説明

インクジェット用インクセット、インクジェット記録装置およびインクジェット記録方法

【課題】実画像用インクと背景画像用インクとを含み、光の照射を受けて硬化した背景画像用インクの黄ばみの発生を防止できるインクジェット用インクセットを提供する。
【解決手段】インクジェット記録装置に用いられるインクジェット用インクセットにおいて、色材を含み記録媒体上に実画像部分を形成するための光硬化型の実画像用インクと、記録媒体上に背景画像部分を形成するための光硬化型の背景画像用インクとを含み、背景画像用インクは、実画像用インクより活性光線に対する硬化感度が低い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、実画像用インクと背景画像用インクとを含むインクジェット用インクセット、およびそれを用いたインクジェット記録装置およびインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紙や布帛等の通常の記録媒体のみならず、樹脂フィルムや金属類等のインク吸収性の乏しい記録媒体に対しても画像を記録することができる画像記録装置として、記録ヘッドの一端面に設けられたノズルからインクを吐出して記録媒体上に着弾させるインクジェット記録装置が開発され、現在、その技術は種々の技術分野で応用されている。
【0003】
中でも、記録媒体上に着弾したインクに対して紫外線等の光を照射して硬化させて定着させる光硬化型のインクジェット記録装置は、高精細な画像を簡易に得ることができる記録装置として盛んに開発が進められている。従来は、紫外線等を照射する光源として高圧水銀灯等が用いられることが多かったが、近年、光源の寿命が長く、瞬時に点灯する等の利点を有する光源としてLED(Light Emitting Diode)光源が注目されている(例えば特許文献1等参照)。
【0004】
また、記録媒体上の実画像を形成する部分に種々の色彩の実画像用インクを吐出して実画像を形成するだけでなく、その背景画像の部分にも白色や透明の背景画像用インクを吐出して記録媒体全体に画像を形成するインクジェット記録装置が提案されている(例えば特許文献2等参照)。
【特許文献1】特開2005−254560号公報
【特許文献2】特開2003−285422号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1にも記載されているように、光硬化型のインクジェット記録装置に用いられる実画像用インクや背景画像用インクを構成するインク組成物には、通常、光重合性化合物や光開始剤、インクを着色する場合の染料や顔料等の色材等が含まれる。このようなインクは、紫外線が照射されると光重合性化合物が重合して樹脂を形成して硬化するが、紫外線を照射し過ぎると樹脂が黄ばみ、白色や透明であるべき背景画像用インクの画像部分に黄ばみを生じる。
【0006】
また、インクの紫外線に対する感度を向上させるために増感剤を添加させる場合があり、特にLED等から照射される315〜380nmの比較的長い波長領域(いわゆるUV−A波)のピーク波長を有する紫外線を用いるような場合には、インクの長波長での感度を向上させる効果を有するアントラセン等の長波増感剤がインクに添加される場合がある。このような場合、インクの紫外線に対する感度が向上し、特に長波長の紫外線領域におけるインクの感度が増加するものの、添加したアントラセンの濃度が大きいと、アントラセンが多量の紫外線を吸収して黄色に変色し、本来白色や透明であるはずの画像の背景部分が黄ばんでしまう場合がある。
【0007】
そこで、本発明は、上記のような実画像用インクと背景画像用インクとを含み、光の照射を受けて硬化した背景画像用インクの黄ばみの発生を防止できるインクジェット用インクセット、特に増感剤としてアントラセンを用いたインクジェット用インクセット、およびそれを用いたインクジェット記録装置およびインクジェット記録方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の問題を解決するために、本発明のインクセットは、
インクジェット記録装置に用いられるインクジェット用インクセットにおいて、
色材を含み記録媒体上に実画像部分を形成するための光硬化型の実画像用インクと、記録媒体上に背景画像部分を形成するための光硬化型の背景画像用インクとを含み、
前記背景画像用インクは、前記実画像用インクより活性光線に対する硬化感度が低いことを特徴とする。
【0009】
本発明のインクジェット記録装置は、
色材を含み記録媒体上に実画像部分を形成するための光硬化型の実画像用インクと、記録媒体上に背景画像部分を形成するための前記実画像用インクより活性光線に対する硬化感度が低い光硬化型の背景画像用インクとを吐出する記録ヘッドと、
記録媒体に着弾した前記実画像用インクと前記背景画像用インクとに対して活性光線を含む光を照射する光源と
を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明のインクジェット記録方法は、
色材を含み記録媒体上に実画像部分を形成するための光硬化型の実画像用インクと、記録媒体上に背景画像部分を形成するための前記実画像用インクより活性光線に対する硬化感度が低い光硬化型の背景画像用インクとを記録ヘッドから記録媒体に吐出し、
記録媒体に着弾した前記実画像用インクと前記背景画像用インクとに対して光源から活性光線を含む光を照射して硬化させて画像を記録することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1、請求項8および請求項11に記載の発明によれば、背景画像用インクは、紫外線を吸収しにくくなる。そのため、画像の背景部分が黄ばみを生じることがなくなり、記録媒体上に鮮明な画像を形成することが可能となる。
【0012】
請求項2に記載の発明によれば、いわゆるUV−A波の波長が比較的長い紫外線をインクに照射してもインクを硬化させることができるとともに、画像の背景部分の黄ばみを抑制することが可能となる。
【0013】
請求項3〜5に記載の発明によれば、前記各発明の効果がより的確に発揮される。
【0014】
請求項6および請求項7に記載の発明によれば、画像の背景部分が黄ばみの目立つ白色や透明の背景画像用インクであっても、画像の背景部分の黄ばみを効果的に防止して、鮮明な画像を得ることが可能となる。
【0015】
請求項9および請求項10に記載の発明によれば、いわゆるUV−A波の波長が比較的長い紫外線をインクに照射する場合においても、背景画像用インクの硬化と画像の背景部分の黄ばみの抑制を両立させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係るインクジェット用インクセット、インクジェット記録装置および画像形成方法の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0017】
まず、本実施形態に係るインクジェット用インクセットについて説明する。
【0018】
本実施形態に係るインクジェット用インクセットは、例えば後述するインクジェット記録装置1等のように記録ヘッドから記録媒体に対して吐出した光硬化型インクを光の照射により硬化させて記録媒体上に実画像部分と背景画像部分を有する画像を形成するインクジェット記録装置に用いられるインクセットである。
【0019】
そのため、インクジェット用インクセットには、色材を含み記録媒体上に実画像部分を形成するための実画像用インクと、記録媒体上に背景画像部分を形成するための背景画像用インクとが含まれている。本実施形態では、背景画像用インクには、白インクや透明インクが用いられる。
【0020】
実画像用インクと背景画像用インクは、ともに光を照射されると硬化する光硬化型インクであり、特に紫外線の照射により硬化する紫外線硬化型インクが好ましく用いられる。光硬化型インクには、主成分として、公知の重合性化合物を含む重合性化合物と、光開始剤とが含まれる。実画像用インクおよび白インクには色材が含まれる。なお、インクの組成によっては光開始剤が用いられない場合もある。
【0021】
光硬化型インクは、光重合性化合物としてラジカル重合性化合物を含むラジカル重合系インクやカチオン重合性化合物を含むカチオン重合系インクが好ましく用いられ、また、ラジカル重合系インクとカチオン重合系インクとを複合させたハイブリッド型インクを用いることも可能である。なお、カチオン重合系インクであれば、酸素による重合反応の阻害作用が少なくまたは阻害作用が無く、機能性、汎用性に優れる。
【0022】
カチオン重合系インクに用いられるカチオン重合性化合物としては、各種公知のカチオン重合性のモノマーを使用でき、例えば、芳香族エポキシドや脂環式エポキシド、脂肪族エポキシド等のエポキシド、ジビニルエーテル化合物やトリビニルエーテル化合物等のビニルエーテル化合物、オキセタン環を有するオキセタン化合物等が挙げられる。
【0023】
カチオン重合系インクに用いられるカチオン重合性光開始剤としては、例えば、化学増幅型フォトレジストや光カチオン重合に利用される化合物が用いられる(有機エレクトロニクス材料研究会編、「イメ−ジング用有機材料」、ぶんしん出版(1993年)、p.187〜192参照)。好適な化合物の例としては、ジアゾニウム、アンモニウム、ヨ−ドニウム、スルホニウム、ホスホニウム等の芳香族オニウム化合物のB(C,PF,AsF,SbF,CFSO塩や、スルホン酸を発生するスルホン化物、ハロゲン化水素を光発生するハロゲン化物、鉄アレン錯体等を挙げることができる。
【0024】
また、色材としては、重合性化合物の主成分に溶解または分散できる染料や顔料等の色材が使用することができる。実画像用インクではイエロー(Y)やマゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)のプロセスカラーのほかオレンジやバイオレット、金色、銀色等の特色インクにそれぞれ色材が適宜選択され、背景画像用インクである白インクでは白色の色材が適宜選択されて用いられる。色材としての顔料の分散を行う際に、高分子分散剤等の分散剤や分散助剤を添加することも可能である。
【0025】
なお、光硬化型インクには、その他の種々の添加剤を用いることができる。例えば、重合禁止剤や界面活性剤、レベリング添加剤、マット剤、膜物性を調整するためのポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ゴム系樹脂、ワックス類を添加することができる。
【0026】
本実施形態のインクジェット用インクセットでは、背景画像用インクは、実画像用インクより活性光線に対する硬化感度が低くなるように調製されている。
【0027】
具体的には、実画像用インクと背景画像用インクには、増感剤として、前述したようにいわゆるUV−A波の波長領域を含む300nm以上の比較的長い波長領域にピーク波長を有する紫外線に対する感度を向上させるために長波増感剤であるアントラセンやアントラセン誘導体が添加されている。
【0028】
アントラセン誘導体としては、例えば、9,10−ジエトキシアントラセンや9,10−ジブトキシアントラセン、2−エチル−9,10−ジエトキシアントラセン、2−tertブチル−9,10−ジブトシキアントラセン、2−エチル−9,10−ビス(2エチルヘキシロキシ)アントラセン等を挙げることができる。
【0029】
実画像用インクや背景画像用インクの組成としては、上記のような化合物等を含んで構成される。例えばブラック(K)のプロセスカラーでは、
分散液 12.5重量%
各種の重合性化合物 計78.7重量%
変性シリコーンオイル 0.2重量%
塩基性化合物 0.1重量%
光開始剤プロピレンカーボネート50%液 6.0重量%
アントラセン誘導体 1.5重量%
ナフタレン誘導体 1.0重量%
の溶液に適量の顔料が添加されて形成される。
【0030】
また、背景画像用インクでは、分散液や各種の重合性化合物等の濃度が適宜設定されるが、本実施形態では、特に、背景画像用インクに含有されるアントラセンやアントラセン誘導体(以下、両者をあわせてアントラセン等という)の濃度が、実画像用インクに含有されるアントラセン等の濃度より少なく、かつ、実画像用インクに含有されるアントラセン等の濃度の20%以上になるように調整される。また、下記に示すように、背景画像用インクに含有されるアントラセン等の濃度が、実画像用インクに含有されるアントラセン等の濃度の20%以上70%以下の範囲内に調整されていることが好ましい。
【0031】
次に、本実施形態に係るインクジェット用インクセットに光を照射した場合のインクの黄ばみについて説明する。
【0032】
図1に、背景画像用インクとして白インクを用い、背景画像用インクに含有されるアントラセン等の濃度と背景画像用インクに照射する紫外線の硬化光量を種々変化させて、それぞれ記録媒体上で硬化した背景画像用インクの黄ばみ具合を測定した実験の結果を示す。
【0033】
なお、実験には後述するインクジェット記録装置1を用い、増感剤としてアントラセンを含有させ、記録媒体上の所定の領域にいわゆるべた打ちした背景画像用インクに対して光源13であるLEDから主波長が365nmの活性光線を照射して硬化させた。また、インクの黄ばみ具合は、測色計を用いて硬化した各背景画像用の色彩を測色し、L表色系で黄色成分を表すbの測定値をプロットした。
【0034】
さらに、図1中、◆は増感剤であるアントラセンを1.0重量%添加した背景画像用インク、□は1.5重量%添加した背景画像用インク、△は2.0重量%添加した背景画像用インクについての結果をそれぞれ表す。なお、Y、M、C、Kのプロセスカラーの実画像用インクでは、通常、アントラセン等は1.5重量%程度添加される。
【0035】
図1に示されるように、背景画像用インクに添加されるアントラセンの濃度が大きくなるほど硬化した後の背景画像用インクのbの値が大きくなり、黄ばみの度合が強くなる。特に、Y、M、C、Kのプロセスカラーの実画像用インクの硬化に最小限必要な図中に硬化光量Aで示される例えば50[mJ/m]の硬化光量では、アントラセンを1.0重量%添加した背景画像用インクではbの値が小さいのに対して、アントラセンを1.5重量%添加した背景画像用インクではbの値が大きくなり、アントラセンを2.0重量%添加した背景画像用インクでは照射する紫外線の硬化光量を減らさざるを得ないほど背景画像用インクの黄ばみが大きかった。
【0036】
通常、背景画像用インクには、実画像用インクと同濃度のアントラセン等、すなわち1.5重量%程度のアントラセン等が添加されるが、後述する理由により、それより少ないアントラセン等の濃度でも背景画像用インクは十分に硬化し、また、図1から分かるように、アントラセン濃度が低くなるほど、紫外線の照射により硬化した背景画像用インクの黄ばみが小さくなる。
【0037】
本願発明者らの実験では、背景画像用インクに添加されるアントラセン等の濃度が0.3重量%より小さくなると、すなわち背景画像用インクに添加されるアントラセン等の濃度が実画像用インクに添加されるアントラセン等の濃度の20%より小さくなると、硬化光量Aの紫外線の照射によってももはや背景画像用インクは十分硬化しなくなってしまうことが分かっている。
【0038】
また、上記と同様の実験条件における本願発明者らの他の実験、すなわち、後述するインクジェット記録装置1の光源13であるLEDから照射される紫外線の硬化光量を図1のAに固定した状態で、白インクの背景画像用インクに含有されるアントラセンの濃度を種々変化させた場合に、背景画像用インクの黄ばみ具合を目視により評価した実験の結果を図2に示す。
【0039】
なお、図2において、◎は背景画像用インクの黄ばみが確認されない状態、○は背景画像用インクの黄ばみが僅かに確認できる状態を表す。
【0040】
図2に示すように、背景画像用インクに添加されるアントラセンの濃度を1.05重量%以下の場合、すなわち背景画像用インクに添加されるアントラセンの濃度が実画像用インクに添加されるアントラセンの濃度の70%以下の場合、紫外線の照射により硬化した背景画像用インクに黄ばみは確認されなかったが、それを越える濃度では若干ではあるが黄ばみが確認された。以上のことから、背景画像用インクに含有されるアントラセン等の濃度は、実画像用インクに含有されるアントラセン等の濃度の20%以上70%以下の範囲内に調整されていることが好ましいことが分かる。
【0041】
以上のように、本実施形態に係るインクジェット用インクセットによれば、背景画像用インクに含有されるアントラセンやアントラセン誘導体の濃度を実画像用インクに含有されるアントラセン等の濃度より少なくする等して背景画像用インクの活性光線に対する硬化感度を実画像用インクの活性光線に対する硬化感度より低下させることで、特に白色や透明に記録されるべき画像の背景部分の背景画像用インク中の樹脂成分や増感剤としてのアントラセン等が多量の紫外線を吸収して黄ばむことを有効に防止することが可能となる。
【0042】
そして、画像の背景部分が黄ばみを生じることなく本来の白色や透明が鮮やかに記録されるようになるため、本実施形態に係るインクジェット用インクセットを用いた画像形成により、記録媒体上に鮮明な画像を形成することが可能となる。
【0043】
次に、上記のインクジェット用インクセットを用いた本実施形態に係るインクジェット記録装置について説明する。
【0044】
本実施形態に係るインクジェット記録装置1は、図3に示すように、支持台2に支持されたプリンタ本体3を備えており、プリンタ本体3には、記録媒体Sを非記録面側から支持するプラテン4が配設されている。プラテン4の図中矢印Yで示される副走査方向上流側および下流側には、記録媒体Sを搬送する図示しない搬送ローラ等がそれぞれ配設されている。搬送ローラは図示しない搬送モータにより間欠的に回転駆動されるようになっており、これにより記録媒体Sが所定量の移動と停止とを繰り返しながら副走査方向Yに搬送されるようになっている。なお、以下、副走査方向Yを搬送方向Yという。
【0045】
プラテン4の上方には、ガイドレール5が設けられている。ガイドレール5には、略筐形のキャリッジ6が支持されており、キャリッジ6は、図示しない駆動機構によりガイドレール5に沿って図中矢印Xで示される主走査方向に往復移動するようになっている。また、プラテン4の主走査方向Xの一端側には、後述する記録ヘッド10から吐出されるインクジェット用インクセットの実画像用インクや背景画像用インク等を貯蔵するインクタンク7が格納されており、インクタンク7からフレキシブルチューブ8を介して記録ヘッド10にインクが供給されるようになっている。また、プラテン4の主走査方向Xの他端側には、記録ヘッド10をクリーニングするためのメンテナンスユニット9が設けられている。
【0046】
キャリッジ6には、図4の概略平面図に示すように、紫外線硬化型インクを吐出する複数の記録ヘッド10が搭載されており、各記録ヘッド10はそれぞれ主走査方向Xに並設されている。各記録ヘッド10からは、インクジェット用インクセットの実画像用インクであるイエロー(Y)やマゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)のプロセスカラーや、背景画像用インクである透明インク(CL)や白インク(W)が吐出されるようになっている。
【0047】
なお、実画像用インクは、上記のプロセスカラーに限定されず、記録媒体Sに実画像を形成するためのインクであれば、この他にも、オレンジやバイオレット、金色、銀色等の特色インク等が含まれる。また、各記録ヘッド10等の配置は図4に示した場合に限らず、適切な位置に適宜配置される。
【0048】
各記録ヘッド10は、ガイドレール5(図3参照)に沿ったキャリッジ6の主走査方向Xの往復移動にあわせて記録媒体Sの上方を走査しながらインクを吐出するようになっている。各記録ヘッド10の底面には、図5に示すように図示しない複数のノズルが形成されたノズル面11が形成されており、各記録ヘッド10は、ノズル面11がキャリッジ6の底部を貫通してプラテン4上に載置された記録媒体Sに対向するように配置されている。
【0049】
図4や図5に示すように、並設された各記録ヘッド10の間および主走査方向Xの両端の記録ヘッド10のさらに外側には、光を照射する光照射装置12がそれぞれ配設されている。各光照射装置12は、記録媒体Sに着弾したインクに光を照射する光源13をそれぞれ備えている。
【0050】
本実施形態では、各光源13は、前述したように瞬時に点灯が可能で寿命が長い等の利点があるLEDで構成されており、LEDからは、主波長が365nmの活性光線が発光されるようになっている。また、光源13から照射される紫外線の硬化光量は、プロセスカラーや特色インク等の実画像用インクと白インクや透明インク等の背景画像用インクとで単位時間当たりの硬化光量が同じ硬化光量になるように設定されている。
【0051】
なお、図4に示した例では、マゼンタ(M)やシアン(C)の記録ヘッド10に隣接する光照射装置12と、透明インク(CL)や白インク(W)の記録ヘッド10に隣接する光照射装置12とをそれぞれ別体として設ける場合について示したが、これらをそれぞれ搬送方向Yに延在する1本の光照射装置として構成することも可能である。
【0052】
各記録ヘッド10と各光照射装置12の間には、光照射装置12の光源13から照射された光が記録媒体Sで反射されて記録ヘッド10のノズル面11に到達することを防止するための光トラップ14がそれぞれ配設されている。なお、光トラップ14は、その内面15に光を吸収する光吸収材をコーティングするなど反射光を効果的にトラップするために内面15が適宜処理されている。
【0053】
次に、本実施形態に係るインクジェット記録装置1の作用および上記のインクジェット用インクセットを用いたインクジェット記録方法について説明する。
【0054】
インクジェット記録装置1では、画像記録時には、記録媒体Sが搬送ローラ等で搬送方向Yに搬送され、所定の記録開始位置にセットされる。そして、静止した記録媒体Sの上方でキャリッジ6の主走査方向Xへの移動が開始され、キャリッジ6の移動に伴う記録ヘッド10の主走査方向Xへの走査が開始される。
【0055】
そして、記録ヘッド10の主走査方向Xへの走査の間に記録ヘッド10のノズルからインクジェット用インクセットの実画像用インクや背景画像用インクが吐出され、記録媒体S上に着弾したインクに対して、キャリッジ6の移動に伴ってその上方に移動してきた光照射装置12の光源13から紫外線が照射され、インクが記録媒体S上で硬化する。
【0056】
続いて、キャリッジ6の主走査方向Xの一方向への移動或いは往復移動が終了すると、記録媒体Sが搬送方向Yに所定量だけ搬送されて停止する。そして、記録ヘッド10の主走査方向Xの走査、インクの吐出、紫外線の照射による硬化が行われる。このように、記録ヘッド10の走査と記録媒体Sの搬送、停止が繰り返されて、記録媒体S上に実画像および背景画像が形成されて画像が記録される。
【0057】
その際、本実施形態では、光源13であるLEDから実画像用インクや背景画像用インクに対して主波長が比較的長波長の365nmの活性光線が発光される。一方、インクでは、インクに含有された長波増感剤であるアントラセン等がこの活性光線を吸収して効率良くインクが硬化される。
【0058】
光源13から照射される紫外線の硬化光量が大きいと、記録媒体S自体が変質してしまったり、紫外線が装置から漏れて作業者に悪影響を及ぼしたりするため、インクジェット記録装置1の稼動の際にそのような問題が生じないように、紫外線の硬化光量や、インク中に含有されるアントラセン等の濃度等のインクの活性光線に対する硬化感度が設定される。
【0059】
インクジェット記録装置1では、背景画像のように記録媒体Sの一定の領域を単色に記録する場合には、1種類の色インクを一面に吐出する、いわゆるべた打ちが行われる。また、種々の色彩が表現される実画像の部分では、記録媒体S上に実画像用インクで画像部分を形成する場合、先に着弾し硬化したインクの上にさらに別の色のインクを吐出する、いわゆる重ね打ちが行われる。
【0060】
そして、通常、紫外線硬化型インクが記録媒体S上に重ね打ちされる場合には、1種類のインクをべた打ちする場合に比べて、インクに照射する紫外線の硬化光量を増やすことが必要になる。
【0061】
従って、インクジェット記録装置1では、インクが重ね打ちされる場合を基準として、重ね打ちされたインクが十分に硬化し、かつ、前述した記録媒体S自体の変質や紫外線の漏出等の問題が生じないように図1に示したインクの硬化に最小限必要な紫外線の硬化光量AやY、M、C、Kのプロセスカラー等の実画像用インクの活性光線に対する硬化感度、すなわち例えば実画像用インクに含有させる長波増感剤としてのアントラセン等の濃度が決定される。
【0062】
一方、白インクや透明インクの背景画像用インクは、前述したように、通常、記録媒体S上にべた打ちされる。そのため、背景画像用インクに照射される紫外線の硬化光量は実画像用インクに照射される紫外線の硬化光量より少なくてよい。すなわち、インクに吸収させる紫外線の量が少なくても、べた打ちの場合には十分にインクが硬化する。
【0063】
従って、本実施形態のように、光源13から照射される紫外線の硬化光量が実画像用インクと背景画像用インクとで同じであれば、背景画像用インクに含有させるアントラセン等の濃度を実画像用インクに含有させるアントラセン等の濃度より少なくする等して活性光線に対する硬化感度を低下させても、背景画像用インクは紫外線の照射により十分に硬化する。
【0064】
以上のように、本実施形態に係るインクジェット記録装置1およびインクジェット記録方法によれば、インクジェット用インクセットのうち、実画像用インクがいわゆる重ね打ちされて記録が行われるのに対し、背景画像用インクはいわゆるべた打ちにより記録が行われること、およびインクをべた打ちする場合にはインクを重ね打ちする場合よりも少ない紫外線の量によってインクが硬化することを利用して、実画像用インクより活性光線に対する硬化感度が低い背景画像用インクを十分に硬化させることが可能となる。
【0065】
また、背景画像用インクが吸収する紫外線の量が少なくて済むため、特に白色や透明に記録されるべき画像の背景部分の背景画像用インク中の増感剤としてのアントラセン等が多量の紫外線を吸収して黄ばむことを有効に防止することが可能となり、画像の背景部分が黄ばみを生じることなく本来の白色や透明が鮮やかに記録されるようになる。そのため、インクジェット用インクセットを用いた本実施形態に係るインクジェット記録装置1およびインクジェット記録方法により、記録媒体上に鮮明な画像を形成することが可能となる。
【0066】
なお、本実施形態では、シリアルヘッド方式のインクジェット記録装置1について説明したが、本発明は、図6に示すようなラインヘッド方式のインクジェット記録装置20についてもまったく同様に適用することができる。
【0067】
すなわち、ラインヘッド方式のインクジェット記録装置20では、図示しないプラテン上を図中矢印Zで示される搬送方向に搬送される記録媒体Sに対して、その上方に並設された記録ヘッド21から実画像用インクや背景画像用インクを吐出し、記録媒体S上に着弾したインクに対して光照射装置22の光源23から紫外線を照射する。なお、記録ヘッド21と光照射装置22との間には、光トラップ24がそれぞれ配設されている。
【0068】
インクジェット記録装置20をこのように構成し、上記のインクジェット用インクセットを用いれば、実画像用インクより活性光線に対する硬化感度が低い背景画像用インクを十分に硬化させることが可能となる。また、背景画像用インクが吸収する紫外線の量が少なくて済むため、特に白色や透明に記録されるべき画像の背景部分の背景画像用インク中の増感剤としてのアントラセン等が多量の紫外線を吸収して黄ばむことを有効に防止することが可能となる。
【0069】
このように、画像の背景部分が黄ばみを生じることなく本来の白色や透明が鮮やかに記録されるようになるため、インクジェット用インクセットを用いた本実施形態に係るインクジェット記録装置20およびインクジェット記録方法により、記録媒体上に鮮明な画像を形成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】アントラセンの濃度と照射する紫外線の硬化光量を変化させた場合の背景画像用インクの黄ばみ具合を測定した実験の結果を示すグラフである。
【図2】アントラセンの濃度を変化させた場合の背景画像用インクの黄ばみ具合を評価した実験の結果を示す図である。
【図3】本実施形態に係るインクジェット記録装置の構成を示す斜視図である。
【図4】記録ヘッドや光照射装置等が配設されたキャリッジの概略平面図である。
【図5】図4のキャリッジの記録ヘッド等を含む部分の概略断面図である。
【図6】ラインヘッド方式の記録ヘッドを有するインクジェット記録装置の構成を示す概略平面図である。
【符号の説明】
【0071】
1、20 インクジェット記録装置
10、21 記録ヘッド
13、23 光源
S 記録媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット記録装置に用いられるインクジェット用インクセットにおいて、
色材を含み記録媒体上に実画像部分を形成するための光硬化型の実画像用インクと、記録媒体上に背景画像部分を形成するための光硬化型の背景画像用インクとを含み、
前記背景画像用インクは、前記実画像用インクより活性光線に対する硬化感度が低いことを特徴とするインクジェット用インクセット。
【請求項2】
前記実画像用インクおよび前記背景画像用インクには、それぞれ増感剤としてアントラセンまたはアントラセン誘導体が添加されていることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット用インクセット。
【請求項3】
前記背景画像用インクに含有されるアントラセンまたはアントラセン誘導体の濃度は、前記実画像用インクに含有されるアントラセンまたはアントラセン誘導体の濃度より少ないことを特徴とする請求項2に記載のインクジェット用インクセット。
【請求項4】
前記背景画像用インクに含有されるアントラセンまたはアントラセン誘導体の濃度は、前記実画像用インクに含有されるアントラセンまたはアントラセン誘導体の濃度の20%以上になるように調整されていることを特徴とする請求項3に記載のインクジェット用インクセット。
【請求項5】
前記背景画像用インクに含有されるアントラセンまたはアントラセン誘導体の濃度は、前記実画像用インクに含有されるアントラセンまたはアントラセン誘導体の濃度の70%以下の範囲内に調整されていることを特徴とする請求項4に記載のインクジェット用インクセット。
【請求項6】
前記背景画像用インクは、白インクであることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のインクジェット用インクセット。
【請求項7】
前記背景画像用インクは、透明インクであることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のインクジェット用インクセット。
【請求項8】
色材を含み記録媒体上に実画像部分を形成するための光硬化型の実画像用インクと、記録媒体上に背景画像部分を形成するための前記実画像用インクより活性光線に対する硬化感度が低い光硬化型の背景画像用インクとを吐出する記録ヘッドと、
記録媒体に着弾した前記実画像用インクと前記背景画像用インクとに対して活性光線を含む光を照射する光源と
を備えることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項9】
前記光源は、300nm以上にピーク波長を有する紫外線を含む光を照射することを特徴とする請求項8に記載のインクジェット記録装置。
【請求項10】
前記光源は、LEDであることを特徴とする請求項9に記載のインクジェット記録装置。
【請求項11】
色材を含み記録媒体上に実画像部分を形成するための光硬化型の実画像用インクと、記録媒体上に背景画像部分を形成するための前記実画像用インクより活性光線に対する硬化感度が低い光硬化型の背景画像用インクとを記録ヘッドから記録媒体に吐出し、
記録媒体に着弾した前記実画像用インクと前記背景画像用インクとに対して光源から活性光線を含む光を照射して硬化させて画像を記録することを特徴とするインクジェット記録方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2009−57468(P2009−57468A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−225881(P2007−225881)
【出願日】平成19年8月31日(2007.8.31)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】