説明

アルミ曲げ加工材の製造方法及びアルミ曲げ加工材

【課題】使用目的に応じて周囲の環境との調和や意匠性等の向上を図る目的で、アルミニウム材それ自体の外観や雰囲気を生かしつつ、特に手で触れてもザラザラした感触はないが、ギラギラした金属光沢感がなくて目に優しく、高級感にも優れた、いわゆる梨地状表面を生かした意匠性に優れたアルミ曲げ加工材を容易に製造することができるアルミ曲げ加工材の製造方法を提供する。
【解決手段】アルミニウム材に曲げ加工を施して塑性変形領域である曲げ部を有する曲げ加工素材を形成し、得られた曲げ加工素材の表面に化学的粗面化処理を施し、次いで粗面化処理後の曲げ加工素材の表面に陽極酸化処理を施して、あるいは、この陽極酸化処理後に着色処理を施してアルミ曲げ加工材を製造する、アルミ曲げ加工材の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム材に曲げ加工を施して得られたアルミ曲げ加工材に係り、特に曲げ加工の際に塑性変形が生じる領域(曲げ部)に不可避的に発生する曲げ痕を表面処理により可及的に非顕在化せしめたアルミ曲げ加工材の製造方法及びアルミ曲げ加工材に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム材は、軽量で優れた加工性を有することから、押出形材や板材等として鉄道車両内装材、建物の外壁や窓、玄関建具等の建物用内外装材、道路資材、各種のキャビネット、冷凍車コンテナ、冷凍ショーケース、日用品等の各種内外装材等、極めて多くの用途に多岐に亘って利用されている。
【0003】
また、このアルミニウム材については、鋼材等の他の金属材料に比べて柔らかくて曲げ加工が容易であることから、その押出形材や板材等に曲げ加工を施して所定の形状を有する曲げ加工素材とし、次いでこの曲げ加工素材の表面に陽極酸化処理を施してアルミ曲げ加工材とすることが行われており、更に必要により、このアルミ曲げ加工材の表面にアクリル電着塗装や通常の塗装を施して塗膜層を有するアルミ塗装材とし、例えば窓枠材、外装材、手摺材、窓枠状フレーム等のように、曲げ部を有する種々の用途の製品資材として使用することが頻繁に行われている。
【0004】
しかるに、このようなアルミ曲げ加工材については、アルミニウム材の曲げ加工の際にその塑性変形に基いて曲げ加工素材の曲げ部に曲げ痕が不可避的に発生し、この曲げ痕は曲げ加工素材の陽極酸化処理によっては消失せず、そのまま残って表面の美観を損ない、商品価値を損なう原因にもなる。このアルミ曲げ加工材の曲げ部に過度の塑性変形により発生する曲げ痕は、押出形材等に発生して押出方向に沿って形成される押出痕や板材等に発生して圧延方向に沿って形成される圧延痕とは異なり、曲げ加工によって曲げの圧縮側と伸び側との間に複雑な形状に形成される。また、このアルミ曲げ加工材には、曲げ加工金型との摩擦によるキズも生じる。
【0005】
このため、従来においては、アルミ曲げ加工材をそのまま製品資材として用いることはほとんど行われておらず、一般的には、アルミ曲げ加工材の表面に陽極酸化皮膜を形成した後にアルミ曲げ加工材の素地が現れないように艶消しタイプあるいは隠蔽度の高い電着塗装を施したり(特開平8-170,036号や特開2006-77,110号の各公報参照)、不透明な塗料で塗装することが行われていた。また、曲げ痕を目立たなくするための処理方法として、一般的には、ショットブラスト処理やバフ研磨により地荒し処理を行うことも行われていた。しかしながら、これらの方法においては、前者の場合には、製品表面にアルミニウム生地の特色を残すことができなくなるほか、例えこのような塗装を施しても、使用する塗料が隠蔽度の高い塗料でない限り、アルミ曲げ加工材の表面に発生した曲げ痕が塗装後の表面に現れるのを完全に防止するのは困難であり、反対に、後者の場合には、その後に行われる表面処理ラインでの処理が困難になり、必然的に別ラインの作業になって工数がかかり、それ自体の工数も大きく、製造コストが上昇するという問題がある。
【0006】
ところで、アルミニウム材については、近年、その使用目的に応じて周囲の環境との調和や意匠性等の向上を図る目的で、表面処理として梨地処理、ブラスト処理等の方法で表面光沢を調整したり、必要により更にその上にクリア塗装を施し、これによって、アルミニウム材それ自体の外観や雰囲気を生かしつつ、特に手で触れてもザラザラした感触はないが、ギラギラした金属光沢感がなくて目に優しく、高級感にも優れた、いわゆる梨地状表面を生かした製品が求められるようになってきており、この傾向は曲げ加工が施されて所定の形状を有するアルミ曲げ加工材についても例外ではない。
【0007】
しかしながら、アルミニウム材の押出痕や圧延痕については、アルミニウム材の表面に特定の表面処理を施してこれら押出痕や圧延痕を消失させ、あるいは、目立たなくさせるための多くの提案がされているが(例えば、特開平11-106,958号、特開2001-59,199号、特開2001-59,200号、特開2001-107,293号、特開2003-27,283号、特開2003-27,284号、特開2003-27,285号、特開2003-27,286号、特開2003-27,287号等の各公報参照)、アルミ曲げ加工材の曲げ痕についてはこれまでに何らの提案もされていない。
【特許文献1】特開平8-170,036号公報
【特許文献2】特開2006-77,110号公報
【特許文献3】特開平11-106,958号公報
【特許文献4】特開2001-59,199号公報
【特許文献5】特開2001-59,200号公報
【特許文献6】特開2001-107,293号公報
【特許文献7】特開2003-27,283号公報
【特許文献8】特開2003-27,284号公報
【特許文献9】特開2003-27,285号公報
【特許文献10】特開2003-27,286号公報
【特許文献11】特開2003-27,287号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明者らは、アルミニウム材に曲げ加工を施して得られたアルミ曲げ加工材の曲げ部(塑性変形領域)に不可避的に発生する曲げ痕を簡単な表面処理により可及的に非顕在化させることができるアルミ曲げ加工材の製造方法について鋭意検討した結果、アルミニウム材に曲げ加工を施して得られた曲げ部(塑性変形領域)を有する曲げ加工素材の表面に所定の化学的粗面化処理を施すことにより、梨地状表面とし、その後に陽極酸化処理を施して、あるいは、この陽極酸化処理後に着色処理を施して得られたアルミ曲げ加工材における曲げ部の曲げ痕を非顕在化させることが可能であることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
従って、本発明の目的は、使用目的に応じて周囲の環境との調和や意匠性等の向上を図る目的で、アルミニウム材それ自体の外観や雰囲気を生かしつつ、特に手で触れてもザラザラした感触はないが、ギラギラした金属光沢感がなくて目に優しく、高級感にも優れた、いわゆる梨地状表面を生かした意匠性に優れたアルミ曲げ加工材を容易に製造することができるアルミ曲げ加工材の製造方法を提供することにある。
【0010】
また、本発明の他の目的は、アルミニウム材それ自体の外観や雰囲気を生かしつつ、特に手で触れてもザラザラした感触はないが、ギラギラした金属光沢感がなくて目に優しく、高級感にも優れた、いわゆる梨地状表面を生かした意匠性に優れたアルミ曲げ加工材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム材に曲げ加工を施して塑性変形領域である曲げ部を有する曲げ加工素材を形成し、得られた曲げ加工素材の表面に化学的粗面化処理を施して梨地状表面とし、次いで粗面化処理後の曲げ加工素材の表面に陽極酸化処理を施して、あるいは、この陽極酸化処理後に着色処理を施してアルミ曲げ加工材を製造することを特徴とするアルミ曲げ加工材の製造方法である。
また、本発明は、このような方法で製造されたアルミ曲げ加工材である。
【0012】
本発明において、曲げ加工が施されるアルミニウム材としては、特に制限はなく、例えば押出形材、板材等を挙げることができ、また、このようなアルミニウム材に曲げ加工を施して得られる曲げ加工素材としては、少なくとも塑性変形領域である曲げ部を有するものであればよいが、一般的には、曲げ加工による塑性変形が及ばない非塑性変形領域である一般部を併せて有する場合が多い。そして、このように曲げ部と一般部とを併せて有する曲げ加工素材においてはその曲げ部の曲げ痕が目立ってその曲げ加工素材の意匠性が損なわれることが多いが、本発明は、かかる曲げ部と一般部とを併せて有する曲げ加工素材(化学的粗面化処理と陽極酸化処理又は陽極酸化処理及びその後の着色処理を経て「アルミ曲げ加工材」となる。)において、その曲げ痕を非顕在化させる上で特に効果的である。
【0013】
本発明において、アルミニウム材に対する曲げ加工の手段については特に制限されるものではなく、例えば回転引曲げ、圧縮曲げ、ロール曲げ、プレス曲げ、引張り曲げ、押通し曲げ等の手段を例示することができる。このような曲げ加工手段により形成された曲げ加工素材においては、通常、その曲げ加工の程度に応じて、曲げの圧縮側と伸び側との間に高さや大きさの異なる、例えば扇骨形状等の複雑な不規則形状の曲げ痕が形成される。
【0014】
このようにして形成された曲げ加工素材については、次にその表面に化学的粗面化処理が施され、梨地状表面が形成される。
そして、この化学的粗面化処理においては、基本的には曲げ加工素材に形成された曲げ痕が目立たないようになればよいが、好ましくは、非塑性変形領域である一般部の表面粗さRa(A)が曲げ部の表面粗さRa(B)に対して粗さ比率{(A÷B)×100}で40%以上、より好ましくは50%以上、更により好ましくは50%以上70%以下となるように実施するのがよい。ここで、曲げ加工素材が曲げ部と一般部とを有する場合には、これら曲げ部と一般部とにそれぞれ形成される表面粗さRaが上記の粗さ比率{(A÷B)×100}となるように化学的粗面化処理の処理条件を調整すればよく、また、曲げ加工素材が曲げ部のみで一般部を有さない場合には、曲げ加工前のアルミニウム材の表面を曲げ加工素材の一般部と想定し、曲げ加工素材とアルミニウム材とを同じ処理条件で化学的粗面化処理を行い、一般部の表面粗さRa(A)が曲げ部の表面粗さRa(B)に対して粗さ比率{(A÷B)×100}で40%以上となる処理条件を求め、この処理条件で曲げ加工素材の化学的粗面化処理を行う。
【0015】
曲げ加工素材の表面の化学的粗面化処理の具体的な方法については、代表的には、大きくは酸性処理液を用いる酸エッチング処理やアルカリ性処理液を用いるアルカリエッチング処理を始めとして、更に、電気的アシストされた化学的粗面化処理可能な酸性又はアルカリ性等の電解液中で曲げ加工素材を陽極として電解し、陽極溶解を起こさせて梨地等に粗面化する電気化学的粗面化処理等があり、上記の曲げ加工素材の一般部の表面粗さRa(A)が曲げ部の表面粗さRa(B)に対して粗さ比率{(A÷B)×100}で40%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは50%以上70%以下となる処理条件を達成できればいずれの方法であってもよく、綺麗な梨地表面が得られることから好ましくは酸エッチング処理や電気化学的粗面化処理であり、微細な凹凸面(粗面)が形成されることから、より好ましくはフッ素イオンの存在下に行われる酸エッチング処理であるのがよい。
【0016】
曲げ加工素材の表面の化学的粗面化処理において、上記の曲げ加工素材の一般部の表面粗さRa(A)が曲げ部の表面粗さRa(B)に対して粗さ比率{(A÷B)×100}で40%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは50%以上70%以下となる処理条件を設定する際には、一般的には、一般部と曲げ部とを有する曲げ加工素材の試験片を調製し、この試験片を用いて所定の化学的粗面化処理についての処理条件、例えば処理液の成分濃度、液温、処理時間等を設定すればよい。
【0017】
本発明においては、上記の粗面化処理後に梨地状となった曲げ加工素材の表面に陽極酸化処理を施して、あるいは、この陽極酸化処理後に着色処理を施してアルミ曲げ加工材が製造される。
【0018】
この粗面化処理後の曲げ加工素材の陽極酸化処理については、特に従来の方法と変わるところがなく、例えば、電解浴の建浴に硫酸、シュウ酸、クロム酸、ホウ酸等を用いる公知の方法が適用可能であり、また、低温で高い電解電圧を付与して形成される陽極酸化皮膜の溶解を抑えた硬質アルマイト処理も適用することができる。この陽極酸化処理における電解浴組成や処理条件については、硫酸濃度、浴温度、電解時間等を考慮して適宜設定でき、例えば、硫酸150〜220g/L及び浴温度18〜24℃の電解浴を用いて電流密度100〜150A/dm2及び電解時間20〜40分の条件を例示することができる。
【0019】
本発明において、曲げ加工素材を陽極酸化処理して得られた陽極酸化処理後の曲げ加工素材(アルミ曲げ加工材)については、実質的に陽極酸化処理前の曲げ加工素材の表面状態が維持され、化学的粗面化処理において形成された梨地状表面の曲げ加工素材の一般部の表面粗さRa(A)と曲げ部の表面粗さRa(B)との粗さ比率{(A÷B)×100}も実質的に40%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは50%以上70%以下が維持され、結果として、アルミニウム材それ自体の外観や雰囲気が生かされ、手で触れてもザラザラした感触はなく、また、ギラギラした金属光沢感がなくて目に優しく、高級感にも優れた、いわゆる梨地状表面を生かした意匠性に優れた表面が得られる。
【0020】
また、本発明で得られた陽極酸化処理後の曲げ加工素材(アルミ曲げ加工材)については、そのままであるいは着色処理を施して鉄道車両内装材、建物の外壁や窓、玄関建具等の建物用内外装材、道路資材、各種のキャビネット、冷凍車コンテナ、冷凍ショーケース、日用品等の各種内外装材等の用途に好適に用いることができる。また、その表面にクリヤー電着塗装や通常のクリヤー塗装を施して透明な塗膜層を有するアルミ塗装材は、アルミ曲げ加工材の表面のいわゆる梨地状表面の意匠性をより長期に亘って維持することができる。
【0021】
更に、上記陽極酸化処理後にその表面に施す着色処理については、特に制限されるものではなく、例えば通常の電解着色、染色等を挙げることができ、更に必要により、その表面にクリヤー電着塗装や通常のクリヤー塗装を施して透明な塗膜層を有するアルミ着色塗装材とし、種々の色調を有して周囲と調和するアルミ曲げ加工材とすることができる。このように陽極酸化処理後に着色処理を施しても、本発明の化学的粗面化処理による曲げ痕隠蔽効果は変わるところがなく、多くの用途に対応できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、アルミニウム材に曲げ加工を施して得られた曲げ部(塑性変形領域)、好ましくは曲げ部と一般部(非塑性変形領域)とを有する曲げ加工素材の表面に所定の化学的粗面化処理を施して梨地状表面とし、陽極酸化処理を施して、あるいは、この陽極酸化処理後に着色処理を施して得られたアルミ曲げ加工材における曲げ部の曲げ痕を非顕在化させ、アルミニウム材それ自体の外観や雰囲気を生かしつつ、特に手で触れてもザラザラした感触はないが、ギラギラした金属光沢感がなくて目に優しく、高級感にも優れた、いわゆる梨地状表面を生かした意匠性に優れたアルミ曲げ加工材を容易に製造することができ、また、このようなアルミ曲げ加工材にクリヤー塗装をすればより耐久性に優れたアルミ曲げ加工材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、実施例及び比較例に基いて、本発明の好適な実施の形態を具体的に説明する。
【0024】
[実施例1〜5及び比較例1、2]
図1(b)に示すように、約12mmの垂直な長辺とこの長辺の両端から90度の角度で水平に延びる約10mmの短辺とを有して横断面略E字状に形成された枠材用のアルミニウム合金押出形材(JIS A 6063-T1)を所定の長さに切断し、次いで曲げ加工機を用いて長辺側を外側にして短辺を略水平にし、曲率半径20mmで90度の曲げ加工を行い、図1(a)に示すように、一般部3及び曲げ部2を有する曲げ加工素材1の試験片を調製した。
【0025】
得られた試験片について、非イオン界面活性剤(日華化学株式会社製商品名:ニッカサンクリーンL-41)により脱脂処理した後、フッ化物含有の酸エッチング処理液(日本シービーケミカル社製:JCB-3712)を用い、処理液濃度(JCB-3712として)約200g/L及び液温34±1℃に維持し、表1に示す処理時間で粗面化処理を行い、次いで15wt%-硫酸水溶液により中和処理して粗面化処理後の試験片を得た。
【0026】
このようにして得られた粗面化処理後の試験片について、硫酸180g/L及び浴温20±1℃の電解浴を用い、電流密度115A/dm2及び電解時間24.5分の条件で陽極酸化処理を行い、粗面化処理後の試験片の表面に膜厚9〜11μmの陽極酸化皮膜を形成し、各実施例1〜5及び比較例1、2に係るアルミ曲げ加工材の試験片を調製した。
【0027】
各実施例及び比較例の試験片(アルミ曲げ加工材)を調製する過程で、表面粗さ測定装置(東京精密社製商品名:サーフコム113B)を用い、粗面化処理前後の試験片(曲げ加工素材)の一般部3及び曲げ部2における表面粗さRa(A,B)を測定し、粗面化処理前後の一般部3における表面粗さRa(A)と曲げ部2の表面粗さRa(B)との粗さ比率{(A÷B)×100}を求めると共に、陽極酸化処理後の試験片(アルミ曲げ加工材)の表面状態を目視観察し、◎:一般部と曲げ部とが均一な表面となり、曲げ痕が全く認められない、○:一般部と曲げ部とがほぼ均一な表面となり、曲げ痕がほとんど認められない、△:曲げ部に若干の曲げ痕が認められる、及び×:曲げ部に顕著な曲げ痕が認められる、の4段階で目視評価を行った。結果を表1に示す。
【0028】
また、比較例1及び実施例3の試験片(曲げ加工素材)について、その粗面化処理前後の一般部3及び曲げ部2における表面粗さの測定結果をそれぞれ図2及び図3に示す。これら図2及び図3において、(a)は粗面化処理前の一般部における表面粗さの測定結果であり、(b)は粗面化処理後の一般部における表面粗さの測定結果であり、(c)は粗面化処理前の曲げ部における表面粗さの測定結果であり、また、(d)は粗面化処理後の曲げ部における表面粗さの測定結果である。
【0029】
【表1】

【0030】
表1に示す結果から明らかなように、粗面化処理前後の一般部3における表面粗さRa(A)と曲げ部2の表面粗さRa(B)との粗さ比率{(A÷B)×100}が40%を超える各実施例1〜5の試験片(アルミ曲げ加工材)においては、そのいずれも目視評価が◎又は○であり、曲げ痕がほとんど認められず、全体が綺麗な真珠色の梨地表面に仕上がっており、これに対して、比較例1及び2においては、曲げ痕が認められた。
【0031】
また、上記実施例3の試験片(アルミ曲げ加工材)について、表面粗さ測定装置(東京精密社製商品名:サーフコム113B)を用い、陽極酸化処理後の曲げ部2における表面粗さを測定した。結果を図4に示す。
【0032】
上記図3(d)に示された粗面化処理後の曲げ部2における表面粗さの測定結果と、この図4に示された陽極酸化処理後の試験片(アルミ曲げ加工材)の曲げ部2における表面粗さの測定結果とから、表面粗さの測定位置が完全に一致している訳ではないので定量的に評価することはできないが、陽極酸化処理後も陽極酸化処理前の試験片(曲げ加工素材)の曲げ部における表面粗さが実質的に維持されることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、鉄道車両内装材、建物の外壁や窓、玄関建具等の建物用内外装材、道路資材、各種のキャビネット、冷凍車コンテナ、冷凍ショーケース、日用品等の各種内外装材等、極めて多くの用途において、その使用目的に応じて周囲の環境との調和や意匠性等の向上を図る目的で、アルミニウム材それ自体の外観や雰囲気を生かしつつ、アルミニウム材の梨地状表面を生かしたアルミ曲げ加工材を提供することができ、更にクリヤー塗装を施すことによりより耐久性に優れたアルミ曲げ加工材を提供することができ、その工業的価値の高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は、本発明の実施例及び比較例で用いた曲げ加工素材及びアルミ曲げ加工材の試験片の形状を示す説明図であり、(a)は平面図であって、(b)は(a)のb−b線断面図である。
【0035】
【図2】図2は、比較例1の曲げ加工素材の試験片で得られた粗面化処理前後の一般部3及び曲げ部2における表面粗さの測定結果を示すグラフ図である。
【0036】
【図3】図3は、実施例3の曲げ加工素材の試験片で得られた粗面化処理前後の一般部3及び曲げ部2における表面粗さの測定結果を示すグラフ図である。
【0037】
【図4】図4は、実施例3のアルミ曲げ加工材の試験片で得られた陽極酸化処理後の曲げ部2における表面粗さの測定結果を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0038】
1…曲げ加工素材(アルミ曲げ加工材)
2…曲げ部
3…一般部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム材に曲げ加工を施して塑性変形領域である曲げ部を有する曲げ加工素材を形成し、得られた曲げ加工素材の表面に化学的粗面化処理を施し、次いで粗面化処理後の曲げ加工素材の表面に陽極酸化処理を施して、あるいは、この陽極酸化処理後に着色処理を施してアルミ曲げ加工材を製造することを特徴とするアルミ曲げ加工材の製造方法。
【請求項2】
曲げ加工素材の化学的粗面化処理は、非塑性変形領域である一般部の表面粗さRa(A)が曲げ部の表面粗さRa(B)に対して粗さ比率{(A÷B)×100}で40%以上となるように実施する請求項1に記載のアルミ曲げ加工材の製造方法。
【請求項3】
曲げ加工素材は、塑性変形領域である曲げ部と非塑性変形領域である一般部とを併せて有する請求項1又は2に記載のアルミ曲げ加工材の製造方法。
【請求項4】
化学的粗面化処理は、一般部の表面粗さRa(A)が曲げ部の表面粗さRa(B)に対して粗さ比率{(A÷B)×100}で50%以上となるように行われる請求項2又は3に記載の表面処理アルミ曲げ加工材の製造方法。
【請求項5】
化学的粗面化処理がアルミニウム材の表面を梨地表面にする酸エッチング処理である請求項1〜4のいずれかに記載のアルミ曲げ加工材の製造方法。
【請求項6】
酸エッチング処理がフッ素イオンの存在下に行われる請求項5に記載の表面処理アルミ曲げ加工材の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかの方法で製造されたアルミ曲げ加工材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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