説明

インクジェット記録媒体用耐水性向上剤及びインクジェット記録媒体およびその製造方法

【課題】 記録用紙上に記録される画像や文字などの耐水性を向上し、黄変が生じにくく、更に塗工層強度を向上するインクジェット記録媒体用耐水性向上剤及び該インクジェット記録媒体用耐水性向上剤を含有する塗工組成物を塗工してなる耐水性、耐黄変性及び塗工層強度に優れるインクジェット記録媒体、及びそのインクジェット記録媒体の製造方法を提供する。
【解決手段】(A)ビニルピリジン類と(B)(メタ)アクリルアミド類とを共重合させてできるカチオン性ポリマー(I)を含有するインクジェット記録媒体用耐水性向上剤および前記インクジェット記録媒体用耐水性向上剤を含有する塗工組成物を塗工することにより、従来の塗工組成物よりも優れた画像や文字などの耐水性を有し、白紙部分の黄変が生じにくく、さらに塗工層強度を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録媒体用耐水性向上剤、インクジェット記録媒体及びインクジェット記録媒体の製造方法に関する。さらに詳しくは、紙等のインクジェット記録媒体上に水性インクを用いて印刷されたインクジェット印刷物の耐水性を向上することができ、未印刷部(白紙部分)の黄変を生じにくくすることができ、更に塗工層の強度を向上することができるインクジェット記録媒体用耐水性向上剤、それを用いて製造したインクジェット記録媒体及びそのインクジェット記録媒体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット方式のプリンターは、ノズルからインクをジェット状に噴射して印刷するプリンターである。インクジェット記録は、印刷が静かで、現像定着などの工程がなく、記録装置が簡単で、普通紙や塗工紙を使用することができ、しかも、カラー化が容易で、自由に画像や文字図形の記録ができるという特徴を有しており、今日急激な成長が見られ、その将来性が注目されている。しかし、記録後の水の付着により染料が滲み出るなどの問題が生じるので、一般にはインクジェット記録媒体には耐水性向上剤が使用される。耐水性向上剤としては、例えば、ポリアミン、ポリエチレンイミンなどのカチオン性樹脂が提案されているが、耐水性の不足、白紙部分の黄変、塗工層強度の低下などの問題が生じており、これらの諸問題を解決するために種々の試みがなされている。例えば、ジアリルアミンとアクリルアミドおよび必要によりこれらと共重合可能な他の特定のビニル系
モノマーとを重合させて得られるカチオン性樹脂を記録媒体表面に含有するインクジェット記録媒体(特許文献1)が開示されている。しかし、このインクジェット記録媒体は、未印刷部の白紙部分の黄変が生じるという欠点がある。このために、白紙部分の黄変がなく、耐水性が良好な、インクジェット記録媒体用耐水性向上剤及びインクジェット記録媒体が求められている。
【0003】
【特許文献1】特開平1−77572号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、記録用紙上に記録される画像や文字などの耐水性を向上し、黄変が生じにくく、更に塗工層強度を向上するインクジェット記録媒体用耐水性向上剤及び該インクジェット記録媒体用耐水性向上剤を含有する塗工組成物を塗工してなる耐水性、耐黄変性及び塗工層強度に優れるインクジェット記録媒体、及びそのインクジェット記録媒体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決すべく種々の共重合体樹脂および共重合体樹脂組成物について鋭意検討した結果、(A)ビニルピリジン類と(B)(メタ)アクリルアミド類とを共重合させてできるカチオン性ポリマー(I)を含有するインクジェット記録媒体用耐水性向上剤および前記インクジェット記録媒体用耐水性向上剤を含有する塗工組成物をインクジェット記録媒体に塗工することにより、従来の塗工組成物よりも優れた画像や文字などの耐水性を有し、白紙部分の黄変が生じにくく、さらに塗工層強度を向上させることができることを見い出し、本発明を完成させた。
【0006】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明におけるインクジェット記録媒体用耐水性向上剤のカチオン性ポリマー(I)に用いられるモノマーのうち、(A)ビニルピリジン類としては、具体的には、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、2−メチル−5−ビニルピリジン、およびこれらの塩、これらのアルキル化4級化物等が挙げられる。これらのうち、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、およびこれらの塩が好ましく、4−ビニルピリジン、およびこれの1塩基酸による塩が更に好ましい。
【0007】
(A)ビニルピリジン類の塩を得る方法としては、特に制限されるものではなく、一般的な酸で中和すればよい。酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸などの無機酸、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、パラトルエンスルホン酸などの有機酸を挙げることができる。
【0008】
(A)ビニルピリジン類を4級化する方法としては特に制限されるものではなく、例えば、ハロゲン化アルキル、ハロゲン化アラルキル、ジアルキル硫酸、エポキシ化合物などと反応することにより4級化することができる。ハロゲン化アルキルとしては、例えば、塩化メチル、臭化メチル、ヨウ化メチル、塩化エチル、臭化エチル、ヨウ化エチルなどを挙げることができる。ハロゲン化アラルキルとしては、例えば、塩化ベンジル、臭化ベンジル、ヨウ化ベンジルなどを挙げることができる。ジアルキル硫酸としては、例えば、ジメチル硫酸、ジエチル硫酸などを挙げることができる。エポキシ化合物としては、例えば、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、プロピレンオキサイド、シクロヘキセンオキサイドなどを挙げることができる。これらの方法により4級化したとき、陰イオンは、塩素イオン、硫酸水素イオン、硝酸イオン、リン酸水素イオン、蟻酸イオン、酢酸イオン、プロピオン酸イオン、乳酸イオン、リンゴ酸イオン、クエン酸イオン、パラトルエンスルホン酸イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、メチル硫酸イオン、エチル硫酸イオンなどとなる。
【0009】
本発明におけるインクジェット記録媒体用耐水性向上剤のカチオン性ポリマー(I)に用いられるモノマーのうち、(B)(メタ)アクリルアミド類としては、アクリルアミド類及びメタクリルアミド類があり、具体的には、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、アセトンアクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−プロピルアクリルアミド、N−ヘキシルメタクリルアミド、N−シクロヘキシルアクリルアミド、N−ヒドロキシエチルアクリルアミド、N−フェニルアクリルアミド、N−ニトロフェニルアクリルアミド、N−エチル−N−フェニルアクリルアミド等が挙げられる。これらのうち、アクリルアミド、メタクリルアミド、アセトンアクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−フェニルアクリルアミドが好ましく、アクリルアミドが更に好ましい。
【0010】
本発明におけるインクジェット記録媒体用耐水性向上剤のカチオン性ポリマー(I)を合成するにあたって、カチオン性ポリマー(I)のCE値は、特に制限されるものではないが、固形分で1.5meq/g〜4.5meq/gとするのが好ましい。
【0011】
CE値とはカチオン化度のことで、カチオン性ポリマー1g中のカチオンの量を定義した値のことである。値が大きいほど強カチオン性を示す。CE値が1.5meq/gより小さい値になるとカチオン性が弱く耐水性が低下する恐れがあり、また、4.5meq/gより大きい値になると、カチオン性が強すぎて耐光性が低下する恐れがある。
【0012】
本発明においては上記の共重合体必須の単量体成分以外にも共重合可能な単量体を耐水性の向上や耐白紙黄変性などの本来の性質を阻害しない範囲で使用する事ができる。
【0013】
本発明におけるインクジェット記録媒体用耐水性向上剤のカチオン性ポリマー(I)の合成法に関しては公知の水溶性ポリマーの重合方法に従えばよく、特に制約はないが、ラジカル重合が好ましく、通常はラジカル重合開始剤の存在下、重合溶液を所定温度範囲に保つことにより重合を行う。重合方法としては、全単量体を反応容器に一括で仕込み、重合する回分重合、単量体の一部を重合中に連続で添加する半回分重合法のどちらの方法でも良いが、半回分重合法の方が好まれる。重合中、同一温度に保つ必要はなく、重合の進行にともない適宣変えてよく、必要に応じて加熱あるいは除熱しながら行う。重合温度は使用するモノマーの種類や重合開始剤の種類などにより異なり、単一開始剤の場合には概ね10〜100℃の範囲であり、レドックス系重合開始剤の場合にはより低く、一括で重合を行う場合には概ね−5〜+50℃であり、逐次添加する場合には概ね30〜90℃である。重合時間には特に限定はないが、概ね1〜40時間であるが、好ましくは、単一開始剤で40〜90℃の温度で1〜20時間程度行われる。重合器内の雰囲気は特に限定はないが、一般には窒素ガスなどの不活性ガスの雰囲気中で行うのが好ましい。
【0014】
重合溶剤としては、通常、水を用いるが、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、エチレングリコール等の他の水溶性溶媒と水との混合物であっても差支えない。またこの水系溶媒中に、後述する重合開始剤、連鎖移動剤が存在することはもちろん可能である。
【0015】
半回分重合法では、それぞれのモノマーの添加速度は、同じであっても異なっていてもよい。また、(A)成分、および(B)成分の添加開始時期は、同時であっても異なっていてもよいが、他のモノマーの添加が終了する前に、添加を開始するのが好ましい。
【0016】
カチオン性ポリマー(I)を合成する際に必要に応じて使用する界面活性剤(乳化剤)については特に制限はなく、ノニオン型、アニオン型、両性型および重合性界面活性剤を使用することができる。具体的には、ドデシル硫酸ナトリウムなどの高級アルコールの硫酸エステル塩、(ジ)アルキルジフェニルエーテル(ジ)スルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウムなどのスルホン酸塩型アニオン型界面活性剤、ポリエチレングリコールのアルキルエステル、アルキルフェノールエーテル、アルキルエーテルなどのノニオン性界面活性剤などを使用することができる。両性型界面活性剤としては、アニオン部としてカルボン酸塩、リン酸塩、リン酸エステル塩をもち、カチオン部としてアミン塩、第四級アンモニウム塩をもつものなどを挙げることができる。具体的にはベタイン型、グリシン型等の両性界面活性剤などが挙げられる。重合性界面活性剤の例として具体的には、プロペニル−2−エチルヘキシルスルホコハク酸エステルナトリウム塩、(メタ)アクリル酸ポリオキシエチレンエステルリン酸エステル等のアニオン性の重合性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルベンゼンエーテル(メタ)アクリル酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(メタ)アクリル酸エステル等のノニオン性の重合性界面活性剤等が挙げられる。これらは単独または2種以上組み合わせて用いられる。添加量は、モノマーに対して、通常、0.1〜2.0重量%の範囲であり、好ましくは0.2〜1.0重量%である。
【0017】
カチオン性ポリマー(I)を合成する際に必要に応じて使用する重合開始剤としては、一般の水溶性の開始剤が使用できる。具体的には、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩類、過酸化水素、ベンゾイルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド等の過酸化物、2,2’−アゾビス−2−メチルプロピオンアミジン塩酸塩、2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、2,2'−アゾビス−N,N’−ジメチレンイソブチルアミジン塩酸塩、2,2’−アゾビス−2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)−プロピオンアミド、2,2’−アゾビス−2−(2−イミダゾリン−2−イル)−プロパンおよびその塩、4,4’−アゾビス−4−シアノ吉草酸およびその塩等のアゾ化合物が挙げられる。この場合、単独でも使用できるが、亜硫酸塩のような還元性物質や、アミン類等を組合せてレドックス型の開始剤にして使用することも可能である。この場合の還元剤の例として、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン等の有機アミン、更にアルドース、ケトース等の還元糖を挙げることができる。また、上記した重合開始剤を2種類併用することも可能である。重合開始剤の添加量は、モノマーに対して、通常は0.00001〜10.0重量%であり、好ましくは0.5〜2.0重量%の範囲である。また、レドックス系の場合には、重合開始剤に対して還元剤の添加量はモル基準で0.1〜100%、好ましくは0.2〜80%である。
【0018】
カチオン性ポリマー(I)を合成する際に必要に応じて使用する重合開始剤は、モノマーを添加すべき水系溶媒中に予め添加しておいてもよいし、また(A)成分、および(B)成分と同時に、連続的に反応系へ添加していってもよいし、水系溶媒に予め溶解させ、連続的に反応系へ添加していってもよいが、水系溶媒に予め溶解させ、連続的に反応系へ添加するのが好ましい。
【0019】
カチオン性ポリマー(I)を合成する際に必要に応じて使用する連鎖移動剤の制限は特にないが、水溶性の連鎖移動剤が好ましい。連鎖移動剤の具体的な例として、次亜リン酸および次亜リン酸ナトリウム等の次亜リン酸塩類、アリルスルホン酸、メタクリルスルホン酸およびそれらのナトリウム塩もしくはカリウム塩等のアルカリ金属塩あるいはアンモニウム塩、アリルアミン、アリルアルコール等のアリル化合物、メルカプトエタノール、メルカプトプロピオン酸、チオグリコール酸等のメルカプタン類、システアミン等が挙げられる。
【0020】
また、カチオン性ポリマー(I)の合成反応終了後、必要に応じてpH調整が行われる。pH調整には、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属重炭酸塩、アンモニア、塩酸および硫酸等が使用され、これらのうち水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、塩酸が好ましい。
【0021】
前記カチオン性ポリマー(I)は、そのままを本発明に係るインクジェット記録媒体用耐水性向上剤として使用することができ、また、場合によっては適宜の溶媒で稀釈してインクジェット記録媒体用耐水性向上剤として使用することもできる。
【0022】
本発明のインクジェット記録媒体は、上記インクジェット記録媒体用耐水性向上剤を含有する塗工組成物を塗工して製造することができる。
【0023】
本発明のインクジェット記録媒体の製造方法は、上記インクジェット記録媒体用耐水性向上剤を含有する塗工組成物を基材に塗工してインクジェット記録媒体を製造する方法である。
【0024】
本発明のインクジェット記録媒体における基材としては紙が代表的であるが、布、樹脂、フイルム、及び合成紙等の、インクジェット印刷できるものであればいずれの材料をも選択することができる。
【0025】
インクジェット記録媒体の基材として紙を用いる場合に、その紙のパルプ原料としては、クラフトパルプ、及びサルファイトパルプ等の化学パルプの晒又は未晒パルプ、砕木パルプ、機械パルプ及びサーモメカニカルパルプ等の高収率パルプの晒又は未晒パルプ、並びに新聞古紙、雑誌古紙、段ボール古紙及び脱墨古紙等の古紙パルプ等が挙げられる。
【0026】
また、基材として紙を用いる場合には前記パルプ原料に加え、填料、染料、酸性抄紙用ロジン系サイズ剤、アルキルケテンダイマー系中性抄紙用サイズ剤、アルケニルコハク酸無水物系中性抄紙用サイズ剤、及び中性抄紙用ロジン系サイズ剤等のサイズ剤、ポリアクリ
ルアミド等の乾燥紙力増強剤、ポリアミドエピクロロヒドリン等の湿潤紙力増強剤、歩留り向上剤、濾水性向上剤、並びに消泡剤等の添加物を、要求される物性を発現するために、必要に応じて使用することができる。
【0027】
填料としては、クレー、タルク、酸化チタン、アルミナ、重質又は軽質炭酸カルシウム、及びシリカ等が挙げられる。これらを併用することもできる。
【0028】
次にインクジェット記録媒体の製造方法について説明する。インクジェット記録媒体用耐水性向上剤を含む塗工組成物をインクジェット記録媒体の基材に塗工する塗工機としては、サイズプレス、フィルムプレス、ゲートロールコーター、ブレードコーター、カレンダー、バーコーター、ナイフコーター、及びエアーナイフコーター等が挙げられる。また、スプレー塗工機により基材表面に塗工することもできる。
【0029】
インクジェット記録媒体用耐水性向上剤を含む塗工組成物をインクジェット記録媒体の基材に塗工する際には、インクジェット記録媒体用耐水性向上剤を単独で塗工しても良いし、酸化澱粉、燐酸エステル化澱粉、自家変性澱粉、カチオン化澱粉、及び両性澱粉等の澱粉類、カルボキシメチルセルロース等のセルロース類、ポリビニルアルコール類、ポリアクリルアミド類、及びアルギン酸ソーダ等の水溶性高分子、並びに合成高分子ラテックスを塗工組成物と併用して塗工することもできる。また、表面サイズ剤、防滑剤、防腐剤、防錆剤、消泡剤、粘度調整剤、シリカ、炭酸カルシウム、アルミナ等の白色顔料等を塗工組成物と併用して塗工してもかまわない。併用して塗工する方法は耐水性向上剤と前記併用物とを混合して調製した液を塗工しても良いし、前記併用物をインクジェット記録媒体用耐水性向上剤と別々に順次塗工しても良い。
【0030】
本発明のインクジェット記録媒体用耐水性向上剤の塗工量は固形分で0.02〜6g/m、好ましくは0.2〜4g/mである。0.02g/m未満であるとインクジェット記録媒体の耐水性が不十分な場合があり、6g/mより多くても効果が頭打ちとなり、経済的ではない。上記塗工量を実現するための該耐水性向上剤の塗工組成物中の濃度は一般的に0.1〜20重量%である。
【0031】
本発明のインクジェット記録媒体への印刷は、ドロップオンデマンド方式、及び連続方式等、一般的ないずれのインクジェットプリント方式でも印刷することができる。インクジェットプリンタとしては、家庭用、及び業務用のいずれでも良い。家庭用インクジェットプリンタとしては、キヤノン(株)製のBJシリーズ、セイコーエプソン(株)製のPMシリーズ、及びヒューレットパッカードカンパニー製のHP DeskJetシリーズ等が使用できる。インクジェット印刷に使用するインクは、キヤノン(株)、セイコーエプソン(株)、及びヒューレットパッカードカンパニー等が各自、自社のプリンタ用に販売しているインク、並びにサイテックス社の業務用インクジェットプリンタ用SCITEX1007、1008、1011、1040、1068、1069、4107等が使用できる。
【発明の効果】
【0032】
本発明のインクジェット記録媒体用耐水性向上剤を含有する塗工組成物を用いることにより、従来の塗工組成物よりも優れた耐水性、耐黄変性及び塗工層強度が付与されたインクジェット記録媒体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。例中、含有量又は使用量を表す%及び部は、特に断らないかぎり重量基準である。
【0034】
pHは、ガラス電極式水素イオン濃度計[東亜電波工業(株)製]を用い、試料のpHを25℃にて測定した値である。
【0035】
粘度は、B型粘度系[(株)東京計器製、BL型]を用い、2号ローター12rpm、25℃で、試料の粘度を測定した値である。
【実施例1】
【0036】
(カチオン性ポリマーの製造)
温度計、還流冷却器および窒素ガス導入管を備えた四つ口フラスコにイオン交換水471.1gを仕込み、窒素を200mL/分の流量で60分間バブリングした後、濃塩酸237.5gを添加し、さらに(A)ビニルピリジン類である4−ビニルピリジン250.0g(2.4モル)を滴下した。滴下終了後、pHが2.5となるように濃塩酸と4−ビニルピリジンを添加し、4−ビニルピリジン塩酸塩水溶液Aを得た。別の温度計、還流冷却器および窒素ガス導入管を備えた四つ口フラスコに、得られた4−ビニルピリジン塩酸塩水溶液Aのうち110.0g(4−ビニルピリジンを基準として0.3モル)と(B)(メタ)アクリルアミド類である50%アクリルアミド水溶液89.2g(0.6モル)、イオン交換水0.5gを仕込み、内温を80℃に昇温した。内温を80℃に保持したまま、あらかじめ溶解しておいた2.0%過硫酸アンモニウム水溶液41.5g、および2.3%次亜リン酸ナトリウム水溶液33.7gを4.25時間かけて滴下した。滴下終了後、内温を80℃に保持したまま、さらに4時間反応させた。反応終了後、イオン交換水2.0gを添加し、不揮発分32.1%、25℃におけるB型粘度が1025mPa・s、pH3.0、CE=3.5meq/g(pH3)であるカチオン性ポリマー(I)A1を得た。
【0037】
(塗工組成物およびインクジェット記録媒体の製造)
ミズカシルP−78D(顔料、水澤化学社製のシリカ)100重量部、ポリアクリル酸系顔料分散剤0.2重量部、PVA117(水性バインダー、クラレ社製のポリビニルアルコール)20重量部を混合し、水を加えて、固形分20%となるようにマスターカラーを調製した。続いて、マスターカラーの顔料100重量部に、前記カチオン性ポリマー(I)(A1)の固形分が20重量部となる割合で添加し、固形分を15.5%に調整し、pH3.4、粘度93mPa・sの塗工組成物T1を得た。
【0038】
塗工組成物T1を、米坪量127g/mの上質紙の片面に、ワイヤーロッドを用いて塗工量が15g/mとなるように塗布した。塗布後ただちに、120℃にて1分間熱風乾燥し、さらに温度60℃、線圧30kN/mの条件で1回スーパーカレンダー処理を施して、インクジェット記録媒体P1を得た。
【0039】
こうして得たインクジェット記録媒体P1につき、インクジェットプリンタ(エプソン(株)製のPM−980C)で印刷した。 印刷後の記録媒体について以下の試験を実施し、その結果を表1に示した。
【0040】
<耐水性評価試験>
印刷がされたインクジェット記録媒体に25℃のイオン交換水1mLを滴下し、印刷の滲み発生の有無、及び発生した滲みの状態を肉眼で観察して判定した。
耐水性 (劣)1〜5(優)
【0041】
<耐白紙黄変性評価試験>
水300mLを入れたデシケーターに、未印刷部(白紙部分)を入れ、50℃の恒温槽で2週間保管した。保管後、デシケーターより未印刷部(白紙部分)を取り出し、23℃、湿度50%条件にて1日調湿した後、カラータッチ2(Technidyne社製)にて黄変度を測定した。
耐白紙黄変性 (劣)黄変度YI 大 ⇒ 黄変度YI 小(優)
【0042】
<塗工層強度評価試験>
未印刷部(白紙部分)にイオン交換水を3mL滴下し、指で塗工層を摩擦し、剥離した塗工層を黒紙に移し、黒紙乾燥後、塗工層剥離量を肉眼で観察して判定した。
塗工層強度 (劣)1〜5(優)
【実施例2】
【0043】
実施例1と同様の反応容器に実施例1で得た4−ビニルピリジン塩酸塩水溶液Aのうち80.0g(4−ビニルピリジンを基準として0.2モル)と(B)(メタ)アクリルアミド類である50%アクリルアミド水溶液111.2g(0.8モル)、イオン交換水10.2gを仕込み、内温を80℃に昇温した。内温を80℃に保持したまま、あらかじめ溶解しておいた2.0%過硫酸アンモニウム水溶液41.8g、および9.0%次亜リン酸ナトリウム水溶液34.9gを4.25時間かけて滴下した。滴下終了後、内温を80℃に保持したまま、さらに4時間反応させた。反応終了後、イオン交換水0.6gを添加し、不揮発分32.8%、25℃におけるB型粘度が1463mPa・s、pH3.0、CE=2.3meq/g(pH3)であるカチオン性ポリマー(I)A2を得た。
【0044】
実施例1におけるカチオン性ポリマー(I)(A1)をカチオン性ポリマー(I)(A2)に変更する以外は実施例1と同様の操作を行ない、pH3.7、粘度78mPa・sの塗工組成物T2を得た。
【0045】
実施例1における塗工組成物T1を塗工組成物T2に変更する以外は実施例1と同様の操作を行ない、得られたインクジェット記録媒体P2について実施例1と同様の試験を実施した結果を表1に示す。
【0046】
(比較例1)
実施例1と同様の反応容器にイオン交換水566.0gを仕込み、200mL/分の窒素を60分間バブリングした後、濃塩酸308.4gを添加し、さらにジアリルアミン300.0g(3.1モル)を滴下した。滴下終了後、pHが2.5となるように濃塩酸とジアリルアミンを添加し、ジアリルアミン塩酸塩水溶液を得た。別の合成例1と同様の反応容器にイオン交換水77.7gを仕込み、200mL/分の窒素を60分間バブリングした後、内温を70℃に昇温した。内温を70℃に保持したまま、過硫酸アンモニウム0.86gを添加した後、得られたジアリルアミン塩酸塩水溶液の110.0g(ジアリルアミン基準で0.3モル)に次亜リン酸ナトリウム0.13gをあらかじめ溶解させた水溶液と50%アクリルアミド水溶液94.3g(0.7モル)を4時間かけて滴下した。滴下終了後、内温を70℃に保持したまま、さらに4時間反応させた。反応終了後、イオン交換水2.8gを添加し、さらに水酸化ナトリウム水溶液でpH5.39に調整し、不揮発分31.6%、25℃におけるB型粘度が1118mPa・s、pH5.39、CE=3.5meq/g(pH3)であるカチオン性ポリマー(I)B1を得た。
【0047】
実施例1におけるカチオン性ポリマー(I)(A1)をカチオン性ポリマー(I)(B1)に変更する以外は実施例1と同様の操作を行ない、pH5.2、粘度121mPa・sの塗工組成物T3を得た。
【0048】
実施例1における塗工組成物T1を塗工組成物T3に変更する以外は実施例1と同様の操作を行ない、得られたインクジェット記録媒体P3について実施例1と同様の試験を実施した結果を表1に示す。
【0049】
(比較例2)
実施例1におけるカチオン性ポリマー(I)(A1)をPVA117(ポリビニルアルコール)に変更する以外は実施例1と同様の操作を行ない、pH6.2、粘度154mPa・sの塗工組成物T4を得た。
【0050】
実施例1における塗工組成物T1を塗工組成物T4に変更する以外は実施例1と同様の操作を行ない、得られたインクジェット記録媒体P4について実施例1と同様の試験を実施した結果を表1に示す。
【0051】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ビニルピリジン類と(B)(メタ)アクリルアミド類とを共重合させてなるカチオン性ポリマー(I)を含有することを特徴とするインクジェット記録媒体用耐水性向上剤。
【請求項2】
カチオン性ポリマー(I)のCE値が固形分で1.5meq/g〜4.5meq/gの範囲であることを特徴とする請求項1記載のインクジェット記録媒体用耐水性向上剤。
【請求項3】
請求項1、2のいずれかに記載のインクジェット記録媒体用耐水性向上剤を含有する塗工組成物を塗工してなることを特徴とするインクジェット記録媒体。
【請求項4】
請求項1、2のいずれかに記載のインクジェット記録媒体用耐水性向上剤を含有する塗工組成物を塗工してなることを特徴とするインクジェット記録媒体の製造方法。

【公開番号】特開2007−45009(P2007−45009A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−232059(P2005−232059)
【出願日】平成17年8月10日(2005.8.10)
【出願人】(000216243)田岡化学工業株式会社 (115)
【Fターム(参考)】