説明

イオントフォレーシス装置、イオン交換膜積層体及び両極性イオン交換膜

【課題】 反対導電型の2つのイオン交換膜が積層されたイオン交換膜積層体を備えるイオントフォレーシス装置において生じる場合がある薬物イオンの投与効率の低下や皮膚界面におけるpH値の急激な変動の問題を解消できるイオントフォレーシス装置を提供する。
【解決手段】 反対導電型の2つのイオン交換膜のうち少なくとも一方のイオン交換基密度が、両イオン交換膜の界面において低く、その反対面において高くなるように調整されたイオン交換膜積層体、又は、表面側における第1導電型のイオン交換基が導入された第1膜厚部分と、裏面側における第2導電型のイオン交換基が導入された第2膜厚部分と、その中間における第1、第2膜厚部分よりもイオン交換基密度が低い第3膜厚部分とを有する両極性イオン交換膜を用いて電極構造体を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン解離した薬物イオンを、当該薬物イオンと同一導電型の電圧により駆動して生体に投与するためのイオントフォレーシス装置、並びにイオントフォレーシスにより薬物イオンを投与する際に好適に使用することができるイオン交換膜積層体及び両極性イオン交換膜に関する。
【背景技術】
【0002】
イオントフォレーシス装置は一般に、プラス又はマイナスのイオンに解離した薬物イオンを保持する作用側電極構造体と、作用側電極構造体の対極の役割を有する非作用側電極構造体を備えており、これら両電極構造体を生体皮膚に当接させた状態で、作用側電極構造体に薬物イオンと同一導電型の電圧を印加することにより薬物イオンが生体内に投与される。
【0003】
特許文献1は、薬物イオンの投与効率が高く、通電時における薬物の分解を防止できるイオントフォレーシス装置を開示している。
【0004】
図6は、特許文献1に開示されるイオントフォレーシス装置を示す説明図である。
【0005】
図示されるように、特許文献1のイオントフォレーシス装置は、電源130から第1導電型の電圧が印加される電極111、電解液を保持する電解液保持部112、第2導電型のイオン交換膜113、第1導電型の薬物イオンを含む薬液を保持する薬液保持部114及び第1導電型のイオン交換膜115を有する作用側電極構造体110と、電源130から第2導電型の電圧が印加される電極121、電解液を保持する電解液保持部122、第1導電型のイオン交換膜123、電解液を保持する電解液保持部124及び第2導電型のイオン交換膜125を有する非作用側電極構造体120とを備えている。
【0006】
このイオントフォレーシス装置では、薬液保持部114と皮膚の間にイオン交換膜115が介在するため、生体対イオンの薬液保持部114への移行が遮断される。従って、生体対イオンの移動により消費される電流量が低下し、その結果、薬物イオンの投与効率が上昇する。また、薬物イオンの電解液保持部112への移行はイオン交換膜113により遮断されるため、通電の際に薬物イオンが電極111の近傍で分解することが防止される。
【0007】
本願出願人は、特許文献1のイオントフォレーシス装置における作用側電極構造体110を更に改良したイオントフォレーシス装置を案出し、これを米国特許仮出願第60/693668号(以下、「出願1」という)として出願している。
【0008】
図7(A)は、出願1において一実施形態として開示される作用側電極構造体210を示す説明図である。
【0009】
図示されるように、作用側電極構造体210は、第1導電型の電圧が印加される電極211及び電解液を保持する電解液保持部212を有し、電解液保持部212の前面側には、第2導電型のイオン交換膜213及び第1導電型のイオン交換膜215よりなるイオン交換膜積層体Sが配置されており、イオン交換膜215には第1導電型の薬物イオンがドープされている。
【0010】
作用側電極構造体210を備えるイオントフォレーシス装置では、生体対イオンの装置内への進入がイオン交換膜215により遮断されるために薬物イオンの投与効率が上昇し、薬物イオンの電解液保持部212への移行がイオン交換膜213により遮断されるために通電時における薬物の分解が防止できるなど、特許文献1のイオントフォレーシス装置と同様の効果が達成される。
【0011】
加えて、作用側電極構造体210を備えるイオントフォレーシス装置では、薬物イオンが生体皮膚に最も近接して配置される部材であるイオン交換膜215に保持されるために薬物イオンの投与効率が更に上昇し、薬物イオンがイオン交換膜215中のイオン交換基に結合した状態で保持されるために薬物イオンの安定性、保存性が向上し、更に作用側電極構造体210の組み立てに際してウェットな状態での取り扱いが必要であった薬液保持部114が省略されているために製造工程が簡略化されるなどの追加的な効果が達成される。
【0012】
本願出願人は、特許文献1のイオントフォレーシス装置の改良に係る更に他のイオントフォレーシス装置を案出し、これを特願2005−222893号(以下、「出願2」という)として出願している。
【0013】
図7(B)、(C)は、出願2において実施形態として開示される作用側電極構造体310及び非作用側電極構造体320を示す説明図である。
【0014】
図示されるように作用側電極構造体310は、第1導電型の電圧が印加される電極311、電解液を保持する電解液保持部312、第1導電型の薬物イオンを含む薬液を保持する薬液保持部314及び第1導電型のイオン交換膜315を有し、電解液保持部312と薬液保持部314の間には、第2導電型のイオン交換膜313及び第1導電型のイオン交換膜313′よりなるイオン交換膜積層体Sが配置されている。
【0015】
非作用側電極構造体320は、第2導電型の電圧が印加される電極321、電解液を保持する電解液保持部322、電解液を保持する電解液保持部324及び第2導電型のイオン交換膜325を有し、2つの電解液保持部322、324の間には、第1導電型のイオン交換膜323及び第2導電型のイオン交換膜323′よりなるイオン交換膜積層体Sが配置されている。
【0016】
作用側電極構造体310を備えるイオントフォレーシス装置では、イオン交換膜313、315を備えるが故に、薬剤イオンの投与効率が上昇し、通電時における薬剤の分解が防止されるなど、特許文献1のイオントフォレーシス装置と同様の効果が達成される。
【0017】
加えて作用側電極構造体310では、電解液保持部312と薬液保持部314の間に反対導電型の2つのイオン交換膜313、313′からなるイオン交換膜積層体Sが配置されているために、装置の保存中における電解液保持部312と薬液保持部314の間でのイオンの移行を遮断できる。従って、電解液保持部312の第1又は第2導電型のイオンが薬液保持部314に移行することに起因する装置の保存中における薬物の変質を防止できるという追加的な効果が達成される。なお、作用側電極構造体310では、薬物投与の際における電解液保持部312から314への通電を確保するために、イオン交換膜313、313′の少なくとも一方には、ある程度輸率の低いイオン交換膜が使用される。
【0018】
非作用側電極構造体320を備えるイオントフォレーシス装置では、電解液保持部322と電解液保持部324の間に反対導電型の2つのイオン交換膜323、323′からなるイオン交換膜積層体Sが配置されているために、装置の保存中における2つの電解液保持部322、324間でのイオンの移行を遮断できる。従って、電解液保持部322に電極反応の抑止や緩衝効果に優れる電解液を使用し、電解液保持部324に生体への安全性の高い電解液を使用するなど、それぞれに異なる組成の電解液を使用した場合に、両電解液保持部の電解液が装置の保存中に混合してしまうことを防止することができる。非作用側電極構造体320においても薬物投与の際の通電を確保するために、イオン交換膜323、323′の少なくとも一方には、ある程度輸率の低いイオン交換膜が使用される。
【特許文献1】国際公開第03/037425号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
出願1、2に開示されるイオントフォレーシス装置は、上記の通り、種々の優れる特性を有するが、投与される薬物の種類や使用されるイオン交換膜の特性、或いは電極に印加される電圧などの条件によっては、出願1、2に開示されるイオントフォレーシス装置においても十分な薬物の投与速度を得ることができず、或いは皮膚界面において急激なpH変動を生じる場合があることが見出された。
【0020】
本発明は、出願1又は2に開示されるイオントフォレーシス装置を更に改善し、投与される薬物の種類や使用されるイオン交換膜の特性、或いは電源電圧などの条件によって生じる場合がある薬物の投与速度の低下を防止又は軽減することができるイオントフォレーシス装置を提供することをその目的とする。
【0021】
本発明は、出願1又は2に開示されるイオントフォレーシス装置を更に改善し、使用されるイオン交換膜の特性や電源電圧などの条件にって生じる場合のある皮膚界面におけるpH変動を防止又は軽減することができるイオントフォレーシス装置を提供することをもその目的とする。
【0022】
本発明は、出願1又は2に開示されるイオントフォレーシス装置に好適に使用できるイオン交換膜積層体又は両極性イオン交換膜であって、投与される薬物の種類や使用されるイオン交換膜の特性、或いは電源電圧などの条件によって生じる場合がある薬物の投与速度の低下を防止又は軽減することができるイオン交換膜積層体又は両極性イオン交換膜を提供することをもその目的とする。
【0023】
本発明は、出願1又は2に開示されるイオントフォレーシス装置に好適に使用できるイオン交換膜積層体又は両極性イオン交換膜であって、使用されるイオン交換膜の特性や電源電圧などの条件にって生じる場合のある皮膚界面におけるpH変動を防止又は軽減することができるイオン交換膜積層体又は両極性イオン交換膜を提供することをもその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本願発明者は、出願1又は出願2に開示されるイオントフォレーシス装置において、投与される薬物の種類や使用されるイオン交換膜の特性、或いは電源電圧などの条件により生じる場合のある薬物イオンの投与速度の低下、或いは皮膚界面における急激なpH変動の問題を検討した結果、これらの現象の原因が、出願1、2のイオントフォレーシス装置が備えるイオン交換膜積層体における2つのイオン交換膜の界面での水の電気分解であることを解明し、部材点数の増大や他の装置特性への悪影響などを生じることなくイオン交換膜積層体における水の電気分解を解消又は軽減できるイオントフォレーシス装置を完成させた。
【0025】
即ち本発明は、 表面及び裏面を有する第1導電型の第1イオン交換膜と、
表面及び裏面を有する第2導電型の第2イオン交換膜とからなり、
前記第1イオン交換膜の前記裏面を前記第2イオン交換膜の前記裏面に接触させて前記第1、第2イオン交換膜を積層したイオン交換膜積層体を有する電極構造体を備えるイオントフォレーシス装置であって、
前記第1、第2イオン交換膜の少なくとも一方のイオン交換基密度が、前記表面において高く、前記裏面において低くなるように傾斜していることを特徴とするイオントフォレーシス装置(請求項1)、又は、
表面及び裏面を有する第1導電型の第1イオン交換膜と、
表面及び裏面を有する第2導電型の第2イオン交換膜とからなり、
前記第1イオン交換膜の前記裏面を前記第2イオン交換膜の前記裏面に接触させて前記第1、第2イオン交換膜を積層したイオン交換膜積層体であって、
前記第1、第2イオン交換膜の少なくとも一方のイオン交換基密度が、前記表面において高く、前記裏面において低くなるように傾斜していることを特徴とするイオントフォレーシス用イオン交換膜積層体(請求項7)である。
【0026】
なお、請求項1、7における表面において高く、裏面において低くなるようなイオン交換基密度の傾斜を有する第1又は第2のイオン交換膜を、以下の説明では「傾斜イオン交換膜」という。
【0027】
請求項1、7のイオン交換膜積層体は、第1導電型の第1イオン交換膜と、これに積層された第2導電型の第2イオン交換膜とから構成される。従って、このイオン交換膜積層体は、出願1、2におけるイオン交換膜積層体の役割を果たすことができる。
【0028】
更に、請求項1、7のイオン交換膜積層体は、第1、第2イオン交換膜の少なくとも一方が傾斜イオン交換膜であり、当該傾斜イオン交換膜の裏面側におけるイオン交換基密度が低くなっているために、通電の際における第1、第2のイオン交換膜の界面での水の電気分解を抑制することが可能である。
【0029】
その一方、傾斜イオン交換膜の表面側におけるイオン交換基密度を十分に高くすることで、出願1又は2に係るイオントフォレーシス装置の機能を十全に発揮させることができる。
【0030】
即ち、出願1のイオントフォレーシス装置のイオン交換膜積層体のうち、薬物イオンと同一導電型のイオン交換膜(作用側電極構造体210の場合であれば、イオン交換膜215)を傾斜イオン交換膜とした場合には、その表面側のイオン交換基密度を十分に高くすることで薬物の投与効率を上昇させることができ、薬物イオンと反対導電型のイオン交換膜(作用側電極構造体210の場合であれば、イオン交換膜213)を傾斜イオン交換膜とした場合には、その表面側のイオン交換基密度を十分に高くすることで薬物イオンの電解液への移行を抑制し、通電の際における薬物イオンの分解を防止することができる。
【0031】
同様に、出願2のイオントフォレーシス装置に関しては、イオン交換膜積層体を構成する2つのイオン交換膜(作用側電極構造体310の場合であれば、イオン交換膜313及び313′、非作用側電極構造体320の場合であれば、イオン交換膜323及び323′)の一方もしくは双方を傾斜イオン交換膜とすることができ、その傾斜イオン交換膜の表面側のイオン交換基密度を十分に高くすることで、作用側電極構造体における薬物イオンの電解液への移行や電解液中のイオンの薬液保持部への移行を防止し、或いは非作用側電極構造体における2つの電解液の混合を防止することができる。
【0032】
本発明の第1、第2イオン交換膜は、少なくとも表面及び裏面を有する典型的にはシート状(平面状)の形態のイオン交換膜である。
【0033】
本発明の第1、第2イオン交換膜における「裏面」は、第1イオン交換膜と第2イオン交換膜とが接触する側の面であり、「表面」は、その反対側の面である。
【0034】
本発明の傾斜イオン交換膜におけるイオン交換基密度の傾斜は、イオン交換基密度が裏面側から表面側に向けて連続的に上昇するものであってもよく、段階的に上昇するものであっても良い。また、イオン交換基密度が傾斜イオン交換膜の表面において最大となり、或いは裏面において最小となることは必ずしも必要ではなく、表面と裏面の中間において最大又は最小となっても構わない。
【0035】
本発明の傾斜イオン交換膜におけるイオン交換基密度に傾斜を与える方法は任意であるが、一例を挙げれば、イオン交換膜の表面側からのみイオン交換基の導入処理を行うことにより、イオン交換基密度が表面において高く、裏面において低くなるようにイオン交換基密度の傾斜を与えることができる。
【0036】
本発明におけるイオン交換膜積層体は、第1、第2導電型のイオン交換膜の界面を熱プレスなどにより一体に接合することが可能であり、これにより、イオン交換膜積層体の取り扱い性を向上させ、製造の容易化、製造歩留まりの向上、大量生産の容易化などの追加的な効果を達成することができる。
【0037】
本発明は、
表面及び裏面を有する両極性イオン交換膜であって、
前記表面の側に位置する第1導電型のイオン交換基が導入された第1膜厚部分と、前記裏面の側に位置する第2導電型のイオン交換基が導入された第2膜厚部分と、前記第1、第2膜厚部分の中間に位置する前記第1、第2膜厚部分よりもイオン交換基密度が低い第3膜厚部分とを有する前記両極性イオン交換膜を有する電極構造体を備えることを特徴とするイオントフォレーシス装置(請求項4)、又は、
表面及び裏面を有する両極性イオン交換膜であって、
前記表面の側に位置する第1導電型のイオン交換基が導入された第1膜厚部分と、前記裏面の側に位置する第2導電型のイオン交換基が導入された第2膜厚部分と、前記第1、第2膜厚部分の中間に位置する前記第1、第2膜厚部分よりもイオン交換基密度が低い第3膜厚部分とを有することを特徴とするイオントフォレーシス用両極性イオン交換膜(請求項8)とすることもできる。
【0038】
請求項4、8の両極性イオン交換膜は、第1導電型のイオン交換基が導入された第1膜厚部分と、第2導電型のイオン交換基が導入された第2膜厚部分とを有しているため、この両極性イオン交換膜は、出願1、2におけるイオン交換膜積層体の役割を果たすことができる。
【0039】
更に、請求項4、8の両極性イオン交換膜は、第1、第2膜厚部分の中間にイオン交換基密度の低い第3膜厚部分を有するが故に、通電の際に第1、第2膜厚部分の中間部において生じうる水の電気分解を抑制することができる。
【0040】
また、請求項4、8の両極性イオン交換膜は、第1、第2膜厚部分におけるイオン交換基密度を十分に高くすることで、出願1又は2に係るイオントフォレーシス装置の機能を十全に発揮させることができる。
【0041】
即ち、出願1のイオントフォレーシス装置に関しては、第1、第2膜厚部分のうち、薬物イオンと同一導電型のイオン交換基が導入される膜厚部分のイオン交換基密度を十分高くすることで薬物の投与効率を向上させることができ、薬物イオンと反対導電型のイオン交換基が導入される膜厚部分のイオン交換基密度を高くすることで薬物イオンの電解液への移行を抑制し、通電の際における薬物イオンの電極反応による分解等を防止することができる。
【0042】
同様に、出願2のイオントフォレーシス装置に関しては、第1、第2膜厚部分のイオン交換基密度を高くすることにより、作用側電極構造体における薬物イオンの電解液への移行や電解液中のイオンの薬液保持部への移行を防止し、又は非作用側電極構造体における2つの電解液の混合を防止することができる。
【0043】
本発明の両極性イオン交換膜は任意の方法により調整することができるが、一例を挙げれば、イオン交換膜へのイオン交換基の導入に際して、第1膜厚部分の側から第1導電型のイオン交換基の導入を行うとともに、第2膜厚部分の側から第2導電型のイオン交換基の導入を行うことにより、第1導電型のイオン交換基が導入された第1膜厚部分と、第2導電型のイオン交換基が導入された第2膜厚部分と、その中間に位置する前記第1、第2膜厚部分よりもイオン交換基密度が低い第3膜厚部分とを有する両極性イオン交換膜を得ることができる。
【0044】
本発明の両極性イオン交換膜は、必ずしも第1〜第3膜厚部分の境界が明瞭になるように、イオン交換基密度が各膜厚部分間で段階的に変化するものである必要はなく、表面において第1導電型のイオン交換基密度が高く、膜中央に向けて徐々にイオン交換基密度が低くなっていき、膜中央から裏面に向けて徐々に第2導電型のイオン交換基密度が高くなっていくなど、イオン交換基密度が連続的に変化するものであっても良い。
【0045】
上記の通り、イオントフォレーシス装置は、生体に投与すべき薬物を保持する作用側電極構造体と、その対極としての役割を有する非作用側電極構造体とを有することが通常であるが、その場合には、作用側電極構造体と非作用側電極構造体の少なくとも一方が上記イオン交換膜積層体又は両極性イオン交換膜を備えるイオントフォレーシス装置が請求項1又は4のイオントフォレーシス装置であり、好ましくはその双方が上記イオン交換膜積層体又は両極性イオン交換膜を備えるものとすることができる。請求項7のイオン交換膜積層体及び請求項8の両極性イオン交換膜は、上記の場合における作用側電極構造体又は非作用側電極構造体に使用することができ、好ましくはその双方に使用することができる。
【0046】
イオントフォレーシス装置の種類によっては、電源の両極に接続される2つの電極構造体の双方に生体に投与すべき薬物が保持される場合があり(この場合は双方の電極構造体が、作用側電極構造体であるとともに非作用側電極構造体である)、或いは電源のそれぞれの極に複数の電極構造体が接続される場合もあるが、そのような場合は、これらの電極構造体の少なくとも一つが上記イオン交換膜積層体又両極性イオン交換膜を備えるイオントフォレーシス装置が請求項1又は4のイオントフォレーシス装置であり、好ましくはその全てが上記イオン交換膜積層体又は両極性イオン交換膜を備えるものとすることができる。請求項7のイオン交換膜積層体及び請求項8の両極性イオン交換膜は、上記の場合におけるいずれかの電極構造体に使用することができ、好ましくはその全てに使用することができる。
【0047】
本明細書における「薬物」は、調製されているか否かに関わらず、一定の薬効又は薬理作用を有し、病気の治療、回復又は予防、健康の増進又は維持、病状や健康状態などの診断、或いは美容の増進又は維持などの目的で生体に投与される物質を意味する。
【0048】
本明細書における「薬物イオン」は、薬物がイオン解離することにより生じるイオンであって、薬効又は薬理作用を担うイオンを意味する。
【0049】
本明細書における「薬液」は、薬物を溶媒に溶解させた溶液や薬物が液状である場合における原液、或いはその原液と溶媒との混合液だけでなく、薬物の少なくとも一部が薬物イオンに解離する限り、薬物を溶媒等に懸濁又は乳濁させたもの、軟膏状又はペースト状に調整されたものなど各種の状態のものを含む。
【0050】
本明細書における「薬物対イオン」は、薬液中に存在するイオンであって、薬物イオンとは反対導電型のイオンを意味する。
【0051】
本明細書における「皮膚」は、イオントフォレーシスによる薬物投与を行い得る生体表面を意味しており、例えば口腔内の粘膜なども含まれる。「生体」は人及び動物を含む。
【0052】
本明細書における「生体対イオン」は、生体の皮膚上又は生体内に存在するイオンであって、薬物イオンと反対導電型のイオンを意味する。
【0053】
本明細書における「前面側」は、薬物投与に際しての電流経路上における生体皮膚に近い側を意味する。
【0054】
本発明における「第1導電型」は、プラス又はマイナスの電気極性を意味し、「第2導電型」は第1導電型と反対の導電型(マイナス又はプラス)を意味する。
【0055】
本発明における第1イオン交換膜又は第1膜厚部分にドープされる薬物イオンは必ずしも単一種類である必要はなく、複数種類の薬物イオンがドープされていても構わない。同様に、本発明の薬液保持部に含まれる薬物イオン及び薬物対イオン、或いは電解液保持部の電解液に含まれるプラスイオン及びマイナスイオンは、必ずしもそれぞれ単一種類である必要はなく、いずれか一方又は双方が複数種類であっても構わない。
【0056】
本明細書における「第1導電型のイオン交換基」は、第1導電型のイオンを対イオンとするイオン交換基を意味する。従って、第1導電型がプラスである場合には、「第1導電型のイオン交換基」はカチオン交換基(陽イオン交換基)であり、第1導電型がマイナスである場合には、「第1導電型のイオン交換基」はアニオン交換基(陰イオン交換基)である。
【0057】
同様に、「第2導電型のイオン交換基」は、第2導電型のイオンを対イオンとするイオン交換基を意味する。従って、第2導電型がプラスである場合には、「第2導電型のイオン交換基」はカチオン交換基(陽イオン交換基)であり、第2導電型がマイナスである場合には、「第2導電型のイオン交換基」はアニオン交換基(陰イオン交換基)である。
【0058】
本明細書における「イオン交換基密度」は、単位体積のイオン交換膜中に導入されているイオン交換基数である。同様に、「カチオン交換基密度」及び「アニオン交換基密度」はそれぞれ、単位体積のカチオン交換膜、アニオン交換膜に導入されているカチオン交換基数及びアニオン交換基数である。
【0059】
本明細書における「第1導電型のイオン交換膜」は、第1導電型のイオン交換基が導入されたイオン交換膜を意味する。従って、第1導電型がプラスである場合には「第1導電型のイオン交換膜」はカチオン交換膜であり、第1導電型がマイナスである場合には「第1導電型のイオン交換膜」はアニオン交換膜である。
【0060】
同様に、「第2導電型のイオン交換膜」は、第2導電型のイオン交換基が導入されたイオン交換膜を意味する。従って、第2導電型がプラスである場合には「第2導電型のイオン交換膜」はカチオン交換膜であり、第2導電型がマイナスである場合には「第2導電型のイオン交換膜」はアニオン交換膜である。
【0061】
イオン交換膜には、イオン交換樹脂を膜状に形成したものの他、イオン交換樹脂をバインダーポリマー中に分散させ、これを加熱成型などにより製膜することで得られる不均質イオン交換膜や、イオン交換基を導入可能な単量体、架橋性単量体、重合開始剤などからなる組成物や、イオン交換基を導入可能な官能基を有する樹脂を溶媒に溶解させたものを、布や網、或いは多孔質フィルムなどの基材に含浸充填させ、重合又は溶媒除去を行った後にイオン交換基の導入処理を行うことにより得られる均質イオン交換膜など各種のものが知られている。
【0062】
より具体的には、カチオン交換膜としては、(株)トクヤマ製ネオセプタCM−1、CM−2、CMX、CMS、CMBなどの陽イオン交換基が導入されたイオン交換膜を例示することができ、アニオン交換膜としては、例えば、(株)トクヤマ製ネオセプタAM−1、AM−3、AMX、AHA、ACH、ACSなどの陰イオン交換基が導入されたイオン交換膜を例示することができる。
【0063】
カチオン交換膜に導入される陽イオン交換基としては、スルホン酸基、カルボン酸基、ホスホン酸基等を挙げることができ、強酸性基であるスルホン酸基を使用することにより、輸率の高いカチオン交換膜を得ることができるなど、導入する陽イオン交換基の種類によってイオン交換膜の輸率を制御することが可能である。
【0064】
アニオン交換膜に導入される陰イオン交換基としては、1〜3級アミノ基、4級アンモニウム基、ピリジル基、イミダゾール基、4級ピリジニウム基、4級イミダゾリウム基等を挙げることができ、強塩基性基である4級アンモニウム基や4級ピリジニウム基を使用することにより、輸率の高いアニオン交換膜を得ることができるなど、導入する陰イオン交換基の種類によってイオン交換膜の輸率を制御することが可能である。
【0065】
陽イオン交換基の導入処理としては、スルホン化、クロロスルホン化、ホスホニウム化、加水分解などの種々の手法が、また陰イオン交換基の導入処理としては、アミノ化、アルキル化などの種々の手法が知られているが、このイオン交換基の導入処理の条件を調整することにより、イオン交換膜の輸率やイオン交換基密度を調整することが可能である。
【0066】
また、イオン交換膜中のイオン交換樹脂量や膜のポアサイズなどによってもイオン交換膜の輸率やイオン交換基密度を調整することが可能である。例えば、多孔質フィルム中にイオン交換樹脂が充填されたタイプのイオン交換膜の場合にあっては、0.005〜5.0μm、より好ましくは0.01〜2.0μm、最も好ましくは0.02〜0.2μmの平均孔径(バブルポイント法(JIS K3832−1990)に準拠して測定される平均流孔径)の多数の小孔が、20〜95%、より好ましくは30〜90%、最も好ましくは30〜60%の空隙率で形成された5〜140μm、より好ましくは10〜120μm、最も好ましくは15〜55μmの膜厚を有する多孔質フィルムを使用し、5〜95質量%、より好ましくは10〜90質量%、特に好ましくは20〜60質量%の充填率でイオン交換樹脂を充填させたイオン交換膜を使用することができるが、これらの多孔質フィルムが有する小孔の平均孔径、空隙率、イオン交換樹脂の充填率によってもイオン交換膜の輸率やイオン交換基密度を調整することが可能である。なお、本発明におけるイオン交換膜には、この多孔質フィルム中にイオン交換樹脂が充填されたタイプのイオン交換膜が特に好適に使用される。
【0067】
本明細書においてイオン交換膜について述べる「イオンの通過の遮断」は、必ずしも一切のイオンを通過させないことを意味するのではなく、例えば、ある程度の速度をもって生体対イオンの通過が生じる場合であっても、その程度が小さいが故に薬物イオンの投与効率を十分に高めることができる場合など、第1又は第2導電型のイオンを反対導電型のイオンに比して通過速度又は通過量が十分に小さい場合が含まれる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0068】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を説明する。
【0069】
なお、以下では、説明の便宜上、薬効成分がプラスの薬物イオンに解離する薬物(例えば、塩酸リドカインや塩酸モルヒネなど)を投与するためのイオントフォレーシス装置を例として説明するが、薬効成分がマイナスの薬物イオンに解離する薬物(例えば、アスコルビン酸など)を投与するためのイオントフォレーシス装置の場合は、以下の説明における電源の極、各イオン交換膜の導電型を逆転させることで、以下の実施態様と実質的に同一の効果を達成できるイオントフォレーシス装置を構成することができる。
【0070】
図1は、本発明に係るイオントフォレーシス装置Xの概略構成を示す説明図である。
【0071】
図示されるように、イオントフォレーシス装置Xは、電源30と、電源30のプラス極と給電線31により接続された作用側電極構造体10及び電源30のマイナス極と給電線32により接続された非作用側電極構造体20から構成されている。
【0072】
作用側電極構造体10及び非作用側電極構造体20は、その内部に以下に述べる各種の構造を収容できる空間が形成され、下面16b、26bが開放された容器16、26を備えている。この容器16、26はプラスチックなどの任意の素材から形成することができるが、好ましくは内部からの水分の蒸発や外部からの異物の侵入を防ぐことができる素材や、生体の動きや皮膚の凹凸に追随できる柔軟な素材から形成することができる。また容器16、26の下面16b、26bには、イオントフォレーシス装置Xの保存中における水分の蒸発や異物の混入を防ぐための適宜の材料からなる取り外し可能なライナーを貼付することができ、容器16、26の下端縁16e、26eには、薬物投与の際に皮膚との密着性を高めるための粘着剤層を設けることが可能である。
【0073】
電源30としては、電池、定電圧装置、定電流装置、定電圧・定電流装置などを使用することができるが、0.01〜1.0mA/cm2、好ましくは、0.01〜0.5mA/cm2の範囲で電流調整が可能であり、50V以下、好ましくは、30V以下の安全な電圧条件で動作する定電流装置を使用することが好ましい。
【0074】
図2(A)〜(C)は、上記イオントフォレーシス装置Xの作用側電極構造体10とし
て使用することができる作用側電極構造体10a〜10cの構成例を示す断面説明図である。
【0075】
作用側電極構造体10aは、電源30の給電線31に接続される電極11と、電極11に接触する電解液を保持する電解液保持部12と、電解液保持部12の前面側に配置されたイオン交換膜積層体13aを有している。
【0076】
電極11には、銀などの通電により酸化反応を生じる導電材料を使用することにより、電極反応によるガスの発生やpH変化を抑制することができるが、下記のように電解液保持部12の電解液の組成を適切に選択することにより電極反応によるガスの発生やpH変化を抑制できる場合、或いは通電量が少ないなどのために電極反応が問題とならない場合などには、金、白金、カーボンなどの不活性な導電材料を使用することもできる。
【0077】
電解液保持部12は、任意の電解質を溶解した電解液を保持することができるが、水の電気分解よりも酸化電位の低い電解質を使用し、或いは複数種類の電解質を溶解した緩衝電解液とすることで、通電の際におけるガスの発生やpH変化を抑制することができる。
【0078】
また電解液保持部12のプラスイオンの移動度が、カチオン交換膜13Cにドープされた薬物イオンより大きい場合には、そのプラスイオンが薬物イオンに優先して生体に移行して薬物イオンの投与効率を低下させる可能性があるため、電解液保持部12の電解液は、薬物イオンよりも移動度の大きいプラスイオンを含まない組成とすることが好ましい。
【0079】
電解液保持部12は、電解液を液体状体で保持することができ、ガーゼ、濾紙、水性ゲルなどの適当な吸収性の担体に含浸させて保持することもできる。
【0080】
イオン交換膜積層体13aは、傾斜アニオン交換膜13A及びその前面側に配置されたカチオン交換膜13Cから構成されている。
【0081】
傾斜アニオン交換膜13Aは、表面t及び裏面bを有し、表面t側においてアニオン交換基密度が高く、裏面b側においてアニオン交換基密度が低くなる態様で膜厚方向のアニオン交換基密度に傾斜が与えられている。従って、傾斜アニオン交換膜13Aの表面t側にはアニオン交換基密度が高い膜厚部分が形成され、裏面b側にはアニオン交換基密度が低い膜厚部分が形成されている。
【0082】
一方、カチオン交換膜13Cにはプラスの薬物イオンがドープされている。カチオン交換膜13Cは傾斜アニオン交換膜13Aの裏面bに接触するようにして傾斜アニオン交換膜13Aの前面側に配置される。
【0083】
図3は、傾斜アニオン交換膜13Aへのアニオン交換基の導入方法の一例を示す説明図である。
【0084】
図示されるように、A槽とB槽をイオン交換基が未導入のイオン交換膜Mで区画し、A槽にトリメチルアミン水溶液やヨウ化メチル水溶液などのアニオン交換基導入用液を、B槽に水などの中性液を貯留して、A槽側からのみアニオン交換基を導入することで、イオン交換膜Mを、上述の態様でアニオン交換基密度が傾斜するアニオン交換膜13Aに調整することができる。
【0085】
傾斜アニオン交換膜13Aの表面t及び裏面bにおけるアニオン交換基密度やアニオン交換基密度の傾斜の態様(イオン交換基密度を傾斜アニオン交換膜13Aの膜厚方向に、曲線的に変化させるか、直線的に変化させるか、或いは段階的に変化させるかなど)は、アニオン交換基導入用液の濃度や処理温度、処理時間などによって制御することができる。
【0086】
作用側電極構造体10aでは、後述のように、電極11にプラスの電圧を印加した際に、電解液保持部12のプラスイオンが傾斜アニオン交換膜13Aを通過できることが必要であるめ、上記アニオン交換基の導入処理において、傾斜アニオン交換膜13Aの輸率が、例えば0.7〜0.98など、ある程度低い値となるように制御することが好ましい。
【0087】
なお、傾斜アニオン交換膜13Aの輸率は、電解液保持部12の電解液と、適当な濃度の薬物イオンを含む薬液(例えば、下記カチオン交換膜13Cへの薬物イオンのドープに使用する薬液)の間に傾斜アニオン交換膜13Aを配置した状態で、電解液側に第1導電型の電圧を印加したときに傾斜アニオン交換膜13Aを介して運ばれる総電荷のうち、薬液中のマイナスイオンが傾斜アニオン交換膜13Aを通過することにより運ばれる電荷量の割合として定義される。
【0088】
カチオン交換膜13Cへの薬物イオンのドープは、適当な濃度の薬物イオンを含む薬液にカチオン交換膜13Cを浸漬することにより行うことができる。カチオン交換膜13Cへの薬物イオンのドープ量は、このときの薬液中の薬物イオンの濃度や、浸漬時間、浸漬回数などにより制御することができる。
【0089】
作用側電極構造体10aを備えるイオントフォレーシス装置Xでは、出願1に開示されるイオントフォレーシス装置と同様のメカニズムにより薬物イオンの投与が行われる。
【0090】
即ち、電解液保持部12のプラスイオンが電極11へのプラス電圧に駆動されて傾斜アニオン交換膜13Aを通過し、カチオン交換膜13Cに移行する。カチオン交換膜13Cにドープされた薬物イオンは、このプラスイオンに置換され、電極11へのプラス電圧に駆動されて生体に移行する。
【0091】
作用側電極構造体10aを備えるイオントフォレーシス装置Xでは、出願1に開示されるイオントフォレーシス装置と同様、下記(1)〜(4)の効果が達成される。
(1)装置の保存中における薬物イオンの電解液保持部12への移行が傾斜アニオン交換膜13Aにより遮断されるため、通電時における薬物イオンの電極11近傍での分解を防止することができる。なお、上記のようにある程度輸率の低いアニオン交換膜13Aを使用した場合でも、保存中の(無通電の状態での)薬物イオンの電解液保持部12への移行は十分に抑制することができる。
(2)薬物イオンの投与中においては、マイナスに帯電した生体対イオンの装置内への侵入がカチオン交換膜13Cにより遮断されるため、薬物イオンの投与効率を上昇させることができる。
(3)薬物イオンが生体皮膚に最も近接して配置される部材であるカチオン交換膜13Cにドープされているため、薬物イオンの投与効率を更に上昇させることができる。
(4)薬物イオンがカチオン交換膜13C中のイオン交換基に結合した状態で保持されるために、変質などに対する安定性、保存性が向上する。従って、装置の保存期間を延長でき、或いは安定化剤、抗菌剤、防腐剤などが不要となり、又はその使用量を低減させることができる。
【0092】
作用側電極構造体10aを備えるイオントフォレーシス装置Xでは更に、出願1、2のイオントフォレーシス装置では得ることができない下記の効果が達成される。
【0093】
即ち、傾斜アニオン交換膜13Aの裏面bにアニオン交換基密度が低い膜厚部分が形成されているため、通電の際における傾斜アニオン交換膜13Aとカチオン交換膜13Cの界面における水の電気分解による水素イオンの生成が抑制される。従って、この水素イオンが生体側に移行することによる薬物イオンの投与効率の低下や生体界面におけるpH値の急激な変動を抑止することができる。
【0094】
作用側電極構造体10bは、イオン交換膜積層体13aに代えて、イオン交換膜積層体13bを備える点を除いて作用側電極構造体10aと同一の構成を有している。
【0095】
イオン交換膜積層体13bは、アニオン交換膜13A及びその前面側に配置された傾斜カチオン交換膜13Cから構成されている。
【0096】
傾斜カチオン交換膜13Cは、表面t及び裏面bを有し、表面t側においてカチオン交換基密度が高く、裏面b側においてカチオン交換基密度が低くなる態様で膜厚方向のカチオン交換基密度に傾斜が与えられている。従って、傾斜カチオン交換膜13Cの表面t側にはカチオン交換基密度が高い膜厚部分が形成され、裏面b側にはカチオン交換基密度が低い膜厚部分が形成されている。傾斜カチオン交換膜13Cは、その裏面bをアニオン交換膜13Aに接触させてアニオン交換膜13Aの前面側に配置されており、傾斜カチオン交換膜13Cにはプラスの薬物イオンがドープされている。
【0097】
傾斜カチオン交換膜13Cにおけるカチオン交換基密度の傾斜は、作用側電極構造体10aにおける傾斜アニオン交換膜13Aと類似の態様により与えることができる。
【0098】
即ち、図3のA槽にクロロスルホン酸溶液や硫酸溶液などのカチオン交換基導入用液を、B槽に水などの中性液を貯留し、このA、B両槽をイオン交換基が未導入のイオン交換膜Mで区画して、A槽の側からのみカチオン交換基を導入することで、イオン交換膜Mを上述の態様でカチオン交換基密度が傾斜する傾斜交換膜13Cに調整することができる。
【0099】
傾斜カチオン交換膜13Cの表面t及び裏面bにおけるカチオン交換基密度や傾斜の態様(カチオン交換基密度を傾斜カチオン交換膜13Cの膜厚方向に、曲線的に変化させるか、直線的に変化させるか、或いは段階的に変化させるかなど)は、A槽中のカチオン交換基導入用液の濃度や処理温度、処理時間などによって制御することができる。
【0100】
作用側電極構造体10bを備えるイオントフォレーシス装置Xでは、作用側電極構造体10aを備えるイオントフォレーシス装置Xと同様の態様で生体への薬物イオンの投与が行われ、出願1に開示されるイオントフォレーシス装置と同様の上記(1)〜(4)の効果が達成される。
【0101】
作用側電極構造体10bを備えるイオントフォレーシス装置Xでは更に、出願1、2のイオントフォレーシス装置では得ることができない下記の効果が達成される。
【0102】
即ち、傾斜カチオン交換膜13Cの裏面bにカチオン交換基密度が低い膜厚部分が形成されているため、通電の際におけるアニオン交換膜13Aと傾斜カチオン交換膜13Cの界面における水の電気分解による水素イオンの生成が抑制される。従って、この水素イオンが生体側に移行することによる薬物イオンの投与効率の低下や生体界面におけるpH値の急激な変動を抑止することができる。
【0103】
作用側電極構造体10cは、イオン交換膜積層体13aに代えて、両極性イオン交換膜13cを備える点を除いて作用側電極構造体10aと同一の構成を有している。
【0104】
両極性イオン交換膜13cは、表面t側にカチオン交換基が導入された第1膜厚部分13(1)を、裏面b側にアニオン交換基が導入された第2膜厚部分13(2)を、その中間に第1、第2膜厚部分13(1)、13(2)よりもイオン交換基密度が低い第3膜厚部分13(3)を有しており、第2膜厚部分13(2)を電解液保持部12に接触させて電解液保持部12の前面側に配置されている。
【0105】
また、両極性イオン交換膜13cの第1膜厚部分13(1)には、プラスの薬物イオンがドープされている。
【0106】
両極性イオン交換膜13cは、作用側電極構造体10aにおける傾斜アニオン交換膜13Aと類似の態様により形成することができる。
【0107】
即ち、図3のA槽にクロロスルホン酸や硫酸などのカチオン交換基導入用液を、B槽にトリメチルアミン水溶液やヨウ化メチル水溶液などのアニオン交換基導入用液を貯留し、このA、B両槽をイオン交換基が未導入のイオン交換膜Mで区画して、A槽側からカチオン交換基を導入すると同時に、B槽側からアニオン交換基を導入することで、イオン交換膜Mを両極性イオン交換膜13cに調整することができる。
【0108】
両極性イオン交換膜13cの第1〜第3膜厚部分13(1)〜13(3)の膜厚やイオン交換基密度、或いは両極性イオン交換膜13cの膜厚方向でのイオン交換基密度の変化の態様(直線状に変化させるか、曲線状に変化させるか、或いは段階的に変化させるか)は、A槽中のカチオン交換基導入用液及びB槽中のアニオン交換膜導入用液の濃度や処理温度、処理時間などによって制御することができる。
【0109】
作用側電極構造体10cでは、電極11にプラスの電圧を印加した際に、電解液保持部12のプラスイオンが第2膜厚部分13(2)を通過できることが必要であるため、上記アニオン交換基の導入において、第2膜厚部分13(2)の輸率が、例えば、0.7〜0.98など、ある程度低い値となるように制御することが好ましい。
【0110】
両極性イオン交換膜13cの第1膜厚部分13(1)への薬物イオンのドープは、第1膜厚部分13(1)を適当な濃度の薬物イオンを含む薬液に浸漬することにより行うことができる。
【0111】
この処理は、例えば、図3の装置を用いて、適当な濃度の薬物イオンを含む薬液を貯留するA槽と水などの中性液を貯留するB槽の間に、第1膜厚部分13(1)がA槽側に向くようにして両極性イオン交換膜13cを配置した状態を所定時間保つことにより行うことができる。第1膜厚部分13(1)への薬物イオンのドープ量は、このときの薬液中の薬物イオンの濃度や浸漬時間などにより制御することができる。
【0112】
作用側電極構造体10cを備えるイオントフォレーシス装置Xでは、出願1に開示されるイオントフォレーシス装置と同様のメカニズムにより薬物イオンの投与が行われる。
【0113】
即ち、電解液保持部12のプラスイオンが電極11へのプラス電圧に駆動されて第2、第3膜厚部分13(2)、13(3)を通過し、第1膜厚部分13(1)に移行する。第1膜厚部分13(1)にドープされた薬物イオンは、このプラスイオンに置換され、電極11へのプラス電圧に駆動されて生体に移行する。
【0114】
作用側電極構造体10cを備えるイオントフォレーシス装置は、出願1に開示されるイオントフォレーシス装置と同様の上記(1)〜(4)の効果を達成する。
【0115】
作用側電極構造体10cを備えるイオントフォレーシス装置Xでは更に、出願1のイオントフォレーシス装置では得ることができない下記の効果が達成される。
【0116】
即ち、両極性イオン交換膜13cが第1、第2膜厚部分13(1)、13(2)の中間にイオン交換基密度が低い第3膜厚部分13(3)を備えるため、通電の際における第1、第2膜厚部分13(1)、13(2)の間での水の電気分解による水素イオンの生成が抑制される。従って、この水素イオンが生体側に移行することによる薬物イオンの投与効率の低下や生体界面におけるpH値の急激な変動を抑止することができる。
【0117】
図4(A)〜(C)は、イオントフォレーシス装置Xにおける作用側電極構造体10として使用することができる作用側電極構造体10d〜10fの構成例を示す説明図である。
【0118】
作用側電極構造体10dは、電源30の給電線31に接続される電極11と、電極11に接触する電解液を保持する電解液保持部12と、電解液保持部12の前面側に配置されたイオン交換膜積層体13dと、イオン交換膜積層体13dの前面側に配置され、プラスの薬物イオンを含む薬液を保持する薬液保持部14と、薬液保持部14の前面側に配置されたカチオン交換膜15とを備えている。
【0119】
作用側電極構造体10dの電極11及び電解液保持部12は、作用側電極構造体10aの電極11及び電解液保持部12と同様の構成とすることができる。
【0120】
イオン交換膜積層体13dは、傾斜アニオン交換膜13A及びその前面側に配置されたカチオン交換膜13Cから構成されている。傾斜アニオン交換膜13Aは、表面t及び裏面bを有し、表面t側においてイオン交換基密度が高く、裏面b側においてイオン交換基密度が低くなる態様で膜厚方向のイオン交換基密度に傾斜が与えられている。従って、傾斜アニオン交換膜13Aの表面t側にはイオン交換基密度が高い膜厚部分が形成され、裏面b側にはイオン交換基密度が低い膜厚部分が形成されている。
【0121】
傾斜アニオン交換膜13Aは、作用側電極構造体10aの傾斜アニオン交換膜13Aについて上記したと同様の方法により形成することができる。
【0122】
作用側電極構造体10dでは、電解液保持部12から薬液保持部14への通電を確保するために、電極11に印加される電圧により電解液保持部12のプラスイオン又は薬液保持部14の薬物対イオンがイオン交換膜積層体13dを通過できることが必要である。このため、傾斜アニオン交換膜13A又はカチオン交換膜13Cの少なくとも一方にはある程度輸率が低い(例えば、0.7〜0.98)ものが使用される。ここで、電解液保持部12のプラスイオンが薬液保持部14に移行すると、このプラスイオンが薬物イオンの競合イオンとなって薬物イオンの投与効率が低下する場合があるため、カチオン交換膜13Cの輸率をなるべく高い値(例えば、0.95〜1)とし、傾斜アニオン交換膜13Aの輸率をある程度低い値(例えば、0.7〜0.98)とすることが特に好ましい。
【0123】
薬液保持部14は、プラスの薬物イオンを含む薬液を液体状体で保持することができ、ガーゼ、濾紙、水性ゲルなどの適当な吸収性の担体に含浸させて保持することもできる。
【0124】
カチオン交換膜15には、生体対イオンの薬液保持部14への移行を抑止するために、例えば、0.95〜1など、なるべく輸率の高いカチオン交換膜を使用することが好ましい。
【0125】
作用側電極構造体10dを備えるイオントフォレーシス装置Xでは、出願2に開示されるイオントフォレーシス装置と同様、下記(5)、(6)の効果が達成される。
(5)薬物イオンの投与中における、マイナスに帯電した生体対イオンの薬液保持部14への移行がカチオン交換膜15により遮断されるため、薬物イオンの投与効率を上昇させることができる。
(6)電解液保持部12と薬液保持部14とが傾斜アニオン交換膜13A及びカチオン交換膜13Cにより構成されるイオン交換膜積層体13dにより隔離されているため、電解液保持部12中のイオンの薬液保持部14への移行及び薬物イオンの電解液保持部12への移行が遮断される。従って、電解液保持部12からのイオンによる薬液保持部14の薬物イオンの変質や、通電時における薬物イオンの電極11近傍での分解を防止することができる。
【0126】
作用側電極構造体10dを備えるイオントフォレーシス装置Xでは更に、出願2のイオントフォレーシス装置では得ることができない下記の効果が達成される。
【0127】
即ち、傾斜アニオン交換膜13Aの裏面bにアニオン交換基密度が低い膜厚部分が形成されているため、通電の際における傾斜アニオン交換膜13Aとカチオン交換膜13Cの界面における水の電気分解による水素イオンの生成が抑制される。従って、この水素イオンが生体側に移行することによる薬物イオンの投与効率の低下や生体界面におけるpH値の急激な変動を抑止することができる。
【0128】
作用側電極構造体10eは、イオン交換膜積層体13dに代えてイオン交換膜積層体13eを備える点を除いて作用側電極構造体10dと同一の構成を有している。
【0129】
イオン交換膜積層体13eは、アニオン交換膜13A及びその前面側に配置された傾斜カチオン交換膜13Cから構成されている。傾斜カチオン交換膜13Cは、表面t及び裏面bを有し、表面t側においてカチオン交換基密度が高く、裏面b側においてカチオン交換基密度が低くなる態様で膜厚方向のカチオン交換基密度に傾斜が与えられている。従って、傾斜カチオン交換膜13Cの表面t側にはカチオン交換基密度が高い膜厚部分が形成され、裏面b側にはカチオン交換基密度が低い膜厚部分が形成されている。
【0130】
傾斜カチオン交換膜13Cは、イオン交換膜積層体13bについて上記したと同様の方法により形成することができる。
【0131】
作用側電極構造体10eでは、作用側電極構造体10dについて上記したと同様の理由により、アニオン交換膜13A及び傾斜カチオン交換膜13Cの少なくとも一方の輸率はある程度低い値にされ、特に好ましくは、傾斜カチオン交換膜13Cの輸率はなるべく高い値とされ、アニオン交換膜13Aの輸率はある程度低い値とされる。
【0132】
作用側電極構造体10eを備えるイオントフォレーシス装置Xでは、出願2に開示されるイオントフォレーシス装置と同様の上記(5)、(6)の効果が達成される。
【0133】
作用側電極構造体10eを備えるイオントフォレーシス装置Xでは更に、出願2のイオントフォレーシス装置では得ることができない下記の効果が達成される。
【0134】
即ち、傾斜カチオン交換膜13Cの裏面bにカチオン交換基密度が低い膜厚部分が形成されているため、通電の際におけるアニオン交換膜13Aと傾斜カチオン交換膜13Cの界面における水の電気分解による水素イオンの生成が抑制される。従って、この水素イオンが生体側に移行することによる薬物イオンの投与効率の低下や生体界面におけるpH値の急激な変動を抑止することができる。
【0135】
作用側電極構造体10fは、イオン交換膜積層体13dに代えて、両極性イオン交換膜13fを備える点を除いて作用側電極構造体10dと同一の構成を有している。
【0136】
両極性イオン交換膜13fは、表面t側にカチオン交換基が導入された第1膜厚部分13(1)を、裏面b側にアニオン交換基が導入された第2膜厚部分13(2)を、その中間に第1、第2膜厚部分13(1)、13(2)よりもイオン交換基密度が低い第3膜厚部分13(3)を有しており、第2膜厚部分13(2)を電解液保持部12に接触させ、第1膜厚部分13(1)を薬液保持部14に接触させて、電解液保持部12の前面側に配置されている。
【0137】
両極性イオン交換膜13fは、作用側電極構造体10cの両極性イオン交換膜13cについて上記したと同様の方法により形成することができる。
【0138】
作用側電極構造体10fでは、作用側電極構造体10dについて上記したと同様の理由により、第1、第2膜厚部分13(1)、13(2)の少なくとも一方の輸率はある程度低い値にされ、特に好ましくは、第1膜厚部分13(1)の輸率はなるべく高い値とされ、第2膜厚部分13(2)の輸率はある程度低い値とされる。
【0139】
作用側電極構造体10fを備えるイオントフォレーシス装置Xでは、出願2に開示されるイオントフォレーシス装置と同様の上記(5)、(6)の効果が達成される。
【0140】
作用側電極構造体10fを備えるイオントフォレーシス装置Xでは更に、出願2のイオントフォレーシス装置では得ることができない下記の効果が達成される。
【0141】
即ち、両極性イオン交換膜13cは、第1、第2膜厚部分13(1)、13(2)の間にイオン交換基密度が低い第3膜厚部分13(3)を備えるため、通電の際における第1、第2膜厚部分13(1)、13(2)の間における水の電気分解による水素イオンの生成が抑制される。従って、この水素イオンが生体側に移行することによる薬物イオンの投与効率の低下や生体界面におけるpH値の急激な変動を抑止することができる。
【0142】
なお、作用側電極構造体10d〜10fにおけるイオン交換膜積層体13d、13e及び両極性イオン交換膜13fは、上記とは逆向きに、即ち、カチオン交換膜13C、傾斜カチオン交換膜13C又は第1膜厚部分13(1)が電解液保持部12に接触し、傾斜アニオン交換膜13A、アニオン交換膜13A又は第2膜厚部分13(2)が薬液保持部14に接触するように配置することも可能であり、これにより、それぞれ作用側電極構造体10d〜10fについて上記したと同様の効果が達成されるとともに、通電の際における水の電気分解の抑制機能を作用側電極構造体10d〜10fの場合よりも更に高めることが可能である。
【0143】
図5(A)〜(C)は、イオントフォレーシス装置の非作用側電極構造体20として使用することができる非作用側電極構造体20a〜20cの構成を示す説明図である。
【0144】
非作用側電極構造体20aは、電源30の給電線32に接続される電極21と、電極21に接触する電解液を保持する電解液保持部22と、その前面側に配置されたイオン交換膜積層体23aと、その前面側に配置された電解液を保持する電解液保持部24と、その前面側に配置されたアニオン交換膜25を備えている。
【0145】
電極21には、塩化銀などの通電により還元反応を生じる導電材料を使用することにより、電極反応によるガスの発生やpH変化を抑制することができるが、下記のように電解液保持部12の電解液の組成を適切に選択することにより電極反応によるガスの発生やpH変化を抑制できる場合、或いは通電量が少ないなどのために電極反応が問題とならない場合などには、金、白金、カーボンなどの不活性な導電材料を使用することもできる。
【0146】
電解液保持部22、24には任意の組成の電解液を保持することが可能であるが、電解液保持部22、24にそれぞれ異なる組成の電解液を保持させることで、好ましい性能を有するイオントフォレーシス装置を提供できる。例えば、電解液保持部22には、水の電気分解よりも還元電位の低い電解質を使用し、或いは複数種類の電解質を溶解した緩衝電解液を使用するなど、電極21における電極反応の防止機能やpH変動に対する抑制機能に優れる電解液を使用する一方、電解液保持部24には、生体への安全性に優れる電解液を使用することが可能である。
【0147】
イオン交換膜積層体23aは、イオン交換膜積層体13dと同一の構成を有している。即ち、イオン交換膜積層体23aは、傾斜アニオン交換膜23A及びその前面側に配置されたカチオン交換膜23Cから構成されており、傾斜アニオン交換膜23Aは、表面t及び裏面bを有し、表面t側においてアニオン交換基密度が高く、裏面b側においてアニオン交換基密度が低くなる態様で膜厚方向のアニオン交換基密度に傾斜が与えられている。イオン交換膜積層体23aは、傾斜アニオン交換膜23Aを電解液保持部22に接触させ、カチオン交換膜23Cを電解液保持部24に接触させて、電解液保持部22の前面側に配置されている。
【0148】
非作用側電極構造体20aを備えるイオントフォレーシス装置Xでは、上記のように異なる組成の電解液が電解液保持部22、24に保持されている場合には、電解液保持部22と電解液保持部24の間に傾斜アニオン交換膜23A及びカチオン交換膜23Cよりなるイオン交換膜積層体23aが配置されているために、装置の保存中における両電解液保持部22、24中の電解液が混合してしまうことが防止できるという効果が達成される。
【0149】
更に、非作用側電極構造体20aを備えるイオントフォレーシス装置Xでは、傾斜アニオン交換膜23Aの裏面bにアニオン交換基密度が低い膜厚部分が形成されているため、通電の際における傾斜アニオン交換膜23Aとカチオン交換膜23Cの界面における水の電気分解による水酸基イオンの生成が抑制される。従って、この水酸基イオンが生体側に移行することによる生体界面におけるpH値の急激な変動を抑止することができる。
【0150】
非作用側電極構造体20bは、イオン交換膜積層体23aに代えてイオン交換膜積層体23bを備える点を除いて非作用側電極構造体20aと同一の構成を有している。
【0151】
イオン交換膜積層体23bは、イオン交換膜積層体13eと同一の構成を有している。即ち、イオン交換膜積層体23bは、アニオン交換膜23A及びその前面側に配置された傾斜カチオン交換膜23Cから構成されている。傾斜カチオン交換膜23Cは、表面t及び裏面bを有し、表面t側においてイオン交換基密度が高く、裏面b側においてイオン交換基密度が低くなる態様で膜厚方向のイオン交換基密度に傾斜が与えられている。イオン交換膜積層体23bは、アニオン交換膜23Aを電解液保持部22に接触させ、傾斜カチオン交換膜23Cを電解液保持部24に接触させて、電解液保持部22の前面側に配置されている。
【0152】
非作用側電極構造体20bを備えるイオントフォレーシス装置Xでは、非作用側電極構造体20aを備えるイオントフォレーシス装置Xについて上記したと同様の効果が達成される。
【0153】
非作用側電極構造体20cは、イオン交換膜積層体23aに代えて両極性イオン交換膜23cを備える点を除いて非作用側電極構造体20aと同一の構成を有している。
【0154】
両極性イオン交換膜23cは、両極性イオン交換膜13fと同一の構成を有している。
【0155】
即ち、両極性イオン交換膜23cは、表面t側にカチオン交換基が導入された第1膜厚部分23(1)を、裏面b側にアニオン交換基が導入された第2膜厚部分23(2)を、その中間に第1、第2膜厚部分23(1)、23(2)よりもイオン交換基密度が低い第3膜厚部分23(3)を有している。両極性イオン交換膜23cは、第2膜厚部分23(2)を電解液保持部22に接触させ、第1膜厚部分23(1)を電解液保持部24に接触させて、電解液保持部22の前面側に配置されている。
【0156】
非作用側電極構造体20cを備えるイオントフォレーシス装置Xでは、非作用側電極構造体20aを備えるイオントフォレーシス装置について上記したと同様の効果が達成される。
【0157】
なお、非作用側電極構造体20a〜20cにおけるイオン交換膜積層体23a、23b及び両極性イオン交換膜23cは、上記とは逆向きに、即ち、カチオン交換膜23C、傾斜カチオン交換膜23C又は第1膜厚部分23(1)が電解液保持部22に接触し、傾斜アニオン交換膜23A、アニオン交換膜23A又は第2膜厚部分23(2)が電解液保持部24に接触するように配置することも可能であり、この場合も、非作用側電極構造体20a〜20cと同様の効果が達成される。ただし、イオン交換膜積層体23a、23b及び両極性イオン交換膜23cを非作用側電極構造体20a〜20cの向きに配置する方が、通電の際における水の電気分解の抑制機能が優れており好ましい。
【0158】
以上、いくつかの実施形態に基づいて本発明を説明したが、本発明は、これらの実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載内において種々の改変が可能である。
【0159】
例えば、上記実施形態では、生体に投与すべき薬物を保持する作用側電極構造体と、その対極としての役割を有する非作用側電極構造体とを備えるイオントフォレーシス装置を例として説明したが、電源の両極に接続される2つの電極構造体の双方に生体に投与すべき薬物が保持されるイオントフォレーシス装置や、電源のそれぞれの極に複数の電極構造体が接続されるイオントフォレーシス装置にも同様にして本発明を適用することができる。
【0160】
そして上記のいずれの場合においても、1又は複数の作用側電極構造体及び1又は複数の非作用側電極構造体のうちの少なくとも1つの電極構造体が本願請求項1又は4の構成を有するイオントフォレーシス装置(即ち、少なくとも1つの作用側電極構造体又は少なくとも1つの非作用側電極構造体が請求項7のイオン交換膜積層体又は請求項8の両極性イオン交換膜を備えるイオントフォレーシス装置)は、本発明の範囲に含まれる。
【0161】
例えば、生体に投与すべき薬物を保持する作用側電極構造体と、その対極としての役割を有する非作用側電極構造体とを備えるタイプのイオントフォレーシス装置に関して言えば、作用側電極構造体10a〜10fなどの本発明のイオン交換膜積層体又は両極性イオン交換膜を有する作用側電極構造体を備える一方、例えば図6に示す非作用側電極構造体120などの本発明のイオン交換膜積層体又は両極性イオン交換膜を有さない非作用側電極構造体を備えるイオントフォレーシス装置であっても、先願1又は先願2と同様の効果が発揮されることに加えて、水の電気分解に起因する薬物イオンの投与速度の低下、又は皮膚界面におけるpH変動を解消または軽減できるという本発明の基本的な効果は達成されるのであり、そのようなイオントフォレーシス装置も本発明の範囲に含まれる。
【0162】
同様に、非作用側電極構造体20a〜20cなどの本発明のイオン交換膜積層体又は両極性イオン交換膜を有する非作用側電極構造体を備える一方、例えば図6に示す作用側電極構造体110などの本発明のイオン交換膜積層体又は両極性イオン交換膜を有さない作用側電極構造体を備えるイオントフォレーシス装置であっても、先願2と同様の効果が達成されることに加えて、水の電気分解に起因する皮膚界面におけるpH変動を解消または軽減できるという本発明の基本的な効果は達成されるのであり、そのようなイオントフォレーシス装置も本発明の範囲に含まれる。
【0163】
或いは、本発明のイオン交換膜積層体又は両極性イオン交換膜を有する作用側電極構造体を備える一方、イオントフォレーシス装置そのものには非作用側電極構造体を設けずに、例えば、生体皮膚に作用側電極構造体を当接させ、アースとなる部材にその生体の一部を当接させた状態で作用側電極構造体に電圧を印加して薬物の投与を行うようにすることも可能であり、この場合も本発明の基本的な効果は達成されるのであり、そのようなイオントフォレーシス装置も本発明の範囲に含まれる。
【0164】
また上記実施形態では、イオン交換膜積層体を構成するアニオン交換膜又はカチオン交換膜のいずれか一方のみが膜厚方向のイオン交換基密度に傾斜を有する場合について説明したが、イオン交換膜積層体を構成するアニオン交換膜及びカチオン交換膜の双方が、膜厚方向のイオン交換基密度に傾斜を有していても構わない。この場合、アニオン交換膜とカチオン交換膜の双方が、裏面(アニオン交換膜とカチオン交換膜が接触する側の面)においてイオン交換基密度が低く、表面(その反対の面)においてイオン交換基密度が高くなるように、イオン交換基密度が傾斜していることが好ましい。
【0165】
また上記実施形態では、作用側電極構造体、非作用側電極構造体及び電源がそれぞれ別体として構成されている場合について説明したが、これらの要素を単一のケーシング中に組み込み、或いはこれらを組み込んだ装置全体をシート状又はパッチ状に形成して、その取扱性を向上させることも可能であり、そのようなイオントフォレーシス装置も本発明の範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0166】
【図1】本発明に係るイオントフォレーシス装置を示す説明図。
【図2】(A)〜(C)は、本発明の一実施形態に係るイオントフォレーシス装置の作用側電極構造体を示す断面説明図。
【図3】傾斜イオン交換膜又は両極性イオン交換膜へのイオン交換基の導入に使用される装置構成を示す概念説明図。
【図4】(A)〜(C)は、本発明の一実施形態に係るイオントフォレーシス装置の作用側電極構造体を示す断面説明図。
【図5】(A)〜(C)は、本発明の一実施形態に係るイオントフォレーシス装置の非作用側電極構造体を示す断面説明図。
【図6】従来のイオントフォレーシス装置を示す説明図。
【図7】(A)〜(C)は、本願出願人による他の出願に記載されるイオントフォレーシス装置の作用側電極構造体又は非作用側電極構造体を示す説明図。
【符号の説明】
【0167】
X・・・イオントフォレーシス装置
10、10a〜10f・・・作用側電極構造体
11・・・電極
12・・・電解液保持部
13a、13b、13d、13e・・・イオン交換膜積層体
13c、13f・・・両極性イオン交換膜
13A・・・アニオン交換膜、傾斜アニオン交換膜
13C・・・カチオン交換膜、傾斜カチオン交換膜
14・・・薬液保持部
15・・・カチオン交換膜
16・・・容器
20、20a〜20c・・・非作用側電極構造体
21・・・電極
22・・・電解液保持部
23a、23b・・・イオン交換膜積層体
23c・・・両極性イオン交換膜
23A・・・アニオン交換膜、傾斜アニオン交換膜
23C・・・カチオン交換膜、傾斜カチオン交換膜
24・・・電解液保持部
25・・・アニオン交換膜
30・・・電源
31、32・・・給電線
110、210、310・・・作用側電極構造体
120、320・・・非作用側電極構造体
111、121、211、311、321・・・電極
112、122、212、312、322、324・・・電解液保持部
113、115、123、125、213、215、313、313′、315、323、323′、325・・・イオン交換膜
114、314・・・薬液保持部
130・・・電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面及び裏面を有する第1導電型の第1イオン交換膜と、
表面及び裏面を有する第2導電型の第2イオン交換膜とからなり、
前記第1イオン交換膜の前記裏面を前記第2イオン交換膜の前記裏面に接触させて前記第1、第2イオン交換膜を積層したイオン交換膜積層体を有する電極構造体を備えるイオントフォレーシス装置であって、
前記第1、第2イオン交換膜の少なくとも一方のイオン交換基密度が、前記表面において高く、前記裏面において低くなるように傾斜していることを特徴とするイオントフォレーシス装置。
【請求項2】
前記電極構造体が、
第1電極と、
前記第1電極に接触する電解液を保持する電解液保持部とを更に有し、
前記イオン交換膜積層体が前記電解液保持部の前面側に配置され、
前記第1イオン交換膜が前記第2イオン交換膜の前面側に配置され、
前記第1イオン交換膜に第1導電型の薬物イオンがドープされていることを特徴とする請求項1に記載のイオントフォレーシス装置。
【請求項3】
前記電極構造体が、
第1電極と、
前記第1電極に接触する電解液を保持する電解液保持部と、
前記電解液保持部の前面側に配置され、第1導電型の薬物イオンを含む薬液を保持する薬液保持部とを更に有し、
前記イオン交換膜積層体が前記電解液保持部と前記薬液保持部の間に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のイオントフォレーシス装置。
【請求項4】
表面及び裏面を有する両極性イオン交換膜であって、
前記表面の側に位置する第1導電型のイオン交換基が導入された第1膜厚部分と、前記裏面の側に位置する第2導電型のイオン交換基が導入された第2膜厚部分と、前記第1、第2膜厚部分の中間に位置する前記第1、第2膜厚部分よりもイオン交換基密度が低い第3膜厚部分とを有する前記両極性イオン交換膜を有する電極構造体を備えることを特徴とするイオントフォレーシス装置。
【請求項5】
前記電極構造体が、
第1電極と、
前記第1電極に接触する電解液を保持する電解液保持部とを更に有し、
前記両極性イオン交換膜が、前記裏面を前記電解液保持部に接触させて、前記電解液保持部の前面側に配置されており、
前記第1膜厚部分に第1導電型の薬物イオンがドープされていることを特徴とする請求項4に記載のイオントフォレーシス装置。
【請求項6】
前記電極構造体が、
第1電極と、
前記第1電極に接触する電解液を保持する電解液保持部と、
前記電解液保持部の前面側に配置され、第1導電型の薬物イオンを含む薬液を保持する薬液保持部とを更に有し、
前記両極性イオン交換膜が前記電解液保持部と前記薬液保持部の間に配置されていることを特徴とする請求項4に記載のイオントフォレーシス装置。
【請求項7】
表面及び裏面を有する第1導電型の第1イオン交換膜と、
表面及び裏面を有する第2導電型の第2イオン交換膜とからなり、
前記第1イオン交換膜の前記裏面を前記第2イオン交換膜の前記裏面に接触させて前記第1、第2イオン交換膜を積層したイオン交換膜積層体であって、
前記第1、第2イオン交換膜の少なくとも一方のイオン交換基密度が、前記表面において高く、前記裏面において低くなるように傾斜していることを特徴とするイオントフォレーシス用イオン交換膜積層体。
【請求項8】
表面及び裏面を有する両極性イオン交換膜であって、
前記表面の側に位置する第1導電型のイオン交換基が導入された第1膜厚部分と、前記裏面の側に位置する第2導電型のイオン交換基が導入された第2膜厚部分と、前記第1、第2膜厚部分の中間に位置する前記第1、第2膜厚部分よりもイオン交換基密度が低い第3膜厚部分とを有することを特徴とするイオントフォレーシス用両極性イオン交換膜。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2008−86538(P2008−86538A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−270224(P2006−270224)
【出願日】平成18年10月2日(2006.10.2)
【出願人】(507373678)トランスキュー リミテッド (7)
【氏名又は名称原語表記】Transcu Ltd.
【住所又は居所原語表記】6 Raffles Quay, #11−15/06, Singapore 048580
【Fターム(参考)】