説明

アレルゲン分解用繊維素材およびそれを用いた繊維製品

アレルゲン分解用繊維素材は、下記式(I)


(MはFe、Co、Mn、Ti、V、Ni、Cu、Zn、Mo、W、Osから選択される金属)で示される金属フタロシアニンの誘導体を担持させた天然繊維、合成繊維、半合成繊維または再生繊維を含む綿、糸、織布、不織布、編物、または紙からなる。また、アレルゲン分解機能を有する繊維製品は、該アレルゲン分解用繊維素材を少なくとも一部に有しつつ、形づくられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、金属フタロシアニンの誘導体が担持されたアレルゲン分解用繊維素材、およびその繊維素材を原材料としたアレルゲン分解機能を有する繊維製品、特にアレルゲン分解機能を有する寝装品、フィルター、マスクに関するものである。
【背景技術】
アレルギー症状は、皮膚や、呼吸器、消化器からアレルゲンがヒトの身体に侵入すると、ヒトが生来的に持つ抗原抗体反応に誘発されて体内にヒスタミンやロイコトリエンなどの化学伝達物質が遊離したり、活性酸素が生ずるため、二次症状として発熱、発疹、そう痒、嘔吐、鼻炎などを発症する。このようなアレルギー症状は、アレルゲンの種類とヒトの各個体が持つ体質との組み合わせに依存して発症する。
アレルゲンは、例えばダニ、その死骸や排泄物、スギ・ブタクサ・カモガヤ等の花粉、細菌、かび、卵、牛乳、魚貝類、大豆、昆虫、獣毛、獣やヒトのフケなどの成分として含まれ、多くは蛋白質である。アレルギー症状に効果を示す投薬剤は未だない現状において、アレルギー症状を発症させないためには、アレルギー体質を持つヒトからアレルゲンを遠ざけることが肝要である。しかし、アレルゲンは、自然界に存在するものも数多く、ヒトが生活するに欠かせないものに付随していることもあるため、生活圏から全面的に取り除くことが極めて困難であり、実質上不可能である。
また、繊維製品のダニを防除する手段として防ダニ剤処理が知られている。防ダニ剤は、少量では忌避効果しか期待できず、ダニを殺虫するには多量用いる必要があり、ヒトへの安全性上その使用量に制限がある。しかも防ダニ剤は、ダニの死骸や排泄物等のダニ由来のアレルゲンによって発症するアレルギー症状に対して、何ら抑制効果が認められない。
発生したアレルゲンを除去する手段として、特開2001−214367号公報には、アレルゲンと反応して不活性化させるジルコニウム塩を含有させた綿、麻、羊毛、絹、レーヨン、ナイロン、ポリエステル、アクリル等の抗アレルゲン繊維、および寝具、マスク、カーテン等の繊維製品が示されている。
アレルギー疾患の発症を抑制するためには、空気清浄機や通気口などのフィルターに抗アレルゲン機能を付加して、アレルゲンとアレルギー疾患患者との接触を断つ方法が有効である。このようなフィルターとして、例えば、特開2001−269518号公報には、粘着性物質と抗アレルゲン剤とを付着させたフィルターが記載されている。また、特開2000−5531号公報には、フィルターに茶の抽出成分である茶ポリフェノールをアレルギー不活性剤として添着した抗アレルゲンフィルターが示されている。しかし、通気性を損ねることなく確実にアレルゲンを除去することは、未だ困難である。一方、特開昭56−63355号公報、特開昭61−258806号公報には、金属フタロシアニンを有効成分とする消臭剤が開示されている。特開昭61−258806号公報には金属フタロシアニンの誘導体が酸化還元触媒として作用して消臭剤としての効果を示す旨が記載されている。
【発明の開示】
本発明の発明者は、金属フタロシアニンの酵素様触媒作用を永年に渡って研究し、その吸着性や酸化還元触媒機能によって蛋白質を変性させることを見出した。アレルゲンの発生を全面的に取り除くことは極めて困難であることに鑑みて、本発明は、金属フタロシアニンの持つそのような特性を利用して、防ダニ剤を用いず、ダニ、その死骸や排泄物等のダニ由来のアレルゲンを分解する効果を有するアレルゲン分解用繊維素材、それを原材料としたアレルゲン分解機能を有する繊維製品、特にアレルゲン分解機能を有する寝装品やフィルターやマスクの提供を目的とする。
前記の目的を達成するためになされた本発明のアレルゲン分解用繊維素材は、下記式(I)

(式(I)中、MはFe、Co、Mn、Ti、V、Ni、Cu、Zn、Mo、W、Osから選択される金属)で示される金属フタロシアニンの誘導体を担持させた天然繊維、合成繊維、半合成繊維または再生繊維を含む綿、糸、織布、不織布、編物、または紙からなることを特徴とする。この金属フタロシアニンの誘導体は、前記式(I)の骨格が置換基で置換されていても、いなくてもよい。
アレルゲン分解用繊維素材は、前記金属フタロシアニンの誘導体が、下記式(II)

(式(II)中、Mは、前記式(I)に同じ;Rn1、Rn2、RおよびRn4は、R、R、RおよびRが同一または異なり、COOH基およびSOH基の少なくとも何れかの置換基であり、n1、n2、n3およびn4が同一または異なり、0〜4で、かつ、1≦n1+n2+n3+n4≦8を満たす該置換基の数である。)で示される化合物、またはその塩であることを特徴とする。
本発明のアレルゲン分解機能を有する繊維製品は、前記のアレルゲン分解用繊維素材を少なくとも一部に有しつつ、形づくられていることを特徴とする。
アレルゲン分解機能を有する繊維製品は、前記アレルゲン分解用繊維素材を少なくとも一部に含み、障子紙、ふすま紙、壁紙、被服、タオル、ハンカチ、カーテン、カーペット、絨毯、畳、ソファー、クッション、椅子、ぬいぐるみ、ワイパー、オムツ、ペット用品、カーシート、カーマット、チャイルドシート、自動車の内装材、電車の内装材、飛行機の内装材に形づくられていることを特徴とする。
また、アレルゲン分解機能を有する繊維製品は、前記アレルゲン分解用繊維素材を少なくとも一部に含み、布団、毛布、シーツ、枕、ベッドパッド、マットレスに形づくられた寝装品であることを特徴とする。
本発明のアレルゲン分解機能を有するフィルターは、前記式(I)で示されるフタロシアニン化合物またはその誘導体が担持された天然繊維、合成繊維、半合成繊維または再生繊維を含むアレルゲン分解用繊維層を気体通過層とすることを特徴とする。
本発明のアレルゲン分解機能を有するフィルターは、前記式(I)で示されるフタロシアニン化合物またはその誘導体が0.1〜10質量%担持された天然繊維、合成繊維、半合成繊維または再生繊維を含むアレルゲン分解用繊維層を気体通過層とすることを特徴とする。
本発明のアレルゲン分解機能を有するフィルターは、前記式(I)で示されるフタロシアニン化合物またはその誘導体が担持されたセルロース系繊維を含むアレルゲン分解用繊維層を気体通過層とすることを特徴とする。
本発明のアレルゲン分解機能を有するマスクは、前記式(I)で示されるフタロシアニン化合物またはその誘導体が担持された天然繊維、合成繊維、半合成繊維または再生繊維を含むアレルゲン分解用繊維層を人の呼気通過層とすることを特徴とする。
本発明のアレルゲン分解機能を有するマスクは、前記式(I)で示されるフタロシアニン化合物またはその誘導体が0.1〜10質量%担持された天然繊維、合成繊維、半合成繊維または再生繊維を含むアレルゲン分解用繊維層を人の呼気通過層とすることを特徴とする。
本発明のアレルゲン分解機能を有するマスクは、前記式(I)で示されるフタロシアニン化合物またはその誘導体が担持されたセルロース系繊維を含むアレルゲン分解用繊維層を人の呼気通過層とすることを特徴とする。
アレルゲン分解機能を有するマスクは、前記人の呼気通過層と、平均繊維径10μm以下の極細繊維層との少なくとも2層を有し、該極細繊維層が人体皮膚に近い側に配置されていることを特徴とする。
アレルゲン分解機能を有するマスクは、前記人の呼気通過層と、平均繊維径10μm以下の極細繊維層との片側または両側に、さらに平均繊維径が10μmより大きい合成繊維層が配置されていることを特徴とする。
本発明のアレルゲン分解用繊維素材に担持されている金属フタロシアニンの誘導体は、その中心金属に、アレルゲンの蛋白質を配位し、空気中の酸素酸化によってペプチド結合を切るので、低分子化させたり、分子構造を変化させたりする。金属フタロシアニンの誘導体は、アレルゲンを単に吸着するだけではなく、分解触媒として作用するので、その作用が永続的である。ここでいう吸着とはアレルゲンの分子を捕捉したまま放さないことであり、分解とは前記のようにアレルゲンの分子を低分子化するかまたはその分子構造を変化させることである。アレルゲンはヒトの身体に侵入し、その分子構造によってヒトが持つ抗体に特異的に結合しアレルギー症状を示すが、アレルゲンが低分子化したり、アレルゲンの分子構造が変化したりしていると、それまで反応していた抗体に結合することがない。
本発明のアレルゲン分解機能を有する繊維製品が生活環境におかれていると、生活環境内にあるアレルゲンの多くが分解され、僅かな残余がアレルギー体質を持つヒト身体内に入ってもアレルギー症状を発症する閾値まで濃度が到達しない。そのため、アレルギー体質を持つヒトであっても発症することなく日常生活を送ることができる。
本発明のアレルゲン分解機能を有する繊維製品は、人体等に有害でしかも効果に有効期限のある防ダニ剤で処理されていないため、安全性に優れており、また、アレルゲン分解効果が永続的に持続する。かつ、ダニ自体のみならず、ダニの死骸や排泄物等のダニ由来のアレルゲンを分解する効果を有する。従って、ダニ由来のアレルゲンを除去することが可能である。
【図面の簡単な説明】
図1は、実験調製例1および比較調製例1の試験溶液の二次元電気泳動ゲルを撮影した写真である。
図2は、実験調製例2および比較調製例2の試験溶液の二次元電気泳動ゲルを撮影した写真である。
図3は、実験調製例3および比較調製例3の試験溶液の二次元電気泳動ゲルを撮影した写真である。
図4は、実験調製例4および比較調製例4の試験溶液の二次元電気泳動ゲルを撮影した写真である。
図5は、実施例2−7で得られたアレルゲン分解用紙のダニスキャンによる試験結果を撮影した写真である。
図6は、実施例3で得られたアレルゲン分解用エアーフィルターのダニスキャンによる試験結果を撮影した写真である。
図7は、実施例4−2で得られたアレルゲン分解用寝具のダニスキャンによる試験結果を撮影した写真である。
図8は、本発明を適用外の濾紙にダニアレルゲン抗原溶液を滴下したもののダニスキャンによる試験結果を撮影した写真である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下に、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
先ず、本発明を適用するアレルゲン分解用繊維素材のアレルゲン分解能について説明する。
本発明のアレルゲン分解用繊維素材は、前記式(I)で示される金属フタロシアニンの誘導体を担持させた天然繊維、合成繊維、半合成繊維または再生繊維を含む綿、糸、織布、不織布、編物、または紙からなる。前記式(II)で示される金属フタロシアニンの化合物として、例えば、金属フタロシアニンジカルボン酸、金属フタロシアニンテトラカルボン酸、金属フタロシアニンオクタカルボン酸、金属フタロシアニンジスルホン酸、金属フタロシアニンテトラスルホン酸、金属フタロシアニンオクタスルホン酸が挙げられる。
金属フタロシアニンジカルボン酸の構造式は、下記式(III)

金属フタロシアニンテトラカルボン酸の構造式は、下記式(IV)

金属フタロシアニンオクタカルボン酸の構造式は、下記式(V)

金属フタロシアニンジスルホン酸の構造式は、下記式(VI)

金属フタロシアニンテトラスルホン酸の構造式は、下記式(VII)

金属フタロシアニンオクタスルホン酸の構造式は、下記式(VIII)

で例示される。
Mは前記した金属から選択されるものであり、なかでもFe、CoまたはCuが好ましい。最も好ましいものは、鉄フタロシアニンテトラカルボン酸である。
前記式(II)の金属フタロシアニン化合物またはその塩は、市販のものであってもよく、公知の方法により製造したものであってもよい。例えば、「フタロシアニン −化学と機能−」(白井汪芳、小林長夫著、株式会社アイピーシー出版、平成9年2月28日発行)に記載の方法により、製造することができる。例えば、鉄フタロシアニンテトラカルボン酸は、ニトロベンゼンにトリメリット酸無水物と、尿素と、モリブデン酸アンモニウムと、塩化第二鉄無水物とを加えて撹拌し、加熱還流させて沈殿物を得、得られた沈殿物にアルカリを加えて加水分解し、次いで酸を加えて酸性にすることで得られる。コバルトフタロシアニンオクタカルボン酸は、上記鉄フタロシアニンテトラカルボン酸の原料であるトリメリット酸無水物に代えてピロメリット酸無水物、塩化第二鉄無水物に代えて塩化第二コバルトを用いて同様の方法で製造可能である。
前記天然繊維は、木綿、麻またはパルプのようなセルロース系繊維、羊毛または絹のような蛋白質系繊維から選ばれることが好ましい。前記合成繊維は、ポリオレフィン系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリ塩化ビニリデン系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリアミド系繊維、ポリアクリル系繊維、ポリエステル系繊維、ポリウレタン系繊維から選ばれることが好ましい。前記半合成繊維は、アセテートレーヨンのようなセルロース系繊維であることが好ましい。前記再生繊維は、ビスコースレーヨン、銅アンモニアレーヨンで例示されるレーヨンのようなセルロース系繊維から選ばれることが好ましい。ポリオレフィン系繊維として例えばポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維が挙げられ、ポリビニルアルコール系繊維として例えばビニロンが挙げられ、ポリアミド系繊維として例えばナイロンが挙げられ、ポリエステル系繊維として例えばポリエチレンテレフタラートが挙げられ、ポリウレタン系繊維として例えばスパンデックス(登録商標)が挙げられる。中でもセルロース系繊維、特に木綿やレーヨンは、吸水性が良いため、吸水した培地として酵素様機能を発現するための好条件をそなえている。また、例えば、蛋白質系繊維、ポリアミド系繊維、ポリアクリル系繊維は染色性に優れ、繊維または繊維素材を染色加工するのに好適である。これらの繊維は、単一繊維であってもよく、複合繊維であってもよい。
本発明のアレルゲン分解用繊維素材は、前記の天然繊維、合成繊維、半合成繊維または再生繊維を用いて公知の方法により製造される。不織布としてさらに湿式不織布や乾式不織布が挙げられ、乾式不織布としては、ステッチボンド不織布、ニードルパンチ不織布、スパンレース不織布、メルトブロー不織布、スパンボンド不織布、サーマルボンド不織布、ケミカルボンド不織布、エアレイド不織布などがある。アレルゲン分解用繊維素材は、あらかじめ前記天然繊維、合成繊維、半合成繊維または再生繊維に前記金属フタロシアニンの誘導体を担持させてからアレルゲン分解用繊維素材を構成してもよく、前記天然繊維、合成繊維、半合成繊維または再生繊維を用いて繊維素材を構成した後に前記金属フタロシアニンの誘導体を担持させてもよい。繊維素材を構成した後に前記金属フタロシアニンの誘導体を担持させる方法としては、バインダー成分を含む金属フタロシアニン誘導体溶液を繊維素材へ印刷、噴霧またはコーターを用いて塗布する方法、繊維素材を該溶液へ浸漬させる方法、あるいは直接染色、イオン染色などの染色法がある。イオン染色法とは、コットンなどの繊維にカチオン基を結合させ、そのカチオン基と染料の持つカルボキシル基やスルホン基のアニオン基をイオン的に結合させて行う染色法である。
本発明のアレルゲン分解用繊維素材は、例えばアレルゲン分解用紙を、障子紙やふすま紙や壁紙として用いることができ、屋外から進入または屋内で発生するアレルゲンを遮断しつつ浮遊或いは落ちているアレルゲンを分解する。
本発明のアレルゲン分解機能を有する繊維製品としては、例えばイオン染色法を用いてイオン染色したアレルゲン分解用織布やアレルゲン分解用不織布やアレルゲン分解用綿を縫製した衣類等の被服や、タオル、ハンカチ、マスクのような日常衛生用品が挙げられ、アレルギー体質を持つヒトの身体をアレルゲンから隔離しつつ、一部接触したアレルゲンを分解する。尚、ここでいう被服とは、衣類以外にも身体に付ける帽子、フェイスマスク、靴、靴下、ストッキング、手袋、リストバンド、サポーター、襟巻き、カバン等の付属品を含むものである。また、例えば、アレルゲン分解用織布やアレルゲン分解用不織布やアレルゲン分解用綿から形づくられたカーテン、カーペット、絨毯、畳、ソファー、クッション、椅子、ぬいぐるみ、ワイパー、オムツ、ペット用品が挙げられ、屋外から進入または屋内で発生するアレルゲンを遮断しつつ、一部接触したり浮遊或いは落ちているアレルゲンを分解する。また、例えば、アレルゲン分解用織布やアレルゲン分解用不織布から形づくられたカーシート、カーマット、チャイルドシート、自動車の天井材のような自動車内装部材、電車の座シートや飛行機の座シート、床材等の内装部材が挙げられ、車外や機外から進入するアレルゲンを遮断しつつ、車内や機内で一部接触したり浮遊或いは落ちているアレルゲンを分解する。
本発明のアレルゲン分解機能を有する寝装品としては、例えばアレルゲン分解用織布やアレルゲン分解用不織布やアレルゲン分解用綿から形づくられた布団、毛布、シーツ、枕、ベッドパッド、マットレスが挙げられ、アレルギー体質を持つヒトの身体をアレルゲンから隔離しつつ、一部接触したアレルゲンを分解する。寝装品とは、就寝時に一般的に用いられるものであり、布団や枕やマットレスの側生地、布団や枕やマットレスや毛布のカバー、布団や枕やマットレスなどの中綿にアレルゲン分解用繊維素材を用いてもよい。
本発明のアレルゲン分解機能を有する繊維製品および寝装品は、その少なくとも一部にアレルゲン分解用繊維素材を有していればよく、目的、用途に応じて適宜上記の天然繊維、合成繊維、半合成繊維または再生繊維、およびアレルゲン分解用繊維素材を選択し、形づくることができる。複数のアレルゲン分解用繊維素材を組み合わせて用いてもよい。
また本発明の上記繊維素材や繊維製品は、対人用に限らず、犬、猫、小鳥、その他の愛玩動物等のペットのために使用されてもよい。近年、ヒトと同様な生活環境で飼育されるペットは、ダニやノミを外部から持ち込んだり保有することが多く、また脱毛の機会も多いため、これらがアレルギー体質をもつヒトへ影響を及ぼす機会が増大しつつある。ペットのために、着せるもの、敷くもの、覆うもの、運ぶもの等に使用される繊維製のペット用品に、本発明の上記繊維素材、繊維製品を適用することにより、ペット飼育に起因するアレルゲンをヒトから隔離しつつ、一部接触したアレルゲンを分解する。
本発明のアレルゲン分解機能を有するフィルターは、前記式(I)で示されるフタロシアニンの誘導体を担持した天然繊維、合成繊維、半合成繊維または再生繊維を含むアレルゲン分解用繊維層を気体通過層とするものである。
本発明のアレルゲン分解機能を有するフィルターは、前記式(I)で示されるフタロシアニンの誘導体を0.1〜10質量%担持した天然繊維、合成繊維、半合成繊維または再生繊維を含むアレルゲン分解用繊維層を気体通過層としてもよく、また、前記式(I)で示されるフタロシアニンの誘導体を担持したセルロース繊維を含むアレルゲン分解用繊維層を気体通過層としてもよい。
前記フタロシアニン誘導体は、前記式(II)で示されるものであると好ましい。また、天然繊維、合成繊維、半合成繊維、再生繊維としては、前記したものを用いることができる。
前記担持されるフタロシアニン誘導体の量は、繊維に対して0.1質量%以上10質量%以下であってもよいが、好ましくは0.3質量%以上5質量%以下であり、より好ましくは0.5質量%以上3質量%以下であってもよい。フタロシアニン誘導体の量が0.1質量%以上10質量%以下であれば、ダニ由来のアレルゲンの分解能力に優れ、また低コストで繊維の生産が容易にできる。
アレルゲン分解機能を有するフィルターは、前記アレルゲン分解用繊維と、必要に応じて、例えば木綿、麻、パルプのような天然繊維、ビスコースレーヨン、溶剤紡糸レーヨンで例示されるレーヨンのような再生繊維、アクリル、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリウレタンのような合成繊維などを任意に混合して、前記したような公知の織布、不織布などの製造方法により製造することができる。
アレルゲン分解機能を有するフィルターは、あらかじめ前記天然繊維、合成繊維、半合成繊維または再生繊維に前記金属フタロシアニンの誘導体を担持させてからフィルターを構成してもよく、フィルターを構成した後に前記金属フタロシアニンの誘導体を担持させてもよい。
アレルゲン分解機能を有するフィルターは、例えばエアコンや掃除機、空気清浄機などのエアーフィルターとして用いることができ、通過するアレルゲンを吸着し分解する。
本発明のアレルゲン分解機能を有するマスクは、前記式(I)で示されるフタロシアニンの誘導体を担持した天然繊維、合成繊維、半合成繊維、再生繊維を含むアレルゲン分解用繊維を人の呼気通過層とするものである。
本発明のアレルゲン分解機能を有するマスクは、前記式(I)で示されるフタロシアニンの誘導体を0.1〜10質量%担持した天然繊維、合成繊維、半合成繊維、再生繊維を含むアレルゲン分解用繊維層を人の呼気通過層としてもよく、また、前記式(I)で示されるフタロシアニンの誘導体を担持したセルロース繊維を含むアレルゲン分解用繊維層を人の呼気通過層としてもよい。
前記フタロシアニン誘導体は、前記式(II)で示されるものであると好ましい。また、天然繊維、合成繊維、半合成繊維、再生繊維としては、前記したものを用いることができる。
前記担持されるフタロシアニン誘導体の量は、前記のとおりである。
前記人の呼気通過層は、前記の天然繊維、合成繊維、半合成繊維または再生繊維を用いて、前記したような公知の織布、不織布などの製造方法により製造される。
前記人の呼気通過層は、あらかじめ前記天然繊維、合成繊維、半合成繊維または再生繊維に前記金属フタロシアニンの誘導体を担持させてから人の呼気通過層を構成してもよく、人の呼気通過層を構成した後に前記金属フタロシアニンの誘導体を担持させてもよい。
本発明のアレルゲン分解機能を有するマスクは、前記人の呼気通過層と、平均繊維径10μm以下の極細繊維層との少なくとも2層を有し、該極細繊維層が人体皮膚に近い側に配置されている。平均繊維径10μm以下の極細繊維層は、唾液を透過させ難い、又は唾液を透過させないため、咳やくしゃみなどによる唾液中の蛋白質が人の呼気通過層中のアレルゲン分解用繊維に触れることを防止し、アレルゲン分解能の低下を抑制する。さらに極細繊維層から放出される息に含まれる水分は、アレルゲン分解用繊維に湿気を与えるので、アレルゲン分解能が向上する。
極細繊維層としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブテン−1、ポリエステル等の樹脂が単一成分型、及び複合成分型から製造されたメルトブローン不織布が好ましい。メルトブローン不織布は、低目付でありながら緻密な不織布であるので、物理的に塵や埃を除去することができ、通気性にも優れる。
本発明のアレルゲン分解機能を有するマスクは、人の呼気通過層と、平均繊維径10μm以下の極細繊維層との片側または両側に、さらに平均繊維径が10μmより大きい合成繊維層を含むものが好ましい。合成繊維層としては、例えば、スパンボンド不織布、短繊維を含むサーマルボンド不織布等が挙げられるが、スパンボンド不織布が好ましい。スパンボンド不織布は、コストが安く、マスクにするとき及びマスクにした後の保形性に優れる。スパンボンド不織布としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル等の樹脂が単一成分型、及び複合成分型から製造されるものが用いられるが、ポリプロピレン繊維が好ましい。ポリプロピレン繊維は、コストが安く、疎水性であり、かつ繊維の脱落が少ない。
本発明のアレルゲン分解機能を有するマスクは、人の呼気通過層及び極細繊維層を含みさえすればよく、それ以外に、任意に他のシート、例えば、ガーゼなどの織物、網状物、エレクトレット加工された不織布を積層してもよい。なお、前記人の呼気通過層は、通気性を損なわない範囲内で、予め水分を付与されていてもよい。
以下、実施例1により本発明のアレルゲン分解用繊維素材のアレルゲン分解能について具体的に説明する。
【実施例1】
本発明のアレルゲン分解用繊維素材のアレルゲン分解能を確かめるため、金属フタロシアニンの誘導体として鉄フタロシアニンテトラカルボン酸につき、試験管実験による薬効の確認を行った。
(薬効の確認)
アレルゲンとしてダニ抗原DerfII(アサヒビール株式会社製)を選び、このダニアレルゲンを鉄フタロシアニンテトラカルボン酸と混合した場合の電気泳動と、アレルゲンのみの電気泳動を比較した。
1.溶液の調製
各実験調製例の所定濃度(w/v%)の鉄フタロシアニンテトラカルボン酸カリウム(Fe−Pc−(COOK))水溶液およびDerfII溶液と、IPG(Immobilized pH Gradient:固定化pH勾配)バッファーを含んだ膨潤用ストック溶液(Urea 8mol/L、CHAPS 2w/v%、IPG Buffer 2%、Bromophenol blue 適量、蒸留水)との混合溶液を調製し、表4の実験調製例1〜4の試験溶液とした。
一方、DerfII溶液とIPGバッファーを含んだ膨潤用ストック溶液との混合溶液を調製し、表4の比較調製例1〜4の試験溶液とした。
2.一次元電気泳動
一次元電気泳動用ゲルのフィルム(以下Stripという)を2種類、Strip pH4〜7およびStrip pH3〜10.5を用意し、各試験溶液に浸漬して乾燥防止のシリコンオイルを適量添加し、10時間静置した。試験溶液から各Stripを取り出して水洗し、一次元電気泳動装置にセットし、乾燥防止のシリコンオイルを添加し、一次元電気泳動を16時間行った。
Strip pH4〜7の一次元電気泳動プログラムは表1のとおりである。

Strip pH3〜10.5の一次元電気泳動プログラムは表2のとおりである。

3.二次元電気泳動(1次元電気泳動のStripが異なっても操作は同様)
一次元電気泳動の終了したStripを泳動装置より取り出し水洗した。SDS(sodium dodecyl sulfate:ドデシル硫酸ナトリウム)平衡化用バッファー(1.5mol/L pH8.8 Tris−Cl 50mmol/L、Urea 6mol/L、87v/v% Glycerol 30v/v%、SDS 2v/v%、Bromophenol blue 適量、蒸留水)にDTT(dithiothreitol:ジチオトレイトール)100mg/10mLを加えた溶液10mLにStripを浸漬し10分間浸透させた。Stripを取り出し、SDS平衡化用バッファーにiodoacetamide(250mg/10mL)を加えた溶液10mLに浸漬し10分間浸透させた。Stripを取り出して水洗し、水分を十分にふき取った後、二次元電気泳動ゲル、ろ紙、電極ゲル、分子量マーカーをセットした二次元電気泳動装置に取り付け、1時間40分電気泳動を行った。
二次元電気泳動プログラムは表3のとおりである。

4.染色、撮影
染色には、Amersham Biosciences製のSilver Staining Kit,Proteinを使用した。
固定用溶液(エタノール100mL、酢酸25mL、蒸留水で250mLにメスアップ)に二次元電気泳動ゲルを浸漬し30分間浸透させた。増感用溶液(エタノール75mL、25w/v%グルタルアルデヒド1.25mL、5w/v%チオ硫酸ナトリウム10mL、酢酸ナトリウム17g、蒸留水で250mLにメスアップ)に二次元電気泳動ゲルを浸漬し30分間浸透させた。蒸留水250mLに二次元電気泳動ゲルを浸漬し5分間浸透させる洗浄を3回繰返した。銀反応用溶液(2.5w/v%酢酸銀溶液25mL、37w/v%ホルムアルデヒド0.1mL、蒸留水で250mLにメスアップ)に二次元電気泳動ゲルを浸漬し20分間浸透させた。蒸留水250mLに二次元電気泳動ゲルを浸漬し1分間浸透させる洗浄を2回繰返した。現像用溶液(炭酸ナトリウム6.25g、37w/v%ホルムアルデヒド0.05mL、蒸留水で250mLにメスアップ)に二次元電気泳動ゲルを浸漬し2〜5分間浸透させた。停止用溶液(EDTA−Na・2HO 3.65g、蒸留水で250mLにメスアップ)に二次元電気泳動ゲルを浸漬し10分間浸透させた。蒸留水250mLに二次元電気泳動ゲルを浸漬し5分間浸透させる洗浄を3回繰返した。
このようにして銀染色した二次元電気泳動ゲルを、ATTO社製Printgraph−1電気泳動撮影装置にて撮影した。
各実験調製例の鉄フタロシアニンテトラカルボン酸カリウム水溶液の濃度とともに、一次元電気泳動のStrip pH、二次元電気泳動のゲル勾配(ゲル中に含まれるポリアクリルアミドの濃度の勾配)、撮影した二次元電気泳動ゲルの写真が掲載されている図の番号を表4に示してある。

図1、図2、図3、図4の各写真で中央のスポット列は分子量マーカーで、分子量の目安となる。図1、図2、図3の写真における分子量マーカーのスポットは、下から順に14.4、20.1、30、45、66、97KDa(Kiro Dalton)の分子量である。図4の写真における分子量マーカーのスポットは、下から順に3.5、6.5、14.3、20.1、30、45KDaの分子量である。各写真の中央のスポット列で分けられるA、Bの各横軸は一次元電気泳動のStrip pHである。
各写真のAにおけるスポットは鉄フタロシアニンテトラカルボン酸カリウムおよびダニアレルゲンを混合したもの、Bにおけるスポットはダニアレルゲンだけのものである。鉄フタロシアニンテトラカルボン酸カリウムによりダニアレルゲンの変化が無ければ、AとBにおけるスポットは同様となるが、写真からAではpH5〜6付近のスポットが消失しており、鉄フタロシアニンテトラカルボン酸カリウムによりダニアレルゲンが変化していることが分かる。
次に、本発明を適用するアレルゲン分解用繊維素材およびアレルゲン分解機能を有する繊維製品の好ましい実施例について説明する。
金属フタロシアニン誘導体が担持された本発明のアレルゲン分解用繊維素材を調製した例を実施例2に、本発明のアレルゲン分解用繊維素材からアレルゲン分解機能を有するフィルター、寝具、マスク及びペット用クッションを製造した例を実施例3〜6に、それぞれ示す。
(実施例2) 金属フタロシアニンの誘導体を担持させた繊維の調製
(実施例2−1)直接染色法によるアレルゲン分解用レーヨンの調製
濃度0.3%owf(繊維重量比)のコバルト(II)フタロシアニンジスルホン酸ナトリウムの水溶液(浴比=1:20)600Lに、レーヨン2.2dX3mmの30kgを入れ、65℃以上100℃以下で30分間攪拌し、レーヨンを染色した。染色助剤として、硫酸ナトリウムを染色浴1リットルあたり30g使用した。ついでこの染色レーヨンを水で洗浄し、脱水、乾燥することにより、コバルト(II)フタロシアニンジスルホン酸ナトリウムが担持されたレーヨンを得た。
(実施例2−2)直接染色法によるアレルゲン分解用木質パルプの調製
レーヨンに代えて木質パルプ100kgを用いたこと以外は実施例2−1と同様にして、コバルト(II)フタロシアニンジスルホン酸ナトリウムが担持された木質パルプを得た。
(実施例2−3)イオン染色法によるアレルゲン分解用コットン綿の調製
カチオン化剤として、50g/LのカチオノンUK(一方社製の商品名)と、15g/Lの水酸化ナトリウム水溶液との混合液10Lに、コットン綿1kgを浴比1:10の条件で入れ、85℃で45分間反応させた。得られたカチオン化コットン綿を十分に水にて洗浄した後、濃度1%owfの鉄(III)フタロシアニンテトラカルボン酸の水酸化ナトリウム溶液(pH=12)10L中に浸し、80℃で30分間撹拌し、コットン綿を染色した。得られた染色コットン綿を十分に水にて洗浄して乾燥し、鉄(III)フタロシアニンテトラカルボン酸が担持されたコットン綿を得た。
(実施例2−4)イオン染色法によるアレルゲン分解用レーヨン綿の調製
コットン綿に代えて、レーヨン綿1kgを使用したこと以外は実施例2−3と同様にして、鉄(III)フタロシアニンテトラカルボン酸が担持されたレーヨン綿を得た。
(実施例2−5)ニードルパンチ法によるアレルゲン分解用不織布の製造
実施例2−3で得られたアレルゲン分解用コットン綿を用いて、鉄(III)フタロシアニンテトラカルボン酸が担持された目付150g/mのニードルパンチ不織布を製造した。
(実施例2−6)スパンレース法によるアレルゲン分解用不織布の製造
実施例2−3で得られたアレルゲン分解用コットン綿を用いて、鉄(III)フタロシアニンテトラカルボン酸が担持された目付30〜80g/mのスパンレース不織布を製造した。
(実施例2−7)アレルゲン分解用紙の製造
実施例2−1で得られた染色レーヨンの短カット品50kgと、マニラパルプ50kgと、抄紙のための内添剤としてサイズパインE−50(商品名、荒川化学(株)製)とを一緒に抄紙して、コバルト(II)フタロシアニンジスルホン酸ナトリウムが担持された紙を製造した。
(実施例2−8)アレルゲン分解用コート剤の調製
コバルトフタロシアニンジスルホン酸0.5質量%と、ポリウレタンであるスーパーフレックス(商品名:第一工業製薬社製)50質量%とを混合してバインダー剤の水溶液とした。そこに固着剤として、ポリアリルアミン塩酸塩素溶液15重量%を混合して、コバルトフタロシアニンジスルホン酸を含有したコート剤を調製した。
(実施例3) アレルゲン分解用エアーフィルターの製造
実施例2−1で得られたコバルト(II)フタロシアニンジスルホン酸ナトリウム担持レーヨン30質量%と、ポリエステル(4d)50質量%と、熱融着繊維としてNBF(H)(商品名、大和紡績(株)製)(2d)20質量%とを用いて、サーマルボンド法により目付60g/mのサーマルボンド不織布を製造した。ついで、このサーマルボンド不織布と、35g/mのポリエチレンテレフタレート寒冷紗とを重ね合わせ、高さ5mmのプリーツ折りにして、フィルターを成型した。
(実施例4)アレルゲン分解用寝具の製造
(実施例4−1)
掛け布団(150cm×210cm)の中綿として、実施例2−4で得られたアレルゲン分解用レーヨン綿2kg(混合比率50%)を混合し、縫製してアレルゲン分解用寝具を製造した。
(実施例4−2)
綿100%布ブロードの表面に、実施例2−8で得られたコート剤をロールコーターにより15g/mで塗布して布表面をコーティングし、側地とした。コーティング面を内側にして、ポリエステル製の中綿を1.5kg挟み、縫製してアレルゲン分解用寝具を製造した。
(実施例5)アレルゲン分解用マスクの製造
(実施例5−1)フタロシアニン化合物が担持されたセルロース系繊維の製造
一時膨潤度300%のレーヨン(セルロース系繊維)に対して、浴比1:20で、式(III)[式中、MはFeである]の鉄オクタカルボン酸フタロシアニンの染色液を調製した。前記染色液のpHは、NaOHを添加して、10に調節した。オーバーマイヤー中で、前記レーヨンと染色液をセットして、硫酸ナトリウムを5g/リットルを加えた。染色は、温度80℃、時間45分で行った。酢酸を添加して、色止めを行った。オイリングして、乾燥させて、前記鉄オクタカルボン酸フタロシアニンが1質量%担持された繊度2.2dtex、繊維長38mmのレーヨン繊維を得た。
(実施例5−2)人の呼気通過層の製造
前記フタロシアニン化合物担持レーヨン繊維を80質量%、熱接着性合成繊維として鞘成分が高密度ポリエチレン、芯成分がポリプロピレンからなる繊度2.2dtex、繊維長51mmの鞘芯型複合繊維(大和紡績(株)製、「NBF(H)」(商品名))を20質量%準備し、カード機を用いて、均一に混合したカードウェブを作製した。次いで前記カードウェブを搬送用支持体に載置して、ウェブの上方から高圧水流を水圧3MPaで噴射し、ウェブを裏返してさらに高圧水流を水圧3MPaで噴射して、目付50g/m、2.94cN/cm荷重時の厚みが0.65mmの水流交絡不織布を作製した。得られたマスクの人の呼気通過層の、フタロシアニン化合物の担持量は前記セルロース系繊維に対して1質量%であった。
(実施例5−3)マスクの製造
極細繊維層として、平均繊維径が約3〜4μm、目付20g/mのポリプロピレン製メルトブローン不織布(クラレ(株)製、PC0020FH(商品名))を準備した。人の呼気通過層及び極細繊維層の両側に配置する合成繊維層として、繊度が3〜4dtex(平均繊維径22μm)、目付20g/mのポリプロピレン製スパンボンド不織布(出光石油化学(株)製、RN−2020(商品名))を準備した。
各々の不織布層を縦17.5cm×横14.5cmの大きさに切断した後、皮膚に近い側から順に、スパンボンド不織布層、メルトブローン不織布層、人の呼気通過層、スパンボンド不織布層となるように積層した。
積層した不織布層を縦方向に三段に重畳して、不織布層の周縁部を予め準備しておいた耳掛け紐と共に超音波ミシンで接着して、縦9cm×横14.5cmのマスクを製造した。
(実施例5−4)マスクの製造
人の呼気通過層として、前記フタロシアニン化合物担持レーヨン繊維を40質量%、アニオン基を導入したレーヨン繊維(ダイワボウレーヨン(株)製、「スナイパー」)を硫酸銅水溶液に浸漬したのち水洗し、脱水乾燥して得られた銅イオンが約1質量%担持された抗菌性繊維(繊度2.2dtex、繊維長38mm)を40質量%、及び前記鞘芯型複合繊維を20質量%使用した以外は、実施例5−2と同様にして、人の呼気通過層を製造した。その人の呼気通過層を用いた以外は、実施例5−3と同様にして、マスクを製造した。得られたマスクの人の呼気通過層の、フタロシアニン化合物の担持量は前記セルロース系繊維に対して1質量%であった。
実施例5−3及び5−4のマスクを、3時間にわたり着用したところ、息苦しさを感じることはなかった。また、着用後のマスクから人の呼気通過層を取り出して確認したところ、唾液等は付着しておらず、3時間の着用前後における人の呼気通過層の水分率(着用前後の不織布の質量の差を着用前の不織布の質量で除して100を乗じた値)は、50質量%であった。
(実施例6)クッション(ペット用品)の製造
実施例2−5で製造されたニードルパンチ不織布を、縦50cm×横40cmの大きさに切断した後、これを3枚重ね合わせてクッション材とし、市販の綿100%素材で柄付きのTシャツの中に挿入、縫製することにより一体化し、厚さ約8mmのTシャツ型クッションを作成した。
このようなクッションは、適度な厚みとクッション性を有するため、ソファーや椅子等の座用クッションや背もたれ用クッションとして使用でき、また、ベビー用の敷きマットとしても使用できる。特に、ペット用の寝床に使用することにより、ペットに起因するアレルゲンの分解に役立つ。また、柄付きTシャツ型のため、生活環境の中で使用するに際して違和感がなく、かつファツション性に優れたアレルゲン分解用繊維製品となり得る。
(評価)
1.酵素免疫測定法(ELISA法)によるダニアレルゲン吸着力試験
実施例2で得た、金属フタロシアニン誘導体(II)またはその塩が担持された繊維、及びアレルゲン分解用繊維素材を試料とし、ELISA法を用いてダニアレルゲンの吸着力を測定した。
ダニアレルゲン抗原溶液(アサヒビール社製、精製ダニアレルゲンrDer2(商品名))(1μg/mL)の200μl中に、各試料2mgを入れ、25℃で1時間の間、浸漬させた。試料の入った溶液を10000rpmで3分間遠心分離した後、上澄み液100μlをELISA法で測定した。
ELISA法での測定方法
(1)抗原のコーティング
マイクロプレート(塩化ビニル製96ウエルプレート、Dynatech社製)に、前記上澄み液を100μl/ウエル注入し、25℃で2時間維持した。その後、前記上澄み液をウエルから除去した。PBS溶液で3回ウエルを洗浄した。
(2)BSAによるブロッキング
BSA溶液(VECTOR 社製、BOVINESERUMALBUMIN(商品名))(1%(w/v))を、前記マイクロプレートに100μl/ウエル注入し、25℃で1時間維持した。その後、前記上澄み液をウエルから除去した。0.05%Tween−PBS溶液で1回ウエルを洗浄した。
(3)抗原への1次抗体の反応
前記マイクロプレートにダニアレルゲン抗体溶液(アサヒビール社製、抗Derf2モノクローナル抗体(商品名))(5μg/mL)を、100μl/ウエル注入し、25℃で2時間維持した。
(4)酵素標識された2次抗体の反応
ビオチン(Biotin)標識された抗マウスIgG(H+L)抗体溶液(VECTOR社製、BIOTINYLATED ANTI−MOUSE IgG(H+L)(商品名))(1μg/mL)を、前記マイクロプレートに100μl/ウエル注入し、25℃で2時間維持した。その後、前記抗体溶液をウエルから除去した。0.05%Tween−PBS溶液で1回ウエルを洗浄した。
(5)アビジン(AVIDIN)による修飾
アビジン溶液(VECTOR社製、ALKALINE PHOSPHATASE AVIDIN D(商品名))(100unit)を、前記マイクロプレートに100μl/ウエル注入し、25℃で0.5時間維持した。その後、前記上澄み液をウエルから除去した。0.05%Tween−PBS溶液で3回ウエルを洗浄した。
(6)発色基質との反応
PNPP溶液(VECTOR社製、P−NITROPHENYL PHOSPHATE(商品名))(500μg/mL)を、前記マイクロプレートに100μl/ウエル注入し、25℃で10分間維持した。その後、5N NaOH水溶液を100μl/ウエルに注入し、反応を停止させた。
(7)測定
マイクロプレートリーダー(BIO−RAD社製、MICROPLATE READER Model 550(商品名))を用いて、405nmの吸光度を測定し、各試料に含まれるダニアレルゲンの濃度を定量した。
測定結果を表5に示す。

実施例2−7のアレルゲン分解用紙をELISA法により測定すると、製紙中の薬剤がELISAの使用蛋白質などに影響を及ぼすため、ダニアレルゲンの吸着能が低いと考えられる。得られた結果から明らかなように、金属フタロシアニンの誘導体が担持された繊維、及び本発明のアレルゲン分解用繊維素材は、防ダニ剤を用いず、かつ、ダニアレルゲンを吸着する能力に優れることが確認できた。従って、本発明のアレルゲン分解用繊維素材は、防ダニ剤を用いず、かつ、アレルゲン分解機能が優れる。
2.ダニスキャンによるダニアレルゲン吸着力試験
実施例2−7で得たアレルゲン分解用紙、実施例3で得たアレルゲン分解用フィルター、及び実施例4−2で得たアレルゲン分解機能を有する寝具を試料とし、ダニスキャン(アサヒフードアンドヘルスケア(株)社製の商品名)を用いてダニアレルゲンの吸着力を測定した。
各試料から、それぞれ10cm×10cmの大きさを切り出し、その下に濾紙を重ね、試料の上からダニアレルゲン抗原溶液である精製ダニアレルゲンrDer2(商品名、アサヒビール社製、10μg/mL)の50μlを、マイクロピペットを用いて滴下した。上から軽く押さえ、濾紙が乾燥する前に、濾紙のダニアレルゲン抗原溶液が染み込んだ箇所について、ダニスキャンにより測定した。
ダニスキャンによる測定は、以下の方法で行った。
測定したい濾紙の表面を、ダニスキャンの採取部で約1分間ジグザグにこすり、この採取部に付属の現像液をゆっくり5滴染み込ませた。10〜15分後、窓の部分に現れた赤い線の濃さを比較することで、ダニアレルゲンの量を判定した。なお、比較対照として、上記の試料を用いず、濾紙のみの上からダニアレルゲン抗原溶液を滴下して、同様に測定した。
得られた結果を図5〜8に示す。
図中、Cはコントロールライン、Tはテストラインである。テストラインに赤線が濃く現れるほどダニに汚染されているという判定である。アレルゲン分解用紙や、アレルゲン分解機能を有するフィルター及び寝具を用いた試験では、テストラインの発色はほとんどみられなかった。得られた結果から明らかなように、本発明のアレルゲン分解用繊維素材及びアレルゲン分解機能を有する繊維製品は、防ダニ剤を用いず、かつ、ダニアレルゲンの分解能が優れることが確認できた。製紙については、前記したようにELISA法によるアレルゲン吸着力試験には支障があるが、ダニスキャンによるアレルゲン吸着力試験を行うことで、ダニアレルゲンを吸着する能力に優れることが確認できた。従って、本発明のアレルゲン分解用繊維素材及びアレルゲン分解機能を有する繊維製品は、防ダニ剤を用いず、かつ、アレルゲン分解機能が優れる。
【産業上の利用可能性】
本発明のアレルゲン分解用繊維素材は、担持されている金属フタロシアニンの誘導体の働きによってアレルゲンを分解する効果が実験的に確認されているから、それを利用した繊維製品は、アレルギー症状の発現を予防する繊維製品等に適用できる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)

(式(I)中、MはFe、Co、Mn、Ti、V、Ni、Cu、Zn、Mo、W、Osから選択される金属)で示される金属フタロシアニンの誘導体を担持させた天然繊維、合成繊維、半合成繊維または再生繊維を含む綿、糸、織布、不織布、編物、または紙からなることを特徴とするアレルゲン分解用繊維素材。
【請求項2】
前記金属フタロシアニンの誘導体が、下記式(II)

(式(II)中、MはFe、Co、CuおよびNiから選択される金属、R、R、RおよびRは同一または異なるCOOH基またはSOH基であり、n1、n2、n3およびn4は0〜4で1≦n1+n2+n3+n4≦8を満たす正数)で示される化合物、またはその塩であることを特徴とする請求項1に記載のアレルゲン分解用繊維素材。
【請求項3】
下記式(I)

(式(I)中、MはFe、Co、Mn、Ti、V、Ni、Cu、Zn、Mo、W、Osから選択される金属)で示される金属フタロシアニンの誘導体を担持させた天然繊維、合成繊維、半合成繊維または再生繊維を含む綿、糸、織布、不織布、編物、または紙からなるアレルゲン分解用繊維素材を少なくとも一部に有して形づくられていることを特徴とするアレルゲン分解機能を有する繊維製品。
【請求項4】
前記金属フタロシアニンの誘導体が、下記式(II)

(式(II)中、MはFe、Co、CuおよびNiから選択される金属、R、R、RおよびRは同一または異なるCOOH基またはSOH基であり、n1、n2、n3およびn4は0〜4で1≦n1+n2+n3+n4≦8を満たす正数)で示される化合物、またはその塩であることを特徴とする請求項3に記載のアレルゲン分解機能を有する繊維製品。
【請求項5】
前記アレルゲン分解用繊維素材を少なくとも一部に含み、障子紙、ふすま紙、壁紙、被服、タオル、ハンカチ、カーテン、カーペット、絨毯、畳、ソファー、クッション、椅子、ぬいぐるみ、ワイパー、オムツ、ペット用品、カーシート、カーマット、チャイルドシート、自動車の内装材、電車の内装材、飛行機の内装材に形づくられたことを特徴とする請求項3に記載のアレルゲン分解機能を有する繊維製品。
【請求項6】
前記アレルゲン分解用繊維素材を少なくとも一部に含み、寝装品である布団、毛布、シーツ、枕、ベッドパッド、マットレスに形づくられたことを特徴とする請求項3に記載のアレルゲン分解機能を有する繊維製品。
【請求項7】
下記式(I)

(式(I)中、MはFe、Co、Mn、Ti、V、Ni、Cu、Zn、Mo、W、Osから選択される金属)で示される金属フタロシアニンの誘導体を担持した天然繊維、合成繊維、半合成繊維または再生繊維を含むアレルゲン分解用繊維層を気体通過層とするフィルター。
【請求項8】
下記式(I)

(式(I)中、MはFe、Co、Mn、Ti、V、Ni、Cu、Zn、Mo、W、Osから選択される金属)で示される金属フタロシアニンの誘導体を0.1〜10質量%担持した天然繊維、合成繊維、半合成繊維または再生繊維を含むアレルゲン分解用繊維層を気体通過層とするフィルター。
【請求項9】
下記式(I)

(式(I)中、MはFe、Co、Mn、Ti、V、Ni、Cu、Zn、Mo、W、Osから選択される金属)で示される金属フタロシアニンの誘導体を担持したセルロース系繊維が含まれるアレルゲン分解用繊維層を気体通過層とするフィルター。
【請求項10】
下記式(I)

(式(I)中、MはFe、Co、Mn、Ti、V、Ni、Cu、Zn、Mo、W、Osから選択される金属)で示される金属フタロシアニンの誘導体を担持した天然繊維、合成繊維、半合成繊維または再生繊維を含むアレルゲン分解用繊維層を人の呼気通過層とするマスク。
【請求項11】
下記式(I)

(式(I)中、MはFe、Co、Mn、Ti、V、Ni、Cu、Zn、Mo、W、Osから選択される金属)で示される金属フタロシアニンの誘導体を0.1〜10質量%担持した天然繊維、合成繊維、半合成繊維または再生繊維を含むアレルゲン分解用繊維層を人の呼気通過層とするマスク。
【請求項12】
下記式(I)

(式(I)中、MはFe、Co、Mn、Ti、V、Ni、Cu、Zn、Mo、W、Osから選択される金属)で示される金属フタロシアニンの誘導体を担持したセルロース系繊維が含まれるアレルゲン分解用繊維層を人の呼気通過層とするマスク。
【請求項13】
前記人の呼気通過層と、平均繊維径10μm以下の極細繊維層との少なくとも2層を有し、該極細繊維層が人体皮膚に近い側に配置されていることを特徴とする請求項10〜12のいずれかに記載のマスク。
【請求項14】
前記人の呼気通過層と、平均繊維径10μm以下の極細繊維層との片側または両側に、さらに平均繊維径が10μmより大きい合成繊維層が配置されていることを特徴とする請求項10〜12のいずれかに記載のマスク。

【国際公開番号】WO2005/021860
【国際公開日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【発行日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−513514(P2005−513514)
【国際出願番号】PCT/JP2004/012594
【国際出願日】平成16年8月25日(2004.8.25)
【出願人】(804000015)株式会社信州TLO (30)
【出願人】(000002923)大和紡績株式会社 (173)
【Fターム(参考)】