説明

イソチアゾロン系化合物を含有する水溶性製剤およびイソチアゾロン系化合物の安定化方法

【課題】
製品として長期に亘って安定なまま保存でき、エマルション系塗料に含有させてもエマルションショックなどを起こすことがないイソチアゾロン系化合物を含む水溶性製剤、及びイソチアゾロン系化合物を水溶液中で安定化する方法を提供する。
【解決手段】
イソチアゾロン系化合物、アルカリ金属硝酸塩及び水を含有し、pHが3.5〜4.5の範囲内に調整されていることを特徴とするイソチアゾロン系化合物を含有する水溶性製剤;並びにイソチアゾロン系化合物、アルカリ金属硝酸塩及び水を含有する水溶液に、有機酸のアルカリ金属塩を添加して、pHを3.5〜4.5の範囲内に調整するイソチアゾロン系化合物の安定化方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イソチアゾロン系化合物、アルカリ金属硝酸塩及び水を含有するイソチアゾロン系化合物を含有する水溶性製剤、並びにイソチアゾロン系化合物の安定化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水性塗料、紙用塗工液、ラテックスエマルション、織物エマルション、紡糸油、切削油等の製造等において用いられる工業用水等には微生物が繁殖し易い。微生物が繁殖した水は、悪臭の発生等の原因となって作業環境を悪化させ、また工業製品の生産性を低下させ、工業製品の品質の低下を招く。このため、従来から工業用水等には種々の防腐剤や殺菌剤が使用されている。
【0003】
これら工業用水における微生物の発生を抑制ないしは防除する薬剤の1つとして、イソチアゾロン系化合物が知られている。この化合物は工業用殺菌剤、防菌剤として優れた効果を有している。
【0004】
しかしながら、このイソチアゾロン系化合物は一般的に水に対して不安定であり分解しやすい。そのため、イソチアゾロン系化合物を含む水溶液製剤を製品として安定なまま長期に渡って保存する方法が種々提案されている。
【0005】
例えば、(a)イソチアゾロン系化合物をグリコール系有機溶媒で溶液化して製剤とする方法、(b)イソチアゾロン系化合物の水溶液に、硝酸マグネシウムや塩化マグネシウム等の2価の金属塩を添加する方法、(c)これらの金属塩と錯体を形成させたイソチアゾロン系化合物を利用する方法、(d)金属硝酸塩を含まない3−イソチアゾロン化合物の水溶液に臭素酸塩を添加する方法(特許文献1〜4)、等が知られている。
【0006】
しかし、上記(a)の方法には、用いるグリコール系溶剤は消防法による危険物の指定を受けており、その取扱いや保存には特別な注意を払う必要があり、グリコール系有機溶媒に溶解した製剤を安全かつ簡単に使用するのは難しいという問題があった。また、安全に使用できるイソチアゾロン系化合物を含有する製剤として、水で希釈してグリコール系有機溶媒の濃度を下げた製剤が提案されているが、工業用殺菌剤として適当な濃度になるようにグリコール系有機溶媒に溶解した製剤を水で希釈した場合、イソチアゾロン系化合物が短期間で分解したり沈殿物が生ずる等の問題があった。
【0007】
また、上記(b)や(c)の方法では、製剤中の金属イオンが対象品に濁りや沈殿を生じさせ易いという問題があった。特にアニオン性高分子水系分散物(例えばエマルション等)中にこのような製剤を添加した場合、共存する金属塩のために分散物が不安定となって、凝集物が発生したり分散状態が崩れたりして分散物の品質にとって致命的な問題が生ずる。
【0008】
さらに、上記(d)の方法で用いる水溶性製剤は、通常の市販製品に含まれる3−イソチアゾロンが臭素化されてしまう場合があった。また、高濃度の臭素酸又はヨウ素酸のアルカリ金属塩を含有する製剤では、該製剤が数℃程度以下の低温になるとアルカリ金属塩が析出し、製剤の性能が低下し、臭素酸カリウムの濃度が低下すると、イソチアゾロン系化合物の熱安定性が不十分となり、イソチアゾロン系化合物が分解し易くなるという問題があった。
【0009】
【特許文献1】米国特許5,145,501号公報
【特許文献2】特開平5−221813号公報
【特許文献3】特開平5−170608号公報
【特許文献4】特開平5−286815号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような従来技術の実情に鑑みてなされたものであり、イソチアゾロン系化合物を含有する水溶性製剤において、製品として長期に亘って安定して保存でき、エマルション系塗料に含有させてもエマルションショックなどを起こすことがない、イソチアゾロン系化合物を含む水溶性製剤、及びイソチアゾロン系化合物を水溶液中で安定化する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、特に低濃度のイソチアゾロン系化合物を含む水溶液に、所定量のアルカリ金属塩を添加し、かつ、該水溶液のpHを3.5〜4.5に調整すると、製品として長期に亘って安定なまま保存できることを見出した。また、得られた製剤は、エマルション系塗料に含有させて使用する場合であっても、エマルションショックなどをひき起こすことがないものであることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
かくして本発明の第1によれば、下記(1)〜(8)のイソチアゾロン系化合物を含有する水溶性製剤が提供される。
(1)イソチアゾロン系化合物、アルカリ金属硝酸塩及び水を含有し、pHが3.5〜4.5の範囲内に調整されていることを特徴とするイソチアゾロン系化合物を含有する水溶性製剤。
(2)イソチアゾロン系化合物の含有量が、製剤全体に対して、1〜10重量%である(1)に記載のイソチアゾロン系化合物を含有する水溶性製剤。
(3)アルカリ金属硝酸塩の含有量が、製剤全体に対して、7重量%以上である(1)又は(2)に記載のイソチアゾロン系化合物を含有する水溶性製剤。
【0013】
(4)イソチアゾロン系化合物が、下記式(1)
【0014】
【化1】

【0015】
(式中、Yは、水素原子、又は置換されていてもよい炭化水素基を表し、X、Xはそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、又は炭素数1〜6のアルキル基を表す。)で示される化合物である(1)〜(3)のいずれかに記載のイソチアゾロン系化合物を含有する水溶性製剤。
(5)イソチアゾロン系化合物が、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、及び2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンの混合物である(4)に記載のイソチアゾロン系化合物を含有する水溶性製剤。
【0016】
(6)アルカリ金属硝酸塩が、硝酸ナトリウム又は硝酸カリウムである(1)〜(5)のいずれかに記載のイソチアゾロン系化合物を含有する水溶性製剤。
(7)有機酸のアルカリ金属塩をさらに含有する(1)〜(6)のいずれかに記載のイソチアゾロン系化合物を含有する水溶性製剤。
(8)有機酸のアルカリ金属塩が、酢酸のアルカリ金属塩である(7)に記載のイソチアゾロン系化合物を含有する水溶性製剤。
【0017】
本発明の第2によれば、下記(9)のイソチアゾロン系化合物の安定化方法が提供される。
(9)イソチアゾロン系化合物、アルカリ金属硝酸塩、及び水を含有する水溶液に、有機酸のアルカリ金属塩を添加して、pHを3.5〜4.5の範囲内に調整することを特徴とするイソチアゾロン系化合物の安定化方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明の第1によれば、製品として長期に亘って安定して保存でき、エマルション系塗料に含有させてもエマルションショックなどを起こすことがない、イソチアゾロン系化合物を含有する水溶性製剤が提供される。
本発明の第2によれば、イソチアゾロン系化合物を水溶液中で、長期に亘って安定化することができるイソチアゾロン系化合物の安定化方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。
1)イソチアゾロン系化合物を含有する水溶性製剤
本発明のイソチアゾロン系化合物を含有する水溶性製剤は、イソチアゾロン系化合物、アルカリ金属硝酸塩及び水を含有し、pHが3.5〜4.5の範囲内に調整されていることを特徴とする。
【0020】
(1)イソチアゾロン系化合物
本発明に用いるイソチアゾロン系化合物としては、イソチアゾロン骨格を有する殺菌活性を有する化合物であれば、特に制限されないが、下記式(1)
【0021】
【化2】

【0022】
で示される化合物が好ましい。
式(1)中、Yは、水素原子、又は置換されていてもよい炭化水素基を表す。
Yの置換されていてもよい炭化水素基の炭化水素基としては、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜6のアルケニル基、炭素数2〜6のアルキニル基、炭素数3〜10のシクロアルキル基、炭素数6〜14のアリール基等が挙げられる。
これらの中で、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数3〜10のシクロアルキル基が好ましく、炭素数1〜10のアルキル基がより好ましい。
【0023】
前記炭素数1〜10のアルキル基としては、たとえばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−へプチル基、n−オクチル基、イソオクチル基、sec−オクチル基、tert−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基等が挙げられる。
【0024】
前記Yの置換基を有していてもよい炭化水素基の置換基としては、ヒドロキシル基;塩素原子、フッ素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;シアノ基;アミノ基;カルボキシル基;メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1〜4のアルコキシ基;フェノキシ基等の炭素数6〜10のアリールオキシ基;メチルチオ基、エチルチオ基等の炭素数1〜4のアルキルチオ基;フェニルチオ基等の炭素数6〜10のアリールチオ基;等が挙げられる。
【0025】
これらの中でも、Yとしては、メチル基、エチル基、プロピル基、n−オクチル基、tert−オクチル基等の炭素数1〜10のアルキル基が特に好ましい。
【0026】
、Xはそれぞれ独立して、水素原子;塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基等の炭素数1〜6のアルキル基;を表す。
これらの中でも、X、Xとしては、X、Xが共に水素原子である場合、X、Xのうち、一方が水素原子で、他方がハロゲン原子である場合、X、Xが共にハロゲン原子である場合のいずれかであるのが好ましい。また、ハロゲン原子としては、塩素原子が特に好ましい。
【0027】
上記式(1)で表されるイソチアゾロン系化合物の具体例としては、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−エチル−4−イソチアゾリン−3−オン、4,5−ジクロロ−2−シクロヘキシル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−エチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−t−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン等が挙げられる。これらの化合物は一種単独で、あるいは二種以上からなる混合物で用いることができる。
これらの中でも、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンが好ましい。
【0028】
これらのイソチアゾロン系化合物はいずれも公知化合物であり、たとえば米国特許第3761488号明細書、米国特許第3849430号明細書、米国特許第3870795号明細書、米国特許第4067878号明細書、米国特許第4150026号明細書、米国特許第4241214号明細書、米国特許第3517022号明細書、米国特許第3065123号明細書、米国特許第3761489号明細書、および米国特許第3849430号明細書等に記載の方法またはそれらに準ずる方法によって製造することができる。
【0029】
イソチアゾロン系化合物の含有量は、特に限定されないが、通常、製剤全体に対して、0.1〜30重量%、好ましくは1〜10重量%、より好ましくは2〜6重量%である。
【0030】
(2)アルカリ金属硝酸塩
本発明の製剤は、アルカリ金属硝酸塩を含有する。アルカリ金属硝酸塩は、水溶液中のイソチアゾロン系化合物を安定化する機能を有する。また、硝酸マグネシウムなどのマグネシウム塩等をエマルション系塗料に大量に含有させると、エマルションショックを引き起こすことがあるが、本発明においては、アルカリ金属硝酸塩を使用するため、エマルション系塗料に大量に含有させ場合であっても、エマルションショックを引き起こすことがない。
【0031】
アルカリ金属硝酸塩のアルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等が挙げられ、ナトリウム又はカリウムが好ましく、ナトリウムが特に好ましい。
【0032】
アルカリ金属硝酸塩の含有量は、特に制約されないが、優れた保存安定性を有する水溶性製剤を得る上では、水溶性製剤全体に対して7重量%以上であるのが好ましく、製造コストなどを考慮すれば、7〜30重量%がより好ましく、7〜15重量%が更に好ましい。
【0033】
(3)水
本発明の水溶性製剤に用いる水としては、特に制約されず、水道水、蒸留水、脱イオン水等を使用することができる。より安定性に優れる水溶性製剤を得る上では、不純物の少ない蒸留水、脱イオン水等の使用が好ましい。
【0034】
(4)pH
本発明の水溶性製剤は、pHが3.5〜4.5の範囲内、好ましくは3.7〜4.3の範囲内、より好ましくは3.9〜4.1の範囲内に調整されていることを特徴とする。pHをこのような範囲内に調整することにより、水溶液中において、長期に亘って安定した水溶性製剤を得ることができる。
【0035】
pHを3.5〜4.5に調整する方法としては、水溶性製剤のpHを3.5〜4.5の範囲に調整できる方法であれば、特に制約されない。より長期に亘って安定して保存できる水溶性製剤を得る上では、イソチアゾロン系化合物及びアルカリ金属硝酸塩を含有する水溶液に、有機酸のアルカリ金属塩を添加して、水溶液のpHが3.5〜4.5の範囲とする方法が好ましい。
【0036】
用いる有機酸のアルカリ金属塩としては、特に制限されない。
有機酸のアルカリ金属塩としては、無機酸、カルボキシル基を有する有機化合物、スルホン酸、フェノール系化合物等が挙げられ、酢酸、トリフルオロ酢酸、フタル酸、クエン酸、ギ酸、シュウ酸、酒石酸等のカルボキシル基を有する有機化合物が好ましい。また、有機酸のアルカリ金属塩のアルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムが挙げられ、ナトリウム又はカリウムが好ましい。
【0037】
これらの中でも、長期に亘って安定して保存できる水溶性製剤を得ることできること、及び製造コストの観点から、酢酸ナトリウム又は酢酸カリウムの使用がより好ましく、酢酸ナトリウムが特に好ましい。
【0038】
用いる有機酸のアルカリ金属塩の使用量は、水溶性製剤のpHを3.5〜4.5の範囲に調整できる量であれば、特に制限されないが、通常、水溶性製剤全体に対して、0.01〜1.0重量%程度となる範囲である。
【0039】
本発明の水溶性製剤は、その目的、用途等に応じて、公知の添加剤、たとえば界面活性剤、酸化防止剤等を含有していてもよい。
また、保存安定性に影響を与えない範囲であれば、硝酸マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩、グリコール系有機溶媒等を少量含有していてもよい。
【0040】
さらに本発明の水溶性製剤は、イソチアゾロン系化合物以外の他の殺菌剤を含有していても良い。他の殺菌剤としては、1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン、N−n−ブチル−1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン、イソチオシアン酸アリル、2−(4‘−チアゾリル)−ベンツイミダゾール、2−ベンツイミダゾリルカルバミン酸メチル、2−(4−チオシアノメチルチオ)ベンツチアゾール、3−ヨード−2−プロピニルブチルカーバメート、4−クロロフェニル−3−ヨードプロパギルホルマール、ジヨードメチル−p−トリルスルホン、p−クロロ−m−クレゾール、安息香酸、ソルビン酸、カプリル酸、プロピオン酸、10−ウンデシレン酸、ソルビン酸カリウム、プロピオン酸カリウム、安息香酸カリウム、フタル酸モノマグネシウム、ウンデシレン酸亜鉛、8−ヒドロキシキノリン、キノリン銅、ビス(ジメチルジチオカルバモイル)ジスルフィド、2,4,4’−トリクロロ−2’−ヒドロオキシジフェニルエーテル、N−(フルオロジクロロメチルチオ)フタルイミド、N,N−ジメチル−N’−(ジクロロフルオロメチルチオ)−N’−フェニルスルファミド、N,N−ジメチル−N’−(ジクロロフルオロメチルチオ)−N’−トリルスルファミド、ヘキサヒドロ−1,3,5−トリス(2−ヒドロキシエチル)−S−トリアジン、2−(ヒドロキシメチルアミノ)エタノール、テブコナゾール、ヒノキチオール、2,3,5,6,−テトラクロロイソフタロニトリル、2−ブロモ−2−ニトロ−1,3−プロパンジオール、2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミド、1,2−ジブロモ−2,4−ジシアノブタン、2,2−ジブロモ−2−ニトロエタノール、2−ピリジンチオール−1−オキシドナトリウム、2−ピリジンチオール−1−オキシド亜鉛、2−ピリジンチオール−1−オキシド銅、2,3,5,6−テトラクロロ−4−(メチルスルホニル)ピリジン、ジデシルジメチルアンモニウムクロリド、ジデシルジメチルアンモニウムアジペート、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、テトラデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド、グルコン酸クロルヘキシジン、塩酸クロルヘキシジン、ポリヘキサメチレンビグアナイド塩酸塩、メチレンビスチオシアネート、イソプロピルメチルフェノール、フェノール、ブチルバラペン、エチルパラベン、メチルパラペン、プロピルパラペン、メタクレゾール、オルトクレゾール、パラクレゾール、オルトフェニルフェノールナトリウム、クロロフェン、パラクロルフェノール、パラクロロメタキシレート、パラクロロクレゾール、ポリリジン、塩化銀、酸化チタン、銀等が挙げられる。
【0041】
本発明の水溶性製剤を調製する方法は、特に限定されず、各化合物の配合はどのような順序で行ってもよいが、イソチアゾロン系化合物、アルカリ金属硝酸塩、及び水を含有する水溶性製剤に、有機酸のアルカリ金属塩を添加して、pHを3.5〜4.5の範囲内に調整する方法が好ましい。この方法によれば、本発明の水溶性製剤を簡便かつ効率よく製造することができる。
【0042】
2)イソチアゾロン系化合物の安定化方法
本発明のイソチアゾロン系化合物の安定化方法は、イソチアゾロン系化合物、アルカリ金属硝酸塩及び水を含有する水溶液に、有機酸のアルカリ金属塩を添加して、pHを3.5〜4.5の範囲内に調整することを特徴とする。本発明の安定化方法によれば、水溶液中において、長期に亘ってイソチアゾロン系化合物を安定して存在させることができる。
【0043】
また、イソチアゾロン系化合物、アルカリ金属硝酸塩及び水を含有する水溶液に有機酸のアルカリ金属塩を添加して、pHを3.5〜4.5の範囲内に調整した後であっても、経時的に水溶液のpHが変化する場合がある。従って、イソチアゾロン系化合物を水溶液中で長期に亘って安定化させたい場合には、定期的に水溶液のpHを測定し、pHが3.5〜4.5に維持されるように、前記水溶液に有機酸のアルカリ金属塩を添加することも好ましい。
【0044】
本発明の水溶性製剤は、従来から使用されている種々の分野の産業において、工業用殺菌剤等として使用することができる。なかでも、製紙工程における白水、ラテックス、合成高分子エマルション、顔料、塗料、印刷版用処理液、接着剤、冷却用水、インキ、切削油、化粧用品、不織布、紡糸油、皮革等の用途等に適しており、合成高分子エマルション、紡糸油、切削油、インキ等により適している。
【0045】
本発明の水溶性製剤を使用する際には、たとえば滴下法、間欠添加法、塗布法、噴霧法、浸漬法等の公知の方法を使用することができ、使用の対象となる物や目的等により前記の方法を使い分ければよい。
またその使用量も、使用の対象となる物や目的等により適宜定めることができる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに具体的に説明する。本発明は、以下の実施例により何ら制限されない。
【0047】
(実施例1〜8、比較例1〜4)水溶性製剤の調製
適当量のイオン交換水に、市販のイソチアゾロン系殺菌剤(商品名:KATHON WT、ローム&ハース社製、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンを約10重量%、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンを約3重量%含有、以下、「殺菌剤A」と略記)及び硝酸ナトリウム(NaNO)を第1表及び第2表に示す量添加して水溶液を得た。得られた水溶液に酢酸ナトリウムを少量加えて、所定のpHに調整した後、さらに、製剤全体が100重量部となるように少量のイオン交換水を添加して、実施例1〜8、比較例1〜4の水溶性製剤を調製した。実施例1〜8、比較例1〜4の水溶性製剤中の殺菌剤A及び硝酸ナトリウム(NaNO)の含有量(重量部)、並びに、得られた各水溶性製剤のpHを第1表及び第2表にまとめて示す。
【0048】
(保存安定性試験)
実施例1〜8、比較例1〜4で得た水溶性製剤の50mlをそれぞれサンプル瓶に入れ、密栓して室温で7日間放置した。その後、水溶性製剤の着色度を肉眼で観察した。着色が濃くなるほど、イソチアゾリン系化合物の分解が進んでいることを示す。
観察した結果、無色透明である場合を◎、ほとんど着色がない場合を○、うすく茶色に着色している場合を△、茶色に着色している場合を×で評価した。評価結果を第1表及び第2表に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
第1表より、pHを4.0に固定して、硝酸ナトリウムの添加量を2重量%〜10重量%とした実施例1〜6の水溶性製剤では着色がほとんど見られず、保存安定性が優れていた。特に、硝酸ナトリウムの添加量を7重量%以上とした実施例1〜3の水溶性製剤では着色がまったく見られず、保存安定性に極めて優れていた。また、第1表には示していないが、実施例1の水溶性製剤は、14日間放置した後であっても、外観上まったく変化が見られず、無色透明を維持していた。
【0052】
第2表より、pHが3.5〜4.5である水溶性製剤(実施例1、7、8)は、保存安定性に優れていることが分かる。上述したように、pHを4.0とした実施例1の水溶性製剤は特に保存安定性に優れていた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソチアゾロン系化合物、アルカリ金属硝酸塩及び水を含有し、pHが3.5〜4.5の範囲内に調整されていることを特徴とするイソチアゾロン系化合物を含有する水溶性製剤。
【請求項2】
イソチアゾロン系化合物の含有量が、製剤全体に対して、1〜10重量%である請求項1に記載のイソチアゾロン系化合物を含有する水溶性製剤。
【請求項3】
アルカリ金属硝酸塩の含有量が、製剤全体に対して、7重量%以上である請求項1又は2に記載のイソチアゾロン系化合物を含有する水溶性製剤。
【請求項4】
イソチアゾロン系化合物が、下記式(1)
【化1】

(式中、Yは、水素原子、又は置換されていてもよい炭化水素基を表し、X、Xはそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、又は炭素数1〜6のアルキル基を表す。)で示される化合物である請求項1〜3のいずれかに記載のイソチアゾロン系化合物を含有する水溶性製剤。
【請求項5】
イソチアゾロン系化合物が、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、及び2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンの混合物である請求項4に記載のイソチアゾロン系化合物を含有する水溶性製剤。
【請求項6】
アルカリ金属硝酸塩が、硝酸ナトリウム又は硝酸カリウムである請求項1〜5のいずれかに記載のイソチアゾロン系化合物を含有する水溶性製剤。
【請求項7】
有機酸のアルカリ金属塩をさらに含有する請求項1〜6のいずれかに記載のイソチアゾロン系化合物を含有する水溶性製剤。
【請求項8】
有機酸のアルカリ金属塩が、酢酸のアルカリ金属塩である請求項7に記載のイソチアゾロン系化合物を含有する水溶性製剤。
【請求項9】
イソチアゾロン系化合物、アルカリ金属硝酸塩及び水を含有する水溶液に、有機酸のアルカリ金属塩を添加して、pHを3.5〜4.5の範囲内に調整することを特徴とするイソチアゾロン系化合物の安定化方法。

【公開番号】特開2007−230892(P2007−230892A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−52806(P2006−52806)
【出願日】平成18年2月28日(2006.2.28)
【出願人】(000004307)日本曹達株式会社 (434)
【Fターム(参考)】