説明

イオン交換クロマトグラフィーによる血液中のLp(a)の分離方法

【課題】陰イオン交換クロマトグラフィーを用いて血液中のLp(a)を分離すること。
【解決の手段】塩濃度が215mmol/Lから245mmol/Lである、Lp(a)を吸着させるための溶離液1、塩濃度が365mmol/L以上である、Lp(a)を全て溶出するための溶離液3、塩濃度が溶離液1と溶離液3との間である、分子量の小さいapolipoprotein(a)が結合したLp(a)を溶出するための溶離液2、を溶離液1、2、3の順に陰イオン交換カラムに流すことにより、血液中のLp(a)量、及びapolipoprotein(a)のアイソフォームの同時分析が可能となった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン交換クロマトグラフィーを用いた血液中のLp(a)の分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血液中のリポ蛋白には、健康な人においても、比較的多く量が存在するリポ蛋白として、高比重リポ蛋白(HDL)、低比重リポ蛋白(LDL)、及び超低比重リポ蛋白(VLDL)があり、健康な人では微量であるが、家族性高脂血症などの疾患患者の血液中に多く存在する中間型リポ蛋白(IDL)、食後一過的に増加するリポ蛋白であるカイロミクロン(CM)がある。また、Lp(a)と呼ばれる微量に存在するリポ蛋白もある。
【0003】
Lp(a)は、冠動脈疾患や脳梗塞などの動脈硬化性疾患のリスクファクターとして良く知られている(非特許文献1から3)。また、Lp(a)に特徴的なアポ蛋白であるapolipoprotein(a)には分子量の異なるアイソフォームがあり、非特許文献4では400から700kDaにわたって、6種の分子量の異なるアイソフォームが、非特許文献5では419から838kDaにわたって、11種の分子量の異なるアイソフォームが、それぞれ報告されている。そして、アイソフォームのうち、低分子量のアイソフォームが結合したLp(a)が動脈硬化性疾患に対して、より高いリスクファクターであることが知られている(非特許文献3、6及び7)。そのため、Lp(a)に基づく動脈硬化性疾患に対するリスクファクターの評価には、Lp(a)の量を測定するとともに、apolipoprotein(a)の分子量情報も得られることが望ましい。
【0004】
Lp(a)の測定方法としては、ELISA法が一般的に用いられており(非特許文献2、6及び7)、apolipoprotein(a)の分子量の測定は、一般的にウエスタンブロット法が用いられている(非特許文献4及び7)。また、超遠心分離法では、Lp(a)が比重1.06から1.12g/mLにかけて存在している。しかしながら、ELISA法では、分子量のアイソフォームの情報は得られないし、ウエスタンブロット法では、Lp(a)の量を精度良く測定するのは分析手法の特性を考えると困難である。また、超遠心分離によって得られる、比重1.06から1.12g/mLの画分には、Lp(a)の他にも、比重の高い一部のLDLとHDL2が含まれている(非特許文献8及び9)。そのため、Lp(a)の量、及びアイソフォームを同時に得られる測定法はまだ知られていない。
【0005】
【非特許文献1】Danik JSら,JAMA,296,1363,2006.
【非特許文献2】Jones GTら,Clin Chem,53,679,2007.
【非特許文献3】Berglund Lら,Atherioscler Thromb Vasc Biol,24,2219,2004.
【非特許文献4】Utermann Gら,J Clin Invest,80,458,1987.
【非特許文献5】Gaubatz JWら,J Lipid Res,31,603,1990.
【非特許文献6】Longenecker JCら,J Am Soc Nephrol,16,1794,2005.
【非特許文献7】Jurgens Gら,Stoke,26,1841,1995.
【非特許文献8】Gaubatz JWら,J Lipid Res,28,69,1987.
【非特許文献9】Kostner GMら,J Lipid Res,40,2255,1999.
【非特許文献10】Hirowatari Yら,Journal of Lipid Research,44,1404,2003.
【非特許文献11】廣渡 祐史ら,第39回日本動脈硬化学会総会・学術集会 プログラム・抄録集,66,223,2007.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述のようにLp(a)の量、及びapolipoprotein(a)のアイソフォームは、共に動脈硬化性疾患のリスクファクターとして知られているので、両方の情報が同時に得られる測定法は有用性が高いと考えられる。本発明は、イオン交換クロマトグラフィーを用いて、Lp(a)の量、及びapolipoprotein(a)のアイソフォームを同時に分析することができる簡便な方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、陰イオン交換カラムを用いたリポ蛋白の分離条件を詳細に検討することにより、Lp(a)の量、及びapolipoprotein(a)の分子量の異なるアイソフォームを分析する方法を確立した。
【0008】
即ち本発明は、以下の発明を包含する:
(1)イオン交換クロマトグラフィーによる血液中のLp(a)の分離方法であり、血液中のLp(a)を吸着させるための溶離液1、分子量の小さいapolipoprotein(a)が結合したLp(a)を溶出するための溶離液2、Lp(a)を全て溶出するための溶離液3を、溶離液1、2、3の順に陰イオン交換カラムに流すことにより、Lp(a)を当該陰イオン交換カラムにより分離することからなる血液中のLp(a)の分離方法であって、溶離液1の塩濃度が215mmol/Lから245mmol/Lであり、溶離液3の塩濃度が365mmol/L以上であり、溶離液2の塩濃度が溶離液1の塩濃度と溶離液3の塩濃度との間であることを特徴とする、血液中のLp(a)の分離方法。
(2)溶離液2の塩濃度を、溶離液1の塩濃度から溶離液3の塩濃度まで段階的に高めることで、結合するapolipoprotein(a)の分子量の順にLp(a)を溶出させることを特徴とする、(1)に記載の血液中のLp(a)の分離方法。
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
陰イオン交換クロマトグラフィーによるリポ蛋白(HDL、LDL、IDL、VLDL、カイロミクロン、Lp(a))の分離は、一般的な液体クロマトグラフィーの装置を用いて実施することが可能である。分離後は、コレステロールと反応する市販の酵素液(例えば、総コレステロール測定用TCHO−L(商品名)((株)セロテック製)と混合して反応させることで、可視光検出器で測定することができ、また簡便で定量性も良いことが知られている(非特許文献10及び11)。
【0011】
陰イオン交換カラムに充填するゲルとしては、シリカ系やポリマー系のゲルにジエチルアミノエチル(DEAE)基や第4級アミノエチル(QAE)基といった陰イオン交換基を結合したものが例示できる。また、当該ゲル表面は、1000オングストローム程度の孔があるもの(多孔質)、孔がないもの(非多孔質)のどちらを用いても良いが、好ましくはリポ蛋白に対する分離性能の高い非多孔質のゲルであり、特に好ましい陰イオン交換カラムに充填するゲルの一例として、DEAE基を持つ非多孔質のポリマー系のゲルをカラムに充填したTSK−GEL DEAE−NPR(商品名)(東ソー(株)製)があげられる。
【0012】
Lp(a)の分離は陰イオン交換カラムを使用し、溶離液の塩濃度の勾配を利用して行なうことが出来る。血液などリポ蛋白を含んだ試料を陰イオン交換カラムに供した後、溶離液1よりも塩濃度の低い溶離液で試料中のリポ蛋白をカラムに吸着させ、分離に使用する塩濃度の異なる溶離液1及び3と、塩濃度が溶離液1と3の間である溶離液2を、塩濃度の低い順に陰イオン交換カラムに流す。これらの溶離液の役割としては、溶離液1はLp(a)をカラムに吸着させるとともにHDL、LDL、IDL、VLDL、カイロミクロンを溶出させ、溶離液2は、分子量の低いapolipoprotein(a)が結合したLp(a)を溶出させ、溶離液3は残りのLp(a)を全て溶出させることにある。なお、当該分離溶出条件において、溶離液2は、1種類の塩濃度の溶離液であっても良いし、段階的に溶離液の塩濃度を高める条件(グラディエント)であっても良い。また、溶離液2で段階的に溶離液の塩濃度を高める方法としては、階段状に塩濃度を高めて(ステップグラディエント)も良いし、直線的に塩濃度を高めて(リニアグラディエント)も良い。
【0013】
溶離液に添加する塩としては、リポ蛋白の分離能力の高い、過塩素酸ナトリウム、チオシアン酸ナトリウム、ヨウ化カリウムといったカオトロピックイオンを含む塩が例示できるが、本発明の分離方法では、実施例で使用した過塩素酸ナトリウムを塩として使用するのが好ましい。また、溶離液の塩濃度とは、加えた試薬の解離しているイオン濃度のことである。過塩素酸ナトリウムの場合には、ほぼ100%が解離しているので、イオンの濃度がそのまま塩濃度となり、例えば過塩素酸ナトリウムを100mmol/L入れた場合、その塩濃度は100mmol/Lとなる。緩衝液に依存する塩濃度はその試薬の解離定数から算出するが、実施例で使用した50mmol/LのTris−HCl緩衝液(pH7.5)の解離した分子の濃度(塩濃度)は、トリスのpKa=8.1から算出すると約40mmol/Lとなる。
【0014】
使用する溶離液には、緩衝液を加えて、pHを6から9に調整することが好ましい。加える緩衝液の種類としては、例えばTris−HCl、リン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液といった、当業者において慣用のものが使用できる。
【0015】
本発明における最も好ましい条件の一例として、DEAE基を持つ非多孔質のポリマー系のゲルを充填したカラムを用い、当該カラムに用いる溶離液に過塩素酸ナトリウムを含み、溶離液1の塩濃度が215mmol/Lから245mmol/Lであり、溶離液3の塩濃度が365mmol/L以上であり、溶離液2の塩濃度が275mmol/Lから285mmol/L、あるいは、溶離液1の塩濃度から溶離液3の塩濃度との間で段階的に溶離液の塩濃度を高める条件(グラディエント)である。
【0016】
また、分離するときのカラム温度は、リポ蛋白が凝集しない15℃以上で、かつ、リポ蛋白が変性しない40℃以下が好ましい。カラムに対する流速は、概ね、カラムサイズ;3.0mmI.D.×25mmの場合には、0.3から2.0mL/minが好ましく、0.5から1.0mL/minが特に好ましい。試料の純度が分離に与える影響は少なく、一般的な血清であれば適用できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、動脈硬化性疾患のリスクファクターとして知られているLp(a)及びapolipoprotein(a)のアイソフォームを同時に分析することができる簡便な方法を提供する。本発明の分離方法を用いることで動脈硬化性疾患に対するリスクファクターを評価することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に本発明を更に詳細に説明するために実施例を示すが、これら実施例は本発明の一例を示すものであり、本発明は実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
実施例に用いた装置を図1に示す。
【0019】
溶離液A(1)は50mM Tris−HCl pH7.5、溶離液B(2)は50mM Tris−HCl(pH7.5)+500mM 過塩素酸ナトリウムである。溶離液AとBを流すポンプ(4)は2台のDP−8020(商品名)(東ソー(株)製)を用いた。DP−8020ポンプは、互いを制御することにより、2つの溶離液のグラディエントが行なえるポンプである。溶離液AとBを混合するミキサー(5)はスタティックミキサーC(商品名)(東ソー(株)製)を用いた。オートサンプラー(6)はAS−8020(商品名)(東ソー(株)製)を、カラムオーブン(9)はCO−8021(商品名)(東ソー(株)製)を用いた。カラム(8)はTSK−GEL DEAE−NPR(商品名)(東ソー(株)製)(粒子径2.5μm、交換基容量0.1当量/L(gel)のポリマー系非多孔質ゲルを3.0mmI.D.×25mmのカラムに充填したもの:東ソー(株)製)を、フィルター(7)はHLC−723GHb3型用のカラムフィルターSタイプ(商品名)(東ソー(株)製)を用いた。コレステロール反応液(10)はTCHO−CL(商品名)((株)セロテック製)を使用し、ポンプ(12)直前にエアートラップ(11)を設置した。コレステロール反応液のためのポンプ(12)はDP−8020(商品名)(東ソー(株)製)を用いた。溶離液AとB及びコレステロール反応液については、脱気装置(3)を設置した。コレステロール反応液(コレステロール反応液は、主要な成分としてコレステロールエステラーゼ、コレステロールオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、アスコルビン酸オキシダーゼ、N−(2−ハイドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメトキシアニリンナトリウム、4―アミノアンチピリンが含まれる)のラインに、抵抗管(13)(0.1mmI.D.×2m)を2つ直列につないで設置した。反応コイル(14)は、0.25mmI.D.×30mとした。検出器はUV−8020(東ソー(株)製)(15)を用いた。溶離液はAとBをあわせて0.5mL/minの流速とし、コレステロール反応液の流速は0.2mL/minとした。カラムオーブンの温度は25℃とし、反応コイルは37℃に保温した。
【0020】
測定の形態としては、まず、血液などのリポ蛋白を含んだ試料をオートサンプラー(6)から注入する。注入する配管はポンプ(4)とカラム(8)の間に設置されており、ポンプ(4)から溶離液を流すことにより試料はカラムに導入される。ポンプ(4)により比較的塩濃度の低い溶離液(溶離液Bの割合が低い)をカラム(8)に予め流すことにより、カラム(8)を平衡化しておいて、試料中のリポ蛋白をカラムに吸着させる。続いて、溶離液Aに対する溶離液Bの流す割合を高め、カラムに流す溶離液の塩濃度を高めることにより、吸着力の弱いリポ蛋白から順にカラム出口から溶出してくる。この溶出液とコレステロール反応液(10)を混合し、反応コイル(14)に導いて反応させる。反応液はコレステロールの量に依存して発色する試薬となっているので、その色を検出器(15)で測定することでコレステロール量に依存するクロマトグラムを取得し、そのピーク面積により、各リポ蛋白のコレステロール含量を算出するものである。
【0021】
実施例で用いたLp(a)試料はインフォームドコンセントを得て採取した以下の各検体を、超遠心分離して取得した、比重1.060から1.125g/mLの画分(本画分には比重の高いLDL、HDL2及びLp(a)が含まれる)である。なお、apolipoprotein(a)の分子量は、5%アクリルアミド−SDS電気泳動ゲル、一次抗体としてヒトLp(a)抗体(ヤギ抗体、CORTEX BIOCHEM社製)、二次抗体としてAlkaline Phosphatase Conjugated ヤギ抗体−抗体(CHEMICON社製)、検出試薬としてWestern Lighting Chemiluminesent Reagent, CDP−Star for AP−based assays(Perkin Elmer社製)を用いた、ウエスタンブロット法により求めた。
【0022】
検体1:
脂質異常症患者(62歳、男性)の血液試料
・総コレステロール:297mg/dL
・中性脂肪:79mg/dL
・Lp(a)タンパク質量:90mg/dL
・Apolipoprotein(a)の分子量:
590kDa(主成分)と687kDa(図2)
検体2:
脂質異常症患者(63歳、男性)の血液試料
・総コレステロール:256mg/dL
・中性脂肪:178mg/dL
・Lp(a)タンパク質量:75mg/dL
・Apolipoprotein(a)の分子量:
627kDa(主成分)と708kDa(図2)
カイロミクロン試料:
脂質異常症患者(40歳、男性、総コレステロール:244mg/dL)の血清か
ら超遠心分離法(比重<0.94g/mL)で分離し調製(カイロミクロンの含量
約80%)。
【0023】
溶離液による溶出パターンは、0.0分から5.0分はA70.0%+B30.0%(塩濃度:190mmol/L)に固定し、5.0分から35.0分はA70.0+B30.0%からB100%へのリニアグラディエントとし、35.0分から38.0分はB100%に固定し、38.0分から43.0分はA70.0%+B30.0%に固定した。測定は43分サイクルで実施した。
【0024】
検体1及び2から得られたLp(a)試料(超遠心分離により取得した比重1.060から1.125g/mLの画分、HDL2及び比重の高いLDLを含む)、及びカイロミクロン試料を前記条件で、陰イオン交換クロマトグラフィーによる測定を実施したところ、カイロミクロン試料(図3)のピーク溶出時間が10.5分であり、検体1及び2から得られたLp(a)試料(図4及び5)のピーク溶出時間が、それぞれ14.7分、17.8分であったため、カイロミクロン、低分子量のapolipoprotein(a)が結合したLp(a)(検体1)、及び高分子量のapolipoprotein(a)が結合したLp(a)(検体2)の溶出位置が異なり、かつ、これらの順番に溶出することを確認した。
(実施例2)
実施例1と同じ装置及び検体を用いて、Lp(a)を吸着させるための溶離液1の塩濃度の検討を行なった。
【0025】
溶離液の溶出パターンは、0.0分から3.5分はA80.0%+B20.0%(塩濃度:140mmol/L)に固定し、3.5分から8.5分はA76.0%+B24.0%(塩濃度:160mmol/L)に固定し、8.5分から11.0分はA73.0%+B27.0%(塩濃度:175mmol/L)に固定し、11.0分から14.5分はA68.0%+B32.0%(塩濃度:200mmol/L)に固定し、14.5分から17.5分はBの組成を34.0から49.0%(塩濃度:210から285mmol/L)の間で条件を変えて、固定し、17.5分から18.5分はBの組成を各溶出パターンで決めた14.5分から17.5分の条件の割合(%)から100%へのリニアグラディエントとし、18.5分から21.5分はB100%に固定し、21.5分から22.5分はB100%からA80.0%+B20.0%へのリニアグラディエントとし、21.5分から31.0分はA80.0%+B20.0%に固定した。測定時間は31分サイクルとした。
【0026】
カイロミクロン試料について、14.5分から17.5分のBの組成を34.0、35.0、36.0、37.0、38.0、39.0、40.0、42.0、45.0%の条件で測定し、カイロミクロンの溶出条件を検討した。各条件でカイロミクロンを溶出させる位置(設定したBの組成条件で溶出できたカイロミクロン試料)のピークの面積比(%)と、Lp(a)を溶出させる位置(設定したBの組成条件で溶出しきれなかったカイロミクロン試料)のピーク面積比(%)を確認した(図6)。Bが35.0%(塩濃度:215mmol/L)の時に、カイロミクロンを溶出させる位置のピーク面積比が46.0%とカイロミクロンが概ね溶出していた。一方、Lp(a)を溶出させる位置のピーク面積比は15.5%と小さいため、前記溶離液の条件において、カイロミクロンとLp(a)の分離が可能なことが示された。そして、Bが37.0%(塩濃度:225mmol/L)の時には、カイロミクロンを溶出させる位置のピーク面積比が54.3%、Lp(a)を溶出させる位置のピーク面積比が8.1%と、さらに分離が明確となった。図6の結果から、血液中のLp(a)を吸着させ、その他のリポ蛋白を溶出させるための溶離液1の塩濃度は、カイロミクロンを概ね溶出する塩濃度である215mmol/L(Bが35.0%)以上であれば良く、好ましくは225mmol/L(Bが37.0%)以上である。図7は、Bが39.0%(塩濃度:235mmol/L)の時のカイロミクロン試料のクロマトグラムである。図7よりLp(a)が溶出する20分までに、他のリポ蛋白(VLDL、カイロミクロン)のほとんどが溶出されていることがわかる。
【0027】
次に、検体1から取得した低分子量のapolipoprotein(a)が結合したLp(a)試料(超遠心分離により取得した比重1.060から1.125g/mLの画分、HDL2及び比重の高いLDLを含む)について、14.5分から17.5分のBの組成を34.0、35.0、36.0、37.0、38.0、39.0、40.0、41.0、42.0、43.0、45.0、47.0、49.0%の条件で測定し、低分子量のapolipoprotein(a)が結合したLp(a)の溶出条件を検討した。各条件でLp(a)を溶出させる位置(設定したBの組成条件で溶出できたLp(a)試料)のピーク面積比(%)と、カイロミクロンを溶出させる位置(設定したBの組成条件で本来の位置よりも先に溶出したLp(a)試料)のピーク面積比(%)を確認した(図8)。Bが41.0%(塩濃度:245mmol/L)の時に、Lp(a)を溶出させる位置のピーク面積比が70.2%と概ねLp(a)を溶出させる位置にピークが収束した。一方、カイロミクロンを溶出させる位置のピーク面積比は29.8%と比較的小さいため、前記溶離液の条件において、カイロミクロンとLp(a)の分離が可能なことが示された。そして、Bが39.0%(塩濃度:235mmol/L)の時には、Lp(a)を溶出させる位置のピークが86.2%であり、カイロミクロンを溶出させる位置のピーク面積は13.8%と、さらに分離が明確となった。図8の結果から、血液中のLp(a)画分を吸着させ、その他のリポ蛋白画分を溶出させるための溶離液1の塩濃度は、低分子量のapolipoprotein(a)を持つLp(a)を概ね吸着させる塩濃度である245mmol/L(Bが41.0%)以下であれば良く、好ましくは235mmol/L(Bが39.0%)以下である。図9は、Bが39.0%(塩濃度:235mmol/L)の時の、検体1から取得した低分子量のapolipoprotein(a)が結合したLp(a)試料のクロマトグラムである。図9より低分子量のapolipoprotein(a)が結合したLp(a)と、他のリポ蛋白(HDL、LDL)とが明確に分離されていることがわかる。
【0028】
さらに、検体2から取得した高分子量のapolipoprotein(a)が結合したLp(a)試料(超遠心分離により取得した比重1.060から1.125g/mLの画分、HDL2及び比重の高いLDLを含む)について、14.5分から17.5分のBの組成を37.0、39.0、41.0、43.0、45.0、47.0、49.0%の条件で測定し、高分子量のapolipoprotein(a)が結合したLp(a)の溶出条件を検討した。各条件でLp(a)を溶出させる位置(設定したBの組成条件で溶出できたLp(a)試料)のピーク面積比(%)と、カイロマイクロンを溶出させる位置(設定したBの組成条件で本来の位置よりも先に溶出したLp(a)試料)のピーク面積比(%)を確認した(図10)。検体2から取得した高分子量のapolipoprotein(a)が結合したLp(a)試料は、検体1から取得した低分子量のapolipoprotein(a)が結合したLp(a)試料に比べ、吸着力が強いため、Bが47.0%の時でも、Lp(a)を溶出させる位置のピーク面積比が73.5%と概ねLp(a)の位置にピークが収束した。一方、カイロミクロンを溶出させる位置のピーク面積比は26.4%と比較的小さいため、前記溶離液の条件において、カイロミクロンとLp(a)の分離が可能なことが示された。図11は、Bが39.0%(塩濃度:235mmol/L)の時の、検体2から取得した高分子量のapolipoprotein(a)が結合したLp(a)のクロマトグラムである。図11より高分子量のapolipoprotein(a)が結合したLp(a)と、他のリポ蛋白画分(HDL、LDL)とが明確に分離されていることがわかる。
【0029】
これらすべての結果から考えるに、血液中のLp(a)を吸着させ、その他のリポ蛋白を溶出させるための溶離液1の塩濃度は、カイロミクロンを溶出する塩濃度である215mmol/L(Bが35.0%)以上、かつ、低分子量のapolipoprotein(a)が結合したLp(a)を吸着させる塩濃度である245mmol/L(Bが41.0%)以下が好ましい。さらに好ましくは、溶離液1の塩濃度が225mmol/L(Bが37.0%)以上、かつ、235mmol/L(Bが39.0%)以下である。
(実施例3)
実施例1と同じ装置及び検体を用いて、Lp(a)を全て溶出する溶離液3の塩濃度の検討を行なった。
【0030】
溶離液の溶出パターンは、0.0分から3.5分はA80.0%+B20.0%(塩濃度:140mmol/L)に固定し、3.5分から8.5分はA76.0%+B24.0%(塩濃度:160mmol/L)に固定し、8.5分から11.0分はA73.0%+B27.0%(塩濃度:175mmol/L)に固定し、11.0分から14.5分はA68.0%+B32.0%(塩濃度:200mmol/L)に固定し、14.5分から17.5分はA62.0%+B38.0%(塩濃度:230mmol/L)に固定し、17.5分から18.5分はBの組成を38.0%から18.5分から21.5分の条件で決めた条件の割合(%)へのリニアグラディエントとし、18.5分から21.5分はBの組成を48.0%(塩濃度:280mmol/L)から100%(塩濃度:540mmol/L)に条件を変えて固定し、21.5分から22.5分はBの組成を18.5分から21.5分の条件で決めた条件の割合(%)から20.0%へのリニアグラディエントとし、21.5分から31.0分はA80.0%+B20.0%に固定した。測定時間は31分サイクルとした。
【0031】
測定試料は、検体2から取得した高分子量のapolipoprotein(a)が結合したLp(a)試料(超遠心分離により取得した比重1.060から1.125g/mLの画分、HDL2及び比重の高いLDLを含む)を用いた。18.5分から21.5分はBの組成を48.0、55.0、50.0、65.0、70.0、78.0、85.0、100%の条件で測定した(図12、Bが100%のときのLp(a)試料のピーク面積を100%として換算)。Bが65.0%(塩濃度:365mmol/L)の時には、高分子量のapolipoprotein(a)が結合したLp(a)は概ね溶出した(86.3%)。更にBが70.0%(塩濃度:390mmol/L)のときは、高分子量のapolipoprotein(a)が結合したLp(a)がほぼ全量溶出した(95.3%)。
【0032】
以上の結果から、Lp(a)を全て溶出する溶離液3の塩濃度は365mmol/L(Bが65.0%)以上であれば良く、更に好ましくは、塩濃度が390mmol/L(Bが70.0%)以上である。図13及び14に、検体2から取得した高分子量のapolipoprotein(a)を持つLp(a)試料のBが65.0%(塩濃度:365mmol/L)及び85.0%(塩濃度:465mmol/L)の時のクロマトグラムを示す。いずれの場合も、Lp(a)と、他のリポ蛋白(HDL、LDL)とが明確に分離されていることがわかる。
(実施例4)
実施例1と同じ装置を用いて、検討を行なった。
【0033】
溶離液の溶出パターンは、0.0分から3.5分はA80.0%+B20.0%(塩濃度:140mmol/L)に固定し、3.5分から8.5分はA76.0%+B24.0%(塩濃度:160mmol/L)に固定し、8.5分から11.0分はA73.0%+B27.0%(塩濃度:175mmol/L)に固定し、11.0分から14.5分はA68.0%+B32.0%(塩濃度:200mmol/L)に固定し、14.5分から17.5分はA62.0%+B38.0%(塩濃度:230mmol/L)に固定し、17.5分から26.5分はBの組成を38.0%から80.0%(塩濃度:440mmol/L)へのリニアグラディエントとし、26.5分から29.5分はB100%(塩濃度:540mmol/L)に固定し、29.5分から38.0分はA80.0%+B20.0%(塩濃度:140mmol/L)に固定した。測定時間は38分サイクルとした。
【0034】
本条件において溶離液1はBの組成38.0%(塩濃度:230mmol/L)に相当し、溶離液3はBの組成100%(塩濃度:540mmol/L)に相当し、溶離液2はBの組成38.0%(塩濃度:230mmol/L)からBの組成80.0%(塩濃度:440mmol/L)のリニアグラディエントに相当する。
【0035】
図15にカイロミクロン試料のクロマトグラムを示す。カイロミクロンが溶出する位置(溶出時間18.2分)に主たるピークが確認された。図16及び18に、検体1及び2から取得した、低分子量及び高分子量のapolipoprotein(a)が結合したLp(a)試料(超遠心分離により取得した比重1.060から1.125g/mLの画分、HDL2及び比重の高いLDLを含む)のクロマトグラムを示す。低分子量のapolipoprotein(a)が結合したLp(a)(溶出時間22.7分)は、高分子量のapolipoprotein(a)が結合したLp(a)(溶出時間24.5分)よりも早く溶出していた。検体1及び2のクロマトグラムを、それぞれ図17及び19に示す。いずれの場合も、Lp(a)と他のリポ蛋白(HDL、LDL、IDL、VLDL、カイロミクロン)とが明確に分離されており、低分子量のapolipoprotein(a)が結合したLp(a)、及び高分子量のapolipoprotein(a)が結合したLp(a)の溶出時間も、Lp(a)試料を用いたとき(図16及び18)と同様な時間となった。また、当該クロマトグラムから求めた測定値を表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
(実施例5)
実施例1と同じ装置を用いて、検討を行なった。
【0038】
溶離液の溶出パターンは、0.0分から3.5分はA80.0%+B20.0%(塩濃度:140mmol/L)に固定し、3.5分から8.5分はA76.0%+B24.0%(塩濃度:160mmol/L)に固定し、8.5分から11.0分はA73.0%+B27.0%(塩濃度:175mmol/L)に固定し、11.0分から14.5分はA68.0%+B32.0%(塩濃度:200mmol/L)に固定し、14.5分から17.5分はA62.0%+B38.0%(塩濃度:230mmol/L)に固定し、17.5分から21.0分はA53.0%+B47.0%(塩濃度:275mmol/L)に固定し、21.0分から24.5分はB100%(塩濃度:540mmol/L)に固定し、24.5分から33.0分はA80.0%+B20.0%(塩濃度:140mmol/L)に固定した。測定時間は33分サイクルとした。
【0039】
本条件において溶離液1はBの組成38.0%(塩濃度:230mmol/L)に相当し、溶離液3はBの組成100%(塩濃度:540mmol/L)に相当し、溶離液2はBの組成47.0%(塩濃度:275mmol/L)に相当する。
【0040】
図20にカイロミクロン試料のクロマトグラムを示す。カイロミクロンが溶出する位置(溶出時間18.2分)に主たるピークが確認された。図21及び23に、検体1及び2から取得した、低分子量及び高分子量のapolipoprotein(a)が結合したLp(a)試料(超遠心分離により取得した比重1.060から1.125g/mLの画分、HDL2及び比重の高いLDLを含む)のクロマトグラムを示す。低分子量のapolipoprotein(a)が結合したLp(a)は溶出時間21.5分に主たるバンドが、やや小さなバンドが溶出時間24.9分に見られる。高分子量のapolipoprotein(a)が結合したLp(a)は溶出時間22.6分に小さなバンドが、主たるバンドが溶出時間24.8分に見られる。このように、低分子量のapolipoprotein(a)が結合したLp(a)が高分子量のapolipoprotein(a)が結合したLp(a)に比べ、早く溶出するLp(a)のピークの割合が多くなることが確認された。検体1及び2のクロマトグラムを、それぞれ図22及び24に示す。いずれの場合も、Lp(a)と他のリポ蛋白(HDL、LDL、IDL、VLDL、カイロミクロン)とが明確に分離されており、低分子量のapolipoprotein(a)が結合したLp(a)、及び高分子量のapolipoprotein(a)が結合したLp(a)の溶出時間も、Lp(a)試料を用いたとき(図21及び23)と同様な時間となった。また、このクロマトグラムから求めた測定値を表2に示す。
【0041】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】実施例で用いた装置。
【図2】実施例1の結果(検体1及び2のapolipoprotein(a)のウエスタンブロット解析)。
【図3】実施例1の結果(カイロミクロン試料のクロマトグラム)。
【図4】実施例1の結果(検体1から得られた低分子量のapolipoprotein(a)が結合したLp(a)試料のクロマトグラム)。
【図5】実施例1の結果(検体2から得られた高分子量のapolipoprotein(a)が結合したLp(a)試料のクロマトグラム)。
【図6】実施例2の結果(溶離液Bの条件を変更した場合のカイロミクロン試料の結果)。
【図7】実施例2の結果(溶離液Bが39.0%の時のカイロミクロン試料のクロマトグラム)。
【図8】実施例2の結果(溶離液Bの条件を変更した場合の検体1から得られた低分子量のapolipoprotein(a)が結合したLp(a)試料の結果)。
【図9】実施例2の結果(溶離液Bが39.0%の時の検体1から得られた低分子量のapolipoprotein(a)が結合したLp(a)試料のクロマトグラム)。
【図10】実施例2の結果(溶離液Bの条件を変更した場合の検体2から得られた高分子量のapolipoprotein(a)が結合したLp(a)試料の結果)。
【図11】実施例2の結果(溶離液Bが39.0%の時の検体2から得られた高分子量のapolipoprotein(a)が結合したLp(a)試料のクロマトグラム)。
【図12】実施例3の結果(溶離液Bの条件を変更した場合の検体2から得られた高分子量のapolipoprotein(a)が結合したLp(a)試料の結果)。
【図13】実施例3の結果(溶離液Bが65.0%の時の検体2から得られた高分子量のapolipoprotein(a)が結合したLp(a)試料のクロマトグラム)。
【図14】実施例3の結果(溶離液Bが85.0%の時の検体2から得られた高分子量のapolipoprotein(a)が結合したLp(a)試料のクロマトグラム)。
【図15】実施例4の結果(カイロミクロン試料のクロマトグラム)。
【図16】実施例4の結果(検体1から得られた低分子量のapolipoprotein(a)が結合したLp(a)試料のクロマトグラム)。
【図17】実施例4の結果(検体1のクロマトグラム)。
【図18】実施例4の結果(検体2から得られた高分子量のapolipoprotein(a)が結合したLp(a)試料のクロマトグラム)。
【図19】実施例4の結果(検体2のクロマトグラム)。
【図20】実施例5の結果(カイロミクロン試料のクロマトグラム)。
【図21】実施例5の結果(検体1から得られた低分子量のapolipoprotein(a)が結合したLp(a)試料のクロマトグラム)。
【図22】実施例5の結果(検体1のクロマトグラム)。
【図23】実施例5の結果(検体2から得られた高分子量のapolipoprotein(a)が結合したLp(a)試料のクロマトグラム)。
【図24】実施例5の結果(検体2のクロマトグラム)。
【符号の説明】
【0043】
1 溶離液A
2 溶離液B
3 脱気装置
4 ポンプ
5 ミキサー
6 オートサンプラー
7 フィルター
8 カラム
9 カラムオーブン
10 コレステロール反応液
11 エアートラップ
12 コレステロール反応液のためのポンプ
13 抵抗管
14 反応コイル
15 検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン交換クロマトグラフィーによる血液中のLp(a)の分離方法であり、血液中のLp(a)を吸着させるための溶離液1、分子量の小さいapolipoprotein(a)が結合したLp(a)を溶出するための溶離液2、Lp(a)を全て溶出するための溶離液3を、溶離液1、2、3の順に陰イオン交換カラムに流すことにより、Lp(a)を当該陰イオン交換カラムにより分離することからなる血液中のLp(a)の分離方法であって、溶離液1の塩濃度が215mmol/Lから245mmol/Lであり、溶離液3の塩濃度が365mmol/L以上であり、溶離液2の塩濃度が溶離液1の塩濃度と溶離液3の塩濃度との間であることを特徴とする、血液中のLp(a)の分離方法。
【請求項2】
溶離液2の塩濃度を、溶離液1の塩濃度から溶離液3の塩濃度まで段階的に高めることで、結合するapolipoprotein(a)の分子量の順にLp(a)を溶出させることを特徴とする、請求項1に記載の血液中のLp(a)の分離方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2009−204493(P2009−204493A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−47802(P2008−47802)
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)