物をできるだけ除去することが行われていた。
しかし、アルミニウム溶湯中には結晶粒を微細化するためにTiBなどの結晶粒微細化剤を混入させる。ろ過性能が優れすぎていると、結晶粒微細化剤も除去されてしまい、そのような溶湯から鋳造したアルミニウムは、結晶粒が粗大化してしまい、鋳塊割れなどの欠陥が発生してしまうという問題が生じていた。
【0009】
そこで、本発明の目的は、TiBなどの結晶粒微細化剤は適量通過させることができ、他の介在物は除去することができるアルミニウム溶湯用ろ過フィルターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のアルミニウム溶湯用ろ過フィルターは、アルミナを含む骨材粒子100重量部を、無機質結合材5〜20重量部にて結合してなるアルミニウム溶湯用ろ過フィルターであって、該結合材中に、SiO7〜15wt%、B40〜60wt%、Al5〜30wt%、残部がMgOなどからなり、フィルター中に、NaO0.01〜0.5wt%、KO0.01〜0.5wt%、CaO0.1〜0.5wt%を含むことを特徴とする。
【0011】
または、本発明のアルミニウム溶湯用ろ過フィルターは、無機結合材に生成する9Al・2Bの針状結晶の平均長さが2μm〜20μmで、かつ、長さ20μm以上の針状結晶の割合が5%以下であることを特徴とする。
【0012】
上記アルミニウム溶湯用ろ過フィルターは、フィルター焼成温度が1100〜1400℃であることが好ましい。
【0013】
本発明のフィルターは、TiB捕獲率が40〜60%、800℃での曲げ強度が2MPa以上になり、TiBなどの結晶粒微細化剤を適量通過させることができ、このフィルターによりろ過したアルミニウム溶湯から鋳造した鋳造物は、鋳塊割れの発生が少ないものになり、また、取扱破損もないものである。
【0014】
なお、本発明において、アルミニウム溶湯はアルミニウム合金溶湯を含むものである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のアルミニウム溶湯用ろ過フィルターの一実施形態を説明する。なお、本発明の範囲は、この実施形態に限定されるものではない。
【0016】
本発明の一実施形態のアルミニウム溶湯用ろ過フィルター「以下、本フィルターという。」は、アルミナからなる骨材粒子100重量部に対して、無機質結合材5〜20重量部にて結合してなるものである。
【0017】
該結合材は、SiO7〜15wt%、B40〜60wt%、Al5〜30wt%を含み、残部にMgOなどを含むことが好ましい。
アルミナ(Al)としては、電融アルミナや焼結アルミナを用いることができる。
【0018】
また、本フィルターは、アルカリ分としてNaO、KO、CaOを含むのが好ましく、これらは、フィルター中に、NaO0.01〜0.5wt%、KO0.01〜0.5wt%、CaO0.1〜0.5wt%、を含むのが好ましい。
【0019】
本フィルターの無機質結合材には、9Al・2Bの針状結晶が生成しており、その平均長さは2μm〜20μmであり、かつ、長さ20μm以上の針状結晶の割合は5%以下であることが好ましい。
針状結晶の平均長さ及び割合は、下記実施例で示したように測定することができる。
【0020】
本フィルターは、例えば、電融アルミナや焼結アルミナからなる骨材粒子100重量部に対して、上記割合の無機質結合材5〜20重量部を添加し、さらに、NaO、KO、CaOのアルカリ分、多糖類などの有機バインダー、水などを適量添加して混錬し、これを、成形、乾燥、焼結させて製造することができる。この焼成は、1100〜1400℃で行うのが好ましい。
【0021】
本フィルターは、無機質結合材に、9Al・2Bの針状結晶が生成しており、その平均長さは2μm〜20μmであり、かつ、長さ20μm以上の針状結晶の割合は5%以下である。このため、溶湯中のTiBなどの微細化剤は40〜60%捕獲されるが、適量の微細化剤は通過するため、本フィルターでろ過した溶湯から鋳造した鋳造物は鋳塊割れなどの欠陥が少ないものになる。
【0022】
また、本フィルターは、800℃での曲げ強さが2MPa以上になり、取扱時に破損することがないものである。
なお、曲げ強さは、下記実施例で示したように測定することができる。
【実施例】
【0023】
以下、本発明を実施例に基づいて、より具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、この実施例に限定されるものではない。
【0024】
(実施例1〜16及び比較例1〜13)
骨材粒子として電融アルミナ#24を用い、これ100重量部に対して無機質結合材を下記表1及び表2に示す割合で添加し、さらに、アルカリ分、有機バインダー及び水を適量添加して混錬し、外径100mm×内径60mm×長さ870mmのパイプ状に鋳込成形後、乾燥させ、下記表1及び表2に示す温度で焼成して、実施例1〜16及び比較例1〜13のフィルターを作製した。
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】

【0027】
(試験)
実施例1〜16及び比較例1〜13のフィルターを用い、以下の測定及び評価試験を行った。
【0028】
(針状結晶の平均長さ)
各実施例及び比較例のフィルターの表面をSEMにて観察し、ランダムに選び出した100本の針状結晶の平均長さを求めた。その結果を上記表1及び表2に示す。
【0029】
(針状結晶の割合)
各実施例及び比較例のフィルターの表面をSEMにて観察し、ランダムに選び出した100本から20μm以上の長さの結晶の割合を求めた。その結果を上記表1及び表2に示す。
【0030】
(アルカリ分)
各実施例及び比較例のフィルターを分析し、NaO、KO、CaOの含有割合を測定した。その結果を上記表1及び表2に示す。
【0031】
(捕獲率)
各実施例及び比較例のフィルターをろ過装置に装着し、TiBを添加したアルミニウム溶湯をろ過させた。ろ過前後のB(ホウ素)を分析し、捕獲率を測定した。
【0032】
(曲げ強さ)
各実施例及び比較例のフィルターから20×20×100mmの大きさの試験体を切り出し、その試験体を電気炉中800℃で20分間保持した直後に、2点支持1点荷重(支持スパン90cm)で荷重をかけ、試験体が破損する荷重を測定した。その結果を上記表1及び表2に示す。
【0033】
(鋳塊割れ)
各実施例及び比較例のフィルターをろ過装置に装着し、微細化剤を添加したアルミニウム溶湯をろ過させ、その溶湯からインゴットを作製し、鋳塊割れがないか目視にて観察した。鋳塊割れが無い場合を「○」、有る場合を「×」として評価した。その結果を上記表1及び表2に示す。
【0034】
(取扱破損)
上記曲げ強さの測定において、2MPa以上ある場合を「○」、これ未満の場合を「×」として評価した。その結果を上記表1及び表2に示す。
【0035】
(溶湯汚染)
各実施例及び比較例のフィルターを、アルミニウム溶湯に72時間浸漬し、試験前後のアルミニウム溶湯中の成分を測定した。その結果、Si濃度が、60ppm以下を「○」、60ppmを越え100ppmまでを「△」、100ppmを超える場合を「×」として評価した。その結果を上記表1及び表2に示す。
【0036】
(総合判断)
「鋳塊割れ」、「取扱破損」、「溶湯汚染」の評価において、3項目共「○」の場合を「◎」、「○」が2つの場合を「○」、「○」が1つの場合を「△」、「×」が3つの場合を「×」として評価した。
【0037】
(結果)
実施例1〜16は、総合判断「◎」又は「○」の評価であり、これらは、無機質結合材中に、SiO7〜15wt%、B40〜60wt%、Al5〜30wt%、を含み、フィルター中に、NaO0.01〜0.5wt%、KO0.01〜0.5wt%、CaO0.1〜0.5wt%を含むものであり、また、無機質結合材に生成する9Al・2Bの針状結晶の平均長さが2μm〜20μmで、かつ、長さ20μm以上の針状結晶の割合が5%以下である。
このようなアルミニウム溶湯用ろ過フィルターは、TiB捕獲率が40〜60%になり、鋳塊割れがおこりにくく、また、曲げ強さが2.0MPa以上であり、取扱破損が生じないものであった。
特に、これらのなかでも実施例9〜16は、これらは溶湯汚染もなく、総合判断が「◎」になるものであった。
比較例1〜13は、総合判断「△」又は「×」の評価であり、鋳塊割れ、取扱破損のいずれか又は両方が生じてしまうものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナを含む骨材粒子100重量部を、無機質結合材5〜20重量部にて結合してなるアルミニウム溶湯用ろ過フィルターであって、該結合材中に、SiO7〜15wt%、B40〜60wt%、Al5〜30wt%、を含み、フィルター中に、NaO0.01〜0.5wt%、KO0.01〜0.7wt%、CaO0.1〜0.5wt%を含むアルミニウム溶湯用ろ過フィルター。
【請求項2】
アルミナを含む骨材粒子100重量部を、無機質結合材5〜20重量部にて結合してなるアルミニウム溶湯用ろ過フィルターであって、該結合材に生成する9Al・2Bの針状結晶の平均長さが2μm〜20μmで、かつ、長さ20μm以上の針状結晶の割合が5%以下であるアルミニウム溶湯用ろ過フィルター。
【請求項3】
アルミナを含む骨材粒子100重量部を、無機質結合材5〜20重量部にて結合してなるアルミニウム溶湯用ろ過フィルターであって、該結合材中に、SiO7〜15wt%、B40〜60wt%、Al5〜30wt%、NaO0.01〜0.5wt%を含み、フィルター中にKO0.01〜0.5wt%、CaO0.1〜0.5wt%を含み、前記結合材に生成する9Al・2Bの針状結晶の平均長さが2μm〜20μmで、かつ、長さ20μm以上の針状結晶の割合が5%以下であるアルミニウム溶湯用ろ過フィルター。
【請求項4】
フィルター焼成温度が1100〜1400℃である請求項1〜3のいずれかに記載のアルミニウム溶湯用ろ過フィルター。