説明

インクジェット記録媒体及びその製造方法

【課題】インク吸収性に優れ、低湿環境下でのカール及び画像のブロンジングの発生が抑制されたインクジェット記録媒体を提供する。
【解決手段】支持体上に該支持体側から順に、孔を有し、体積平均粒子径が0.20μm以下の無機微粒子及び樹脂を含む多孔質樹脂層と、無機微粒子、水溶性樹脂、及び媒染剤を含み、厚みが6〜20μmであるインク受容層とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット法で吐出されたインクで記録を行なうのに好適なインクジェット記録媒体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェット記録方法は、多種の記録材料に記録可能なこと、ハード(装置)が比較的安価であること、コンパクトであること、静粛性に優れること等の点から広く利用されている。
【0003】
それに伴い、インクジェットプリンターの高解像度化も図られ、近年ではいわゆる写真ライクな高画質画像が得られるようになってきている。高画質画像を得るためのインクジェット記録用の記録媒体に求められる特性としては、速乾性(インクの吸収速度)やドット均一性(滲み耐性)、粒状、色濃度、彩度、そのほか種々の性能を満たしていることが必要とされている。例えば、ひび割れ、濃度、光沢の改良されたインクジェット記録媒体として、インク受容層に無機微粒子、水溶性樹脂、硼素化合物を含有し、pH8以上の塩基性溶液を(1)受容層の塗布と同時、(2)受容層の減率乾燥前、又は(3)受容層を塗布乾燥後に付与して形成されたインクジェット記録媒体が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
その一方、生産性の向上や、低湿環境下でのカール低減を図るために、インクを受容するためのインク受容層の厚みを薄くしようとすると、画像記録に必要なインク吸収性が不足し、画像のブロンジング性や光沢性が悪化する。
【0005】
上記に関連して、支持体と微粒子及び水溶性樹脂を含む色材受容層との間に、親水性物質を含有する平均細孔径が20〜30nmの多孔質フィルム層を有するインクジェット記録用シートが開示されている(例えば、特許文献2参照)。また、吸水性支持体上に多孔性の疎水性樹脂層と微粒子を含有する空隙層を有するインク吸収層を設けたインクジェット記録用紙が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−191607号公報
【特許文献2】特開2004−174747号公報
【特許文献3】特開平11−291623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来の技術では、インク受容層の厚みを薄くした場合に、低湿環境下でのカール性が悪化し、記録画像のブロンジング性が悪化する。
【0008】
本発明は、上記に鑑みなされたものであり、インク吸収性に優れ、低湿環境下でのカール及び画像のブロンジングの発生が抑制されたインクジェット記録媒体及びその製造方法を提供することを目的とし、該目的を達成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1> 支持体上に該支持体側から順に、孔を有し、体積平均粒子径が0.20μm以下の無機微粒子及び樹脂を含む多孔質樹脂層と、無機微粒子、水溶性樹脂、及び媒染剤を含み、厚みが6〜20μmのインク受容層とを有するインクジェット記録媒体である。
【0010】
<2> 前記インク受容層は、少なくとも無機微粒子と水溶性樹脂と媒染剤とを含む塗布液を前記多孔質樹脂層上に塗布し、(1)該塗布と同時、又は(2)該塗布によって形成された塗布層の乾燥途中であって該塗布層が減率乾燥を示す前、のいずれかのときに、前記塗布層に塩基性化合物を含む塩基性溶液を付与し、前記塗布液及び前記塩基性溶液の少なくとも一方に架橋剤を含ませて架橋硬化させて形成されたことを特徴とする前記<1>に記載のインクジェット記録媒体である。
【0011】
<3> 支持体上に、孔を有し、体積平均粒子径が0.20μm以下の無機微粒子及び樹脂を含む多孔質樹脂層を形成する樹脂層形成工程と、無機微粒子と水溶性樹脂と媒染剤とを含む塗布液を、前記多孔質樹脂層上に配置されるように塗布し、(1)該塗布と同時、又は(2)該塗布によって形成された塗布層の乾燥途中であって該塗布層が減率乾燥を示す前、のいずれかのときに、塗布層に塩基性化合物を含む塩基性溶液を付与し、前記塗布液及び前記塩基性溶液の少なくとも一方に架橋剤を含ませて架橋硬化された厚み6〜20μmのインク受容層を形成する受容層形成工程と、を有するインクジェット記録媒体の製造方法である。
【0012】
<4> 前記樹脂層形成工程は、少なくとも体積平均粒子径が0.20μm以下の無機微粒子と樹脂とを混合して溶融押し出しによりフィルム状に成形し、冷却固化した後、延伸比2〜6にて延伸を行なって厚みが5〜30μmの多孔質樹脂層を形成することを特徴とする前記<3>に記載のインクジェット記録媒体の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、インク吸収性に優れ、低湿環境下でのカール及び画像のブロンジングの発生が抑制されたインクジェット記録媒体及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のインクジェット記録媒体及びその製造方法について詳細に説明する。
本発明のインクジェット記録媒体は、支持体上に、体積平均粒子径が0.20μm以下の無機微粒子及び樹脂を含む多孔質樹脂層を設け、この多孔質樹脂層上に無機微粒子、水溶性樹脂、及び媒染剤を含み、厚みが6〜20μmのインク受容層を設けて構成されたものである。
【0015】
本発明においては、支持体上にインクを受容して画像を記録するためのインク受容層を6〜20μmの薄い厚みにして形成する場合に、支持体上にあらかじめ体積平均粒子径が0.20μm以下の無機微粒子と樹脂とを含む多孔質樹脂層を設けておき、その上にインク受容層を設けた構成にすることで、インク受容層を薄厚にしつつも、インク吸収速度を確保でき、低湿環境下でのカールの発生及び画像のブロンジングの発生を抑制することができる。また、画像記録面における光沢性も向上する。これにより、変形による品位の低下を抑え、画像品質に優れた記録物を提供することができる。
【0016】
−多孔質樹脂層−
本発明における多孔質樹脂層は、体積平均粒子径が0.20μm以下の無機微粒子と樹脂とを少なくとも含み、必要に応じて、他の成分を用いて構成することができる。本発明における多孔質樹脂層は、層の少なくとも一部に孔が設けられた多孔質フィルム層である形態が好ましい。この場合、例えば、特定粒子径の無機微粒子及び樹脂を含む樹脂組成物を溶融押し出しによりフィルム状に成形し、冷却、固化させた後、延伸を行なうことにより好適に多孔質樹脂層を形成することができる。
【0017】
この多孔質樹脂層を支持体とインク受容層との間に配することにより、多孔質樹脂層の表面が平滑で光沢向上に寄与するとともに、インク受容層を薄層化したときのインクの吸収、透過が高まり、低湿環境下でのカール抑制、画像のブロンジング抑制が可能になる。
【0018】
多孔質樹脂層の厚みとしては、5〜50μmが好ましく、10〜30μmがより好ましい。多孔質樹脂層の厚みは、5μm以上であると、延伸時に生じやすい破断を防止して良好な多孔質樹脂層を得ることができ、50μm以下であると、インクの吸収性が良好である。
【0019】
多孔質樹脂層における空隙率は、35%以上であるのが好ましい。空隙率が35%以上であると、インク吸収性に優れ、低湿カール及びブロンジングの発生を抑制することができる。なお、多孔質樹脂層の空隙率は、以下の式により求めることができる。
空隙率=100×{1−(ρE/ρA)}
〔ρE:見掛け密度、ρA:サンプルの絶対密度〕
【0020】
本発明における多孔質樹脂層は、以下のように形成することができる。
まずは熱可塑性樹脂と体積平均粒子径が0.20μm以下の無機微粒子とを含むコンパウンドを調製し、得られたコンパウンドを溶融キャスティング法にて少なくとも1層にて押し出す。チルロールにより膜を予備延伸する。チルロールで予備延伸された予備延伸膜を冷却・固化し、固化された膜を適切な温度で延伸して多孔質フィルムを成形する。フィルム成形時にコンパウンドに含有された無機微粒子と、熱可融性樹脂の界面が剥離し、孔が形成される。このとき、固化された膜の縦延伸としては、体積平均粒子径が0.20μm以下の無機微粒子を用いての孔形成性の点から、延伸比1.5〜10にて前記厚みに延伸することが好ましく、より好ましくは2〜6にて前記厚みに延伸する。多孔質フィルムは、必要に応じて横延伸してもよい。
【0021】
(樹脂)
本発明における多孔質樹脂層は、樹脂の少なくとも一種を含有する。樹脂としては、水分に対する寸度安定性及び多孔質の形成し易さの点で、疎水性樹脂、特に疎水性の熱可塑性樹脂が好ましい。
【0022】
ここで、「疎水性樹脂」とは、孔が開いていない場合の樹脂自体が液体難浸透性ないし非浸透性を示す樹脂をいう。ここで、難浸透性ないし非浸透性であるとは、液体(例えばインク)を樹脂表面に10ml/m滴下した後、30秒経過後に浸透した液量が1ml/m以下であることをいう。
【0023】
疎水性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、アセテート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ナイロン等、及びこれらの混合物などの公知の疎水性樹脂を挙げることができる。中でも、成膜性、多孔質層の形成しやすさの観点から、ポリエチレン、ポリエチレンテフタレートが好ましく、特に低密度ポリエチレン(LDPE)がより好ましい。
【0024】
低密度ポリエチレンは、JIS 6899−1:2000にて定義されるもの(JIS K 6748:1995の密度910kg/m3以上930kg/m3未満のもの)であり、エチレンを高圧下でラジカル重合触媒を用いて重合させて製造される。
【0025】
(無機微粒子)
本発明における多孔質樹脂層は、体積平均粒子径が0.20μm以下の無機微粒子の少なくとも一種を含有する。
【0026】
無機微粒子の体積平均粒子径は、0.20μm以下とする。インク受容層の下層に位置する多孔質樹脂層に含有する無機微粒子の体積平均粒子径を0.20μm以下とすることにより、多孔質樹脂層の表面の平面性が高くなって光沢度が高くなるとともに、低湿環境下でのカール及びブロンジングの発生も抑えられる。すなわち、体積平均粒子径が0.20μmを超えると、光沢度が低下し、低湿下でのカール及びブロンジングが発生する。
無機微粒子の体積平均粒子径の好ましい範囲は、前記同様の理由から、0.010〜0.20μmであり、より好ましくは0.05〜0.20μmである。
【0027】
なお、体積平均粒子径は、電子顕微鏡観察画像から無作為に選んだ500個の粒子について求めた一次粒子の直径から算出される値である。
【0028】
多孔質樹脂層に含まれる無機微粒子としては、例えば、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、カオリン、マイカ、酸化亜鉛、ドロマイト、ガラス繊維、中空ガラスミクロビーズ、チョーク、タルク、ピグメント、二酸化ケイ素、ベントナイト、クレー、珪藻土などの粒子が挙げられ、無機微粒子は焼結されたものでも焼結されていないものでもよい。中でも、粒子径の均一性、分散安定性、インクジェット記録した後の濃度の安定性の点で、炭酸カルシウムの粒子が好ましい。
無機微粒子は、1種単独で含まれてもよいし、2種以上を混合して含ませてもよい。
【0029】
無機微粒子の多孔質樹脂層中における含有量は、全固形分に対して、40〜80質量%が好ましく、50〜70質量%がより好ましい。無機微粒子の含有量は、40質量%以上であると、インクの吸収、透過性がより良好になり、80質量%以下であると、溶融押し出し後の延伸時にフィルムの破断が起こり難い点で好適である。
【0030】
(他の成分)
本発明における多孔質樹脂層には、本発明の効果を損なわない範囲で、例えば着色顔料、紫外線吸収剤、酸化防止剤、離型剤、他の成分が含有されてもよい。
【0031】
−インク受容層−
本発明におけるインク受容層は、無機微粒子、水溶性樹脂、及び媒染剤を少なくとも含み、必要に応じて他の成分を用いて構成することができる。無機微粒子及び樹脂を含んで多孔質化する一方、媒染剤の併用により、インクの吸収、透過の阻害を防ぐことができる。
【0032】
本発明におけるインク受容層の厚みは、乾燥層厚で6〜20μmの範囲とする。インク受容層の厚みが6μm未満であると、インク吸収性が不足するとともに支持体から剥がれやすくなる。また、インク受容層の厚みが20μmを超えると、生産性の向上効果が少ない。中でも、インクの吸収性を保ってブロンジング及び低湿カールの発生を抑える点で、インク受容層の厚みは8〜15μmの範囲が好ましい。
【0033】
(無機微粒子)
本発明におけるインク受容層は、無機微粒子の少なくとも一種を含有する。無機微粒子は、インク受容層を形成した際に多孔質構造を形成し、インクの吸収性能を向上させる役割を持つ。
【0034】
無機微粒子としては、例えば、気相法シリカ、含水シリカ微粒子、コロイダルシリカ、二酸化チタン、硫酸バリウム、珪酸カルシウム、ゼオライト、カオリナイト、ハロイサイト、雲母、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸カルシウム、ベーマイト、擬ベーマイト等が挙げられる。これらは、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0035】
中でも、多孔質構造の形成性の観点から、気相法シリカが好ましい。気相法シリカと他の無機微粒子とを併用する場合、全無機微粒子中における気相法シリカの含有量は90質量%以上が好ましく、更には95質量%以上が好ましい。
【0036】
シリカ微粒子は、通常はその製造法により湿式法粒子と乾式法(気相法)粒子とに大別される。湿式法では、ケイ酸塩の酸分解により活性シリカを生成し、これを適度に重合させ凝集沈降させて含水シリカを得る方法が主流であるのに対し、気相法では、ハロゲン化珪素の高温気相加水分解による方法(火炎加水分解法)、ケイ砂とコークスとを電気炉中でアークによって加熱還元気化し、これを空気で酸化する方法(アーク法)によって無水シリカを得る方法が主流である。前記気相法シリカは、気相法によって得られた無水シリカ微粒子である。
【0037】
気相法シリカは、含水シリカと表面のシラノール基の密度、空孔の有無等に相違があることで異なった性質を示し、空隙率の高い三次元構造を形成するのに適している。この理由は明らかではないが、含水シリカでは微粒子表面におけるシラノール基の密度が5〜8個/nmで多く、シリカ微粒子が密に凝集(アグリゲート)し易い一方、気相法シリカの場合には、微粒子表面におけるシラノール基の密度が2〜3個/nmであり少ないことから疎な軟凝集(フロキュレート)となり、結果として空隙率の高い構造になるものと推定される。
【0038】
気相法シリカは、比表面積が特に大きいので、インクの吸収性、保持の効率が高く、また、屈折率が低いので、適切な粒子径まで分散を行なえばインク受容層に透明性を付与することができ、高い色濃度と良好な発色性が得られる。インク受容層が透明であることは、OHPなど透明性が必要とされる用途のみならず、フォト光沢紙等に適用する場合でも、高い色濃度と良好な発色性、光沢が得られる。
【0039】
気相法シリカの平均一次粒子径としては、20nm以下の範囲が好ましく、10nm以下の範囲がより好ましく、3nm〜10nmの範囲が最も好ましい。気相法シリカはシラノール基による水素結合によって粒子同士が付着しやすいため、平均一次粒子径が20nm以下の場合に空隙率の大きい構造を形成することができる。
【0040】
無機微粒子のインク受容層中における含有量としては、50質量%以上が好ましく、より好ましくは60質量%を超えた量である。無機微粒子の量が50質量%以上、更には60質量%を超えた範囲であると、更に良好な多孔質構造を形成することが可能であり、インク吸収性により優れたインクジェット記録媒体を作製することができる。
無機微粒子のインク受容層中における含有量は、インク受容層を形成する組成物中の水以外の固形成分に基づいて算出される量である。
【0041】
(水溶性樹脂)
本発明におけるインク受容層は、水溶性樹脂の少なくとも一種を含有する。
水溶性樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルアセタール、セルロース系樹脂〔メチルセルロース(MC)、エチルセルロース(EC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)等〕、キチン類、キトサン類、デンプン;エーテル結合を有する樹脂である、ポリプロピレンオキサイド(PPO)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルエーテル(PVE);アミド基又はアミド結合を有する樹脂であるポリアクリルアミド(PAAM)、ポリビニルピロリドン(PVP)、並びに、解離性基としてカルボキシル基を有する、ポリアクリル酸塩、マレイン酸樹脂、アルギン酸塩、ゼラチン類等が挙げられる。これらの水溶性樹脂は、一種単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0042】
中でも、ポリビニルアルコールが好ましい。ポリビニルアルコールと他の水溶性樹脂とを併用する場合、全水溶性樹脂中におけるポリビニルアルコールの含有量は、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましい。
【0043】
ポリビニルアルコールとしては、ポリビニルアルコール(PVA)に加えて、カチオン変性ポリビニルアルコール、アニオン変性ポリビニルアルコール、シラノール変性ポリビニルアルコール、及びその他ポリビニルアルコールの誘導体が含まれる。
【0044】
PVAは、その構造単位に水酸基を有するが、この水酸基とシリカ微粒子表面のシラノール基とが水素結合を形成して、シリカ微粒子の二次粒子を鎖単位とする三次元網目構造を形成しやすくする。このように三次元網目構造が形成されることにより、空隙率の高い多孔質構造のインク受容層が形成されるものと考えられる。このように形成された多孔質のインク受容層は、毛細管現象によって急速にインクを吸収し、インク滲みの発生を抑えて真円性の良好なドットを形成することができる。
【0045】
水溶性樹脂のインク受容層中における含有量としては、該含有量の過少による、膜強度の低下や乾燥時のひび割れを防止するとともに、該含有量の過多により、該空隙が樹脂によって塞がれやすくなり、空隙率が減少することでインク吸収性が低下するのを防止する観点から、インク受容層の全固形分に対して、9〜40質量%が好ましく、12〜33質量%がさらに好ましい。
【0046】
水溶性樹脂は、インク受容層のひび割れ防止の観点から、数平均重合度が1800以上であるものが好ましく、2000以上であるものがより好ましい。中でも、光沢度や画像濃度の観点から、鹸化度88%以上のPVAが好ましく、鹸化度89〜97.5%のPVAがより好ましく、鹸化度91〜96%のPVAが特に好ましい。
【0047】
〜無機微粒子と水溶性樹脂との含有比〜
無機微粒子(例えば、気相法シリカ;i)と水溶性樹脂(例えば、PVA;p)との含有比〔PB比(i:p)、水溶性樹脂1質量部に対する無機微粒子の質量〕は、インク受容層の膜構造にも大きな影響を与える。すなわち、PB比が大きくなると、空隙率、細孔容積、表面積(単位質量当り)が大きくなる。具体的には、PB比(i:p)としては、該PB比が大きすぎることに起因する膜強度の低下や、乾燥時のひび割れを防止し、さらに、該PB比が小さすぎることによって、該空隙が水溶性樹脂によってふさがれやすくなり、空隙率が減少することでインク吸収性が低下するのを防止する観点から、1.5:1〜10:1が好ましい。例えば、平均一次粒子径が20nm以下の無水シリカ微粒子と水溶性樹脂とをPB比2:1〜5:1で水溶液中に完全に分散した塗布液を支持体上に塗布し、該塗布層を乾燥した場合、シリカ微粒子の二次粒子を鎖単位とする三次元網目構造が形成され、平均細孔径が30nm以下、空隙率が50%〜80%、細孔比容積0.5ml/g以上、比表面積が100m/g以上の、透光性の多孔質膜を容易に形成することができる。
【0048】
(媒染剤)
本発明におけるインク受容層は、媒染剤の少なくとも一種を含有する。
媒染剤としては、有機媒染剤及び無機媒染剤のいずれも用いることができる。有機媒染剤としては、第1級〜第3級アミノ基、又は第4級アンモニウム塩基をカチオン性基として含むポリマー媒染剤が好適である。また、カチオン性の非ポリマー媒染剤を用いてもよい。前記無機媒染剤としては、水溶性金属化合物などが好適である。
【0049】
前記ポリマー媒染剤としては、第1級〜第3級アミノ基及びその塩、又は第4級アンモニウム塩基を有する単量体(媒染モノマー)の単独重合体や、該媒染モノマーと他のモノマー(非媒染モノマー)との共重合体又は縮重合体として得られるものが好ましい。また、これらのポリマー媒染剤は、水溶性ポリマー、又は水分散性のラテックス粒子のいずれの形態でも使用できる。
【0050】
前記媒染モノマーの具体例としては、特開2002−274024号公報の段落番号[0069]〜[0075]に記載されている化合物を挙げることができる。
【0051】
更に、ポリマー媒染剤として、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ポリメタクリロイルオキシエチル−β−ヒドロキシエチルジメチルアンモニウムクロライド、ポリアリルアミン塩酸塩、ポリアミド−ポリアミン樹脂、カチオン化澱粉、ジシアンジアミドホルマリン縮合物、ジメチル−2−ヒドロキシプロピルアンモニウム塩重合物等も好ましい。
【0052】
中でも、滲み抑制の観点から、カチオン性ポリウレタン、特開2004−167784号公報等に記載のカチオン性ポリアクリレートが好ましく、カチオン性ポリウレタンがより好ましい。カチオン性ポリウレタンとしては、市販品として例えば、第一工業製薬(株)製の「スーパーフレックス650」、「F−8564D」、「F−8570D」、日華化学(株)製の「ネオフィックスIJ−150」などを挙げることができる。
【0053】
ポリマー媒染剤の分子量としては、重量平均分子量で2000〜300000が好ましい。分子量が前記範囲内であると、耐水性及び耐経時滲みが向上する。
【0054】
また、前記無機媒染剤としては、水溶性多価金属化合物が好適である。
水溶性多価金属化合物としては、例えば、カルシウム、バリウム、マンガン、銅、コバルト、ニッケル、アルミニウム、鉄、亜鉛、ジルコニウム、クロム、タングステン、モリブデンから選ばれる金属の水溶性塩が挙げられる。なお、水溶性金属化合物の「水溶性」は、20℃の水に1質量%以上が溶解することをいう。
【0055】
水溶性金属化合物の中でも、3価以上の多価金属化合物が好ましく、アルミニウム化合物又は周期律表4A族金属(例えばジルコニウム、チタン)を含む化合物が好ましく、アルミニウム化合物がより好ましく、特に好ましくは水溶性アルミニウム化合物である。
【0056】
前記水溶性アルミニウム化合物としては、例えば、塩化アルミニウム又はその水和物(例:塩化アルミニウム六水和物)、硫酸アルミニウム又はその水和物、アンモニウムミョウバン、亜硫酸アルミニウム、チオ硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム九水和物、酢酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、塩基性チオグリコール酸アルミニウム等が知られている。さらに、無機系の含アルミニウムカチオンポリマーである塩基性ポリ水酸化アルミニウム化合物(以下、「塩基性ポリ塩化アルミニウム」、「ポリ塩化アルミニウム」ともいう。)が知られており、好ましく用いられる。塩基性ポリ水酸化アルミニウム化合物とは、主成分が下記式1、式2又は式3で表され、例えば、[Al(OH)153+、[Al(OH)204+、[Al13(OH)345+、[Al21(OH)603+、等の、塩基性で高分子の多核縮合イオンを安定に含む水溶性のポリ水酸化アルミニウムである。
[Al(OH)Cl6−n ・・・式1
[Al(OH)AlCl ・・・式2
Al(OH)Cl(3n−m)〔0<m<3n〕・・・式3
これらは、多木化学(株)よりポリ塩化アルミニウム(PAC)の名称で水処理剤として、浅田化学(株)よりポリ水酸化アルミニウム(Paho)の名称で、また、(株)理研グリーンよりHAP−25の名称で、大明化学(株)よりアルファイン83の名称で、さらに他のメーカーからも同様の目的で上市されており、各種グレードの物が容易に入手できる。
【0057】
媒染剤のインク受容層中における含有量としては、インク受容層の全質量に対して、1〜20質量%が好ましく、3〜15質量%がより好ましい。媒染剤の含有量が前記範囲内であると、インクの吸収、透過が阻害されるのを効果的に防ぐことができる。インク受像層を、(1)インク受容層形成用の塗布液の塗布と同時、又は(2)該塗布によって形成された塗布層の乾燥途中であって該塗布層が減率乾燥を示す前、のいずれかのときに、前記塗布層に塩基性化合物を含む塩基性溶液を付与する方法(ウエット・オン・ウエット法)により形成する場合には、インク受容層形成用の塗布液中に含まれる媒染剤の量が、最終的に得られるインク受容層中に含まれる全媒染剤量の95質量%以上を占めることが好ましい。該塗布液中に含まれる媒染剤の量が前記範囲内であると、ブロンジングを効果的に防ぐことができる。
【0058】
(他の成分)
本発明におけるインク受容層は、上記成分以外に、硼素化合物等の架橋剤や、界面活性剤、カチオン性樹脂、有機溶剤、などの他の成分を含有することができる。
【0059】
−架橋剤−
インク受容層は、ひび割れの抑制、画像濃度及び光沢感の向上の点で、前記水溶性樹脂を架橋して硬化する架橋剤を含有することができる。
【0060】
架橋剤の好ましい例として、硼素化合物が挙げられる。硼素化合物としては、例えば、硼砂、硼酸、硼酸塩(例えば、オルト硼酸塩、InBO、ScBO、YBO、LaBO、Mg(BO、Co(BO、二硼酸塩(例えば、Mg、Co)、メタ硼酸塩(例えば、LiBO、Ca(BO、NaBO、KBO)、四硼酸塩(例えば、Na・10HO)、五硼酸塩(例えば、KB・4HO、Ca11・7HO、CsB)等が挙げられる。中でも、水溶性樹脂(特に、ポリビニルアルコール)と速やかに架橋反応を起こす点で、四硼酸のアルカリ金属塩、硼酸、硼酸塩が好ましく、中でも四硼酸ナトリウム、ホウ砂、硼酸がより好ましく、ホウ砂、ホウ酸が最も好ましい。
硼素化合物は、1種単独でも、2種以上を組合わせて併用してもよい。
【0061】
水溶性樹脂の架橋剤として、グリオキザール、メラミン・ホルムアルデヒド(例えば、メチロールメラミン、アルキル化メチロールメラミン)、メチロール尿素、レゾール樹脂、ポリイソシアネート、エポキシ樹脂等を硼素化合物と併用してもよい。
【0062】
水溶性樹脂としてゼラチンを用いる場合には、ゼラチンの硬膜剤として、例えば、ホルムアルデヒド、グリオキザール、グルタールアルデヒド等のアルデヒド系化合物;ジアセチル、シクロペンタンジオン等のケトン系化合物;ビス(2−クロロエチル尿素)−2−ヒドロキシ−4,6−ジクロロ−1,3,5−トリアジン、2,4−ジクロロ−6−S−トリアジン・ナトリウム塩等の活性ハロゲン化合物;ジビニルスルホン酸、1,3−ビニルスルホニル−2−プロパノール、N,N’−エチレンビス(ビニルスルホニルアセタミド)、1,3,5−トリアクリロイル−ヘキサヒドロ−S−トリアジン等の活性ビニル化合物;ジメチロ−ル尿素、メチロールジメチルヒダントイン等のN−メチロール化合物;1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート等のイソシアネート系化合物;米国特許第3017280号明細書、同第2983611号明細書に記載のアジリジン系化合物;米国特許第3100704号明細書に記載のカルボキシイミド系化合物;グリセロールトリグリシジルエーテル等のエポキシ系化合物;1,6−ヘキサメチレン−N,N’−ビスエチレン尿素等のエチレンイミノ系化合物;ムコクロル酸、ムコフェノキシクロル酸等のハロゲン化カルボキシアルデヒド系化合物;2,3−ジヒドロキシジオキサン等のジオキサン系化合物;クロム明ばん、カリ明ばん、硫酸ジルコニウム、酢酸クロム等の化合物を用いることができる。
【0063】
架橋剤のインク受容層中における含有量は、膜強度の向上及びひび割れ防止の点から、水溶性樹脂100質量部に対して、5〜40質量部が好ましく、8〜30質量部がより好ましい。
【0064】
−界面活性剤−
界面活性剤としては、ノニオン性又は両性界面活性剤が好ましい。ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル及びポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル類(例えば、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリーコールジエチルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等)、オキシエチレン・オキシプロピレンブロックコポリマー、ソルビタン脂肪酸エステル類(例えば、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノオレート、ソルビタントリオレート等)、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類(例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレート等)、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル類(例えば、テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット等)、グリセリン脂肪酸エステル類(例えば、グリセロールモノオレート等)、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル類(モノステアリン酸ポリオキシエチレングリセリン、モノオレイン酸ポリオキシエチレングリセリン等)、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル類(ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールモノオレート等)、ポリオキシエチレンアルキルアミン等が挙げられ、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル類が好ましい。
【0065】
両性界面活性剤としては、アミノ酸型、カルボキシアンモニウムベタイン型、スルホンアンモニウムベタイン型、アンモニウム硫酸エステルベタイン型、イミダゾリウムベタイン型等が挙げられ、例えば、米国特許第3,843,368号明細書、特開昭59−49535号公報、同63−236546号公報、特開平5−303205号公報、同8−262742号公報、同10−282619号公報等に記載のものが好適である。両性界面活性剤としては、アミノ酸型両性界面活性剤が好ましい。アミノ酸型両性界面活性剤としては、特開平5−303205号公報に記載の例えばアミノ酸(グリシン、グルタミン酸、ヒスチジン酸等)から誘導体化されたものが好ましく、長鎖のアシル基が導入されたN−アミノアシル酸及びその塩が挙げられる。
【0066】
第1の液におけるノニオンもしくは両性界面活性剤の含有量としては、0.01〜1質量%が好ましく、特に好ましくは0.03〜0.6質量%である。界面活性剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、両性界面活性剤とノニオン系界面活性剤を併用してもよい。
【0067】
−高沸点有機溶媒−
前記ノニオン性又は両性界面活性剤とともに、高沸点有機溶剤を含有してもよい。前記界面活性剤とともに高沸点有機溶剤を含むことで、インクジェット記録媒体のカールを防ぎ、平坦性を保つことができる。
高沸点有機溶媒とは、大気圧下での沸点が150℃以上である有機溶媒をさす。
【0068】
高沸点有機溶剤としては、水溶性のものが好ましい。水溶性の高沸点有機溶剤としては、例えば、多価アルコール類(エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、1,2,3−ブタントリオール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,4−ペンタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオジグリコール、ポリエチレングリコール(重量平均分子量が400以下)等)、多価アルコールエーテル類(ジエチレングリコールモノブチルエーテル(DEGmBE)、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、グリセリンモノメチルエーテル等)、水酸基を複数持つアルコールアミン類(トリエタノールアミン等)が挙げられ、好ましくは多価アルコールエーテル類であり、さらに好ましくはジエチレングリコールモノブチルエーテル(DEGmBE)である。
【0069】
高沸点有機溶剤のインク受容層中における含有量としては、全固形分に対して、0.05〜1質量%が好ましく、特に好ましくは0.1〜0.6質量%である。
【0070】
−その他添加剤−
本発明におけるインク受容層は、必要に応じて、各種の紫外線吸収剤、界面活性剤、酸化防止剤、一重項酸素クエンチャー等の褪色防止剤などのその他添加剤を含有することができる。なお、これらの添加剤の詳細については、特開2007−98657号公報の段落[0081]〜[0090]の記載を参照することができる。
【0071】
(支持体)
本発明におけるインクジェット記録媒体は、支持体を設けて構成されている。
支持体としては、原紙を使用することが好ましい。原紙としては、木材パルプを主原料とし、必要に応じて木材パルプに加えてポリプロピレンなどの合成パルプ、あるいはナイロンやポリエステルなどの合成繊維を用いて抄紙される。上記木材パルプとしては、LBKP、LBSP、NBKP、NBSP、LDP、NDP、LUKP、NUKPのいずれも用いることができるが、短繊維分の多いLBKP、NBSP、LBSP、NDP、LDPをより多く用いることが好ましい。
【0072】
パルプは、不純物の少ない化学パルプ(硫酸塩パルプや亜硫酸パルプ)が好ましく用いられ、漂白処理を行なって白色度を向上させたパルプも有用である。
【0073】
原紙中には、高級脂肪酸、アルキルケテンダイマー等のサイズ剤、炭酸カルシウム、タルク、酸化チタンなどの白色顔料、スターチ、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール等の紙力増強剤、蛍光増白剤、ポリエチレングリコール類等の水分保持剤、分散剤、4級アンモニウム等の柔軟化剤などを適宜添加することができる。
【0074】
原紙の坪量としては、30g/m〜250g/mが好ましく、特に50g/m〜200g/mが好ましい。原紙の厚さとしては、40μm〜250μmが好ましい。原紙は、抄紙段階又は抄紙後にカレンダー処理して高平滑性を与えることもできる。
原紙の密度は0.7g/cm〜1.2g/cm(JIS P−8118)が一般的である。
原紙の剛度としては、JIS P−8143に規定される条件で20(L/100)〜200(L/100)が好ましい。
原紙のpHは、JIS P−8113で規定された熱水抽出法により測定された場合、5〜9であることが好ましい。
【0075】
原紙表面には表面サイズ剤を塗布してもよく、表面サイズ剤としては、上記原紙中添加できるサイズと同様のサイズ剤を使用できる。また、顔料を塗布してもよく、平滑化処理をしてもよい。
【0076】
支持体にはバックコート層を設けてもよい。バックコート層には、白色顔料や水性バインダー、その他の成分を用いることができる。白色顔料としては、例えば、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、カオリン、タルク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、サチンホワイト、珪酸アルミニウム、珪藻土、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、合成非晶質シリカ、コロイダルシリカ、コロイダルアルミナ、擬ベーマイト、水酸化アルミニウム、アルミナ、リトポン、ゼオライト、加水ハロイサイト、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム等の白色無機顔料、スチレン系プラスチックピグメント、アクリル系プラスチックピグメント、ポリエチレン、マイクロカプセル、尿素樹脂、メラミン樹脂等の有機顔料等が挙げられる。また、水性バインダーとしては、例えば、スチレン/マレイン酸塩共重合体、スチレン/アクリル酸塩共重合体、ポリビニルアルコール、シラノール変性ポリビニルアルコール、澱粉、カチオン化澱粉、カゼイン、ゼラチン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドン等の水溶性高分子、スチレンブタジエンラテックス、アクリルエマルジョン等の水分散性高分子等が挙げられる。その他の成分としては、消泡剤、抑泡剤、染料、蛍光増白剤、防腐剤、耐水化剤等が挙げられる。
【0077】
〜インクジェット記録媒体の製造方法〜
本発明のインクジェット記録媒体は、支持体上に、支持体側から順に前記多孔質樹脂層とインク受容層とを設けた構成に形成することができる方法であれば、特に制限なくいずれの方法によって作製されてもよい。
【0078】
本発明のインクジェット記録媒体の作製は、例えば、少なくとも体積平均粒子径が0.20μm以下の無機微粒子及び樹脂を含む多孔質樹脂層を形成する樹脂層形成工程と、少なくとも無機微粒子、水溶性樹脂、及び媒染剤を含み、厚みが6〜20μmのインク受容層を形成する受容層形成工程とを設けることにより、支持体側から順に多孔質樹脂層とインク受容層とが配置されるように行なえる。多孔質樹脂層とインク受容層とは、あらかじめ形成された多孔質樹脂層の上に重ねてインク受容層を塗布等して形成する逐次重層法により形成されてもよい。
【0079】
多孔質樹脂層を形成する樹脂層形成工程は、例えば、体積平均粒子径が0.20μm以下の無機微粒子と樹脂とを混合した樹脂組成物を溶融押し出しによりフィルム状に成形し、冷却、固化させた後、延伸を行なうことにより好適に多孔質樹脂層を形成することができる。
【0080】
インク受容層を形成する受容層形成工程は、下記ウェット・オン・ウェット法によるほか、支持体上に、少なくとも無機微粒子と水溶性樹脂と媒染剤とを含む塗布液を塗布して塗布層を形成する工程と、形成された塗布層を、前記塗布時の塗布液の温度に対して5℃以上低下するように冷却する工程と、冷却された塗布層を乾燥してインク受容層を形成する工程とを有する形態(セット乾燥法)により、インク受容層を形成することができる。
【0081】
塗布層を冷却する方法としては、塗布層が形成された支持体を0〜10℃に保たれた冷却ゾーンで5〜30秒間、冷却させる方法が好適である。冷却する工程においては、0〜10℃低下するように冷却することが好ましく、0〜5℃以上低下するように冷却することがより好ましい。塗布層の温度は、膜面の温度を測定することにより測定される。
【0082】
本発明のインクジェット記録媒体は、支持体上に、少なくとも体積平均粒子径が0.20μm以下の無機微粒子及び樹脂を含む多孔質樹脂層を形成する樹脂層形成工程と、少なくとも無機微粒子と水溶性樹脂と媒染剤とを含む塗布液を、前記多孔質樹脂層上に配置されるように塗布し、(1)該塗布と同時、又は(2)該塗布によって形成された塗布層の乾燥途中であって該塗布層が減率乾燥を示す前、のいずれかのときに、前記塗布層に塩基性化合物を含む塩基性溶液を付与し(ウェット・オン・ウェット(Wet-On-Wet)法)、前記塗布液及び前記塩基性溶液の少なくとも一方に架橋剤を含ませて架橋硬化された厚み6〜20μmのインク受容層を形成する受容層形成工程と、を設けた方法(本発明のインクジェット記録媒体の製造方法)により好適に行なうことができる。
【0083】
−樹脂層形成工程−
樹脂層形成工程は、支持体上に、孔を有し、体積平均粒子径が0.20μm以下の無機微粒子及び樹脂を含む多孔質樹脂層を形成する。
【0084】
多孔質樹脂層は、孔を有する層であり、体積平均粒子径が0.20μm以下の無機微粒子と樹脂とを混合、混練した樹脂組成物を溶融押し出しによりフィルム状に成形し、冷却、固化させた後、延伸を行なった後、接着層を介して支持体に接着させることにより好適に多孔質樹脂層を形成することができる。具体的には、疎水性の熱可塑性樹脂と体積平均粒子径が0.20μm以下の無機微粒子とを含むコンパウンドを調製し、得られたコンパウンドを溶融キャスティング法にて少なくとも1層にて押し出し、押し出された樹脂フィルムをチルロールにより予備延伸する。そして、チルロールで予備延伸された予備延伸膜を冷却・固化し、固化された膜を適切な温度で延伸して多孔質フィルムを成形することにより形成することができる。
なお、無機微粒子及び樹脂等の詳細については、既述の通りである。
【0085】
前記接着層は、フィルム状の多孔質樹脂層と支持体を接着できるものであれば特に制約はなく、例えば、水溶性樹脂と無機微粒子とを含む溶液を、支持体上あるいはフィルム状の多孔質樹脂層上に塗布し、湿潤状態にあるうちに、フィルム状の多孔質樹脂層あるいは支持体を重ねた後に、乾燥することにより設けることができる。水溶性樹脂には、インク前記受容層の水溶性樹脂の説明で記載したものを挙げることができる。無機微粒子としては、前記インク受像層の無機微粒子の説明で記載したものを挙げることができる。また、接着に先立ち、フィルム状の多孔質樹脂層の表面をコロナ処理などによって親水化しておくことが好ましい。
【0086】
−受容層形成工程−
受容層形成工程は、前記樹脂層形成工程で形成された多孔質樹脂層の上に位置するように、少なくとも無機微粒子と水溶性樹脂と媒染剤とを含む塗布液(以下、「インク受容層形成用塗布液」ともいう。)を塗布し、(1)該塗布と同時、又は(2)該塗布によって形成された塗布層の乾燥途中であって該塗布層が減率乾燥を示す前、のいずれかのときに、前記塗布層に塩基性化合物を含む塩基性溶液を付与して、厚みが6〜20μmのインク受容層を形成する。このとき、インク受容層は、塗布液及び塩基性溶液のいずれか一方又は両方に架橋剤を含ませることにより架橋硬化される。
【0087】
インク受容層形成用塗布液に含有される成分、具体的には無機微粒子、水溶性樹脂、媒染剤、及び必要により架橋剤等の他の成分の詳細については、既述の通りである。
インク受容層形成用塗布液は、例えば、気相法シリカ(無機微粒子)とPVA(水溶性樹脂)と媒染剤とホウ酸(架橋剤)とノニオン性もしくは両性界面活性剤と高沸点有機溶剤とを含むものが挙げられ、この場合を一例に調製方法を示す。即ち、
まず水中に、気相法シリカを添加し、さらに媒染剤を加えた後、高圧ホモジナイザー、サンドミル等で分散する。その後、これにホウ酸を加え、PVA水溶液(例えば、気相法シリカの1/3程度の質量のPVAとなるように)を加え、さらにノニオン性もしくは両性界面活性剤及び高沸点有機溶剤を添加し、攪拌することで調製することができる。得られた塗布液は、均一ゾルであり、これを下記塗布方法で支持体上に塗布することにより、三次元網目構造を有する多孔質層を形成することができる。
【0088】
また、上記のようにホウ酸を薄めた後にPVAを加えることにより、PVAの部分的なゲル化を防止することができる。ホウ酸などの架橋剤は、インク受容層形成用塗布液に加えずあるいは加えると共に、後述の塩基性溶液に加えて付与してもよい。
【0089】
無機微粒子の分散に際しては、無機微粒子とともにカチオン性樹脂を添加しておき、無機微粒子がカチオン性樹脂で分散された形態が好ましい。
カチオン性樹脂には、特に制限はないが、水溶性又は水性エマルションタイプ等を好適に用いることができる。カチオン性樹脂としては、例えば、ジシアンジアミド−ホルマリン重縮合物に代表されるジシアン系カチオン樹脂、ジシアンアミド−ジエチレントリアミン重縮合物に代表されるポリアミン系カチオン樹脂、エピクロルヒドリン−ジメチルアミン付加重合物、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド−SO共重合物、ジアリルアミン塩−SO共重合物、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド重合物、アリルアミン塩の重合物、ジアルキルアミノエチル(メタ)アクリレート4級塩重合物、アクリルアミド−ジアリルアミン塩共重合体等のポリカチオン系カチオン樹脂などが挙げられ、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド、モノメチルジアリルアンモニウムクロライド及びポリアミジンが好ましく、耐水性の点で、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド、及びモノメチルジアリルアンモニウムクロライドが特に好ましい。カチオン性樹脂は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0090】
カチオン樹脂のインク受容層中における含有量は、無機微粒子100質量部に対して、1〜30質量部が好ましく、より好ましくは3〜20質量部である。カチオン樹脂の添加態様としては、粉砕分散前に少量添加して、所望の粒径になるまで粉砕分散した後、さらに添加してもよい。
【0091】
インク受容層形成用塗布液は、酸性溶液であることが好ましく、そのpHとしては5.0以下が好ましく、4.5以下がより好ましく、4.0以下が更に好ましい。pHは、媒染剤の種類や量を選定することで調整できる。また、有機又は無機の酸を添加して調整してもよい。pHが5.0以下であることにより、硼素化合物等の架橋剤による水溶性樹脂の架橋反応を抑制することができる。
【0092】
塗布は、例えば、エクストルージョンダイコーター、エアードクターコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、ナイフコーター、スクイズコーター、リバースロールコーター、バーコーター等の公知の塗布方法により行なうことができる。
【0093】
インク受容層形成用塗布液の塗布量は、10〜200g/mが好ましく、15〜150g/mがより好ましい。
【0094】
塩基性溶液は、pHが7.1以上の溶液であることが好ましく、pH7.5以上の溶液あることがより好ましい。pHが7.1以上であると、インク受容層の硬膜反応が良好になり、傷の発生が生じ難くなる。塩基性溶液のpHは、塩基性物質を添加することにより調整できる。塩基性物質としては、分子量700以下のアミン系化合物などが挙げられ、例えば、アンモニア、第一級アミン(エチルアミン等)、第二級アミン(ジメチルアミン等)、第三級アミン(N−エチル−N−メチルブチルアミン、トリエチルアミン等)、アルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物及び/又はその塩(好ましくはアンモニウム塩)が挙げられる。また、その他のエチレンジアミン等の多価アミンを添加することもできる。
【0095】
塩基性物質の中でも、インク受容層の耐傷性、湿熱滲み、保存性などの性能向上の点で、アンモニア、分子量700以下の第一級〜第三級アミンから選択される少なくとも1種が好ましく、更にはアンモニア、分子量700以下のアンモニウム塩が好ましい。
【0096】
塩基性溶液は、前記インク受容層形成用塗布液に含有すると共にあるいは含有せずに、硼素化合物などの架橋剤を含んでもよい。また、塩基性溶液は、画像の耐水性、耐経時滲みの更なる向上を図るために、カチオン性媒染剤などの媒染剤成分を含有してもよい。架橋剤、媒染剤成分の詳細については、既述の通りである。
【0097】
「塗布層が減率乾燥を示す前」とは、通常は塗布液の塗布直後から数分間をさし、この間においては塗布された塗布層中の溶剤の含有量が時間に比例して減少する現象である恒率乾燥を示す。この恒率乾燥を示す時間については、化学工学便覧(pp.707〜712、丸善(株)発行、昭和55年10月25日)に記載されている。
【0098】
インク受容層形成用塗布液の塗布により形成された塗布層は、減率乾燥を示すようになるまで乾燥されるが、このときの乾燥は一般に40℃〜180℃で0.5分間〜10分間(好ましくは、0.5分間〜5分間)行なわれる。また、乾燥時間としては、当然塗布量により異なるが上記範囲が適当である。
【0099】
インク受容層形成用塗布液を塗布して形成した塗布層が、減率乾燥を示すようになる前に塩基性溶液を付与する方法としては、(i)塩基性溶液をインク受容層形成用塗布液により形成された塗布層上に更に塗布する方法、(ii)スプレー等の方法によって塩基性溶液を噴霧する方法、(iii)塩基性溶液中に、インク受容層形成用塗布液が塗布されて塗布層が形成された支持体を浸漬する方法、等が挙げられる。なお、方法(i)において塗布する方法としては、例えば、カーテンフローコーター、エクストルージョンダイコーター、エアードクターコーター、ブレッドコーター、ロッドコーター、ナイフコーター、スクイズコーター、リバースロールコーター、バーコーター等の公知の塗布方法が挙げられる。中でも、エクストリュージョンダイコーター、カーテンフローコーター、バーコーター等の既設の塗布層にコーターが接触しない方法が好ましい。
【0100】
塩基性溶液の付与量としては、0.1〜40g/mが好ましく、0.5〜30g/mがより好ましい。
【0101】
また、塩基性溶液の付与をインク受容層形成用塗布液の塗布と同時に行なう場合、インク受容層形成用塗布液及び塩基性溶液を、インク受容層形成用塗布液が支持体と接触する積層順にて支持体の上に同時塗布(重層塗布)し、乾燥硬化させることができる。
【0102】
同時塗布(重層塗布)は、例えば、エクストルージョンダイコーター、カーテンフローコーターを用いた塗布方法により行なえる。同時塗布の後、形成された塗布層は乾燥されるが、この場合の乾燥は一般に塗布層を40℃〜150℃で0.5分間〜10分間加熱することにより行なわれ、好ましくは40℃〜100℃で0.5〜5分間加熱することにより行なわれる。硼素化合物を用いる場合、60℃〜100℃で5分間〜20分間加熱することが好ましい。
【0103】
同時塗布(重層塗布)を例えばエクストルージョンダイコーターにより行なった場合、同時に吐出される2種の塗布液はエクストルージョンダイコーターの吐出口附近で、すなわち支持体上に移る前に重層形成され、その状態で支持体上に重層塗布される。塗布前に重層された2つの塗布液は、支持体に移るときには既に2液の界面で架橋反応を生じ易いことから、エクストルージョンダイコーターの吐出口付近で吐出される2液が混合して増粘し易くなり、塗布操作に支障を来す場合がある。したがって、同時塗布による場合には、インク受容層形成用塗布液及び塩基性溶液の塗布と共に、更に架橋剤と反応しない材料で調製されたバリアー液を2液間に介在させて同時3重層塗布することが好ましい。
【0104】
バリアー液は、硼素化合物と反応せずに液膜形成できるものであれば、特に制限なく選択できる。例えば、硼素化合物と反応しない水溶性樹脂を微量含む水溶液や水等が挙げられる。水溶性樹脂は、増粘剤等の目的で塗布性を考慮して用いられ、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロ−ス、メチルセルロ−ス、ヒドロキシエチルメチルセルロ−ス、ポリビニルピロリドン、ゼラチン等のポリマーが挙げられる。なお、バリアー液に媒染剤を含有させてもよい。
【実施例】
【0105】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は質量基準である。
【0106】
(実施例1)
−原紙の作製−
LBKP100部からなる木材パルプをダブルディスクリファイナーによりカナディアンフリーネス300mlまで叩解し、これに、エポキシ化ベヘン酸アミド0.5部、アニオンポリアクリルアミド1.0部、ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン0.1部、及びカチオンポリアクリルアミド0.5部(いずれもパルプに対する絶乾質量比)を添加し、長網抄紙機により秤量して、170g/mの原紙を抄造した。
【0107】
−多孔質樹脂層の形成−
低密度ポリエチレン(LDPE)38.5部と、炭酸カルシウム(Vigot−15、白石工業(株)製、体積平均粒子径0.15μm)60部と、ステアリン酸カルシウム1部と、イルガノックス1010を0.5部とを混練した後、220℃で溶融押し出しによりダイより押し出して得たフィルムをチルロール上で冷却、固化した。その後、90℃で縦方向に延伸比5で延伸を行なって厚みが10μmの多孔質フィルムを得た。
【0108】
得られた多孔質フィルムを、上記の原紙に接着層を介して接着することにより多孔質樹脂層を形成した。接着層の形成には、ポリビニルアルコール(PVA−124、(株)クラレ製)10質量%、及びシリカ5質量%を含有する接着剤溶液を用い、あらかじめ接着前に多孔質フィルムの接着面にコロナ放電処理を施し、コロナ放電処理面に接着剤溶液を塗布して原紙と接着した。
【0109】
−インク受容層の形成−
(第1の液の調製)
下記組成中のイオン交換水に気相法シリカ微粒子を混合し、これにシャロールDC−902PとZA−30とをさらに混合し、ナノマイザーLA31(ナノマイザー(株)製)を用いて、500kg/mの圧力で2回処理を行なった。その後、60分間攪拌を行ない、撹拌しながらホウ酸水溶液(5質量%)を添加した。これに更に、下記組成中のポリビニルアルコール5質量%水溶液を攪拌しながら加え、さらにポリオキシエチレンラウリルエーテルとジエチレングリコールモノブチルエーテルとを加え、さらにイオン交換水を加えて全量を1000.0kgに調整することにより、第1の液を調製した。なお、無機微粒子と水溶性樹脂との質量比(無機微粒子:水溶性樹脂)は、4.9:1であった。
【0110】
<第1の液の組成>
・イオン交換水 ・・・400.0kg
・気相法シリカ微粒子(無機微粒子) ・・・86.0kg
(AEROSIL300SF75、日本アエロジル(株)製)
・シャロールDC−902P (51.5%水溶液)・・・7.0kg
(カチオン性樹脂、媒染剤、第一工業製薬(株)製)
・ZA−30 ・・・5.0kg
(媒染剤、酢酸ジルコニル、第一稀元素化学工業(株)製)
・ホウ酸水溶液(5質量%液) ・・・63.0kg
・ポリビニルアルコールの5質量%水溶液 ・・・353.0kg
(JM−33、鹸化度94.3mol%、重合度3300、日本酢ビ・ポバール社製)
・ポリオキシエチレンラウリルエーテル ・・・52.0kg
(エマルゲン109Pの2質量%水溶液、花王(株)製;ノニオン系界面活性剤)
・ジエチレングリコールモノブチルエーテル ・・・3.0kg
(DEGmBE;高沸点有機溶剤)
・イオン交換水 ・・・全量が1000.0kgとなる量
【0111】
(インク受容層の形成)
原紙に接着された多孔質樹脂層の表面にコロナ放電処理を施し、このコロナ放電処理面に、上記組成を有する第1の液をエクストルージョンダイコーターにて湿潤塗布量35g/mとなるように塗布し、塗布形成された塗布層を熱風乾燥機にて80℃(風速3〜8m/sec)で層の固形分濃度が20質量%になるまで乾燥させた。この間、第1の液により形成された塗布層は恒率乾燥を示した。その直後、この塗布層を下記組成の第2の液(塩基性溶液)に30秒浸漬し、塗布層上に第2の液を湿潤塗布量2.5g/mを付着させた(減率乾燥前の塩基性溶液の付与)。そして、さらに80℃下で10分間、乾燥させた。
以上のようにして、支持体上の多孔質樹脂層の上にインク受容層が形成されたインクジェット記録媒体を作製した。
【0112】
<第2の液(塩基性溶液)の組成>
・イオン交換水 ・・・70.0kg
・ホウ酸 ・・・0.65kg
・ポリオキシエチレンラウリルエーテル ・・・5.0kg
(ノニオン系界面活性剤;エマルゲン109Pの10質量%水溶液、花王(株)製)
・炭酸アンモニウム ・・・pH7.3になるように添加
・イオン交換水 ・・・全量が100.0kgになる量
【0113】
−評価−
得られたインクジェット記録媒体について、下記の評価を行なった。評価結果を下記表1に示す。
【0114】
(1)低湿カール
インクジェット記録媒体を148mm×100mmのサンプル片に裁断し、受像層塗布面が上になるようにして平面上に平置きして23℃、50%RH環境下で1日間調湿した。さらに、23℃、50%RH環境下で、サンプル片を重ねて2枚の平板に挟み込み、上に500gの重りを載せて10日間放置し、サンプル片をフラット化した。その後、25℃、35%RH環境下で、サンプル片を受像層塗布面が上になるようにして平面上に平置きして1日間調湿した後、隅が平面から浮き上がる向きにして置き直し、四隅について平面からの浮き上がり距離を測定し、平均した。受像層塗布面側に浮き上がった場合をプラスカール、反対側に浮き上がった場合をマイナスカールとした。得られた平均値を指標として、カール挙動を下記の評価基準にしたがって評価した。
<評価基準>
AA:浮き上がり距離(カール)の平均の絶対値が3mm以上5mm未満であった。
A:浮き上がり距離(カール)の平均の絶対値が5mm以上10mm未満であった。
B:浮き上がり距離(カール)の平均の絶対値が10mm以上15mm未満であった。
C:浮き上がり距離(カール)の平均の絶対値が15mm以上であった。
【0115】
(2)ブロンジング
インクジェット記録媒体を25℃、70%RHの環境条件下で24時間放置した後、シアン色インクを用いてインクジェットプリンターMP−960(キャノン(株)製)にてベタ画像を記録した。得られたシアン画像を目視により観察し、金属光沢感の有無を下記の評価基準にしたがって評価した。
<評価基準>
AAA:金属光沢感は全くみられなかった。
AA:金属光沢感がごく僅にみられたが、指摘されたときに気がつく程度の軽微なものであった。
A:金属光沢感が僅かにみられたが、実用上支障のない程度であった。
B:金属光沢感がみられたが、実用上許容できる程度であった。
C:金属光沢感が顕著に認められた。
【0116】
(3)光沢性
インクジェット記録媒体に、インクジェットプリンターA820(セイコーエプソン(株)製)を用いて23℃、50%RHの環境下で黒ベタ画像を記録した。インク受像層の最表面における60°光沢度を、デジタル変角光沢度計(UGV−50DP、スガ試験機社製)で計測し、下記基準にしたがって評価した。
<評価基準>
AAA:光沢度が58以上
AA:光沢度が55以上58未満
A:光沢度が52以上55未満
B:光沢度が45以上52未満
C:光沢度が45未満
【0117】
(4)インク吸収性
インクジェット記録媒体にインクジェットプリンターMP−960(キャノン(株)製)を用いて黒色のベタ画像を記録し、記録終了後、記録部を指先で軽く擦って汚れなくなるまでの時間を測定し、下記の評価基準にしたがって評価した。
<評価基準>
A:インク吸収速度は3秒未満であった。
B:インク吸収速度は3秒以上7秒未満であった。
C:インク吸収速度は7秒以上であり、実用上支障を来たす程度であった。
【0118】
(実施例2)
実施例1において、第1の液の湿潤塗布量を35g/mから55g/mに変更し、第2の液の湿潤塗布量を2.5g/mから4.5g/mに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、インクジェット記録媒体を作製し、評価を行なった。評価結果は、下記表1に示す。
【0119】
(実施例3)
実施例1において、第1の液の湿潤塗布量を35g/mから100g/mに変更し、第2の液の湿潤塗布量を2.5g/mから8.0g/mに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、インクジェット記録媒体を作製し、評価を行なった。評価結果は、下記表1に示す。
【0120】
(実施例4)
実施例1において、多孔質樹脂層の形成に用いた炭酸カルシウム(Vigot−15、白石工業(株)製、体積平均粒子径0.15μm)を炭酸カルシウム(白艶華CCR、白石工業(株)製、体積平均粒子径0.08μm)に変更するとともに、第1の液の湿潤塗布量を35g/mから100g/mに変更し、第2の液の湿潤塗布量を2.5g/mから8.0g/mに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、インクジェット記録媒体を作製し、評価を行なった。評価結果は、下記表1に示す。
【0121】
(実施例5)
実施例2において、インク受容層の形成を下記の方法に変更して行なったこと以外は、実施例2と同様にして、インクジェット記録媒体を作製し、評価を行なった。評価結果は、下記表1に示す。
〜インク受容層の形成〜
原紙に接着された多孔質樹脂層の表面にコロナ放電処理を施し、このコロナ放電処理面に、下記組成を有する第3の液をエクストルージョンダイコーターにて湿潤塗布量48g/mとなるように塗布し、5℃で20秒間、冷却した後、40℃・10%RHの条件で乾燥させた。このようにして、支持体上の多孔質樹脂層の上にインク受容層が形成されたインクジェット記録媒体を作製した。
【0122】
<第3の液の組成>
・イオン交換水 ・・・400.0kg
・気相法シリカ微粒子(無機微粒子) ・・・86.0kg
(AEROSIL300SF75、日本アエロジル(株)製)
・シャロールDC−902P (51.5%水溶液)・・・7.0kg
(カチオン性樹脂、媒染剤、第一工業製薬(株)製)
・ZA−30 ・・・5.0kg
(媒染剤、酢酸ジルコニル、第一稀元素化学工業(株)製)
・ホウ酸水溶液(5質量%液) ・・・63.0kg
・ポリビニルアルコールの7質量%水溶液 ・・・252.0kg
(JM−33、鹸化度94.3mol%、重合度3300、日本酢ビ・ポバール社製)
・ポリオキシエチレンラウリルエーテル ・・・5.0kg
(エマルゲン109Pの100質量%水溶液、花王(株)製;ノニオン系界面活性剤)
・ジエチレングリコールモノブチルエーテル ・・・3.0kg
(DEGmBE;高沸点有機溶剤)
・イオン交換水 ・・・全量が852.0kgとなる量
【0123】
(実施例6)
実施例2において、溶融押し出しによりダイから押し出して得たフィルムをチルロール上で冷却、固化した後の延伸比を5から10に変更したこと以外は、実施例2と同様にして、インクジェット記録媒体を作製し、評価を行なった。評価結果は、下記表1に示す。
【0124】
(実施例7)
実施例2において、多孔質樹脂層の厚みを10μmから40μmに変更したこと以外は、実施例2と同様にして、インクジェット記録媒体を作製し、評価を行なった。評価結果は、下記表1に示す。
【0125】
(実施例8)
実施例2において、多孔質樹脂層の形成に用いた低密度ポリエチレン(LDPE)38.5部を53.5部に変更し、炭酸カルシウム(Vigot−15、白石工業(株)製、体積平均粒子径0.15μm)60部を45部に変更したこと以外は、実施例2と同様にして、インクジェット記録媒体を作製し、評価を行なった。評価結果は、下記表1に示す。
【0126】
(比較例1)
実施例2において、多孔質樹脂層の形成に用いた低密度ポリエチレン(LDPE)38.5部を98.5部に変更し、炭酸カルシウム(Vigot−15、白石工業(株)製、体積平均粒子径0.15μm)60部を使用しなかったこと以外は、実施例2と同様にして、インクジェット記録媒体を作製し、評価を行なった。評価結果は、下記表1に示す。
【0127】
(比較例2)
実施例1において、第1の液の湿潤塗布量を35g/mから17g/mに変更し、第2の液の湿潤塗布量を2.5g/mから1.3g/mに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、インクジェット記録媒体を作製した。得られたインクジェット記録媒体は、インク受像層がひび割れて剥離し、評価を行なうことができなかった。
【0128】
(比較例3)
実施例1において、多孔質樹脂層の形成に用いた炭酸カルシウム(Vigot−15、白石工業(株)製、体積平均粒子径0.15μm)を、炭酸カルシウム(ソフトン1800、備北粉化工業(株)製、体積平均粒子径1.2μm)に変更し、第2の液(塩基性溶液)の組成を下記のように変更し、第1の液の湿潤塗布量を35g/mから200g/mに変更し、第2の液の湿潤塗布量を2.5g/mから15g/mに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、比較用のインクジェット記録媒体を作製し、評価を行なった。評価結果は、下記表1に示す。
【0129】
<第2の液(塩基性溶液)の組成>
・イオン交換水 ・・・570.0kg
・ホウ酸 ・・・6.5kg
・ポリオキシエチレンラウリルエーテル ・・・100.0kg
(ノニオン系界面活性剤;エマルゲン109Pの2質量%水溶液、花王(株)製)
・ポリアリルアミン「PAA−10C」20%水溶液・・・300.0kg
(媒染剤、日東紡(株)製、重量平均分子量15000)
・炭酸アンモニウム ・・・pH7.3になるように添加
・イオン交換水 ・・・全量が1000.0kgになる量
【0130】
(比較例4)
実施例2において、多孔質樹脂層の形成に用いた炭酸カルシウム(Vigot−15、白石工業(株)製、体積平均粒子径0.15μm)を、炭酸カルシウム(MP−555粉体品、丸尾カルシウム(株)製、体積平均粒子径0.25μm)に変更したこと以外は、実施例2と同様にして、比較用のインクジェット記録媒体を作製し、評価を行なった。評価結果は、下記表1に示す。
【0131】
【表1】

【0132】
前記表1に示すように、実施例では、良好なインク吸収性を有しながら、低湿カール及びブロンジングの発生が抑えられ、光沢性のある画像を記録することができた。
これに対し、比較例では、インクの吸収、透過に劣っており、低湿カール及びブロンジングの発生防止が図れず、画像の光沢性も不充分であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に該支持体側から順に、孔を有し、体積平均粒子径が0.20μm以下の無機微粒子及び樹脂を含む多孔質樹脂層と、無機微粒子、水溶性樹脂、及び媒染剤を含み、厚みが6〜20μmのインク受容層とを有するインクジェット記録媒体。
【請求項2】
前記インク受容層は、少なくとも無機微粒子と水溶性樹脂と媒染剤とを含む塗布液を前記多孔質樹脂層上に塗布し、(1)該塗布と同時、又は(2)該塗布によって形成された塗布層の乾燥途中であって該塗布層が減率乾燥を示す前、のいずれかのときに、前記塗布層に塩基性化合物を含む塩基性溶液を付与し、前記塗布液及び前記塩基性溶液の少なくとも一方に架橋剤を含ませて架橋硬化させて形成されたことを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録媒体。
【請求項3】
支持体上に、孔を有し、体積平均粒子径が0.20μm以下の無機微粒子及び樹脂を含む多孔質樹脂層を形成する樹脂層形成工程と、
無機微粒子と水溶性樹脂と媒染剤とを含む塗布液を、前記多孔質樹脂層上に配置されるように塗布し、(1)該塗布と同時、又は(2)該塗布によって形成された塗布層の乾燥途中であって該塗布層が減率乾燥を示す前、のいずれかのときに、塗布層に塩基性化合物を含む塩基性溶液を付与し、前記塗布液及び前記塩基性溶液の少なくとも一方に架橋剤を含ませて架橋硬化された厚み6〜20μmのインク受容層を形成する受容層形成工程と、
を有するインクジェット記録媒体の製造方法。
【請求項4】
前記樹脂層形成工程は、少なくとも体積平均粒子径が0.20μm以下の無機微粒子と樹脂とを混合して溶融押し出しによりフィルム状に成形し、冷却固化した後、延伸比2〜6にて延伸を行なって厚みが10〜30μmの多孔質樹脂層を形成することを特徴とする請求項3に記載のインクジェット記録媒体の製造方法。

【公開番号】特開2011−68025(P2011−68025A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−220932(P2009−220932)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】