説明

インクジェット記録媒体用重合体ラテックス、およびインクジェット記録媒体用塗工組成物

【課題】 インクジェット印刷時のインク濃度が高く、印刷物の耐水性が良好であり、且つ、オフセット印刷可能な表面強度を有する、インク受理層を形成するためのインクジェット記録媒体用塗工組成物、該塗工組成物を構成するバインダーとして好適な重合体ラテックス、およびそのような塗工組成物を支持体に塗工してなるインクジェット記録媒体を提供する。
【解決手段】 水溶性高分子化合物の存在下に単量体を重合して得られる重合体からなり、該重合体のテトラヒドロフラン不溶分含量が85重量%以上であることを特徴とするインクジェット記録媒体用重合体ラテックス。該重合体ラテックスを含有して成る塗工組成物。該塗工組成物を支持体に塗工してなるインクジェット記録媒体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録媒体用重合体ラテックス、該重合体ラテックスを含有して成るインクジェット記録媒体用塗工組成物、およびこれを塗工して成るインクジェット記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、印字品質の改善および印刷画像の高解像度化が要求されているインクジェット記録媒体において、オフセット印刷適性をさらに、有することも強く求められるようになってきた。例えば、ダイレクトメールなどの個人向け印刷物は、一般情報は高速印刷が可能なオフセット印刷機で印刷し、個人向けの可変情報はインクジェット印刷機で印字することが経済的にも有利である。このようなインクジェット記録媒体は、インクジェット印刷適性とオフセット印刷適性とをあわせもつ必要がある。
具体的には、インクジェット印刷時のインク濃度が高く、印刷物の耐水性が良好なインクジェット印刷適性を有し、且つ、オフセット印刷可能な表面強度を有するインクジェット記録媒体が求められている。
【0003】
従来、特許文献1には、ポリビニルアルコールとエチレン・酢酸ビニル共重合体とを特定の比率で混合した接着剤に、合成シリカ、アクリルアマイド系カチオンポリマー、ジメチルジアリルアンモニウムクロリド・二酸化イオウ共重合体およびポリアミドポリウレア樹脂を特定量添加した塗工液を塗布した、オフセット印刷可能なインクジェット用インク受理層を有する葉書用記録紙が開示されている。しかしながら、この記録紙はインクジェット印刷時のインク濃度が比較的高いものの、耐水性および表面強度が不十分であった。
【0004】
また、特許文献2には、水溶性高分子の存在下に単量体を重合して得られる重合体からなり、該重合体のテトラヒドロフラン不溶分含量が80重量%以下であるインクジェット記録媒体用重合体ラテックスが開示されている。このラテックスを用いて得られインクジェット記録媒体は、インクの吸収性に優れ、印刷物の耐水性が良好であるものの、オフセット印刷が可能な表面強度を有することについての記載はない。
【0005】
【特許文献1】特開平10−337980号公報
【特許文献2】特開2003−312126号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記事情に鑑み、インクジェット印刷時のインク濃度が高く、印刷物の耐水性が良好であり、且つ、オフセット印刷可能な表面強度を有するインク受理層を形成するためのインクジェット記録媒体用塗工組成物、該塗工組成物を構成するバインダーとして好適な重合体ラテックス、および該塗工組成物を支持体に塗工してなるインクジェット記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、水溶性高分子化合物の存在下に単量体を重合して得られ、そのテトラヒドロフラン不溶分含量が特定範囲にある重合体を含んでなるラテックスを用いると、インクジェット印刷時のインク濃度が高く、印刷物の耐水性が良好であり、且つ、オフセット印刷可能な表面強度を有するインクジェット記録媒体が得られることを見出し、この知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0008】
かくして、本発明によれば、以下の1〜6の発明が提供される。
1.水溶性高分子化合物の存在下に単量体を重合して得られる重合体からなり、該重合体のテトラヒドロフラン不溶分含量が85重量%以上であることを特徴とするインクジェット記録媒体用重合体ラテックス。
2.前記水溶性高分子化合物がアルコール性水酸基を含有し、かつ重量平均分子量が2000以上であることを特徴とする前記1記載のインクジェット記録媒体用重合体ラテックス。
3.前記水溶性高分子化合物の少なくとも一部が重合体に結合していることを特徴とする前記1または2記載のインクジェット記録媒体用重合体ラテックス。
4.前記重合体のガラス転移温度が50℃以下であることを特徴とする前記1〜3のいずれか一に記載のインクジェット記録媒体用重合体ラテックス。
5.前記1〜4のいずれか一に記載のインクジェット記録媒体用重合体ラテックスを含有してなるインクジェット記録媒体用塗工組成物。
6.前記5記載のインクジェット記録媒体用塗工組成物を支持体に塗工してなるインクジェット記録媒体。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、特にインクジェット印刷時のインク濃度が高く、印刷物の耐水性が良好であり、且つ、オフセット印刷可能な表面強度を有するインク受理層を形成するためのインクジェット記録媒体用塗工組成物、該塗工組成物を構成するバインダーとして好適な重合体ラテックス、および該塗工組成物を支持体に塗工してなるインクジェット記録媒体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
(インクジェット記録媒体用重合体ラテックス)本発明のインクジェット記録媒体用重合体ラテックス(以下、単に「重合体ラテックス」ともいう。)は、水溶性高分子化合物の存在下に単量体を重合して得られる重合体を含んでなり、該重合体のテトラヒドロフラン不溶分含量が85重量%以上であることを特徴とする。
【0012】
本発明における重合体を与える単量体としては、特に限定されないが、共役ジエン単量体、エチレン性不飽和ニトリル単量体、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体及びこれらと共重合可能なその他のエチレン性不飽和単量体が挙げられる。
【0013】
共役ジエン単量体としては、例えば、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−エチル−1,3−ブタジエン、2−クロル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、2,4−ヘキサジエンなどが挙げられる。これらの中でも、得られるインク受理層の表面強度に優れる点で、1,3−ブタジエンが好ましい。
共役ジエン単量体単位の重合体中の量は、好ましくは0〜50重量%、更に好ましくは3〜45重量%、特に好ましくは6〜40重量%である。この量が多過ぎるとインク濃度が低下する場合がある。
【0014】
エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、2−エチルプロペンニトリル、2−プロピルプロペンニトリル、2−クロロプロペンニトリル、2−ブテンニトリルが挙げられる。これらの中でも、テトラヒドロフラン不溶分含量を本発明規定の範囲に調整し易く、インクジェット印刷時のインク濃度が高くなる点で、アクリロニトリルが好ましい。
エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の重合体中の量は、好ましくは0〜45重量%、更に好ましくは3〜35重量%、特に好ましくは6〜25重量%である。この量が多過ぎると表面強度が低下するとともに、得られる記録媒体の白色度が低下する場合がある。
【0015】
エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル等が挙げられる。これらの中でも、重合安定性が高く、得られるインク受理層の表面強度に優れる点で、メタアクリル酸メチルが好ましい。
エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体単位の重合体中の量は、好ましくは0〜90重量%、更に好ましくは5〜80重量%、特に好ましくは10〜70重量%である。この量が多過ぎると表面強度が低下する場合がある。
【0016】
共役ジエン単量体、エチレン性不飽和ニトリル単量体及びエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体と共重合可能なその他のエチレン性不飽和単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、モノクロルスチレン、ジクロルスチレン、モノメチルスチレン、ジメチルスチレン、トリメチルスチレン、ヒドロキシメチルスチレン、p−スチレンスルホン酸及びそのナトリウム塩やカリウム塩などの芳香族ビニル単量体;
【0017】
ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、酢酸イソプロペニルなどのカルボン酸ビニルエステル単量体;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデンなどのハロゲン化ビニル単量体;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などのエチレン性不飽和モノカルボン酸;フマール酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸などのエチレン性不飽和多価カルボン酸及びその無水物;マレイン酸ブチル、イタコン酸ブチルなどの多価カルボン酸の部分エステル等;エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテンなどのオレフィン系単量体;
【0018】
メチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテルなどのビニルエーテル系単量体;酢酸アリル、酢酸メタリル、塩化アリル、塩化メタリルなどのアリル化合物;ビニルトリメトキシシランなどのビニルシリル化合物;ビニルピリジン、N−ビニルピロリドンなどのビニル複素環化合物;などが挙げられる。
【0019】
このような、共役ジエン単量体、エチレン性不飽和ニトリル単量体及びエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体と共重合可能なその他のエチレン性不飽和単量体の中でも、芳香族ビニル単量体が好ましく、スチレンが特に好ましい。
前記その他のエチレン性不飽和単量体単位の重合体中の量は、好ましくは0〜100重量%、更に好ましくは0〜89重量%、特に好ましくは0〜78重量%である。この量が多過ぎると表面強度が低下する場合がある。
【0020】
前記その他のエチレン性不飽和単量体の中でも、エチレン性不飽和酸単量体単位の重合体中の量は、印刷物の耐水性が良好となる点で、2.0重量%以下であることが好ましく、は1.0重量%以下であることがさらに好ましく、用いないことが特に好ましい。
【0021】
本発明の重合体ラテックスは、上記のような単量体を水溶性高分子化合物の存在下に重合して得られるものである。ここで、水溶性高分子化合物とは、20℃の水に1重量%以上の濃度で溶解し、その重量平均分子量が1,000以上の化合物を言う。
【0022】
なお、界面活性剤を用いた通常の乳化重合法によって得られた重合体ラテックスに水溶性高分子化合物を後添加する方法;乳化重合法以外の方法で得られた重合体を水に乳化分散させる際に、分散安定剤として水溶性高分子化合物を用いる方法;などで得られる重合体ラテックスでは、本発明の目的を達成することが困難である。
【0023】
水溶性高分子化合物としては、アルコール性水酸基を含有する化合物、または2,000以上の重量平均分子量を有する化合物が好ましく、アルコール性水酸基を含有し、かつ2,000以上の重量平均分子量を有する化合物がより好ましい。
【0024】
アルコール性水酸基を含有する水溶性高分子化合物としては、例えば、ポリビニルアルコール及びその各種変性物などのビニルアルコール系重合体;酢酸ビニルとアクリル酸、メタクリル酸又は無水マレイン酸との共重合体のけん化物;アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、アルキルヒドロキシアルキルセルロース、カルボキシルメチルセルロースなどのセルロース誘導体;アルキル澱粉、カルボキシルメチル澱粉、酸化澱粉などの澱粉誘導体;アラビアゴム、トラガントゴム;ポリアルキレングリコール;などが挙げられる。これらは単独でまたは2種以上組み合わせて使用することができる。これらの中でも、ビニルアルコール系重合体が好ましい
【0025】
水溶性高分子化合物の使用量は特に限定されないが、単量体100重量部当たり0.5〜100重量部、好ましくは2.0〜50重量部、より好ましくは6.0〜30重量部である。その使用量が少なすぎると、重合反応系の安定性が悪く凝集物が発生し易くなる。逆に、多すぎると、重合反応系の粘度が高くなりすぎて、反応熱除去が困難になることがある。
【0026】
本発明の重合体ラテックスは、乳化重合法により製造することが好ましく、乳化重合法としては、特に限定されないが、水性媒体中において、分解して過酸化物ラジカルを発生する重合開始剤(ラジカル開始剤)を用いて、前記水溶性高分子化合物の存在下に単量体を重合させる方法がより好ましい。
【0027】
水溶性高分子化合物と単量体の添加方法は、特に限定されないが、それぞれを反応器に連続的に添加しながら重合することが好ましく、水溶性高分子化合物、単量体および水性媒体を混合して得られる単量体乳化物を、反応器に連続的に添加しながら重合することがより好ましい。
【0028】
水性媒体(水、または水と所望により併用される水溶性有機溶媒との混合物)と単量体との使用量比は特に制限されないが、水性媒体100重量部に対して、単量体が、通常、10〜70重量部、好ましくは15〜60重量部、より好ましくは20〜50重量部である。
【0029】
重合開始剤としては、特に限定されないが、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素などの水溶性過酸化物;t−ブチルハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイドなどの油溶性過酸化物;過酸化物と亜硫酸水素ナトリウムなどの各種還元剤とを組み合わせたレドックス系開始剤;などが挙げられる。これらの中でも前記水溶性過酸化物が好適である。重合開始剤の使用量は、単量体100重量部に対して、通常0.05〜3重量部、好ましくは0.1〜2重量部である。
【0030】
重合反応系には、乳化重合において通常使用される低分子の界面活性剤を使用しないことが特に好ましく、使用する場合は、単量体100重量部に対して、好ましくは1重量部以下、より好ましくは0.2重量部以下の使用量となるようにする。
【0031】
重合反応系には、重合体のテトラヒドロフラン不溶分含量を調節するために、公知の架橋性単量体および連鎖移動剤を用いることができる。
架橋性単量体としては、例えば、ジビニルベンゼン等の共役ジビニル化合物;ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトール(メタ)アクリレート等のポリ(メタ)アクリレート化合物が挙げられる。
また、連鎖移動剤としては、tert−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン等のアルキルメルカプタン、四塩化炭素、チオグリコール類、ジテルペン、ターピノーレン、γ−テルピネン類およびα−メチルスチレンダイマー等が挙げられる。
連鎖移動剤を用いる場合、その使用量は、重合性単量体100重量部に対して0.2重量部以下が好ましく、0.1重量部以下がさらに好ましく、連鎖移動剤を使用しないことが特に好ましい。
【0032】
重合条件や重合方法なども特に制限されないが、重合温度は、好ましくは0〜100℃、更に好ましくは50〜99℃、特に好ましくは80〜98℃である。重合時間は、通常、30分〜50時間である。重合反応は、公知の重合停止剤を反応系へ添加することにより、あるいは反応系を冷却することにより停止することができる。重合反応を停止する際の重合転化率は、所望により適宜調整することができる。重合終了後、必要に応じて未反応単量体を除去する等の後処理を施して、重合体ラテックスを得ることができる。
【0033】
かかる重合体ラテックスの調製法において、前述の水溶性高分子化合物は、分散安定剤として機能すると同時に、その少なくとも一部が重合体に結合していることが好ましい。水溶性高分子化合物が重合体に結合している割合は、6〜100重量%であることが好ましく、20〜100重量%であることがより好ましい。前記水溶性高分子化合物が重合体に結合している割合が小さすぎると、インク吸水性が不良となったり、インク受理層の表面強度が低下したりする場合があり、逆に大きすぎると、同様の現象が生じ易いほかに、重合体ラテックスの粘度が上昇して取扱いが困難になる場合がある。
【0034】
なお、重合体と結合していない水溶性高分子化合物は、重合体ラテックスのフィルムを水中に浸漬した場合に、水相中に移行し、重合体ラテックスのフィルムから分離することができる。一方、重合体に結合している水溶性高分子化合物は、重合体ラテックスのフィルムから分離できない。ここで、重合体に結合した水溶性高分子化合物の量は、重合体ラテックスのフィルムを水中に浸漬したときの重量の減少量を、重合体に結合していない水溶性高分子化合物量として、当初フィルムに存在した水溶性高分子化合物の量から減じた量とする。
水溶性高分子化合物と重合体との結合様式は特に限定されないが、グラフト結合していることが好ましい。
【0035】
本発明の重合体ラテックスは、それを構成する重合体のテトラヒドロフラン不溶分含量が85重量%以上であることが必須である。テトラヒドロフラン不溶分含量が低すぎると、本発明の目的を達成できない。該不溶分含量は好ましくは88重量%以上、より好ましくは90重量%以上である。
【0036】
重合体ラテックスを構成する重合体粒子の重量平均粒子径は、通常、30〜1,000nm、好ましくは50〜800nm、さらに好ましくは80〜250nmである。粒子径が小さすぎると、インクジェット記録用塗工組成物の粘度が高くなり、塗工組成物の調製が困難になり、逆に大きすぎると、塗工組成物を用いて形成されるインク受理層の表面強度が低下する場合がある。
【0037】
また、重合体ラテックスを構成する重合体のガラス転移温度は、好ましくは−40〜+50℃、より好ましくは−20〜+40℃、特に好ましくは0〜+30℃である。ガラス転移温度が高すぎると、インク受理層の表面強度が低下しやすく、逆に低すぎると、耐ブロッキング性が低下することがある。なお、重合体のガラス転移温度は、重合体ラテックスを枠付きガラス板に流延し、得られたフィルムを示差走査熱量計を用いて測定される。
【0038】
重合体ラテックスの固形分濃度は、特に限定されないが、通常、3〜60重量%、好ましくは5〜50%、より好ましくは10〜50%である。固形分濃度はブレンド法、希釈法、濃縮法など公知の方法により適宜調整して、次に説明する塗工組成物へ好ましく適用される。
【0039】
(インクジェット記録媒体用塗工組成物)本発明のインクジェット記録媒体用塗工組成物は、前記の重合体ラテックスを含有して成る。重合体ラテックスは、この種の塗工組成物へ通常配合される必要成分あるいは任意成分を分散させるための媒体として機能するとともに、それらを適宜選択される支持体へ固着させ、インク受理層を形成するためのバインダー機能を有する。
【0040】
本塗工組成物に配合される成分としては、上記の重合体ラテックスのほか、例えば、無機空隙形成材、顔料、顔料分散剤、染料、増粘剤、流動性改良剤、消泡剤、抑泡剤、離型剤、発泡剤、浸透剤、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防バイ剤、耐水化剤、湿潤紙力増強剤、乾燥紙力増強剤、染料定着剤等などが挙げられる。これらの成分の使用量、塗工組成物への配合方法などは本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択される。
【0041】
無機空隙形成材は、インク受理層を多孔質のものとしてインク(水性)の色材を記録媒体の表面にとどめ、インクの水分を吸収し、あるいは紙等の支持体へ吸い取らせるために、塗工組成物へ好ましく配合される。そのような無機空隙形成材としては、例えばシリカ、アルミナなどが挙げられるが、これらは顔料としても機能する。無機空隙形成材の配合量は、重合体ラテックスの固形分100重量部に対して、通常100〜1000重量部、好ましくは200〜500重量部の範囲である。無機空隙形成材の配合量が多過ぎると、得られる塗工組成物の成膜性や支持体上への密着性が劣る場合がある。他方、少なすぎても、無機空隙形成材を配合する効果を殆ど得ることができない。
【0042】
顔料としては、例えば、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、カオリン、タルク、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、珪酸マグネシウム、珪酸アルミニウム、ケイソウ土、ゼオライト、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の無機顔料;中空粒子、スチレン系プラスチックピグメント、アクリル系プラスチックピグメント等の有機顔料;などが挙げられる。これらの中でも、無機顔料が好ましく、特にシリカが好ましい。配合量は、重合体ラテックスの固形分100重量部に対して、通常100〜1000重量部、好ましくは200〜500重量部の範囲である。
【0043】
塗工組成物の調製方法は特に限定されず、一般的には分散機を用い、前記重合体ラテックスおよびその他の配合成分、必要に応じて水を添加して分散させることにより調製される。なお、塗工組成物の全固形分濃度は、通常、5〜50重量%、好ましくは10〜40重量%である。
【0044】
(インクジェット記録媒体)本発明のインクジェット記録媒体は、前述の塗工組成物を支持体に塗工してなるものであり、支持体の少なくとも一方の面に塗工組成物を塗布し、乾燥させ、インク受理層としての塗膜を形成することによって得ることができる。
【0045】
記録媒体を構成する支持体は特に限定されず、記録媒体の使用目的や記録装置に応じて適宜選択すればよい。例えば、新聞原紙、上質原紙、中質原紙などの原紙;原紙上にポリビニルアルコール、澱粉などが塗工された塗工紙;顔料を主成分とする塗工層が設けられたコート紙、アート紙、キャスト紙などの塗工紙;合成紙(ポリプロピレン樹脂ベースの多層フィルム、紙の両面をポリエチレンで被覆した紙など);ポリエステルフィルム、塩ビフィルムなどの樹脂フィルム;金属製、ガラス製およびセラミック製などの支持体;などが挙げられる。好ましくは原紙、塗工紙、合成紙である。
【0046】
塗工組成物を用いて支持体上に塗布する方法は特に限定されない。例えば、ロールコーター、エアナイフコーター、ブレードコーター、ロッドブレードコーター、カーテンコーター、バーコーター、ダイコーター、グラビアコーター等の一般的なコーターを用いて塗布することができる。支持体への塗布量も特に限定されないが、通常1〜50g/m、好ましくは3〜30g/mである。塗膜の厚みは、通常20〜60μである。塗工組成物を支持体へ塗布した後、必要に応じて50〜150℃の範囲の適当な温度で加熱することにより、インク受理層を形成することができる。
【0047】
本発明の記録媒体は、必要に応じて、得られた塗膜をカレンダー処理して、インク受理層に平滑性や光沢を与えることができる。また、支持体上に直接塗布して、一層のインク受理層を形成してもよいし、必要に応じてインク受理層を含む多層構成としてもよい。例えば、インク受理層の下にアンカー層を設けてもよく、またインク受理層の上にさらに光沢層を設けてもよい。
【0048】
本発明の記録媒体は、インクの小滴を飛翔させて記録するインクジェット記録方式、さらにはオフセット印刷方式による記録媒体(シート)として、特に有用であるが、フレキソ印刷などの水性インキ印刷用シートなどとしても利用できる。
【実施例】
【0049】
以下に実施例および比較例を挙げて、本発明についてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、これらの例における部および%は、特に断りのない限り重量基準である。
評価方法を以下に説明する。
【0050】
(1)重量平均粒子径(nm)
重合体ラテックスの重量平均粒子径は、コールターLS230(コールター社製粒子径測定機)で測定した。
(2)重合体に結合した水溶性高分子化合物の割合(%)
水酸化ナトリウムでpHを7に調整した、固形分濃度30%の重合体ラテックス40gを枠付きガラス板(16cm×23cm)に流延し、100℃にて減圧乾燥して、膜厚0.3mmの重合体ラテックスのフィルムを得た。このフィルムを約4cm四方の正方形にカットし、80メッシュの金網のかごに約0.5gを精標(A)して入れて、そのまま20℃の蒸留水100mlに60時間浸漬する。次いで300mlの蒸留水で洗浄後、金網のかごに残るフィルムを100℃で減圧乾燥し、残留物の重量(B)を測定した。浸漬前後のフィルム重量(A)、(B)、および重合時の仕込み量から計算される浸漬前フィルム中の水溶性高分子化合物量(C)を下記式(1)に当てはめて、重合体に結合した水溶性高分子化合物の割合(%)を算出した。
【0051】
〔C−(A−B)〕×100/C (%) (1)
【0052】
(3)テトラヒドロフラン(THF)不溶分含量
前記(2)と同様に作成した重合体ラテックスのフィルム0.5gを80メッシュの金網のかごに入れて、それを20℃のテトラヒドロフラン100mlに24時間浸漬した後、金網のかごに残るフィルムを100℃で減圧乾燥し、残存率を計算して不溶分量を求めた。
(3)ガラス転移温度
重合体ラテックスを枠付きガラス板に流延し、温度20℃、相対湿度65%の恒温恒湿室に48時間放置して、乾燥し、重合体ラテックスのフィルムを得た。
上記フィルムのガラス転移温度を、示差走査熱量計(セイコー電子工業(株)社製:SSC5200)を用いて、開始温度−100℃、昇温速度5℃/分の条件で測定した。
【0053】
(4)インク濃度
23℃、相対湿度65%の雰囲気下で、インクジェットプリンター(PM−870C:セイコーエプソン社製)を用いて、インクジェット記録シートに、黒インクをベタ塗り印刷した。この印刷物の黒ベタ部の印字濃度を、マクベスインキ濃度計を用いて測定した。数値が高いほど、印字濃度が濃いことを示す。
(5)表面強度
印刷インク(タック値:TV−20)を0.4cm用い、RIテスター(明石製作所製)のゴムロールに付着させた後、このRIテスターを用いて塗工紙に4回重ね刷りした。紙面の剥がれ(ピッキング)状態を観察し5点法で評価した。点数の高いものほどドライピック強度が高い。
(6)耐水性
同一画像を印刷したインクジェット記録紙をアダムス ウェット−ラブテスターにて20秒間水に浸漬した。得られた溶出水の透過率を、分光光度計を用いて測定した。数値が大きい方ほど耐水強度が良好である。
【0054】
(実施例1〜3、比較例1〜5)
(重合体ラテックス)
耐圧オートクレーブ(1)に、脱イオン水130部、表1に示す単量体および副資材を仕込み、混合、撹拌して単量体乳化物を得た。PVA205(株式会社クラレ製、けん化度88モル%)は、水溶性高分子化合物のポリビニルアルコールである。また、ラウリル硫酸ナトリウムは、乳化重合において一般的に使用されている公知の界面活性剤である。
温度計を備えた耐圧オートクレーブ(2)に、脱イオン水47部、エタノール4部を仕込み、60℃に昇温した。60℃に維持した状態で、過硫酸カリウム2.0部を脱イオン水35部に溶解した開始剤溶液を添加し、次いで、直ちに前記の単量体乳化物を4時間半かけて添加した。添加終了後、更に3時間重合反応を継続した後、冷却して反応を終了させた。それぞれの重合転化率は93〜95%であった。得られたラテックスから、未反応単量体を除去した後、固形分濃度30%、ラテックスpHを水酸化ナトリウム水溶液で7に調整して、重合体ラテックス1A〜3Aおよび1B〜5Bを得た。それぞれの重量平均粒子径、テトラヒドロフラン不溶分含量、ガラス転移温度を表1に示す。
【0055】
(塗工組成物)
分散機中で、シリカ(ファインシールX−45:株式会社トクヤマ製)100部、ポリリン酸ナトリウム0.5部を水に分散させ、次いで、10%に調整したポリビニルアルコール(PVA117:株式会社クラレ製)を固形分で15部と、前記の各重合体ラテックスを固形分で15部、それぞれ添加し、30分間混合させ、固形分濃度20%の塗工組成物を得た。この塗工組成物を坪量が130g/mの上質原紙に、乾燥重量が片面15g/mとなるようにワイヤーバーを用いて両面塗工し、120℃の熱風乾燥機で60秒間乾燥した。得られた塗工紙を温度23℃、相対湿度65%の恒温恒湿槽で5時間静置し、インクジェット記録媒体を得た。重合体ラテックス1A〜3Aおよび1B〜5Bを用いて作製したインクジェット記録媒体について、インク濃度、表面強度、耐水性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0056】
(比較例6)
重合体ラテックス1Aの代わりに、PVA−117を15部使用した以外は、実施例1と同様にして、固形分濃度14%の塗工組成物を得た。この塗工組成物を用いて記録媒体を作製し、インク濃度、表面強度、耐水性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
表1より、以下のことがわかる。
水溶性高分子化合物の存在下に単量体を重合して得られたものの、テトラヒドロフラン不溶分含量が本発明規定の範囲より低い重合体ラテックス1Bおよび2Bを用いて作製した記録媒体は、インクジェット印刷時のインク濃度が低く、表面強度および耐水性に劣り、オフセット印刷可能なインクジェット記録媒体に適さないことが分かる(比較例1、2および4)。
水溶性高分子化合物であるポリビニルアルコールを存在させず、界面活性剤の存在下で製造した重合体ラテックス(3B)を用いて作製した記録媒体は、重合体ラテックスのテトラヒドロフラン不溶分含量が本発明規定の範囲内であってもインク濃度が低い(比較例3)。
水溶性高分子化合物であるポリビニルアルコールを存在させず、界面活性剤の存在下で製造した重合体ラテックス(3B)に、ポリビニルアルコールを重合後に10部添加して作成した重合体ラテックス(5B)を用いた記録媒体は、インク濃度、表面強度および耐水性がともに低い(比較例5)。
本発明の重合体ラテックスの代わりに、ポリビニルアルコールを用いて作製した記録シートは、耐水強度に劣る。(比較例6)
【0059】
これらの比較例に比べ、本発明規定の範囲内にある重合体ラテックスを用いて作成した記録媒体は、インクジェット印刷時のインク濃度が高く、印刷物の耐水性が良好であり、且つオフセット印刷可能な表面強度を有するインクジェット記録媒体が得られることがわかる(実施例1〜3)。





















【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性高分子化合物の存在下に単量体を重合して得られる重合体からなり、該重合体のテトラヒドロフラン不溶分含量が85重量%以上であることを特徴とするインクジェット記録媒体用重合体ラテックス。
【請求項2】
前記水溶性高分子化合物がアルコール性水酸基を含有し、かつ重量平均分子量が2000以上であることを特徴とする請求項1記載のインクジェット記録媒体用重合体ラテックス。
【請求項3】
前記水溶性高分子化合物の少なくとも一部が重合体に結合していることを特徴とする請求項1または2記載のインクジェット記録媒体用重合体ラテックス。
【請求項4】
前記重合体のガラス転移温度が50℃以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一に記載のインクジェット記録媒体用重合体ラテックス。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一に記載のインクジェット記録媒体用重合体ラテックスを含有してなるインクジェット記録媒体用塗工組成物。
【請求項6】
請求項5記載のインクジェット記録媒体用塗工組成物を支持体に塗工してなるインクジェット記録媒体。






【公開番号】特開2006−188554(P2006−188554A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−381879(P2004−381879)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】