説明

インクジェットプリンター及びヘッド駆動回路

【課題】印刷前にD/Aコンバーターの故障を検知する仕組みを提供することにより、D/Aコンバーターの故障による印字異常を防止する。
【解決手段】印字データを受け付ける入力インターフェイス16と、デジタルデータである駆動波形を格納しているメモリーと、デジタルデータである駆動波形をアナログデータである駆動波形に変換するD/Aコンバーターと、アナログデータである駆動波形、及び印字データをヘッドに出力する出力インターフェイス19と、A/Dコンバーターを有するD/Aコンバーター故障検出回路18と、を備え、A/Dコンバーターは、D/Aコンバーターの出力であるアナログデータをデジタルデータに変換し、D/Aコンバーター故障検出回路18は、A/Dコンバーターの出力値に基づいてD/Aコンバーターが故障しているか否かを検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットプリンター、及びD/Aコンバーター故障検出機能を備えたヘッド駆動回路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インクジェットプリンターでは、図12に示すように、ヘッド駆動回路88において増幅した駆動波形COMを生成し、キャリッジ上に搭載した印字ヘッドに出力している。
【0003】
また、ヘッド駆動回路88の構成は、例えば、特許文献1に記載されているように、ヘッド駆動回路にA/Dコンバーターを追加して、ヘッドに印加される駆動波形(COM)をヘッド駆動回路88にフィードバックする構成が知られている。特許文献1では、このフィードバックした駆動波形と、メモリーに予め保存されている駆動波形データとを比較し、その差が大きければ、駆動波形データに補正を行うことで、ヘッド駆動回路からヘッドまでの経路で生じる駆動波形(COM)の理想値と実測値の差を低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−341052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のヘッド駆動回路では、D/Aコンバーターが故障した場合、駆動波形(COM)は本来印加したい駆動波形と大きく異なることになり、例えば階段状の電圧がヘッドに印加されることにより、急激な電圧変化が生じ圧電素子に急峻な変化が与えられ、ヘッドによる誤印字を引き起こすという問題があった。特許文献1では、駆動波形の異常に対して駆動波形補正量を用いて検知できるようにしているが、特許文献1の方法では、駆動波形を圧電素子に入力後、検出を行う為、ヘッドによる誤印字を解決することができない。また、D/Aコンバーターが入力端子短絡などにより故障している場合、デジタル入力に補正をかけて解決を図ろうとするが、D/Aコンバーター自身が故障している為、補正がかけられず、駆動波形の出力が不安定となり誤印字や印字品質の劣化を招いてしまう。
そこで、本発明は、印刷前にD/Aコンバーターの故障を検知する仕組みを提供することにより、D/Aコンバーターの故障による印字異常を防止することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]印字データを受け付ける入力インターフェイスと、デジタルデータである駆動波形を格納しているメモリーと、前記デジタルデータである駆動波形をアナログデータである駆動波形に変換するD/Aコンバーターと、前記アナログデータである駆動波形、及び印字データをヘッドに出力する出力インターフェイスと、A/Dコンバーターを有するD/Aコンバーター故障検出回路とを備え、前記故障検出回路は、印字動作前に、前記A/Dコンバーターによって、前記D/Aコンバーターの出力であるアナログ値をデジタルデータに変換し、前記デジタルデータが許容できる出力値上限及び下限の範囲内に収まっているか否かで故障を判定する、ことを特徴とするヘッド駆動回路。
【0008】
本適用例によれば、前記D/Aコンバーターが何らかの故障により、前記D/Aコンバーターに入力されるデジタルデータの変化に対して、前記D/Aコンバーターのアナログ出力値が急激な電圧変化が起き、前記ヘッドによる誤吐出をしてしまう状況であった場合、前記故障検出回路によって印字前に予め前記D/Aコンバーターにデジタルデータを与え、前記D/Aコンバーターのアナログ出力値を前記A/Dコンバーターによってサンプリングして、前記故障検出回路にフィードバックする。よって前記D/Aコンバーターの全デジタル入力に対する、前記D/Aコンバーターのアナログ出力値が、許容できる上限及び下限の範囲のチェックを行っているため、上述したような入力のデジタルデータに対して急激な電圧変化が起きる場合、故障していると判断し、印字動作を行わない。これによって、D/Aコンバーター故障によるインクの誤吐出を防ぐことができる。
【0009】
[適用例2]前記ヘッドD/Aコンバーター故障検出回路が故障を検出する際、前記D/Aコンバーターの出力を、前記ヘッドに搭載されている圧電素子に電気的に開放、短絡制御を行う。アナログSWをオフした状態、即ち、D/Aコンバーターの出力がA/Dコンバーター以外電気的に開放されている状態で行うことを特徴とする上記ヘッド駆動回路。
【0010】
本適用例によれば、前記故障検出回路によって、前記故障検査を、D/Aコンバーターの出力が電気的に開放されている状態で行うため、前記ヘッドが故障していた場合、前記故障検出中に、前記D/Aコンバーターの出力電圧が急激な変化を起こしても、前記D/Aコンバーターから前記ヘッドに搭載の圧電素子には電流が流れず、D/Aコンバーター故障検出中の誤印字を防ぐことができる。また、前記D/Aコンバーターの出力端子から急激な電流が流れる場合、前記D/Aコンバーターの周辺素子である、過電流保護ヒューズや、前記D/Aコンバーターのアナログ出力値の電流増幅用トランジスターなどが壊れる可能性があるが、本適用例を用いれば、周辺の素子を壊さず、故障検出を行うことができる。
【0011】
[適用例3]前記A/Dコンバーターの分解能は前記D/Aコンバーターの分解能よりも高い、ことが好ましい。
【0012】
前記A/Dコンバーターの分解能が、前記D/Aコンバーターの分解能より低い場合、前記故障検査を行う際、前記D/Aコンバーターに入力したデジタルデータに比べ、前記A/Dコンバーターによってサンプリングして、前記D/Aコンバーター故障検出回路にフィードバックした前記D/Aコンバーターの出力デジタルデータは、低階調であるため、量子化誤差が乗り、正しく比較できない可能性がある。本適用例によって、前記A/Dコンバーターの分解能を前記D/Aコンバーターの分解能より高くすることで、上述の問題を回避することが可能である。
【0013】
[適用例4]前記D/Aコンバーター故障検出回路は、前記D/Aコンバーターのデジタルデータ入力に対し、前記A/Dコンバーターによってサンプリングされた前記D/Aコンバーターのアナログ出力値のデジタル変換データが、予め定めた上限値より大きい、もしくは予め定めた下限値より小さい、もしくは、前記D/Aコンバーターのデジタル入力に対する前記D/Aコンバーターのアナログ出力値のデジタル変換データの入出力特性の傾きが予め定めた下限値より小さい場合、もしくは予め定めた上限値より大きい場合、前記D/Aコンバーターが故障していると判断する、ことを特徴とする上記ヘッド駆動回路。
【0014】
本適用例によれば、前記D/Aコンバーターのデジタルデータ入力に対する、前記D/Aコンバーターのアナログ出力値が、前記D/Aコンバーターのアナログ出力値の理想値より、大きくかけ離れていれば故障と検知される。また、前記D/Aコンバーターのデジタルデータ入力と前記D/Aコンバーターの出力アナログ値との入出力特性の傾きが予め定めた下限値より小さい場合、もしくは予め定めた上限値より大きい場合、故障と検知される。これにより、前記D/Aコンバーターが、前記D/Aコンバーターのデジタルデータ入力に対する前記D/Aコンバーターのアナログ出力値の入出力特性が正常な特性である線形関係を崩すような故障を起こした場合、前記D/Aコンバーターから出力される駆動波形が歪むなど駆動波形の形状が変わってしまい、印字異常及び印字品質の劣化を招く可能性があるが、本適用例ではD/Aコンバーター故障として検知して印刷を行わないため、D/Aコンバーター故障による印字異常及び印字品質の劣化を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】インクジェット式プリンター機能ブロック図。
【図2】ヘッド駆動回路の機能ブロック図。
【図3】ROMのメモリーマップ。
【図4】駆動波形パルス選択回路の機能部ブロック図。
【図5】インクジェットプリンターにおける駆動信号(パルス)と印字データ並びにプログラム(パターン)データ等との関係を示す説明図。
【図6】故障検出シーケンスを表すフローチャート。
【図7】ヘッドのアナログSWをオフする際の、SCLK、SI、SPのタイミングチャート。
【図8】駆動波形デジタルデータ保存メモリーのメモリーマップ。
【図9】RAMのメモリーマップ。
【図10】D/Aコンバーターの入出力特性の理想値と実測値の差を表したグラフ。
【図11】理想的な入出力特性を持つD/Aコンバーターの時の入力波形に対する出力波形と、D/Aコンバーター故障時の入力駆動波形に対する出力駆動波形を表したグラフ。
【図12】従来のインクジェットプリンターにおける、ヘッド駆動ユニット(波形生成回路、電流増幅回路、及びヘッドドライバー回路)の構成を示す機能ブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下に述べる実施形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載が無い限り、これらの態様に限られるものではない。
【0017】
まず、本発明の実施形態に係るインクジェット式プリンター(以下、プリンターと略称する。)の構成について説明する。図1は、本発明の実施形態に係るプリンターヘッド駆動回路を含むプリンターの全体構成を示している。図1において、本実施形態のプリンターは、印字データ生成回路1、ヘッド駆動回路2、印字ヘッド(以下、ヘッドと略称する。)3、及びメカ機構4から構成されている。メカ機構4は、紙送りモーター(図示せず)や紙送りローラー(図示せず)、キャリッジ機構(図示せず)などからなる。紙送りモーターや紙送りローラーは、印刷用紙などの記録媒体(図示せず)を順次送り出して副走査を行うものである。キャリッジ機構は、ヘッドを搭載するキャリッジ(図示せず)と、このキャリッジをタイミングベルト(図示せず)を介して走行させるキャリッジモーター(図示せず)などからなり、ヘッドを主走査させるものである。
【0018】
前記印字データ生成回路1は、ホストコンピューター(図示せず)などからの多値階層情報を含む印字データなどを受信するインターフェイス(I/F)10と、多値階層情報を基に生成したドットパターンを表す後述する印字データSIやパターンデータSPなどの各種データの記憶を行うRAM11と、各種データ処理を行うためのルーチンなどを記憶したROM12と、前記メカ機構4の動作にあわせて前記印字データSIと、前記パターンデータSPと、前記ヘッド駆動回路2に駆動波形出力命令の設定・出力制御を行うCPUやASICなどから構成される制御部14と、前記印字データSIの同期信号SCLKを生成する発振回路(発振器)13と、ドットパターンデータに展開された印字データSIとパターンデータSPをヘッド駆動回路に送信するなどの機能を担うインターフェイス15とを備えている。
ここで、前記ヘッド駆動回路2は、前記印字データ生成回路1に対してFFC(Flexible Flat Cable)などのケーブルを介して回路接続されている。
【0019】
前記ヘッド駆動回路2は、前記印字データ生成回路1からの信号を受信する入力インターフェイス16と駆動波形生成回路17とD/Aコンバーター故障検出回路18と前記ヘッド3へ信号を出力する出力インターフェイス19とを有する。
【0020】
図2は、ヘッド駆動回路2の機能ブロック図を示している。前記駆動波形生成回路17は、駆動波形のデジタルデータを保存する駆動波形デジタルデータ保存メモリー22と、前記駆動波形デジタルデータ保存メモリー22から駆動波形の傾き情報をラッチする第1ラッチ23と、前記第1ラッチ23の傾き情報から駆動波形を形成する加算器24と、前記駆動波形デジタルデータ保存メモリー22から駆動波形の初期電圧を読み出し前記加算器24の加算結果を保存する第2ラッチ25と、前記第2ラッチ25のデジタルデータで表現された駆動波形信号をアナログ信号に変換するD/Aコンバーター26と、前記D/Aコンバーター26の駆動波形信号の電流を増幅する電流増幅回路(電流増幅器)27を有し、前記印字データ生成回路1から受信した前記駆動波形吐出命令に応じて、前記D/Aコンバーター26によってアナログ値に変換された駆動波形COMを前記出力インターフェイス19を介して前記ヘッド3に出力する。また、前記駆動波形生成回路17は、前記駆動波形COMと共に前記駆動波形COM内の駆動パルスを後述する圧電素子へ印加するタイミング信号であるラッチ信号LAT及びチャンネル信号CHを、前記D/Aコンバーター故障検出回路18と前記出力インターフェイス19を介して前記ヘッド3に出力する。
【0021】
前記D/Aコンバーター故障検出回路18は、前記駆動波形生成回路17が有する前記D/Aコンバーター26が故障していないかを検出する。具体的には図2に示す、A/Dコンバーター(ADC)53、アナログSWオフパターン生成回路54、制御・演算部51、RAM52、ROM50、SCLK用マルチプレクサー56、印字データSIとパターンデータSP用マルチプレクサー57、LAT用マルチプレクサー55から構成される。
【0022】
前記ROM50には、図3に示すように前記D/Aコンバーター26のデジタル入力に対する、D/Aコンバーター26のアナログ出力値の許容できる範囲の上限(DAUL(k))、下限(DALL(k))と、前記D/Aコンバーター26のデジタルデータ入力に対する、アナログ出力値の入出力特性の傾きの許容できる上限値αmax、下限値αminが予め格納されている。ここで、kはD/Aコンバーター26に入力されるデジタルデータで0〜1023の範囲を持つ。また、前記ROM50は後述する故障検出の結果を保存する機能を担う。
【0023】
前記RAM52は、前記A/Dコンバーター53のサンプリング結果の平均値の算出や、故障検出判定の中間データなどを保存するのに使用される。
【0024】
前記アナログSWオフパターン生成回路54は、故障検出中に駆動波形生成回路17の駆動波形(COM)出力の信号線が後述するヘッドの圧電素子と電気的開放状態にする前記印字データSIと、前記パターンデータSP及び前記ラッチ信号LATを生成する。
【0025】
前記SCLK用マルチプレクサー56、前記印字データSIとパターンデータSP用マルチプレクサー57、及び前記LAT用マルチプレクサー55は、故障検出中は前記アナログSWオフパターン生成回路54の出力が前記ヘッド3と電気的に接続し、故障検出中以外では、前記印字データ生成回路1の出力、及び前記駆動波形デジタルデータ保存メモリー22の出力が前記ヘッド3に電気的に接続する。
【0026】
前記A/Dコンバーター53は、前記D/Aコンバーター26によって生成されたアナログ値をデジタル値に変換する。なお、前記A/Dコンバーター53の分解能は前記D/Aコンバーター26の分解能以上のものを使用する。
【0027】
前記制御・演算部51は、前記D/Aコンバーター26に対して、入力するデジタル値のパターンの生成、後述するヘッドのアナログSWの開放制御、サンプリング回路のサンプリング結果の平均値算出、及び前記平均値の結果に基づいて故障検出、を行う。故障検出は、前記平均値が、前記上限(DAUL(k))、前記下限(DALL(k))の範囲内か否かの比較に基づいて行われる。さらには、故障が検出された場合は、前記印字データ生成回路1を介して、前記ホストコンピューターに接続されているディスプレイ等の表示装置へその旨を表示させる機能を有する。
【0028】
パワー系電源供給制御回路58は、前記駆動波形生成回路17内のパワートランジスターの駆動用電源のオン/オフの切り替えを行う。前記D/Aコンバーター26が故障している場合、前記D/Aコンバーター26に入力されるデジタルデータが、出力データ0Vの設定である(0000000000)2にも関わらず、0Vより大きな電圧が出力される場合がある。また、後述する前記駆動波形パルス選択回路20内の図4の第1ラッチ64と、第2ラッチ65、制御回路(制御ロジック)66にセットされている前記印字データ及びパターンデータは電源起動時には不定のため、図4のスイッチ回路69内のアナログSWのオン/オフ状態が不定となり、前記電源起動時に出力されるD/Aコンバーター故障電圧が前記圧電素子にかかる可能性がある。この場合、前記圧電素子は電気回路としてはコンデンサーとして動作する為、前記電圧印加時に電流が流れ、結果、D/Aコンバーター周辺の素子(電源の保護ヒューズや駆動回路のトランジスターなど)を壊す恐れがある。前記パワー系電源供給制御回路58は、前記問題を回避するためのものである。即ち、CPUやASICなどのロジックICを駆動する低圧用のロジック用電源(図示しない)と、前記駆動波形生成回路17内のパワートランジスターに供給する高圧のパワー系電源(図示しない)の供給路を分け、前記パワー系電源供給制御回路58によって、前記スイッチ回路69内のアナログSWが開放状態になっている事を確認してから、前記パワー系電源から前記パワートランジスターに対して、電力を供給する。
【0029】
なお、前記出力インターフェイス19と前記ヘッド3とはFFCなどのケーブルを介して接続されている。
【0030】
前記ヘッド3は、ノズル列構造や、圧力発生室、更にはインク流路系等を含む機械的構成の他、駆動波形パルス選択回路20を備えている。図4はこの駆動波形パルス選択回路20を示している。
【0031】
駆動波形パルス選択回路20は、第1シフトレジスター(SR)61及び第2シフトレジスター62、第3シフトレジスター63からなるシフトレジスターと、第1ラッチ64と第2ラッチ65とからなるラッチ回路と、デコーダー67、制御ロジック66と、レベルシフター68と、スイッチ回路69と、吐出駆動素子21とを備えて構成されている。そして、前記各シフトレジスターと、前記各ラッチ回路、前記デコーダー、前記スイッチ回路、及び、前記吐出駆動素子は、それぞれプリントヘッドの各ノズル開口に対応して複数設けられる。
【0032】
前記ヘッド3は、前記ヘッド駆動回路2からの前記駆動波形COMと、前記印字データSIと、前記パターンデータSPと、ノズル印加タイミング信号(LAT信号、CH信号)とに基づいてインク滴を吐出する。
具体的には、前記印字データSIは、ノズル毎に2ビットのデータ幅を持ち、非記録、小ドット、中ドット、大ドットからなる4階調を表す階調情報によって構成される。
前記印字データSIは、1印刷周期毎に前記同期信号SCLKに同期して、前記2ビットのデータの上位ビットを第1シフトレジスター61、下位ビットを第2シフトレジスター62にセットされる。前記第1シフトレジスター61及び前記第2シフトレジスター62のデータは、LAT信号によって、それぞれ接続されている前記第1ラッチ64及び第2ラッチ65にデータが伝送される。
前記パターンデータSPは第3シフトレジスター63に伝送される。このパターンデータSPは、図5(A),(B)に示すように、前記印字データSIの各階調に対して圧電素子に印加する駆動波形パルスを定義づけるものであり、プログラム可能な前記デコーダーのデコード動作の定義データである。
【0033】
前記制御・演算部51は、前記印字データSIと前記パターンデータSPによって選択された駆動パルスが前記圧電素子に印加されるように、前記LAT信号及び前記CH信号に同期して、前記スイッチ回路69内のアナログスイッチのオン/オフ制御を行う。具体的には、前記印字データSI及び前記パターンデータSPによって1印刷周期内の初回の駆動パルスが選択された場合は、前記ラッチ信号LATのタイミングで前記スイッチ回路69内のアナログスイッチをオンし、それ以降の駆動パルスが選択された場合は、CH信号のパルス毎に前記スイッチ回路69内のアナログSWをオン/オフする。
本実施形態においては、前記D/Aコンバーター故障検出回路18による故障検出は、駆動波形生成回路17の出力を電気的に開放した状態の下で行われる。ここで、開放した状態とは、具体的には、図4の前記スイッチ回路69内のアナログSWをオフ(開放)した状態をさす。
【0034】
続いて、故障検出シーケンスを図2、及び図6のフローチャートに沿って説明する。
【0035】
まず、プリンターの電源の起動を検知したらステップ1(S1)を実行する。
ステップ1(S1)では、ロジック電源(CPUやASICなど、ロジックICを駆動する低圧の電源)をオンする。なお、上述したとおり、前記駆動波形生成回路17内のパワートランジスターは、前記パワー系電源供給制御回路58によって、前記パワー系電源より電力が供給されていないものとする。
【0036】
ステップ2(S2)では、前記ROM50から、前回実行した故障検出判定結果を読み出す。
【0037】
ステップ3(S3)では、読み出した故障検出判定結果が、前回故障検出時にD/Aコンバーター26が故障していたと判断した旨を示す場合、新たに故障検出を行わずにステップ4に移行する。
ステップ4(S4)では、前記D/Aコンバーター26が故障していることを、前記印字データ生成回路1を介して前記ホストコンピューターのディスプレイに表示し、前記ROM50の前記D/Aコンバーター故障検出フラグ(図3参照)を故障=1としてデータを書き込む。なお、前記故障検出フラグは、前記D/Aコンバーター26の交換などシステムが復旧可能となった場合、正常=0を前記ホストコンピューターなどから書き込めるものとする。
【0038】
ステップ3(S3)において、前回実行した故障検出判定結果が、前回故障検出時に前記D/Aコンバーター26が故障していたと判断した旨を示さない場合、即ち前回故障検出処理を実行した際にD/Aコンバーター26が正常であった旨を示す場合、ステップ5に移行する。
【0039】
ステップ5(S5)では、前記D/Aコンバーター26の故障検出処理実行中に前記ヘッド3の前記吐出駆動素子21に無用な電圧が印加されないように、前記スイッチ回路69内のアナログSWをオフ状態にする。
【0040】
前記スイッチ回路69内のアナログSWをオフ状態にするためには、前記SCLK用マルチプレクサー56、及び前記印字データSI及びパターンデータSP用マルチプレクサー57の出力を、前記印字データ生成回路1、前記LAT用マルチプレクサー55及び前記駆動波形デジタルデータ保存メモリー22の出力から、前記アナログSWオフパターン生成回路54の出力に切り替えた後、図7に示す様に、前記SCLKに同期して、全ビット0の印字データSI及びパターンデータSPを、前記第1シフトレジスター61と、前記第2シフトレジスター62と、前記第3シフトレジスター63とに伝送する。
最後に、前記シフトレジスターの値を確定するために、図7に示すようにLAT信号を伝送する。
【0041】
ステップ6(S6)では、故障検出の対象である前記D/Aコンバーター26に入力する故障検出パターンを前記駆動波形デジタルデータ保存メモリー22にセットする。
具体的には、前記D/Aコンバーター26のデジタルデータ入力端子(本実施形態では、in[9]〜in[0]の10bit入力とする)に対して、in[9]〜in[0]の10bitを(0000000000)2〜(1111111111)2まで全パターンを図8に示すように前記駆動波形デジタルデータ保存メモリー22に格納する。
ここで、入力デジタルデータは、後述する故障判定において、D/Aコンバーター26のデジタル入力に対するアナログ出力の特性の傾き確認を行うため、(0000000000)2,(0000000001)2,・・・(1111111111)2の順番で前記駆動波形デジタルデータ保存メモリー22に格納し、故障検出パターンの生成・試験を行うこととする。
【0042】
ステップ7(S7)では、故障検出の準備が整ったと判断し、前記パワー系電源供給制御回路58のパワー系電源をオフ状態からオン状態へ切り替える。
【0043】
ステップ8(S8)では、駆動波形デジタルデータ保存メモリー22に対して波形出力命令を送り、前記故障検出パターンを図2の前記第2ラッチ25に読み込み、前記D/Aコンバーター26に故障検出パターンを入力する。
【0044】
ステップ9(S9)では、前記A/Dコンバーター53で前記D/Aコンバーター26のデータのサンプリングを行う。その際、サンプリング結果にノイズが乗る可能性があるため、数十回〜数百回サンプリングを行い、その結果をRAM52データのテンポラリー領域(図9)に保存する。また、前記サンプリング結果に基づいて平均値をA/Dコンバーターの変換結果AD(k)とし、A/D変換履歴エリア(図9)に保存する。
【0045】
ステップ10(S10)では、2段階に分けて故障判定を行う。
【0046】
D/Aコンバーター26の入力するデジタルデータと出力のアナログ値の関係は、図11(a)に示すように理想的には、(入力デジタルデータ,出力電圧値)=(0,最小電圧値)と(入力デジタルデータ,出力電圧値)=(最大入力デジタルデータ,最大電圧値)とを結ぶ直線の関係となる。理想的な変換関係の場合、D/Aコンバーター26による印字波形の歪は生じない。実際には、D/Aコンバーター26が持つ誤差や、ノイズなどの外乱により、図10の実測値に示すように、デジタルデータ入力値に対して、アナログ出力値は完全な直線ではなくなるが、正常なD/Aコンバーター26であれば、ほぼ正の比例関係性が保たれているため、使用上問題ない。一方、D/Aコンバーター26の入力端子のショートや、D/Aコンバーター26の内部回路の故障が起きると、アナログ出力値が理想値のより大きく外れる、もしくは、入力と出力の関係が階段状になるなど線形成の損失などが起きる。このような場合、図11(b)に示すようにデジタルデータで表現された駆動波形をデジタル信号に対し、出力の駆動波形のアナログ信号には、歪や、ひどい場合は信号の高低の反転が起き、印字品質を損なってしまう。
そこで、本願発明では、D/Aコンバーター26の入出力特性の理想値の直線に対して、大きく外れていれば、故障と判断する。
【0047】
具体的には、第1段階では、前記D/Aコンバーター26のアナログ出力値が理想値に対し、前記A/D変換結果AD(k)が大きくかけ離れていないことを確認する。即ち、前記A/D変換結果AD(k)が前記DALL(k)より大きい、もしくは、DAUL(k)より小さければ故障と判断し、前記条件から外れていれば正常と判断する。ここで、kは故障検出パターンデータ(本実施例ではk=0〜1023)を表す。
第1段階で正常と判断された場合は、第2段階の故障検出判定に移行する。
次に、第2段階では、正の比例関係をもち、かつ理想値の直線の傾きより大きく外れていないかの判定を行う。即ち、今回入力した故障検出パターンkのA/D変換結果AD(k)と、前記RAM52に保存されている前記A/D変換結果の履歴から故障検出パターンk−1のA/D変換結果AD(k−1)の差分値が、前記ROM50に格納されている前記入出力特性の傾きの上限値αmaxより大きい、もしくは下限値αminより小さければ故障と判断し、前記条件から外れていれば正常と判断する。なお、上述したように正常なD/Aコンバーター26であれば、入出力特性の傾きは正の値を取るため、αmin及びαmaxは正の値の範囲とする。
【0048】
ステップ11(S11)では、前記D/Aコンバーター26が故障と判断した場合、前記ステップ4(S4)に移行する。ステップ4(S4)の処理は上述したとおりである。
【0049】
一方、正常と判断した場合はステップ12(S12)に移行する。
【0050】
ステップ12(S12)では、全検査パターンについて検査が終わったか判定する。
具体的には、前記kが1023に達していれば、全検査パターンが終了したと判断し、ステップ14(S14)に移行して故障検出を終了する。kの値が1023に達していないのであればステップ13(S13)に移行し、k=k+1として故障検出処理を繰り返し実行する(S8以降)。
【0051】
ステップ14(S14)では、D/Aコンバーター26が正常であると判断されたため、前記駆動波形デジタルデータ保存メモリー22に、印字波形のデジタルデータを展開し、通常のプリンターの動作に移行する。
【0052】
以上述べたように、本実施形態に係るヘッド駆動回路2を用いたプリンターによれば、以下の効果を得ることができる。
本実施形態によれば、電源起動時に前記D/Aコンバーター26の出力が前記A/Dコンバーター53以外は電気的に開放した状態で故障検出を行うため、前記圧電素子に電圧が印加されず、インクの誤吐出を防ぐことができる。また、前記圧電素子に電流が流れない為、前記D/Aコンバーター26故障の影響を他の素子(例えば、電源保護用ヒューズや駆動回路のトランジスターなど)に対して及ぼさないことができる。
【符号の説明】
【0053】
1…印字データ生成回路、2…ヘッド駆動回路、3…ヘッド、4…メカ機構、10,15,16,19…I/F、11…RAM、12…ROM、13…発信器、14…制御部、17…駆動波形生成回路、18…D/Aコンバーター故障検出回路、20…駆動波形パルス選択回路、21…吐出駆動素子、22…駆動波形デジタルデータ保存メモリー、23…第1ラッチ、24…加算器、25…第2ラッチ、26…D/Aコンバーター、27…電流増幅器、50…ROM、51…制御・演算部、52…RAM、53…ADC、54…アナログSWオフパターン生成回路、55…LAT用マルチプレクサー、56…SCLK用マルチプレクサー、57…パターンデータSP用マルチプレクサー、58…パワー系電源供給制御回路、61…第1シフトレジスター、62…第2シフトレジスター、63…第3シフトレジスター、64…第1ラッチ、65…第2ラッチ、66…制御ロジック、67…デコーダー、68…レベルシフター、69…スイッチ回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印字データを受け付ける入力インターフェイスと、
デジタルデータである駆動波形を格納しているメモリーと、
前記デジタルデータである駆動波形をアナログデータである駆動波形に変換するD/Aコンバーターと、
前記アナログデータである駆動波形、及び前記印字データをヘッドに出力する出力インターフェイスと、
A/Dコンバーターを有するD/Aコンバーター故障検出回路と、
を備え、
前記A/Dコンバーターは、前記D/Aコンバーターの出力であるアナログデータをデジタルデータに変換し、
前記D/Aコンバーター故障検出回路は、前記A/Dコンバーターの出力値に基づいて前記D/Aコンバーターが故障しているか否かを検出する、
ことを特徴とするヘッド駆動回路。
【請求項2】
前記D/Aコンバーター故障検出回路が故障を検出する場合に、
前記D/Aコンバーターの出力が、前記D/Aコンバーター故障検出回路以外の回路と電気的に開放されている状態で行う、
ことを特徴とする請求項1に記載のヘッド駆動回路。
【請求項3】
前記A/Dコンバーターの分解能は前記D/Aコンバーターの分解能よりも高い、
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載のヘッド駆動回路。
【請求項4】
前記D/Aコンバーター故障検出回路は、
前記A/Dコンバーターの出力値が予め定めた範囲値内、且つA/D変換のサンプリング結果が減少関係であれば、前記D/Aコンバーターが故障していると判断する、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のヘッド駆動回路。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のヘッド駆動回路を備えることを特徴とするインクジェットプリンター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−210772(P2012−210772A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77896(P2011−77896)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】