説明

イミュニティ試験装置及び試験方法

【課題】EMCイミュニティ試験時の不具合検出漏れを減少させ、且つ省力化が可能なイミュニティ試験装置及び試験方法の提供。
【解決手段】運転室(C)における特定の部分(1)の画像を撮影する撮影装置(2)と、撮影された画像を記憶する記憶装置(3)と、予め記憶された通常時における画像と撮影された画像とを比較する比較手段(4)と、通常時の画像と撮影された画像とを比較してしきい値以上の相違があれば異常と判定する判定手段(5)とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロ マグネチック コンパチビリティ(EMC)におけるイミュニティ試験装置に関する。より詳細には、イミュニティ試験において、異常時のデータ(エラーログ)を収集する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトロ マグネチック コンパチビリティ(EMC)は、「イミュニティ」と「エミッション」との両立性という概念である。
ここで、「イミュニティ」とは、車両外部から電波を受けたときに、誤動作をしないという性能を意味しており、「エミッション」とは、車両から放出する電波で外部に影響を与えないという性能を意味している。
【0003】
車両では、外部から車両に向けて、法規に規定された電波を照射し、電装品が誤作動を起こさぬことを確認するために、イミュニティ試験が行われる。
このイミュニティ試験では、先ず、測定対象(例えば車両のインストルメントパネル)を監視カメラで撮影する。監視カメラの画像は、車両とは別の計器室のモニタに映し出す。そして、そのモニタに映し出された画像を実験者が目視して、インストルメントパネルの異常の有無を確認している。
【0004】
しかし、係る試験方法では、異常は瞬時に発生して、瞬時に消失することが多く、実験者が一瞬でも監視カメラの画像から目を外した際に、瞬間的な異常や誤作動を見逃してしまう恐れがある。
特に、疲労により集中力が低下した際には、その様な瞬時に発生する異常を見逃してしまう恐れがある。
【0005】
上記以外の従来技術としては、例えば、金属製の床面であるグランドプレーンを有する電波半無響室を利用した放射イミュニティ試験装置が提案されている(特許文献1参照)。
しかし、この従来技術(特許文献1)は、既に所有している電波半無響室をそのまま利用できるようにすることを目的としたものであり、上述した問題点を解消するものではない。
【特許文献1】特開平9−292422号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上述した従来技術の問題点に鑑みて提案されたものであり、実験者の注視能力の限界や、肉体的、精神的な疲労に左右されること無く、EMCイミュニティ試験時における異常の検出漏れを減少させ、省力化が可能なイミュニティ試験装置及び試験方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のイミュニティ装置(100)は、運転室(C)における特定の部分(1)の画像を撮影する撮影装置(2)と、撮影された画像を記憶する記憶装置(画像データ一時記憶装置3)と、予め記憶された通常時における画像と撮影された画像とを比較する比較手段(画像比較手段4)と、通常時の画像と撮影された画像とを比較してしきい値以上の相違があれば異常と判定する判定手段(5)とを有する(請求項1)。
【0008】
また、本発明のイミュニティ装置(100)は、画像が撮影された時刻を計測する計時手段(クロック9)と、第2の記憶装置(外部記憶装置8)を備え、判定手段(5)により異常と判定された場合に、異常と判定された画像及びその画像が撮影された時刻(異常発生時刻)を第2の記憶装置(8)に記憶するように構成されている(請求項2)。
【0009】
さらに、表示装置(モニタ6)を備え、判定手段(5)により異常と判定された場合に異常と判定された画像を表示装置(6)により表示する(請求項3)。
【0010】
前記運転室(C)における特定の部分はインストルメントパネル(1)であり、撮影装置はカメラ(監視カメラ2)である(請求項4)。
【0011】
ここで、インストルメントパネル(1)のメータ及び/又はインジケータランプの画像を撮影する際のサンプリング速度は、その他の画像を撮影する際のサンプリング速度よりも高速となる様に制御されるように構成されていることが好ましい(請求項5)。
【0012】
本発明のイミュニティ試験方法は、撮影装置(2)により運転室(C)における特定の部分(1)の画像を撮影する工程(S2)と、撮影された画像を予め記憶された通常時における画像と比較する比較工程(S7)と、通常時の画像と撮影された画像とを比較してしきい値以上の相違があれば異常と判定する判定工程(8)とを有する(請求項6)。
【0013】
また、本発明のイミュニティ試験方法は、画像が撮影された時刻を計測する計時工程(S3)と、判定手段(5)により異常と判定された場合に、異常と判定された画像及びその画像が撮影された時刻(異常発生時刻)を記憶する工程(S9)とを有する(請求項7)。
【0014】
そして、前記撮影する工程(S2)では、運転室(C)におけるインストルメントパネル(1)の画像を撮影している(請求項8)。
【発明の効果】
【0015】
上述する構成を具備する本発明のイミュニティ装置(100)によれば、撮影装置(2)が常時監視対象を監視しており、イミュニティ装置(100)は、異常の有無を自動的に且つ確実に判定することが出来る。そのため、イミュニティ試験の結果が、実験者の疲労や不注意によるヒューマンエラーや、実験者の体調に左右されることがなく、正確な実験結果を得ることが出来る。
【0016】
また、本発明のイミュニティ装置(100)において、画像が撮影された時刻を計測する計時手段(クロック9)と、第2の記憶装置(外部記憶装置8)を備え、判定手段(5)により異常と判定された場合に、異常と判定された画像及びその画像が撮影された時刻(異常発生時刻)を第2の記憶装置(8)に記憶するように構成すれば(請求項2)、実験者がその場に居合わせなくても、都合のよい時間帯に正確な試験結果及び異常の発生時間を確認することができる。
【0017】
さらに、表示装置(モニタ6)を備え、判定手段(5)により異常と判定された場合に異常と判定された画像を表示装置(6)により表示することができる様に構成すれば(請求項3)、従来技術と同様に、実験者がリアルタイムで、試験結果を確認できる。
【0018】
ここで、インジケータランプの点滅や、メータ類の針は、何時も同じ周期で点滅し、滑らかに動くとは限らず、絶えず細かな振動を伴っている。
そして、インジケータランプの異常点滅や、異常によるメータ類の針の振れは、一瞬に起こる。そこで、異常検出の精度を上げるためには、サンプリング速度をインジケータランプの点滅速度及び針が触れている時間よりも短くする必要がある。
【0019】
本発明において、インストルメントパネル(1)のメータ及び/又はインジケータランプの画像を撮影する際のサンプリング速度を、その他の画像を撮影する際のサンプリング速度よりも高速となる様に制御されるように構成すれば(請求項5)、インジケータランプの点滅速度や、針の触れる速度がしきい値以上となった場合を確実に把握して、インジケータや、メータ類の異常を見逃すことがなくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図1において、全体を符号100で示すイミュニティ試験装置は、運転室(図3の符号C参照)におけるインストルメントパネル1の画像を撮影する監視カメラ2と、解析用コンピュータ10と、モニタ6と、外部記憶装置8とを有している。
【0021】
監視カメラ2と解析用コンピュータ10とは、通信ケーブルL1で接続されている。
解析用コンピュータ10とモニタ6とは、通信ケーブルL2で接続されている。
解析用コンピュータ10と外部記憶装置8とは、通信ケーブルL3で接続されている。
モニタ6と外部記憶装置8とは、通信ケーブルL4で接続されている。
【0022】
解析用コンピュータ10は、図2に詳細を示すように、画像データ一時記憶装置3と、画像比較手段4と、判定手段5と、データベース7と、クロック9とを有している。
【0023】
画像データ一時記憶装置3は、監視カメラ2で撮影された画像を一時的に記憶するように構成されている。
画像比較手段4は、予め記憶された通常時における画像(正常データ)と、画像データ一時記憶装置3に記憶された一時記憶データとを、比較するように構成されている。
【0024】
判定手段5は、画像比較手段4が比較している前記2つのデータに、しきい値以上の相違があれば異常と判定するように構成されている。
データベース7は、車種別に、正常な状態を示すデータが記憶されている。イミュニティ試験を行うに当たって、車種を設定すれば、当該車種における正常な状態を示すデータが自動的に選択されるように構成されている。
クロック9は、サンプリングタイムを計測すると共に、画像が撮影された時刻を計測する計時手段である。
【0025】
画像データ一時記憶装置3は画像比較手段4と、ラインL34で接続されている。
データベース7は画像比較手段4と、ラインL74により接続されている。
画像比較手段4は判定手段5と、ラインL45で接続されている。
クロック9は、ラインLcを介して、画像データ一時記憶装置3、画像比較手段4、判定手段5と、それぞれ接続されている。
【0026】
上述した様に、判定手段5は、通常時における画像と撮影された画像との間に、しきい値以上の相違があれば異常と判定するように構成されている。
イミュニティ装置100は、判定手段5により異常と判定された場合に、異常と判定された画像及びその画像が撮影された時刻(異常発生時刻)を、外部記憶装置8に記憶するように構成されている。
【0027】
インジケータランプの点滅や、メータ類の針は、何時も同じ周期で点滅し、滑らかに動くとは限らず、絶えず細かな振動を伴っている。
そして、インジケータランプの異常点滅や、異常によるメータ類の針の振れは、一瞬に起こる。そこで、異常検出の精度を上げるためには、クロック9によるサンプリング速度をインジケータランプの点滅速度及び針が触れている時間よりも短くする必要がある。
【0028】
そこで、監視カメラの監視対象であるインストルメントパネル1のメータ11及び/又はインジケータランプ12の画像を撮影する際のサンプリング速度は、その他の画像を撮影する際のサンプリング速度よりも高速となるように構成されている。
【0029】
図3は、自動車の運転席(C)周りにおける、監視カメラ2とインストルメントパネル1との位置関係を示している。
図3の例では、監視カメラ2のレンズ21と撮影対象であるインストルメントパネル1)とを結ぶ軸線Fが、運転者(仮想された運転者)のアイポイントPe(運転者のアイポイントであると仮想されたポイント)と、インストルメントパネル1とを結ぶ線Aと概略一致するように、構成されている。
【0030】
図4は、監視カメラ2の監視対象であるインストルメントパネル1を示している。
インストルメントパネル1上には、メータ類11、インジケータ12、操作スイッチ(或いはタッチパネル)13、車載モニタ14が含まれている。
【0031】
図5を主に参照して、イミュニティ装置100による試験の手順を説明する。
図5において、ステップS1では、解析用コンピュータ10は、サンプリング周期になるまで待機する(ステップS1がNOのループ)。サンプリング周期になったら(ステップS1がYES)、監視カメラで撮影している画像を、画像データ一時記憶装置3に取り込む(入力する)(ステップS2)。
図5において、ステップS2において画像データ一時記憶装置3に取り込まれ、一時記憶される画像データを、「Aデータ」と表記している。
【0032】
ステップS3では、クロック9からのパルスに基いて、「Aデータ」が撮影された時刻が入力される。係る時刻を示すデータを、図5においては「Bデータ」と表記する。
ステップS4では、「Aデータ」と「Bデータ」との関連付けを行う。図5において、「Aデータ」と「Bデータ」とを関連付けしたデータを、「Cデータ」と表記する。
【0033】
ステップS5では、「Cデータ」を画像比較手段4に出力する。そして、検査対象である車両の正常時における画像データ(図5では「正常データ」と表記)を、データベース7から画像比較手段4に出力する(ステップS6)。そして、「Cデータ」と「正常データ」とを画像比較する(ステップS7)。
【0034】
ステップS8では、「正常データ」に対して「Cデータ」は相違がないか否か、換言すれば、正常データとCデータとを比較した場合に、しきい値を越える相違が存在するか否かを判断する。相違が無ければ(ステップS8がYES)、ステップS10に進む。
正常データとCデータとを比較した場合に、しきい値を越える相違が存在する場合には(ステップS8がNO)、「Cデータ」及びエラーログをモニタ6に表示した上で、外部記憶装置8に記憶・保存し(ステップS9)、ステップS10に進む。
【0035】
ステップS10では、イミュニティ試験を終了するか否かを判断する。イミュニティ試験を終了するのであれば(ステップS10がYES)、そのままイミュニティ試験を終了する。イミュニティ試験を続行するのであれば(ステップS10がNO)、ステップS1以降を繰り返す。
【0036】
上述したような構成を備えた図示の実施形態によれば、監視カメラ2が常時監視対象を監視しており、作業者の視認は必ずしも要しないので、異常の有無を自動、且つ確実に判定することができる。そのため、イミュニティ試験結果が、実験者の不注意等のヒューマンエラーや、実験者の体調によって左右されてしまうことがない。
【0037】
また、図示の実施形態のイミュニティ装置100は、クロック9と、外部記憶装置8を備えており、判定手段5により撮影された画像が異常であると判定された場合に、異常と判定された画像及びその画像が撮影された時刻(異常発生時刻)を外部記憶装置8に記憶するように構成されている。したがって、実験者がその場に居合わせなくても、都合のよい時間帯に正確な試験結果及び異常の発生時間を確認することができる。
【0038】
さらに、モニタ6を備え、判定手段5により異常と判定された場合に異常と判定された画像をモニタ6により表示することができる。そのため、従来技術と同様に、実験者がリアルタイムで、試験結果を確認できる。
【0039】
図示の実施形態では、インストルメントパネル1のメータ及び/又はインジケータランプの画像を撮影する際のサンプリング速度を、その他の画像を撮影する際のサンプリング速度よりも高速となる様に制御されるように構成している。そして、インジケータランプの点滅速度や、針の触れる速度がしきい値以上であれば異常が発生していると判断する。すなわち、インジケータや、メータ類の異常を見逃すことはない。
【0040】
図示の実施形態はあくまでも例示であり、本発明の技術的範囲を限定する趣旨の記述ではないことを付記する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施形態を示したブロック図。
【図2】実施形態の詳細を示すブロック図。
【図3】監視カメラとインストルメントパネルとの位置関係を示した配置図。
【図4】監視対象であるインストルメントパネルの正面図。
【図5】実施形態における試験手順を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0042】
1・・・インストルメントパネル
2・・・監視カメラ
3・・・画像データ一時記憶装置
4・・・画像比較手段
5・・・判定手段
6・・・モニタ
7・・・データベース
8・・・外部記憶装置
9・・・クロック
10・・・解析用コンピュータ
11・・・メータ
12・・・インジケータ
100・・・イミュニティ試験装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転室における特定の部分の画像を撮影する撮影装置と、撮影された画像を記憶する記憶装置と、予め記憶された通常時における画像と撮影された画像とを比較する比較手段と、通常時の画像と撮影された画像とを比較してしきい値以上の相違があれば異常と判定する判定手段とを有することを特徴とするイミュニティ試験装置。
【請求項2】
画像が撮影された時刻を計測する計時手段と、第2の記憶装置を備え、判定手段により異常と判定された場合に、異常と判定された画像及びその画像が撮影された時刻を第2の記憶装置に記憶するように構成されている請求項1のイミュニティ試験装置。
【請求項3】
表示装置を備え、判定手段により異常と判定された場合に異常と判定された画像を表示装置により表示する請求項2のイミュニティ試験装置。
【請求項4】
運転室における特定の部分はインストルメントパネルであり、撮影装置はカメラである請求項1〜3の何れか1項のイミュニティ試験装置。
【請求項5】
インストルメントパネルのメータ及び/又はインジケータランプの画像を撮影する際のサンプリング速度は、その他の画像を撮影する際のサンプリング速度よりも高速となる様に制御されるように構成されている請求項4のイミュニティ試験装置。
【請求項6】
撮影装置により運転室における特定の部分の画像を撮影する工程と、撮影された画像を予め記憶された通常時における画像と比較する比較工程と、通常時の画像と撮影された画像とを比較してしきい値以上の相違があれば異常と判定する判定工程とを有することを特徴とするイミュニティ試験方法。
【請求項7】
画像が撮影された時刻を計測する計時工程と、判定手段により異常と判定された場合に、異常と判定された画像及びその画像が撮影された時刻(異常発生時刻)を記憶する工程とを有する請求項6のイミュニティ試験方法。
【請求項8】
前記撮影する工程では運転室におけるインストルメントパネルの画像を撮影している請求項6、7の何れかのイミュニティ試験方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate