インクジェットプリンタ
【課題】ラインヘッドの主走査方向への微小移動を高精度に行い、高画質な画像記録が行えるインクジェットプリンタを提供する。
【解決手段】インクジェットプリンタは、ラインヘッドユニットを一対の板状でばね定数Kpの可撓性部材によってフレーム部材に対して吊り下げて支持し、さらに定数Kpよりも大きいばね定数Kcの付勢部材によってラインヘッドユニットと偏心カム31との当接状態が常に保持されるようにし、偏心カム31を回転させて可撓性部材を面外方向に撓み変形させることでラインヘッドユニットを微小移動させる。
【解決手段】インクジェットプリンタは、ラインヘッドユニットを一対の板状でばね定数Kpの可撓性部材によってフレーム部材に対して吊り下げて支持し、さらに定数Kpよりも大きいばね定数Kcの付勢部材によってラインヘッドユニットと偏心カム31との当接状態が常に保持されるようにし、偏心カム31を回転させて可撓性部材を面外方向に撓み変形させることでラインヘッドユニットを微小移動させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録媒体にインクを吐出して画像を記録するインクジェットプリンタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インクジェットプリンタには、記録媒体への画像記録の高速化を図るために、1つ、又は複数のインクヘッドを用いて記録媒体幅以上のラインヘッドを構成し、固定されたラインヘッドに対して記録媒体のみを搬送して、画像記録を行うフルライン型インクジェットプリンタ(以下、ラインプリンタと称する)が知られている。
【0003】
このようなラインプリンタでは、ラインヘッドを構成している各インクヘッドに形成されたノズルの間隔(ノズルピッチ)が、そのまま、主走査方向の記録ドット密度となる。また、インクヘッドのノズルの詰まりに起因するインクの不吐出やインクの飛行曲がり(着弾ずれ)などが、そのまま、記録欠陥として記録媒体上に現れる。そこで、例えば、特許文献1には、ラインヘッドを主走査方向に、例えばノズルピッチ以下の距離で微小移動させ、記録媒体をラインヘッド下に複数回通過させる記録動作によって1枚の画像を形成するインクジェットプリンタが開示されている。このインクジェットプリンタは、ラインヘッドを一体的に保持するキャリッジと、キャリッジをスライド可能に支持する2本のガイド軸と、キャリッジの長手方向の一端側に設けられた偏心送りカムと、キャリッジの長手方向他端側に設けられた付勢ばねと、を備えている。
【0004】
この構成において、偏心送りカムは、付勢ばねによって常時、キャリッジと接触している。そして、偏心送りカムをパルスモータによって回転させることで、キャリッジ(ラインヘッド)がガイド軸に沿って主走査方向に微小移動する。このような微小移動により、特許文献1のインクジェットプリンタでは、ノズルピッチ以上の高密度な画像記録や記録欠陥を補間する画像記録を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平06−71947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、上述した特許文献1のようにキャリッジ(ラインヘッド)をガイド軸に沿って微小移動させる場合、ガイド軸とキャリッジとの間(摺動部)には、ガタ・遊びが存在するため、このガタ・遊び分だけ微小移動の移動精度が悪化してしまう。
【0007】
また、キャリッジ(ラインヘッド)をガイド軸に沿って微小移動させる場合、スティックスリップ現象の発生や、摺動部分の損耗、摺動部分への異物混入等によっても微小移動の移動精度が悪化してしまう。そのため、ラインヘッドから吐出されたインクが所望の位置に着弾せず、画像品質の低下を招く。
【0008】
そこで本発明は、ラインヘッドの主走査方向への微小移動を高精度に行い、高画質な画像記録が行えるインクジェットプリンタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に従う実施形態は、を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ラインヘッドの主走査方向への微小移動を高精度に行い、高画質な画像記録が行えるインクジェットプリンタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係るインクジェットプリンタとして、インクジェットプリンタの正面方向から構成を示している。
【図2】図2は、図1に示したインクジェットプリンタを側方から見た構成を示す図である。
【図3】図3は、図2に示したヘッド微小移動機構を上方から見た構成を示す図である。
【図4A】図4Aは、1回目の画像記録されたカット媒体の記録状態を示す図である。
【図4B】図4Bは、図4Aに引き続き、2回目の画像記録されたカット媒体の記録状態を示す図である。
【図5】図5(a)乃至(d)は、平行板ばねに作用する力による変形方向について説明するための図である。
【図6】図6は、図2に示したヘッド微小移動機構を上方から見てヨーイングについて説明するための図である。
【図7】図7(a)は、微小移動機構部におけるステッピングモータの回転軸方向がノズル面に対して平行となるように配置した構成例を示す図であり、図7(b)は、微小移動機構部におけるステッピングモータの回転軸方向がノズル面に対して直交するように配置した構成例を示す図である。
【図8】図8(a)は、2種類の板ばねにおける変位量―反力線図の一例を示す図であり、図8(b)は、本実施形態の平行板ばねと付勢ばねとの組み合わせによる変位量―反力線図を示す図である。
【図9】図9は、第1の変形例の構成例を示す図である。
【図10】図10は、第2の変形例の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るインクジェットプリンタとして、インクジェットプリンタの正面方向から見た構成を示している。図2は、図1に示したインクジェットプリンタを側方から見た構成を示す図である。以下の説明において、主走査方向は、カット媒体の幅方向又はノズル列方向とし、この主走査方向と直交する副走査方向は、カット媒体の搬送方向として説明している。
【0013】
このインクジェットプリンタ1は、主構成部位として、給紙部2と、搬送部3と、記録部4と、微小移動機構5と、昇降部6と、クリーニング部7と、排紙部8と、これらを支える本体フレーム9と、を備えている。
【0014】
給紙部2は、所定の大きさにカットされた記録媒体(カット媒体)11を収納する給紙トレイ12と、給紙トレイ12に収納された複数のカット媒体11を1枚ずつ取り出すピックアップローラ13と、を有する。給紙トレイ12には、ピックアップローラ13に一定の圧力でカット媒体11を当接させるための不図示のばね等の付勢部材が設けられている。また、ピックアップローラ13には、カット媒体11が後述するドラム15に吸着した後に、従動ローラとして機能させるために不図示のワンウェイクラッチが内蔵されている。
【0015】
搬送部3は、ドラム15と、帯電ローラ16と、媒体端検知センサ17と、徐電器18と、剥離爪19と、を有している。
ドラム15は、両端が回転可能に本体フレーム9に軸支されている。このドラム15は、画像記録時に、カット媒体11をドラム表面に巻き付けて搬送するために用いられ、図示しないモータにより、図1に示す矢印mの方向に、一定速度で回転駆動される。また、ドラム15には、相対的回転角を検出するための図示しないエンコーダが取り付けられている。尚、エンコーダの出力は、画像記録(ノズルのインク吐出)のタイミングにも利用されている。ドラム15は、例えば、中空アルミ円筒と両側面のフランジにより構成され、円筒表面(ドラム表面)が絶縁プラスチックコートされている。また、ドラム15自体は、スラスト方向のガタが発生しないように形成されている。
【0016】
帯電ローラ16は、搬送経路最上流側に、ドラム15に対向して設けられている。この帯電ローラ16は、カット媒体11をドラム表面に案内するとともに、正放電することで、カット媒体11をドラム表面に吸着させる働きをする。本実施形態では、オゾンが発生し難いように正帯電としている。
【0017】
媒体端検知センサ17は、帯電ローラ16の下流側の搬送経路に、ドラム22に対向して設けられている。この媒体端検知センサ17は、発光素子と受光素子を対で備え、発光素子から出射された光束が受光素子に入射する位置関係を持つように配置されている。媒体端検知センサ17は、ドラム表面とカット媒体表面の反射率が異なるため、反射率の変化により、ドラム表面とカット媒体表面との境界(媒体端部)を検知し、カット媒体11の絶対的回転位置(又は、ドラム上の保持位置)を検出している。
【0018】
除電器18は、記録部4の下流側の搬送経路に、ドラム22に対向して設けられている。この除電器18は、カット媒体11に向かって交流放電を行い、ドラム15に対する静電吸着力を消滅させて、ドラム表面からカット媒体11を剥離しやすくする働きを行う。除電器18の下流に配置された剥離爪19は、その先端部がドラム表面に接しており、吸着力がなくなったカット媒体11をドラム15から剥離するとともに、排紙部8へカット媒体11を案内する。尚、剥離爪19は、剥離動作を行う以外の時には、図示しない退避機構によって先端部がドラム表面から離間した位置に退避され、まだ剥離しないカット媒体11には接触しないように構成されている。
【0019】
記録部4は、媒体端検知センサ17と除電器18との間の搬送経路中に、ドラム15の外周面に沿って設けられている。この記録部4は、インクを吐出する複数のラインヘッド21(21K,21C,21M,21Y)と、ラインヘッド21を保持するヘッドホルダ22とで構成される。以下の説明において、ラインヘッド21の全体及びヘッドホルダ22をラインヘッドユニットと称している。このラインヘッドユニット(ヘッドホルダ22)は、一端がヘッドホルダ22に、他端が本体フレーム9の支持部材23に接続される後述する平行板ばね24,25によって吊り下げ式に支持されている。
【0020】
本実施形態のラインヘッド21では、一例として、K(ブラック)ヘッド21K、C(シアン)ヘッド21C、M(マゼンタ)ヘッド21M、Y(イエロー)ヘッド21Yの4色のラインヘッドが、ヘッドホルダによって一体的に組み合わされている。尚、本実施形態のラインヘッド21は、1つ又は複数のインクジェットヘッドによって構成されている。
【0021】
ラインヘッド21において、記録媒体と対向するインク吐出平面(ノズル面27)には、使用されるカット媒体11の幅方向の記録領域よりも長くなるように、複数のノズルが列状(ノズル列)に形成されている。記録すべきデータに応じて、各インク色に対応するノズルからインクを吐出させてカット媒体11に画像記録を行う。
【0022】
微小移動機構5は、図2及び図3に示すように、ヘッドホルダ22を吊り下げ式に支持する可撓性部材としての平行板ばね24,25と、ラインヘッド21に対して、ノズル列の配列方向即ち、主走査方向の一端側に設けられ、ヘッドホルダ22と当接する偏心カム31と、それを動かすステッピングモータ32と、ヘッドホルダ22を偏心カム31に押し当てる付勢部材としての付勢ばね33とによって構成されている。
【0023】
昇降部6は、モータ34、平歯車列35及び、リードスクリュー36によって構成されている。昇降部6は、記録部4をヘッドクリーニング時や記録待機時における退避位置と、画像記録を行う記録位置とに移動させる。
クリーニング部7は、記録部4のラインヘッド21をクリーニングする。そのため、特には図示しないが、ラインヘッド21をクリーニングするためのワイプブレードや吸引機構等の既知のクリーニング機構を有している。
【0024】
クリーニング部7は、待機時や画像記録時には、図1に示すように、記録部4の近傍の退避位置にある。クリーニングを行う際は、まず、昇降部6によって記録部4をドラム15から上方に離間させて、記録部4とドラム15との間に空間を形成する。そして、クリーニング部7を不図示のクリーニング部移動機構によって前記空間に向かって移動させて、記録部4と対向したクリーニング位置に停止させる。その後、クリーニング部7による記録部4(ラインヘッド21)のクリーニングがなされる。クリーニングが終わると、記録部4及びクリーニング部7は、退避位置に戻される。
【0025】
排紙部8は、ベルト搬送部41と、排紙トレイ42と、を有している。ベルト搬送部41は、図示しない吸引ユニットと、複数のローラ43と、ローラ43に架け渡された複数の孔が形成された無端ベルト44と、から構成されている。そして、ベルト搬送部41は、画像記録後に、剥離爪19によってドラム15から剥離排出されたカット媒体11を無端ベルト44上に吸引吸着して排紙トレイ42へと搬送する。排紙トレイ42は、画像記録されたカット媒体11を整列収納する。
【0026】
本体フレーム9は、四方(前後左右の面)及び上下(上面及び下面)を囲むように組み付けられた、サイドフレーム9a、フロントフレーム9b、リアフレーム9c、トップフレーム9d、ベースフレーム9eによって箱状に形成されており、以上に述べた構成部品の一部、又は全部をその内部に保持している。
【0027】
次に、図1及び図2を参照して、本実施形態のインクジェットプリンタによる一連のプリント動作について説明する。以下では、解像度を2倍にするために、つまりノズル間隔dの2倍の密度で画像を記録するために、1回目の画像記録の後、ラインヘッドユニット(ヘッドホルダ22)をノズル間隔dの半分のd/2だけ移動させて2回目の画像記録を行う場合について説明する。
【0028】
ユーザの指示により、外部の情報機器(パソコン等)より画像データが送信され、プリント動作開始される。まず、ドラム15が図1に示す矢印mの方向(時計回転)に回転し始めて、予め定めた定速回転となる。次に、予め、定速回転となるタイミングを見計らって、給紙部2からカット媒体11がピックアップローラ13により1枚送り込まれる。カット媒体11は、不図示の給紙ガイドに案内され、帯電ローラ16、続いてドラム表面へと搬送される。同時に帯電ローラ16は正(+)放電を開始し、帯電させたカット媒体11をドラム表面に吸着させる。
【0029】
ドラム15に吸着されたカット媒体11は、ドラム15の回転に従って搬送され、媒体端検知センサ17によって先端が検出される。この先端が検出されると、不図示のエンコーダからの信号に基づいて、ラインヘッド21によるカット媒体11上の画像記録開始・終了のタイミングが決定される。その後、各ラインヘッド21(21K、21C、21M、21Y)のノズルから、各インク色に展開された記録すべき所望のデータに基づいて、各インク色のタイミングでインクが吐出されて、図4Aに示すように、カット媒体11に1回目の画像記録がなされる。
【0030】
少なくとも記録動作中は、ラインヘッド21のノズル面27かその近傍に、カット媒体11に印加した静電電位と同じ電位(この例では正電位)で数百ボルト〜数キロボルトをバイアス電位として印加している。そのため、ドラム15に静電気で密着した媒体や、ゴミ等は同じ電位のラインヘッド21のノズル面27とは反発し合い、ノズル28やノズル面27に付着しにくくなっている。
【0031】
そして、1回目の画像記録の後、除電器18を作動させず、故にカット媒体11がドラム15から剥離されることなくもう1回転させて、カット媒体11が再びラインヘッド位置に達する。その間に、微小移動機構5によってラインヘッドユニット(ヘッドホルダ22)をノズル列方向にノズル間隔dの半分となるd/2に相当する距離だけ微小移動させる。かくして、図4Bに示すように、ラインヘッド21がノズル間隔dの半分となるd/2の距離だけノズル列方向に移動し、2回目の画像記録がなされる。このようにして補間記録を行うことにより、ノズルピッチ以上の高密度な画像を記録することが可能である。
【0032】
2回目の画像記録がなされると、カット媒体11は、除電器18の前方を通過する際に、除電器18からのAC放電を受けて除電され、ドラム15に密着するための吸着力が消滅される。それと同時に、剥離爪19の先端部をドラム表面に接触させて、カット媒体11をドラム表面から剥離し、ベルト搬送部41(無端ベルト44)に受け渡す。受け渡されたカット媒体11は、図示しない吸引箱(吸引ファン)による負圧で、無端ベルト44に開口された穴を介して、無端ベルト44上に密着した状態で搬送される。なお、無端ベルト44は、少なくともプリント動作時は矢印nの方向に、ドラム15の周速より速く移動している。そして、カット媒体11は、無端ベルト44の下流端側で密着状態を解かれ、排紙トレイ42上に排出される。かくして、1枚のカット媒体11への一連の画像記録動作が終了する。
【0033】
尚、本実施形態では、ラインヘッド21の微小移動量をd/2としたが、微小移動量は、これに限定されるものではない。微小移動量をd/n単位とし、1枚のカット媒体11に対してn回の記録動作を行うことで、ラインヘッド21のn倍の解像度の画像を形成することが可能である。また、微小移動量をn×d単位とした場合には、ノズルの吐出不良を隣接した正常ノズルからの吐出によって隠蔽することも可能である。このように様々な補完印字の動作パターンが考えられる。
【0034】
また、ドラム15へのカット媒体11の吸着手段として、本実施形態では、帯電ローラ16で発生させた静電気を利用したが、この手法に限定されるものではない。例えば、絶縁されたドラム表面に網目上の電位のかかる配線を施し、この網目に電位をかけ、発生させた電荷によりカット媒体11を吸着するように構成してもよい。他の手法としては、ドラム円周に多数の貫通穴を設け、ドラム内を排気して負圧状態を発生させて、カット媒体11をドラム円周面に吸着させるようにしてもよい。他にもすでに公知な手法を用いて、ドラム15へのカット媒体11の吸着を実現してもよい。
【0035】
次に、図1乃至図3を参照して、本実施形態に係る微小移動機構5の構成について詳細に説明する。図3は、図2に示した微小移動機構5を上方から見た構成を示す図である。
微小移動機構5は、前述したように、平行板ばね24,25と、駆動部としての偏心カム31及びステッピングモータ32と、付勢部材としての付勢ばね33とによって構成されている。
【0036】
平行板ばね24,25は、図2に示すように、ラインヘッド21のノズル列方向、すなわち、ヘッドホルダ22の長手方向両側を挟み込むように互いに平行を成して配置されている。この平行板ばね24,25は、例えば金属材料による薄板状の可撓性部材からなっている。そして、平行板ばね24は、一端がヘッドホルダ22に固定され、他端が支持部材23を介してフロントフレーム9bに固定されている。同様に、平行板ばね25は、一端がヘッドホルダ22に固定され、他端が支持部材23を介してリアフレーム9cに固定されている。このようにして、平行板ばね24,25は、本体フレーム9に対してヘッドホルダ22を吊り下げ式で支持している。
【0037】
ここで、平行板ばね24,25は、次の特性を有している。図5(a)乃至(d)は、平行板ばねに作用する力による変形方向について説明するための図である。図5(a)は、平行板ばね24,25の[1]面内方向(引っ張り・圧縮)、[2]面内方向(撓み)、[3]面外方向(撓み)の具体的な方向を示している。図5(b)は、平行板ばね24,25が[1]面内方向に変形した状態を示し、図5(c)は、平行板ばね24,25が[2]面内方向に変形した状態を示し、図5(d)は、平行板ばね24,25が[3]面外方向に変形した状態を示している。
【0038】
平行板ばね24,25は、図5(a)に示す、[3]面外方向(撓み)の剛性に比べて、残り2つの[1]面内方向(引っ張り・圧縮)と[2]面内方向(撓み)の剛性が非常に高い、という特徴を有している。一般に、片持ち梁の撓みは、(式1)で与えられ、引っ張り・圧縮は、(式2)で与えられる。
【0039】
x=FL3/3EI … (式1)
x=FL/EA … (式2)
なお、xは撓み、若しくは引っ張り・圧縮による変形量、Fは荷重、Lは梁の長さ、Eは弾性係数、Iは、断面2次モーメント、Aは梁の断面積を表す。梁を板ばねに置き換えて本式を適用すると、例えば板ばねの形状を長さ30mm、幅30mm、厚さ0.1mmと仮定した場合、式1および式2より、所定の荷重における[3]面外方向(撓み)の変形量を1とすると、[1]面内方向(引っ張り・圧縮方向)の変形量は360000分の1、[2]面内方向(撓み方向)の変形量は90000分の1となる。
【0040】
このように、面外方向の剛性に比べて、残り2つの面内方向の剛性は非常に高い。但し、単体の板ばねは、ねじれ方向の剛性は、それほど高くない。しかしながら、2枚の平行板ばね24,25を対向させて連結した形態で使用することで、構造的にねじれ方向の剛性を補完している。
【0041】
前述のような特性を有しているため、平行板ばね24,25は、図2に示すように板ばね面に対する垂直方向(図5(a)の面外方向)P1,P2に撓むことで、ヘッドホルダ22を矢印Pで示すノズル列方向の1軸方向に正確に移動させることができる。つまり、1軸方向(図2のP方向、及び図5(a)に示す[3]面外方向)以外の残り2軸方向(図5(a)の[1]面内方向、[2]面内方向)の振れ、及び図6に示したラインヘッド21のノズル面と直交する上下軸まわりの回転揺れ(ヨーイング)は、効果的に抑制され、1軸方向のみ(図2のP方向、及び図5(a)に示す[3]面外方向)に正確にヘッドホルダ22を移動させることができる。
【0042】
駆動部としての偏心カム31及びステッピングモータ32は、図2及び、図3に示すように、ヘッドホルダ22の長手方向一端側に配置されている。ステッピングモータ32は、リアフレーム9cから延出して設けられた固定部材34に固定されている。このステッピングモータ32の回転軸に偏心カム31が軸支されている。そして、偏心カム31の外周は、ヘッドホルダ22に当接している。この構成において、ステッピングモータ32の駆動により、偏心カム31が回転し、ヘッドホルダ22に推進力を与える。この推進力の推進方向は、図3の矢印qで示す方向で、ラインヘッド21のノズル列方向(主走査方向)である。つまり、偏心カム31による推進力の推進方向とノズル列方向は平行となっている。
【0043】
ここで、本実施形態では、偏心カム31は、図3に示すように、ヘッドホルダ22と当接する当接位置とラインヘッドユニット(ラインヘッド21及びヘッドホルダ22)の重心位置とが主走査方向において同一直線上となるように配置されている。つまり、ラインヘッドユニットに働く推進力の作用線が重心位置を通るように偏心カム31が配置されている。このようにすることで、図6に示すヨーイングの発生をより低減することができる。尚、ラインヘッドユニットの重心位置は、設計又は実際の組み立て構成部位により求めた位置である。その他、公知な手法により、重心位置を求めることは容易である。
【0044】
また、本実施形態では、偏心カム31の回転方向を次のように設定している。図7は、図3に示した微小移動機構5の駆動部を側方から見た図である。図7(a)は、ステッピングモータ32の回転軸の軸線方向がラインヘッド21のノズル面(インク吐出平面)27と平行な仮想面Wに対して平行になっている場合を示し、図7(b)は、ステッピングモータ32の回転軸の軸線方向が仮想面Wに対して直交している場合を示している。
【0045】
図7(a)のようにステッピングモータ32を配置した際、即ち、偏心カム31の回転中心の軸線方向を仮想面Wに対して平行にさせた際、偏心カム31が回転すると、ヘッドホルダ22側面に作用する摩擦抵抗による外力の摩擦荷重方向は、矢印sで示す方向となる。換言すれば、ヘッドホルダ22に働く摩擦抵抗による外力の作用線が、仮想面Wに対して交差(直交)する。これにより、摩擦抵抗による外力は、平行板ばね24,25に吸収され、図6に示すヨーイングの発生をより低減することができる。
【0046】
一方、図7(b)のようにステッピングモータ32を配置した際、即ち、偏心カム31の回転中心の軸線方向を仮想面Wに対して直交させた際、偏心カム31が回転すると、ヘッドホルダ22側面に作用する摩擦抵抗による外力の摩擦荷重方向は、矢印uで示す方向となる。換言すれば、ヘッドホルダ22に働く摩擦抵抗による外力の作用線が、仮想面Wに対して平行になる。そのため、図6に示すヨーイングの発生の原因となるモーメントをヘッドホルダ22に与えてしまう。そこで、本実施形態では、図7(a)に示すように、偏心カム31の回転させている。
【0047】
付勢ばね33は、例えば、引っ張りコイルばねからなり、図3に示すように、偏心カム31及びステッピングモータ32を挟むように両側で、ヘッドホルダ22とリアフレーム9cとを横架するように設けられている。これら一対の付勢ばね33は、図3の矢印rで示すように、ヘッドホルダ22を偏心カム31に押し当てる方向の付勢力を与えている。つまり、付勢ばね33は、偏心カム31による推進方向(移動方向)とは全く反対方向となる付勢方向(又は、反移動方向)に付勢力を作用する。この作用によって、ヘッドホルダ22と偏心カム31との当接状態が常に保持されることとなる。
【0048】
本実施形態では、偏心カム31がヘッドホルダ22と当接する当接位置からそれぞれが等しい距離となる離間位置に2つの付勢ばね33を配置した構成となっている。この構成により、2つの付勢ばね33の合力の作用線とラインヘッドユニットに働く推進力の作用線とが同一作用線上となるようにしている。
【0049】
つまり、ラインヘッドユニットに働く推進力と2つの付勢ばね33の合力からなる付勢力が同一作用線上で作用するため、図6に示すヨーイングの発生をより低減させることができる。換言すれば、ラインヘッドユニットに働く推進力の作用線及び2つの付勢ばね33の合力の作用線は、重心位置を通るため図6に示すヨーイングの発生をより低減させることができる。ここで、平行板ばね24,25のみだけではなく、一対の付勢ばね33を加えた構成としている理由を以下に示す。
【0050】
偏心カム31の径差に正確に追従させてラインヘッド21を微小移動させるためには、一定以上の付勢力を与える必要がある。微小移動時の最大加速度をAmaxとしたとき、ラインヘッドユニットに発生する最大荷重は、Fmax=M×Amax(Mはラインヘッドユニットの質量)である。ヘッドホルダ22を偏心カム31に常に当接させておくための付勢力Fbは、この最大荷重よりも大きくなければならない(Fb>Fmax)。
【0051】
ここで、仮に、この付勢力を平行板ばねの反力のみで実現することを考えてみる。図8(a)は、2種類の板ばねA、板ばねBの特性を示した変位量―反力線図の一例を示す図である。板ばねAは、板ばねBよりも傾きが大きい、すなわち、ばね定数が高い。この板ばねAを用いて、微小移動範囲の全域において必要付勢力Fb以上の反発力を得ようとすると、図に示したように、最大変位時には、必要付勢力の約2倍の反力が発生してしまう。
【0052】
この最大反力に抗してラインヘッドユニットを移動させるためには、より大きな推力を発生可能な、大容量のステッピングモータ32を用いる必要がある。一方、板ばねBを用いた場合、板ばねAよりもばね定数が低いため、最大反力を下げることが可能となる。しかし、その反面、使用時の最大変位量は板ばねAを用いた場合よりも大きくなるため、ばねに発生する最大応力も増加し、ばね材料の弾性限界を超えてしまうことが予想される。
これを回避するためには、ばねの全長をもっと長くとって、さらにそのばねを十分に撓ませた領域で使用する必要がある。この対処法では、より大きなスペースを必要となり、装置が大型化してしまう。
【0053】
これを回避するために、平行板ばね24,25に加えて、付勢用に独立した付勢ばね33を併用している。ここで、平行板ばね24,25のばね定数をKp、付勢ばね33のばね定数をKcとしたとき、付勢ばね33のばね定数Kcは、平行板ばね24,25のばね定数Kpよりも大きい(Kp<Kc)関係を有している。
【0054】
図8(b)は、本実施形態の平行板ばね24,25による板ばねCと付勢ばね33の組み合わせにおける変位量―反力線図の特性を示す図である。この組み合わせにおいては、板ばねCのばね定数が十分に小さいため、板ばねCによる最大反力を小さくすることができ、必要な付勢力に対して、十分な小容量ステッピングモータ32を用いることが可能となる。一方、付勢ばね33は、必要な付勢力の大部分を担うためには十分な変位量が必要とされる。本実施形態で採用している、付勢ばね33は、長い線材が螺旋状に成形されたコイルばねの構造的特徴により、平行板ばね24,25よりも、より効率的に小型化を実現できる。
【0055】
以上のように微小移動機構5を構成することで、偏心カム31とヘッドホルダ22は離間することなく、互いに常時当接した状態を保ちつつ、偏心カム32の回転位相に応じた径差に追従して、ヘッドホルダ22を正確に微小移動させることを可能としている。このヘッドホルダ22の微小移動により、ラインヘッド21が同等の微小移動を行う。これにより、インク滴をより正確な位置に吐出することが可能となり、より高画質な記録結果を得ることが可能となる。
【0056】
また、平行板ばね24,25と付勢ばね33を組み合わせた上で、平行板ばね24,25のばね定数を小くし、付勢ばね33のばね定数を相対的に大きくすることにより、ステッピングモータ32の小容量化と装置の小型化を両立することを可能としている。
さらに、平行板ばね24,25と付勢ばね33を組み合わせ、ラインヘッドユニットに働く推進力の作用線及び2つの付勢ばね33の合力の作用線が重心位置を通るようにしたためヨーイングの発生をより低減させることができる。
【0057】
なお、本実施形態では、ラインヘッド21の推進手段として、偏心カム31とステッピングモータ32を用いたが、他の手段、例えば圧電素子、ソレノイド、リードスクリュー、空圧・油圧シリンダ、等に置き換えたとしても、同様の効果を得ることができる。
また、本実施形態では、前述したように偏心カム31の配置や回転方向を、図3や図7(a)に示すようにすることで図6に示すヨーイングの発生をより低減させたが、ヨーイングが発生しても画像記録に影響がない程度であれば、前述した偏心カム31の配置や回転方向に限定されるものではない。
【0058】
さらに、本実施形態では、前述したように付勢ばね33の配置を、図3に示すようにすることで図6に示すヨーイングの発生をより低減させたが、ヨーイングが発生しても画像記録に影響がない程度であれば、前述した配置に限定されるものではない。
【0059】
次に、前述した実施形態の第1の変形例について説明する。
前述した実施形態では、平行板ばね24,25は、ヘッドホルダ22の側面の長さに準じた1枚の矩形状であった。この1枚形状に限定されるものではなく、複数に分割することもできる。本変形例では、図9に示すように2枚1組の平行板ばね24a,24b、25a,25bに分割した構成である。このような分割構成においても、前述した第1の実施形態と同様な作用効果を得ることができる。
【0060】
また、本変形例では、1枚の平行板ばねを2つに分割した形状であるが、勿論これに限定されるものではなく、さらに複数に分割してもよい。例えば、4分割して、外側の板ばねのばね定数Aと内側の板ばねのばね定数Bを異なる値に設定してもよい。つまり、ばね定数Aをばね定数Bよりも大きい値に設定し、ヨーイングの発生を防止しつつ、合計のばね定数を微調整することもできる。
【0061】
また、板ばねにおいても均一の厚みの板ばねを例として説明しているが、これに限定されるものではない。例えば、吊り下げる方向における両外側端の厚さが厚く、中央側(内側)厚さを薄くして、ヨーイングの発生を防止しつつ、撓み剛性を満足し、軽量化を図れる形状であってもよい。また、板ばねは、1つ材料からなる構造であるが、異なる材料による板材を厚さ方向に積み重ねた異種材料の多層構造であってもよい。
【0062】
さらに、平行板ばねと他の部材と組み合わせることも可能である。例えば、ヘッドホルダ移動方向にのみ屈曲可能に取り付けられた伸びのないロッド部材と、前述した平行板ばねのよる撓み特性とを組み合わせてもよい。また、ロッド部材以外に、例えば、金属ワイヤによる吊り下げ保持と、平行板ばねのよる撓み特性とを組み合わせてもよい。平行板ばねは、金属材料だけではなく、可撓性を有する特徴を有していれば採用でき、例えば、熱変形し難い樹脂材料等も利用することが可能である。
【0063】
次に、第2の変形例について説明する。
前述した実施形態における付勢ばね33は、コイルばねを例としたが、他にも、磁力等の別の付勢手段に置き換えることも可能である。さらに、付勢手段の設置位置についても、ラインヘッド21に対して推進手段と同一側面ではなく、推進手段の反対側に設置することも可能である。
【0064】
例えば、図10に示すように付勢手段である付勢ばね51の設置位置を推進手段の反対側に配置する。この付勢ばね51に圧縮コイルばねを用いた場合、圧縮コイルばねの変位量を大きくとることは、ばね全長を大きく縮める方向であるため、装置の小型化に対して望ましい効果をもたらすものと考えられる。
【0065】
以上説明した実施形態及び変形例によれば、第1に、ラインヘッドの不要な動きを防ぎ、画質を改善する。第2に、小さな駆動モータで済むため、低コスト化・省電力化が可能となる。第3に、省スペースなラインヘッド支持構造により、装置を小型化にできる。
【符号の説明】
【0066】
1…インクジェットプリンタ、2…給紙部、3…搬送部、4…記録部(ラインヘッドユニット)、5…微小移動機構、6…昇降部、7…クリーニング部、8…排紙部、9…本体フレーム、9a…サイドフレーム、9b…フロントフレーム、9c…リアフレーム、9d…トップフレーム、ベースフレーム9e、11…記録媒体(カット媒体)、12…給紙トレイ、13…ピックアップローラ、15…ドラム、16…帯電ローラ、17…媒体端検知センサ、18…徐電器、19…剥離爪、21,21K,21C,21M,21Y…ラインヘッド、22…ヘッドホルダ、23…支持部材、24,25…平行板ばね、27…ノズル面、31…偏心カム、32…ステッピングモータ、33…付勢ばね、34…モータ、35…平歯車列、36…リードスクリュー、41…ベルト搬送部、42…排紙トレイ、43…ローラ、44…無端ベルト。
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録媒体にインクを吐出して画像を記録するインクジェットプリンタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インクジェットプリンタには、記録媒体への画像記録の高速化を図るために、1つ、又は複数のインクヘッドを用いて記録媒体幅以上のラインヘッドを構成し、固定されたラインヘッドに対して記録媒体のみを搬送して、画像記録を行うフルライン型インクジェットプリンタ(以下、ラインプリンタと称する)が知られている。
【0003】
このようなラインプリンタでは、ラインヘッドを構成している各インクヘッドに形成されたノズルの間隔(ノズルピッチ)が、そのまま、主走査方向の記録ドット密度となる。また、インクヘッドのノズルの詰まりに起因するインクの不吐出やインクの飛行曲がり(着弾ずれ)などが、そのまま、記録欠陥として記録媒体上に現れる。そこで、例えば、特許文献1には、ラインヘッドを主走査方向に、例えばノズルピッチ以下の距離で微小移動させ、記録媒体をラインヘッド下に複数回通過させる記録動作によって1枚の画像を形成するインクジェットプリンタが開示されている。このインクジェットプリンタは、ラインヘッドを一体的に保持するキャリッジと、キャリッジをスライド可能に支持する2本のガイド軸と、キャリッジの長手方向の一端側に設けられた偏心送りカムと、キャリッジの長手方向他端側に設けられた付勢ばねと、を備えている。
【0004】
この構成において、偏心送りカムは、付勢ばねによって常時、キャリッジと接触している。そして、偏心送りカムをパルスモータによって回転させることで、キャリッジ(ラインヘッド)がガイド軸に沿って主走査方向に微小移動する。このような微小移動により、特許文献1のインクジェットプリンタでは、ノズルピッチ以上の高密度な画像記録や記録欠陥を補間する画像記録を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平06−71947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、上述した特許文献1のようにキャリッジ(ラインヘッド)をガイド軸に沿って微小移動させる場合、ガイド軸とキャリッジとの間(摺動部)には、ガタ・遊びが存在するため、このガタ・遊び分だけ微小移動の移動精度が悪化してしまう。
【0007】
また、キャリッジ(ラインヘッド)をガイド軸に沿って微小移動させる場合、スティックスリップ現象の発生や、摺動部分の損耗、摺動部分への異物混入等によっても微小移動の移動精度が悪化してしまう。そのため、ラインヘッドから吐出されたインクが所望の位置に着弾せず、画像品質の低下を招く。
【0008】
そこで本発明は、ラインヘッドの主走査方向への微小移動を高精度に行い、高画質な画像記録が行えるインクジェットプリンタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に従う実施形態は、を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ラインヘッドの主走査方向への微小移動を高精度に行い、高画質な画像記録が行えるインクジェットプリンタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係るインクジェットプリンタとして、インクジェットプリンタの正面方向から構成を示している。
【図2】図2は、図1に示したインクジェットプリンタを側方から見た構成を示す図である。
【図3】図3は、図2に示したヘッド微小移動機構を上方から見た構成を示す図である。
【図4A】図4Aは、1回目の画像記録されたカット媒体の記録状態を示す図である。
【図4B】図4Bは、図4Aに引き続き、2回目の画像記録されたカット媒体の記録状態を示す図である。
【図5】図5(a)乃至(d)は、平行板ばねに作用する力による変形方向について説明するための図である。
【図6】図6は、図2に示したヘッド微小移動機構を上方から見てヨーイングについて説明するための図である。
【図7】図7(a)は、微小移動機構部におけるステッピングモータの回転軸方向がノズル面に対して平行となるように配置した構成例を示す図であり、図7(b)は、微小移動機構部におけるステッピングモータの回転軸方向がノズル面に対して直交するように配置した構成例を示す図である。
【図8】図8(a)は、2種類の板ばねにおける変位量―反力線図の一例を示す図であり、図8(b)は、本実施形態の平行板ばねと付勢ばねとの組み合わせによる変位量―反力線図を示す図である。
【図9】図9は、第1の変形例の構成例を示す図である。
【図10】図10は、第2の変形例の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るインクジェットプリンタとして、インクジェットプリンタの正面方向から見た構成を示している。図2は、図1に示したインクジェットプリンタを側方から見た構成を示す図である。以下の説明において、主走査方向は、カット媒体の幅方向又はノズル列方向とし、この主走査方向と直交する副走査方向は、カット媒体の搬送方向として説明している。
【0013】
このインクジェットプリンタ1は、主構成部位として、給紙部2と、搬送部3と、記録部4と、微小移動機構5と、昇降部6と、クリーニング部7と、排紙部8と、これらを支える本体フレーム9と、を備えている。
【0014】
給紙部2は、所定の大きさにカットされた記録媒体(カット媒体)11を収納する給紙トレイ12と、給紙トレイ12に収納された複数のカット媒体11を1枚ずつ取り出すピックアップローラ13と、を有する。給紙トレイ12には、ピックアップローラ13に一定の圧力でカット媒体11を当接させるための不図示のばね等の付勢部材が設けられている。また、ピックアップローラ13には、カット媒体11が後述するドラム15に吸着した後に、従動ローラとして機能させるために不図示のワンウェイクラッチが内蔵されている。
【0015】
搬送部3は、ドラム15と、帯電ローラ16と、媒体端検知センサ17と、徐電器18と、剥離爪19と、を有している。
ドラム15は、両端が回転可能に本体フレーム9に軸支されている。このドラム15は、画像記録時に、カット媒体11をドラム表面に巻き付けて搬送するために用いられ、図示しないモータにより、図1に示す矢印mの方向に、一定速度で回転駆動される。また、ドラム15には、相対的回転角を検出するための図示しないエンコーダが取り付けられている。尚、エンコーダの出力は、画像記録(ノズルのインク吐出)のタイミングにも利用されている。ドラム15は、例えば、中空アルミ円筒と両側面のフランジにより構成され、円筒表面(ドラム表面)が絶縁プラスチックコートされている。また、ドラム15自体は、スラスト方向のガタが発生しないように形成されている。
【0016】
帯電ローラ16は、搬送経路最上流側に、ドラム15に対向して設けられている。この帯電ローラ16は、カット媒体11をドラム表面に案内するとともに、正放電することで、カット媒体11をドラム表面に吸着させる働きをする。本実施形態では、オゾンが発生し難いように正帯電としている。
【0017】
媒体端検知センサ17は、帯電ローラ16の下流側の搬送経路に、ドラム22に対向して設けられている。この媒体端検知センサ17は、発光素子と受光素子を対で備え、発光素子から出射された光束が受光素子に入射する位置関係を持つように配置されている。媒体端検知センサ17は、ドラム表面とカット媒体表面の反射率が異なるため、反射率の変化により、ドラム表面とカット媒体表面との境界(媒体端部)を検知し、カット媒体11の絶対的回転位置(又は、ドラム上の保持位置)を検出している。
【0018】
除電器18は、記録部4の下流側の搬送経路に、ドラム22に対向して設けられている。この除電器18は、カット媒体11に向かって交流放電を行い、ドラム15に対する静電吸着力を消滅させて、ドラム表面からカット媒体11を剥離しやすくする働きを行う。除電器18の下流に配置された剥離爪19は、その先端部がドラム表面に接しており、吸着力がなくなったカット媒体11をドラム15から剥離するとともに、排紙部8へカット媒体11を案内する。尚、剥離爪19は、剥離動作を行う以外の時には、図示しない退避機構によって先端部がドラム表面から離間した位置に退避され、まだ剥離しないカット媒体11には接触しないように構成されている。
【0019】
記録部4は、媒体端検知センサ17と除電器18との間の搬送経路中に、ドラム15の外周面に沿って設けられている。この記録部4は、インクを吐出する複数のラインヘッド21(21K,21C,21M,21Y)と、ラインヘッド21を保持するヘッドホルダ22とで構成される。以下の説明において、ラインヘッド21の全体及びヘッドホルダ22をラインヘッドユニットと称している。このラインヘッドユニット(ヘッドホルダ22)は、一端がヘッドホルダ22に、他端が本体フレーム9の支持部材23に接続される後述する平行板ばね24,25によって吊り下げ式に支持されている。
【0020】
本実施形態のラインヘッド21では、一例として、K(ブラック)ヘッド21K、C(シアン)ヘッド21C、M(マゼンタ)ヘッド21M、Y(イエロー)ヘッド21Yの4色のラインヘッドが、ヘッドホルダによって一体的に組み合わされている。尚、本実施形態のラインヘッド21は、1つ又は複数のインクジェットヘッドによって構成されている。
【0021】
ラインヘッド21において、記録媒体と対向するインク吐出平面(ノズル面27)には、使用されるカット媒体11の幅方向の記録領域よりも長くなるように、複数のノズルが列状(ノズル列)に形成されている。記録すべきデータに応じて、各インク色に対応するノズルからインクを吐出させてカット媒体11に画像記録を行う。
【0022】
微小移動機構5は、図2及び図3に示すように、ヘッドホルダ22を吊り下げ式に支持する可撓性部材としての平行板ばね24,25と、ラインヘッド21に対して、ノズル列の配列方向即ち、主走査方向の一端側に設けられ、ヘッドホルダ22と当接する偏心カム31と、それを動かすステッピングモータ32と、ヘッドホルダ22を偏心カム31に押し当てる付勢部材としての付勢ばね33とによって構成されている。
【0023】
昇降部6は、モータ34、平歯車列35及び、リードスクリュー36によって構成されている。昇降部6は、記録部4をヘッドクリーニング時や記録待機時における退避位置と、画像記録を行う記録位置とに移動させる。
クリーニング部7は、記録部4のラインヘッド21をクリーニングする。そのため、特には図示しないが、ラインヘッド21をクリーニングするためのワイプブレードや吸引機構等の既知のクリーニング機構を有している。
【0024】
クリーニング部7は、待機時や画像記録時には、図1に示すように、記録部4の近傍の退避位置にある。クリーニングを行う際は、まず、昇降部6によって記録部4をドラム15から上方に離間させて、記録部4とドラム15との間に空間を形成する。そして、クリーニング部7を不図示のクリーニング部移動機構によって前記空間に向かって移動させて、記録部4と対向したクリーニング位置に停止させる。その後、クリーニング部7による記録部4(ラインヘッド21)のクリーニングがなされる。クリーニングが終わると、記録部4及びクリーニング部7は、退避位置に戻される。
【0025】
排紙部8は、ベルト搬送部41と、排紙トレイ42と、を有している。ベルト搬送部41は、図示しない吸引ユニットと、複数のローラ43と、ローラ43に架け渡された複数の孔が形成された無端ベルト44と、から構成されている。そして、ベルト搬送部41は、画像記録後に、剥離爪19によってドラム15から剥離排出されたカット媒体11を無端ベルト44上に吸引吸着して排紙トレイ42へと搬送する。排紙トレイ42は、画像記録されたカット媒体11を整列収納する。
【0026】
本体フレーム9は、四方(前後左右の面)及び上下(上面及び下面)を囲むように組み付けられた、サイドフレーム9a、フロントフレーム9b、リアフレーム9c、トップフレーム9d、ベースフレーム9eによって箱状に形成されており、以上に述べた構成部品の一部、又は全部をその内部に保持している。
【0027】
次に、図1及び図2を参照して、本実施形態のインクジェットプリンタによる一連のプリント動作について説明する。以下では、解像度を2倍にするために、つまりノズル間隔dの2倍の密度で画像を記録するために、1回目の画像記録の後、ラインヘッドユニット(ヘッドホルダ22)をノズル間隔dの半分のd/2だけ移動させて2回目の画像記録を行う場合について説明する。
【0028】
ユーザの指示により、外部の情報機器(パソコン等)より画像データが送信され、プリント動作開始される。まず、ドラム15が図1に示す矢印mの方向(時計回転)に回転し始めて、予め定めた定速回転となる。次に、予め、定速回転となるタイミングを見計らって、給紙部2からカット媒体11がピックアップローラ13により1枚送り込まれる。カット媒体11は、不図示の給紙ガイドに案内され、帯電ローラ16、続いてドラム表面へと搬送される。同時に帯電ローラ16は正(+)放電を開始し、帯電させたカット媒体11をドラム表面に吸着させる。
【0029】
ドラム15に吸着されたカット媒体11は、ドラム15の回転に従って搬送され、媒体端検知センサ17によって先端が検出される。この先端が検出されると、不図示のエンコーダからの信号に基づいて、ラインヘッド21によるカット媒体11上の画像記録開始・終了のタイミングが決定される。その後、各ラインヘッド21(21K、21C、21M、21Y)のノズルから、各インク色に展開された記録すべき所望のデータに基づいて、各インク色のタイミングでインクが吐出されて、図4Aに示すように、カット媒体11に1回目の画像記録がなされる。
【0030】
少なくとも記録動作中は、ラインヘッド21のノズル面27かその近傍に、カット媒体11に印加した静電電位と同じ電位(この例では正電位)で数百ボルト〜数キロボルトをバイアス電位として印加している。そのため、ドラム15に静電気で密着した媒体や、ゴミ等は同じ電位のラインヘッド21のノズル面27とは反発し合い、ノズル28やノズル面27に付着しにくくなっている。
【0031】
そして、1回目の画像記録の後、除電器18を作動させず、故にカット媒体11がドラム15から剥離されることなくもう1回転させて、カット媒体11が再びラインヘッド位置に達する。その間に、微小移動機構5によってラインヘッドユニット(ヘッドホルダ22)をノズル列方向にノズル間隔dの半分となるd/2に相当する距離だけ微小移動させる。かくして、図4Bに示すように、ラインヘッド21がノズル間隔dの半分となるd/2の距離だけノズル列方向に移動し、2回目の画像記録がなされる。このようにして補間記録を行うことにより、ノズルピッチ以上の高密度な画像を記録することが可能である。
【0032】
2回目の画像記録がなされると、カット媒体11は、除電器18の前方を通過する際に、除電器18からのAC放電を受けて除電され、ドラム15に密着するための吸着力が消滅される。それと同時に、剥離爪19の先端部をドラム表面に接触させて、カット媒体11をドラム表面から剥離し、ベルト搬送部41(無端ベルト44)に受け渡す。受け渡されたカット媒体11は、図示しない吸引箱(吸引ファン)による負圧で、無端ベルト44に開口された穴を介して、無端ベルト44上に密着した状態で搬送される。なお、無端ベルト44は、少なくともプリント動作時は矢印nの方向に、ドラム15の周速より速く移動している。そして、カット媒体11は、無端ベルト44の下流端側で密着状態を解かれ、排紙トレイ42上に排出される。かくして、1枚のカット媒体11への一連の画像記録動作が終了する。
【0033】
尚、本実施形態では、ラインヘッド21の微小移動量をd/2としたが、微小移動量は、これに限定されるものではない。微小移動量をd/n単位とし、1枚のカット媒体11に対してn回の記録動作を行うことで、ラインヘッド21のn倍の解像度の画像を形成することが可能である。また、微小移動量をn×d単位とした場合には、ノズルの吐出不良を隣接した正常ノズルからの吐出によって隠蔽することも可能である。このように様々な補完印字の動作パターンが考えられる。
【0034】
また、ドラム15へのカット媒体11の吸着手段として、本実施形態では、帯電ローラ16で発生させた静電気を利用したが、この手法に限定されるものではない。例えば、絶縁されたドラム表面に網目上の電位のかかる配線を施し、この網目に電位をかけ、発生させた電荷によりカット媒体11を吸着するように構成してもよい。他の手法としては、ドラム円周に多数の貫通穴を設け、ドラム内を排気して負圧状態を発生させて、カット媒体11をドラム円周面に吸着させるようにしてもよい。他にもすでに公知な手法を用いて、ドラム15へのカット媒体11の吸着を実現してもよい。
【0035】
次に、図1乃至図3を参照して、本実施形態に係る微小移動機構5の構成について詳細に説明する。図3は、図2に示した微小移動機構5を上方から見た構成を示す図である。
微小移動機構5は、前述したように、平行板ばね24,25と、駆動部としての偏心カム31及びステッピングモータ32と、付勢部材としての付勢ばね33とによって構成されている。
【0036】
平行板ばね24,25は、図2に示すように、ラインヘッド21のノズル列方向、すなわち、ヘッドホルダ22の長手方向両側を挟み込むように互いに平行を成して配置されている。この平行板ばね24,25は、例えば金属材料による薄板状の可撓性部材からなっている。そして、平行板ばね24は、一端がヘッドホルダ22に固定され、他端が支持部材23を介してフロントフレーム9bに固定されている。同様に、平行板ばね25は、一端がヘッドホルダ22に固定され、他端が支持部材23を介してリアフレーム9cに固定されている。このようにして、平行板ばね24,25は、本体フレーム9に対してヘッドホルダ22を吊り下げ式で支持している。
【0037】
ここで、平行板ばね24,25は、次の特性を有している。図5(a)乃至(d)は、平行板ばねに作用する力による変形方向について説明するための図である。図5(a)は、平行板ばね24,25の[1]面内方向(引っ張り・圧縮)、[2]面内方向(撓み)、[3]面外方向(撓み)の具体的な方向を示している。図5(b)は、平行板ばね24,25が[1]面内方向に変形した状態を示し、図5(c)は、平行板ばね24,25が[2]面内方向に変形した状態を示し、図5(d)は、平行板ばね24,25が[3]面外方向に変形した状態を示している。
【0038】
平行板ばね24,25は、図5(a)に示す、[3]面外方向(撓み)の剛性に比べて、残り2つの[1]面内方向(引っ張り・圧縮)と[2]面内方向(撓み)の剛性が非常に高い、という特徴を有している。一般に、片持ち梁の撓みは、(式1)で与えられ、引っ張り・圧縮は、(式2)で与えられる。
【0039】
x=FL3/3EI … (式1)
x=FL/EA … (式2)
なお、xは撓み、若しくは引っ張り・圧縮による変形量、Fは荷重、Lは梁の長さ、Eは弾性係数、Iは、断面2次モーメント、Aは梁の断面積を表す。梁を板ばねに置き換えて本式を適用すると、例えば板ばねの形状を長さ30mm、幅30mm、厚さ0.1mmと仮定した場合、式1および式2より、所定の荷重における[3]面外方向(撓み)の変形量を1とすると、[1]面内方向(引っ張り・圧縮方向)の変形量は360000分の1、[2]面内方向(撓み方向)の変形量は90000分の1となる。
【0040】
このように、面外方向の剛性に比べて、残り2つの面内方向の剛性は非常に高い。但し、単体の板ばねは、ねじれ方向の剛性は、それほど高くない。しかしながら、2枚の平行板ばね24,25を対向させて連結した形態で使用することで、構造的にねじれ方向の剛性を補完している。
【0041】
前述のような特性を有しているため、平行板ばね24,25は、図2に示すように板ばね面に対する垂直方向(図5(a)の面外方向)P1,P2に撓むことで、ヘッドホルダ22を矢印Pで示すノズル列方向の1軸方向に正確に移動させることができる。つまり、1軸方向(図2のP方向、及び図5(a)に示す[3]面外方向)以外の残り2軸方向(図5(a)の[1]面内方向、[2]面内方向)の振れ、及び図6に示したラインヘッド21のノズル面と直交する上下軸まわりの回転揺れ(ヨーイング)は、効果的に抑制され、1軸方向のみ(図2のP方向、及び図5(a)に示す[3]面外方向)に正確にヘッドホルダ22を移動させることができる。
【0042】
駆動部としての偏心カム31及びステッピングモータ32は、図2及び、図3に示すように、ヘッドホルダ22の長手方向一端側に配置されている。ステッピングモータ32は、リアフレーム9cから延出して設けられた固定部材34に固定されている。このステッピングモータ32の回転軸に偏心カム31が軸支されている。そして、偏心カム31の外周は、ヘッドホルダ22に当接している。この構成において、ステッピングモータ32の駆動により、偏心カム31が回転し、ヘッドホルダ22に推進力を与える。この推進力の推進方向は、図3の矢印qで示す方向で、ラインヘッド21のノズル列方向(主走査方向)である。つまり、偏心カム31による推進力の推進方向とノズル列方向は平行となっている。
【0043】
ここで、本実施形態では、偏心カム31は、図3に示すように、ヘッドホルダ22と当接する当接位置とラインヘッドユニット(ラインヘッド21及びヘッドホルダ22)の重心位置とが主走査方向において同一直線上となるように配置されている。つまり、ラインヘッドユニットに働く推進力の作用線が重心位置を通るように偏心カム31が配置されている。このようにすることで、図6に示すヨーイングの発生をより低減することができる。尚、ラインヘッドユニットの重心位置は、設計又は実際の組み立て構成部位により求めた位置である。その他、公知な手法により、重心位置を求めることは容易である。
【0044】
また、本実施形態では、偏心カム31の回転方向を次のように設定している。図7は、図3に示した微小移動機構5の駆動部を側方から見た図である。図7(a)は、ステッピングモータ32の回転軸の軸線方向がラインヘッド21のノズル面(インク吐出平面)27と平行な仮想面Wに対して平行になっている場合を示し、図7(b)は、ステッピングモータ32の回転軸の軸線方向が仮想面Wに対して直交している場合を示している。
【0045】
図7(a)のようにステッピングモータ32を配置した際、即ち、偏心カム31の回転中心の軸線方向を仮想面Wに対して平行にさせた際、偏心カム31が回転すると、ヘッドホルダ22側面に作用する摩擦抵抗による外力の摩擦荷重方向は、矢印sで示す方向となる。換言すれば、ヘッドホルダ22に働く摩擦抵抗による外力の作用線が、仮想面Wに対して交差(直交)する。これにより、摩擦抵抗による外力は、平行板ばね24,25に吸収され、図6に示すヨーイングの発生をより低減することができる。
【0046】
一方、図7(b)のようにステッピングモータ32を配置した際、即ち、偏心カム31の回転中心の軸線方向を仮想面Wに対して直交させた際、偏心カム31が回転すると、ヘッドホルダ22側面に作用する摩擦抵抗による外力の摩擦荷重方向は、矢印uで示す方向となる。換言すれば、ヘッドホルダ22に働く摩擦抵抗による外力の作用線が、仮想面Wに対して平行になる。そのため、図6に示すヨーイングの発生の原因となるモーメントをヘッドホルダ22に与えてしまう。そこで、本実施形態では、図7(a)に示すように、偏心カム31の回転させている。
【0047】
付勢ばね33は、例えば、引っ張りコイルばねからなり、図3に示すように、偏心カム31及びステッピングモータ32を挟むように両側で、ヘッドホルダ22とリアフレーム9cとを横架するように設けられている。これら一対の付勢ばね33は、図3の矢印rで示すように、ヘッドホルダ22を偏心カム31に押し当てる方向の付勢力を与えている。つまり、付勢ばね33は、偏心カム31による推進方向(移動方向)とは全く反対方向となる付勢方向(又は、反移動方向)に付勢力を作用する。この作用によって、ヘッドホルダ22と偏心カム31との当接状態が常に保持されることとなる。
【0048】
本実施形態では、偏心カム31がヘッドホルダ22と当接する当接位置からそれぞれが等しい距離となる離間位置に2つの付勢ばね33を配置した構成となっている。この構成により、2つの付勢ばね33の合力の作用線とラインヘッドユニットに働く推進力の作用線とが同一作用線上となるようにしている。
【0049】
つまり、ラインヘッドユニットに働く推進力と2つの付勢ばね33の合力からなる付勢力が同一作用線上で作用するため、図6に示すヨーイングの発生をより低減させることができる。換言すれば、ラインヘッドユニットに働く推進力の作用線及び2つの付勢ばね33の合力の作用線は、重心位置を通るため図6に示すヨーイングの発生をより低減させることができる。ここで、平行板ばね24,25のみだけではなく、一対の付勢ばね33を加えた構成としている理由を以下に示す。
【0050】
偏心カム31の径差に正確に追従させてラインヘッド21を微小移動させるためには、一定以上の付勢力を与える必要がある。微小移動時の最大加速度をAmaxとしたとき、ラインヘッドユニットに発生する最大荷重は、Fmax=M×Amax(Mはラインヘッドユニットの質量)である。ヘッドホルダ22を偏心カム31に常に当接させておくための付勢力Fbは、この最大荷重よりも大きくなければならない(Fb>Fmax)。
【0051】
ここで、仮に、この付勢力を平行板ばねの反力のみで実現することを考えてみる。図8(a)は、2種類の板ばねA、板ばねBの特性を示した変位量―反力線図の一例を示す図である。板ばねAは、板ばねBよりも傾きが大きい、すなわち、ばね定数が高い。この板ばねAを用いて、微小移動範囲の全域において必要付勢力Fb以上の反発力を得ようとすると、図に示したように、最大変位時には、必要付勢力の約2倍の反力が発生してしまう。
【0052】
この最大反力に抗してラインヘッドユニットを移動させるためには、より大きな推力を発生可能な、大容量のステッピングモータ32を用いる必要がある。一方、板ばねBを用いた場合、板ばねAよりもばね定数が低いため、最大反力を下げることが可能となる。しかし、その反面、使用時の最大変位量は板ばねAを用いた場合よりも大きくなるため、ばねに発生する最大応力も増加し、ばね材料の弾性限界を超えてしまうことが予想される。
これを回避するためには、ばねの全長をもっと長くとって、さらにそのばねを十分に撓ませた領域で使用する必要がある。この対処法では、より大きなスペースを必要となり、装置が大型化してしまう。
【0053】
これを回避するために、平行板ばね24,25に加えて、付勢用に独立した付勢ばね33を併用している。ここで、平行板ばね24,25のばね定数をKp、付勢ばね33のばね定数をKcとしたとき、付勢ばね33のばね定数Kcは、平行板ばね24,25のばね定数Kpよりも大きい(Kp<Kc)関係を有している。
【0054】
図8(b)は、本実施形態の平行板ばね24,25による板ばねCと付勢ばね33の組み合わせにおける変位量―反力線図の特性を示す図である。この組み合わせにおいては、板ばねCのばね定数が十分に小さいため、板ばねCによる最大反力を小さくすることができ、必要な付勢力に対して、十分な小容量ステッピングモータ32を用いることが可能となる。一方、付勢ばね33は、必要な付勢力の大部分を担うためには十分な変位量が必要とされる。本実施形態で採用している、付勢ばね33は、長い線材が螺旋状に成形されたコイルばねの構造的特徴により、平行板ばね24,25よりも、より効率的に小型化を実現できる。
【0055】
以上のように微小移動機構5を構成することで、偏心カム31とヘッドホルダ22は離間することなく、互いに常時当接した状態を保ちつつ、偏心カム32の回転位相に応じた径差に追従して、ヘッドホルダ22を正確に微小移動させることを可能としている。このヘッドホルダ22の微小移動により、ラインヘッド21が同等の微小移動を行う。これにより、インク滴をより正確な位置に吐出することが可能となり、より高画質な記録結果を得ることが可能となる。
【0056】
また、平行板ばね24,25と付勢ばね33を組み合わせた上で、平行板ばね24,25のばね定数を小くし、付勢ばね33のばね定数を相対的に大きくすることにより、ステッピングモータ32の小容量化と装置の小型化を両立することを可能としている。
さらに、平行板ばね24,25と付勢ばね33を組み合わせ、ラインヘッドユニットに働く推進力の作用線及び2つの付勢ばね33の合力の作用線が重心位置を通るようにしたためヨーイングの発生をより低減させることができる。
【0057】
なお、本実施形態では、ラインヘッド21の推進手段として、偏心カム31とステッピングモータ32を用いたが、他の手段、例えば圧電素子、ソレノイド、リードスクリュー、空圧・油圧シリンダ、等に置き換えたとしても、同様の効果を得ることができる。
また、本実施形態では、前述したように偏心カム31の配置や回転方向を、図3や図7(a)に示すようにすることで図6に示すヨーイングの発生をより低減させたが、ヨーイングが発生しても画像記録に影響がない程度であれば、前述した偏心カム31の配置や回転方向に限定されるものではない。
【0058】
さらに、本実施形態では、前述したように付勢ばね33の配置を、図3に示すようにすることで図6に示すヨーイングの発生をより低減させたが、ヨーイングが発生しても画像記録に影響がない程度であれば、前述した配置に限定されるものではない。
【0059】
次に、前述した実施形態の第1の変形例について説明する。
前述した実施形態では、平行板ばね24,25は、ヘッドホルダ22の側面の長さに準じた1枚の矩形状であった。この1枚形状に限定されるものではなく、複数に分割することもできる。本変形例では、図9に示すように2枚1組の平行板ばね24a,24b、25a,25bに分割した構成である。このような分割構成においても、前述した第1の実施形態と同様な作用効果を得ることができる。
【0060】
また、本変形例では、1枚の平行板ばねを2つに分割した形状であるが、勿論これに限定されるものではなく、さらに複数に分割してもよい。例えば、4分割して、外側の板ばねのばね定数Aと内側の板ばねのばね定数Bを異なる値に設定してもよい。つまり、ばね定数Aをばね定数Bよりも大きい値に設定し、ヨーイングの発生を防止しつつ、合計のばね定数を微調整することもできる。
【0061】
また、板ばねにおいても均一の厚みの板ばねを例として説明しているが、これに限定されるものではない。例えば、吊り下げる方向における両外側端の厚さが厚く、中央側(内側)厚さを薄くして、ヨーイングの発生を防止しつつ、撓み剛性を満足し、軽量化を図れる形状であってもよい。また、板ばねは、1つ材料からなる構造であるが、異なる材料による板材を厚さ方向に積み重ねた異種材料の多層構造であってもよい。
【0062】
さらに、平行板ばねと他の部材と組み合わせることも可能である。例えば、ヘッドホルダ移動方向にのみ屈曲可能に取り付けられた伸びのないロッド部材と、前述した平行板ばねのよる撓み特性とを組み合わせてもよい。また、ロッド部材以外に、例えば、金属ワイヤによる吊り下げ保持と、平行板ばねのよる撓み特性とを組み合わせてもよい。平行板ばねは、金属材料だけではなく、可撓性を有する特徴を有していれば採用でき、例えば、熱変形し難い樹脂材料等も利用することが可能である。
【0063】
次に、第2の変形例について説明する。
前述した実施形態における付勢ばね33は、コイルばねを例としたが、他にも、磁力等の別の付勢手段に置き換えることも可能である。さらに、付勢手段の設置位置についても、ラインヘッド21に対して推進手段と同一側面ではなく、推進手段の反対側に設置することも可能である。
【0064】
例えば、図10に示すように付勢手段である付勢ばね51の設置位置を推進手段の反対側に配置する。この付勢ばね51に圧縮コイルばねを用いた場合、圧縮コイルばねの変位量を大きくとることは、ばね全長を大きく縮める方向であるため、装置の小型化に対して望ましい効果をもたらすものと考えられる。
【0065】
以上説明した実施形態及び変形例によれば、第1に、ラインヘッドの不要な動きを防ぎ、画質を改善する。第2に、小さな駆動モータで済むため、低コスト化・省電力化が可能となる。第3に、省スペースなラインヘッド支持構造により、装置を小型化にできる。
【符号の説明】
【0066】
1…インクジェットプリンタ、2…給紙部、3…搬送部、4…記録部(ラインヘッドユニット)、5…微小移動機構、6…昇降部、7…クリーニング部、8…排紙部、9…本体フレーム、9a…サイドフレーム、9b…フロントフレーム、9c…リアフレーム、9d…トップフレーム、ベースフレーム9e、11…記録媒体(カット媒体)、12…給紙トレイ、13…ピックアップローラ、15…ドラム、16…帯電ローラ、17…媒体端検知センサ、18…徐電器、19…剥離爪、21,21K,21C,21M,21Y…ラインヘッド、22…ヘッドホルダ、23…支持部材、24,25…平行板ばね、27…ノズル面、31…偏心カム、32…ステッピングモータ、33…付勢ばね、34…モータ、35…平歯車列、36…リードスクリュー、41…ベルト搬送部、42…排紙トレイ、43…ローラ、44…無端ベルト。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
箱状に形成されるフレーム部材と、
複数のノズルが所定ピッチで主走査方向に列状に配置されたノズル面を有する少なくとも1つのラインヘッドを備えるラインヘッドユニットと、
上端辺を前記フレーム部材に吊り下げ固定し、下端辺を前記ラインヘッドユニットの前記主走査方向における両端に平行となるように固定し、面外方向への撓み変形を可能に、該ラインヘッドユニットを支持する一対の板状の可撓性部材と、
前記ラインヘッドユニットと当接して該前記主走査方向に推進力を与えて、前記撓み変形を生じさせ、前記所定ピッチ以下の距離で該ラインヘッドユニットを移動して補完画像記録を行うための微小移動機構と、
前記微小移動機構による前記ラインヘッドユニットの移動方向と同軸方向で且つ反移動方向に付勢力を与えて、前記ラインヘッドユニットを該微小移動機構の移動に追従するように前記当接する状態を保持させる付勢部材と、を備え、
前記可撓性部材におけるばね定数をKpとし、前記付勢部材のばね定数をKcとした際に、Kp<Kcであることを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項2】
前記可撓性部材は、金属材料からなる薄板であることを特徴とする請求項1に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項3】
前記可撓性部材は、複数の板状部材に分割されていることを特徴とする請求項1に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項4】
前記ラインヘッドユニットに対して、前記微小移動機構の推進力と、前記付勢部材による前記付勢力が同軸方向上で作用することを特徴とする請求項1に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項5】
前記ラインヘッドユニットの重心位置が前記微小移動機構の推進力が与えられる位置と、前記主走査方向に沿った同一直線上に配置されたことを特徴とする請求項4に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項6】
前記ラインヘッドユニットに対して、前記微小移動機構の推進力と、前記付勢部材による前記付勢力が同一直線上で作用することを特徴とする請求項1に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項7】
さらに、前記ラインヘッドユニットの重心位置が前記同一直線上に配置されたことを特徴とする請求項6に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項8】
前記微小移動機構は、前記ラインヘッドユニットに当接して回転により前記推進力を与えるカム部と、
前記カム部に回転軸を軸支して、該カム部を回転させる回転駆動源と、を備え、
前記ラインヘッドユニットのノズル面が移動する平面に対して、前記カム部の当接により生じる摩擦荷重方向が直交する方向となるように配置されたことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項1】
箱状に形成されるフレーム部材と、
複数のノズルが所定ピッチで主走査方向に列状に配置されたノズル面を有する少なくとも1つのラインヘッドを備えるラインヘッドユニットと、
上端辺を前記フレーム部材に吊り下げ固定し、下端辺を前記ラインヘッドユニットの前記主走査方向における両端に平行となるように固定し、面外方向への撓み変形を可能に、該ラインヘッドユニットを支持する一対の板状の可撓性部材と、
前記ラインヘッドユニットと当接して該前記主走査方向に推進力を与えて、前記撓み変形を生じさせ、前記所定ピッチ以下の距離で該ラインヘッドユニットを移動して補完画像記録を行うための微小移動機構と、
前記微小移動機構による前記ラインヘッドユニットの移動方向と同軸方向で且つ反移動方向に付勢力を与えて、前記ラインヘッドユニットを該微小移動機構の移動に追従するように前記当接する状態を保持させる付勢部材と、を備え、
前記可撓性部材におけるばね定数をKpとし、前記付勢部材のばね定数をKcとした際に、Kp<Kcであることを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項2】
前記可撓性部材は、金属材料からなる薄板であることを特徴とする請求項1に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項3】
前記可撓性部材は、複数の板状部材に分割されていることを特徴とする請求項1に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項4】
前記ラインヘッドユニットに対して、前記微小移動機構の推進力と、前記付勢部材による前記付勢力が同軸方向上で作用することを特徴とする請求項1に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項5】
前記ラインヘッドユニットの重心位置が前記微小移動機構の推進力が与えられる位置と、前記主走査方向に沿った同一直線上に配置されたことを特徴とする請求項4に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項6】
前記ラインヘッドユニットに対して、前記微小移動機構の推進力と、前記付勢部材による前記付勢力が同一直線上で作用することを特徴とする請求項1に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項7】
さらに、前記ラインヘッドユニットの重心位置が前記同一直線上に配置されたことを特徴とする請求項6に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項8】
前記微小移動機構は、前記ラインヘッドユニットに当接して回転により前記推進力を与えるカム部と、
前記カム部に回転軸を軸支して、該カム部を回転させる回転駆動源と、を備え、
前記ラインヘッドユニットのノズル面が移動する平面に対して、前記カム部の当接により生じる摩擦荷重方向が直交する方向となるように配置されたことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載のインクジェットプリンタ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2012−183716(P2012−183716A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−48227(P2011−48227)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
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