説明

アンカー頭部の防錆処理装置

【課題】アンカー頭部のねじ山の腐食を確実に防止することが出来ると共に、グリースを使用する必要がなく、環境に対して悪影響を与えることがないアンカー頭部の防錆処理装置の提供。
【解決手段】中空のキャップ形状ナット部材(1)と、その下方に配置される支圧板(12)とを備え、前記キャップ形状ナット部材(1)の中空部2の半径方向内方の円周方向には全周に亘って雌ねじ部(3)が形成されており、当該雌ねじ部(3)は張力材(10)に形成された雄ねじ部と螺合する形状であり、前記キャップ形状ナット部材(1)の内部空間(2)は頂部側については閉鎖されており、前記キャップ形状ナット部材(1)の下端コーナー部(1b)と支圧板(12)との間には、可撓性材料製のパッキン(50)が介装されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロックボルト或いは異形棒鋼(一部に、或いは全長に亘って、螺子を切った鋼棒)等を張力材(テンドン)として用いたアンカーの頭部を防錆処理するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ロックボルト或いは異形棒鋼を用いたアンカーでは、地上に露出した部分、即ちアンカー頭部の腐食を防止して、張力を維持する旨の規制が存在する。
そして、地中アンカーにおいて張力が負荷される張力材(例えばロックボルトや異形棒鋼)の止め具として、当該張力材の地上側先端部(或いは先端近傍部分)には、ナットを螺合させている。
この止め具としてのナットの機能を長期間発揮させるために、当該ナットの保護、及びボルトとナットのねじ山の腐食を防止する防錆処理装置(アンカー頭部の防錆処理装置)を施す必要がある。
【0003】
従来技術に係るアンカー頭部の防錆処理装置が図7で示されている。図7において、地中Gに埋設されたアンカー10のアンカー頭部11は地上に露出し、このアンカー頭部11に支圧板12及びワッシャ51が嵌入され、ナット52で締め上げられている。
そして図7の従来技術では、中空部53にグリースを注入したキャップ54をアンカー頭部11に被せて防錆処理をしている。
図7における符号58は、キャップ54の頂部に形成された貫通孔を示し、符号59はその貫通孔58を塞ぐプラグを示している。
しかし、図7で示すアンカー頭部の防錆処理装置は、必要とする部品点数が多く、工程数も多いため、アンカー頭部の防錆処理作業に多大な労力及びコストを必要としてしまう、という問題を有している。
【0004】
従来技術におけるアンカー頭部の防錆処理作業が多大な労力及びコストを要するという問題を解消するため、本出願人は、図8に示すような防錆処理装置を提供した(特許文献1参照)。
図8で示す防錆処理装置(特許文献1)は、中空のキャップ形状ナット部材1と、その下方に配置される支圧板12とを備え、前記キャップ形状ナット部材1の中空部2には雌ねじ部3が形成されている。
該雌ねじ部3は引張り材(ロックボルトを含む:アンカー10)に形成された雄ねじ部と螺合する形状であり、前記キャップ形状ナット部材1の下端コーナー部には該下端コーナー部と支圧板12の境界部分をシールするシール機構6が設けられている。
そして、前記キャップ形状ナット部材1の頂部と中空部2とを連通する貫通孔4が形成されている。貫通孔4は、キャップ刑状ナット部材1の中空部2に溶融亜鉛メッキ処理を行なう際の空気抜きを主たる目的として、形成されていた。また、従来技術では中空部2内にグリースを塗付しているため、貫通孔4はエア抜きの用途に用いられていた。
【0005】
図8で示す従来技術(特許文献1)は、図7で示す従来技術に比較して、部品点数削減の効果を有し、且つ、アンカー頭部の防錆処理作業における労力を大幅に節減することが出来るので、大変に有用な技術である。
しかし、近年における環境に対する意識の高まりに伴い、出来る限り油脂製の潤滑剤(グリース)を使用しないこと、いわゆる「グリースレス」にすることが、各分野で要求されている。そして、アンカー頭部の防錆処理という分野についても、グリースを使用しないこと(グリースレス)が要求されている。
ここで、図8で示す従来技術(特許文献1)では、前記キャップ形状ナット部材1の中空部2内にグリースを充填して、アンカー頭部の防食を図っている。そのため、グリースレスという要請に応えることが出来ない。図8の従来技術(特許文献1)では、キャップ形状ナット部材1中にグリースを充填しているため、キャップ形状ナット部材1からグリースが漏出してしまうと、地中アンカーの施工現場の環境に重大な悪影響を及ぼしてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】登録実用新案公報第3083619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上述した従来技術の問題点に鑑みて提案されたものであり、地中アンカーに所望の張力が長期間に亘って作用せしめるために、当該アンカー頭部のねじ山の腐食を確実に防止することが出来ると共に、グリースを使用する必要がなく、環境に対して悪影響を与えることがないアンカー頭部の防錆処理装置の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のアンカー頭部の防錆処理装置(100)は、中空のキャップ形状ナット部材(キャップナット1)と、その下方に配置される支圧板(12)とを備え、
前記キャップ形状ナット部材(1)の中空部(2)の半径方向内方の円周方向には全周に亘って雌ねじ部(3)が形成されており、当該雌ねじ部(3)は張力材(10:テンドン、アンカーテンドン:ロックボルトや異形棒鋼を含む)に形成された雄ねじ部と螺合する形状であり、
前記キャップ形状ナット部材(1)の内部空間(2)は(当該キャップ形状ナット部材1の)頂部(1t)側については閉鎖されており、
前記キャップ形状ナット部材(1)の下端コーナー部(1b)と支圧板(12)との間には、可撓性材料(例えば、樹脂)製のパッキン(50)が介装されており、
前記キャップ形状ナット部材(1)は、半径方向内方に雌ねじ部(3)を形成した鋳鉄製中空部材(1F)と、当該鋳鉄製中空部材(1F)を鋳包んであるアルミニウム製中空部材(1A)を有しており、
前記鋳鉄製中空部材(1F)に形成された雌ねじ部(3)の表面及び半径方向外方表面(1Fs)には、アルミナ層及び/又はアルミニウム層が鋳鉄に低温(700℃以下)で拡散処理された合金層(Fe−Al層:1fa)が形成されていることを特徴としている。
【0009】
そして、係るアンカー頭部の防錆処理装置(100)で用いられる本発明のキャップ形状ナット部材(1)は、中空に形成されており、中空部(2)の半径方向内方の円周方向全周に亘って雌ねじ部(3)が形成されており、当該雌ねじ部(3)は張力材(10:テンドン、アンカーテンドン:ロックボルトや異形棒鋼を含む)に形成された雄ねじ部と螺合する形状をしているアンカー頭部防錆処理用のキャップ形状ナット部材(1)において、
(前記キャップ形状ナット部材1の)内部空間(2)は(当該キャップ形状ナット部材1の)頂部(1t)側については閉鎖されており、
(前記キャップ形状ナット部材1は)半径方向内方に雌ねじ部(3)を形成した鋳鉄製中空部材(1F)と、当該鋳鉄製中空部材(1F)を鋳包んであるアルミニウム製中空部材(1A)を有しており、
前記鋳鉄製中空部材(1F)に形成された雌ねじ部(3)の表面及び半径方向外方表面(1Fs)には、アルミナ層及び/又はアルミニウム層が鋳鉄に低温(700℃以下)で拡散処理された合金層(Fe−Al層:1fa)が形成されていることを特徴としている。
【0010】
そして、上述したアンカー頭部の防錆処理装置(100)で用いられるキャップ形状ナット部材(1)の製造するため、本発明の製造方法は、
半径方向内方に雌ねじ部(3)を形成した鋳鉄製中空部材(1F)の表面(雌ねじ部3及び半径方向外方表面1Fs)に溶融アルミニウムメッキを施す工程(S1)と、
鋳鉄製中空部材(1F)の表面から余剰のアルミニウムを除去する工程(S2)と、
余剰のアルミニウムを除去した後に、鋳鉄製中空部材(1F)の表面(雌ねじ部3及び半径方向外方表面1Fs)に、アルミナ層及び/又はアルミニウム層を低温(700℃以下)で拡散処理(二次拡散)して、合金層(Fe−Al層:1fa)を形成する工程(S3)と、
表面(雌ねじ部3及び半径方向外方表面1Fs)に合金層(Fe−Al層:1fa)が形成された前記鋳鉄製中空部材(1F)を、アルミニウムで鋳包む工程(S4)、
を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
上述する構成を具備する本発明によれば、前記鋳鉄製中空部材(1F)に形成された雌ねじ部(3)の表面には、アルミナ層及び/又はアルミニウム層が鋳鉄に低温(700℃以下)で拡散処理された合金層(Fe−Al層:1fa)が形成されており、当該合金層(1fa)は優秀な耐食性(例えば、溶融アルミニウムメッキの5倍程度の耐食性)を有しているため、雌ねじ部(3)と螺合した張力材(10:テンドン)が腐食することが防止される。
そのため、グリースを使用しなくても、アンカー頭部(11)の防錆処理が可能となり、環境に優しい、いわゆる「グリースレス」のアンカー頭部における防錆処理を実現することが出来る。
そして、グリースを充填する必要がない本発明によれば、キャップ形状ナット部材(1)からグリースが流出して、施行現場周辺の環境に悪影響を及ぼす恐れもない。
【0012】
ここで、従来技術によれば、溶融アルミニウムメッキを施した際に、いわゆる「湯溜まり」が形成され、或いは、雌ねじ部(3)の表面に余剰のアルミニウムが存在することに起因して、当該雌ねじ部(3)が、張力材(10:テンドン)の雄ねじ部(10m)と噛み合い難くなり、張力材(10)がキャップ形状ナット部材(1)に入り難くなる(いわゆる「しぶい」状態になってしまう)という問題がある。
これに対して、本発明によれば、鋳鉄製中空部材(1F)に形成された雌ねじ部(3)の表面には、アルミナ層及び/又はアルミニウム層が鋳鉄に低温(700℃以下)で拡散処理された合金層(Fe−Al層:1fa)を形成するに際しては、鋳鉄製中空部材(1F)の表面に溶融アルミニウムメッキを施し、余剰のアルミニウムを除去した後に、鋳鉄製中空部材(1F)の表面に、アルミナ層及び/又はアルミニウム層を低温(700℃以下)で拡散処理(二次拡散)して、合金層(Fe−Al層:1fa)を形成することになる。そのため、本発明では、雌ねじ部(3)に「湯溜まり」が形成されることはなく、余剰のアルミニウムが存在してしまうこともない。そのため、張力材(10)がキャップ形状ナット部材(1)に入り難くなる(いわゆる「しぶい」状態になってしまう)ことが防止される。
【0013】
ここで、本発明によれば、防錆性、防食性は鋳鉄製中空部材(1F)の表面に形成された合金層(Fe−Al層:1fa)により担保されるので、上述した様にグリースをキャップ形状ナット部材(1)の内部空間に充填する必要がない。そのため、(当該キャップ形状ナット部材1の)頂部(1t)側については閉鎖されており、上述した従来技術のように、キャップ形状ナット部材頂部(1t)に貫通孔を設けていない。
そのため、従来技術に比較して、雨水がキャップ形状ナット部材(1)内部に浸入する可能性が低く、アンカー頭部(11)の防錆性がさらに向上する。
【0014】
さらに本発明において、キャップ形状ナット部材(1)の下端コーナー部(1b)と支圧板(12)との間には、可撓性材料(例えば、樹脂)製のパッキン(50)が介装されているので、キャップ形状ナット部材(1)の下端コーナー部(1b)と支圧板(12)の境界部分から雨水が浸入することが防止される。そして、可撓性材料製のパッキン(50)を介装することにより、キャップ形状ナット部材(1)が支圧板(12)に対して、良好に密着することになる。
それと共に、係るパッキン(50)は可撓性材料製であるため適宜変形することが出来るので、キャップ形状ナット部材(1)を締め付けた際に、当該キャップ形状ナット部材(1)の下端コーナー部(1b)及び/又は支圧板(12)が破損することを防止出来る。
【0015】
上述した様に、本発明によれば、アルミニウム製中空部材(1A)が鋳鉄製中空部材(1F)を鋳包んでいる。ここで、前記合金層は、鋳鉄製中空部材(1F)の半径方向外方表面にも形成すれば、アルミニウム製中空部材(1A)が鋳鉄製中空部材(1F)を鋳包んでいても、鋳鉄とアルミニウムとの接続箇所における電食が防止される。
その結果、アルミニウム製中空部材(1A)による鋳鉄製中空部材(1F)の鋳包みが、確実に行なわれる。
【0016】
キャップ形状ナット部材に対して外的な衝撃が付加されてしまう場合において、通常の鋳物に樹脂や塗装をキャップ形状ナット部材の外表面に施したのみであれば、当該衝撃によりキャップ形状ナット部材外表面の樹脂が破損し、或いは、塗装が剥離してしまい、耐食性が低下して、アンカー頭部の防錆或いは防食性が低下してしまうという問題がある。
それに対して、本発明では、鋳鉄製中空部材(1F)をアルミニウムによって鋳包むことにより、キャップ形状ナット部材(1)に外的な衝撃が作用しても、アルミニウム製中空部材(1A)における当該衝撃が作用した部分が凹むだけであり、張力材(10)と螺合している鋳鉄製中空部材(1F)には、影響は及ばず、本発明におけるアンカーの頭部の防食性に問題が生じることはない。
【0017】
さらに本発明によれば、キャップ形状ナット部材(1)を張力材(10)に引張力を付与する機能をも持たせているので、アンカー頭部の防錆処理に必要な部材、部品を減少して、労力及びコストを減少させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態を示す断面図である。
【図2】図1におけるキャップ形状ナット部材の縦断面図である。
【図3】図1におけるキャップ形状ナット部材の立面図である。
【図4】図1におけるキャップ形状ナット部材1の平面図である。
【図5】図1のO部拡大断面図である。
【図6】図1〜図5で示すキャップ形状ナット部材の製造工程図である。
【図7】従来技術を示す断面図である。
【図8】図7とは異なる従来技術の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図1において、装置全体を符号100で示すアンカー頭部の防錆処理装置は、中空のキャップ形状ナット部材(以下、「キャップナット」と記載する)1、支圧板12、可撓性材料から成るパッキン50を備えている。
支圧板12は、地盤Gの上に構築された構造物200の上面に載置されている。
【0020】
図2において、キャップナット1は、鋳鉄製中空部材1Fと、当該鋳鉄製中空部材1Fを鋳包んでいるアルミニウム製中空部材1Aを有している。鋳鉄製中空部材1Fの中空部2には、その内周面の概略全域に雌ねじ部3が形成されている。
雌ねじ部3に形成された雌ねじ3fは張力材(例えばロックボルト)10に形成された雄ねじ10mと螺合するように形成されている。
【0021】
図示の実施形態では、中空部2は鋳鉄製中空部材1Fの軸方向(図1、図2、図5の上下方向)の概略全域に設けられており、鋳鉄製中空部材1Fの中空部2における内周面の概略全域に雌ねじ部3が形成されている。
しかし、中空部2は鋳鉄製中空部材1Fの軸方向について、支圧板12側(図1、図2、図5では下側)の一部にのみ形成されていても良い。
また、雌ねじ部3も、中空部2の全域に形成するのではなく、鋳鉄製中空部材1Fの軸方向について、支圧板12側の一部にのみ形成しても良い。
ロックボルト10の各種仕様に換言して、中空部2や雌ねじ部3を形成する領域については、適宜設定可能である。
【0022】
鋳鉄製中空部材1Fは、全体が円筒形状で、図2における下端にフランジ1Ffが形成されている。フランジ1Ffの下面の外縁は、面取り1Fcが施されている。
鋳鉄製中空部材1Fの外周面には、図2では軸方向(図2の上下方向)4箇所の位置に、環状突起1Fdが形成されている。明確には図示されていないが、環状突起1Fdの角部には、いわゆる「アール」が形成されている。
鋳鉄製中空部材1Fのフランジ1Ff及び環状突起1Fdは、アルミニウム製中空部材1Aに鋳包まれた鋳鉄製中空部材1Fが、アルミニウム製中空部材1Aの軸方向(図2の上下方向)へずれてしまうことを防止するために、設けられている。
【0023】
鋳鉄製中空部材1Fの内周面に形成された雌ねじ部3の表面及び鋳鉄製中空部材1Fの外周面には、溶融アルミニウムメッキ処理が施されている。
ここで、溶融アルミニウムメッキ処理を行なうとアルミニウム層が形成されるが、当該アルミニウム層の厚さは不均一であった。そのため、従来は、ネジ等の精密部品には溶融アルミニウムメッキ処理は適用し難かった。
それに対して、図示の実施形態では、溶融アルミニウムメッキ処理されたものを、さらに700℃以下で再熱処理することにより、形成されたアルミニウム層の厚さ寸法(膜厚)を均一化することが出来る。そのため、ネジの様な精密部品に対しても、溶融アルミニウムメッキ処理後、700℃以下で再熱処理することにより、表面にアルミニウム層を形成することが可能になった。
一般に鉄鋼は、500℃以上に加熱されると酸化が促進されて、急速にスケール化して、腐食する。溶融アルミニウムメッキ処理を施せば、アルミニウムが鉄鋼に拡散浸透して合金層(Fe−Al層)化し、表面に酸化アルミニウム皮膜(アルミナ皮膜)を形成する。係るアルミナ皮膜と融点約1160℃の合金層(Fe−Al層)により、酸素の侵入を阻止する。そのため、溶融アルミニウムメッキ処理後、700℃以下で再熱処理した場合には、余分なアルミニウムが除去され、溶融亜鉛メッキと比較すると、腐食速度で約7.5倍は腐食し難くなり、推定寿命年数では約16倍の耐食性を有しており、耐食性に優れている。
【0024】
図3において、アルミニウム製中空部材1Aは、全体が円筒状で、図3における下端側に六角部16が形成されている。
なお、アルミニウム製中空部材1Aの半球状の頂部1tには、従来技術で形成されていたような貫通孔は設けてはなく、閉塞している。
【0025】
図2において、アルミニウム製中空部材1Aの下端面には、直径が雌ねじ部3の谷の径よりも大きな貫通孔1Ahが形成されている。
アルミニウム製中空部材1Aの下端には平面部1Btが形成されている。そして、平面部1Btの半径方向外方にはコーナー部1bが形成されており、コーナー部1bは、球面形状(球面の一部の球状:以下、同じ)となる様に滑らかに仕上げられている。
球面球状のコーナー部1bは、図1に示すように、パッキン50のテーパー面(テーパー部52)に当接している。
それと共に、球面球状のコーナー部1bは、キャップナット1が支圧板12における適正な位置において、キャップナット1の中心軸とロックボルト10の軸方向とが一致する様に配置する機能をも奏する。
【0026】
図5は、図1におけるO部を拡大して示している。
図5において、パッキン50は、円筒部51とテーパー部52とを有している。テーパー部52の半径方向(図5では左右方向)寸法は、円筒部51から離隔するに連れて(図5では上方に延在するに連れて)、徐々に大きくなる。
図5において、円筒部51の軸方向寸法は符号H50、円筒部51の外径は符号D50、テーパー部52におけるテーパー角度は符号α、パッキン50の肉厚は符号tで表現している。
支圧板12の中央部には、貫通孔12hが形成されており、貫通孔12hの内径は、円筒部51の外径D50に所定の公差(緩み嵌め)を加えた値に設定されている。
【0027】
パッキン50の円筒部51の外径D50は、パッキン50を支圧板12の貫通孔12hに容易に挿入することが出来て、且つ、シール性を維持出来る様に設定されている。
図5において、支圧板12の貫通孔12hの上方部分には、面取りが形成されている。貫通孔12hにおいて、面取りを形成した箇所以外の軸方向寸法(図5では上下方向寸法)が符号H12で示されており、当該寸法H12は、パッキン50の円筒部51における軸方向寸法H50と概略等しい。
なお、支圧板12の貫通孔12hの上方部分に形成された面取りにおける面取り角度βは、パッキン50のテーパー部52におけるテーパー角度αに等しい。
【0028】
パッキン50は、可撓性材料(例えば、硬質の樹脂)から成り、キャップナット1を締め付けた際には、好適に変形して、キャップナット1及び支圧板12に対して、良好に密着する。
したがって、キャップナット1と支圧板12の境界から浸水することが防止され、ロックボルト10の頭部の防錆性能が長期間に亘って保証される。
【0029】
次に、図6の工程図を参照して、キャップナット1の製造方法を説明する。
最初に、図6のステップS1の前処理として、鋳鉄製中空部材に雌ねじ加工を施し、雌ねじ部3を有する鋳鉄製中空部材(雌ねじ加工した鋳鉄製中空部材)1Fを製造する。そして、雌ねじ加工された鋳鉄製中空部材1Fを脱脂、酸洗いして、乾燥させる。
第1工程(ステップS1)では、雌ねじ加工された鋳鉄製中空部材1Fの半径方向内方及び外方の表面(或いは、全表面)に溶融アルミニウムメッキ処理を施す。
【0030】
次に、図6のステップS2で示す第2工程では、溶融アルミニウムメッキ処理を施した鋳鉄製中空部材1Fの半径方向内方及び外方の表面から、余剰のアルミニウムを除去する。
余剰のアルミニウムを鋳鉄製中空部材1Fの表面から除去することにより、鋳鉄製中空部材1Fの雌ねじ3fの形状及び精度を維持している。それと共に、目ねじ部3に、いわゆる「湯溜まり」が形成されることを防止している。
或いは、雌ねじ部3がロックボルト10の雄ねじ部10mと噛み合い難くなりことを防止して、ロックボルト10がキャップナット1に入り易い状態を維持し、以って、ロックボルト10がキャップナット1に入り難い状態(いわゆる「しぶい」状態)になることを防止している。
【0031】
次に、図6のステップS3で示す第3工程では、余剰のアルミニウムを除去した鋳鉄製中空部材1Fの表面を700℃以下で再熱処理している。換言すれば、鋳鉄製中空部材1Fの内周面に形成された雌ねじ部3の表面及び中鉄製中空部材1Fの外周面に、アルミナ層及び/又はアルミニウム層を低温(700℃以下)で拡散処理することにより、合金層(Fe−Al層:1fa)を形成する。
溶融アルミニウムメッキ処理を施すことにより、アルミニウムが鉄鋼に拡散浸透して合金層(Fe−Al層)1faを形成して、表面に酸化アルミニウム(アルミナ)皮膜を形成される。そして、アルミナ皮膜と融点約1160℃の合金層により、酸素の侵入が防止され、雌ねじ部3の表面及び鋳鉄製中空部材1Fの外周面の酸化或いは発錆を防止することが出来る。
さらに余剰のアルミニウムを除去した鋳鉄製中空部材1Fの表面を700℃以下で再熱処理を施すことにより、余分なアルミニウムを除去し、アルミニウムメッキの皮膜厚さが均一となり、ネジ山の円滑な螺合が可能である。
【0032】
図6のステップS4で示す第4工程では、表面に合金層(Fe−Al層)1faが形成された鋳鉄製中空部材1Fを、図3に示すような外形形状となる様に、アルミニウムで鋳包んでいる。
上述した様に、フランジ1Ffの下縁には面取り1Fcが施され、環状突起1Fdの角部には「アール」が形成されているので、鋳鉄製中空部材1Fをアルミニウムで鋳包む際に、フランジ1Ffの下縁や環状突起1Fdに、アルミニウムが存在しない空隙部(いわゆる「巣」)が形成されることが防止される。
【0033】
次に、図1及び図5を参照して、キャップナット1を用いた防錆処理装置によるアンカー頭部の防錆処理について説明する。
図1において、構造物200に穿孔された貫通孔201には、スリーブ210が介装されている。
スリーブ210を介装した貫通孔201からは、ロックボルト10のアンカー頭部11が所定量だけ露出している。
【0034】
アンカー頭部の防錆処理に際しては、支圧板12を用意し、支圧板12の貫通孔12hにパッキン50を挿入する。
そして、構造物200における貫通孔201の上にパッキン50を嵌入した支圧板12を載置する。この時、支圧板12の貫通孔12hの中心と、ロックボルト10の軸中心とを概略一致させておく。
次に、ロックボルト10のアンカー頭部11にキャップナット1を被せ、ロックボルト10の雄ねじにキャップナット1の雌ねじ部3の雌ねじを螺合させる。
【0035】
図1及び図5において、キャップナット1におけるアルミニウム製中空部材1A下端の六角部16の二面に図示しない工具(例えば、トルクレンチ等)の二面を合わせ、ロックボルト10の規定の引張力に対応する締め付けトルクに到達するまで、当該図示しない工具によりキャップナット1を締め込む。
キャップナット1を締め込むことにより、ロックボルト10には引張力が作用し、キャップナット1は、パッキン50を仲介した状態で支圧板12に押し付けられる。そして、キャップナット1の中心軸が、ロックボルト10の中心軸と一致した状態となる。(いわゆる「センターリング」が為される。)
その際に、可撓性を有する部材で製造されたパッキン50は変形して、キャップナット1と支圧板12の境界部分を完全にシールし、以って、当該境界部分から雨水が浸入することを防止する。
これにより、アンカー頭部の防錆処理の施工が完了する。
【0036】
ここで、上述した合金層(Fe−Al層)1faは、極めて優れた耐食性(例えば、溶融アルミニウムメッキの5倍程度の耐食性)を有している。
そのため、キャップナット1内にグリースを封入しなくても、雌ねじ部3と螺合したロックボルト10の頭部11の腐食を防止することができる。その結果、アンカー頭部の防錆処理を、グリースを使用しない(いわゆる「グリースレス」の)環境に優しい態様で、施工することが出来る。
そして、図示の実施形態に係る防錆処理装置100が「グリースレス」であるため、キャップナット1からグリースが流出することはなく、施行現場周辺の環境にグリース流出による悪影響を及ぼす恐れもない。
【0037】
また、図示の実施形態に係る防錆処理装置100が「グリースレス」であり、グリースをキャップナット1の内部空間に充填する必要がないため、キャップナット1の頂部1t側に、グリース充填用の貫通孔を形成しておく必要がない。その結果、図示の実施形態では、キャップナット1の頂部1t側は閉鎖されており、従来技術のような貫通孔を形成していない。
キャップナット1の頂部1t側に貫通孔を形成する必要が無いため、キャップナット1製造の労力及びコストを節約することが出来る。また、キャップナット1の頂部1t側に貫通孔が形成されていないので、図示の実施形態では、従来技術(特許文献1)のキャップナットに比較して、雨水がキャップナット1内部に浸入する可能性がさらに低くなり、アンカー頭部11の防錆性がさらに向上している。
【0038】
図示の実施形態では、鋳鉄製中空部材1Fに形成された雌ねじ部3の表面に、合金層(Fe−Al)層1faを形成するに際しては、鋳鉄製中空部材1Fの表面に溶融アルミニウムメッキを施した後に、当該表面から余剰のアルミニウムを除去し、そして、鋳鉄製中空部材1Fの表面に、アルミナ層及び/又はアルミニウム層を低温(700℃以下)で拡散処理(二次拡散)して、合金層(Fe−Al層)1faを形成している。
そのため、雌ねじ部3の表面に余剰のアルミニウムが存在することに起因して、いわゆる「湯溜まり」が形成されてしまうことが防止される。そして、雌ねじ部3がロックボルト10の雄ねじ部10mと噛み合い難くなってしまうこともなく、ロックボルト10の雄ねじ部10mがキャップナット1に入り難くなってしまう(いわゆる「しぶい」状態になってしまう)こともない。
【0039】
さらに図示の実施形態において、キャップナット1の下端コーナー部1bと支圧板12との間には、可撓性を有する樹脂製のパッキン50が介装されているので、キャップナット1を締めこみ、ロックボルト10に引張力を作用させることにより、パッキン50が圧縮変形して、キャップナット1及び支圧板12の境界部分に圧着して、シールする。
そのため、キャップナット1と支圧板12の境界部分から、雨水が浸入することを確実に防止出来る。
また、パッキン50を介装するため、キャップナット1を締め付けて、ロックボルト10に引張力を作用させた際に、キャップナット1の下端コーナー1b及び/又は支圧板12が破損してしまうことが防止される。
【0040】
これに加えて、図示の実施形態では、アルミニウム製中空部材1Aが鋳鉄製中空部材1Fを鋳包んでいる。そして、鋳鉄製中空部材1Fの半径方向外方表面にも、前記合金層(Fe−Al層)1faが形成されているので、アルミニウム製中空部材1Aが鋳鉄製中空部材1Fを鋳包んでいても、鋳鉄とアルミニウムとの接続箇所における電食が防止される。
その結果、アルミニウム製中空部材1Aによる鋳鉄製中空部材1Fの鋳包みが、確実に行なわれ、アンカー頭部の防錆も確実に行なわれる。
【0041】
また、鋳鉄製中空部材1Fをアルミニウムによって鋳包むことにより、何らかの理由によりアルミニウム製中空部材1Aに対して外的な衝撃が付加されたとしても、衝撃が付加された部分が凹むだけであり、ロックボルト10と螺合している鋳鉄製中空部材1Fには、影響は及ばず、実施形態におけるアンカーの頭部の防食性等は保持される。樹脂や塗装をキャップ形状ナット部材の外表面に施した場合の様に、当該衝撃によりキャップ形状ナット部材外表面の樹脂が破損し、或いは、塗装が剥離してしまい、耐食性が低下して、アンカー頭部の防錆或いは防食性が低下してしまうという問題は、図示の実施形態には存在しない。
【0042】
さらに、図示の実施形態によれば、キャップナット1をロックボルト10に引張力を作用する装置としての機能をも持たせているので、アンカー頭部の防錆処理に必要とされる部材や部品を減少して、必要な労力やコストを減少させる効果をも有している。
【0043】
図示の実施形態はあくまでも例示であり、本発明の技術的範囲を限定する趣旨の記述ではない。
【符号の説明】
【0044】
1・・・キャップ形状ナット部材/キャップナット
1A・・・鋳鉄製中空部材
1B・・・アルミニウム製中空部材
1fa・・・合金層
2・・・中空部
3・・・雌ねじ部
10・・・張力材/アンカー/ロックボルト
11・・・アンカー頭部
12・・・支圧板
16・・・六角部
50・・・パッキン
200・・・構造物
G・・・地盤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空のキャップ形状ナット部材と、その下方に配置される支圧板とを備え、
前記キャップ形状ナット部材の中空部の半径方向内方の円周方向には全周に亘って雌ねじ部が形成されており、当該雌ねじ部は張力材に形成された雄ねじ部と螺合する形状であり、
前記キャップ形状ナット部材の内部空間は頂部側については閉鎖されており、
前記キャップ形状ナット部材の下端コーナー部と支圧板との間には、可撓性材料製のパッキンが介装されており、
前記キャップ形状ナット部材は、半径方向内方に雌ねじ部を形成した鋳鉄製中空部材と、当該鋳鉄製中空部材を鋳包んであるアルミニウム製中空部材を有しており、
前記鋳鉄製中空部材に形成された雌ねじ部の表面及び半径方向外方表面には、アルミナ層及び/又はアルミニウム層が鋳鉄に低温で拡散処理された合金層が形成されていることを特徴するアンカー頭部の防錆処理装置。
【請求項2】
中空に形成されており、中空部の半径方向内方の円周方向全周に亘って雌ねじ部が形成されており、当該雌ねじ部は張力材に形成された雄ねじ部と螺合する形状をしているアンカー頭部防錆処理用のキャップ形状ナット部材において、
内部空間は頂部側については閉鎖されており、
半径方向内方に雌ねじ部を形成した鋳鉄製中空部材と、当該鋳鉄製中空部材を鋳包んであるアルミニウム製中空部材を有しており、
前記鋳鉄製中空部材に形成された雌ねじ部の表面及び半径方向外方表面には、アルミナ層及び/又はアルミニウム層が鋳鉄に低温で拡散処理された合金層が形成されていることを特徴とするキャップ形状ナット部材。
【請求項3】
半径方向内方に雌ねじ部を形成した鋳鉄製中空部材の表面に溶融アルミニウムメッキを施す工程と、
鋳鉄製中空部材の表面から余剰のアルミニウムを除去する工程と、
余剰のアルミニウムを除去した後に、鋳鉄製中空部材の表面に、アルミナ層及び/又はアルミニウム層を低温で拡散処理して、合金層を形成する工程と、
表面に合金層が形成された前記鋳鉄製中空部材を、アルミニウムで鋳包む工程、
を有することを特徴とするキャップ形状ナット部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−36696(P2012−36696A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−179898(P2010−179898)
【出願日】平成22年8月11日(2010.8.11)
【出願人】(391009291)弘和産業株式会社 (15)
【出願人】(596097800)眞工金属株式会社 (1)
【Fターム(参考)】