説明

イオン感応膜およびイオン分析方法

【課題】本発明の目的は、実質的に溶媒を含まないイオン感応膜を提供することにある。
【解決手段】本発明のイオン感応膜は、0.1質量%以上の濃度で存在するイオンを定量するためのものであって、担体とイオン液体とからなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン液体を用いたイオン感応膜およびイオン分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、廃水中等のイオン濃度を定量するために、種々のイオン分析方法が用いられてきた。たとえば、被測定イオンを含むイオン感応膜を用いた電気化学測定装置により、ポテンショメトリー法やボルタンメトリー法等に基づいてイオン濃度を定量するイオン分析方法が知られている。このような用途に用いられるイオン感応膜は、イオンセンサとも呼ばれ、種々のものが知られている(特許文献1〜2および非特許文献1〜2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2008−517262号公報
【特許文献2】特開2009−103518号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】M. Cuartero、他3名、“Response of an ion-selective electrode to butylmethylimidazolium and other ionic liquid cations. Applications in toxicological and bioremediation studies”、Electrochimica Acta、2010年、55巻、5598−5603頁
【非特許文献2】Bo Peng、他3名、“Potentiometric response of ion-selective membranes with ionic liquids as ion-exchanger and plasticizer”、Sensors and Actuators B、2008年、133巻、308−314頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の従来のイオン感応膜は、通常、被測定イオンと溶媒(または可塑剤、以下単に「溶媒」という)と担体(または固定化剤、以下単に「担体」という)との3成分により構成されていた。これは、イオン濃度を定量する場合、定量対象となる被測定イオンをイオン感応膜中に担持することが必要となるが、この被測定イオンを含む塩は固体であることが多く、このためこの塩を溶解する溶媒の使用が必須であると考えられていたためである。また、担体としては、一般に有機高分子物質が用いられることから、溶媒としては種々の有機化合物が用いられてきた。
【0006】
このような溶媒は、一般的に揮発しやすく、高温ではイオン感応膜が安定して作動しないという問題があった。また、揮発しにくい溶媒を用いる場合であっても、溶媒には通常不純物が含まれているため、たとえその不純物の量が少量である場合でさえ、その存在がイオン濃度の定量に悪影響を及ぼすことが懸念されていた。
【0007】
また、イオン感応膜に含まれる被測定イオンとしてイオン液体を用いる提案もされているが(非特許文献1)、上記の通り溶媒(可塑剤)の併用を前提としており、また定量目的のイオン濃度も、理論的な裏づけを得ることおよび微量でも検出できることという観点から、一般的に理論応答が得られやすいとされる0.1質量%未満程度の濃度領域のみを対象としていた。しかも、このような濃度領域でさえも、イオン液体を用いたイオン感応膜は、イオンを十分に定量することができず、以ってこのようなイオンの定量にイオン液体を用いることは適さないと考えられていた。
【0008】
このように、従来のイオン感応膜およびイオン分析方法は、イオン液体を好適に用いた例はなく、また溶媒を併用しない構成についても全く検討されていないばかりか、実用上必要とされる0.1質量%以上の濃度領域のイオンを定量することも何等検討されていなかった。
【0009】
本発明は、このような状況に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、実質的に溶媒を含まないイオン感応膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、イオン感応膜に含まれる被測定イオンとしてイオン液体の使用に着目し、イオン液体は室温でも液体の性状を示すことから、このイオン液体を用いれば従来の溶媒としての機能とイオン伝導およびイオン感応としての機能とを兼備できるのではないかとの知見の下、さらに鋭意検討を重ねることにより、本発明を完成させたものである。
【0011】
すなわち、本発明のイオン感応膜は、0.1質量%以上の濃度で存在するイオンを定量するためのものであって、担体とイオン液体とからなることを特徴とする。ここで、該イオン液体は、50〜70体積%含まれることが好ましい。
【0012】
また、本発明は、上記のイオン感応膜を用いて、0.1質量%以上の濃度で存在するイオンを定量する、イオン分析方法にも係わる。
【発明の効果】
【0013】
本発明のイオン感応膜は、実質的に溶媒を含まないことから、溶媒を含むことにより懸念された種々の問題点を解消したものである。すなわち、本発明のイオン感応膜は、イオン濃度の定量において極めて高度な安定性と再現性とを有するという特徴を有する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のイオン感応膜を用いた電気化学測定装置の概略断面図である。
【図2】イオン液体を50質量%含むイオン感応膜を用いた分析結果を示すグラフである。
【図3】イオン液体を70質量%含むイオン感応膜を用いた分析結果を示すグラフである。
【図4】上記とは異なったイオン液体を50質量%含むイオン感応膜を用いた分析結果を示すグラフである。
【図5】上記とは異なったイオン液体を50質量%含むイオン感応膜を用いた分析結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。なお、以下の実施の形態の説明では、図面を用いて説明しているが、本願の図面において同一の参照符号を付したものは、同一部分または相当部分を示している。
【0016】
<イオン感応膜>
本発明のイオン感応膜は、0.1質量%以上の濃度で存在するイオンを定量することを目的とするものである。従来のイオン感応膜は、理論の検証が得られ易いという観点から0.1質量%未満の濃度で存在するイオンを定量することが検討されていたが、本発明ではその濃度領域を0.1質量%以上という実用的な範囲としたことにより、各種の産業分野において極めて広範囲な利用が可能となった。
【0017】
このような本発明のイオン感応膜は、担体とイオン液体とからなることを特徴とする。ここで、本発明において「担体とイオン液体とからなる」とは、実質的に担体とイオン液体との2成分のみからなることを意味するが、原材料や製造工程等において混入する不可避不純物の存在を排除するものではない。本発明のイオン感応膜は、このように担体とイオン液体との2成分のみからなるものであり、溶媒を含まないことから従来のイオン感応膜とは全く異なった新規な構成を有するものである。このため、本発明のイオン感応膜は、従来のイオン感応膜のように溶媒が含まれることにより問題とされた点を悉く解決することに成功し、極めて再現性高く作動するものである。
【0018】
したがって、本発明のイオン感応膜は、このように溶媒を含まないことから、高温において溶媒が揮発するという問題が存在せず、以ってそのような高温においても安定して作動することが可能である。また、本発明のイオン感応膜は、溶媒に含まれる不純物による影響を受けることもないため、この点からも極めて安定して作動するものである。このように本発明のイオン感応膜は、極めて高い安定性と再現性をもってイオン濃度を定量することができるという特徴を有する。
【0019】
このように本発明のイオン感応膜は、比較的高濃度に存在する測定対象の特定イオン成分の濃度を簡便に定量評価することができる。本発明のイオン感応膜によるこのような定量評価は、通常、ポテンショメトリー法に基づいて行なわれる。ここで、ポテンショメトリー法とは、本発明のイオン感応膜が用いられる測定電極と基準電極との電圧を計測し、その電圧が測定対象のイオンの濃度に依存して変化することを利用して、測定対象のイオンの濃度を定量する方法である。このため、測定対象となるイオンは、イオン感応膜に対して選択的応答性を示すものであり、通常イオン液体を構成する陽イオンまたは陰イオンが測定対象イオンとなる。
【0020】
なお、本発明のイオン感応膜は、上記のように比較的高濃度で存在するイオンを定量するものであり、そのイオン濃度の上限は特に限定されないが、極端に高濃度では測定対象のイオン状態が低濃度での状態とは著しく異なり、測定精度を保証することが難しくなるという観点から、そのイオン濃度の上限は20質量%とすることが好ましい。
【0021】
このような本発明のイオン感応膜は、担体とイオン液体とから構成されるというように非常にシンプルな構造を有することにより、構成要素に起因する劣化要因も低減されることになるため、測定対象のイオンの濃度の定量において極めて高度な安定性と再現性とを有する。また、本発明のイオン感応膜は、上記の通り、溶媒を含まないことから測定溶液の液温が40℃以上という比較的高温領域における分析が可能である。さらに、本発明のイオン感応膜は、シンプルな構造であるため、製造工程が簡略化されるとともに、製造コストも低減できるというメリットを有する。
【0022】
したがって、本発明のイオン感応膜は、使用するイオン液体を適宜選択することにより、所望の各種イオンを定量することができるため、工業プロセス、食品、医療、環境測定等、様々な分野での利用が可能である。特に、一般に入手容易なイオン液体との関係から、有機系化合物イオンの定量に有用である。より具体的には、近年開発が進められている各種有機系めっき液中の成分濃度の測定、有機系添加剤を含む溶液を用いる各種プロセスから外部へ排出される廃水中の微量有機成分の簡易定量、等に有効である。特に、めっき液では、迅速かつ簡便にスキルレスで測定対象イオンを計測できることから、現場でのモニタリング分析などに実用的である。また、各種の液体を使用するプロセスを管理するインライン分析装置の検出部に用いることができる。
【0023】
なお、このようなイオン感応膜の形状は特に限定されるものではないが、その厚みを0.1〜1.0mmとすることが好ましい。0.1mm未満では、イオン感応膜の物理的強度が不足し、損傷により内部液が漏れ出すなど、取扱いが困難となる場合があり、また1.0mmを超えると、イオン感応膜の電気的抵抗が大きくなり、計測の精度低下を引き起こす可能性がある。
【0024】
<担体>
本発明のイオン感応膜を構成する担体とは、イオン液体を担持する作用を有するものであり、通常有機高分子物質が用いられるが、これのみに限定されるものではない。
【0025】
このような有機高分子物質としては、熱可塑性のものであってもよいし、熱硬化性のものであってもよい。ただし、有機高分子物質が導電性の場合には、その導電性を付与している成分がイオンセンサの応答(電圧)に影響する可能性が考えられるため、応答が被測定イオン濃度によって一意に決まるようにするという観点から、導電性有機高分子物質ではなく非導電性有機高分子物質を採用することが好ましい。
【0026】
このような有機高分子物質としては、たとえば、ポリ塩化ビニル等を挙げることができるが、これのみに限定されるものではない。
【0027】
このような担体は、イオン感応膜中に30〜50体積%含まれることが好ましい。
<イオン液体>
本発明のイオン感応膜を構成するイオン液体とは、室温(20℃)でも液体で存在する「塩」をいう。本発明のイオン液体は、この特徴を有する限り、化学組成は特に限定されない。
【0028】
「塩」は、たとえば食塩に代表されるように通常室温で固体であるが、この「塩」を構成するイオンを比較的サイズの大きな有機イオンとすることにより、融点が低下し、室温付近で液体状態となり、イオン液体となる。このようなイオン液体は、イオン性液体と呼ばれることもある。
【0029】
このようなイオン液体は、たとえばそれを構成する陽イオンとしてピリジン系、脂環族アミン系、脂肪族アミン系等の種々の陽イオンに対して、これに組み合わせる陰イオンの種類を選択することにより、極めて多様なイオン液体を構成することができる。このような陽イオンの具体例としては、各種イミダゾリウムや各種ピリジニウム等の有機窒素系陽イオン、各種ホスホニウム等の有機リン系陽イオン、各種無機系陽イオン等を挙げることができ、陰イオンの具体例としては、各種臭化物イオンや各種フッ化物イオン等のハロゲン系陰イオン、テトラフェニルボレート等のホウ素系陰イオン、ヘキサフルオロホスフェート等のリン系陰イオン等を挙げることができる。
【0030】
このようなイオン液体としては、より具体的には、たとえば1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロほう酸塩、1−ブチルピリジニウムテトラフルオロほう酸塩、1−ブチル−1−メチルピロリジニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスファート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロほう酸塩、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホナート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロ(トリフルオロメチル)ボラート、1,3−ジメチルイミダゾリウムジメチルホスファート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムジシアナミド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムエチルスルファート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスファート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムメタンスルホナート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム2−(2−メトキシエトキシ)エチルスルファート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホナート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロ(トリフルオロメチル)ボラート、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスファート、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボラート、1−メチル−3−n−オクチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスファート、1−メチル−1−プロピルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1−エチル−3−(ヒドロキシメチル)ピリジニウムエチルスルファート、1−エチル−3−メチルピリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1−エチル−3−メチルピリジニウムエチルスルファート、トリエチルペンチルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、メチルトリ−n−オクチルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、トリブチル(2−メトキシエチル)ホスホニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、トリブチルメチルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、トリブチルメチルホスホニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、トリエチルスルホニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド等を挙げることができる。
【0031】
本発明のイオン感応膜は、このようなイオン液体を50〜70体積%含むことが好ましい。イオン液体の含有比が50体積%未満の場合、測定対象のイオン濃度と測定電圧とが相関せず、以ってイオン濃度を定量することができなくなる場合がある。この点、イオン液体の含有比を50体積%以上とすることにより測定対象のイオン濃度と測定電圧との相関が良好となるため、イオン液体の含有比の上限を特に規定する必要はないが、その含有比が70体積%を超えると、イオン液体が十分に担体中に担持されず、測定溶液中に溶出することがある。
【0032】
<イオン感応膜の製造方法>
本発明のイオン感応膜の製造方法は、特に限定されるものではないが、たとえば、担体とイオン液体とを揮発性の有機溶媒中に均一に分散し、その後有機溶媒を揮発させることにより、担体とイオン液体とが均質に混合したイオン感応膜を得ることができる。
【0033】
なお、イオン感応膜中における担体とイオン液体との含有比は、この製造時における担体とイオン液体との配合割合(体積比)に依存するが、アルキメデス法などの方法で計測したイオン感応膜の体積に基づいて、配合したイオン液体の体積を配合時の容量、もしくは重量を密度で換算するといった方法により特定することによって、イオン感応膜中における担体とイオン液体との含有比を求めることができる。
【0034】
<イオン分析方法>
本発明は、上記のイオン感応膜を用いて、0.1質量%以上の濃度で存在するイオンを定量するイオン分析方法にも係わる。このようなイオン分析方法は、たとえば図1に示した電気化学測定装置40を用いることにより実行することができる。
【0035】
このような電気化学測定装置40は、測定電極1と基準電極2とを電圧計3を挟んでリード線31により接続した構造を有する。測定電極1は、シース14の先端部分にイオン感応膜11が取り付けられており、シース14内に内部電極12と内部液13とが充填されている。内部電極12は、内部液13に対して非分極性応答を示すものであれば従来公知の電極を特に限定することなく用いることができ、たとえば銀塩化銀電極(銀を塩化銀で被覆した構造を有する)等を用いることができる。内部液13は、イオン感応膜11と内部電極12とを電気的に接続する作用を有し、規定濃度の塩化カリウム水溶液等を用いることができる。なお、シース14としては、ガラス管等が用いられるが、その先端部分に塩化ビニル製のチューブ(図示せず)等を備えることにより、それでイオン感応膜11を取り付けるような構造となっていてもよい。また、基準電極2は、シース24の先端部分に液絡部21が設けられており、そのシース24内に内部電極22と内部液23とが充填されている。内部電極22、内部液23、およびシース24は、それぞれ測定電極1と同様のものを用いることができ、また液絡部21は多孔質ガラス等で構成することができる。
【0036】
そして、測定対象液32中に、測定電極1と基準電極2とを浸漬させ、電圧計3により電圧を測定することにより、測定対象液32中の測定対象イオンの濃度を定量することができる。なお、通常この定量に際しては、既知濃度の測定対象イオンを予め測定しておき、その検量線から測定対象イオンの濃度を定量することができる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0038】
<実施例1>
担体としてポリ塩化ビニル(和光純薬工業(株)製、分子量:約1100)50体積%と、イオン液体として1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロほう酸塩(和光純薬工業(株)製)50体積%とを200体積%のテトラヒドロフラン中に均一に分散させた後、テトラヒドロフランを揮発させることにより、イオン液体を50体積%含む、担体とイオン液体とからなる本発明のイオン感応膜を得た。
【0039】
このイオン感応膜を厚み1.0mm、直径3.0mmの形状にカットし、図1に示されるような電気化学測定装置(電極として銀塩化銀電極(商品名:「RE−1B水系参照電極」、ビー・エー・エス(株)製)を用いた電位差測定装置(エレクトロメータ)(商品名:「6514J」、ケースレーインスツルメンツ(株)製))の測定電極に取り付けた。そして、測定対象イオンとして1−エチル−3−メチルイミダゾリウムイオン(EMIイオン)を0.1質量%、1質量%、5質量%、および10質量%の濃度でそれぞれ含む各測定対象液(1−エチル−3−メチルイミダゾリウムクロリド(和光純薬工業(株)製)の液温25℃の水溶液)について、この電気化学測定装置により基準電極と測定電極間の電圧を計測したところ、図2に示すような結果が得られた。なお、図2は、各濃度毎に3回計測し、その平均値(0.1質量%の電圧37.6mV、1質量%の電圧23.9mV、5質量%の電圧20.1mV、10質量%の電圧18.6mV)をプロットしたものである。図中の「R2」は、最小二乗法による相関係数を示しており、数値が1に近付く程相関が高いことを示す。
【0040】
図2に示すように、測定対象イオンの濃度と電圧(基準電極に対する指示値)とは、良好な相関関係を示した。よって、このイオン感応膜が、0.1質量%以上の濃度で存在する測定対象イオンを極めて高い安定性および再現性をもって定量することができることを確認することができた。
【0041】
<実施例2>
担体としてポリ塩化ビニル(実施例1と同じ)30体積%と、イオン液体として1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロほう酸塩(実施例1と同じ)70体積%とを200体積%のテトラヒドロフラン中に均一に分散させた後、テトラヒドロフランを揮発させることにより、イオン液体を70体積%含む、担体とイオン液体とからなる本発明のイオン感応膜を得た。
【0042】
このようにして得られたイオン感応膜を用いて、実施例1と同様にして、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムイオン(EMIイオン)の濃度と計測電圧との関係を求め、その結果を図3に示す。
【0043】
図3に示すように、測定対象イオンの濃度と電圧(基準電極に対する指示値)とは、良好な相関関係を示した。よって、このイオン感応膜が、0.1質量%以上の濃度で存在する測定対象イオンを極めて高い安定性および再現性をもって定量することができることを確認することができた。
【0044】
<実施例3>
担体としてポリ塩化ビニル(実施例1と同じ)50体積%と、イオン液体として1−ブチルピリジニウムテトラフルオロほう酸塩(和光純薬工業(株)製)50体積%とを200体積%のテトラヒドロフラン中に均一に分散させた後、テトラヒドロフランを揮発させることにより、イオン液体を50体積%含む、担体とイオン液体とからなる本発明のイオン感応膜を得た。
【0045】
このようにして得られたイオン感応膜を用いて、測定対象イオンを1−ブチルピリジニウムイオン(BPイオン)とし、実施例1と同様にして、その測定対象イオン(ただし測定対象液としては1−ブチルピリジニウムクロリド(和光純薬工業(株)製)の液温25℃の水溶液))の濃度(0.1質量%、1質量%、10質量%)と計測電圧との関係を求めた。その結果を図4に示す。
【0046】
図4に示すように、測定対象イオンの濃度と電圧(基準電極に対する指示値)とは、良好な相関関係を示した。よって、このイオン感応膜が、0.1質量%以上の濃度で存在する測定対象イオンを極めて高い安定性および再現性をもって定量することができることを確認することができた。
【0047】
<実施例4>
担体としてポリ塩化ビニル(実施例1と同じ)50体積%と、イオン液体として1−ブチル−1−メチルピロリジニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(和光純薬工業(株)製)50体積%とを200体積%のテトラヒドロフラン中に均一に分散させた後、テトラヒドロフランを揮発させることにより、イオン液体を50体積%含む、担体とイオン液体とからなる本発明のイオン感応膜を得た。
【0048】
このようにして得られたイオン感応膜を用いて、測定対象イオンを1−ブチル−1−メチルピロリジニウムイオン(BMPイオン)とし、実施例1と同様にして、その測定対象イオン(ただし測定対象液としては1−ブチル−1−メチルピロリジニウムクロリド(和光純薬工業(株)製)の液温25℃の水溶液)の濃度(0.1質量%、1質量%、10質量%)と計測電圧との関係を求めた。その結果を図5に示す。
【0049】
図5に示すように、測定対象イオンの濃度と電圧(基準電極に対する指示値)とは、良好な相関関係を示した。よって、このイオン感応膜が、0.1質量%以上の濃度で存在する測定対象イオンを極めて高い安定性および再現性をもって定量することができることを確認することができた。
【0050】
以上の実施例より明らかなように、担体とイオン液体とからなる本発明のイオン感応膜は、0.1質量%以上の濃度で存在するイオンを極めて高い安定性および再現性をもって好適に定量できることが分かった。
【0051】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0052】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0053】
1 測定電極、2 基準電極、3 電圧計、11 イオン感応膜、12 内部電極、13 内部液、14 シース、21 液絡部、22 内部電極、23 内部液、24 シース、31 リード線、32 測定対象液、40 電気化学測定装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.1質量%以上の濃度で存在するイオンを定量するためのイオン感応膜であって、
担体とイオン液体とからなることを特徴とするイオン感応膜。
【請求項2】
前記イオン液体は、50〜70体積%含まれる、請求項1記載のイオン感応膜。
【請求項3】
請求項1または2に記載のイオン感応膜を用いて、0.1質量%以上の濃度で存在するイオンを定量する、イオン分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−208041(P2012−208041A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−74714(P2011−74714)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)