説明

イエバエ防除用噴霧剤

【課題】2−メチル−4−オキソ−3−(2−プロピニル)−2−シクロペンテン−1−イル 2,2−ジメチル−3−(2,2−ジクロロビニル)シクロプロパンカルボキシレートの特定の異性体混合物を活用することによって、経済コストを考慮した場合、更に一層有用な飛翔昆虫防除用噴霧剤を提供すること。
【解決手段】(d)−2−メチル−4−オキソ−3−(2−プロピニル)−2−シクロペンテン−1−イル (d)−シス、トランス−2,2−ジメチル−3−(2,2−ジクロロビニル)シクロプロパンカルボキシレートを有効成分として含有し、前記有効成分のエステル化合物におけるシス体の相対量が5〜50%で、トランス体の相対量が50〜95%であることに基づき、前記課題を達成し得る飛翔昆虫防除用噴霧剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飛翔昆虫防除用噴霧剤の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、ハエ・蚊等の飛翔昆虫を対象とした家庭用殺虫剤、特にエアゾール殺虫剤の有効成分としては、ノックダウン剤としてのd−T80−フタルスリン、及びキル剤としてのd−T80−レスメトリンの併用が主流である。d−T80−フタルスリンは、種々ピレスロイド化合物のなかでも飛翔昆虫に対するノックダウン効果が抜群で、今日までこれに勝る有用なノックダウン剤は存在しなかったが、致死効果が乏しいためキル剤との併用を必須とする。
また、ゴキブリ等の匍匐昆虫に対する家庭用殺虫剤についても同様である。即ち、ノックダウン剤としてイミプロトリンが代表的であるが、致死効果は必ずしも満足すべきものではなく、また残効性に乏しいという欠点があるため、致死効果と残効性に富む他剤との併用が一般的である。
このように、通常ノックダウン効果が高いピレスロイド化合物は、致死効果や残効性が劣り、逆に、致死効果や残効性に優れたピレスロイド化合物は、ノックダウン効果が低いというのが、これまでの定説になっていた。その理由の一つとしては、ごく微量で速やかにノックダウンした対象昆虫は、その後殺虫成分の神経系への活性が低下し、致死せしめるに十分な殺虫成分量を摂取するに至らないためと推察される。
従って、特に飛翔昆虫防除分野で、優れたノックダウン効果と致死効果を有する飛翔昆虫用殺虫成分の開発は強く望まれていたものの、これまで上記定説から困難と考えられてきた。
【0003】
2−メチル−4−オキソ−3−(2−プロピニル)−2−シクロペンテン−1−イル 2,2−ジメチル−3−(2,2−ジクロロビニル)シクロプロパンカルボキシレートには、酸部分の2個の不斉炭素ならびにアルコール部分の1個の不斉炭素に基づき、8個の異性体が存在する。特公昭61−57820号公報(特許文献1)は、前記異性体の混合物を開示し、また、特開2000−44516号公報(特許文献2)には、各異性体のなかでも特に(d)−2−メチル−4−オキソ−3−(2−プロピニル)−2−シクロペンテン−1−イル (d)−トランス−2,2−ジメチル−3−(2,2−ジクロロビニル)シクロプロパンカルボキシレート[以降、d,d−トランス体と称す]が高いノックダウン効果を有することが記載されている。しかしながら、単一なd,d−トランス体を得ようとする場合には、製造コストが極めて高価であって、経済面で難があり実用化において支障が存在する。
【0004】
また、非特許文献1は、プラレトリン[2−メチル−4−オキソ−3−(2−プロピニル)−2−シクロペンテン−1−イル 2,2−ジメチル−3−(2−メチル−1−プロペニル)シクロプロパンカルボキシレート]に関する文献で、この化合物においても、酸部分がd−トランス体のエステルがd−シス体の酸のエステルより殺虫効力が高いことを開示している。
このように、特許文献2や非特許文献1によれば、アルコール部分が2−メチル−4−オキソ−3−(2−プロピニル)−2−シクロペンテン−1−オールであるシクロプロパンカルボン酸エステルの場合、酸部分が2,2−ジメチル−3−(2,2−ジクロロビニル)シクロプロパンカルボン酸でも、2,2−ジメチル−3−(2−メチル−1−プロペニル)シクロプロパンカルボン酸であっても、d−トランス体の酸のエステルの方がd−シス体の酸のエステルより高い殺虫効力を示すことが報告されている。
【0005】
しかるに、本発明者らは、(d)−2−メチル−4−オキソ−3−(2−プロピニル)−2−シクロペンテン−1−イル (d)−シス−2,2−ジメチル−3−(2,2−ジクロロビニル)シクロプロパンカルボキシレート[以降、d,d−シス体と称す]の作用効果につき改めて鋭意検討を重ね、d,d−シス体とd,d−トランス体を特定の比率で含有する異性体混合物を用いることによって、d,d−トランス体に準ずるか、又は施用例によっては、d,d−トランス体よりも優れた殺虫効果を奏する一方、製造コスト面でも極めて有利になることを知見し、本発明を完成するに至ったのである。
【特許文献1】特公昭61−57820号公報
【特許文献2】特開2000−44516号公報
【非特許文献1】Jpn. J. Sanit. Zool. Vol.38, 219 (1987)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、2−メチル−4−オキソ−3−(2−プロピニル)−2−シクロペンテン−1−イル 2,2−ジメチル−3−(2,2−ジクロロビニル)シクロプロパンカルボキシレートに着目し、その特定の異性体混合物を活用することによって、製造コストを考慮した場合、極めて有用な飛翔昆虫防除用噴霧剤を開発することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明は以下の構成を採用する。
(1)(d)−2−メチル−4−オキソ−3−(2−プロピニル)−2−シクロペンテン−1−イル (d)−シス、トランス−2,2−ジメチル−3−(2,2−ジクロロビニル)シクロプロパンカルボキシレートを有効成分として含有し、前記有効成分のエステル化合物におけるシス体の相対量が5〜50%で、トランス体の相対量が50〜95%であることに基づく飛翔昆虫防除用噴霧剤。
(2)エステル化合物におけるシス体の相対量が20〜40%で、トランス体の相対量が60〜80%であることを特徴とする(1)記載の飛翔昆虫防除用噴霧剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明の飛翔昆虫防除用噴霧剤は、有効成分として、シス体/トランス体比率が特定の(d)−2−メチル−4−オキソ−3−(2−プロピニル)−2−シクロペンテン−1−イル (d)−シス、トランス−2,2−ジメチル−3−(2,2−ジクロロビニル)シクロプロパンカルボキシレートを採用し、種々の飛翔昆虫に対して優れたノックダウン効果と致死効果を示す。また、その有効成分を安価に製造可能であることを考慮するならば、実用上極めて有益である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明者らは、2−メチル−4−オキソ−3−(2−プロピニル)−2−シクロペンテン−1−イル 2,2−ジメチル−3−(2,2−ジクロロビニル)シクロプロパンカルボキシレートの8個の異性体につき、その組合わせの効果を鋭意検討し、そのうちの(d)−2−メチル−4−オキソ−3−(2−プロピニル)−2−シクロペンテン−1−イル (d)−シス−2,2−ジメチル−3−(2,2−ジクロロビニル)シクロプロパンカルボキシレート[d,d−シス体]と、(d)−2−メチル−4−オキソ−3−(2−プロピニル)−2−シクロペンテン−1−イル (d)−トランス−2,2−ジメチル−3−(2,2−ジクロロビニル)シクロプロパンカルボキシレート[d,d−トランス体]を特定の比率で含有する異性体混合物を用いることによって、特に飛翔昆虫に対するノックダウン効果と致死効果が相乗的に向上することを見出した。即ち、本発明は特許文献2の改良発明に該当し、[d,d−シス体]/[d,d−トランス体]の比率を5〜50/50〜95、好ましくは20〜40/60〜80に特定した異性体混合物[以降、本化合物と称する]は、有用な飛翔昆虫ノックダウン剤及び飛翔昆虫キル剤として作用することができる。
更に、前記殺虫効力の相乗作用は、詳細な理由は不明ながら、飛翔昆虫に対して特徴的で匍匐昆虫ではそれほど明瞭でなく、しかもノックダウン効果でより顕著であることが認められた。
【0010】
本化合物を製造するにあたっては、所望のシス体/トランス体比率の(d)−シス/トランス−2,2−ジメチル−3−(2,2−ジクロロビニル)シクロプロパンカルボン酸を調製することが重要となる。(d)−トランス体単一化合物は、通常、(dl)−シス/トランス体反応物から(dl)−シス体反応物を取り除いた後、光学分割により得ることができるが、その合成経路は複雑である。これに対し、(d)−シス/トランス体異性体混合物は、途中段階で(dl)−シス体反応物を取り除く必要がない点で有利であり、例えば、下記の製造法に基づいて安価に製造可能である。
3−メチル−2−ブテノールとオルト酢酸エチルを反応させて得られた3,3−ジメチル−4−ペンテン酸エチルに四塩化炭素を付加させ、3,3−ジメチル−4,6,6,6−テトラクロルヘキサン酸エチルを得る。前記テトラクロルヘキサン酸エチルを特定溶媒中、特定塩基で処理することによって、所望のシス体/トランス体比率のシス/トランス−2,2−ジメチル−3−(2,2−ジクロロビニル)シクロプロパンカルボン酸エチルを調製することができる。例えば、テトラハイドロフラン中でカリウムターシャリーブトキサイドの存在下で処理するとシス体/トランス体比率=約50/50のものが、また、エタノール中でカリウムエトキサイドの存在下で処理するとシス体/トランス体比率=約25/75のものが得られる。このエチルエステルを加水分解してシクロプロパンカルボン酸に導き、更に常法により光学分割して(d)−シス/トランス−2,2−ジメチル−3−(2,2−ジクロロビニル)シクロプロパンカルボン酸とし、これと(d)−2−メチル−4−オキソ−3−(2−プロピニル)−2−シクロペンテン−1−オールを反応させて本化合物を合成することができる。
【0011】
本発明の飛翔昆虫防除用噴霧剤は、エアゾール剤や液剤(油剤、乳剤、水溶剤等)に適用可能であるが、エアゾール剤が最も実用的な形態である。
エアゾール剤の調製に際しては、常法に従い、本化合物に溶剤や、必要ならば共力剤、他の有効成分、補助成分等を配合してエアゾール原液を調製し、これをエアゾール容器に充填後、噴射剤を加圧充填して製すればよい。
本化合物のエアゾール剤中における配合量は、0.02〜1.0重量%程度が適当であり、油性又は水性エアゾール原液のいずれも調製可能である。
尚、後述する各実施例からも明らかなように、施用例によっては、d,d−トランス体よりも殺虫効力がやや劣る場合があることを否定することができないが、この点については、本化合物の配合量を、d,d−トランス体よりもやや濃度を大きくすることによってカバーすることが可能であり、そのような大きな濃度によって略同程度の殺虫効力を得ても、経済コストを考慮するならば、本化合物の方が相当有利である。
【0012】
油性溶剤としてはケロシンが使いやすいが、エステル系溶剤(ミリスチン酸イソプロピル等)、グリコールエーテル系溶剤、ケトン系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤等を併用してもよい。また、水性エアゾール原液を調製するにあたっては、水とともに、界面活性剤(ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、グリセリン脂肪酸エステル類等)、分散剤、補助溶剤などを適宜配合すればよい。その他、必要に応じて、安定剤(BHT、BHA等)、防錆剤(安息香酸ナトリウム、クエン酸アンモニウム等)、香料などの補助成分が添加される。
【0013】
エアゾール原液には、N−(2−エチルヘキシル)−ビシクロ[2,2,1]−ヘプタ−5−エン−2,3−ジカルボキシイミド、N−(2−エチルヘキシル)−1−イソプロピル−ビシクロ[2,2,2]−オクト−5−エン−2,3−ジカルボキシイミド、ピペロニルブトキサイドなどの共力剤を加えてもよい。
更に、他の殺虫、防虫成分、例えば、ピレトリン、アレスリン、プラレトリン、フラメトリン、イミプロトリン、フェノトリン、ペルメトリン等の従来のピレスロイド系殺虫剤、シラフルオフェン等の有機ケイ素系化合物、ヒノキチオールやイソプロピルメチルフェノール等の抗菌・防黴成分、5−クロロ−2−トリフルオロメタンスルホンアミド安息香酸メチル等の殺ダニ成分、ジエチルトルアミドなどの忌避成分、消臭剤、芳香剤等を配合することによって効力のすぐれた多目的組成物が得られ、薬剤間の相乗効果も十分期待しえるものである。
【0014】
噴射剤としては、液化石油ガス、ジメチルエーテル、圧縮ガス(窒素、炭酸ガス等)があげられる。
エアゾール原液と噴射剤の充填比率は特に制限されないが、20/80〜65/35(容量)程度が適当である。
【0015】
本発明のエアゾール剤を噴射させるためのエアゾール噴射装置は、エアゾール剤を充填したエアゾール容器、バルブ、該バルブのステム部分に装着されるアクチュエーターなどから構成され、アクチュエーターには、噴口を含む噴射ボタンなどが装填される。エアゾール容器は、容量として180mL缶、300mL缶、450mL缶が一般的で、エアゾール剤を充填するに際しては、噴霧粒子の拡散性を考慮して容器内圧を0.3〜0.6MPa程度に設定するのが好ましい。
【0016】
本発明の飛翔昆虫防除用噴霧剤の用途としては、ネッタイイエカ、ネッタイシマカ、ハマダラカ類、ヒトスジシマカ、アカイエカ等の感染症媒介蚊をはじめとする蚊類、ハエ、コバエ、チョウバエ、ユスリカ、ブユ等の飛翔昆虫が特に効果的であるが、ゴキブリ、アリ等の匍匐昆虫のほか、屋内塵性ダニ類、イガ、コイガ、カツオブシムシ等の衣料害虫、コクゾウ等の貯穀害虫をはじめ、アブラムシ、ウンカ、カメムシ、ムカデ等の種々害虫にも十分な殺虫効果を示すものである。
【0017】
次に、実施例、試験例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0018】
3−メチル−2−ブテノール4.3g(0.05モル)とオルト酢酸エチル17g(0.105モル)をフラスコに入れ、フェノール0.5gを加え、130〜140℃で24時間攪拌し、その間生成したエタノールを留去した。冷却後、過剰のオルト酢酸エチルを減圧下留去したのち、減圧蒸留により3,3−ジメチル−4−ペンテン酸エチルを5.6g(沸点:101〜103℃/58mmHg、収率:72%)得た。
3,3−ジメチル−4−ペンテン酸エチル4.7g(0.03モル)を四塩化炭素50mL中で少量の過酸化ベンゾイルと共に80℃にて20時間反応させた。反応液を減圧蒸留により処理して3,3−ジメチル−4,6,6,6−テトラクロルヘキサン酸エチルを8.0g(沸点:107〜108℃/0.3mmHg、収率:86%)得た。
金属カリウム1.7gを無水エタノール150mLに溶かし、氷水冷却下に3,3−ジメチル−4,6,6,6−テトラクロルヘキサン酸エチル6.2g(0.02モル)無水エタノール溶液(40mL)を滴下した。滴下後室温で1時間攪拌し、更に30分間加熱還流した。反応液を再び氷水冷却して塩化水素の無水エタノール溶液を滴下して中和した。析出した固体を濾別後エーテルで希釈し、エーテル溶液を飽和重曹水、飽和食塩水で洗浄したのち、減圧蒸留により処理してシス/トランス−2,2−ジメチル−3−(2,2−ジクロロビニル)シクロプロパンカルボン酸エチルを4.4g(沸点:72〜74℃/0.4mmHg、収率:93%)得た。このエチルエステルのシス体/トランス体比率は25/75であった。
このエステル化合物を加水分解してシクロプロパンカルボン酸に導き、更に常法により光学分割して(d)−シス/トランス−2,2−ジメチル−3−(2,2−ジクロロビニル)シクロプロパンカルボン酸とし、これと(d)−2−メチル−4−オキソ−3−(2−プロピニル)−2−シクロペンテン−1−オールを反応させて本化合物を合成した。
【実施例2】
【0019】
本化合物(シス体/トランス体比率=25/75) 0.4gにケロシンを加えて油性エアゾール原液(120mL)を調製し、エアゾール容器に充填した。バルブ部分を取り付けた後、該バルブ部分を通じて噴射剤(液化石油ガス、ジメチルエーテルの混合ガス)180mLを加圧充填して、飛翔昆虫用のエアゾール剤を得た。
このエアゾール剤を、居間に出現したイエバエめがけて2秒間噴射したところ、イエバエは直ちにノックダウンし、蘇生することはなかった。
【実施例3】
【0020】
本化合物(シス体/トランス体比率=40/60)0.35gに界面活性剤8.0g、水30mL、ケロシンを加えて水性エアゾール原液(120mL)を調製し、エアゾール容器に充填した。バルブ部分を取り付けた後、該バルブ部分を通じて噴射剤(液化石油ガス)180mLを加圧充填して飛翔昆虫用のエアゾール剤を得た。
このエアゾール剤は、実施例2と同様、蚊やハエ類に対して高いノックダウン効果と致死効果を示した。
【実施例4】
【0021】
2−メチル−4−オキソ−3−(2−プロピニル)−2−シクロペンテン−1−イル 2,2−ジメチル−3−(2,2−ジクロロビニル)シクロプロパンカルボキシレートの[d,d−シス体]と[d,d−トランス体]につき、その異性体混合物が相乗効果を示すかどうかを調べるため、微量滴下法によりイエバエ雌成虫に対する効力比較試験を行った。結果を表1に示す。
【0022】
【表1】

*特許文献2に記載の化合物。
【0023】
試験の結果、本化合物(d,d−シス体とd,d−トランス体の異性体混合物)の微量滴下法による殺虫効力は、[d,d−シス体]と[d,d−トランス体]の相加的な評価結果に留まり、相乗的な殺虫効力の向上は認められなかった。
【実施例5】
【0024】
次に、供試化合物のエアゾール形態での殺虫効力試験を行った。
(1)イエバエに対する試験
ガラスチャンバー法:60cm立方(0.216m3)のガラスチャンバー内に実施例2に準じて調製した供試エアゾール剤を1秒間噴霧した。10秒後に、イエバエ(1群約25匹の雌成虫)を放ち、10分間暴露して時間の経過に伴う仰転虫数を記録し、KT50値を求め、更に24時間後の致死率を観察した。試験は3回繰り返し行った。なお、比較のため、d−T80−フタルスリンを含有するエアゾール剤も供試した。結果を表2に示す。
【0025】
【表2】


*特許文献2に記載の化合物。
【0026】
試験の結果、シス体/トランス体比率=50/50の本化合物1は、イエバエ成虫に対して[d,d−トランス体]と略同等のノックダウン効果と致死効果を示した。また、シス体/トランス体比率=20〜40/60〜80の本化合物2及び3は、[d,d−シス体]を混合することによる相乗効果が特に顕著で、[d,d−トランス体]に勝るノックダウン効果を示し、致死効果も極めて高かった。更に、本化合物4は、その殺虫効力は[d,d−トランス体]と略同等であるものの、製造コストの点でメリットが大きかった。このように、本化合物は、噴霧剤の形態で施用された時、イエバエに対して[d,d−トランス体]と略同等以上の速効性と致死効果を兼備し、特にシス体/トランス体比率が20〜40/60〜80の場合には、そのノックダウン効果は相乗的に増強し[d,d−トランス体]に勝った。しかも本化合物の製造コストが[d,d−トランス体]に較べて有利なことを加味すると、本発明の飛翔昆虫防除用噴霧剤は、極めて実用的、かつ経済的であることが確認された。
【0027】
(2)ゴキブリに対する試験
ターン・テーブル法:内径20cm、高さ43cmのガラスシリンダーを木製の架台の上に置き、ガラス板をシャッターにしてシリンダーの直下にワモンゴキブリ雄成虫2匹を入れたガラスポット(外径15cm、高さ15cm)を取り付けた。ガラスシリンダー内に実施例2に準じて調製した供試エアゾール剤を1秒間噴霧した。5秒後にガラス板のシャッターを引き抜き、降下噴霧粒子に供試ゴキブリを5分間暴露させた。ノックダウンを引き起こすまでの時間の範囲とその大略平均値を求め、更に24時間後の致死率を観察した。試験は6回繰り返し行った。なお、比較のため、d−T80−フタルスリンを含有するエアゾール剤も供試した。結果を表3に示す。
【0028】
【表3】

*特許文献2に記載の化合物。
【0029】
ゴキブリに対するターンテーブル法による試験の結果、シス体/トランス体比率が5〜50/50〜95の本化合物を含有するエアゾール剤は、ゴキブリに対してはそれほどの相乗的な殺虫効力の向上を認めなかった。
従って、実施例4及び実施例5から、本化合物で観察される殺虫効力の相乗作用は、飛翔昆虫防除用噴霧剤のノックダウン効果において特徴的で、しかも致死効果は何れも100%であることが認められた。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、屋内並びに屋外における広範な飛翔害虫駆除を目的として利用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(d)−2−メチル−4−オキソ−3−(2−プロピニル)−2−シクロペンテン−1−イル (d)−シス、トランス−2,2−ジメチル−3−(2,2−ジクロロビニル)シクロプロパンカルボキシレートを有効成分として含有し、前記有効成分のエステル化合物におけるシス体の相対量が5〜50%で、トランス体の相対量が50〜95%であることに基づく飛翔昆虫防除用噴霧剤。
【請求項2】
エステル化合物におけるシス体の相対量が20〜40%で、トランス体の相対量が60〜80%であることを特徴とする請求項1記載の飛翔昆虫防除用噴霧剤。

【公開番号】特開2009−242307(P2009−242307A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−91398(P2008−91398)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【特許番号】特許第4231894号(P4231894)
【特許公報発行日】平成21年3月4日(2009.3.4)
【出願人】(000207584)大日本除蟲菊株式会社 (184)
【Fターム(参考)】