説明

インクジェット用記録媒体

【課題】 高い印字濃度とインク吸収性を有し、顔料インク適性も良好なインクジェット用記録媒体を提供する。
【解決手段】 透気性を有する支持体の少なくとも片面に、凝固キャストコート法によりインク受理層を形成してなるインクジェット用記録媒体において、インク受理層中に顔料として平均粒子径が0.3μm以下のカオリン、及び湿式法シリカを含有させ、かつ該カオリンと該湿式法シリカの配合比を3:7〜7:3とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光沢を有するインクジェット用記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット用記録媒体は、紙等の支持体表面にシリカ、アルミナなどの多孔質の顔料と結着剤とを含有するインク受理層を設けた構成になっていて、このインク受理層にインクの液滴が定着するようになっている。そして、近年のインクジェットプリンターの目覚しい進歩や、デジタルカメラの著しい普及により、インクジェット用記録媒体に要求される品質も年々高くなってきている。特に、従来の銀塩写真に匹敵する光沢を有するインクジェット用記録媒体においては、品質要求が厳しく、技術開発が活発に行われている。
【0003】
上記した光沢を有するインクジェット用記録媒体は、製造コストの点からキャストコーターを用いるキャストコート法で製造するのが一般的である。キャストコート法は、顔料と結着剤とを主成分とする塗工液を支持体上に塗工して塗工層を設け、その塗工層を加熱したキャストドラムに圧接して光沢仕上げする方法であり、この光沢塗工層が上記インク受理層となる。キャストコート法としては、(1)塗工層が湿潤状態にある間に鏡面仕上げした加熱ドラムに圧着して乾燥するウェットキャスト法(直接法)、(2)湿潤状態の塗工層を一旦乾燥又は半乾燥した後に再湿潤液により膨潤可塑化させ、鏡面仕上げした加熱ドラムに圧着し乾燥するリウェット法、(3)湿潤状態の塗工層を凝固処理によりゲル状態にして、鏡面仕上げした加熱ドラムに圧着し乾燥するゲル化キャスト法(凝固法)、の3種類が一般に知られている。各方法の原理は、湿潤状態の塗工層を鏡面仕上げの面に押し当てて、塗工層表面に光沢を付与するという点では同一である。
【0004】
そして、このような光沢インクジェット用記録媒体に要求される品質特性としては、記録媒体表面の光沢感が高いこと、印字濃度が高いこと、インクの溢れや滲みがないこと、印字ムラ(濃淡ムラ)がないこと、耐候性が優れること等が挙げられ、これらの特性を満たした高画質のインクジェット記録用紙を、キャストコート法により製造する方法は既に提案されている(特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4等)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2−274587号公報
【特許文献2】特開平9−263039号公報
【特許文献3】特開2005−35169号公報
【特許文献4】特開2002−166645号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記した特許文献1〜4記載の技術の場合、インクジェット用記録媒体の高光沢化の点で改善の余地があり、さらに顔料インクでインクジェット記録を行った場合にインク受理層に含有される顔料の平均粒子径が大きいため、印字濃度が低下するという問題がある。
従って、本発明は顔料インク及び染料インクを用いてインクジェット記録を行った際の印字濃度が高く、さらに光沢感に優れるインクジェット用記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は種々検討した結果、インク受理層に平均粒子径が0.3μm以下であるカオリンと、湿式法シリカを配合比が3:7〜7:3で含有させることで、上記課題を解決できることを見出した。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、光沢感に優れ、家庭用プリンターの染料インク及び顔料インクを用いてインクジェット記録を行った際の印字濃度が高く、さらに適正なインク吸収性を確保し操業性に優れるインクジェット用記録媒体が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下本発明の実施形態について説明する。本発明のインクジェット用記録媒体は、透気性を有する支持体のすくなくとも一方の面に、顔料及び結着剤を含む塗工層を形成した後、該塗工層の表面に前記結着剤と凝固する凝固剤を塗布して凝固キャストコート法によりインク受理層を設けてなるものである。
【0010】
(支持体)
本発明に使用される支持体は、キャストコート時にキャストドラムで発生する水蒸気を透過できる程度の透気性を有すれば、いずれのものを用いることが可能である。支持体としては、塗工紙、未塗工紙等の紙が好ましく用いられる。支持体の原料パルプとしては、化学パルプ(針葉樹の晒または未晒クラフトパルプ、広葉樹の晒または未晒クラフトパルプ等)、機械パルプ(グランドパルプ、サーモメカニカルパルプ、ケミサーモメカニカルパルプ等)、脱墨パルプ等を単独または任意の割合で混合して使用することが可能である。
【0011】
又、原料パルプとして針葉樹パルプが含有されることが好ましい。支持体中に針葉樹パルプを配合すると、原紙の強度が向上するほか、インク受理層の光沢感が向上する傾向にある。但し、針葉樹パルプの含有量が多くなると支持体の表面性が低下する傾向にあるため、針葉樹パルプの含有量は全パルプ中30質量%以下であることが好ましい。尚、前記支持体のpHは、酸性、中性、アルカリ性のいずれでも良い。また、填料は、水和珪酸、ホワイトカーボン、タルク、カオリン、クレー、炭酸カルシウム、酸化チタン、合成樹脂微粒子等の公知の填料の中から適宜選択できる。
【0012】
インクジェット用記録媒体の生産効率の点から、支持体の透気度は500秒以下であることが好ましく、又、塗工性の点から支持体のステキヒトサイズ度は30秒以上であることが望ましい。
【0013】
また、上記支持体には、水溶性高分子添加剤等の各種の添加剤を含有する液を、タブサイズ、サイズプレス、ゲートロールコーター又はフィルムトランスファーコーター等を用い、オンマシン又はオフマシンで塗工することが可能である。
【0014】
上記水溶性高分子添加剤としては、例えば、澱粉、カチオン化澱粉、酸化澱粉、エーテル化澱粉、リン酸エステル化澱粉等の澱粉誘導体;ポリビニルアルコール、カルボキシ変性ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコール誘導体;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、セルロースサルフェート等のセルロース誘導体;ゼラチン、カゼイン、大豆蛋白等の水溶性天然高分子;ポリアクリル酸ナトリウム、スチレン−無水マレイン酸共重合体ナトリウム塩、ポリスチレンスルフォン酸ナトリウム等、無水マレイン酸樹脂等の水溶性高分子;メラミン樹脂、尿素樹脂等の熱硬化性合成樹脂等の水性高分子接着剤等が用いられる。その他の添加剤としては、サイズ剤として石油樹脂エマルション、スチレン−無水マレイン酸共重合体アルキルエステルのアンモニウム塩、アルキルケテンダイマー、アルケニル無水コハク酸、スチレン−ブタジエン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリエチレン、ポリ塩化ビニリデン等のディスパーションが挙げられる。その他の添加剤としては、帯電防止剤であり無機電解質である塩化ナトリウム、塩化カルシウム、ボウ硝等が挙げられる。又、吸湿性物質としてグリセリン、ポリエチレングリコール等が挙げられる。その他の添加剤としては、顔料であるクレー、カオリン、タルク、硫酸バリウム、酸化チタン、炭酸カルシウム、水和珪酸、ホワイトカーボン、合成樹脂微粒子等が挙げられる。その他の添加剤として、pH調節剤である塩酸、苛性ソーダ、炭酸ソーダ等が用いられ、その他染料、蛍光増白剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の添加剤を組み合わせて使用することも可能である。
【0015】
(インク受理層の顔料)
インク受理層(塗工層を凝固キャストコート法によりインク受理層とするが、便宜上、塗工層とインク受理層とを区別せずに用いる)の顔料としては、印字濃度およびインク吸収性の点から平均粒子径が0.3μm以下のカオリンと湿式法シリカを顔料に含むことが必須である。
【0016】
(カオリン)
平均粒子径が0.3μm以下のカオリンとは、沈降法により測定した平均粒子径が0.3μm以下であり、体積基準の積算値で0.3μm以下の粒子が68%以上を占めるカオリンが好ましい。カオリンは、カオリナイト、ハロイサイト、ディッカイト、ナックライトといったカオリン鉱物を少なくとも1種類以上含む粘土であり、一般的なオフセット印刷用塗工紙に使用される公知のカオリンであればいかなるものを用いても良い。カオリンとしては、例えばジョージア産、ブラジル産、中国産等の産地のものや、1級、2級、デラミ等のグレードのものが存在するが、カオリンの産地やグレードはこれらに限定されない。又、1種類または2種類以上のカオリンを混合したものを適宜選択して顔料として使用することができる。沈降法による粒度分布の測定は、溶媒中に分散した粒子がストークスの沈降速度式に従って沈降するものと仮定し,沈降速度から粒径分布を求める方法である。沈降法による粒径は、ストークス相当径(ストークス径)と称され、その粒度分布は質量基準である。本発明においては、純水中にカオリンを含む試料スラリーを滴下混合して均一分散体としたものを、粒度分布の測定サンプルに用いる。
【0017】
(湿式法シリカ)
合成非晶質シリカはその製造法により、湿式法シリカと気相法シリカとに大別できる。湿式法で製造された合成非晶質シリカは、顔料の透明性が気相法シリカに劣るが、ポリビニルアルコールと併用した場合の塗料安定性に優れる。さらに、湿式法シリカは、内部空隙の無い気相法シリカに比べて分散性が良好であり、塗料濃度を高くすることが可能である。そのため、インク受理層中の(結着剤に対する)顔料の割合を高くすることができ、インク受理層の吸収性を高くできるので、インク吸収性を向上できると共に染料インクの発色性を向上できる。本発明で使用する湿式法シリカは、高い光沢感を得るという点から二次粒子径は1〜5μmであることが好ましく、BET比表面積は100〜400m/gであることが好ましい。
【0018】
インク受理層中、上記のカオリンと湿式法シリカの配合割合(質量割合)は、3:7〜7:3であることが必須である。湿式法シリカの配合割合が30質量%未満では染料インクの印字適性が不十分である。一方、カオリン配合割合が30質量%未満では顔料インクの印字適性が不十分となる傾向にある。
【0019】
その他、インク受理層の顔料として、公知の無機微粒子や有機微粒子を用いることができる。例えば、コロイダルシリカ、水酸化アルミニウム、アルミナ水和物(アルミナゾル、コロイダルアルミナ、擬ベーマイト等)、アルミナ(α型結晶のアルミナ、θ型結晶のアルミナ、γ型結晶のアルミナ等)、カオリン、タルク、炭酸カルシウム、二酸化チタン、クレー、酸化亜鉛等を用いることができる。これらの1種または2種以上を混合して用いることができる。
【0020】
(インク受理層の結着剤)
インク受理層の結着剤としては、塗工層強度の面より水系バインダー樹脂のポリビニルアルコールは必須である。その他の水系バインダー樹脂も塗工層強度の確保から必要に応じて配合する。なお、「水系」とは、水又は水と少量の有機溶剤からなる媒体中で樹脂が溶解又は分散し、安定化すること(水溶性又は/及び水分散性の樹脂エマルジョン)を意味する。又、水系バインダー樹脂とは水溶性樹脂及び水分散性樹脂を意味する。水系バインダー樹脂は、支持体に塗工する塗工液中では溶解又は粒子となって分散しているが、塗工し乾燥した後に顔料の結着剤となり、インク受理層を形成する。
【0021】
その他の水系バインダー樹脂としては、例えば、ポリビニルピロリドン;ウレタン樹脂エマルジョン由来のウレタン樹脂;酸化澱粉、エステル化澱粉等の澱粉類;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体;カゼイン;ゼラチン;大豆タンパク;スチレン−アクリル樹脂及びその誘導体;スチレン−ブタジエン樹脂ラテックス;アクリル樹脂エマルジョン、酢酸ビニル樹脂エマルジョン、塩化ビニル樹脂エマルジョン、尿素樹脂エマルジョン、アルキッド樹脂エマルジョン及びこれらの誘導体等があげられる。これらの水系バインダー樹脂をポリビニルアルコールと混合して用いることができる。
【0022】
(ポリビニルアルコール)
本発明においては、ポリビニルアルコールは部分鹸化のポリビニルアルコールが好ましい。ポリビニルアルコールの添加量は、インク受理層中の全顔料100質量部に対して5質量部から30質量部であることが好ましい。但し、必要な塗工層強度が得られる限り、結着剤の種類は特に限定されるものではない。
【0023】
インク受理層は、上記した顔料と結着剤を含むが、その他の成分、例えば、増粘剤、消泡剤、抑泡剤、顔料分散剤、離型剤、発泡剤、pH調整剤、表面サイズ剤、着色染料、着色顔料、蛍光染料、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定化剤、防腐剤、耐水化剤、染料定着剤、界面活性剤、湿潤紙力増強剤、保水剤、カチオン性高分子電解質等を、本発明の効果を損なわない範囲内で、インク受理層の前駆体となる塗工層に適宜添加することができる。
【0024】
支持体上にインク受理層となる塗工液を塗布する方法としては、ブレードコーター、エアナイフコーター、ロールコーター、ブラッシュコーター、キスコーター、スクイズコーター、カーテンコーター、ダイコーター、バーコーター、グラビアコーター、ゲートロールコーター、ショートドウェルコーター等の公知の塗工機をオンマシン、又はオフマシンで用いた塗工方法の中から適宜選択して使用することができる。
【0025】
(インク受理層の塗工量)
インク受理層の塗工量は、支持体の表面を覆い、かつ十分なインク吸収性が得られる範囲で任意に調整できることが出来る。記録濃度及びインク吸収性を両立させる観点から、インク受理層の塗工量は固形分換算で10g/m以上が必要となる。特に、生産性を加味すると10〜20g/mであることが好ましい。
【0026】
(インク受理層の形成)
本発明においては、最表面のインク受理層を凝固キャストコート法で形成することによって光沢を付与する。凝固キャストコート法は、例えば以下のようにして行う。まず、インク受理層となる塗工液を支持体に塗布する。次に、塗工液中の結着剤(特に水系結着剤)を凝固させる作用を有する凝固用水溶液を未乾燥の塗工層に塗布してゲル化させてから、加熱した鏡面仕上げ面に圧着、乾燥する。凝固キャストコート法は、銀塩写真に匹敵する面感、光沢をインク受理層に付与することが可能である。
【0027】
凝固用水溶液を塗布する際に塗工層が乾燥状態であると鏡面ドラム表面を写し取ることが難しく、得られたインク受理層表面に微小な凹凸が多くなり、銀塩写真並の光沢感を得にくい。前記塗工層が湿潤状態にある間に凝固用水溶液を塗布した後、前記塗工層の表面を加熱された鏡面仕上げ表面に接触させて光沢を有する。特に水系結着剤としてポリビニルアルコールを用いた場合には、凝固剤としてホウ素化合物を用いて凝固させることで、インク受理層に良好な光沢感を付与でき、操業性も良好となる。但し、カチオン性コロイダルシリカを添加する場合には、ホウ酸塩とショックを起し、凝集するため、ホウ酸塩を使用することができない。
【0028】
(凝固方法)
本発明において凝固方法は、インク受理層用塗工液中のポリビニルアルコールと凝固用水溶液中のホウ素化合物(ホウ酸)による凝固とインク受理層用塗工液の高いpHと凝固用水溶液の低いpHによる凝集反応による凝固によって、高い光沢を有するインク受理層を付与し、安定操業が可能となる。凝固用水溶液を塗布する方法は、塗工層に塗布できる限り特に制限されず、公知の方法(例えばロール方式、スプレー方式、カーテン方式等)の中から適宜選択して用いることができる。
【0029】
(凝固用水溶液の成分)
本発明に用いる凝固剤は、上記ホウ素化合物の他、カチオン性樹脂とカチオン性コロイダルシリカと離型材とを共に含む。
【0030】
(カチオン性コロイダルシリカ)
凝固剤中にカチオン性コロイダルシリカを含むと、キャストコートによってインク受理層の表面にカチオン性コロイダルシリカが付着(存在)する。コロイダルシリカは平均粒子径が比較的小さいため、染料インクの印字濃度が向上する。又、平均粒子径が小さいコロイダルシリカがインク受理層の最表面に存在するため、インク受理層の表面が平滑になり、光沢度が向上する。
【0031】
さらに、コロイダルシリカをカチオン性としているため、凝固剤中に後述するカチオン性樹脂とカチオン性コロイダルシリカが共存しても、両者が凝集することがなく、凝固剤を安定して塗布することができる。
【0032】
カチオン性コロイダルシリカは、その粒子表面が高い陽性電荷を帯びているコロイダルシリカである。カチオン性コロイダルシリカは、例えばケイ酸ナトリウムの酸などによる複分解やイオン交換樹脂層を通して得られるシリカゾルを加熱熟成して得られるコロイダルシリカにアルミニウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、ジルコニウムイオン等の多価金属イオンを反応させて得られる。例えば、特公昭47−26959号公報にはアルミニウム処理によるカチオン性コロイダルシリカが開示されている。
【0033】
市販されているカチオン性コロイダルシリカとしては、グレース社のLUDOX CL、LUDOX CL−P等があげられる。本発明では2種以上のカチオン性コリダルシリカを混合して使用してもよい。
【0034】
インク受理層の光沢性、透明度を向上させる観点から、カチオン性コロイダルシリカの平均粒子径は5nm〜80nmの範囲のものが好ましい。カチオン性コロイダルシリカの平均粒子径が5nmより小さいと、塗工層の光沢感は優れるが、染料インクの吸収性が劣る場合がある。一方、カチオン性コロイダルシリカの平均粒子径が80nmより大きいと、塗工層の透明度が低下し、染料インクの印字濃度が低下する場合がある。さらに平均粒子径の異なる2種類以上のカチオン性コロイダルシリカを併用してもよい。
【0035】
又、インク受理層の最表面を平滑にし、光沢度を向上させる観点から、カチオン性コロイダルシリカの平均一次粒子径が、インク受理層の顔料の平均粒子径(加重平均粒子径)より小さいことが好ましい。このようにすると、インク受理層の最表面を微細なカチオン性コロイダルシリカが覆うため、光沢度が向上する。
【0036】
なお、平均粒子径の異なる2種類以上のカチオン性コロイダルシリカを用いる場合、「カチオン性コロイダルシリカの一次粒子径」とは、各カチオン性コロイダルシリカの平均粒子径を各カチオン性コロイダルシリカの含有割合で加重平均した値とする。同様に、インク受理層の顔料として平均粒子径の異なる2種類以上の顔料を用いる場合、「顔料の一次粒子径」とは、各顔料の平均粒子径を各顔料の含有割合で加重平均した値とする。又、コロイダルシリカの一次粒子径は、例えば光強度分布解析型の粒子径分布測定装置により測定できる。
【0037】
また、凝固剤中のカチオン性コロイダルシリカの配合量は0.5質量%〜10質量%とすることが好ましい。カチオン性コロイダルシリカの配合量が0.5質量%より少ないと、光沢度および染料インクの印字濃度改善効果が得られない場合がある。一方、カチオン性コロイダルシリカの配合量が10質量%より多いと、凝集体が発生し、凝固剤の安定性が低下する場合がある。
【0038】
(カチオン性樹脂)
凝固剤中にカチオン性樹脂を含むと、キャストコートによってインク受理層の表面にカチオン性樹脂が付着(存在)する。カチオン性樹脂はインクを定着させ、印字濃度および耐水性が向上する。
カチオン性樹脂としては、ポリアミンスルホン、ポリアルキレンポリアミン、ポリアミン縮合物、ポリアリルアミン、ポリジアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリエチレンイミン、ジシアンジアミド縮合物、カチオン性アクリル樹脂、カチオン性ウレタン樹脂等が挙げられ、これらを1種又は複数種選沢して用いることができる。
【0039】
又、上記塗工層及び/又は凝固剤には、必要に応じて離型剤を添加することが必要である。離型剤の融点は90〜150℃であることが好ましく、特に95〜120℃であることが好ましい。上記の温度範囲においては、離型剤の融点が鏡面仕上げ面の温度とほぼ同等であるため、離型剤としての能力が最大限に発揮される。離型剤は上記特性を有していれば特に限定されるものではないが、ポリエチレン系およびパラフィン系のワックスエマルジョンを用いることが好ましい。
【0040】
本発明において、反対側にさらにインク吸収性、筆記性、プリンター印字適性他各種機能を有するバックコート層を設けても良い。
【実施例】
【0041】
以下に、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、「部」及び「%」は、特に明示しない限り、それぞれ「質量部」及び「質量%」を表す。
なお、支持体の抄造時のフェルト面側を「表面(側)」と称し、ワイヤー面側を「表面(側)」と称する。
【0042】
[実施例1]
広葉樹晒クラフトパルプ(L−BKP)90部及び針葉樹晒クラフトパルプ(N−BKP)10部からなるカナダ標準濾水度(CSF)350mlのパルプスラリーに対し、填料としてロゼッタ型軽質炭酸カルシウム(アルバカー5970:SMI社製)を灰分20%となるように添加し、さらに硫酸アルミニウム1.0部、アルキルケテンダイマー(AKD)0.20部、歩留向上剤0.05部を添加した。このスラリーを用いて抄紙機で抄紙した。抄紙の際に固形分濃度5%のデンプンと固形分濃度0.2%の表面サイズ剤(AKD)とを含む塗液を、付着量が固形分で1.5g/mとなるように塗布し、180g/mの支持体を得た。
この支持体の表面に対し、塗工液Aをロールコーターで固形分で塗工量が15g/mとなるように塗工した。この塗工層が湿潤状態にある間に、凝固剤溶液B1を固形分で付着量が3.0g/mとなるように塗布して凝固させ、次いでプレスロールを介して加熱された鏡面仕上げ面に圧着して鏡面を写し取り、195g/mの片面光沢紙を得た。
<塗工液A>
顔料として、湿式法合成非晶質シリカ(製品名:ニップジェルAY―200、東ソーシリカ株式会社製、平均粒子径2.3μm)60部、及びカオリン(製品名:M07−1061、BASF社製、平均粒子径0.3μm)40部、結着剤としてポリビニルアルコール(製品名:PVA217、株式会社クラレ製)10部、蛍光染料(製品名:BLANKOPHOR P liquid01、LANXESS社製)1.5部、離型剤(製品名:ノプコートPEM17、サンノプコ株式会社製)0.5部、及び消泡剤(製品名:SNデフォーマー480、サンノプコ株式会社製)0.5部を配合して濃度25%でpH8.5の塗工液を調整した。
<凝固剤溶液B>
ホウ酸3.26部、カチオン性コロイダルシリカ(製品名:LUDOX CL−P、グレース社製、平均一次粒子径22nm)4部、カチオン性コロイダルシリカ(製品名:スノーテックス AK−L、日産化学株式会社製、平均一次粒子径45nm)0.5部、離型剤(製品名:ノプコートPEM17、サンノプコ株式会社製)0.63部、界面活性剤(製品名:SNウェットL、サンノプコ株式会社製)を0.2部、消泡剤(製品名:SNデフォーマー480、サンノプコ株式会社製)を0.014部配合してpH3の凝固剤溶液を調製した。
【0043】
[実施例2]
塗工液A中の結着剤(製品名:PVA217、株式会社クラレ製)の配合量を12部に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてインクジェット用記録媒体を得た。
【0044】
[実施例3]
塗工液A中の結着剤(製品名:PVA217、株式会社クラレ製)の配合量を14部に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてインクジェット用記録媒体を得た。
【0045】
[実施例4]
塗工液A中の湿式法合成非晶質シリカ(製品名:ニップジェルAY−200、東ソーシリカ株式会社製、平均粒子径2.3μm)を50部、及びカオリン(製品名:M07−1061、BASF社製、平均粒子径0.3μm)50部に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてインクジェット用記録媒体を得た。
【0046】
[実施例5]
塗工液A中の湿式法合成非晶質シリカ(製品名:ニップジェルAY−200:東ソーシリカ株式会社製、平均粒子径2.3μm)を40部、及びカオリン(製品名:M07−1061、BASF社製、平均粒子径0.3μm)60部に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてインクジェット用記録媒体を得た。
【0047】
[実施例6]
塗工液A中の湿式法合成非晶質シリカ(製品名:ニップジェルAY―200、東ソーシリカ株式会社製、平均粒子径2.3μm)を70部、及びカオリン(製品名:M07−1061、BASF社製、平均粒子径0.3μm)30部に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてインクジェット用記録媒体を得た。
【0048】
[比較例1]
塗工液A中の湿式法合成非晶質シリカ(製品名:ニップジェルAY―200、東ソーシリカ株式会社製、平均粒子径2.3μm)をカチオン性コロイダルシリカ(製品名:クォートロン PL−3、扶桑化学工業株式社製、平均一次粒子径30nm)に変更し、配合部数は10部にして、カオリン(製品名:M07−1061、BASF社製、平均粒子径0.3μm)90部に変更したこと以外は、実施例2と同様にしてインクジェット用記録媒体を得た。
【0049】
[比較例2]
凝固液B中のカチオン性コロイダルシリカ(製品名:LUDOX CL−P、グレース社製、平均一次粒子径22nm)の配合量を2部に変更したこと以外は、実施例3と同様にしてインクジェット記録媒体を得た。
【0050】
[比較例3]
凝固液B中のカチオン性コロイダルシリカ(製品名:LUDOX CL−P、グレース社製、平均一次粒子径22nm)の配合量を無配合にしたこと以外は、実施例3と同様にしてインクジェット記録媒体を得た。
【0051】
[比較例4]
凝固液B1中のカチオン性コロイダルシリカ(製品名:スノーテックス AK−L、日産化学株式会社製、平均一次粒子径45nm)の配合量を無配合にしたこと以外は、実施例3と同様にしてインクジェット記録媒体を得た。
【0052】
(評価)
1.染料インク印字濃度
得られたインクジェット用記録媒体に対し、染料インクジェットプリンター(PM−920C:エプソン株式会社製)を用いて所定のパターンを記録し、記録画像部の鮮やかさを目視で下記の基準によって評価した。評価が△以上であれば実用上問題がない。
【0053】
◎:非常に鮮やか
○:鮮やか
△:若干鮮やかさが劣る
×:鮮やかに見えない
【0054】
2.顔料インク印字濃度
得られたインクジェット用記録媒体に対し、顔料インクジェットプリンター(PX5500:エプソン株式会社製)を用いて所定のパターンを記録し、記録画像部の鮮やかさを目視で下記の基準によって評価した。評価が△以上であれば実用上問題がない。
【0055】
◎:非常に鮮やか
○:鮮やか
△:若干鮮やかさが劣る
×:鮮やかに見えない
【0056】
3.20°光沢度
得られたインクジェット用記録媒体の表面側及び裏面側のインク受理層表面のそれぞれ未印字部分の20°光沢度を、JIS Z 8741に従い、光沢度計(村上色彩技術研究所製、True GLOSS GM−26PRO)を用いて測定した。20°光沢度が30%以上であれば実用上問題がない。
【0057】
得られた結果を表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
表1から明らかなように、実施例1〜6の本発明のインクジェット用紙では20°光沢度が30%以上で、印字濃度に優れたインクジェット用紙媒体が得られた。
一方、比較例1〜4は光沢度が30%未満であり、比較例4では顔料プリンターでの印字濃度が劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透気性を有する支持体の少なくとも片面に、顔料及び結着剤を含む塗工層を設けた後、該塗工層に前記結着剤と凝固する凝固剤溶液を塗布して凝固キャストコート法によりインク受理層を形成してなるインクジェット用記録媒体であって、前記インク受理層中に顔料として平均粒子径が0.3μm以下のカオリン、及び湿式法シリカを含有し、かつ該カオリンと該湿式法シリカの配合比が3:7〜7:3であるインクジェット用記録媒体。
【請求項2】
前記凝固剤溶液中にホウ素化合物、カチオン性樹脂、及びカチオン性コロイダルシリカが含有される請求項1記載のインクジェット用記録媒体。

【公開番号】特開2012−213931(P2012−213931A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−81159(P2011−81159)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000183484)日本製紙株式会社 (981)
【Fターム(参考)】