説明

インクジェット用インク、インクセット、画像記録方法、画像記録装置、および記録物

【課題】活性エネルギー線による硬化速度が良好で、高い透明性を有する画像を形成することが可能なインクジェット用インクを提供する。
【解決手段】色材と分散剤とを含む色材粒子と、活性エネルギー線により架橋結合可能な高分子化合物とを含有し、前記色材粒子の分散平均粒子径が1〜50nmであって、式:(D90−D10)で表される値が100nm以下であるインクジェット用インクとする。
〔式中、D90及びD10は、色材粒子の粒子径分布関数dG=F(D)dD(Gは粒子数、Dは粒子径を表わす)の積分値が、0.9となる粒子径、及び0.1となる粒子径をそれぞれ表す〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット用インク、インクセット、画像記録方法、画像記録装置、および記録物に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法は、比較的簡単な装置で、高精細な画像の記録が可能であり、各方面で急速な発展を遂げている。また、使用される用途も多岐にわたり、それぞれの目的にあった記録媒体あるいはインクが使用される。
近年では、インクジェット記録方式の工業用途への検討もなされており、特にオンデマンド型の軽印刷用途にも耐え得る性能を持つプリンタの開発も行われている。
【0003】
また、記録に用いられる方式や、インクについても様々な検討が行われており、例えば、紫外線を露光することにより硬化するインクジェット記録用インクが開示されている。
【0004】
一方で、工業用途においては、画像が鮮明であることや、高精彩であることは勿論のこと、短時間で、且つ多量の印刷が行えることが求められる。特に、紫外線硬化型のインクを用いた場合には、画像の定着に際し、硬化速度の向上と、硬化エネルギーの低減等が大きな課題となっている。
【0005】
画像の鮮明さの課題に対して、インクに含まれる色材の粒径を微細にすることにより、彩度の高い画像を形成する検討がなされている(例えば、特許文献1参照)。
また、さらに微細化し、且つ粒径の分布が狭い顔料粒子を用いたブロンジングと光沢性が改良されたインクが開示されている(例えば、特許文献2、3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】

【特許文献1】特開2005−179506号公報
【特許文献2】特開2003−113341号公報
【特許文献3】特開2003−128955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1〜特許文献3に記載の方法では、ある程度画像の透明性は得られても、顔料微粒子の微細化に伴う耐光性の低下という問題があり、鮮明な画像を長期間維持することは困難であった。特に、例えば、紫外線のように、エネルギーの高い光線を照射して画像を定着させる画像記録方法においては、画像定着のための光照射時における耐光性も問題となる。
本発明は、活性エネルギー線による硬化速度が良好で、高い透明性を有する画像を形成することが可能なインクジェット用インク、および該インクを含むインクセット、該インクを用いた画像記録方法および画像記録装置、並びに該インクを用いて記録された高い透明性を有する記録物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための具体的手段は以下の通りである。
<1> 色材と分散剤とを含む色材粒子と、活性エネルギー線により架橋結合可能な高分子化合物とを含有し、前記色材粒子の分散平均粒子径が1〜50nmであって、式:(D90−D10)で表される値が100nm以下であるインクジェット用インク。
【0009】
〔式中、D90及びD10は、前記色材粒子の粒子径分布関数dG=F(D)dD(Gは粒子数、Dは粒子径を表わす)の積分値が、全色材粒子数の0.9(90個数%)となる粒子径、及び、全色材粒子数の0.1(10個数%)となる粒子径をそれぞれ表す〕
【0010】
<2> 前記色材粒子は、結晶構造を有することを特徴とする前記<1>に記載のインクジェット用インク。
<3> 前記分散剤は、高分子化合物であることを特徴とする前記<1>または<2>に記載のインクジェット用インク。
<4> 前記活性エネルギー線により架橋結合可能な高分子化合物は、親水性主鎖と複数の側鎖とを有し、前記側鎖間で架橋結合可能であることを特徴とする前記<1>〜<3>のいずれか1項に記載のインクジェット用インク。
<5> 光重合開始剤をさらに含むことを特徴とする前記<1>〜<4>のいずれか1項に記載のインクジェット用インク。
<6> 前記色材粒子は、イエロー、またはブラックの色相を有することを特徴とする前記<1>〜<5>のいずれか1項に記載のインクジェット用インク。
【0011】
<7> 前記<1>〜<6>のいずれか1項に記載のインクジェット用インクの少なくとも1種を含むインクセット。
【0012】
<8> 前記<1>〜<6>のいずれか1項に記載のインクジェット用インク、又は前記<7>に記載のインクセットを用い、インクジェット法で前記インクジェット用インクを吐出して画像を記録する画像記録方法。
<9> 前記<1>〜<6>のいずれか1項に記載のインクジェット用インク、又は前記<7>に記載のインクセットが用いられ、前記インクジェット用インクをインクジェット法で吐出する吐出手段を備えた画像記録装置。
<10> 前記<1>〜<6>のいずれか1項に記載のインクジェット用インク、又は前記<7>に記載のインクセットを用いて記録された記録物。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、活性エネルギー線による硬化速度が良好で、高い透明性を有する画像を形成することが可能なインクジェット用インク、および該インクを含むインクセット、該インクを用いた画像記録方法、および画像記録装置、並びに該インクを用いて記録された高い透明性を有する記録物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】顔料分散液の透過吸収スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のインクジェット用インク(以下、単に「インク」ということがある)は、色材と分散剤とを含む色材粒子の少なくとも1種と、活性エネルギー線により架橋結合可能な高分子化合物の少なくとも1種とを含み、前記色材粒子の分散平均粒子径(以下、単に「平均粒子径」ということがある)が1〜50nmであって、式:(D90−D10)が100nm以下であることを特徴とする。
【0016】
式中、D90及びD10は、色材粒子の粒子径分布関数dG=F(D)dD(Gは粒子数、Dは粒子径を表わす)の積分値が、全色材粒子数の0.9(90個数%)となる粒子径、及び全色材粒子数の0.1(10個数%)となる粒子径をそれぞれ表す。
【0017】
色材粒子の分散平均粒子径が特定の範囲であって、(D90−D10)が特定の数値以下であることにより、活性エネルギー線による架橋結合によるインクの硬化速度が非常に大きく、透明性が高い画像を形成することができる。
さらに本発明のインクジェット用インクを、複数のインクと併用することにより、各インクの硬化効率に優れ、硬化速度が非常に大きく、色味の優れる高精彩な記録物が得られる。
【0018】
この理由としては定かではないが、例えば、以下のように考えることができる。インクに含まれる色材粒子を微細化することにより、色材粒子の透明性が増し、さらには色材粒子に由来する光の散乱成分が減少する。これにより、画像形成の際に用いられる活性エネルギー線の散乱が抑制され、より効率的にエネルギーをインクの架橋硬化に利用することができるためと考えることができる。
特に本発明における色材粒子においては、従来の色材粒子に比べて低波長領域における光の吸収が非常に小さいため、より効率的に活性線のエネルギーをインクの架橋硬化に利用することができると考えられる。
【0019】
また、複数のインクを用いて記録する際に、分散平均粒子径が1〜50nmの色材粒子を含む本発明のインクにおいては、活性線のエネルギー消費や散乱成分が低減するため、他のインクに効率的にエネルギーが伝わる。その結果、本発明のインクを、複数のインクと併用して用いるインクセットとして使用した場合にも、硬化速度及び硬化効率に優れたものとなると考えることができる。
【0020】
[色材粒子]
本発明における色材粒子は、色材の少なくとも1種と、分散剤の少なくとも1種とを含むが、必要に応じて他の成分を含むことができる。
【0021】
(色材)
本発明における色材粒子を構成する色材としては、着色により画像を形成する機能を有するものであればよく、顔料や染料、着色微粒子等を使用することができる。中でも耐光性の観点から、有機顔料を好ましく用いることができる。
本発明における色材粒子を構成する有機顔料としては、その色相またはその構造は特に限定されない。例えば、ペリレン化合物顔料、ペリノン化合物顔料、キナクリドン化合物顔料、キナクリドンキノン化合物顔料、アントラキノン化合物顔料、アントアントロン化合物顔料、ベンズイミダゾロン化合物顔料、ジスアゾ縮合化合物顔料、ジスアゾ化合物顔料、アゾ化合物顔料、インダントロン化合物顔料、インダンスレン化合物顔料、キノフタロン化合物顔料、キノキサリンジオン化合物顔料、金属錯体アゾ化合物顔料、フタロシアニン化合物顔料、トリアリールカルボニウム化合物顔料、ジオキサジン化合物顔料、アミノアントラキノン化合物顔料、ジケトピロロピロール化合物顔料、ナフトールAS化合物顔料、チオインジゴ化合物顔料、イソインドリン化合物顔料、イソインドリノン化合物顔料、ピラントロン化合物顔料、イソビオラントロン化合物顔料、およびそれらの混合物などが挙げられる。
【0022】
さらに詳しくは、イエローインクが含有する有機顔料としては、C.I.ピグメントイエロー1(ハンザイエロー)、2、3(ハンザイエロー10G)、4、5(ハンザイエロー5G)、6、7、10、11、12、13、14、16、17、24(フラバントロンイエロー)、34、35、37、53、55、65、73、74、75、81、83、93、94、95、97、98、99、108(アントラピリミジンイエロー)、109、110、113、117(銅錯塩顔料)、120、124、128、129、133(キノフタロン)、138、139(イソインドリノン)、147、151、153(ニッケル錯体顔料)、154、155、167、172、180などを挙げることができる。
またこれらの各顔料は、1種単独でも、2種以上の混合物あるいは固溶体を用いても良い。
【0023】
この中でも、カラー印刷に用いる観点から、C.I.ピグメントイエロー128、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー110、ピグメントイエロー138、C.I.ピグメントイエロー151、及びC.I.ピグメントイエロー155が好ましく、好ましい色相及び高い着色力を有する色材として、C.I.ピグメントイエロー128、C.I.ピグメントイエロー74、ピグメントイエロー138、及びC.I.ピグメントイエロー155がより好ましく、高い着色力を有しオフセット印刷等で用いられる色材と近い色相を有するC.I.ピグメントイエロー74が特に好ましい。
【0024】
また、マゼンタインク用の有機顔料としては、C.l.ピグメントレッド1(パラレッド)、2、3(トルイジンレッド)、4,5(lTR Red)、6、7、8、9、10、11、12、14、15、16、17、18、19、21、22、23、30、31、32、37、38(ピラゾロンレッド)、40、41、42、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、88(チオインジゴ)、112(ナフトールAS系)、114(ナフトールAS系)、122(ジメチルキナクリドン)、123、144、146、149、150、166、168(アントアントロンオレンジ)、170(ナフトールAS系)、171、175、176、177、178、179(ベリレンマルーン)、184、185、187、202、209(ジクロロキナクリドン)、219、224(ベリレン系)、245(ナフトールAS系)、254、又は、C.I.ピグメントバイオレット19(キナクリドン)、23(ジオキサジンバイオレット)、32、33、36、38、43、50などを挙げることができる。
またこれらの顔料は、1種単独でも、2種以上の混合物あるいは固溶体を用いても良い。
【0025】
この中でも、好ましい色相及び高い着色力を有する色材として、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド202、C.I.ピグメントレッド254、及びC.I.ピグメントバイオレット19が好ましく、高い着色力を有しオフセット印刷等で用いられる色材と近い色相を有するC.I.ピグメントレッド122、又はC.I.ピグメントバイオレット19が特に好ましい。
【0026】
更に、シアンインク用の有機顔料としては、C.l.ピグメントブルー1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:34、15:4、16(無金属フタロシアニン)、18(アルカリブルートナー)、22、25、60(スレンブルー)、65(ビオラントロン)、66(インジゴ)、C.l.Vatブルー4,60等を挙げることができる。
またこれらの顔料は、1種単独でも、2種以上の混合物あるいは固溶体を用いても良い。
【0027】
この中でも、好ましい色相及び高い着色力を有する色材として、銅フタロシアニン系の顔料が好ましく、C.l.ピグメントブルー1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:34、15:4がより好ましく、高い着色力を有しオフセット印刷等で用いられる色材と近い色相を有するC.I.ピグメントブルー15:3、又はC.I.ピグメントブルー15:4が特に好ましい。
【0028】
また、ブラック用の有機顔料としては、アニリンブラック(C.l.ピグメントブラック1)等の黒色有機顔料を挙げることができる。
【0029】
また、本発明のインクジェット用インクには、有機顔料に代えて、無機顔料を用いることもできる。
例えば、ブラック用として使用される無機顔料として、カーボンブラック等を好ましく使用することができる。
【0030】
更にまた、マゼンタ、シアン又はイエローインク以外のカラーインクに用いる有機顔料として、C.I.ピグメントグリーン7(フタロシアニングリーン)、10(グリーンゴールド)、36、37;C.I.ピグメントブラウン3、5、25、26;あるいは、C.I.ピグメントオレンジ1、2、5、7、13、14、15、16、24、34、36、38、40、43、63等を用いることができる。
【0031】
本発明にかかるインクジェット用インクにおいては、上述した色材を1種単独で又は2種以上を組み合わせて含有する色材粒子を使用することができる。
また本発明に係るインクは無彩色無機顔料を含んでいてもよい。
【0032】
本発明における色材粒子の分散平均粒子径は1〜50nmである。本発明における分散平均粒子径は、特に断らない限り、以下の動的光散乱法により求められる平均粒子径を意味し、大塚電子株式会社製FPAR−1000(商品名)を用いて測定されたものである。
本発明においては、色材粒子の分散平均粒子径が、活性線を照射した際のインクの硬化速度を向上させる観点から、1〜40nmであることがより好ましく、さらに硬化速度を向上し、且つ記録物の透明性を向上させる観点から、1〜30nmであることが特に好ましい。
【0033】
この範囲内であると、活性線を照射した際に非常に早く記録物が硬化し、透明性の高い記録物を得ることができる。また、複数のインクと併用して用いる際にも、記録物の硬化速度に優れ、定着性・耐擦過性の高い記録物を得ることができる。さらに、分散平均粒子径が1nm未満であると、インク中の分散状態を長期間安定に保つことが困難になる。また耐光性が低下する。一方、50nmを越えると、良好な透明性が得られず、インクの硬化速度、及び硬化効率が低下する。
【0034】
〔動的光散乱法による平均粒子径〕
本発明において、上記のとおり特に断らない限り色材の分散状態は動的散乱法により評価され、これにより色材粒子の分散平均粒子径が算出される。その原理は次のとおりである。その原理は次のとおりである。粒径が約1nm〜5μmの範囲にある粒子は、液中で並進・回転等のブラウン運動により、その位置・方位を時々刻々と変えている。したがって、これらの粒子にレーザー光を照射し、出てくる散乱光を検出すると、ブラウン運動に依存した散乱光強度の揺らぎが観測される。この散乱光強度の時間の揺らぎを観測することで、粒子のブラウン運動の速度(拡散係数)が得られ、さらには粒子の分散粒子径(分散状態での2次粒子の大きさ)を知ることができる。
【0035】
〔透過型電子顕微鏡観察による平均1次粒子径〕
また本発明において、インクに含まれる色材粒子の平均1次粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)観察により粒子の形状を観察し、以下のようにして算出することができる。
色材粒子を含むインクを、カーボン膜を貼り付けたCu200メッシュ上に希釈して載せて乾燥させ、TEM(日本電子製1200EX)を用いて10万倍で撮影した画像から粒子300個の径を測定して平均値を求める。
この際、上記のようにインクを前記Cu200メッシュ上で乾燥させるため、前記インク中に色材粒子が良好に分散した状態であっても、乾燥の過程で色材粒子が見かけ上凝集してしまい、正確な粒子径が判別しにくい場合がある。このような場合には、重なっていない独立した粒子300個の径を測定して平均値を求める。また、色材が球状でない場合は、粒子の長径(粒子の最も長い径)を測定する。
【0036】
本発明において、分散媒中の色材粒子に対して行った動的光散乱法による分散平均粒子径が、TEM観察による平均1次粒子径に対して±20nmの分散平均粒子径を示すことが好ましく、より好ましくは±15nmであり、さらに好ましくは±10nmである。この範囲内であると、分散媒体中に色材粒子が良好に分散し、本発明の効果を十分に発現できる。
【0037】
本発明のインクジェット用インクにおいて、インクに含まれる色材粒子は1種以上の色材(例えば、顔料)と1種以上の分散剤とを含むが、顔料及び分散剤以外の化合物が含まれていてもよい。また色材粒子中には、結晶構造を有する部分と結晶構造を有さない部分が混在していてもよい。また、顔料及び/又はその他の化合物が粒子の核をなし、そこに前記分散剤(高分子化合物、界面活性剤等)が被覆するように吸着して粒子をなしていてもよい。
本発明においては、耐光性の観点から、色材粒子が結晶構造を有することが好ましい。
【0038】
ここで“結晶構造を有する”とはインクに含まれる色材粒子について粉末X線回折分析を行ったときに、下記(i)及び(ii)のいずれでもないことをいう。
(i)非晶質特有のハローが観測されるとき。
(ii)下記に述べる測定方法よって決定される結晶子径が2nm(20Å)未満であるかアモルファス状態であると推定されるとき。
【0039】
本発明において、結晶子径は次のようにして、測定及び算出される。
まず、Cu−Kα1線を用いたX線回折解析を行う。その後、2θ=4deg〜70degの範囲において、最大強度を示すピークか、あるいは近接するピークと分離可能な十分に大きな強度を示すピークの半値幅を測定し、下記のSherrerの式により、結晶子径を算出する:
D=K×λ/(β×cosθ) … Scherrerの式
[D :結晶子径(nm、結晶子の大きさ)、λ:測定X線波長(nm)、β:結晶の大きさによる回折線の広がり(ラジアン)、θ:回折線のブラッグ角(ラジアン)、K:定数(βとDの定数で異なる)]
【0040】
一般に、βに半値幅β/2 を用いる場合、K=0.9となることが知られている。またCu−Kα1線の波長は、0.154050nm(1.54050Å)であるので、本発明における結晶子径D(nm)は次式に基づいて計算される:
D=0.9×0.154050/(β/2 ×cosθ)
【0041】
ここで、測定で得られたスペクトルのピークがブロードで、前記ピークの半値幅が判別できない場合は、結晶子径が2nm未満(微結晶状態)であるかまたはアモルファス状態(非晶質)であると推定される。
【0042】
本発明のインクにおいて、インクに含まれる色材粒子の結晶子径は、上記の方法で算出される結晶子径が0.9nm(9Å)以上であることが耐光性を高める観点から好ましく、さらに5nm(50Å)以上であることがより好ましく、さらに耐光性を高め、且つ透明性を維持する観点から、8nm(80Å)以上であることが特に好ましい。なお、結晶子径の上限はTEM観察(あるいはSEM観察)により算出された平均1次粒子径を超えないことが好ましい。
【0043】
(色材粒子の単分散性)
本発明において、分散媒体中に分散している色材粒子の粒子径が単分散(粒子の粒径分
布が狭いこと)であることが好ましい。
インク中に含まれる色材粒子が単分散であることにより、粒径が大きい粒子の光散乱等の影響が軽減できるほか、例えばインクを用いて印字、記録等で凝集体形成する際には形成する凝集体の充填形態の制御等に有利である。
インクの分散性を評価する指標としては、例えば動的光散乱法で得られる粒子径分布において、全色材粒子数の90個数%を占めるような粒子径(D90)と、D10以下の粒子径を有する色材粒子の粒子数が、全色材粒子数の10個数%を占めるような粒子径(D10)との差(D90−D10)を用いることができる。
本発明においては、印画部の散乱成分を現象させ、透明性を高める観点から、前記D90とD10の差が100nm以下であり、さらにインクの硬化速度、及び硬化効率を向上させる観点から1〜70nmであることが好ましく、さらに2次色、3次色の鮮やかな発色と印画濃度を高める観点から、1〜50nmであることが特に好ましい。本発明における上記D90とD10の値は、特に断らない限り、上述した動的光散乱法により求められる値を意味し、大塚電子株式会社製FPAR−1000(商品名)を用いて測定されたものである。
【0044】
本発明の様に、色材粒子の分散平均粒子径が1〜50nmである場合には、上記の効果が特に顕著になる。
【0045】
上記関係式において、粒径分布が狭いほど、D90とD10の差はゼロに近づき、逆に、粒径分布が広い、つまり多分散性が大きいほど、D90とD10の差は大きくなる。
【0046】
特に、上述した色材粒子の単分散性は、色材粒子における低波長側の吸収の低減に非常に大きく寄与するため、D90とD10の差が上記範囲内であると硬化速度が非常に早くなる。なお、D90とD10の差が100nmを超えると、インク液中の散乱成分が増し、記録物の硬化速度、及び硬化効率が低下する。
【0047】
本発明のインクにおいては、各インクに含まれる粗大粒子あるいは粗大2次凝集体(1次粒子の凝集体を示す)が少ないことが好ましい。各インク中に含まれる色材粒子のうち0.8μm以上の粒子径を有する色材粒子の個数が、耐擦過性の観点から、1.2×10個/ml以下、好ましくは1.0×10個/ml以下、更に吐出安定性と、硬化速度向上の観点から、特に好ましくは0.8×10個/ml以下である。
【0048】
0.8μm以上の粒子径を有する色材粒子の個数のカウントは、インクを3μm厚さにバー塗布した一定面積膜中の粒径0.8μm以上の粗大粒子の個数を光学顕微鏡5000倍の倍率でカウントし、インク1ml中の個数に換算したものである。
本発明における色材粒子の分散平均粒子径は、顔料種、分散剤種、分散条件の選定により調整し、粗大粒子の個数は、ろ過条件(フィルターの選定、多段濾過、遠心分離の有無、など)により適宜調整をすることができる。
【0049】
本発明のインクセットにおけるインクは、前記色材粒子を含むが、該色材粒子としては水分散性顔料であることが好ましい。
前記水分散性顔料の具体例として、下記(1)〜(5)の顔料を挙げることができる。(1)カプセル化顔料、即ち、ポリマー微粒子に顔料を含有させてなるポリマーエマルジョンであり、より詳しくは、親水性水不溶性の樹脂で顔料を被覆し顔料表面の樹脂層にて親水化することで顔料を水に分散したものである。
(2)自己分散顔料、即ち、表面に少なくとも1種の親水基を有し、分散剤の不存在下で水分散性及び水溶性の少なくともいずれかを示す顔料、より詳しくは、主にカーボンブラックなどを表面酸化処理して親水化し、顔料単体が水に分散するようにしたものである。(3)樹脂分散顔料、即ち、重量平均分子量50,000以下の水溶性高分子化合物により分散された顔料
(4)界面活性剤分散顔料、即ち、界面活性剤により分散された顔料。
(5)アルカリ存在下の非プロトン性有機溶媒中に、有機顔料と高分子分散剤、または分散剤として高分子化合物を溶解させた後、この溶液と水とを混合させて顔料分散液を調製する方法により作製された分散顔料(以下、前記方法で作製された分散顔料を『ビルドアップ顔料』と記述する。)。
【0050】
本発明において、顔料として好ましい例は、(1)カプセル化顔料、(2)自己分散顔料、及び(5)ビルドアップ顔料を挙げることができ、特に好ましい例として、(1)カプセル化顔料と(5)ビルドアップ顔料を挙げることができる。
さらに、前述の分散平均粒子径が5〜50nmの水不溶性色材粒子の分散液を得る場合には、(5)ビルドアップ顔料を用いることが好ましい。
(5)ビルドアップ顔料を用いると、微細な粒径を有し、且つ単分散された粒子が得られ、更には前述した粗大粒子あるいは粗大2次凝集体(1次粒子の凝集体を示す)が非常に少ない顔料分散液が得られる点で好ましい。また、理由は定かではないが、上記(5)は、上記(1)〜(4)と比べ耐光性に優れる点でも好ましい。
【0051】
カプセル化顔料について詳述する。カプセル化顔料の樹脂は、限定されるものではないが、水と水溶性有機の混合溶媒中で自己分散能または溶解能を有し、かつアニオン性基(酸性基)を有する高分子の化合物であるのが好ましい。
この樹脂は、顔料粒子の微細化、及び分散安定性の観点から、数平均分子量が1,000〜100,000範囲程度のものが好ましく、3,000〜50,000範囲程度のものが特に好ましい。また、この樹脂は有機溶剤に溶解して溶液となるものが好ましい。
樹脂の数平均分子量がこの範囲であることにより、顔料における被覆膜として、またはインクにおける塗膜としての機能を十分に発揮することができる。樹脂は、アルカリ金属や有機アミンの塩の形で使用されることが好ましい。
【0052】
カプセル化顔料の樹脂の具体例としては、熱可塑性、熱硬化性あるいは変性のアクリル系、エポキシ系、ポリウレタン系、ポリエーテル系、ポリアミド系、不飽和ポリエステル系、フェノール系、シリコーン系、フッ素系高分子化合物、塩化ビニル、酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等のポリビニル系、アルキド樹脂、フタル酸樹脂等のポリエステル系、メラミン樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、アミノアルキド共縮合樹脂、ユリア樹脂、尿素樹脂等のアミノ系の材料、あるいはそれらの共重合体または混合物などのアニオン性基を有する材料などが挙げられる。
上記樹脂の中、アニオン性アクリル系樹脂は、例えば、アニオン性基を有するアクリルモノマー(以下、アニオン性基含有アクリルモノマーという)と、更に必要に応じてこれらのモノマーと共重合し得る他のモノマーを溶媒中で重合して得られる。
アニオン性基含有アクリルモノマーとしては、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、ホスホン基からなる群から選ばれる1個以上のアニオン性基を有するアクリルモノマーが挙げられ、これらの中でもカルボキシル基を有するアクリルモノマーが特に好ましい。
【0053】
カルボキシキル基を有するアクリルモノマーの具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、エタアクリル酸、プロピルアクリル酸、イソプロピルアクリル酸、イタコン酸、フマル酸等が挙げられる。これらの中でもアクリル酸またはメタクリル酸が好ましい。
【0054】
カプセル化顔料は、上記した成分を用いて、従来の物理的、化学的方法によって製造することができる。本発明において、好ましくは、特開平9−151342号、特開平10−140065号、特開平11−209672号、特開平11−172180号、特開平10−25440号、または特開平11−43636号の各公報等に開示されている方法によって製造することが挙げられる。
【0055】
本発明において、自己分散型顔料も好ましい例として挙げることができる。自己分散型顔料とは、顔料表面に多数の親水性官能基および/またはその塩(以降、分散性付与基という)を、直接的にまたはアルキル基、アルキルエーテル基、アリール基等を介して間接的に結合させたもので、分散剤なしに水性媒体中に分散可能な顔料である。
ここで「分散剤なしに水性媒体中に分散可能な」とは、顔料を分散させるための分散剤を用いなくても水性媒体中に分散可能なことをいう。
自己分散型顔料を着色材として含有するインクは、通常の顔料を分散させるために含有させる前述のような分散剤を含む必要が無いため、分散剤に起因する消泡性の低下による発泡がほとんど無く吐出安定性に優れるインクが調製しやすい。
自己分散型顔料の表面に結合される分散性付与基としては、−COOH、−CO、−OH、−SOH、−PO及び第4級アンモニウム並びにそれらの塩が例示できる。
【0056】
これらの分散性付与基または分散性付与基を有する活性種を含む自己分散型顔料は、原料となる顔料に物理的処理または化学的処理を施すことで、分散性付与基または分散性付与基を有する活性種を顔料の表面に結合(グラフト)させることによって製造される。
前記物理的処理としては、例えば真空プラズマ処理等が例示できる。また前記化学的処理としては、例えば水中で酸化剤により顔料表面を酸化する湿式酸化法や、p−アミノ安息香酸を顔料表面に結合させることによりフェニル基を介してカルボキシル基を結合させる方法等が例示できる。
【0057】
本発明においては、次亜ハロゲン酸及び/または次亜ハロゲン酸塩による酸化処理、またはオゾンによる酸化処理により表面処理される自己分散型顔料を好ましい例として挙げることができる。
前記自己分散型顔料としては市販品を利用することも可能であり、マイクロジェットCW−1(商品名;オリヱント化学工業(株)製)、CAB−O−JET200、CAB−O−JET300(以上商品名;キャボット社製)等が例示できる。
【0058】
本発明において、前記(1)カプセル化顔料あるいは(3)樹脂分散顔料で用いられる分散剤としては、ノニオン性化合物、アニオン性化合物、カチオン性化合物、両性化合物等が挙げられる。
例えば、α,β−エチレン性不飽和基を有するモノマーの共重合体等が挙げられる。α,β−エチレン性不飽和基を有するモノマーの例としては、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、酢酸ビニル、酢酸アリル、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、クロトン酸エステル、イタコン酸、イタコン酸モノエステル、マレイン酸、マレイン酸モノエステル、マレイン酸ジエステル、フマル酸、フマル酸モノエステル、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、スルホン化ビニルナフタレン、ビニルアルコール、アクリルアミド、メタクリロキシエチルホスフェート、ビスメタクリロキシエチルホスフェート、メタクリロキシエチルフェニルアシドホスフェート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等のスチレン誘導体、ビニルシクロヘキサン、ビニルナフタレン、ビニルナフタレン誘導体、芳香族基を置換してもよいアクリル酸アルキルエステル、アクリル酸フェニルエステル、芳香族基を置換してもよいメタクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸フェニルエステル、メタクリル酸シクロアルキルエステル、クロトン酸アルキルエステル、イタコン酸ジアルキルエステル、マレイン酸ジアルキルエステル、ビニルアルコール、並びに上記化合物の誘導体等が挙げられる。
【0059】
上記α,β−エチレン性不飽和基を有するモノマーの単独若しくは複数を共重合して得られる共重合体が高分子分散剤として使用される。具体的には、アクリル酸アルキルエステル−アクリル酸共重合体、メタクリル酸アルキルエステル−メタクリル酸共重合体、スチレン−アクリル酸アルキルエステル−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸フェニルエステル−メタクリル酸、スチレン−メタクリル酸シクロヘキシルエステル−メタクリル酸共重合体、スチレン−スチレンスルホン酸共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合体、ビニルナフタレン−メタクリル酸共重合体、ビニルナフタレン−アクリル酸共重合体、ポリスチレン、ポリエステル、ポリビニルアルコール等が挙げられる。
前記分散剤は、重量平均分子量で2,000〜60,000のものが好ましい。
また、前記分散剤は、顔料に対する添加量比率が、顔料分散安定性の観点から、質量比で10%以上100%以下の範囲が好ましいく、20%以上70%以下がより好ましく、更に好ましくは、40%以上50%以下である。
【0060】
続いて、前記ビルドアップ顔料について詳述する。
前記ビルドアップ顔料は、下記の(1)〜(3)の工程により、更に必要に応じて(4)及び(5)を含む工程を含む工程により、固形または分散された形態で製造することができる。
【0061】
本発明におけるビルドアップ顔料は、好ましくは、
(1)水不溶性色材(有機顔料)と分散剤とを、アルカリ存在下の非プロトン性水溶性有機溶剤に溶解させた溶液とする工程、
(2)該溶液と水系媒体とを混合して、前記水不溶性色材の粒子及び分散剤を、水を含む媒体中に分散させた分散体を得る工程、
(3)前記水不溶性色材の粒子を再分散可能に凝集させた軟凝集体とし、該軟凝集体を前記分散体から分離する工程、
(4)前記軟凝集体をエステル系溶媒もしくはケトン系溶媒でろ過洗浄する工程、
(5)前記軟凝集体の凝集を解き再分散媒体に再分散する工程
により作製することができる。
【0062】
本発明に用いられる非プロトン性溶剤としては、アルカリ存在下で有機顔料および高分子化合物を溶解させるものであれば、いかなるものでも使用可能である。また、水に対する溶解度が5質量%以上であるものが好ましく用いられ、さらには水に対して自由に混合するものが好ましい。
【0063】
具体的には、ジメチルスルホキシド、ジメチルイミダゾリジノン、スルホラン、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、アセトン、ジオキサン、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホルアミド、ヘキサメチルホスホロトリアミド、ピリジン、プロピオニトリル、ブタノン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、エチレングリコールジアセテート、γ−ブチロラクトン等が好ましい溶剤として挙げられ、中でもジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルイミダゾリジノン、スルホラン、アセトン、アセトニトリル、又はテトラヒドロフランが好ましい。また、これらは1種類単独でまたは2種類以上を併用して用いることができる。
上記非プロトン性溶剤の使用割合は特に限定されないが、顔料のより良好な溶解状態と、所望とする微粒子径の形成の容易性、更に水性分散体の色濃度をより良好なものとするために、顔料1質量部に対して2〜500質量部、さらには5〜100質量部の範囲で用いるのが好ましい。
【0064】
上記非プロトン性溶剤に含有させるアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウムなどの無機塩基、トリアルキルアミン、ジアザビシクロウンデセン(DBU)、金属アルコキシドなどの有機塩基を用いることができ、なかでも無機塩基を用いることが好ましい。含有させるアルカリの量は特に限定されないが、無機塩基の場合、顔料に対して1.0〜30モル当量であることが好ましく、2.0〜25モル当量であることがより好ましく、3〜20モル当量であることが特に好ましい。有機塩基の場合は、顔料に対して1.0〜100モル当量であることが好ましく、5.0〜100モル当量であることがより好ましく、20〜100モル当量であることが特に好ましい。
【0065】
本発明において、水系溶媒とは、水単独または水に可溶な有機溶媒の混合溶媒である。このとき有機溶媒の添加は、顔料や分散剤を均一に溶解するために水のみでは不十分な場合、および流路中を流通するのに必要な粘性を得るのに水のみで不十分な場合などに用いることが好ましい。有機溶媒として例えば、アルカリ性の場合はアミド系溶媒または含イオウ系溶媒であることが好ましく、含イオウ系溶媒であることがより好ましく、ジメチルスルホキシド(DMSO)であることが特に好ましい。酸性の場合はカルボン酸系溶媒、イオウ系溶媒、またはスルホン酸系溶媒であることが好ましく、スルホン酸系溶媒であることがより好ましく、メタンスルホン酸であることが特に好ましい。なお、水系溶媒には必要に応じて無機化合物塩や後述する分散剤等を溶解させてもよい。
【0066】
上記(2)の工程において、水不溶性色材を均一に溶解した溶液と水系溶媒とを混合する実施態様は特に限定されない。例えば、水系溶媒を撹拌しておきそこに水不溶性色材の溶液を添加する実施態様、該溶液及び水系溶媒をそれぞれ長さのある流路に同一の長手方向に送りこみ、その流路を通過する間に両液を接触させ有機顔料微粒子を析出させる実施態様等が挙げられる。前者(撹拌混合する実施態様)については、特に水系溶媒中に供給管等を導入しそこから水不溶性色材の溶液を添加する液中添加による実施態様が好ましい。さらに具体的には、国際公開WO2006/121018号パンフレットの段落0036〜0047に記載の装置を用いて液中添加を行うことができる。後者(流路を用いて両者を混合する実施態様)については、例えば、特開2005−307154号公報の段落0049〜52及び図1〜図4、特開2007−39643号公報の段落0044〜0050に記載のマイクロリアクターを用いることができる。
【0067】
水不溶性色材の粒子を析出生成させる際の条件に特に制限はなく、常圧から亜臨界、超臨界条件の範囲を選択できる。常圧での温度は−30〜100℃が好ましく、−10〜60℃がより好ましく、0〜30℃が特に好ましい。水不溶性色材の溶液と水系溶媒との混合比(水不溶性色材の溶液/水系溶媒)は体積比で1/50〜2/3が好ましく、1/40〜1/2がより好ましく、1/20〜3/8が特に好ましい。
また粒子を析出させたときの混合液中の粒子濃度は特に制限されないが、溶媒1000mlに対して水不溶性色材の粒子が10〜40000mgの範囲であることが好ましく、より好ましくは20〜30000mgの範囲であり、特に好ましくは50〜25000mgの範囲である。
【0068】
ビルドアップ顔料の調製において、分散剤としては、アルカリ存在下の非プロトン性有機溶剤に可溶であって、水不溶性色材と前記分散剤を溶解した溶液と水系溶媒とを混合した際に、水系溶媒中で顔料含有粒子を形成することで分散効果を得ることができるものが適宜使用可能である。
好ましくは、界面活性剤もしくは高分子化合物であって、その親水性部分がカルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基、水酸基及びアルキレンオキサイドのうちの1種以上を用いて構成されているものが利用される。
さらに好ましくは、アルカリ存在下の非プロトン性有機溶剤に有機顔料と共に安定に溶解するものがよい。分散剤の親水性部分が第一、第二、第三級のアミノ基、第四級アンモニウム基など上記以外のものから選ばれるもののみで構成されている場合はアルカリを含む有機顔料の水性分散体において十分ではあるが分散安定化の程度が相対的に低くなる場合がある。
また、従来の顔料分散法では、媒体中で分散状態にある顔料表面と効率良く接触可能な分散剤を選択するなどの工夫が必要であるが、本発明におけるビルドアップ顔料の調製方法では、分散剤と顔料がともに溶解状態で媒体中に存在し、これらの間での所望とする作用が容易に得られるので、従来の顔料分散法のような顔料表面への接触効率に基づく分散剤の制限がなく、広範な分散剤を使用することができる。
【0069】
界面活性剤としては、具体的に、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、高級脂肪酸塩、高級脂肪酸エステルのスルホン酸塩、高級アルコールエーテルの硫酸エステル塩、高級アルコールエーテルのスルホン酸塩、高級アルキルスルホンアミドのアルキルカルボン酸塩、アルキルリン酸塩などのアニオン界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物、グリセリンのエチレンオキサイド付加物、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどの非イオン性界面活性剤、また、この他にもアルキルベタインやアミドベタインなどの両性界面活性剤、シリコン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤などを含めて、従来公知である界面活性剤およびその誘導体から適宜選ぶことができる。
【0070】
高分子分散剤として、具体的にはポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリアクリルアミド等が挙げられ、中でもポリビニルピロリドンを用いることが好ましい。
【0071】
また、その他分散剤として使用する高分子化合物として、スチレン、スチレン誘導体、ビニルナフタレン、ビニルナフタレン誘導体、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸の脂肪族アルコールエステル等、アクリル酸、アクリル酸誘導体、メタクリル酸、メタクリル酸誘導体、マレイン酸、マレイン酸誘導体、アルケニルスルホン酸、ビニルアミン、アリルアミン、イタコン酸、イタコン酸誘導体、フマール酸、フマール酸誘導体、酢酸ビニル、ビニルホスホン酸、ビニルピロリドン、アクリルアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルホルムアミド及びその誘導体等から選ばれた少なくとも2つ以上の単量体(このうち少なくとも1つはカルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基、水酸基、アルキレンオキサイドのいずれかになる官能基を有する単量体)から構成されるブロック共重合体、或いはランダム共重合体、グラフト共重合体、又はこれらの変性物、及びこれらの塩等が挙げられる。
【0072】
更に詳しく説明すると、本発明における高分子化合物は親水性基部位と疎水性部位から構成されていることが好ましく、親水性モノマー成分と疎水性モノマー成分とを共重合させた共重合体を用いることが好ましい。疎水性モノマー成分のみからなる重合体である高分子化合物を用いる場合には水不溶性色材に良好な分散安定性を付与することが困難なことがある。なお、親水性とは水に対する親和性が大きく水に溶解しやすい性質であり、疎水性とは水に対する親和性が小さく水に溶解しにくい性質である。
【0073】
例えば、疎水性モノマー成分としては、イソブチル基、t−ブチル基、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基等の疎水性ユニットを構造単位にして有するモノマー成分が挙げられる。水不溶性色材に高い分散安定性を付与する観点からはスチレンやt−ブチルメタクリレートなどの疎水性モノマーを繰り返し単位として有するブロックセグメントが好ましいが、疎水性モノマー成分はこれに限定されない。
【0074】
また、親水性モノマー成分としては、前述したカルボン酸基、スルホン酸基、およびリン酸基のようなアニオン性基、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、4級アンモニウム基、およびイミノ基(−NH−基及び=NH基)のようなカチオン性基、並びに、水酸基およびアルキレンオキサイド等の官能基を有する構造等の親水性ユニットを単位構造として含有するモノマー成分が挙げられる。この中でも水不溶性色材粒子間の電荷反発効果により分散安定性を向上する観点から、カルボン酸基、スルホン酸基、およびリン酸基等のアニオン性基、または1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、4級アンモニウム基、およびイミノ基(−NH−基及び=NH基)等のようなカチオン性基を単位構造として有することが好ましく、分散液の長期安定性、及びインクとして用いた場合の画像定着性の向上の観点からは、特にカルボン酸基を単位構造として有することが好ましい。具体的には、アクリル酸やメタクリル酸、或いはその無機塩や有機塩などのカルボン酸塩、またポリエチレングリコールマクロモノマー、又はビニルアルコールや2−ヒドロキシルエチルメタクリレート等が挙げられるが、親水性モノマー成分はこれに限定されない。
【0075】
前記共重合体についてはブロック共重合体、或いはランダム共重合体、グラフト共重合体などのいずれの形態を有する共重合体でも良いが、特にブロック共重合体やグラフト共重合体を用いる場合には、水不溶性色材に良好な分散性を付与しやすいため好ましい。
【0076】
また、その他の分散剤として用いられる高分子化合物としては、アルブミン、ゼラチン、ロジン、シェラック、デンプン、アラビアゴム、アルギン酸ソーダ等の天然高分子化合物、およびこれらの変性物も好ましく使用することが出来る。また、これらの分散剤は、1種類単独でまたは2種類以上を併用して用いることができる。
上記分散剤の使用割合は特に限定されるものではないが、水不溶性色材(特に、有機顔料)1質量部に対して0.05質量部以上、非プロトン性有機溶剤100質量部に対して50質量部以下の範囲で用いるのが好ましい。
分散剤が非プロトン性有機溶剤100質量部に対して50質量部以下とすることで容易に分散剤を完全に溶解させることができる。また、有機顔料1質量部に対して0.05質量部より少ない場合は、十分な分散効果を得ることが難しい場合がある。
【0077】
本発明におけるインクにおいては、耐候性の向上を考慮するとき、上述した分散剤を好適に使用することができるが、耐候性をさらに向上し、且つ分散体を高濃度化した場合でも低粘度を維持する観点から、後述する洗浄処理に用いられる特定の有機溶媒に対して可溶もしくは分散可能である高分子分散剤、または高分子化合物を用いることが特に好ましい。
この高分子分散剤、または高分子化合物の分子量は特に限定されないが重量平均分子量が500〜1000000であることが好ましく、1000〜1000000であることがより好ましい。500未満の場合は分子量が小さく、1000000を超えると高分子鎖間の絡まりが大きくなりすぎ、分散剤としての機能を発揮しにくくなるため、良好な分散状態を保てない場合がある。
なお、本発明において単に分子量というときには重量平均分子量を意味し、また重量平均分子量は、特に断らない限り、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(キャリア:テトラヒドロフラン)により測定されるポリスチレン換算の平均分子量である。
なお本発明において「分散体」とは、所定の微粒子が分散した組成物をいい、その形態は特に限定されず、液状の組成物(分散液)、ペースト状の組成物、及び固体状の組成物を含む意味に用いる。
【0078】
上記分散剤を、水不溶性色材を溶解した溶液中に含有させる量は、顔料の均一分散性および保存安定性をより一層向上させるために、顔料100質量部に対して0.1〜1000質量部の範囲であることが好ましく、1〜500質量部の範囲であることがより好ましく、10〜250質量部の範囲であることが特に好ましい。分散剤の含有量を所定量以上とすることで有機顔料微粒子の分散安定性がより向上する。本発明の分散体に含まれる上記分散剤の量は特に限定されないが、顔料100質量部に対して10〜1000質量部であることが実際的である。
【0079】
前記分散体においては、以下に具体的に述べるように、水不溶性色材の粒子を析出させた混合液を酸処理し、好ましくは凝集体の形成に酸を添加して処理し、粒子の凝集体を形成させることが好ましい。
酸を用いた処理は、好ましくは、粒子を酸で凝集させてこれを溶剤(分散媒)と分離し、濃縮、脱溶剤および脱塩(脱酸)を行う工程を含む。系を酸性にすることで酸性の親水性部分による静電反発力を低下させ、粒子を凝集させることができる。
【0080】
ここで用いる酸としては、沈殿し難い微粒子となっているものを凝集させて、スラリー、ペースト、粉状、粒状、ケーキ状(塊状)、シート状、短繊維状、フレーク状などにして通常の分離法によって効率よく溶剤と分離できる状態にするものであれば、いかなるものでも使用できる。
さらに好ましくは、アルカリと水溶性の塩を形成する酸を利用するのがよく、酸自体も水への溶解度が高いものが好ましい。また脱塩を効率よく行うために、加える酸の量は粒子が凝集する範囲でできるだけ少ない方がよい。
具体的には塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、リン酸、トリフルオロ酢酸、ジクロロ酢酸、メタンスルホン酸などが挙げられるが、塩酸、酢酸および硫酸が特に好ましい。酸によって容易に分離可能な状態にされた顔料粒子の水性分散液は遠心分離装置や濾過装置またはスラリー固液分離装置などで容易に分離することができる。この際、希釈水の添加、またはデカンテーションおよび水洗の回数を増やすことで脱塩、脱溶剤の程度を調節することができる。
【0081】
ここで得られた凝集体は、含水率の高いペーストやスラリーのままで用いることもできるが、必要に応じてスプレードライ法、遠心分離乾燥法、濾過乾燥法または凍結乾燥法などのような乾燥法により、微粉末として用いることもできる。
【0082】
また、前記水分散体において、水不溶性色材は結晶構造を有するが、この結晶構造を形成するために、前記粒子の軟凝集体を有機溶媒と接触させることが好ましい。
この有機溶媒としては、エステル系溶媒、ケトン系溶媒、アルコール系溶媒、芳香族系溶媒、脂肪族系溶媒が好ましく、エステル系溶媒、ケトン系溶媒がより好ましく、エステル系溶媒が特に好ましい。
【0083】
エステル系溶媒としては、例えば酢酸エチル、乳酸エチル、2−(1−メトキシ)プロピルアセテートなどが挙げられる。ケトン系溶媒としては、例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどが挙げられる。アルコール系溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、n−ブタノールなどが挙げられる。芳香族系溶媒としては、例えばベンゼン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。脂肪族系溶媒としては、例えばn−ヘキサン、シクロヘキサンなどが挙げられる。これらの中でも、酢酸エチル、アセトン、乳酸エチルが好ましく、アセトン及び乳酸エチルが特に好ましい。
【0084】
上記有機溶媒の使用量は特に限定されないが、例えば顔料100質量部に対して0.01〜10000質量部を使用することが好ましい。本発明の水分散体に含まれる上記有機溶媒の量は特に限定されないが、0.0001〜1質量%であることが実際的である。
【0085】
得られた凝集体を上記の有機溶媒に接触させる方法は特に限定されないが、接触させた後に凝集体と有機溶媒を分離できる方法が好ましい。また、分離の際に、有機溶媒が液状のまま分離できる方法が好ましく、例えばフィルター濾過などが好ましい。
【0086】
またその理由は定かではないが、上記の有機溶媒による接触処理を行うことにより、分散体に含まれる水不溶性色材粒子の粒子径を増大させることなく、結晶子径を増大させることができる。
すなわち、粒子の析出時の一次粒子径を維持したまま、水不溶性色材粒子の結晶性を高めることができる。さらには、後述する再分散処理において、粒子の析出時の一次粒子径を維持したまま水等に再分散することが可能であり、高い分散安定性も維持される。また、上記の処理を行うことにより、凝集体の再分散体を高濃度化した場合でも低粘度が維持できる。さらにはインクジェット用記録液として用いた場合に、良好な吐出性を有する。
これらの作用は、例えば、分散体を上記の有機溶媒に接触させ、その後分離することにより、分散体に含まれる過剰な分散剤を遊離させ除去したために発現されたものと推測される。
【0087】
この際、前記分散体における水不溶性色材粒子の表面付近にある分散剤は水不溶性色材粒子に強く固定されているため、前記水不溶性色材粒子の粒子径が増大することがなく、後述する再分散処理後であっても粒子の析出時の一次粒子径を保ちつつ、高い分散安定性が維持される。
【0088】
前記分散体においては、さらに凝集体を再分散することが好ましい。この再分散処理としてアルカリ処理を挙げることができる。
すなわち、酸を用いて凝集させた粒子をアルカリで中和し、粒子の析出時の一次粒子径で水等に再分散させることが好ましい。すでに脱塩および脱溶剤が行われているため、不純物の少ないコンクベースを得ることができる。
ここで使用するアルカリは、酸性の親水性部分を持つ分散剤の中和剤として働き、水への溶解性が高まるもので、いかなるものでも使用できる。
具体的にはアミノメチルプロパノール、ジメチルアミノプロパノール、ジメチルエタノールアミン、ジエチルトリアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ブチルジエタノールアミン、モルホリン等の各種有機アミン、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、アンモニアが挙げられる。これらの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0089】
上記のアルカリの使用量は、凝集した粒子を水に安定に再分散できる範囲であれば特に限定されるものではないが、印刷インキやインクジェットプリンタ用インクなどの用途に用いる場合は各種部材の腐食の原因になる場合があるため、pHが6〜12、さらに好ましくは7〜11の範囲になる量を使用するのがよい。
【0090】
また、粒子析出時に用いる分散剤に応じて、上記のアルカリ処理とは異なる方法を用いてもよい。例えば、先に述べた低分子分散剤や高分子分散、あるいは分散助剤を使用した再分散処理があげられる。
【0091】
この時に使用される分散剤としては、例えば、Avecia社製のSolsperseシリーズや、味の素ファインテクノ社のアジスパーシリーズ、BYKChemie社製のDisperbykシリーズ、楠本化成社のディスパロンシリーズやPLAADシリーズ等が挙げられる。また、分散助剤としては、各種顔料に応じたシナジストを用いることもできる。
ここでいうシナジストとは、有機顔料に類似する骨格と親水性基とを有し、有機顔料の分散性を向上させることができる顔料誘導体化合物をいう。
【0092】
顔料の再分散に使用する分散装置としては、例えば、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、アジテーター、ペイントシェーカー、ヘンシェルミキサー、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、パールミル、湿式ジェットミル、ヘンシェルミキサーを用いることができる。
【0093】
また、凝集した粒子を再分散する際に、再分散用媒体として水溶性の有機溶剤を添加して、再分散しやすくすることができる。
具体的に使用できる有機溶剤としては特に限定されるものではないが、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、tert−ブタノール等の低級アルコール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジアセトンアルコール等の脂肪族ケトン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルまたはモノエチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールフェニルエーテル、プロピレングリコールフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルまたはモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルまたはモノエチルエーテル、N−メチルピロリドン、2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。これらは、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、顔料粒子を再分散させて水性分散液とするとき、ここにおける水の量は99〜20質量%であることが好ましく、95〜30質量%とすることがより好ましい。上記の水溶性有機溶剤の量は50〜0.1質量%であることが好ましく、30〜0.05質量%とすることがより好ましい。
【0094】
凝集した粒子に水、上記アルカリおよび水溶性の有機溶剤を加える際には、必要に応じて撹拌、混合、分散装置を用いることができる。特に含水率の高い有機顔料のペースト、スラリーを用いる際は水を加えなくてもよい。
さらに、再分散の効率を高める目的、および不要となった水溶性有機溶剤または過剰なアルカリ等を除去する目的で加熱、冷却、または蒸留などを行うことができる。
【0095】
本発明におけるインクジェット用インクは、前記色材粒子の少なくとも1種と、後述する活性線架橋性高分子化合物の少なくとも1種と、必要に応じて例えば、光重合開始剤、増感剤、界面活性剤、水性液媒体等の各成分と、を混合し、均一に溶解又は分散することにより調製することができる。
本発明におけるインクにおいては、前記色材粒子を0.1〜15質量%含有することが好ましい。
また、調製したインクに過剰量のポリマー化合物や添加剤が含有される場合には、遠心分離や透析などの方法によって、それらを適宜除去し、インクを再調製することができる。
【0096】
〈活性線架橋性高分子化合物〉
本発明のインクジェット用インクは、活性エネルギー線により架橋結合可能な高分子化合物(以下、「活性線架橋性高分子化合物」ということがある)の少なくとも1種を含有する。
本発明に用いることができる活性線架橋性高分子化合物としては、親水性主鎖と前記親水性主鎖に結合する複数の側鎖とを有し、活性エネルギー線(以下、単に「活性線」ということがある)を照射することにより、側鎖間で架橋結合可能な高分子化合物が好適に用いられる。
【0097】
このような化合物としては、ポリ酢酸ビニルのケン化物、ポリビニルアセタール、ポリエチレンオキサイド、ポリアルキレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、または前記親水性樹脂の誘導体、ならびにこれらの共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種の親水性樹脂に対して、側鎖に光二量化型、光分解型、光重合型、光変性型、光解重合型等の変性基を導入したものが挙げられる。
本発明においては、側鎖に光重合型の架橋性基を有することが、感度、生成される画像の性能の観点から好ましい。
【0098】
前記親水性主鎖としては、側鎖の導入に対する簡便性や、取り扱いの観点からポリ酢酸ビニルのケン化物が好ましく、その重合度は200以上4000以下が好ましく、200以上2000以下がハンドリングの観点からより好ましく、200以上1700以下が更に好ましい。主鎖に対する側鎖の変性率は0.3モル%以上4モル%以下が好ましく、0.5モル%以上4モル%以下がより好ましく、0.8モル%以上4モル%以下が反応性の観点からより好ましい。
0.3モル%以上とすることで架橋性を十分に確保でき、本発明の効果がより大きくなる。また、4モル%以下とすることで架橋密度を適性にすることができ、良好な膜強度を得ることができる。
【0099】
側鎖に有することができる光二量化型の変性基としては、ジアゾ基、シンナモイル基、スチルバゾニウム基、スチルキノリウム基等が好ましい。
側鎖に光二量化型の変性基が導入された活性線架橋性高分子化合物としては、例えば、特開昭60−129742号公報等に記載された感光性樹脂(組成物)が挙げられる。
活性線架橋性高分子化合物としては、例えば、ポリビニルアルコール構造体中にスチルバゾニウム基を導入した下記一般式(1)で表される化合物が挙げられる。
【0100】
【化1】

【0101】
式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基を表し、Aはカウンターアニオンを表す。
【0102】
また、ポリビニルアルコール構造体中に、下記一般式(2)で表される2−アジド−5−ニトロフェニルカルボニルオキシエチレン構造、または、下記一般式(3)で表され、4−アジド−3−ニトロフェニルカルボニルオキシエチレン構造を有する樹脂組成物が挙げられる。
【0103】
【化2】

【0104】
また、下記一般式(4)で表されるアジド基を含む変性基を有するポリビニルアルコール誘導体も好ましく用いられる。
【0105】
【化3】

【0106】
式中、Rはアルキレン基またはアリーレン基を表す。好ましくはフェニレン基である。
【0107】
また、光重合型の変性基を有するポリビニルアルコール誘導体としては、例えば、下記一般式(5)で表される樹脂が反応性の観点から好ましく挙げることができる。
【0108】
【化4】

【0109】
式中、Rはメチル基または水素原子を表し、nは1または2を表し、Xは−(CHm−COO−または−O−を表し、Yは芳香族環または単結合を表し、mは0〜6までの整数を表す。
【0110】
さらに、光重合型の下記一般式(6)で表される変性基で、従来公知の水溶性樹脂(親水性主鎖を有する高分子化合物)を変性した樹脂を用いることもまた好ましい。
【0111】
【化5】

【0112】
式中、Rはメチル基または水素原子を表し、Rは炭素数2〜10の直鎖状または分岐状のアルキレン基を表す。
【0113】
このような活性線架橋性高分子化合物は、インク全質量に対して0.8質量%から5.0質量%含有することが好ましい。0.8質量%以上存在することで、架橋効率が向上し、架橋後のインク粘度の急激な上昇によりビーディングやカラーブリードがより好ましくなる。5.0質量%以下とすることで、インク物性やインクヘッド内の状態に悪影響を及ぼしにくくなり、インク出射性やインク保存性の観点で好ましい。
【0114】
本発明の活性線架橋性高分子化合物においては、元々ある程度の重合度をもった主鎖に対して側鎖間で架橋結合を介して架橋をするため、一般的な連鎖反応を介して低分子モノマーが重合する活性エネルギー線硬化型の樹脂に比べて、光子一つ当たりの分子量増加効果が著しく大きい。一方、従来公知の活性エネルギー線硬化型の樹脂においては架橋点の数は制御不可能であるため硬化後の膜の物性をコントロールすることが困難であり、硬くてもろい膜となりやすいという問題があった。
一方、本発明に用いられる活性線架橋性高分子化合物においては架橋点の数は親水性主鎖の長さと、側鎖の導入量で所望の態様に制御できるため、目的に応じた硬化インク膜の物性に制御することが可能である。
【0115】
さらに、従来公知の活性線硬化型インクは、色材以外のほぼ全量が硬化性の成分であるため、硬化後のドットが盛り上がり、光沢に代表される画質に劣ることがあるのに対し、本発明のインクジェットインクにおいては、活性線架橋性高分子化合物の必要量が少量で十分であり、また、乾燥性成分が多いため乾燥後の画質の向上がより図られ、かつ定着性も良好である。
【0116】
(光重合開始剤、増感剤)
本発明のインクジェット用インクは、光重合開始剤および増感剤の少なくとも1種をさらに含むことが好ましく、光重合開始剤を含むことがより好ましい。これらの化合物が含有される態様は特に制限はなく、インク溶媒中に溶解した状態もしくは分散した状態、または前記活性線架橋性高分子化合物に対して化学的に結合されていてもよい。
【0117】
本発明に適用することができる光重合開始剤、増感剤としては、特に制限はなく、従来公知の物を用いることができる。中でも、インクへの混合性、反応効率の観点から、水溶性の化合物が好ましい。特に4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン(HMPK)、チオキサントンアンモニウム塩(QTX)、ベンゾフェノンアンモニウム塩(ABQ)が水系溶媒への混合性という観点で好ましい。
【0118】
さらに、活性線架橋性高分子化合物(樹脂)との相溶性の観点から、下記一般式(7)で表される4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン(n=1、HMPK)や、そのエチレンオキシド付加物(n=2〜5)がより好ましい。
【0119】
【化6】

【0120】
式中、nは1〜5の整数を表す。
【0121】
また他には例えば、ベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、ビス−N,N−ジメチルアミノベンゾフェノン、ビス−N,N−ジエチルアミノベンゾフェノン、4−メトキシ−4′−ジメチルアミノベンゾフェノン等のベンゾフェノン類。チオキサトン、2,4−ジエチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、クロロチオキサントン、イソプロポキシクロロチオキサントン等のチオキサントン類。エチルアントラキノン、ベンズアントラキノン、アミノアントラキノン、クロロアントラキノン等のアントラキノン類。アセトフェノン類。ベンゾインメチルエーテル等のベンゾインエーテル類。2,4,6−トリハロメチルトリアジン類、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−(o−クロロフェニル)−4,5−ジフェニルイミダゾール2量体、2−(o−クロロフェニル)−4,5−ビス(m−メトキシフェニル)イミダゾール2量体、2−(o−フルオロフェニル)−4,5−フェニルイミダゾール2量体、2−(o−メトキシフェニル)−4,5−フェニルイミダゾール2量体、2−(p−メトキシフェニル)−4,5−ジフェニルイミダゾール2量体、2−ビス(p−メトキシフェニル)−5−フェニルイミダゾール2量体、2−(2,4−ジメトキシフェニル)−4,5−ジフェニルイミダゾール2量体の2,4,5−トリアリールイミダゾール2量体、ベンジルジメチルケタール、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)ブタン−1−オン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノ−1−プロパノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、フェナントレンキノン、9,10−フェナンスレンキノン、メチルベンゾイン、エチルベンゾイン等ベンゾイン類、9−フェニルアクリジン、1,7−ビス(9,9′−アクリジニル)ヘプタン等のアクリジン誘導体、ビスアシルホスフィンオキサイド、及びこれらの混合物等が好ましく用いられ、上記は単独で使用しても混合して使用してもかまわない。また、これらの光重合開始剤が親水性主鎖に対して、側鎖にグラフト化されている態様もまたも好ましい。
【0122】
これらの光重合開始剤に加え、促進剤等を添加することもできる。これらの例として、p−ジメチルアミノ安息香酸エチル、p−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等があげられる。
【0123】
〈水性液媒体〉
本発明のインクジェット用インクに係る溶媒としては、水性液媒体が好ましく用いられる。前記水性液媒体としては、水及び水溶性有機溶剤等の混合溶媒が更に好ましく用いられる。
好ましく用いられる水溶性有機溶剤の例としては、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、セカンダリーブタノール、ターシャリーブタノール)、多価アルコール類(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ペンタンジオール、グリセリン、ヘキサントリオール、チオジグリコール)、多価アルコールエーテル類(例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル)、アミン類(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、モルホリン、N−エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ポリエチレンイミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、テトラメチルプロピレンジアミン)、アミド類(例えば、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等)、複素環類(例えば、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、シクロヘキシルピロリドン、2−オキサゾリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等)、スルホキシド類(例えば、ジメチルスルホキシド)等が挙げられる。
【0124】
〈界面活性剤〉
本発明のインクジェット用インクは、界面活性剤のすくなくとも1種を含有することが好ましい。
本発明に好ましく用いられる界面活性剤としては、アルキル硫酸塩、アルキルエステル硫酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、アルキルリン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸塩、脂肪酸塩類等のアニオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル類、アセチレングリコール類、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマー類等のノニオン性界面活性剤、グリセリンエステル、ソルビタンエステル、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、アミンオキシド等の活性剤、アルキルアミン塩類、第四級アンモニウム塩類等のカチオン性界面活性剤が挙げられる。
【0125】
これらの界面活性剤は顔料の分散剤としても用いることができ、特にアニオン性及びノニオン性界面活性剤を好ましく用いることができる。
【0126】
〈各種添加剤〉
本発明のインクジェット用インクにおいては、上記成分に加え必要に応じて、その他の従来公知の添加剤を含有することができる。例えば蛍光増白剤、消泡剤、潤滑剤、防腐剤、増粘剤、帯電防止剤、マット剤、水溶性多価金属塩、酸塩基、緩衝液等pH調整剤、酸化防止剤、表面張力調整剤、比抵抗調整剤、防錆剤、無機顔料等である。
【0127】
<インクセット>
本発明のインクセットは、上述した本発明のインクジェット用インクの少なくとも1種を含んで構成される。中でも、イエローインクおよびブラックインクの少なくとも1種として本発明のインクジェット用インクを含むことが好ましく、イエローインクとして本発明のインクジェット用インクを含むことが好ましい。
本発明のインクジェット用インクを、複数のインクと併用することにより、各インクの硬化効率に優れ、硬化速度が非常に大きく、色味に優れる高精彩な記録物を得ることができる。
【0128】
<画像記録方法>
本発明の画像記録方法は、本発明のインクジェット用インク、またはインクセットを用いることを特徴とし、記録媒体上にインクを付与するインク付与工程と、記録媒体上に付与されたインクに活性エネルギー線を照射する定着工程とを含んで構成することができる。
本発明のインクジェット用インクまたはインクセットを用いることで、透明性が高く、色味に優れる高精彩な画像を形成することができる。
【0129】
[インク付与工程]
本発明におけるインク付与工程としては、記録媒体上にインクジェット記録方式によってインク付与することができれば特に制限はない。
また前記インクジェット記録方式としては特に制限なく公知の方法を適用することができる。例えば、静電誘引力を利用してインクを吐出させる電荷制御方式、ピエゾ素子の振動圧力を利用するドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式)、電気信号を音響ビームに変えインクに照射して、放射圧を利用してインクを吐出させる音響インクジェット方式、及びインクを加熱して気泡を形成し、生じた圧力を利用するサーマルインクジェット方式等を用いることができる。
【0130】
[定着工程]
本発明における定着工程においては、記録媒体上に付与されたインクに活性エネルギー線(以下、単に「活性線」ということがある)を照射してインクを架橋硬化させる。これにより、透明性の高い画像を形成することができる。
【0131】
(活性線、照射方法)
本発明でいう活性線とは、例えば電子線、紫外線、α線、β線、γ線、エックス線、蛍光ランプ等が上げられるが、人体への危険性や、取り扱いが容易な蛍光ランプや、工業的にもその利用が普及している電子線や紫外線が好ましい。
【0132】
電子線を用いる場合には、照射する電子線の量は0.1〜30Mradの範囲が望ましい。0.1Mrad未満では十分な照射効果が得られず、30Mradを越えると支持体等を劣化させる可能性があるため、好ましくない。
【0133】
紫外線を用いる場合は、光源として例えば0.1kPaから1MPaまでの動作圧力を有する低圧、中圧、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプや紫外域の発光波長を持つキセノンランプ、冷陰極管、熱陰極管、LED等従来公知の物が用いられる。
【0134】
(インク着弾後の光照射条件)
本発明において活性線として活性光線(例えば、紫外線)を用いる場合、活性光線の照射条件として、本発明においては、例えば、インク着弾後0.001〜2.0秒の間に活性光線が照射されることであり、0.001〜1.0秒の間に活性光線が照射されることが好ましく、より好ましくは0.001〜0.5秒である。高精細な画像を形成するためには、照射タイミングができるだけ早いことが特に重要となる。
【0135】
(ランプの設置)
活性光線の照射方法として、その基本的な方法が特開昭60−132767号公報に開示されている。これによると、ヘッドユニットの両側に光源を設け、シャトル方式でヘッドと光源を走査する。照射は、インク着弾後、一定時間を置いて行われることになる。更に、駆動を伴わない別光源によって硬化を完了させる。米国特許第6,145,979号明細書では、照射方法として、光ファイバーを用いた方法や、コリメートされた光源をヘッドユニット側面に設けた鏡面に当て、記録部へUV光を照射する方法が開示されている。本発明の画像形成方法においては、これらの何れの照射方法も用いることができる。
【0136】
また活性光線を、照射を2段階に分け、まずインク着弾後0.001〜2.0秒の間に前述の方法で活性光線を照射し、更に活性光線を照射する方法も好ましい態様の1つである。活性光線の照射を2段階に分けることで、よりインク硬化の際に起こる記録材料の収縮を抑えることが可能となる。
【0137】
(記録媒体)
本発明の画像記録方法における記録媒体としては、インクジェット方式でインクを付与可能なものであれば特に制限はない。例えば、塗工紙、非塗工紙等の紙媒体、各種フィルム媒体、インクジェット用記録媒体等を挙げることができる。
【0138】
<画像記録装置>
本発明の画像記録装置は、本発明のインクジェット用インクまたはインクセットを用いることを特徴とする。これにより透明性が高く、色味に優れた高精彩な画像を記録することができる。
本発明の画像記録装置としては、インクジェット用インクを記録媒体上に付与するインク付与手段と、記録媒体上に付与されたインクを架橋硬化させる活性線照射手段とを設けて構成することができる。インク付与手段、活性線照射手段としては、公知の手段を特に制限なく用いることができる。本発明におけるインク付与手段、活性線付与手段については上述の画像記録方法で説明した事項を好適に適用することができる。
【0139】
例えば、インク付与手段として、静電誘引力を利用してインクを吐出させる電荷制御方式、ピエゾ素子の振動圧力を利用するドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式)、電気信号を音響ビームに変えインクに照射して、放射圧を利用してインクを吐出させる音響インクジェット方式、及びインクを加熱して気泡を形成し、生じた圧力を利用するサーマルインクジェット方式等の吐出方式を利用したインクジェットヘッドが好適である。
また、活性線照射手段として、例えば0.1kPaから1MPaまでの動作圧力を有する低圧、中圧、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプや紫外域の発光波長を持つキセノンランプ、冷陰極管、熱陰極管、LED等が好適である。
【0140】
<記録物>
本発明の記録物は、本発明のインクジェット用インクまたはインクセットを用いて記録されたことを特徴とし、記録媒体上に前記画像記録方法により記録された記録物であることが好ましい態様である。記録媒体については前述のものを用いることができる。
このようにして得られた記録物は、透明性が高く、色味に優れた高精彩な画像が記録されたものとなる。
【実施例】
【0141】
以下に実施例に基づき本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。なお、「部」及び「%」とあるのは特に示さない限り質量基準とする。
【0142】
〔色材粒子の分散平均粒径、及び(D90−D10)の測定〕
本発明において、各分散体(色材粒子の分散物)の動的散乱法による分散平均粒子径は、大塚電子株式会社製FPAR−1000(商品名)を用いて測定を行った際の、D50(粒子径分布の積分値が、色材粒子の全粒子数の0.5(50個数%)に等しい粒径を表す)の値で表される。同様にしてさらに、D90、及びD10(粒子径分布の積分値が、それぞれ色材粒子の全粒子数の0.9(90個数%)、及び0.1(10個数%)に等しい粒径を表す)を求めた後、△D(D90−D10)を算出した。
【0143】
さらに、透過型電子顕微鏡(TEM)観察による平均1次粒子径評価は、カーボン膜を貼り付けたCu200メッシュに、希釈した分散体を滴下した後、乾燥させ、TEM(日本電子製1200EX)で10万倍に拡大した画像から、重なっていない独立した粒子300個の長径を測定して平均値を平均1次粒子径として算出した(以下、TEM観察により算出した平均1次粒子径を「TEM平均粒子径」という)。
【0144】
〈活性線架橋性高分子化合物Aの合成〉
グリシジルメタクリレート56g、p−ヒドロキシベンズアルデヒド48g、ピリジン2g、及びN−ニトロソ−フェニルヒドロキシアミンアンモニウム塩1gを反応容器に入れ、80℃の湯浴中で8時間攪拌した。
【0145】
次に、重合度300、ケン化率88%のポリ酢酸ビニルケン化物(PVA)45gをイオン交換水225gに分散した後、この溶液にリン酸4.5gと上記反応で得られたp−(3−メタクリロキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシ)ベンズアルデヒドをPVAに対して変性率が3モル%になる様に加え、90℃で6時間攪拌した。得られた溶液を室温まで冷却した後、塩基性イオン交換樹脂30gを加え1時間攪拌した。その後イオン交換樹脂を濾過し、ここに光重合開始剤として、イルガキュア2959(チバスペシャリティケミカルズ社製)を15%水溶液100gに対して0.1gの割合で混合しその後イオン交換水にて希釈して10%の高分子化合物A(活性線架橋性高分子化合物A)水溶液を得た。
【0146】
<ポリマー(高分子分散剤)の合成例>
(ポリマー合成例1)
攪拌装置、還流管、温度計、滴下ロートを備えた2000mlのセパラブルフラスコ内を窒素置換した後、ジエチレングリコールモノメチルエーテル200.0部をセパラブルフラスコに入れて攪拌しながら80℃に昇温した。次いで、滴下ロートにジエチレングリコールモノメチルエーテル200.0部、ベンジルアクリレート483.0部、アクリル酸77.5部及びt−ブチルパーオキシ(2−エチルヘキサノエート)4.8部を入れ、80℃で4時間かけてセパラブルフラスコ中に滴下して反応させた。滴下終了後、80℃で1時間保持した後、t−ブチルパーオキシ(2−エチルヘキサノエート)0.8部を加え、さらに80℃で1時間反応を行なった。その後、減圧蒸留によりジエチレングリコールモノメチルエーテルを除去した。そして、メチルエチルケトン600.0部を加え、樹脂固形分50%のポリマー組成物溶液を得た。このようにして得られたポリマー組成物溶液の一部を取り、105℃の強熱乾燥機で1時間乾燥した後、得られたポリマー組成物の固形物の酸価は65mgKOH/gであり、重量平均分子量は34000であった。
【0147】
(ポリマー合成例2)
ポリマー合成例1においてアクリル酸50.4部に代えて、アクリル酸100.8部にした以外は同様にポリマーを合成した。このポリマー組成物溶液の1部を取り、105℃の乾燥機で1時間乾燥した後、得られたポリマー組成物の固形分の酸価は130mgKO
H/gであり、重量平均分子量は29000であった。
【0148】
〔顔料分散液の調製〕
(イエロー色材分散体Aの作製)
分散剤としてポリマー合成例1において作製したポリマー組成物(高分子分散剤)の乾燥物10部をジメチルスルホキシド80部に溶解させ、これにC.I.PY128 10部をフラスコ中で空気雰囲気下、25℃で懸濁させた。次に、25%水酸化テトラメチルアンモニウムメタノール溶液(和光純薬工業株式会社製)を少量ずつ滴下して、前記顔料を溶解させ、赤色の溶液を得た。この顔料溶液を3時間撹拌した後、インペラー式撹拌羽(800rpm)で撹拌している冷却保温したイオン交換水(顔料10部に対してイオン交換水400部:0℃)にシステムディスペンサー(武蔵エンジニアリング社製、ニードル内径:0.58mm、吐出圧:4.0kgf/cm)2基を用いて速やかに投入し、分散平均粒子径39.8nmの顔料含有粒子(色材粒子)の水性顔料分散体を得た。
【0149】
次いでこの水性顔料分散体に5%硫酸水溶液を滴下してpHを4.0に調節し、前記顔料の分散体から顔料含有粒子(色材粒子)を凝集させた。その後、この凝集物をメンブレンフィルター(保留粒子径が0.45μm)を用いて減圧濾過し、500mlのイオン交換水で3回水洗いし、脱塩および脱溶剤された顔料含有粒子(色材粒子)の水性分散体のペーストを得た。
【0150】
次に、このペーストに水酸化カリウム2.0gを加えた後、総質量が100gになるようにイオン交換水を加えて1時間撹拌を行った。この後、水酸化カリウムを加えてpHを9.5に調節し、顔料濃度10%のイエロー色材分散体Aを得た。 このイエロー色材分散体Aを顔料濃度0.1%になるように超純水で希釈した後、動的光散乱法により求めた分散平均粒子径は43.2nm(TEM平均粒子径:33.6nm)であり、高い透明性を有していた。また、算出されたD90−D10は38.2nmであった。
【0151】
(イエロー色材分散体Bの作製)
ポリマー合成例2において作成されたポリマー組成物(高分子分散剤)溶液120.0部に対して30%水酸化ナトリウム水溶液3.0部を加えて、高速ディスパーで5分間攪拌し、さらにイエロー顔料C.I.PY74を480.0部加え、浅田鉄鋼(株)ピコミル(分散メディア:ジルコニア、温度:20℃、分散メデイア/分液重量比:8/2)を用いて周速8m/sにて13.5時間の分散処理、顔料分散スラリーを得た。そして、その顔料分散スラリーを超高圧ホモジナイザー(マイクロフルイダイザー、みずほ工業株式会社製)により200MPaの圧力で10回連続して分散を繰り返し、顔料分散液を得た。
【0152】
さらに、上記のようにして得られた顔料分散液から、エバポレーターを用いた減圧蒸留によりメチルエチルケトンおよび水の一部を留去し、遠心分離機(05P−21、日立製作所製)により30分5000rpmで遠心分離させた後、顔料濃度10%になるようにイオン交換水を添加してイエロー色材分散体Bを調整した。そして、2.5μmのメンブレンフィルター(アドバンテック社製)を用いて加圧ろ過した。
このイエロー色材分散体Bを超純水で希釈した後、動的光散乱法により求めた分散平均粒子径は68.4nm(TEM平均粒子径:44.1nm)であり、算出されたD90−D10は105.3nmであった。
【0153】
(マゼンタ顔料分散体Aの作製)
分散剤としてポリマー合成例2において作製したポリマー組成物溶液の乾燥物10部をジメチルスルホキシド80部に溶解させ、これにC.I.PR122のキナクリドン顔料10部をフラスコ中で空気雰囲気下、25℃で懸濁させた。次に、25%水酸化テトラメチルアンモニウムメタノール溶液(和光純薬工業株式会社製)を少量づつ滴下して、キナクリドン顔料を溶解させ、濃青紫色の溶液を得た。この顔料溶液を3時間撹拌した後、インペラー式撹拌羽(800rpm)で撹拌している冷却保温したイオン交換水(顔料10部に対してイオン交換水400部:5℃)にシステムディスペンサー(武蔵エンジニアリング社製、ニードル内径:0.58mm、吐出圧:4.0kgf/cm)2基を用いて速やかに投入し、透明で赤みがかった顔料含有粒子(色材粒子)の水性顔料分散体を得た。この水性顔料分散体の動的光散乱法により求めた分散平均粒子径は24.2nm(TEM平均粒子径:19.9nm)であった。
【0154】
次いでこの水性顔料分散体に塩酸を滴下してpHを3.5に調整し、顔料の分散体から顔料含有粒子を凝集させた。その後、この凝集物を平均孔径0.2μmのメンブレンフィルターを用いて減圧濾過し、イオン交換水で2回水洗し、脱塩及び脱溶剤された顔料含有粒子の分散体のペーストを得た。
【0155】
次に、このペーストに100部のアセトンを加え、攪拌及び超音波処理を行った。この後、平均孔径0.2μmのメンブレンフィルターを用いて減圧濾過し、顔料含有粒子を含む分散体のペーストを得た。このペーストをイオン交換水で水洗し、平均孔径0.2μmのメンブレンフィルターを用いて再び減圧濾過し、顔料含有粒子を含む分散体のペーストを得た。
【0156】
次いでこのペーストに少量のイオン交換水を加え、さらに15%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液(和光純薬工業株式会社製)を加えたのち、イオン交換水を加えて1時間攪拌を行った。この後、顔料濃度10%になるようイオン交換水を加えた。更に、15%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液を加えpH9.5に調整した後、マゼンタ顔料分散体Aを得た。
このマゼンタ顔料分散体Aを顔料濃度0.1%になるよう超純水で希釈した後、動的光散乱法により求めた分散平均粒子径は25.0nm(TEM平均粒子径:20.4nm)であり、算出されたD90−D10は34.6nmであった。
尚、このマゼンタ顔料分散体Aは、2週間保存後の粒径に変化は見られず、また沈降物も見られず、変色もみられなかった。
【0157】
(マゼンタ顔料分散体Bの作製)
マゼンタ顔料分散体Aの作成と同様に分散剤としてポリマー合成例2において作製したポリマー組成物溶液の乾燥物10部をジメチルスルホキシド80部に溶解させ、これにC.I.PR122のキナクリドン顔料10部をフラスコ中で空気雰囲気下、25℃で懸濁させた。次に、25%水酸化テトラメチルアンモニウムメタノール溶液(和光純薬工業株式会社製)を少量づつ滴下して、キナクリドン顔料を溶解させ、濃青紫色の溶液を得た。この顔料溶液を3時間撹拌した後、インペラー式撹拌羽(800rpm)で撹拌している冷却保温したイオン交換水(顔料10部に対してイオン交換水400部:5℃)にシステムディスペンサー(武蔵エンジニアリング社製、ニードル内径:0.58mm、吐出圧:4.0kgf/cm)2基を用いて速やかに投入し、透明で赤みがかった顔料分散体が得た。
この顔料分散体の動的光散乱法により求めた分散平均粒子径は33.8nm(TEM平均粒子径:25.1nm)であった。
【0158】
次いでこの顔料分散体に塩酸を滴下してpHを3.5に調整し、顔料の分散体から顔料粒子を凝集させた。その後、この凝集物を平均孔径0.2μmのメンブレンフィルターを用いて減圧濾過し、イオン交換水で2回水洗し、脱塩及び脱溶剤された顔料粒子の分散体のペーストを得た。
【0159】
次いでこのペーストに少量のイオン交換水を加え、さらに15%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液(和光純薬工業株式会社製)を加えたのち、イオン交換水を加えて1時間攪拌を行った。この後、顔料濃度10%になるようイオン交換水を加えた。更に、15%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液を加えpH9.5に調整した後、マゼンタ顔料分散体Bを得た。
このマゼンタ顔料分散体Bを顔料濃度0.1%になるよう超純水で希釈した後、動的光散乱法により求めた分散平均粒子径は34.5nm(TEM平均粒子径:26.4nm)であり、算出されたD90−D10は40.8nmであった。
尚、このマゼンタ顔料分散体Bは、2週間保存後の粒径に変化は見られず、また沈降物も見られず、変色もみられなかった。
【0160】
(マゼンタ顔料分散体Cの作製)
マゼンタ顔料分散体Aの作製において、C.I.PR122のキナクリドン顔料10部を、C.I.PR122のキナクリドン顔料5.2部とC.I.PV19のキナクリドン顔料4.8部に変え、システムディスペンサーのニードル内径を0.8mmに変えた他は同様にしてマゼンタ顔料分散体Cを得た。
このマゼンタ顔料分散体Cを顔料濃度0.1%になるよう超純水で希釈した後、動的光散乱法により求めた分散平均粒子径は39.3nm(TEM平均粒子径:31.1nm)であり、算出されたD90−D10は45.8nmであった。
尚、このマゼンタ顔料分散体Cは、2週間保存後の粒径に変化は見られず、また沈降物も見られず、変色もみられなかった。
【0161】
(マゼンタ顔料分散体Dの作製)
イエロー色材分散体Bの作製の作製において用いたイエロー顔料C.I.PY74 480.0部をマゼンタ顔料C.I.PR122の480.0部に代えた他は同様にして顔料分散液を得た。この顔料分散液を遠心分離装置にて18000rpmで30分間遠心分離操作を行って得られた上澄み液を、エバボレーターを用いて顔料濃度が10%になるように濃縮及び調整しマゼンタ顔料分散体Dを得た。
このマゼンタ顔料分散体Dを顔料濃度0.1%になるよう超純水で希釈した後、この顔料分散体の動的光散乱法により求めた分散平均粒子径は43.2nm(TEM平均粒子径:33.3nm)であり、算出されたD90−D10は72.7nmであった。
【0162】
(マゼンタ顔料分散体Eの作製)
イエロー色材分散体Bの作製の作製において用いたイエロー顔料C.I.PY74の480.0部をマゼンタ顔料C.I.PR122の480.0部に代えた他は同様にしてマゼンタ顔料分散体Eを得た。
このマゼンタ顔料分散体Eを超純水で希釈した後、動的光散乱法により求めた分散平均粒子径は68.4nm(TEM平均粒子径:40.5nm)であり、算出されたD90−D10は112.8nmであった。
【0163】
(マゼンタ顔料分散体Fの作製)
イエロー色材分散体Bの作製の作製において用いたイエロー顔料C.I.PY74 480.0部をマゼンタ顔料C.I.PR122の480.0部に代えた他は同様にして顔料分散液を得た。この顔料分散液を遠心分離装置にて15000rpmで30分間遠心分離操作を行って得られた上澄み液を、エバボレーターを用いて顔料濃度が10%になるように濃縮及び調整しマゼンタ顔料分散体Fを得た。
このマゼンタ顔料分散体Fを顔料濃度0.1%になるよう超純水で希釈した後、この顔料分散体の動的光散乱法により求めた分散平均粒子径は48.5nm(TEM平均粒子径:34.5nm)であり、算出されたD90−D10は102.9nmであった。
【0164】
(マゼンタ顔料分散体Gの作製)
イエロー色材分散体Bの作製の作製において用いたイエロー顔料C.I.PY74の480.0部をマゼンタ顔料C.I.PR122の480.0部に代え、超高圧ホモジナイザー(マイクロフルイダイザー、みずほ工業株式会社製)の分散処理条件を200MPaの圧力で15回連続に変更して分散を繰り返した他は同様にして、マゼンタ顔料分散体Gを得た。このマゼンタ顔料分散体Gを超純水で希釈した後、動的光散乱法により求めた分散平均粒子径は60.4nm(TEM平均粒子径:40.1nm)であり、算出されたD90−D10は62.9nmであった。
【0165】
(シアン顔料分散体Aの作製)
C.I.PB15:3を3部、ポリビニルピロリドンK25(商品名)(東京化成工業(株)社製)6部をメタンスルホン酸50部に室温で加え2時間攪拌し、蟻酸を少量ずつ滴下し、前記顔料を溶解し顔料溶解液を得た。
【0166】
この顔料溶解液に超音波処理をした後、インペラー式撹拌羽(800rpm)で撹拌している冷却保温した、オレイン酸ナトリウム0.6部を溶解させたイオン交換水1000部にシステムディスペンサー(武蔵エンジニアリング社製、ニードル内径:0.80mm、吐出圧:4.0kgf/cm)を用いて速やかに投入し、透明で青みがかった顔料分散液を得た。
この後限外濾過装置(アドバンテック東洋社製、UHP−62K、分画分子量5万)により蒸留水を加えてろ液を排除して体積を一定にしながら精製した後、顔料10.0%まで濃縮してシアン顔料分散体Aを得た。
このシアン顔料分散体Aを顔料濃度0.1%になるよう超純水で希釈した後、動的光散乱法により求めた分散平均粒子径は20.8nm(TEM平均粒子径:17.1nm)であり、算出された算出されたD90−D10は32.1nmであった。
尚、このシアン顔料分散体Aは、2週間保存後の粒径に変化は見られず、また沈降物も見られず、変色もみられなかった。
【0167】
(シアン顔料分散体Bの作製)
イエロー色材分散体Bの作製において用いた顔料をイエロー顔料C.I.PY74 480.0部をシアン顔料C.I.PB15:3 480部に代えた他は同様にしてシアン顔料分散体Bを得た。
このシアン顔料分散体Bを超純水で希釈した後、動的光散乱法により求めた分散平均粒子径は70.6nm(TEM平均粒子径:40.8nm)であり、算出されたD90−D10は107.3nmであった。
【0168】
〔光吸収スペクトルの評価〕
得られたマゼンタ顔料分散体A、及びマゼンタ顔料分散体Eを超純水で希釈し、光路長1cmのセルを用いて可視域の光吸収スペクトルを測定した。得られたそれぞれの光吸収スペクトルを波長域350nmから750nmの範囲での極大値を1で規格化した結果を図1に示す。
【0169】
図1に示す通り、マゼンタ顔料分散体Aは、マゼンタ顔料分散体Eと比較し、低波長領域の吸収が非常に小さいことが分かる。すなわち、この低波長領域の光吸収が小さいことから、活性光線が効率良く透過することが推測される。
【0170】
〔インクジェット用インクの作製〕
上記のようにして作製した各顔料分散体を用いて、表1に示す各成分を混合して、表1に示した組成(%)のインクジェット用インクをそれぞれ作製した。
次いで、上記各顔料分散体と同様にして、作製した各インクジェット用インクについて、動的光散乱法により分散平均粒子径を測定し、D90−D10を算出した。測定結果を合わせて表1に示す。
尚、表1中、高分子化合物A水溶液は、上述した活性線架橋性高分子化合物Aの合成において得られた10%の高分子化合物A(活性線架橋性高分子化合物)の水溶液を意味し、DEGは、ジエチレングリコールを、DEGmBEは、ジエチレングリコールモノブチルエーテルを意味し、オルフィンE1010は日信化学工業社製の界面活性剤である。
【0171】
【表1】

【0172】
〔インクの評価〕
ピエゾヘッドを有するIJプリンタにて下記の基材(記録媒体)に印字を行った。
また、紫外線の照射手段として、Integration社製のVzeroを用い、照度として50mW/cmとなる様に出力電圧を適宜調整し、また、基材へのインク着弾から紫外線照射までの時間は、0.8秒以内となるように制御した。
【0173】
記録ヘッドには、各色のノズル数が128、ノズルピッチを360dpiとし、4〜24plの範囲で異なるインク液滴サイズを出射できるピエゾタイプのインクジェットノズルを装着した。なお、本発明でいうdpiとは、2.54cmあたりのドット数を表す。
【0174】
(画像印字)
上記インクジェット記録装置を用いて、720dpi×720dpi、1画素あたりの最大インク液適量12pl、ベタ画像の最大インク付着量8.9g/mとし、4パスで、出力濃度100%でのベタ画像を出力して、上記条件で紫外線を照射し、画像を形成した。なお、基材としては、アート紙(王子製紙製 NKアート金藤N)を使用した。また、上記基材面上の外気の風速は、1m/s未満となる様に制御した。
【0175】
(画像の指触評価)
このようにして得られた画像の硬化状態を下記評価基準に従って、指触により評価した。
〜評価基準〜
4:指触後も画像変形は見られず、非常に良好であった。
3:指触後、タックが観察されたが、画像変形は見られなかった。
2:指触後、タックが観察され、画像変形も見られた。
1:指触後、画像変形が見られた。
評価結果を表2に示す。
【0176】
(吐出安定性の評価)
上記インクジェット記録装置を用いて各インクを5時間連続吐出した後、アート紙(王子製紙製 NKアート金藤N)に対して出力濃度100%でのベタ画像を出力した。得られたベタ画像における白スジの発生数を計測し、下記の基準に則り吐出性安定性の評価を行った。
【0177】
〜評価基準〜
3:印字面全体で全く未印字部である白スジが発生していない
2:僅かに白スジの発生は認められるが、実用上許容範囲にある
1:印字面全体に亘り白スジが多発し、実用上不可の品質である
評価結果を表2に示す。
【0178】
【表2】

【0179】
表2から分かるように、実施例1〜6のインクは硬化が早く、良好な結果が得られた。他方、比較例1〜3のインクは硬化が不十分であった。また、比較例4及び比較例5のイ
ンクは画像指触試験において、タックが観察された。
【0180】
(重ね打ち画像評価)
上記インクジェット記録装置を用い、イエローインクBのベタ画像を形成するようインクを付与した上に、表3に示すインクのベタ画像を形成するようインクを打滴した後、紫外線照射を行い、画像を記録した。なお、紫外線の照射照度として70mW/cmとなる様に出力電圧を適宜調整した。
【0181】
(透明性の評価)
このようにして得られた画像を目視で下記評価基準により評価を行った。
〜評価基準〜
3:下地の黄色味の発色が良好で2次色として濃度の高い鮮やかな画像が得られた。
2:下地の黄色味が薄く感じられ、2次色の発色として不十分であった。
1:下地の黄色味の発色が薄かった。
評価結果を表3に示す。
【0182】
(画像の指触評価)
このようにして得られた画像の硬化状態を下記評価基準に従って指触により評価した。〜評価基準〜
4:指触後も画像変形は見られず、非常に良好であった。
3:指触後、タックが観察されたが、画像変形は見られなかった。
2:指触後、タックが観察され、画像変形も見られた。
1:指触後、画像変形が見られた。
評価結果を表3に示す。
【0183】
【表3】

【0184】
表3からわかるように、実施例7〜11においては下地のイエローインクも十分に硬化し、硬化効率に優れる良好な結果であった。また、実施例7〜11においては透明性にも優れ、良好な2次色の発色が得られた。
【0185】
この結果から、本発明のインクをインクセットとして用いた場合にも画像全体の硬化性に優れ、且つ鮮明な画像が得られることが推測される。
【0186】
(X線回折測定)
以下のX線回折測定には理学電機(株)製RINT2500を使用した。X線回折測定は銅ターゲットを使用してCu−Kα1線を用いて測定を行った。
【0187】
上記のようにして作製したマゼンタ顔料分散体A、及びマゼンタ顔料分散体Bを、エバポレーターを用いて乾燥してそれぞれ粉末とし、理学電機(株)製RINT2500を用いてX線回折測定を行った。得られたスペクトルからそれぞれの結晶子径を算出したところ、マゼンタ顔料分散液Aについては分散液に含まれる顔料粒子の結晶子径が17.8±2nm(178±20Å)、マゼンタ顔料分散液Bにおいてはスペクトルにおいては2θ=4deg〜70degにおいてハローが観察された。同様にしてイエロー顔料分散体A、マゼンタ顔料分散体C、D、シアン顔料分散液AについてもX線回折測定を行ったところ、結晶子径はそれぞれ、24.8±2nm(248±20Å)、20.2±2nm(202±20Å)、25.6±2nm(256±20Å)、15.3±2nm(153±20Å)、及び13.8±2nm(138±20Å)であった。この結果から、イエローインクA、マゼンタインクA、C、D、及びシアンインクA含まれる顔料微粒子は結晶構造を有していることが推測される。
【0188】
〔その他の評価〕
実施例において得られた各記録物を退色試験機にセットし、キセノンランプを照度170,000ルクスで4日間照射して耐光性の試験を行った。マゼンタインクBを用いて記録された記録物については、他の実施例と比較し、目視でわずかにマゼンタを含む色相の変色が感じられたが、重ね打ち画像においては下地の黄色味の発色は良好であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
色材と分散剤とを含む色材粒子と、活性エネルギー線により架橋結合可能な高分子化合物とを含有し、前記色材粒子の分散平均粒子径が1〜50nmであって、
式:(D90−D10)で表される値が100nm以下であるインクジェット用インク。
〔式中、D90、及びD10は、前記色材粒子の粒子径分布関数dG=F(D)dD(Gは粒子数、Dは粒子径を表わす)の積分値が、全色材粒子数の0.9(90個数%)となる粒子径、及び全色材粒子数の0.1(10個数%)となる粒子径をそれぞれ表す〕
【請求項2】
前記色材粒子は、結晶構造を有することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット用インク。
【請求項3】
前記分散剤は、高分子化合物であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のインクジェット用インク。
【請求項4】
前記活性エネルギー線により架橋結合可能な高分子化合物は、親水性主鎖と複数の側鎖とを有し、前記側鎖間で架橋結合可能であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のインクジェット用インク。
【請求項5】
光重合開始剤をさらに含むことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のインクジェット用インク。
【請求項6】
前記色材粒子は、イエロー、またはブラックの色相を有することを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のインクジェット用インク。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のインクジェット用インクの少なくとも1種を含むインクセット。
【請求項8】
請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のインクジェット用インク、又は請求項7に記載のインクセットを用い、インクジェット法で前記インクジェット用インクを吐出して画像を記録する画像記録方法。
【請求項9】
請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のインクジェット用インク、又は請求項7に記載のインクセットが用いられ、前記インクジェット用インクをインクジェット法で吐出する吐出手段を備えた画像記録装置。
【請求項10】
請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のインクジェット用インク、又は請求項7に記載のインクセットを用いて記録された記録物。

【図1】
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【公開番号】特開2009−256611(P2009−256611A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−45911(P2009−45911)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】