説明

イムノクロマトグラフィー測定法及びキット

【課題】血液中における特定のIgGの検出のように、反応阻害物質を含有する被検試料を使用する場合や高濃度の検体を含有する被検試料を使用する場合でも高い測定感度が得られるイムノクロマトグラフィー測定法及びキットを提供する。
【解決手段】検体に対して免疫学的に反応可能な第一の物質を予め所定位置に固定せしめて形成された捕捉部位31を備える膜担体3を用意し、被検試料を前記捕捉部位に向けて前記膜担体にてクロマト展開させて前記捕捉部位を通過せしめた後、前記検体に対して免疫学的に反応可能な第二の物質を含有する展開溶媒を前記被検試料のクロマト展開方向とは逆方向に前記捕捉部位に向けて前記膜担体にてクロマト展開させることにより、前記検体を前記捕捉部位にて前記第一の物質と前記第二の物質との間にサンドイッチさせて検出するイムノクロマトグラフィー測定法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定感度が改善されたイムノクロマトグラフィー測定法及びキットに関するものであり、とりわけ、血液中における特定のIgGの検出のように、反応阻害物質を含有する被検試料を使用する場合や高濃度の検体を含有する被検試料を使用する場合でも高い測定感度が得られるイムノクロマトグラフィー測定法及びキットに関する。
【背景技術】
【0002】
検体に対して免疫学的に反応可能な第一の物質を予め所定位置に固定せしめて形成された捕捉部位を備える膜担体を用意し、前記検体に対して免疫学的に反応可能な第二の物質と被検試料との混合液を前記膜担体にて前記捕捉部位に向けてクロマト展開させ、前記混合液中の検体と第二の物質との複合体を前記捕捉部位に捕捉させるイムノクロマトグラフィー測定法は公知である(特表平01−503174号公報参照)。このような測定法は、上記混合物を膜担体に注入させるワンステップの操作で測定が完了し、迅速に結果が得られるので、臨床用のみならず家庭用にも広く普及している。
【0003】
しかし、上記公知のイムノクロマトグラフィー測定法では、反応阻害物質を含有する被検試料、例えば、血液中における特定のIgGを検出する場合、測定感度が低いという問題点があった。これは、IgGの測定では、上記第一の物質として抗原が使用され、上記第二の物質として抗IgG抗体が用いられるが、血液中には、測定対象である特定のIgG以外に他のIgGが多量に存在するため、上記第二の物質がこれらの他のIgGにも結合して消費されてしまうためである。
【0004】
また、被検試料が高濃度の検体を含有する場合も、第二の抗体の検体に対する比率が低くなるので、見かけ上反応が弱くなる所謂プロゾーン現象が生じ、測定感度を低下させていた。
【0005】
上記の欠点を改良するために、特開2001−337091号公報には、検体に対して免疫学的に反応可能な第一の物質を予め所定位置に固定せしめて形成された捕捉部位を備える長手の膜担体に、被検試料を捕捉部位の側方から乾燥多孔質素材を介して膜担体に浸透させるステップと、前記検体に対して免疫学的に反応可能な第二の物質と被検試料との混合液を前記膜担体にてその長手方向に前記捕捉部位に向けてクロマト展開させ、前記捕捉部位に捕捉された検体に前記第二の物質を結合させるステップとからなるイムノクロマトグラフィー測定法が提案されている。
【0006】
この2ステップ法では、上記の第二の抗体が検体以外の物質によって消費される欠点や、プロゾーン現象は一応回避されるものの、更に、測定感度の向上が望まれていた。
【0007】
【特許文献1】特表平01−503174号公報
【特許文献2】特開2001−337091号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、血液中における特定のIgGの検出のように、反応阻害物質を含有する被検試料を使用する場合や高濃度の検体を含有する被検試料を使用する場合でも高い測定感度が得られるイムノクロマトグラフィー測定法及びキットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、被検試料が膜担体にてクロマト展開する際の挙動について詳細に検討した結果、被検試料を膜担体にて前記捕捉部位に向けてクロマト展開させて通過させた後、展開溶媒を膜担体にて前記捕捉部位に向けて被検試料とは逆方向にクロマト展開させることにより、測定感度が有意に向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の一局面によれば、検体に対して免疫学的に反応可能な第一の物質を予め所定位置に固定せしめて形成された捕捉部位を備える膜担体を用意し、被検試料を前記捕捉部位に向けて前記膜担体に直接的に適用しクロマト展開させて前記捕捉部位を通過せしめた後、前記検体に対して免疫学的に反応可能な第二の物質を含有する展開溶媒を前記被検試料のクロマト展開方向とは逆方向に前記捕捉部位に向けて前記膜担体にてクロマト展開させることにより、前記検体を前記捕捉部位にて前記第一の物質と前記第二の物質との間にサンドイッチさせて検出することを特徴とするイムノクロマトグラフィー測定法が提供される。
【0011】
本発明の測定法では、展開溶媒は、膜担体とは別体の容器中で前記第二の物質と予め混合しておき、前記第二の物質を含有した混合液として膜担体に注入してクロマト展開させてもよい。別法として、前記第二の物質を予め膜担体に配置しておき、展開溶媒を膜担体に注入してクロマト展開させた時に前記第二の物質と展開溶媒が混合して前記展開溶媒が第二の物質を含有した状態でクロマト展開されるようにしてもよい。
本発明の測定法では、まず被検試料が膜担体に直接的に適用され、捕捉部位に向けて膜担体にてクロマト展開されるが、被検試料は捕捉部位を超えて膜担体の末端まで浸透することを妨げるものではないが、次の展開溶媒の膜担体の浸透を妨げることがないように、捕捉部位を僅かに超える程度に膜担体を浸透させることが望ましい。
【0012】
さらに、本発明の他の局面によれば、本発明の方法を実施するために好適なキットとして、イムノクロマト法テストストリップと、これを収容したハウジングとを少なくとも備えてなるイムノクロマトグラフィー測定用キットであって、
前記イムノクロマト法テストストリップは、検体に対して免疫学的に反応可能な第一の物質と、膜担体とを少なくとも備え、前記第一の物質は前記膜担体の第一の位置に予め固定されて捕捉部位を形成し、
さらに、前記イムノクロマトグラフィー測定用キットは、前記検体に対して免疫学的に反応可能で且つ標識された第二の物質を備え、前記第二の物質は前記捕捉部位から離隔した第二の位置から前記第一の位置に向けて前記膜担体にてクロマト展開可能なように用意されてなり、
前記ハウジングは、前記第一の位置及び前記第二の位置を挟むようにそれぞれに隣接して設けられた第一の開口と第二の開口を備え、前記第一の開口は、被検試料を受け入れて前記膜担体に直接的に適用し前記第一の位置に向けてクロマト展開させるための手段を構成し、前記第二の開口は、展開溶媒を受け入れてこれを前記第二の物質を含有する状態で前記第一の位置に向けて前記膜担体にてクロマト展開させるための手段を構成してなることを特徴とするイムノクロマトグラフィー測定用キットが提供される。
【0013】
本発明のキットは、さらに、前記第二の物質を含有する展開溶媒を調製して、これを前記第二の開口に注入するための容器を備えていてもよい。別法として、前記第二の物質を予め膜担体に配置しておき、前記展開溶媒を前記第二の開口に注入した時に前記第二の物質と混合するようにしてもよい。
また、上述のように、本発明では、まず被検試料が捕捉部位に向けて膜担体にてクロマト展開されるが、次の展開溶媒の膜担体における浸透を妨げることがないように、捕捉部位を僅かに超える程度に膜担体を浸透させることが望ましい。したがって、本発明のキットは、前記被検試料を、前記第一の位置に到達するが、前記第二の位置には到達しない量だけ前記第一の開口に受け入れさせる手段を備えていてもよい。このような手段としては、例えば上記量だけ被検試料を収容又は計量できる容器をキットに付属させることや、第一の開口部が上記量以上の被検試料を収容できない構造とすることが挙げられる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、検体に対して免疫学的に反応可能な第一の物質で形成された捕捉部位に向けて被検試料を膜担体に直接的に適用してクロマト展開させて該捕捉部位を通過せしめた後、検体に対して免疫学的に反応可能な第二の物質を含有する展開溶媒を被検試料のクロマト展開方向とは逆方向に該捕捉部位に向けて膜担体にてクロマト展開させることとしたので、被検試料は2回にわたり前記捕捉部位を通過することになるため、被検試料中の検体が十分に第一の物質と接触する機会が与えられ、前記捕捉部位における集積量が高まるため、測定感度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
なお、本明細書において、被検試料とは、免疫測定に供される試料を意味し、検体とは、免疫測定によって測定しようとする対象物質(analyte)を意味する。
【0016】
以下、図1を参照しつつ、本発明のイムノクロマトグラフィー測定用キットの具体例及び、それを使用した本発明のイムノクロマトグラフィー測定法について詳細に説明する。
【0017】
図1に示される本発明のように、イムノクロマトグラフィー測定用キットは、ハウジング10と、該ハウジング10に収容されたイムノクロマト法テストストリップを少なくとも備えてなる。
【0018】
該イムノクロマト法テストストリップでは、膜担体3がそれよりも長い粘着シート4上に貼着されている。該膜担体3には、クロマト展開の開始点側(すなわち図の右側、以下「上流側」と記す、また、その逆の側、すなわち図の左側を、以下「下流側」と記す)の末端に含浸部材5の下流側末端が載置され、含浸部材5の上流側部分は粘着シート4に貼着されている。さらに、含浸部材5の上には、展開溶媒添加用部材7が、含浸部材5の全面と粘着シート4の上流側端部を覆うようにして載置されている。さらに、吸収用部材6が、その上流側端部を膜担体3の下流側端部の上に載置させて連接しており、吸収用部材6の他の部分は粘着シート4に貼着されている。
【0019】
そして、膜担体3には、検体に対して免疫学的に反応可能な第一の物質を固定して形成された捕捉部位31が設けられている。また、含浸部材5には、前記検体に対して免疫学的に反応可能で且つ標識された第二の物質が膜担体3をクロマト展開可能なように含浸されている。さらに、膜担体3には、反応の終了を確認できるように、捕捉部位31よりも下流側に所定の距離をおいて、前記第二の物質を捕捉するコントロール部位32が設けられている。
【0020】
ハウジング10は、捕捉部位31及びコントロール部位32の上方にそれぞれ開口T及びCを備え、捕捉部位31及びコントロール部位32における検体又は上記第二の物質の集積を肉眼等によって判定できるようにしている。また、ハウジング10は、開口T及びCの中間の位置に被検試料注入用の第一の開口1を備え、また、含浸部材5よりも上流側の展開溶媒添加用部材7の上方に展開溶媒注入用第二の開口2を備えている。なお、図1に示されるように、このハウジング10は、第一の開口1がハウジング10の長手方向中央部に位置し、これに対して対称に開口T及びC並びに捕捉部位31及びコントロール部位32が位置しているので、イムノクロマトリーダで捕捉部位31及びコントロール部位32の呈色を定量するのに好都合である。
【0021】
膜担体3としては、ニトロセルロース製メンブレンフィルターを用いているが、直接的に適用された被検試料に含まれる検体をクロマト展開可能で、かつ、上記捕捉部位31を形成する上記第一の物質を固定可能なものであれば、いかなるものであってもよく、他のセルロース類膜、ナイロン膜、ガラス繊維膜なども使用できる。
粘着シート4としては、膜担体3の浸透性等の特性を変化させないものであれば、特に限定されず、公知のものを使用できる。
【0022】
含浸部材5としては、帯状のガラス繊維不織布を用いているが、これに限定されるものではなく、例えば、セルロース類布(濾紙、ニトロセルロース膜等)、ポリエチレン、ポリプロピレン等の多孔質プラスチック布類なども使用できる。なお、本発明では、含浸部材5は必ずしも必要ではなく、膜担体3に直接上記第二の物質をクロマト展開可能なように配置してもよい。また、上記第二の物質と展開溶媒とを予めイムノクロマトテストストリップとは別体の容器中で混合し、展開溶媒を第二の物質を含有した状態で膜担体3に注入する場合は、含浸部材5は必須ではない。
【0023】
展開溶媒添加用部材7としては、例えば、多孔質ポリエチレンおよび多孔質ポリプロピレンなどのような多孔質合成樹脂のシートまたはフィルム、ならびに、濾紙および綿布などのようなセルロース製の紙または織布もしくは不織布を用いることができる。
吸収用部材6としては、液体をすみやかに吸収、保持できる材質のものであればよく、綿布、濾紙、およびポリエチレン、ポリプロピレン等からなる多孔質プラスチック不織布等を挙げることができるが、特に濾紙が最適である。
【0024】
検体がIgGなどの抗体である場合、通常、捕捉部位31に固定される上記第一の物質としては、抗原が使用され、上記第二の物質として検体に対して特異的反応性を有する抗体などの物質が使用される。検体が抗原である場合、通常、前記第一の物質及び第二の物質として抗体が使用され、各抗体はそれぞれ独立に、ポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であっても良いが、少なくとも何れか一方がモノクローナル抗体であることが好ましい。通常は、第一の物質(抗体)及び第二の物質(抗体)は「ヘテロ」の組み合わせで用いられ、すなわち、抗原上の位置および構造の何れもが異なる各抗原決定基をそれぞれ認識する第一の物質(抗体)及び第二の物質(抗体)が組み合わせて用いられる。しかしながら、第一の抗原決定基と第二の抗原決定基は抗原上の位置が異なっていれば構造的に同一であってもよく、その場合、第一の物質(抗体)および第二の物質(抗体)は「ホモ」の組み合わせのモノクローナル抗体であってよく、すなわち、第一の物質(抗体)および第二の物質(抗体)の両方に同一のモノクローナル抗体が使用できる。
【0025】
上記第二の物質は、予め標識物質で標識しておくことが好ましい。このような標識物質としては、使用可能なものであればいかなる物質であってもよく、呈色標識物質、酵素標識物質、放射線標識物質などが挙げられる。このうち、捕捉部位31での色の変化を肉眼で観察することにより迅速かつ簡便に判定できる点から、呈色標識物質を用いることが好ましい。呈色標識物質としては、金コロイド、白金コロイド等の金属コロイドの他、赤色および青色などのそれぞれの顔料で着色されたポリスチレンラテックスなどの合成ラテックスや、天然ゴムラテックスなどのラテックスが挙げられ、このうち、金コロイドなどの金属コロイドが特に好ましい。
【0026】
標識された第二の物質は、その懸濁液を含浸部材5に含浸せしめて乾燥させることなどによって、展開溶媒が含浸部材5を通過する際に一緒にクロマト展開されるように含浸部材5に保持させることができる。
コントロール部位32を形成する物質としては、第二の物質と結合性を有するものであれば特に制限されないが、通常、第二の物質に対して免疫学的に反応可能な物質、例えば、抗体などが使用される。
【0027】
展開溶媒としては、イムノクロマトグラフィー測定法において使用可能なものであれば、特に限定されず、水系溶媒、例えば、水、生理食塩水、緩衝液などが使用できる。緩衝液としては、トリス緩衝液、リン酸緩衝液、HEPES(2−ヒドロキシピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸)緩衝液などが挙げられる。展開溶媒は、必要に応じ、pH調整剤、界面活性剤、防腐剤、無機塩、特開2003-344406に記載の重合体等の各種添加剤を含有しても良い。pH調整剤としては、例えば、塩酸、水酸化ナトリウムなどが使用できる。
【0028】
被検試料としては、膜担体をクロマト展開させることができるものであれば特に限定されず、血液(全血でも、血清でも、血漿でもよい)、唾液、尿、臓器乳剤、クロアカスワブ、気管スワブ、糞便、鼻腔吸引液、鼻腔ぬぐい液および咽頭ぬぐい液等などの生体試料が挙げられる。これらの生体試料は、膜担体をクロマト展開させることができるように、適宜、希釈してもよい。希釈には、前記展開溶媒と同様のものを使用できる。
検体は、免疫測定法で検出可能なものであれば特に制限はなく、IgG等の各種抗体、生体高分子のほか、結核菌やO−157等の病原菌、インフルエンザウイルス、アデノウイルス等のウイルス、血液中に含まれるC反応性蛋白質などの抗原、環境中に存在する環境ホルモン様物質などの微量物質が挙げられる。
【0029】
かくして、生体から採取した試料を、必要に応じてクロマト展開可能な濃度に調整した後、これを被検試料として図1に示されるイムノクロマト法テストストリップの第一の開口1に注入する(図1(b)縦方向の細矢印参照)と、該被検試料は、膜担体3に直接接触してクロマト展開し、捕捉部位31を通過する(図1(b)横方向の細矢印参照)。その際、該被検試料中に検体が存在すれば、抗原抗体反応により検体は捕捉部位31の第一の物質に捕捉されて集積する。なお、同時に被検試料はコントロール部32に向けてもクロマト展開する。
この時、被検試料は、膜担体3の捕捉部位31を越えて末端まで浸透するよりも、捕捉部位31を僅かに越えるだけでよい。したがって、被検試料3の注入量は、捕捉部位31を僅かに越えるに十分な量であればよい。この注入量は、被検試料の粘度、膜担体の種類や寸法、捕捉部位31の位置等によって異なり、これらを勘案して適宜設定することができる。適切な注入量を測定または計量できるように、本発明のキットに、被検試料の量を測定又は計量できる手段を付属させてもよく、また、第一の開口1の寸法を、適量の被検試料だけ収容できる寸法に作成することもできる。
【0030】
その後、展開溶媒を図1に示されるイムノクロマト法テストストリップの第二の開口2に注入する(図1(b)縦方向の太矢印参照)と、展開溶媒添加部材7を通過した後、含浸部材5を通過し、ここで第二の物質と共に膜担体3を捕捉部位31に向けてクロマト展開する。この時、捕捉部位31を通過した被検試料を押し返すため、被検試料は、再度捕捉部位31に向けてクロマト展開する(図1(b)横方向の太矢印参照)。その際、該被検試料中に検体が存在すれば、抗原抗体反応により第二の物質と検体との複合体が形成され、捕捉部位31に至った時に、捕捉部位31の第一の物質に捕捉されて集積する一方で、複合体を形成していない第二の物質は、捕捉部位31に既に捕捉された検体に結合し、かくして、検体を第一の物質と第二の物質でサンドイッチして捕捉することができる。このように、被検試料は捕捉部位31を二度通過するので、より多くの検体が捕捉部位31に捕捉する機会が与えられるので、良好な測定感度が得られる。
このとき、標識物質として金コロイドなどの呈色標識物質が使用されていれば、当該呈色標識物質の集積により捕捉部位31が発色するので、直ちに、検体を定性的または定量的に測定することができる。
【0031】
なお、図1の具体例において、含浸部材5に第二の物質を含浸させない場合は、展開溶媒の代わりに、予め第二の物質をイムノクロマトテストストリップとは別体の容器中などで展開溶媒と混合しておき、該混合液を第二の開口2から注入することで、上記と同様の効果が得られる。
【0032】
膜担体3を展開溶媒とともに下流側に移動した第二の物質は、コントロール部位32に至ったときに、そこで捕捉されるので、測定が正常に終了したことを確認できる。また、余剰の展開溶媒は、吸収用部材6に吸収され、逆流が防止される。ケーシング10には、吸収用部材6の上方の位置に空気抜き穴11が設けられており、展開溶媒の吸収を促進させている。
【0033】
なお、全血を被検試料として用いるときで、特に標識物質として金コロイドなどの呈色標識物質が用いられる場合、第一の開口1に対向する膜担体3の上に血球捕捉膜部材を配置してもよい。これにより、赤血球が膜担体3に展開されるのが阻止されるので、膜担体3の捕捉部位31における呈色標識の集積の確認が容易になる。血球捕捉膜部材としては、カルボキシメチルセルロース膜が用いられ、具体的には、アドバンテック東洋株式会社から販売されているイオン交換濾紙CM(商品名)や、ワットマンジャパン株式会社から販売されているイオン交換セルロースペーパーなどを用いることができる。
【実施例】
【0034】
下記の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0035】
実施例1(イムノクロマトグラフィー測定用キットの作成)
(1)金コロイド溶液の調製
加熱によって沸騰させた超純水99mlに、1%(v/w)塩化金酸水溶液1mlを加え、さらに、その1分後に1%(v/w)クエン酸ナトリウム水溶液1.5mlを加えて加熱し5分間沸騰させた後、室温に放置して冷却した。次いで、この溶液に200mM炭酸カリウム水溶液を加えてpH9.0に調製し、これに超純水を加えて全量を100mlとして金コロイド溶液を得た。
【0036】
(2)金コロイド標識抗マウスIgG抗体溶液の調製
抗マウスIgG抗体を下記の手順でそれぞれ金コロイド標識した。
抗マウスIgG抗体(ウサギ)の蛋白換算重量1μg(以下、抗体の蛋白換算重量を示すとき、単に、その精製蛋白質の重量分析による重量数値で示す)と上記(1)の金コロイド溶液1mlとを混合し、室温で2分間静置してこの抗体のことごとくを金コロイド粒子表面に結合させた後、金コロイド溶液における最終濃度が1%となるように10%ウシ血清アルブミン(以下、「BSA」と記す)水溶液を加え、この金コロイド粒子の残余の表面をことごとくこのBSAでブロックして、金コロイド標識抗マウスIgG抗体(ウサギ)(以下、「金コロイド標識抗体」と記す)溶液を調製した。この溶液を遠心分離(5600×G、30分間)して金コロイド標識抗体を沈殿せしめ、上清液を除いて金コロイド標識抗体を得た。この金コロイド標識抗体を10%サッカロース・1%BSA・0.5%トリトン(Triton)-X100を含有する50mMトリス塩酸緩衝液(pH7.4)に懸濁して金コロイド標識抗体溶液を得た。
【0037】
(3)イムノクロマト法テストストリップの作成
図1に示されるイムノクロマト法テストストリップを下記の手順で作成した。
【0038】
(3−1)捕捉部位の形成
幅5mm、長さ36mmの細長い帯状のニトロセルロース膜をクロマトグラフ媒体のクロマト展開用膜担体3として用意した。
インフルエンザウイルスA型抗原1.0mg/mlが含有されてなる溶液0.5μLを、このクロマト展開用膜担体の上流側の末端から7.5mmの位置にライン状に塗布してこれを室温で乾燥し捕捉部位31とした。
(3−2)コントロールラインの形成
抗ウサギIgG抗体を含む溶液0.5μlをクロマト展開用膜担体におけるクロマト開始点側の末端部から24.0mmの位置にライン上に塗布して、これを室温にて乾燥し、金コロイド標識抗マウスIgG抗体を捕捉するコントロール部位32を形成した。
【0039】
(3−3)金コロイド標識抗体含浸部材
5mm×10mmの帯状のガラス繊維不織布に金コロイド標識抗体溶液45μlを含浸し、これを室温で乾燥させて金コロイド標識抗体含浸部材5とした。
【0040】
(3−4)イムノクロマト法テストストリップの作成
上記クロマト展開用膜担体3、上記標識抗体含浸部材5の他に、展開溶媒添加用部材7として綿布と、吸収用部材6として濾紙を用意した。そして、図1と同様にして、これらの部材を粘着シート4に配置してイムノクロマト法テストストリップを作成した。
このイムノクロマト法テストストリップを図1に示すハウジング10に収容して、イムノクロマトグラフィー測定用キットを作成した。
【0041】
実施例2(マウス血清からの抗インフルエンザウイルスA型抗体の検出)
インフルエンザウイルスA型抗原を接種したマウスより得られた血清をリン酸緩衝液(PBS)にて40倍希釈し被検試料として用意した。なお、対照はノーマルマウス血清をPBSにて40倍希釈し被検試料とした。ブランク(blank)として、PBSのみを使用した。
【0042】
そして、この被検試料34μlを実施例1で作成したキットの第一の開口1にマイクロピペットで滴下(図1(b)縦方向の細矢印参照)した後、PBSを第二の開口2から100μL滴下(図1(b)縦方向の太矢印参照)した。室温で15分放置後、捕捉部位31で捕捉された抗インフルエンザウイルスA型(マウス)IgG抗体と金コロイド標識抗体との複合体の捕捉量を肉眼で観察した。結果を表1に示す。表1から、本発明によれば高い測定感度が得られることがわかる。
【0043】
捕捉量は、その量に比例して増減する赤紫色の呈色度合いを肉眼で観察した。そして、−(着色無し)、±(微弱な着色)、+(明確な着色)、++(顕著な着色)の4段階(wは弱めを示す)に区分して判定した。
【0044】
比較例1
幅5mm、長さ36mmの細長い帯状のニトロセルロース膜をクロマトグラフ媒体のクロマト展開用膜担体3の上流側の末端から6.0mmの位置に、インフルエンザウイルスA型抗原1.0mg/mlが含有されてなる溶液0.5μLをライン状に塗布してこれを室温で乾燥し捕捉部位31とした。
また、5mm×15mmの帯状のガラス繊維不織布に金コロイド標識抗体溶液45μlを含浸し、これを室温で乾燥させて金コロイド標識抗体含浸部材5とした。
また、抗ウサギIgG抗体を含む溶液0.5μlをクロマト展開用膜担体におけるクロマト開始点側の末端部から14.5mmの位置にライン上に塗布して、これを室温にて乾燥し、金コロイド標識抗マウスIgG抗体を捕捉するコントロール部位32を形成した。
それ以外は、実施例1と同様にして、図2(b)に示されるイムノクロマト法テストストリップを作成した。
【0045】
図2(a)に示されるように、得られたイムノクロマト法テストストリップの捕捉部位31及びコントロール部位32の上方に亘って開口する開口CTを備え、含浸部材5よりも上流側の展開溶媒添加用部材7の上方に位置する開口1を備えているハウジング10を用意した。
上記イムノクロマト法テストストリップを上記ハウジング10に収容して、イムノクロマトグラフィー測定用キットを作成した。
【0046】
実施例2と同じ被検試料、対照又はブランク(blank)100μLを第一の開口1にマイクロピペットで滴下(図2(b)縦方向の太矢印参照)した。室温で15分放置後、捕捉部位31で捕捉された抗インフルエンザウイルスA型(マウス)IgG抗体と金コロイド標識抗体との複合体の捕捉量を肉眼で観察した。結果を表1に示す。捕捉量は実施例2と同様に評価した。1ステップ法である本例では、被検試料中の標的としていない他のIgG抗体と金コロイド標識抗体が反応してしまうため、表1に示されるように、ほとんど反応が確認されず、実施例2よりも測定感度が著しく劣っていた。
【0047】
比較例2
幅5mm、長さ36mmの細長い帯状のニトロセルロース膜をクロマトグラフ媒体のクロマト展開用膜担体3の上流側の末端から16.0mmの位置に、インフルエンザウイルスA型抗原1.0mg/mlが含有されてなる溶液0.5μLをライン状に塗布してこれを室温で乾燥し捕捉部位31とした。
また、抗ウサギIgG抗体を含む溶液0.5μlをクロマト展開用膜担体におけるクロマト開始点側の末端部から23.0mmの位置にライン上に塗布して、これを室温にて乾燥し、金コロイド標識抗マウスIgG抗体を捕捉するコントロール部位32を形成した。
それ以外は、実施例1と同様にして、図3(b)に示されるイムノクロマト法テストストリップを作成した。
【0048】
図3(a)に示されるように、含浸部材5よりも下流側の膜担体3の上方の位置に開口1が形成されている以外、比較例1のハウジング10(図2(a))と同様の構成のハウジング10を用意した。
上記イムノクロマト法テストストリップを上記ハウジング10に収容して、イムノクロマトグラフィー測定用キットを作成した。
【0049】
実施例2と同じ被検試料、対照又はブランク(blank)34μlを開口1にマイクロピペットで滴下(図3(b)縦方向の細矢印参照)した後、展開溶媒を第二の開口2から100μL滴下(図3(b)縦方向の太矢印参照)した。室温で15分放置後、捕捉部位31で捕捉された抗インフルエンザウイルスA型(マウス)IgG抗体と金コロイド標識抗体との複合体の捕捉量を肉眼で観察した。結果を実施例2の結果とともに表2に示す。捕捉量は実施例2と同様に評価した。表2に示されるように、本例は2ステップ法であるが、被験試料滴下口すなわち開口1が捕捉部位より上流にあるため被検試料は1回しか捕捉部位を通過せず、感度が得られなかったと考えられた。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、高感度なイムノクロマトグラフィー測定を可能にするものであり、各種生体試料を用いて迅速かつ簡便に各種抗原及び抗体を検出し、それに関連する疾病等の診断をするために有用である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】図1は本発明のイムノクロマトグラフィー測定用キットの具体例を示す概略図であり、aはハウジングの平面図、bは該ハウジングに収容されるイムノクロマト法テストストリップの縦断面図である。
【図2】図2は比較例1で使用した公知のイムノクロマトグラフィー測定用キットの構成を示す概略図であり、aはハウジングの平面図、bは該ハウジングに収容されるイムノクロマト法テストストリップの縦断面図である。
【図3】図3は比較例2で使用したイムノクロマトグラフィー測定用キットの構成を示す概略図であり、aはハウジングの平面図、bは該ハウジングに収容されるイムノクロマト法テストストリップの縦断面図である。
【符号の説明】
【0054】
1,2,C,T,CT 開口
3 膜担体
31 捕捉部位
32 コントロール部位
4 粘着シート
5 含浸部材
6 吸収用部材
7 展開溶媒添加用部材
10 ハウジング
11 空気抜き穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体に対して免疫学的に反応可能な第一の物質を予め所定位置に固定せしめて形成された捕捉部位を備える膜担体を用意し、被検試料を前記捕捉部位に向けて前記膜担体に直接的に適用しクロマト展開させて前記捕捉部位を通過せしめた後、前記検体に対して免疫学的に反応可能な第二の物質を含有する展開溶媒を前記被検試料のクロマト展開方向とは逆方向に前記捕捉部位に向けて前記膜担体にてクロマト展開させることにより、前記検体を前記捕捉部位にて前記第一の物質と前記第二の物質との間にサンドイッチさせて検出することを特徴とするイムノクロマトグラフィー測定法。
【請求項2】
膜担体とは別体の容器中で前記第二の物質を含有する展開溶媒を調製した後、これをクロマト展開せしめる、請求項1に記載のイムノクロマトグラフィー測定法。
【請求項3】
前記第二の物質を予め膜担体に配置しておき、展開溶媒をクロマト展開させた時に前記第二の物質と展開溶媒が混合して前記展開溶媒が第二の物質を含有した状態でクロマト展開されるようにした、請求項2に記載のイムノクロマトグラフィー測定法。
【請求項4】
前記第二の物質は金属コロイドまたはラテックスで標識されている、請求項1に記載のイムノクロマトグラフィー測定法。
【請求項5】
前記膜担体がニトロセルロース膜である請求項4に記載のイムノクロマトグラフィー測定法。
【請求項6】
前記検体がIgG抗体であり、前記第一の物質が該IgG抗体に対する抗原である、請求項1乃至5の何れか1項に記載のイムノクロマトグラフィー測定法。
【請求項7】
イムノクロマト法テストストリップと、これを収容したハウジングとを少なくとも備えてなるイムノクロマトグラフィー測定用キットであって、
前記イムノクロマト法テストストリップは、検体に対して免疫学的に反応可能な第一の物質と、膜担体とを少なくとも備え、前記第一の物質は前記膜担体の第一の位置に予め固定されて捕捉部位を形成し、
さらに、前記イムノクロマトグラフィー測定用キットは、前記検体に対して免疫学的に反応可能で且つ標識された第二の物質を備え、前記第二の物質は前記捕捉部位から離隔した第二の位置から前記第一の位置に向けて前記膜担体にてクロマト展開可能なように用意されてなり、
前記ハウジングは、前記第一の位置及び前記第二の位置を挟むようにそれぞれに隣接して設けられた第一の開口と第二の開口を備え、前記第一の開口は、被検試料を受け入れて前記膜担体に直接的に適用し前記第一の位置に向けてクロマト展開させるための手段を構成し、前記第二の開口は、展開溶媒を受け入れてこれを前記第二の物質を含有する状態で前記第一の位置に向けて前記膜担体にてクロマト展開させるための手段を構成してなることを特徴とするイムノクロマトグラフィー測定用キット。
【請求項8】
さらに、前記第二の物質を含有する展開溶媒を調製して、これを前記第二の開口に注入するための容器を備えている、請求項7に記載のキット。
【請求項9】
前記第二の物質は予め膜担体に配置され、前記展開溶媒を前記第二の開口に注入した時に前記第二の物質と混合するようにされている、請求項7に記載のキット。
【請求項10】
前記被検試料を、前記第一の位置に到達するが、前記第二の位置には到達しない量だけ前記第一の開口に受け入れさせる手段を備えてなる、請求項7に記載のキット。
【請求項11】
前記第二の物質は金属コロイドまたはラテックスで標識されている、請求項7に記載のキット。
【請求項12】
前記膜担体がニトロセルロース膜である、請求項11に記載のキット。
【請求項13】
前記検体がIgG抗体であり、前記第一の物質が該IgG抗体に対する抗原である、請求項7乃至12の何れか1項に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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