説明

インクジェット用樹脂組成物

【課題】高水蒸気バリア性、高ガスバリア性を有する架橋ゴムと同等以上の水蒸気バリア性、ガスバリア性を持ち、かつプレス成形、射出成形、及び押出し成形等の成形が容易に行うことができるインクジェット用樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(A)成分:イソブチレン系重合体ブロック(a)と、スチレン系重合体ブロック(b)とで構成される(b)−(a)−(b)型イソブチレン系トリブロック共重合体と、(B)成分:環状ポリオレフィン系重合体とを少なくとも含むインクジェット用樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク供給チューブ等のインクジェット記録装置用の弾性部材に用いられるインクジェット用樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置のインク供給手段としては、インクが充填されている交換可能なタンク(インクタンク)をキャリッジとは別に搭載したタイプがある。同タイプのインクジェット記録装置では、インクタンクとキャリッジに搭載されたインクジェット記録ヘッドとをインク供給チューブを介してつなぎ、インクジェット記録ヘッドに対してインクが供給される仕組みが取られる。このタイプは、インクタンクの容量を大きくすることが容易であり、比較的大量のインクを使用する目的に適している。
【0003】
このようなタイプのインクジェット記録装置で記録を行う際には、記録ヘッドを搭載したキャリッジの往復駆動と共に、インクタンクとキャリッジに搭載されたインクジェット記録ヘッドとをつなぐインク供給チューブも引き回され、大きく曲げられる。そのため、インク供給チューブの硬度が高いと疲労破壊を起こすおそれもあり、インク供給チューブには往復駆動に耐え得る柔軟性が求められる。特に、近年インクジェットプリンターの小型化が進んでおり、記録を行う際にインク供給チューブには、さらに屈曲率の小さな往復駆動が求められ、更なる柔軟性が求められている。
【0004】
また、インク供給チューブ内に存在するインクから、インク供給チューブ外に水分が蒸発すると、インクの粘度上昇を招き、吐出異常・インクの組成変化による印字品位低下などを起こすことがある。そのため、インク供給チューブには、高い水蒸気バリア性も求められる。
【0005】
加えて、空気などの外気ガスがチューブ材料に浸透すると、インク供給チューブ内のインクへ外気ガスが溶解してインクの脱気度が低下する、またはインク中に気泡が発生・成長することによって、インクの吐出異常や印字品位低下を招く可能性がある。そのため、インク供給チューブには、高いガスバリア性も求められる。特に、ピエゾ素子を用いたインクジェット記録装置においては、インク供給チューブ内に抱き込まれたガスがクッションになって、インク吐出に必要なエネルギーをインク室に伝えられずに、吐出ができなくなるおそれもあり、ガスバリア性が非常に重要である。
【0006】
インクシールや弁は、インク漏れを防止するために圧縮状態で使用されることが多く、そのため変形に耐えうる高いゴム弾性が求められる。
【0007】
上述したインク供給チューブ材料、インクシール材料や弁材料には、架橋ゴムや熱可塑性樹脂が使用されてきた。しかし、架橋ゴムでは長時間の架橋及び成形工程が求められることや、別材料との二色成形が困難であるといった課題がある。一方、熱可塑性樹脂はゴムに比べて硬度が高いため、高い柔軟性が要求される部位には使用できない。そこで、近年ではプレス成形、射出成形、及び押出し成形などを利用して成形品を容易に製造することのでき、かつゴム弾性や柔軟性に優れた熱可塑性エラストマーが注目されてきている。
【0008】
熱可塑性エラストマーにはオレフィン系、ウレタン系、エステル系、スチレン系、塩化ビニル系などがある。中でもスチレン系熱可塑性エラストマーは、柔軟性とゴム弾性に優れている。スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)やスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン−エチレンブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−エチレンプロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)などが知られている。さらに近年ではスチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体(SIBS)も開発されている。
【0009】
特許文献1では、インクと接する内層および外気と接する外層に耐インク性があり、透湿性が小さく剛性の小さい材料を使用し、中間層には、ガス透過率の低い材料を使用してなる積層構成としたインクジェット記録用インク供給チューブが提案されている。具体的な材料としては、内層および外層の材料にはポリエチレンを用い、中間層にはエチレンビニルアルコール共重合体またはポリ塩化ビニリデンを使用している。
【0010】
特許文献2では、熱可塑性エラストマーを用いたインクジェット用樹脂組成物が提案されている。具体的には、SIBSとポリオレフィンと液状ポリブテンとを使用しており、得られたインクジェット用樹脂組成物は、優れたガスバリア性および水蒸気バリア性を有し、柔軟性も良好である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平09−300652号公報
【特許文献2】特開2005−305878号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1にあるようなエチレンビニルアルコール共重合体やポリ塩化ビニリデンは、ガス透過率は低いものの剛性が高いために、インク供給チューブとしては、耐屈曲性の点から、柔軟性に課題があった。また、外層としてポリエチレンを用いたインク供給チューブは、大型プリンタ用途には適しているものの、さらに屈曲率の小さな往復駆動が求められる小型プリンタ用途においては、更なる柔軟性の要求に課題が残っていた。また、積層構造とすることで、コストアップを伴うことも避けられない。
【0013】
一方、特許文献2のSIBSを用いたインクジェット用樹脂組成物は、優れた水蒸気バリア性、ガスバリア性、柔軟性を有しており、上記の課題を解決したものである。
【0014】
しかしながら、特許文献2のSIBSを用いたインクジェット用樹脂組成物においても、高水蒸気バリア性、高ガスバリア性を有する架橋ゴムと比較すると、未だ水蒸気バリア性、ガスバリア性の点で劣る傾向があった。このため、これらの架橋ゴムと同等の水蒸気バリア性、ガスバリア性が求められるインクジェット用途においては、特許文献2に記載の樹脂組成物では、架橋ゴムの代替は困難な場合があった。なお、高水蒸気バリア性、高ガスバリア性を有する架橋ゴムとしては、水素化ニトリルゴム(H−NBR)、塩素化ブチルゴム(Cl−IIR)および臭素化ブチルゴム(Br−IIR)等が知られている。
【0015】
そのため、高水蒸気バリア性、高ガスバリア性を有する架橋ゴムと同等以上の水蒸気バリア性、ガスバリア性を持ち、かつプレス成形、射出成形、及び押出し成形などを利用して成形品を容易に製造することができるインクジェット用樹脂組成物が求められていた。
【0016】
本発明は上記状況を鑑み、高水蒸気バリア性、高ガスバリア性を有する架橋ゴムと同等以上の水蒸気バリア性、ガスバリア性を持ち、かつプレス成形、射出成形、及び押出し成形等の成形が容易に行えるインクジェット用樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、(A)成分:イソブチレン系重合体ブロック(a)と、スチレン系重合体ブロック(b)とで構成される(b)−(a)−(b)型イソブチレン系トリブロック共重合体と、
(B)成分:環状ポリオレフィン系重合体と
を少なくとも含むインクジェット用樹脂組成物である。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、高水蒸気バリア性、高ガスバリア性を有する架橋ゴムと同等以上の水蒸気バリア性、ガスバリア性を持ち、かつプレス成形、射出成形、及び押出し成形等の成形が容易に行えるインクジェット用樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<インクジェット用樹脂組成物>
本発明者等は、特定の重合体ブロックを含む熱可塑性エラストマー成分と、特定の滑剤成分とを配合することによって、前記目的を達成した。
【0020】
本発明のインクジェット用樹脂組成物は、熱可塑性エラストマー成分として(A)成分と、滑剤成分として(B)成分とを少なくとも含む熱可塑性エラストマー組成物から構成されることができる。なお、インクジェット用樹脂組成物とは、インクジェット記録装置に用いる樹脂組成物を意味する。
【0021】
また、本発明は、インクタンクから記録ヘッドへとインクを供給するための、インクジェット記録装置用の弾性部材、特にインク供給チューブおよびインク流路に用いられるインクシールや弁に適用することができる。
(A)成分とは、イソブチレン系重合体ブロック(a)と、スチレン系重合体ブロック(b)とで構成される(b)−(a)−(b)型イソブチレン系トリブロック共重合体を意味する。
(B)成分とは、環状ポリオレフィン系重合体を意味する。
以下に各成分を説明する。
【0022】
〔(A)成分〕
前記(A)成分であるイソブチレン系トリブロック共重合体は、ハードセグメントとして、スチレン系重合体ブロック(b)、ソフトセグメントとして、イソブチレン系重合体ブロック(a)を有する。
【0023】
このハードセグメントが加硫ゴムの架橋点のように作用して塑性変形を阻止し、ソフトセグメントが軟らかく塑性変形することによって、このトリブロック共重合体は加硫ゴムと同様のゴム弾性を示す。
【0024】
前記スチレン系重合体ブロック(b)とは、スチレン単位及びスチレン系誘導体単位の少なくとも一方を含む重合体ブロックである。また、スチレン系重合体ブロック(b)は、スチレン単位およびスチレン系誘導体単位の少なくとも一方からなる重合体ブロックであることもできる。該スチレン系誘導体には、α−メチルスチレン、β−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−クロロスチレン、p−ブロモスチレン、2,4,5−トリブロモスチレン等が挙げられる。これらの中でも、スチレンは、安価であり最も好ましい。また、これらの重合体は、単独で用いても良いし、二種以上を組み合わせて用いても良い。スチレン単位及びスチレン系誘導体単位の他に、スチレン系重合体ブロック(b)に含まれていてもよい単量体には、インデン、ビニルナフタレン等が挙げられる。また、これらは、単独で用いても良いし、二種以上を組み合わせて用いても良い。
【0025】
前記イソブチレン系重合体ブロック(a)とは、イソブチレン単位を少なくとも含む重合体ブロックである。また、イソブチレン系重合体ブロック(a)は、イソブチレン単位からなる重合体ブロックと言い換えることもできる。イソブチレン単位の他に、イソブチレン系重合体ブロック(a)に含まれていてもよい単量体には、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソプレン等が挙げられる。また、これらの重合体は、単独で用いても良いし、二種以上を組み合わせて用いても良い。
【0026】
トリブロック共重合体((A)成分)における(a)成分と(b)成分との含有割合は、水蒸気バリア性、ガスバリア性、柔軟性、成形性の観点から、(a)成分が50質量%以上90質量%以下、(b)成分が10質量%以上50質量%以下であることが好ましい。また、(a)成分が70質量%以上90質量%以下、(b)成分が10質量%以上30質量%以下であることがより好ましい。
【0027】
(b)成分の含有量が10質量%以上であると、樹脂組成物の成形性が低下して成形が困難となることを容易に防ぐことができる。また(b)成分の含有量が50質量%以下であると樹脂組成物の水蒸気バリア性、ガスバリア性が低下することを容易に防ぐことができる。
【0028】
(a)成分と(b)成分の含有量は、1H−NMR測定により求めることができる。トリブロック共重合体の質量平均分子量は特に制限されないが、成形性、水蒸気バリア性、ガスバリア性などの面から40,000以上150,000以下であることが好ましく、60,000以上130,000以下であることが特に好ましい。
【0029】
本発明の樹脂組成物100質量%中における前記(A)成分の配合比率は40質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましい。40質量%以上では、樹脂組成物の柔軟性、水蒸気バリア性、ガスバリア性が低下することを容易に防ぐことができる。また、樹脂組成物の成形性の観点から、(A)成分の配合比率は95質量%以下であることが好ましい。なお、樹脂成分中の(A)成分および(B)成分の配合比率は、1H−NMR測定により特定することができる。
【0030】
〔(B)成分〕
本発明の樹脂組成物においては、滑剤として、前記(B)成分である環状ポリオレフィン系重合体が配合される。これらは、樹脂組成物の成形性の向上を図る目的で配合され、滑剤を配合することで成形時の樹脂組成物の流動性および冷却速度が改善され、成形性が良化する。また、押出成形では、ノズルから押出された直後のチューブの形状を維持させるためにも滑剤の添加が求められる。
【0031】
前記環状ポリオレフィン系重合体(B成分)とは、シクロオレフィンを開環重合またはシクロオレフィンをα−オレフィンと共重合して得られる脂肪族化合物の中で脂環構造を有するポリマーを意味し、具体的には環状オレフィンの開環(共)重合体およびその水素添加物、環状オレフィンの付加(共)重合体、環状オレフィンとエチレン、プロピレン、ブテン、ペンテンなどのα−オレフィン類とのランダム共重合体等を指す。前記環状ポリオレフィン系重合体(B成分)としては、例えばノルボルネン系誘導体を開環メタセシス重合することにより得た環状ポリオレフィン樹脂や、ノルボルネン系誘導体とエチレン、プロピレン、ブテン、ペンテンなどのα−オレフィン類を共重合した環状ポリオレフィン共重合体樹脂や、シクロペンタジエンの1,2−付加重合体、1,4−付加重合体等があげられる。これらの中でも特に、ノルボルネン系誘導体を開環メタセシス重合することにより得た環状ポリオレフィン樹脂や、ノルボルネン系誘導体とα−オレフィン類を共重合して得た環状ポリオレフィン共重合体樹脂は、成形性に優れるため本発明に好適に用いられる。前記環状ポリオレフィン樹脂は、ノルボルネン系誘導体を用いた開環重合反応生成物であり、前記環状ポリオレフィン共重合体は、ノルボルネン系誘導体を用いた共重合反応生成物である。なお、ノルボルネン系誘導体とは、シクロヘキセンのパラ位をメチレン基で架橋した分子構造(ノルボルネン構造)を主骨格に持つ化合物を意味する。前記ノルボルネン系誘導体としては、例えばノルボルネン、ビシクロヘプト−2−エン(2−ノルボルネン)およびその誘導体、5−プロピルノルボルネン、5−フェニルノルボルネン、1−メチルノルボルネン、6−メチルノルボルネン、6−エチルノルボルネン、5,6−ジメチルノルボルネン、ベンジルノルボルネン、テトラシクロ−3−ドデセン、8−メチルテトラシクロ−3−ドデセン、8−エチルテトラシクロ−3−ドデセン、5,10−ジメチルテトラシクロ−3−ドデセン等が挙げられる。また、これらの環状ポリオレフィン系樹脂は、単独で用いてもよく、二種以上の樹脂を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
本発明の樹脂組成物は、滑剤として環状ポリオレフィン系重合体を含んでいるため、ポリプロピレンを配合した従来の樹脂組成物と比較しても水蒸気バリア性、ガスバリア性に優れる。また、水素化ニトリルゴム(H−NBR)、塩素化ブチルゴム(Cl−IIR)および臭素化ブチルゴム(Br−IIR)等の高水蒸気バリア性、高ガスバリア性の架橋ゴムと同等以上の水蒸気バリア性、ガスバリア性を持つ。また、ポリプロピレンに比べて成形収縮率が小さく寸法精度が高い環状ポリオレフィン系重合体が配合されているため、本発明のインクジェット用樹脂組成物からなる成形物には良好な寸法精度が得られる。
【0033】
本発明の樹脂組成物100質量%中における前記(B)成分の配合量は、成形性、柔軟性の観点から、1質量%以上40質量%以下であることが好ましく、5質量%以上30質量%以下であることがより好ましい。(B)成分の配合量が1質量%以上であると、樹脂組成物の成形性が低下して樹脂組成物の成形が困難となることを容易に防ぐことができる。また(B)成分の配合量が40質量%以下であると、樹脂組成物の柔軟性が低下することを容易に防ぐことができる。
【0034】
また、(B)成分のメルトマスフローレイト(MFR)(JIS K7210:1999に準拠して測定)には特に制限はない。しかし、成形性の面から(B)成分のMFRは、0.1g/10min以上50g/10min以下であることが好ましく、0.1g/10min以上30g/10min以下であることが更に好ましい。
【0035】
〔その他の成分〕
本発明の樹脂組成物には、前記(A)成分と前記(B)成分以外に、本発明の目的が損なわれない範囲で、必要に応じて種々の成分を配合することができる。例えば、前記(A)成分以外の熱可塑性エラストマー成分、相溶化剤、軟化剤、難燃剤、界面活性剤、発砲剤、酸化防止剤、老化防止剤、接着付与剤などの、各種添加剤等を適宜配合することができる。
【0036】
前記(A)成分以外の熱可塑性エラストマー成分としては、以下のものが挙げられる。スチレン−エチレン/ブチレン−スチレントリブロック共重合体(SEBS)、イソプレンブロックが3,4−ポリイソプレンで構成されたスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、イソプレンブロックが1,4−ポリイソプレンで構成されたスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)等。
【0037】
その中でも特に、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレントリブロック共重合体(SEBS)は、インク供給チューブ材料として成形性に優れた材料である。またSEBSは、スチレン系熱可塑性エラストマーの中でも比較的水蒸気バリア性、ガスバリア性の高い材料である為、少量添加により本発明の樹脂組成物にアロイすることによって高い水蒸気バリア性、ガスバリア性を維持しつつ成形性をより向上させることができる。
【0038】
本発明の樹脂組成物100質量%中における前記(A)成分以外の熱可塑性エラストマー成分の配合比率は、水蒸気バリア性、ガスバリア性の観点から、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることが更に好ましい。
【0039】
前記(A)成分以外の熱可塑性エラストマー成分の質量平均分子量は特に制限されない。しかし、成形性などの面から、例えば前記スチレン−エチレン/ブチレン−スチレントリブロック共重合体(SEBS)に関しては40,000以上120,000以下であることが好ましい。
【0040】
また、特に樹脂組成物の混練り性を向上させる相溶化剤として、必要に応じて石油系軟化剤やパラフィンオイル、ポリブテン等の化合物を配合できる。また、この化合物は、相溶化剤としての役割のほかに、樹脂組成物から得られる成形物に更に柔軟性を付与し、硬度を調整する役割もある。中でもポリブテンは水蒸気バリア性、ガスバリア性が高く、本発明の樹脂組成物中に配合しても水蒸気バリア性、ガスバリア性の低下が少ない。
【0041】
ポリブテンとしては、石油精製のC4留分を原料として得られる、イソブテンを主たるモノマーとして重合してなる重合体であるイソブテンのホモポリマー、またはイソブテンとn−ブテンのコポリマー等を用いることができる。しかし、上記石油系軟化剤やパラフィンオイル、ポリブテンは樹脂組成物の引張強度やゴム弾性を低下させてしまう傾向がある。このため、本発明の樹脂組成物100質量%中におけるこれら相溶化剤成分の配合量は25質量%以下が好ましく、15質量%以下が更に好ましい。
【0042】
本発明の樹脂組成物は、前記の種々の配合物から構成することができるが、インクジェット記録装置に使用しうる柔軟性の観点から、JIS K 6253の規定に従い測定したゴム硬度が30以上80未満であることが好ましい。また本発明の樹脂組成物は、透湿度が、1.5g/m2・24h未満であり、空気透過度が、1.5×10-10cm3・cm/cm2・s・cmHg未満であることが好ましい。これにより、水素化ニトリルゴム(H−NBR)、塩素化ブチルゴム(Cl−IIR)および臭素化ブチルゴム(Br−IIR)等の高水蒸気バリア性、高ガスバリア性の架橋ゴムと同等以上の水蒸気バリア性、ガスバリア性を容易に得ることができる。なお、上記透湿度は、本発明の樹脂組成物を用いて厚さ0.5mmシートを作製し、JIS K 7129(lyssy法)の規定に従い、40℃、相対湿度90%の条件で測定した値である。また、上記空気透過度は、本発明の樹脂組成物を用いて厚さ0.5mmシートを作製し、JIS K 7126(差圧法)の規定に従い、23℃の条件で測定した値である。
【0043】
<樹脂組成物の製造方法>
本発明の樹脂組成物を製造する方法は特に制限はなく、公知の方法を適用でき、例えば、上記(A)成分、(B)成分、および必要に応じて各種添加剤を、溶融混練装置を用いて140〜230℃の温度において混合することにより製造することができる。溶融混練装置としては、例えば、ラボプラストミル、ブラベンダー、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等のような密閉式混練装置、およびバッチ式混練装置、単軸押出機、二軸押出機のような連続式の溶融混練装置を用いることが出来る。
【0044】
このようにして得られた本発明の樹脂組成物は、熱可塑性の樹脂組成物に対して一般に用いられる成形方法及び成形装置を用いて成形でき、例えば、押出成形、射出成形、プレス成形、ブロー成形などによって、溶融成形することが出来る。
【0045】
本発明の樹脂組成物は、水蒸気バリア性、ガスバリア性、柔軟性、成形性などを高いレベルでバランス良く有している。また、本発明の樹脂組成物は、水素化ニトリルゴム(H−NBR)、塩素化ブチルゴム(Cl−IIR)および臭素化ブチルゴム(Br−IIR)等の高水蒸気バリア性、高ガスバリア性の架橋ゴムと同等以上の水蒸気バリア性、ガスバリア性を持つ。さらに、プレス成形、射出成形、及び押出し成形等の成形を容易に行うことができる。
【実施例】
【0046】
以下に、本発明の樹脂組成物を具体的に詳細に説明する。
後述する実施例1〜8において、以下の材料を用いて樹脂組成物を調製した。実施例1〜8の樹脂組成物の組成を表1に示す。表中のエラストマー、滑剤及び相溶化剤の欄の数値は、質量部を表す。なお、エラストマー3は(A)成分の要件を満たしていない。また、滑剤1はノルボルネン系誘導体から重合された環状ポリオレフィン樹脂であり、滑剤2はノルボルネン系誘導体から重合された環状ポリオレフィン共重合体である。
(A成分)
・エラストマー1:スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体(SIBS)[カネカ社製、商品名:SIBSTAR073T、スチレンブロック((b)成分)含有量:30質量%]。
・エラストマー2:スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体(SIBS)[カネカ社製、商品名:SIBSTAR102T、スチレンブロック((b)成分)含有量:15質量%]。
(A成分以外の熱可塑性エラストマー)
・エラストマー3:スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)[クラレ社製、商品名:セプトン8007、スチレンブロック含有量:30質量%]。
(B成分)
・滑剤1:環状ポリオレフィン樹脂(COP)[日本ゼオン社製、商品名:1020R]。
・滑剤2:環状ポリオレフィン共重合体(COC)[ポリプラスチックス社製、商品名:6015S−04]。
(添加剤)
・相溶化剤1:ポリブテン[新日本石油社製、商品名:HV−300、数平均分子量:1400]。
・相溶化剤2:パラフィン系オイル[出光興産社製、商品名:ダイアナプロセスオイルPW150]。
【0047】
(実施例1)
実施例1では、エラストマー1を60質量部、滑剤1を30質量部、相溶化剤1を10質量部配合した樹脂組成物を作製した。
【0048】
(実施例2)
実施例2では、実施例1の滑剤1を滑剤2に変更し、その他は実施例1と同様に配合した樹脂組成物を作製した。
【0049】
(実施例3)
実施例3は、実施例1の相溶化剤1を相溶化剤2(流動パラフィン)に変更し、その他は実施例1と同様に配合した樹脂組成物を作製した。
【0050】
(実施例4)
実施例4は、実施例1のエラストマー1をエラストマー2に変更し、その他は実施例1と同様に配合した樹脂組成物を作製した。
【0051】
(実施例5)
実施例5は、実施例1のエラストマー1を85質量部、滑剤1を5質量部に変更し、その他は実施例1と同様に配合した樹脂組成物を作製した。
【0052】
(実施例6)
実施例6は、エラストマー1を50質量部、エラストマー3を10質量部、滑剤1を40質量部配合した樹脂組成物を作製した。
【0053】
(実施例7)
実施例7は、エラストマー1を70質量部、エラストマー3を15質量部、滑剤1を15質量部配合した樹脂組成物を作製した。
【0054】
(実施例8)
実施例8は、実施例7の滑剤1を10質量部に変更し、相溶化剤1を5質量部加え、その他は実施例7と同様に配合した樹脂組成物を作製した。
【0055】
これらの樹脂組成物を用いて評価用試験片をそれぞれ作製し、以下の〔評価1〕〜〔評価4〕の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0056】
〔評価1〕ゴム硬度
上記樹脂組成物を用いて厚さ10.0mmのシートを作製し、JIS K6253の規定に準じて、タイプAデュロメーターを用いて測定し、以下の基準で評価した。
◎:硬度65未満のもの、
○:硬度65以上75未満のもの、
△:硬度75以上80未満のもの。
【0057】
〔評価2〕透湿度
上記樹脂組成物を用いて、厚さ0.5mmのシートを作製し、JIS K 7129の規定に準じて、40℃90%RHの条件で透湿度を測定し、以下の基準で評価した。
◎:透湿度が0.5g/m2・24h未満のもの、
○:透湿度が0.5g/m2・24h以上0.8g/m2・24h未満のもの、
△:透湿度が0.8g/m2・24h以上1.5g/m2・24h未満のもの。
【0058】
〔評価3〕空気透過度
上記樹脂組成物を用いて、厚さ0.5mmのシートを作製し、JIS K7126の規定に準じて、23℃の条件で空気透過度を測定し、以下の基準で評価した。
◎:空気透過度が0.5×10-10cm3・cm/cm2・s・cmHg未満のもの、
○:空気透過度が0.5×10-10cm3・cm/cm2・s・cmHg以上0.8×10-10cm3・cm/cm2・s・cmHg未満のもの、
△:空気透過度が0.8×10-10cm3・cm/cm2・s・cmHg以上1.5×10-10cm3・cm/cm2・s・cmHg未満のもの。
【0059】
〔評価4〕成形性
上記樹脂組成物の成形性を、一定押出速度条件下での樹脂組成物からなるインク供給チューブの平均表面粗さ(Ra)を用いて評価した。樹脂組成物の押出速度と平均表面粗さには相関があり、押出速度が上昇するにつれて平均表面粗さも増大する。インク供給チューブの品質維持のためには平均表面粗さが10μm以下であることが好ましく、すなわちこの条件下で成形できる押出速度が速いほど、成形性の良い材料と言い換えることも出来る。
【0060】
平均表面粗さ(Ra)は、レーザーテック社製5ラインコンフォーカル顕微鏡S130(商品名)を用いて測定を行った。対物レンズは20倍を用いており、Z分解能は0.2μmである。なお、平均表面粗さ(Ra)とはJIS B 0601;2001で定義される算術平均粗さを意味する。
バッチ式混練装置を用いて上記樹脂材料を溶融混練し、押出成形装置によってチューブ内径2.5mm、チューブ外径4.5mmのサイズのインク供給チューブを押出速度1.5m・min-1にて押出成形し、以下の基準で評価した。
◎:インク供給チューブの平均表面粗さ(Ra)が、3μm未満のもの。
○:インク供給チューブの平均表面粗さ(Ra)が、3μm以上6μm未満のもの、
△:インク供給チューブの平均表面粗さ(Ra)が、6μm以上10μm未満のもの。
【0061】
【表1】

【0062】
上記実施例1〜8において、いずれの評価項目についても高い水準を示した。
【0063】
良好な評価結果を示した実施例1〜8の樹脂組成物によれば、水素化ニトリルゴム(H−NBR)、塩素化ブチルゴム(Cl−IIR)および臭素化ブチルゴム(Br−IIR)等の高水蒸気バリア性、高ガスバリア性の架橋ゴム同等以上の水蒸気バリア性、ガスバリア性を持ち、かつプレス成形、射出成形、及び押出し成形等の成形が容易に行うことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)成分:イソブチレン系重合体ブロック(a)と、スチレン系重合体ブロック(b)とで構成される(b)−(a)−(b)型イソブチレン系トリブロック共重合体と、
(B)成分:環状ポリオレフィン系重合体と
を少なくとも含むインクジェット用樹脂組成物。
【請求項2】
ゴム硬度(JIS K 6253)が、80未満であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
透湿度(JIS K 7129(lyssy法)、厚さ0.5mmシート、40℃、相対湿度90%)が、1.5g/m2・24h未満であり、
空気透過度(JIS K 7126(差圧法)、厚さ0.5mmシート、23℃)が、1.5×10-10cm3・cm/cm2・s・cmHg未満であることを特徴とする請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
(B)成分が、ノルボルネン系誘導体を用いた開環重合反応生成物である環状ポリオレフィン樹脂、またはノルボルネン系誘導体を用いた共重合反応生成物である環状ポリオレフィン共重合体であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。

【公開番号】特開2012−102152(P2012−102152A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−248885(P2010−248885)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】