説明

アーク溶接制御方法

【課題】 高速溶接においては、溶接速度を変化させることにより、溶融プールの状態が変化し、溶融プールが安定せず、そのためアークが安定せず、結果として溶接が適正に出来ない場合が多々ある。高速溶接を行うためにはこのような課題を解決する必要がある。
【解決手段】 動作速度を連続的になだらかに変化させていくことにより、急激な動作速度変化に合わせて急激にワイヤ送給速度を変化させることを緩和していくことができ、その結果安定した溶接制御を可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は溶接ロボットマニュピレータ等の装置に搭載されるアーク溶接装置の溶接制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生産現場の溶接工程においては、高速溶接を行うことにより作業能率の向上が図られている。近年その傾向はさらに強まっており、高速度の溶接も試みられるようになっている。このため、高速度溶接に見合った溶着金属量を確保するため、溶接ワイヤの高速送給が可能な送給装置も実用化されてきている。
【0003】
一方で、前述のような高速送給が可能な送給装置の技術を応用した高速化手段のひとつとして、タンデムアーク溶接法も採用されている。タンデムアーク溶接を行う溶接システムでは、2電極一体型の溶接トーチや、所定の電極間距離を有した2つの単電極溶接トーチが溶接ロボットなどの先端に搭載されている。そうして、動作プログラムに従って、所定の速度で所定の動作が行なわれ、所定の溶接制御を実行することにより溶接が行われる。動作プログラムは、溶接区間では2つの電極および各々を貫通して送給される2本の溶接ワイヤが概ね溶接線上に前後して並ぶような位置関係を前提としている。
【0004】
ここで、図1を用いて、タンデムアーク溶接装置の概略構成および動作について説明する。図1は、2電極一体型の溶接トーチを使ったタンデムアーク溶接システムの機器構成を簡略化して示している。2電極一体型の溶接トーチ150は、図示しない溶接ロボットマニュピレータ等の動作を行う装置に搭載されており、溶接対象ワーク160の所定溶接部に沿って移動動作を行う。溶接ロボットマニュピレータ等の動作を行う装置は、制御装置120に接続されている。制御装置120は、2台の溶接機130と溶接機140に接続されている。溶接機130と溶接機140には各々に図示しない溶接ワイヤ送給装置が接続されている。溶接ワイヤ送給装置は図示しない溶接ワイヤの各々1本ずつ計2本を溶接トーチ150に供給する。溶接トーチ150内では、2本の溶接ワイヤは図示しない2つの電極チップを貫通して供給されている。各電極チップはパワーケーブル131とパワーケーブル142を介して溶接機130と溶接機140の出力端子に接続されており、溶接機130と溶接機140からの電力は各溶接ワイヤに供給される。溶接対象ワーク160は、アースケーブル132とアースケーブル141を介して溶接機130と溶接機140のアース端子に接続されている。溶接ワイヤと溶接対象ワーク160の間にアークが発生することにより溶接電流の流れる回路が形成される。
【0005】
制御装置120は、動作プログラムおよび溶接条件を保持している。制御装置120は、溶接ロボットマニュピレータ等の動作を行う装置を動作プログラムに従って動作制御する。かつ、制御装置120は、その動作に合わせて、適時、制御線133と制御線143を介して溶接機130と溶接機140に対して指令やパラメータの転送を行う。溶接機130と溶接機140は、各々に接続された溶接ワイヤ送給装置を制御することによって、制御装置120から指令されたパラメータに見合ったワイヤ送給量で各溶接ワイヤを供給する。
【0006】
このようにして、タンデムアーク溶接システムは、溶接対象ワーク160の所定箇所に所定の溶接を行う。
【0007】
次に、図2を用いて、タンデムアーク溶接を行っている様子について説明する。図2は、2電極一体型の溶接トーチにより、図2の右から左の方向にタンデムアーク溶接を行っている様子を示している。以下、溶接方向に対して前方にあるものには「先行」、後方にあるものには「後行」という言葉をつけて説明する。2電極一体型の溶接トーチ150(図1参照)のノズル210内に、2つの電極チップすなわち先行電極チップ201と後行電極チップ202が所定の電極間距離を有して配置されている。先行電極チップ201には先行ワイヤ203が、後行電極チップ202には後行ワイヤ204が供給されている。
【0008】
先行ワイヤ203は、先行電極チップ201を介して図示しない先行電極用の溶接用電源がある溶接機130(図1参照)から電力供給を受け、先行ワイヤ203と溶接対象ワーク160との間に先行アーク205を発生させる。そのアーク熱により先行ワイヤ203および溶接対象ワーク160が溶融されて溶融プール207に溶融金属が供給される。同時に、後行ワイヤ204は、後行電極チップ202を介して図示しない後行電極用の溶接用電源がある溶接機140(図1参照)から電力供給を受け、後行ワイヤ204と溶接対象ワーク160の間に後行アーク206を発生させる。そのアーク熱により後行ワイヤ204および溶接対象ワーク160が溶融して溶融プール207に溶融金属が供給される。先行ワイヤ203と後行ワイヤ204は連続的に送給され、かつ、2電極一体型の溶接トーチ150(図1参照)が所定の速度で移動していくことにより、溶融プール207を移動させ、その後ろに溶接ビード270を形成することで溶接プロセスが実施される。
【0009】
このように、タンデムアーク溶接においては近接して2つのアークを発生させるため、一方のアークが他方のアークに影響を与える。特に、溶接開始部のアーク発生時や溶接終了部のアーク停止時には、過渡的なアーク状態となり、2つのアークが互いに干渉する。これによってアークが不安定になりやすいので、適正な制御を行う必要がある。
【0010】
溶接開始部では、融合不良、アーク切れや乱れに伴うチップの損傷、スパッタの発生などが起きる可能性がある。溶接終了部では、融合不良だけでなく溶接ビード270外観を損なう可能性がある。これらに対処するために、例えば、溶接開始および終了の制御シーケンスの提案もある。このような提案は、例えば、特許文献1に開示されている。
【0011】
ところで、高速での溶接に対しては、2つのアークが互いに干渉するのを防ぐ従来の方法ではアークを安定させるには十分ではない。溶融プール207がアーク不安定になる大きな要因となっている。例えば、後行アーク206は溶融プール207に向かってアークを発生する位置関係になるため、溶融プール207の乱れによってアークが不安定になりやすい。一方、溶融プール207は先行ワイヤ203から発生している先行アーク205のアーク力によって後方へ流れていこうとする。しかし、後行ワイヤ204から発生している後行アーク206のアーク力がこれを前方に押し返す。そのため、安定した溶融プール207を形成するためにはこれらのバランスが必要である。そして、溶融プール207とアークとは互い影響しあう関係にある。
【0012】
また、高速溶接においては、溶接速度を変化させると溶融プール207の状態が変化するので、溶融プール207が安定しない。そのためアークが安定せず、結果として適正な溶接が出来ない場合が多々ある。特に、高速溶接を開始する際、および、終了する際に、この現象が顕著に現われる。溶接を開始する際に、溶接しながら急激に速度を上げることに伴い溶融プール207が高速で引っ張られることが、その現象が顕著に現われ原因である。また、高速動作に見合ったワイヤ供給が必要なので、急激にワイヤ送給量を増加することで、ワイヤの供給と溶融のバランスが崩れたることもその原因である。高速での溶接を終了する際には、溶接開始時とは逆に、高速動作を急激に停止させることに伴う溶融プールの乱れがある。高速溶接を行うためにはこのような課題を解決する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2001−113373号公報
【発明の概要】
【0014】
アーク溶接制御方法は、タンデムアーク溶接システムにおいて、動作速度を連続的になだらかに変化させる。こうすることにより、急激な動作速度変化に合わせて急激にワイヤ送給速度を変化させることを緩和することができ、その結果安定した溶接制御を可能にする。
アーク溶接制御方法は、動作プログラムによって動作し、動作プログラムに設定された溶接条件で被溶接物を溶接するタンデムアーク溶接システムにおいて、溶接開始位置で先行電極のアークを開始した後に溶接トーチが初速度で移動動作を開始するステップと、溶接トーチが第一の時間進む間と第一の距離進む間と第一の位置まで進む間の少なくとも何れかの間に、溶接トーチの速度を初速度から第一の速度に連続的に動作速度を変化させるステップと、初速度から第一の速度への連続的な動作速度の変化と同期して、先行電極の溶接機に送る溶接電流指令とワイヤ送給速度指令と溶接電圧指令の少なくとも何れかを連続的に変化させるステップと、第一の時間の動作が完了した時点と第一の距離の動作が完了した時点と第一の位置までの動作が完了した時点との少なくとも何れかの時点で、後行電極のアークを開始するステップと、溶接トーチが第二の時間進む間と第二の距離進む間と第二の位置まで進む間の少なくとも何れかの間で、前記溶接トーチの速度を第二の速度に連続的に変化させるステップと、第二の速度への連続的な速度の変化と同期して、先行電極の溶接機に送る溶接電流指令とワイヤ送給速度指令と溶接電圧指令の少なくとも何れかと、後行電極の溶接機に送る溶接電流指令とワイヤ送給速度指令と溶接電圧指令の少なくとも何れかを連続的に変化させるステップとを備える。
【0015】
アーク溶接制御方法は、動作プログラムによって動作し、動作プログラムに設定された溶接条件で被溶接物を溶接するタンデムアーク溶接システムにおいて、溶接トーチが、溶接終了位置に対して指定された時間手前の位置に到達した時点と指定された距離手前の位置に到達した時点と溶接終了位置より手前の指定された位置に到達した時点との少なくとも何れかの時点で、先行電極のアークを終了するステップと、溶接トーチが溶接終了位置に向かって進む間に、溶接トーチの速度を指定された速度に連続的に速度を変化させるステップと、連続的な速度の変化と同期して、後行電極の溶接機に送る溶接電流指令とワイヤ送給速度指令と溶接電圧指令の少なくとも何れかを連続的に変化させるステップと、溶接トーチが溶接終了位置に到達した際に、後行電極のアークを終了し、溶接を終了するステップとを備える。
【0016】
アーク溶接制御方法は、溶接トーチを動作プログラムによって動作し、動作プログラムの溶接条件で被溶接物を溶接するアーク溶接システムにおいて、溶接トーチが指定された位置から指定された時間進む間と指定された距離進む間と指定された位置まで進む間の少なくとも何れかの間に、溶接トーチの速度を連続的に変化させるステップと、溶接トーチの変化前の速度から変化後の速度への連続的な速度変化と同期して、溶接機に送る溶接電流指令とワイヤ送給速度指令と溶接電圧指令の少なくとも何れかを連続的に変化させるステップとを備える。
【0017】
アーク溶接制御方法は、動作プログラムによって動作し、動作プログラムの溶接条件で被溶接物を溶接するタンデムアーク溶接システムにおいて、溶接トーチが指定された位置から指定された時間進む間と指定された距離進む間と指定された位置まで進む間の少なくとも何れかの間に、溶接トーチの速度を連続的に変化させるステップと、溶接トーチの変化前の速度から変化後の速度への連続的な速度変化と同期して、先行電極の溶接機に送る溶接電流指令とワイヤ送給速度指令と溶接電圧指令の少なくとも何れかと、後行電極の溶接機に送る溶接電流指令とワイヤ送給速度指令と溶接電圧指令の少なくとも何れかとを連続的に変化させるステップとを備える。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】タンデムアーク溶接システムの概略構成を示す図
【図2】2電極一体型の溶接トーチによる溶接状態を示す模式図
【図3】本発明の実施の形態における溶接開始部近辺の動作説明図
【図4】本発明の実施の形態における溶接終了部近辺の動作説明図
【図5】本発明の実施の形態における溶接動作説明図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図1から図5を用いて説明する。
【0020】
(実施の形態1)
図3は、図1に示した2電極一体型の溶接トーチ150(図1参照)を使ったタンデムアーク溶接システムにおける実施の形態1での動作の順序と内容を示す。本溶接システムの動作は、図3の状態391、状態392、状態393、状態394の順に進められる。
【0021】
図3の状態391において、2電極一体型の溶接トーチ150が溶接開始位置381に到達したところで、先行電極303と溶接対象ワーク160との間に先行アーク205を発生させた後、溶接方向(図3の左から右への方向)に移動動作を始める。溶接トーチ150は溶接開始位置381で、初速度V0で移動動作を始める。なお、先行電極303は図2の先行電極チップ201と先行ワイヤ203を総称している。
【0022】
状態392は、溶接トーチ150が溶接開始部第一の位置382に到達した状態を示している。溶接トーチ150が溶接開始部第一の位置382に到達したところで、溶接トーチ150の移動速度が第一の速度V1になるように、速度を変更しながらその溶接動作が行われる。溶接開始部第一の位置382は、位置として指定されるか、または、溶接開始位置381からの距離L1により指定されるか、または、溶接開始位置381からの移動時間T1により指定される。溶接トーチ150が溶接開始位置381から溶接開始部第一の位置382へ移動を開始する際、制御装置120(図1参照)は溶接開始位置381では溶接開始位置381での初速度V0に対応する先行電極303の溶接条件を先行電極303の溶接機130(図1参照)に送る。この溶接条件は、溶接電流指令とワイヤ送給速度指令と溶接電圧指令の少なくとも何れかである。溶接トーチ150が溶接開始部第一の位置382に到達したところで、制御装置120は第一の速度V1に対応する先行電極303の溶接条件を先行電極303の溶接機130に送る。この溶接条件は、溶接電流指令とワイヤ送給速度指令と溶接電圧指令の少なくとも何れかである。溶接トーチ150が溶接開始位置381と溶接開始部第一の位置382の間では、制御装置120は溶接トーチ150の変化する速度に合わせて、対応する溶接電流指令とワイヤ送給速度指令と溶接電圧指令の少なくとも何れかを先行電極303の溶接機130に送る。
【0023】
状態393において、溶接開始部第一の位置382で、後行電極304と溶接対象ワーク160の間に後行アーク206が発生する。後行電極304は図2の後行電極チップ202と後行ワイヤ204を総称している。
【0024】
状態394において、溶接トーチ150が、溶接開始部第二の位置383に到達したところで速度が第二の速度V2となるように、移動速度が変更される。溶接開始部第二の位置383は、位置として指定されるか、または、溶接開始部第一の位置382からの距離L2により指定されるか、または、溶接開始部第一の位置382からの移動時間T2により指定される。
【0025】
溶接トーチ150が溶接開始部第一の位置382から溶接開始部第二の位置383への動作の際、制御装置120は、溶接開始部第一の位置382では第一の速度V1に対応する先行電極303の溶接条件を先行電極303の溶接機130に送る。この溶接条件は、溶接電流指令とワイヤ送給速度指令と溶接電圧指令の少なくとも何れかである。同時に、制御装置120は、第一の速度V1に対応する後行電極304の溶接条件を後行電極304の溶接機140(図1参照)に送る。この溶接条件は、溶接電流指令とワイヤ送給速度指令と溶接電圧指令の少なくとも何れかである。溶接トーチ150が溶接開始部第二の位置383に到達したところでは、制御装置120は、第二の速度V2に対応する先行電極303の溶接条件を先行電極303の溶接機130に送る。この溶接条件は、溶接電流指令とワイヤ送給速度指令と溶接電圧指令の少なくとも何れかである。同時に、制御装置120は、第二の速度V2に対応する後行電極304の溶接条件を後行電極304の溶接機140に送る。この溶接条件は、溶接電流指令とワイヤ送給速度指令と溶接電圧指令の少なくとも何れかである。溶接開始部第一の位置382と溶接開始部第二の位置383の間では、制御装置120は、変化する溶接トーチ150の速度に合わせて、対応する溶接電流指令とワイヤ送給速度指令と溶接電圧指令の少なくとも何れかを先行電極303の溶接機130および後行電極304の溶接機140に送る。
【0026】
以上のように、実施の形態1のアーク溶接システムにおけるアーク溶接制御方法は、動作速度を連続的になだらかに変化させる。こうすることにより、急激な動作速度変化に合わせて急激にワイヤ送給速度を変化させることを緩和することができる。また、動作速度に合わせて溶接電流指令とワイヤ送給速度指令と溶接電圧指令の少なくとも何れかを送って溶接することができる。その結果、安定した溶接を可能とする溶接開始部のタンデムアーク溶接が可能になる。
【0027】
なお、溶接開始部第二の位置383における溶接電流指令とワイヤ送給速度指令と溶接電圧指令の少なくとも何れかは、定常溶接条件、すなわち、本来溶接を行う条件を指令するものとしてもよい。
【0028】
(実施の形態2)
次に、実施の形態2について説明する。実施の形態2において、実施の形態1と同様の箇所については同一の符号を付して詳細な説明を省略する。実施の形態2は、溶接終了に関する。
【0029】
図4は、図1に示した2電極一体型の溶接トーチ150(図1参照)を使ったタンデムアーク溶接システムにおける動作の順序と内容を示している。実施の形態2での動作は、図4での状態491、状態492、状態493の順に進められる。
【0030】
図4の状態491において、溶接方向(図4の左から右への方向)に速度Vで溶接動作を進めてきた2電極一体型の溶接トーチ150が溶接終了位置482の手前にある溶接終了部第一の位置481に到達したところで、先行アーク205が終了する。後行アーク206は継続している。溶接終了部第一の位置481は、位置として指定されるか、または、溶接終了位置482からの距離LEにより指定されるか、または、溶接終了位置482からの移動時間TEにより指定される。
【0031】
状態492において、溶接終了部第一の位置481における溶接トーチ150の速度Vから、溶接終了位置482に到達したところで速度が最終の速度VEとなるように、速度を変更しながら溶接方向に動作が継続される。この際、接終了部第一の位置481では速度Vに対応する後行電極304の溶接条件が後行電極304の溶接機140(図1参照)に送られる。この溶接条件は、溶接電流指令とワイヤ送給速度指令と溶接電圧指令の少なくとも何れかである。溶接トーチ150が溶接終了位置482に到達したところで、最終の速度VEに対応する後行電極304の溶接条件が後行電極304の溶接機140に送られる。この溶接条件は、溶接電流指令とワイヤ送給速度指令と溶接電圧指令の少なくとも何れかである。そして、溶接終了部第一の位置481から溶接終了位置482の間では、変化する速度に合わせて対応する後行電極304の溶接条件が後行電極304の溶接機140に送られる。この溶接条件は、溶接電流指令とワイヤ送給速度指令と溶接電圧指令の少なくとも何れかである。
【0032】
状態493において、溶接トーチ150が溶接終了位置482に到達したところで、後行アーク206も終了し、溶接は終了する。
【0033】
以上のように、実施の形態2のアーク溶接システムにおけるアーク溶接制御方法は、動作速度を連続的になだらかに変化させる。こうすることにより、急激な動作速度変化に合わせて急激にワイヤ送給速度を変化させることを緩和できる。また、動作速度に合わせて溶接電流指令とワイヤ送給速度指令と溶接電圧指令の少なくとも何れかを送って溶接することができるので、その結果安定した溶接を可能とする溶接終了部のタンデムアーク溶接が可能となる。
【0034】
(実施の形態3)
次に、実施の形態3について説明する。図5は、タンデムアーク溶接システムに限らず一般の溶接システムにおける本発明の動作の内容を示す。図5は、2電極ではなく、電極が1つである溶接トーチ550を例にして示している。溶接トーチ550は図1の溶接トーチ150に対応する。但し、実施の形態3では、図1の溶接機140とアースケーブル141とパワーケーブル142と制御線143は不要である。
【0035】
図5において、アークが発生した状態で溶接方向(図5の左から右への方向)に動作してきた溶接トーチ550は、第一の位置581での速度Vaに、第二の位置582で速度Vbになるように、徐々に速度を変化させながら動作する。なお、第二の位置582は、位置として指定されるか、または、第一の位置581からの距離L5により指定されるか、または、第一の位置581からの時間T5により指定される。溶接トーチ550が第一の位置581から第二の位置582までの動作の際、制御装置120(図1参照)は第一の位置581では速度Vaに対応する溶接条件を溶接機130(図1参照)に送る。この溶接条件は、溶接電流指令とワイヤ送給速度指令と溶接電圧指令の少なくとも何れかである。溶接トーチ550が第二の位置582に到達したところで、制御装置120は速度Vbに対応する溶接条件を溶接機130に送る。この溶接条件は、溶接電流指令とワイヤ送給速度指令と溶接電圧指令の少なくとも何れかである。また、溶接トーチ150が第一の位置581から第二の位置582に移動する間では、制御装置120は変化する速度に合わせて対応する溶接条件としての溶接電流指令とワイヤ送給速度指令溶接電圧指令の少なくとも何れかを溶接機130に送る。
【0036】
以上のように、本実施の形態のアーク溶接システムにおけるアーク溶接制御方法は、動作速度を連続的になだらかに変化させる。こうすることにより、急激な動作速度変化に合わせて急激にワイヤ送給速度を変化させることを緩和することができる。また、動作速度に合わせて溶接電流指令とワイヤ送給速度指令と溶接電圧指令の少なくとも何れかを送って溶接することができるので、その結果安定した溶接が可能となる。
【0037】
なお、実施の形態3では、電極が1つである溶接トーチ550を例にして説明したが、2電極一体型の溶接トーチや近接して配置した2つの単電極溶接トーチを使用するタンデムアーク溶接においても同様の動作をさせることが可能である。
【0038】
また、溶接動作の速度を変化させる際に、指定された位置から指定された時間進む間、または指定された距離進む間、または指定された位置まで進む間に、変化前の速度から変化後の速度に連続的に動作速度を変化させ、この速度変化と同期して、以下を実行しても上述と同様の効果を得ることができる。すなわち、2つの電極のうち溶接進行方向に対して先行となる電極の溶接機に送る溶接電流指令とワイヤ送給速度指令と溶接電圧指令の少なくとも何れかと、後行電極の溶接機に送る溶接電流指令とワイヤ送給速度指令と溶接電圧指令の少なくとも何れかとを連続的に変化しても同様の効果を得ることができる。
【0039】
以上の実施の形態1から実施の形態3で説明したように、本発明のアーク溶接制御方法は、動作速度を連続的になだらかに変化させる。こうすることにより、急激な動作速度変化に合わせて急激にワイヤ送給速度を変化させることを緩和することができる。また、動作速度に合わせて溶接電流指令とワイヤ送給速度指令と溶接電圧指令の少なくとも何れかを送って溶接することができる。その結果、安定した溶接制御を可能にできる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明のアーク溶接制御方法は、安定した溶接制御が可能にでき、例えば、タンデムアーク溶接工法など高速で溶接を行う際のアーク溶接制御方法等として産業上有用である。
【符号の説明】
【0041】
120 制御装置
130 溶接機
131 パワーケーブル
132 アースケーブル
133 制御線
140 溶接機
141 アースケーブル
142 パワーケーブル
143 制御線
150,550 溶接トーチ
160 溶接対象ワーク
201 先行電極チップ
202 後行電極チップ
203 先行ワイヤ
204 後行ワイヤ
205 先行アーク
206 後行アーク
207 溶融金属
210 ノズル
270 溶接ビード
303 先行電極
304 後行電極
381 溶接開始位置
382 溶接開始部第一の位置
383 溶接開始部第二の位置
482 溶接終了位置
481 溶接終了部第一の位置
581 第一の位置
582 第二の位置
L1 溶接開始位置から溶接開始部第一の位置までの距離
L2 溶接開始部第一の位置から溶接開始部第二の位置までの距離
L5 第一の位置から第二の位置までの距離
LE 溶接終了部第一の位置からの溶接終了位置までの距離
V0 初速度
V1 第一の速度
V2 第二の速度
Va 第一の位置での速度
Vb 第二の位置での速度
T1 溶接開始位置から溶接開始部第一の位置までの時間
T2 溶接開始部第一の位置から溶接開始部第二の位置までの時間
TE 溶接終了部第一の位置からの溶接終了位置までの時間
T5 第一の位置から第二の位置までの時間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動作プログラムによって動作し、前記動作プログラムに設定された溶接条件で被溶接物を溶接するタンデムアーク溶接システムのアーク溶接制御方法において、
溶接トーチが、溶接終了位置に対して指定された時間手前の位置に到達した時点と指定された距離手前の位置に到達した時点と前記溶接終了位置より手前の指定された位置に到達した時点との少なくとも何れかの時点で、先行電極のアークを終了するステップと、
前記溶接トーチが前記溶接終了位置に向かって進む間に、前記溶接トーチの速度を指定された速度に連続的に速度を変化させるステップと、
前記連続的な速度の変化と同期して、後行電極の溶接機に送る溶接電流指令とワイヤ送給速度指令と溶接電圧指令の少なくとも何れかを連続的に変化させるステップと、
前記溶接トーチが前記溶接終了位置に到達した際に、前記後行電極のアークを終了し、溶接を終了するステップと
を備えるアーク溶接制御方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−131277(P2011−131277A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−82474(P2011−82474)
【出願日】平成23年4月4日(2011.4.4)
【分割の表示】特願2007−542172(P2007−542172)の分割
【原出願日】平成19年2月9日(2007.2.9)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】