アンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体
アンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ突然変異体およびその製造方法を開示する。5’−キサンチル酸アミナーゼのグルタミン酸分解位置に突然変異を導入することにより、グルタミン分解能力を欠いており且つ外部のアンモニアと特異的に反応して5’−キサンチル酸を5’−グアニル酸に転換させることが可能な5’−キサンチル酸アミナーゼ突然変異体を製造する。その結果、アンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ突然変異体は、野生型に比べて細胞内でより安定し、5’−キサンチル酸の5’−グアニル酸への転換に有用に活用できる。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔技術分野〕
本発明は、向上した活性の5’−キサンチル酸(XMP)アミナーゼ変異体の製造方法、その方法によって製造された5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体、およびその変異体を用いて5’−グアニル酸(GMP)を向上した収率で製造する方法に関し、さらに詳しくは、アンモニアに特異的に反応する5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体の製造方法、その方法によって製造されたアンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体、およびそのアンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体を用いて高収率で5’−グアニル酸を製造する方法に関する。
【0002】
〔背景技術〕
5’−グアニル酸(GMP)は、5’−イノシン酸(IMP)と共に食品調味添加剤として広く用いられている物質である。5’−グアニル酸は、そのままで茸の味を出すものと知られているが、主にグルタミン酸1ナトリウム(MSG)の風味を強化するものと知られている。このような性質は、特に5’−イノシン酸と共に使われるときに強く現れる。
【0003】
これまで知られている5’−グアニル酸の製造方法としては、(1)酵母細胞から抽出したリボ核酸(RNA)を酵素学的に分解する方法、(2)微生物発酵法で5’−グアニル酸を直接発酵させる方法、(3)微生物発酵法で生産したグアノシンを化学的にリン酸化させる方法、(4)微生物発酵法で生産したグアノシンを酵素的方法でリン酸化させる方法、(5)微生物発酵法で生産した5’−キサンチル酸をコリネ型微生物を用いて5’−グアニル酸に転換する方法、または(6)微生物発酵法で生産した5’−キサンチル酸を大腸菌を用いて5’−グアニル酸に転換させる方法を挙げることができる。これらの中でも、(1)の方法は原料需給および経済性に問題があり、(2)の方法はGMPの細胞膜透過性の問題によって収率が低いという欠点がある。このような理由で、これら以外の方法が工業的に主に用いられている。
【0004】
前記(5)および(6)の方法でのように、5’−キサンチル酸を5’−グアニル酸に転換させるときに5’−キサンチル酸アミナーゼという酵素が関与するが、この酵素のメカニズムは次の通りである(Pantel et al. (1975), J. Biol. Sci., 250(7), 2609-2613)。
【0005】
1)5’−キサンチル酸+ATP+NH3 → GMP+AMP+PPi
↑
5’−キサンチル酸アミナーゼ
2)5’−キサンチル酸+ATP+L-グルタミン → GMP+AMP+PPi+L-グルタミン ↑
5’−キサンチル酸アミナーゼ
5’−キサンチル酸アミナーゼは、グルタミンアミドトランスフェラーゼ(glutamine amidotrasnferase)の一種である。グルタミンアミドトランスフェラーゼは、グルタミンのγ−アミド部位を加水分解してアンモニアを発生させ、これをアミノ酸、核酸、糖、補酵素などに重合反応を経て導入する。グルタミンアミドトランスフェラーゼの対象物質は非常に多様であるが、グルタミンを加水分解してアンモニアを得る方式は進化的によく保存されてきた。グルタミンアミドトランスフェラーゼはさらにclassIとclassIIに分けられるが、classIの場合はアントラニル酸シンダーゼ(anthranilate synthase)、カルバモイルリン酸シンテターゼ(carbamoyl phosphate synthetase)、CTPシンテターゼ、ホルミルグリシンアミジンシンテターゼ(formylglycinamidine synthetase)、5’−キサンチル酸アミナーゼ、イミダゾールグリセロールリン酸シンターゼ(Imidazole glycerol phosphate synthase)、アミノデオキシコリスミ酸シンターゼ(aminodeoxychorismate synthase)、p−アミノベンゾ酸シンターゼ(p-aminobenzoate synthase)などを含む。これらは共にグルタミンの他に外部のアンモニアをアミン供与体(amine donor)として用いることができる(Cell MoI. Life Sci. 54, 205- 222, 1998)。この際、アンモニアは、グルタミンから遊離されたアンモニアが基質に伝達される方式とは異なり、トランスフェラーゼに直接伝達されるものと思われる。
【0006】
タンパク質の構造という面において、5’−キサンチル酸アミナーゼは、グルタミンを分解するグルタミナーゼ活性を持つドメインと、トランスフェラーゼ活性を持つドメインによく区別されている(Nat. Str. Biol. 3(1), 74- 86, 1996)。グルタミナーゼの活性を持っているN−ターミナルドメインの場合は、よく研究されたカルバミルリン酸シンテターゼ(carbamyl phosphate synthetase)と構造的に類似である。また、グルタミナーゼの活性は主にシステイン、ヒスチジン、グルタミン酸の活性トライアッド(catalytic traid)によって得られる。これはシステインプロテアーゼのメカニズムと類似である(Cell MoI. Life Sci. 54, 205-222, 1998)。特に、大腸菌では、アミノ酸配列86番目のシステイン、181番目のヒスチジン、183番目のグルタミン酸が活性トライアッドを成す。グルタミナーゼとしてのメカニズムを詳細に考察すると、活性部位のシステインとグルタミンがγ−グルタミルチオエステル(g-glutamyl thioester)を形成し、ヒスチジン塩基として作用して加水分解することにより、グルタミンをグルタミン酸とアンモニアに分離する(Fukuyama et al. Biochemistry 3, 1448-1492, 1964; von der Saal et al. Biochemistry 24, 5343-5350, 1985)。得られたアンモニアは、酵素に形成されたチャネルを介して5’−キチサンチル酸を5’−グアニル酸に転換させる反応に参与する(Raushel et al. Biochemistry, 38(25), 7891-7899, 1999)。
【0007】
アンモニアを用いた5’−キチサンチル酸アミナーゼの5’−キサンチル酸の5’−グアニル酸への転換反応は、L−グルタミンを用いた反応とはメカニズム的に同一であるが、現象的には多くの差異がある。両方の基質に対する5’−キサンチル酸アミナーゼの適正pHは、8.3と同一であるが、L−グルタミンを用いる場合には2倍以上の活性を示す(Pantel et al. (1975), J. Biol. Sci., 250(7), 2609-2613)。このような差異は反応pHを中性に持っていくほどさらに大きく開けられるが、これは、実際細胞内における反応は溶液上のアンモニア(NH3)を使用することなくL−グルタミンを用いて5’−キサンチル酸を5’−グアニル酸に転換させるという事実を示す。
【0008】
一方、システインに反応するスルフヒドリル試薬(sulfhydryl reagent)としてのヨードアセトアミド(Iodoacetamide)とグルタミン誘導体としてのクロロケトンまたはアシビシン(acivicine)などを5’−キチサンチル酸アミナーゼに処理すると、L−グルタミンによる活性は減少する一方で、アンモニアによる活性は維持されることが分かる。これは、グルタミナーゼ活性部位のシステインがグルタミンを用いる5’−キサンチル酸アミナーゼの活性には必須的であるが、アンモニアを用いる5’−キサンチル酸アミナーゼの活性には必須的でないことを示唆する(Zalkin and Truitt, J. Biol. Sci. 252(15), 5431-5436, 1977; Massiere and Badet-Denisot, Cell Mol. Life Sci. 54, 205-222, 1998)。
【0009】
5’−キサンチル酸アミナーゼと同一のクラスであるアントラニル酸シンターゼの場合、保存されたシステインをグリシンで置換した場合、グルタミンを用いた活性を示さないが、アンモニアによる活性は影響を受けないことが報告された(Paluh et al., J. Biol. Chem. 260, 1889-8601, 1985)。また、p−アミノベンゾ酸シンターゼの場合においても、保存されたシステインをセリンで置換した場合、γ−グルタミルチオエステルの生成が弱化し、p−アミノベンゾ酸合成中間体であるアミノデオキシコリスミ酸の生成が減少することが報告された(Roux et al., Biochemistry, 32, 3763-3768, 1993)。カルバモイルリン酸シンテターゼの場合、保存されたシステインをセリンまたはグリシンで置換する場合、グルタミンを用いた活性を示していない(Rubino et al., J. Biol. Chem., 261, 11320-11327, 1986)。
【0010】
通常、野生型の酵素は、細胞に適するように進化してきたため、実際産業的に利用される場合、活性が低くて適しない結果を示すことが多い。これを克服するために一般に使用する方法は、酵素の遺伝子をクローニングし、これを用いて過発現させる方法である。5’−キチサンチル酸アミナーゼの場合、最近の論文『Biosci. Biotech. Biochem. 61(5), 840-845, 1997』によれば、野生の大腸菌から得られた5’−キサンチル酸アミナーゼ遺伝子(guaA)を誘導発現プラスミドにクローニングして過発現させた後、これを用いて5’−キサンチル酸から5’−グアニル酸を生産することを発表した。
【0011】
野生型菌株の発現を強化させる他の方法として、薬剤耐性を用いて当該遺伝子の発現を増大させる大腸菌野生株からデコイニン(decoyinine)耐性を持つ突然変異菌株を介して5’−キチサンチル酸アミナーゼの活性を増大させる方法も報告されたことがある(韓国特許公開第2000−0040840号)。
【0012】
一般に用いられる誘導発現ベクターの場合、IPTGなどの高価の発現誘導体を要求するため、産業的に大量のタンパク質が要求される場合に適しないことが多い。これを克服するために、常時発現ベクターシステム(constitutive expression system)が要求される。常時発現ベクターシステムは、多数が報告されており、特に核酸を発酵させる菌株として知られているコリネバクテリウムアンモニアゲネス(Corynebacterium ammoniagenes)においても新規の常時発現プロモータが開発された(韓国特許出願第2004−107215号)。常時発現システムの場合は、発現誘導体の導入なしで、宿主の培養期間の間、導入されたタンパク質を持続的に発現させるので有用である。ところが、導入されたタンパク質の過発現が宿主細胞の生長に影響を及ぼす場合は、細胞の生長が中止されるか、或いは細胞に導入されたベクターが除去され、その結果として低い発現率を示す。5’−キサンチル酸アミナーゼの場合にもこのような現象が報告されている(Biosci. Biotech. Biochem. 61(5), 840-845, 1997)。
【0013】
本発明者らは、5’−キサンチル酸アミナーゼの常時的過発現において細胞の生長が中止されるか或いはベクターが除去される現象が常時的過発現による細胞の毒性に起因するものと判断し、これを効率よく減少させる方法として、5’−キサンチル酸アミナーゼのグルタミナーゼの活性を抑制する方法を考えた。前述したように、5’−キサンチル酸アミナーゼは細胞内でL−グルタミンを用いて5’−キサンチル酸を5’−グアニル酸に転換させるため、L−グルタミナーゼの活性を抑制した5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体は、細胞内では活性を最小化して細胞に対する毒性を減少させることができる。この際、L−グルタミナーゼの活性が抑制されても、アンモニアに対する活性は変性されないため、産業的に5’−キサンチル酸を5’−グアニル酸に効率よく転換させることができる。本発明者らは、5’−キサンチル酸アミナーゼの生化学的メカニズムに対する綿密な検討を介して、グルタミナーゼの活性を抑制したアンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼを開発し、これにより培養液上の5’−キチサンチル酸アミナーゼの活性が増進されることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0014】
〔発明の開示〕
したがって、本発明の目的は、野生型または活性が増進された5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体にアンモニア特異的な性質を与えることにより、活性が増進されたアンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体を提供することにある。
【0015】
本発明の他の目的は、前記活性が増進されたアンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体の製造方法を提供することにある。
【0016】
本発明の別の目的は、前記アンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体をコードする核酸分子を提供することにある。
【0017】
本発明の別の目的は、前記アンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体を発現させる核酸分子を含む発現ベクターを提供することにある。
【0018】
本発明の別の目的は、前記発現ベクターで形質転換された形質転換体を提供することにある。
【0019】
本発明の別の目的は、前記アンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体を用いて5’−キサンチル酸を5’−グアニル酸に転換させる方法を提供することにある。
【0020】
〔発明を実施するための最良の様態〕
一つの様態として、本発明は、活性が増進されたアンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体を提供する。前記アンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体は、好ましくは大腸菌由来の野生型5’−キサンチル酸アミナーゼまたはその活性が増進された変異体から製造できる。
【0021】
具体的に、大腸菌由来の野生型5’−キサンチル酸アミナーゼ、およびそのランダム突然変異によって活性が増進された5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体に、それぞれアンモニア特異的な性質を与えるための部位指定変異導入(site-directed mutagenesis)を行うことにより、アンモニア特異的な性質を有し且つ活性が増進された大腸菌由来のアンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体を製造することができる。
【0022】
このため、具体的な実施において、本発明者は、まず、大腸菌K12由来の5’−キサンチル酸アミナーゼをコードする1578bpの遺伝子(配列番号1)を含むベクターを製造した後、これを鋳型として突然変異誘発型重合酵素連鎖反応(error-prone PCR)を行った。これからランダムに突然変異が導入された5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体DNAを得た。その後、5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体を発現させることに適した発現ベクターに前記変異体DNAを接合させた後、これを用いて5’−キサンチル酸アミナーゼ遺伝子が欠乏している大腸菌を形質転換させて突然変異ライブラリを製作した。
【0023】
5’−キサンチル酸アミナーゼ遺伝子が欠乏している大腸菌の場合、5’−キサンチル酸アミナーゼの活性を持っている変異体を持つベクターによって形質転換された場合にのみ成長が可能であるため、突然変異ライブラリから活性のある5’−キサンチル酸アミナーゼ突然変異のみが得られる。
【0024】
突然変異ライブラリから成長した大腸菌の中から、高活性の5’−キサンチル酸アミナーゼ突然変異を持っているベクターで形質転換された大腸菌を選別するために、98ウェルマイクロプレートで5’−キサンチル酸を5’−グアニル酸に転換させる反応を行った。前記反応後の吸光度合いを比較して、活性が増進された5’−キサンチル酸アミナーゼを生産する大腸菌を選別した。
【0025】
活性が増進された5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体遺伝子の塩基配列は、公知の方法によって決定した。これから由来した5’−キサンチル酸アミナーゼの塩基配列を野生型の5’−キサンチル酸アミナーゼの塩基配列と比較した場合、それぞれ2個、2個、4個、4個、3個および6個のアミノ酸が変換された新規のアミノ酸配列を持つタンパク質であることを確認し、これらをそれぞれ「5’−キサンチル酸アミナーゼG3」、「5’−キサンチル酸アミナーゼF12」、「5’−キサンチル酸アミナーゼF63」、「5’−キサンチル酸アミナーゼG3−1」、「5’−キサンチル酸アミナーゼF12−1」、および「5’−キサンチル酸アミナーゼF63−1」と命名した。
【0026】
各変異体のアミノ酸配列の変化を具体的に説明すると、G3の場合は52番目および91番目のアミノ酸配列がそれぞれシステインおよびトレオニンで置換された変異体(配列番号4)であり、F12の場合は93番目および152番目のアミノ酸配列がそれぞれバリンおよびプロリンで置換された変異体(配列番号6)であり、F63の場合は93番目、113番目、191番目および467番目のアミノ酸配列がそれぞれバリン、アラニン、トレオニンおよびグリシンで置換された変異体(配列番号8)であることを確認することができた。G3−1の場合は52番目、191番目、253番目、および454番目のアミノ酸配列がそれぞれシステイン、トレオニン、アルギニン、およびイソロイシンで置換された変異体(配列番号10)であり、F12−1の場合は93番目、152番目、および454番目のアミノ酸配列がそれぞれバリン、プロリン、およびイソロイシンで置換された変異体(配列番号12)であり、F63−1の場合は93番目、100番目、113番目、191番目、454番目、および467番目のアミノ酸配列がそれぞれバリン、イソロイシン、アラニン、トレオニン、イソロイシン、およびグリシンで置換された変異体(配列番号14)であることを確認することができた。
【0027】
続いて、本発明者らは、アンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼを製造するために、前述した大腸菌由来の5’−キサンチル酸アミナーゼの野生型およびこれから由来した前記活性が増進された突然変異体のうちG3−1、F12−1、およびF63−1にそれぞれ、グルタミナーゼ活性部位に存在する86番目のシステインを部位指定変異導入によってアラニンで置換した。前記部位指定変異導入によって製造された突然変異体をそれぞれG1C(配列番号16)、G3C(配列番号18)、F12C(配列番号20)、およびF63C(配列番号22)と命名した。前記塩基変異は、通常の塩基配列決定法によって決定した。その結果、製造された変異体は、グルタミンはアミン供与体として効率的に利用することができず、外部のアンモニアのみをアミン供与体として利用することができることを確認した。
【0028】
したがって、本発明は、好適な一様態として、配列番号16、18、20または22のアミノ酸配列を持つアンモニア特異的5’−キサンチル酸変異体を提供する。
【0029】
本発明の実施例では、配列番号16、18、20または22のアミノ酸配列を持つアンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体の製造方法およびその活性のみを開示したが、これらの実施例に記載したものと同様の方法によって、前記配列番号4、6または8のアミノ酸配列を持つ、活性が増進された5’−キサンチル酸アミナーゼにもアンモニア特異的性質を与えることにより、活性が増進されたアンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼの変異体を製造することができることを、当業者であれば十分理解できるであろう。
【0030】
一方、本実施例では、5’−キサンチル酸アミナーゼの86番位置のシステインをアラニンで置換した例のみを開示したが、公知の分子生物学的方法による部位指定変異を介して他のアミノ酸、例えばセリンまたはグリシンなどを導入する場合にもアンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼを得ることができるのは、当業者であれば十分分かるであろう。
【0031】
ひいては、本発明に係るアンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体は、前述した配列番号16、18、20または22のアミノ酸配列を持つタンパク質だけでなく、このような変異体タンパク質と機能的に同等な程度の活性を示すことが可能なその等価物を含む。本願において、用語「機能的等価物」とは、本発明のアンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体のアミノ酸配列と少なくとも一つのアミノ酸残基が欠失、挿入、非保全的または保全的置換、またはこれらの組み合わせによって相異なる配列を持つが、同様にアンモニア特異的性質を有し且つ同等な程度の活性を有する5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体の活性を示すタンパク質を意味する。分子の活性を全体的に変更させないタンパク質およびペプチドにおけるアミノ酸交換は、当該分野に公知になっている(H. Neurath, R. L. Hill, The Proteins, Academic Press, New York, 1979)。
【0032】
後述するように、本発明に係るアンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体は、常時発現システムを用いて発現させたとき、反応液当りの活性が野生型に比べて5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体G1Cの活性は1.6倍、G3Cは1.4倍、F12Cは1.67倍、そしてF63Cは1.45倍の活性が増加することを確認することができるので、これらのアンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体は5’−グアニル酸の生成に効率よく利用できるであろう。
【0033】
本発明に係るアンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体は、合成(Merrifield, J. Amer. Chem. Soc. 85:2149-2156, 1963)またはDNA配列を基本とする組み換え方法によって製造できる(Sambrook et al., Molecular Cloning, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York, USA, 2ndEd., 1989)。遺伝子組み換え技術を利用する場合、アンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体をコードする核酸を適切な発現ベクターに挿入し、組み換え発現ベクターを宿主細胞に軽質転換してアンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体が発現されるように宿主細胞を培養した後、宿主細胞からアンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体を回収する過程によって収得することができる。
【0034】
したがって、別の好適な様態として、本発明は、活性が増進されたアンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体を製造する方法を提供する。具体的に、本発明は、5’−キサンチル酸アミナーゼのグルタミナーゼ活性を抑制することにより、グルタミナーゼの活性が除去された5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体が細胞内では活性を最小化して細胞に対する毒性が減少しながらも、アンモニアに対する活性は変性されないため、5’−キサンチル酸を5’−グアニル酸に効率よく転換させることが可能なアンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体の製造方法を提供する。
【0035】
好適な様態において、本発明は、大腸菌由来の5’−キサンチル酸アミナーゼのグルタミナーゼ活性部位に存在する86番目のシステインを部位指定変異導入法(site-directed mutagenesis)によって相異なるアミノ酸で代替することにより、代替された86番位置のアミノ酸と183番位置のグルタミン酸がγ−グルタミンチオエステルを形成しないためグルタミナーゼ活性が抑制され、アンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体を製造する方法を提供する。さらに好適な様態において、本発明に係るアンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体の製造方法は、大腸菌由来の5’−キサンチル酸アミナーゼの86番のシステインをアラニンで置換することを含む。
【0036】
特に好適な様態において、本発明に係るアンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体の製造方法は、大腸菌由来の野生型5’−キサンチル酸アミナーゼまたはその活性が増進された変異体から製造されることを特徴とする。
【0037】
さらに特に好適な様態において、本発明に係るアンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体は、大腸菌由来の野生型5’−キサンチル酸アミナーゼまたは本発明の具体的な実施例によって製造される配列番号4、6、8、10、12または14のアミノ酸配列を持つ大腸菌由来の活性が増進された5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体の86番のシステイン残基をアラニンで置換させることにより製造する方法を提供する。
【0038】
別の様態において、本発明は、アンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体をコードする核酸分子に関する。
【0039】
好適な様態として、本発明の具体的な実施例によって製造される配列番号16のアンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体G1Cは配列番号15の核酸分子によってコードされ、配列番号18のアンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体G3Cは配列番号17の核酸分子によってコードされ、配列番号20のアンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体F12Cは配列番号19の核酸分子によってコードされ、配列番号22のアンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体F63Cは配列番号21の核酸分子によってコードされる。このような核酸分子の配列は、単鎖または二重鎖であってもよく、DNA分子または配列上のチミン(T)がウラシルで置換されたRNA(mRNA)分子であってもよい。
【0040】
本発明のアンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体をコードする核酸配列は、これを発現するベクターによって提供されてタンパク質として発現できる。
【0041】
別の様態において、本発明は、前述したアンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体をコードする核酸分子を含む発現ベクターに関する。
【0042】
本発明において、「発現ベクター」とは、適当な宿主細胞で目的タンパク質を発現することが可能なベクターであって、遺伝子挿入物が発現されるように作動可能に連結された必須的な調節要素を含む遺伝子作製物をいう。
【0043】
本発明において、用語「作動可能に連結された(operably linked)」は、一般的な機能を行うように、核酸発現調節配列と、目的のタンパク質をコードする核酸配列とが機能的に連結されていることをいう。例えば、プロモータと、タンパク質をコードする核酸配列とが作動可能に連結され、コードする核酸配列の発現に影響を及ぼすことができる。組み換え発現ベクターとの作動的連結は、当該技術分野でよく知られている遺伝子組み換え技術を用いて実現することができ、部位特異的DNAの切断および連結は、当該技術分野で一般に知られている酵素などを使用する。発現ベクターに用いられるプロモータとしては、例えば宿主が大腸菌の場合にはtrcプロモータ、trpプロモータ、lacプロモータ、recAプロモータ、λPLプロモータ、lppプロモータ、T7プロモータなどが、宿主がバシラス属菌の場合にはSP01プロモータ、SP02プロモータ、penPプロモータなどが好ましい。開始コドンおよび終結コドンは、遺伝子作製物が投与されたときに個体で必ず作用を示さなければならず、コーディング配列とインフレーム(in frame)にあるべきである。発現ベクターはベクター含有の宿主細胞を選択するための選択性マーカーを含み、複製可能な発現ベクターは複製起源を含むことができる。
【0044】
本発明の具体的な実施では、アンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体の遺伝子を含む発現ベクターpCJ1−G1C、pCJ1−G3C、pCJ1−F12C、およびpCJ1−F63Cを製作した。これらの製作されたベクターの概要を図13〜図16に示した。これらの発現ベクターをそれぞれ大腸菌DH5αに導入し、最終的に形質転換された大腸菌を収得した。前記形質転換体をそれぞれ「Escherichia coli DH5α/pCJ1-G1C」、「Escherichia coli DH5α/pCJ1-G3C」、「Escherichia coliDH5α/pCJ1-F12C」、および「Escherichia coliDH5α/pCJ1-F63C」と命名し、これらの菌体を2005年12月2日付で韓国種菌協会にそれぞれ寄託番号KCCM−10715P、KCCM−10717P、KCCM−10721PおよびKCCM−10720で寄託した。別の様態において、本発明は前述した発現ベクターで形質転換された形質転換体に関する。
【0045】
形質転換は、核酸分子を有機体、細胞、組織または器官に導入するいずれの方法も含み、当分野で公知になっているように宿主細胞に応じて適した標準技術を選択して行うことができる。このような方法には、エレクトロポレーション(electroporation)、原形質融合、リン酸カルシウム(CaPO4)沈殿、塩化カルシウム(CaCl2)沈殿、炭化ケイ素繊維を用いた攪拌、アグロバクテリア媒介形質転換、PEG、硫酸デキストラン、リポフェクタミンなどを含むが、これらに限定されない。
【0046】
本発明のアンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体を発現する発現ベクターで形質転換される宿主細胞によってタンパク質の発現量と修飾などが異なるので、目的に最も適した宿主細胞を選択して使用すればよい。宿主細胞としては原核細胞が好ましく、例えば大腸菌(Escherichia coli)、バシラスサブチリス(Bacillus subtilis)、ストレプトマイセス(Streptomyces)、シュードモナス(Pseudomonas)、プロテウスミラビリス(Proteus mirabilis)またはスタフィロコッカス(Staphylococcus)などの原核宿主細胞があるが、これらに限定されない。
【0047】
また、真菌(例えば、アスペルギルス(Aspergillus))、酵母(例えば、ピキアパストリス(Pichia pastoris)、サッカロミセスセレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセス(Schizosaccharomyces)、アカパンカビ(Neurospora crassa))などの下等真核細胞なども用いることができる。
【0048】
別の様態において、本発明は、前述した形質転換体を培養した後、これから5’−キサンチル酸アミナーゼの変異タンパク質を分離する段階を含む、5’−キサンチル酸アミナーゼの変異体を製造する方法に関する。
【0049】
本発明のアンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体を発現する発現ベクターで形質転換された宿主細胞(形質転換体)の培養は、目的タンパク質であるアンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体の発現を可能にする適切な条件の下で行う。このような条件は、当業者に公知の方法によって行うことができる。
【0050】
宿主細胞で発現させたタンパク質は、通常の方式で精製することができ、例えば、塩析(例えば、硫酸アンモニウム沈殿、リン酸ナトリウム沈殿)、溶媒沈殿(例えばアセトン、エタノールなどを用いたタンパク質分画沈殿)、透析、ゲル濾過、イオン交換、逆相カラムクロマトグラフィーなどのカラムクロマトグラフィーおよび限外濾過などの技法を単独でまたは組み合わせて適用し、本発明のアンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体タンパク質を精製することができる。
【0051】
以下、本発明の好適な実施例について説明する。これらの実施例は本発明をより具体的に説明するためのもので、本発明の範囲を限定するものではない。
【0052】
実施例1:5’−キサンチル酸アミナーゼ突然変異ライブラリの構築
5’−キサンチル酸アミナーゼの遺伝子に突然変異誘発型重合酵素連鎖反応(error-prone PCR)を行ってランダムな突然変異を誘発することにより、多様な5’−キサンチル酸アミナーゼ突然変異を次のように製造した。
【0053】
まず、大腸菌に由来した1,578bpの5’−キサンチル酸アミナーゼ遺伝子(配列番号1)を、trcプロモータを有し且つ大腸菌で増幅可能な複製起源を持つ発現ベクターpTrc99aに作動可能に連結した組み換えプラスミドpG1を製作し、これを突然変異誘発型重合酵素連鎖反応の鋳型として準備した。突然変異誘発型重合酵素連鎖反応に使用されたプライマーは、配列番号23のN末端プライマーと配列番号24のC末端プライマーを使用した。これは大腸菌に由来した5’−キサンチル酸アミナーゼ遺伝子の塩基配列に基づいて合成した。
【0054】
配列番号23:5’CGCGAATTCATGACGGAAAACATTCATAA3’
配列番号24:5’CTAGTCTAGATCATTCCCACTCAATGGT3’
PCR反応液は、それぞれ0.4mMの前記N−プライマーおよびC−プライマー、鋳型として前記組み換えプラスミドpG1 5ng、10mMトリス緩衝液(Tris−HCl、pH8.3)、50mM KCl、7mM MgCl2、0.1m MnCl2、0.2mM dATP、0.2mM dGTP、1mM dCTP、1mM dTTPおよびTaq重合酵素の5酵素単位を含むように50mLを調製した。PCRは、94℃で1分、50℃で1分および72℃で1分の反応を1サイクルとしてこれを25サイクル行い、最後に72℃で7分の反応を行った。
【0055】
前述したように増幅されたPCR産物は、寒天ゲル電気泳動法によって分離し、増幅分離されたDNA断片を制限酵素EcoRIとHindIIIで切断した後、5’−キサンチル酸アミナーゼ発現ベクターとして有用なpTrc99aに接合させて組み換えプラスミドを製作した。前記製作された突然変異遺伝子を含有するベクターを大腸菌BW(guaA knock−out菌株)に導入して5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体ライブラリを製作した。guaA遺伝子が除去された菌株の大腸菌BWは、通常の分子生物学的方法によって得られた(Datsenko KA, 2000, Proc. Natl. Acad. Sci., 97(12), 6640-6645)。
【0056】
実施例2:5’−キサンチル酸アミナーゼの変異体の探索
実施例1で製造された5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体のライブラリを0.5%バクトトリプトン、1%酵母抽出物、1%NaCl、1.5%寒天および0.2mM IPTGを含むLB平板培地に塗抹した。次いで、成長した大腸菌コロニーをディープウェルマイクロプレート(deep well microplate)内のLB培地で培養した後、細胞の成長度合いに応じて100mLに希釈した。各ウェルにキシレン5mLを添加し、37℃で30分間処理した後、42℃で予熱した基質混合物を100mL添加し、42℃で20分間反応させた。基質混合物は30mM XMP、13mM ATP、16mM MgSO4・7H2O、40mM(NH4)2SO4を16mMのTrizma HCl緩衝液(pH8.6)に溶かした反応液である。3.5%の過塩素酸800mLを添加して反応を終了させた後、200mLをUV測定用96ウェルプレートに移して波長290nmにおける吸光度を測定した。5’−グアニル酸の生成量を測定し、酵素活性を比較して、活性が増進された5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体を持つ大腸菌JM105形質転換体を獲得した。
【0057】
前記探索過程によって得られた5’−キサンチル酸アミナーゼ突然変異遺伝子を持つプラスミドpG3、および野生型の5’−キサンチル酸アミナーゼ遺伝子を持つプラスミドpG1に対して適切な制限酵素処理およびライゲーションを行い、実施例1と同様の条件で突然変異誘発型PCRを行った後、前記活性比較スクリーニング法によって、活性が親酵素に比べて増進された遺伝子を持つプラスミドpF12、pF63、pCJ−G3−1、pCJ−F12−1およびpCJ−F63−1を得た。
【0058】
前記実施例1と実施例2に記述された、活性が増進された5’−キサンチル酸アミナーゼの変異体を製造する過程を図1に概略的に示した。
【0059】
実施例2で製造された5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体のライブラリ規模および変異体に対する記述を表1にまとめた。
【0060】
【表1】
【0061】
実施例3:5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体を暗号化する遺伝子の塩基配列
実施例1および2で製造された5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体の遺伝子配列は、Applied Biosystem社のautomatic sequencer ABI3730xlを用いて決定した。それぞれの塩基配列は配列番号3(G3)、配列番号5(F12)、配列番号7(F63)、配列番号9(G3−1)、配列番号11(F12−1)、および配列番号13(F63−1)と確認されたところ、それぞれのアミノ酸配列を推定して配列番号4(G3)、配列番号6(F12)、配列番号8(F63)、配列番号10(G3−1)、配列番号12(F12−1)および配列番号14(F63−1)で表した。また、前記G3、F12、F63、G3−1、F12−1およびF63−1をそれぞれ含むプラスミド地図を図3〜図8にそれぞれ示した。
【0062】
前記pG3に含まれた高活性の5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体であるG3遺伝子の塩基配列からG3のアミノ酸配列を推定し、これを配列番号4で表した。また、pF12に含まれた高活性の5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体であるF12遺伝子の塩基配列からF12のアミノ酸配列を推定し、これを配列番号6で表した。同様に、pF63に含まれた高活性の5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体であるF63遺伝子の塩基配列からF63のアミノ酸配列を推定し、これを配列番号8で表した。また、pG3−1に含まれた高活性の5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体であるG3−1遺伝子の塩基配列からG3−1のアミノ酸配列を推定し、これを配列番号10で表した。また、pCJ−F12−1に含まれた高活性の5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体であるF12−1遺伝子の塩基配列からF12−1のアミノ酸配列を推定し、これを配列番号12で表した。同様に、pCJ−F63−1に含まれた高活性の5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体であるF63−1遺伝子の塩基配列からF63−1のアミノ酸配列を推定し、これを配列番号14で表した。
【0063】
本発明の高活性5’−キサンチル酸アミナーゼであるG3、F12、F63、G3−1、F12−1およびF63−1のアミノ酸配列を配列番号2の野生型5’−キサンチル酸アミナーゼのアミノ酸配列と比較する場合、それぞれ2個、2個、4個、4個、3個および6個のアミノ酸が置換されて新規のアミノ酸配列を持つタンパク質であることを確認することができた。
【0064】
すなわち、G3の場合は52番目および191番目のアミノ酸配列がそれぞれシステインおよびトレオニンで、F12の場合は93番目および152番目のアミノ酸配列がそれぞれバリンおよびプロリンで、F63の場合は93番目、113番目、191番目および467番目のアミノ酸配列がそれぞれバリン、アラニン、トレオニンおよびグリシンで置換されたことを確認することができ、G3−1の場合は52番目、191番目、153番目および454番目のアミノ酸配列がそれぞれシステイン、トレオニン、アルギニンおよびイソロイシンで、F12−1の場合は93番目、152番目および454番目のアミノ酸配列がそれぞれバリン、プロリンおよびイソロイシンで、F63−1の場合は93番目、100番目、113番目、191番目、454番目および467番目のアミノ酸配列がそれぞれバリン、イソロイシン、アラニン、トレオニン、イソロイシンおよびグリシンで置換されたことを確認することができた。
【0065】
上述したアミノ酸配列および活性測定探索法によって、本発明のG3、F12、F63、G3−1、F12−1およびF63−1は、アミノ酸配列が既存の大腸菌5’−キサンチル酸アミナーゼとは相異するうえ、高活性を持つ新規の5’−キサンチル酸アミナーゼと判断することができる。
【0066】
実施例4:5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体の常時発現ベクターの製造
前記得られた高活性の5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体を常時発現ベクターを用いて発現させるために、下記の過程を行った。
【0067】
5’−キサンチル酸アミナーゼ野生型および変異体の遺伝子を、CJ1プロモータを有し、且つ大腸菌とコリネバクテリウムアンモニアゲネスで増幅可能な複製起源を有する常時発現ベクターpECG117−CJ1に作動可能に連結した組み換えプラスミドを製作した。突然変異誘発型重合酵素連鎖反応を行った。突然変異誘発型重合酵素連鎖反応に使用されたプライマーは、配列番号25のN−末端プライマー(guaA−f)と配列番号26のC−末端プライマー(guaA−r)を使用した。これは大腸菌由来の5’−キサンチル酸アミナーゼ遺伝子の塩基配列に基づいて合成した。
【0068】
配列番号25:5’ACGTGCCGGCATGACGGAAAACATTCATAAGC3’
配列番号26:5’ACGTGGATCCTCATTCCCACTCAATGGTAGC3’
PCR反応液は、それぞれ0.4mMの前記N−プライマーおよびC−プライマー、鋳型としてpG1、pCJ−G3−1、pCJ−F12−1およびpCJ−F63−1それぞれ5ng、10mMトリス緩衝液(Tris−HCl、pH8.3)、50mM KCl、7mM MgCl2、0.2mM dATP、0.2mM dGTP、0.2mM dCTP、0.2mM dTTPおよびPfu重合酵素の5酵素単位を含むように50mLを調製した。PCRは、94℃で1分、50℃で1分および72℃で1分の反応を1サイクルとしてこれを25サイクル行い、最後に72℃で5分の反応を行った。
【0069】
前述したように増幅されたPCR産物は、寒天ゲル電気泳動法によって分離した。増幅分離されたDNA断片を制限酵素NaeIとBamHIで切断した後、5’−キサンチル酸アミナーゼ発現ベクターとして有用なpECG117−CJ1に接合させて組み換えプラスミドを製作した(図2)。前記5’−キサンチル酸アミナーゼの野生型および変異体を含む発現ベクターをそれぞれpCJ1−G1(野生型)、pCJ1−G3−1、pCJ1−F12−1およびpCJ−F63−1と命名し、前記製作されたベクターの概要を図9〜図12に示した。
【0070】
実施例5:アンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼの製造
5’−キサンチル酸アミナーゼの野生型および前記実施例で得た高活性の5’−キサンチル酸突然変異体を用いてアンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体を製造するために、これらタンパク質の86番目のシステインをアラニンに特異的に変異させるためのプライマーを製作し、これを配列番号27および配列番号28で表した。
【0071】
配列番号27:5’CCGGTATTCGGCGTTGCATATGGCATGCAGACCATG3’
配列番号28:5’CATGGTCTGCATGCCATATGCAACGCCGAATACCGG3’
前記プライマーの存在下で、部位指定変異導入を、Stratagene社のQuickChangeII XL Site−Directed Mutagenesis kitを用いて、製造社から提供された手続によって行った。得られたコロニーからプラスミドを公知の方法によって抽出し、これを用いて塩基配列を決定した。これにより、5’−キサンチル酸アミナーゼ野生型および前記変異体の突然変異を維持し、さらに86番目のシステインがアラニンで置換された新規の5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体を得た。これらをそれぞれG1C、G3C、F12C、およびF63Cと命名した。
【0072】
所望の位置に正確な変異を獲得したかを評価するために、5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体の遺伝子の配列をApplied Biosystem社のautomatic sequencer ABI3730xlを用いて決定した。それぞれの塩基配列は配列番号15(G1C)、配列番号17(G3C)、配列番号19(F12C)、および配列番号21(F63C)と確認されたところ、それぞれのアミノ酸配列を推定して配列番号16(G1C)、配列番号18(G3C)、配列番号20(F12C)および配列番号22(F63C)で表した。前記5’−キサンチル酸アミナーゼの変異体を含む発現ベクターを製作し、これらをそれぞれpCJ1−G1C、pCJ1−G3C、pCJ1−F12CおよびpCJ1−F63Cと命名し、前記製作されたベクターの概要を図13〜図16に示した。
【0073】
実施例6:5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体の活性評価
5’−キサンチル酸アミナーゼの非活性増加を確認するために、まず、SDS−PAGEゲル上のタンパク質発現量を濃度分析器によって確認した。この際、各変異体の発現量は互いに類似であると確認された。この点から、5’−キサンチル酸アミナーゼ活性の増加が非活性の増加によるものであることが分かった。
【0074】
5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体の活性を比較するために、下記の過程を行った。まず、バクトトリプトン16g/L、酵母抽出物10g/L、NaCl5g/L、カナマイシン50mg/Lとした25mLの培地に各変異体を接種し、37℃で12時間培養した。変異体を回収した後、1mLの変異体培養液に20mLのキシレンを添加し、これを37℃で20分間250rpmにて放置した。これを1/10で希釈し、アンモニアに対する反応活性を測定するために、30mM XMP、13mM ATP、16mM MgSO4・7H2O、10mM(NH4)2SO4を200mM Trizma HCl緩衝液(pH8.6)に溶かした反応液800mLに200mLの酵素液を混ぜ、42℃で15分間反応を行った。L−グルタミンに対する活性を測定するために、試料200mLを0.175%TCA溶液3.8mLに混ぜて反応を中止させた。30mM XMP、13mM ATP、16mM MgSO4・7H2O、5mM L−グルタミンを200mM Trizma HCl緩衝液(pH8.6)に溶かした溶液800mLに、1/10で希釈された酵素液200mLを混ぜ、42℃で15分間反応を行った。前記反応液はHPLCを用いてGMP量を比較した。この際、5’−キサンチル酸アミナーゼの酵素活性は1分当り1mmolの5’−グアニル酸が生成される条件を1単位活性とした。HPLC分析条件は次の通りである。
【0075】
Eluent:A:
0.02%リン酸二水素テトラブチルアンモニム
0.2%リン酸二水素アンモニウム、pH2.4
Eluent B:アセトニトリル
A:B=97:3
測定波長=254nm
流速:1.0mL/min
アンモニアを基質として用いた場合、酵素活性は次の通りである。反応液1mL当り野生型の5’−キサンチル酸アミナーゼは13.61単位活性(U/mL)であり、変異体G3−1は17.62単位活性(U/mL)、変異体F12−1は20.82単位活性(U/mL)、変異体F63−1は16.47(U/mL)であった。アンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体G1Cは22.64(U/mL)、G3Cは19.30(U/mL)、F12Cは22.76(U/mL)、F63Cは19.62(U/mL)であった。
【0076】
これに対し、L−グルタミンを基質として用いた場合、酵素活性は次の通りである。野生型菌株は単位液当り8.32U/mLの活性を示し、変異体G3−1は19.15(U/mL)、F12−1は4.31(U/mL)、F63−1は0.54(U/mL)の活性を示す反面、アンモニア特異的5’−キサンチル酸変異体G1Cは0.21U/mL、G3Cは0.16U/mL、F12Cは0.24U/mL、F63は0.40U/mLであった。
【0077】
前記結果より、アンモニア特異的5’−キサンチル酸変異体は、L−グルタミンを基質とする場合には5’−キサンチル酸の5’−グアニル酸への転換特性を殆ど示さないが、アンモニアを基質とする場合には相応する野生型またはランダム突然変異体に比べて約1.4〜1.7倍増進された転換活性を示すことを確認することができた(図17)。
【0078】
実施例7:アンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体の発現ベクターの細胞内安定性
アンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体の発現ベクターの細胞内安定性を比較するために、培養後に残っている発現ベクターの量を比較した。
【0079】
培養後の発現ベクターの維持量を比較するために、培養終結後に培養液を10−5に希釈し、これを、カナマイシン50g/mLを含むLB培地(Bacto−Trypton 1%、Yeast Extract1%、NaCl 0.5%)と抗生剤を含んでいないLB培地に塗抹した後、30℃で16時間培養して形成されたコロニーの数を比較した。これを相対数値化して図18に示した。
【0080】
図18に示すように、アンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体のうちG1C遺伝子を含む発現ベクターの場合、54.3%のコロニーが前記発現ベクターを含んでいるが、これに対し、野生型の5’−キサンチル酸アミナーゼの場合、36.0%のコロニーのみが前記遺伝子の発現ベクターを含んでいた。これは、アンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼの場合、細胞内に発現ベクターをさらに安定的に維持しており、その結果活性の増進が生ずることを意味する。
【0081】
〔産業上の利用可能性〕
以上説明および立証したように、本発明は、調味成分として有用な5’−グアニル酸を効果的に生産するために、5’−キサンチル酸を5’−グアニル酸に転換させる5’−キサンチル酸アミナーゼの野生型およびその活性が増進されたランダム突然変異によって製造された5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体にアンモニア特異的な性質を与えたアンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体およびその製造方法を提供する。したがって、本発明に係る5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体は、野生型に比べて活性が増進されるうえ、細胞毒性が減少して細胞内でより安定的に維持されることにより、5’−グアニル酸を生産する生物過程に有用に活用できる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
本発明の前記および他の目的、特徴およびその他の利点は、添付図面を参照する次の詳細な説明からさらに明確に理解されるであろう。
【図1】ランダム突然変異導入を介して5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体ライブラリを製造し、高活性の5’−キサンチル酸アミナーゼをスクリーニングする方法を概略的に示す図である。
【図2】ランダム突然変異によって製造された高活性の5’−キサンチル酸アミナーゼを常時発現させるために常時発現ベクターに導入する過程を概略的に示す図である。
【図3】高活性の5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体であるG3遺伝子を含む発現ベクターpG3を示す。
【図4】高活性の5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体であるF12遺伝子を含む発現ベクターpF12を示す。
【図5】高活性の5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体であるF63遺伝子を含む発現ベクターpF63を示す。
【図6】高活性の5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体であるG3−1遺伝子を含む発現ベクターpCJ−G3−1を示す。
【図7】高活性の5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体であるF12−1遺伝子を含む発現ベクターpCJ−F12−1を示す。
【図8】高活性の5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体であるF63−1遺伝子を含む発現ベクターpCJ−F63−1を示す。
【図9】野生型5’−キサンチル酸アミナーゼの遺伝子であるG1遺伝子を含む発現ベクターpCJ1−G1を示す。
【図10】高活性の5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体であるG3−1遺伝子を含む発現ベクターpCJ1−G3−1を示す。
【図11】高活性の5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体であるF12−1遺伝子を含む発現ベクターpCJ1−F12−1を示す。
【図12】高活性の5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体であるF63−1遺伝子を含む発現ベクターpCJ1−F63−1を示す。
【図13】アンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体であるG1C遺伝子を含む発現ベクターpCJ1−G1Cを示す。
【図14】アンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体であるG3C遺伝子を含む発現ベクターpCJ1−G3Cを示す。
【図15】アンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体であるF12C遺伝子を含む発現ベクターpCJ1−F12Cを示す。
【図16】アンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体であるF63C遺伝子を含む発現ベクターpCJ1−F63Cを示す。
【図17】大腸菌の野生型5’−キサンチル酸アミナーゼ(G1)、本発明の実施例によって製造された大腸菌由来の5’−キサンチル酸アミナーゼのランダム突然変異体(G3−1、F12−1、F63−1)、およびアンモニア特異的突然変異体(G1C、G3C、F12C、F63C)のアンモニアまたはL−グルタミンを基質とした場合の培養液当りの単位活性を示す図である。図面において、Ammoはアンモニアを基質としたときの単位活性であり、Glnはグルタミンを基質としたときの単位活性である。
【図18】野生型5’−キサンチル酸アミナーゼの遺伝子(G1)を含む発現ベクターと、前記G1遺伝子の86番目のアミノ酸残基であるシステインをアラニンで置換したアンモニア特異的なG1C遺伝子を含む発現ベクターとの安定性を比較して示す図である。
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔技術分野〕
本発明は、向上した活性の5’−キサンチル酸(XMP)アミナーゼ変異体の製造方法、その方法によって製造された5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体、およびその変異体を用いて5’−グアニル酸(GMP)を向上した収率で製造する方法に関し、さらに詳しくは、アンモニアに特異的に反応する5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体の製造方法、その方法によって製造されたアンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体、およびそのアンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体を用いて高収率で5’−グアニル酸を製造する方法に関する。
【0002】
〔背景技術〕
5’−グアニル酸(GMP)は、5’−イノシン酸(IMP)と共に食品調味添加剤として広く用いられている物質である。5’−グアニル酸は、そのままで茸の味を出すものと知られているが、主にグルタミン酸1ナトリウム(MSG)の風味を強化するものと知られている。このような性質は、特に5’−イノシン酸と共に使われるときに強く現れる。
【0003】
これまで知られている5’−グアニル酸の製造方法としては、(1)酵母細胞から抽出したリボ核酸(RNA)を酵素学的に分解する方法、(2)微生物発酵法で5’−グアニル酸を直接発酵させる方法、(3)微生物発酵法で生産したグアノシンを化学的にリン酸化させる方法、(4)微生物発酵法で生産したグアノシンを酵素的方法でリン酸化させる方法、(5)微生物発酵法で生産した5’−キサンチル酸をコリネ型微生物を用いて5’−グアニル酸に転換する方法、または(6)微生物発酵法で生産した5’−キサンチル酸を大腸菌を用いて5’−グアニル酸に転換させる方法を挙げることができる。これらの中でも、(1)の方法は原料需給および経済性に問題があり、(2)の方法はGMPの細胞膜透過性の問題によって収率が低いという欠点がある。このような理由で、これら以外の方法が工業的に主に用いられている。
【0004】
前記(5)および(6)の方法でのように、5’−キサンチル酸を5’−グアニル酸に転換させるときに5’−キサンチル酸アミナーゼという酵素が関与するが、この酵素のメカニズムは次の通りである(Pantel et al. (1975), J. Biol. Sci., 250(7), 2609-2613)。
【0005】
1)5’−キサンチル酸+ATP+NH3 → GMP+AMP+PPi
↑
5’−キサンチル酸アミナーゼ
2)5’−キサンチル酸+ATP+L-グルタミン → GMP+AMP+PPi+L-グルタミン ↑
5’−キサンチル酸アミナーゼ
5’−キサンチル酸アミナーゼは、グルタミンアミドトランスフェラーゼ(glutamine amidotrasnferase)の一種である。グルタミンアミドトランスフェラーゼは、グルタミンのγ−アミド部位を加水分解してアンモニアを発生させ、これをアミノ酸、核酸、糖、補酵素などに重合反応を経て導入する。グルタミンアミドトランスフェラーゼの対象物質は非常に多様であるが、グルタミンを加水分解してアンモニアを得る方式は進化的によく保存されてきた。グルタミンアミドトランスフェラーゼはさらにclassIとclassIIに分けられるが、classIの場合はアントラニル酸シンダーゼ(anthranilate synthase)、カルバモイルリン酸シンテターゼ(carbamoyl phosphate synthetase)、CTPシンテターゼ、ホルミルグリシンアミジンシンテターゼ(formylglycinamidine synthetase)、5’−キサンチル酸アミナーゼ、イミダゾールグリセロールリン酸シンターゼ(Imidazole glycerol phosphate synthase)、アミノデオキシコリスミ酸シンターゼ(aminodeoxychorismate synthase)、p−アミノベンゾ酸シンターゼ(p-aminobenzoate synthase)などを含む。これらは共にグルタミンの他に外部のアンモニアをアミン供与体(amine donor)として用いることができる(Cell MoI. Life Sci. 54, 205- 222, 1998)。この際、アンモニアは、グルタミンから遊離されたアンモニアが基質に伝達される方式とは異なり、トランスフェラーゼに直接伝達されるものと思われる。
【0006】
タンパク質の構造という面において、5’−キサンチル酸アミナーゼは、グルタミンを分解するグルタミナーゼ活性を持つドメインと、トランスフェラーゼ活性を持つドメインによく区別されている(Nat. Str. Biol. 3(1), 74- 86, 1996)。グルタミナーゼの活性を持っているN−ターミナルドメインの場合は、よく研究されたカルバミルリン酸シンテターゼ(carbamyl phosphate synthetase)と構造的に類似である。また、グルタミナーゼの活性は主にシステイン、ヒスチジン、グルタミン酸の活性トライアッド(catalytic traid)によって得られる。これはシステインプロテアーゼのメカニズムと類似である(Cell MoI. Life Sci. 54, 205-222, 1998)。特に、大腸菌では、アミノ酸配列86番目のシステイン、181番目のヒスチジン、183番目のグルタミン酸が活性トライアッドを成す。グルタミナーゼとしてのメカニズムを詳細に考察すると、活性部位のシステインとグルタミンがγ−グルタミルチオエステル(g-glutamyl thioester)を形成し、ヒスチジン塩基として作用して加水分解することにより、グルタミンをグルタミン酸とアンモニアに分離する(Fukuyama et al. Biochemistry 3, 1448-1492, 1964; von der Saal et al. Biochemistry 24, 5343-5350, 1985)。得られたアンモニアは、酵素に形成されたチャネルを介して5’−キチサンチル酸を5’−グアニル酸に転換させる反応に参与する(Raushel et al. Biochemistry, 38(25), 7891-7899, 1999)。
【0007】
アンモニアを用いた5’−キチサンチル酸アミナーゼの5’−キサンチル酸の5’−グアニル酸への転換反応は、L−グルタミンを用いた反応とはメカニズム的に同一であるが、現象的には多くの差異がある。両方の基質に対する5’−キサンチル酸アミナーゼの適正pHは、8.3と同一であるが、L−グルタミンを用いる場合には2倍以上の活性を示す(Pantel et al. (1975), J. Biol. Sci., 250(7), 2609-2613)。このような差異は反応pHを中性に持っていくほどさらに大きく開けられるが、これは、実際細胞内における反応は溶液上のアンモニア(NH3)を使用することなくL−グルタミンを用いて5’−キサンチル酸を5’−グアニル酸に転換させるという事実を示す。
【0008】
一方、システインに反応するスルフヒドリル試薬(sulfhydryl reagent)としてのヨードアセトアミド(Iodoacetamide)とグルタミン誘導体としてのクロロケトンまたはアシビシン(acivicine)などを5’−キチサンチル酸アミナーゼに処理すると、L−グルタミンによる活性は減少する一方で、アンモニアによる活性は維持されることが分かる。これは、グルタミナーゼ活性部位のシステインがグルタミンを用いる5’−キサンチル酸アミナーゼの活性には必須的であるが、アンモニアを用いる5’−キサンチル酸アミナーゼの活性には必須的でないことを示唆する(Zalkin and Truitt, J. Biol. Sci. 252(15), 5431-5436, 1977; Massiere and Badet-Denisot, Cell Mol. Life Sci. 54, 205-222, 1998)。
【0009】
5’−キサンチル酸アミナーゼと同一のクラスであるアントラニル酸シンターゼの場合、保存されたシステインをグリシンで置換した場合、グルタミンを用いた活性を示さないが、アンモニアによる活性は影響を受けないことが報告された(Paluh et al., J. Biol. Chem. 260, 1889-8601, 1985)。また、p−アミノベンゾ酸シンターゼの場合においても、保存されたシステインをセリンで置換した場合、γ−グルタミルチオエステルの生成が弱化し、p−アミノベンゾ酸合成中間体であるアミノデオキシコリスミ酸の生成が減少することが報告された(Roux et al., Biochemistry, 32, 3763-3768, 1993)。カルバモイルリン酸シンテターゼの場合、保存されたシステインをセリンまたはグリシンで置換する場合、グルタミンを用いた活性を示していない(Rubino et al., J. Biol. Chem., 261, 11320-11327, 1986)。
【0010】
通常、野生型の酵素は、細胞に適するように進化してきたため、実際産業的に利用される場合、活性が低くて適しない結果を示すことが多い。これを克服するために一般に使用する方法は、酵素の遺伝子をクローニングし、これを用いて過発現させる方法である。5’−キチサンチル酸アミナーゼの場合、最近の論文『Biosci. Biotech. Biochem. 61(5), 840-845, 1997』によれば、野生の大腸菌から得られた5’−キサンチル酸アミナーゼ遺伝子(guaA)を誘導発現プラスミドにクローニングして過発現させた後、これを用いて5’−キサンチル酸から5’−グアニル酸を生産することを発表した。
【0011】
野生型菌株の発現を強化させる他の方法として、薬剤耐性を用いて当該遺伝子の発現を増大させる大腸菌野生株からデコイニン(decoyinine)耐性を持つ突然変異菌株を介して5’−キチサンチル酸アミナーゼの活性を増大させる方法も報告されたことがある(韓国特許公開第2000−0040840号)。
【0012】
一般に用いられる誘導発現ベクターの場合、IPTGなどの高価の発現誘導体を要求するため、産業的に大量のタンパク質が要求される場合に適しないことが多い。これを克服するために、常時発現ベクターシステム(constitutive expression system)が要求される。常時発現ベクターシステムは、多数が報告されており、特に核酸を発酵させる菌株として知られているコリネバクテリウムアンモニアゲネス(Corynebacterium ammoniagenes)においても新規の常時発現プロモータが開発された(韓国特許出願第2004−107215号)。常時発現システムの場合は、発現誘導体の導入なしで、宿主の培養期間の間、導入されたタンパク質を持続的に発現させるので有用である。ところが、導入されたタンパク質の過発現が宿主細胞の生長に影響を及ぼす場合は、細胞の生長が中止されるか、或いは細胞に導入されたベクターが除去され、その結果として低い発現率を示す。5’−キサンチル酸アミナーゼの場合にもこのような現象が報告されている(Biosci. Biotech. Biochem. 61(5), 840-845, 1997)。
【0013】
本発明者らは、5’−キサンチル酸アミナーゼの常時的過発現において細胞の生長が中止されるか或いはベクターが除去される現象が常時的過発現による細胞の毒性に起因するものと判断し、これを効率よく減少させる方法として、5’−キサンチル酸アミナーゼのグルタミナーゼの活性を抑制する方法を考えた。前述したように、5’−キサンチル酸アミナーゼは細胞内でL−グルタミンを用いて5’−キサンチル酸を5’−グアニル酸に転換させるため、L−グルタミナーゼの活性を抑制した5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体は、細胞内では活性を最小化して細胞に対する毒性を減少させることができる。この際、L−グルタミナーゼの活性が抑制されても、アンモニアに対する活性は変性されないため、産業的に5’−キサンチル酸を5’−グアニル酸に効率よく転換させることができる。本発明者らは、5’−キサンチル酸アミナーゼの生化学的メカニズムに対する綿密な検討を介して、グルタミナーゼの活性を抑制したアンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼを開発し、これにより培養液上の5’−キチサンチル酸アミナーゼの活性が増進されることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0014】
〔発明の開示〕
したがって、本発明の目的は、野生型または活性が増進された5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体にアンモニア特異的な性質を与えることにより、活性が増進されたアンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体を提供することにある。
【0015】
本発明の他の目的は、前記活性が増進されたアンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体の製造方法を提供することにある。
【0016】
本発明の別の目的は、前記アンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体をコードする核酸分子を提供することにある。
【0017】
本発明の別の目的は、前記アンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体を発現させる核酸分子を含む発現ベクターを提供することにある。
【0018】
本発明の別の目的は、前記発現ベクターで形質転換された形質転換体を提供することにある。
【0019】
本発明の別の目的は、前記アンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体を用いて5’−キサンチル酸を5’−グアニル酸に転換させる方法を提供することにある。
【0020】
〔発明を実施するための最良の様態〕
一つの様態として、本発明は、活性が増進されたアンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体を提供する。前記アンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体は、好ましくは大腸菌由来の野生型5’−キサンチル酸アミナーゼまたはその活性が増進された変異体から製造できる。
【0021】
具体的に、大腸菌由来の野生型5’−キサンチル酸アミナーゼ、およびそのランダム突然変異によって活性が増進された5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体に、それぞれアンモニア特異的な性質を与えるための部位指定変異導入(site-directed mutagenesis)を行うことにより、アンモニア特異的な性質を有し且つ活性が増進された大腸菌由来のアンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体を製造することができる。
【0022】
このため、具体的な実施において、本発明者は、まず、大腸菌K12由来の5’−キサンチル酸アミナーゼをコードする1578bpの遺伝子(配列番号1)を含むベクターを製造した後、これを鋳型として突然変異誘発型重合酵素連鎖反応(error-prone PCR)を行った。これからランダムに突然変異が導入された5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体DNAを得た。その後、5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体を発現させることに適した発現ベクターに前記変異体DNAを接合させた後、これを用いて5’−キサンチル酸アミナーゼ遺伝子が欠乏している大腸菌を形質転換させて突然変異ライブラリを製作した。
【0023】
5’−キサンチル酸アミナーゼ遺伝子が欠乏している大腸菌の場合、5’−キサンチル酸アミナーゼの活性を持っている変異体を持つベクターによって形質転換された場合にのみ成長が可能であるため、突然変異ライブラリから活性のある5’−キサンチル酸アミナーゼ突然変異のみが得られる。
【0024】
突然変異ライブラリから成長した大腸菌の中から、高活性の5’−キサンチル酸アミナーゼ突然変異を持っているベクターで形質転換された大腸菌を選別するために、98ウェルマイクロプレートで5’−キサンチル酸を5’−グアニル酸に転換させる反応を行った。前記反応後の吸光度合いを比較して、活性が増進された5’−キサンチル酸アミナーゼを生産する大腸菌を選別した。
【0025】
活性が増進された5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体遺伝子の塩基配列は、公知の方法によって決定した。これから由来した5’−キサンチル酸アミナーゼの塩基配列を野生型の5’−キサンチル酸アミナーゼの塩基配列と比較した場合、それぞれ2個、2個、4個、4個、3個および6個のアミノ酸が変換された新規のアミノ酸配列を持つタンパク質であることを確認し、これらをそれぞれ「5’−キサンチル酸アミナーゼG3」、「5’−キサンチル酸アミナーゼF12」、「5’−キサンチル酸アミナーゼF63」、「5’−キサンチル酸アミナーゼG3−1」、「5’−キサンチル酸アミナーゼF12−1」、および「5’−キサンチル酸アミナーゼF63−1」と命名した。
【0026】
各変異体のアミノ酸配列の変化を具体的に説明すると、G3の場合は52番目および91番目のアミノ酸配列がそれぞれシステインおよびトレオニンで置換された変異体(配列番号4)であり、F12の場合は93番目および152番目のアミノ酸配列がそれぞれバリンおよびプロリンで置換された変異体(配列番号6)であり、F63の場合は93番目、113番目、191番目および467番目のアミノ酸配列がそれぞれバリン、アラニン、トレオニンおよびグリシンで置換された変異体(配列番号8)であることを確認することができた。G3−1の場合は52番目、191番目、253番目、および454番目のアミノ酸配列がそれぞれシステイン、トレオニン、アルギニン、およびイソロイシンで置換された変異体(配列番号10)であり、F12−1の場合は93番目、152番目、および454番目のアミノ酸配列がそれぞれバリン、プロリン、およびイソロイシンで置換された変異体(配列番号12)であり、F63−1の場合は93番目、100番目、113番目、191番目、454番目、および467番目のアミノ酸配列がそれぞれバリン、イソロイシン、アラニン、トレオニン、イソロイシン、およびグリシンで置換された変異体(配列番号14)であることを確認することができた。
【0027】
続いて、本発明者らは、アンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼを製造するために、前述した大腸菌由来の5’−キサンチル酸アミナーゼの野生型およびこれから由来した前記活性が増進された突然変異体のうちG3−1、F12−1、およびF63−1にそれぞれ、グルタミナーゼ活性部位に存在する86番目のシステインを部位指定変異導入によってアラニンで置換した。前記部位指定変異導入によって製造された突然変異体をそれぞれG1C(配列番号16)、G3C(配列番号18)、F12C(配列番号20)、およびF63C(配列番号22)と命名した。前記塩基変異は、通常の塩基配列決定法によって決定した。その結果、製造された変異体は、グルタミンはアミン供与体として効率的に利用することができず、外部のアンモニアのみをアミン供与体として利用することができることを確認した。
【0028】
したがって、本発明は、好適な一様態として、配列番号16、18、20または22のアミノ酸配列を持つアンモニア特異的5’−キサンチル酸変異体を提供する。
【0029】
本発明の実施例では、配列番号16、18、20または22のアミノ酸配列を持つアンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体の製造方法およびその活性のみを開示したが、これらの実施例に記載したものと同様の方法によって、前記配列番号4、6または8のアミノ酸配列を持つ、活性が増進された5’−キサンチル酸アミナーゼにもアンモニア特異的性質を与えることにより、活性が増進されたアンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼの変異体を製造することができることを、当業者であれば十分理解できるであろう。
【0030】
一方、本実施例では、5’−キサンチル酸アミナーゼの86番位置のシステインをアラニンで置換した例のみを開示したが、公知の分子生物学的方法による部位指定変異を介して他のアミノ酸、例えばセリンまたはグリシンなどを導入する場合にもアンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼを得ることができるのは、当業者であれば十分分かるであろう。
【0031】
ひいては、本発明に係るアンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体は、前述した配列番号16、18、20または22のアミノ酸配列を持つタンパク質だけでなく、このような変異体タンパク質と機能的に同等な程度の活性を示すことが可能なその等価物を含む。本願において、用語「機能的等価物」とは、本発明のアンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体のアミノ酸配列と少なくとも一つのアミノ酸残基が欠失、挿入、非保全的または保全的置換、またはこれらの組み合わせによって相異なる配列を持つが、同様にアンモニア特異的性質を有し且つ同等な程度の活性を有する5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体の活性を示すタンパク質を意味する。分子の活性を全体的に変更させないタンパク質およびペプチドにおけるアミノ酸交換は、当該分野に公知になっている(H. Neurath, R. L. Hill, The Proteins, Academic Press, New York, 1979)。
【0032】
後述するように、本発明に係るアンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体は、常時発現システムを用いて発現させたとき、反応液当りの活性が野生型に比べて5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体G1Cの活性は1.6倍、G3Cは1.4倍、F12Cは1.67倍、そしてF63Cは1.45倍の活性が増加することを確認することができるので、これらのアンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体は5’−グアニル酸の生成に効率よく利用できるであろう。
【0033】
本発明に係るアンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体は、合成(Merrifield, J. Amer. Chem. Soc. 85:2149-2156, 1963)またはDNA配列を基本とする組み換え方法によって製造できる(Sambrook et al., Molecular Cloning, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York, USA, 2ndEd., 1989)。遺伝子組み換え技術を利用する場合、アンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体をコードする核酸を適切な発現ベクターに挿入し、組み換え発現ベクターを宿主細胞に軽質転換してアンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体が発現されるように宿主細胞を培養した後、宿主細胞からアンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体を回収する過程によって収得することができる。
【0034】
したがって、別の好適な様態として、本発明は、活性が増進されたアンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体を製造する方法を提供する。具体的に、本発明は、5’−キサンチル酸アミナーゼのグルタミナーゼ活性を抑制することにより、グルタミナーゼの活性が除去された5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体が細胞内では活性を最小化して細胞に対する毒性が減少しながらも、アンモニアに対する活性は変性されないため、5’−キサンチル酸を5’−グアニル酸に効率よく転換させることが可能なアンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体の製造方法を提供する。
【0035】
好適な様態において、本発明は、大腸菌由来の5’−キサンチル酸アミナーゼのグルタミナーゼ活性部位に存在する86番目のシステインを部位指定変異導入法(site-directed mutagenesis)によって相異なるアミノ酸で代替することにより、代替された86番位置のアミノ酸と183番位置のグルタミン酸がγ−グルタミンチオエステルを形成しないためグルタミナーゼ活性が抑制され、アンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体を製造する方法を提供する。さらに好適な様態において、本発明に係るアンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体の製造方法は、大腸菌由来の5’−キサンチル酸アミナーゼの86番のシステインをアラニンで置換することを含む。
【0036】
特に好適な様態において、本発明に係るアンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体の製造方法は、大腸菌由来の野生型5’−キサンチル酸アミナーゼまたはその活性が増進された変異体から製造されることを特徴とする。
【0037】
さらに特に好適な様態において、本発明に係るアンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体は、大腸菌由来の野生型5’−キサンチル酸アミナーゼまたは本発明の具体的な実施例によって製造される配列番号4、6、8、10、12または14のアミノ酸配列を持つ大腸菌由来の活性が増進された5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体の86番のシステイン残基をアラニンで置換させることにより製造する方法を提供する。
【0038】
別の様態において、本発明は、アンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体をコードする核酸分子に関する。
【0039】
好適な様態として、本発明の具体的な実施例によって製造される配列番号16のアンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体G1Cは配列番号15の核酸分子によってコードされ、配列番号18のアンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体G3Cは配列番号17の核酸分子によってコードされ、配列番号20のアンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体F12Cは配列番号19の核酸分子によってコードされ、配列番号22のアンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体F63Cは配列番号21の核酸分子によってコードされる。このような核酸分子の配列は、単鎖または二重鎖であってもよく、DNA分子または配列上のチミン(T)がウラシルで置換されたRNA(mRNA)分子であってもよい。
【0040】
本発明のアンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体をコードする核酸配列は、これを発現するベクターによって提供されてタンパク質として発現できる。
【0041】
別の様態において、本発明は、前述したアンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体をコードする核酸分子を含む発現ベクターに関する。
【0042】
本発明において、「発現ベクター」とは、適当な宿主細胞で目的タンパク質を発現することが可能なベクターであって、遺伝子挿入物が発現されるように作動可能に連結された必須的な調節要素を含む遺伝子作製物をいう。
【0043】
本発明において、用語「作動可能に連結された(operably linked)」は、一般的な機能を行うように、核酸発現調節配列と、目的のタンパク質をコードする核酸配列とが機能的に連結されていることをいう。例えば、プロモータと、タンパク質をコードする核酸配列とが作動可能に連結され、コードする核酸配列の発現に影響を及ぼすことができる。組み換え発現ベクターとの作動的連結は、当該技術分野でよく知られている遺伝子組み換え技術を用いて実現することができ、部位特異的DNAの切断および連結は、当該技術分野で一般に知られている酵素などを使用する。発現ベクターに用いられるプロモータとしては、例えば宿主が大腸菌の場合にはtrcプロモータ、trpプロモータ、lacプロモータ、recAプロモータ、λPLプロモータ、lppプロモータ、T7プロモータなどが、宿主がバシラス属菌の場合にはSP01プロモータ、SP02プロモータ、penPプロモータなどが好ましい。開始コドンおよび終結コドンは、遺伝子作製物が投与されたときに個体で必ず作用を示さなければならず、コーディング配列とインフレーム(in frame)にあるべきである。発現ベクターはベクター含有の宿主細胞を選択するための選択性マーカーを含み、複製可能な発現ベクターは複製起源を含むことができる。
【0044】
本発明の具体的な実施では、アンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体の遺伝子を含む発現ベクターpCJ1−G1C、pCJ1−G3C、pCJ1−F12C、およびpCJ1−F63Cを製作した。これらの製作されたベクターの概要を図13〜図16に示した。これらの発現ベクターをそれぞれ大腸菌DH5αに導入し、最終的に形質転換された大腸菌を収得した。前記形質転換体をそれぞれ「Escherichia coli DH5α/pCJ1-G1C」、「Escherichia coli DH5α/pCJ1-G3C」、「Escherichia coliDH5α/pCJ1-F12C」、および「Escherichia coliDH5α/pCJ1-F63C」と命名し、これらの菌体を2005年12月2日付で韓国種菌協会にそれぞれ寄託番号KCCM−10715P、KCCM−10717P、KCCM−10721PおよびKCCM−10720で寄託した。別の様態において、本発明は前述した発現ベクターで形質転換された形質転換体に関する。
【0045】
形質転換は、核酸分子を有機体、細胞、組織または器官に導入するいずれの方法も含み、当分野で公知になっているように宿主細胞に応じて適した標準技術を選択して行うことができる。このような方法には、エレクトロポレーション(electroporation)、原形質融合、リン酸カルシウム(CaPO4)沈殿、塩化カルシウム(CaCl2)沈殿、炭化ケイ素繊維を用いた攪拌、アグロバクテリア媒介形質転換、PEG、硫酸デキストラン、リポフェクタミンなどを含むが、これらに限定されない。
【0046】
本発明のアンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体を発現する発現ベクターで形質転換される宿主細胞によってタンパク質の発現量と修飾などが異なるので、目的に最も適した宿主細胞を選択して使用すればよい。宿主細胞としては原核細胞が好ましく、例えば大腸菌(Escherichia coli)、バシラスサブチリス(Bacillus subtilis)、ストレプトマイセス(Streptomyces)、シュードモナス(Pseudomonas)、プロテウスミラビリス(Proteus mirabilis)またはスタフィロコッカス(Staphylococcus)などの原核宿主細胞があるが、これらに限定されない。
【0047】
また、真菌(例えば、アスペルギルス(Aspergillus))、酵母(例えば、ピキアパストリス(Pichia pastoris)、サッカロミセスセレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセス(Schizosaccharomyces)、アカパンカビ(Neurospora crassa))などの下等真核細胞なども用いることができる。
【0048】
別の様態において、本発明は、前述した形質転換体を培養した後、これから5’−キサンチル酸アミナーゼの変異タンパク質を分離する段階を含む、5’−キサンチル酸アミナーゼの変異体を製造する方法に関する。
【0049】
本発明のアンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体を発現する発現ベクターで形質転換された宿主細胞(形質転換体)の培養は、目的タンパク質であるアンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体の発現を可能にする適切な条件の下で行う。このような条件は、当業者に公知の方法によって行うことができる。
【0050】
宿主細胞で発現させたタンパク質は、通常の方式で精製することができ、例えば、塩析(例えば、硫酸アンモニウム沈殿、リン酸ナトリウム沈殿)、溶媒沈殿(例えばアセトン、エタノールなどを用いたタンパク質分画沈殿)、透析、ゲル濾過、イオン交換、逆相カラムクロマトグラフィーなどのカラムクロマトグラフィーおよび限外濾過などの技法を単独でまたは組み合わせて適用し、本発明のアンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体タンパク質を精製することができる。
【0051】
以下、本発明の好適な実施例について説明する。これらの実施例は本発明をより具体的に説明するためのもので、本発明の範囲を限定するものではない。
【0052】
実施例1:5’−キサンチル酸アミナーゼ突然変異ライブラリの構築
5’−キサンチル酸アミナーゼの遺伝子に突然変異誘発型重合酵素連鎖反応(error-prone PCR)を行ってランダムな突然変異を誘発することにより、多様な5’−キサンチル酸アミナーゼ突然変異を次のように製造した。
【0053】
まず、大腸菌に由来した1,578bpの5’−キサンチル酸アミナーゼ遺伝子(配列番号1)を、trcプロモータを有し且つ大腸菌で増幅可能な複製起源を持つ発現ベクターpTrc99aに作動可能に連結した組み換えプラスミドpG1を製作し、これを突然変異誘発型重合酵素連鎖反応の鋳型として準備した。突然変異誘発型重合酵素連鎖反応に使用されたプライマーは、配列番号23のN末端プライマーと配列番号24のC末端プライマーを使用した。これは大腸菌に由来した5’−キサンチル酸アミナーゼ遺伝子の塩基配列に基づいて合成した。
【0054】
配列番号23:5’CGCGAATTCATGACGGAAAACATTCATAA3’
配列番号24:5’CTAGTCTAGATCATTCCCACTCAATGGT3’
PCR反応液は、それぞれ0.4mMの前記N−プライマーおよびC−プライマー、鋳型として前記組み換えプラスミドpG1 5ng、10mMトリス緩衝液(Tris−HCl、pH8.3)、50mM KCl、7mM MgCl2、0.1m MnCl2、0.2mM dATP、0.2mM dGTP、1mM dCTP、1mM dTTPおよびTaq重合酵素の5酵素単位を含むように50mLを調製した。PCRは、94℃で1分、50℃で1分および72℃で1分の反応を1サイクルとしてこれを25サイクル行い、最後に72℃で7分の反応を行った。
【0055】
前述したように増幅されたPCR産物は、寒天ゲル電気泳動法によって分離し、増幅分離されたDNA断片を制限酵素EcoRIとHindIIIで切断した後、5’−キサンチル酸アミナーゼ発現ベクターとして有用なpTrc99aに接合させて組み換えプラスミドを製作した。前記製作された突然変異遺伝子を含有するベクターを大腸菌BW(guaA knock−out菌株)に導入して5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体ライブラリを製作した。guaA遺伝子が除去された菌株の大腸菌BWは、通常の分子生物学的方法によって得られた(Datsenko KA, 2000, Proc. Natl. Acad. Sci., 97(12), 6640-6645)。
【0056】
実施例2:5’−キサンチル酸アミナーゼの変異体の探索
実施例1で製造された5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体のライブラリを0.5%バクトトリプトン、1%酵母抽出物、1%NaCl、1.5%寒天および0.2mM IPTGを含むLB平板培地に塗抹した。次いで、成長した大腸菌コロニーをディープウェルマイクロプレート(deep well microplate)内のLB培地で培養した後、細胞の成長度合いに応じて100mLに希釈した。各ウェルにキシレン5mLを添加し、37℃で30分間処理した後、42℃で予熱した基質混合物を100mL添加し、42℃で20分間反応させた。基質混合物は30mM XMP、13mM ATP、16mM MgSO4・7H2O、40mM(NH4)2SO4を16mMのTrizma HCl緩衝液(pH8.6)に溶かした反応液である。3.5%の過塩素酸800mLを添加して反応を終了させた後、200mLをUV測定用96ウェルプレートに移して波長290nmにおける吸光度を測定した。5’−グアニル酸の生成量を測定し、酵素活性を比較して、活性が増進された5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体を持つ大腸菌JM105形質転換体を獲得した。
【0057】
前記探索過程によって得られた5’−キサンチル酸アミナーゼ突然変異遺伝子を持つプラスミドpG3、および野生型の5’−キサンチル酸アミナーゼ遺伝子を持つプラスミドpG1に対して適切な制限酵素処理およびライゲーションを行い、実施例1と同様の条件で突然変異誘発型PCRを行った後、前記活性比較スクリーニング法によって、活性が親酵素に比べて増進された遺伝子を持つプラスミドpF12、pF63、pCJ−G3−1、pCJ−F12−1およびpCJ−F63−1を得た。
【0058】
前記実施例1と実施例2に記述された、活性が増進された5’−キサンチル酸アミナーゼの変異体を製造する過程を図1に概略的に示した。
【0059】
実施例2で製造された5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体のライブラリ規模および変異体に対する記述を表1にまとめた。
【0060】
【表1】
【0061】
実施例3:5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体を暗号化する遺伝子の塩基配列
実施例1および2で製造された5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体の遺伝子配列は、Applied Biosystem社のautomatic sequencer ABI3730xlを用いて決定した。それぞれの塩基配列は配列番号3(G3)、配列番号5(F12)、配列番号7(F63)、配列番号9(G3−1)、配列番号11(F12−1)、および配列番号13(F63−1)と確認されたところ、それぞれのアミノ酸配列を推定して配列番号4(G3)、配列番号6(F12)、配列番号8(F63)、配列番号10(G3−1)、配列番号12(F12−1)および配列番号14(F63−1)で表した。また、前記G3、F12、F63、G3−1、F12−1およびF63−1をそれぞれ含むプラスミド地図を図3〜図8にそれぞれ示した。
【0062】
前記pG3に含まれた高活性の5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体であるG3遺伝子の塩基配列からG3のアミノ酸配列を推定し、これを配列番号4で表した。また、pF12に含まれた高活性の5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体であるF12遺伝子の塩基配列からF12のアミノ酸配列を推定し、これを配列番号6で表した。同様に、pF63に含まれた高活性の5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体であるF63遺伝子の塩基配列からF63のアミノ酸配列を推定し、これを配列番号8で表した。また、pG3−1に含まれた高活性の5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体であるG3−1遺伝子の塩基配列からG3−1のアミノ酸配列を推定し、これを配列番号10で表した。また、pCJ−F12−1に含まれた高活性の5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体であるF12−1遺伝子の塩基配列からF12−1のアミノ酸配列を推定し、これを配列番号12で表した。同様に、pCJ−F63−1に含まれた高活性の5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体であるF63−1遺伝子の塩基配列からF63−1のアミノ酸配列を推定し、これを配列番号14で表した。
【0063】
本発明の高活性5’−キサンチル酸アミナーゼであるG3、F12、F63、G3−1、F12−1およびF63−1のアミノ酸配列を配列番号2の野生型5’−キサンチル酸アミナーゼのアミノ酸配列と比較する場合、それぞれ2個、2個、4個、4個、3個および6個のアミノ酸が置換されて新規のアミノ酸配列を持つタンパク質であることを確認することができた。
【0064】
すなわち、G3の場合は52番目および191番目のアミノ酸配列がそれぞれシステインおよびトレオニンで、F12の場合は93番目および152番目のアミノ酸配列がそれぞれバリンおよびプロリンで、F63の場合は93番目、113番目、191番目および467番目のアミノ酸配列がそれぞれバリン、アラニン、トレオニンおよびグリシンで置換されたことを確認することができ、G3−1の場合は52番目、191番目、153番目および454番目のアミノ酸配列がそれぞれシステイン、トレオニン、アルギニンおよびイソロイシンで、F12−1の場合は93番目、152番目および454番目のアミノ酸配列がそれぞれバリン、プロリンおよびイソロイシンで、F63−1の場合は93番目、100番目、113番目、191番目、454番目および467番目のアミノ酸配列がそれぞれバリン、イソロイシン、アラニン、トレオニン、イソロイシンおよびグリシンで置換されたことを確認することができた。
【0065】
上述したアミノ酸配列および活性測定探索法によって、本発明のG3、F12、F63、G3−1、F12−1およびF63−1は、アミノ酸配列が既存の大腸菌5’−キサンチル酸アミナーゼとは相異するうえ、高活性を持つ新規の5’−キサンチル酸アミナーゼと判断することができる。
【0066】
実施例4:5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体の常時発現ベクターの製造
前記得られた高活性の5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体を常時発現ベクターを用いて発現させるために、下記の過程を行った。
【0067】
5’−キサンチル酸アミナーゼ野生型および変異体の遺伝子を、CJ1プロモータを有し、且つ大腸菌とコリネバクテリウムアンモニアゲネスで増幅可能な複製起源を有する常時発現ベクターpECG117−CJ1に作動可能に連結した組み換えプラスミドを製作した。突然変異誘発型重合酵素連鎖反応を行った。突然変異誘発型重合酵素連鎖反応に使用されたプライマーは、配列番号25のN−末端プライマー(guaA−f)と配列番号26のC−末端プライマー(guaA−r)を使用した。これは大腸菌由来の5’−キサンチル酸アミナーゼ遺伝子の塩基配列に基づいて合成した。
【0068】
配列番号25:5’ACGTGCCGGCATGACGGAAAACATTCATAAGC3’
配列番号26:5’ACGTGGATCCTCATTCCCACTCAATGGTAGC3’
PCR反応液は、それぞれ0.4mMの前記N−プライマーおよびC−プライマー、鋳型としてpG1、pCJ−G3−1、pCJ−F12−1およびpCJ−F63−1それぞれ5ng、10mMトリス緩衝液(Tris−HCl、pH8.3)、50mM KCl、7mM MgCl2、0.2mM dATP、0.2mM dGTP、0.2mM dCTP、0.2mM dTTPおよびPfu重合酵素の5酵素単位を含むように50mLを調製した。PCRは、94℃で1分、50℃で1分および72℃で1分の反応を1サイクルとしてこれを25サイクル行い、最後に72℃で5分の反応を行った。
【0069】
前述したように増幅されたPCR産物は、寒天ゲル電気泳動法によって分離した。増幅分離されたDNA断片を制限酵素NaeIとBamHIで切断した後、5’−キサンチル酸アミナーゼ発現ベクターとして有用なpECG117−CJ1に接合させて組み換えプラスミドを製作した(図2)。前記5’−キサンチル酸アミナーゼの野生型および変異体を含む発現ベクターをそれぞれpCJ1−G1(野生型)、pCJ1−G3−1、pCJ1−F12−1およびpCJ−F63−1と命名し、前記製作されたベクターの概要を図9〜図12に示した。
【0070】
実施例5:アンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼの製造
5’−キサンチル酸アミナーゼの野生型および前記実施例で得た高活性の5’−キサンチル酸突然変異体を用いてアンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体を製造するために、これらタンパク質の86番目のシステインをアラニンに特異的に変異させるためのプライマーを製作し、これを配列番号27および配列番号28で表した。
【0071】
配列番号27:5’CCGGTATTCGGCGTTGCATATGGCATGCAGACCATG3’
配列番号28:5’CATGGTCTGCATGCCATATGCAACGCCGAATACCGG3’
前記プライマーの存在下で、部位指定変異導入を、Stratagene社のQuickChangeII XL Site−Directed Mutagenesis kitを用いて、製造社から提供された手続によって行った。得られたコロニーからプラスミドを公知の方法によって抽出し、これを用いて塩基配列を決定した。これにより、5’−キサンチル酸アミナーゼ野生型および前記変異体の突然変異を維持し、さらに86番目のシステインがアラニンで置換された新規の5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体を得た。これらをそれぞれG1C、G3C、F12C、およびF63Cと命名した。
【0072】
所望の位置に正確な変異を獲得したかを評価するために、5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体の遺伝子の配列をApplied Biosystem社のautomatic sequencer ABI3730xlを用いて決定した。それぞれの塩基配列は配列番号15(G1C)、配列番号17(G3C)、配列番号19(F12C)、および配列番号21(F63C)と確認されたところ、それぞれのアミノ酸配列を推定して配列番号16(G1C)、配列番号18(G3C)、配列番号20(F12C)および配列番号22(F63C)で表した。前記5’−キサンチル酸アミナーゼの変異体を含む発現ベクターを製作し、これらをそれぞれpCJ1−G1C、pCJ1−G3C、pCJ1−F12CおよびpCJ1−F63Cと命名し、前記製作されたベクターの概要を図13〜図16に示した。
【0073】
実施例6:5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体の活性評価
5’−キサンチル酸アミナーゼの非活性増加を確認するために、まず、SDS−PAGEゲル上のタンパク質発現量を濃度分析器によって確認した。この際、各変異体の発現量は互いに類似であると確認された。この点から、5’−キサンチル酸アミナーゼ活性の増加が非活性の増加によるものであることが分かった。
【0074】
5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体の活性を比較するために、下記の過程を行った。まず、バクトトリプトン16g/L、酵母抽出物10g/L、NaCl5g/L、カナマイシン50mg/Lとした25mLの培地に各変異体を接種し、37℃で12時間培養した。変異体を回収した後、1mLの変異体培養液に20mLのキシレンを添加し、これを37℃で20分間250rpmにて放置した。これを1/10で希釈し、アンモニアに対する反応活性を測定するために、30mM XMP、13mM ATP、16mM MgSO4・7H2O、10mM(NH4)2SO4を200mM Trizma HCl緩衝液(pH8.6)に溶かした反応液800mLに200mLの酵素液を混ぜ、42℃で15分間反応を行った。L−グルタミンに対する活性を測定するために、試料200mLを0.175%TCA溶液3.8mLに混ぜて反応を中止させた。30mM XMP、13mM ATP、16mM MgSO4・7H2O、5mM L−グルタミンを200mM Trizma HCl緩衝液(pH8.6)に溶かした溶液800mLに、1/10で希釈された酵素液200mLを混ぜ、42℃で15分間反応を行った。前記反応液はHPLCを用いてGMP量を比較した。この際、5’−キサンチル酸アミナーゼの酵素活性は1分当り1mmolの5’−グアニル酸が生成される条件を1単位活性とした。HPLC分析条件は次の通りである。
【0075】
Eluent:A:
0.02%リン酸二水素テトラブチルアンモニム
0.2%リン酸二水素アンモニウム、pH2.4
Eluent B:アセトニトリル
A:B=97:3
測定波長=254nm
流速:1.0mL/min
アンモニアを基質として用いた場合、酵素活性は次の通りである。反応液1mL当り野生型の5’−キサンチル酸アミナーゼは13.61単位活性(U/mL)であり、変異体G3−1は17.62単位活性(U/mL)、変異体F12−1は20.82単位活性(U/mL)、変異体F63−1は16.47(U/mL)であった。アンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体G1Cは22.64(U/mL)、G3Cは19.30(U/mL)、F12Cは22.76(U/mL)、F63Cは19.62(U/mL)であった。
【0076】
これに対し、L−グルタミンを基質として用いた場合、酵素活性は次の通りである。野生型菌株は単位液当り8.32U/mLの活性を示し、変異体G3−1は19.15(U/mL)、F12−1は4.31(U/mL)、F63−1は0.54(U/mL)の活性を示す反面、アンモニア特異的5’−キサンチル酸変異体G1Cは0.21U/mL、G3Cは0.16U/mL、F12Cは0.24U/mL、F63は0.40U/mLであった。
【0077】
前記結果より、アンモニア特異的5’−キサンチル酸変異体は、L−グルタミンを基質とする場合には5’−キサンチル酸の5’−グアニル酸への転換特性を殆ど示さないが、アンモニアを基質とする場合には相応する野生型またはランダム突然変異体に比べて約1.4〜1.7倍増進された転換活性を示すことを確認することができた(図17)。
【0078】
実施例7:アンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体の発現ベクターの細胞内安定性
アンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体の発現ベクターの細胞内安定性を比較するために、培養後に残っている発現ベクターの量を比較した。
【0079】
培養後の発現ベクターの維持量を比較するために、培養終結後に培養液を10−5に希釈し、これを、カナマイシン50g/mLを含むLB培地(Bacto−Trypton 1%、Yeast Extract1%、NaCl 0.5%)と抗生剤を含んでいないLB培地に塗抹した後、30℃で16時間培養して形成されたコロニーの数を比較した。これを相対数値化して図18に示した。
【0080】
図18に示すように、アンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体のうちG1C遺伝子を含む発現ベクターの場合、54.3%のコロニーが前記発現ベクターを含んでいるが、これに対し、野生型の5’−キサンチル酸アミナーゼの場合、36.0%のコロニーのみが前記遺伝子の発現ベクターを含んでいた。これは、アンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼの場合、細胞内に発現ベクターをさらに安定的に維持しており、その結果活性の増進が生ずることを意味する。
【0081】
〔産業上の利用可能性〕
以上説明および立証したように、本発明は、調味成分として有用な5’−グアニル酸を効果的に生産するために、5’−キサンチル酸を5’−グアニル酸に転換させる5’−キサンチル酸アミナーゼの野生型およびその活性が増進されたランダム突然変異によって製造された5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体にアンモニア特異的な性質を与えたアンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体およびその製造方法を提供する。したがって、本発明に係る5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体は、野生型に比べて活性が増進されるうえ、細胞毒性が減少して細胞内でより安定的に維持されることにより、5’−グアニル酸を生産する生物過程に有用に活用できる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
本発明の前記および他の目的、特徴およびその他の利点は、添付図面を参照する次の詳細な説明からさらに明確に理解されるであろう。
【図1】ランダム突然変異導入を介して5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体ライブラリを製造し、高活性の5’−キサンチル酸アミナーゼをスクリーニングする方法を概略的に示す図である。
【図2】ランダム突然変異によって製造された高活性の5’−キサンチル酸アミナーゼを常時発現させるために常時発現ベクターに導入する過程を概略的に示す図である。
【図3】高活性の5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体であるG3遺伝子を含む発現ベクターpG3を示す。
【図4】高活性の5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体であるF12遺伝子を含む発現ベクターpF12を示す。
【図5】高活性の5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体であるF63遺伝子を含む発現ベクターpF63を示す。
【図6】高活性の5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体であるG3−1遺伝子を含む発現ベクターpCJ−G3−1を示す。
【図7】高活性の5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体であるF12−1遺伝子を含む発現ベクターpCJ−F12−1を示す。
【図8】高活性の5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体であるF63−1遺伝子を含む発現ベクターpCJ−F63−1を示す。
【図9】野生型5’−キサンチル酸アミナーゼの遺伝子であるG1遺伝子を含む発現ベクターpCJ1−G1を示す。
【図10】高活性の5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体であるG3−1遺伝子を含む発現ベクターpCJ1−G3−1を示す。
【図11】高活性の5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体であるF12−1遺伝子を含む発現ベクターpCJ1−F12−1を示す。
【図12】高活性の5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体であるF63−1遺伝子を含む発現ベクターpCJ1−F63−1を示す。
【図13】アンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体であるG1C遺伝子を含む発現ベクターpCJ1−G1Cを示す。
【図14】アンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体であるG3C遺伝子を含む発現ベクターpCJ1−G3Cを示す。
【図15】アンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体であるF12C遺伝子を含む発現ベクターpCJ1−F12Cを示す。
【図16】アンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体であるF63C遺伝子を含む発現ベクターpCJ1−F63Cを示す。
【図17】大腸菌の野生型5’−キサンチル酸アミナーゼ(G1)、本発明の実施例によって製造された大腸菌由来の5’−キサンチル酸アミナーゼのランダム突然変異体(G3−1、F12−1、F63−1)、およびアンモニア特異的突然変異体(G1C、G3C、F12C、F63C)のアンモニアまたはL−グルタミンを基質とした場合の培養液当りの単位活性を示す図である。図面において、Ammoはアンモニアを基質としたときの単位活性であり、Glnはグルタミンを基質としたときの単位活性である。
【図18】野生型5’−キサンチル酸アミナーゼの遺伝子(G1)を含む発現ベクターと、前記G1遺伝子の86番目のアミノ酸残基であるシステインをアラニンで置換したアンモニア特異的なG1C遺伝子を含む発現ベクターとの安定性を比較して示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
野生型大腸菌、または増進された活性を持つように変異された大腸菌由来の5’−キサンチル酸アミナーゼの86番のアミノ酸残基を、アラニン、セリンおよびグリシンよりなる群から選ばれるアミノ酸で置換して製造される、アンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体。
【請求項2】
増進された活性を持つように変異された大腸菌由来の5’−キサンチル酸アミナーゼは、配列番号4、6、8、10、12または14のアミノ酸配列を持つことを特徴とする、請求項1に記載の変異体。
【請求項3】
前記5’−キサンチル酸アミナーゼの86番のアミノ酸残基をアラニンで置換して製造されることを特徴とする、請求項1または2に記載の変異体。
【請求項4】
配列番号16、18、20または22のアミノ酸配列を持つ、アンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体。
【請求項5】
請求項4に記載の5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体をコードする核酸分子。
【請求項6】
請求項5に記載の核酸分子を含む発現ベクター。
【請求項7】
請求項6に記載の発現ベクターで形質転換された原核細胞である形質転換体。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のアンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体を用いて5’−キサンチル酸を5’−グアニル酸に転換させる方法。
【請求項9】
大腸菌由来の5’−キサンチル酸アミナーゼの86番のアミノ酸残基であるシステインを他のアミノ酸で置換することを含む、実質的にグルタミンには反応せず、アンモニアにのみ特異的に反応して増加した活性で5’−キサンチル酸を5’−グアニル酸に転換させるアンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体の製造方法。
【請求項10】
5’−キサンチル酸アミナーゼの86番のアミノ酸残基を、アラニン、グリシンおよびセリンよりなる群から選ばれるアミノ酸で置換することを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項1】
野生型大腸菌、または増進された活性を持つように変異された大腸菌由来の5’−キサンチル酸アミナーゼの86番のアミノ酸残基を、アラニン、セリンおよびグリシンよりなる群から選ばれるアミノ酸で置換して製造される、アンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体。
【請求項2】
増進された活性を持つように変異された大腸菌由来の5’−キサンチル酸アミナーゼは、配列番号4、6、8、10、12または14のアミノ酸配列を持つことを特徴とする、請求項1に記載の変異体。
【請求項3】
前記5’−キサンチル酸アミナーゼの86番のアミノ酸残基をアラニンで置換して製造されることを特徴とする、請求項1または2に記載の変異体。
【請求項4】
配列番号16、18、20または22のアミノ酸配列を持つ、アンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体。
【請求項5】
請求項4に記載の5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体をコードする核酸分子。
【請求項6】
請求項5に記載の核酸分子を含む発現ベクター。
【請求項7】
請求項6に記載の発現ベクターで形質転換された原核細胞である形質転換体。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のアンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体を用いて5’−キサンチル酸を5’−グアニル酸に転換させる方法。
【請求項9】
大腸菌由来の5’−キサンチル酸アミナーゼの86番のアミノ酸残基であるシステインを他のアミノ酸で置換することを含む、実質的にグルタミンには反応せず、アンモニアにのみ特異的に反応して増加した活性で5’−キサンチル酸を5’−グアニル酸に転換させるアンモニア特異的5’−キサンチル酸アミナーゼ変異体の製造方法。
【請求項10】
5’−キサンチル酸アミナーゼの86番のアミノ酸残基を、アラニン、グリシンおよびセリンよりなる群から選ばれるアミノ酸で置換することを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公表番号】特表2009−519035(P2009−519035A)
【公表日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−545497(P2008−545497)
【出願日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際出願番号】PCT/KR2006/005475
【国際公開番号】WO2007/069861
【国際公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【出願人】(508064724)シージェイ チェイルジェダン コーポレイション (32)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際出願番号】PCT/KR2006/005475
【国際公開番号】WO2007/069861
【国際公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【出願人】(508064724)シージェイ チェイルジェダン コーポレイション (32)
【Fターム(参考)】
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