説明

インクジェットヘッド駆動装置及びインクジェットヘッド駆動方法

【課題】マルチドロップ駆動方式における低階調印字での印字品質の低下を防止することのできるインクジェットヘッド駆動装置及びインクジェットヘッド駆動方法を提供する。
【解決手段】 インクが充填された複数の圧力室と、この各圧力室の容積を、駆動パルスをアクチュエータに印加することにより変化させ、圧力室に連通して形成されたノズルから記録媒体にインク滴を吐出するとともに駆動パルス数により吐出するインク滴の数を制御して階調印字を行うインクジェットヘッドを駆動する駆動装置において、最初のインク滴を吐出させる駆動パルスの前に圧力室の圧力を減少するためのデブーストパルスを加える駆動信号発生手段を具備し、デブーストパルスは、圧力室の容積を所定時間膨張させる拡張パルスまたは前記圧力室の容積を所定時間収縮させる圧縮パルスとこれに続く休止時間とで構成されるインクジェットヘッド駆動装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットヘッド駆動装置及びインクジェットヘッド駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図14は従来のインクジェットヘッドを示す図である。インクジェットヘッド1は、インクが充填される複数の圧力発生室17と、この圧力発生室17の一端に設けられたノズルプレート11と、このノズルプレート11に圧力発生室17の各々に対応して形成されたインク滴19を吐出させるためのノズル15と、圧力発生室17の各々に対応して設けられ、圧力発生室17に振動板13を介して振動を付与し、この振動の付与による圧力発生室17内部の容積変化によってノズル15からインクを吐出させる圧電アクチュエータ14と、各圧力発生室17に連通して設けられ、図示しないインクタンクからインク供給路16を介して圧力発生室17にインクを供給するためのインク室18から構成されている。
【0003】
このような構成により圧電アクチュエータ14が駆動されると、圧力発生室17に圧力振動が付与され、この圧力振動によって圧力発生室17内部の容積が変化してノズル15からインク滴19が吐出される。このインク滴19は記録紙等の記録媒体に着弾して記録媒体にドットが形成される。このようなドットの連続形成によって、画像データに基づいた所定の文字や画像等が印刷される。
【0004】
ところで、一般にインクジェットプリンターにおいて、高画質の印字を行う場合には、ディザ方式のような、インク滴の大きさは変えず複数のドットでマトリックスを組んで1ピクセルとし、ピクセル内のドット数の違いで階調を表現する面積階調方式が用いられる。この方式ではある程度の階調数を確保するためには解像度が犠牲になってしまう。
【0005】
また、インク滴の大きさを可変することで1ドットの濃度を変える濃度階調方式がある。この場合には解像度は犠牲にはならないが、インク滴の大きさを制御するための技術が難しいという問題がある。
【0006】
さらにインク滴の大きさは変えずに、1ドットに対して打ち込むインク滴の数を可変して濃度階調を行なう、いわゆるマルチドロップ駆動方式がある。この方式では解像度は犠牲にはならず、またインク滴の大きさを制御する必要がないので技術的には比較的容易に実施できる(特許文献1参照)。
【特許文献1】特許第2931817号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図15は、圧電アクチュエータ14に印加する駆動パルスPdの波形を示す図である。この駆動パルスPdは、圧力発生室17の容積を拡張させる拡張パルスp1、圧力発生室17の容積を収縮させる収縮パルスp2および休止時間t3からなる。マルチドロップ駆動方式においては、この駆動パルスPdが吐出するインク滴の数だけ連続的に発生される。
【0008】
ところで、上述のような駆動パルスPdを用いてマルチドロップ方式で圧電アクチュエータ14を駆動した場合、印字品質が低下する現象が発生した。
図16は、2ドロップ印字でのドット形状を拡大して示す図である。1ドロップ目のインク滴と2ドロップ目のインク滴とが合体せず分離している。また分離の状況は一定ではなくそれぞれのドットでばらついている。ただし、この現象は高階調印字である、例えば5ドロップ印字においては生じていない。
【0009】
そして、このような印字品質の低下を生じさせる原因とその対策については明らかにされていない。
【0010】
本発明は係る事情に鑑みてなされたものであって、マルチドロップ駆動方式における低階調印字での印字品質の低下を防止することのできるインクジェットヘッド駆動装置及びインクジェットヘッド駆動方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための本発明は、インクが充填された複数の圧力室と、この各圧力室の容積を、駆動パルスをアクチュエータに印加することにより変化させ、前記圧力室に連通して形成されたノズルから記録媒体にインク滴を吐出するとともに駆動パルス数により吐出するインク滴の数を制御して階調印字を行うインクジェットヘッドを駆動する駆動装置において、最初のインク滴を吐出させる駆動パルスの前に前記圧力室の圧力を減少するためのデブーストパルスを加える駆動信号発生手段を具備し、前記デブーストパルスは、前記圧力室の容積を所定時間膨張させる拡張パルスまたは前記圧力室の容積を所定時間収縮させる圧縮パルスとこれに続く休止時間とで構成されるインクジェットヘッド駆動装置である。
【0012】
また本発明は、インクが充填された複数の圧力室と、この各圧力室の容積を、駆動パルスをアクチュエータに印加することにより変化させ、前記圧力室に連通して形成されたノズルから記録媒体にインク滴を吐出するとともに駆動パルス数により吐出するインク滴の数を制御して階調印字を行うインクジェットヘッドを駆動する駆動装置において、前記インク滴の数が所定数N(但し、1<N≦M、Mは最大階調のインク滴数)より少ない場合には、最初のインク滴を吐出させる駆動パルスの前に前記圧力室の圧力を減少するためのデブーストパルスを加え、インク滴の数が所定数N以上である場合には前記デブーストパルスを印加しない駆動信号発生手段を具備し、前記デブーストパルスは、前記圧力室の容積を所定時間膨張させる拡張パルスまたは前記圧力室の容積を所定時間収縮させる圧縮パルスとこれに続く休止時間とで構成されるインクジェットヘッド駆動装置である。
【0013】
また本発明は、インクが充填された複数の圧力室の容積を、駆動パルスをアクチュエータに印加することにより変化させ、前記圧力室に連通して形成されたノズルから記録媒体にインク滴を吐出するとともに駆動パルス数により吐出するインク滴の数を制御して階調印字を行うインクジェットヘッド駆動方法において、最初のインク滴を吐出させる駆動パルスの前に前記圧力室の圧力を減少するためのデブーストパルスを加えるように制御し、前記デブーストパルスは、前記圧力室の容積を所定時間膨張させる拡張パルスまたは前記圧力室の容積を所定時間収縮させる圧縮パルスとこれに続く休止時間とで構成されるンクジェットヘッド駆動方法である。
【0014】
また本発明は、インクが充填された複数の圧力室の容積を、駆動パルスをアクチュエータに印加することにより変化させ、前記圧力室に連通して形成されたノズルから記録媒体にインク滴を吐出するとともに駆動パルス数により吐出するインク滴の数を制御して階調印字を行うインクジェットヘッド駆動方法において、前記インク滴の数が所定数N(但し、1<N≦M、Mは最大階調のインク滴数)より小さい場合には、最初のインク滴を吐出させる駆動パルスの前に前記圧力室の圧力を減少するためのデブーストパルスを加え、インク滴の数が所定数N以上である場合には前記デブーストパルスを印加しないように制御し、前記デブーストパルスは、前記圧力室の容積を所定時間膨張させる拡張パルスまたは前記圧力室の容積を所定時間収縮させる圧縮パルスとこれに続く休止時間とで構成されるインクジェットヘッド駆動方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、マルチドロップ駆動方式における低階調印字での印字品質の低下を防止することのできるインクジェットヘッド駆動装置及びインクジェットヘッド駆動方法を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
〔第1の実施の形態〕
発明者は上述の印字品質低下の原因について調査及び検討を実施した。上述のように複数のインク滴を連続に吐出させる場合、インク滴が合体しないのは、それぞれのインク滴においては、その直前に吐出したインク滴の残留圧力の影響を受ける結果、ドロップ毎の吐出速度の差が大きくなって着弾ずれが生じているためと考えられる。
これを明らかにするために、マルチドロップ駆動方法により複数のインク滴を吐出させて、ドロップ数とインク滴の吐出速度を測定した。この測定は、隣り合う複数のヘッドを同時に駆動させる複ノズル駆動モードと、隣り合う複数のヘッドを同時に駆動させない単ノズルモードとで実行した。これは上述の印字品質不良は複ノズル駆動モードにおいて発生し、単ノズル駆動モードにおいて発生していないからである。なお、このマルチドロップ駆動には、図15に示す駆動波形を用いた。
【0017】
図1は、ドロップ数とインク滴の吐出速度との対応を表す図であり、図2には、測定した吐出速度を示している。
この測定結果からわかるように、不具合を生じたインクジェット記録ヘッド1では、複ノズル駆動モードにおいて、1ドロップ目と2ドロップ目とで吐出速度に大きな差が生じている点で単ノズル駆動モードでの測定値と異なっている。更に、2ドロップ目の吐出速度が1ドロップ目の吐出速度よりも小さくなっている点に特徴が見られる。
【0018】
この測定結果から、吐出速度の相違が上述の印字不良の原因かどうかを検討する。
図3は、着弾位置ずれを求める計算過程を示している。
1ドロップ目のインク滴の吐出速度V1、2ドロップ目のインク滴の吐出速度V2、インク滴の飛翔距離、即ちヘッドと印字媒体との間隔GAP、1ドロップを吐出させる周期DC、印字媒体の搬送速度Vのそれぞれの諸元には図3に示す数値を用いた。
【0019】
そうすると、インク滴1ドロップ目の飛翔時間T1d、インク滴2ドロップ目の飛翔時間T2dはそれぞれ式(1)、(2)で表される。
T1d=GAP/V1=123.5μs ・・・式(1)
T2d=GAP/V2=200.0μs ・・・式(2)
インク滴1ドロップ目の着弾時から2ドロップ目の着弾時までの時間差である着弾時間差分Tdelayは式(3)で表される。
Tdelay=T2d+DC−T1d=83.8μs ・・・式(3)
従って、1ドロップ目と2ドロップ目のインク滴の着弾位置ずれLは式(4)で表される。
L=V×Tdelay=34μm ・・・式(4)
インク滴1ドロップが印字媒体に着弾することで形成されるドットの直径がこの着弾位置ずれLと同程度であることから、この検討結果によれば、大きな着弾ずれが発生することがわかる。
通常マルチドロップ駆動では、2ドロップ目以降のインク滴においては、その直前に吐出したインク滴の残留圧力振動を利用して最初の1ドロップ目のインク滴よりも吐出速度を高めることができる。これに対して、最初の1ドロップ目のインク滴はメニスカスが静止した状態から圧力振動を付与するため2ドロップ目以降のインク滴よりも吐出速度が小さくなる。
従って、通常は1ドロップ目の吐出速度が小さく、2ドロップ目、3ドロップ目とドロップ数が増加するにつれて吐出速度が増加するのが通常の吐出特性である。
【0020】
しかし、不具合を生じたインクジェットヘッドでは、1ドロップ目の吐出速度が大きく、2ドロップ目の吐出速度が小さい特性である。
従って、2ドロップ目のインク滴の飛翔時間T2dが1ドロップ目のインク滴の飛翔時間T1dよりも大きく、式(3)で示す着弾時間差分Tdelayが大きくなるように作用していることが理解できる。
【0021】
なお、単ノズル駆動モードにおいても、2ドロップ目のインク滴の吐出速度が1ドロップ目のインク滴の吐出速度よりも小さい傾向が見られるが、その速度差は小さいものである。
複ノズル駆動モードで吐出速度の差が大きいのは、隣接するノズルの拡縮の影響を受けるためと考えられる。またドットの分離状況がノズル毎に異なるのも同様の理由であると考えられる。
【0022】
以上の考察より、上述の印字不良の主原因は測定結果に示される吐出速度の相違が大きいためであり、特に1ドロップ目のインク滴の吐出速度V1が2ドロップ目のインク滴の吐出速度V2よりも大きいことが影響していると考えられる。
【0023】
そうすると、上述の吐出速度の相違を解消して印字品質の不良を解決するために、インクジェットヘッドの駆動波形を変更することが挙げられる。
しかしながら、使用されている駆動波形は、基準となる駆動波形について、拡張パルスp1の継続時間t1、収縮パルスp2の継続時間t2および休止時間t3を種々調整して決定されたものである。
即ち、この駆動波形は、印字される画質(例えば、各印字モードにおける階調再現性など)、印字速度、消費電力などを総合的に評価して採用したものである。このため、駆動波形を再度調整して上述の印字不良を解消した場合は、逆に他の基準が充足されなくなる場合も考えられる。
【0024】
発明者は、以上の調査・検討に基づいて、駆動波形の形状を変更することなく1ドロップ目の吐出速度を2ドロップ目の吐出速度以下とし、あるいは両吐出速度の差を小さくすることができ、それによって上述の印字不良を解消する方法に想到した。
以下、本発明の一実施の形態について図面を参照して説明する。
【0025】
図4及び図5はインクジェットヘッドの要部構成を示す図である。なお、図5は図4のA−A断面図である。
図4及び図5において、インクジェットヘッド1は、インクを収容する複数の圧力室31を隔壁32で仕切って形成し、各圧力室31にはインク滴を吐出するノズル33が設けられている。
【0026】
各圧力室31の底面は振動板34によって形成され、その振動板34の下面側に各圧力室31に対応して複数の圧電部材35が固定されている。振動板34および圧電部材35はアクチュエータACTを構成し、圧電部材35は駆動信号発生手段2の出力端子に電気的に接続されている。
【0027】
インクジェットヘッド1には、また各圧力室31に連通する共通圧力室36が形成されており、この共通圧力室36にインク供給口37を経由してインク供給手段(図示せず)からインクを注入し、共通圧力室36、各圧力室31およびノズル33にインクを満たすようになっている。圧力室31およびノズル33内にインクが満たされることで、ノズル33内にはインクのメニスカスが形成される。
【0028】
次に、図6を参照して駆動信号発生手段2の詳細な構成について説明する。図6において、駆動パルス数nが発生される駆動パルス数発生部41は、例えば、ホストコンピュータ50からインターフェース51を介して入力される印字の階調データにもとづき駆動パルス数を発生する。この駆動パルス数nはインク滴の数に相当する。
【0029】
この駆動パルス数発生部41から出力される駆動パルス数nは判定部42に送られ、この判定部42にて、駆動パルス数nが所定数N(但し、1<N≦M、Mは最大階調のインク滴数)以上か否かが判定される。ここでは、最大階調のインク滴数Mが「7」で、所定数Nとして、例えば、「4」を設定している。なお、判定部42にあらかじめ記憶される所定数Nの値は1<N≦Mの範囲であればよく、インクジェット記録装置の操作パネルやホストコンピュータ、例えば、ホストコンピュータ50からインターフェース51を経由して外部から変更できるようになっている。
【0030】
判定部42での判定結果は駆動シーケンス発生部43に出力される。ここで、駆動シーケンス発生部43には駆動パルス数発生部41で発生された駆動パルス数nも入力されている。
【0031】
駆動シーケンス発生部43は波形選択部44での波形選択を制御する。この波形選択部44には、駆動パルス波形発生部45から出力される駆動パルスPd(図7参照)及びデブーストパルス波形発生部46から出力されるデブーストパルスPdb(図8参照)がそれぞれ入力される。駆動シーケンス発生部43及び波形選択部44により波形出力部47が構成される。
【0032】
駆動シーケンス発生部43は、駆動パルス数nが所定数N(=4)未満、つまり3以下の場合には、波形出力部47はデブーストパルスPdbを1回選択した後に駆動パルスPdをn回選択出力するように波形選択部44を制御する。
一方、駆動シーケンス発生部43は、駆動パルス数nが所定数N(=4)以上の場合には、駆動パルスPdをn回選択出力するように波形選択部44を制御する。
【0033】
この波形選択部44から出力される波形は、駆動出力手段48に出力される。そして、この駆動出力手段48の出力1及び出力2はアクチュエータACTに接続される。
【0034】
なお、駆動パルス数nが所定数Nより小さい場合はデブーストパルスPdbを付加し、駆動パルス数nが所定数N以上の場合デブーストパルスPdbを選択しないように駆動する方法をパーシャルデブースト方式という。パーシャルデブースト方式を採用する理由については後で詳しく説明する。
【0035】
次に、図7を参照して駆動信号発生手段2から発生する駆動パルスPdの波形について説明する。この駆動パルスPdは、圧力室31の容積を拡張させる拡張パルスp1、圧力室31の容積を収縮させる収縮パルスp2および休止時間t3からなる。拡張パルスp1のパルス幅がt1でVaaの電圧振幅を有する負極性の矩形波で、収縮パルスp2のパルス幅がt2で拡張パルスp1と同じVaaの電圧振幅を有する正極性の矩形波である。
マルチドロップ駆動方式においては、この駆動パルスPdが吐出するインク滴の数だけ連続的に発生される。
【0036】
ここで、インク中の圧力波が後端の共通圧力室からノズル先端までの圧力室内を伝播する圧力伝播時間をAL(Acoustic Length)とすると、拡張パルスp1のパルス幅t1は略AL近辺に、収縮パルスp2のパルス幅t2は1.5AL〜2ALに設定される。また、休止時間t3は0〜ALの時間に設定される。なお、ALは時間の単位であり、この時間で圧力室31内の圧力が正圧から負圧へ、あるいは負圧から正圧へと反転する。
【0037】
図9は駆動信号発生手段2の回路の一部分を示す図である。
Vaa電源端子と接地端子間にはFET1、FET2の直列回路が接続され、この各FET1、2の接続点からの出力1が圧電部材35の片側の電極端子へ接続されている。また、Vaa電源端子と接地端子間にはFET3、FET4の直列回路が接続され、各FET3,4の接続点からの出力2が圧電部材35のもう片方の電極端子へ接続されている。
【0038】
図7の拡張パルスp1を印加する場合にはFET1をON、FET2をOFF、FET3をOFF、FET4をONに動作させる。収縮パルスp2を印加する場合にはFET1をOFF、FET2をON、FET3をON、FET4をOFFに動作させる。この動作によって圧電部材に印加する電圧が切替えられる。
【0039】
次に、図10を参照して駆動パルスPdが印加された場合の圧力室31に印加される通電波形qと圧力室31内に発生する圧力振動波形rについて説明する。ここで、図中拡張パルスp1のパルス幅t1は圧力室31内に発生した圧力波が圧力室31の一端から他端まで伝播するのに要する時間ALに設定され、収縮パルスp2のパルス幅t2はその2倍の2ALに設定され、また休止時間t3もALに設定されている。
【0040】
まず、圧電部材35の電極間に電圧−Vaaが印加されると、圧電部材35が圧力室31の容積を急激に広げるように変形するので、圧力室31内には負の圧力が瞬間的に発生する。この圧力は圧力伝播時間ALが経過すると正の圧力に反転する。
【0041】
次に、圧電部材35の電極間に逆の極性の電圧+Vaaが印加されると、今度は圧電部材35が圧力室31の容積を広げた状態から急激に狭めるように変形することで圧力室31内には正の圧力が瞬間的に発生し、この圧力により発生する圧力波は最初に発生した圧力波に対して位相が一致するので圧力波の振幅は急激に増大される。このときノズルからインク滴が吐出していくようになる。
【0042】
そして、圧力伝播時間の2倍の時間2ALが経過すると圧力室31内の圧力は正→負→正に変化する。この時に圧電部材35の電極間の電圧をゼロに戻すと、収縮した圧力室の容積31が急激に元の状態に戻り、圧力室31内の圧力は瞬間的に下がるので圧力波の振幅が弱められ残留圧力振動が小さくなる。
【0043】
さらに、休止時間ALにおいて圧力振動は正→負の方向に変化するが、この休止時間ALに続けて2ドロップ目の拡張パルスp1が印加されることで圧力室31の容積がまた急激に広げられ、圧力室31内には再び負の圧力が瞬間的に加わる。この時1ドロップ目の残留圧力振動がまだ残っている状態で次の圧力振動が加えられるため、圧力室31内の圧力は1ドロップ目の場合に比べ、より大きな負圧となる。
【0044】
従って、次に圧力伝播時間AL経過した時に反転した正の圧力も大きくなり、さらに収縮パルスp2を印加することで2ドロップ目の吐出に要する圧力も1ドロップ目よりも大きくなる。
【0045】
以上説明したように、時間t1、t2、t3をそれぞれ変化させることによってインク滴を吐出させる圧力が変化し、従って、インク滴の吐出速度が変化することがわかる。
【0046】
次に、図8を参照して1ドロップ目の駆動パルスPdの前にデブーストパルスPdbを追加した波形について説明する。
【0047】
デブーストパルスPdbは圧力室31の容積を拡張させる拡張パルスDBpと休止時間DBt2とからなり、拡張パルスDBpのパルス幅がDBt1で−Vaaの電圧振幅を有する矩形波である。続く1ドロップ目以降の駆動パルスPdは、図7と同じである。
【0048】
デブーストパルスPdbは、圧力室31の容積を拡張させるため、これによって圧力室31内の圧力は低下する。圧力室31内の圧力は、休止時間DBt2内に正〜負の振動を繰り返すが、デブーストパルスPdbのパルス幅DBt1を変化させることによって、1ドロップ目の駆動を開始する時点での圧力室31内のイニシャル圧力を低下させることができる。
所謂ブーストパルスが圧力室31内のイニシャル圧力を上昇させることを目的とするのに対して、圧力室31内のイニシャル圧力を下げることを目的とするこのパルスをデブーストパルスと呼ぶものである。
次にデブーストパルスPdbにおいて、拡張パルスDBpのパルス幅DBt1を決定する方法について説明する。
図11は、拡張パルスDBpのパルス幅DBt1と吐出速度の関係を測定した図である。なお、この測定は複ノズル駆動モードで駆動して実行した。
パルス幅DBt1が増加するにつれて、インク滴1ドロップ目の吐出速度は減少した。一方、インク滴2ドロップ目の吐出速度は、パルス幅DBt1が増加するにつれて山型に変化した。また、インク滴3ドロップ目の吐出速度は、最初の内はパルス幅DBt1が増加しても変化しなかったが、さらにパルス幅DBt1が増加するにつれて減少した。
一方、インク滴4〜7ドロップ目の吐出速度は、パルス幅DBt1が増加した場合であってもその影響による変化はほとんどみられなかった。
【0049】
この測定結果から次のことがわかる。
パルス幅DBt1を適切に選択することで、インク滴1ドロップ目の吐出速度をインク滴2ドロップ目の吐出速度よりも小さくすることができ、またインク滴1ドロップ目の吐出速度とインク滴2ドロップ目の吐出速度の差を小さくすることができる。更に、ドロップ数が大きくなるとデブーストパルスの影響を受けにくくなることがわかる。
そこで、パルス幅DBt1を、インク滴1ドロップ目の吐出速度とインク滴2ドロップ目の吐出速度との差が小さくなる値に設定すればよい。
【0050】
図12は、7ドロップ8階調のマルチドロップ駆動方式において、最初の1ドロップ目の駆動パルスPdの前にデブーストパルスPdbを与えた場合と与えない場合のドロップ数と吐出速度の関係を示している。
【0051】
この図では、デブーストパルスのパルス幅DBt1を0.6μsに設定した。このデブーストパルスPdbを加えることでことにより、インク滴1ドロップ目の吐出速度とインク滴2ドロップ目の吐出速度を略等しくすることができた。また、インク滴数が4ドロップの吐出速度はデブーストパルスPdbが有る場合と無い場合とで大きな違いはない。また、インク滴数が5〜7ドロップの吐出速度はデブーストパルスPdbが有る場合と無い場合とでほとんど同じである。
【0052】
図13は、デブーストパルスPdbの効果を示すもので、デブーストパルスPdbを加えて2ドロップ印字を行った場合のドット形状を拡大して示す図である。1ドロップ目のインク滴と2ドロップ目のインク滴とが分離せず合体して印字されている。
【0053】
このようにデブーストパルスPdbを使用することで、最初の数ドロップにおいて発生する印字品質の劣化を防止することができる。
【0054】
ここで、本発明を完成するに至った従来の不具合点について調べてみると、2ドロップ印字では1ドロップ目のインク滴と2ドロップ目のインク滴とが合体せず分離して印字されるが、高階調度の印字である例えば、5階調印字ではドットの分離は生じていない。
この理由は、高階調印字では、ドロップ数が大きくなるため形成されるドット径が大きくなり、ドロップ数が少ない場合に発生するドット分離状態が、後続のドロップにより解消されることとなるからである。
【0055】
従って、パーシャルデブースト方法を採用することで顕著な効果を挙げることができる。即ち、デブーストパルスPdbの効果が得られる、例えば1〜3ドロップのみの印字時にデブーストパルスPdbを付加し、デブーストパルスPdbの効果があまり得られない、例えば4ドロップ以上の印字ではブーストパルスを付加しないことで消費電力の増加を極力抑えることができる。また、印字速度の低下を招くこともなくなる。
【0056】
なお、デブーストパルスPdbがほとんど影響しなくなるドロップ数は、圧力発生室やノズルの形状、インクの物性、駆動パルスの形状等によって異なってくるため、これらの諸元に対応してデブーストパルスPdbを付加するドロップ数を指定するようにしても良い。
【0057】
ところで、上述のパーシャルデブースト方法を実現するため、駆動信号発生手段2は、駆動パルス数nが所定数N(=4)未満、つまり3以下の場合には、デブーストパルスPdbを1回選択した後に駆動パルスPdをn回だけアクチュエータACTに出力する。一方、駆動信号発生手段2は、駆動パルス数nが所定数N(=4)以上の場合には、駆動パルスPdをn回だけアクチュエータACTに選択出力する。
【0058】
なお上述の実施の形態において、デブーストパルスPdbの期間は駆動パルスPdの期間と同じ期間に設定しているが、この形態に限られるものではない。
また、図8に示すデブーストパルスPdbは圧力室31の容積を拡張させる拡張パルスを使用したが、この形態に限られず圧力室31の容積を収縮させる圧縮パルスであっても良い。
【0059】
デブーストパルスは、1ドロップ目の駆動を開始する時点での圧力室31内のイニシャル圧力を下げることを目的としたものである。したがって、デブーストパルスの期間、圧力発生室やノズルの形状、インクの物性などによってデブーストパルスにも最適な形態が存在し、圧力室31の容積を収縮させる圧縮パルスを用いることが適切とされ得るからである。
【0060】
なお、上述の実施の形態で説明した各機能は、ハードウエアを用いて構成しても良く、また、ソフトウエアを用いて各機能を記載したプログラムをコンピュータに読み込ませて実現しても良い。また、各機能は、適宜ソフトウエア、ハードウエアのいずれかを選択して構成するものであっても良い。
【0061】
更に、各機能は図示しない記録媒体に格納したプログラムをコンピュータに読み込ませることで実現させることもできる。ここで本実施の形態における記録媒体は、プログラムを記録でき、かつコンピュータが読み取り可能な記録媒体であれば、その記録形式は何れの形態であってもよい。
【0062】
なお、この発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】ドロップ数とインク滴の吐出速度との対応を表す図。
【図2】測定した吐出速度を示す図。
【図3】着弾位置ずれを求める計算過程を説明する図。
【図4】インクジェットヘッドの要部構成を示す図。
【図5】インクジェットヘッドの要部構成を示す図。
【図6】駆動信号発生手段の詳細な構成を示す図。
【図7】駆動信号発生手段から発生する駆動パルスの波形を示す図。
【図8】1ドロップ目の駆動パルスの前にデブーストパルスを追加した波形を示す図。
【図9】駆動信号発生手段の回路の一部分を示す図。
【図10】駆動パルスが印加された場合の圧力室に印加される通電波形と圧力室内に発生する圧力振動波形を示す図。
【図11】拡張パルスのパルス幅と吐出速度の関係を測定した図。
【図12】最初の1ドロップ目の駆動パルスの前にデブーストパルスを与えた場合と与えない場合のドロップ数と吐出速度の関係を示す図。
【図13】デブーストパルスの効果を示す図。
【図14】従来のインクジェットヘッドを示す図。
【図15】圧電アクチュエータに印加する駆動パルスの波形を示す図。
【図16】2ドロップ印字でのドット形状を拡大して示す図。
【符号の説明】
【0064】
AL…圧力伝播時間、DC…ドロップ周期、DBp…拡張パルス、DBt1…パルス幅、DBt2…休止時間、Pd…駆動パルス、Pdb…デブーストパルス、V1…吐出速度、1…インクジェットヘッド、2…駆動信号発生手段、31…圧力室、42…判定部、43…駆動シーケンス発生部、44…波形選択部、45…駆動パルス波形発生部、46…デブーストパルス波形発生部、51…インターフェース。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクが充填された複数の圧力室と、この各圧力室の容積を、駆動パルスをアクチュエータに印加することにより変化させ、前記圧力室に連通して形成されたノズルから記録媒体にインク滴を吐出するとともに駆動パルス数により吐出するインク滴の数を制御して階調印字を行うインクジェットヘッドを駆動する駆動装置において、
最初のインク滴を吐出させる駆動パルスの前に前記圧力室の圧力を減少するためのデブーストパルスを加える駆動信号発生手段を具備し、
前記デブーストパルスは、前記圧力室の容積を所定時間膨張させる拡張パルスまたは前記圧力室の容積を所定時間収縮させる圧縮パルスとこれに続く休止時間とで構成されること
を特徴とするインクジェットヘッド駆動装置。
【請求項2】
インクが充填された複数の圧力室と、この各圧力室の容積を、駆動パルスをアクチュエータに印加することにより変化させ、前記圧力室に連通して形成されたノズルから記録媒体にインク滴を吐出するとともに駆動パルス数により吐出するインク滴の数を制御して階調印字を行うインクジェットヘッドを駆動する駆動装置において、
前記インク滴の数が所定数N(但し、1<N≦M、Mは最大階調のインク滴数)より少ない場合には、最初のインク滴を吐出させる駆動パルスの前に前記圧力室の圧力を減少するためのデブーストパルスを加え、インク滴の数が所定数N以上である場合には前記デブーストパルスを印加しない駆動信号発生手段を具備し、
前記デブーストパルスは、前記圧力室の容積を所定時間膨張させる拡張パルスまたは前記圧力室の容積を所定時間収縮させる圧縮パルスとこれに続く休止時間とで構成されること
を特徴とするインクジェットヘッド駆動装置。
【請求項3】
駆動信号発生手段は、
駆動パルス数を発生する駆動パルス発生手段と、
この駆動パルス発生手段より発生される駆動パルス数があらかじめ記憶された所定数N(但し、1<N≦M、Mは最大階調のインク滴数)以上であるかを判定する判定手段と、
この判定手段により前記駆動パルス数が所定数N未満であると判定された場合には、デブーストパルスに続いて前記駆動パルス数の駆動パルスを前記アクチュエータに印加し、前記判定手段により前記駆動パルス数が所定数N以上であると判定された場合には、前記駆動パルス数の駆動パルスを前記アクチュエータに印加するパルス印加手段とからなることを特徴とする請求項2に記載のインクジェットヘッド駆動装置。
【請求項4】
判定手段は、あらかじめ記憶された所定数Nを外部より変更できることを特徴とする請求項3に記載のインクジェットヘッド駆動装置。
【請求項5】
デブーストパルスが有る場合には、1ドロップ目のインク滴の吐出速度が2ドロップ目のインク滴の吐出速度以下であり、デブーストパルスが無い場合は、1ドロップ目のインク滴の吐出速度が2ドロップ目のインク滴の吐出速度よりも大きいことを特徴とする請求項4記載のインクジェットヘッド駆動装置。
【請求項6】
デブーストパルスが有る場合には、1ドロップ目のインク滴の吐出速度と2ドロップ目のインク滴の吐出速度が略等しく、デブーストパルスが無い場合は、1ドロップ目のインク滴の吐出速度が2ドロップ目のインク滴の吐出速度よりも大きいことを特徴とする請求項4記載のインクジェットヘッド駆動装置。
【請求項7】
デブーストパルスが有る場合は、デブーストパルスが無い場合に比べて1ドロップ目のインク滴の吐出速度が減速し、2ドロップ目のインク滴の吐出速度が加速していることを特徴とする請求項5又は6記載のインクジェットヘッド駆動装置。
【請求項8】
デブーストパルスの期間長は、1つの駆動パルスの期間長と略同じであることを特徴とする請求項7記載のインクジェットヘッド駆動装置。
【請求項9】
インクが充填された複数の圧力室の容積を、駆動パルスをアクチュエータに印加することにより変化させ、前記圧力室に連通して形成されたノズルから記録媒体にインク滴を吐出するとともに駆動パルス数により吐出するインク滴の数を制御して階調印字を行うインクジェットヘッド駆動方法において、
最初のインク滴を吐出させる駆動パルスの前に前記圧力室の圧力を減少するためのデブーストパルスを加えるように制御し、
前記デブーストパルスは、前記圧力室の容積を所定時間膨張させる拡張パルスまたは前記圧力室の容積を所定時間収縮させる圧縮パルスとこれに続く休止時間とで構成されること
を特徴とするインクジェットヘッド駆動方法。
【請求項10】
インクが充填された複数の圧力室の容積を、駆動パルスをアクチュエータに印加することにより変化させ、前記圧力室に連通して形成されたノズルから記録媒体にインク滴を吐出するとともに駆動パルス数により吐出するインク滴の数を制御して階調印字を行うインクジェットヘッド駆動方法において、
前記インク滴の数が所定数N(但し、1<N≦M、Mは最大階調のインク滴数)より小さい場合には、最初のインク滴を吐出させる駆動パルスの前に前記圧力室の圧力を減少するためのデブーストパルスを加え、インク滴の数が所定数N以上である場合には前記デブーストパルスを印加しないように制御し、
前記デブーストパルスは、前記圧力室の容積を所定時間膨張させる拡張パルスまたは前記圧力室の容積を所定時間収縮させる圧縮パルスとこれに続く休止時間とで構成されること
を特徴とするインクジェットヘッド駆動方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2008−260228(P2008−260228A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−105223(P2007−105223)
【出願日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【出願人】(000003562)東芝テック株式会社 (5,631)
【Fターム(参考)】