説明

イオン化分析装置及びイオン化分析方法

【課題】ターゲットを選択的にイオン化でき、またフラグメンテーションも生じず、さらに異性体分子の分析もでき、リアルタイム分析可能なイオン化分析装置を提供する。
【解決手段】試料を選択的にイオン化して分析するイオン化分析装置は、イオン化部20と分析検出部30,40とを具備する。イオン化部20は、ターゲットが有するイオン化エネルギよりも僅かに大きい光子エネルギとなる波長の紫外・可視光を照射可能な紫外・可視光源を有し、これにより所定のターゲットをイオン化する。そして、イオン化部20によりイオン化されたイオンを、分析検出部30,40で質量分析して検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン化分析装置及びイオン化分析方法に関し、特に、ターゲットを選択的にイオン化して分析可能なイオン化分析装置及びイオン化分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、有機化合物の検出や同定には、質量分析(MS)が用いられている。質量分析は、原子、分子等を何らかの方法でイオン化し、真空中で運動させ電磁気力を用いてイオンを質量電荷比(m/z)ごとに分離してマススペクトルを記録するものである。有機化合物のイオン化法には種々の方法があるが、低分子化合物を対象として最も広く採用されているものには、高真空下で気化した試料に電子線を衝突させてイオン化させる電子線衝突イオン化法がある。
【0003】
また、赤外光で振動励起された試料と振動励起されていない試料とのイオン化効率に差があることを利用して、選択的に分子等のターゲットをイオン化する分析方法として、特許文献1に開示の技術がある。
【0004】
【特許文献1】特開平8−327537号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の電子衝突等による質量分析のイオン化では、分子選択性が低く、装置内に導入した試料分子すべてがイオン化されてしまう。このため、環境試料分析において毒性の点では注目度が低く且つ大量に存在するアルカン分子等が同時に検出されてしまうので、注目すべき毒性の強いターゲット分子の検出が困難となってしまう。したがって、従来の一般的な質量分析においては、実際に質量分析を行う前に、試料に対して化学的な抽出処理、濃縮処理、さらにクロマトグラフィ等による分離処理等の種々の前処理が必須となっており、分析には長大な時間と労力が必要となっていた。
【0006】
また、このような電子衝突による質量分析のイオン化では、分子に注入する電子ビームのエネルギの制御性が低いため、電子ビームから受けた過剰な衝突エネルギによって分子内の結合が開裂して小さなイオンに分解してしまうフラグメンテーション(分子解離)が起きてしまっていた。このため、特定の質量のイオンを検出しても、これがイオン化後そのまま検出されたものなのか、フラグメンテーションで生じたものなのかという判定が不可欠となっていた。さらに、フラグメンテーションのためにマススペクトルは複雑化し、環境試料のような不特定多数の物質が混在した試料の解析では、含まれる物質の検出、判定には非常に多くの時間がかかっていた。
【0007】
さらに、分子全体の化学組成は変わらないが原子の配列の組合せが異なる異性体分子においては、異性体分子によって毒性が大きく異なるため、これらをそれぞれ識別して分析できることが望まれる。しかしながら、異性体分子は質量が同じであるため、従来の質量分析法によるマススペクトルにより直接的にこれらを識別するのは困難であった。そのため、前処理やフラグメントパターンの解析等による間接的な分析が必要となり、時間と労力を要していた。
【0008】
また、特許文献1による分析については、イオン化するにあたり赤外光を照射する必要があり、装置が複雑化・高コスト化してしまっていた。
【0009】
本発明は、斯かる実情に鑑み、煩雑な前処理が不要でターゲットを選択的にイオン化でき、ソフトイオン化が可能であり、リアルタイム分析も可能なイオン化分析装置及びイオン化分析方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した本発明の目的を達成するために、試料を選択的にイオン化して分析する本発明によるイオン化分析装置は、ターゲットが有するイオン化エネルギよりも僅かに大きい光子エネルギとなる波長の紫外・可視光を照射する紫外・可視光源を有する、所定のターゲットをイオン化するイオン化部と、イオン化部によりイオン化されたイオンを分析して検出する分析検出部と、を具備するものである。
【0011】
ここで、イオン化部の紫外・可視光源は、第1ターゲットが有する第1イオン化エネルギよりも大きく、第2ターゲットが有する第2イオン化エネルギよりも小さい光子エネルギとなる波長の紫外・可視光を照射すれば良い。
【0012】
さらに、イオン化部の紫外・可視光源は、第2ターゲットが有する第2イオン化エネルギよりも僅かに大きい光子エネルギとなる波長の紫外・可視光を照射しても良い。
【0013】
また、分析検出部は、第1イオン化エネルギによりイオン化された第1イオンと第2イオン化エネルギによりイオン化された第2イオンとの差分を検出すれば良い。
【0014】
なお、イオン化部の紫外・可視光源は、ターゲットに応じて波長が可変可能であれば良い。
【0015】
また、試料を選択的にイオン化して分析する本発明によるイオン化分析方法は、ターゲットが有するイオン化エネルギよりも僅かに大きい光子エネルギとなる波長の紫外・可視光を照射するイオン化過程と、イオン化過程によりイオン化されたイオンを分析する分析過程と、を具備するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明のイオン化分析装置及びイオン化分析方法には、ターゲットのみを選択的にイオン化でき、フラグメンテーションも生じないため、マススペクトルの解析も容易であり、さらに異性体についても容易に解析できるという利点がある。また、前処理が不要であるため、環境試料のような不特定多数の物質が混在した試料であってもリアルタイム分析が可能であるという利点もある。雑音となり得るアルカン類はイオン化せずに、それよりも低いイオン化ポテンシャルを有する毒性の強いターゲットのみをリアルタイムで検出可能であるため、ダイオキシン等の有害物質の分析も、安価に行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図示例と共に説明する。図1は、本発明のイオン化分析装置の構成を説明するための概略ブロック図である。なお、本発明のイオン化分析装置は、イオン化部20が最も特徴的な部分であり、他に関しては特に図示例の構成に限定されるものではない。図1に示すように、イオン化分析装置は、試料導入部10、イオン化部20、質量分析部30、イオン検出部40から主になるものである。
【0018】
試料導入部10は、分析装置に分析したい試料を装置内に導入する部分である。試料が気体又は揮発性物質か、或いは液体、固体、非揮発性物質か等で導入法は異なるが、本発明では特に特定の試料導入部に限定されるものではない。従来の分析装置では、前処理が必要なため、ガスクロマトグラフィ装置や液体クロマトグラフィ装置等が試料導入部10に接続されていたが、本発明の分析装置では、前処理が不要であるため、試料が直接導入されれば良い。
【0019】
イオン化部20は、試料導入部10から導入された試料をイオン化する部分である。本発明のイオン化部20は、分析したい注目分子や原子である特定のターゲットを選択的にイオン化できるように構成されている。より具体的には、イオン化部20は、ターゲットが有するイオン化エネルギよりも僅かに大きい光子エネルギとなる波長の紫外・可視光を照射する紫外・可視光源21を有している。なお、紫外・可視光源21は、特定のターゲットのみをイオン化するように周波数が固定されているものであっても構わないが、種々の分子を効率良くイオン化できるように、ターゲットに応じて波長を可変可能に構成されていることが好ましい。より具体的には、紫外・可視光源21は、波長可変真空紫外レーザを用いることが可能である。紫外・可視光源21の波長の可変範囲は、ターゲットのイオン化エネルギに応じて、これよりも僅かに大きい光子エネルギとなる波長が出力できる範囲であることが好ましい。ここで、光子エネルギεと紫外・可視光の波長λとの関係は、以下の式で表される。
ε=hc/λ
但し、hはプランク定数、cは光速である。
【0020】
したがって、あるターゲットのイオン化ポテンシャルをIPとすると、光子エネルギεは以下の式を満たすように設定される。
IP<ε
IP<hc/λ
この条件を満たすとき、目的とするターゲットのみをイオン化することが可能となる。但し、光子エネルギεがターゲットのイオン化ポテンシャルIPよりも大きすぎる場合には、そのイオン化ポテンシャルでイオン化してしまう他の分子の影響を受けるため、光子エネルギεはターゲットのイオン化ポテンシャルよりも僅かだけ大きく設定することが好ましい。例えば、有害物質として検出する必要が多い二重結合や芳香環を有する分子を選択的にイオン化する場合、これらに比べてアルカン類のほうがイオン化エネルギが高いため、二重結合や芳香環を有する分子がイオン化するのに必要なエネルギを僅かに超える光子エネルギを与えてやれば、これらターゲットとなる分子のみがイオン化され、アルカン分子はイオン化されない。これにより、化学的な前処理を行うことなく、有害物質のみを選択的にイオン化することが可能となる。
【0021】
さらに、イオン化後に生成したイオンの過剰エネルギが大きい場合にフラグメンテーションが生ずるが、本発明のイオン化部20の紫外・可視光源21を用いれば、選択的にイオン化ポテンシャルを僅かに超えたエネルギを与えることが可能となるため、生成イオンの過剰エネルギは極めて低く抑制できる。したがって、フラグメンテーションが生じないソフトイオン化が可能となり、マススペクトル解析において、雑音となり得るフラグメンテーションによる信号がほとんど生じないので、解析は極めて容易となる。
【0022】
イオン化部20でイオン化されたイオンは、質量分析部30において分離・選別され、イオン検出部40で検出される。これにより、ターゲットのマススペクトルが得られる。質量分析部30は、測定可能質量範囲内における質量電荷比の近いピークを区別するものであり、要求される特性によって、磁場偏向型、四重極型、イオントラップ型、飛行時間型、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴型等、種々の方式のものが適用可能である。イオン検出部40は、質量分析部30で選別されたイオンを電子増倍管やマイクロチャンネルプレート等で増感して検出するものである。なお、本発明のイオン化分析装置は、イオン化部20でイオン化されたイオンを分析して検出するための分析検出部としては、上述の質量分析部やイオン検出部には限らず、イオンを分析可能なものであれば種々の装置、方式が適用可能である。
【0023】
ここで、ターゲットが2種類以上ある場合について説明する。ターゲットが2種類以上ある場合、各ターゲットのそれぞれのイオン化ポテンシャルの間の光子エネルギとなるよう、紫外・可視光の波長を設定した紫外・可視光源21を用いれば良い。即ち、ある第1ターゲットの第1イオン化ポテンシャルをIP1とし、第2ターゲットの第2イオン化ポテンシャルをIP2すると、光子エネルギεは以下の式を満たすように設定される。
IP1<ε<IP2
この条件を満たすとき、少なくとも第2ターゲットはイオン化されないため、第1ターゲットが含まれるか否かが分析可能となる。なお、さらに第2イオン化ポテンシャルIP2よりも僅かに大きい光子エネルギとなる波長の紫外・可視光を照射すれば、第2ターゲットもイオン化するため、第2イオン化ポテンシャルよりも小さい場合と大きい場合とで得られる分析結果も異なってくる。そのため、未知の試料であっても、マススペクトルから各ターゲットを分離するのは非常に容易となる。
【0024】
即ち、未知の試料の場合、まず第1ターゲットのみが選択的にイオン化するように、第1ターゲットが有する第1イオン化エネルギよりも大きく、第2ターゲットが有する第2イオン化エネルギよりも小さい光子エネルギとなる波長の紫外・可視光を照射し、これにより生じたイオンを分析し、第1ターゲットの有無を検出して分析する。次に、第2ターゲットが有する第2イオン化エネルギよりも僅かに大きい光子エネルギとなる波長の紫外・可視光を照射し、これにより生じたイオンを分析する。このとき、第1ターゲットもイオン化されているため、マススペクトルには第1ターゲットと第2ターゲットの2つのピークが現れる。これにより、例えば2つのマススペクトルの差分を取れば、第2ターゲットのみのを選択的に分析することが可能である。
【0025】
さらに、このようなイオン化エネルギの差を利用して、異性体の選別を行うことも可能である。異性体分子は質量が同じであるが、イオン化エネルギは異なる。したがって、まず第1イオン化エネルギより大きく第2イオン化エネルギよりも小さくなるような紫外線照射を行い、イオンが観測されなければ、第1イオン化エネルギを有する異性体分子は存在しないことになる。イオンが観察されれば、少なくとも第1イオン化エネルギを有する異性体分子は存在することが分かる。次に、第2イオン化エネルギよりも僅かに大きくなるような紫外線照射を行い、さらにイオン量が増大すれば、第2イオン化エネルギを有する異性体分子が存在することが分かる。また、各周波数のときの信号強度の比から、それぞれの異性体分子の存在比も分かる。これはそれぞれのマススペクトルの差分を取ることでも分かる。
【0026】
なお、異性体分子のイオン化ポテンシャルは、数十〜数百cm−1程度の差があることが知られている。したがって、これ以上の波長分解能の紫外・可視光源を用いれば、選択的に特定の異性体をイオン化することが可能となる。現存するレーザでは、0.1cm−1以下の分解能は容易に達成可能なため、レーザにより発生させた紫外・可視光も同様に0.1cm−1以下の分解能が達成可能となる。
【0027】
以下、本発明のイオン化分析装置を用いて、より具体的な分子を分析した場合の一例について、その分析結果のマススペクトルを示して説明する。図2は、分析に用いた本発明のイオン化分析装置全体のより具体的な一例を示した図である。この例では、2種類の波長可変真空紫外光を発生させるために、2つのレーザ光を希ガス(Xe又はKr)が導入されたガスセル内に入射させて発生させた。第1レーザ光は、YAGレーザ(スペクトラフィジックス社製LAB−150)で励起した色素レーザ(Sirah社製Cobra−Stretchレーザ)の出力をSHGユニット(インラッド社製)で紫外光に変換したレーザ光を用いた。また、第2レーザ光は、YAGレーザ(スペクトラフィジックス社製LAB−150)で励起した色素レーザ(Sirah社製Cobra−Stretchレーザ)の出力をそのまま用いた。図3(a)は、本発明のイオン化分析装置によるフェノールのマススペクトルである。なお、比較のために図3(b)に従来の電子線衝突イオン化法によるフェノールのマススペクトルも示す。フェノールのイオン化ポテンシャルは8.49eVであることが知られている。したがって、紫外・可視光源から照射される真空紫外光の波長を142nmに設定すれば、試料に与えられる光子エネルギは8.7eVとなるため、フェノールだけがイオン化することになる。このとき得られたマススペクトルが図3(a)である。従来法による結果である図3(b)では、フェノールの親マス以外に多数のフラグメンテーションによる信号が生じており、未知の試料であった場合には、このマスがフラグメンテーションにより生じたものなのか元々存在していた分子から生じたものなのかが判別できない。しかしながら、本発明による結果である図3(a)を見ると、フェノールの親マス以外のピーク信号は生じておらず、明確にフェノールだけが存在していることが判別可能である。
【0028】
次に、フェノールとクロロベンゼンの混合試料を本発明のイオン化分析装置を用いて分析した結果の一例を図4に示す。図4(a)は142nmの波長の真空紫外光を照射してイオン化した試料のマススペクトルを、図4(b)は136nmの波長の真空紫外光を照射してイオン化した試料のマススペクトルを表している。フェノールのイオン化ポテンシャルは8.49eVであり、クロロベンゼンのイオン化ポテンシャルは9.07eVであることが知られている。したがって、まず、142nmの波長の真空紫外光でイオン化すると、試料に与えられる光子エネルギは8.7eVとなるため、フェノールだけがイオン化することになる。次に136nmの波長の真空紫外光でイオン化すると、試料に与えられる光子エネルギは9.1eVとなるため、フェノールに加えてクロロベンゼンもイオン化することになる。このように、真空紫外光の波長を変化させることで、図4(a)ではフェノールだけしか検出されていなかったものが、図4(b)ではフェノールに加えてクロロベンゼンも検出されることになる。したがって、このようにして得られた2つの信号の差分を取ることにより、各ターゲットイオンを質量分析することが可能となる。しかも、ターゲットとなる分子よりもイオン化ポテンシャルの高い分子、例えば毒性の点では注目度が低く且つ大量に存在し従来の分析方法では雑音ともなっていたアルカン類はイオン化しないため、これらとの分離は容易となる。また、フラグメンテーションも発生しないため、フラグメンテーションの影響による信号も生じず、極めて明確なマススペクトルが得られる。
【0029】
さらに、異性体分子を本発明のイオン化分析装置を用いて分析した結果の一例を図5に示す。異性体分子として、構造異性体であるアントラセンとフェナントレンの混合試料を用いた。図5(a)は161nmの波長の真空紫外光を照射してイオン化した試料のマススペクトルを、図5(b)は155nmの波長の真空紫外光を照射してイオン化した試料のマススペクトルを表している。分子式C1410(分子量:178)のアントラセンとフェナントレンは、質量は等しいため従来の方法を用いたマススペクトルだけではこれらを識別することはできない。本発明のイオン化分析装置では、アントラセンとフェナントレンのイオン化エネルギの間の、例えば7.7eVとなるように、真空紫外光の波長を161nmに設定する。これにより、アントラセンのみがイオン化することになる。次に、フェナントレンのイオン化エネルギよりも僅かに大きいエネルギ、例えば8.0eVとなるように、真空紫外光の波長を155nmに設定する。これにより、アントラセンだけでなくフェナントレンもイオン化することになる。この結果、未知の試料においては、7.7eVでイオン化したときにイオンが観測されなければ少なくともアントラセンは存在しないことが分かり、イオンが観測されれば少なくともアントラセンは存在することが分かる。そして、8.0eVでさらにイオン化したときに、イオン量が変わらなければフェナントレンは存在しないことが分かり、イオン量が増大すればフェナントレンも存在することが分かる。そして、7.7eVと8.0eVにおける信号強度の比から、アントラセンとフェナントレンの存在比も分かる。
【0030】
このように、本発明のイオン化分析装置及びイオン化分析方法を用いれば、ターゲットとなる分子を選択的にイオン化することが可能となり、よりイオン化エネルギが大きい、注目分子種以外の挟雑分子の影響を受けずにイオン分析が可能となる。本発明のイオン化分析装置及びイオン化分析方法では、物理量を用いてターゲットを分離するため、煩雑な前処理も不要で非常に安価に短時間で試料を解析することが可能となる。また、得られるマススペクトルも親マスのみが現れる非常に明確なものとなる。
【0031】
なお、一般的に知られている分子のイオン化ポテンシャルは、レーザよりも低分解能な光電子スペクトルのイオン化信号極大値を元に測定してデータベース化しているため、測定した装置の分解能の関係では不正確である可能性がある。しかしながら、本発明のイオン化分析装置を用いて、周波数をリニアに可変していきながらターゲットの分析を行えば、ターゲットによるイオンからの信号が得られたときの紫外・可視光の周波数から、より正確なイオン化ポテンシャルを測定することも可能である。
【0032】
なお、本発明のイオン化分析装置は、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は、本発明のイオン化分析装置の構成を説明するための概略ブロック図である。
【図2】図2は、本発明のイオン化分析装置全体のより具体的な一例を示した概略図である。
【図3】図3は、フェノールのマススペクトルを示す図であり、図3(a)が本発明のイオン化分析装置によるマススペクトルであり、図3(b)が従来の電子線衝突イオン化法によるマススペクトルである。
【図4】図4は、フェノールとクロロベンゼンの混合試料を本発明のイオン化分析装置で分析して出力されたマススペクトルであり、図4(a)は142nmの波長の真空紫外光を照射した場合、図4(b)は136nmの波長の真空紫外光を照射した場合である。
【図5】図5は、異性体分子であるアントラセンとフェナントレンの混合試料を本発明のイオン化分析装置で分析して出力されたマススペクトルであり、図5(a)は161nmの波長の真空紫外光を照射した場合、図5(b)は155nmの波長の真空紫外光を照射した場合である。
【符号の説明】
【0034】
10 試料導入部
20 イオン化部
21 紫外・可視光源
30 質量分析部
40 イオン検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を選択的にイオン化して分析するイオン化分析装置であって、該装置は、
ターゲットが有するイオン化エネルギよりも僅かに大きい光子エネルギとなる波長の紫外・可視光を照射する紫外・可視光源を有する、所定のターゲットをイオン化するイオン化部と、
前記イオン化部によりイオン化されたイオンを分析して検出する分析検出部と、
を具備することを特徴とするイオン化分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載のイオン化分析装置において、前記イオン化部の紫外・可視光源は、第1ターゲットが有する第1イオン化エネルギよりも大きく、第2ターゲットが有する第2イオン化エネルギよりも小さい光子エネルギとなる波長の紫外・可視光を照射することを特徴とするイオン化分析装置。
【請求項3】
請求項2に記載のイオン化分析装置において、前記イオン化部の紫外・可視光源は、さらに、第2ターゲットが有する第2イオン化エネルギよりも僅かに大きい光子エネルギとなる波長の紫外・可視光を照射することを特徴とするイオン化分析装置。
【請求項4】
請求項3に記載のイオン化分析装置において、前記分析検出部は、第1イオン化エネルギによりイオン化された第1イオンと第2イオン化エネルギによりイオン化された第2イオンとの差分を検出することを特徴とするイオン化分析装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れかに記載のイオン化分析装置において、前記イオン化部の紫外・可視光源は、ターゲットに応じて波長が可変可能であることを特徴とするイオン化分析装置。
【請求項6】
試料を選択的にイオン化して分析するイオン化分析方法であって、該方法は、
ターゲットが有するイオン化エネルギよりも僅かに大きい光子エネルギとなる波長の紫外・可視光を照射するイオン化過程と、
前記イオン化過程によりイオン化されたイオンを分析する分析過程と、
を具備することを特徴とするイオン化分析方法。
【請求項7】
請求項6に記載のイオン化分析方法において、前記イオン化過程は、第1ターゲットが有する第1イオン化エネルギよりも大きく、第2ターゲットが有する第2イオン化エネルギよりも小さい光子エネルギとなる波長の紫外・可視光を照射することを特徴とするイオン化分析装置。
【請求項8】
請求項7に記載のイオン化分析方法であって、さらに、第2ターゲットが有する第2イオン化エネルギよりも僅かに大きい光子エネルギとなる波長の紫外・可視光を照射する第2イオン化過程を有することを特徴とするイオン化分析方法。
【請求項9】
請求項8に記載のイオン化分析方法において、前記分析過程は、第1イオン化エネルギによりイオン化された第1イオンと第2イオン化エネルギによりイオン化された第2イオンとの差分を検出することを特徴とするイオン化分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−327929(P2007−327929A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−161691(P2006−161691)
【出願日】平成18年6月9日(2006.6.9)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度、独立行政法人科学技術振興機構、「先端計測分析技術・機器開発事業」の委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】