説明

アーウィンの製造方法

【課題】 カルシウムアルミネートの生成が支配的となってアーウィンが生成し難くなるのを避ける上で、CaSO4分解温度近傍を焼成温度とした場合に起るCaSO4の分解によるアーウィン生成量の低下と変動を抑制し、また過剰量のCaSO4を使用することなく、安定した品質と生成量で効率良くアーウィンを容易に得るための製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 CaSO4100質量部、Al23150〜260質量部、CaO80〜130質量部を含有し、且つCaOの少なくとも30質量%が生石灰粉末である被焼成物を、1250〜1400℃で焼成することを特徴とするアーウィンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性物質や水硬性組成物の速硬性付与成分などとして知られている化合物アーウィン(3CaO・3Al23・CaSO4)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アーウィン(3CaO・3Al23・CaSO4)は、早い水和速度を有する化合物で速硬性や超速硬性のセメントの速硬成分として、またモルタルやコンクリート用の速硬性混和材や膨張性混和材などに活用されている。(例えば、特許文献1〜2参照。)アーウィンの製造方法は、工業的には、CaO源として例えば石灰石や炭酸カルシウム等の石灰質原料、Al23源として例えば粘土鉱物やボーキサイト、CaSO4源として例えば排脱石膏等を原料に用い、これらを所定量混合したものを被焼成物とし、ロータリーキルン等の焼成装置で約1200℃〜1300℃の焼成によってアーウィン相を含むクリンカが得られる。(例えば、特許文献3参照。)アーウィンの生成反応と結晶成長は焼成温度が高い程進み易くなるが、1300℃前後の温度で原料中のCaSO4が分解し始め、ガス状の硫黄酸化物が生成するため、該硫黄酸化物の揮発量が増すとアーウィンの生成量は必然的に減少する。一方、CaSO4の分解を避けるため、その分解温度より低い温度、例えば1000〜1200℃で前記のような原料よりなる被焼成物を焼成すると、アーウィンの生成よりも12CaO・7Al23等のカルシウムアルミネートの生成が支配的になり、カルシウムアルミネートとCaSO4が共存し、アーウィンが殆ど見られないクリンカーしか得られない。また、これよりもやや高い、例えば1250〜1400℃で焼成すると、昇温過程中で一旦カルシウムアルミネートが形成されるが、引続きこのカルシウムアルミネートとCaSO4からアーウィンが形成されるため、大量のアーウィンが得られる可能性がある。(例えば、特許文献4〜5参照。)
【0003】
しかし、この温度は前記の如くCaSO4の分解温度に相当するため、分解によって被焼成物中のCaSO4成分の喪失が起る。被焼成物のCaO、Al23、CaSO4の原料配合をアーウィン構成成分の化学量論比(CaO:Al23:CaSO4=3:3:1)よりも過剰のCaSO4量となる配合にすれば、過剰分のCaSO4量を増すに連れ、CaSO4分解によるアーウィン生成量の不足を補い、アーウィン生成量を増やすことができる。この方法ではアーウィン生成効率が低いため、過剰CaSO4量の使用という不経済さを伴うもので、加えて分解揮発する硫黄酸化物の排ガス処理も必要となる。また、CaSO4の分解速度は、特に分解開始温度付近では焼成温度等の僅かな差で大きく左右される傾向があり、この僅かな差がアーウィン形成に寄与できる残存CaSO4量、即ちアーウィンの生成量に影響を及ぼすことになる。特に、工業的規模での焼成装置では概して微妙な温度条件の制御が容易ではなく、アーウィン生成量やその結晶性を始めとする品質について安定した再現性を得ることは難しい。
【特許文献1】特開昭57−175762号公報
【特許文献2】特開2002−316860号公報
【特許文献3】特開昭57−200252号公報
【特許文献4】特公昭51−22013号公報
【特許文献5】特開平11−12009号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、カルシウムアルミネートが共存せずにアーウィンが安定に生成する可能性がある温度をアーウィン製造のための焼成温度とした場合に起る、CaSO4の熱分解に伴うCaSO4成分損失によるアーウィン生成量の低減や変動を抑制し、安定した品質と生成量でアーウィンを容易に得ることができ、且つ過剰量のCaSO4を使用することなく大量のアーウィンを得ることもできるアーウィンの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、アーウィン製造のための原料を含む被焼成物を、カルシウムアルミネートの生成が支配的となってアーウィンが生成し難くなるのを避けるために、CaSO4の分解温度近傍で焼成し、その際被焼成物に使用するCaO源原料の特定割合を生石灰粉末で使用すると、焼成によりCaSO4が分解して生じる二酸化硫黄などのガス状硫黄酸化物が、被焼成物中のCaO粉末に捕捉されて再度CaSO4を呈してアーウィン形成に費やされるという知見を得、過剰量のCaSO4原料を用いることなく、豊富な量のアーウィンを安定して生成させることができたことから本発明を完成させた。
【0006】
即ち、本発明は、CaSO4100質量部、Al23150〜260質量部、CaO80〜130質量部を含有し、且つCaOの少なくとも30質量%が生石灰粉末である被焼成物を、1250〜1400℃で焼成することを特徴とするアーウィンの製造方法である。
【0007】
また、本発明は、生石灰粉末がブレーン比表面積2500〜4000cm2/gの粉末であることを特徴とする前記のアーウィンの製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法によれば、アーウィンを、過剰量のCaSO4原料使用や微妙な焼成制御を行い続けることなく、高い生成効率で且つ生成量のバラツキも少なく得ることができる。また、焼成時のCaSO4成分分解に由来するガス状の硫黄酸化物(SOx)の排出量も著しく少なくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のアーウィンの製造方法の被焼成物に使用するCaSO4は、無水石膏、半水石膏、二水石膏が挙げられ、天然石膏のみならず所謂化学石膏と称されるものであっても良い。好ましくは無水石膏を使用する。また、被焼成物に使用するAl22は、例えばコスト面で安価なアルミノ珪酸塩系の粘土鉱物やアルミドロス等の廃棄物再資源化原料でも良いが、アーウィンと共にカルシウムシリケート等の他の化合物が共存生成するのを避けたい場合は、アルミナ又はその水和物の使用が好ましい。CaSO4及びAl22源原料は何れも粉末状のものを使用するのが望ましい。また被焼成物に使用するCaOは特に限定されず、例えば石灰石、炭酸カルシウム、水酸化カルシウムといったCaO源原料でもよいが、好ましくは生石灰を使用する。本発明では特に、使用するCaO源原料のCaO換算値の少なくとも30質量%を生石灰粉末にすることを必須とする。好ましくは70質量%以上を生石灰粉末とする。使用する生石灰粉末は、ブレーン比表面積が2500〜4000cm2/gの粉末が好ましい。ブレーン比表面積が2500cm2/g未満では反応活性が低く、CaSO4の熱分解によって生じる硫黄酸化物を反応捕捉し難くなることがあり、またブレーン比表面積が4000cm2/gを超えるものではロータリーキルンなどで焼成するとキルン内通風で飛散したり、また吸湿性も高くなり扱い勝手が悪くなるので適当でない。
【0010】
被焼成物を作製する上でのCaO、Al22及びCaSO4の配合割合は、CaSO4100質量部に対し、Al22150〜260質量部、CaO80〜130質量部とする。好ましくは、CaSO4100質量部に対し、Al22200〜220質量部、CaO100〜130質量部とする。ここに示した各成分の配合割合の値は、CaO源原料ではCaOに換算した値、CaSO4源原料ではCaSO4に換算した値、Al22源原料ではAl22に換算した値である。Al22150質量部未満またはCaO80質量部未満ではアーウィン形成に活用されない余剰CaSO4が増え、使用する原料量に対し、アーウィンの生成量が低位の水準となるので好ましくない。またAl22260質量部を超えるかまたはCaO130質量部を超えるとアーウィン形成に活用されない余剰CaOやAl22が増え、やはりアーウィンの生成量が低位の水準となるので好ましくない。また本発明では被焼成物に配合するCaOのうち、30質量%以上を生石灰粉末を使用するものとするが、これは焼成中に起るCaSO4の熱分解によって生じた硫黄酸化物を捕捉し安定化させるためのものであり、CaO原料中の生石灰粉末の割合が30質量%未満では、CaSO4の熱分解による硫黄酸化物の揮発喪失によるアーウィン生成量の低下を抑止できないので好ましくない。被焼成物の作製はこのような配合割合にCaO、Al22及びCaSO4を混合すれば良い。混合方法は限定されず、例えば乾式混合することができる。得られた混合物は、成形物等の形状にする必要は特にはなく、粉末混合物の状態で焼成に供することができる。また、所望のアーウィン生成量が確保できれば、被焼成物に、CaO、Al22及びCaSO4以外の成分が含有されていても良い。このような成分として例えばSiO2、MgO、Fe23等が挙げられるが、該成分に由来する生成相の共存によっては、焼成物としての性状が変化することがあるので、所望の性状に適った焼成物を得る上では、該成分の種類や量を調整しておくことが望ましい。
【0011】
被焼成物は1250℃〜1400℃で焼成することにより、アーウィン化合物が生成した焼成物を得ることができる。1250℃未満の焼成ではカルシウムアルミネートの形成が支配的となって安定に存在し、アーウィンが生成され難くなるので好ましくなく、1400℃を超える焼成ではCaSO4の分解が過度に進行し、生石灰粉末によるガス状硫黄酸化物の捕捉が行い難くなる他、3CaO・Al23等の非晶質カルシウムアルミネートが生成されるので好ましくない。また昇温速度は特に限定されないが、冷却は、徐冷または自然放冷が望ましい。急冷処理すると、硫黄酸化物捕捉により形成されるCaSO4がアーウィン化合物形成に寄与しないことがあり、また非晶質相が生成することもあるので適当でない。また、焼成は大気中で行うことができる。焼成装置は特に限定されず、例えば電気炉、ガス炉等が挙げられる。また、工業的規模での生産にはロータリーキルンによる焼成が推奨される。
【実施例】
【0012】
以下、実施例により本発明を具体的に詳しく説明するが、本発明はここで表す実施例に限定されるものではない。
<被焼成物の作製>
次に記す各原料を表1に表す配合量となるよう、エアーブレンディング混合機に一括投入し、約10分間乾式混合し、これを被焼成物とした。
・II型無水石膏(ブレーン比表面積4500cm2/g)
・アルミ灰 (α−Al23含有率90.9%)
・生石灰A(ブレーン比表面積3300cm2/g)
・生石灰B(ブレーン比表面積1500cm2/g)
・炭酸カルシウム(ブレーン比表面積3300cm2/g)
【0013】
【表1】

【0014】
<被焼成物の焼成>
前記の如く作製した被焼成物を、ロータリーキルン(直径1100cm、長さ800cm)を用い、表2に表す実測最高温度で、送り速度150Kg/Hで焼成した。焼成の際、ロータリーキルンの窯尻から煙道までの間に、硫黄酸化物(SOx)濃度測定センサーを約1m間隔で設置し、キルン内ガス中のSOx濃度を測定した。測定値の平均値を表2にSOx濃度として表す。
【0015】
【表2】

【0016】
<焼成物中の生成相の検出とその量>
得られた焼成物を粉末エックス線回折によって生成相を調べ、また粉末エックス線回折の内部標準法により焼成物中のアーウィンの生成割合を調べた。また樹脂に焼成物片を埋め込んだものを切断し、次いで切断面を鏡面研磨して、この面に現れたアーウィン化合物の結晶径をエックス線マイクロアナライザーで測定した。以上の結果を表2に併せて表す。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明により得られる良質のアーウィンは速硬性基材や膨張成分としてセメントの混和材として、またセメンペースト、モルタルやコンクリート用の速硬材や膨張材として使用できる。また、本法は原料成分にアルカリ土類硫酸塩を含むものを該硫酸塩の分解温度以上で焼成する場合、原料分解による硫黄酸化物ガスの排気ガス中への混入を抑制する方法としても活用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CaSO4100質量部、Al23150〜260質量部、CaO80〜130質量部を含有し、且つCaOの少なくとも30質量%が生石灰粉末である被焼成物を、1250〜1400℃で焼成することを特徴とするアーウィンの製造方法。
【請求項2】
生石灰粉末がブレーン比表面積2500〜4000cm2/gの粉末であることを特徴とする請求項1記載のアーウィンの製造方法。

【公開番号】特開2007−76966(P2007−76966A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−268098(P2005−268098)
【出願日】平成17年9月15日(2005.9.15)
【出願人】(501173461)太平洋マテリアル株式会社 (307)
【Fターム(参考)】