説明

インクジェット記録材料の製造方法

【課題】真珠光沢を有するインクジェット記録材料の製造方法であって、インク吸収性、発色性を損なうことなく、真珠光沢顔料に起因する表面のざらつきが解消されたインクジェット記録材料の製造方法を提供する。
【解決手段】支持体上に真珠光沢顔料を含有する塗布液を塗布し、その塗布した湿潤塗膜が減率乾燥を示す前に、平均二次粒径が500nm以下の無機顔料を主体として含有するインク受容層塗布液を塗布することを特徴とするインクジェット記録材料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真珠光沢を有するインクジェット記録材料の製造方法であって、インク吸収性、発色性を損なうことなく、真珠光沢顔料に起因する表面のざらつきが解消されたインクジェット記録材料の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年におけるインクジェット記録技術の向上は著しく、最近では写真等の高品位な出力にインクジェット記録方式が広く用いられている。こういった高品位な出力の際には記録材料の品質も非常に重要であり、特に写真用途の出力においては、銀塩写真並みの高い光沢、優れた色再現性を有する記録材料として、紙や樹脂フィルム等の支持体上に無機顔料を主体に含有する多孔質のインク受容層を設けてなる記録材料が広く知られ用いられている。
【0003】
このような記録材料としては、例えば、特公平3−56552号公報、特開平10−119423号公報、特開2000−211235号公報、特開2000−309157号公報等には無機顔料として気相法シリカを用いた例が、特開平9−286165号公報、特開平10−181190号公報等には沈降法シリカを用いた例がそれぞれ開示されている。これらのように無機顔料を用いた記録材料においては、顔料を微粒化することで高い光沢、優れた発色を得ながら、多孔質顔料により構成された空隙を利用して優れたインク吸収を達成している。
【0004】
一方、独特な風合い、視覚効果を付与する目的で、真珠光沢顔料を用いた記録材料が知られている。例えば、特開2005−288884号公報(特許文献1)には真珠光沢顔料をインク受理層に含有させる方法が、特開2003−80836号公報(特許文献2)には真珠光沢顔料、金属塩及びバインダー樹脂を含有する真珠光沢層を設ける方法が、特開2006−218785号公報(特許文献3)には基材上にインク受容層とパール調光沢層を順次設ける方法がそれぞれ開示されている。しかしながら、単にインク受容層中に真珠光沢顔料を含有させただけでは、塗膜の透明性が低下し、十分な発色が得られないという問題がある。
【0005】
また、特開2001−293943号公報(特許文献4)にはパール顔料を含む特殊視覚効果層の外側に受理層を設ける方法が、特開2004−276418(特許文献5)には下塗り層に真珠光沢顔料を含む方法が開示されている。これらの方法では真珠光沢顔料を含む層の外側にインク受容層を設けているため、上記の真珠光沢顔料による発色低下の影響は回避できるものの、表面平滑性が損なわれ、インク受容層塗設後の表面に“ざらつき”が生じるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−288884号公報
【特許文献2】特開2003−80836号公報
【特許文献3】特開2006−218785号公報
【特許文献4】特開2001−293943号公報
【特許文献5】特開2004−276418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、真珠光沢を有するインクジェット記録材料の製造方法に関し、特にインク吸収性、発色性を損なうことなく、真珠光沢顔料に起因する表面のざらつきが解消されたインクジェット記録材料の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題は、以下の発明によって達成された。
1)支持体上に真珠光沢顔料を含有する塗布液を塗布し、その塗布した湿潤塗膜が減率乾燥を示す前に、平均二次粒径が500nm以下の無機顔料を主体として含有するインク受容層塗布液を塗布することを特徴とするインクジェット記録材料の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、真珠光沢を有し、インク吸収性、発色性に優れ、表面のざらつきが解消されたインクジェット記録材料の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は真珠光沢顔料を含有するインクジェット記録材料の製造方法であって、真珠光沢顔料を含有する塗布液を塗布し、この湿潤塗膜が減率乾燥を示す前に、その外側に平均二次粒径が500nm以下の無機顔料を主体としたインク受容層を塗布する製造方法によって、支持体上に真珠光沢顔料を含有する層(以降この層を真珠光沢顔料層と記載する)と該インク受容層を設け、真珠光沢顔料に起因する表面の粗面化を抑制するものである。
【0011】
まず、真珠光沢顔料層が含有する真珠光沢顔料について説明する。真珠光沢顔料には、魚鱗箔や天然雲母のような天然品と、塩基性炭酸鉛、オキシ塩化ビスマス、天然マイカの表面を金属酸化物で被覆したもの、合成マイカの表面を金属酸化物で被覆したもののような合成品とがある。中でも、入手しやすさと安全性の面から天然マイカの表面を金属酸化物で被覆したものや、合成マイカの表面を金属酸化物で被覆したものを用いるのが好ましく、また、光沢性や写像性の観点から、真珠光沢顔料は平板状であることが好ましい。なお、ここで平板状とは、真珠光沢顔料のアスペクト比(平均粒径/平均粒子厚)が5以上であることを意味し、より好ましい真珠光沢顔料は平均粒子厚が0.2〜0.9μm、平均粒径が1〜200μm、アスペクト比が5〜200の範囲にあるものである。このような真珠光沢顔料としては、二酸化チタン被覆雲母、酸化鉄被覆雲母、二酸化チタン被覆酸化アルミナフレーク、オキシ塩化ビスマス等があり、例えばメルク(株)よりIriodin100、同103、同111、同123、Xirallic T50−10 Crystal Silver等の名で、また日本光研工業(株)よりPEARL−GRAZEシリーズとしてME−100R、MF−100R、MM−100R、MB−100RF等の名で、また他のメーカーからも同様の目的を持って市販されており、各種グレードのものが容易に入手できる。
【0012】
真珠光沢顔料は隠蔽性が高く塗膜の透明性を下げるため、インクジェット記録材料に用いた場合に発色低下等の弊害があるが、本発明の積層構成とすることでその問題は回避できる。真珠光沢顔料層が含有する真珠光沢顔料の量は0.3g/m以上が好ましく、0.6g/m〜5.0g/mの範囲が特に好ましい。一方、下層の外側に設けるインク受容層には上記の理由から真珠光沢顔料を実質的に含有しないことが好ましい。ここで、実質的に含有しないとは、インク受容層中の含有量が0.3g/m未満であることを意味する。
【0013】
本発明の真珠光沢顔料層は、上記真珠光沢顔料に加えてバインダー樹脂を含んでいることが好ましい。バインダー樹脂としては、公知のものが使用できるが、例えば、ポリビニルアルコール、各種変性ポリビニルアルコール、酢酸ビニル、澱粉、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体、カゼイン、ゼラチン、スチレン−ブタジエン共重合体等の共役ジエン系共重合体ラテックス、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のビニル系共重合体ラテックス、アクリル酸、アクリル酸エステル、アクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル等の重合体または共重合体等のアクリル系共重合体ラテックス、スチレン−ブタジエンゴム、メタクリル酸−ブタジエンゴム等が挙げられる。これらのうち、扱いやすさ及び上層のインク受容層との親和性の点からポリビニルアルコールが特に好ましい。また真珠光沢顔料層におけるバインダー樹脂の含有量は、真珠光沢顔料に対して600質量%以下であることが好ましく、300質量%以下、更には150質量%以下であることが好ましい。このようにバインダー樹脂量を低減することより良好な真珠光沢感が得られる反面、本発明の課題である“表面のざらつき”がより顕著に表れる。
【0014】
真珠光沢顔料層は上記した真珠光沢顔料やバインダー樹脂に加えて、更に無機顔料を含有させてもよい。このような構成とすることで、真珠光沢顔料層側でもインクを保持させることが可能となる。無機顔料としては軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、カオリン、二酸化チタン、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、合成シリカ、アルミナ、アルミナ水和物、水酸化マグネシウム等が挙げられる。該無機顔料粒子の粒径が大きいと真珠光沢感が低下する場合があるので、これら無機顔料の平均二次粒径は500nm以下が好ましく、10〜300nmとすることが好ましい。このような無機顔料を得るためには、後述するインク受容層が含有する無機顔料と同様の分散処理、あるいは粉砕処理を施すことで粒子サイズを調整することができる。また真珠光沢顔料層に用いる無機顔料の中でも、合成シリカ、アルミナ、アルミナ水和物が好ましい。
【0015】
真珠光沢顔料層の塗布量は0.3〜30g/mが好ましく、1〜20g/mが特に好ましい。
【0016】
本発明のインク受容層は、平均二次粒径が500nm以下の無機顔料を含有する。かかる無機顔料としては上述した真珠光沢顔料層の無機顔料と同様に、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、カオリン、二酸化チタン、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、合成シリカ、アルミナ、アルミナ水和物、水酸化マグネシウム等が挙げられる。これらの中でも非晶質合成シリカ、アルミナ、アルミナ水和物が特に好ましい。非晶質合成シリカは、製造法によって湿式法シリカ、気相法シリカに大別することができる。気相法シリカは、湿式法に対して乾式法とも呼ばれ、一般的には火炎加水分解法によって作られる。具体的には四塩化珪素を水素及び酸素と共に燃焼して作る方法が一般的に知られているが、四塩化珪素の代わりにメチルトリクロロシランやトリクロロシラン等のシラン類も、単独または四塩化珪素と混合した状態で使用することができる。気相法シリカは日本アエロジル(株)からアエロジル、(株)トクヤマからQSタイプとして市販されている。
【0017】
湿式法シリカは、更に製造方法によって沈降法シリカ、ゲル法シリカ、ゾル法シリカに分類される。沈降法シリカは珪酸ソーダと硫酸をアルカリ条件で反応させて製造され、粒子成長したシリカ粒子が凝集・沈降し、その後濾過、水洗、乾燥、粉砕・分級の工程を経て製品化される。この方法で製造されたシリカの二次粒子は緩やかな凝集粒子となり、比較的粉砕しやすい粒子が得られる。沈降法シリカとしては、例えば東ソー・シリカ(株)からニップシールとして、(株)トクヤマからトクシール、ファインシールとして市販されている。ゲル法シリカは珪酸ソーダと硫酸を酸性条件化で反応させて製造する。熟成中に微小粒子は溶解し、他の一次粒子同士を結合するように再析出するため、明確な一次粒子は消失し、内部空隙構造を有する比較的硬い凝集粒子を形成する。例えば、東ソー・シリカ(株)からニップゲルとして、水澤化学工業(株)からミズカシルとして、グレースジャパン(株)からサイロイド、サイロジェットとして市販されている。ゾル法シリカは、コロイダルシリカとも呼ばれ、珪酸ソーダの酸などによる複分解やイオン交換樹脂層を通して得られるシリカゾルを加熱熟成して得られ、例えば日産化学工業(株)からはスノーテックスとして市販されている。
【0018】
本発明で使用することができる気相法シリカについて説明する。本発明に用いられる気相法シリカの平均一次粒径は30nm以下が好ましく、より高い光沢を得るためには、15nm以下が好ましい。更に平均一次粒径が3〜15nmでかつBET法による比表面積が200m/g以上(好ましくは250〜500m/g)のものが特に好ましい。なお、本発明でいう平均一次粒径とは、微粒子の電子顕微鏡観察により一定面積内に存在する100個の一次粒子各々の投影面積に等しい円の直径を粒子の粒径としてその平均値を求めたものであり、BET法とは、気相吸着法による粉体の表面積測定法の一つであり、吸着等温線から1gの試料の持つ総表面積、即ち比表面積を求める方法である。通常吸着気体としては、窒素ガスが多く用いられ、吸着量を被吸着気体の圧、または容積の変化から測定する方法が最も多く用いられている。多分子吸着の等温線を表すのに最も著名なものは、Brunauer、Emmett、Tellerの式であってBET式と呼ばれ表面積決定に広く用いられている。BET式に基づいて吸着量を求め、吸着分子1個が表面で占める面積を掛けて、表面積が得られる。
【0019】
気相法シリカの平均二次粒径は500nm以下、より好ましくは10〜300nmである。該気相法シリカの平均二次粒径を500nm以下とするには、通常のプロペラ撹拌、タービン型撹拌、ホモミキサー型撹拌等で気相法シリカと分散媒を予備混合し、次にボールミル、ビーズミル、サンドグラインダー等のメディアミル、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー等の圧力式分散機、超音波分散機等を使用して分散を行うことが好ましく、またこの分散処理はカチオン性ポリマーの存在下で分散することが好ましい。なお本発明でいう平均二次粒径とは希薄分散液をレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置で測定して求めたものである。
【0020】
上記気相法シリカの分散に使用するカチオン性ポリマーとしては、ポリエチレンイミン、ポリジアリルアミン、ポリアリルアミン、アルキルアミン重合物、特開昭59−20696号公報、特開昭59−33176号公報、特開昭59−33177号公報、特開昭59−155088号公報、特開昭60−11389号公報、特開昭60−49990号公報、特開昭60−83882号公報、特開昭60−109894号公報、特開昭62−198493号公報、特開昭63−49478号公報、特開昭63−115780号公報、特開昭63−280681号公報、特開平1−40371号公報、特開平6−234268号公報、特開平7−125411号公報、特開平10−193776号公報等に記載された1〜3級アミノ基、4級アンモニウム塩基を有するポリマーが好ましく用いられる。特に、カチオン性ポリマーとしてジアリルアミン誘導体が好ましく用いられる。分散性及び分散液粘度の面で、これらのカチオンポリマーの分子量は、2,000〜10万程度が好ましく、特に2,000〜3万程度が好ましい。カチオン性ポリマーの使用量は気相法シリカに対して1〜10質重%の範囲が好ましい。
【0021】
次に、本発明で使用することができる湿式法シリカについて説明する。本発明で用いられる湿式法シリカは、沈降法シリカあるいはゲル法シリカであり、中でも沈降法シリカが好ましい。また、平均一次粒径が50nm以下、より好ましくは3〜40nmであるものが好ましい。本発明では、これらの湿式法シリカを、例えばボールミル、ビーズミル、サンドグラインダー等のメディアミル、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー等の圧力式分散機、超音波分散機、及び薄膜旋回型分散機等を使用することで、水性媒体中で平均二次粒径が500nm以下、好ましくは10〜300nmに粉砕したものを使用することができる。上記の粉砕は、前記の気相法シリカをカチオン化するのに使用されるものと同様のカチオン性化合物の存在下で行われるのが好ましい。
【0022】
本発明のインク受容層が含有する無機顔料としてはアルミナまたはアルミナ水和物も好適に用いられる。アルミナまたはアルミナ水和物は、酸化アルミニウムやその含水物であり、結晶質でも非晶質でもよく、不定形や、球状、板状等の形態を有しているものが使用される。両者のいずれかを使用してもよいし、併用してもよい。
【0023】
本発明に用いることのできる酸化アルミナとしては酸化アルミニウムのγ型結晶であるγ−アルミナが好ましく、中でもδグループ結晶が好ましい。本発明に用いることのできるアルミナ水和物はAl・nHO(n=1〜3)の構成式で表される。酸化アルミニウム含水物は、アルミニウムイソプロポキシド等のアルミニウムアルコキシドの加水分解、アルミニウム塩のアルカリによる中和、アルミン酸塩の加水分解等の公知の製造方法により得られる。本発明に使用されるアルミナ水和物の平均二次粒径は500nm以下、好ましくは10〜300nmである。
【0024】
本発明に用いられるアルミナまたはアルミナ水和物の分散液を安定化させるために、ゾルの解膠剤やアルミナまたはアルミナ水和物粉末の分散剤として、種々の酸類を添加することができる。ゾルの解膠に用いられる酸類としては公知のものが使用できるが、例えば、硝酸、塩酸、臭化水素酸等の無機酸や、酢酸、乳酸、蟻酸等のカルボン酸基を有する有機酸、あるいはメタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等のスルホン酸基を有する有機酸が挙げられる。またこれらは複数のインク受容層塗布液毎に異なる酸を用いてもよく、一方の塗布液の中で2種以上を併用してもよい。酸の添加量はアルミナ水和物のAl換算100gに対して8〜120mmolが好ましく、特に10〜50mmolがより好ましい。
【0025】
本発明のインク受容層は、皮膜としての特性を維持するためと、透明性が高くインクのより高い浸透性を得るために親水性バインダーを含有することが好ましい。かかる親水性バインダーとしては、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、澱粉、デキストリン、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸エステル系やそれらの誘導体が使用されるが、特に好ましい親水性バインダーは完全または部分ケン化のポリビニルアルコールである。ポリビニルアルコールの中でも特に好ましいのは、ケン化度が80%以上の部分または完全ケン化したものである。平均重合度は500〜5000のポリビニルアルコールが好ましい。
【0026】
前記ポリビニルアルコールとしては、一般的なポリビニルアルコールに加え、カチオン変性ポリビニルアルコール、アニオン変性ポリビニルアルコール、シラノール変性ポリビニルアルコール及びその他ポリビニルアルコールの誘導体も含まれる。ポリビニルアルコールは1種単独でもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0027】
本発明のインク受容層塗布液におけるポリビニルアルコールの含有量は、平均二次粒径が500nm以下の無機顔料に対して3〜30質量%が好ましく、5〜25質量%が特に好ましい。
【0028】
本発明におけるインク受容層の固形分塗布量としては、10〜60g/mが好ましく、支持体が樹脂被覆紙である場合には20〜60g/mが特に好ましい。インク受容層塗布液の固形分濃度は10〜30質量%が好ましく、15〜25質量%が特に好ましい。
【0029】
本発明のインク受容層及び真珠光沢顔料層には親水性バインダーと共に架橋剤を含有することが好ましい。架橋剤としては公知の架橋剤が使用できるが、具体的な例としては、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒドの如きアルデヒド系化合物、ジアセチル、クロルペンタンジオンの如きケトン化合物、ビス(2−クロロエチル尿素)、2−ヒドロキシ−4,6−ジクロロ−1,3,5−トリアジン、米国特許第3,288,775号明細書記載の如き反応性のハロゲンを有する化合物、ジビニルスルホン、米国特許第3,635,718号明細書記載の如き反応性のオレフィンを持つ化合物、米国特許第2,732,316号明細書記載の如きN−メチロール化合物、米国特許第3,103,437号明細書記載の如きイソシアナート類、米国特許第3,017,280号、同2,983,611号明細書記載の如きアジリジン化合物類、米国特許第3,100,704号明細書記載の如きカルボジイミド系化合物類、米国特許第3,091,537号明細書記載の如きエポキシ化合物、ムコクロル酸の如きハロゲンカルボキシアルデヒド類、ジヒドロキシジオキサンの如きジオキサン誘導体、クロム明ばん、硫酸ジルコニウム、ほう酸、ほう酸塩、ほう砂の如き無機架橋剤等がある。本発明においてはほう酸またはほう酸塩が好ましい。本発明で使用されるほう酸は、オルトほう酸、メタほう酸、次ほう酸等、ほう酸塩としてはそれらのナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。架橋剤の添加量は各層に含まれる親水性バインダーに対して0.1〜40質量%が好ましく、0.5〜30質量%がより好ましい。
【0030】
本発明のインク受容層は、耐水性向上等のため水溶性多価金属化合物を含有してもよい。水溶性多価金属化合物としては水溶性アルミニウム化合物及び水溶性ジルコニウム化合物が好ましく利用できる。
【0031】
本発明に用いられる水溶性ジルコニウム化合物として、酢酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、塩基性炭酸ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、炭酸ジルコニウム・アンモニウム、炭酸ジルコニウム・カリウム、硫酸ジルコニウム、フッ化ジルコニウム、塩化ジルコニウム、塩化ジルコニウム八水和物、オキシ塩化ジルコニウム、ヒドロキシ塩化ジルコニウム等が挙げられる。これら水溶性ジルコニウム化合物の中でも、酢酸ジルコニウム(酢酸ジルコニル)、オキシ塩化ジルコニウムは特に好ましい。
【0032】
水溶性アルミニウム化合物としては例えば、無機塩としては塩化アルミニウムまたはその水和物、硫酸アルミニウムまたはその水和物、アンモニウムミョウバン等が知られている。更に、無機系の含アルミニウムカチオンポリマーである塩基性ポリ水酸化アルミニウム化合物が知られている。
【0033】
これらの水溶性アルミニウム化合物の中でも、インク受容層を形成する塗布液に安定に添加できるものが好ましく、塩基性ポリ水酸化アルミニウム化合物が好ましく用いられる。この化合物は、主成分が下記の式1、2または3で示され、例えば[Al(OH)153+、[Al(OH)204+、[Al13(OH)345+、[Al21(OH)603+等のような塩基性で高分子の多核縮合イオンを安定に含んでいる水溶性のポリ水酸化アルミニウムである。
【0034】
[Al(OH)Cl6−n ・・式1
[Al(OH)AlCl ・・式2
Al(OH)Cl(3n−m) 0<m<3n ・・式3
【0035】
これらのものは、多木化学(株)よりポリ塩化アルミニウム(PAC)の名で水処理剤として、浅田化学工業(株)よりポリ水酸化アルミニウム(Paho)の名で、また、(株)理研グリーンよりピュラケムWTの名で、また他のメーカーからも同様の目的を持って市販されており、各種グレードのものが容易に入手できる。本発明ではこれらの市販品をそのままでも使用できる。
【0036】
上記した水溶性多価金属化合物の含有量は、インク受容層が含有する無機顔料に対して0.1〜10質量%の範囲が好ましい。
【0037】
インク受容層及び真珠光沢顔料層には、更に着色染料、着色顔料、紫外線吸収剤、酸化防止剤、顔料の分散剤、消泡剤、レベリング剤、防腐剤、蛍光増白剤、粘度安定剤、pH調節剤などの公知の各種添加剤を添加することもできる。また、本発明のインク受容層の塗布液のpHは3.3〜6.5の範囲が好ましく、特に3.5〜5.5の範囲が好ましい。
【0038】
本発明のインクジェット記録材料には、上記のインク受容層及び真珠光沢顔料層に加え、更に下引き層や保護層、光沢発現層等の他の機能を有する層を設けてもよい。
【0039】
本発明に用いられる支持体としてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ジアセテート樹脂、トリアセテート樹脂、セロファン、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のフィルム、ポリオレフィン樹脂被覆紙等の非吸収性支持体、上質紙、アート紙、コート紙等の吸収性支持体等が用いられる。中でも、非吸収性支持体は高い光沢が得られる点で好ましく用いられるが、本発明はこのような構成のインクジェット記録材料に特に有用である。これらの支持体の厚みは、約50〜300μm程度のものが好ましく使用される。
【0040】
非吸収性支持体であるフィルムやオレフィン樹脂被覆紙を使用する場合に、インク受容層を設ける面上には、コロナ放電処理、火炎処理等の活性化処理を施すことができる。
【0041】
支持体としてフィルムやオレフィン樹脂被覆紙を使用する場合には、インク受容層を設ける面上に天然高分子化合物や合成樹脂を主体とする下引き層を設けることが好ましく、特にゼラチンを主体とする下引き層が好ましい。
【0042】
下引き層の塗布量としては特に制限はないが、固形分塗布量で0.005〜2.0g/mの範囲が好ましく、0.01〜1.0g/mの範囲がより好ましく、0.02〜0.5g/mの範囲が特に好ましい。
【0043】
本発明における支持体には、帯電防止、搬送性改善、カール防止等のために各種のバックコート層を塗設することができる。バックコート層には無機及び有機の帯電防止剤、親水性バインダー、ラテックス、硬化剤、顔料、界面活性剤等を適宜組み合わせて含有せしめることができる。
【0044】
本発明の製造方法は支持体上に真珠光沢顔料を含有する塗布液を塗布し、その塗布した湿潤塗膜が減率乾燥を示す前に、平均二次粒径が500nm以下の無機顔料を主体として含有するインク受容層塗布液を塗布する。かかる塗布方式としては、真珠光沢顔料層塗布液を塗設後、塗布した層が減率乾燥を示す前にインク受容層塗布液を設ける「wet on wet」の塗布方式であってもよいし、該真珠光沢顔料層塗布液とインク受容層塗布液を同時重層塗布してもよい。
【0045】
乾燥工程は、恒率乾燥領域、減率乾燥領域、乾燥終了点に大別される。乾燥の初期段階である恒率乾燥領域においては、湿潤塗膜中の水や溶剤が蒸発潜熱を奪いながら単純に蒸発していくため、湿潤塗膜の表面温度は湿球温度(湿り空気の平衡状態での水滴の温度であり、空気の湿度が小さいほど低い。)とほぼ等しくなる。減率乾燥領域においては、湿潤塗膜に含まれる物質と水とのインターラクションを乖離させるためのエネルギーが必要となったり、形成されはじめる空隙により水分移動が阻害されるため、湿潤塗膜中における水や溶媒の移動速度が湿潤塗膜表面からの水や溶媒の蒸発速度より低下し、蒸発潜熱が次第に奪われにくくなるため、塗層の表面温度は湿球温度と比較し、次第に高くなる。乾燥終了点においては、蒸発潜熱が奪われなくなるため、塗層の表面温度は乾燥空気の温度と等しくなる。従って、本発明における「湿潤塗膜が減率乾燥を示す前」とは、乾燥工程中に表面温度計を用いて、湿潤塗膜の表面温度と湿球温度を比較し、表面温度が湿球温度より高くなる領域より前の乾燥領域であることを意味する。
【0046】
本発明の真珠光沢顔料層及びインク受容層の塗布に用いる塗布方式としては、エアードクターコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、ナイフコーター、リバースロールコーター、バーコーター、スライドビードコーター、カーテンコーター等の公知の塗布方法を利用することができる。また同時重層塗布にあたっては、スライドビード方式、カーテン方式等が好適である。スライドビード塗布方式は、特開平5−96223号公報、特開平11−290775号公報、特開2000−33314号公報等に記載の、スライド面を塗布液が流下し、塗布装置と支持体との間にビードを形成しながら塗布する方式である。カーテン塗布方式は、特開平10−277458号公報、特開2000−176344号公報、特開2001−46938号公報等に記載の、塗布液のカーテン膜を支持体上に落下させて塗布する方式である。
【実施例】
【0047】
以下、本発明の実施例を示す。なお、部及び%は質量部、質量%を示す。
【0048】
(実施例1)
[支持体の作製]
広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)と広葉樹晒サルファイトパルプ(LBSP)の1:1混合物をカナディアン スタンダード フリーネスで300mlになるまで叩解し、パルプスラリーを調整した。これにサイズ剤としてアルキルケテンダイマーを対パルプ0.5%、強度剤としてポリアクリルアミドを対パルプ1.0%、カチオン化澱粉を対パルプ2.0%、ポリアミドエピクロロヒドリン樹脂を対パルプ0.5%添加し、水で希釈して0.2%スラリーとした。このスラリーを長網抄紙機で坪量170g/mになるように抄造し、乾燥調湿してポリオレフィン樹脂被覆紙の基紙とした。抄造した基紙に、密度0.918g/cmの低密度ポリエチレンの樹脂に対して、10%のアナターゼ型チタンを均一に分散したポリエチレン樹脂組成物を320℃で溶融し、厚さ35μmになるように押出コーティングし、微粗面加工されたクーリングロールを用いて押出被覆し、表面(インク受容層塗設面)とした。もう一方の面には密度0.962g/cmの高密度ポリエチレン樹脂70部と密度0.918g/cmの低密度ポリエチレン樹脂30部のブレンド樹脂組成物を同様に320℃で溶融し、厚さ30μmとなるように押出コーティングし、粗面加工されたクーリングロールを用いて押出被覆し、裏面とした。
【0049】
上記ポリオレフィン樹脂被覆紙の表面に高周波コロナ放電処理を施した後、下記組成の下引き層をゼラチンの付着量が50mg/mとなるように塗布乾燥した。
<下引き層>
ゼラチン 100部
スルフォコハク酸−2−エチルヘキシルエステル塩 2部
クロム明ばん 10部
【0050】
[インクジェット記録材料の作製]
上記支持体上に、下記組成の真珠光沢顔料層塗布液1をスライドビードコーターで乾燥塗布量が2.0g/mとなるように塗布した。この後、8℃で15秒間冷却し、次いで40℃の空気(湿球温度18℃)を吹き付けた。湿潤塗膜の表面温度が13℃(<湿球温度)である湿潤塗膜上に、インク受容層塗布液1を気相法シリカの乾燥塗布量が20.0g/mとなるように、スライドビードコーターで塗布し、その後、8℃で15秒間冷却し、30〜55℃の空気を順次吹き付けて乾燥し、実施例1のインクジェット記録材料を作製した。
【0051】
[気相法シリカ分散液1の作製]
水にジメチルジアリルアンモニウムクロライドホモポリマー(分子量9000)4部と気相法シリカ(平均一次粒径7nm、BET法による比表面積300m/g)100部を添加し予備分散液を作製した後、高圧ホモジナイザー処理して、固形分濃度20%の気相法シリカ分散液1を作製した。気相法シリカの平均二次粒径は135nmであった。
【0052】
[真珠光沢顔料分散液1の作製]
水に真珠光沢顔料(日本光研工業(株)製、MM−100R)を添加し予備分散液を作成した後、700rpmで5分間プロペラ撹拌して、固形分濃度25%の真珠光沢顔料分散液を作製した。
【0053】
<真珠光沢顔料層塗布液1>
ほう酸 4.6部
ポリビニルアルコール 26.5部
(ケン化度88%、平均重合度3500)
真珠光沢顔料分散液1 (真珠光沢顔料の固形分として)26.5部
塗布液の固形分濃度 8.0%
【0054】
<インク受容層塗布液1>
気相法シリカ分散液1 (気相法シリカの固形分として)100部
ほう酸 4部
ポリビニルアルコール 23部
(ケン化度88%、平均重合度3500)
塗布液の固形分濃度 12.8%
【0055】
(実施例2)
実施例1の真珠光沢顔料分散液1を下記の真珠光沢顔料分散液2に変えた以外は実施例1と同様にして実施例2のインクジェット記録材料を作製した。
【0056】
<真珠光沢顔料分散液2の作製>
水に真珠光沢顔料(日本光研工業(株)製、ME−100R)を添加し予備分散液を作製した後、700rpmで5分間プロペラ撹拌して、固形分濃度25%の真珠光沢顔料分散液2を作製した。
【0057】
(実施例3)
実施例1の真珠光沢顔料分散液1を下記の真珠光沢顔料分散液3に変えた以外は実施例1と同様にして実施例3のインクジェット記録材料を作製した。
【0058】
<真珠光沢顔料分散液3の作製>
水に真珠光沢顔料(メルク(株)製、Iriodin123 Bright Lustre Satin)を添加し予備分散液を作製した後、700rpmで5分間プロペラ撹拌して、固形分濃度25%の真珠光沢顔料分散液3を作製した。
【0059】
(実施例4)
実施例1において真珠光沢顔料層塗布液1とインク受容層塗布液1をスライドビードコーターで同時重層塗布した以外は実施例1と同様にして実施例4のインクジェット記録材料を作製した。
【0060】
(実施例5)
実施例4において真珠光沢顔料層塗布液1を下記真珠光沢顔料層塗布液2に変更し、真珠光沢顔料層塗布液2とインク受容層塗布液1の乾燥塗布量をそれぞれ8.3g/m、16.7g/mとなるようにスライドビードコーターで同時重層塗布した以外は実施例4と同様にして実施例5のインクジェット記録材料を作製した。
【0061】
<真珠光沢顔料層塗布液2>
気相法シリカ分散液1 (気相法シリカの固形分として)100部
ほう酸 4部
ポリビニルアルコール 23部
(ケン化度88%、平均重合度3500)
真珠光沢顔料分散液1 (真珠光沢顔料の固形分として)26.5部
塗布液の固形分濃度 13.9%
【0062】
(比較例1)
実施例1において、真珠光沢顔料層塗布液1を塗布した後、表面温度が23℃(>湿球温度)である塗膜上に、インク受容層塗布液1をスライドビードコーターで塗布した以外は実施例1と同様にして比較例1のインクジェット記録材料を作製した。
【0063】
(比較例2)
実施例1において、真珠光沢顔料層塗布液1を塗布した後、表面温度が40℃(=乾燥空気温度)である塗膜上に、インク受容層塗布液1をスライドビードコーターで塗布した以外は実施例1と同様にして比較例2のインクジェット記録材料を作製した。
【0064】
(比較例3)
実施例1の真珠光沢顔料層塗布液1及びインク受容層塗布液1に代えて、下記インク受容層塗布液2を乾燥塗布量が25g/mとなるように単層で設けた以外は実施例1と同様にして比較例3のインクジェット記録材料を得た。
【0065】
<インク受容層塗布液2>
気相法シリカ分散液1 (気相法シリカの固形分として)100部
ほう酸 4部
ポリビニルアルコール 23部
(ケン化度88%、平均重合度3500)
真珠光沢顔料分散液1 (真珠光沢顔料の固形分として)7.7部
塗布液の固形分濃度 13.1%
【0066】
得られた各々のインクジェット記録材料について下記の評価を行った。その結果を表1に示す。なお、得られた記録材料はいずれも十分な真珠光沢を有していた。
【0067】
<インク吸収性>
インクジェットプリンター(セイコーエプソン(株)製、G860)でレッド、ブルー、グリーン、ブラックのベタ印字を行い、印字直後にPPC用紙を印字部に重ねて軽く圧着し、PPC用紙に転写したインク量の程度を目視で観察した。下記の基準で評価した。
○:転写しない。
△:わずかに転写するが問題とならないレベル。
×:印字部に転写が観察され、インク吸収性が劣る。
【0068】
<発色性>
市販のインクジェットプリンター(セイコーエプソン(株)製、G860)にて、C、M、Yの混色からなるコンポジットブラックのくすみ具合とC、M、Y各色の発色濃度を目視で観察した。下記の基準で評価した。
○:くすみがなく、発色性が良好。
△:ややくすみが認められるが良好。
×:くすみが認められ、発色性に劣る。
【0069】
<表面平滑性>
白紙のインク受容層面の表面平滑性を下記の基準で評価した。
○:面のフラット感が高く、ざらつきがない。
△:面のフラット感がやや低く、少しざらつきがある。
×:面のフラット感が著しく低く、非常にざらざらしている。
【0070】
【表1】

【0071】
表1から、本発明の製造方法によって得られたインクジェット記録材料は、インク吸収性、発色性に優れ、真珠光沢顔料に起因する表面のざらつきが解消されていることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に真珠光沢顔料を含有する塗布液を塗布し、その塗布した湿潤塗膜が減率乾燥を示す前に、平均二次粒径が500nm以下の無機顔料を主体として含有するインク受容層塗布液を塗布することを特徴とするインクジェット記録材料の製造方法。

【公開番号】特開2011−93234(P2011−93234A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−250534(P2009−250534)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】