説明

アンモニア電解合成方法とアンモニア電解合成装置

【課題】水と窒素とからアンモニアを電解合成する場合において、酸素発生陽極として用いる電極の材料と構造に自由度が得られるアンモニア電解合成方法とアンモニア電解合成装置を提供する。
【解決手段】アンモニア電解合成方法は、(a)溶融されたアルカリ金属元素の水酸化物および/またはアルカリ土類金属元素の水酸化物を含む溶融水酸化物110からなる電解浴を準備するステップと、(b)電解浴中に陰極140と陽極130とを配置するステップと、(c)陰極140上で陰極140と陽極130との間に、電解浴中のアルカリ金属元素のイオンおよび/またはアルカリ土類金属元素のイオンが還元される電位を得るための電圧を、陰極140と陽極130との間に印加して通電するステップと、(d)ステップ(c)で還元されたアルカリ金属元素および/またはアルカリ土類金属元素を用いて、窒化物を生成させるステップと、(e)ステップ(d)において生成した窒化物に水蒸気を接触させるステップとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニア電解合成方法とアンモニア電解合成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アンモニアはハーバーボッシュ法により大規模に製造されている。ハーバーボッシュ法は、水素ガスと窒素ガスからアンモニアを合成する方法であり、Fe、FeO、Fe等にAl及びKOを含む鉄系の三元系触媒の存在下、水素ガスと窒素ガスとを反応させることによってアンモニアを製造する方法である。
【0003】
しかしながら、当該ハーバーボッシュ法は高温・高圧でアンモニアを合成する方法であるため、エネルギー消費量や設備規模が巨大である。しかも炭化水素の水蒸気改質によって水素ガスを得る際に多量のCOを排出するという問題がある。
【0004】
上記問題を改善する方法として、炭化水素を用いない方法の開発が挙げられる。例えば、伊藤靖彦、「常圧アンモニア電解合成−アンモニアエコノミーの基盤技術−」、溶融塩および高温化学、2003年、Vol.46、No.2、p.97−118(非特許文献1、以下「非特許文献1」とする)には、常圧下で水と窒素とからアンモニアを電解合成する方法が記載されている。この方法は、電解浴としてアルカリ金属ハライドなどの溶融塩を用いており、陰極では窒素ガスの還元により窒化物イオン(N3−)を生成させ、これを溶融塩中で水(水蒸気)と反応させることによりアンモニアを生成する。陽極では、このアンモニア生成反応に際して副生する酸化物イオン(O2−)が酸化されて酸素ガスが発生する。なお、各反応は次のように例示される。
【0005】
陰極反応:N+6e → 2N3−
溶融塩中:3HO+2N3− → 2NH+3O2−
陽極反応:3O2− → (3/2)O+6e
全反応 :N+3HO → 2NH+(3/2)O
【0006】
非特許文献1に記載されたアンモニア電解合成法は、ハーバーボッシュ法と比べて温和且つ消費エネルギーが低減された条件で水と窒素からアンモニアを電解合成できる。また、炭化水素を用いて水素ガスを製造する必要がないため、多量のCOを排出する問題がない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】伊藤靖彦、「常圧アンモニア電解合成−アンモニアエコノミーの基盤技術−」、溶融塩および高温化学、2003年、Vol.46、No.2、p.97−118
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、非特許文献1に具体的に開示されているような、従来の電解合成法では、電解浴として、アルカリ金属ハライドなどの溶融塩が用いられている。このようなアルカリ金属ハライドなどの溶融塩では、陽極での酸素発生を行う場合、陽極自体の損耗を防ぐために導電性のセラミクスやダイヤモンドなどを利用する必要があった。このことは、工業的規模でアンモニア合成を行う際に陽極材料の選択や陽極構造の設計が制限されることにつながるため、陽極の材料開発にブレークスルーが必要と考えられる。
【0009】
そこで、この発明の目的は、水と窒素とからアンモニアを電解合成する場合において、酸素発生陽極として用いる電極の材料と構造に自由度が得られ、さらに従来の電解合成法と比較して大幅な低温化が可能になる、アンモニア電解合成方法とアンモニア電解合成装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意検討の結果、溶融水酸化物系の電解浴を用いることによって、従来のアンモニア電解合成法とは異なる反応メカニズムに基づいた、酸素発生陽極として用いる電極の材料と構造に自由度が得られるアンモニア合成方法を見出した。
【0011】
このような本発明者の知見に基づいて、この発明の一つの局面に従ったアンモニア電解合成方法は、(a)から(e)のステップを備える。ステップ(a)は、溶融されたアルカリ金属元素の水酸化物および/またはアルカリ土類金属元素の水酸化物を含む溶融水酸化物からなる電解浴を準備するステップである。ステップ(b)は、電解浴中に陰極と陽極とを配置するステップである。ステップ(c)は、陰極上で電解浴中のアルカリ金属元素のイオンおよび/またはアルカリ土類金属元素のイオンが還元される電位を得るための電圧を、陰極と陽極との間に印加して通電するステップである。ステップ(d)は、ステップ(c)で還元されたアルカリ金属元素および/またはアルカリ土類金属元素を用いて、アルカリ金属元素の窒化物および/またはアルカリ土類金属元素の窒化物を生成させるステップである。ステップ(e)は、ステップ(d)で生成した窒化物に水蒸気を接触させるステップである。
【0012】
このアンモニア電解合成方法では、まず、ステップ(a)として、溶融されたアルカリ金属元素の水酸化物および/またはアルカリ土類金属元素の水酸化物を含む溶融水酸化物からなる電解浴を準備し、ステップ(b)として、電解浴中に陰極と陽極とを配置する。
【0013】
次に、ステップ(c)として、アルカリ金属元素の水酸化物および/またはアルカリ土類金属元素の溶融水酸化物からなる電解浴中において、陰極上で電解浴中のアルカリ金属元素のイオンおよび/またはアルカリ土類金属元素のイオンが還元される電位を得るための電圧を、陰極と陽極との間に印加して通電する。このようにすることにより、陰極では、アルカリ金属元素のイオンおよび/またはアルカリ土類金属元素が還元されて、金属状態のアルカリ金属元素および/またはアルカリ土類金属元素が析出する。例えば、アルカリ金属元素としてリチウム(Li)を用いる場合には、陰極では次のような反応が起きる。
【0014】
(陰極反応):3Li+3e → 3Li
【0015】
析出した金属状態のアルカリ金属元素および/またはアルカリ土類金属元素は、次に説明するステップ(d)の窒化物生成反応において、窒素を還元して窒化物を生成するための還元剤として働く。ここで生成する金属Liは、金属Liの融点(180℃)以上で電解を行って液相で扱っても良く、あるいはより低温で電解を行って固相の金属Liとして扱っても良い。ただし、生成した金属Liが陽極で副生する水と接触する可能性のある場合には、カストナー法のように金属Liの収率を低下させる恐れがあるため、陰極上に析出する金属Liは速やかに回収するのが良く、液相で取り扱うのがより好ましい。
【0016】
ステップ(d)においては窒素を還元させる。窒素は、上述の陰極反応によって析出した金属状態のアルカリ金属元素および/またはアルカリ土類金属元素を用いて還元させる。
【0017】
窒素を還元させるステップ(d)は、上述のステップ(c)の後続反応であり、ステップ(c)が行われた場所とは異なる別の場所で進行させるのがよい。
【0018】
窒素を、金属状態のアルカリ金属元素および/またはアルカリ土類金属元素を用いて、例えば金属状態のアルカリ金属元素および/またはアルカリ土類金属元素に窒素を接触させることで、アルカリ金属元素の窒化物および/またはアルカリ土類金属元素の窒化物が生成する。例えば、アルカリ金属元素としてLiを用いる場合には、LiNが生成される。
【0019】
(窒化物生成反応):3Li+(1/2)N → Li
【0020】
上述の窒化物生成反応により生成した窒化物(例えばアルカリ金属元素としてリチウムを用いる場合にはLiN)と、水蒸気、すなわち、水との反応により、アンモニアが生成する。
【0021】
(アンモニア生成反応):LiN+3HO → NH+3LiOH
【0022】
一方、陽極では、溶融水酸化物中の水酸化物イオン(OH)が酸化されて酸素が発生する。
【0023】
陽極反応:3OH → (3/4)O+(3/2)HO+3e
【0024】
このアンモニア電解合成方法における全反応は次の通りであり、窒素と水からアンモニアが生成する。
【0025】
全反応:(1/2)N+(2/3)HO → NH+(3/4)O
【0026】
このように、本発明に従ったアンモニア電解合成方法によれば、アルカリ金属元素および/またはアルカリ土類金属元素の水酸化物を電解浴に用いることによって、従来と比較して、酸素発生陽極として用いる電極の材料と構造に自由度が得られ、さらに従来の電解合成法と比較して大幅な低温化が可能になる。
【0027】
このようにすることにより、水と窒素とからアンモニアを電解合成する場合において、酸素発生陽極として用いる電極の材料と構造に自由度が得られるアンモニア電解合成方法を提供することができる。
【0028】
また、この発明に従ったアンモニア電解合成方法においては、ステップ(d)は、還元されたアルカリ金属元素および/またはアルカリ土類金属元素に窒素を接触させることによって行われることが好ましい。
【0029】
このようにすることにより、還元されて金属として析出したアルカリ金属元素および/またはアルカリ土類金属元素を還元剤として、窒素を還元してアルカリ金属元素の窒化物および/またはアルカリ土類金属元素の窒化物を生成することができる。
【0030】
また、この発明に従ったアンモニア電解合成方法においては、ステップ(d)は、電解浴の外部において行われることが好ましい。
【0031】
このようにすることにより、陽極230で副生した水107が、陰極で直接還元されたり、陰極で金属として析出したアルカリ金属元素および/またはアルカリ土類金属元素と反応して、これらを消費させることを防ぐことができる。
【0032】
この発明に従ったアンモニア電解合成方法においては、窒素を還元させるステップにおいて生成した窒化物に水蒸気を接触させるステップ(e)は、電解浴の外部において行われることが好ましい。
【0033】
このようにすることにより、窒素と未反応のアルカリ金属元素および/またはアルカリ土類金属元素と、アンモニア生成反応のために供給された水蒸気との反応を防ぐことができる。
【0034】
この発明に従ったアンモニア電解合成方法においては、アルカリ金属の水酸化物はLiOH、NaOH、KOH、RbOH、および、CsOHのうちの少なくとも1つであることが好ましい。
【0035】
この発明に従ったアンモニア電解合成方法においては、アルカリ土類金属の水酸化物はMg(OH)、Ca(OH)、Sr(OH)、および、Ba(OH)のうちの少なくとも1つであることが好ましい。
【0036】
また、Al(OH)に例示されるように、陰極上に析出した金属(Al)が窒化物(AlN)を形成し、その窒化物と水との反応によりアンモニアが生成するような、金属元素の水酸化物も利用できる。
【0037】
この発明に従ったアンモニア電解合成方法においては、アルカリ金属の水酸化物は、LiOHを10〜50mol%、NaOHを90〜50mol%の割合で含むことが好ましい。
【0038】
このようにすることにより、電解浴の融点を210℃にまで下げることができる。アルカリ金属の水酸化物は、LiOHを20〜35mol%、NaOHを80〜65mol%の割合で含むことがより好ましい。
【0039】
この発明に従ったアンモニア電解合成方法においては、アルカリ金属の水酸化物はLiOHを20〜50mol%、KOHを80〜50mol%の割合で含むことが好ましい。
【0040】
このようにすることにより、電解浴の融点を227℃にまで下げることができる。アルカリ金属の水酸化物は、LiOHを25〜35mol%、KOHを75〜65mol%の割合で含むことがより好ましい。
【0041】
この発明に従ったアンモニア電解合成方法においては、アルカリ金属の水酸化物はLiOHを5〜40mol%、NaOHを30〜60mol%、KOHを40〜70mol%の割合で含むことが好ましい。
【0042】
このようにすることにより、電解浴の融点を200℃以下にまで下げることができる。
【0043】
この発明に従ったアンモニア電解合成方法においては、アルカリ金属の水酸化物はNaOHを30〜70mol%、KOHを70〜30mol%の割合で含むことが好ましい。
【0044】
このようにすることにより、電解浴の融点を170℃にまで下げることができる。アルカリ金属の水酸化物は、NaOHを45〜55mol%、KOHを55〜45mol%の割合で含むことがより好ましい。
【0045】
この発明の別の局面に従ったアンモニア電解合成装置は、溶融水酸化物浴部と、陽極と、陰極と、窒素供給部と、窒素還元部と、水蒸気供給部とを備える。
【0046】
溶融水酸化物浴部は、溶融されたアルカリ金属元素の水酸化物および/またはアルカリ土類金属元素の水酸化物を含む溶融水酸化物を収容するものである。陽極と陰極は、溶融水酸化物浴部中に配置されて、陰極上で電解浴中のアルカリ金属元素のイオンおよび/またはアルカリ土類金属元素のイオンが還元される電位を得るための電圧が、陰極と陽極との間に印加されるものである。窒素供給部は、アルカリ金属元素および/またはアルカリ土類金属元素に接触するように窒素を供給するものである。窒素還元部は、窒素供給部によって供給される窒素を還元させて窒化物を生成させるものである。水蒸気供給部は、窒素還元部において生成された窒化物に水蒸気を供給するものである。
【0047】
このようにすることにより、水と窒素とからアンモニアを電解合成する場合において、酸素発生陽極として用いる電極の材料と構造に自由度が得られ、さらに従来の電解合成法と比較して大幅な低温化が可能になる、アンモニア電解合成装置を提供することができる。
【0048】
この発明に従ったアンモニア電解合成装置においては、窒素還元部は、還元されたアルカリ金属元素および/またはアルカリ土類金属元素によって構成されていることが好ましい。
【0049】
このようにすることで、陰極還元反応により金属として析出したアルカリ金属元素および/またはアルカリ土類金属元素を還元剤として、窒素を還元して窒化物を生成することができる。
【0050】
この発明に従ったアンモニア電解合成装置は、溶融水酸化物浴部と別個に形成される窒素被供給浴部と水蒸気被供給浴部とを備えることが好ましい。窒素被供給浴部は、溶融水酸化物浴部中において析出するアルカリ金属元素および/またはアルカリ土類金属元素を収容するためのものである。窒素供給部は、窒素被供給浴部中に窒素を供給するように構成されていることが好ましい。水蒸気被供給浴部は、窒素被供給浴部中において窒素を供給されて生成したアルカリ金属元素の窒化物および/またはアルカリ土類金属元素の窒化物を収容するためのものである。水蒸気供給部は、水蒸気被供給浴部中に水蒸気を供給するように構成されていることが好ましい。
【0051】
このようにすることにより、陽極230で副生した水107が、陰極で直接還元されたり、陰極で金属として析出したアルカリ金属元素および/またはアルカリ土類金属元素と反応して、これらを消費させることを防ぐことができる。
【0052】
このようにすることにより、窒素と未反応のアルカリ金属元素および/またはアルカリ土類金属元素と、アンモニア生成反応のために供給された水蒸気との反応を防ぐことができる。
【0053】
この発明に従ったアンモニア電解合成装置は、陽極で副生する水が陰極に到達することを防ぐための水拡散抑制部を備えることが好ましい。
【0054】
このようにすることにより、水が陰極に到達してアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の陰極析出反応の電流効率を低下させることを防ぐことができる。
【0055】
この発明に従ったアンモニア電解合成装置においては、水拡散抑制部は、金属またはセラミクスによって形成される多孔質または網状の膜によって構成されていることが好ましい。
【0056】
この発明に従ったアンモニア電解合成装置においては、アルカリ金属の水酸化物はLiOH、NaOH、KOH、RbOH、および、CsOHのうちの少なくとも1つであることが好ましい。
【0057】
この発明に従ったアンモニア電解合成装置においては、アルカリ土類金属の水酸化物はMg(OH)、Ca(OH)、Sr(OH)、および、Ba(OH)のうちの少なくとも1つであることが好ましい。
【0058】
この発明に従ったアンモニア電解合成装置においては、アルカリ金属の水酸化物は、LiOHを10〜50mol%、NaOHを90〜50mol%の割合で含むことが好ましい。
【0059】
このようにすることにより、電解浴の融点を210℃にまで下げることができる。アルカリ金属の水酸化物は、LiOHを20〜35mol%、NaOHを80〜65mol%の割合で含むことがより好ましい。
【0060】
この発明に従ったアンモニア電解合成装置においては、アルカリ金属の水酸化物はLiOHを20〜50mol%、KOHを80〜50mol%の割合で含むことが好ましい。
【0061】
このようにすることにより、電解浴の融点を227℃にまで下げることができる。アルカリ金属の水酸化物は、LiOHを25〜35mol%、KOHを75〜65mol%の割合で含むことがより好ましい。
【0062】
この発明に従ったアンモニア電解合成装置においては、アルカリ金属の水酸化物はLiOHを5〜40mol%、NaOHを30〜60mol%、KOHを40〜70mol%の割合で含むことが好ましい。
【0063】
このようにすることにより、電解浴の融点を200℃以下にまで下げることができる。
【0064】
この発明に従ったアンモニア電解合成装置においては、アルカリ金属の水酸化物はNaOHを30〜70mol%、KOHを70〜30mol%の割合で含むことが好ましい。
【0065】
このようにすることにより、電解浴の融点を170℃にまで下げることができる。アルカリ金属の水酸化物は、NaOHを45〜55mol%、KOHを55〜45mol%の割合で含むことがより好ましい。
【発明の効果】
【0066】
以上のように、この発明によれば、酸素発生陽極として用いる電極の材料と構造に自由度が得られ、さらに従来の電解合成法と比較して大幅な低温化が可能になる、アンモニア電解合成方法とアンモニア電解合成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の実施形態のアンモニア電解合成装置の全体を模式的に示す図である。
【図2】本発明の実施形態のアンモニア電解合成装置の陰極部の他の一例を模式的に示す図である。
【図3】本発明の実施形態のアンモニア電解合成装置の陰極部の他の一例を模式的に示す図である。
【図4】LiOHを主成分とする溶融アルカリ金属水酸化物浴中でのNi電極のボルタモグラム(走査速度50mV/秒)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0068】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0069】
図1に示すように、この発明の1つの実施形態のアンモニア電解合成装置は、主に、溶融されたアルカリ金属元素および/またはアルカリ土類金属元素の水酸化物を含む溶融水酸化物210を収容する溶融水酸化物浴部220と窒素被供給浴部221と水蒸気被供給浴部222と、陽極230と陰極240と窒素供給部250と窒素還元部260と水蒸気供給部270とアンモニア回収部280と移送部223と移送部224と移送部261を備える。
【0070】
なお、この発明に従ったアンモニア電解合成装置は、陽極230で副生する水が陰極240に到達することを防ぐための水拡散抑制部として、例えば、陽極230と陰極240との間に配置される隔膜を備えていてもよい。隔膜としては、金属製やセラミクス製の多孔状、あるいは網状の膜を用いればよい。
【0071】
この実施形態においては、一例として、アルカリ金属元素としてリチウム(Li)を用いるものとする。
【0072】
<電解浴>
溶融水酸化物浴部210中の電解浴の主成分は、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物の少なくとも一種である。アルカリ金属水酸化物としては、LiOH、NaOH、KOH、RbOH、CsOHが挙げられる。アルカリ土類金属水酸化物としては、Mg(OH)、Ca(OH)、Sr(OH)、Ba(OH)、Mg(OH)、が挙げられる。これらの化合物は単独又は二種以上を組み合わせて使用できる。化合物の組み合わせや混合比は限定的ではなく、溶融塩の所望の作動温度等に応じて適宜設定する。
【0073】
電解浴の温度は限定的ではないが、150〜400℃が好ましく、180〜300℃がより好ましい。
【0074】
アルカリ金属の水酸化物は、LiOHを10〜50mol%、NaOHを90〜50mol%の割合で含むことが好ましい。
【0075】
このようにすることにより、電解浴の融点を210℃にまで下げることができる。アルカリ金属の水酸化物は、LiOHを20〜35mol%、NaOHを80〜65mol%の割合で含むことがより好ましい。
【0076】
また、アルカリ金属の水酸化物はLiOHを20〜50mol%、KOHを80〜50mol%の割合で含むことが好ましい。
【0077】
このようにすることにより、電解浴の融点を227℃にまで下げることができる。アルカリ金属の水酸化物は、LiOHを25〜35mol%、KOHを75〜65mol%の割合で含むことがより好ましい。
【0078】
また、アルカリ金属の水酸化物はLiOHを5〜40mol%、NaOHを30〜60mol%、KOHを40〜70mol%の割合で含むことが好ましい。
【0079】
このようにすることにより、電解浴の融点を200℃以下にまで下げることができる。
【0080】
また、アルカリ金属の水酸化物はNaOHを30〜70mol%、KOHを70〜30mol%の割合で含むことが好ましい。
【0081】
このようにすることにより、電解浴の融点を170℃にまで下げることができる。アルカリ金属の水酸化物は、NaOHを45〜55mol%、KOHを55〜45mol%の割合で含むことがより好ましい。
【0082】
このように、この発明の1つの実施形態のアンモニア電解合成装置で行われるアンモニア電解合成方法では、まず、ステップ(a)として、溶融されたアルカリ金属元素の水酸化物および/またはアルカリ土類金属元素の水酸化物を含む溶融水酸化物210からなる電解浴を準備し、ステップ(b)として、電解浴中に陰極240と陽極230とを配置する。
【0083】
次に、ステップ(c)として、溶融水酸化物浴部220内のアルカリ金属元素の水酸化物および/またはアルカリ土類金属元素の溶融水酸化物210からなる電解浴中において、陰極240と陽極230との間に、陰極上で電解浴中のアルカリ金属元素のイオンおよび/またはアルカリ土類金属元素のイオンが還元される電位が得られる電圧を印加して通電する。
【0084】
以下、アンモニア電解合成装置内で生じる反応について説明する。
【0085】
<陰極>
陰極240では、Liが還元されて金属Liが析出する。陰極240の周囲には析出した金属Liが浴中に霧散することを防ぐための隔壁225が設けられているのが好ましい。
【0086】
陰極240の材質としては、Liを還元して金属Liを生成できる金属や合金であればよく、例えばNiやFeを含むものが好ましい。また析出した金属Liとの間で合金を形成するものであっても、電極自体が損耗したりLiの還元反応を妨げたりしないものであれば利用でき、例えばAlやSnなどが挙げられる。
【0087】
<窒化物生成反応>
陰極240で析出した金属Liは、溶融水酸化物浴部220外に設けた窒素被供給浴部221へと速やかに移送され、窒素供給部250によって供給された窒素ガス101と反応して、Liの窒化物(LiN)102を生成する。
【0088】
窒素被供給浴部221は、陰極240において析出し回収された金属Liを収容するためのものである。陰極240において析出する金属Liは、窒素還元部260を構成する物質の一例である。陰極240において析出した金属Liは、移送部261によって速やかに窒素被供給浴部221へ移送される。移送部261は、金属Liを移送できるものであれば、どのような構成のものであってもよい。
【0089】
窒素供給部250は、窒素被供給浴部221中に窒素を供給するように構成されている。窒素被供給浴部250内に窒素が供給されることによって、LiNが生成する。生成されたLiNは、移送部223によって窒素被供給浴部221から水蒸気被供給浴部222へ移送される。移送部223は、窒素被供給浴部221内で生成されたLiNを移送できるものであれば、どのような構成のものであってもよい。
【0090】
また、この窒素供給部250では、以上のように金属Liと窒素ガスとを直接反応させてもよいし、溶融塩化物などを電解浴として用い、この電解浴中に金属Li電極を負極、窒素ガス電極を正極として設置して、次の電池反応により電気化学的にLiNを生成してもよい。
【0091】
(負極):3Li → 3Li+3e
(正極):(1/2)N+3e → N3−
【0092】
この反応は自発的に進行し0.3V〜0.5V程度の電圧を回収することができる。この際の電解浴としては、回収したアルカリ金属元素のハロゲン化物単体、もしくは他のハロゲン化物との混合物を溶融させたものが使用できる。
【0093】
以上のように、アンモニア電解合成装置におけるアンモニア電解合成方法では、ステップ(d)として、窒素101と、陰極で生成したアルカリ金属元素および/またはアルカリ土類金属元素とを反応させて窒化物を生成させる。
【0094】
<アンモニア生成反応>
窒素被供給浴部221で生成したLiNは、溶融水酸化物浴部220外に設けた水蒸気被供給浴部222へと速やかに移送され、水蒸気供給部270によって供給された水蒸気103と反応して、アンモニア104を生成する。
【0095】
水蒸気被供給浴部222は、窒素被供給浴部221中において窒素を供給されて生成したLiNを収容するためのものである。
【0096】
水蒸気供給部270は、水蒸気被供給浴部222中に水蒸気を供給するように構成されている。水蒸気被供給浴部222内のLiNに水蒸気が供給されることによって、アンモニアが生成する。
【0097】
水蒸気被供給浴部222には、生成したアンモニアをアンモニア電解合成装置の外部に移送するためのアンモニア回収部280が配置されている。得られたアンモニアはアンモニア回収部280によってアンモニア電解合成装置の外部に移送される。アンモニア生成と同時に得られるLiOHは、移送部224を通して溶融水酸化物浴部220に移送することで、再度電解浴として利用することができる。移送部224は、LiOHを移送できるものであれば、どのような構成のものであってもよい。
【0098】
このように、ステップ(e)として、窒素101を還元させるステップ(d)において生成された窒化物102と水蒸気103とを反応させることにより、アンモニア104が生成する。
【0099】
<陽極>
陽極230では、水酸化物イオン(OH)105が酸化されて酸素106が発生する。
【0100】
陽極230の材質としては、水酸化物イオン(OH)105を酸化して酸素106を発生させ得る導電性物質(金属や導電性セラミックスなど)であれば特に限定されず、例えばNiが挙げられる。
【0101】
ここで同時に生成する水107については、電解浴中より比較的速やかに蒸発するが、水107が陰極240付近に到達した場合、陰極240で水107が還元されることや、陰極240で生成した金属Liと反応して金属Liを消費すること等により、陰極240での金属Liの生成反応の電流効率が低下する可能性が高い。そこで、陽極230で生成する水107の陰極240への到達を妨げる、あるいは、陽極230で生成する水が陰極240近傍に到達してもアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の陰極析出反応を阻害しないような工夫が必要になる。
【0102】
陽極230において生成される水107の陰極240への到達を妨げる方法として、不活性ガス等によるバブリングにより、水の蒸発を促進させることが好ましい。
【0103】
また、陽極230において生成される水107が陰極240に到達することを防ぐために、水拡散抑制部として陽極230と陰極240との間に隔膜190を設けてもよい。隔膜190としては、金属製やセラミクス製の多孔状、あるいは網状の膜でよい。隔膜190を設けることにより、陽極230から陰極240への水の到達量を大幅に減少させることができる。
【0104】
また電解浴の作動温度において使用可能な水酸化物イオン導電性の膜が開発された場合には、これを利用してもよい。これにより、陽極230から陰極240の近傍への水の到達量を大幅に低減することができる。
【0105】
以上のように、アンモニア電解合成装置で行われるアンモニア電解合成方法は、(a)から(e)のステップを備える。ステップ(a)は、溶融されたアルカリ金属元素の水酸化物および/またはアルカリ土類金属元素の水酸化物を含む溶融水酸化物210からなる電解浴として溶融水酸化物浴部220を準備するステップである。ステップ(b)は、溶融水酸化物浴部220の電解浴中に陰極240および陽極230を配置するステップである。ステップ(c)は、陰極240と陽極230との間に、陰極上で電解浴中のアルカリ金属元素のイオンおよび/またはアルカリ土類金属元素のイオンが還元される電位が得られる電圧を印加して通電するステップである。ステップ(d)は、窒素101を、還元されたアルカリ金属元素および/またはアルカリ土類金属元素と接触させた状態において、還元させて窒化物102を生成させるステップである。ステップ(e)は、窒素101を還元させるステップにおいて生成した窒化物102に水蒸気103を接触させるステップである。
【0106】
アルカリ金属元素および/またはアルカリ土類金属元素の水酸化物を電解浴に用いることによって、酸素発生陽極として用いる電極の材料と構造に自由度が得られ、さらに従来の電解合成法と比較して大幅な低温化が可能になる。
【0107】
このようにすることにより、水蒸気103と窒素101とからアンモニア104を電解合成する場合において、酸素発生陽極として用いる電極の材料と構造に自由度が得られ、さらに従来の電解合成法と比較して大幅な低温化が可能になる、アンモニア電解合成方法を提供することができる。
【0108】
また、アンモニア電解合成装置で行われるアンモニア電解合成方法においては、窒素101を還元させて窒化物102を生成させるステップ(d)は、還元されたアルカリ金属元素および/またはアルカリ土類金属元素に窒素101を接触させることによって行われることが好ましい。
【0109】
このようにすることにより、還元されて金属として析出したアルカリ金属元素および/またはアルカリ土類金属元素を還元剤として、窒素101を還元して窒化物102を生成することができる。
【0110】
また、アンモニア電解合成装置で行われているアンモニア電解合成方法においては、窒素101を還元させて窒化物102を生成させるステップ(d)は、溶融水酸化物浴部220の電解浴の外部において行われる。
【0111】
このようにすることにより、陽極230で副生した水107が、陰極で直接還元されたり、陰極で金属として析出したアルカリ金属元素および/またはアルカリ土類金属元素と反応して、これらを消費させることを防ぐことができる。
【0112】
さらに、アンモニア電解合成装置で行われているアンモニア電解合成方法においては、窒素を還元させるステップにおいて生成した窒化物に水蒸気を接触させるステップ(e)は、溶融水酸化物浴部220の電解浴の外部において行われる。
【0113】
このようにすることにより、窒素と未反応のアルカリ金属元素および/またはアルカリ土類金属元素と、アンモニア生成反応のために供給された水蒸気との反応を防ぐことができる。
【0114】
また、以上のように、アンモニア電解合成装置は、溶融水酸化物浴部220と、陽極230と、陰極240と、窒素供給部250と、窒素還元部260と、水蒸気供給部270とを備える。
【0115】
溶融水酸化物浴部220は、溶融されたアルカリ金属元素の水酸化物および/またはアルカリ土類金属元素の水酸化物を含む溶融水酸化物210を収容するものである。陽極230と陰極240は、溶融水酸化物浴部220中に配置されて、陰極240上で電解浴中のアルカリ金属元素のイオンおよび/またはアルカリ土類金属元素のイオンが還元される電位が得られる電圧が、陽極230と陰極240との間に印加されるものである。窒素供給部250は、還元されたアルカリ金属元素および/またはアルカリ土類金属元素に接触するように窒素101を供給するものである。窒素還元部260は、窒素供給部250によって供給される窒素101を還元させて窒化物102を生成させるものである。水蒸気供給部270は、生成された窒化物102に水蒸気103を供給するものである。
【0116】
このようにすることにより、水蒸気103と窒素101とからアンモニア104を電解合成する場合において、酸素発生陽極として用いる電極の材料と構造に自由度が得られ、さらに従来の電解合成法と比較して大幅な低温化が可能になる、アンモニア電解合成装置を提供することができる。
【0117】
また、以上のように、アンモニア電解合成装置は、溶融水酸化物浴部220と別個に形成される窒素被供給浴部221と水蒸気被供給浴部222とを備える。窒素被供給浴部221は、溶融水酸化物浴部220中において析出するアルカリ金属元素および/またはアルカリ土類金属元素を収容するためのものである。窒素供給部250は、窒素被供給浴部221中に窒素を供給するように構成されている。水蒸気被供給浴部222は、窒素被供給浴部221中において窒素を供給されて生成したアルカリ金属元素の窒化物および/またはアルカリ土類金属元素の窒化物102を収容するためのものである。水蒸気供給部270は、水蒸気被供給浴部222中に水蒸気103を供給するように構成されている。
【0118】
このようにすることにより、陽極230で副生した水107が、陰極で直接還元されたり、陰極で金属として析出したアルカリ金属元素および/またはアルカリ土類金属元素と反応して、これらを消費させることを防ぐことができる。
【0119】
このようにすることにより、窒素と未反応のアルカリ金属元素および/またはアルカリ土類金属元素と、アンモニア生成反応のために供給された水蒸気との反応を防ぐことができる。
【0120】
また、アンモニア電解合成装置は、陽極230で副生した水107が陰極240に到達することを防ぐための隔膜190を備える。
【0121】
このようにすることにより、陽極230で副生した水107が陰極140に到達して陰極反応の電流効率を低下させることを防ぐことができる。
【0122】
以上のような、アンモニア電解合成装置において、図2に示すように、溶融水酸化物浴部220の内部に配置される隔膜291によって、溶融水酸化物浴部220の内部に第2の小浴部220aを形成し、陰極240を第2の小浴部220a内に配置しても良い。陽極230と陰極240とは、隔膜291によって互いに隔離されている。
【0123】
隔膜291は、Liイオン導電性の膜であればよく、LiO−SiO−LaなどのLiイオン導電性ガラスが例示できる。
【0124】
このLiイオン導電性材料を利用する場合、溶融水酸化物210中のLiは隔膜291を透過し、隔膜291で仕切られた第2の小浴部220aの内側で金属Liに還元される。
【0125】
図2のように隔膜291で仕切られた第2の小浴部220aの内側を液相の金属Liで満たし、この金属Li自体を陰極240として用いれば、隔膜291を透過してきたLiを隔膜291の壁の内側表面上で即座に還元することができる。
【0126】
このようにすることで、小浴部220a内において、100%に近い電流効率で金属リチウムを析出させることができる。
【0127】
また、隔膜291で仕切られた第2の小浴部220aの内側に、LiClなどのLiのアルカリハライドを含む溶融塩を保持し、ここに浸漬させた陰極上で金属Liを析出させてもよい。
【0128】
第2の小浴部220a中で析出した金属Liは、移送部261によって図1のように溶融水酸化物浴部220外に設けた窒素被供給浴部へと速やかに移送される。
【0129】
あるいは、以上のような、アンモニア電解合成装置において、図3に示すように、溶融水酸化物浴部220と接するように隔膜292を配置し、その内側を窒素被供給浴部323としても良い。
【0130】
この場合、窒素被供給浴部323内には、溶融塩化物等が収容されている。窒素供給部350は、隔膜292の溶融塩化物側表面390a側に形成される領域に窒素を供給する。
【0131】
窒素還元部360は、窒素被供給浴部323内の溶融塩化物の中に配置されている窒素ガス還元電極であり、窒素供給部350はこの窒素ガス還元電極に窒素を供給する。溶融水酸化物浴部220中に配置される陽極230と窒素還元部360とは互いに接続され、窒素還元部360において窒素が直接、還元される電位を得ることができる電圧が陽極230と窒素還元部360との間に印加されている。
【0132】
溶融水酸化物浴部220と窒素被供給浴部323とを隔てる隔膜292としては、Liと合金を形成する金属を利用することができる。Liと合金を形成する金属としては、Al、Zn、Snなどが例示できる。特にZnは水素過電圧が大きく、溶融水酸化物浴と接する隔膜の表面に到達した水の電気分解が抑えられるので好ましい。溶融水酸化物浴部の隔膜は、このような、溶融水酸化物210内のアルカリ金属元素および/またはアルカリ土類金属元素と合金を形成する材質によって、アルカリ金属原子および/またはアルカリ土類金属原子が隔膜を透過することが可能であるように構成される。
【0133】
隔膜292では、溶融水酸化物浴部220と接する隔膜表面340は陰極としてはたらき、隔膜の表面340において溶融水酸化物210中のLiが還元されることによって、Liと合金を形成する。Li原子は隔膜292中を拡散し、反対側の隔膜表面390aに到達する。
【0134】
隔膜中を拡散してきたLi原子と窒素ガスとは直接反応してLiNを形成することができる。あるいは、図3のように、例えば溶融塩化物を電解浴として、ここに窒素ガス電極を設置すれば、Li原子を含む隔膜表面390aが負極としてはたらき、窒素ガス電極が正極としてはたらくことで、電解浴中に窒化物イオン(N3−)が生成する。
【0135】
このようにすることで、図1の場合の陰極240と陽極230間の印加電圧に相当する、窒素還元部360と陽極230間に印加する電圧を、図1の場合に比べ、0.3V〜0.5V程度削減することができる。また、溶融水酸化物浴部220外に設けた窒素被供給浴部へ、金属Liを移送する工程も不要になる。
【0136】
ここで生成したN3−は、電解浴とともに、溶融水酸化物浴部220外に設けた水蒸気被供給部へと移送してもよいが、図3のようにN3−の溶解度限を越えて析出したLiNを水蒸気被供給部へと移送するのが好ましい。
【実施例】
【0137】
この発明のアンモニア電解合成方法におけるステップ(d)では、ステップ(c)で還元された金属Liを用いて、LiNを生成させるが、この金属Liと窒素ガスとの反応による窒化物(LiN)の形成については、これまで発明者らが行ってきた「金属Liによる窒素ガスの間接還元反応」などの研究成果により明らかとなっている。
【0138】
また、この発明のアンモニア電解合成方法におけるステップ(e)では、ステップ(d)で生成したLiNに水蒸気を接触させて、アンモニアを生成させるが、このLiNと水との反応によるアンモニアの形成についても、これまで発明者らが行ってきた「水と窒素からのアンモニア電解合成」などの研究成果により明らかとなっている。
【0139】
従って、この発明の実施形態によるアンモニア電解合成方法によってアンモニアが生成されることは、ステップ(a)並びにステップ(b)により、アルカリ金属水酸化物浴中で金属Liが電解により回収できることを示すことにより、確認することができる。
【0140】
まず、ステップ(a)として、LiOHを主成分とするアルカリ金属水酸化物浴を溶融させたものを電解浴として準備した。
【0141】
次に、ステップ(b)として、電解浴中に陰極と陽極とを配置した。陰極には円筒状に丸めたNi薄板(浸漬部6cm)を用い、これを直径13mmのアルミナ管の内壁に設置して、生成した金属リチウムが管内部の浴表面に留まるような構造とした。陽極にはNi板電極(浸漬部10cm)を用い、擬似参照極としてNi線電極を用いた。
【0142】
上記の陰極、陽極を用いて走査速度50mV/secで電位操作を行った際のボルタモグラムを図4に示す。貴な方向に走査した場合、約0.9V(vs.QRE)より酸素発生に起因する酸化電流が観測され、卑な方向に走査した場合、約−1.9V(vs.QRE)より卑な領域で、Liの生成によると考えられる還元電流が観測された。
【0143】
ステップ(c)として、同電極を用いて、2.5Aで1600秒間の電解を行った。電解後、陰極を含むアルミナ管を回収して、Ni薄板上に金属Liの析出を確認した。
【0144】
従って、上述の(a)から(e)のステップを備える本発明のアンモニア電解合成方法によって、アンモニアが生成されることが確認された。
【0145】
以上に開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。本発明の範囲は、以上の実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての修正や変形を含むものである。
【符号の説明】
【0146】
210:溶融水酸化物、220:溶融水酸化物浴部、221,323:窒素被供給浴部、222:水蒸気被供給浴部、230:陽極、240,340:陰極、250,350:窒素供給部、260,360:窒素還元部、270:水蒸気供給部、225、291,292:隔膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)溶融されたアルカリ金属元素の水酸化物および/またはアルカリ土類金属元素の水酸化物を含む溶融水酸化物からなる電解浴を準備するステップと、
(b)前記電解浴中に陰極と陽極とを配置するステップと、
(c)前記陰極上で前記電解浴中の前記アルカリ金属元素のイオンおよび/または前記アルカリ土類金属元素のイオンが還元される電位を得るための電圧を、前記陰極と前記陽極との間に印加して通電するステップと、
(d)前記ステップ(c)で還元されたアルカリ金属元素および/またはアルカリ土類金属元素を用いて、窒化物を生成させるステップと、
(e)前記ステップ(d)において生成した窒化物に水蒸気を接触させるステップとを備える、アンモニア電解合成方法。
【請求項2】
前記ステップ(d)は、前記還元されたアルカリ金属元素および/またはアルカリ土類金属元素に窒素を接触させることによって行われる、請求項1に記載のアンモニア電解合成方法。
【請求項3】
前記ステップ(d)は、前記電解浴の外部において行われる、請求項1または請求項2に記載のアンモニア電解合成方法。
【請求項4】
前記ステップ(d)において生成した窒化物に水蒸気を接触させるステップ(e)は、前記電解浴の外部において行われる、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載のアンモニア電解合成方法。
【請求項5】
前記アルカリ金属の水酸化物はLiOH、NaOH、KOH、RbOH、および、CsOHのうちの少なくとも1つである、請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載のアンモニア電解合成方法。
【請求項6】
前記アルカリ土類金属の水酸化物はMg(OH)、Ca(OH)、Sr(OH)、および、Ba(OH)のうちの少なくとも1つである、請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載のアンモニア電解合成方法。
【請求項7】
前記アルカリ金属の水酸化物は、LiOHを10〜50mol%、NaOHを90〜50mol%の割合で含む、請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載のアンモニア電解合成方法。
【請求項8】
前記アルカリ金属の水酸化物はLiOHを20〜50mol%、KOHを80〜50mol%の割合で含む、請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載のアンモニア電解合成方法。
【請求項9】
前記アルカリ金属の水酸化物はLiOHを5〜40mol%、NaOHを30〜60mol%、KOHを40〜70mol%の割合で含む、請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載のアンモニア電解合成方法。
【請求項10】
前記アルカリ金属の水酸化物はNaOHを30〜70mol%、KOHを70〜30mol%の割合で含む、請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載のアンモニア電解合成方法。
【請求項11】
溶融されたアルカリ金属元素の水酸化物および/またはアルカリ土類金属元素の水酸化物を含む溶融水酸化物を収容する溶融水酸化物浴部と、
前記溶融水酸化物浴部中に配置される陽極と陰極とを備え、
前記陽極と前記陰極は、前記陰極上で前記溶融水酸化物中の前記アルカリ金属元素のイオンおよび/または前記アルカリ土類金属元素のイオンが還元される電位を得るための電圧を、前記陰極と前記陽極との間に印加して通電されるものであり、
さらに、前記アルカリ金属元素および/またはアルカリ土類金属元素に接触するように窒素を供給する窒素供給部と、
前記窒素供給部によって供給される窒素を還元させて窒化物を生成させる窒素還元部と、
前記窒素還元部において生成された窒化物に水蒸気を供給する水蒸気供給部とを備える、アンモニア電解合成装置。
【請求項12】
前記窒素還元部は、前記還元されたアルカリ金属元素および/またはアルカリ土類金属元素によって形成されている、請求項11に記載のアンモニア電解合成装置。
【請求項13】
前記溶融水酸化物浴部と別個に形成される窒素被供給浴部と水蒸気被供給浴部とを備え、
前記窒素被供給浴部は、前記溶融水酸化物浴部中において析出するアルカリ金属元素および/またはアルカリ土類金属元素を収容するためのものであり、
前記窒素供給部は、前記窒素被供給浴部中に窒素を供給するように構成され、
前記水蒸気被供給浴部は、前記窒素被供給浴部中において窒素を供給されて生成した前記アルカリ金属元素の窒化物および/またはアルカリ土類金属の窒化物を収容するためのものであり、
前記水蒸気供給部は、前記水蒸気被供給浴部中に水蒸気を供給するように構成されている、請求項11または請求項12に記載のアンモニア電解合成装置。
【請求項14】
前記陰極に水が到達することを防ぐための水拡散抑制部を備える、請求項11から請求項13までのいずれか1項に記載のアンモニア電解合成装置。
【請求項15】
前記水拡散抑制部は、金属またはセラミクスによって形成される多孔質または網状の膜によって構成されている、請求項14に記載のアンモニア電解合成装置。
【請求項16】
前記アルカリ金属の水酸化物はLiOH、NaOH、KOH、RbOH、および、CsOHのうちの少なくとも1つである、請求項11から請求項15までのいずれか1項に記載のアンモニア電解合成装置。
【請求項17】
前記アルカリ土類金属の水酸化物はMg(OH)、Ca(OH)、Sr(OH)、および、Ba(OH)のうちの少なくとも1つである、請求項11から請求項16までのいずれか1項に記載のアンモニア電解合成装置。
【請求項18】
前記アルカリ金属の水酸化物は、LiOHを10〜50mol%、NaOHを90〜50mol%の割合で含む、請求項11から請求項15までのいずれか1項に記載のアンモニア電解合成装置。
【請求項19】
前記アルカリ金属の水酸化物はLiOHを20〜50mol%、KOHを80〜50mol%の割合で含む、請求項11から請求項15までのいずれか1項に記載のアンモニア電解合成装置。
【請求項20】
前記アルカリ金属の水酸化物はLiOHを5〜40mol%、NaOHを30〜60mol%、KOHを40〜70mol%の割合で含む、請求項11から請求項15までのいずれか1項に記載のアンモニア電解合成装置。
【請求項21】
前記アルカリ金属の水酸化物はNaOHを30〜70mol%、KOHを70〜30mol%の割合で含む、請求項11から請求項15までのいずれか1項に記載のアンモニア電解合成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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