アンモニアボランの合成方法
アンモニアボランを合成する方法を提供する。本方法は、少なくとも1種のアミンボランをアンモニアと反応させることによってアンモニアボランを生成するステップを含む。アンモニアボランはNH3−BH3の化学式を有し、燃料電池のための可能性のある水素供給源を含む種々の応用において有用である水素貯蔵の良好な供給源である。本方法は、アンモニアボランを他の反応生成物から分離するステップをさらに含み得る。例示の方法は、約90%を超える純度を有するアンモニアボランを生成し得る。さらなる例において、本方法は約95%を超える、または約99%を超える純度を有するアンモニアボランを生成し得る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願への相互参照)
本願は、2006年4月3日に出願された、米国仮特許出願番号60/744,162
(発明の名称は「Methods for synthesizing ammonia borane」である)からの優先権を主張し、この出願の全体を完全に本明細書中に参考として援用する。
【背景技術】
【0002】
アンモニアボランは19.6%の水素を含有するので、水素貯蔵の良好な供給源を提供し得る。そのような水素貯蔵の供給源は、様々な応用に有用であり得る。例えば、水素貯蔵は、適切な改質装置とともに車両用燃料電池に使用され得る。近年、アンモニアボランを生成する方法は、非常に経費がかかり、工業生産にまで拡大することが困難であり得る。当技術分野においてアンモニアボランを生成する改良された方法に対するニーズが依然として存在する。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明の実施様態に従うと、アンモニアボランを合成する方法が提供される。本方法は、少なくとも1種のアミンボランをアンモニアと反応させることによってアンモニアボランを生成するステップを含み得る。このアミンボランは、
【0004】
【化3】
のうちの少なくとも1つから選択される構造を有する少なくとも1種のアミンボランから選択できる
[式中、
R1およびR2は、Hまたは置換もしくは非置換の、飽和もしくは不飽和の、芳香族もしくは非芳香族のC1〜C10アルキルを含み;
R3〜R7は、H、Cl、F、NO2、OR8または置換もしくは非置換の、飽和もしくは不飽和の、芳香族もしくは非芳香族のC1〜C10アルキルを含み、但し、アミンボランが
【0005】
【化4】
である場合、R3〜R7は各々Hではあり得ず;
R8は、Hまたは置換もしくは非置換の、飽和もしくは不飽和の、芳香族もしくは非芳香族のC1〜C10アルキルを含む]。
【0006】
いくつかの例において、このアミンボランは、ジメチルアニリンボラン、ジエチルアニリンボラン、フェニルモルホリンボランおよびルチジンボランから選択される。他の例において、このアミンボランは、ジメチルアニリンボランを含む。さらなる例において、この方法は、少なくとも1種のアミンボランを反応させるステップの前に、溶媒中に少なくとも1種のアミンボランを提供するステップをさらに含み得る。いくつかの例において、この溶媒はトルエン、ヘプタンおよびキシレンのうちの少なくとも1つから選択される。
【0007】
いくつかの実施様態において、少なくとも1種のアミンボランを反応させるステップは、ガスとしてアンモニアを提供し、アンモニアガスを溶液に通して起泡させることによってアンモニアボランを生成するステップを含む。他の実施様態において、本方法は、少なくとも1種のアミンボランを反応させるステップの後に、アンモニアボランを他の反応生成物および溶媒から分離するステップをさらに含む。いくつかの例において、本方法は溶媒中で他の反応生成物を反応させることによってアミンボランを生成し、前記他の反応生成物から生成された前記アミンボランをアンモニアと反応させることによってアンモニアボランを形成するステップをさらに含む。
【0008】
さらなる例において、他の反応生成物から分離されたアンモニアボランは、約90%、約95%、または約99%を超える純度を有する。他の例において、少なくとも1種のアミンボランを反応させるステップは、約85%を超える、または約95%を超えるアンモニアボランの収率を提供する。
【0009】
いくつかの実施様態において、アンモニアボランを合成する方法を提供する。この方法は、アミンボランをアンモニアガスと反応させることによってアンモニアボランを生成するステップを含む。この方法は、アミンボランを反応させるステップの前に、溶媒中にアミンボランを提供するステップをさらに含み得る。いくつかの例において、溶媒対アミンボランの比は約10:1より小さい。他の例において、溶媒対アミンボランの比は約1:1より小さい。さらなる例において、この溶媒は、トルエン、ヘプタンおよびキシレンのうちの少なくとも1つから選択される。
【0010】
これら実施様態は例示のみであり、本発明の範囲を制限するものではないことが理解される。
【0011】
本発明の実施様態の以下の詳細な説明は、以下の図と併せて読むと最もよく理解され得、ここで例えば同様の構造は同様の参照番号で示される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明を、本発明の特定の実施形態を時折参照して説明する。しかしながら本発明は、異なった形態で具体化され得、本明細書中で説明する実施様態に制限されると解釈されるべきではない。それどころか、これら実施様態は、この開示が徹底的かつ完全であり、当業者に本発明の範囲を完全に伝えるように提供される。
【0013】
他に定義されない限り、本明細書中に使用されるすべての技術および科学用語は、本発明が属する分野における通常の技術のうちの1つにより一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本発明の明細書中に使用される専門用語は、特定の実施様態を表すためのみであり、本発明の制限を意図するものではない。本発明の説明および添付の請求項の範囲に使用されるように、単数形「a」、「an」および「the」は、他に文脈が明らかに示さない限り、複数形もまた含むことを意図している。本明細書中に言及されるすべての刊行物、特許出願、特許および他の参考文献はその全体が参考として援用される。
【0014】
他に示されない限り、本明細書および請求項の中で使用される場合、分子量、反応条件などのような成分の量、特性を示すすべての数は、すべての場合において用語「約」により改変されると理解されるべきである。したがって、他に示されない限り、以下の明細書および請求項で説明される数値的特性は、本発明の実施様態で得ようとする所望の特性に依存して、変更され得る近似値である。広範囲にわたる本発明を説明する数値範囲およびパラメーターは近似的であるにも関わらず、特定の実施例に説明される数値は可能な限り正確に報告される。しかしながら、どの数値も本質的にそれぞれの測定において見出された誤差から生じる特定の誤差を必ず含む。
【0015】
アンモニアボランを合成する方法を提供する。アンモニアボランはNH3・BH3の化学式を有する。アンモニアボランは、種々の応用に有用であり得る。例えば、アンモニアボランは、燃料電池のための水素供給源として有用であり得る。
【0016】
本発明の実施様態に従うと、アンモニアボランを合成する方法が提供される。本方法は、少なくとも1種のアミンボランをアンモニアと反応させることによってアンモニアボランを生成するステップを含む。いくつかの例において、アミンボランは、
【0017】
【化5】
のうちの少なくとも1つから選択される構造を有し得る
[式中、
R1およびR2は、Hまたは置換もしくは非置換の、飽和もしくは不飽和の、芳香族もしくは非芳香族のC1〜C10アルキルを含み;
R3〜R7は、H、Cl、F、NO2、OR8または置換もしくは非置換の、飽和もしくは不飽和の、芳香族もしくは非芳香族のC1〜C10アルキルを含み、但し、アミンボランが
【0018】
【化6】
である場合、R3〜R7は各々Hではあり得ず;
R8は、Hまたは置換もしくは非置換の、飽和もしくは不飽和の、芳香族もしくは非芳香族のC1〜C10アルキルを含む]。
【0019】
いくつかの例において、R1およびR2は、置換または非置換の、飽和または不飽和の、芳香族または非芳香族のC1〜C6アルキルを含み得る。他の例において、R3〜R7は、置換または非置換の、飽和または不飽和の、芳香族または非芳香族のC1〜C6アルキルを含み得る。さらなる例において、R8は、置換または非置換の、飽和または不飽和の、芳香族または非芳香族のC1〜C6アルキルを含み得る。
【0020】
いくつかの例において、アミンボランは、アニリンボラン、N−メチルアニリンボラン、N,N−ジメチルアニリンボラン、N−エチルアニリンボラン、N,N−ジエチルアニリンボラン、N−ベンジルアニリンボラン、N,N−ジベンジルアニリンボラン、p−トルイジンボラン、m−トルイジンボラン、o−トルイジンボラン、p−クロロアニリンボラン、m−クロロアニリンボラン、o−クロロアニリンボラン、p−アニシジンボラン、m−アニシジンボラン、o−アニシジンボラン、p−ニトロアニリンボラン、m−ニトロアニリンボラン、o−ニトロアニリンボラン、ルチジンボラン、p−フルオロアニリンボラン、m−フルオロアニリンボラン、o−フルオロアニリンボラン、2−クロロ−4−アミノトルエンボラン、ジフェニルアミンボランおよびN−フェニルモルホリンボランのうちの少なくとも1つから選択される。1つのアミンボランまたは1種より多いアミンボランが本発明の方法で使用され得ることが理解される。アミンボランはまた、任意の適した供給源由来であり得ることが理解される。アミンボランは、購入または合成され得る。そのような合成方法は、当業者により理解される。例えば、アミンボランは、実施例3または実施例4に提供される手順により合成され得る。
【0021】
適した反応スキームの例は、以下に例示されるスキームを含む。
【0022】
【化7】
例えば、ジメチルアニリンボランをアンモニアと反応させて、以下に示すようなアンモニアボランを生成することができる。
(C6H5)(CH3)2N・BH3+NH3=(C6H5)(CH3)2N+NH3・BH3。
【0023】
他の例において、ジエチルアニリンボラン、フェニルモルホリンボランまたはルチジンボランは、アンモニアを反応させて、ジエチルアニリンおよびアンモニアボラン、フェニルモルホリンおよびアンモニアボラン、またはルチジンおよびアンモニアボランを形成することができる。
【0024】
いくつかの例において、アンモニアはアミンボランを通して起泡させるアンモニアガスの形態で提供される。本方法は、アミンボラン錯体を反応させるステップの後、アンモニアボランをアミン生成物のような他の反応生成物から分離するステップをさらに含み得る。この分離は、任意の適切な方法で実施され得ることが理解される。例えば、この分離は、アンモニアボラン固体を他の反応生成物から濾別し、洗浄し、その後アンモニアボランを乾燥させることにより実施され得る。他の実施様態において、本方法は、アミン生成物のような他の反応生成物を使用することによってアミンボランを生成するステップをさらに含む。アミンボランをさらにアンモニアと反応させて、アンモニアボランおよびアミン生成物を形成する。このアミン生成物の再利用は、1つより多い反応サイクルで実施され得る。反応サイクルにおけるこのアミン生成物の再利用は、アンモニアボランの収率を増加させ得ると考えられる。
【0025】
いくつかの例において、本方法はアミンボランをアンモニアと反応させるステップの前に、溶媒中にアミンボランを提供するステップをさらに含む。任意の適切な溶媒が使用され得ることが理解される。適切な溶媒の例として、トルエン、ヘプタンおよびキシレンが挙げられるがこれらに限定されない。この溶媒は、任意の適切な量で提供され得る。例えば、溶媒対アミンボラン錯体の比は、約10:1〜0:1の間であり得る。言い換えれば、溶媒は、溶媒不使用から、使用されるアミンボラン錯体の量の10倍の量の溶媒の使用まで変化する量で提供され得る。したがって、ある実施例において、適切な溶媒対アミンボランの比は、溶媒が使用されない場合の0:1から、溶媒対アミンボランの比が10:1より小さい場合の例まで変化し、この例はこれら2つの値の間にある任意の比を含む。他の実施例において、溶媒対アミンボランの比は、1:1より小さい。いくつかの例において、この溶媒はトルエン、ヘプタンまたはキシレンを含み得、アミンボランは、ジメチルアニリンボラン、ジエチルアニリンボラン、フェニルモルホリンボランまたはルチジンボランを含み得る。これらの例において、溶媒対錯体の比は、約1:1であり得る。
【0026】
他の例において、本方法はアミンボランをアンモニアと反応させるステップの後に、アンモニアボランをアミン生成物および溶媒から分離するステップをさらに含み得る。例えば、アンモニアボランは濾過によりアミンおよび溶媒から分離され得る。本発明の実施様態において、本方法は、アミン生成物などの他の生成物およびアンモニアボランを除去した後の溶媒を使用することによって、他の生成物および溶媒を再利用してアミンボラン反応物を生成するステップをさらに含み得る。このアミンボランおよび溶媒溶液は、次いで上記のようにアンモニアと反応され、アンモニアボランを生成する。アミン生成物および溶媒の再利用は、アンモニアボランの収率を改善し得ると考えられる。アミン生成物および溶媒は反応サイクルにおいて何度も再使用され得ると理解される。
【0027】
いくつかの例において、本方法は、約90%を超える純度を有するアンモニアボランを生成し得る。さらなる例において、本方法は、約95%を超える、または約99%を超える純度を有するアンモニアボランを生成し得る。例えば、トルエン中のジメチルアニリンのアンモニアガスとの反応は、約99%を超える純度を有するアンモニアボランを生成し得る。いくつかの例において、アミンボランはさらに大気中の水と反応して、ホウ酸を生成し得るが、この副反応はアミンボラン、溶媒および/または溶媒対アミンボランの比の適切な選択により制御され得る。例えば、約1:1の溶媒対錯体の比を有するヘプタン、トルエンまたはキシレン溶媒中のジメチルアニリンは、そのような反応を最小にする。いくつかの例において、この方法は約85%を超える収率のアンモニアボランを生成し得る。他の例において、本方法は、約95%を超える収率のアンモニアボランを生成し得る。
【0028】
本発明は、例証により制限なしに提供される以下の実施例を参照することにより、よりよく理解される。
【実施例】
【0029】
(実施例1)
ジメチルアニリンボランおよびアンモニアからのアンモニアボランの合成
すべてのジメチルアニリンが消費されるまで、30mlトルエン中の30mlジメチルアニリンボラン溶液(70mmolボランを含む)にアンモニアガスを起泡させた。この反応を以下のスキームにより進行した:
(C6H5)(CH3)2N・BH3+NH3=(C6H5)(CH3)2N+NH3・BH3
この反応を11B NMRスペクトルでモニターした。次いで、白色固体のアンモニアボランを濾過することにより、ジメチルアニリンおよびトルエンの除去を実施し、この固体をトルエンで3回洗浄した。この生成物を真空下乾燥し、92%の収率を得た。元素分析:NH3BH3の計算値:N:45.38、H:19.59;C:0.0、実測値:N:44.87;H:19.46;C:0.5より小さい。このアンモニアボラン生成物のNMRスペクトルを図1〜4に示す。
【0030】
(実施例2)
ジメチルアニリンボランおよびアンモニアからのアンモニアボランの合成ならびにジメチルアニリンおよびトルエンが繰り返し使用され得ることのさらなる立証
室温で撹拌しながら30mlのジメチルアニリンサンプル(236mmol、12%過剰)を20mlのジメチルスルフィドボラン(210mmol)に滴下により添加した。この溶液を40℃まで加熱し、ジメチルスルフィド(b.p.38℃)を蒸発させ、ジメチルアニリンボラン溶液を生成した。この溶液の11B NMRを図5に示す。次いで、30mlのトルエンを上の溶液と混合し、すべてのボランがアンモニアボランに変換されるまでアンモニアを混合物中に起泡させた。この反応を11B NMRスペクトルでモニターした。次いで、白色固体のアンモニアボランを濾過することによりジメチルアニリンおよびトルエンの除去を実施し、この固体をトルエンで3回洗浄した。この生成物を真空下で乾燥させ、90%の収率を得た。アンモニアボラン生成物のNMRスペクトルを図6〜9に示す。上の濾過溶液を20mlのジメチルスルフィドボラン(210mmol)に撹拌しながら室温で滴下により添加した。次いで、上の操作を繰り返し、アンモニアボランを99%の収率で生成した。アンモニアボラン生成物の11B NMRスペクトルを図10に示す。
【0031】
(実施例3)
ジメチルスルフィドボランからのジメチルアニリンボランの調製
ジメチルアニリンボランを以下のスキームによりジメチルスルフィドボランから調製した:
(CH3)2S・BH3+(C6H5)(CH3)2N=(C6H5)(CH3)2N・BH3+(CH3)2S
室温で撹拌しながら15mlのジメチルアニリン(118mmol、12%過剰)を10mlのジメチルスルフィドボラン(105mmol)に滴下により添加した。次いで、この溶液を40℃まで加熱し、ジメチルスルフィド(b.p.38℃)を蒸発させ、ジメチルアニリンボラン溶液を生成した。11B NMRは、少量のジメチルスルフィドボランが系中に残ったことを示した(図11を参照のこと)。
【0032】
(実施例4)
ジボランからのジメチルアニリンボランの調製
ジメチルアニリンボランを以下のスキームによりジボランから調製した:
2NaBH4+I2=B2H6+2NaI+H2
B2H6+2(C6H5)(CH3)2N=2(C6H5)(CH3)2N・BH3
DME(ジメトキシエタン)50ml中のヨウ素(50mmol)12.7gの溶液をDME50ml中NaBH4(100mmol)3.8gを含む反応フラスコに室温で窒素とともに系中を流れる大気圧で1時間中滴下により添加した。図12は、調製を実施するために使用される装置を示す。この反応で生成されるジボランおよび水素は、トルエン15ml中N,N−ジメチルアニリン(118mmol、18%過剰)15mlの溶液を含むフラスコNo1に水浴で撹拌下、窒素気流で実施し、ジメチルアニリンボランを生成した。窒素はフラスコNo1を通ってフラスコNo2に流れ、次いでフラスコNo3を通り、未反応のジボランとともに運ぶ。フラスコNo2およびNo3の内容物は、フラスコNo1の内容物と一致した。次いで窒素をフラスコNo1、2および3を通った可能性のある未反応のジボランを壊すアセトンを含むフラスコNo4中に流した。フラスコNo4からの排出液は、水銀バブラー管を通って放出された。生成されたジボランの反応収率は約70%である。この反応は100%に近いレベルで進行した。フラスコNo1のトルエン中のジメチルアニリンボラン溶液の11B NMRスペクトルを図13に示す。図14に示される11B NMRスペクトルはフラスコNo2に運ばれるジボランがなかったことを明らかにする。
【0033】
(実施例5)
ジメチルアニリンボランのアンモニアとの反応における溶媒の影響
4つの溶媒トルエン、ヘプタン、キシレンおよび石油エーテルをジメチルアニリンボランのアンモニアガスとの反応に関して試験した。この反応を実施例1で概説される手順により実施した。アミンおよび溶媒の比が1:1で維持される場合、列挙した以下の結果が得られた:トルエン、アンモニアボランの純正生成物(図1〜4を参照のこと);ヘプタン、純正生成物(図15を参照のこと);キシレン、アンモニアボランの純正生成物(図16を参照のこと);および石油エーテル、ジアンモニエートジボランの不純物が生成され、11B NMRスペクトルで観察される(図17を参照のこと)。
【0034】
(実施例6)
アミンボラン溶液における濃度の影響
ジメチルアニリンボランのみがNH3と反応する反応系においては、溶媒としてトルエンがなくても、溶媒対アミンボラン化合物のいかなる比でもジアンモニエートジボランの副生成物は、生成されないか最小である。
(C6H5)(CH3)2N・BH3+NH3=(C6H5)(CH3)2N+NH3・BH3
しかしながら、反応手順および反応後の生成物の単離に関してこの系においていくらかのトルエンを使用することが都合がよい。通常、ジメチルアニリンボランとトルエンの比は、約1:1である。
【0035】
しかしながら、ジエチルアニリンボランのアンモニアとの反応:
(C6H5)(CH2CH3)2N・BH3+NH3=(C6H5)(CH2CH3)2N+NH3・BH3
に関して、ジエチルアニリンボランとトルエンの比は、生成物の純度に影響を与え得る。この反応におけるトルエンに対するジエチルアニリンの比をまとめた以下の表を参照されたい。表中、DEBはジエチルアニリンボランを示し、Tolはトルエンを示す。
【0036】
【表1】
種々の変更が本発明の範囲から逸脱することなしになされ得、これは本明細書の記載を制限するものとみなされないことは当業者において明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】図1は、アンモニアボランの11B NMRスペクトルである。
【図2】図2は、アンモニアボランの11B{1H}NMRスペクトルである。
【図3】図3は、アンモニアボランの1H NMRスペクトルである。
【図4】図4は、アンモニアボランの1H{11B}NMRスペクトルである。
【図5】図5は、ジメチルアニリンボランの11B NMRスペクトルである。
【図6】図6は、アンモニアボランの11B NMRスペクトルである。
【図7】図7は、アンモニアボランの11B{1H}NMRスペクトルである。
【図8】図8は、アンモニアボランの1H NMRスペクトルである。
【図9】図9は、アンモニアボランの1H{11B}NMRスペクトルである。
【図10】図10は、ジメチルアニリンおよび溶媒トルエンを使用した2回めの再利用からのアンモニアボランの11B NMRスペクトルである。
【図11】図11は、ジメチルアニリンボラン11B NMRスペクトルである。
【図12】図12は、ジメチルアニリンボランの調製で使用される装置を示す図である。
【図13】図13は、ジメチルアニリンボランの11B NMRスペクトルである。
【図14】図14は、図6に図示された装置におけるフラスコNo.2の生成物の一部の11B NMRスペクトルである。
【図15】図15は、溶媒としてヘプタンを使用することにより調製されたアンモニアボランの11B NMRである。
【図16】図16は、溶媒としてキシレンを使用することにより調製されたアンモニアボランの11B NMRである。
【図17】図17は、溶媒として石油エーテルを使用することにより調製されたアンモニアボランの11B NMRである。
【図18】図18は、ジエチルアニリンボラン(DEB)を2ml/18ml(DEB/トルエン(TOL))の比で使用して調製されたアンモニアボランの11B NMRである。
【図19】図19は、ジエチルアニリンボランを3ml/17ml(DEB/TOL)の比で使用して調製されたアンモニアボランの11B NMRである。
【図20】図20は、ジエチルアニリンボランを5ml/15ml(DEB/TOL)の比で使用して調製されたアンモニアボランの11B NMRである。
【図21】図21は、純正ジエチルアニリンボランを使用して調製されたアンモニアボランの11B NMRである。
【技術分野】
【0001】
(関連出願への相互参照)
本願は、2006年4月3日に出願された、米国仮特許出願番号60/744,162
(発明の名称は「Methods for synthesizing ammonia borane」である)からの優先権を主張し、この出願の全体を完全に本明細書中に参考として援用する。
【背景技術】
【0002】
アンモニアボランは19.6%の水素を含有するので、水素貯蔵の良好な供給源を提供し得る。そのような水素貯蔵の供給源は、様々な応用に有用であり得る。例えば、水素貯蔵は、適切な改質装置とともに車両用燃料電池に使用され得る。近年、アンモニアボランを生成する方法は、非常に経費がかかり、工業生産にまで拡大することが困難であり得る。当技術分野においてアンモニアボランを生成する改良された方法に対するニーズが依然として存在する。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明の実施様態に従うと、アンモニアボランを合成する方法が提供される。本方法は、少なくとも1種のアミンボランをアンモニアと反応させることによってアンモニアボランを生成するステップを含み得る。このアミンボランは、
【0004】
【化3】
のうちの少なくとも1つから選択される構造を有する少なくとも1種のアミンボランから選択できる
[式中、
R1およびR2は、Hまたは置換もしくは非置換の、飽和もしくは不飽和の、芳香族もしくは非芳香族のC1〜C10アルキルを含み;
R3〜R7は、H、Cl、F、NO2、OR8または置換もしくは非置換の、飽和もしくは不飽和の、芳香族もしくは非芳香族のC1〜C10アルキルを含み、但し、アミンボランが
【0005】
【化4】
である場合、R3〜R7は各々Hではあり得ず;
R8は、Hまたは置換もしくは非置換の、飽和もしくは不飽和の、芳香族もしくは非芳香族のC1〜C10アルキルを含む]。
【0006】
いくつかの例において、このアミンボランは、ジメチルアニリンボラン、ジエチルアニリンボラン、フェニルモルホリンボランおよびルチジンボランから選択される。他の例において、このアミンボランは、ジメチルアニリンボランを含む。さらなる例において、この方法は、少なくとも1種のアミンボランを反応させるステップの前に、溶媒中に少なくとも1種のアミンボランを提供するステップをさらに含み得る。いくつかの例において、この溶媒はトルエン、ヘプタンおよびキシレンのうちの少なくとも1つから選択される。
【0007】
いくつかの実施様態において、少なくとも1種のアミンボランを反応させるステップは、ガスとしてアンモニアを提供し、アンモニアガスを溶液に通して起泡させることによってアンモニアボランを生成するステップを含む。他の実施様態において、本方法は、少なくとも1種のアミンボランを反応させるステップの後に、アンモニアボランを他の反応生成物および溶媒から分離するステップをさらに含む。いくつかの例において、本方法は溶媒中で他の反応生成物を反応させることによってアミンボランを生成し、前記他の反応生成物から生成された前記アミンボランをアンモニアと反応させることによってアンモニアボランを形成するステップをさらに含む。
【0008】
さらなる例において、他の反応生成物から分離されたアンモニアボランは、約90%、約95%、または約99%を超える純度を有する。他の例において、少なくとも1種のアミンボランを反応させるステップは、約85%を超える、または約95%を超えるアンモニアボランの収率を提供する。
【0009】
いくつかの実施様態において、アンモニアボランを合成する方法を提供する。この方法は、アミンボランをアンモニアガスと反応させることによってアンモニアボランを生成するステップを含む。この方法は、アミンボランを反応させるステップの前に、溶媒中にアミンボランを提供するステップをさらに含み得る。いくつかの例において、溶媒対アミンボランの比は約10:1より小さい。他の例において、溶媒対アミンボランの比は約1:1より小さい。さらなる例において、この溶媒は、トルエン、ヘプタンおよびキシレンのうちの少なくとも1つから選択される。
【0010】
これら実施様態は例示のみであり、本発明の範囲を制限するものではないことが理解される。
【0011】
本発明の実施様態の以下の詳細な説明は、以下の図と併せて読むと最もよく理解され得、ここで例えば同様の構造は同様の参照番号で示される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明を、本発明の特定の実施形態を時折参照して説明する。しかしながら本発明は、異なった形態で具体化され得、本明細書中で説明する実施様態に制限されると解釈されるべきではない。それどころか、これら実施様態は、この開示が徹底的かつ完全であり、当業者に本発明の範囲を完全に伝えるように提供される。
【0013】
他に定義されない限り、本明細書中に使用されるすべての技術および科学用語は、本発明が属する分野における通常の技術のうちの1つにより一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本発明の明細書中に使用される専門用語は、特定の実施様態を表すためのみであり、本発明の制限を意図するものではない。本発明の説明および添付の請求項の範囲に使用されるように、単数形「a」、「an」および「the」は、他に文脈が明らかに示さない限り、複数形もまた含むことを意図している。本明細書中に言及されるすべての刊行物、特許出願、特許および他の参考文献はその全体が参考として援用される。
【0014】
他に示されない限り、本明細書および請求項の中で使用される場合、分子量、反応条件などのような成分の量、特性を示すすべての数は、すべての場合において用語「約」により改変されると理解されるべきである。したがって、他に示されない限り、以下の明細書および請求項で説明される数値的特性は、本発明の実施様態で得ようとする所望の特性に依存して、変更され得る近似値である。広範囲にわたる本発明を説明する数値範囲およびパラメーターは近似的であるにも関わらず、特定の実施例に説明される数値は可能な限り正確に報告される。しかしながら、どの数値も本質的にそれぞれの測定において見出された誤差から生じる特定の誤差を必ず含む。
【0015】
アンモニアボランを合成する方法を提供する。アンモニアボランはNH3・BH3の化学式を有する。アンモニアボランは、種々の応用に有用であり得る。例えば、アンモニアボランは、燃料電池のための水素供給源として有用であり得る。
【0016】
本発明の実施様態に従うと、アンモニアボランを合成する方法が提供される。本方法は、少なくとも1種のアミンボランをアンモニアと反応させることによってアンモニアボランを生成するステップを含む。いくつかの例において、アミンボランは、
【0017】
【化5】
のうちの少なくとも1つから選択される構造を有し得る
[式中、
R1およびR2は、Hまたは置換もしくは非置換の、飽和もしくは不飽和の、芳香族もしくは非芳香族のC1〜C10アルキルを含み;
R3〜R7は、H、Cl、F、NO2、OR8または置換もしくは非置換の、飽和もしくは不飽和の、芳香族もしくは非芳香族のC1〜C10アルキルを含み、但し、アミンボランが
【0018】
【化6】
である場合、R3〜R7は各々Hではあり得ず;
R8は、Hまたは置換もしくは非置換の、飽和もしくは不飽和の、芳香族もしくは非芳香族のC1〜C10アルキルを含む]。
【0019】
いくつかの例において、R1およびR2は、置換または非置換の、飽和または不飽和の、芳香族または非芳香族のC1〜C6アルキルを含み得る。他の例において、R3〜R7は、置換または非置換の、飽和または不飽和の、芳香族または非芳香族のC1〜C6アルキルを含み得る。さらなる例において、R8は、置換または非置換の、飽和または不飽和の、芳香族または非芳香族のC1〜C6アルキルを含み得る。
【0020】
いくつかの例において、アミンボランは、アニリンボラン、N−メチルアニリンボラン、N,N−ジメチルアニリンボラン、N−エチルアニリンボラン、N,N−ジエチルアニリンボラン、N−ベンジルアニリンボラン、N,N−ジベンジルアニリンボラン、p−トルイジンボラン、m−トルイジンボラン、o−トルイジンボラン、p−クロロアニリンボラン、m−クロロアニリンボラン、o−クロロアニリンボラン、p−アニシジンボラン、m−アニシジンボラン、o−アニシジンボラン、p−ニトロアニリンボラン、m−ニトロアニリンボラン、o−ニトロアニリンボラン、ルチジンボラン、p−フルオロアニリンボラン、m−フルオロアニリンボラン、o−フルオロアニリンボラン、2−クロロ−4−アミノトルエンボラン、ジフェニルアミンボランおよびN−フェニルモルホリンボランのうちの少なくとも1つから選択される。1つのアミンボランまたは1種より多いアミンボランが本発明の方法で使用され得ることが理解される。アミンボランはまた、任意の適した供給源由来であり得ることが理解される。アミンボランは、購入または合成され得る。そのような合成方法は、当業者により理解される。例えば、アミンボランは、実施例3または実施例4に提供される手順により合成され得る。
【0021】
適した反応スキームの例は、以下に例示されるスキームを含む。
【0022】
【化7】
例えば、ジメチルアニリンボランをアンモニアと反応させて、以下に示すようなアンモニアボランを生成することができる。
(C6H5)(CH3)2N・BH3+NH3=(C6H5)(CH3)2N+NH3・BH3。
【0023】
他の例において、ジエチルアニリンボラン、フェニルモルホリンボランまたはルチジンボランは、アンモニアを反応させて、ジエチルアニリンおよびアンモニアボラン、フェニルモルホリンおよびアンモニアボラン、またはルチジンおよびアンモニアボランを形成することができる。
【0024】
いくつかの例において、アンモニアはアミンボランを通して起泡させるアンモニアガスの形態で提供される。本方法は、アミンボラン錯体を反応させるステップの後、アンモニアボランをアミン生成物のような他の反応生成物から分離するステップをさらに含み得る。この分離は、任意の適切な方法で実施され得ることが理解される。例えば、この分離は、アンモニアボラン固体を他の反応生成物から濾別し、洗浄し、その後アンモニアボランを乾燥させることにより実施され得る。他の実施様態において、本方法は、アミン生成物のような他の反応生成物を使用することによってアミンボランを生成するステップをさらに含む。アミンボランをさらにアンモニアと反応させて、アンモニアボランおよびアミン生成物を形成する。このアミン生成物の再利用は、1つより多い反応サイクルで実施され得る。反応サイクルにおけるこのアミン生成物の再利用は、アンモニアボランの収率を増加させ得ると考えられる。
【0025】
いくつかの例において、本方法はアミンボランをアンモニアと反応させるステップの前に、溶媒中にアミンボランを提供するステップをさらに含む。任意の適切な溶媒が使用され得ることが理解される。適切な溶媒の例として、トルエン、ヘプタンおよびキシレンが挙げられるがこれらに限定されない。この溶媒は、任意の適切な量で提供され得る。例えば、溶媒対アミンボラン錯体の比は、約10:1〜0:1の間であり得る。言い換えれば、溶媒は、溶媒不使用から、使用されるアミンボラン錯体の量の10倍の量の溶媒の使用まで変化する量で提供され得る。したがって、ある実施例において、適切な溶媒対アミンボランの比は、溶媒が使用されない場合の0:1から、溶媒対アミンボランの比が10:1より小さい場合の例まで変化し、この例はこれら2つの値の間にある任意の比を含む。他の実施例において、溶媒対アミンボランの比は、1:1より小さい。いくつかの例において、この溶媒はトルエン、ヘプタンまたはキシレンを含み得、アミンボランは、ジメチルアニリンボラン、ジエチルアニリンボラン、フェニルモルホリンボランまたはルチジンボランを含み得る。これらの例において、溶媒対錯体の比は、約1:1であり得る。
【0026】
他の例において、本方法はアミンボランをアンモニアと反応させるステップの後に、アンモニアボランをアミン生成物および溶媒から分離するステップをさらに含み得る。例えば、アンモニアボランは濾過によりアミンおよび溶媒から分離され得る。本発明の実施様態において、本方法は、アミン生成物などの他の生成物およびアンモニアボランを除去した後の溶媒を使用することによって、他の生成物および溶媒を再利用してアミンボラン反応物を生成するステップをさらに含み得る。このアミンボランおよび溶媒溶液は、次いで上記のようにアンモニアと反応され、アンモニアボランを生成する。アミン生成物および溶媒の再利用は、アンモニアボランの収率を改善し得ると考えられる。アミン生成物および溶媒は反応サイクルにおいて何度も再使用され得ると理解される。
【0027】
いくつかの例において、本方法は、約90%を超える純度を有するアンモニアボランを生成し得る。さらなる例において、本方法は、約95%を超える、または約99%を超える純度を有するアンモニアボランを生成し得る。例えば、トルエン中のジメチルアニリンのアンモニアガスとの反応は、約99%を超える純度を有するアンモニアボランを生成し得る。いくつかの例において、アミンボランはさらに大気中の水と反応して、ホウ酸を生成し得るが、この副反応はアミンボラン、溶媒および/または溶媒対アミンボランの比の適切な選択により制御され得る。例えば、約1:1の溶媒対錯体の比を有するヘプタン、トルエンまたはキシレン溶媒中のジメチルアニリンは、そのような反応を最小にする。いくつかの例において、この方法は約85%を超える収率のアンモニアボランを生成し得る。他の例において、本方法は、約95%を超える収率のアンモニアボランを生成し得る。
【0028】
本発明は、例証により制限なしに提供される以下の実施例を参照することにより、よりよく理解される。
【実施例】
【0029】
(実施例1)
ジメチルアニリンボランおよびアンモニアからのアンモニアボランの合成
すべてのジメチルアニリンが消費されるまで、30mlトルエン中の30mlジメチルアニリンボラン溶液(70mmolボランを含む)にアンモニアガスを起泡させた。この反応を以下のスキームにより進行した:
(C6H5)(CH3)2N・BH3+NH3=(C6H5)(CH3)2N+NH3・BH3
この反応を11B NMRスペクトルでモニターした。次いで、白色固体のアンモニアボランを濾過することにより、ジメチルアニリンおよびトルエンの除去を実施し、この固体をトルエンで3回洗浄した。この生成物を真空下乾燥し、92%の収率を得た。元素分析:NH3BH3の計算値:N:45.38、H:19.59;C:0.0、実測値:N:44.87;H:19.46;C:0.5より小さい。このアンモニアボラン生成物のNMRスペクトルを図1〜4に示す。
【0030】
(実施例2)
ジメチルアニリンボランおよびアンモニアからのアンモニアボランの合成ならびにジメチルアニリンおよびトルエンが繰り返し使用され得ることのさらなる立証
室温で撹拌しながら30mlのジメチルアニリンサンプル(236mmol、12%過剰)を20mlのジメチルスルフィドボラン(210mmol)に滴下により添加した。この溶液を40℃まで加熱し、ジメチルスルフィド(b.p.38℃)を蒸発させ、ジメチルアニリンボラン溶液を生成した。この溶液の11B NMRを図5に示す。次いで、30mlのトルエンを上の溶液と混合し、すべてのボランがアンモニアボランに変換されるまでアンモニアを混合物中に起泡させた。この反応を11B NMRスペクトルでモニターした。次いで、白色固体のアンモニアボランを濾過することによりジメチルアニリンおよびトルエンの除去を実施し、この固体をトルエンで3回洗浄した。この生成物を真空下で乾燥させ、90%の収率を得た。アンモニアボラン生成物のNMRスペクトルを図6〜9に示す。上の濾過溶液を20mlのジメチルスルフィドボラン(210mmol)に撹拌しながら室温で滴下により添加した。次いで、上の操作を繰り返し、アンモニアボランを99%の収率で生成した。アンモニアボラン生成物の11B NMRスペクトルを図10に示す。
【0031】
(実施例3)
ジメチルスルフィドボランからのジメチルアニリンボランの調製
ジメチルアニリンボランを以下のスキームによりジメチルスルフィドボランから調製した:
(CH3)2S・BH3+(C6H5)(CH3)2N=(C6H5)(CH3)2N・BH3+(CH3)2S
室温で撹拌しながら15mlのジメチルアニリン(118mmol、12%過剰)を10mlのジメチルスルフィドボラン(105mmol)に滴下により添加した。次いで、この溶液を40℃まで加熱し、ジメチルスルフィド(b.p.38℃)を蒸発させ、ジメチルアニリンボラン溶液を生成した。11B NMRは、少量のジメチルスルフィドボランが系中に残ったことを示した(図11を参照のこと)。
【0032】
(実施例4)
ジボランからのジメチルアニリンボランの調製
ジメチルアニリンボランを以下のスキームによりジボランから調製した:
2NaBH4+I2=B2H6+2NaI+H2
B2H6+2(C6H5)(CH3)2N=2(C6H5)(CH3)2N・BH3
DME(ジメトキシエタン)50ml中のヨウ素(50mmol)12.7gの溶液をDME50ml中NaBH4(100mmol)3.8gを含む反応フラスコに室温で窒素とともに系中を流れる大気圧で1時間中滴下により添加した。図12は、調製を実施するために使用される装置を示す。この反応で生成されるジボランおよび水素は、トルエン15ml中N,N−ジメチルアニリン(118mmol、18%過剰)15mlの溶液を含むフラスコNo1に水浴で撹拌下、窒素気流で実施し、ジメチルアニリンボランを生成した。窒素はフラスコNo1を通ってフラスコNo2に流れ、次いでフラスコNo3を通り、未反応のジボランとともに運ぶ。フラスコNo2およびNo3の内容物は、フラスコNo1の内容物と一致した。次いで窒素をフラスコNo1、2および3を通った可能性のある未反応のジボランを壊すアセトンを含むフラスコNo4中に流した。フラスコNo4からの排出液は、水銀バブラー管を通って放出された。生成されたジボランの反応収率は約70%である。この反応は100%に近いレベルで進行した。フラスコNo1のトルエン中のジメチルアニリンボラン溶液の11B NMRスペクトルを図13に示す。図14に示される11B NMRスペクトルはフラスコNo2に運ばれるジボランがなかったことを明らかにする。
【0033】
(実施例5)
ジメチルアニリンボランのアンモニアとの反応における溶媒の影響
4つの溶媒トルエン、ヘプタン、キシレンおよび石油エーテルをジメチルアニリンボランのアンモニアガスとの反応に関して試験した。この反応を実施例1で概説される手順により実施した。アミンおよび溶媒の比が1:1で維持される場合、列挙した以下の結果が得られた:トルエン、アンモニアボランの純正生成物(図1〜4を参照のこと);ヘプタン、純正生成物(図15を参照のこと);キシレン、アンモニアボランの純正生成物(図16を参照のこと);および石油エーテル、ジアンモニエートジボランの不純物が生成され、11B NMRスペクトルで観察される(図17を参照のこと)。
【0034】
(実施例6)
アミンボラン溶液における濃度の影響
ジメチルアニリンボランのみがNH3と反応する反応系においては、溶媒としてトルエンがなくても、溶媒対アミンボラン化合物のいかなる比でもジアンモニエートジボランの副生成物は、生成されないか最小である。
(C6H5)(CH3)2N・BH3+NH3=(C6H5)(CH3)2N+NH3・BH3
しかしながら、反応手順および反応後の生成物の単離に関してこの系においていくらかのトルエンを使用することが都合がよい。通常、ジメチルアニリンボランとトルエンの比は、約1:1である。
【0035】
しかしながら、ジエチルアニリンボランのアンモニアとの反応:
(C6H5)(CH2CH3)2N・BH3+NH3=(C6H5)(CH2CH3)2N+NH3・BH3
に関して、ジエチルアニリンボランとトルエンの比は、生成物の純度に影響を与え得る。この反応におけるトルエンに対するジエチルアニリンの比をまとめた以下の表を参照されたい。表中、DEBはジエチルアニリンボランを示し、Tolはトルエンを示す。
【0036】
【表1】
種々の変更が本発明の範囲から逸脱することなしになされ得、これは本明細書の記載を制限するものとみなされないことは当業者において明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】図1は、アンモニアボランの11B NMRスペクトルである。
【図2】図2は、アンモニアボランの11B{1H}NMRスペクトルである。
【図3】図3は、アンモニアボランの1H NMRスペクトルである。
【図4】図4は、アンモニアボランの1H{11B}NMRスペクトルである。
【図5】図5は、ジメチルアニリンボランの11B NMRスペクトルである。
【図6】図6は、アンモニアボランの11B NMRスペクトルである。
【図7】図7は、アンモニアボランの11B{1H}NMRスペクトルである。
【図8】図8は、アンモニアボランの1H NMRスペクトルである。
【図9】図9は、アンモニアボランの1H{11B}NMRスペクトルである。
【図10】図10は、ジメチルアニリンおよび溶媒トルエンを使用した2回めの再利用からのアンモニアボランの11B NMRスペクトルである。
【図11】図11は、ジメチルアニリンボラン11B NMRスペクトルである。
【図12】図12は、ジメチルアニリンボランの調製で使用される装置を示す図である。
【図13】図13は、ジメチルアニリンボランの11B NMRスペクトルである。
【図14】図14は、図6に図示された装置におけるフラスコNo.2の生成物の一部の11B NMRスペクトルである。
【図15】図15は、溶媒としてヘプタンを使用することにより調製されたアンモニアボランの11B NMRである。
【図16】図16は、溶媒としてキシレンを使用することにより調製されたアンモニアボランの11B NMRである。
【図17】図17は、溶媒として石油エーテルを使用することにより調製されたアンモニアボランの11B NMRである。
【図18】図18は、ジエチルアニリンボラン(DEB)を2ml/18ml(DEB/トルエン(TOL))の比で使用して調製されたアンモニアボランの11B NMRである。
【図19】図19は、ジエチルアニリンボランを3ml/17ml(DEB/TOL)の比で使用して調製されたアンモニアボランの11B NMRである。
【図20】図20は、ジエチルアニリンボランを5ml/15ml(DEB/TOL)の比で使用して調製されたアンモニアボランの11B NMRである。
【図21】図21は、純正ジエチルアニリンボランを使用して調製されたアンモニアボランの11B NMRである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種のアミンボランをアンモニアと反応させることによってアンモニアボランを生成するステップを含む、アンモニアボランを合成する方法であって、アミンボランが:
【化1】
のうちの少なくとも1つから選択される構造を有する少なくとも1種のアミンボランから選択される、方法
[式中、
R1およびR2は、Hまたは置換もしくは非置換の、飽和もしくは不飽和の、芳香族もしくは非芳香族のC1〜C10アルキルを含み;
R3〜R7は、H、Cl、F、NO2、OR8または置換もしくは非置換の、飽和もしくは不飽和の、芳香族もしくは非芳香族のC1〜C10アルキルを含み、但し、アミンボランが
【化2】
である場合、R3〜R7は各々Hではあり得ず;
R8は、Hまたは置換もしくは非置換の、飽和もしくは不飽和の、芳香族もしくは非芳香族のC1〜C10アルキルを含む]。
【請求項2】
前記アミンボランがジメチルアニリンボラン、ジエチルアニリンボラン、フェニルモルホリンボランおよびルチジンボランから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アミンボランがジメチルアニリンボランを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1種のアミンボランを反応させるステップの前に、溶媒中に該少なくとも1種のアミンボランを提供するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記溶媒がトルエン、ヘプタンおよびキシレンのうちの少なくとも1つから選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記アミンボランがジメチルアニリンボランを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1種のアミンボランを反応させるステップが、ガスとしてアンモニアを提供し、アンモニアガスを溶液に通して起泡させることによってアンモニアボランを生成するステップを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記少なくとも1種のアミンボランを反応させるステップの後に、アンモニアボランを他の反応生成物および溶媒から分離するステップをさらに含む、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
溶媒中で他の反応生成物を反応させることによってアミンボランを生成し、該他の反応生成物から生成された該アミンボランをアンモニアと反応させることによってアンモニアボランを形成するステップをさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
他の反応生成物から分離された前記アンモニアボランが約90%を超える純度を有する、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
他の反応生成物から分離された前記アンモニアボランが約95%を超える純度を有する、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
他の反応生成物から分離された前記アンモニアボランが約99%を超える純度を有する、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記少なくとも1種のアミンボランを反応させるステップが約85%を超えるアンモニアボランの収率を提供する、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
少なくとも1つの反応物を反応させるステップが約95%を超えるアンモニアボランの収率を提供する、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
ジメチルアニリンをアンモニアガスと反応させることによってアンモニアボランを生成するステップを含む、アンモニアボランを合成する方法。
【請求項16】
ジメチルアニリンを反応させるステップの前に、溶媒中にジメチルアニリンを提供するステップをさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
溶媒対ジメチルアニリンの比が約1:1である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記溶媒がトルエン、ヘプタンおよびキシレンのうちの少なくとも1つから選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項1】
少なくとも1種のアミンボランをアンモニアと反応させることによってアンモニアボランを生成するステップを含む、アンモニアボランを合成する方法であって、アミンボランが:
【化1】
のうちの少なくとも1つから選択される構造を有する少なくとも1種のアミンボランから選択される、方法
[式中、
R1およびR2は、Hまたは置換もしくは非置換の、飽和もしくは不飽和の、芳香族もしくは非芳香族のC1〜C10アルキルを含み;
R3〜R7は、H、Cl、F、NO2、OR8または置換もしくは非置換の、飽和もしくは不飽和の、芳香族もしくは非芳香族のC1〜C10アルキルを含み、但し、アミンボランが
【化2】
である場合、R3〜R7は各々Hではあり得ず;
R8は、Hまたは置換もしくは非置換の、飽和もしくは不飽和の、芳香族もしくは非芳香族のC1〜C10アルキルを含む]。
【請求項2】
前記アミンボランがジメチルアニリンボラン、ジエチルアニリンボラン、フェニルモルホリンボランおよびルチジンボランから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アミンボランがジメチルアニリンボランを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1種のアミンボランを反応させるステップの前に、溶媒中に該少なくとも1種のアミンボランを提供するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記溶媒がトルエン、ヘプタンおよびキシレンのうちの少なくとも1つから選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記アミンボランがジメチルアニリンボランを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1種のアミンボランを反応させるステップが、ガスとしてアンモニアを提供し、アンモニアガスを溶液に通して起泡させることによってアンモニアボランを生成するステップを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記少なくとも1種のアミンボランを反応させるステップの後に、アンモニアボランを他の反応生成物および溶媒から分離するステップをさらに含む、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
溶媒中で他の反応生成物を反応させることによってアミンボランを生成し、該他の反応生成物から生成された該アミンボランをアンモニアと反応させることによってアンモニアボランを形成するステップをさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
他の反応生成物から分離された前記アンモニアボランが約90%を超える純度を有する、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
他の反応生成物から分離された前記アンモニアボランが約95%を超える純度を有する、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
他の反応生成物から分離された前記アンモニアボランが約99%を超える純度を有する、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記少なくとも1種のアミンボランを反応させるステップが約85%を超えるアンモニアボランの収率を提供する、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
少なくとも1つの反応物を反応させるステップが約95%を超えるアンモニアボランの収率を提供する、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
ジメチルアニリンをアンモニアガスと反応させることによってアンモニアボランを生成するステップを含む、アンモニアボランを合成する方法。
【請求項16】
ジメチルアニリンを反応させるステップの前に、溶媒中にジメチルアニリンを提供するステップをさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
溶媒対ジメチルアニリンの比が約1:1である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記溶媒がトルエン、ヘプタンおよびキシレンのうちの少なくとも1つから選択される、請求項16に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公表番号】特表2009−532469(P2009−532469A)
【公表日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−504246(P2009−504246)
【出願日】平成19年4月2日(2007.4.2)
【国際出願番号】PCT/US2007/008160
【国際公開番号】WO2007/120511
【国際公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【出願人】(502042458)ザ オハイオ ステイト ユニバーシティ (4)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年4月2日(2007.4.2)
【国際出願番号】PCT/US2007/008160
【国際公開番号】WO2007/120511
【国際公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【出願人】(502042458)ザ オハイオ ステイト ユニバーシティ (4)
【Fターム(参考)】
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