説明

イオン発生装置および電気機器

【課題】正イオンおよび負イオンの双方を効率よく装置外部へ放出でき、かつ容易に小型化・薄型化を図ることができるイオン発生装置および電気機器を提供する。
【解決手段】イオン発生装置30は、正極電極対と負極電極対とを有している。この正極電極対における誘導電極1と負極電極対における誘導電極1とが互いに分離するように、正極電極対と負極電極対とが互いにスペースを挟んでケース21内に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン発生装置および電気機器に関し、特に、正イオン発生部と負イオン発生部とを配置したイオン発生装置およびそのイオン発生装置を備えた電気機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
放電現象を利用した多くのイオン発生装置が実用化されている。これらのイオン発生装置は通常、イオンを発生させるためのイオン発生素子と、イオン発生素子に高電圧を供給するための高圧トランスと、高圧トランスを駆動するための高電圧発生回路と、コネクタなどの電源入力部とにより構成されている。
【0003】
イオン発生素子で実用化されているものの一例としては、金属線、鋭角部を持った金属板、針形状の金属などを放電電極とし、大地電位の金属板やグリッドなどを誘導電極(対向電極)としたもの、あるいは誘導電極を大地として特に誘導電極を配置しないものである。この種類のイオン発生素子では、空気が絶縁体の役割を果たす。このイオン発生素子は、電極に高電圧を印加した際に、放電電極となる針形状などの鋭角部をした電極の先端で電界集中が生じ、その先端の極近部分の空気が絶縁破壊することで放電現象を得る方式である。
【0004】
この方式のイオン発生素子の1つの例として、たとえば特開平10−199653号公報に開示された装置がある。この公報には、針状金属を備えた放電電極とこの放電電極に対向して設けられた穴あき平板電極とを有し、コロナ放電に伴って発生する負イオンを装置の外部に取り出す装置が開示されている。
【0005】
また別の例として、たとえば特開平8−255668号公報に開示された装置がある。この公報には、正の放電電極と、負の放電電極と、それら両放電電極に隣接した接地電極とを有し、正イオンおよび負イオンの双方をファンでイオン生成装置の外部に放出する装置が記載されている。
【0006】
またさらに別の例として、たとえば特開2002-374670号公報に開示された装置がある。この公報には、イオン発生電極を放電電極として、誘導電極を配置しないタイプのイオン発生装置が開示されている。
【特許文献1】特開平10−199653号公報
【特許文献2】特開平8−255668号公報
【特許文献3】特開2002-374670号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
空気中に正イオンと負イオンとを略同等量発生させることにより、両イオンが空気中を浮遊するカビ菌やウィルスの周りを取り囲み、浮遊カビ菌などを除去することが可能となる。
【0008】
しかしながら、特開平10−199653号公報に開示された装置は負イオンのみを装置の外部に取り出そうとするものであり、正イオンと負イオンとの双方を装置の外部に取り出そうとするものではない。
【0009】
また特開平8−255668号公報に開示された装置では、正の放電電極と負の放電電極との間に両放電電極に共通な接地電極が配置されている。このため、両放電電極間の距離を大きくした場合、イオン生成装置の小型化が困難となる。また正の放電電極と負の放電電極とを近付けすぎた場合には、正イオンおよび負イオンが互いに中和、再結合しあうためにイオンを効率よく放出することができない。
【0010】
また特開2002-374670号公報に開示された装置は負イオンおよび正イオンのいずれか一方のみを発生させようとするものであり、正イオンと負イオンとの双方を発生させようとするものではない。
【0011】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、正イオンおよび負イオンの双方を効率よく装置外部へ放出でき、かつ容易に小型化・薄型化を図ることができるイオン発生装置および電気機器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一のイオン発生装置は、正イオン発生部と、負イオン発生部とを備えている。正イオン発生部は、正極放電電極と、その正極放電電極との間で正イオンを発生させるための第1誘導電極とを含んでいる。負イオン発生部は、負極放電電極と、その負極放電電極との間で負イオンを発生させるための第2誘導電極とを含んでいる。第1誘導電極と第2誘導電極とが互いに分離するように、正イオン発生部と負イオン発生部とが互いにスペースを挟んで配置されている。
【0013】
本発明の他のイオン発生装置は、正イオン発生部と、負イオン発生部とを備えている。正イオン発生部は、正極放電電極と、その正極放電電極との間で正イオンを発生させるための第1誘導電極とを含んでいる。負イオン発生部は、負極放電電極と、その負極放電電極との間で負イオンを発生させるための第2誘導電極とを含んでいる。第1誘導電極と第2誘導電極とを離間させて、正イオン発生部と負イオン発生部とが互いにスペースを挟んで配置されている。
【0014】
本発明のさらに他のイオン発生装置は、正イオン発生部と、負イオン発生部とを本体内に備えている。正イオン発生部は、正イオンを発生させるためのものであり、正極放電電極が放電可能に配置される第1誘導電極を含んでいる。負イオン発生部は、負イオンを発生させるためのものであり、負極放電電極が放電可能に配置される第2誘導電極を含んでいる。正イオン発生部と負イオン発生部は、夫々発生する正イオン及び負イオンで互いに中和しあうことを抑制するためのスペースを挟んで配置されている。
【0015】
本発明のさらに他のイオン発生装置は、正イオン発生部と、負イオン発生部とを本体内に備えている。正イオン発生部は、正イオンを発生させるためのものであり、正極放電電極が放電可能に配置されたものである。負イオン発生部は、負イオンを発生させるためのものであり、負極放電電極が放電可能に配置されたものである。正イオン発生部と負イオン発生部が、夫々発生する正イオン及び負イオンで互いに中和しあうことを抑制するためのスペースを挟んで配置されている。
【0016】
本発明の上記4つのイオン発生装置の各々によれば、正イオン発生部と負イオン発生部とが互いにスペースを挟んで配置されているため、正イオン発生部と負イオン発生部とを互いに離して配置することができる。これにより、正イオン発生部で生じる正イオンと負イオン発生部で生じる負イオンとが互いに中和しあうことを抑制することができ、正イオンおよび負イオンの双方を効率よく装置外部へ放出することが可能となる。
【0017】
また正イオン発生部と負イオン発生部とが互いにスペースを挟んで配置されているため、このスペースに他の回路などを配置することができる。このため、効率よく各構成部品を配置でき、装置の小型化・薄型化を図ることが容易となる。
【0018】
上記のイオン発生装置において好ましくは、正極放電電極と第1誘導電極との双方を保持する第1基板と、負極放電電極と第2誘導電極との双方を保持する第2基板とがさらに備えられている。第1基板と第2基板とが互いに分離するように、正イオン発生部と負イオン発生部とが互いに上記スペースを挟んで配置されている。
【0019】
このように第1基板と第2基板とが互いに分離し、かつ第1および第2誘導電極とが互いに分離しているため、正イオン発生部と負イオン発生部との間にスペースを作ることができる。
【0020】
上記のイオン発生装置において好ましくは、正イオン発生部と負イオン発生部との間の上記スペースに配置された部分を有する回路部がさらに備えられている。
【0021】
これにより、正イオン発生部と負イオン発生部との間の空いたスペースを有効活用することができ、装置の小型化・薄型化を図ることが容易となる。
【0022】
上記のイオン発生装置において好ましくは、回路部は、正イオン発生部および負イオン発生部の各々に電圧を印加するための高電圧発生回路を含んでおり、高電圧発生回路の少なくとも一部が正イオン発生部と負イオン発生部との間のスペースに配置されている。
【0023】
この高電圧発生回路からイオン発生部に延びる配線が長いと配線に大きな静電容量が生じて、イオン発生部に印加される電圧値が低くなる。しかし、上記のイオン発生装置によれば、高電圧発生回路が正イオン発生部と負イオン発生部との間のスペースに配置されるため、高電圧発生回路から正イオン発生部と負イオン発生部との各々に引き回す配線を短くできるとともに可能な限り同じ距離にすることができる。このため、正イオン発生部と負イオン発生部との各々に印加される電圧値の低下を抑制できるとともに、正イオン発生部と負イオン発生部との各々にほぼ同じ電圧を印加することができる。
【0024】
上記のイオン発生装置において好ましくは、正イオン発生部と負イオン発生部と回路部とを内部に配置されたケースがさらに備えられている。このケースは、正イオン発生部の配置領域を回路部の配置領域から仕切るための第1仕切り壁と、負イオン発生部の配置領域を正イオン発生部の配置領域および回路部の配置領域の各々から仕切るための第2仕切り壁とを有している。
【0025】
これにより、たとえば回路部の配置領域においては回路部の全体をモールドしながらも、正および負のイオン発生部の配置領域においては第1および第2仕切り壁により仕切られたイオン発生部をモールドせずにイオン発生部の裏面側をモールドすることができる。よって、イオン発生装置の高圧部分を効率よくモールドで絶縁分離することができるため、各部分を近づけて配置することが可能となり、イオン発生装置の小型化および薄型化が可能となる。
【0026】
上記のイオン発生装置において好ましくは、回路部は、高電圧発生回路に入力電圧を与えて駆動させるための電源回路を含んでいる。その電源回路に電気的に接続される電源入力コネクタがさらに備えられている。ケース内における電源回路の配置領域の少なくとも一部および電源入力コネクタは、正イオン発生部に対する上記スペースとは反対側および負イオン発生部に対する上記スペースとは反対側のいずれかに位置している。
【0027】
これにより、電源回路に電気的に接続される電源入力コネクタを正イオン発生部および負イオン発生部の双方の配置領域から離して配置することができる。このため、この電源入力コネクタに接続するためのリードがイオン発生部近傍で送風を乱すことが抑制される。
【0028】
上記のイオン発生装置において好ましくは、正極放電電極と負極放電電極との間隔が35mm以上115mm以下である。
【0029】
この間隔が35mm未満では、正イオンおよび負イオンが互いに中和、再結合しあう確率が高くなって、効率的にイオンを放出できなくなる。またこの間隔が115mmを越えるとイオン発生装置が大型化するとともに片極性のイオン放出に近づき、この片極性イオンの放出は周囲への帯電を引き起こす。
【0030】
上記のイオン発生装置において好ましくは、第1誘導電極は正極放電電極の先端と対向する位置に第1の貫通孔を有している。第2誘導電極は負極放電電極の先端と対向する位置に第2の貫通孔を有している。第1の貫通孔の直径および第2の貫通孔の直径の各々に対する正極放電電極と負極放電電極との間隔の比が3以上9.5以下である。
【0031】
本発明者は、鋭意検討した結果、第1の貫通孔の直径および第2の貫通孔の直径の各々に対する正極放電電極と負極放電電極との間隔の比を3以上9.5以下にすることにより、イオン発生装置を小型化・薄型化しつつ、正イオンと負イオンの両極性のイオンを効率よく発生・放出できることを見出した。その理由は以下のように考えられる。
【0032】
上記の比が3未満となるほどに正極放電電極と負極放電電極との間隔が小さいと、正イオンと負イオンとが中和および再結合する率が高くなり、正負両極性のイオンを効率よく発生させることができない。また上記の比が3未満となるほどに第1および第2の貫通孔の直径の各々が大きいと、放電電極と誘導電極との距離が遠くなることで必要な印加電圧が高くなり、回路のサイズが大きくなって、イオン発生装置全体が大きくなる。つまり、小型化、薄型化を保ったまま、イオンを効率よく発生させることができない。
【0033】
また上記の比が9.5を越えるほどに正極放電電極と負極放電電極との間隔が大きいと、正の放電電極と負の放電電極との距離が離れすぎてイオン発生装置自身の幅が大きくなることで送風条件が悪くなり、正負両極性のイオンを効率よく機外へ放出することができなくなる。また上記間隔が大きいと、正の放電電極と負の放電電極との関係が疎遠になり、片極性のイオン放出に近づき、片極性イオンの放出は周囲への帯電を引き起こす。また上記の比が9.5を越えるほどに第1および第2の貫通孔の直径の各々が小さいと、放電の開始電圧と火花放電への移行電圧の幅が小さく、印加電圧の設定が困難になり、イオンを効率よく発生させることができない。また発生したイオンは第1および第2の貫通孔からイオン発生素子の外部へ放出されるため、上記の比が9.5を越えるほどに第1および第2の貫通孔の直径の各々が小さいと、イオン発生素子の外部へイオンを効率的に放出することができない。
【0034】
以上の第1および第2の穴の直径の各々と、正極放電電極および負極放電電極の間隔との相関関係からその比が3以上9.5以下の場合に、イオン発生装置を小型化・薄型化しつつ正イオンと負イオンの両極性のイオンを効率よく発生・放出できると考えられる。
【0035】
本発明の電気機器は、上記のいずれかに記載のイオン発生装置と、そのイオン発生装置で生じた正イオンおよび負イオンの双方を送風気流に乗せて電気機器の外部に送るための送風部とを備えている。
【0036】
本発明の電気機器によれば、イオン発生装置で生じたイオンを送風部により気流に乗せて送ることができるため、たとえば空調機器において機外にイオンを放出することができ、また冷蔵機器において庫内または庫外にイオンを放出することができる。
【発明の効果】
【0037】
以上に説明したように本発明によれば、正イオンおよび負イオンの双方を効率よく装置外部へ放出でき、かつ容易に小型化・薄型化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、本発明の実施の形態について図に基づいて説明する。
(実施の形態1)
図1は本発明の実施の形態1におけるイオン発生装置の構成をケースの底面側から見た概略平面図であって、ケースの底板部分およびモールド樹脂を透視して示す図である。また図2は図1のII−II線に沿う概略断面図である。また図3および図4は図1、2に示すイオン発生素子の構成を示す分解斜視図および組立て斜視図である。
【0039】
図1を参照して、本実施の形態のイオン発生装置30は、外装ケース21と、正イオン発生用のイオン発生素子10aと、負イオン発生用のイオン発生素子10bと、高圧トランス11と、高電圧回路12a、12bと、電源回路23と、電源入力コネクタ22とを主に有している。
【0040】
外装ケース21は、第1仕切り壁21aと第2仕切り壁21bとを内部に有している。外装ケース21の内部は、第1仕切り壁21aおよび第2仕切り壁21bにより、正イオン発生素子の配置領域121Aと、負イオン発生素子の配置領域121Bと、高電圧発生回路などの配置領域121Cとに区画されている。
【0041】
正イオン発生素子の配置領域121Aはケース21内の一方端側(図1中左側)に配置されており、負イオン発生素子の配置領域121Bはケース21内の他方端側(図1中右側)に配置されている。また正イオン発生素子の配置領域121Aと負イオン発生素子の配置領域121Bとの間には、高電圧発生回路などの配置領域121Cの一部が挟まれている。
【0042】
正イオン発生素子の配置領域121A内には正イオン発生用のイオン発生素子10aが配置されており、負イオン発生素子の配置領域121B内には負イオン発生用のイオン発生素子10bが配置されている。
【0043】
図3および図4を参照して、イオン発生素子10a、10bのそれぞれは、たとえばコロナ放電により正イオンおよび負イオンを生じさせるためのものであり、誘導電極1と、放電電極2と、支持基板3とを有している。
【0044】
誘導電極1は、一体の金属板からなっており、かつ放電電極2の個数に対応して平板部に設けられた複数(たとえば2つ)の円形の貫通孔1aを有している。この貫通孔1aは、コロナ放電により発生するイオンをイオン発生素子10aまたは10bの外部へ放出するための開口部である。誘導電極1の平板部は穴あき板金よりなっている。
【0045】
また誘導電極1は、たとえば両端部に、金属板の一部を平板部に対して略直角に屈曲させた屈曲部1bを有している。この屈曲部1bは、幅の広い支持部分と、幅の狭い挿入部分とを有している。上記支持部分の一方端は平板部に繋がっており、他方端は上記挿入部分に繋がっている。
【0046】
放電電極2は針状の先端を有している。支持基板3は、放電電極2を挿通させるための貫通孔3aと、屈曲部1bの挿入部分を挿通させるための貫通孔3bとを有している。
【0047】
針状の放電電極2は、貫通孔3aに挿入または圧入されて支持基板3を貫通した状態で支持基板3に支持されている。これにより、放電電極2の針状の一方端は支持基板3の表面側に突き出しており、また支持基板3の裏面側に突き出した他方端には、半田(図示せず)によりリード線や配線パターンを電気的に接続することが可能である。
【0048】
誘導電極1の挿入部分は貫通孔3bに挿入されて支持基板3を貫通した状態で支持基板3に支持されている。また支持基板3の裏面側に突き出した挿入部分の先端には、半田(図示せず)によりリード線や配線パターンを電気的に接続することが可能である。また誘導電極1が支持基板3に支持された状態で、放電電極2は、その針状の先端が、図1に示すように円形の貫通孔1aの略中心に位置している。
【0049】
上記の正イオン発生用のイオン発生素子10aの放電電極2が正極放電電極となり、イオン発生素子10aの誘導電極1とともに正イオン発生部(正極電極対)を構成している。また上記の負イオン発生用のイオン発生素子10bの放電電極2が負極放電電極となり、イオン発生素子10bの誘導電極1とともに負イオン発生部(負極電極対)を構成している。
【0050】
また正か負のいずれかの同じ極性のイオンを発生させるための複数の放電電極2に対して共通の誘導電極1が設けられている。具体的には、正イオン発生用のイオン発生素子10aにおいては、たとえば2本の正極放電電極2に対して共通の誘導電極1が設けられており、この誘導電極1には正極放電電極2の本数に対応して2つの貫通孔1aが設けられている。このように正イオン発生用のイオン発生素子10aは、複数(たとえば2つ)の正イオン発生部にて正イオンを発生させることができるように構成されている。
【0051】
また負イオン発生用のイオン発生素子10bにおいては、たとえば2本の負極放電電極2に対して共通の誘導電極1が設けられており、この誘導電極1には負極放電電極2の本数に対応して2つの貫通孔1aが設けられている。このように負イオン発生用のイオン発生素子10bは、複数(たとえば2つ)の負イオン発生部にて負イオンを発生させることができるように構成されている。
【0052】
図1を参照して、正イオン発生素子の配置領域121A内の正イオン発生用のイオン発生素子10aと、負イオン発生素子の配置領域121B内の負イオン発生用のイオン発生素子10bとは、互いにスペースを挟んでケース21内に配置されている。つまり、正イオン発生部と負イオン発生部とが互いにスペースを挟んでケース21内に配置されている。
【0053】
また正イオン発生用のイオン発生素子10aの誘導電極1と、負イオン発生用のイオン発生素子10bの誘導電極1とは互いに空間的に(構造的に)分離されている。また正イオン発生用のイオン発生素子10aの支持基板3と、負イオン発生用のイオン発生素子10bの支持基板3とは互いに空間的に(構造的に)分離されている。なお、正イオン発生用のイオン発生素子10aの誘導電極1と、負イオン発生用のイオン発生素子10bの誘導電極1とは互いに同電位になるように電気的に接続されていてもよい。
【0054】
高電圧発生回路などの配置領域121C内には、高圧トランス11と、高電圧回路12a、12bと、電源回路23と、電源入力コネクタ22とが配置されている。正の高電圧回路12aと負の高電圧回路12bとの双方は同一の基板14上に支持されている。正の高電圧回路12aは正イオン発生用のイオン発生素子10aと隣り合うようにケース21内の一方端側(図1中左側)に配置されている。負の高電圧回路12bは負イオン発生用のイオン発生素子10bと隣り合うようにケース21内の他方端側(図1中右側)に配置されている。この高電圧回路12a、12bを支持する基板14の一部が正イオン発生素子の配置領域121Aと負イオン発生素子の配置領域121Bとの間に位置している。
【0055】
また正イオン発生素子の配置領域121Aと負イオン発生素子の配置領域121Bとの間には、高圧トランス11、電源回路23および電源入力コネクタ22が配置されている。特に電源入力コネクタ22は正イオン発生素子の配置領域121Aと負イオン発生素子の配置領域121Bとのほぼ中央に配置されている。上記の高圧トランス11および高電圧回路12a、12bにより高電圧発生回路20が構成されている。また高電圧発生回路20と電源回路23とにより回路部が構成されている。
【0056】
図1の平面レイアウトでは図1中左側から右側に向かってイオン発生素子10a−回路部−イオン発生素子10bの並びとなっている。
【0057】
図2を参照して、ケース21は内部に空間を有する箱型である。このケース21の内部の空間内にイオン発生素子10a、10bと、高圧トランス11と、高電圧回路12a、12bと、電源回路23と、電源入力コネクタ22とが配置され、蓋24が取り付けられた後にモールド樹脂31が流し込まれる。
【0058】
このケース21は箱型のたとえば底板にイオン放出用の孔21dを有している。この孔21dにイオン発生素子10a、10bの各々の貫通孔1aが連通するようにイオン発生素子10a、10bの各々がケース21内に配置されている。
【0059】
モールド樹脂31は、イオン発生素子10a、10bの半田面側および高電圧発生回路などの配置領域121Cをモールドしている。ここで、高圧トランス11および高電圧回路12a、12bにより構成される高電圧発生回路20やイオン発生素子10a、10bは高電圧部である。このため、イオン発生素子10a、10bのイオン発生部分(支持基板3の表面側)を除き、支持基板3の裏面側(半田面側)および高電圧発生回路などの配置領域を樹脂モールド(たとえばエポキシ樹脂によりモールド)することにより絶縁を強化することが望ましい。
【0060】
本実施の形態では、ケース21は、イオン発生素子10a、10bをケース21内に配置した状態において、イオン発生素子10a、10bの各々の支持基板3と当接するような段差21cを有している。この支持基板3が段差21cと当接することにより、支持基板3の位置決めがなされるとともに、モールド時に樹脂がイオン発生部側へ回むことが防止されている。これにより、1回のモールドの工程で、高電圧発生回路の配置領域においては高電圧発生回路の全体をモールドしながらも、イオン発生素子10a、10bの各々の支持基板3のイオン発生部分側をモールドせずにその反対側のみをモールドすることができる。
【0061】
図1を参照して、本実施の形態においては、貫通孔1aの直径dに対する正極放電電極2と負極放電電極2との間隔p1の比(p1/d)が3以上9.5以下であり、その比の一例は7.4である。
【0062】
また貫通孔1aの直径dはφ10〜φ15mmであることが好ましく、正極放電電極2と負極放電電極2との間隔p1はd<p1<150mmであることが好ましく、35〜115mmが好ましい。外装ケース21の外形は長さa1(図1)×幅b1(図1)×厚さc1(図2)で規定され、a1が70〜150mm、b1が20〜40mm、c1が8〜10mmの薄型でコンパクトな形状が好ましい。
【0063】
次に、各機能素子の電気的接続の状態について説明する。
図5は、本発明の実施の形態1におけるイオン発生装置の機能ブロック図であり、各機能素子の電気的接続を示す図である。図5を参照して、イオン発生装置30は、上述したように、外装ケース21と、イオン発生素子10a、10bと、高圧トランス11と、高電圧回路12a、12bと、電源入力コネクタ22と、電源回路23とを有している。なお、電源入力コネクタ22は一部が外装ケース21内に配置されており、また他の一部が外装ケース21の外部に露出しており、外部から電源をコネクタ接続できる構造となっている。
【0064】
この電源入力コネクタ22は、入力電源としての直流電源や商用交流電源の供給を受ける部分である。電源入力コネクタ22は電源回路23に電気的に接続されている。この電源回路23は高圧トランス11の一次側に電気的に接続されている。この高圧トランス11は、一次側に入力された電圧を昇圧して二次側に出力するためのものである。高圧トランス11の二次側の一方はイオン発生素子10a、10bの誘導電極1に電気的に接続されている。また高圧トランス11の二次側の他方は、正の高電圧回路12aを通じて正イオン発生用のイオン発生素子10aの正極放電電極2に電気的に接続されるとともに、負の高電圧回路12bを通じて負イオン発生用のイオン発生素子10bの負極放電電極2に電気的に接続されている。
【0065】
正の高電圧回路12aは、正極放電電極2には誘導電極1に対して正極性の高電圧を印加し、負極放電電極2には誘導電極1に対して負極性の高電圧を印加するよう構成されている。これにより、正と負の2極性のイオンを発生させることができる。
【0066】
次に、本実施の形態のケース底板の構成について説明する。
図6(A)の平面図および図6(B)の断面図に示すようにケースの底板には、イオン放出用の孔21dが形成されている。このイオン放出用の孔21dは誘導電極1の貫通孔1aの真上に配置されている。これにより放電電極2はイオン放出用の孔21dおよび貫通孔1aを介してイオン発生装置30の外部から見えており、イオン発生素子10a、10bで生じたイオンをイオン発生装置30の外部に放出することが可能となっている。
【0067】
また図7(A)の平面図および図7(B)の断面図に示すようにケース21の底板の一部が電極蓋25よりなっており、この電極蓋25が底板から外れる構造であってもよい。この電極蓋25にはイオン放出用の孔25aが形成されている。
【0068】
なお図6(B)の断面図は図6(A)のVI−VI線に沿う概略断面図であり、図7(B)の断面図は図7(A)のVII−VII線に沿う概略断面図である。
【0069】
上記のイオン発生装置30は、一極性のイオンを放出することも可能であるが、本実施の形態では正イオンと負イオンとの両極性のイオンを放出することを前提としている。正極放電電極2の先端では正コロナ放電を発生させることにより正イオンが発生され、負極放電電極2の先端では負コロナ放電を発生させることにより負イオンが発生される。印加する波形はここでは特に問わず、直流、正または負にバイアスされた交流波形や正または負にバイアスされたパルス波形などの高電圧とする。電圧値には放電を発生させるに十分かつ、所定のイオン種を生成させる電圧領域が選定される。
【0070】
ここで、発明者が意図する正イオンは、水素イオン(H+)の周囲に複数の水分子が付随したクラスターイオンであり、H+(H2O)m(mは自然数)として表される。また負イオンは、酸素イオン(O2-)の周囲に複数の水分子が付随したクラスターイオンであり、O2-(H2O)n(nは自然数)として表される。また、空気中の正イオンであるH+(H2O)m(mは自然数)と、負イオンであるO2-(H2O)n(nは自然数)とを略同等量発生させることにより、両イオンが空気中を浮遊するカビ菌やウィルスに付着してその周りを取り囲み、その際に生成される活性種の水酸基ラジカル(・OH)の作用により、浮遊カビ菌などを除去することが可能となる。
【0071】
次に、上記のイオン発生装置を用いた電気機器の一例として空気清浄機の構成について説明する。
【0072】
図8は、図1および図2に示すイオン発生装置を用いた空気清浄機の構成を概略的に示す斜視図である。また図9は、図8に示す空気清浄機にイオン発生装置を配置した様子を示す空気清浄機の分解図である。
【0073】
図8および図9を参照して、空気清浄機60は前面パネル61と本体62とを有している。本体62の後方上部には吹き出し口63が設けられており、この吹き出し口63からイオンを含む清浄な空気が室内に供給される。本体62の中心には空気取り入れ口64が形成されている。空気清浄機60の前面の空気取り入れ口64から取り込まれた空気が、図示しないフィルターを通過することで清浄化される。清浄化された空気は、ファン用ケーシング65を通じて、吹き出し口63から外部へ供給される。
【0074】
清浄化された空気の通過経路を形成するファン用ケーシング65の一部に、図1および図2に示すイオン発生装置30が取り付けられている。イオン発生装置30は、そのイオン放出部となる孔21dからイオンを上記の空気流に放出できるように配置されている。イオン発生装置30の配置の例として、空気の通過経路内であって、吹き出し口63に比較的近い位置P1、比較的遠い位置P2などの位置が考えられる。このようにイオン発生装置30のイオン放出部21dに送風を通過させることにより、吹き出し口63から清浄な空気とともに外部にイオンを供給するイオン発生機能を空気清浄機60に持たせることが可能になる。
【0075】
本実施の形態の空気清浄機60によれば、イオン発生装置30で生じた正イオンおよび負イオンの双方を送風部(空気の通過経路)により気流に乗せて送ることができるため、機外に正イオンおよび負イオンの双方を放出することができる。
【0076】
なお本実施の形態においては電気機器の一例として空気清浄機について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、電気機器は、これ以外に空気調和機(エアコンディショナー)、冷蔵機器、掃除機、加湿器、除湿機などであってもよく、イオンを気流に乗せて送るための送風部を有する電気機器であればよい。
【0077】
次に、本実施の形態の作用効果について説明する。
放電により発生した正イオンや負イオンは生成された瞬間に再結合して消滅したり、正または負に印加された電極にそれと逆極性のイオンが電極に引かれて中和したり、または空間で正イオンと負イオンとがぶつかることにより中和することなどで消滅する。
【0078】
これに対して、本実施の形態では平面視において正イオン発生部(正イオン発生用のイオン発生素子10aの正極放電電極2と誘導電極1)と負イオン発生部(負イオン発生用のイオン発生素子10bの負極放電電極2と誘導電極1)とが互いにスペース(高電圧発生回路などの配置領域121C)を挟んでケース21内に配置されている。このため、正イオン発生部と負イオン発生部とをスペースの分だけ互いに離して配置することができる。これにより、正イオン発生部で生じる正イオンと負イオン発生部で生じる負イオンとが互いに中和や再結合しあうことを抑制することができ、正イオンおよび負イオンの双方を効率よく装置外部へ放出することが可能となる。
【0079】
また平面視において正イオン発生部と負イオン発生部とが互いにスペースを挟んでケース21内に配置されているため、このスペースに高電圧発生回路などの他の回路を配置することができる。このため、ケース21内に効率よく各構成部品を配置でき、イオン発生装置30の小型化・コンパクト化を図ることが容易となる。これにより、イオン発生装置30自身の占有面積を小さくできるため応用用途が広がり、電気機器への搭載を考えた際、機器内への配置の制約が少なくなる。
【0080】
また正イオン発生部と負イオン発生部とスペースに配置した他の回路とを平面的に横並びに配置できるため、イオン発生装置30の厚みを薄くすることもできる。このため、本実施の形態のイオン発生装置30を送風経路が狭い機器などに適用することもでき、汎用性が向上する。
【0081】
また正イオン発生用のイオン発生素子10aの誘導電極1と負イオン発生用のイオン発生素子10bの誘導電極1とが互いに空間的に分離され、かつ正イオン発生用のイオン発生素子10aの支持基板3と負イオン発生用のイオン発生素子10bの支持基板3とが互いに物理的に分離されているため、イオン発生素子10aとイオン発生素子10bとの間にスペースを設けることが可能となる。
【0082】
またイオン発生素子10aの配置領域121Aと高電圧発生回路などの配置領域121Cとが仕切り壁21aにより区切られており、かつイオン発生素子10bの配置領域121Bと高電圧発生回路などの配置領域121Cとが仕切り壁21bにより区切られている。このため、たとえば高電圧発生回路20などの配置領域121Cにおいては高電圧発生回路20の全体をモールドしながらも、正および負のイオン発生素子10a、10bの配置領域121A、121Bのそれぞれにおいては支持基板3のイオン発生部分側をモールドせずにその反対側のみをモールドすることができる。これにより、イオン発生装置30の高電圧部分を効率よくモールド樹脂31で絶縁分離することができるため、各部分を近づけて配置することが可能となり、イオン発生装置の小型化、コンパクト化および薄型化が可能となる。
【0083】
またモールドはたとえば以下の方法により行なわれる。
図1を参照して、イオン発生装置30の図中下側の面21Lが下側に配置され、かつ図中上側の面21Uが上側に配置される。この状態で、図1中太矢印で示すように、上側の面21Uに設けられたモールド注入口からイオン発生装置30の内部にモールド樹脂が注入される。イオン発生装置30の内部に注入されたモールド樹脂は、ケース21の下側から上側に溜まっていく。この際、モールド樹脂は、高電圧発生回路などの配置領域121Cにおいて、高電圧発生回路20および電源回路23の全面に回り込んでそれらの全体をモールドする。またこのモールド樹脂は、イオン発生素子10a、10bの配置領域121A、121Bの双方においては、仕切り壁21a、21bにより、支持基板3のイオン発生部側(支持基板3の表面側)には回り込むことができず、それとは反対側の支持基板3の半田面側だけを被覆する。
【0084】
これにより、1度のモールド工程で、イオン発生装置30の高電圧部分をモールドしつつ、イオン発生素子10a、10bにおける各イオン発生部のモールドを避けることができる。
【0085】
また本実施の形態によれば、誘導電極1と放電電極2とは同一の支持基板3上に配置されている。これにより、誘導電極1と放電電極2との相互の平面的な位置ずれを規制しつつ、高さ方向の位置ずれも最小化することができる。これにより、誘導電極1と放電電極2との位置関係の誤差要因を低減することができる。
【0086】
また本実施の形態によれば、貫通孔1aの平面形状が略真円となっており、平面視においてその円の中心に放電電極2の針状の先端が位置しているため、誘導電極1と放電電極2との間にできる電界を平面視において360度均一にすることができる。
【0087】
また本発明者は、鋭意検討した結果、イオン発生素子10a、10bの貫通孔1aの直径dに対する正極放電電極2と負極放電電極2との間隔p1の比(p1/d)を3以上9.5以下にすることにより、イオン発生装置30を小型化、コンパクト化、薄型化しつつ、正イオンと負イオンの両極性のイオンを効率よく発生・放出できることを見出した。以下、そのことについて説明する。
【0088】
放電電極2の先端に安定したコロナ放電を発生させるために、放電電極2の先端と誘導電極1との距離関係(つまり誘導電極1の貫通孔1aの半径(d/2))によって放電電極2と誘導電極1との間に印加する高電圧の必要な電圧値が変わる。誘導電極1の貫通孔1aの半径(d/2)が大きくなれば、必要な印加電圧は高くなる。このため、高電圧回路12a、12bや高圧トランス11のサイズや必要とするパワーが大きくなり、イオン発生装置30の小型化や薄型化という観点から外れ、好ましくない。つまり、小型化や薄型化を保ちつつ、イオンを安定して発生させることができない。
【0089】
逆に誘導電極1の貫通孔1aの半径(d/2)が小さすぎると、必要な印加電圧を低くすることができる。しかし、放電の開始電圧と火花放電への移行電圧の幅が小さくなるため、印加電圧の設定が困難になり、コロナ放電により安定してイオンを放出させることが困難となる。
【0090】
上記の検討を行なったうえで、本発明者は、誘導電極1の貫通孔1aの直径dと正極放電電極2と負極放電電極2との間の最適な距離p1との関係についてさらに検討を行なった。
【0091】
まず図10に示すような2つのイオン発生素子10cを用意した。このイオン発生素子10cを、支持基板3と、その支持基板3に支持された2本の放電電極2と、その放電電極2の先端に対向する位置に貫通孔1aを有する誘導電極1とを有するように構成した。またイオン発生素子10cにおいては、2本の放電電極2のうち一方を正極放電電極とし、他方を負極放電電極とした。このようなイオン発生素子10cを横方向に2つ並べて配置した。このときの放電電極2の極性の並びとしては、図10の左側から右側に向かって負正負正の順とした。
【0092】
そして、1つのイオン発生素子10cにおける正極放電電極2と負極放電電極2との距離をE1とした。また図中左側のイオン発生素子10cの正極放電電極2と図中右側のイオン発生素子10cの負極放電電極2との距離をP1とした。
【0093】
また図11に示すような2つのイオン発生素子10a、10bも用意した。これら2つのイオン発生素子10a、10bは、図10に示したものと構成および配置において同じとしたが、放電電極2の極性の並びにおいて変えた。図11の2つのイオン発生素子10a、10bでは、放電電極2の極性の並びとしては、図11の左側から右側に向かって負負正正の順とした。
【0094】
そして、1つのイオン発生素子10a、10b、10cの各々における放電電極2間の距離をE1とした。また図中左側のイオン発生素子10aの負極放電電極2と図中右側のイオン発生素子10bの正極放電電極2との距離をP1とした。
【0095】
図10および図11の双方に関して、イオン発生素子の後方から前方に向かう方向(図中矢印方向)に同じ条件で送風し、その風下方向の所定の距離でのイオン濃度を測定した。その結果、図11に示す放電電極2の極性配置で生じたイオン量は、図10に示す放電電極2の極性配置で生じたイオン量に対して、正イオンで1.3倍、負イオンで1.5倍増加していた。上記の結果から図11に示す放電電極2の極性配置の方が、図10に示す放電電極2の極性配置よりも好ましいことがわかった。
【0096】
また正か負のいずれかの同じ極性のイオンを発生させるための複数の放電電極2に対して共通の誘導電極1を設けた構成とすることにより、複数箇所でイオンを発生させて、イオン発生量を増加させることもできた。
【0097】
また上記の実験においては、放電電極2の先端にコロナ放電が発生するように、誘導電極1の貫通孔1aの径と印加電圧とを決めており、貫通孔1aの直径dに対する距離E1の比(E1/d)が2であるのに対し、貫通孔1aの直径dに対する距離P1の比(P1/d)は6.7であった。
【0098】
さらに図11の極性配置で距離P2を変化させたときのイオン濃度の変化について調べた。その結果を図12に示す。
【0099】
図12を参照して、距離P1を変化させていくと、距離P1を貫通孔1aの直径値dで除した値(P1/d)が約7.5までは正イオン、負イオンはともに増加し、7.5を越えると正イオン、負イオンはともに減少する傾向が見られた。また空気中を浮遊するカビ菌などを除去するに十分な指標となる100以上のイオン化率は、この比(P1/d)が3以上9.5以下の場合に得られることもわかった。
【0100】
また本実施の形態のイオン発生装置30を電気機器に搭載することを考えた際、一般に空気調和機のファンとしては図13に示すようなクロスフローファン50や図8および図9に示すようなシロッコファンが考えられる。いずれのファンにおいてもその風速を計測すると、計測場所によって風速が異なり、図13および図9に示すA、B、Cの各計測位置でその風速はA>B>Cとなり、ファンの中央における風速が大きく、端部における風速が小さくなる。
【0101】
電気機器への搭載を考えた際、距離P1が大きくなりすぎると、イオン発生装置30自身の幅が大きくなり、上記のように送風条件が悪くなることもあり、汎用性が低下する。やみくもに距離P1を大きくすることは適切ではなく、搭載する電気機器の寸法を考慮するとイオン発生装置の長手方向の幅は150mmまでに設定することが適切である。
【0102】
また誘導電極1の貫通孔1aの直径dが大きくなれば、放電電極2と誘導電極1との距離が遠くなり、放電電極2から発生したイオンが誘導電極1で中和する確率が減少し、イオンの中和を軽減することができる。しかしながら、直径dを大きくしすぎると、必要な印加電圧が高くなり、回路のサイズが大きくなる。また誘導電極1の物理的なサイズアップにより、イオン発生装置30全体が大きくなる。このため、薄型コンパクトという観点から、直径dの大きさには限度がある。
【0103】
逆に直径dが小さすぎると放電の開始と火花放電への移行電圧の幅が小さく、印加電圧の設定が困難になる。誘導電極1の貫通孔1aの半径(d/2)は放電電極2と誘導電極1との距離に近似できるため、距離P1と直径dとの間にはd<P1の関係が成り立つ。ここで距離P1が小さいと放出された正イオンと負イオンとがクーロン力で引かれる力が大きくなる。逆に距離P1が非常に大きいと正極放電電極2と負極放電電極2との関係が疎遠になり、片極性のイオン放出に近づく。片極性イオンの放出は周囲への帯電を引き起こすため適切ではない。また電気機器への搭載を考えた際に風速条件が悪くなることが考えられ、距離P1が非常に大きくなることは同様に適切ではない。
【0104】
以上のことから鑑みて、誘導電極1の貫通孔1aの直径dと正極放電電極2と負極放電電極2との距離P1との関係はd<P1<150mmであり、かつ3≦P1/d≦9.5であることが望ましい。
【0105】
また上記の比(P1/d)に対応する上記の距離P1は35〜115mmが好ましく、96mmが特に好ましい。また上記の比(P1/d)に対応する上記の直径dはφ10〜15mmが好ましく、φ12〜φ13mmが特に好ましい。
【0106】
薄型でコンパクトなイオン発生装置を実現するためのイオン発生素子10a、10bなどのケース21への最適な配置を考えると、正のイオン発生素子10aと負のイオン発生素子10bとを前述のように適切な距離で分離させることが重要である。そうすると、正のイオン発生素子10aと負のイオン発生素子10bとの間にスペースができる。薄型に仕上げるには、このスペースに高圧トランス11や高電圧発生回路20を配置することが効率的である。平面視において電極−回路−電極の並びとなるように平面的に配置することで薄型化を実現しつつ、上記スペースを有効活用することでコンパクト化を実現することができる。
【0107】
(実施の形態2)
図14は、本発明の実施の形態2におけるイオン発生装置の構成をケースの底面側から見た概略的平面図であって、ケースの底板部分およびモールド樹脂を透視して示す図である。図14を参照して、本実施の形態の構成は、実施の形態1の構成と比較して、高圧トランス11と、高電圧回路12a、12bと、電源回路23と、電源入力コネクタ22との配置位置において異なっている。
【0108】
本実施の形態においては、高電圧回路12a、12bを支持する基板14の全体が、正イオン発生素子の配置領域121Aと負イオン発生素子の配置領域121Bとの間のスペースに配置されている。
【0109】
電源回路23の配置領域の少なくとも一部と電源入力コネクタ22との双方が、負イオン発生素子の配置領域121Bに対する正イオン発生素子の配置領域121A側とは反対側に位置している。なお電源回路23の配置領域の少なくとも一部と電源入力コネクタ22との双方は、正イオン発生素子の配置領域121Aに対する負イオン発生素子の配置領域121B側とは反対側に位置していてもよい。つまり電源入力コネクタ22および電源回路23は、負イオン発生素子の配置領域121Bおよび正イオン発生素子の配置領域121Aのいずれか片側の外側に配置されている。
【0110】
これにより本実施の形態の平面レイアウトは図14の左側から右側に向けて、イオン発生素子部−回路部−イオン発生素子部−回路部の並びとなり、コネクタが最端に配置されることになる。
【0111】
正極放電電極2同士の距離e2および正極放電電極2と負極放電電極2との距離p2のそれぞれは、図10および図11の実験結果より、図1に示す寸法e1および寸法p1とほぼ同じ寸法である。
【0112】
また外装ケース21の外形は長さa1×幅b1×厚さc1(図示せず、図2参照)で規定され、a1が70〜150mm、b1が20〜40mm、c1が8〜10mmの薄型でコンパクトな形状が好ましい。
【0113】
なお、これ以外の本実施の形態の構成は、上述した実施の形態1の構成とほぼ同じであるため、同一の要素については同一の符号を付し、その説明を繰り返さない。
【0114】
次に、本実施の形態の作用効果について説明する。
入力電源の供給をうける電源入力コネクタ22は、その電源入力コネクタ22への配線が電極部への送風を乱すことのないよう、図1に示すようにケース21の中央に配置することが好ましい。
【0115】
しかし、場合によっては、電源入力コネクタ22が上記中央以外の場所にあった方が、電源入力コネクタ22への配線効率がよい場合がある。ただし、その際には電源入力コネクタ22への配線が電極1、2への送風の妨げにならないよう注意する必要がある。
【0116】
そこで本実施の形態においては、正のイオン発生素子10aと負のイオン発生素子10bとの間のスペースに高電圧発生回路20が配置され、かつイオン発生素子10aまたは10bの外側に電源回路23と電源入力コネクタ22とが配置されている。これにより、ケース21内において、電極−回路−電極―回路の並びで平面的に各構成部材を配置することができ、薄型化を実現するとともに、電源入力コネクタ22をイオン発生素子10a、10bから離して配置することができる。このため、この電源入力コネクタに接続するためのリードがイオン発生素子近傍での送風を乱すことが抑制される。
【0117】
なお、正極負極の各誘電電極1に対して正極放電電極2が正の電位、負極放電電極2が負の電位になるように、互いに構造的に分離された正極の誘導電極1と負極の誘導電極1とを電気的に接続することが好ましい。
【0118】
図15は、正極と負極との各誘導電極が電気的に接続された様子を示すイオン発生装置のケースの蓋側から見た概略平面図であって、ケースの蓋およびモールド樹脂を透視して示す図である。また図15においては、回路部の図示は省略してある。
【0119】
図15を参照して、正極の誘導電極1と負極の誘導電極1とはたとえばジャンパ線(誘導電極接続線)45により互いに電気的に接続されていることが好ましい。このジャンパ線45の両端の各々は、ジャンパ線半田パッド43と配線パターン1c1、1c2と誘導電極半田パッド41とを介して誘導電極1に電気的に接続されている。
【0120】
ジャンパ線45の一方端部は、イオン発生素子10aにおけるジャンパ線半田パッド43に半田(図示せず)により電気的に接続されている。このイオン発生素子10aにおけるジャンパ線半田パッド43は配線パターン1c1により誘導電極半田パッド41と電気的に接続されている。この誘導電極半田パッド41は、誘導電極1の屈曲部1bに半田(図示せず)により電気的に接続されている。
【0121】
ジャンパ線45の他方端部は、イオン発生素子10bにおけるジャンパ線半田パッド43に半田(図示せず)により電気的に接続されている。このイオン発生素子10bにおけるジャンパ線半田パッド43は配線パターン1c2により誘導電極半田パッド41および他の半田パッド44と電気的に接続されている。この誘導電極半田パッド41は、誘導電極1の屈曲部1bに半田(図示せず)により電気的に接続されている。また他の半田パッド44は、たとえば高圧トランスの端子に半田(図示せず)により電気的に接続されている。
【0122】
このジャンパ線45は第1仕切り壁21aと第2仕切り壁21bとを乗り越える必要があるため、ジャンパ線半田パッド43との接続部を除いて、基板3の半田実装面から少し浮いた状態で配置されている。
【0123】
なお各放電電極2は放電電極半田パッド42に半田(図示せず)により電気的に接続されている。イオン発生素子10aにおける放電電極半田パッド42同士は配線パターン1c3により互いに電気的に接続されており、イオン発生素子10bにおける放電電極半田パッド42同士は配線パターン1c4により互いに電気的に接続されている。これにより、正極放電電極2同士が電気的に接続され、かつ負極放電電極2同士が電気的に接続されている。
【0124】
なお、図15は上記実施の形態1の構成に適用した構成を示したものだが、上記実施の形態2の構成についても、同様に適用可能であることは明らかである。
【0125】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明は、正イオン発生部と負イオン発生部とをケース内部に配置したイオン発生装置およびそのイオン発生装置を備えた電気機器に特に有利に適用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0127】
【図1】本発明の実施の形態1におけるイオン発生装置の構成をケースの底面側から見た概略平面図であって、ケースの底板部分およびモールド樹脂を透視して示す図である。
【図2】図1のII−II線に沿う概略断面図である。
【図3】図1、2に示すイオン発生素子の構成を示す分解斜視図である。
【図4】図1、2に示すイオン発生素子の構成を示す組立て斜視図である。
【図5】本発明の実施の形態1におけるイオン発生装置の機能ブロック図であり、各機能素子の電気的接続を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態1におけるイオン発生装置のケースの底板の構成を示す概略平面図(A)および図6(A)のVI−VI線に沿う概略断面図である。
【図7】ケースの底板の一部が底板から外れる電極蓋よりなる構成を示す概略平面図(A)および図7(A)のVII−VII線に沿う概略断面図である。
【図8】図1および図2に示すイオン発生装置を用いた空気清浄機の構成を概略的に示す斜視図である。
【図9】図8に示す空気清浄機にイオン発生装置を配置した様子を示す空気清浄機の分解図である。
【図10】誘導電極の貫通孔の直径と正極放電電極と負極放電電極との間の最適な距離との関係を調べるために準備した、極性配置が負正負正となる2つのイオン発生素子の構成を示す概略平面図である。
【図11】誘導電極の貫通孔の直径と正極放電電極と負極放電電極との間の最適な距離との関係を調べるために準備した、極性配置が負負正正となる2つのイオン発生素子の構成を示す概略平面図である。
【図12】誘導電極の貫通孔の直径と正極放電電極と負極放電電極との間の距離との関係を示す図である。
【図13】クロスフローファンにおいて各部で風速が異なることを説明するための図である。
【図14】本発明の実施の形態2におけるイオン発生装置の構成をケースの底面側から見た概略的平面図であって、ケースの底板部分およびモールド樹脂を透視して示す図である。
【図15】正極と負極との各誘導電極が電気的に接続された様子を示すイオン発生装置のケースの蓋側から見た概略平面図であって、ケースの蓋およびモールド樹脂を透視して示す図である。
【符号の説明】
【0128】
1 誘電電極、1a 貫通孔、1b 屈曲部、1c 配線部、1c1,1c2,1c3,1c4 配線パターン、2 放電電極、3 支持基板、3a,3b 貫通孔、10a,10b,10c イオン発生素子、11 高圧トランス、12a,12b 高電圧回路、14 基板、20 高電圧発生回路、21 外装ケース、21a,21b 仕切り壁、21c 段差、21d,25a イオン放出用の孔、22 電源入力コネクタ、23 電源回路、24 蓋、25 電極蓋、30 イオン発生装置、31 モールド樹脂、41 誘導電極半田パッド、42 放電電極半田パッド、43 ジャンパ線半田パッド、44 半田パッド、45 ジャンパ線、50 クロスフローファン、60 空気清浄機、61 前面パネル、62 本体、63 吹き出し口、64 空気取り入れ口、65 ファン用ケーシング、121A 正イオン発生素子の配置領域、121B 負イオン発生素子の配置領域、121C 高電圧発生回路などの配置領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極放電電極と、前記正極放電電極との間で正イオンを発生させるための第1誘導電極とを含む正イオン発生部と、
負極放電電極と、前記負極放電電極との間で負イオンを発生させるための第2誘導電極とを含む負イオン発生部とを備え、
前記第1誘導電極と前記第2誘導電極とが互いに分離するように、前記正イオン発生部と前記負イオン発生部とが互いにスペースを挟んで配置されている、イオン発生装置。
【請求項2】
正極放電電極と、前記正極放電電極との間で正イオンを発生させるための第1誘導電極とを含む正イオン発生部と、
負極放電電極と、前記負極放電電極との間で負イオンを発生させるための第2誘導電極とを含む負イオン発生部とを備え、
前記第1誘導電極と前記第2誘導電極とを離間させて、前記正イオン発生部と前記負イオン発生部とが互いにスペースを挟んで配置されている、イオン発生装置。
【請求項3】
正極放電電極が放電可能に配置される第1誘導電極を含み、正イオンを発生させるための正イオン発生部と、
負極放電電極が放電可能に配置される第2誘導電極を含み、負イオンを発生させるための負イオン発生部とを本体内に備え、
前記正イオン発生部と負イオン発生部が、夫々発生する正イオン及び負イオンで互いに中和しあうことを抑制するためのスペースを挟んで配置されている、イオン発生装置。
【請求項4】
正極放電電極が放電可能に配置され、正イオンを発生させるための正イオン発生部と、
負極放電電極が放電可能に配置され、負イオンを発生させるための負イオン発生部とを本体内に備え、
前記正イオン発生部と負イオン発生部が、夫々発生する正イオン及び負イオンで互いに中和しあうことを抑制するためのスペースを挟んで配置されている、イオン発生装置。
【請求項5】
前記正極放電電極と前記第1誘導電極との双方を保持する第1基板と、
前記負極放電電極と前記第2誘導電極との双方を保持する第2基板とをさらに備え、
前記第1基板と前記第2基板とが互いに分離するように、前記正イオン発生部と前記負イオン発生部とが互いに前記スペースを挟んで配置されている、請求項1〜3のいずれかに記載のイオン発生装置。
【請求項6】
前記正イオン発生部と前記負イオン発生部との間の前記スペースに配置された部分を有する回路部をさらに備えた、請求項1〜5のいずれかに記載のイオン発生装置。
【請求項7】
前記回路部は、前記正イオン発生部および前記負イオン発生部の各々に電圧を印加するための高電圧発生回路を含み、
前記高電圧発生回路の少なくとも一部が前記正イオン発生部と前記負イオン発生部との間の前記スペースに配置されている、請求項6に記載のイオン発生装置。
【請求項8】
前記正イオン発生部と前記負イオン発生部と前記回路部とを内部に配置されたケースをさらに備え、
前記ケースは、前記正イオン発生部の配置領域を前記回路部の配置領域から仕切るための第1仕切り壁と、前記負イオン発生部の配置領域を前記正イオン発生部の配置領域および前記回路部の配置領域の各々から仕切るための第2仕切り壁とを有している、請求項6または7に記載のイオン発生装置。
【請求項9】
前記回路部は、前記高電圧発生回路に入力電圧を与えて駆動させるための電源回路を含み、
前記電源回路に電気的に接続される電源入力コネクタをさらに備え、
前記ケース内における前記電源回路の配置領域の少なくとも一部および前記電源入力コネクタは、前記正イオン発生部に対する前記スペースとは反対側および前記負イオン発生部に対する前記スペースとは反対側のいずれかに位置している、請求項6〜8のいずれかに記載のイオン発生装置。
【請求項10】
前記正極放電電極と前記負極放電電極との間隔が35mm以上115mm以下である、請求項1〜9のいずれかに記載のイオン発生装置。
【請求項11】
前記第1誘導電極は前記正極放電電極の先端と対向する位置に第1の貫通孔を有しており、
前記第2誘導電極は前記負極放電電極の先端と対向する位置に第2の貫通孔を有しており、
前記第1の貫通孔の直径および前記第2の貫通孔の直径の各々に対する前記正極放電電極と前記負極放電電極との間隔の比が3以上9.5以下である、請求項1〜3および5のいずれかに記載のイオン発生装置。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載のイオン発生装置と、
前記イオン発生装置で生じた正イオンおよび負イオンの双方を送風気流に乗せて電気機器の外部に送るための送風部とを備えた、電気機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−15943(P2010−15943A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−177231(P2008−177231)
【出願日】平成20年7月7日(2008.7.7)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】