説明

イオン交換フィルタおよびその製造方法

【課題】 多種多様の製品の製造フローの創出、ハンドリング性の向上、濾過性能の高効率化などが期待できる、イオン交換フィルタおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】 合成樹脂粉末を加熱・焼結することにより得られる連通多孔性成形体にイオン交換樹脂の原料溶液を含浸させ、該連通多孔性成形体内で該原料を塊状重合反応させて得られる。また、該上記原料溶液には水を含むことが好ましい。水の含有量としては特に限定されないが、0質量部よりも多く25質量部未満であることが好ましく、5〜15質量部がより好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン交換フィルタおよびその製造方法に関し、詳細には、多種多様の製品の製造フローの創出、ハンドリング性の向上、濾過性能の高効率化などが期待できる、イオン交換フィルタおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、工場において発生する粉塵を捕集する方法として、その粉塵が製品である場合や作業環境保全のための集塵の場合等に用いられ、ガラス繊維や合成樹脂からなる繊維を編組してなる濾布を袋状に縫製したバグフィルタや、フェルト濾布が用いられていた。しかしながら、耐熱性濾布を組み込んだバグフィルタは、生地織り目が粗く、粉塵の粒子が漏れることがある。また、フェルト濾布では、次第に目詰まりして通気抵抗が大きくなるため、多大な送風機動力が必要となり、捕集した粉塵の逆洗払い落としによって、濾布がリテーナー(濾布形状保持体)との摩擦で損傷する欠点もあった。
上記欠点を克服するものとしては、例えば、特許文献1および2等に、合成樹脂粉末を加熱・焼結することにより得られる連通多孔性成形体(以下、単に樹脂焼結体フィルタまたは樹脂焼結体とも称する)が開示されている。この樹脂焼結体フィルタは、シンターラメラーフィルタ(日鉄鉱業株式会社登録商標)として市販されている。
【0003】
【特許文献1】特公昭64−5934号公報
【特許文献2】特公平2−39926号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
また、前述の樹脂焼結体フィルタは、現状の集塵、粉体回収等の固気分離に止まらず、新たな用途への適用が期待され、調査、開発がなされている。これらの調査、開発の一環として、樹脂焼結体フィルタの高機能化を目指し、樹脂焼結体フィルタへのイオン交換能付与が期待された。イオン交換能は、純水製造、脱塩、飲料精製や重金属の回収など多岐にわたる用途に用いられているためである。イオン交換能を持った樹脂焼結体フィルタが開発できれば、樹脂焼結体フィルタが有する性能との組合せによる、多種多様の製品の製造フローが考えられ、ハンドリング性の向上、性能の高効率化など多くのメリットが期待できる。
すなわち、本発明は、多種多様の製品の製造フローの創出、ハンドリング性の向上、濾過性能の高効率化などが期待できる、イオン交換フィルタおよびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、樹脂焼結体フィルタにイオン交換能を付与すべく鋭意検討を重ねた結果、本発明に到達した。
即ち、本発明は以下の通りである。
(1)合成樹脂粉末を加熱・焼結することにより得られる連通多孔性成形体にイオン交換樹脂の原料溶液を含浸させ、該連通多孔性成形体内で該原料を塊状重合反応させて得られたイオン交換フィルタ。
(2)前記原料溶液が水を含むものである前記(1)のイオン交換フィルタ。
(3)合成樹脂粉末を加熱・焼結することにより得られる連通多孔性成形体にイオン交換樹脂の原料溶液を含浸させ、該連通多孔性成形体内で該原料を塊状重合反応さるイオン交換フィルタの製造方法。
(4)前記原料溶液に水を含ませる前記(3)のイオン交換フィルタの製造方法。
【0006】
本発明者らは、樹脂焼結体フィルタにイオン交換能を付与すべく、当初、樹脂焼結体の樹脂表面へイオン交換性基をグラフト結合して付与することを試みた。しかし、この場合、樹脂焼結体の樹脂表面へイオン交換性基を付与することはできたが、その量は少なく、満足できるものではなかった。
そこで、本発明者らは、樹脂焼結体にイオン交換樹脂の原料溶液を含浸させ、該樹脂焼結体孔内で該原料を塊状重合反応させることにより、反応熱が発生し、その反応熱で、イオン交換樹脂と樹脂焼結体が融着して、イオン交換樹脂が樹脂焼結体内部にまで強固に沈着されることを見出した。
なお、通常、イオン交換樹脂の合成は、懸濁重合法により行なわれるが、樹脂焼結体の孔内で重合反応させる必要があり、そのためには懸濁重合法では不適であった。よって、本発明においては、イオン交換樹脂が塊状重合法により重合させることにより、樹脂焼結体内部にまで強固に沈着されることができた。
【発明の効果】
【0007】
本発明のイオン交換フィルタは、合成樹脂粉末を加熱・焼結することにより得られる連通多孔性成形体にイオン交換樹脂の原料溶液を含浸させ、該連通多孔性成形体内で該原料を塊状重合反応させて得られたことにより、イオン交換樹脂が樹脂焼結体内部にまで強固に沈着されたものとなり、十分なイオン交換能を有するものとなった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に本発明のイオン交換フィルタおよびその製造方法について詳細に説明する。
本発明のイオン交換フィルタは、合成樹脂粉末を加熱・焼結することにより得られる連通多孔性成形体にイオン交換樹脂の原料溶液を含浸させ、該連通多孔性成形体内で該原料を塊状重合反応させて得られることを特徴とする。
【0009】
本発明で用いるイオン交換樹脂の原料とは、イオン交換樹脂の塊状重合反応に必要なモノマー成分、重合開始剤等からなるものである。
モノマー成分としては、イオン交換基と成り得る基を含むものがあれば特に限定されない。
イオン交換基と成り得る基を含むモノマー成分としては、特に限定されないが、アクリル酸、メタクリル酸、アクリレート、メタクリレート、無水マレイン酸等の不飽和基を有するジカルボン酸の無水物、スチレン等が挙げられる。アクリレート、メタクリレート、無水マレイン酸等を用いる場合には、重合後に加水分解を行う必要がある。これに対して、アクリル酸、メタクリル酸を用いる場合は、イオン交換性基である−COOH基を元々有しているので、重合後の加水分解は不要である。すなわち、製造工程が削減できる。
【0010】
また、イオン交換基と成り得る基を含むモノマー成分を必須として、さらに、イオン交換基と成り得る基を含まないモノマー成分を用いてもよい。このイオン交換基と成り得る基を含まないモノマー成分は、重合で得られるイオン交換樹脂の構造に寄与する。例えば、ジビニルベンゼン(DVB)等は、重合性基を2つ持っているため、このDVBをモノマー成分として重合で得られるイオン交換樹脂は、3次元網目構造を持つことができる。
モノマー成分としては、アクリル酸−DVBの組合せが、重合で得られるイオン交換樹脂のイオン交換能が大きくなるので、好ましい。
【0011】
本発明で用いるイオン交換樹脂原料の重合開始剤としては、懸濁重合に使用できるものであれば特に限定されない。
具体的には、ベンゾイルパーオキサイド(BPO)等が挙げられる。
【0012】
また、本発明で用いるイオン交換樹脂の原料溶液には、上記のモノマー成分および重合開始剤等の他に、水を含有していることが好ましい。該原料溶液に水が含有されていることにより、イオン交換樹脂原料の塊状重合反応による重合熱の過剰の発生を抑え、過剰の重合熱による樹脂焼結体フィルタの変形を抑えることができる。
【0013】
イオン交換樹脂の原料溶液中の水の含有量としては特に限定されないが、0質量部よりも多く25質量部未満であることが好ましい。5〜15質量部がより好ましい。0質量部であると、イオン交換樹脂原料の塊状重合反応による重合熱の発生が過剰となり樹脂焼結体フィルタが変形することがある。また25質量部以上であると、樹脂焼結体フィルタに十分な量のイオン交換樹脂が沈着されないことがある。
【0014】
上記イオン交換樹脂の原料溶液を樹脂焼結体に含浸させた後、該イオン交換樹脂の原料を塊状重合反応させるが、これは、イオン交換樹脂原料溶液を含浸させた樹脂焼結体を、使用した重合開始剤の活性化温度下に置くことを意味し、さらに詳細には、70〜110℃、好ましくは80〜100℃の乾燥機(室)内に置く操作等が挙げられる。
【0015】
本発明のイオン交換フィルタにおける、イオン交換樹脂の沈着(固定)量としては、特に限定されないが、イオン交換樹脂の沈着後のイオン交換フィルタに対し25〜40質量%が好ましく、より好ましくは30〜35質量%である。25質量%未満では、イオン交換樹脂の沈着量が少なく、フィルタのイオン交換能が不十分となることがあり、40質量%以上では、樹脂焼結体の内孔が塞がれ、通気度が無くなり、イオン交換フィルタにおけるイオン交換樹脂の表面積が小さくなりイオン交換能が不十分となることがある。
【0016】
本発明のイオン交換フィルタにおけるイオン交換樹脂の沈着(固定)量を調節する手法としては、特に限定されないが、樹脂焼結体に含浸させるイオン交換樹脂原料溶液量を調節する方法等が挙げられる。
但し、イオン交換フィルタにおけるイオン交換樹脂の沈着(固定)量は、樹脂焼結体に含浸させるイオン交換樹脂原料溶液量のみによって決定されるものではなく、イオン交換樹脂の沈着前の樹脂焼結体の通気度(空隙率)、イオン交換樹脂原料溶液の水含有量、重合雰囲気等も関与する。しかし、イオン交換樹脂の沈着前の樹脂焼結体の通気度(空隙率)、イオン交換樹脂原料溶液の水含有量、重合雰囲気等は、樹脂焼結体に含浸させるイオン交換樹脂原料溶液量に比べて、イオン交換フィルタにおけるイオン交換樹脂の沈着(固定)量に及ぼす影響が少ないため、これらのイオン交換樹脂の沈着前の樹脂焼結体の通気度(空隙率)、イオン交換樹脂原料溶液の水含有量、重合雰囲気等を考慮しながら、樹脂焼結体に含浸させるイオン交換樹脂原料溶液量を適宜決定することが好ましい。
【0017】
本発明のイオン交換フィルタに用いられる樹脂焼結体としては、合成樹脂粉末を加熱・焼結することにより得られたものであれば特に限定されないが、特公昭64−5934号公報、特表昭61−502381号公報、特開2002−336619号公報、特開2003−126627号公報等に記載のもの等が挙げられ、具体的には、ポリエチレンを樹脂成分の主成分として含有する樹脂組成物の粒子同士(以下「樹脂組成物粒子」という)を粒子表面で融着させて得たものが好ましい。
【0018】
樹脂成分としてポリエチレンを主成分とする樹脂組成物粒子は、ポリエチレン粒子単独である場合、ポリエチレン粒子とポリエチレン以外の他の樹脂の粒子との混合粒子である場合、及びポリエチレンとポリエチレン以外の他の樹脂との溶融混合物の粒子である場合を含む。なかでも、ポリエチレン粒子単独である場合及びポリエチレン粒子とポリエチレン以外の他の樹脂の粒子との混合粒子である場合が好ましい。そして、樹脂組成物粒子の樹脂成分は、ポリエチレンが該樹脂成分中に50質量%以上、好ましくは65質量%以上、あるいは100質量%占める。
【0019】
上記樹脂組成物粒子の樹脂成分であるポリエチレンとしては、エチレンの単独重合体、エチレンと少量の炭素数3〜10のα−オレフィンとの結晶性共重合体等が挙げられる。上記ポリエチレンは、デカリン溶媒中、135℃で測定された粘度数が300〜2500ml/gであるものが好ましい。粘度数が上記範囲のポリエチレンは、重量平均分子量Mwが100万を越す、いわゆる超高分子量ポリエチレンを包含する。超高分子量ポリエチレン粒子あるいは超高分子量ポリエチレンを含有する樹脂粒子は、本発明のイオン交換フィルタの樹脂焼結体を製造する際に、融点以上に加熱してもその流動性が低いため、粒子形状を長時間保持する。このため、上記樹脂焼結体を容易に製造することができ、極めて好ましく用いられる。なお、重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー法によりポリスチレン換算値として測定された値である。
【0020】
ポリエチレンはエチレンの重合あるいはエチレンと少量の炭素数3〜10のα−オレフィンとの共重合により得ることができる。また、ポリエチレンは粒子あるいはペレットとして市販されており、これらを用いることができる。
樹脂成分としてポリエチレンを主成分とする樹脂組成物粒子は、ポリエチレン以外のその他の樹脂、例えばポリプロピレン等を含むことができる。上記その他の樹脂は、粒子としてポリエチレン粒子と混合されあるいはポリエチレンと溶融混合、粉砕されて、樹脂組成物粒子の樹脂成分を構成する。その他の樹脂がポリプロピレンの場合、プロピレンの重合あるいはプロピレンと少量の他のオレフィン(エチレン等)との共重合により粒子として得ることができる。またポリプロピレンは、粒子状あるいはペレット状で市販されており、これらを用いることができる。樹脂組成物粒子がポリエチレンとポリエチレン以外の他の樹脂との溶融混合物の粒子である場合、両者を溶融混合後、機械粉砕等の手段により、所望の粒径の樹脂組成物粒子に調製することができる。
【0021】
樹脂組成物粒子は、平均粒径が50〜500μmであることが好ましく、より好ましくは100〜300μmである。平均粒径が50μm未満の場合は、フィルタエレメントに目詰まり部分が多くなり通気抵抗が大きくなる。一方、平均粒径が500μmより大きい場合は、微細粉塵の目抜けが生じ、かつ強度が低下する。
【0022】
本発明のイオン交換フィルタの概略(断面)を図1に示す。本発明のイオン交換フィルタ1は、樹脂焼結体を構成している合成樹脂粉末2の周囲を覆うようにイオン交換樹脂3が沈着しているものである。このイオン交換フィルタ1は、適度な空隙4を有する(通気度がある)ことが好ましい。空隙4が少ない(通気度が低い)と、イオン交換処理対象の気体または液体が本イオン交換フィルタ1の内部に入りこむことができず、即ち、イオン交換フィルタ1内部に沈着したイオン交換樹脂3を有効に利用することができず、結果的に、イオン交換能が低いものとなる。
【0023】
これに対し、空隙4が多い(通気度が高い)と、イオン交換処理対象の気体または液体が本イオン交換フィルタ1の内部に入りこむことができ、即ち、イオン交換フィルタ1内部に沈着したイオン交換樹脂3を有効に利用することができ、結果的に、イオン交換能が高いものとなる。しかし、空隙4が多い(通気度が高い)ということは、イオン交換樹脂3の沈着量が少ないという場合も有り得る。また、本発明のイオン交換フィルタ1の空隙率(通気度)は、イオン交換樹脂3沈着前の樹脂焼結体自体の空隙率(通気度)にも依存する。よって、本発明のイオン交換フィルタ1の好ましい空隙率(通気度)範囲を、一概に特定することは難しい。
【0024】
本発明のイオン交換フィルタは、イオン交換処理に使用した後、適当な再生処理により再生することも可能である。例えば、弱酸性陽イオン交換樹脂を沈着させたものであれば、1N塩酸に浸漬する等して再生することができる。
【実施例】
【0025】
以下に本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、勿論本発明の範囲は、これらによって限定されるものではない。
1.イオン交換樹脂の原料溶液の調整
アクリル酸とジビニルベンゼン(DVB)とベンゾイルパーオキサイド(BPO)を90:10:5(アクリル酸:DVB:BPO)の割合で配合したものに、水を0、5、15、25質量部添加したものを、それぞれ、原料溶液A、B、C、Dとした。
【0026】
2.樹脂焼結体の作製
ポリエチレン粒子(平均粒径=200μm(ふるい分け法による)、融点=135℃)100質量部をテストピース用金型(外形寸法:85mm×85mm、厚み:3.0mm)に振動を与えながら充填した。次いでこの金型を加熱炉に入れ、炉内温度240℃で3時間加熱処理し、シート状の連通多孔質成形体(樹脂焼結体)を得た。なお、得られる樹脂焼結体の大きさ及び質量等は、厳密には個々に異なるため、後述の各種試験では、これらの厳密な値を採用することがある。
【0027】
3.樹脂焼結体へのイオン交換樹脂原料溶液の含浸及び塊状重合反応
上記2で得られた樹脂焼結体へ、上記1で得られたイオン交換樹脂原料溶液を含浸させる。
具体的には、イオン交換樹脂原料溶液A〜Dを下記表1の「含浸量率(%)」となるように滴下含浸させた。なお「含浸量率(%)」は以下の式により算出する。
【0028】
含浸量率(%)
=(原料溶液含浸量/原料溶液含浸前の樹脂焼結体質量)×100
【0029】
次いで、イオン交換樹脂原料溶液を含浸させた樹脂焼結体を100℃に設定した乾燥機内に置き塊状重合反応させた。乾燥機内の置き時間は塊状重合反応が完全に終了するまでの時間とした。よって個々の試料によって異なる。
各試料の「樹脂沈着量率(%)」、並びに、変形、目詰り(通気性)の有無、およびその他の可否を下記表1に示す。
なお「樹脂沈着量率(%)」は以下の式により算出する。
【0030】
樹脂沈着量率(%)
=(イオン交換樹脂沈着量/原料溶液含浸前の樹脂焼結体質量)×100
【0031】
また、目詰り(通気性)の有無は、JIS L 1096 8.27.1 A の通気度試験(フラジール方法)にて観察した。
その通気度値が0.5cm/cm・sec以上を「通気性有り」、0〜0〜0.065cm/cm・secを「通気性僅か」、05cm/cm・secを「通気性無し」とした。
【0032】
【表1】

【0033】
4.イオン交換能の測定
上記3.で得られたイオン交換フィルタ試料のうち、試料番号(4)、(7)、(8)、(11)、(12)についてイオン交換能を測定した。
なお、比較のため市販のアクリル酸系イオン交換樹脂(粒状、三菱化学(株)製WK40)をコントロール試料(試料番号(c))、として用いた。また、試料番号(4)、(7)、(8)、(11)、(12)に沈着されているイオン交換樹脂量および試料番号(c)のイオン交換樹脂量を下記表2に示す。
【0034】
【表2】

【0035】
イオン交換能は、具体的には以下の手法で測定した。
(1)各試料を250mlのN/5−NaOH溶液に室温で44時間浸漬し、その上澄液25mlをN/10−HCl溶液で中和滴定し、その中和滴定量A(ml)を測定した。なお、この中和滴定における指示薬としては、メチルオレンジを用いた。
(2)また、試料未浸漬のN/5−NaOH溶液25mlを、同様にN/10−HCl溶液で中和滴定し、その中和滴定量B(ml)を測定した。 その中和滴定量Bは49.30mlであった。
【0036】
(3)各試料における中和滴定量Bと中和滴定量Aの差(B−A差量(ml))を求め、次いで「イオン交換樹脂単位量当りの滴定量差(ml/g)」を求めた。さらに、コントロール試料(試料番号(c))の「イオン交換樹脂単位量当りの滴定量差」を100%とした場合の、各試料の「イオン交換樹脂単位量当りの滴定量差」の比率を求め、「イオン交換能」とした。
【0037】
各試料における中和滴定量A(ml)、B−A差量(ml)、イオン交換樹脂単位量当りの滴定量(ml/g)及びイオン交換能(%)を下記表3に示す。
【0038】
【表3】

【0039】
上記表3から、試料(7)および(11)のイオン交換能が試料(c)よりも優れていることがわかった。
【0040】
なお、本明細書の実施例では、弱酸性陽イオン交換樹脂であるアクリル酸系イオン交換樹脂を沈着させたものについて詳細な検討を行ったが、弱酸性陽イオン交換樹脂以外についても、同様な塊状重合の手法で樹脂焼結体に、沈着させることが可能であると考えられる。例えば、強酸性陽イオン交換樹脂の場合は、スチレンとDVBの塊状重合反応により形成された共重合体層にクロロ硫酸を反応させてスルホン化すれば良い。また、強塩基性陰イオン交換樹脂の場合、スチレンとDVBの塊状重合反応により形成された共重合体層にLewis酸触媒を用いてクロルメチルエーテルでクロルメチル化する。このクロルメチル化三次元ポリマーを3級アミンと反応させることにより4級アンモニウムを付加すれば良い。弱塩基性陰イオン交換樹脂の場合は、エチルアクリレートとDVBの塊状重合反応により形成された共重合体層に、ジエチレントリアミンを吸収させて加熱させることにより3級アミンを付加すれば良いと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明のイオン交換フィルタは、多種多様の製品の製造フローの創出、イオン交換フィルタとしてのハンドリング性の向上、樹脂焼結体フィルタとして濾過性能の高効率化などが期待できる。
また、本発明のイオン交換フィルタは、イオン交換処理に使用した後、適当な再生処理により再生することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明のイオン交換フィルタの概略(断面)図である。
【符号の説明】
【0043】
1 イオン交換フィルタ
2 合成樹脂粉末
3 イオン交換樹脂
4 空隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂粉末を加熱・焼結することにより得られる連通多孔性成形体にイオン交換樹脂の原料溶液を含浸させ、該連通多孔性成形体内で該原料を塊状重合反応させて得られたイオン交換フィルタ。
【請求項2】
前記原料溶液が水を含むものである請求項1記載のイオン交換フィルタ。
【請求項3】
合成樹脂粉末を加熱・焼結することにより得られる連通多孔性成形体にイオン交換樹脂の原料溶液を含浸させ、該連通多孔性成形体内で該原料を塊状重合反応さるイオン交換フィルタの製造方法。
【請求項4】
前記原料溶液に水を含ませる請求項3記載のイオン交換フィルタの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−7162(P2006−7162A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−191159(P2004−191159)
【出願日】平成16年6月29日(2004.6.29)
【出願人】(000227250)日鉄鉱業株式会社 (82)
【Fターム(参考)】