説明

イヌリン複合体及びその製造方法

【課題】血糖値が気になる人などへの予防効果が期待でき、加工性の良い固体状、流動性固体状、またはシロップ状液体の新規組成物の提供。
【解決手段】イヌリンに、1種以上の糖類を溶かした溶液、果物液汁及び/又は野菜液汁を含有させて、固体、流動性固体、又はシロップ状液体として形成されるイヌリン複合体と、水分又は糖類などの水溶液をイヌリンに混合した固体状又は流動性固体状を製造するイヌリン複合体の製造方法。本発明によれば、イヌリンを含有する種々の形状の食品や医薬品等を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イヌリンを含有する複合体に関し、更に詳細には、イヌリンを高効率に摂取できる複合体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イヌリンはタマネギ、ゴボウ、ニンニク、ユリネなどの多くの食物に含まれる多糖類で、代表的な食物繊維である。その上、ビフィズス菌などの腸内有用細菌(プロビオティックス)の発育を促進するプレバイオティックスとして、近年、とみに脚光をあびている。また刊行物「プロバイオティックス,プレバイオティックス」橘川俊明著、「サプリメントと栄養管理」細谷憲政、浜野弘昭監修(日本医療企画)p.433−455(2006)(非特許文献1)に記載されるように、腸内で繁殖したプロビオティックスは腸のぜん動を活発にし、女性の多くが苦しんでいる便秘を解消する。
【0003】
イヌリン分子は一個のブドウ糖に数個ないし数十個の果糖が繋がったオリゴマーやポリマーである。例えば、特開2003−93090公報(特許文献1)では、スクロース(ショ糖)にイヌリン合成酵素を作用させてイヌリンを製造する方法が記載されている。イヌリンを加水分解すれば一個のブドウ糖分子と数多くの果糖の混合物になり、濃縮すれば果糖を主成分とするシロップが得られる。果糖は砂糖の1.5倍の甘さがあるうえ、ブドウ糖と違って腸内で吸収された後、血糖値の上昇にあまり寄与しないので糖尿病患者に優しい甘味料とされている。ホームページ“http://cinco.noblog.net/blog/b/10180942.html”(非特許文献2)及び“http://miamonte.com/02sum/japanese/products/sweet.html”(非特許文献3)に記載されるように、アガベ植物から得られたシロップはアガベシロップと称される。また、ホームページ“http://www.orafti.com/orafti/orafti. nsf/LS/600FC6DDC15BA53DC125704C0039FEA0?opendocument”(非特許文献4)に記載されるように、チコリ・イヌリン等から得られたORAFTI Liquid Sweetenersなどが市販されている。
【特許文献1】特開2003−93090公報
【非特許文献1】「プロバイオティックス,プレバイオティックス」橘川俊明著、「サプリメントと栄養管理」細谷憲政、浜野弘昭監修(日本医療企画)p.433−455 (2006).
【非特許文献2】http://cinco.noblog.net/blog/b/10180942.html
【非特許文献3】http://miamonte.com/02sum/japanese/products/sweet.html
【非特許文献4】http://www.orafti.com/orafti/orafti.nsf/LS/600FC6DDC15BA53DC125704C0039FEA0?opendocument
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、イヌリン(食物繊維)を増強して砂糖などの消化性糖類を減らすことで、血糖値の上昇にあまり寄与せず糖尿病患者にも優しい甘味料として使用できる可能性があることを想到した。しかしながら、上述したイヌリンから得られる従来のシロップには、イヌリンが殆ど含まれていない。即ち、製造した高水溶性アガベ・イヌリンを含有させたアガベイヌリンシロップやブドウ糖、果糖、砂糖、水あめ、蜂蜜などの糖類のシロップに、チコリ・イヌリンや合成イヌリンを加えたイヌリンシロップは、考えられてこなかった。また、市販される粉体状の固体イヌリンは成型が困難であり、単体から固形製品を製造することはできなかった。更に、果物液汁及び/又は野菜液汁に、アガベ・イヌリンを加えることにより、シロップ状液体を製造することも考えられてこなかった。
【0005】
従来のイヌリンは粉体状の白色固体として製造され、多くの場合、水溶液として使用されるが、水に入れた途端、粉体が塊りとなり、その表面に水を含んで非常に溶け難くなった「団子状態」になり易く、消費者に不快感を与えていた。即ち、従来のイヌリンは水溶性が低く、粉体が固まりとなり、イヌリンを含有するシロップを製造することは難しかった。特に、キクイモやチコリ等のキク科植物から製造されるイヌリンは、水溶性が低く、シロップやジュースにすると粉体触感が残留する弱点を有していた。本発明者らの一部は、高水溶性のイヌリンを得るため、アガベ植物(リュウゼツラン)のピーニャ(パイナップルのような球茎)から高水溶性アガベ・イヌリンの製造方法を開発しており、既に本件出願人により特許出願(特願2006−159273)が行われている。しかし、アガベ植物から果糖を抽出する技術は開発されているが、そのシロップに高水溶性アガベ・イヌリンなどを含有させた食品は、開発されてこなかった。また、果物類及び/又は野菜類のジュースを製造する技術は開発されているが、そのジュースにアガベ・イヌリンを含有させたシロップ状液体の食品は開発されてこなかった。
【0006】
従って、本発明の目的は、イヌリンを含有すると共に、血糖値が気になる人などへの予防効果が期待でき、加工性の良い固体状、流動性固体状またはシロップ状液体の新規物質を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の形態は、イヌリンに水分及び/又は1種以上の糖類を含有させて、固体、流動性固体又はシロップ状液体として形成されるイヌリン複合体である。
【0008】
本発明の第2の形態は、第1の形態において、前記イヌリンが高水溶性アガベ・イヌリン、チコリ・イヌリン及び合成イヌリンから選択された1種以上のイヌリンを含むイヌリン複合体である。
【0009】
本発明の第3の形態は、第1又は第2の形態において、前記水分と前記1種以上の糖類が水溶液の形態で前記イヌリンに混合されるイヌリン複合体である。
【0010】
本発明の第4の形態は、第3の形態において、前記水溶液がアガベシロップであるイヌリン複合体である。
【0011】
本発明の第5の形態は、第1〜4のいずれかの形態において、前記水溶液の質量比が全体質量の0.1〜10質量%であり、前記固体が粉体であるイヌリン複合体である。
【0012】
本発明の第6の形態は、第1〜4のいずれかの形態において、前記水溶液の質量比が全体質量の5〜30質量%であり、前記流動性固体として形成されるイヌリン複合体である。
【0013】
本発明の第7の形態は、第1〜6のいずれかの形態において、前記水溶液に溶解し得るオキシ酸、ミネラル及び/又は金属錯体から選択された1種以上の助剤が添加されるイヌリン複合体である。
【0014】
本発明の第8の形態は、第1〜7のいずれかの形態において、ミネラル及び/又は金属錯体が助剤として添加されるイヌリン複合体である。
【0015】
本発明の第9の形態は、イヌリンに水分を含有させて、シロップ状液体として形成されるイヌリン複合体であり、前記水分が果物液汁及び/又は野菜液汁に由来することを特徴とするイヌリン複合体である。
【0016】
本発明の第10の形態は、第9の形態において、前記水分に溶解し得るオキシ酸から選択された1種以上の助剤が添加されるイヌリン複合体である。
【0017】
本発明の第11の形態は、第9又は10の形態において、前記水分に溶解し得るミネラル及び/又は金属錯体からなる1種以上の助剤が添加されるイヌリン複合体である。
【0018】
本発明の第12の形態は、水分又は水溶液をイヌリンに混合して、固体状、流動性固体状又はシロップ状液体の複合体を製造するイヌリン複合体の製造方法である。
【0019】
本発明の第13の形態は、第12の形態において、前記水溶液が1種以上の糖類を水分に溶解させて生成されるイヌリン複合体の製造方法である。
【0020】
本発明の第14の形態は、第13の形態において、前記水溶液の糖分濃度が1質量%〜80質量%であるイヌリン複合体の製造方法である。
【0021】
本発明の第15の形態は、第12〜第14のいずれかの形態において、前記水溶液としてアガベシロップを混合するイヌリン複合体の製造方法である。
【0022】
本発明の第16の形態は、第12〜15のいずれかの形態において、前記水分又は前記水溶液の質量比を全体質量の0.1〜10質量%に調整し、粉体状の複合体を製造するイヌリン複合体の製造方法である。
【0023】
本発明の第17の形態は、第12〜15のいずれかの形態において、前記水分又は前記水溶液の質量比を全体質量の5〜30質量%に調整し、前記水分又は前記水溶液を加熱してこの加熱水溶液を前記イヌリンに混合して、流動性固体状の複合体を製造するイヌリン複合体の製造方法である。
【0024】
本発明の第18の形態は、第12〜17のいずれかの形態において、前記イヌリンがアガベの液汁から不純物を除去した高水溶性アガベ・イヌリンであるイヌリン複合体の製造方法である。
【0025】
本発明の第19の形態は、第12〜18のいずれかの形態において、オキシ酸、ミネラル及び/又は金属錯体から選択される1種以上の助剤を前記水分又は前記水溶液に溶解させるイヌリン複合体の製造方法である。
【0026】
本発明の第20の形態は、第12〜19のいずれかの形態において、ミネラル及び/又は金属錯体を助剤として前記水分又は前記水溶液に分散又は溶解させるイヌリン複合体の製造方法である。
【0027】
本発明の第21の形態は、水分をイヌリンに混合して、シロップ液体状の複合体を製造し、前記水分が果物液汁及び/又は野菜液汁から由来することを特徴とするイヌリン複合体の製造方法である。
【0028】
本発明の第22の形態は、第21の形態において、オキシ酸から選択される1種以上の助剤を前記水分に溶解させるイヌリン複合体の製造方法である。
【0029】
本発明の第23の形態は、第21又は22の形態において、ミネラル及び/又は金属錯体からなる1種以上の助剤を前記水分に溶解させるイヌリン複合体の製造方法である。
【発明の効果】
【0030】
本発明の第1の形態によれば、成型に適した固体状、流動性固体状又はシロップ状液体のイヌリン複合体が形成されるから、用途に応じて硬さ、加工性、粘度、水分活性などを適宜に選択し、イヌリン複合体からなる食品や医薬品等を提供することができる。固体イヌリンは、イヌリン分子がOH基によって分子内および分子間の水素結合で結合して固化している。ところがアガベ・イヌリンの場合、1gの水が3g以上のイヌリンを溶解する事を見出した。これはイヌリン構成単位の単糖1分子当たりほぼ3分子の水があれば液化し、水分子は結合水として働きながら、短時間のうちに解離と結合を繰り返していることを示す。
【0031】
それ故、イヌリン粉体などに少量の水を加えると、イヌリン粉体粒子の表面に薄い液体膜が形成し、接着力が弱いので粉体状複合体になるが、加圧成型すると液体膜が粘着して固体製品が得られる。また、固体イヌリンに糖類(イヌリンを含む)又は1分子内に水酸基(OH基)を複数含有するアスコルビン酸、クエン酸、グルコン酸などを水溶液として混合すると、難溶解性のイヌリン分子を、易溶解性分子が水素結合により架橋する。前記難溶解性分子及び易溶解性分子は、溶媒の水分子と水素結合を形成するが、前記易溶解性分子と難溶解性分子が架橋する際に、前記水分子が解離して、ゆっくりと固体内部のイヌリン分子の結合水となって溶液から除去され、複合体が得られる。この混合物中の水は加熱、減圧操作により必要に応じて除去する事もできる。前記水分子の除去により、架橋が更に促進される。その上、単糖、二糖、多糖(イヌリンなど)を含む糖類の溶質は、水溶液中では水分子と水素結合を形成しているが、水分の減少に伴って固体表面に豊富に存在するOH基とイヌリン分子のOH基の間で水素結合を形成し、複合体となり固形化する。
【0032】
イヌリンに適量の水を加えたり、適量の糖類水溶液を糖分濃度を調整して混合したりすると、イヌリン分子に水分子が結合した液状複合体になる。前記液状複合体は、イヌリン分子間の水素結合を保存しているので、イヌリン分子同士が架橋された構造になっている。この架橋により、粘度が増加する。又、溶媒の水分子がイヌリン分子と水素結合を形成し、水分活性が減少するので所望の粘度と所望の水分活性を有するイヌリン複合体を合成することができる。
【0033】
更に、高濃度に糖分を含んだブドウ糖、果糖、砂糖水溶液、水飴、蜂蜜などにイヌリンは室温では殆ど溶けないが、加熱させてイヌリンを強制的に溶かした後に冷却すると粘度が急激に増加する。これは、前記糖の分子がイヌリン分子と水素結合により架橋して、複合体を形成する為である。加熱により粘度を減らし、シロップの数倍の重量を有するイヌリンを加え、室温まで放置することにより、イヌリン複合体からなる飴状の流動性固体を形成する。さらに、イヌリンを加えることにより脆いガラス状固体を得ることができ、このガラス状固体を粉砕してイヌリン複合体の粉体を得ることができる。
【0034】
従って、本発明に係る固体状、流動性固体状又はシロップ状液体のイヌリン複合体を加工して種々の食品や医薬品等に用いることができる。更に、イヌリンが増強された甘味料やプレバイオティックスとして摂取することができる。本発明に係るイヌリン複合体は、血糖値の上昇にあまり寄与せず糖尿病患者にも優しく、イヌリンの整腸作用、コレステロール低下作用、ミネラル吸収促進作用、ビフィズス菌増殖作用などを有している。
【0035】
本発明の第2の形態によれば、前記イヌリンが高水溶性アガベ・イヌリン、チコリ・イヌリン及び合成イヌリンから選択された1種以上のイヌリンを含むから、用途に応じて適宜に含有されるイヌリンの種類を選択することができる。前述のように、イヌリン分子は、果糖が直線状ないし分岐状に重合し、末端にブドウ糖が結合した多糖類である。高水溶性アガベ・イヌリンは、チコリ・イヌリンに比べ水溶性が高く、このような水溶性の違いは構造の相違によるものと考えられる。従って、イヌリンの種類や配合比を適宜に調整し、所望の特性を付与することができる。更に、種々のイヌリンを原料として用いることで、本発明に係るイヌリン複合体を安定に供給することができる。チコリ・イヌリンは、チコリから得られるイヌリンであり、合成イヌリンは、例えば、イヌリン合成酵素を用いて糖類から合成されるイヌリンである。高水溶性アガベ・イヌリンは、アガベ植物からイヌリンを抽出する方法を本発明者らの一部が開発し、得られたものである。アガベ液汁の不純物を除去して精製・濃縮すると70%以上の高濃度イヌリン溶液を得ることができる。本発明者らの一部は、従来のキク科植物から離れて、メキシコ国に植生するアガベ植物に着目した。メキシコ国は乾性気候であり、アロエに類似した多肉質のアガベ植物は安定して砂漠に植生しており、気候変動が少ないためにアガベ植物の生産量は安定している。従って、本発明に係るイヌリン複合体を安定に供給することができる。
【0036】
本発明の第3の形態によれば、前記1種以上の糖類と前記水分が水溶液の形態でイヌリンに混合されるから、所望の粘度を有し、均一なイヌリン複合体の固体又は流動性固体を比較的容易に得ることができる。水分に糖類を溶解させた水溶液を、例えば、イヌリンに噴霧すれば、イヌリン複合体からなる均一な粉体や流動性固体が形成される。前記水溶液としては、糖類が溶解した種々の溶液として、ブドウ糖や果糖の溶液、砂糖水、水飴、蜂蜜、アガベシロップなどを用いることができ、糖類の濃度を増強することにより貯蔵寿命を向上させることができる。
【0037】
本発明の第4の形態によれば、前記水溶液に溶解する糖類が主として果糖(フルクトース)からなるアガベシロップが用いられるから、甘味料として摂取しても血糖値の上昇を抑制することができる。アガベシロップは、イヌリンを強制的に果糖まで分解させたものであり、糖分濃度が高い(65〜75%)ので、カビや細菌類などの微生物が繁殖できず、蓋を閉めておくと室温で長期間の保存に耐える。アガベシロップにイヌリンを溶かし込めば、製品は高い糖分濃度により長期の保存が可能である。更に、便秘を解消したり、食物繊維を補給するためにそのまま摂取する事ができ、食品の原料として用いることができる。
【0038】
本発明の第5の形態によれば、前記水分又は前記水溶液の質量比が全体質量の0.1〜10質量%に設定され、粉体状のイヌリン複合体が形成されるから、用途に応じて種々の形状に成型することができる。粉体状の固体イヌリンに0.1〜10質量%の前記水分又は前記水溶液を加えると、不溶状態にあるイヌリン粉体粒子表面の水酸基は、前記溶解イヌリン及び水分子と結合して薄い水溶液膜を形成するが、接着力は弱く、粉体のままである。成型過程で加圧される時、圧縮力の集中した粒子は特に強く圧縮され、粒子間に存在する溶媒は不接触空間に押しやられるが、固体表面に水素結合した溶解イヌリン分子はそのまま留まる。水分子は、ゆっくりと固体内部のイヌリン分子の結合水となって溶液から除去されるか、非結合水と共に加熱、減圧操作により除去される。結合水の一部が失われると、溶解イヌリン分子内には多くの水酸基が存在するので、複数個のイヌリン粉体粒子が1分子の溶解イヌリンと水素結合する事によって架橋され、固形化した粉体状のイヌリン複合体を得ることができる。
【0039】
本発明の第6の形態によれば、前記水分又は前記水溶液の質量比が全体質量の5〜30質量%に設定され、イヌリン複合体が流動性固体を形成し、所望の形状及び形態を有するイヌリン含有製品に利用することができる。前記流動性固体は、キャラメル状もしくは水飴状の比較的粘度の高い固体であり、成形型などを用いて種々の形状に成型することができる。前記流動性固体は、5〜30質量%の水分又は水溶液を加熱して又は加熱しながら混合することで形成され、前記水分又は水溶液の量を5〜30質量%の範囲内で調整して、所望の粘度を付与することができる。
【0040】
本発明の第7の形態によれば、前記水分又は前記水溶液に溶解し得るオキシ酸から選択される1種以上の助剤を添加して、イヌリン複合体を架橋することができ、所定のイヌリン成分を安定に保持するイヌリン複合体を提供することができる。オキシ酸溶液をイヌリンに混合した場合、イヌリンは加水分解され、イヌリン成分の含有量が低減する。アスコルビン酸、クエン酸、グルコン酸などのオキシ酸溶液を用いてイヌリン複合体が生成される場合、ナトリウム塩や二ナトリウム塩などを助剤として用い、pHの低下を抑制することができる。例えば、ビタミンCに対してはナトリウム塩、クエン酸に対しては二ナトリウム塩または三ナトリウム塩を助剤として添加することが好適である。
【0041】
本発明の第8の形態によれば、ミネラル及び/又は金属錯体が助剤として添加されるから、ミネラル(金属塩を含む)の吸収を高めることが知られているイヌリンと共にミネラルを体内に摂取することができるイヌリン含有製品を提供することができる。現代の食生活において、食物繊維であるイヌリンと共にミネラルの摂取は、健康状態を維持又は回復する上で重要な要素の1つである。本発明によれば、代表的な食物繊維であるイヌリンと共に亜鉛、カリウム、カルシウム、クロム、セレン、鉄、ナトリウム、マグネシウム、マンガンなどのミネラル及び/又は金属錯体を含有させることができる。
【0042】
本発明の第9の形態によれば、前記果実液汁及び/又は野菜液汁に、溶解しうる量のイヌリンを用いることで、果実液汁及び/又は野菜液汁に含まれる栄養成分をもつイヌリン複合体を得ることができる。果実液汁及び野菜液汁に含まれる糖分、ビタミン及びミネラル等の栄養成分は健康状態を維持又は回復する上で重要な要素である。これらを吸収する身体機能をイヌリンが助長することができる。又、果実及び/又は野菜の溶質にはOH基が豊富に存在する。従って、イヌリンの増加に伴い、前記OH基と、溶解イヌリン分子のOH基の間で水素結合を形成して結合し、複合体となる。本形態における複合体は、果物及び/又は野菜の溶質がイヌリン分子を架橋する構造を持ち、尚且つ水に溶解するという点で、第1、3,4及び6の形態における複合体と類似点を有す。添加するイヌリンの量を調整することにより、所望の粘度を有するイヌリン複合体をもつシロップ状液体を製造することができる。
【0043】
本発明の第10の形態によれば、前記果実液汁及び/又は野菜液汁に、溶解し得るアスコルビン酸及びクエン酸などのオキシ酸から選択される1種以上の助剤を添加し、さらに、溶解しうる量のイヌリンを用いることで、果実液汁及び/又は野菜液汁に含まれる栄養成分をもつイヌリン複合体を得ることができる。糖類(イヌリンを含む)及び1分子内に水酸基(OH基)を複数含有するアスコルビン酸、クエン酸、グルコン酸などのオキシ酸は、イヌリン複合体を架橋することができる。従って、前記オキシ酸を溶液に混合すると、溶液の水分子はイヌリン分子の結合水となって溶液から除去され、複合体が得られる。この複合体は、果実液汁及び/又は野菜液汁に含まれる栄養成分を有し、イヌリン及びオキシ酸により吸収が促進される。
【0044】
本発明の第11の形態によれば、前記果実液汁及び/又は野菜液汁に、ミネラル及び/又は金属錯体からなる1種以上の助剤を溶解させ、さらに、溶解しうる量のイヌリンを用いることで、果実液汁及び/又は野菜液汁に含まれる栄養成分をもつイヌリン複合体を得ることができる。果実液汁及び野菜液汁は、ミネラルを豊富に含む反面、身体に必要なミネラル類が揃って含まれてはいないので、必要なミネラルを添加する利点はある。この場合、ミネラル及び/又は金属錯体が助剤として添加されるから、ミネラルの吸収を高めることが知られているイヌリンと共にミネラルを体内に摂取することができるイヌリン含有製品を提供することができる。現代の食生活において、ミネラルの摂取は、健康状態を維持又は回復する上で重要な要素の1つである。本発明によれば、亜鉛、カリウム、カルシウム、クロム、セレン、鉄、ナトリウム、マグネシウム、マンガンなどのミネラル及び/又は金属錯体を含有させることができる。
【0045】
本発明の第12の形態によれば、水分又は水溶液をイヌリンに混合して、固体状、流動性固体状又はシロップ状液体の複合体を製造するから、種々のイヌリン含有製品に適したイヌリン複合体を提供することができる。粉体状又は凝固体状の固体イヌリンに前記水分又は水溶液を混合すると、前述のように、溶媒の水分子はゆっくりと結合水となって溶液から除去されるか、加熱、減圧操作により除去される。更に、溶解した液体イヌリンやシロップ中などの糖類の溶質は、水溶液中では水分子と水素結合を形成しているが、水分の減少に伴い、固体表面に豊富に存在するOH基と、溶解イヌリン分子のOH基の間で水素結合を形成して結合し、複合体となり固形化又はシロップ液体化すると考えられる。換言すれば、イヌリンに混合する水分の量や糖分濃度を調整することにより、所望の粘度を有するイヌリン複合体を製造することができる。
【0046】
高濃度イヌリン溶液は、アガベシロップを含むシロップ類、水飴、蜂蜜、糖アルコール、オリゴ糖などを混ぜると均一な溶液となり、貯蔵寿命が増加する。高濃度に糖分を含んだ高濃度シロップにイヌリンは殆ど溶けないが、加熱してイヌリンを強制的に溶解させた後に冷却すると粘度が急激に増加する。加熱により粘度を下げて、シロップの数倍の重量を有するイヌリンを加え、室温まで放置することにより、イヌリン複合体からなる飴状の流動性固体又はシロップ状液体を製造することができる。更に、イヌリンを加えることにより脆いガラス状固体を得ることができ、このガラス状固体からイヌリン複合体の粉体を得ることができる。
【0047】
本発明の第13の形態によれば、前記水溶液が1種以上の糖類を水分に溶解させて生成されるから、イヌリンと糖類の含有比率を容易に調整することができると共に、所定の粘度をイヌリン複合体に付与することができる。例えば、ブドウ糖、果糖、砂糖又は糖アルコール類の溶液、水飴、蜂蜜などを用いてイヌリン複合体を製造することができる。
【0048】
本発明の第14の形態によれば、前記水溶液の糖分濃度が1質量%〜80質量%の範囲で調整されるから、所望量の糖分とイヌリン成分を含有するイヌリン複合体を製造することができる。更に、イヌリン複合体の用途に応じて、保存期間に適した水分活性や加工に適した粘度を付与することができる。
【0049】
本発明の第15の形態によれば、イヌリンにアガベシロップを混合するから、主として果糖とイヌリンを含有するイヌリン複合体を製造することができる。このイヌリン複合体は、糖類の主成分が果糖であるから、甘味料として用いた場合、血糖値の上昇を抑制することができる。更に、前述したイヌリンの種々の作用が付与され、健康食品として好適な効果が発揮される。
【0050】
本発明の第16の形態によれば、前記水分又は前記水溶液の質量比を全体質量の0.1〜10質量%に調整するから、成型可能な粉体状の複合体を製造することができる。粉体状の固体イヌリンに上記の範囲の前記水分又は前記水溶液を加えると、前述したように、不溶状態にあるイヌリン粉体粒子表面の水酸基は、前記水分と結合して薄い水溶液膜を形成するが、接着力は弱く、粉体状のイヌリン複合体を製造することができる。更に、水分子は固体内部のイヌリン分子の結合水となって溶液から除去されるか、非結合水と共に加熱、減圧操作により除去されるから、液体イヌリンが水素結合して固形化したイヌリン複合体が得られる。この固形化したイヌリン複合体を粉砕して粉体を製造することができ、粉砕時間や粉砕手段により粉体粒子の平均粒径を制御することができる。
【0051】
本発明の第17の形態によれば、前記水分又は前記水溶液の質量比を全体質量の5〜30質量%に調整するから、イヌリン複合体が流動性固体を形成し、所望の形状及び形態に加工可能なイヌリン複合体を製造できる。流動性固体状のイヌリン複合体を用いれば、成形型などを用いて種々の形状に成型することができる。また、甘味料やジュースなどの食品に用いれば、イヌリンを豊富に含んだ健康食品として利用することができる。
【0052】
本発明の第18の形態によれば、前記イヌリンがアガベの液汁から不純物を除去した高水溶性アガベ・イヌリンであるから、果糖を糖分として含有すると共に食物繊維であるイヌリンを多量に含むイヌリン複合体を製造することができる。従って、本発明に係るイヌリン複合体を健康食品に用いれば、イヌリンの整腸作用などを有すると共に、糖分による血糖値の上昇を抑制することができる。
【0053】
本発明の第19の形態によれば、前述のように、オキシ酸溶液を用いてイヌリン複合体を生成する場合、ナトリウム塩や二ナトリウム塩などの金属塩を用いる事によってpHの低下を抑制することができる。従って、イヌリンの加水分解を抑制し、所定量のイヌリン成分を含有するイヌリン複合体を製造することができる。
【0054】
本発明の第20の形態によれば、ミネラル及び/又は金属錯体からなる1種以上の助剤を前記水分又は前記水溶液に分散又は溶解させるから、イヌリンと共に亜鉛、カリウム、カルシウム、クロム、セレン、鉄、ナトリウム、マグネシウム、マンガンなどのミネラル及び/又は金属錯体を含有させることができる。従って、高機能の健康食品やサプリメントを提供することができる。
【0055】
本発明の第21の形態によれば、果実液汁及び/又は野菜液汁にイヌリンを混合して、シロップ液体状の複合体を製造するから、種々の果実及び/又は野菜製品に適したイヌリン複合体を提供することができる。溶解した液体イヌリンやシロップ中などの果実及び/又は野菜の溶質は、イヌリンの増加に伴い、豊富に存在するOH基と、溶解イヌリン分子のOH基の間で水素結合を形成して結合し、複合体となりシロップ化すると考えられる。換言すれば、添加するイヌリンの量を調整することにより、所望の粘度を有するイヌリン複合体をもつシロップ状液体を製造することができる。
【0056】
本発明の第22の形態によれば、前記果実液汁及び/又は野菜液汁の1種以上に、溶解し得るアスコルビン酸、クエン酸及びグルコン酸などのオキシ酸から選択される1種以上の助剤を添加し、イヌリンの含有比率を調整することで、所定の粘度をもつイヌリン複合体に付与することができる。糖類(イヌリンを含む)及び1分子内に水酸基(OH基)を複数含有するアスコルビン酸、クエン酸、グルコン酸などのオキシ酸は、イヌリン複合体を架橋することができる。従って、前記オキシ酸を溶液に混合すると、溶液の水分子はイヌリン分子の結合水となって溶液から除去され、複合体が得られる。この複合体は、果実液汁及び/又は野菜液汁に含まれる栄養成分を有し、イヌリン及びオキシ酸により吸収が促進される。
【0057】
本発明の第23の形態によれば、前記果実液汁及び/又は野菜液汁の1種以上に、溶解し得る亜鉛、カリウム、カルシウム、クロム、セレン、鉄、ナトリウム、マグネシウム、マンガンなどのミネラル及び/又は金属錯体からなる1種以上の助剤を添加し、イヌリンの含有比率を調整することで、所定の粘度をもつイヌリン複合体に付与することができる。果実液汁及び野菜液汁は、ミネラルを豊富に含む反面、身体に必要なミネラル類が揃って含まれてはいないので、必要なミネラルを添加する利点はある。この場合、ミネラル及び/又は金属錯体が助剤として添加されるから、ミネラルの吸収を高めることが知られているイヌリンと共にミネラルを体内に摂取することができるイヌリン含有製品を提供することができる。現代の食生活において、ミネラルの摂取は、健康状態を維持又は回復する上で重要な要素の1つである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0058】
以下の実施例は、この発明を説明するために示したものであり、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0059】
[実施例1]
アガベ・イヌリンの分子量分布を、サイズ排除クロマトグラフィーにより測定した。平均分子量は約3500である事がわかった。測定データを図1に示す。
【0060】
ラウールの法則によると、水、Xモルと不揮発性溶質、Yモルからなる溶液の蒸気圧Pは、P=[X/(X+Y)]×Pで表わされる事がよく知られている。ここでPおよびPは水および水溶液の蒸気圧である。また定義により、水分活性Awは、Aw=P/Pなので、この2成分系の水分活性は、式(1)として表せることになる。
Aw=X/(X+Y) (1)
【0061】
例えば、60%イヌリン溶液、1kgの組成は、水が400g、及びイヌリンが600gとなる。平均分子量を3500とすると、各成分のモル数は、水が400/18=22.2モル、並びにイヌリンが600/3500=0.17モルとなる。これらの値を数1に当てはめると、水分活性計算値として、Aw=22/(22+0.17)=0.99が得られる。50、60、70及び75%における同様の計算値及び実測値を図2に示す。
【0062】
イヌリン75%の水溶液における水分活性の実測値(0.78)は、計算値(0.98)に比べ、格段に小さく、大量の水がイヌリン分子の回りに固定されている事を示唆している。実測値と計算値の乖離は60、70及び75%で顕著であり、50%では両値が近くなる。
【0063】
ラウールの式(1)において、イヌリン1分子あたりn個の水分子が固定されるとすると、式(2)における補正値、Awcorr、が得られる。
Awcorr=(X‐nY)/((X‐nY)+Y) (2)
【0064】
Awcorrの値としてAw実測値を用い、nを求めると、表1第4列「イヌリン1分子あたりの結合水数」に掲げる値が得られ、これを21.6(イヌリン1分子中に含まれる単糖の数)で除すると、第5列「構成糖1分子あたりの結合水数」に掲げる値が得られる。
【0065】
【表1】

【0066】
したがって、高濃度では1単糖あたり3個以下の水が結合し、濃度が低くなるにつれて結合水数が増加し、イヌリン分子が水分子の構成する鞘で包まれる様子が良く表わされている。
【0067】
高濃度イヌリン溶液において低濃度より結合水が少ないのは、(1)水分子が2分子以上のイヌリンに架橋している、(2)イヌリン分子内および分子間での水素結合の生成によるものと推定され、本特許記載の複合体生成を明示している。それゆえ、複合体の形成能は60%以上の高濃度では強く、50%以下ではあまり強くない。
【0068】
前記液状複合体は、図3に示したとおり、イヌリン分子同士が架橋された構造になっている。図3では、イヌリン分子が水素結合により直接に結合しているものとして描かれるが、イヌリン分子が水分子により架橋されているとしても、イヌリン分子が複合体を形成していることに変わりはない。イヌリンに適量の水を加えたり、適量の糖類水溶液を糖分濃度を調整して混合したりすると、架橋による複合体形成のため、粘度が増加する。又、溶媒の水分子がイヌリン分子と水素結合を形成し、水分活性が減少するので所望の粘度と所望の水分活性を有するイヌリン複合体を合成することができる。
【0069】
また、固体イヌリンに糖類(イヌリンを含む)又は1分子内に水酸基(OH基)を複数含有するアスコルビン酸、クエン酸、グルコン酸などを水溶液として混合すると、難溶解性のイヌリン分子を、易溶解性分子が水素結合により架橋し、前記水分子が解離して、複合体が得られる。この過程を図4に示す。それ故、イヌリン粉体などに少量の水を加えると、イヌリン粉体粒子の表面に薄い液体膜が形成し、接着力が弱いので粉体状複合体になるが、加圧成型すると液体膜が粘着して固体製品が得られる。
【0070】
[実施例2]
高水溶性アガベ・イヌリン50gを室温で激しく撹拌しながら5mLの水を噴霧してやや重い感じのする粉体を得た。この粉体を加圧成型して、形を保った固形製品を得た。即ち、イヌリンと水分を混合することにより、成型可能なイヌリン複合体が形成される。成型した固形製品は、サプリメント用の錠剤などとして利用することができる。
【0071】
[実施例3]
高水溶性アガベ・イヌリン50gを室温で激しく撹拌しながら5mLのアガベの液汁から不純物を除去して、水溶媒のみで製造した高水溶性アガベ・イヌリンが溶解した水溶液を噴霧してやや重い感じのする粉体を得た。この粉体を加圧成型して、形を保った硬い固形製品を得た。より硬い固形製品が得られた要因として、糖類が溶解して水分量が低減化したことと、溶解した液体イヌリンの存在がある。
【0072】
[実施例4]
高水溶性アガベ・イヌリン50gを室温で激しく撹拌しながら5mLの10%アガベシロップを噴霧してやや粘着性のある粉体を得た。この粉体を加圧成型して、所定の形状を保った硬い固形製品を得た。これは、アガベシロップが成型可能な粉体を製造するために利用できることを示している。
【0073】
[実施例5]
実施例2〜4において、高水溶性アガベ・イヌリンに替えてOrafti社製イヌリン(Beneo ST)を用いたが、実施例2〜4と同様の結果が得られており、イヌリン複合体の粉体及びこれを用いた固形製品が得られている。
【0074】
[実施例6]
実施例2〜4において、高水溶性アガベ・イヌリンに替えて合成イヌリンを用いたが、実施例2〜4と同様の結果が得られており、イヌリン複合体の粉体及びこれを用いた固形製品が得られている。
【0075】
[実施例7]
実施例4および5において、アガベシロップ及びBeneo STに替えて60%の砂糖水を用いたが、実施例4および5と同様の結果を得た。即ち、イヌリン由来の糖類だけでなく、他の糖類を用いてイヌリン複合体を製造することが確認され、ブドウ糖、果糖、砂糖、水あめ、蜂蜜を用いた場合においても同様の結果が得られている。
【0076】
[実施例8]
高水溶性アガベ・イヌリンの加水分解によって得られた糖類混合物を約70%含有するアガベシロップ20mLを100℃に加熱し、高水溶性アガベ・イヌリンを少量ずつ加え、スパチュラでかき混ぜて均一にし、ポリエチレンシートに3mm厚に広げたものを室温付近まで冷却した。得られた製品を表2に示す。
【0077】
【表2】

【0078】
何れの製品も加熱すれば流動性が増し、冷却すれば固さが増加する吸湿性物質であった。特に、製品番号3〜6のものは切断、穿孔などの加工性に富み、加熱成型が容易である。また、番号5および6の製品は粉砕により粉体化できる。
【0079】
[実施例9]
主にブドウ糖からなる市販シロップ(65%固体含有)20mLを100℃に加熱し、Orafti社製イヌリン(Beneo ST)を少量ずつ加え、スパチュラでかき混ぜて均一にし、ポリエチレンシートに3mm厚に広げたものを室温付近まで冷却し、得た製品は実施例7と同じであった。
【0080】
[実施例10]
主にブドウ糖からなる市販シロップ(65%固体含有)20mLを100℃に加熱し、合成イヌリンを少量ずつ加え、スパチュラでかき混ぜて均一にし、ポリエチレンシートに3mm厚に広げたものを室温付近まで冷却し、得た製品は実施例7と同じであった。
【0081】
[実施例11]
水20mLを100℃に加熱し、Orafti社製イヌリン(Beneo ST)80gを、スパチュラでかき混ぜて均一にしながら少量ずつ加え、ポリエチレンシートに3mm厚に広げたものを室温付近まで冷却し、柔らかい飴状の製品を得た。
【0082】
[実施例12]
水20mLを100℃に加熱し、合成イヌリン80gを、スパチュラでかき混ぜて均一にしながら少量ずつ加え、ポリエチレンシートに3mm厚に広げたものを室温付近まで冷却し、柔らかい飴状の製品を得た。
【0083】
[実施例13]
水を100℃に加熱し、高水溶性アガベ・イヌリンを、スパチュラでかき混ぜて均一にしながら少量ずつ加え、ポリエチレンシートに3mm厚に広げたものを室温付近まで冷却した。得られた製品を表3に示す。
【0084】
【表3】

【0085】
[実施例14]
アガベ・イヌリン50gを室温で激しく撹拌しながらアスコルビン酸ナトリウム20%、クエン酸二ナトリウム20%およびグルコン酸亜鉛5%を含む水溶液5mLを噴霧してやや重い感じのする粉体を得た。この粉体を加圧成型し、比較的強固な形状を保った固形製品を得た。
【0086】
[実施例15]
アスコルビン酸ナトリウム20%、クエン酸二ナトリウム20%およびグルコン酸亜鉛5%を含む水溶液20mLを100℃に加熱し、アガベ・イヌリン80gを、金属製スパチュラでかき混ぜて均一にしながら少量ずつ加え、ポリエチレンシートに3mm厚に広げたものを室温付近まで冷却し、飴状の製品を得た。
【0087】
[実施例16]
20gのリンゴ液汁に、ビタミンC3.3g及びパパイヤ亜鉛1.7g、を溶かし、アガベ・イヌリン50g及び蜂蜜15gを混合し、溶かすことでシロップ状液体の製品を得た。
【0088】
[実施例17]
20gのしょうが液汁及び10gのリンゴ液汁に、ビタミンC3.3g及びパパイヤ亜鉛1.7gを溶かし、アガベ・イヌリン50g及び蜂蜜30gを混合し、溶かすことでシロップ状液体の製品を得た。
【0089】
[実施例18]
15gのウコン液汁及び10gのリンゴ液汁に、ビタミンC3.3g及びパパイヤ亜鉛1.7gを溶かし、アガベ・イヌリン50g及び蜂蜜30gを混合し、溶かすことでシロップ状液体の製品を得た。
【0090】
[結果と考察]
アガベ液汁を精製、濃縮して得られる高水溶性アガベ・イヌリン溶液濃度は、80%にも達し、この際、イヌリンはその重量の約4分の1以下の水に溶けており、僅かな甘味を持つ、淡褐色、無臭の低粘度水溶液である。この溶解度の高さは高水溶性アガベ・イヌリンの分子構造にラミフィケーション(分岐)が多いことによるものと考えられる。ところがチコリ・イヌリンは溶解度が低く、10%程度の水溶液が得られるに過ぎない。
【0091】
チコリ・イヌリン粉体に少量の水を加えると、イヌリンを溶かし込んだ水溶液に変わり、不溶部分のイヌリン粉体粒子の表面に薄い水溶液膜が形成するが、接着力は弱いので粉体状になる。成型過程で加圧される時、圧縮力の集中した粒子は特に強く圧縮され、粒子間に存在する水溶液は不接触空間に押しやられる。一方、固体イヌリンからは構成要素の果糖およびブドウ糖からの水酸基が外部空間に向かって大量に突き出しており、常に水溶液中のイヌリンの豊富な水酸基と水素結合しているので、この結合したイヌリン分子は圧縮によっても除かれず、近接した2粒子を結びつけることになり成型を可能にする。この際、表面にあるイヌリン溶液の濃度が十分でない為、水分活性が高く、細菌やカビなどの微生物の繁殖が危惧される。
【0092】
本発明では水に代えて高濃度の高水溶性アガベ・イヌリン溶液を用いて水分活性の減少を図った。製造された製品は成型可能であり、水分活性は原料として用いたイヌリン溶液の水分活性以下になる。溶液中の水分子が固体イヌリンに吸着されるためと思われる。さらに、水分活性を下げるため高濃度に糖分を含んで水分活性が0.6程度のブドウ糖、果糖、砂糖、水あめ、蜂蜜などを用いた。上記のイヌリン溶液と同様に含まれる糖類は固体イヌリン表面の水酸基と水素結合で結合する上、糖類同士でも水素結合するため、製品の性状に幅ができ、用途に応じて硬さ及び加工性などを変えることができる。
【0093】
アスコルビン酸、クエン酸、グルコン酸などの水溶液をイヌリンに加えると、上述の水によるイヌリン溶液薄膜の形成に加えて、これらの酸分子に含まれる複数個の水酸基と固体イヌリン水酸基による水素結合も加わり、上記の糖類に似た効果が生じる。
【0094】
りんご、ウコン、しょうがなどの果物類や野菜類の液汁に含まれる水溶性食物繊維であるペクチンやイヌリンと、その液汁に溶解させたアスコルビン酸、クエン酸、グルコン酸及び/又はそれらの金属塩などを加えた溶液に、大量のアガベ(分枝鎖)イヌリンを加えることにより、それらの化合物に含まれる豊富な水酸基及び水の水酸基とイヌリンの水酸基との間に水素結合が形成され、程よい柔軟性をもつ複合体が形成される。得られたシロップ状の液体は、水分活性(<0.80)が低く、細菌やカビなどの微生物の繁殖が起らない。従って、保存が容易であり、そのまま食しても良いし、適当量の水やお湯に溶かしジュースにして飲用しても良い。なお、水分活性の低下は溶媒として加えられた水が強い水素結合で溶質に縛りつけられていること、しかも粘度の増加は、複合体形成により、溶質間の水素結合で分子量が増加していることを示す。事実、これらの低水分活性、高粘度の液体を冷却すると、均一な固体を生じる。一方、水溶液を冷却すれば、氷山で見られるように、殆ど純粋な水からなる氷の固体層と、溶液の液体層とに分離する。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明に係るイヌリン複合体は、ブドウ糖、果糖、砂糖、水飴、蜂蜜、糖アルコール、オリゴ糖などの糖類と、高水溶性アガベ・イヌリン、チコリ・イヌリン、合成イヌリンなどを用いて製造することができ、プレバイオティックスとして有効であり、便秘の解消などに高い利用性を有している。更に、市場に出回っているイヌリンの大部分はキク科のチコリから製造されたもので、溶解度が低く、溶解度を上げる為に部分的加水分解を施し、オリゴフルクトースと名称を変えて市場に出されている。しかし、高水溶性アガベ・イヌリンはオリゴフルクトースと比べても、なお溶解度が高く、この非常に優れた水溶性はジュース、ドリンク市場を始め、水溶性が求められる産業製品の中に新しいニッチを開く事が期待される。特に、イヌリンにアガベシロップを混合して製造されたイヌリン複合体は、血糖値が気になる人への健康予防に大いに貢献することができる。また、高水溶性アガベ・イヌリンから製造されるイヌリン複合体は、腸内のビフィズス菌にとって加水分解し易いので、低水溶性イヌリンと比べて利用効率が高く、プレバイオティックスとしてより有効であることが期待される。
【0096】
さらに、果物類や野菜類の液汁に含まれる水溶性食物繊維であるペクチンやイヌリンと、その液汁に溶解させたアスコルビン酸、クエン酸、グルコン酸及び/又はそれらの金属塩などを加えた溶液に、過剰のアガベ(分枝鎖)イヌリンを加えることにより、それらの化合物に含まれる豊富な水酸基及び水との水酸基により、水素結合が形成され、程よい柔軟性をもつイヌリン複合体は、腸内のビフィズス菌にとって加水分解し易いので、低水溶性イヌリンと比べて利用効率が高く、プレバイオティックスとしてより有効であることが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】アガベ・イヌリンの分子量分布である。
【図2】イヌリン水溶液の水分活性実測値(Aw obsd)と計算値(Aw calc)である。
【図3】液体イヌリンが複合体となる過程の概要図である。
【図4】液体イヌリン及び固体イヌリンが複合体となる過程の概要図である。
【符号の説明】
【0098】
1‥固体イヌリン
2‥液体イヌリン
3‥OH基
4‥水
5‥水素結合

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イヌリンに水分及び/又は1種以上の糖類を含有させて、固体、流動性固体又はシロップ状液体として形成されることを特徴とするイヌリン複合体。
【請求項2】
前記イヌリンが高水溶性アガベ・イヌリン、チコリ・イヌリン及び合成イヌリンから選択された1種以上のイヌリンを含む請求項1に記載のイヌリン複合体。
【請求項3】
前記水分と前記1種以上の糖類が水溶液の形態で前記イヌリンに混合される請求項1又は2に記載のイヌリン複合体。
【請求項4】
前記水溶液がアガベシロップである請求項3に記載のイヌリン複合体。
【請求項5】
前記水分又は前記水溶液の質量比が全体質量の0.1〜10質量%であり、前記固体が粉体である請求項1〜4のいずれかに記載のイヌリン複合体。
【請求項6】
前記水分又は前記水溶液の質量比が全体質量の5〜30質量%であり、前記流動性固体として形成される請求項1〜4のいずれかに記載のイヌリン複合体。
【請求項7】
前記水分又は前記水溶液に溶解し得るオキシ酸から選択された1種以上の助剤が添加される請求項1〜6のいずれかに記載のイヌリン複合体。
【請求項8】
ミネラル及び/又は金属錯体からなる1種以上の助剤が添加される請求項1〜7のいずれかに記載のイヌリン複合体。
【請求項9】
イヌリンに水分及び1種以上の糖類を含有させて、シロップ状液体として形成される複合体であり、前記水分及び前記糖類の少なくとも1種が果物液汁及び/又は野菜液汁に由来することを特徴とするイヌリン複合体。
【請求項10】
前記水分に溶解し得るオキシ酸からなる助剤が添加される請求項9に記載のイヌリン複合体。
【請求項11】
前記水分に溶解し得るミネラル及び/又は金属錯体からなる1種以上の助剤が添加される請求項9又は10に記載のイヌリン複合体。
【請求項12】
水分又は水溶液をイヌリンに混合して、固体状、流動性固体又はシロップ状液体の複合体を製造することを特徴とするイヌリン複合体の製造方法。
【請求項13】
前記水溶液が1種以上の糖類を水分に溶解させて生成される請求項12に記載のイヌリン複合体の製造方法。
【請求項14】
前記水溶液の糖分濃度が1質量%〜80質量%である請求項13に記載のイヌリン複合体の製造方法。
【請求項15】
前記水溶液としてアガベシロップを混合する請求項12〜14のいずれかに記載のイヌリン複合体の製造方法。
【請求項16】
前記水分又は前記水溶液の質量比を全体質量の0.1〜10質量%に調整し、粉体状の複合体を製造する請求項12〜15のいずれかに記載のイヌリン複合体の製造方法。
【請求項17】
前記水分又は前記水溶液の質量比を全体質量の5〜30質量%に調整し、前記水分又は前記水溶液を加熱してこの加熱水溶液を前記イヌリンに混合して、流動性固体状の複合体を製造する請求項12〜15のいずれかに記載のイヌリン複合体の製造方法。
【請求項18】
前記イヌリンがアガベの液汁から不純物を除去した高水溶性アガベ・イヌリンである請求項12〜17に記載のイヌリン複合体の製造方法。
【請求項19】
オキシ酸から選択される1種以上の助剤を前記水分又は前記水溶液に溶解させる請求項12〜18のいずれかに記載のイヌリン複合体の製造方法。
【請求項20】
ミネラル及び/又は金属錯体からなる1種以上の助剤が前記水分又は前記水溶液に分散又は溶解させる請求項12〜19のいずれかに記載のイヌリン複合体の製造方法。
【請求項21】
果物液汁及び/又は野菜液汁をイヌリンに混合して、シロップ状液体である複合体を製造することを特徴とするイヌリン複合体の製造方法。
【請求項22】
前記果物液汁及び/又は前記野菜液汁が少なくともオキシ酸から選択される1種以上の助剤を溶解させた溶液であり、前記イヌリンがイヌリン粉末又はイヌリン含有液である請求項21に記載のイヌリン複合体の製造方法。
【請求項23】
前記果物液汁及び/又は前記野菜液汁がミネラル及び/又は金属錯体からなる1種以上の助剤を溶解させた溶液であり、前記イヌリンがイヌリン粉末又はイヌリン含有液である請求項21又は22に記載のイヌリン複合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−88168(P2008−88168A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−232445(P2007−232445)
【出願日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【出願人】(506177110)株式会社アガベ (2)
【Fターム(参考)】