説明

インクジェットプリントヘッド用封止材

デジタルプリントヘッド上のシリコン半導体ダイおよびそれらの電気接続を保護するために、封止材としての使用に好適なUV硬化性組成物は、好ましくは2官能性オリゴマーであるアクリレートおよび/またはメタクリレート((メタ)アクリレート)オリゴマー;好ましくは(メタ)アクリレートである希釈剤;3官能性または4官能性チオール;ポリプロピレンオキシド/ブチレンオキシドブロックコポリマー;および、光開始剤、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2009年2月3日に出願された米国仮特許出願第61/149,366号明細書の利益を主張し、その内容は参照によって本明細書に取り込まれる。
【0002】
本発明は、インクジェットプリントヘッド中のシリコン半導体ダイのマイクロ流体デバイス上におけるタブおよびワイヤの相互接続を、機械的および流体的損傷から保護するための封止材に関する。
【背景技術】
【0003】
プリントヘッドとは、流体を液滴の形態で噴出させる装置であり、その液滴は受領媒体上に所望する文字やパターンを作り出す。プリントヘッドはプリント機器上に設置されており、印刷受領媒体がプリントヘッドによって走査される様に、プリントヘッドは印刷受領媒体に対して動くか、もしくは受領媒体がプリントヘッドに対して動く。プリントヘッドは選択的に操作可能な流体噴出装置を複数含んでおり、典型的には一列に配置されている。ある構成部分として、シリコン半導体ダイ、該ダイの表面、該ダイと基板との間の電気接続、およびプラスチック基板が挙げられる。該シリコンダイおよび該接続は、それらをインクによる化学的影響およびプリントヘッド動作による機械的ストレスから保護するために、材料の中に封入されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
現在使用されている封止材は、インクに対して最適化された耐性を有しておらず、封止材のインク耐性を最適化することは当該工業にとって有益であろう。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、シリコン半導体ダイおよびそれらのプリントヘッド上の電気接続を保護するための、封止材としての使用に好適なUV硬化性組成物に関する。封止材は、アクリレートおよび/またはメタクリレート(以下、「(メタ)アクリレート」)オリゴマー、好ましくは2官能性オリゴマー;希釈剤、好ましくは(メタ)アクリレート;3官能性または4官能性チオール;ポリ(プロピレン)オキシド/ポリ(ブチレン)オキシドブロックコポリマー;および光開始剤、を含む。封止材は更に、インク耐性を更に増大させるための1種以上のシラン、ならびに所望により1種以上の安定剤、阻害剤、接着促進剤、フィラー、ペルオキシド、および消泡剤を含んでよい。
【発明を実施するための形態】
【0006】
好適なアクリレートまたはメタクリレートオリゴマーとして、アクリレートもしくはメタクリレートで末端がキャップされたウレタンオリゴマー、アクリレートオリゴマー、またはエポキシオリゴマーが挙げられる。1つの実施形態では、オリゴマーは芳香族ウレタンメタクリレートである。アクリレートおよび/またはメタクリレートオリゴマーは、全組成物の22〜60重量%の範囲の量で存在してよい。
【0007】
好適な希釈剤は1官能性アクリレートおよび2官能性アクリレートから選択され、1つの実施形態では、希釈剤はイソボルニルメタクリレートである。他の希釈剤としては、2−フェノキシエチルアクリレートおよびトリシクロデカンジメタノールジアクリレートが挙げられる。希釈剤は、全組成物の30〜55重量%の範囲の量で存在してよい。
【0008】
多くの場合で半導体部品は可撓性のある基体上に設置されるが、その為には封止材配合物は充分な機械的強靭性を有していることが必要とされる。好適な強化剤(toughener)として、3および4官能性チオールが挙げられる。1つの実施形態では、チオールはトリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート)である。他の好適なチオールとして、ペンタエリスリトールテトラ−3−メルカプトプロピオネートが挙げられる。チオールは、全組成物の2.5〜8.8重量%の範囲の量で存在してよい。
【0009】
他の好適な強化剤は、ブロックコポリマーである。1つの実施形態では、ブロックコポリマーは、エチレンオキシドとブチレンオキシドとが1:1のモル比であるポリ(エチレン)オキシド/ポリ(ブチレン)オキシドブロックコポリマーである。実際には、この比は1:1から僅かにずれていてもよく、モル比における僅少な相違は1:1のモル比を意味することを意図する。ブロックコポリマーは、全組成物の1〜25重量%の範囲の量で存在してよい。
【0010】
1つの実施形態では、封止材は更にシランを含んでもよい。好適なシランとして、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(アミノエチル)3−アミノ−プロピルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、(3−グリシドキシプロピル)トリメトキシシラン、(3−グリシドキシプロピル)トリエトキシシラン、5,6−エポキシヘキシルトリエトキシシラン、(3−グリシドキシプロピル)メチルジエトキシシラン、(3−グリシドキシプロピル)ジメチルエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−ウレイド−プロピルトリエトキシシラン、2−(ジフェニルホスフィノ)エチルトリエトキシシラン、3−イソシアナト−プロピルトリエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−[2−(ビニルベンジルアミノ)エチルアミノ]プロピルトリメトキシシラン塩酸塩、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、が挙げられる。シランは、全組成物の0.5〜2.0重量%の範囲の量で存在してよい。
【0011】
好適な光開始剤として、Ciba Specialty ChemicalsからIrgacureの商標名で販売されているものが挙げられる。他の好適な光開始剤として、ヒドロキシル−シクロヘキシル−フェニルケトン、ホスフィンオキシド、フェニルビス(2,3,6−トリメチルベンゾイル)、およびα,α−ジメトキシ−α−フェニルアセトフェノンが挙げられる。光開始剤は、全組成物の0.8〜5.0重量%の範囲の量で存在してよい。
【0012】
上記の成分に加えて、封止材組成物は所望により、安定剤、接着促進剤、フィラー、消泡剤、および封止材組成物での使用が知られている他の添加剤を含んでもよい。
【実施例】
【0013】
(実施例1)
本実施例は、化学的耐性レベルおよび硬化した封止材の貯蔵弾性率によって評価された、様々な強化剤を含む封止材組成物の性能を示す。
【0014】
化学的耐性は、以下の様に測定した。配合物を、下の表に示した成分を含む様に調製した。この液体配合物を、均一寸法を有するディスク形状のモールドに注入し、インチあたり300ワットのUV源を用いて紫外線(UV)曝露することによって硬化した。硬化した封止材をモールドから取り外し、均一寸法を有するディスクを形成した。このディスクの重量を量り、60℃または90℃で水性シアンインク中に浸漬した。7日、14日、および28日の期間でディスクを流体から取り出し、ペーパータオルで軽く叩いて乾燥させ、そして再度重量を量った。日数経過後の重量は当初の重量と比較し、重量変化率(%)を計算した。浸漬試験を行わなかった硬化後サンプルについて、動的機械分析(dynamic mechanical analysis(DMA))貯蔵弾性率を測定した。配合物成分の重量パーセント、重量変化率(%)、およびDMAは以下の表に記録されており、ポリ(プロピレン)オキシド/ポリ(ブチレン)オキシドブロックコポリマーを含む配合物Aが最も低い重量増加を有し、すなわち比較配合物B、CおよびDと比べて最も優れたインクに対する耐性を有したことを示す。配合物Aはまた、低い動的機械分析(DMA)貯蔵弾性率も有した(これは、高い可撓性を意味している)。
【0015】
【表1】

【0016】
(実施例2)
追加的なサンプルを調製し、実施例1による試験を行った。配合物および結果を以下の表に報告する。
【0017】
【表2】

【0018】
【表3】

【0019】
【表4】

【0020】
(配合例の比較)
配合物Fはポリ(エチレン)オキシド/ポリ(ブチレン)オキシドブロックコポリマーを含み、低い弾性率および低いTgを有するが、これは高い可撓性を意味している。配合物Eはポリ(エチレン)オキシド/ポリ(ブチレン)オキシドブロックコポリマーを含まず、高い弾性率および高いTgを有するが、これは低い可撓性を意味している。配合物Gはポリ(エチレン)オキシド/ポリ(ブチレン)オキシドブロックコポリマーを含まず、高い弾性率および高いTgを有するが、これは低い可撓性を意味している(配合物Eと同様である)。配合物Hはポリ(エチレン)オキシド/ポリ(ブチレン)オキシドブロックコポリマーを含み、低い弾性率および低いTgを有するが、これは高い可撓性を意味している(配合物Fと同様である)。これらの結果は、ブロックコポリマーが存在することによって配合物に可撓性が付与されることを支持している。
【0021】
配合物E(ブロックコポリマーを有していない)は、非ヒュームドシリカを含み、シランは含まず、低い浸漬後の重量変化率(%)を有するが、これは良好なインク耐性を意味している。配合物F(ブロックコポリマーを有する)は、非ヒュームドシリカを含まず、またシランを含まず、高い浸漬後の重量変化率(%)を有するが、これは低いインク耐性を意味している。これらの結果は、非ヒュームドシリカが存在することによって、それが浸漬中に流体に対する障壁として働き、従って良好なインク耐性に貢献するということを支持している。
【0022】
配合物G(ブロックコポリマーを有していない)は、非ヒュームドシリカおよびシランを含み、低い浸漬後の重量変化率(%)を有し、これは良好なインク耐性を意味しているが、シランをこの程度含まない配合物E(ブロックコポリマーを有し、非ヒュームドシリカを有する)より重量変化率はなお低い。これらの結果は、シランが存在することによってインク耐性が改善されることを支持している。
【0023】
配合物Hはブロックコポリマー、非ヒュームドシリカおよびシランを有し、中程度の浸漬後の重量変化率(%)を有し、これは配合物Fと比べてより高いインク耐性を意味しているが、しかしブロックコポリマーを有さない配合物Gよりはインク耐性が低い。
【0024】
これらの結果は、ブロックコポリマーが存在することは可撓性の為に必要であり、非ヒュームドシリカが存在することはインク耐性の為に必要であることを意味している。これらの結果はまた、シランが存在することがインク耐性を更に高めることも意味している。
【0025】
(実施例3)
追加的な配合物を調製し、実施例1と同様の試験を行った。配合物の成分および試験結果は以下の表に報告されており、ブロックコポリマーレベルが貯蔵弾性率を低減するのに大きな影響力を有するが、浸漬による重量変化に対してはより小さな影響力を有することを示す。
【0026】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリレートおよび/またはメタクリレートオリゴマー、
1官能性(メタ)アクリレート希釈剤、
3官能性または4官能性のチオール、
ポリプロピレンオキシド/ブチレンオキシドブロックコポリマー、および
光開始剤、
を含む、封止材組成物。
【請求項2】
前記(メタ)アクリレートオリゴマーが芳香族ウレタンポリマーである、請求項1に記載の封止材組成物。
【請求項3】
更にシランを含む、請求項1に記載の封止材組成物。
【請求項4】
前記シランが、全組成物の0.5〜2.0重量%の範囲の量で存在する、請求項3に記載の封止材組成物。
【請求項5】
前記(メタ)アクリレートオリゴマーが芳香族ウレタンポリマーである、請求項3に記載の封止材組成物。
【請求項6】
前記アクリレートおよび/またはメタクリレートオリゴマーが、全組成物の22〜60重量%の範囲の量で存在し、
前記1官能性(メタ)アクリレート希釈剤が、全組成物の30〜55重量%の範囲の量で存在し、
前記3官能性または4官能性チオールが、全組成物の2.5〜8.8重量%の範囲の量で存在し、
前記ポリプロピレンオキシド/ブチレンオキシドブロックコポリマーが、全組成物の1〜25重量%の範囲の量で存在し、および
前記光開始剤が、全組成物の0.8〜5.0重量%の範囲の量で存在する、
請求項1に記載の封止材組成物。

【公表番号】特表2012−516915(P2012−516915A)
【公表日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−548417(P2011−548417)
【出願日】平成22年2月3日(2010.2.3)
【国際出願番号】PCT/US2010/023031
【国際公開番号】WO2010/091071
【国際公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【出願人】(500538520)ヘンケル コーポレイション (99)
【氏名又は名称原語表記】HENKEL CORPORATION
【Fターム(参考)】