説明

イオン性官能基修飾センサーチップおよびリガンド担持荷電微粒子を使用する分子間相互作用測定方法

【課題】ホモジニアスのアッセイおよびヘテロジニアスのセンシング(分子間相互作用測定方法)を組み合わせることの利点を活かしつつ、磁性粒子および磁力を用いた測定方法に見られるような課題を解決した、より高感度な測定方法を提供する。
【解決手段】表層に正または負に荷電した荷電層を備えるセンサーチップを使用する分子間相互作用測定方法であって、当該荷電層とは逆に荷電した、正または負に荷電した荷電微粒子およびそれに結合したリガンドにより構成されるリガンド担持荷電微粒子と、アナライトとを媒質中で反応させ、リガンド担持荷電微粒子−アナライト複合体を形成させる工程、および前記リガンド担持荷電微粒子−アナライト複合体を含む媒質を前記荷電層の表面に接触させ、分子間相互作用が働くことにより現れるシグナルを観測する工程を含むことを特徴とする、分子間相互作用測定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RIfS(Reflectometric Interference Spectroscopy:反射型干渉分光法)等のノンラベルの分子間相互作用測定方法用のセンサーチップ、および当該センサーチップを使用する分子間相互作用測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ノンラベルの分子間相互作用測定方法、すなわち、放射性物質や蛍光体などの標識を用いることなく、生体分子や有機高分子などの分子間相互作用が働いたときに特有のシグナルを発する測定部材(センサーチップ)を用いて、そのシグナルを観測することにより、測定対象物を直接的かつ定量的に検出する方法の研究開発が進められている。たとえば、光学薄膜の干渉色変化を利用する検出法であるRIfS(Reflectometric Interference Spectroscopy:反射型干渉分光法)が提案され、実用化もされている。その他にも、QCM(Quartz Crystal Microbalance:水晶発振子マイクロバランス)などの分子間相互作用測定方法も知られている。
【0003】
これらの分子間相互作用測定装置用のセンサーチップには、被検出物質(アナライト)との間で特異的な分子間相互作用が働く捕捉物質(リガンド)が表層に固定化されている。たとえば、あるタンパク質(抗原)をアナライトとする場合は、それと特異的に結合しうるタンパク質(抗体)がリガンドとして表面に固定化されているセンサーチップが使用される。そして、それらのアナライトおよびリガンドが分子間相互作用、すなわち抗原抗体反応により結合すると、センサーチップの状態が変化し、それに起因するシグナルを観測することができる。
【0004】
このような分子間相互作用測定方法は、一般的に、アナライトを含有する媒質(液相)と、リガンドが固定化された基板状のセンサーチップ(固相)とを接触させる、ヘテロジニアスなセンシングである。このような測定方法は、高感度ではあるが、基板状の固相と液相との界面のみでしかリガンドとアナライトとの反応が起きないため、アナライトの拡散が反応律速となり反応効率の制約が大きい。
【0005】
一方、液相中のアナライトと、固相ではあっても液相中に分散している微粒子に担持させたリガンドとを接触させるような、ホモジニアスのアッセイは、前記ヘテロジニアスでの接触に比べて反応効率がよく、反応効率をさらに高めるための加速手段(たとえば撹拌、ボルテックス、振盪、超音波等)があるなどの利点を有する。
【0006】
上記のようなヘテロジニアスな反応とホモジニアスな反応とを組み合わせた測定方法としては、磁性粒子および磁力を利用するものが知られている。
たとえば、特許文献1には、下記(a)〜(c)の工程により液体媒体中の抗原または抗体を定量的に測定する方法において、工程(a)における反応に伴う透過光もしくは散乱光の強度を測定することを特徴とする抗原又は抗体の測定方法が記載されている:
(a)測定しようとする抗原または抗体、該抗原または該抗体に対する抗体または抗原を担持させた不溶性磁性粒子を含む第1試薬、及び、該抗原または該抗体に対する抗体または抗原を担持させた不溶性標識粒子を含む第2試薬を液体媒体中で反応させる工程;
(b)工程(a)の反応混合物に磁場を付与することにより未反応の不溶性磁性粒子及び不溶性磁性粒子を含む凝集粒子を反応混合物から分離し、次いで該液体媒体及び未反応の不溶性蛍光標識粒子を除去する工程;
(c)残った該不溶性磁性粒子と反応した不溶性標識粒子の量を定量することにより抗原または抗体を定量的に測定する工程。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−146975号公報(特許第3695178号公報)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した特許文献1に記載されたような磁性粒子を用いた測定方法では、磁性粒子のサイズが小さい方が、単位体積中に含まれる磁性粒子の表面積の総和が大きくなる、すなわちそれらの磁性粒子の表面に担持されているリガンドの量が大きく、したがってアナライトとの反応効率が高いと考えられる。しかしながら、磁性粒子のサイズが一定以下(たとえば1μm以下程度)だと、うまく集磁できないという問題が起きる。
【0009】
本発明は、ホモジニアスのアッセイおよびヘテロジニアスのセンシング(分子間相互作用測定方法)を組み合わせることの利点を活かしつつ、磁性粒子および磁力を用いた測定方法に見られるような課題を解決した、より高感度な測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは、まず、分子間相互作用測定方法用のセンサーチップの表面に、イオン性ポリマーを塗布することなどによって、正または負の電荷を有するイオン性官能基を高密度で導入することができることを見いだした。その上で、上記イオン性官能基とは逆の電荷を有する荷電微粒子にリガンドを担持させたリガンド担持荷電微粒子と、アナライトとを、液相中で反応させて(ホモジニアスな反応系)リガンド担持荷電微粒子−アナライト複合体を形成させたのち、この複合体を含む水溶液を上記のイオン性官能基で修飾されたセンサーチップに接触させ、静電相互作用により前記イオン性官能基と結合させることによって、前記複合体を均質かつ高密度でセンサーチップ表面で捕捉することができること、したがって従来よりも高感度かつ高精度でシグナルを観測することができることを見いだし、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は下記の事項を包含する。
[1] 正または負に荷電した荷電微粒子およびそれに結合したリガンドにより構成されることを特徴とする、リガンド担持荷電微粒子。
【0012】
[2] 前記荷電微粒子が、SiO2、TiO2、イオン性ポリマー、またはリガンドを固定可能な金属からなるものである、[1]に記載のリガンド担持荷電微粒子。
[3] 表層に正または負に荷電した荷電層を備えるセンサーチップを使用する分子間相互作用測定方法であって、当該荷電層とは逆に荷電した、[1]または[2]に記載のリガンド担持荷電微粒子と、アナライトとを媒質中で反応させ、リガンド担持荷電微粒子−アナライト複合体を形成させる工程、および前記リガンド担持荷電微粒子−アナライト複合体を含む媒質を前記荷電層の表面に接触させ、分子間相互作用が働くことにより現れるシグナルを観測する工程を含むことを特徴とする、分子間相互作用測定方法。
【0013】
[4] 前記荷電層がイオン性ポリマーからなる層である、[3]に記載の分子間相互作用測定方法。
[5] 前記イオン性ポリマーがカチオン性官能基を有するポリマーである、[3]または[4]に記載の分子間相互作用測定方法。
【0014】
[6] 前記荷電層の表面電荷密度が50〜200mC/m2の範囲にある、[3]〜[5]のいずれか一項に記載の分子間相互作用測定方法。
[7] 前記荷電層の表面の算術平均粗さが1〜50nmの範囲にある、[3]〜[6]のいずれか一項に記載の分子間相互作用測定方法。
【0015】
[8] 前記センサーチップがRIfS用またはQCM用である、[3]〜[7]のいずれか一項に記載の分子間相互作用測定方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、センサーチップ表面に設けられたイオン性官能基が有する電荷により、逆の電荷を有するリガンド担持荷電微粒子−アナライト複合体を均質かつ高密度で(最密充填状態で)捕捉することができる。このような本発明による分子間相互作用測定方法を使用することにより、従来よりも高感度かつ高精度でアナライトの検出や定量を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、RIfSに準じた態様における、本発明の実施形態の一例の概略図である。
【図2】図2は、作製例1により作成したカチオン性修飾センサーチップ表面の原子間力顕微鏡(AFM)像である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明において「分子間相互作用測定方法」とは、測定部材(センサーチップ)の表面に固定化された所定の分子(リガンド)と、検出対象となる分子(アナライト)との間で分子間相互作用が働いたときに現れるシグナルを観測することにより、その分子間相互作用をもたらしたアナライトを検出する方法の総称である。ただし、上記シグナルとして、蛍光色素生成用の酵素、蛍光体、放射性同位体等のラベルによって発生する蛍光や放射線に基づくシグナルを観測する方法は除外される。本発明における分子間相互作用測定方法としては、代表的には、RIfS、QCMが挙げられる。以下、RIfSの実施形態を中心として、本発明についてさらに詳細に説明する。しかしながら、本発明における分子間相互作用測定方法はRIfSに限定されるものではない。当業者であれば、本明細書の記載に基づき、本発明を、QCMやその他のRIfS以外の分子間相互作用測定方法において展開することが可能である。
【0019】
−イオン性官能基修飾センサーチップ−
本発明では、表面に正または負に荷電した層(荷電層)が形成されている、つまり表面がイオン性官能基によって修飾されている、イオン性官能基修飾センサーチップを使用する。すなわち、このイオン性官能基修飾センサーチップの表面に荷電微粒子−リガンド−アナライト複合体(を含む媒質)を接触させて、分子間相互作用検出のための測定を行う。
【0020】
(イオン性官能基)
荷電層が有するイオン性官能基には、カチオン性官能基およびアニオン性官能基が包含される。センサーチップが、アニオン性の荷電微粒子と組み合わせて使用される場合は、上記イオン性官能基としてカチオン性官能基が選択され、逆にカチオン性の荷電微粒子と組み合わせて使用される場合は、上記イオン性官能基としてアニオン性官能基が選択される。カチオン性官能基およびアニオン性官能基は、それぞれ、いずれか1種単独であっても、2種以上が混合していてもよい。なお、荷電層中には、通常はカチオン性官能基またはアニオン性官能基のいずれか一方のみを存在させるようにするが、荷電微粒子を捕捉する上で支障がない荷電状態を生み出すことができる場合は、これら両方が存在していてもよい。また、荷電層(イオン性官能基)の荷電状態およびそれと組み合わせて使用される荷電微粒子の荷電状態は、それらが置かれている周囲のpHによっても変化する場合があるので、使用時にはそのpHを適切な範囲に調節しておくべきである。
【0021】
・カチオン性官能基
カチオン性官能基としては、たとえば、グアニジウムイオン、−NH3+、−NH2(CH3+、−NH(CH32+、−N(CH33+などの第4級アンモニウムカチオンが挙げられる。このようなカチオン性官能基は、分子内塩を形成しているものが好ましいが、塩素、臭素などのハロゲン陰イオン、硫酸陰イオン、スルホン酸陰イオン、燐酸陰イオン、カルボン酸陰イオンなどと結合して対塩を形成していてもよい。カチオン性官能基は、好ましくは表面電荷密度の観点から4級アンモニウムカチオンである。前記カチオン性官能基を含有させるポリマーとしては特に制限はないが、センサー性能の観点から、成膜性が良く、水溶性でないものが好ましい。
【0022】
・アニオン性官能基
アニオン性官能基としては、たとえば、−CO2-(カルボン酸基)、−SO3-(スルホン酸基)、−OSO3-(硫酸基)、−OPO4-(リン酸基)、−B(OH)2(ボロン酸)などが挙げられる。このようなアニオン性官能基は、分子内塩を形成しているものが好ましいが、金属陽イオンまたは有機陽イオンと結合していてもよい。その金属陽イオンとしては、たとえば、Na+(ナトリウム陽イオン)、K+(カリウム陽イオン)、Ca+(カルシウム陽イオン)などのアルカリ金属が挙げられ、有機陽イオンとしては、Me3+H(トリメチルアンモニウム陽イオン)、Et3+H(トリエチルアンモニウム陽イオン)、Me2+2(ジメチルアンモニウム陽イオン)などが挙げられる。
【0023】
なお、上記のイオン性官能基(A)は、主鎖となるポリマーに直接結合していてもよいし、他の結合基Rを介してポリマー主鎖に結合していてもよい(A−R−ポリマー主鎖)。結合基−R−としては、たとえば、炭素原子数1〜6のアルキレン基、フェニレン基、エチレンオキシ基((C24O)n)などが挙げられる。
【0024】
(荷電層の形成方法)
最表面に荷電層を備えたセンサーチップは、無修飾のセンサーチップの表面に、以下に述べるような方法により荷電層を形成することで、作製することができる。「無修飾のセンサーチップ」は、分子間相互作用測定方法に応じたものを用意すればよい。RIfS用の無修飾のセンサーチップは、前述したように、一般的には、基板(たとえばSi)と、その表層側に形成された光学薄膜(たとえばSiN)とにより構成される。QCM用の無修飾のセンサーチップは、一般的には、ATカット水晶振動子と、その表層側に形成された電極(たとえばAu)とにより構成される。
【0025】
荷電層の形成方法は特に限定されるものではないが、たとえば、表面電荷の強さ、耐久性の観点から、上述したようなイオン性官能基を側鎖に有するポリマー(イオン性ポリマー)からなる被膜をセンサーチップ表面に形成する方法が好適である。
【0026】
・イオン性ポリマー
イオン性ポリマーは、あらかじめイオン性官能基を有するモノマーを重合して得られたものでもよいし、イオン性官能基を誘導または導入しうる他の官能基を有するモノマーを重合した後、当該官能基にイオン性官能基を誘導または導入することによって得られたものでもよい。
【0027】
イオン性ポリマーの一つとして、炭化水素骨格を主鎖とするものが挙げられる。そのようなイオン性ポリマーを合成するために用いられるモノマーとしては、たとえば、ビニル基、アリル基、ジエンなどを有するモノマーが挙げられる。より具体的には、たとえば、(メタ)アクリルアミドなどのアミド類;(メタ)アクリル酸、または蟻酸ビニル、酢酸ビニル、酢酸アリル、アセト酢酸アリル、ビニルマレイン酸などのカルボン酸またはそのエステル類;スチレンスルホン酸、またはスチレンスルホン酸エステルなどのスルホン酸またはそのエステル類;この他、硫酸エステル、燐酸エステル、ホスホン酸エステルなども挙げられる。
【0028】
また、イオン性官能基が導入されたウレタン系樹脂、たとえばカチオン性水性ポリウレタン樹脂(たとえば「ハイドラン(登録商標)CP」シリーズ、DIC株式会社)などとして公知の物質も、本発明で用いることのできるイオン性ポリマーとして挙げられる。
【0029】
さらに、ポリアミノ酸由来の骨格を主鎖とするイオン性ポリマーも挙げられる。そのようなイオン性ポリマーとしては、たとえば、側鎖にカルボキシル基を有するポリアスパラギン酸およびポリグルタミン酸、ならびに側鎖にアミノ基を有するポリリジンが挙げられる。
【0030】
上記の各種のイオン性ポリマーは、公知の方法によって合成することができ、市販品として入手することもできる。イオン性ポリマーの性状、たとえば一分子あたりのイオン性官能基の数や数平均分子量などは、目的とするセンサーチップ表面の荷電状態に応じて適宜調整することが可能である。
【0031】
イオン性ポリマーは、ディップコーティング、スピンコーティング、スプレーコーティング等、公知の手法を用いてセンサーチップの表面に塗布することができる。このようなコーティング方法を用いる場合は、イオン性ポリマーを適切な溶媒に、適切な濃度となるよう溶解させて塗布液を調製し、これを塗布するようにすればよい。一般的には、塗布液中のイオン性ポリマーの濃度は0.5〜10重量%、塗布膜厚としてRIfS用センサーチップでは5nm〜500nm、その他では5nm〜100nmの範囲で調整することにより、イオン性ポリマーからなる荷電層を形成することができる。
【0032】
また、必要であれば、センサーチップ(たとえば金薄膜が形成されているQCM用のセンサーチップ)の表面にSAM(Self-Assembled Monolayer:自己組織化単分子膜)を予め形成しておき、その表層側にイオン性ポリマーを塗布ないし接触させて、両者の官能基間に結合を生じさせ、固定化する態様であってもよい。また、開始剤を基板に直接、あるいは前記SAMやシランカップリング剤で固定化し、逐次反応で分子長を制御可能なラジカルリビング重合法を用いてin situでポリマー膜を形成したものであってもよい。
【0033】
・表面電荷密度
荷電層を備えたセンサーチップは、所望の密度で(好ましくは最密充填で)、アナライトと複合体を形成していてもよいリガンド担持荷電微粒子を配置させるために、表面電荷密度が少なくとも一定の水準を満たす程度に高いことが好ましい。センサーチップと荷電微粒子とを接触させる工程における条件下、より具体的には当該工程に用いられるリガンド担持荷電微粒子を含む媒質(水溶液)のpH条件下において、センサーチップ(荷電層)の表面電荷密度は、たとえば10〜500mC/m2、好ましくは50〜200mC/m2で調整することができる。このような表面荷電密度は、ゼータポテンシャル測定装置(例えば、ゼータ電位測定システム「ELSZ−2」(大塚電子株式会社製)で平板試料用セルを用いて測定できる。)など、公知の手段を用いて測定することができる。また、リガンド担持荷電微粒子の投影断面積あたりのイオン性官能基の数が少なくとも1となるような表面電荷密度であることが好ましい。イオン性薄膜を形成するために用いるイオン性ポリマーの一分子あたりに導入するイオン性官能基の数や、センサーチップ表面の単位体積あたりに塗布するイオン性ポリマーの量などの条件を調節することにより、表面電荷密度が所望の範囲に収まるようにすることができる。
【0034】
・表面粗さ
センサーチップが特にRIfS用である場合、センサーチップが備える荷電層の表面は平滑であることが理想的である。このような平滑さは、代表的には、表面粗さを指標とすることができる。たとえば、イオン性官能基修飾センサーチップ表面の算術平均粗さ(Rz)は、1〜50nmであることが好ましく、1〜10nmであることがより好ましい。このような表面粗さは、表面粗さ測定装置や原子間力顕微鏡(AFM)など、公知の手段を用いて測定することができる。
【0035】
−リガンド担持荷電微粒子−
本発明では、液相中でアナライトと反応させて複合体を形成させるために、荷電微粒子およびそれに結合したリガンドによって構成される、リガンド担持荷電微粒子を使用する。
【0036】
・荷電微粒子
荷電微粒子としては、正または負に荷電した、通常、1〜100nm程度のサイズを有する微粒子を用いることが、静電相互作用を利用した強固な固定化のために重要である。なお、このような荷電微粒子のサイズは、動的光散乱法により測定される体積平均粒子径、または商品の粒径等の公称値(カタログ値)によって表すことができる。
【0037】
荷電微粒子の分散形態としては、結合力が強い自己乳化型の方が好ましいが、自己乳化型でなくても利用可能である。
本発明において用いることのできる荷電微粒子としては種々のものが知られており、後述するような適切な手段によりリガンドを担持することができるものであれば特に限定されるものではないが、代表的には、SiO2およびTiO2、イオン性ポリマー、ならびにリガンド固定可能な金属からなるものを挙げることができる。
【0038】
SiO2またはTiO2からなる荷電微粒子は、いわゆるコロイダルシリカ(たとえば「スノーテック(登録商標)」シリーズ、日産化学工業株式会社)や超微粒子酸化チタン(たとえば「STT−65C−S」、チタン工業株式会社)などとして知られている物質である。これらの荷電微粒子は、酸性では正電荷を、アルカリ性では負電荷を帯びる。TiO2は、アナターゼ型であっても、ルチル型であってもよい。
【0039】
イオン性ポリマーからなる荷電微粒子としては、高分子コロイド、高分子ラテックスなどとして知られている物質を用いることができる。このような荷電微粒子は、イオン性ポリマーが有するイオン性官能基に応じて、水中で正または負に荷電する。このイオン性官能基としては、荷電層に関して前述したようなカチオン性官能基およびアニオン性官能基と同様のものが挙げられる。また、粒子状に凝集するものであれば、荷電層に関して前述したようなイオン性ポリマーと同様のものを荷電微粒子として用いることができる。
【0040】
金属としては、金、銀、銅、アルミニウム、鉄、等のナノ粒子、あるいは前記金属の酸化物を有する複合物等であってもよい。なお、これらの金属からなる微粒子(典型的にはコロイド粒子)は、通常正または負に荷電している。たとえば、金、銀等のコロイド粒子は通常負に荷電している。このような金属は、荷電微粒子の表面にリガンドを固定化するために、公知の手法(たとえば後述するように、所定の化合物で処理して金属微粒子の表面に所定の修飾基を導入する手法)を適用することができるものであればよい。また、あらかじめリガンドを固定化した金属微粒子(例えば抗体固定金ナノ粒子)は製品として入手することができる。
【0041】
・リガンド
リガンドは、アナライトと特異的に結合する物質である。たとえば、アナライトがタンパク質である場合は、その一部を認識して特異的に結合する抗体(Fab、F(ab)2等を含む)がリガンドとなり、アナライトが核酸である場合はそれと相補的な塩基配列を有する核酸がリガンドとなり、アナライトが糖鎖を有する分子である場合は、糖鎖を認識して結合するタンパク質であるレクチン等がリガンドとなる。また、アナライトをあらかじめ特定の物質(たとえばビオチン)で修飾しておいた場合には、当該特定の物質と特異的に結合する物質(たとえばアビジン)をリガンドとして用いればよい。
【0042】
リガンドがタンパク質(抗体等)である場合、それを構成するアミノ酸の末端または側鎖に、チオール基,アミノ基,カルボキシル基,ヒドロキシル基などの修飾基が存在するので、それらの修飾基を荷電微粒子との結合に利用することができる。一方、核酸は、それを構成する塩基中にアミノ基、ヒドロキシル基は存在するが、通常はカルボキシル基、チオール基は存在しないので、修飾基との関係において必要であれば、公知の手法を用いてそれらの反応基を核酸に導入しておいてもよい。
【0043】
・作製方法
リガンド担持荷電微粒子は、通常は液相中で、荷電微粒子とリガンドとを結合させる所定の反応を行うことにより作製することができる。荷電微粒子とリガンドとの結合の態様は特に限定されるものではなく、公知の手法を利用することができる。
【0044】
たとえば、荷電微粒子がSiO2からなるものである場合、当該荷電微粒子をシランカップリング剤で処理してその表面に所定の修飾基を導入しておき、一方で当該修飾基に対応した反応基を有するリガンドを用意しておき、これらの修飾基および反応基を反応させることにより、当該荷電微粒子にリガンドを結合させることができる。荷電微粒子がTiO2からなるものである場合にも、同様にシランカップリング剤を用いることが可能である。
【0045】
荷電微粒子が金属からなるものである場合も、その金属に応じて適切な化合物を選択して処理し、その表面に所定の修飾基を当該荷電微粒子に導入し、それ以後は上記と同様、リガンドが有する反応基と反応させればよい。たとえば金属が金であれば、一方の末端に金と結合するチオール基を有し、もう一方の末端にカルボキシル基、アミノ基等の修飾基を有するSAMを上記化合物として用いることができる。また、あらかじめ所定の修飾基が導入された荷電微粒子は製品としても入手可能である。
【0046】
また、荷電微粒子がイオン性ポリマーからなるものである場合は、当該イオン性ポリマーが有するイオン性官能基(たとえばアニオン性官能基であるカルボキシル基)の一部を、リガンドが有する反応基(たとえばアミノ基)と反応させるために利用することにより、当該荷電微粒子にリガンドを結合させることができる。
【0047】
荷電微粒子に担持させるリガンドの量は、荷電微粒子が有する修飾基の数や反応させるリガンドの量(リガンド溶液の濃度)などを調整することにより、所望の範囲とすることができるが、センサーチップへの荷電層との分子間相互作用が妨げられない範囲とすることが適切である。
【0048】
なお、リガンド担持荷電微粒子を作製した際の反応液は、そのまま、または適切な濃度に希釈して、後の複合体形成工程において、アナライト(を含有する媒質)と混合し、リガンド担持荷電微粒子−アナライト複合体を形成させるために用いることもできる。この反応液中にリガンドと結合していない荷電微粒子(未反応の荷電微粒子)が含まれていると、複合体形成工程においてもそのままの状態で(アナライトと複合体を形成することなく)存在し、さらに後の複合体接触工程において荷電層と結合するので、アナライトの定量の精度を低下させるおそれがある。そのため、反応させる荷電微粒子とリガンドとの量比を適切に調整する、通常はリガンドの量を荷電微粒子に対して十分に多くすることにより、未反応の荷電微粒子が極力残存しないようにすることが望ましい。あるいは、たとえばアフィニティクロマトグラフィーにより反応液中から未反応の荷電微粒子を除去してリガンド担持荷電微粒子を精製し、この精製物を、必要に応じて所定の濃度の水溶液等を調製した上で、その後の工程で用いるようにすることが望ましい。
【0049】
−分子間相互作用測定方法−
本発明に係る分子間相互作用測定方法は、上述したような荷電層を備えたセンサーチップを使用し、これに別途形成されたリガンド担持荷電微粒子−アナライト複合体を接触させるようにする。このような分子間相互作用測定方法は、一部の工程を除いて従来の分子間相互作用測定方法に準じた手順で、また、従来の分子間相互作用測定方法と同様の測定装置を用いて、実施することができる。
【0050】
(RIfSの実施形態)
以下、図1を参照しながら、本発明の実施形態において利用される、RIfSに基づく分子間相互作用測定方法の一実施形態について説明する。
【0051】
分子間相互作用測定方法用の測定システム1は、主に、測定部材10,白色光源20,分光器30及び光伝達部40等から構成される分子間相互作用測定装置100と,制御装置50などから構成されている。白色光源20,分光器30,光伝達部40などは、好ましくは測定装置100本体に収容されており、この測定装置100本体に、例えばPC(Personal Computer)の形態をとる制御装置50が制御可能に接続される。また、測定部材10は、一般的には矩形であり、好ましくは上記測定装置100本体に着脱可能な形態である。この測定部材10(センサーチップ12およびフローセル14)は、ディスポーザブルタイプのものとすることができる。
【0052】
測定部材10は、測定の対象となる光学干渉を起こす場となるセンサーチップ12と、通常はさらに、当該センサーチップ12の表層側に積載された、各種の媒質60(たとえばリガンド担持荷電微粒子−アナライト複合体62を含む試料溶液等)を送液するための密閉流路14bを形成するためのフローセル14とによって構成される。
【0053】
なお、RIfS用等のセンサーチップとしては、試料の溶液をポンプ等で送液し、微細な密閉流路14b内を流下させながらセンサーチップ12に接触させる「流路型」の構造のものが広く知られているが、より広い領域に各種の溶液を貯留してセンサーチップ12に接触させ、その後すすぐといった手順が行われる「ウェル型」の構造であってもよい。
【0054】
センサーチップ12は、基本的に基板12aと、その表層側に形成された光学薄膜12bとを備え、本発明においてはさらに、光学薄膜12bの表層側に形成された荷電層12cを備える。
【0055】
基板12aは、たとえばSi(シリコン)製が好ましい。一方、光学薄膜12bは、基板の材質(屈折率)に応じて選択される、白色光を用いたときに観測される反射率極小波長が適切な範囲(好ましくは可視光領域)となるような屈折率および厚みを有する材質で形成される。たとえば、基板12aがSi基板である場合、光学薄膜12bは、SiN、Ta25、Nb25、HfO2、ZrO2、ITO(酸化インジウム錫)などの酸化膜または窒化膜であることが好ましく、SiN膜が特に好ましい。これらの酸化膜または窒化膜はいずれも、可視光領域(波長約400から800nmの範囲)における屈折率が1.8〜2.4で、Si基板の表層側層に形成される光学薄膜としての性能を満たしており、なおかつ当該光学薄膜自体がある程度、非特異的吸着を抑制する効果を有している。たとえば、SiN膜の膜厚を約45〜90nmとすることにより、ボトムピークをおよそ400nm〜800nmの範囲に調節することができる。荷電層12cは、たとえばイオン性ポリマーにより形成されていることが好ましい。
【0056】
フローセル14は、たとえばシリコーンゴム(ポリジメチルシロキサン:PDMS)製の、センサーチップ12に密着させることができる透明な部材である。フローセル14には少なくとも1つの溝14aが形成されており、フローセル14をセンサーチップ12に密着させると、密閉流路14bが形成される。この密閉流路14bの底部に位置するセンサーチップの表面が、所定の分子間相互作用により発せられるシグナルを観測するための反応部位200となる。溝14aの両端部はフローセル14の表面から露出しており、一方の端部が送液部(たとえばシリンジポンプ)に接続されて媒質60が供給される流入口14cとして機能し、他方の端部は廃液部に接続されて当該媒質60の流出口14dとして機能するようになっている。
【0057】
光伝達部40は、白色光源20からの白色光を測定部200に導くための第一の光伝達経路としての第一の光ファイバ41と、第一の光ファイバ41からの白色光の照射による反射光を測定部200から分光器30に導くための第二の光伝達経路としての第二の光ファイバ42とを備えている。第一の光ファイバ41の白色光源20側の端部は、当該白色光源20の接続ポートに接続されている。接続ポートに接続された光ファイバ41は光入射端面がハロゲンランプ21に対向するように配置されている。第二の光ファイバ42の分光器30側の端部は、当該分光器30の受光を行う接続ポートに接続されている。
【0058】
上記各光ファイバ41,42は、いずれも微細ファイバを束ねた構造となっている。そして、第一の光ファイバ41と第二の光ファイバ42のフローセル14側の端部は、各々の微細ファイバが一つの束となるように複合的に寄り合わされている。即ち、第一の光ファイバ41を構成する微細ファイバは、フローセル14側の端面において中央に分布し、第二の光ファイバ42を構成する微細ファイバは第一の光ファイバ41の微細ファイバの束を取り囲むようにその周囲に分布している。
【0059】
白色光源20は、ハロゲンランプと、これを格納する筐体とから構成されている。筐体には、第一の光ファイバ41を接続するための接続ポートが設けられている。なお、本実施形態では白色光源を用いているが、これに限られるものではなく、後述する反射率極小波長の変化を検出しうる波長域にわたって分布する光を発光する光源であればよい。
【0060】
白色光源20が点灯すると、その白色光が第一の光ファイバ41を介して測定部200に照射され、その反射光が光ファイバ42を介して分光器30に導かれる。この分光器30は、受光部で受光する光に含まれる一定の波長間隔ごとの光について光強度を検出し、分光強度として制御装置50に出力する。
【0061】
なお、本実施形態においては、測定部材10からの反射光を分光器30で受光するようにしているが(反射型RIfS)、測定部材10として光透過性のものを用いて、白色光源20からの光を測定部材10に照射し、測定部材10を透過してきた光を受光するように分光器30を配置し、透過光の分光強度を検出するよう変形することも可能である。
【0062】
制御装置50は、オペレータから検出動作の実行の入力を受け付けて、分子間相互作用測定装置100への検出動作制御の実行指令を出力する。これにより、制御装置50は、制御部として機能する。
【0063】
また、制御装置50は演算部としても機能する。制御装置50は、分光器30から測定光の分光強度のデータを取得し、波長帯域ごとに、測定光の分光強度を基準となる白色光の分光強度で除して反射率を算出する。基準光の分光強度データは、あらかじめ装置組み立て調整時に測定して保有していたものでもよいし、その他の手段によりたとえば測定の都度取得したものでもよい。算出された反射率に基づき反射スペクトルが作成され、反射率極小波長(λ)が決定される。また、ある基準となる反射率極小波長(ベースライン)に対する、測定された反射率極小波長の変化量(Δλ)を取得することもできる。
【0064】
反射スペクトルの波形は、通常、微小な凹凸が繰り返されるような不規則な形状を呈しており、反射率極小波長を算出・特定するのが困難な状態となっている場合があるが、たとえば、公知の手法を用いて反射スペクトルを高次関数で近似することにより波形を滑らかにし、高次多項式からその解(最小値)を求めて、これを反射率極小波長の値として特定することができる。
【0065】
白色光源20や分光器30、および、後述する温度調節手段等を制御装置50で直接制御することも可能であるが、分子間相互作用測定装置100内に、制御装置50からの指示により、白色光源20、分光器30、温度調節手段等の各部の動作を制御するためのマイコンを含む制御部(図示せず)を別途設けることが好ましい。この場合、マイコンは、制御装置50の制御指令に応じて白色光源20の点灯と消灯を切り換える制御を行ったり、制御装置50の設定温度指令に応じて温度制御部の温度制御を行ったりする。
【0066】
温度調節手段(図示せず)は、例えば、ペルチェ素子のような加温と冷却を行う温度調節素子と温度検出素子とを備え、これらは測定部材10に併設される。そして、制御装置50が、直接又はマイコンを通じて、温度検出素子から測定部材10の温度情報を取得し、温度調節素子による加温又は冷却によって、設定温度となるように直接またはマイコンを通じて温度制御を実行する。
【0067】
検出を行う際には予め測定部材10の暖気が行われる。即ち、制御装置50は、予め定めた設定温度となるように温度制御部を制御するか、又は、予め定めた設定温度となるようにマイコンに指令を送り、マイコンは温度制御部の温度制御を実行する。暖気により測定部材10の温度が安定してから、分析を始める。
【0068】
制御装置50は、測定を継続するか判定を行い、継続しない場合には処理を終了する。かかる判定は、例えば、予め測定時間が設定され、当該測定時間が経過したか否かを判定してもよいし、測定の終了の入力を受けるまで測定を継続する設定として、測定終了の入力の有無を判定してもよい。測定を継続する場合には、再び、分光強度の測定が実行される。測定を繰り返すことにより、制御装置50は、周期的に反射率の算出、反射スペクトルの作成および反射率極小波長の決定を行い、その時系列的な変化を記録する。
【0069】
(シグナルの観測)
本発明に係る分子間相互作用測定方法は、リガンド担持荷電微粒子とアナライトとを媒質中で(つまりホモジニアス系で)接触させてリガンド担持荷電微粒子−アナライト複合体を形成させる工程(以下「複合体形成工程」と称する。)、および前述したようなイオン性官能基修飾センサーチップに形成されている荷電層に、リガンド担持荷電微粒子−アナライト複合体を接触させ、それらの間に分子間相互作用が働くことにより現れるシグナルを観測する工程(以下「複合体接触工程」を称する。)を含むものであり、これらの工程を通じてシグナルを観測し、アナライトを検出する。
【0070】
・アナライト
アナライトは、リガンドと特異的に結合する物質である。たとえば、タンパク質(ポリペプチド、オリゴペプチド等を含む),核酸(DNA、RNA、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、PNA(ペプチド核酸)等を含む),脂質,糖などの生体分子や、薬剤物質,内分泌錯乱化学物質などの生体分子と結合する外来物質、その他の生体関連物質などがアナライトとなり得る。がんの診断等において重要な指標となる、血液中に存在する腫瘍マーカー(たとえばα−フェトプロテイン)は、重要なアナライトの一例である。アナライトは、あらかじめ特定の物質(たとえばビオチン)で修飾しておくこともできる。このような修飾されたアナライトに対しては、前記特定の物質と特異的に結合する物質(たとえばアビジン)をリガンドとして用いればよい。
【0071】
また、このようなアナライトを含む、または含んでいる可能性のある物質として、一般的に、生体から採取した検体が用いられる。検体としては、たとえば、ヒトおよびヒト以外の動物(たとえばほ乳類)から採取される血液(血清・血漿)、尿、鼻孔液、唾液、便、体腔液(髄液、腹水、胸水等)などが挙げられる。このような検体は、必要に応じて、アナライト以外の不純物を除去するための精製処理をした上で用いてもよい。
【0072】
・複合体形成工程
リガンド担持荷電微粒子とアナライトとを媒質中で反応させ、リガンド担持荷電微粒子−アナライト複合体を形成させるためには、一般的には、リガンド担持荷電微粒子を含有する媒質(以下「リガンド担持荷電微粒子溶液」と称する。)と、アナライトを含有する媒質(以下「アナライト溶液」と称する。)とを混合すればよい。
【0073】
これらの「媒質」としては、たとえば分子間相互作用測定方法において汎用されている水を用いること、つまりリガンド担持荷電微粒子またはアナライトの水溶液を調製することが好適である。この場合の水は、純水の他、緩衝液(たとえばリン酸緩衝液生理食塩水)や、その他の必要な試薬等の水溶液であってもよい。リガンド担持荷電微粒子およびアナライトの複合体の形成や、この後に行われる当該複合体とセンサーチップの荷電層との分子間相互作用を妨げずに、所定の測定を適切に行うことが可能な媒質であれば、水以外の媒質を用いることも可能である。
【0074】
リガンド担持荷電微粒子溶液およびアナライト溶液それぞれの濃度および混合量は、相対的に適切な範囲に調整することができる。通常、アナライト溶液中に含まれる全てのアナライトを検出ないし定量するようにするため、少なくとも全てのアナライトが複合体を形成するのに十分な量のリガンド担持荷電微粒子が反応液中に存在することとなるよう、リガンド担持荷電微粒子溶液およびアナライト溶液それぞれの濃度および混合量を調整することとなる。
【0075】
なお、リガンド担持荷電微粒子溶液の調製には、リガンド担持荷電微粒子を作製するための反応液を利用することができる。リガンド担持荷電微粒子を作製する際の原料溶液を調整することにより、生成するリガンド担持荷電微粒子の量を調整し、複合体形成工程で用いるリガンド担持荷電微粒子溶液の濃度を調整することも可能である。
【0076】
また、実際に検体中のアナライトを測定する場合など、通常はアナライト溶液の濃度は未知なので、事前に別途サンプルを用いて、アナライト溶液の濃度の範囲を予想しておくことが好ましい。
【0077】
また、複合体形成工程においては、リガンド担持荷電微粒子−アナライト複合体の形成を促進するために、撹拌などの手段を組み合わせて用いてもよい。
・複合体接触工程
リガンド担持荷電微粒子−アナライト複合体(以下単に「複合体」と称することもある。)は、通常、当該複合体を含む媒質(以下「試料溶液」と称することもある。)を調製し、当該媒質を介して荷電層に接触させるようにする。
【0078】
リガンド担持荷電微粒子−アナライト複合体を含む「媒質」は、上記リガンド担持荷電微粒子を含有する「媒質」やアナライトを含有する「媒質」と同様のものを用いることができる。
【0079】
試料溶液は、前述した複合体形成工程において複合体を形成させた反応液をそのまま用いたものであってもよいし、必要に応じて当該反応液を精製したり、必要な試薬類を添加したり、その他の処理をしたものであってもよい。このような試料溶液中には通常、リガンド担持荷電微粒子−アナライト複合体と、リガンド担持荷電微粒子そのもの(アナライトと複合体を形成していない未反応物)との両方が含まれており、これら両方が荷電層により捕捉され、共に光学的薄膜を形成することになる。
【0080】
上記のような複合体接触工程の前後にわたって、望ましくは当該工程の開始前、途中および終了後にわたって連続的に、所定の測定値を取得して、シグナル(すなわち測定値の変化)を観測することにより、リガンド担持荷電微粒子−アナライト複合体(すなわちアナライトそのもの)を定量することができる。一定時間経過後、測定値がそれ以上変動しなくなる、ないし変動が十分に小さくなると見込まれるようになった時点をもって、当該工程を終了させることができると判断することが適切である。
【0081】
たとえば、RIfSであれば、反射光の分光反射率の極小値(λ)を測定値として取得する。さらに、複合体接触工程の開始前の測定値(λ1)および当該工程の終了後の測定値(λ1’)の絶対値の差として、測定値の変化量(Δλ1)を算出することができる(通常、λ1<λ1’であり、Δλ1=λ1’−λ1である)。このようなΔλ1は、荷電層に捕捉されたリガンド担持荷電微粒子−アナライト複合体および未反応のリガンド担持荷電微粒子の両方により形成される光学的薄膜の平均的な膜厚を反映している。
【0082】
ある試料溶液に含まれるアナライトの量は、その試料溶液についてのΔλ1を、濃度が既知の試料を用いて取得した基準値と対比することにより定量的に評価することもできるし、他の試料溶液についてのΔλ1と対比することにより相対的に評価することもできる。
【0083】
たとえば、前述した複合体形成工程と同様の手順において、リガンド担持荷電微粒子に対して、少なくとも二つの所定の基準量(濃度)のアナライトを添加して得られた反応液を利用することにより、アナライトの量と測定値(ないし測定値の変化量)との関係性、より具体的には関係式を取得することができる。この際、上記この基準量の一つをゼロとする、すなわちアナライトを全く添加せずに得られた反応液を調製することが好ましい。アナライトの基準量がゼロの場合、リガンド担持荷電微粒子−アナライト複合体を全く含有せず、リガンド担持荷電微粒子のみを含有する試験液が得られる。この試験液をセンサーチップに接触させると、荷電層の表層にはリガンド担持荷電微粒子のみからなる光学的薄膜が形成される。一方、アナライトの基準量がゼロ以外の場合、その基準量に応じて、一部のリガンド担持荷電微粒子はアナライトと複合体を形成し、残部のリガンド担持荷電微粒子は未反応のまま残存している試験液が得られる。この試験液をセンサーチップに接触させると、荷電層の表層にはリガンド担持荷電微粒子−アナライト複合体とリガンド担持荷電微粒子の両方からなる光学的薄膜が形成される。このとき、前者の高さと後者の高さには差があるので、前者と後者の存在割合により、形成される光学的薄膜の全体的な厚さ、すなわち測定されるλ1に差が生じることになる。また、もしもアナライトの基準量がリガンド担持荷電微粒子に対して過剰である場合は、実質的に未反応のリガンド担持荷電微粒子を全く含有せず、リガンド担持荷電微粒子−アナライト複合体のみを含有する試験液が得られる。このような試験液から取得できる関係式に基づき、ある試料溶液中についての測定値(ないし測定値の変化量)から、その試料溶液中のアナライトの量(濃度)を推定することができる。
【0084】
また、上記のようなRIfSにおける測定値に代えて、QCMにおける測定値を用いても、同様にアナライトを検出することができる。QCMにおいては共振周波数を測定し、センサーチップ表面にリガンド担持荷電微粒子−アナライト複合体および/または未反応のリガンド担持荷電微粒子が捕捉されるとその変化を観測することができる。
【実施例】
【0085】
以下の実施例において、RIfS方式の分子間相互作用測定装置としては「MI−Affinity」(登録商標、コニカミノルタオプト株式会社)を使用し、無修飾のセンサーチップおよびフローセルとしては、上記「MI−Affinity」専用のセンサーチップ(基板:シリコンウェハ、光学薄膜:窒化シリコン)およびフローセル(PDMS製、幅2.5mm×長さ16mm×深さ0.1mmの溝及びこの溝の両末端にそれぞれ直径1mmの貫通口を有する。)を使用し、シリンジポンプとしては「Econoflo Syringe Pump 70−2205」(Harvard Apparatus製)を使用した。
【0086】
[作製例1]カチオン性修飾センサーチップ
カチオン性水性ポリウレタン樹脂「ハイドラン CP−7610」(DIC株式会社製、体積平均粒径8nm)を水で希釈し、濃度1wt%の塗布液を調製した。この塗布液を、スピンコーター(回転数:3000rpm)を用いて、無修飾のセンサーチップの表面に塗布した。塗布後70℃で30分間乾燥して、上記カチオン性ポリウレタンからなる被膜が形成された、カチオン性修飾センサーチップを作製した。このカチオン性修飾センサーチップ表面の原子間力顕微鏡(AFM)像を図2に示す。
【0087】
[作製例2−1]リガンド担持荷電微粒子(SiO2
SiO2微粒子として、「スノーテックスXS」(日産化学社工業社製、体積平均粒径5nm)を用いた。また、リガンドとして、抗αフェトプロテイン〔AFP〕マウスモノクローナル抗体(clone:1D5;ミクリ免疫研究所(株))を用いた。「スノーテックスXS」の5%溶液を10mL採取し、5−カルボキシ−ペンチルトリエトキシシランを0.5mL加えて3時間室温で反応させた。更に、25mM MES(2−モルホリノエタンスルホン酸)バッファー(pH5.5)1mL、100当量の1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC:(株)同人化学研究所製)およびN−ヒドロキシコハク酸イミド(NHS:Thermo Scientific社製)を加え、カルボキシル基を活性化させた。AFP抗体1D5を1mL添加し、室温で30分間反応させて1D5を微粒子に反応させた。スピンカラムを利用して未反応の抗体を除去した。
【0088】
[作製例2−2]リガンド担持荷電微粒子(アニオン性ポリマー)
アニオン性ポリマー微粒子として、「ハイドランWLS 202」(DIC株式会社製)を用いた。また、リガンドとして、抗αフェトプロテイン〔AFP〕マウスモノクローナル抗体(clone:1D5;ミクリ免疫研究所(株))を用いた。「ハイドランWLS 202」の10%溶液を20mL採取し、25mM MES(2−モルホリノエタンスルホン酸)バッファー(pH5.5)1.5mL、100当量の1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC:(株)同人化学研究所製)およびN−ヒドロキシコハク酸イミド(NHS:Thermo Scientific社製)を加え、カルボキシル基を活性化させた。上記溶液に1mg/mLのAFP抗体1D5を1mL添加し、室温で30分間反応させて1D5を微粒子に反応させた。スピンカラムを利用して未反応の抗体を除去した。
【0089】
[実施例1]
(測定準備工程)
RIfS方式の分子間相互作用測定装置「MI−Affinity」の電源を入れて光源が安定するまで約20分間待機した。
【0090】
作製例1で作製したイオン性(カチオン)被膜センサーチップにフローセルを積載して、密閉流路が形成された測定部材を構築した。この測定部材を上記測定装置にセットし、シリンジポンプにより、液体を測定装置外部から密閉流路に送液してセンサーチップ表面に接触させることが可能な状態にした。
【0091】
(複合体形成工程)
作製例2−1で作製したリガンド担持荷電微粒子(SiO2)を1重量%の濃度で含有する水溶液と、アナライトとしてα−フェトプロテイン(AFP)(AcrisAntibodiesGmbH製)を1μg/mL、10μg/ml、100μg/mlの濃度で含有するPBS(pH7.4;ナカライテスク(株)製)溶液とを混合し、リガンド担持荷電微粒子−アナライト複合体を形成させた。
【0092】
(複合体接触工程)
上記複合体形成工程により得られた反応液を、前記シリンジポンプにより20μL/minの送液速度で10分間(計200μL)、測定部材の密閉流路に導入し、荷電層が形成されたセンサーチップの表面に接触させた。測定値を表1に示す。下記表の結果からAFPのアッセイが定量的にかつ高感度で行われていることが分かる。
【0093】
【表1】

[実施例2]
前記複合体形成工程において、作製例2−1で作製したリガンド担持荷電微粒子(SiO2)を含有する水溶液に代えて、作製例2−2で作製したリガンド担持荷電微粒子(アニオン性ポリマー)を含有する水溶液を使用したこと以外は、実施例1と同様の手順で測定を行った。測定値を表2に示す。下記表の結果からAFPのアッセイが定量的にかつ高感度で行われていることが分かる。
【0094】
【表2】

【符号の説明】
【0095】
1 測定システム
10 測定部材
12 センサーチップ
12a 基板
12b 光学薄膜
12c 荷電層
14 フローセル
14a 溝
14b 密閉流路
14c 流入口
14d 流出口
20 白色光源
30 分光器
40 光伝達部
41 第一の光ファイバ
42 第二の光ファイバ
50 制御装置
60 媒質
62 リガンド担持荷電微粒子−アナライト複合体
100 分子間相互作用測定装置
200 測定部位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正または負に荷電した荷電微粒子およびそれに結合したリガンドにより構成されることを特徴とする、リガンド担持荷電微粒子。
【請求項2】
前記荷電微粒子が、SiO2、TiO2、イオン性ポリマー、またはリガンドを固定可能な金属からなるものである、請求項1に記載のリガンド担持荷電微粒子。
【請求項3】
表層に正または負に荷電した荷電層を備えるセンサーチップを使用する分子間相互作用測定方法であって、
当該荷電層とは逆に荷電した、請求項1または2に記載のリガンド担持荷電微粒子と、アナライトとを媒質中で反応させ、リガンド担持荷電微粒子−アナライト複合体を形成させる工程、および
前記リガンド担持荷電微粒子−アナライト複合体を含む媒質を前記荷電層の表面に接触させ、分子間相互作用が働くことにより現れるシグナルを観測する工程を含むことを特徴とする、分子間相互作用測定方法。
【請求項4】
前記荷電層がイオン性ポリマーからなる層である、請求項3に記載の分子間相互作用測定方法。
【請求項5】
前記イオン性ポリマーがカチオン性官能基を有するポリマーである、請求項3または4に記載の分子間相互作用測定方法。
【請求項6】
前記荷電層の表面電荷密度が50〜200mC/m2の範囲にある、請求項3〜5のいずれか一項に記載の分子間相互作用測定方法。
【請求項7】
前記荷電層の表面の算術平均粗さが1〜50nmの範囲にある、請求項3〜6のいずれか一項に記載の分子間相互作用測定方法。
【請求項8】
前記センサーチップがRIfS用またはQCM用である、請求項3〜7のいずれか一項に記載のセンサーチップ。

【図1】
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【図2】
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