説明

アントラピリドン化合物又はその塩、そのアントラピリドン化合物を含有するバイオレットインク組成物及び着色体

【課題】インクジェット記録に適する高い鮮明性をもつ色相を有する化合物の提供。
【解決手段】式(1)で表されるアントラピリドン化合物またはその塩。


(式(1)中、R1はH;アルキル基等、R2はH又は低級アルコキシ基を、X及びYは各々H又はイオン性親水性基を、LはH;置換基を有していてもよいアリール基等を表し、LがHまたは該アリール基の場合、Zで表される基は存在せず、Lがアルキレン基の場合、Zは塩素原子;置換基を有してもよいアルキルチオ基等を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規アントラピリドン化合物、そのアントラピリドン化合物を含有するバイオレット色のインクジェット記録用インク組成物及びこれらにより着色された着色体に関する。
【背景技術】
【0002】
各種カラー記録方法の中で、その代表的方法の一つであるインクジェットプリンタによる記録方法は、インクの各種吐出方式が開発されているが、いずれも水性インクの小滴を発生させ、これを種々の被記録材料(紙、フィルム、布帛等)に付着させ記録を行うものである。
この記録方法は、記録ヘッドと被記録材料とが接触しない為、音の発生が少なく静かであり、また小型化、高速化、カラー化が容易であるという特長の為、近年急速に普及しつつあり、今後とも大きな伸長が期待されている。
コンピューターのカラーディスプレー上にて表現される画像又は文字情報をインクジェットプリンタによりカラ−記録する場合、一般にはイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、及びブラック(K)の4色のインクによる減法混色で記録される。
CRTディスプレー等で表現されるレッド(R)、グリーン(G)、及びブルー(B)による加法混色画像を減法混色画像で出来るだけ忠実に再現するには、Y、M、Cのそれぞれが、標準の色相に近い色相を有し且つ鮮明であることが望まれる。
例えば特許文献1において、7色(Y、M、C、R、G、B、K)インクを用いるインクジェット印刷法が提案されているが、開示された染料は、可溶性基を持たせた建染染料(バット染料)であり、色相、鮮明性、堅牢度などの点から市場の要求を完全に満足するには至っていない。
また、従来インクジェット用インクとして用いられているY、M、Cを予め混合して得られたR、G、B等の各インクを用いた場合であっても、鮮明性に優れた印刷物が得られないという問題がある。
【0003】
一方、ブルーの色域を広げる有効的な色相としては、赤味のブルーすなわちバイオレット色が最も優れているといわれている(例えば特許文献1、特許文献2を参照)。
インクジェット記録用バイオレット色素の例としては、従来C.I.アシッドバイオレット17、C.I.アシッドバイオレット48等が挙げられている(例えば特許文献2、特許文献3を参照)。これらの色素は、色相、鮮明性は良好であるものの、溶解性、堅牢性などが不十分であり、市場の要求を満たすには至っていない。
また、長期の保存に対し安定であり、プリントした画像の濃度が高く、しかも耐水性、耐光性及び耐ガス性等の堅牢度に優れているインク組成物が求められている。
さらに最近のデジタルカメラの普及と共に、家庭でも画像をプリントする機会が増していることから、得られたプリント物を保管する時に、空気中の酸化性ガスによる画像の変色が生じてしまうことも問題視されている。
【0004】
【特許文献1】特開2002年―241661号公報(第1−17頁)
【特許文献2】特開平7−305014号(第6頁)
【特許文献3】特開2003−34765号(第6頁)
【特許文献4】特開2005−139377号(第1−14頁)
【特許文献5】特開2005−320480号(第1−20頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は水に対する溶解性が高く、インクジェット記録に適する色相と鮮明性を有し、人に対してより安全性の高い、赤味のブルーすなわちバイオレット色を呈するインクジェット記録用インク組成物を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは前記したような課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明に至ったものである。即ち本発明は、
(1)
下記式(1)で表されるアントラピリドン化合物またはその塩、
【化1】

(式(1)中、
1は水素原子;アルキル基;ヒドロキシ低級アルキル基;シクロヘキシル基;モノ−若しくはジ−アルキルアミノアルキル基;又はシアノ低級アルキル基を、
2は水素原子又は低級アルコキシ基を、
X及びYは各々独立して水素原子又はイオン性親水性基を、
Lは水素原子;アルキル基、スルホ基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、アシル基、カルバモイル基、シアノ基、アルコキシ基、フェノキシ基、及びハロゲン原子よりなる群から選択される置換基を有していてもよいアリール基;又はアルキレン基を表し、
Lが水素原子またはアリール基の場合、Zで表される基は存在せず、
Lがアルキレン基の場合、Zは塩素原子;水酸基;アミノ基;スルホ基、カルボキシ基、水酸基、アルキル基及びアルコキシ基よりなる群から選択される置換基を有していても良いアニリノ基;ナフタレン環がスルホ基で置換されていても良いナフチルアミノ基;アルキル基上にスルホ基、カルボキシ基及び水酸基よりなる群から選択される置換基を有しても良いモノ−若しくはジ−アルキルアミノ基;アラルキルアミノ基;スルホ基、カルボキシ基、アセチルアミノ基、アミノ基及び水酸基よりなる群から選択される置換基を有していても良いフェノキシ基;スルホ基、カルボキシ基、水酸基、アルキル基、アルコキシ基よりなる群から選択される置換基を有してもよいフェニルチオ基;モノ−若しくはジ−アルキルアミノアルキルアミノ基;モルホリノ基;又はアルキル基上にスルホ基、カルボキシ基及び水酸基よりなる群から選択される置換基を有してもよいアルキルチオ基、
をそれぞれ表す。)、
(2)
1が水素原子又はメチル基を、R2は水素原子又はメトキシ基を、X及びYがそれぞれ独立に水素原子またはスルホ基で表される(1)に記載のアントラピリドン化合物またはその塩、
(3)
1が水素原子又はメチル基を、R2は水素原子を、X及びYがそれぞれ独立に水素原子またはスルホ基で表される(1)に記載のアントラピリドン化合物またはその塩、
(4)
1が水素原子又はメチル基を、
2は水素原子を、
X及びYはそれぞれ独立に水素原子またはスルホ基を、
Lは水素原子、又はC1〜C4アルキレン基を表し、
Lが水素原子の場合、Zで表される基は存在せず、
Lがアルキレン基の場合、Zは塩素原子;水酸基;アミノ基;スルホ基、カルボキシ基、水酸基、アルキル基、アルコキシ基よりなる群から選択される置換基を有していても良いアニリノ基;スルホ基、カルボキシ基、水酸基、アルキル基、アルコキシ基よりなる群から選択される置換基で置換されていてもよいフェニルチオ基;ナフタレン環がスルホ基で置換されていても良いナフチルアミノ基;アルキル基上にスルホ基、カルボキシ基及び水酸基よりなる群から選択される置換基を有しても良いモノ−若しくはジ−アルキルアミノ基;アラルキルアミノ基;又はアルキル基上にスルホ基、カルボキシ基及び水酸基よりなる群から選択される置換基を有してもよいアルキルチオ基、
で表される(1)に記載のアントラピリドン化合物又はその塩、
(5)
1が水素原子又はメチル基を、
2は水素原子を、
X及びYはそれぞれ独立に水素原子またはスルホ基を、
Lは水素原子、又はメチレン基を表し、
Lが水素原子の場合、Zで表される置換基は存在せず、
Lがメチレン基の場合、Zは水酸基;アミノ基;スルホ基、カルボキシ基、水酸基、アルキル基及びアルコキシ基よりなる群から選択される置換基で置換されていても良いアニリノ基;スルホ基、カルボキシ基、水酸基、アルキル基、アルコキシ基よりなる群から選択される置換基で置換されていてもよいフェニルチオ基;ナフタレン環がスルホ基で置換されていても良いナフチルアミノ基;アルキル基上にスルホ基、カルボキシ基および水酸基よりなる群から選択される置換基を有しても良いモノ−若しくはジ−アルキルアミノ基;アラルキルアミノ基;又はアルキル基上にスルホ基、カルボキシ基および水酸基よりなる群から選択される置換基を有してもよいアルキルチオ基、
で表される(1)に記載のアントラピリドン化合物またはその塩、
(6)
1が水素原子又はメチル基を、
2は水素原子又はメトキシ基を、
X及びYはそれぞれ独立に水素原子又はスルホ基を、
Lは水素原子、フェニル基又はメチレン基を表し、
Lが水素原子又はフェニル基の場合、Zで表される置換基は存在せず、
Lがメチレン基の場合、Zはスルホ基、カルボキシ基、水酸基、C1−C4アルキル基、C1−C4アルコキシ基よりなる群から選択される置換基を有してもよいフェニルチオ基;アルキル基上にスルホ基、カルボキシ基及び水酸基よりなる群から選択される置換基を有するモノ−(C1−C4)アルキルアミノ基;ベンジルアミノ基;又はアルキル基上にスルホ基を有するC1−C4アルキルチオ基、
で表される(1)に記載のアントラピリドン化合物またはその塩、
(7)
1がメチル基を、
2は水素原子を、
X及びYはそれぞれ独立に水素原子またはスルホ基を、
Lは水素原子、又はメチレン基を表し、
Lが水素原子の場合、Zで表される置換基は存在せず、
Lがメチレン基の場合、Zはフェニル基上にカルボキシ基を有するフェニルチオ基;アルキル基上にスルホ基、カルボキシ基および水酸基よりなる群から選択される置換基を有するC1−C4アルキルチオ基、
で表される(1)に記載のアントラピリドン化合物またはその塩、
(8)
(1)乃至(7)に記載のアントラピリドン化合物又はその塩を含むことを特徴とするインクジェット用記録用インク組成物、
(9)
水溶性有機溶剤をさらに含有する(8)に記載のインクジェット記録用インク組成物、
(10)
(1)乃至(7)に記載のアントラピリドン化合物又はその塩中に含有される無機塩の含有量が、1重量%以下である(8)又は(9)に記載のインクジェット記録用インク組成物、
(11)
(1)乃至(7)に記載のアントラピリドン化合物の含有量が0.1〜20重量%である(8)乃至(10)のいずれか一項に記載のインクジェット記録用インク組成物、
(12)
インク滴を記録信号に応じて吐出させて被記録材料に記録を行うインクジェット記録方法において、インクとして(8)乃至(11)のいずれか一項に記載のインクジェット記録用インク組成物を使用することを特徴とするインクジェット記録方法、
(13)
被記録材料が情報伝達用シートである(12)に記載のインクジェット記録方法、
(14)
情報伝達用シートが多孔性白色無機物を含有するインク受容層を有するシートである(13)に記載のインクジェット記録方法、
(15)
(12)乃至(14)のいずれか一項に記載のインクジェット記録方法により着色された着色体、
(16)
(8)乃至(11)のいずれか一項に記載のインクジェット記録用インク組成物を含有する容器が装填されたインクジェットプリンタ、
に関する。
【発明の効果】
【0007】
以下便宜上、特に断りのない限り、本発明の「インクジェット記録用インク組成物」を単に「インク組成物」、本発明の「化合物又はその塩」をまとめて単に「化合物」と記載する。
本発明のインク組成物は、その製造過程でのメンブランフィルターに対するろ過性が良好である。又、該インク組成物は長期間保存しても結晶の析出、物性の変化、色相の変化等がなく、貯蔵安定性が良好である。そして本発明のインク組成物をインクジェット記録用のバイオレットインクとして使用した印刷物はメディア(紙、フィルム等)を選択することなく理想的なバイオレットの色相であり、従来のインクジェット記録に用いられているシアン及びマゼンタインクとにより色だしされたバイオレット(色)よりも、鮮明性の高いバイオレット(色)を再現させることが可能である。このため、カラー画像の色相を紙の上に、より忠実に再現させることができる。
更に本発明のインク組成物は、例え従来のシアン及びマゼンタインク等と共に用いた場合であっても耐光性、耐オゾン性、耐湿性などに優れたインクジェット記録を可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明を詳細に説明する。
本発明のアントラピリドン化合物は、前記式(1)で表される。以下式(1)におけるR1、R2、X、Y、L及びZの各基について説明する。
【0009】
式(1)中、R1は水素原子;アルキル基;ヒドロキシ低級アルキル基;シクロヘキシル基;モノ−若しくはジ−アルキルアミノアルキル基;又はシアノ低級アルキル基を表す。
【0010】
ここで、本明細書において、「アルキル基」と記載した場合、該アルキル基としては、例えばメチル、エチル、n−プロピル、iso−プロピル、n−ブチル、sec−ブチル、t−ブチル、iso−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、n−ヘプチル、n−オクチル等の炭素数1〜8の直鎖、分岐鎖または環状のアルキル基があげられる。
アルキル基の炭素数は、通常C1−C8、好ましくはC1−C6、さらに好ましくはC1−C4であり、好ましい具体例は上記の通りである。鎖状及び環状のいずれも好ましいが、鎖状であるほうが好ましく、直鎖はより好ましい。
「低級アルキル基」と記載した場合、該低級アルキル基としては、上記アルキル基中、通常炭素数1〜6、好ましくは炭素数1〜4のものを挙げることができ、より好ましくはメチル、エチル、n−プロピルおよびiso−プロピルを挙げることができる。
本明細書において低級アルキル基以外のもの、例えば「低級アルコキシ基」や「低級アルコール」などの場合においても、便宜上、「低級」と記載した場合には、特に断りの無い限り同様の炭素数の範囲が好ましい。また環状より鎖状が好ましく、分岐鎖より直鎖が好ましいのも同様である。
【0011】
1がヒドロキシ低級アルキル基である場合、該アルキル基の炭素数は上記のものが好ましい。具体例としては、ヒドロキシエチル、ヒドロキシプロピル、ヒドロキシブチル等である。
【0012】
1がモノ−若しくはジ−アルキルアミノアルキル基の場合も、該アルキル基の炭素数は上記のものが好ましい。モノ−若しくはジ−アルキルアミノアルキル基の具体例としては、それぞれメチルアミノプロピル、エチルアミノプロピル等、若しくはジメチルアミノプロピル、ジエチルアミノエチル等があげられる。
【0013】
シアノ低級アルキル基である場合、該アルキル基の炭素数は上記のものが好ましい。具体例としては、シアノエチル、シアノプロピル、シアノブチル等が挙げられる。
【0014】
好ましいR1としては水素原子、または低級アルキル基が挙げられ、水素原子、メチルがより好ましく、メチルが特に好ましい。
【0015】
2は水素原子又は低級アルコキシ基を表す。
2が低級アルコキシ基である場合、該アルコキシ基の炭素数は上記のものが好ましい。具体例としては、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ等が挙げられる。
2は水素原子又はメトキシが好ましく、水素原子がより好ましい。
【0016】
X及びYは各々独立して水素原子またはイオン性親水性基を表す。イオン性親水性基としては、例えばスルホ基、カルボキシル基、ホスホノ基、4級アンモニウム基等が挙げられるが、スルホ基が特に好ましい。
X及びYは、いずれも水素原子であってもよいが、少なくともいずれか一方がスルホであることがより好ましく、両者が共にスルホであるものも同様に好ましい。
【0017】
Lは水素原子;アルキル基、スルホ、カルボキシ、アルコキシカルボニル、アシル、カルバモイル、シアノ、アルコキシ、フェノキシ、及びハロゲン原子よりなる群から選択される置換基を有してもよいアリール基;又はアルキレン基を表す。
Lが水素原子又は置換基を有してもよいアリール基の場合、Zで表される基は存在しない。
Lがアリール基である場合、該アリール基はC6−C14で構成されるアリール基、例えばフェニル、ナフチル、アントラセニル等があげられ、好ましくはフェニルまたはナフチルである。
該アリール基上の置換基としては、低級アルキル基、スルホ、カルボキシが好ましく、スルホがより好ましい。
Lは水素原子、置換アリール基、及びアルキレン基である場合のいずれもが好ましい。
【0018】
Lがアルキレン基の場合、通常C1−C8、好ましくはC1−C6、より好ましくはC1−C4アルキレンが好ましい。通常、「アルキレン」と表現する場合には直鎖のもののみをいうが、本明細書においては便宜上、総炭素数が上記の範囲である2価のアルキル型連結基であれば、これを「アルキレン基」に含む。また直鎖、分岐鎖及び環状のもののいずれをも含む。好ましくは鎖状、より好ましくは直鎖のアルキレン基である。具体的にはメチレン、エチレン、プロピレン、ブチレンが挙げられ、メチレンが特に好ましい。
【0019】
Lがアルキレン基の場合にはZで表される基を有する。
Zは塩素原子;水酸基;アミノ;スルホ、カルボキシ、水酸基、アルキル基及びアルコキシ基よりなる群から選択される置換基を有していても良いアニリノ基;ナフタレン環がスルホ基で置換されていても良いナフチルアミノ基;アルキル基上にスルホ、カルボキシ及び水酸基よりなる群から選択される置換基を有しても良いモノ−若しくはジ−アルキルアミノ基;アラルキルアミノ基;スルホ、カルボキシ、アセチルアミノ、アミノ及び水酸基よりなる群から選択される置換基を有していても良いフェノキシ基;モノ−若しくはジ−アルキルアミノアルキルアミノ基;モルホリノ;又はアルキル基上にスルホ、カルボキシ及び水酸基よりなる群から選択される置換基を有してもよいアルキルチオ基;又はスルホ基、カルボキシ基、水酸基、アルキル基、アルコキシ基からなる郡から選択される置換基で置換されていてもよいフェニルチオ基、を表す。
アラルキルアミノ基としては、「(C6−C14)アリール−アルキレン基−アミノ」の構成であるものが好ましい。該(C6−C14)アリール基、及びアルキレン基は、上記と同じものがよい。具体例としてはベンジルアミノが挙げられる。
モノ−若しくはジ−アルキルアミノアルキルアミノ基における、「アルキルアミノアルキルアミノ基」としては、「低級アルキル−アミノ−低級アルキル−アミノ」の構成であるものが好ましい。該低級アルキル基は、上記と同じものがよい。
アルキルチオ基のアルキル部分も、上記の低級アルキルが好ましい。
上記のZのうち、好ましい基としては置換基を有していてもよいアニリノ基、置換基を有してもよいモノ−アルキルアミノ基、アラルキルアミノ基、置換基を有してもよいフェニルチオ基、モルホリノ、置換基を有してもよいアルキルチオ基である。
Zとしてより好ましい基はアラルキルアミノ基、置換基を有してもよいフェニルチオ基及び置換基を有してもよいアルキルチオ基である。
具体的にはスルホエチルアミノ、p−スルホアニリノ、ベンジルアミノ、2−カルボキシフェニルチオ、モルホリノ、カルボキシメチルチオ、カルボキシエチルチオ、スルホプロピルチオが好ましく、ベンジルアミノ、2−カルボキシフェニルチオ、3−スルホプロピルチオがより好ましい。
【0020】
なお、R1、R2、X、Y、L及びZの各基それぞれに挙げた、好ましい基同士を組合わせた化合物はさらに好ましく、より好ましい基を組合わせた化合物はより一層好ましい。
【0021】
特に好ましい具体的な化合物は、R1がメチル、R2が水素原子、Xがスルホ、Yが水素原子又はスルホ、Lが水素原子、又はフェニル;又はR1、R2、X及びYが同様で、Lがメチレンであり、Zが3−スルホプロピルチオ又は2−カルボキシフェニルチオで表される組合わせの化合物である。
【0022】
上記式(1)で表される化合物は、無機又は有機陽イオンと塩を形成してもよい。すなわち、遊離酸であってもその塩であっても、いずれも好ましい。
式(1)の化合物が形成する塩としては、アルカリ金属塩、たとえばリチウム、ナトリウム、カリウムと形成する塩;アンモニアと形成するアンモニウム塩;または下記式(2)で表されるアンモニウム塩などが好ましい。
【化2】

(式(2)中、Z1〜Z4はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、ヒドロキシアルキル基又はヒドロキシアルコキシアルキル基を表わす。)
式(2)のZ1〜Z4の具体例としては、以下のものが挙げられる。すなわち、アルキル基としてはメチル、エチル等;ヒドロキシアルキル基としてはヒドロキシメチル、2−ヒドロキシエチル、3−ヒドロキシプロピル、2−ヒドロキシプロピル、4−ヒドロキシブチル、3−ヒドロキシブチル、2−ヒドロキシブチル等;ヒドロキシアルコキシアルキル基としては、ヒドロキシエトキシメチル、2−ヒドロキシエトキシエチル、3−ヒドロキシエトキシプロピル、3−ヒドロキシエトキシブチル、2−ヒドロキシエトキシブチル等があげられる。
【0023】
これらのうち、より好ましいものとしては、ナトリウム、カリウム、リチウム等のアルカリ金属塩;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン等の有機陽イオン塩;及び、アンモニウム塩等が挙げられる。特に好ましいものは、リチウム、アンモニウムおよびナトリウムの塩である。
【0024】
上記の塩の調製法としては、例えば目的化合物を含む反応液、目的化合物のケーキ、または該化合物の乾燥品等を水に溶解し、これに食塩を加えて、塩析後、析出固体を濾取することによって該化合物のナトリウム塩をウエットケーキとして得ることができる。
得られたウエットケーキを再び水に溶解し、塩酸等の鉱酸を加えてpHを1〜2に調整することにより析出する固体を濾取すれば、該化合物の遊離酸あるいは遊離酸とナトリウム塩の混合物をウエットケーキとして得ることができる。
更に、該遊離酸のウエットケーキを水と共に攪拌しながら、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属の水酸化物、又はアンモニア水等を添加してアルカリ性にすれば、各々相当するリチウム塩、ナトリウム塩、又はアンモニウム塩が得られる。該遊離酸の代わりに遊離酸と特定の塩との混合物を用いれば、例えばリチウムとナトリウム、リチウムとアンモニウム、ナトリウムとアンモニウム等の混塩を得ることもできる。
塩の種類により、化合物の性質が変化することもしばしば観察される。該性質は、例えばインク組成物とした場合の保存安定性、該インク組成物により記録された記録画像の耐久性等に影響を与える場合もある。従って、これらの塩は、目的とする性能に応じて適宜選択するのがよい。
【0025】
式(1)で示されるアントラピリドン化合物の具体的化合物の一例として、下記表1に化合物No.1〜26を挙げるが、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。
【0026】
【表1】

【0027】
以下に本発明の化合物の製造方法を記載する。
なお下記式(3)〜(10)中に記載のR1、R2、X、Y、L、及びZは、上記式(1)におけるのと同じ意味を表す。
【0028】
下記式(3)で示されるアントラキノン化合物1モルに、下記式(5)で表されるベンゾイル酢酸エチルエステル誘導体1.1〜3モルを、キシレン等の極性溶媒中、炭酸ナトリウム等の塩基性化合物の存在下、130〜180℃、5〜15時間反応を行うことにより、下記式(4)の化合物が得られる。
【0029】
【化3】

【0030】
【化4】

【0031】
得られた上記式(4)で表される化合物1モルに、パラアミノアセトアニリド 1〜5モルを、DMF(N,N−ジメチルホルムアミド)等の非プロトン性極性有機溶媒中、炭酸ナトリウムのような塩基及び酢酸銅のような銅触媒の存在下、110〜150℃、2〜6時間ウルマン反応をおこなって縮合し、下記式(6)で表される化合物を得る。
【0032】
【化6】

【0033】
得られた上記式(6)の化合物を8〜15%発煙硫酸中、50〜100℃でスルホ化を行うと共にアセチルアミノ基を加水分解する事により、Xがスルホ及びYが水素原子である下記式(7)で表されるアントラピリドン化合物を得る。
またスルホ化の反応条件を10〜20%発煙硫酸中、100〜140℃とする事により、同様にX及びYがいずれもスルホである下記式(7)で表されるアントラピリドン化合物を得る。
【0034】
【化7】

【0035】
得られた上記式(7)の化合物1モルと、下記式(8)で表されるアシル化剤1〜5モルとを、水、有機溶媒又は含水有機溶媒中でpH3〜10、0〜50℃、10分〜5時間反応させることにより、上記式(1)で表される本発明のアントラピリドン化合物が得られる。Lが水素原子である式(1)の化合物を得たい場合には、通常のホルミル化反応を行えばよい。
【0036】
【化8】

【0037】
(式(8)中、Qは塩素原子などの脱離基を、L及びZは上記と同じ意味を表す)
【0038】
上記式(1)の化合物は、以下に記載の別法にても得ることができる。
すなわち、上記式(8)においてLがアルキレン基であり、かつZが塩素原子で表されるアシル化剤と、上記式(7)の化合物とを反応させて上記式(1)において、Lがアルキレン基であり、かつZが塩素原子で表される化合物を得る。得られた化合物の該塩素原子を、例えば水酸基、アニリン等のアミン類、フェノール類、チオール類等、一般式「H−Z」で表される化合物で置換反応を行わせることにより、Zが塩素原子以外の上記式(1)で表される化合物へと誘導する方法である。
この方法の場合、pH9〜12、50〜100℃、10分〜5時間を反応条件として加水分解を行えばZが水酸基である化合物が得られる。また、アンモニアや、塩素原子以外の望みのZに対応する該「H−Z」を、pH3〜10、10〜100℃、10分〜8時間を置換反応の条件として、Zが塩素原子である上記式(1)の化合物と反応させることにより、Zが塩素原子以外であり、かつZとして望みの置換基が導入された上記式(1)の化合物が得ることができる。
なお、予めそれ自体が置換基を有するアミン類、フェノール類、又はチオール類等を用いて上記の置換反応を行えば、それぞれ対応する置換基を有するアミノ基、フェノキシ基又はチオ基等の誘導体も同様の方法により合成できる。
【0039】
また上記の置換反応に際し、Zが塩素原子では置換反応の反応性が十分でない場合もある。当業者であれば周知のように、該塩素原子をより反応性の高い臭素あるいはヨウ素原子に反応系内(in situ)で、または段階的に置換して該反応に用いるなどの応用も可能である。さらに、Zが塩素原子の代わりに水酸基である化合物を用い、該水酸基を例えばトルエンスルホン酸エステル基などの脱離基へと誘導し、該脱離基を上記のアミン類、フェノール類、チオール類等により置換して、望みの上記式(1)の化合物を得ることもできる。
【0040】
一方、上記式(1)において、X及びYがいずれも水素原子で表される化合物の合成方法として、以下の方法をあげることができる。
すなわち、上記式(4)の化合物1モルに、4−アミノ−3−スルホ−アセトアニリド 1〜5モルを、DMF等の非プロトン性極性有機溶媒中、炭酸ナトリウムのような塩基及び酢酸銅のような銅触媒の存在下、110〜150℃、2〜6時間ウルマン反応をおこなうことにより、下記式(9)の化合物を得る。
【0041】
【化9】

【0042】
得られた式(9)の化合物のアセチルアミノ基を、20〜80%硫酸中、50〜120℃で加水分解する事により、式(10)の化合物を得る。
【0043】
【化10】

【0044】
得られた上記式(10)の化合物を、上記式(7)の化合物の代わりに用い、上記と同様の反応を行うことにより、XおよびYがいずれも水素原子である上記式(1)の化合物を得ることができる。
【0045】
上記式(1)で表される化合物は、その総量中に含有される金属陽イオンの塩化物および硫酸塩等の無機塩(無機不純物)の量の少ないものを用いるのが好ましい。その含有量の目安は、化合物の総量に対して、おおよそ1重量%以下程度である。無機塩の少ない本発明の化合物を製造するには、例えば逆浸透膜による方法、又は、例えば水溶性有機溶剤と水との混合溶媒中で、目的化合物を懸濁精製する方法等の通常の方法で脱塩処理すればよい。懸濁精製の際に使用する有機溶剤に特に制限はないが、好ましくはC1−C4アルカノール、より好ましくはC1−C3アルカノール等が挙げられる。
【0046】
本発明のインク組成物は、上記式(1)で表される化合物又はその塩を、水又は水性溶媒(後記する水溶性有機溶剤を含有する水)に溶解したものである。
例えば、上記式(1)で表される化合物は、場合により単離することを必要とせず、該化合物を含有する反応液などを、該インク組成物の製造に直接使用することが出来る。
又上記反応液から目的物を単離し、乾燥、例えばスプレー乾燥させ、次にインク組成物に加工することも当然できる。本発明のインク組成物は、本発明の化合物を通常0.1〜20重量%、より好ましくは1〜15重量%、更に好ましくは2〜10重量%含有するのがよい。本発明のインク組成物には水溶性有機溶剤0〜30重量%、インク調整剤0〜5重量%をそれぞれさらに含有してもよい。
【0047】
上記の水溶性有機溶剤の具体例としては、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、第二ブタノール、第三ブタノール等のC1〜C4アルカノール;DMF又はN,N−ジメチルアセトアミド等のカルボン酸アミド;2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン等のラクタム;1,3−ジメチルイミダゾリジン−2−オン又は1,3−ジメチルヘキサヒドロピリミド−2−オン等の環式尿素類;アセトン、メチルエチルケトン、2−メチル−2−ヒドロキシペンタン−4−オン等のケトン又はケトアルコール、テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル;エチレングリコール、1,2−又は1,3−プロピレングリコール、1,2−又は1,4−ブチレングリコール、1,6−ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、チオジグリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の(C2〜C6)アルキレン単位を有するモノ、オリゴ又はポリアルキレングリコール、又はチオグリコール;グリセリン、ヘキサン−1,2,6−トリオール等のポリオール(トリオール);エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルカルビトール)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル又はトリエチレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコールの(C1〜C4)アルキルエーテル;γーブチロラクトン又はジメチルスルホキシド等があげられる。
【0048】
これらのうち好ましいものとしては2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、モノ、ジ又はトリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、イソプロパノール、又はブチルカルビトールが挙げられ、より好ましいものは、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、イソプロパノール、ジエチレングリコール、又はブチルカルビトールである。これらの水溶性有機溶剤は単独でも、また混合して用いてもよい。
【0049】
上記のインク調製剤としては、例えば防腐防黴剤、pH調整剤、キレート試薬、防錆剤、水溶性紫外線吸収剤、水溶性高分子化合物、染料溶解剤、界面活性剤などが挙げられる。
防腐防黴剤としては、例えば、有機硫黄系、有機窒素硫黄系、有機ハロゲン系、ハロアリルスルホン系、ヨードプロパギル系、N−ハロアルキルチオ系、ニトリル系、ピリジン系、8−オキシキノリン系、ベンゾチアゾール系、イソチアゾリン系、ジチオール系、ピリジンオキシド系、ニトロプロパン系、有機スズ系、フェノール系、第4アンモニウム塩系、トリアジン系、チアジアジン系、アニリド系、アダマンタン系、ジチオカーバメイト系、ブロム化インダノン系、ベンジルブロムアセテート系、無機塩系等の化合物が挙げられる。有機ハロゲン系化合物としては、例えばペンタクロロフェノールナトリウムが挙げられ、ピリジンオキシド系化合物としては、例えば2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウムが挙げられ、イソチアゾリン系化合物としては、例えば1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンマグネシウムクロライド、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンカルシウムクロライド、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンカルシウムクロライド等が挙げられる。その他の防腐防黴剤として、無水酢酸ソーダ、ソルビン酸ソーダ又は安息香酸ナトリウム等があげられる。
【0050】
上記のpH調整剤としては、調合されるインクに悪影響を及ぼさずに、インクのpHを8.0〜11.0の範囲に制御できるものであれば任意の物質を使用することができる。例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアルカノールアミン、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物、水酸化アンモニウム、あるいは炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩などが挙げられる。
キレート試薬としては、例えばエチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、ウラミル二酢酸ナトリウムなどがあげられる。
防錆剤としては、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオグリコール酸アンモニウム、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、四硝酸ペンタエリスリトール、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライトなどがあげられる。
水溶性紫外線吸収剤としては、例えばスルホン化されたベンゾフェノン又はスルホン化されたベンゾトリアゾール等があげられる。水溶性高分子化合物としては、例えばポリビニルアルコール、セルロース誘導体、ポリアミン、ポリイミン等があげられる。
染料溶解剤としては、例えば尿素、ε−カプロラクタム、エチレンカーボネート等があげられる。
【0051】
上記の界面活性剤としては、アニオン界面活性剤、両性界面活性剤、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤が、それぞれ目的に応じて使用出来る。
該アニオン界面活性剤の例としてはアルキルスルホカルボン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、N−アシルアミノ酸及びその塩、N−アシルメチルタウリン塩、アルキル硫酸塩ポリオキシアルキルエーテル硫酸塩、アルキル硫酸塩ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸塩、ロジン酸石鹸、ヒマシ油硫酸エステル塩、ラウリルアルコール硫酸エステル塩、アルキルフェノール型燐酸エステル、アルキル型燐酸エステル、アルキルアリルスルホン酸塩、ジエチルスルホ琥珀酸塩、ジエチルヘキルシルスルホ琥珀酸塩、ジオクチルスルホ琥珀酸塩などが挙げられる。
カチオン界面活性剤の例としては2−ビニルピリジン誘導体、ポリ4−ビニルピリジン誘導体などがある。
両性界面活性剤の例としてはラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ポリオクチルポリアミノエチルグリシン、その他イミダゾリン誘導体などがある。
ノニオン界面活性剤の例としては、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルなどのエーテル系;ポリオキシエチレンオレイン酸、ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンステアレートなどのエステル系;2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オールなどのアセチレングリコール(アルコール)系等が挙げられる。これらの市販品としては、例えば、日信化学社製、商品名サーフィノール104、82、465、オルフィンSTGなどが挙げられる。
これらのインク調製剤は、必要に応じて単独で使用しても、複数を併用してもよい。
【0052】
インク組成物を調製するに当たり、前記各薬剤を溶解させる順序に特に制限はない。
上記式(1)で表される化合物を水、又は含水水溶性有機溶剤に溶解させ、次いでインク調製剤を添加してもよいし、該化合物を水に溶解させたのち、水溶性有機溶剤、インク調製剤を添加して調製してもよい。
インク組成物を調製するにあたり、用いる水はイオン交換水又は蒸留水など不純物が少ない精製水を使用するのが好ましい。
インク組成物の調製後、更に、必要に応じメンブランフィルターなどを用いて精密濾過を行って夾雑物を除いてもよい。インクジェットプリンタ用のインク組成物を調製する場合には、一般には、精密濾過を行うことが好ましい。精密濾過を行うフィルターの孔径は通常1ミクロン〜0.1ミクロン、好ましくは、0.8ミクロン〜0.2ミクロンである。
尚、本発明のインク組成物に、さらに従来のマゼンタ、シアン等の染料を配合することによって、赤味又は青味等、好みのバイオレットの色調に調色することも当然可能である。
【0053】
本発明のインク組成物は、天然及び合成繊維材料又は混紡品の印刷にも適しているが、最も好ましい用途はインクジェット記録方法を用いる被記録材料上への印刷である。
本発明の上記式(1)で表される化合物、又は該化合物を含有するインク組成物により記録された画像は、水、日光、オゾン及び摩擦に対する良好な耐性を有する高品質のバイオレット印捺物を与える。
【0054】
本発明の着色体は前記の本発明のインク組成物で着色されたものである。着色される材料には、特に制限は無く、例えば紙、繊維や布(セルロース、ナイロン、羊毛等)、皮革、カラーフィルター用基材等があげられるが、これらに限定されない。
【0055】
本発明のインクジェット記録方法に用いる好ましい被記録材料としては紙、フィルム等の情報伝達用シートが挙げられる。情報伝達用シートについては、表面処理されたもの、具体的にはこれらの基材にインク受容層を設けたものが好ましい。
該インク受容層は、例えば上記基材にカチオン系ポリマーを含浸あるいは塗工すること;また多孔質シリカ、アルミナゾルや特殊セラミックス等、インク中の色素を吸収し得る無機微粒子を、ポリビニルアルコールやポリビニルピロリドン等の親水性ポリマーと共に上記基材表面に塗工すること;等により設けられる。
このようなインク受容層を設けた被記録材料は、通常インクジェット専用紙(フィルム)あるいは光沢紙(フィルム)等と呼ばれる。これらの具体例としては、商品名ピクトリコ(旭硝子(株)製);商品名カラーBJペーパー、カラーBJフォトフィルムシート、プロフェッショナルフォトペーパー(いずれもキャノン(株)製);商品名カラーイメージジェット用紙(シャープ(株)製);商品名PM写真用紙、スーパーファイン専用光沢フィルム(いずれもエプソン(株)製);商品名ピクタファイン(日立マクセル(株)製)等として市販されている。なお、普通紙にも当然、使用できる。
【0056】
本発明のインクジェット記録方法では、本発明のインク組成物と共に、必要に応じてマゼンタ、シアン、及びブラック等の各インク組成物を併用することもできる。
各色のインク組成物は、それぞれの容器に注入され、この容器を、本発明のインク組成物を含有する容器と同様に、インクジェットプリンタの所定の位置にセット(装填)して使用すればよい。
【0057】
本発明のインクジェット記録方法を用いて被記録材料に記録を行うには、例えば本発明のインク組成物を含有する容器をインクジェットプリンタの所定の位置にセットし、通常の方法で記録を行えばよい。
インクジェットプリンタとしては、例えば機械的振動を利用したピエゾ方式;又は加熱により生ずる泡を利用したバブルジェット(登録商標)方式等のプリンタがあげられるが、特にこれらの方式には限定されない。
【0058】
本発明のインク組成物は水性であり、かつ鮮明なバイオレット色であり、特にインクジェット光沢紙において鮮明性に優れた色相を有する。また、人に対する安全性も高い。
従来のマゼンタ及び/又はシアンインクと併用する事により、従来の色素では成し得なかった広い可視領域の色調を表現する事もでき、優れた記録物を得ることができる。また、記録画像の堅牢度が高い。
【0059】
本発明のインク組成物は貯蔵中に沈澱、及び/又は分離することがない。また、該インク組成物をインクジェット記録に使用した場合、噴射器(インクヘッド)を閉塞することもない。さらに該インク組成物は連続式インクジェットプリンタによる比較的長い時間における一定の再循環下;又はオンデマンド式インクジェットプリンタによる断続的な使用条件下においても、物理的性質の変化を起こしにくい。
【実施例】
【0060】
以下に本発明を実施例により更に具体的に説明する。特に断りのない限り、下記する表記、条件等のもとに実験を行った。
1.実施例中「部」及び「%」とあるのは重量基準である。
2.各反応は攪拌下に行った。
3.温度の記載は反応系内の反応温度である。
4.化合物の最大吸収波長(λmax)は、水溶液での測定値である。
5.目的化合物の純度は、HPLCを使用して測定し、その面積比を純度として記載した。

なお、HPLCの使用機器ならびに分析条件は以下の通りである。
【0061】
装置 ;HP1100(HP社製)
カラム ;YMC−Pack ODS−A(5μm)、
6.0×250mm(YMC社製)
カラム温度 ;40℃
移動相 ;A:5mM AcONH4水溶液、 B:CH3CN
グラジエント;B conc. 20%−(30min)−60%
流量 ;0.8ml/min
【0062】
実施例1(表1における化合物No.1の合成)
(1)
キシレン360部中に、R1がメチルである上記式(3)の化合物94.8部、炭酸ナトリウム3.0部、ベンゾイル酢酸エチルエステル144.0部を順次加えて昇温し、140〜150℃の温度で8時間反応を行った。この間、反応の進行と共に生成するエタノールと水を、キシレンと共沸させながら反応系外へ留去し、反応を完結させた。反応液を30℃に冷却し、メタノール240部を添加して30分攪拌した。析出固体を濾取し、メタノール360部で洗浄後、乾燥することにより、R1がメチル、R2が水素原子で表される上記式(4)の化合物124.8部を淡黄色針状結晶として得た。
(2)
N,N―ジメチルホルムアミド500.0部中に、実施例1(1)で得られた式(4)の化合物111部、パラアミノアセトアニリド114.1部、酢酸銅1水和物30.0部及び酢酸ナトリウム30.8部を順次加えて130〜135℃に昇温し、3時間反応を行った。約50℃に冷却後、析出固体を濾取し、N,N―ジメチルホルムアミド125部、メタノール500部、及び80℃の温水で順次洗浄し、乾燥することにより、R1がメチル、R2が水素原子で表される上記式(6)の化合物104.7部を青味赤色結晶として得た。
(3)
95.0%硫酸217.7部に、水冷しながら30.5%発煙硫酸342.2部を添加して、10%発煙硫酸560部を調製した。
水冷下、実施例1(2)で得られた式(6)の化合物102.7部を60℃以下の反応温度を保ちながら添加した後、90〜95℃に昇温して1.5時間反応を行った。
氷水1500部中に、発熱による昇温を氷を加えることにより50℃以下に保持しながら、上記の反応液を添加した。これに水を加えて液量を2000部とした後、不溶解分をろ去した。
得られた母液に水を加えて2500部とし、20〜40℃で食塩500部を添加して5時間攪拌し、析出した結晶を濾取した。得られた固体を20%塩化ナトリウム水溶液300部で洗浄することにより、R1がメチル、R2が水素原子、Xがスルホ、Yが水素原子で表される上記式(7)の化合物のウェットケーキ156部を青色結晶として得た。
メタノール800部に得られたウェットケーキを加えて50℃で30分攪拌後、濾取して得られるケーキを乾燥することにより、精製されたR1がメチル、R2が水素原子で表される上記式(7)の化合物87.0部を青色結晶として得た。
(4)
DMF50部中に、実施例1(3)で得られた式(7)の化合物3.2部、TsCl(p−トルエンスルホン酸クロリド)2.9部、及び炭酸カリウム2.1部を順次添加後、90℃で1時間反応した。反応液にイソプロピルアルコール50部を滴下し析出した結晶を濾取することにより粗ウェットケーキ6.5部を得た。
(5)
実施例1(4)で得られた粗ウェットケーキをメタノール50部中に添加し、60〜65℃にて1時間攪拌した。析出固体を濾取、乾燥することにより、目的とする上記表1における化合物No.1の脱塩精製体1.6部を紫色結晶として得た。
λmax:552nm
【0063】
実施例2(表1における化合物No.2の合成)
(1)
水冷下、95.0%硫酸35.9部に、31.2%発煙硫酸64.1部を添加して、12%発煙硫酸100部を調製した。
水冷下、上記の発煙硫酸100部に、実施例1(2)で得られた式(6)の化合物12.8部を60℃以下の反応温度に保ちながら添加した後、120〜130℃に昇温して8時間反応を行った。
氷水150部中に、発熱による昇温を氷を加えることにより50℃以下に保持しながら、上記の反応液を添加した。これに水を加えて液量を250部とし、温度を20〜40℃に保ちながら、食塩50部を添加して2時間攪拌した。析出した結晶を濾取し、20%塩化ナトリウム水溶液300部で洗浄することにより、R1がメチル、R2が水素原子、X及びYがスルホで表される上記式(7)の化合物のウェットケーキ26.1部を得た。
(2)
DMF50部に実施例2(1)で得られた式(7)の化合物のウェットケーキ13.0部及びTsCl1.9部を添加し、20℃で1時間反応を行った。反応液にイソプロピルアルコール60部を滴下して、析出した結晶を濾取し、粗ウェットケーキを得た。
(3)
実施例2(2)で得られた粗ウェットケーキをエタノ−ル20部中に添加し、60〜65℃にて1時間攪拌した。析出固体をろ取、乾燥することにより、目的とする上記表1におけるNo.2の化合物の脱塩精製体1.0部を紫色結晶として得た。
λmax:539nm、純度84%
【0064】
実施例3(表1における化合物No.3の合成)
(1)
実施例1(3)で得られた式(7)の化合物6.3部を水30部に加え、25%水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH=8.5に調整後、10℃に冷却した。
冷却により該温度、及び水酸化ナトリウム水溶液により該pHをそれぞれ保持しながら、クロロアセチルクロリド2.3部を滴下した後、同条件で2時間反応を行うことにより、R1がメチル、R2及びYが水素原子、Lがメチレン、Zが塩素原子である上記式(1)の化合物を含有する反応液を得た。
(2)
実施例3(1)で得られた式(1)の化合物を含有する反応液中に、メルカプトプロパンスルホン酸5.4部を添加した後、40℃へ昇温し、25%水酸化ナトリウム水溶液によりpH=6〜8に調整して1時間反応を行った。
得られた反応液を60℃へさらに昇温した後、反応液に濃塩酸を添加してpHを1.0に調整し、塩化ナトリウム6部をさらに添加し、60〜65℃にて30分攪拌した。
析出した結晶を濾取し、20%塩化ナトリウム水溶液で洗浄することにより、粗ウェットケーキを紫色結晶として得た。
(3)
実施例3(2)で得られた粗ウェットケーキを、エタノ−ル20部中に添加し、60〜65℃にて1時間攪拌した。析出固体をろ取、乾燥することにより、目的とする表1におけるNo.3の化合物の脱塩精製体5.4部を紫色結晶として得た。
λmax:542nm、純度91%
【0065】
実施例4(表1における化合物No.4の合成)
(1)
水30部に、実施例2(1)で得られた式(7)の化合物のウェットケーキ12.3部を加え、25%水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH=8.5に調整後、10℃に冷却した。冷却により該温度を保持し、25%水酸化ナトリウム水溶液によりpH=6〜9に調整しながらクロロアセチルクロリド1.1部を滴下した後、同条件で2時間反応を行うことにより、R1がメチル、R2が水素原子、X及びYがスルホ、Lがメチレン、Zが塩素原子である式(1)の化合物を含有する反応液を得た。
(2)
実施例4(1)で得られた式(1)の化合物を含有する反応液に、メルカプトプロパンスルホン酸3.6部を添加して40℃へ昇温し、pH=6〜8の条件下で1時間反応を行った。
得られた反応液を60℃にさらに昇温し、濃塩酸を添加してpHを1.0に調整し、次いで食塩6部をさらに添加し、60〜65℃にて30分攪拌した。
析出した結晶を濾取し、20%塩化ナトリウム水溶液で洗浄することにより、粗ウェットケーキを紫色結晶として得た。
(3)
実施例4(2)で得られた粗ウェットケーキをエタノ−ル20部中に添加し、60〜65℃にて1時間攪拌した。析出固体をろ取、乾燥することにより、目的とする上記表1におけるNo.4の化合物の脱塩精製体2.3部を紫色結晶として得た。
λmax:535nm、純度83%
【0066】
実施例5(表1における化合物No.26の合成)
(1)
実施例1(3)で得られた式(7)の化合物6.3部を水30部に加え、25%水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH=8.5に調整後、10℃に冷却した。
冷却により該温度、及び水酸化ナトリウム水溶液により該pHをそれぞれ保持しながら、クロロアセチルクロリド2.3部を滴下した後、同条件で2時間反応を行うことにより、R1がメチル、R2及びYが水素原子、Lがメチレン、Zが塩素原子である上記式(1)の化合物を含有する反応液を得た。
(2)
実施例5(1)で得られた式(1)の化合物を含有する反応液中に、2−チオサリチル酸3.1部を添加した後、30℃へ昇温し、25%水酸化ナトリウム水溶液によりpH=6〜8に調整して1時間反応を行った。
得られた反応液に濃塩酸を添加してpHを5.0に調整し、析出した結晶を濾取し、20%塩化ナトリウム水溶液で洗浄することにより、粗ウェットケーキを紫色結晶として得た。
(3)
実施例5(2)で得られた粗ウェットケーキを、エタノ−ル20部中に添加し、60〜65℃にて1時間攪拌した。析出固体をろ取、乾燥することにより、目的とする表1におけるNo.3の化合物の脱塩精製体5.4部を紫色結晶として得た。
λmax:541nm、純度87%
【0067】
実施例6
(A)インクの調整
上記実施例1で得られた化合物(化合物No.1)を用いて下記表2に示した組成の液体を調整し、0.45μmのメンブランフィルターで濾過することによりインクジェット記録用の水性インク組成物を得た。また水はイオン交換水を使用した。尚、インク組成物のpHが8〜10、総量100部になるように水、及び25%水酸化ナトリウム水溶液を加えた。実施例1で得られた化合物を用いた試験を実施例6とする。実施例2〜4で得られた化合物を用い、それぞれ上記と同様にしてインクを調整し、これらのインクを用いた試験をそれぞれ実施例7〜9とする。
【0068】
表2(インク組成物)

実施例1の化合物(化合物No.1) 3.5部
グリセリン 5.0部
尿素 5.0部
N−メチルー2−ピロリドン 4.0部
イソプロピルアルコール 3.0部
ブチルカルビトール 2.0部
サーフィノール104PG50(日信化学社製) 0.1部
水+25%NaOH 77.4部
計 100.0部
【0069】
比較例1
比較例1として、実施例1で得られた化合物No.1の代わりに、特許文献4の実施例1(化合物No.1)に記載の化合物を使用する以外は上記と同様にしてインクを調整し、このインクを用いた試験を比較例1とした。なお、比較例1の化合物は、下記式(11)で表される化合物である。
【0070】
【化11】

【0071】
(B)インクジェットプリント(試験片の調整)
インクジェットプリンタ(商品名iP4100、キヤノン社製)を用いて、多孔性白色無機物を含有するインク受容層を有する3種類の光沢紙にインクジェット記録を行い、それぞれ記録画像を得た。これを試験片とし、以下に示す色相評価および各種試験を行った。
尚使用した光沢紙は下記のとおりである。
光沢紙1:キヤノン社製、商品名プロフェッショナルフォトペーパーPR101
光沢紙2:エプソン社製、商品名クリスピア
光沢紙3:ヒューレットパッカード製、商品名アドバンスフォトペーパー
【0072】
(C)記録画像の評価
1)色相評価
記録画像の色相、鮮明性:記録紙を測色システム(GRETAG SPM50:GRETAG社製)を用いて、L、a、b値を測色した。
彩度(C)は以下の式で求められる。
値=((a2+(b21/2
なお彩度の値は大きいほど鮮明性が高いことを示し、好ましい。
また色相角(h)は、測色したa、及びb値により、以下の式により求められる。
≧0、かつb値≧0の場合:h=tan-1(b/a
≧0、かつb値<0の場合:h=360+tan-1(b/a
<0 の場合:h=180+tan-1(b/a
【0073】
実施例6〜9、及び比較例1のそれぞれについて、3種類の光沢紙を用いた試験片の色相の測定結果を表3に示す。
【0074】
表3
光沢紙1
色相 彩度 色相角

実施例6 65.9 −60.1 89.3 318
実施例7 63.2 −43.8 77.1 325
実施例8 51.0 −52.3 83.6 316
実施例9 59.4 −46.3 75.3 322
比較例1 58.1 −43.1 72.6 323

光沢紙2
色相 彩度 色相角

実施例6 67.5 −65.6 94.1 316
実施例7 65.8 −44.1 79.5 326
実施例8 48.1 −55.6 85.2 313
実施例9 59.0 −48.4 76.5 321
比較例1 56.0 −41.7 69.9 323

光沢紙3
色相 彩度 色相角

実施例6 53.8 −54.8 91.0 316
実施例7 63.6 −40.4 75.3 328
実施例8 46.8 −52.3 82.2 314
実施例9 56.6 −45.7 72.8 321
比較例1 58.0 −38.9 69.9 326
【0075】
表3より、実施例6〜9の色相角は比較例1と略近似した範囲(h=314〜328)にあり、これらはいずれもバイオレット色として好ましい色相である。
一方、彩度に着目すると、光沢紙1、2及び3のそれぞれについて、比較例1の彩度はそれぞれ72.6、69.9、及び69.9であるのに対して、実施例6〜9は同様に75.3〜89.3、76.5〜94.1及び72.8〜91.0であり、いずれの場合においても比較例1よりも大きい値を示した。
従って、各実施例は良好なバイオレットの色相と、非常に高い鮮明性とを共に有することがわかる。
【0076】
2)オゾン耐性試験
前記の方法により調整した各試験片を、オゾンウエザーメーター(スガ試験機社製)を用い、温度24℃、湿度60%RH、オゾン濃度10ppmの環境下に4時間放置し、試験前後の色差(ΔE)を測定した。
色差(ΔE)は試験前後の色変化の差を示すため、値が小さいほど耐久性に優れることを示し、これは後記する耐光性試験の場合も同様である。試験結果を表4に示す。
表4
光沢紙1 光沢紙2 光沢紙3
実施例6 22.6 28.5 22.1
実施例7 19.1 14.2 10.6
実施例8 23.1 37.5 30.1
実施例9 24.2 26.6 24.4
比較例1 47.3 39.3 35.1
【0077】
表4の結果より、実施例6〜9の含有するインク組成物は、光沢紙の種類により多少のばらつきはあるものの、光沢紙1から3全ての記録画像におけるオゾン耐性試験前後の色差(ΔE)の値が、比較例1よりも小さく、オゾン耐性においても非常に優れていることがわかる。
具体的には光沢紙1、2及び3のそれぞれについて、比較例1の色差がそれぞれ47.3、39.3、及び35.1であるのに対して、各実施例は同様に19.1〜24.2、14.2〜37.5、及び10.6〜30.1であり、いずれの場合も比較例より小さい値を示した。特に光沢紙1を用いた場合の各実施例のオゾン耐性は著しく優れている。
【0078】
3)キセノン耐光性試験
前記の方法により調整した各試験片を、キセノンウエザーメーターCi4000(ATLAS社製)を用い、温度24℃、湿度60%RHの環境下で、0.36w/m2照度で50時間放置し、試験前後の色差(ΔE)を測定した。その結果を表5に示す。
表5
光沢紙3
実施例7 4.5
比較例1 6.0
【0079】
表5の結果より明らかなように、実施例7のインク組成物により光沢紙3に記録された画像におけるオゾン耐性試験前後の色差(ΔE)の値が、比較例1よりも小さく、耐光性においても優れていることがわかる。
【0080】
表3〜表5の結果から明らかなように、本発明の化合物を含有するインク組成物は、非常に鮮明性が高く、かつ良好な色相のバイオレット色を与えることが判る。更にこのインク組成物により記録された印刷物の各種堅牢性、特にオゾン耐性及び耐光性は極めて優れたものであることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるアントラピリドン化合物またはその塩、
【化1】

(式(1)中、
1は水素原子;アルキル基;ヒドロキシ低級アルキル基;シクロヘキシル基;モノ−若しくはジ−アルキルアミノアルキル基;又はシアノ低級アルキル基を、
2は水素原子又は低級アルコキシ基を、
X及びYは各々独立して水素原子又はイオン性親水性基を、
Lは水素原子;アルキル基、スルホ基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、アシル基、カルバモイル基、シアノ基、アルコキシ基、フェノキシ基、及びハロゲン原子よりなる群から選択される置換基を有していてもよいアリール基;又はアルキレン基を表し、
Lが水素原子またはアリール基の場合、Zで表される基は存在せず、
Lがアルキレン基の場合、Zは塩素原子;水酸基;アミノ基;スルホ基、カルボキシ基、水酸基、アルキル基及びアルコキシ基よりなる群から選択される置換基を有していても良いアニリノ基;ナフタレン環がスルホ基で置換されていても良いナフチルアミノ基;アルキル基上にスルホ基、カルボキシ基及び水酸基よりなる群から選択される置換基を有しても良いモノ−若しくはジ−アルキルアミノ基;アラルキルアミノ基;スルホ基、カルボキシ基、アセチルアミノ基、アミノ基及び水酸基よりなる群から選択される置換基を有していても良いフェノキシ基;スルホ基、カルボキシ基、水酸基、アルキル基、アルコキシ基よりなる群から選択される置換基を有してもよいフェニルチオ基;モノ−若しくはジ−アルキルアミノアルキルアミノ基;モルホリノ基;又はアルキル基上にスルホ基、カルボキシ基及び水酸基よりなる群から選択される置換基を有してもよいアルキルチオ基、
をそれぞれ表す。)
【請求項2】
1が水素原子又はメチル基を、R2は水素原子又はメトキシ基を、X及びYがそれぞれ独立に水素原子またはスルホ基で表される請求項1に記載のアントラピリドン化合物またはその塩
【請求項3】
1が水素原子又はメチル基を、R2は水素原子を、X及びYがそれぞれ独立に水素原子またはスルホ基で表される請求項1に記載のアントラピリドン化合物またはその塩
【請求項4】
1が水素原子又はメチル基を、
2は水素原子を、
X及びYはそれぞれ独立に水素原子またはスルホ基を、
Lは水素原子、又はC1〜C4アルキレン基を表し、
Lが水素原子の場合、Zで表される基は存在せず、
Lがアルキレン基の場合、Zは塩素原子;水酸基;アミノ基;スルホ基、カルボキシ基、水酸基、アルキル基、アルコキシ基よりなる群から選択される置換基を有していても良いアニリノ基;スルホ基、カルボキシ基、水酸基、アルキル基、アルコキシ基よりなる群から選択される置換基で置換されていてもよいフェニルチオ基;ナフタレン環がスルホ基で置換されていても良いナフチルアミノ基;アルキル基上にスルホ基、カルボキシ基及び水酸基よりなる群から選択される置換基を有しても良いモノ−若しくはジ−アルキルアミノ基;アラルキルアミノ基;又はアルキル基上にスルホ基、カルボキシ基及び水酸基よりなる群から選択される置換基を有してもよいアルキルチオ基、
で表される請求項1に記載のアントラピリドン化合物又はその塩
【請求項5】
1が水素原子又はメチル基を、
2は水素原子を、
X及びYはそれぞれ独立に水素原子またはスルホ基を、
Lは水素原子、又はメチレン基を表し、
Lが水素原子の場合、Zで表される置換基は存在せず、
Lがメチレン基の場合、Zは水酸基;アミノ基;スルホ基、カルボキシ基、水酸基、アルキル基及びアルコキシ基よりなる群から選択される置換基で置換されていても良いアニリノ基;スルホ基、カルボキシ基、水酸基、アルキル基、アルコキシ基よりなる群から選択される置換基で置換されていてもよいフェニルチオ基;ナフタレン環がスルホ基で置換されていても良いナフチルアミノ基;アルキル基上にスルホ基、カルボキシ基および水酸基よりなる群から選択される置換基を有しても良いモノ−若しくはジ−アルキルアミノ基;アラルキルアミノ基;又はアルキル基上にスルホ基、カルボキシ基および水酸基よりなる群から選択される置換基を有してもよいアルキルチオ基、
で表される請求項1に記載のアントラピリドン化合物またはその塩
【請求項6】
1が水素原子又はメチル基を、
2は水素原子又はメトキシ基を、
X及びYはそれぞれ独立に水素原子又はスルホ基を、
Lは水素原子、フェニル基又はメチレン基を表し、
Lが水素原子又はフェニル基の場合、Zで表される置換基は存在せず、
Lがメチレン基の場合、Zはスルホ基、カルボキシ基、水酸基、C1−C4アルキル基、C1−C4アルコキシ基よりなる群から選択される置換基を有してもよいフェニルチオ基;アルキル基上にスルホ基、カルボキシ基及び水酸基よりなる群から選択される置換基を有するモノ−(C1−C4)アルキルアミノ基;ベンジルアミノ基;又はアルキル基上にスルホ基を有するC1−C4アルキルチオ基、
で表される請求項1に記載のアントラピリドン化合物またはその塩
【請求項7】
1がメチル基を、
2は水素原子を、
X及びYはそれぞれ独立に水素原子またはスルホ基を、
Lは水素原子、又はメチレン基を表し、
Lが水素原子の場合、Zで表される置換基は存在せず、
Lがメチレン基の場合、Zはフェニル基上にカルボキシ基を有するフェニルチオ基;アルキル基上にスルホ基、カルボキシ基および水酸基よりなる群から選択される置換基を有するC1−C4アルキルチオ基、
で表される請求項1に記載のアントラピリドン化合物またはその塩
【請求項8】
請求項1乃至7に記載のアントラピリドン化合物又はその塩を含むことを特徴とするインクジェット用記録用インク組成物
【請求項9】
水溶性有機溶剤をさらに含有する請求項8に記載のインクジェット記録用インク組成物
【請求項10】
請求項1乃至7に記載のアントラピリドン化合物又はその塩中に含有される無機塩の含有量が、1重量%以下である請求項8又は9に記載のインクジェット記録用インク組成物
【請求項11】
請求項1乃至7に記載のアントラピリドン化合物の含有量が0.1〜20重量%である請求項8乃至10のいずれか一項に記載のインクジェット記録用インク組成物
【請求項12】
インク滴を記録信号に応じて吐出させて被記録材料に記録を行うインクジェット記録方法において、インクとして請求項8乃至11のいずれか一項に記載のインクジェット記録用インク組成物を使用することを特徴とするインクジェット記録方法
【請求項13】
被記録材料が情報伝達用シートである請求項12に記載のインクジェット記録方法
【請求項14】
情報伝達用シートが多孔性白色無機物を含有するインク受容層を有するシートである請求項13に記載のインクジェット記録方法
【請求項15】
請求項12乃至14のいずれか一項に記載のインクジェット記録方法により着色された着色体
【請求項16】
請求項8乃至11のいずれか一項に記載のインクジェット記録用インク組成物を含有する容器が装填されたインクジェットプリンタ

【公開番号】特開2008−202011(P2008−202011A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−42993(P2007−42993)
【出願日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【Fターム(参考)】