説明

アレルゲン除去フィルタ、複合フィルタ及びフィルタエレメント

【課題】 自動車用や家庭用空気清浄機などの生活環境における空調機器に装着して使用されるフィルタに関し、アレルギーを引き起こす原因物質であるダニや花粉などを由来とするアレルゲン物質を不活化または除去する、新規なアレルゲン除去フィルタを提供する。
【解決手段】 アスチルビン、ネオアスチルビン、イソアスチルビン、ネオイソアスチルビンおよびタキシフォリンからなる群から選ばれた化合物の1種または2種以上を合せて5質量%以上含有してなるアスチルビン類物質が、繊維基材に面密度0.01g/m以上付着しており、且つ前記アスチルビン類物質の付着割合が、前記繊維基材の面密度に対して、0.1〜30%であるアレルゲン除去フィルタである。また、塵埃を除去する塵埃除去用濾材または/および有害ガスを除去するガス除去用濾材が前記アレルゲン除去フィルタと一体化してなる複合エアフィルタである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用や家庭用空気清浄機などの生活環境における空調機器に装着して使用されるフィルタに関し、特にアレルギーを引き起こす原因物質であるダニや花粉などを由来とするアレルゲン物質を不活化または除去するアレルゲン除去フィルタ、およびアレルゲン除去フィルタと他の機能を有するフィルタとの複合フィルタに関する。また、アレルゲン除去フィルタまたは複合フィルタがプリーツ折り加工されてなるフィルタエレメントに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、住宅の高気密化に伴ないダニの発生頻度の増大や、スギ花粉などの大量発生による花粉症の著しい増加などにより、アレルギー対策が緊急の課題となっており、アレルギーを引き起こす原因物質である、ダニや花粉などを由来とするアレルゲン物質を不活化または除去する技術が広く求められている。これらの、アレルゲン物質を除去する技術としては、自動車用や家庭用空気清浄機などの生活環境における空調機器にアレルゲン物質を除去するフィルタを装着して、室内空気中のアレルゲン物質を除去することが有効とされている。
【0003】
このようなフィルタとして、特許文献1に、蛋白性アレルゲン物質を吸着し、この吸着した蛋白性アレルゲン物質のアレルギー活性を不活化する、茶の抽出成分からなるアレルギー不活化剤をフィルターに添着することにより、蛋白性アレルゲン物質の吸着除去と、前記吸着した蛋白性アレルゲン物質のアレルギー活性を不活化することができる抗アレルゲンフィルターが開示されている。そして、茶ポリフェノールとはエピガロカテキンガレート、エピカテキンガレート、エピガロカテキン、エピカテキン、(+)カテキンおよびこれらの属性体、遊離型テアフラビン、テアフラビンモノガレートA、テアフラビンモノガレートB並びにテアフラビンガレートの中から選ばれた少なくとも1種の物質であることが示されている。
【0004】
また、特許文献2に、アレルゲンをトラップする不織布フィルターと、この不織布フィルターの片面に配置されたステンレス製面発熱体と、このステンレス製面発熱体を加熱するヒータとを具備するアレルゲン不活性フィルターが開示されている。また、同文献には、不織布フィルターに、強酸性陽イオン交換樹脂若しくは強塩基性陰イオン交換樹脂を保持させたアレルゲン不活性フィルターも開示されている。またさらに、同文献には、酵素(プロテアーゼ・ペプチターゼ)を保持させるアレルゲン不活性フィルターであって、吸水性ポリマーの径より小さいメッシュを有した第1の支持体と、この第1の支持体の片側に配置された、吸水性ポリマーの径より小さいメッシュを有した第2の支持体と、前記第1の支持体と第2の支持体間に配置された吸水性ポリマー層とを具備するアレルゲン不活性フィルターも開示されている。
【0005】
以上のように、アレルゲン物質を除去するフィルタとして各種の提案がなされている。しかし、アレルゲン物質はダニや花粉などを含む様々なものを由来としており、そのアレルゲン物質によるアレルギー症状も様々である。また、上記のようなアレルゲン物質を除去する技術も知られているが、これらの様々なアレルゲン物質に全て対応できるものではなく、その効果も十分とはいい切れない。したがって、上記のようなアレルゲン物質を除去する技術以外にも、アレルゲン物質を除去する多様な技術が求められている。
【0006】
【特許文献1】特開2000−5531号公報
【特許文献2】特開2003−33612号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の要求に答えるべく、自動車用や家庭用空気清浄機などの生活環境における空調機器に装着して使用されるフィルタに関し、アレルギーを引き起こす原因物質であるダニや花粉などを由来とするアレルゲン物質を不活化または除去する、新規なアレルゲン除去フィルタを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のアレルゲン除去フィルタに係る解決手段は、アスチルビン、ネオアスチルビン、イソアスチルビン、ネオイソアスチルビンおよびタキシフォリンからなる群から選ばれた化合物の1種または2種以上を合せて5質量%以上含有してなるアスチルビン類物質が、繊維基材に面密度0.01g/m以上付着しており、且つ前記アスチルビン類物質の付着割合が、前記繊維基材の面密度に対して、0.1〜30%であることを特徴とするアレルゲン除去フィルタである。また、本発明の複合エアフィルタに係る解決手段は、塵埃を除去する塵埃除去用濾材または/および有害ガスを除去するガス除去用濾材が前記アレルゲン除去フィルタと一体化してなることを特徴とする複合エアフィルタである。また、本発明の複合エアフィルタに係る解決手段は、前記アレルゲン除去フィルタ、または前記複合エアフィルタがプリーツ折り加工されてなることを特徴とするフィルタエレメントである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によって、自動車用や家庭用空気清浄機などの生活環境における空調機器に装着して使用されるフィルタに関し、アレルギーを引き起こす原因物質であるダニや花粉などを由来とするアレルゲン物質を不活化または除去する、新規なアレルゲン除去フィルタを提供することが可能となった。また、前記アレルゲン除去フィルタと一体化してなる複合エアフィルタを提供することが可能となった。また、前記アレルゲン除去フィルタ、または前記複合エアフィルタがプリーツ折り加工されてなるフィルタエレメントを提供することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明に係るアレルゲン除去フィルタ、複合エアフィルタ並びにフィルタエレメントの好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0011】
本発明のアレルゲン除去フィルタは、アスチルビン、ネオアスチルビン、イソアスチルビン、ネオイソアスチルビンおよびタキシフォリンからなる群から選ばれた化合物の1種または2種以上を合せて5質量%以上含有してなるアスチルビン類物質が繊維基材に付着している。「アスチルビン類物質」とは、アスチルビン、ネオアスチルビン、イソアスチルビン、ネオイソアスチルビンおよびタキシフォリンからなる群から選ばれた化合物の1種または2種以上を合せて5質量%以上含有してなる物質であり、10質量%以上含有することが好ましく、15質量%以上含有することが好ましく、20質量%以上含有することが更に好ましい。例えば、アスチルビンとタキシフォリンとを合せて、アスチルビン類物質を100質量%としたときに、アスチルビン類物質中の含有量が5質量%以上を占めることを含む。
【0012】
また、本発明ではアスチルビン類物質はアスチルビン、ネオアスチルビン、イソアスチルビン、ネオイソアスチルビンまたはタキシフォリン以外の物質をも含むことが可能である。例えばアスチルビン類物質を植物から抽出しようとすると、アスチルビン類物質はその他の物質を含む場合があり、本発明では、このように植物から抽出されたアスチルビン類物質であることも可能である。なお、本発明では、アスチルビン類物質が化学合成によるものであることも可能であり、アスチルビン類物質が、アスチルビン、ネオアスチルビン、イソアスチルビン、ネオイソアスチルビンおよびタキシフォリンからなる群から選ばれた化合物を含む限り特に限定されることはない。
【0013】
前記アスチルビン類物質は、アスチルビン、ネオアスチルビン、イソアスチルビン、ネオイソアスチルビンおよびタキシフォリンからなる群から選ばれた化合物の1種または2種以上を含むものであるが、これらの化合物は化1に示した化学構造を有し、アスチルビン、ネオアスチルビン、イソアスチルビンおよびネオイソアスチルビンは互いに立体異性体の関係にあるジヒドロフラボノール配糖体である。(以下、これらの立体異性体群をアスチルビン異性体群と称する)。また、タキシフォリンは、アスチルビン異性体群を配糖体加水分解の常法に従い酸や酵素で加水分解すると得られるアグリコン部分であり、例えば黄杞等からアスチルビン異性体群を抽出したときに得られる抽出物中に少量含まれていることもある。
【0014】
【化1】

【0015】
アスチルビン異性体群は、クルミ科に属する常緑高木・黄杞(オウキ;Engelhardtiachrysolepis HANCE=E.roxburgiana LINDL.=E.formosana HAYATA)の葉の部分に含まれているほか、ネジキ(Lyonia ovalifolia)、センリョウ(Chloranthusglber)、ケナシサルトリイバラ(Smilax glabra)、チダケサシ(Astilbe micro-phylla)、トリアシショウマ(Astilbe odontophylla)等にも含まれていることが確認されており、これらの植物体を、中間極性を有する有機溶媒、低級アルコールまたは水(これらの混合物でもよい)で抽出すると溶出してくる。
【0016】
黄杞葉は特にアスチルビン異性体群の含有率が高い抽出物を与えるので、その抽出物はそのままでも本発明におけるアスチルビン類物質として使うことができる。黄杞葉は中国南部で古くから甘茶の一種として利用されたり普通の茶に配合されたりしており、安全性に問題がない点でも本発明のアレルゲン除去フィルタに有利に適用することができる。この抽出物(アスチルビン類物質)中のアスチルビン異性体群の含有率(%)は、例えば熱水抽出によると、アスチルビン、ネオアスチルビン、イソアスチルビン、ネオイソアスチルビンの順に、3.87%、2.28%、0.81%、2.71%であり、合計9.67%であることが知られている。また、例えばエタノール抽出によると、アスチルビン、ネオアスチルビン、イソアスチルビン、ネオイソアスチルビンの順に、13.11%、1.20%、0.96%、1.01%であり、合計16.28%であることが知られている。
【0017】
また、この抽出物に、液液分配抽出、クロマトグラフィー、イオン交換樹脂処理等、任意の精製処理を施してアスチルビン異性体群の含有率を高めた抽出物(以下、アスチルビン類エキスと称する)とすれば、アレルゲン除去作用において一層すぐれ、且つ使い易いものを得ることができる。また、このようなアスチルビン類エキスであれば、アスチルビン、ネオアスチルビン、イソアスチルビン、ネオイソアスチルビンおよびタキシフォリンからなる群から選ばれた化合物の1種または2種以上を合せて10質量%以上含有してなるアスチルビン類物質を容易に得ることができる。
【0018】
本発明では、前記アスチルビン類物質が、繊維基材に面密度0.01g/m以上付着しており、且つアスチルビン類物質の付着割合が、繊維基材の面密度に対して、0.1〜30%である。前記繊維基材は、繊維から構成されたシート状またはマット状の形態であり、通気性を有する限り特に限定されず、例えば織物、編物、ネットまたは不織布などを適用することができる。この中で、不織布であれば、アレルゲンを含む塵埃を捕集する上で、繊維表面の総面積を広く効率良く利用でき、且つ繊維同士によって形成される小さな空隙を多数有しているので、特に好ましい。また、アスチルビン類物質を付着する上でも、繊維表面の総面積を広く効率良く利用できるので、特に好ましい。
【0019】
前記繊維基材としての不織布(以下、不織布基材と称する)も特に限定されず、不織布基材の構造としては、例えば繊維長15〜100mmの、捲縮数5〜30個/インチを有する通常ステープル繊維と呼ばれる繊維をカード機やエアレイ装置などを使用して、繊維ウエブに形成した後、接着性繊維または接着剤を用いて構成繊維を接着によって結合する方法による、一般的に乾式法と呼ばれる製法によって得られる不織布がある。乾式法による不織布は、厚さ方向に多数の繊維が配向しているので、厚さが大きく、且つ厚さがつぶれ難い利点がある。また、ステープル繊維には、カード機などで開繊可能なように捲縮加工が施されているので、嵩高な不織布基材となり、且つ圧縮に対しても厚さ方向の反発力に優れる利点がある。
【0020】
また、乾式法に限らずに任意の不織布の製法により、例えば湿式法、スパンボンド法、メルトブロー法、静電紡糸法又はフラッシュ紡糸法などによって形成される不織布を適用することができる。湿式法による場合は、例えば、水平長網方式、傾斜ワイヤー型短網方式、円網方式、又は長網・円網コンビネーション方式の抄紙機などを用いて、熱可塑性樹脂からなる繊維を含むスラリーから繊維シートを漉き上げる方法を採用することができる。詳細には、抄紙後の繊維シートに接着剤を用いて構成繊維を接着によって結合する方法がある。或いは、熱可塑性樹脂からなる接着性繊維をスラリーに混入させておき、抄紙後、接着性繊維を用いて構成繊維同士を接着によって結合する方法がある。
【0021】
また、スパンボンド法による場合は、例えば熱可塑性樹脂からなる繊維をノズルより紡出させて長繊維からなる繊維フリースとした後、凹凸を有する加熱ロールと平滑ロールとの間で繊維フリースを加圧しながら通過させることにより、部分的に熱可塑性樹脂からなる繊維が融着した不織布基材とする方法がある。また、例えば熱可塑性樹脂からなる繊維をノズルより紡出させて長繊維からなる繊維フリースとした後、熱可塑性樹脂からなる接着剤を用いて構成繊維を接着によって結合する方法がある。或いは、互いに融点が異なる2種類の樹脂成分からなる芯鞘型の長繊維をノズルより紡出させた後、低融点の鞘成分を接着成分として、構成繊維を接着によって結合する方法がある。また、熱可塑性樹脂からなる繊維をノズルより紡出させて長繊維からなる繊維フリースとする際に、熱可塑性樹脂からなる接着性のステープル繊維を吹き込み長繊維と短繊維とが一体化した繊維フリースとした後、構成繊維を接着によって結合する方法がある。ステープル繊維を用いた不織布基材であれば、厚さ方向に多数の繊維が配向しているので、厚さが大きく、且つ厚さがつぶれ難い利点がある。また、圧縮に対しても厚さ方向の反発力に優れる利点がある。
【0022】
また、静電紡糸法又はフラッシュ紡糸法などによる場合は、例えば熱可塑性樹脂からなる繊維をノズルより紡出させて繊維フリースとした後、熱可塑性樹脂からなる接着剤を用いて構成繊維を接着によって結合する方法がある。
【0023】
また、これらの不織布製法において、形成される繊維ウェブ、繊維シート、または繊維フリースにニードルや水流の作用によって繊維同士を絡合させて繊維同士を結合する方法を併用することも可能である。また、加熱ロールを用いて、全面的にまたは部分的に繊維同士を熱融着により結合する方法を併用することも可能である。
【0024】
前記不織布基材を構成する繊維は、特に限定されず、熱可塑性樹脂からなる合成繊維、レーヨンなどの半合成繊維、綿およびパルプ繊維などの天然繊維、あるいは金属などの無機繊維を適用することが可能であるが、耐久性や加工性などの点を考慮すると、熱可塑性樹脂からなる繊維を含むことが好ましい。熱可塑性樹脂からなる繊維としては、不織布の製造で一般的に用いられる合成繊維があり、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系繊維、ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド系繊維、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン系繊維、ポリアクリロニトリルなどのアクリル系繊維およびポリビニルアルコール系繊維などを挙げることができる。また、フィルタの濾過性能をさらに向上させる場合は、これらの繊維の中でも帯電性に優れるポリオレフィン系繊維を適用することが好ましい。
【0025】
また、熱可塑性樹脂からなる繊維が、熱接着性の繊維であることも可能である。熱接着性の繊維としては、例えば他の繊維よりも融点が低く他の繊維を熱接着することのできる単一樹脂成分からなる繊維や、他の繊維よりも融点が低く他の繊維を熱接着することのできる低融点成分を繊維表面に有する複合繊維がある。このような複合繊維には、その横断面形状が例えば、低融点成分を繊維表面に有する芯鞘型やサイドバイサイド型等の複合繊維があり、またその材質は例えば、共重合ポリエステル/ポリエステル、共重合ポリプロピレン/ポリプロピレン、ポリプロピレン/ポリアミド、ポリエチレン/ポリプロピレン、ポリプロピレン/ポリエステル、ポリエチレン/ポリエステルなどの繊維形成性重合体の組み合わせからなる複合繊維がある。なお、前記熱接着性繊維の不織布基材全体に占める割合は好ましくは100〜5重量%であり、より好ましくは100〜50重量%であり、更に好ましくは100〜75重量%である。
【0026】
また、前記不織布基材における繊維の平均繊度は、0.1〜30デシテックスが好ましく、アレルゲンを付着させ、付着したアレルゲンを不活性化させるには0.5〜20デシテックスがより好ましく、1〜10デシテックスが更に好ましい。
【0027】
なお、前記繊維基材は補強などを目的として、例えば不織布、織物、編物またはネットなどの他の素材と積層して、必要に応じて一体化することにより、複合された繊維基材であることも可能である。
【0028】
前記繊維基材の面密度は5〜1000g/mであることが好ましく、10〜500g/mであることがより好ましく、10〜300g/mであることが更に好ましい。また、前記繊維基材の厚さは、0.03〜100mmであることが好ましく、0.05〜75mmであることがより好ましく、0.1〜50mmであることが更に好ましい。なお、プリーツ加工を施すことを考慮すると、0.03〜10mmであることが好ましく、0.05〜8mmであることがより好ましく、0.1〜5mmであることが更に好ましい。0.03mm未満であると、アレルゲンを付着させる量が少なくなる場合がある。また、5mmをこえると、プリーツ加工を施したときに、気体の濾過に寄与しないか又は寄与が極めて少ない部分(以下、デッドスペースと称する)が多くなり、かえってアレルゲンの付着量が少なくなり目的とするアレルゲンを除去する効果が得られない場合がある。
【0029】
本発明では、前記繊維基材に、アスチルビン類物質が、面密度0.01g/m以上付着しており、且つ前記アスチルビン類物質の付着割合が、前記繊維基材の面密度に対して、0.1〜30%である。付着の方法は、例えば合成樹脂からなる接着剤などによって、前記繊維基材に接着させる方法が可能であるが、アスチルビン類物質が水などの極性溶媒に可溶性である場合には、これらの極性溶媒に希釈した状態で付着させることができる。接着剤などを併用すると、アスチルビン類物質による不活作用が低下する場合があるので、アスチルビン類物質を直接に、あるいは極性溶媒に希釈した状態で付着させることが好ましい。
【0030】
また、付着の方法も特に限定されることはなく、例えばパッダーなどを用いた含浸、スプレー装置などによる塗布、コーターなどを用いた塗布などを挙げることができる。スプレー装置やコーターなどを用いた塗布によれば、繊維基材の片面に容易に付着させることが可能であり、片面に付着させる形態は、好ましい態様の一つである。すなわち、繊維基材の空気流出側に付着させることにより、空気流入側はアレルゲンの大部分を捕集して、空気流入側で捕集できなかったアレルゲンを捕集して、且つ不活化させることが可能となるので、アスチルビン類物質を極めて有効に作用させることが可能となり、アレルゲン除去効率に優れるので好ましい態様である。
【0031】
前記繊維基材に、アスチルビン類物質は、面密度0.01g/m以上付着しており、好ましくは、面密度0.02g/m以上付着しており、より好ましくは、面密度0.05g/m以上付着している。面密度0.01g/m未満の付着の場合は、アレルゲン除去またはアレルゲン不活の作用が十分に行われないという問題がある。また、アスチルビン類物質の付着割合は、繊維基材の面密度に対して、0.1〜30%であり、好ましくは、0.5〜20%であり、より好ましくは、1〜10%である。0.1%未満の付着の場合は、アレルゲン除去またはアレルゲン不活の作用が十分に行われないという問題がある。
【0032】
本発明のアレルゲン除去フィルタは、塵埃を除去する塵埃除去用濾材と積層して、必要に応じて一体化してなる複合エアフィルタの形態であることも可能である。この複合エアフィルタの場合は、塵埃除去用濾材を空気の流入側に配置して、塵埃除去用濾材によってアレルゲンの大部分を捕集して、捕集できなかったアレルゲンをアレルゲン除去フィルタによって捕集して、且つ不活化させることが可能となるので、アスチルビン類物質を極めて有効に作用させることが可能となり、アレルゲン除去効率に優れるので好ましい態様である。仮に、アレルゲン除去フィルタを空気の流入側に配置した場合、アレルゲン除去フィルタに付着しているアスチルビン類物質にアレルゲンを含む多くの塵埃が付着してしまい、不活化の作用を阻害する場合があるためである。
【0033】
また、本発明のアレルゲン除去フィルタは、ガス除去粒子を含むガス除去粒子層を有し、有害ガスを除去する作用を有するガス除去用濾材と積層して、必要に応じて一体化してなる複合エアフィルタの形態であることも可能である。この複合エアフィルタの場合は、空気中のアレルゲンを除去または不活化させると共に空気中の有害ガスを除去することが可能となるので、単にアレルゲン除去作用と有害ガス除去作用の双方の作用を有効とするのみならず、アレルゲンと有害ガスの相互作用によるアレルギー症状をも防止する効果があり、好ましい態様の一つである。なお、この形態の場合は、ガス除去用濾材を空気の流入側に配置することが好ましく、下流側に配置したアレルゲン除去フィルタに、アレルゲンを含む塵埃が多数付着することを防ぐ効果がある。
【0034】
また、本発明のアレルゲン除去フィルタは、前記塵埃除去用濾材および前記ガス除去用濾材と積層して、必要に応じて一体化してなる複合エアフィルタの形態であることも可能である。この複合エアフィルタの場合、空気の流入側から、塵埃除去用濾材、ガス除去用濾材、アレルゲン除去フィルタの順に配置することが好ましい。この形態の利点としては、前述したように、塵埃除去用濾材によってアレルゲンの大部分を捕集して、捕集できなかったアレルゲンをアレルゲン除去フィルタによって捕集して、且つ不活化させることが可能となるので、アスチルビン類物質を極めて有効に作用させることが可能となり、アレルゲン除去効率に優れるという効果を有する。さらに、空気中のアレルゲンを除去または不活化させると共に空気中の有害ガスを除去することが可能となるので、単にアレルゲン除去作用と有害ガス除去作用の双方の作用を有効とするのみならず、アレルゲンと有害ガスの相互作用によるアレルギー症状をも防止する効果があり、多機能なフィルタとなり得る。
【0035】
前記複合エアフィルタにおいてアレルゲン除去フィルタと積層される塵埃除去用濾材、およびアレルゲン除去フィルタの濾過性能は、粗塵除去用のフィルタとして機能することが好ましく、具体的には、ASHRAE 52.1−1992に規定される試験方法において、SAE FINE ダストを用いて、質量法により評価すると、試験条件が風速0.25m/secの時に、粒子捕集平均効率が50〜99%であることが好ましく、粒子捕集平均効率が60〜99%であることが好ましく、粒子捕集平均効率が70〜99%であることが更に好ましい。粒子捕集平均効率が50%未満である場合は粗塵除去が不十分であり、粒子捕集平均効率が99%を超える場合は、アレルゲン除去フィルタの開孔径が細かくなり過ぎるため、すぐにアレルゲン除去フィルタ前後の圧力損失が限界に達して寿命が短くなり粗塵除去用のフィルタとして使用できない場合がある。なお、SAE FINE ダストとは、ISO12103−1(1997)のA2(fine)に規定される試験用ダストに適合するダストである。
【0036】
なお、アレルゲン除去フィルタが前記複合エアフィルタの流出側に積層されるアレルゲン除去フィルタである場合の濾過性能は、粒子捕集平均効率が上述の効率よりも低いほうが好ましい場合がある。その理由は、流入側で既に大部分のアレルゲンを含む塵埃粒子が捕集されており、流出側のアレルゲン除去フィルタでは流入側の塵埃除去用濾材では捕集されなかったアレルゲンを捕集して、且つ不活化する作用を奏する。したがって、流出側のアレルゲン除去フィルタは粒子捕集平均効率が必ずしも高い必要がなく、粒子捕集平均効率の高いアレルゲン除去フィルタを配置した場合にかえって圧力損失が高くなってしまうというデメリットもあり得る。このような作用を考慮すると、前記アレルゲン除去フィルタが前記複合エアフィルタの流出側に積層されるアレルゲン除去フィルタである場合の濾過性能は、例えば粒子捕集平均効率が3〜90%であることが好ましく、粒子捕集平均効率が5〜80%であることが好ましく、粒子捕集平均効率が10〜70%であることが更に好ましい。
【0037】
また、アレルゲン除去フィルタにプリーツ折り加工を施す場合は、アレルゲン除去フィルタの初期の圧力損失は、試験条件が風速0.1m/secの時に、50Pa以下が好ましく、30Pa以下がより好ましく、20Pa以下が更に好ましい。
【0038】
前記複合エアフィルタにおいてアレルゲン除去フィルタと積層される塵埃除去用濾材、およびアレルゲン除去フィルタの濾過性能は、粗塵除去用のフィルタとして機能することが好ましいことは既に述べたとおりであるが、さらに濾過性能をより向上させ、比色法のみならず計数法でも評価できる濾過性能を有するものとするには、前記塵埃除去用濾材およびアレルゲン除去フィルタに帯電加工を施し構成繊維をエレクトレット化する方法がある。なお、アレルゲン除去フィルタに帯電加工を施す場合は、繊維基材に帯電加工を施してから、アスチルビン類物質を付着させることも可能である。
【0039】
前記塵埃除去用濾材またはアレルゲン除去フィルタに帯電加工が施された後の濾過性能は、微塵除去用のフィルタとして機能することが好ましく、具体的には、ASHRAE 52.1−1992に規定される試験方法において、SAE FINE ダストを用いて、質量法により評価すると、試験条件が風速0.25m/secの時に、粒子捕集平均効率が50〜99%であることが好ましく、粒子捕集平均効率が60〜99%であることが好ましく、粒子捕集平均効率が70〜99%であることが更に好ましい。粒子捕集平均効率が50%未満である場合は粗塵除去が不十分であり、粒子捕集平均効率が99%を超える場合は、アレルゲン除去フィルタの開孔径が細かくなり過ぎるため、すぐにアレルゲン除去フィルタ前後の圧力損失が限界に達して寿命が短くなり粗塵除去用のフィルタとして使用できない場合がある。また、JIS B9908形式1に規定される試験方法において、0.3μmの大気塵を用いて、計数法により評価すると、試験条件が風速0.1m/secの時に、粒子捕集平均効率が5〜50%であることが好ましく、粒子捕集平均効率が10〜50%であることが好ましく、粒子捕集平均効率が20〜50%であることが更に好ましい。
【0040】
アレルゲン除去フィルタは、前記塵埃除去用濾材および前記ガス除去用濾材と積層して、必要に応じて一体化してなる複合エアフィルタの形態であることが可能であることは、既に述べたとおりであるが、この複合エアフィルタについて、好ましい具体的な一例として、前記アレルゲン除去フィルタと前記ガス除去用濾材とが積層一体化してなる複合エアフィルタであって、前記アレルゲン除去フィルタは前記ガス除去用濾材からのガス除去粒子の脱落を防止するカバー材としての機能を有する複合エアフィルタがあり、詳細な具体例を次に示す。
【0041】
前記複合エアフィルタの形態としては、例えば図1に示すように、通気性のカバー材(5)によってガス除去粒子(3)を挟持した複合エアフィルタ(13)がある。より具体的には、ガス除去粒子(3)と、ガス除去粒子(3)を連結する樹脂体(10)、(10’)とからなるガス除去粒子層(8)の両面に、通気性のカバー材(5)が積層一体化されている複合エアフィルタ(13)がある。この例では、ガス除去粒子(3)が熱接着性の繊維からなる樹脂体(10’)によって連結してシート状になったガス除去用濾材(4)の片面または両面に樹脂体(10)によって通気性のカバー材(5)が貼り合されている。本発明では、通気性のカバー材(5)の一方または両方を前記アレルゲン除去フィルタとすることができる。
【0042】
このような構造のガス除去粒子層(8)を得るには、例えば、通気性を有し且つ熱接着性を有する樹脂成分からなるマット状物にガス除去粒子(3)を保持しておき、好ましくはその後、加熱処理によってガス除去粒子(3)をマット状物に接着することによって得ることができる。このような通気性を有するマット状物としては、不織布、織物、膜、ろ紙、スポンジなどの多孔質体などが挙げられ、なかでも不織布は通気性が高いので好ましい。不織布の場合は、例えば160℃以下の融点を有する一成分からなる接着性繊維、或いは160℃以下の低融点成分を含む二成分以上からなる接着性複合繊維などを含む不織布を適用することができる。なお、本発明では上記マット状物をガス除去粒子を連結する樹脂体としている。
【0043】
複合エアフィルタの別の形態としては、例えば図2に例示するように、ガス除去粒子(3)と、前記ガス除去粒子(3)を連結する樹脂体(以下、連結部と称する)(1)、(1’)、(10)、及び(10’)と凝集した樹脂体(以下、樹脂凝集部と称する)(2)及び(2’)とからなるガス除去粒子層8の両面に、通気性のカバー材(5)及び(5’)が積層一体化されている複合エアフィルタ(13)がある。この例では、ガス除去粒子(3)が樹脂体(1)、(1’)、(10)、又は(10’)によって連結してシート状になったガス除去用濾材(4)に、通気性のカバー材(5)及び(5’)が積層一体化されている。より具体的には、ホットメルト樹脂からなる連結部(1)と樹脂凝集部(2)とで構成されたウエブの一方の表面に、樹脂凝集部(2)を介してガス除去粒子(3)が固着されている。本発明では、通気性のカバー材(5)及び(5’)の一方または両方を前記アレルゲン除去フィルタとすることができる。
【0044】
複合エアフィルタのさらに別の形態としては、例えば図3に例示するように、ガス除去粒子(3)及び(3’)と、前記ガス除去粒子(3)及び(3’)を連結する樹脂体(1)、(1’)、(1” )、(10)、(10’)及び(10” )と凝集した樹脂体(2)、(2’)及び(2” )とからなるガス除去粒子層8の両面に、通気性のカバー材(5)及び5’が積層一体化されている複合エアフィルタ(13)がある。この例では、ガス除去粒子(3)及び(3’)が樹脂体(1)、(1’)、(1” )、(10)及び(10’)によって連結してシート状になったガス除去用濾材(4)と(4’)とが積層されており、さらにこの積層物に、通気性のカバー材(5)及び(5’)が樹脂体(1)、(1’)、(10)、及び(10’)と凝集した樹脂体(2)、(2’)及び(2” )によって積層一体化されている。より具体的には、複数の積層単位(4)で構成され、積層単位(4)がホットメルト樹脂から成る連結部(1)と樹脂凝集部(2)とで構成されたウエブの一方の表面に、樹脂凝集部(2)を介してガス除去粒子(3)を固着してなり、該ウエブの他方の表面と、他の積層単位(4’)を構成するガス除去粒子(3’)とが樹脂凝集部(2” )を介して固着している。本発明では、通気性のカバー材(5)及び(5’)の一方または両方を前記アレルゲン除去フィルタとすることができる。
【0045】
また、このような構造のガス除去用濾材を得る方法としては、例えば、図3に示すように積層単位(4)が2層以上である場合は、ホットメルト不織布(10)の表面にガス除去粒子(3)を配した後、加熱処理によって該ホットメルト不織布と該ガス除去粒子とが接する部分に樹脂凝集部(2)を形成し、かつ樹脂凝集部(2)とホットメルト樹脂からなる連結部(1)とからなるウエブを形成する第一の工程と、該ガス除去粒子のうち、該ウエブに固着されたガス除去粒子のみを残存せしめて積層単位(4)を形成する第二の工程と、積層単位(4)のガス除去粒子(3)に接してホットメルト不織布(10” )を積層し、続いて、ホットメルト不織布(10” )の表面にガス除去粒子(3’)を配した後、前記第一の工程と前記第二の工程とを順次行う方法がある。なお、ガス除去粒子層8の両表面となるホットメルト不織布(10)及び(10’)のかわりに、カバー材(5)及び(5’)にホットメルト不織布を付着させたシートを用いることにより、通気性のカバー材(5)及び(5’)を積層一体化した複合エアフィルタ(13)とすることができる。
【0046】
複合エアフィルタのさらに別の形態としては、例えばガス除去粒子が熱融着性の樹脂体で互いに接合されてシート状となったガス除去粒子層の両面に、通気性のカバー材が積層一体化されている複合エアフィルタがある。このような構造のガス除去粒子層を得るには、例えば、ガス除去粒子と熱融着性の樹脂粉末とを混合した後、カバー材に挟持して、加熱処理によって複合エアフィルタとする方法がある。本発明では、前記通気性のカバー材の一方または両方を前記アレルゲン除去フィルタとすることができる。
【0047】
上述の、図2または図3の形態であれば、特に低圧力損失でしかもガス除去粒子の表面が有効に利用されるので優れたガス除去効率を呈することができる。また、このような構造を有する複合エアフィルタはプリーツ加工がし易いという利点がある。
【0048】
本発明に適用されるガス除去粒子は、生活環境での不快な臭気物質の除去などに用いる、或いは半導体や液晶の生産施設やクリーンルームなどにおいて空気や雰囲気中に含まれるガス状汚染物質を除去するために用いる、ガス状物質を吸着したり、ガス状物質を吸着しやすい物質に変化させたりすることのできる固体粒子である。このようなガス除去粒子としては、例えば活性炭や、これに酸性ガス又は塩基性ガスなどを除去できる数々の化学成分を付加した添着炭、ゼオライト、種々の化学吸着剤、イオン交換樹脂、光触媒などの触媒などがあり、これらの中から一種又は二種以上を適宜選択することができる。また、このうち例えば活性炭を選択した場合は比表面積が200m/g以上の多孔質のものが好ましく、500m/g以上のものがより好ましい。また、脱臭粒子の粒径は、高効率と低圧損とを共に実現するために平均粒径を0.150mm(100メッシュ)以上1.7mm(10メッシュ)以下とすることが好ましく、平均粒径を0.212mm(70メッシュ)以上0.85mm(20メッシュ)以下とすることがより好ましい。平均粒径が0.150mm(100メッシュ)よりも細かい平均粒径の脱臭粒子を用いると、初期のガス除去効率を高く採れる反面、圧力損失が大きくなってしまうという問題が生じる場合がある。
【0049】
前記複合エアフィルタの厚さは、プリーツ加工を施すことを考慮すると、0.3〜5mmであることが好ましく、0.5〜3mmであることがより好ましく、0.7〜2mmであることが更に好ましい。0.3mm未満であると、複合エアフィルタとしての機能が十分に発揮されない場合がある。また、5mmをこえると、プリーツ加工を施したときに、気体の濾過に寄与しないか又は寄与が極めて少ない部分(以下、デッドスペースと称する)が多くなり、かえって複合エアフィルタとしての機能が十分に発揮されない場合がある。
【0050】
本発明のフィルタエレメントは、前記アレルゲン除去フィルタがプリーツ折り加工されてなるか、あるいは前記複合エアフィルタがプリーツ折り加工されてなる。具体的には、本発明のフィルタエレメントは、図4又は図5に例示するように、前記フィルタ(21)がプリーツ加工されており、保形部材(22a)によってプリーツ形状が保持されてなるフィルタエレメント(20)である。なお、図4では、プリーツ加工されたフィルタ(21)の、プリーツの峰線方向と交叉する端面に、保形部材(22b)が矢印Aの方向に装着する態様も例示している。前記フィルタのプリーツ加工は、ジグザグ形状に折られている限り限定されず、この折り加工方法としてはレシプロ式やロータリー式などのプリーツ加工機による方法や、ジグザグ形状に成形された押型でプレスする方法などがある。
【0051】
また、保形部材としては、プリーツ形状を保持することができる限り、特に限定されず、例えば織編物、不織布、合成樹脂シート、発泡シート、紙、金属材料またはこれらの複合物などのシート状物を適用することができる。このうち特に不織布であれば、強度に優れると共に、フィルタエレメントを剛性枠に装着する際にクッション性に優れ、剛性枠との間のシール性に優れるので好ましい。具体的には、これらのシート状物を、熱融着させたり、接着剤や接着性シートを介して接着することにより、プリーツの峰線方向と交叉する端面に、装着することができる。なお、保形部材としては、シート状物に限らず、発泡性樹脂等を付着させて発泡して形成することなども可能である。また、保形部材は、プリーツの峰線方向と交叉する端面以外にも、峰線方向と平行な端面にも装着することが可能である。
【0052】
前記プリーツ加工前に、或いはプリーツ加工後に、図4又は図5に例示するように、前記フィルタ(21)に、プリーツの峰線方向と交叉する方向に、間隔をおいて平行に、線状の樹脂を付着させたセパレータ(24)を設けて、プリーツの山の斜面が接触してデッドスペースとなることを防ぐことも好ましい。線状の樹脂の付着は、これらの図のように、断続的としてプリーツの山の峰に設けて、プリーツの谷部には設けないようにすることも好ましく、またアレルゲン除去フィルタの両面に設けることも好ましい態様である。
【0053】
また、前記フィルタエレメントは、図4に例示するように、ひだ(23)が多数形成されていることが好ましく、具体的には、図6に示すように、ひだ(23)の高さHは5〜150mmが好ましく、8〜100mmがより好ましく、15〜50mmが更に好ましい。また、ひだ(23)のピッチPは1〜20mmが好ましく、2〜15mmがより好ましく、3〜10mmが更に好ましい。また、ピッチP(mm)と高さH(mm)との比P/Hが0.05〜0.7であることが好ましく、0.05〜0.5であることが好ましく、0.05〜0.3であることが更に好ましい。P/Hが0.05未満であると、ひだの角度が小さくなり過ぎるので、風圧でひだの角度が広がり隣接するひだと付着してしまいデッドスペースとなり、粉塵保持容量が低下してしまう場合がある。また、P/Hが0.5を超えると、ひだの数が少なくなり濾材全体の面積が少なくなり、粉塵保持容量が低下してしまう場合がある。また、ひだの高さが5mm未満であるとひだの数が多くなり過ぎてイニシャルコストが非常に大きくなる場合がある。ひだの高さが150mmを超えると、ひだの角度が小さくなり過ぎるので、風圧でひだの角度が広がり隣接するひだと付着してしまいデッドスペースとなり、かえって粉塵保持容量が低下してしまう場合がある。
【0054】
また、フィルタエレメントの全体の大きさは、自動車用や家庭用空気清浄機などの生活環境における空調機器に装着して使用されるフィルタエレメントの場合、空気の流入面の一辺の寸法が80〜500mmが好ましく、100〜400mmがより好ましく、150〜300mmが更に好ましい。また、奥行は5〜100mmが好ましく、10〜50mmがより好ましく、15〜30mmが更に好ましい。また、ビル、工場、事務所などに設置される空気清浄装置に、パッケージフィルター、ファンコイルユニット、中央空調用フィルタユニット等の粗塵除去用フィルタとして使用されるフィルタエレメントの場合、空気の流入面の一辺の寸法が200〜1500mmが好ましく、300〜1000mmがより好ましく、400〜700mmが更に好ましい。また、奥行は10〜500mmが好ましく、20〜400mmがより好ましく、30〜300mmが更に好ましい。
【0055】
前記フィルタエレメントを空調装置に適用する場合はフィルタエレメントを剛性枠に装着して用いることができる。この剛性枠は剛性のある材質である限り特に限定されず、木材、金属、プラスチック等が適用され、数回の洗浄再生の後に焼却、廃棄される場合は木材が好ましい。
【0056】
前記フィルタエレメントの濾過性能は、粗塵除去用のフィルタとして機能する場合は、具体的には、ASHRAE 52.1−1992に規定される試験方法において、SAE FINE ダストを用いて、質量法により評価すると、空気の流入面の少なくとも一辺の寸法が80〜500mmの場合、試験条件が風量550m/hrの時に、粒子捕集平均効率が50〜99%であることが好ましく、粒子捕集平均効率が60〜99%であることが好ましく、粒子捕集平均効率が70〜99%であることが更に好ましい。粒子捕集平均効率が50%未満である場合は粗塵除去が不十分であり、粒子捕集平均効率が99%を超える場合は、アレルゲン除去フィルタの開孔径が細かくなり過ぎるため、すぐにアレルゲン除去フィルタ前後の圧力損失が限界に達して寿命が短くなり粗塵除去用のフィルタとして使用できない場合がある。なお、空気の流入面の全ての辺の寸法が500mmを超える場合は、試験条件として風量1100m/hrを採用することができる。
【0057】
以上説明したように、本発明によって、自動車用や家庭用空気清浄機などの生活環境における空調機器に装着して使用されるフィルタに関し、アレルギーを引き起こす原因物質であるダニや花粉などを由来とするアレルゲン物質を不活化または除去する、新規なアレルゲン除去フィルタを提供することが可能となった。また、前記アレルゲン除去フィルタと一体化してなる複合エアフィルタを提供することが可能となった。また、前記アレルゲン除去フィルタ、または前記複合エアフィルタがプリーツ折り加工されてなるフィルタエレメントを提供することが可能となった。
【0058】
以下、本発明の実施例につき説明するが、これは発明の理解を容易とするための好適例に過ぎず、本発明はこれら実施例の内容に限定されるものではない。
【実施例】
【0059】
(スギ花粉アレルゲン不活性化試験)
被試験試料(繊維基材)を8mmの大きさに切り、48wellプレートの底に置いて、1well当たり300μLずつPBS(−)に溶解したスギ花粉アレルゲン溶液(精製スギ花粉抗原Cryj1 1ng/mL)を添加し、2時間および4時間室温で振とうした。振とう後、100μLを採取し、その中に存在するスギ花粉アレルゲン濃度をサンドイッチELISA法により定量した。また、アレルゲンを不活性化する薬剤を用いていない被試験試料(フィルタ)のアレルゲン濃度をBとし、被試験試料(繊維基材)のアレルゲン濃度をAとすると、式 C=100×(B−A)/Bから求まるCの値をアレルゲン不活性化率(%)とした。
【0060】
(フィルタの濾過性能試験方法−質量法)
ASHRAE 52.1−1992に規定される試験方法において、風速0.25m/secにて、圧力損失が200PaになるまでSAE FINE ダストを供給した後、粒子捕集平均効率(%)及び濾過寿命(粉塵捕集量)(g/m)を求める。また、初期の圧力損失(Pa)は風速0.1m/secにて測定した値を用いる。
【0061】
(フィルタの濾過性能試験方法−計数法)
JIS B9908形式1に規定される試験方法において、風速0.1m/secにて、0.3μmの大気塵を供給して、粒子捕集平均効率(%)を求める。
【0062】
(ガス除去性能試験)
DIN71460 PartIIに規定される試験方法において、トルエン濃度が80ppmとなるように、試験用エアーを調整した後、風速0.1m/secにて試験用エアーを供給して、トルエンの初期除去効率を(%)を求め、ガス除去効率とする。
【0063】
(原材料調整1)
黄杞葉からのエタノール抽出物を精製して得られたアスチルビン類エキスA(10%水溶液)を準備した。このアスチルビン類エキスの乾燥物には、アスチルビン、ネオアスチルビン、イソアスチルビン、ネオイソアスチルビンおよびタキシフォリンが含まれており、前記乾燥物に対してこれら6種類の化合物を合せた物質の含有割合は16質量%であった。
【0064】
(実施例1)
繊維径10〜30μm、面密度20g/m、厚さ0.12mm、圧力損失1.0Pa(風速10cm/s)のポリエステル繊維からなるスパンボンド不織布に、原材料調整1で得たアスチルビン類エキスAを含浸した後、乾燥させて、スパンボンド不織布に面密度1g/mのアスチルビン類物質を付着させ、アレルゲン除去フィルタを得た。このアレルゲン除去フィルタを、複合エアフィルタを得るためのカバー材Bとする。
【0065】
(原材料調整2)
熱可塑性ポリアミド系樹脂(190℃におけるメルトインデックス:80)を溶融紡糸して、面密度20g/mの蜘蛛の巣状のホットメルト不織布を形成した後、直ちに原材料調整2で得たカバー材B上に積層した。ホットメルト不織布は冷却されると同時にカバー材Bに付着して、ホットメルト不織布が付着した面密度40g/mのカバー材Cを得た。
【0066】
(原材料調整3)
熱可塑性ポリアミド系樹脂(190℃におけるメルトインデックス:80)を溶融紡糸して、面密度20g/mの蜘蛛の巣状のホットメルト不織布を形成した後、直ちに繊維径10〜30μm、面密度20g/m、厚さ0.12mm、圧力損失1.0Pa(風速10cm/s)のポリエステル繊維からなるスパンボンド不織布に付着して、ホットメルト不織布が付着した面密度40g/mのカバー材Dを得た。
【0067】
(実施例2)
図3に例示するように、原材料調整2で準備したホットメルト不織布が付着した面密度41g/mのカバー材Cのホットメルト不織布(10)の表面に、粒径0.3〜0.5mmに分級した市販の活性炭粒子(3)を面密度130g/mとなるようにして散布する。続いて、約5Kg/cmの水蒸気処理をカバー材(5)側(ホットメルト不織布(10)側)から約7秒間行い、ホットメルト不織布(10)を可塑化溶融して、ホットメルト樹脂からなる連結部(1)と樹脂凝集部(2)とで構成されたウエブに、樹脂凝集部(2)を介して活性炭粒子(3)を固着させた。続いて、固着した活性炭粒子以外の活性炭粒子は殆んどなかったが、念のため固着した活性炭粒子以外の活性炭粒子を除去することにより、活性炭粒子(3)が、各々の粒径に応じて固着され、しかもカバー材(5)と接着された1層目の積層単位(4)を得た。さらに、この状態の積層単位(4)に面密度20g/mのホットメルト不織布(10” )を積層し、面密度140g/mとなるようにして活性炭粒子(3’)散布、水蒸気処理、並びに念のため固着されていない活性炭の除去を経て2層目の積層単位(4’)を形成した。
次に原材料調整3で準備したホットメルト不織布が付着した面密度40g/mのカバー材Dである(5’)を、ホットメルト不織布(10’)側が積層単位(4’)に接するようにして積層単位(4’)の上に積層し、約5Kg/cmの水蒸気処理をシート材(5’)側(ホットメルト不織布(10’)側)から約7秒間行い、ホットメルト不織布(10’)を可塑化溶融して、ホットメルト樹脂からなる連結部(1’)と樹脂凝集部(2’)とで構成されたウエブに、樹脂凝集部(2’)を介して活性炭粒子(3’)を固着させて複合エアフィルタ(13)を得た。
この複合エアフィルタは、積層単位(4)、(4’)とカバー材(5’)とからなるガス除去用濾材とアレルゲン除去フィルタ(5)とが積層一体化してなる複合エアフィルタ(13)であって、前記アレルゲン除去フィルタ(5)は前記ガス除去用濾材(4)、(4’)からのガス除去粒子(3)、(3’)の脱落を防止するカバー材(5)としての機能をも有する複合エアフィルタ(13)であった。
【0068】
(原材料調整4)
メルトブロー法によって、繊維径3〜30μm、面密度20g/m、厚さ0.5mm、圧力損失2Pa(風速10cm/s)のポリプロピレン樹脂からなるメルトブロー不織布を得た。さらにコロナチャージによる帯電加工を施して、計数法効率20%(大気塵0.3〜0.5μm 風速10cm/s)の塵埃除去用濾材Eを得た。
【0069】
(実施例3)
実施例2で得た、複合エアフィルタ(13)のカバー材(5’)側に原料調整4で得た塵埃除去用濾材Eを積層した。次いでこの積層物を凹凸のある加熱エンボスロールと表面平滑な加熱ロールとからなる一対のロールの間に通し、加熱圧着することにより、塵埃除去用濾材Eの表面に部分的な融着部分を有する複合エアフィルタを得た。
この複合エアフィルタの厚さは1.3mmであり、面密度は391g/mであり、面風速0.5m/秒における圧力損失は25Paであった。また、この複合エアフィルタは、アレルゲン除去フィルタとガス除去用濾材と塵埃除去用濾材とが積層一体化してなる複合エアフィルタであった。
得られた複合エアフィルタの濾過性能およびスギ花粉アレルゲン不活性化の評価結果を表1に示す。なお、性能評価に際しては、空気の流出側をアレルゲン除去フィルタとなるようにして測定した。また、アレルゲン不活性の評価には、実施例1で得たアレルゲン除去フィルタを用いた。
【0070】
(実施例4)
実施例3で得た複合エアフィルタを用いて、図4に示すように、フィルタエレメント(21)の寸法が、幅Wが約230mm、長さLが約220mm、プリーツの山高さHが約27mm、プリーツの山の間隔が約6mmとなるように、プリーツを形成した後、不織布からなる枠材(24)の片面にホットメルト樹脂シートを貼りあわせた枠材(24)を準備して、図4に示す矢印Aの方向に枠材(24)を固着して、本発明のフィルタエレメントを得た。
【0071】
(比較例1)
原材料調整1で得たアスチルビン類エキスAを含浸しなかったこと以外は実施例1と同様にして、比較フィルタを得た。また、この比較フィルタを比較複合エアフィルタを得るためのカバー材B’とする。
【0072】
(比較例2)
原材料調整2において、カバー材Bのかわりに比較例1で得たカバー材B’を用いたこと以外は原材料調整2と同様にして、ホットメルト不織布が付着した面密度40g/mのカバー材C’を得た。次いで、実施例2及び実施例3において、カバー材Cのかわりにカバー材C’を用いたこと以外は実施例2及び実施例3と同様にして、比較複合エアフィルタを得た。得られた比較複合エアフィルタの濾過性能およびスギ花粉アレルゲン不活性化の評価結果を表1に示す。なお、アレルゲン不活性の評価には、比較例1で得た比較フィルタを用いた。
【0073】
表1

【0074】
表1から明らかなように、実施例2の複合エアフィルタは、ガス除去粒子を含むガス除去粒子層からのガス除去粒子の脱落を防止するカバー材を有しており、このカバー材は実施例1のアレルゲン除去フィルタを兼ねる複合エアフィルタであり、このアレルゲン除去フィルタは70%という高いアレルゲン不活性化率を有していた。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明のフィルタエレメントを構成する複合エアフィルタの一例を示す断面模式図である。
【図2】本発明のフィルタエレメントを構成する複合エアフィルタの別の一例を示す断面模式図である。
【図3】本発明のフィルタエレメントを構成する複合エアフィルタの別の一例を示す断面模式図である。
【図4】本発明のフィルタエレメントの一例を示す斜視図である。また、保形部材を矢印Aの方向に装着する態様を例示する図である。
【図5】本発明のフィルタエレメントの要部拡大図である。
【図6】本発明のフィルタエレメントの模式断面図である。
【符号の説明】
【0076】
1,1’,1” 連結部(樹脂体)
2,2’,2” 樹脂凝集部(樹脂体)
3,3’ ガス除去粒子
4,4’ 積層単位
5 カバー材(アレルゲン除去フィルタ)
5’ カバー材
8 ガス除去粒子層
10,10’,10” ホットメルト樹脂(ホットメルト不織布)(樹脂体)
13 複合エアフィルタ
20 フィルタエレメント
21 アレルゲン除去フィルタ(複合エアフィルタ)
22a 保形部材
22b 保形部材
23 ひだ
24 セパレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスチルビン、ネオアスチルビン、イソアスチルビン、ネオイソアスチルビンおよびタキシフォリンからなる群から選ばれた化合物の1種または2種以上を合せて5質量%以上含有してなるアスチルビン類物質が、繊維基材に面密度0.01g/m以上付着しており、且つ前記アスチルビン類物質の付着割合が、前記繊維基材の面密度に対して、0.1〜30%であることを特徴とするアレルゲン除去フィルタ。
【請求項2】
前記アスチルビン類物質が、植物から抽出されたものであることを特徴とする請求項1に記載のアレルゲン除去フィルタ。
【請求項3】
塵埃を除去する塵埃除去用濾材または/および有害ガスを除去するガス除去用濾材と請求項1または2記載のアレルゲン除去フィルタとが積層してなることを特徴とする複合エアフィルタ。
【請求項4】
前記アレルゲン除去フィルタと前記ガス除去用濾材とが積層一体化してなる複合エアフィルタであって、前記アレルゲン除去フィルタは前記ガス除去用濾材からのガス除去粒子の脱落を防止するカバー材としての機能を有することを特徴とする請求項3に記載の複合エアフィルタ。
【請求項5】
請求項1または2に記載のアレルゲン除去フィルタがプリーツ折り加工されてなることを特徴とするフィルタエレメント。
【請求項6】
請求項3または4に記載の複合エアフィルタがプリーツ折り加工されてなることを特徴とするフィルタエレメント。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2007−7615(P2007−7615A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−194477(P2005−194477)
【出願日】平成17年7月4日(2005.7.4)
【出願人】(000229542)日本バイリーン株式会社 (378)
【Fターム(参考)】