説明

インクジェット記録方法及びインクジェット記録装置

【課題】乾燥速度が速く、高濃度、かつ高画質の画像が得られるインクジェット記録方法の提供。
【解決手段】記録用メディアの表面に大気圧非平衡プラズマを接触させて該表面を親水化する親水化処理工程20と、水分散性樹脂粒子と共に顔料を分散させてなる顔料混合水分散性樹脂粒子、及び着色された水分散性樹脂粒子よりなる着色性水分散性樹脂粒子のうち少なくとも1種を含んでなるインク組成物に刺激を印加し、該インク組成物を飛翔させて画像を形成するインク飛翔工程と、を少なくとも含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録方法及びインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法は、インクの小液滴を飛翔させ、紙等の記録媒体(メディア)に付着させて画像等を記録する方法である。このインクジェット記録方法においては、一般的に、各種の染料、顔料の着色剤を、水、又は水及び有機溶剤に溶解させ、更に、高沸点有機溶剤からなる湿潤剤を多く含有させたインク組成物が用いられている。
【0003】
インクジェット記録方法では、記録媒体として、吸水性に優れるインクジェット専用紙以外に、汎用普通紙等の水吸収能力が高くない記録媒体が用いられる場合がある。このような記録媒体は、積極的に吸収層を備えるものではなく、インクが該記録媒体内に浸透し難いため、乾燥に多くの時間を費やすことになる。
例えば、インクジェット記録装置内で、表面が印刷された用紙を即座に反転させて、裏面印刷を行う、高速自動両面印刷の場合、未乾燥インクによって反転ローラ類が汚染される等の問題が生じることがあった。
【0004】
また、画像濃度を高めるためにインク付着量を増加させると、より一層乾燥に多くの時間を費やすことになるばかりか、画像に滲みが生じ画質の低下を招くことがあった。
【0005】
そのため、普通紙等でも乾燥が速く、画像濃度が高く、高画質であるインクジェット記録法方法が切望されている。
【0006】
特許文献1及び2には、印刷過程において、又は印刷工程後において、インクを加熱乾燥させる方法が記載されている。このように、印刷工程等において加熱すると、インクジェットヘッドが熱変形等し、引いては、ノズル詰まり等の噴射安定性が損なわれることが懸念される。
また、インクを十分に乾燥できる熱が紙に与えられると、紙中の水分までもが揮発して、奪われ、波立った形状(波打ち状態)となり、問題となる。場合によっては、乾燥により紙が損傷することがあった。
【0007】
特許文献3には、印刷工程の前に加熱工程を行い、紙の含水量を予め低下させておき、印刷工程後の乾燥時間を短くすることが記載されている。しかしながら、このように、加熱工程を行うと、加熱により繊維が乾燥し、収縮して紙に波打ちが発生し、更にインク吸収による部分的な紙繊維膨張により波打ちが悪化し、装置内の過剰な湿度上昇等の問題が発生することがあった。また、紙が波打つとインクジェットヘッド直下におけるインク飛翔距離が変化し、特に複数の色を重ね合わせるカラー画像においてムラが発生することがあった。
【0008】
特許文献4には、プラズマ処理により濡れ性を向上させた記録媒体に、紫外線硬化型のインクを用いて画像を形成する技術が記載されている。
【0009】
特許文献5には、プラズマで表面が改質されたインク受容層を有するインクジェット専用紙が記載されている。
【0010】
特許文献6には、記録媒体に、予めインク硬化成分を塗布しておき、硬化成分を有するインクを、インクジェット記録する技術を開示する。該硬化成分を均一塗布させるために、記録媒体の表面にプラズマ処理が施されている。
【0011】
【特許文献1】特表2003−534164号公報
【特許文献2】特開2004−114691号公報
【特許文献3】特開2008−68462号公報
【特許文献4】特開2003−311940号公報
【特許文献5】特開2000−301711号公報
【特許文献6】特開2004−90596号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、従来における前記問題を解決し、乾燥速度が速く、高濃度、かつ高画質の画像が得られるインクジェット記録方法、及びインクジェット記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討した結果、大気圧非平衡プラズマを接触させて該表面が親水化処理された記録用メディアは、紙繊維の収縮による波打ち等の変形がなく、水吸収能力が高い状態となり、かつ、この親水化処理されて記録用メディアに、水分散性樹脂粒子と共に顔料を分散させてなる顔料混合水分散性樹脂粒子、及び着色された水分散性樹脂粒子よりなる着色性水分散性樹脂粒子のうち少なくとも1種を含んでなるインク組成物を用いて画像等を記録(印刷)すると、乾燥速度が速く、高濃度、かつ高画質の画像が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
また、上記のように親水化処理された記録用メディアは、その表面の活性(親水性)は、時間の経過と共に失われる傾向にあるため、親水化処理した後、直ちに、印刷することが好ましいことを見出した。
【0015】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 記録用メディアの表面に大気圧非平衡プラズマを接触させて該表面を親水化する親水化処理工程と、水分散性樹脂粒子と共に顔料を分散させてなる顔料混合水分散性樹脂粒子、及び着色された水分散性樹脂粒子よりなる着色性水分散性樹脂粒子のうち少なくとも1種を含んでなるインク組成物に刺激を印加し、該インク組成物を飛翔させて画像を形成するインク飛翔工程と、を少なくとも含むことを特徴とするインクジェット記録方法である。
該<1>に記載のインクジェット記録方法においては、親水化処理工程において、記録用メディアの表面に大気圧非平衡プラズマが接触して該表面が親水化し、インク飛翔工程において、水分散性樹脂粒子と共に顔料を分散させてなる顔料混合水分散性樹脂粒子、及び着色された水分散性樹脂粒子よりなる着色性水分散性樹脂粒子のうち少なくとも1種を含んでなるインク組成物に刺激が印加され、該インク組成物が飛翔して画像が形成される。
<2> 親水化処理工程と、インク飛翔工程とを連続で行う前記<1>に記載のインクジェット記録方法である。
<3> 記録用メディアが、普通紙である前記<1>又は<2>に記載のインクジェット記録方法である。
<4> 刺激が、熱(温度)、圧力、振動及び光から選択される少なくとも1種である前記<1>から<3>のいずれかに記載のインクジェット記録方法である。
<5> 記録用メディアの表面に大気圧非平衡プラズマを接触させて該表面を親水化する親水化処理手段と、水分散性樹脂粒子と共に顔料を分散させてなる顔料混合水分散性樹脂粒子、及び着色された水分散性樹脂粒子よりなる着色性水分散性樹脂粒子のうち少なくとも1種を含んでなるインク組成物に刺激を印加し、該インク組成物を飛翔させて画像を形成するインク飛翔手段と、を少なくとも備えることを特徴とするインクジェット記録装置である。
<6> 記録用メディアが、普通紙である前記<5>に記載のインクジェット記録装置である。
<7> 刺激が、熱(温度)、圧力、振動及び光から選択される少なくとも1種である前記<5>又は<6>に記載のインクジェット記録装置である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、従来における前記問題を解決することができ、乾燥速度が速く、高濃度、かつ高画質の画像が得られるインクジェット記録方法、及びインクジェット記録装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
〔記録用メディア〕
前記記録用メディアは、所謂、普通紙と呼ばれるものであれば、特に制限は無く、目的に応じて適宜選択される。該記録用メディアとしては、例えば、木材パルプ、一部古紙パルプを主体とした不織布等のシート状物質がある。
このような普通紙は、表裏が共にコートされておらず、表面に露出したパルプの繊維方向に沿って水系インクの滲み(フェザリング)が多く発生し易い。そのため、多くの場合、水性インクの滲みを抑制するために、パルプ重量に対し、0.1重量%前後のサイズ剤が添加されている。
前記普通紙は、サイズ剤添加によって水系インクの滲みを抑制し、画質を向上させる効果がある反面、水系インクの浸透速度を低下させてしまう特性があり、基本的に浸透乾燥方式となるインクジェット記録にとっては早期な乾燥性が得られにくい記録用メディアである。
前記サイズ剤が添加された普通紙は、JIS P−8122試験法によるステキヒトサイズ度が3秒以上となるのが一般的である。
なお、前記記録用メディアとして、通常のインクジェット専用紙、紙以外の吸水性のあるシート状媒体の場合であっても水系インクの乾燥速度が遅いものであれば、適用可能である。
【0018】
〔インク組成物〕
−着色剤−
前記着色剤としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択されるが、(1)水分散性樹脂粒子と共に顔料を分散させた顔料混合水分散性樹脂粒子、(2)着色された水分散性樹脂粒子よりなる着色性水分散樹脂粒子が特に好ましい。
その他、界面活性剤、水溶性樹脂の分散剤で顔料を分散安定化させた顔料インク組成物を用いてもよい。
【0019】
−顔料混合水分散性樹脂粒子−
前記顔料含有水分散性樹脂粒子としては、顔料の表面に少なくとも1種の親水基が直接、若しくは他の原子団を介して結合するように表面改質されたものが好ましい。前記親水基としては、スルホン基、カルボキシル基等が挙げられる。
該表面改質は、顔料の表面に、スルホン基、カルボキシル基等の官能基を化学的に結合させるか、或いは次亜ハロゲン酸、又はその塩の少なくとも何れかを用いて湿式酸化処理する等の方法が用いられる。これらの中でも、顔料の表面にスルホン基又はカルボキシル基が結合され、水中に分散している形態が特に好ましい。このように顔料が表面改質され、親水基が結合していると、分散安定性が向上し、高品位な印字品質が得られると共に、印字後の記録用メディアの耐水性がより向上する。
【0020】
−着色性水分散樹脂粒子−
前記着色性水分散樹脂粒子としては、樹脂粒子(水分散性樹脂粒子)中に顔料を封入したもの、及び樹脂粒子(水分散性樹脂粒子)の表面に顔料を吸着させたものの少なくともいずれかを意味する。例えば、特開2001−139849号公報に記載されたもの等が挙げられる。前記着色性水分散樹脂粒子は、滲みの少ない高品位な印字品質が得られると共に、乾燥性がより向上する。
【0021】
以下、前記着色剤に使用される顔料、及び水分散性樹脂粒子について説明する。
【0022】
前記着色剤として使用される顔料としては、耐光性等に優れる有機顔料、及び無機顔料がある。
前記有機顔料としては、アゾ系、フタロシアニン系、アントラキノン系、キナクリドン系、ジオキサジン系、インジゴ系、チオインジゴ系、ペリレン系、イソインドレノン系、アニリンブラック、アゾメチン系、ローダミンBレーキ顔料、カーボンブラック等が挙げられる。
前記無機顔料としては、酸化鉄、酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、バリウムイエロー、紺青、カドミウムレッド、クロムイエロー、金属粉等が挙げられる。
【0023】
これらの顔料の粒子径は、0.01μm〜0.30μmが好ましい。該粒子径が、0.01μm未満であると、粒子径が染料に近づくため、耐光性、フェザリングが悪化することがある。また、該粒子径が0.30μmを超えると、吐出口の目詰まり、プリンター内のフィルターでの目詰まりが発生し、吐出安定性が得られないことがある。
【0024】
ブラック顔料インク組成物に使用されるカーボンブラックとしては、ファーネス法、チャネル法で製造されたカーボンブラックで、一次粒径が、15nm〜40nm、BET法による比表面積が50m/g〜300m/g、DBP吸油量が40ml/100g〜150ml/100g、揮発分が0.5%〜10%、pH値が2〜9を有するものが好ましい。
このようなものとしては、例えば、No.2300、No.900、MCF−88、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、MA100、No.2200B(以上三菱化学製)、Raven(登録商標、以下同じ)700、Raven5750、Raven5250、Raven5000、Raven3500、Raven1255(以上コロンビア製)、Regal(登録商標、以下同じ)400R、Regal330R、Regal660R、Mogul(登録商標)L、Monarch(登録商標、以下同じ)700、Monarch800、Monarch880、Monarch900、Monarch1000、Monarch1100、Monarch1300、Monarch1400(以上キャボット製)、カラーブラックFW1、カラーブラックFW2、カラーブラックFW2V、カラーブラックFW18、カラーブラックFW200、カラーブラックS150、カラーブラックS160、カラーブラックS170、プリンテックス(登録商標、以下同じ)35、プリンテックスU、プリンテックスV、プリンテックス140U、プリンテックス140V、スペシャルブラック6、スペシャルブラック5、スペシャルブラック4A、スペシャルブラック4(以上デグッサ製)等を使用できるが、これらに限定されるものではない。
【0025】
−カラー顔料−
カラー顔料としては、アゾ系、フタロシアニン系、アントラキノン系、キナクリドン系、ジオキサジン系、インジゴ系、チオインジゴ系、ペリレン系、イソインドレノン系、アニリンブラック、アゾメチン系、ローダミンBレーキ顔料、カーボンブラック等の有機顔料、酸化鉄、酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、バリウムイエロー、紺青、カドミウムレッド、クロムイエロー、金属粉等の無機顔料が挙げられる。
以下、色別に具体例を挙げる。
【0026】
−イエロー顔料−
イエローインク組成物に使用できる顔料の例としては、例えば、C.I.ピグメントイエロー1、C.I.ピグメントイエロー2、C.I.ピグメントイエロー3、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー14、C.I.ピグメントイエロー16、C.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー73、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー75、C.I.ピグメントイエロー83、C.I.ピグメントイエロー93、C.I.ピグメントイエロー95、C.I.ピグメントイエロー97、C.I.ピグメントイエロー98、C.I.ピグメントイエロー114、C.I.ピグメントイエロー128、C.I.ピグメントイエロー129、C.I.ピグメントイエロー151、C.I.ピグメントイエロー154等が挙げられるが、これらに限られるものではない。
【0027】
−マゼンタ顔料−
マゼンタインク組成物に使用できる顔料の例としては、例えば、C.I.ピグメントレッド5、C.I.ピグメントレッド7、C.I.ピグメントレッド12、C.I.ピグメントレッド48(Ca)、C.I.ピグメントレッド48(Mn)、C.I.ピグメントレッド57(Ca)、C.I.ピグメントレッド57:1、C.I.ピグメントレッド112、C.I.ピグメントレッド123、C.I.ピグメントレッド168、C.I.ピグメントレッド184、C.I.ピグメントレッド202等が挙げられるが、これらに限られるものではない。
【0028】
−シアン顔料−
シアンインク組成物に使用できる顔料の例としては、例えば、C.I.ピグメントブルー1、C.I.ピグメントブルー2、C.I.ピグメントブルー3、C.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントブルー15:34、C.I.ピグメントブルー16、C.I.ピグメントブルー22、C.I.ピグメントブルー60、C.I.バットブルー4、バットブルー60等が挙げられるが、これらに限られるものではない。
【0029】
又、本発明で使用する各インク組成物に含有される顔料は、本発明のために新たに製造されたものでも使用可能である。
【0030】
−水分散性樹脂粒子−
前記水分散性樹脂粒子に使用される樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択される。該樹脂としては、例えば、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、ブタジエン系樹脂、スチレン−ブタジエン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、アクリルスチレン系樹脂、アクリルシリコーン系樹脂、フッソ樹脂等が挙げられる。
【0031】
前記水分散性樹脂粒子は、例えば、連続相としての水中に分散されて樹脂エマルションの状態で使用される。なお、この樹脂エマルションは、必要に応じて更に界面活性剤等の分散剤を含んでもよい。
【0032】
前記樹脂エマルション中において、分散相成分である水分散性樹脂粒子の含有量は、一般的に、10質量%〜60質量%が好ましい。
【0033】
前記水分散性樹脂粒子の粒径(体積平均粒径)は、10nm〜1,000nmが好ましく、100nm〜300nmがより好ましい。
なお、前記樹脂エマルションの粒径(体積平均粒径)と、インク組成物中における水分散性樹脂粒子の粒径(体積平均粒径)とは、大きな違いはない。体積平均粒径が大きいほど、樹脂エマルションの添加量を多くできる。
前記体積平均粒径が100nm未満であると、エマルションの添加量を多くすることができないことがあり、300nmを超えると、インク組成物の信頼性が低下することがある。但し、必ずしもこれ以外の範囲の粒径となる樹脂エマルションを使用できない、ということではない。これらの内容は、エマルション種によらない一般的な傾向である。
【0034】
ここで、前記体積平均粒径は、例えば、粒度分析装置(マイクロトラック MODEL UPA9340、日機装株式会社製)を用いて測定できる。
【0035】
前記樹脂エマルションとしては、適宜、合成したものを使用しても良いし、市販品を使用してもよい。該市販の樹脂エマルジョンとしては、例えば、マイクロジェルE−1002、E−5002(スチレン−アクリル系樹脂エマルジョン、日本ペイント株式会社製)、ボンコート(登録商標)4001(アクリル系樹脂エマルジョン、大日本インキ化学工業株式会社製)、ボンコート5454(スチレン−アクリル系樹脂エマルジョン、大日本インキ化学工業株式会社製)、SAE−1014(スチレン−アクリル系樹脂エマルジョン、日本ゼオン株式会社製)、サイビノール(登録商標)SK−200(アクリル系樹脂エマルジョン、サイデン化学株式会社製)、プライマル(登録商標)AC−22、AC−61(アクリル系樹脂エマルジョン、ローム・アンド・ハース製)、ナノクリル(登録商標)SBCX−2821、3689(アクリルシリコーン系樹脂エマルジョン、東洋インキ製造株式会社製)、#3070(メタクリル酸メチル重合体樹脂エマルジョン、御国色素社製)などが挙げられる。
これらの中でも、定着性が良好である点からアクリルシリコーン系樹脂エマルションが特に好ましい。
前記アクリルシリコーン系樹脂エマルションにおける樹脂成分のガラス転移温度は、25℃以下が好ましく、0℃以下がより好ましい。前記ガラス転移温度が25℃を超えると、樹脂自体が脆くなり定着性悪化の要因となる。ただし、ガラス転移温度が25℃以上でも必ずしも使用できないわけではない。
前記ガラス転移温度は、例えば、示差走査熱量計(理学電気株式会社製)を用いて測定できる。
具体的には、樹脂エマルション水溶液の常温乾燥膜の樹脂片を理学電気示差走査熱量計で−50℃付近より昇温して、分析曲線に段差が発生する温度で求められる。
【0036】
−湿潤剤(高沸点水溶性有機溶剤)−
湿潤剤としては、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、多価アルコール類、多価アルコールアルキルエーテル類、多価アルコールアリールエーテル類、含窒素複素環化合物、アミド類、アミン類、含硫黄化合物類、プロピレンカーボネート、炭酸エチレンなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上併用して使用してもよい。
前記多価アルコール類としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,4ブタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、1,5ペンタンジオール、1,6ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,3−ブタントリオール、ペトリオールなどが挙げられる。
前記多価アルコールアルキルエーテル類としては、例えば、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルなどが挙げられる。
前記多価アルコールアリールエーテル類としては、例えば、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル等が挙げられる。
前記含窒素複素環化合物としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N−ヒドロキシエチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチルイミダゾリジノン、ε−カプロラクタム等が挙げられる。
前記アミド類としては、例えば、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等が挙げられる。
前記アミン類としては、例えば、モノエタノ−ルアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミンなどが挙げられる。
前記含硫黄化合物類としては、例えば、ジメチルスルホキシド、スルホラン、チオジエタノール、チオジグリコールなどが挙げられる。
これらの中でも、インクの噴射安定性の点から、グリセリン、2−ピロリドン、ジエチレングリコール、チオジエタノール、ポリエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,4−ブタントリオール、ペトリオール、1,5−ペンタンジオール、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ブタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオールが好ましく、これらの中でも、グリセリン、1,3−ブタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、2−ピロリドンが特に好ましい。
【0037】
−界面活性剤−
前記界面活性剤としては、特に制限はなく、着色剤の種類や湿潤剤、浸透剤などの組合せによって、分散安定性を損なわない界面活性剤の中から目的に応じて適宜選択することができるが、特に、水吸収性の高くない用紙に印刷する場合には、表面張力が低く、レベリング性の高いものが好ましく、シリコーン系界面活性剤及びフッ素系界面活性剤から選択される少なくとも1種が好適である。これらの中でも、フッ素系界面活性剤が特に好ましい。
【0038】
前記フッ素系界面活性剤としては、フッ素が置換した炭素数が2〜16個の有機基を有するものが好ましく、4〜16がより好ましい。前記フッ素置換炭素数が2未満であると、フッ素の効果が得られないことがあり、16を超えると、インク保存性などの問題が生じることがある。
【0039】
前記フッ素系界面活性剤としては、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸化合物、パーフルオロアルキルカルボン酸系化合物、パーフルオロアルキルリン酸エステル化合物、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、及びパーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物、などが挙げられる。これらの中でも、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物は起泡性が少なく、特に好ましい。
【0040】
前記パーフルオロアルキルスルホン酸化合物としては、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、などが挙げられる。
【0041】
前記パーフルオロアルキルカルボン酸系化合物としては、例えば、パーフルオロアルキルカルボン酸、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、などが挙げられる。
【0042】
前記パーフルオロアルキルリン酸エステル化合物としては、例えば、パーフルオロアルキルリン酸エステル、パーフルオロアルキルリン酸エステルの塩、などが挙げられる。
【0043】
前記パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物としては、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマーの硫酸エステル塩、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマーの塩、などが挙げられる。
【0044】
これらフッ素系界面活性剤における塩の対イオンとしては、Li、Na、K、NH、NHCHCHOH、NH(CHCHOH)、NH(CHCHOH)などが挙げられる。
前記フッ素系界面活性剤としては、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。
【0045】
該市販品としては、例えば、サーフロン(登録商標)S−111、S−112、S−113、S−121、S−131、S−132、S−141、S−145(何れも旭硝子社製)、フルラードFC−93、FC−95、FC−98、FC−129、FC−135、FC−170C、FC−430、FC−431(何れも住友スリーエム社製)、メガファック(登録商標)F−470、F1405、F−474(何れも大日本インキ化学工業社製)、Zonyl TBS、FSP、FSA、FSN−100、FSN、FSO−100、FSO、FS−300、UR(何れもDuPont社製)、FT−110、FT−250、FT−251、FT−400S、FT−150、FT−400SW(何れも株式会社ネオス社製)、PF−151N(オムノバ社製)などが挙げられ、これらの中でも、良好な印字品質、特に発色性、紙に対する均染性が著しく向上する点から株式会社ネオス製のFT−110、FT−250、FT−251、FT−400S、FT−150、FT−400SW及びオムノバ社製のPF−151Nが特に好ましい。
【0046】
前記シリコーン系界面活性剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、高pHでも分解しないものが好ましく、例えば、側鎖変性ポリジメチルシロキサン、両末端変性ポリジメチルシロキサン、片末端変性ポリジメチルシロキサン、側鎖両末端変性ポリジメチルシロキサンなどが挙げられ、変性基としてポリオキシエチレン基、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン基を有するものが水系界面活性剤として良好な性質を示すので特に好ましい。
このような界面活性剤としては、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。
【0047】
該市販品としては、例えば、ビックケミー(株)、信越シリコーン(株)、東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)などから容易に入手できる。
前記ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリアルキレンオキシド構造をジメチルポリシロキサンのSi部側鎖に導入した化合物、などが挙げられる。
【0048】
前記ポリエーテル変性シリコーン化合物としては、市販品を用いることができ、例えば、KF−618、KF−642、KF643(いずれも信越化学工業株式会社製)、などが挙げられる。
【0049】
また、前記フッ素系界面活性剤及びシリコーン系界面活性剤以外にも、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤などを用いることができる。
【0050】
この他にインク中には目的により、浸透剤、pH調整剤、防腐防カビ剤、消泡剤などが添加される。
【0051】
〔インクジェット記録装置及びインクジェット記録方法〕
本発明のインクジェット記録装置は、水分散性樹脂粒子と共に顔料を分散させてなる顔料混合水分散性樹脂粒子、及び着色された水分散性樹脂粒子よりなる着色性水分散性樹脂粒子のうち少なくとも1種を含んでなるインク組成物に刺激を印加し、該インク組成物を飛翔させて画像を形成するインク飛翔手段と、を少なくとも備える。
【0052】
本発明のインクジェット記録装置は、更に必要に応じて適宜選択したその他の手段、例えば、刺激発生手段、制御手段等を有してなる。
【0053】
本発明のインクジェット記録方法は、記録用メディアの表面に大気圧非平衡プラズマを接触させて該表面を親水化する親水化処理工程と、水分散性樹脂粒子と共に顔料を分散させてなる顔料混合水分散性樹脂粒子、及び着色された水分散性樹脂粒子よりなる着色性水分散性樹脂粒子のうち少なくとも1種を含んでなるインク組成物に刺激を印加し、該インク組成物を飛翔させて画像を形成するインク飛翔工程と、を少なくとも含む。
【0054】
本発明のインクジェット記録装置は、更に必要に応じて適宜選択したその他の手段、例えば、刺激発生手段、制御手段等を有してなる。
【0055】
本発明のインクジェット記録方法は、本発明のインクジェット記録装置により好適に実施でき、前記親水化処理工程は、前記親水化処理手段により好適に行うことができ、前記インク飛翔工程は、前記インク飛翔手段により好適に行うことができる。
【0056】
−親水化処理工程及び親水化処理手段−
前記親水化処理工程は、前記記録用メディアの表面に大気圧非平衡プラズマを接触させて該表面を親水化する工程である。
前記親水化処理手段は、前記記録用メディアの表面に大気圧非平衡プラズマを接触させて、該表面を親水化する手段である。
【0057】
前記大気圧非平衡プラズマによる親水化処理は、電子温度が極めて高く、ガス温度が常温付近であるため、好ましい方法である。
大気圧非平衡プラズマを発生させる方法としては、電極間に誘電体等の絶縁物を挿入する誘電体バリア放電、細い金属ワイヤ等に著しい不平等電界を形成するコロナ放電、短パルス電圧を印加するパルス放電と、に大別される。
これらは、一種単独、又は、これらを組み合わせて用いることが可能である。前記大気圧非平衡プラズマを広範囲に安定して発生させるには、誘電体で被覆された電極間に交番する高電圧を印加して得られる、ストリーマ絶縁破壊形式の誘電体バリア放電とすることが最も好ましい。
【0058】
他の実施形態においては、放電により雰囲気ガスを電離させてなる放電プラズマを、親水化処理に用いてもよい。
【0059】
図1は、親水化処理手段を備えた一実施形態に係るインクジェット記録装置の概略を示す説明図である。
図1に示されるように、前記インクジェット記録装置30(30A)は、親水化処理手段20(20A)を備える。該親水化処理手段20(20A)は、誘電体で被覆された放電電極9と、誘電体で被覆された接地電極10とを備える。該放電電極9は、高周波電源8と接続する。該放電電極9と接地電極10との間には、隙間がある。
搬送ローラ1より搬送された記録用紙(記録用メディア)は、該放電電極9と該接地電極10との間を通過する。放電電極9及び接地電極10の間において、親水化処理が施される。この間を通過した記録用紙は、搬送ベルト4によって搬送される。円環状の搬送ベルト4の内周側に、従動ローラ3、駆動ローラ6、及びテンションローラ7が配置し、これらによって該搬送ベルト4の駆動等が調整される。
搬送ベルト4により搬送される際、親水化処理後の記録用紙に向けて、インクジェットヘッド5(インク飛翔手段)からインク組成物が飛翔し、該記録用紙上に画像が形成される。
【0060】
図2は、他の親水化処理手段を備えた一実施形態に係るインクジェット記録装置の概略を示す説明図である。
図2に示されるように、前記インクジェット記録装置30(30B)は、親水化処理手段20(20B)を備える。該親水化処理手段20(20B)は、誘電体で被覆された接触ローラ型放電電極11と、接地電極10とを備える。該放電電極9は、高周波電源8と接続する。該接触ローラ型放電電極11は、接地電極10と接触するように、配置される。
搬送ローラ1より搬送された記録用紙(記録用メディア)、該接触ローラ型放電電極11と、接地電極10とにより挟まれながら、該接触ローラ型放電電極11と接地電極10との間を通過する。この間を通過する際、記録用紙に親水化処理が施される。
親水化処理手段20(20B)以外のその他の構成は、図1に示されるインクジェット記録装置30(30A)と同様である。
【0061】
高周波電源8としては、例えば、春日電機株式会社製のCT−0212型が使用できる。この高周波電源8と接続する接触ローラ型放電電極11としては、例えば、長さ300mmのステンレス製誘導体被覆ローラを使用できる。該接触ローラ型放電電極11は、記録用紙の搬送方向に対し、垂直となるように配置される。高周波電源8内の発振器の一次電圧を60V、一次電流を3.4Aとして、印加電力200Wの大気圧非平衡プラズマを発生される。記録用紙の搬送速度は、例えば、1000mm/secに設定される。この場合、記録用紙へのプラズマ照射エネルギー密度は、約67mJ/cmとなる。
前記印加電力は、100W〜300Wが好ましく、150W〜250Wがより好ましい。100W(33.3mJ/cm)未満であると、プラズマの発生が不均一になり、記録用紙全面を均一に親水化できないことがある。これに対し、前記印加電力が、300W(100mJ/cm)を超えると、記録用紙の親水化は可能であるが、親水化の効果が飽和するため、電力効率が低下することがある。
【0062】
なお、記録用メディアの表面を親水化処理するのに必要な大気圧非平衡プラズマを安定して発生できるのであれば、電圧印加方法、電極構造、及び用紙搬送方式は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択される。
【0063】
前記親水化処理手段は、例えば、給紙搬送コロ(例えば、搬送ローラ1)と、インクジェットヘッド5との間に設定される。このように設置すれば、順次、記録用メディアを親水化できる。
なお、インク飛翔手段によりインクジェット印写される前に、記録用メディアが親水化処理されるのであれば、どのような位置にインク飛翔手段を取り付けてもよい。
【0064】
両面印刷をする場合、少なくとも記録用メディアの片面のみ、親水化処理手段で親水化処理されればよい。記録用メディアを反転させて、再び、プラズマ電極部を通過させる場合には、放電を停止してもよい。
【0065】
裏面が印字された後の記録用メディアは、排紙トレイに排出される。排紙トレイで積み重ねられた印刷後の記録用メディアにおいて、記録用メディア表面の未乾燥インクが、他の記録用メディアの裏面等に転移する可能性がある。このような未乾燥インクの転移を防止するためには、裏面印刷時においても、放電を停止させずに親水化処理を行うことが好ましい。
【0066】
更に、前記普通紙等の記録用メディアと素材の様態が等しいロール紙印刷にも、本発明の親水化処理技術を応用展開可能である。
インクジェットヘッド前段に親水化処理手段を設ければ、インク印写後に直ちに巻き取られるロール紙印刷においても、上記方法で親水化処理により乾燥速度を速められる。
【0067】
プラズマの間欠動作、連続動作を問わず、大気中放電によりオゾンガスが発生する。そのため、放電電極周辺の空気を機外(室外)へ導くファン、及び排気ルートを、インクジェット記録装置が備えることが好ましい。
更に、二酸化マンガン、及び活性炭等のオゾン分解フィルターを用いて、オゾンガスを除去した後に機外へ排出することが好ましい。
【0068】
前記オゾンの発生量は、放電発生空間が小さくなる放電電極ローラ方式が少ない。オゾンの原料となる大気中の酸素濃度を低下させるために、放電電極周辺空気を窒素等の不活性ガスで置換しても良い。
【0069】
−インク飛翔工程及びインク飛翔手段−
前記インク飛翔工程は、前記インク組成物に、刺激を印加し、該インク組成物を飛翔させて画像を記録する工程である。
前記インク飛翔手段は、前記インク組成物に、刺激を印加し、該インク組成物を飛翔させて画像を記録する手段である。該インク飛翔手段としては、特に制限はなく、例えば、インク吐出用の各種のノズルなどが挙げられる。
【0070】
本発明においては、該インクジェットヘッドの液室部、流体抵抗部、振動板、及びノズル部材の少なくとも一部がSi及びNiの少なくとも何れかを含む材料から形成されることが好ましい。
また、インクジェットノズルのノズル径は、30μm以下が好ましく、1μm〜20μmが好ましい。
また、インクジェットヘッド上にインクを供給するためのサブタンクを有し、該サブタンクにインクカートリッジから供給チューブを介してインクが補充されるように構成することが好ましい。
【0071】
前記刺激は、例えば、前記刺激発生手段により発生させることができ、該刺激としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、熱(温度)、圧力、振動、光、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、熱、圧力が好適に挙げられる。
【0072】
なお、前記刺激発生手段としては、例えば、加熱装置、加圧装置、圧電素子、振動発生装置、超音波発振器、ライトなどが挙げられ、具体的には、例えば、圧電素子等の圧電アクチュエータ、発熱抵抗体等の電気熱変換素子を用いて液体の膜沸騰による相変化を利用するサーマルアクチュエータ、温度変化による金属相変化を用いる形状記憶合金アクチュエータ、静電力を用いる静電アクチュエータ等が挙げられる。
【0073】
前記記録用インクの飛翔の態様としては、特に制限はなく、前記刺激の種類等に応じて異なり、例えば、前記刺激が「熱」の場合、記録ヘッド内の前記記録用インクに対し、記録信号に対応した熱エネルギーを例えばサーマルヘッド等を用いて付与し、該熱エネルギーにより前記記録用インクに気泡を発生させ、該気泡の圧力により、該記録ヘッドのノズル孔から該記録用インクを液滴として吐出噴射させる方法などが挙げられる。また、前記刺激が「圧力」の場合、例えば記録ヘッド内のインク流路内にある圧力室と呼ばれる位置に接着された圧電素子に電圧を印加することにより、圧電素子が撓み、圧力室の容積が縮小して、前記記録ヘッドのノズル孔から該記録用インクを液滴として吐出噴射させる方法、などが挙げられる。
【0074】
前記飛翔させる前記記録用インクの液滴は、その大きさとしては、例えば、2〜40plが好ましく、その吐出噴射の速度としては6〜20m/sが好ましく、その駆動周波数としては1kHz以上が好ましく、その解像度としては300dpi以上が好ましい。
また、ノズル近傍での水分蒸発が30%を超える前に、印字領域及び非印字領域のいずれかにインクを吐出させることが好ましい。
【0075】
なお、前記制御手段としては、前記各手段の動きを制御することができる限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、シークエンサー、コンピュータ等の機器が挙げられる。
【0076】
〔インク記録物〕
本発明のインクジェット記録装置及びインクジェット記録方法により親水化処理された記録用メディアに記録されたインク記録物が、本発明のインク記録物である。
【実施例】
【0077】
本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこの実施例によって限定されるものではない。
【0078】
(製造例1)
−表面処理ブラック顔料分散体の調製−
CTAB比表面積が150m/gであり、DBP吸油量が100ml/100gであるカーボンブラック90gを、2.5Nの硫酸ナトリウム溶液3,000mlに添加し、温度60℃、速度300rpmの条件で攪拌し、10時間反応させて酸化処理を行った。
その後、この反応液を濾過し、濾別したカーボンブラックを水酸化ナトリウム溶液で中和し、限外濾過を行った。得られたカーボンブラックを水洗し、乾燥させて、固形分20質量%となるよう純水中に分散させて、製造例1のブラック顔料分散体を得た。
【0079】
(製造例2)
−ポリマー溶液Aの調製−
機械式攪拌機、温度計、窒素ガス導入管、還流管、及び滴下ロートを備えた1Lのフラスコ内を充分に窒素ガス置換した後、スチレン11.2g、アクリル酸2.8g、ラウリルメタクリレート12.0g、ポリエチレングリコールメタクリレート4.0g、スチレンマクロマー(AS−6、東亞合成株式会社製)4.0g、及びメルカプトエタノール0.4gを前記フラスコ内で混合し、その混合物を65℃に昇温した。
次いで、スチレン100.8g、アクリル酸25.2g、ラウリルメタクリレート108.0g、ポリエチレングリコールメタクリレート36.0g、ヒドロキシルエチルメタクリレート60.0g、スチレンマクロマー(AS−6、東亞合成株式会社製)36.0g、メルカプトエタノール3.6g、アゾビスメチルバレロニトリル2.4g、及びメチルエチルケトン18gの混合溶液を2.5時間かけて、前記フラスコ内に滴下した。
滴下後、アゾビスメチルバレロニトリル0.8g及びメチルエチルケトン18gの混合溶液を0.5時間かけて、前記フラスコ内に滴下した。65℃で1時間熟成した後、アゾビスメチルバレロニトリル0.8gを添加し、更に1時間熟成した。反応終了後、フラスコ内にメチルエチルケトン364gを添加して、濃度が50質量%のポリマー溶液A
800gを調製した。
【0080】
−ジメチルキナクリドン顔料含有ポリマー微粒子水分散体の作製−
次いで、得られた前記ポリマー溶液Aを28g、C.I.ピグメントレッド122を42g、1mol/Lの水酸化カリウム水溶液13.6g、メチルエチルケトン20g、及びイオン交換水13.6gを十分に攪拌した後、ロールミルを用いて混練した。得られたペーストを純水200gに投入し、充分に攪拌した後、エバポレータを用いてメチルエチルケトン及び水を留去し、顔料15質量%含有、固形分20質量%の製造例2のマゼンタポリマー微粒子の水分散体を得た。
【0081】
(製造例3)
−銅フタロシアニン顔料含有ポリマー微粒子分散体の調製−
前記製造例2におけるC.I.ピグメントレッド122を、銅フタロシアニン顔料に代え、更に顔料12質量%、固形分20質量%とした以外は、前記製造例2と同様にして、シアンポリマー微粒子の水分散体を調製した。
【0082】
(製造例4)
−モノアゾ黄色顔料含有ポリマー微粒子分散体の調製−
前記製造例2におけるC.I.ピグメントレッド122を、顔料ピグメントイエロー74に代え、更に顔料12質量%、固形分20質量%とした以外は、前記製造例2と同様にして、イエローポリマー微粒子の水分散体を調製した。
【0083】
(製造例5)
−ポリマー微粒子分散体B(アクリルシリコン系エマルション)の調製−
機械式攪拌機、温度計、窒素ガス導入管、還流管、及び滴下ロートを備えた1Lのフラスコ内を充分に窒素ガス置換した後、ラテムル(登録商標)S−180の8.0g、イオン交換水350gを加え混合し、その混合物を65℃に昇温した。昇温後、反応開始剤であるt−ブチルパーオキソベンゾエート3.0g、イソアスコルビン酸ナトリウム1.0gを加え、5分後にメタクリル酸メチル45g、メタクリル酸2エチルヘキシル160g、アクリル酸5g、メタクリル酸ブチル45g、メタクリル酸シクロヘキシル30g、ビニルトリエトキシシラン15g、ラテムルS−180の8.0g、及びイオン交換水340gを混合し、3時間かけて滴下を行なった。その後、80℃で2時間加熱熟成を行なった後、常温まで冷却し、水酸化ナトリウムでpHを7〜8に調整した。エバポレータを用いてエタノールを留去し、水分調節をして、固形分40質量%の製造例5のポリマー分散体B溶液730gを作製した。樹脂微粒子の粒径はおよそ130nmであった(23℃測定)。粒径の測定には、マイクロトラック社製の粒度分布測定器UPA150を使用し、希釈倍率500倍で測定した。
【0084】
(インク組成物1)
−ブラック顔料インク−
以下の各成分を含むインク組成物1を調製した。
・製造例1のブラック顔料分散体 38質量%
・1,3−ブタンジオール 19.5質量%
・グリセリン 6質量%
・2−エチル−1,3−ヘキサンジオール 1質量%
・フッ素系界面活性剤(FS−300、DuPont社製) 2質量%
・防腐防カビ剤(プロキセル(登録商標)LV、ゼネカ社製)0.05質量%
・アミン系pH調整剤
(2−アミノ−2−エチル−1,3−プロパンジオール) 0.6質量%
・シリコーン系消泡剤(KF−618、信越化学工業株式会社製)
0.1質量%
・水(残り)
【0085】
(インク組成物2)
−ポリマー分散体配合ブラック顔料インク−
以下の各成分を含むインク組成物2を調製した。
・製造例1のブラック顔料分散体 38質量%
・製造例5のポリマー分散体B溶液 36質量%
・1,3−ブタンジオール 19.5質量%
・グリセリン 6質量%
・2−エチル−1,3−ヘキサンジオール 1質量%
・フッ素系界面活性剤(FS−300、DuPont社製) 2質量%
・防腐防カビ剤(プロキセルL(登録商標)V、ゼネカ社製)0.05質量%
・アミン系pH調整剤
(2−アミノ−2−エチル−1,3−プロパンジオール) 0.6質量%
・シリコーン系消泡剤(KF−618、信越化学工業株式会社製)
0.1質量%
・水(残り)
【0086】
(インク組成物3)
−ポリマー分散体配合マゼンタポリマーインク−
・製造例2のマゼンタポリマー微粒子分散体 38質量%
・製造例5のポリマー分散体B溶液 36質量%
・1,3−ブタンジオール 19.5質量%
・グリセリン 6質量%
・2−エチル−1,3−ヘキサンジオール 1質量%
・フッ素系界面活性剤(FS−300、DuPont社製) 2質量%
・防腐防カビ剤(プロキセル(登録商標)LV、ゼネカ社製)0.05質量%
・アミン系pH調整剤
(2−アミノ−2−エチル−1,3−プロパンジオール) 0.6質量%
・シリコーン系消泡剤(KF−618、信越化学工業株式会社製)
0.1質量%
・水(残り)
【0087】
(インク組成物4)
−ポリマー分散体配合シアンポリマーインク−
前記インク組成物3におけるマゼンタポリマー微粒子分散体に代えて、前記製造例3のシアンポリマー微粒子分散体を使用した以外は、前記インク組成物3と同様にして、インク組成物4を調製した。
【0088】
(インク組成物5)
−ポリマー分散体配合イエローポリマーインク−
前記インク組成物3におけるマゼンタポリマー微粒子分散体に代えて、前記製造例4のイエローポリマー微粒子分散体を使用した以外は、前記インク組成物3と同様にして、インク組成物5を調製した。
【0089】
(評価方法)
画像が記録される用紙として、ステキヒトサイズ度14sec.のリコーPPC用紙TYPE6200(株式会社NBSリコー製)を使用し、1000mm/secの用紙搬送速度において、前記各インク組成物において解像度600dpiのインクジェット印字を行い、印字直後の乾燥度合い、及び画質を確認した。なお、試験環境条件は23℃・湿度50%とした。
印字前の用紙親水化処理は、春日電気株式会社製、高周波電源CT−0212型を用い、かつ、図1に示される非接触型放電電極、又は図2に示される接触ローラ型放電電極を用い、印加電力200Wの大気圧非平衡プラズマを発生させた。
前記インクジェット印字は、インクジェットプリンタG−707(株式会社リコー製)のヘッドを用い、1cm平方のベタ画像を印字した。インク付着量は、およそ6.5g/mである。
前記印字直後の乾燥度合いの確認は、アドバンテック社の濾紙5Aを印字直後の画像に押し付け、濾紙に転移するインクの量で乾燥性を確認した。(これを濾紙付着乾燥性試験と呼ぶ)。
前記画質の確認は、マクベス濃度計で印字画像濃度を測定した。
また、印字画像のエッジを目視観察して滲み(フェザリング)の状態を確認した。
【0090】
〔実施例1〜4及び比較例1〕
印字前の用紙親水化処理を、図1に示される非接触型放電電極9で行い、この用紙親水化処理に連続して、表1に示される各インク組成物を用いて、インクジェット印写した。
【0091】
前記実施例1〜4及び比較例1における濾紙付着乾燥試験、画像濃度、画像滲み、及び総合評価の結果は、表1に示した。
【0092】
〔実施例5〜8及び比較例2〕
印字前の用紙親水化処理を、図2に示される接触ローラ型放電電極11で行い、この用紙親水化処理に連続して、表1に示される各インク組成物を用いて、インクジェット印写した。
【0093】
前記実施例5〜8及び比較例2における濾紙付着乾燥試験、画像濃度、画像滲み、及び総合評価の結果は、表1に示した。
【0094】
〔実施例9〜12及び比較例3〕
印字前の用紙親水化処理を、図1に示される非接触型放電電極9で行い、10秒間放置した後、表1に示される各インク組成物を用いて、インクジェット印写した。
【0095】
前記実施例9〜12及び比較例3における濾紙付着乾燥試験、画像濃度、画像滲み、及び総合評価の結果は、表1に示した。
【0096】
〔実施例13〜16及び比較例4〕
印字前の用紙親水化処理を、図2に示される接触ローラ型放電電極11で行い、10秒間放置した後、表1に示される各インク組成物を用いて、インクジェット印写した。
【0097】
前記実施例13〜16及び比較例4における濾紙付着乾燥試験、画像濃度、画像滲み、及び総合評価の結果は、表1に示した。
【0098】
〔比較例5〜9〕
親水化処理を行わない用紙に対し、表1に示されるインク組成物を用いて、インクジェット印写した。
【0099】
前記比較例5〜9における濾紙付着乾燥試験、画像濃度、画像滲み、及び総合評価の結果は、表1に示した。
【0100】
【表1】

【0101】
(総合判定の評価基準)
表1に示される総合判定の評価基準は、以下の通りである。
◎:濾紙付着乾燥試験において転移が無く、画像濃度が1.29以上であり、画像滲みが無い場合。
○:濾紙付着乾燥試験において転移が無く、画像濃度が1.26以上1.29未満であり、画像滲みが無い場合。
△:濾紙付着乾燥試験において少し転移があるが、画像濃度が1.24以上1.26未満であり、画像滲みが無い場合。
×:画像滲みがある場合。
【0102】
表1に示されるように、記録用メディアに親水化処理を施した実施例1〜16は、親水化処理を施していない比較例6〜8と比べて、印字画像の乾燥速度が速くなり、画像濃度が向上することが確かめられた。
なお、乾燥速度が速まり、乾燥性が良好となった要因は、一般的に浸透乾燥と呼ばれるインクジェットインク(インク組成物)の乾燥メカニズムにおいて、インク浸透速度が高まった為と考えられる。より詳細には、印字前の親水化処理によって記録用メディアの紙繊維表面の濡れ性が向上したことにより、インク浸透速度が速まったものと考えられる。
【0103】
なお、比較例1〜4は、顔料混合水分散性樹脂粒子、着色性水分散樹脂粒子を含まない、着色剤を使用した場合であり、この比較例1〜4において示されるように、表面が親水化処理された記録用メディアに、該着色剤を含むインク組成物で印写すると、記録用メディアの横方向(搬送方向に対し垂直方向)へのインク浸透が顕著に発生し、画像の滲み(フェザリング)が発生することが確かめられた。
【0104】
これに対し、実施例1〜16のインク組成物は、顔料混合水分散性樹脂粒子、着色性水分散樹脂粒子を着色剤として含むため、インクが記録用メディアの紙繊維間に毛細浸透する際、インク溶媒のみが直ちに該記録用メディア内に浸透し、該着色剤が凝集して着色剤の流動が抑制され、滲みが抑制されると考えられる。
該流動性が抑制された着色剤は、記録用メディア内へ深く浸透せず、表面に留まるため、画像濃度が高く、かつ、裏抜けも抑制されると考えられる。
【0105】
また、実施例1〜4と実施例9〜12、及び実施例5〜8と実施例13〜16の結果より、親水処理工程と、印刷工程(インク飛翔工程)とを連続した工程とすることにより、より、乾燥速度を高め、高濃度かつ、高画質の画像が得られることが確かめられた。
実施例1〜8においては、濾紙付着乾燥性試験における転移、及び画像滲みが無く、かつ、電子写真と同等濃度が得られることが確かめられた。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】図1は、親水化処理手段を備えた一実施形態に係るインクジェット記録装置の概略を示す説明図である。
【図2】図2は、他の親水化処理手段を備えた一実施形態に係るインクジェット記録装置の概略を示す説明図である。
【符号の説明】
【0107】
1 搬送ローラ
2 レジストローラ
3 従動ローラ
4 搬送ベルト
5 インクジェットヘッド
6 駆動ローラ
7 テンションローラ
8 高周波電源
9 非接触型放電電極
10 接地電極
11 接触ローラ型放電電極
20 親水化処理手段
30 インクジェット記録装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録用メディアの表面に大気圧非平衡プラズマを接触させて該表面を親水化する親水化処理工程と、
水分散性樹脂粒子と共に顔料を分散させてなる顔料混合水分散性樹脂粒子、及び着色された水分散性樹脂粒子よりなる着色性水分散性樹脂粒子のうち少なくとも1種を含んでなるインク組成物に刺激を印加し、該インク組成物を飛翔させて画像を形成するインク飛翔工程と、を少なくとも含むことを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項2】
親水化処理工程と、インク飛翔工程とを連続で行う請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項3】
記録用メディアの表面に大気圧非平衡プラズマを接触させて該表面を親水化する親水化処理手段と、
水分散性樹脂粒子と共に顔料を分散させてなる顔料混合水分散性樹脂粒子、及び着色された水分散性樹脂粒子よりなる着色性水分散性樹脂粒子のうち少なくとも1種を含んでなるインク組成物に刺激を印加し、該インク組成物を飛翔させて画像を形成するインク飛翔手段と、を少なくとも備えることを特徴とするインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−279796(P2009−279796A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−132446(P2008−132446)
【出願日】平成20年5月20日(2008.5.20)
【出願人】(000221937)東北リコー株式会社 (509)
【Fターム(参考)】