説明

インクジェットヘッド保存液

【課題】インクジェットヘッドに充填する際に気泡が発生しにくく、インクジェットヘッド内で容易にインクと置換でき、且つ、寒冷地でも凍結しにくい、多価アルコールモノアルキルエーテルの含有量がインクの質量に対して10質量%以上25質量%以下のインクを用いるインクジェット記録装置において、インクジェットヘッドにインクが充填される前に、予めインクジェットヘッドに充填されるインクジェットヘッド保存液を提供する。
【解決手段】水、界面活性剤、溶解安定剤、及び多価アルコールを含有するインクジェットヘッド保存液において、多価アルコールの含有量を、インクジェットヘッド保存液の質量に対して35質量%以上70質量%以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多価アルコールモノアルキルエーテルの含有量がインクの質量に対して10質量%以上25質量%以下のインクジェット記録装置用インクを用いるインクジェット記録装置において、インクジェットヘッドに前記インクジェット記録装置用インクが充填される前に、予めインクジェットヘッドに充填されるインクジェットヘッド保存液に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式の画像形成装置で用いられるインクジェットヘッドには、大きく分けてサーマル方式とピエゾ方式があり、連続噴射型プリンターでは吐出したインク液滴を電場で制御するような静電式等がある。サーマル方式ではヒーターを瞬時に加熱し、バブルを発生さる。この力を利用してインク液滴を吐出させる。ピエゾ方式では、圧電素子を振動させてインクに力を加えてインク液滴を吐出させる。
【0003】
ピエゾ方式でインクに力を加える方法としては、縦に振動する圧電素子でインクに力を加える方法と、たわみ振動する圧電素子でインクに力を加える方法がある。画素密度の高密度化、量産性を達成するためには、たわみ振動する圧電素子を使用したほうがよく、且つ積層ではないほうがよい。そのためインクに加える力に限界があるため、振動によって発生した圧力波のロスを最小限にし、ノズル部まで効率よく力を伝達する必要がある。
【0004】
インクジェット記録方式の画像形成装置では、ノズル部やインク流路内でインクの目詰まりを起こさず、安定した吐出を行え、鮮明な色調で十分に高い濃度の記録ができるインクジェット記録装置用インク(以下、単にインクともいう)が必要である。また、オフセットを発生することなく、高速で画像を形成する目的で、インクの被記録媒体(紙等)への浸透性を高める成分である、多価アルコールモノアルキルエーテルをインクの質量に対して10質量%以上25質量%以下含有するインクが提案されている。
【0005】
そして、かかるインクの性能を十分に発揮するためには、特にピエゾ方式のインクジェットヘッドを使用する場合、振動によって発生した圧力波のロスを最小限にし、ノズル部まで効率よく力を伝達する必要があり、気泡を発生させることなく、インクジェットヘッド内に完全にインクを充填する必要がある。
【0006】
このため、画像形成装置のインクジェットヘッドに予め充填しておくことによって、気泡を発生させること無く完全にインクを充填するための導入液(インクジェットヘッド保存液)として、ロスマイルス法による起泡直後の泡高さ2mm以下、5分後の泡高さ0mmであり、水と、界面活性能を有し水よりも低揮発性の水溶性有機溶剤とを含む導入液が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−094707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、インクジェットヘッドは様々な部材から形成されており、インクジェットヘッドを構成する部材の接着部には微小な段差や隙間が存在するため、特許文献1に記載の導入液をインクジェットヘッドに充填する際に、インク流路内に気泡が残ってしまう場合があった。また、特許文献1に記載の導入液は、多価アルコールモノアルキルエーテルの含有量がインクの質量に対して10質量%以上25質量%以下のインクとの相溶性が不十分であるため、インクジェットヘッド内の導入液を完全にインクに置換できない場合がある。このため、特許文献1の導入液をインクジェットヘッドに充填する場合、インクの吐出が安定せず画像濃度が低下する場合がある。
【0009】
さらに、特許文献1に記載の導入液は凍結しやすい。このため、寒冷地において、インクジェットヘッドに導入液を充填した状態で画像形成装置を、保管したり、流通させたりする場合に、凍結によるインクジェットヘッド内での導入液の体積変化により、インクジェットヘッドに不具合が生じる場合がある。
【0010】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、インクジェットヘッドに充填する際に気泡が発生しにくく、インクジェットヘッド内で容易にインクと置換でき、且つ、寒冷地でも凍結しにくい、多価アルコールモノアルキルエーテルの含有量がインクの質量に対して10質量%以上25質量%以下のインクを用いるインクジェット記録装置において、インクジェットヘッドにインクが充填される前に、予めインクジェットヘッドに充填されるインクジェットヘッド保存液を提供すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、水、界面活性剤、溶解安定剤、及び多価アルコールを含有するインクジェットヘッド保存液において、多価アルコールの含有量を、インクジェットヘッド保存液の質量に対して35質量%以上70質量%以下とすることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0012】
(1) 多価アルコールモノアルキルエーテルの含有量がインクの質量に対して10質量%以上25質量%以下のインクジェット記録装置用インクを用いるインクジェット記録装置において、インクジェットヘッドに前記インクジェット記録装置用インクが充填される前に、予めインクジェットヘッドに充填されるインクジェットヘッド保存液であって、
少なくとも、水、界面活性剤、溶解安定剤、及び多価アルコールを含有し、
前記多価アルコールの含有量が、前記インクジェットヘッド保存液の質量に対して35質量%以上70質量%以下であるインクジェットヘッド保存液。
【0013】
(2) 前記界面活性剤の含有量が、前記インクジェットヘッド保存液の質量に対して1質量%以上3質量%以下である、(1)記載のインクジェットヘッド保存液。
【0014】
(3) 前記多価アルコールが、アルキレングリコールとグリセリンとの混合物である、(1)又は(2)記載のインクジェットヘッド保存液。
【0015】
(4) 前記アルキレングリコールとグリセリンとの混合物中のグリセリンの含有量が、20質量%以上90質量%以下である、(3)記載のインクジェットヘッド保存液。
【0016】
(5) −20℃において凍結しない、(1)〜(4)何れか記載のインクジェットヘッド保存液。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、インクジェットヘッドに充填する際に気泡が発生しにくく、インクジェットヘッド内で容易にインクと置換でき、且つ、寒冷地でも凍結しにくい、多価アルコールモノアルキルエーテルの含有量がインクの質量に対して10質量%以上25質量%以下のインクを用いるインクジェット記録装置において、インクジェットヘッドにインクが充填される前に、予めインクジェットヘッドに充填されるインクジェットヘッド保存液を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】インクジェットヘッドの平面図である。
【図2】インクジェットヘッドにおける1ドットあたりのヘッド構造を示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態になんら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施できる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の要旨を限定するものではない。
【0020】
本発明のインクジェットヘッド保存液(以下、単に保存液ともいう)は、多価アルコールモノアルキルエーテルの含有量がインクの質量に対して10質量%以上25質量%以下のインクを用いるインクジェット記録装置において、インクジェットヘッドにインクが充填される前に、予めインクジェットヘッドに充填されるインクジェットヘッド保存液である。以下、本発明のインクジェットヘッド保存液、本発明のインクジェットヘッド保存液を用いる画像形成装置において使用されるインクジェット記録装置用インク、及び本発明の記録液が充填されるインクジェットヘッドについて順に説明する。
【0021】
[保存液]
本発明のインクジェットヘッド保存液は、少なくとも、水、界面活性剤、溶解安定剤、及び多価アルコールを含有するインクジェットヘッド保存液であって、多価アルコールの含有量が、インクジェットヘッド保存液の質量に対して35質量%以上70質量%以下である。以下、本発明のインクジェットヘッド保存液の必須の成分である、水、界面活性剤、溶解安定剤、及び多価アルコールと、インクジェットヘッド保存液の製造方法とについて順に説明する。
【0022】
〔水〕
本発明のインクジェットヘッド保存液は、水を必須に含む。保存液に含まれる水は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されず、従来から、水性インクの製造に使用されている水から、所望の純度の水を適宜選択して使用できる。保存液に用いる水としては、例えばイオン交換水が好適に用いられる。本発明の保存液における水の含有量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。水の含有量は、後述する、他の成分の使用量に応じて適宜変更される。保存液における典型的な水の含有量としては、保存液の全質量に対して10質量%以上60質量%以下が好ましく、20質量%以上40質量%以下がより好ましい。
【0023】
〔界面活性剤〕
本発明のインクジェットヘッド保存液は、界面活性剤を必須に含む。保存液が界面活性剤を含有することにより、保存液の表面張力が低下し、インクジェットヘッドの内部に保存液を充填する際に気泡が発生しにくくなる。
【0024】
保存液に含有させる界面活性剤は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されず、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、及びノニオン系界面活性剤かなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることができる。これらの界面活性剤の中では、アニオン系界面活性剤、又はノニオン系界面活性剤がより好ましい。
【0025】
カチオン系界面活性剤の具体例としては、ドデシルアンモニウムクロライド、ドデシルアンモニウムブロマイド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、ドデシルピリジニウムクロライド、ドデシルピリジニウムブロマイド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロマイド等が挙げられる。アニオン系界面活性剤の具体例としては、ステアリン酸ナトリウム、ドデカン酸ナトリウム等の脂肪酸石けんや、ドデシル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のスルホン酸塩類が挙げられる。ノニオン系界面活性剤の具体例としては、ポリオキシエチレンドデシルエーテル、ポリオキシエチレンヘキサデシルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエートエーテル、モノデカノイルショ糖、アセチレンジオールのエチレンオキシド付加物等が挙げられる。これらの界面活性剤は2種以上を組合せて用いることができる。
【0026】
保存液における、界面活性剤の含有量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。保存液がインクとの置換性に優れることや、保存時に保存液から界面活性剤が遊離しにくいこと等から、界面活性剤の含有量は、保存液の全質量に対して1質量%以上3質量%以下が好ましい。
【0027】
〔溶解安定剤〕
本発明のインクジェットヘッド保存液は、インクジェットヘッド保存液の均一な溶解状態を安定化させる成分として溶解安定剤を必須に含有する。溶解安定剤の具体例としては、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、及びγ−ブチロラクトン等が挙げられる。これらの溶解安定剤は2種以上を組合せて用いることができる。インクジェットヘッド保存液における溶解安定剤の含有量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されないが、インクジェットヘッド保存液の質量に対して1質量%以上20質量%以下が好ましく、5質量%以上15質量%以下がより好ましい。
【0028】
〔多価アルコール〕
本発明の保存液は、保存液の質量に対して35質量%以上70質量%以下、より好ましくは45質量%以上70質量%以下の多価アルコールを必須に含有する。保存液がかかる量の多価アルコールを含有することにより、保存液の表面長張力が低下し、インクジェットヘッドの内部に保存液を充填する際に気泡が発生しにくくなる。また、保存液がかかる量の多価アルコールを含有することにより、多価アルコールモノアルキルエーテルの含有量がインクの質量に対して10質量%以上25質量%以下のインクジェット記録装置用インクと親和性に優れた保存液が得られ、インクジェットヘッド内で保存液をインクにより容易に置換できる。さらに、保存液がかかる量の多価アルコールを含有することにより、保存液が、例えば−20℃において凍結しにくくなり、保存液の凍結によるインクジェットヘッドの不具合の発生が抑制される。
【0029】
保存液に含まれる多価アルコールの種類は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。多価アルコールの具体例としては、ポリエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等のオリゴ又はポリエチレングリコール;ポリプロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等のオリゴ又はポリプロピレングリコール;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール等のアルキレングリコール;1,2,6−ヘキサントリオール等のアルカントリオール;チオジグリコール;グリセリンである。これらの多価アルコールは、2種以上を組合せて使用できる。
【0030】
これらの、多価アルコールの中では、インクとの親和性に優れ、且つ、好適な粘度の保存液を調製しやすいことから、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール等のアルキレングリコールと、グリセリンとの混合物を用いるのがより好ましい。アルキレングリコールとグリセリンとの混合物を用いる場合、混合物中のグリセリンの含有量は、20質量%以上90質量%以下が好ましく、30質量%以上80質量%以下がより好ましい。
【0031】
〔インクジェットヘッド保存液の製造方法〕
本発明のインクジェットヘッド保存液の製造方法は、保存液の成分を均一に混合できる限り特に制限されない。保存液の製造方法の具体例としては、保存液の各成分を混合機により均一に混合した後、孔径10μm以下のフィルターにより異物や粗大粒子を除去する方法が挙げられる。なお、保存液を製造する際には、必要に応じて、酸化防止剤、粘度調整剤、pH調整剤、防腐防カビ剤等の種々の添加剤を加えることができる。
【0032】
[インクジェット記録装置用インク]
本発明の保存液は、多価アルコールモノアルキルエーテルの含有量がインクの質量に対して10質量%以上25質量%以下のインクジェット記録装置用インク(以下、単にインクともいう)を用いるインクジェット記録装置において、インクジェットヘッドに前記インクジェット記録装置用インクが充填される前に、予めインクジェットヘッドに充填される。本発明の保存液が使用されるインクジェット記録装置で使用されるインクは、多価アルコールモノアルキルエーテルの含有量がインクの質量に対して10質量%以上25質量%以下である限り特に限定されず、従来からインクジェット記録装置において使用される種々のインクを用いることができる。
【0033】
インクに含まれる多価アルコールモノアルキルエーテルは、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されず、従来からインクジェット記録装置用インクに用いられているものから適宜選択して使用できる。好適な多価アルコールモノアルキルエーテルの具体例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール等の多価アルコールの、炭素原子数1〜6のアルキルエーテルが挙げられる。
【0034】
[インクジェットヘッド]
本発明の保存液を充填するインクジェットヘッドは、特に限定されず、サーマル方式であってもピエゾ方式であってもよい。インクジェットヘッドの中では、インクの吐出量の制御が容易であることからピエゾ方式のインクジェットヘッドがより好ましい。ここでは、図1及び図2を参照してピエゾ方式のインクジェットヘッド1の構造について説明する。図1は、圧電アクチュエータを取り付ける前のインクジェットヘッドの平面図である。図2は圧電アクチュエータを取り付けた状態でのインクジェットヘッドにおける1ドット(1インク吐出口)あたりのヘッド構造を示す拡大図である。
【0035】
図1に示すように、インクジェットヘッド1には、それぞれ1つの吐出口13からインクを吐出する複数の吐出ユニット12が吐出面11に平行に並べられている。また、インクジェットヘッド1内には、インクジェットヘッド1の長手方向に並列に延びる複数の共通流路14が設けられ、各共通流路14には、インクカートリッジ(図示せず)からの配管と接続するためのインク供給口15が設けられている。
【0036】
図2に示すように、インクジェットヘッド1は、吐出口13に対して1つずつ設けられた加圧室16、加圧室16内から吐出口13まで連続するノズル17、並びに加圧室16の上方に設けられた圧電素子18及び個別電極19を備える。加圧室16と共通流路14とは供給孔20で連通されている。本発明の保存液は、インクジェットヘッド1にインクが充填される前に、加圧室16、又は加圧室16と共通流路14とに充填される。保存液が充填されたインクジェットヘッド1は、大気連通箇所をなくすため、吐出口13にキャップを設けたり、インクの導入部に弁や栓等を設けて、保存液の漏れや蒸発を予防したりしてもよい。
【0037】
インクジェットヘッド1内の加圧室16への保存液の充填は、インクをインクジェットヘッド1の内部に供給するためのポンプ(図示せず)により行われる。また、保存液とインクとの置換は、インクをインクジェットヘッド1の内部に供給するためのポンプ(図示せず)により加圧室16へ加圧されたインクを供給し、インクの圧力により吐出口13から保存液を押出して行われる。本発明の保存液はインクとの親和性に優れるため、保存液が吐出された後に、加圧室16に気泡を形成することなく、良好にインクが充填される。
【0038】
加圧室16の上壁は、複数の加圧室16に渡って連続して形成された振動板21で構成されている。振動板21上には、同様に複数の加圧室16に渡って連続して形成された共通電極22が積層されている。共通電極22上には、加圧室16毎に別個の圧電素子18が設けられており、また共通電極22と共に圧電素子18を挟むように加圧室16毎に別個に個別電極19が設けられる。吐出面11の吐出口13以外の領域は、撥水膜11aで覆われており、インクの付着を防止している。
【0039】
インクジェットヘッド1の各圧電素子18は、ヘッド駆動部(図示せず)からフレキシブルケーブル(図示せず)を介して個別電極19に駆動信号である駆動パルスが印加されることで、個別に駆動される。この駆動によって圧電素子18は振動して変形され、その変形が振動板21に伝えられる。そして振動板21の変形によって加圧室16は圧縮される。その結果、加圧室16内のインクに圧力が加わり、ノズル17を通ったインクが吐出口13からインク液滴となって用紙上に吐出され、インクにより用紙上に画像が記録される。
【0040】
なお、吐出により減少したインクは、ノズル17内のインクメニスカスの表面張力によって、インクカートリッジ(図示せず)からインクカートリッジの配管、吐出口13、共通流路14、加圧室16を介してノズル17に充填される。
【0041】
本発明の保存液によれば、インクジェットヘッドに充填する際に気泡が発生しにくい。また、インクジェットヘッド内で容易にインクと置換できるため、良好な画像を形成することができる。さらに、本発明の保存液は寒冷地でも凍結しにくく、インクジェットヘッドに不具合が生じにくい。このため、本発明のインクジェットヘッド保存液は、種々のインクジェット記録方式の画像形成装置において好適に使用される。
【0042】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は実施例によりなんら限定されるものではない。
【実施例】
【0043】
〔参考例1〕
<インクジェット記録装置用インクの調製>
(顔料分散体の調製)
顔料としてフタロシアニンブルーを用いた。顔料分散体の調製に用いる材料の質量の合計に対して、15質量%の顔料、7質量%のスチレン−アクリル酸共重合体樹脂(数平均分子量:50000、酸価200)、0.5質量%の界面活性剤(オルフィンE1010、アセチレンジオールのエチレンオキシド付加物、日信化学工業株式会社製)、スチレン−アクリル酸共重合体樹脂の中和に必要な量の水酸化カリウム、及び残余の量の水を、ダイノーミル(株式会社シンマルエンタープライゼス製)に仕込んだ。顔料分散体の調製に用いる材料の質量の合計に対して1.5倍の質量の、ビーズ径0.5mmのガラスビーズをメディアとしてダイノーミルに充填して、顔料とスチレン−アクリル酸共重合体樹脂とを混練して顔料分散体を得た。得られた顔料分散体をイオン交換水にて300倍に希釈して、動的光散乱式粒径分布装置(ゼータサイザー ナノ、シスメックス株式会社製)により顔料の体積平均粒径D50を測定し、顔料の体積平均粒径が70nm以上130nm以下の範囲となっていることを確認した。
【0044】
(インクの調製)
得られた顔料分散体と、表1に記載の成分とを、表1に記載の比率で混合し、インク1〜インク5を調製した。具体的には、インクの成分を撹拌機により均一に混合した後、孔径5μmのフィルターによりろ過して、インク1〜インク5を得た。
【0045】
〔実施例1〕
表2に記載の成分を、表2に記載の比率で、撹拌機により均一に混合した後、孔径5μmのフィルターにより濾過して、実施例1のインクジェットヘッド保存液を得た。
【0046】
(インク導入性の評価)
実施例1のインクジェットヘッド保存液について、以下の方法に従って、インク1〜インク5を用いて、インク導入性の評価を行った。たわみ振動するピエゾでインクに力を加えるインクジェットヘッドあって、周波数1〜40kHz、駆動電圧10〜30Vで駆動可能なノズルを2656個有し、ヘッド内流路の全容積が6cmあるインクジェットヘッドを備える画像形成装置を用いた。インクジェットヘッドに保存液が充填されたカートリッジを接続し、ヘッド内流速6cm/秒にて1秒間のパージを2回行ってインクジェットヘッドに保存液を充填した。インクジェットヘッドに保存液を充填した後に、インクが充填されたカートリッジをインクジェットヘッドに接続し、流速2cm/秒、1秒間のパージ操作を10回行い、インクジェットヘッドにインクを導入した。
【0047】
インクのパージ操作に次いで、保存液からインクへの置換状況を確認するため、周波数20kHz、駆動電圧20Vにて、光沢紙にノズルチェックパターンを印画し、良好にインクが吐出されなかったノズル(抜けノズル)の数を計測して、下式に従って、全ノズル数に対する抜けノズルの数の比率であるインク充填率を算出した。
インク充填率=(全ノズル数−抜けノズル数)/全ノズル数×100
インク充填率が100%であるものを○と評価し、100%未満90%以上を△と評価し、90%未満を×と評価した。実施例1の保存液のインク導入性の評価結果を、表4に記す。
【0048】
(凍結の評価)
実施例1のインクジェットヘッド保存液に関して凍結の評価を行った。具体的には、保存液を、−20℃に設定された恒温装置に3日間静置した後、保存液の凍結の有無を目視により確認した。凍結しなかったものを○と評価し、凍結したものを×と評価した。実施例1の保存液の凍結性の評価結果を表4に記す。
【0049】
【表1】

*1:オルフィンE1010(アセチレンジオールのエチレンオキシド付加物、日信化学工業株式会社製)
【0050】
〔実施例2〜4、及び比較例1〜6〕
保存液に含まれる成分の含有量を、表2、及び表3に記載の含有量に変えることの他は、実施例1と同様にして保存液を得た。実施例2〜4、及び比較例1〜6で得た保存液を用いて、実施例1の保存液と同様に、インク導入性、及び凍結の評価を行った。実施例2〜4の保存液の、インク導入性、及び凍結性の評価を表4に記し、比較例1〜6の保存液のインク導入性、及び凍結性の評価を表5に記す。
【0051】
【表2】

*1:オルフィンE1010(アセチレンジオールのエチレンオキシド付加物、日信化学工業株式会社製)
【0052】
【表3】

*1:オルフィンE1010(アセチレンジオールのエチレンオキシド付加物、日信化学工業株式会社製)
【0053】
【表4】

【0054】
【表5】

【0055】
表4によれば、35質量%以上70質量%以下の多価アルコールを含む、実施例1〜4の保存液によれば、10質量%以上25質量%以下の多価アルコールモノアルキルエーテルを含むインク2、及び5をインクジェットヘッドに良好に導入でき、−20℃でも保存液が凍結しないことが分かる。
【0056】
また、表4によれば、実施例1〜4の保存液を用いても、多価アルコールモノアルキルエーテルの含有量が10質量%未満、又は25質量%超であるインク1、インク3、及びインク4を用いる場合、良好なインクの導入性は得られないことが分かる。このことから、実施例1〜4の本発明の保存液は、多価アルコールモノアルキルエーテルの含有量が10質量%以上25質量%未満のインクを用いるインクジェット記録装置において、特に好適な保存液であることが分かる。
【0057】
他方、表5によれば、多価アルコールの含有量が35質量%未満、又は70質量%超である比較例1〜6の保存液では、抜けノズルを生ずることなく、保存液をインクに置換することができず、何れも保存液の凍結が生じることが分かる。
【符号の説明】
【0058】
1 インクジェットヘッド
11 吐出面
11a 撥水膜
12 吐出ユニット
13 吐出口
14 共通流路
15 インク供給口
16 加圧室
17 ノズル
18 圧電素子
19 個別電極
20 供給孔
21 振動板
22 共通電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多価アルコールモノアルキルエーテルの含有量がインクの質量に対して10質量%以上25質量%以下のインクジェット記録装置用インクを用いるインクジェット記録装置において、インクジェットヘッドに前記インクジェット記録装置用インクが充填される前に、予めインクジェットヘッドに充填されるインクジェットヘッド保存液であって、
少なくとも、水、界面活性剤、溶解安定剤、及び多価アルコールを含有し、
前記多価アルコールの含有量が、前記インクジェットヘッド保存液の質量に対して35質量%以上70質量%以下であるインクジェットヘッド保存液。
【請求項2】
前記界面活性剤の含有量が、前記インクジェットヘッド保存液の質量に対して1質量%以上3質量%以下である、請求項1記載のインクジェットヘッド保存液。
【請求項3】
前記多価アルコールが、アルキレングリコールとグリセリンとの混合物である、請求項1又は2記載のインクジェットヘッド保存液。
【請求項4】
前記アルキレングリコールとグリセリンとの混合物中のグリセリンの含有量が、20質量%以上90質量%以下である、請求項3記載のインクジェットヘッド保存液。
【請求項5】
−20℃において凍結しない、請求項1〜4何れか記載のインクジェットヘッド保存液。

【図1】
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【図2】
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