説明

インクジェット記録用インク、インクジェット記録方法、及びインクジェット記録用インクの製造方法

【課題】記録物の耐擦過性を低下させることなく、保存安定性が良好であり、また、広範囲な駆動条件で吐出した際に、とりわけサーマルインクジェット方式にも良好で安定した応答性を維持できるインクジェット記録用インクの提供。
【解決手段】水、樹脂により被覆された顔料、及び該顔料を分散する樹脂分散剤を含有するインクジェット記録用インクにおいて、該顔料を被覆している樹脂が、親水性モノマーユニットと疎水性モノマーユニットとから構成され、かつ、該親水性モノマーユニットの構成比率が1mol%以上50mol%以下である水不溶性樹脂であることを特徴とするインクジェット記録用インク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録方法に適し、記録物の印字品質と、記録媒体全般に対しての耐擦過性や耐マーカー性といった画像堅牢性を損なうことなく、保存安定性が良好であるインクジェット記録用インクに関する。さらには、広範囲な駆動条件で吐出した際に、とりわけサーマルインクジェット方式にも良好で安定した応答性を維持できるインクジェット記録用インク、これを用いたインクジェット記録方法、及び該インクジェット記録用インクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、銀塩写真レベルの極めて高品位なインクジェット記録画像に対応するために、単一のノズルから吐出するインクの液滴のサイズが小さくなってきている。現在では、インクの液滴量が約10pl(ピコリットル)以下のインクジェットプリンタが市販されている。また、記録速度に関しても、より一層の高速化を求められてきており、それに伴って吐出時におけるより高い駆動周波数への対応が急務である。
【0003】
さらに、インクジェット記録画像の堅牢性に関してもより一層の向上が望まれており、それに伴いインクの色材として顔料を採用することの検討が活発となってきている。顔料をインクジェット用の水性インクの色材として用いる場合には、水性媒体中に顔料を安定して分散させることが肝要である。一般に顔料を水性媒体中に均一に分散させるためには、分散剤、例えば、水性媒体に顔料を安定に分散させるための親水基と、疎水性である顔料表面に物理的に吸着するための疎水部とを有する樹脂分散剤を用いる方法(特許文献1参照)が採られている。また、酸化反応などにより顔料表面を親水化処理する方法(特許文献2参照)などが採られている。
【0004】
かかる、酸化反応などにより顔料表面を親水化処理する方法を用いて得られた顔料インクは、樹脂分散剤を用いる方法を用いて得られた顔料インクに比べ、普通紙などの記録媒体に印字した場合に、印字濃度の高い記録物が得られる。しかし、その耐擦過性や、蛍光マーカーペンによる耐マーカー性が十分でないことがあり、また、光沢紙に印刷した場合には、光沢性に支障があった。
【0005】
一方、樹脂分散剤を用いる方法を用いて得られた顔料インクを用いると、インク打ち込み量が少ない場合には、耐擦過性や光沢性の比較的良好な画像が得られる場合もある。しかし、前記した親水化処理する方法を用いて得られた顔料インクに比べて、良好な保存安定性や吐出安定性の確保は難しい。
【0006】
これらに関連して、顔料表面を樹脂で被覆処理したインクジェット記録液用顔料の提案がある(特許文献3参照)。この提案を適用したインクを用いた場合においても、記録画像の耐擦過性についてはある程度の効果が得られるものの、前記した親水化処理する方法を用いて得られた顔料インクに比べて良好な保存安定性や吐出安定性の確保は難しい。
【0007】
【特許文献1】特開平9−241564号公報
【特許文献2】特開平8−3498号公報
【特許文献3】特開2001−214089号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、樹脂により被覆された顔料を用いたインクジェット記録用インクに関する。そして、記録物の耐擦過性を低下させることなく、保存安定性が良好であり、さらに、広範囲な駆動条件で吐出した際に、とりわけサーマルインクジェット方式にも良好で安定した応答性を維持できるインクジェット記録用インクを提供することにある。また、本発明は、前記した優れた特性を有するインクジェット記録用インクを用いたインクジェット記録方法、及びインクジェット記録用インクの製造方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的は、以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明の第一は、水、樹脂により被覆された顔料、及び該顔料を分散する樹脂分散剤を含有するインクジェット記録用インクにおいて、該顔料を被覆している樹脂が、親水性モノマーユニットと疎水性モノマーユニットとから構成され、かつ、該親水性モノマーユニットの構成比率が1mol%以上50mol%以下である水不溶性樹脂であることを特徴とするインクジェット記録用インクである。
【0010】
本発明の第二は、インクジェット記録ヘッドを用いて、10pl以下の液滴量でインクを付与して記録を行うインクジェット記録方法において、上記インクが、上記本発明のインクジェット記録用インクであることを特徴とするインクジェット記録方法である。
【0011】
本発明の第三は、水、樹脂により被覆された顔料、該顔料を分散する樹脂分散剤を含有するインクジェット記録用インクの製造方法において、親水性モノマーユニットと疎水性モノマーユニットとから構成され、かつ、該親水性モノマーユニットの構成比率が1mol%以上50mol%以下である水不溶性樹脂を顔料に被覆する工程と、該樹脂が被覆された顔料を樹脂分散剤を用いた転相法により分散する工程とを、少なくとも有することを特徴とするインクジェット記録用インクの製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、インクジェット記録方法に適し、樹脂にて被覆された顔料を、水系媒体中に、樹脂分散剤により高度に分散し、粒子径を制御したインクを提供することができる。すなわち、保存安定性が良好であり、広範囲な駆動条件で吐出した際に、とりわけサーマルインクジェット方式にも良好で安定した応答性を維持できるインクジェット記録用インクを提供することができる。また、本発明によれば、前記した優れた特性を有するインクジェット記録用インクを用いたインクジェット記録方法、及び該インクジェット記録用インクの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、好ましい実施の形態を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。
<インクジェット記録用インク>
本発明のインクジェット記録用インク(以下、単にインクという場合がある)は、水、樹脂により被覆された顔料、及び該顔料を分散する樹脂分散剤を含有するインクである。そして、該顔料を被覆している樹脂が、親水性モノマーユニットと疎水性モノマーユニットとから構成され、かつ、該親水性モノマーユニットの構成比率が1mol%以上50mol%以下である水不溶性樹脂であることを特徴とする。該水不溶性樹脂は、インク中において上記分散剤を吸着する。
【0014】
本発明者らは、前記した特定の樹脂で被覆された顔料を含有させたインクを使用することによって、以下の効果が得られることを見出し、本発明に到った。すなわち、記録物の印字品質、及び記録媒体全般に対しての耐擦過性や耐マーカー性といった画像堅牢性を損なうことなく、優れた保存安定性や吐出安定性が得られることを見出した。さらに、吐出安定性に関しては、広範囲な駆動条件で吐出した際、とりわけサーマルインクジェット方式にも良好で安定した応答性を維持できることを見出した。以下、本発明のインクの構成について詳細に説明する。
【0015】
〔樹脂により被覆された顔料〕
本発明に用いる、樹脂により被覆された顔料(以下、被覆顔料という場合がある)は、顔料そのものと、顔料を被覆している樹脂(以下、被覆樹脂という場合がある)とから構成されるが、先ずは、顔料について説明する。本発明において、顔料は、有機顔料及び無機顔料のいずれでもよく、好ましくは黒色顔料と、シアン、マゼンタ、イエローの3原色顔料を用いることができる。なお、上記した以外の色顔料、無色又は淡色の顔料、又は金属光沢顔料などを使用してもよい。また、本発明において、市販の顔料を用いてもよいし、或いは新規に合成した顔料を用いてもよい。また、顔料は、染料と併用して用いてもよい。
【0016】
以下に、黒、シアン、マゼンタ、イエローにおいて、市販されている顔料を例示する。
黒色の顔料としては、Raven1060、Raven1080、Raven1170、Raven1200、Raven1250、Raven1255、Raven1500、Raven2000。Raven3500、Raven5250、Raven5750、Raven7000、Raven5000 ULTRAII、Raven1190 ULTRAII(以上、コロンビアン・カーボン社製)。Black Pearls L、MOGUL−L、Regal400R、Regal660R、Regal330R。Monarch 800、Monarch 880、Monarch 900、Monarch 1000、Monarch 1300、Monarch 1400(以上、キャボット社製)。Color Black FW1、Color Black FW2、Color Black FW200、Color Black 18、Color Black S160、Color Black S170。Special Black 4、Special Black 4A、Special Black 6、Printex35、PrintexU、Printex140U、PrintexV、Printex140V(以上、デグッサ社製)。No.25、No.33、No.40、No.47、No.52、No.900、No.2300、MCF−88、MA600、MA7、MA8、MA100(以上、三菱化学社製)などを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0017】
シアン色の顔料としては、C.I.Pigment Blue−1、C.I.Pigment Blue−2、C.I.Pigment Blue−3。C.I.Pigment Blue−15、C.I.Pigment Blue−15:2、C.I.Pigment Blue−15:3、C.I.Pigment Blue−15:4。C.I.Pigment Blue−16、C.I.Pigment Blue−22、C.I.Pigment Blue−60などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0018】
マゼンタ色の顔料としては、C.I.Pigment Red−5、C.I.Pigment Red−7、C.I.Pigment Red−12、C.I.Pigment Red−48、C.I.Pigment Red−48:1。C.I.Pigment Red−57、C.I.Pigment Red−112、C.I.Pigment Red−122、C.I.Pigment Red−123、C.I.Pigment Red−146。C.I.Pigment Red−168、C.I.Pigment Red−184、C.I.Pigment Red−202、C.I.Pigment Red−207などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0019】
イエローの顔料としては、C.I.Pigment Yellow−12、C.I.Pigment Yellow−13、C.I.Pigment Yellow−14、C.I.Pigment Yellow−16。C.I.Pigment Yellow−17、C.I.Pigment Yellow−74、C.I.Pigment Yellow−83、C.I.Pigment Yellow−93、C.I.Pigment Yellow−95。C.I.Pigment Yellow−97、C.I.Pigment Yellow−98、C.I.Pigment Yellow−114。C.I.Pigment Yellow−128、C.I.Pigment Yellow−129、C.I.Pigment Yellow−151、C.I.Pigment Yellow−154などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0020】
次に、上記した顔料とともに、本発明に用いる、樹脂により被覆された顔料を構成する被覆樹脂について説明する。本発明に用いる被覆樹脂は、親水性モノマーユニットと疎水性モノマーユニットとから構成され、かつ、親水性モノマーユニットの構成比率が1mol%以上50mol%以下である水不溶性樹脂であればいずれのものでも使用可能である。そして、この水不溶性樹脂は、後述する、樹脂分散剤を水媒体中で吸着するものである。ここで、この場合の水不溶性樹脂とは、水に対して、溶解度が1g/L以下、かつ、水に対して安定した分散体を形成しない樹脂のことを示す。これに対して、インクの水系溶媒中に溶解可能、又は単独で分散可能な樹脂を用いて顔料の被覆処理を行った場合は、インク中において、顔料を被覆している樹脂が顔料から外れ、インクの吐出安定性及び記録物の耐擦過性に悪影響を与える。本発明において、前記した水不溶性樹脂における親水性モノマーユニットの構成比率は、1mol%以上10mol%以下であることがより好ましい。
【0021】
また、本発明のインクにおいては、前記した被覆樹脂中に、少量の親水性基が含まれていることで、インクの吐出安定性が向上することが、本発明者らの検討によりわかった。この理由としては、以下の通りであると考えられる。すなわち、少量の親水性基の存在により、印字ヘッドのノズル内への、インク構成成分に由来する不溶物の吸着が減少し、インクの吐出安定性が向上したと考えられる。特に、サーマル式インクジェット記録に適用する場合は、加熱ヒーターへの、インク構成成分に由来する不溶物の堆積の減少により、吐出特性がより向上したと考えられる。以上のことから、本発明のインクは、サーマルインクジェット用として、より好適に用いることができる。
【0022】
被覆樹脂を構成する親水性モノマーユニットとしては、カルボキシル基、エチレンオキサイド基、ヒドロキシル基などを有する親水性モノマーユニットが挙げられる。具体的な例でいえば、アクリル酸やメタクリル酸、或いはその無機塩や有機塩などのカルボン酸塩、ポリエチレングリコールマクロモノマー、又はビニルアルコールや2−ヒドロキシエチルメタクリレートなどのモノマーユニットである。ただし、本発明において、親水性モノマーユニットは、これらに限定されない。
【0023】
被覆樹脂を構成する疎水性モノマーユニットとしては、イソブチル基、t−ブチル基、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基などを有する疎水性モノマーユニットが挙げられる。具体的な例でいえば、スチレンやt−ブチルメタクリレートなどのモノマーユニットである。ただし、本発明において、疎水性モノマーユニットは、これらに限定されない。
【0024】
本発明に使用される被覆樹脂の具体例として以下の構造のモノマーユニットの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されるものではない。なお、Phはフェニレン基を、Npはナフチル基を表す。また、以下の構造において、左側が疎水性モノマーユニットの構造を示しており、右側が親水性モノマーユニットの構造を示している。
【0025】

【0026】

【0027】
本発明において、被覆樹脂の重量平均分子量は、500以上500,000以下の範囲であることが好ましい。さらに、好ましくは、1,000以上300,000以下の範囲である。また、被覆樹脂の顔料への被覆量は、被覆する顔料の質量に対して、10質量%以上500質量%以下の範囲であることが好ましい。さらに、好ましくは10質量%以上200質量%以下の範囲である。
【0028】
上述したような、樹脂により被覆された顔料の作製方法としては、樹脂を構成するモノマー或いはオリゴマーを顔料表面に吸着させてから重合する方法である表面重合法。ポリマー溶液中で顔料を分散後、貧溶媒による希釈、pHの変化、溶媒の除去などで顔料表面にポリマーを堆積させる表面堆積法。顔料と樹脂を混練分散する混練分散法などが挙げられる。好ましくは表面堆積法である。さらに好ましくは、先ず、被覆樹脂と顔料を有機溶媒中で混合攪拌し、次いで有機溶媒を除去することで、樹脂により被覆された顔料を得る方法である。また、この場合の、さらに好ましい作製方法としては、有機溶媒中での混合攪拌に遊星式攪拌・脱泡装置を使う方法である。
【0029】
本発明のインクに用いられる被覆顔料の含有量は、インクの全質量に対して、0.1質量%以上50質量%以下が好ましい。被覆顔料の含有量が、0.1質量%未満であると、十分な画像濃度を得られなくなり、50質量%を超えると被覆顔料が凝集し分散できなくなる。さらに好ましい範囲としては、0.5質量%以上30質量%以下の範囲であり、特に好ましくは0.7質量%以上10質量%以下の範囲である。
【0030】
〔樹脂分散剤〕
本発明に用いる、被覆顔料を分散するための樹脂分散剤としては、どのようなものでも使用可能だが、重量平均分子量は1,000以上30,000以下の範囲が好ましい。さらに、好ましくは、3,000以上15,000以下の範囲である。また、樹脂分散剤としては、以下から選ばれた少なくとも2つの単量体(このうち少なくとも1つは親水性単量体)からなるブロック共重合体、或いは、ランダム共重合体、グラフト共重合体、また、これらの塩などが挙げられる。スチレン及びその誘導体、ビニルナフタレン及びその誘導体、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸の脂肪族アルコールエステルなど、アクリル酸及びその誘導体、マレイン酸及びその誘導体、イタコン酸及びその誘導体、フマール酸及びその誘導体。
【0031】
本発明において使用する樹脂分散剤としては、前記した通り、どのようなものでも使用可能だが、下記の構造を有するブロックポリマーを使用することがより好ましい。すなわち、少なくとも1つのブロックセグメントが疎水性で、少なくとも1つのブロックセグメントが親水性である両親媒性ブロック共重合体を使用することがより好ましい。なお、本発明において、親水性とは、水に対する親和性が大きく水に溶解しやすい性質のことであり、疎水性とは、水に対して親和性が小さく水に溶解しにくい性質のことである。
【0032】
本発明におけるブロックポリマーとは、モノマーを重合することによって得られるブロックセグメントが化学的結合により結合した直鎖状、或いは分岐状の高分子化合物を指す。ここでのブロックセグメントは、単一のモノマー由来の繰り返し単位からなるものでもよく、複数のモノマー由来の繰り返し単位を有する構造でもよい。複数のモノマー由来の繰り返し単位を有するブロックセグメントの例としては、ランダム共重合体や徐々に組成比が変化する傾斜型共重合体がある。
【0033】
例えば、親水性ブロックセグメントとしては、カルボン酸、カルボン酸塩、或いは親水性オキシエチレンユニットを多く含む構造、さらにヒドロキシル基などを有する構造などの親水性ユニットを持つ繰り返し単位構造を含有するブロックセグメントが挙げられる。具体的な例でいえば、アクリル酸やメタクリル酸、或いはその無機塩や有機塩などのカルボン酸塩。また、ポリエチレングリコールマクロモノマー、又はビニルアルコールや2−ヒドロキシエチルメタクリレートなどの親水性モノマーで表される繰り返し単位構造を有するブロックセグメントである。ただし、本発明のインクに用いることができるブロックポリマーにおける親水性ブロックセグメントはこれらに限定されない。
【0034】
また、疎水性ブロックセグメントとしては、例えば、イソブチル基、t−ブチル基、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基などの疎水性ユニットを持つ繰り返し単位構造を含有するブロックセグメントが挙げられる。具体的な例でいえば、スチレンやt−ブチルメタクリレートなどの疎水性モノマーを繰り返し単位として有するブロックセグメントであるが、本発明のインクに用いることができるブロックポリマーにおける疎水性ブロックセグメントはこれらに限定されない。
【0035】
また、本発明のインクに樹脂分散剤として好ましく用いることができる両親媒性ブロック共重合体の好ましい形態について述べる。本発明のインクにおいて、両親媒性ブロック共重合体は、疎水性ブロックセグメント、及び親水性ブロックセグメントを含む、2つ以上のブロックセグメントを有している。そして、親水性ブロックセグメント側のポリマー末端に水酸基を有する置換基が結合、或いは水酸基を含有する繰り返し単位構造が結合したものであることが好ましい。前記親水性ブロックセグメント自体が、水酸基を含有する繰り返し単位構造であっても構わないが、ポリマー末端の水酸基を含有する繰り返し単位構造が、自身と異なる親水性ブロックセグメントに結合していることが好ましい。また、疎水性ブロックセグメント側のポリマー末端、及び疎水性ブロックセグメントと親水性ブロックセグメントとの間に他のブロックセグメントが結合していても構わない。
【0036】
また、本発明において、樹脂分散剤は、ポリアルケニルエーテル構造をモノマーユニット構造として含有するブロック共重合体であることが好ましいが、より好ましくは、主鎖構造がポリアルケニルエーテル構造である両親媒性ブロック共重合体である。ビニルエーテル繰り返し単位構造を有することで粘性が低く、分散性の良い樹脂材料を提供できる点で極めて有用である。
【0037】
さらに好ましくは、1つ以上の親水性ブロックセグメント中に、非イオン性親水基、及びイオン性親水基を含有する場合である。非イオン性親水基を有するブロックセグメント、すなわち、非イオン性親水ブロックセグメントを有することで、温度やpHなどの環境変化が起こっても分散安定性が損なわれず、特にサーマルインクジェット方式での吐出性が優れたインクが得られる。
【0038】
本発明のインクにおいて、両親媒性ブロック共重合体の各ブロックセグメントは、単一のモノマー由来の繰り返し単位からなるものでもよく、複数のモノマー由来の繰り返し単位を有する構造でもよい。複数のモノマー由来の繰り返し単位を有するブロックセグメントの例としては、ランダム共重合体や徐々に組成比が変化する傾斜型共重合体がある。また、両親媒性ブロック共重合体は、上述のようなブロックポリマーが他のポリマーにグラフト結合したポリマーであってもよい。
【0039】
また、2つ以上のブロックセグメントを有することで2つ以上の機能を発揮することが可能である。このため、1つのブロックセグメントからなる樹脂化合物に比べより高次で精緻な構造体を形成することも可能である。また、複数のブロックセグメントに似た性質を保持させることにより、その性質をより安定なものとすることも可能である。
【0040】
すなわち、本発明のインクに含まれる、両親媒性ブロック共重合体は、主鎖構造がポリアルケニルエーテル構造であり、3つ以上のブロックセグメントを有するブロックポリマーであることがより好ましい。3つ以上のブロックセグメントを有することでより多くの機能分離が可能となる。
【0041】
前記の本発明のインクに含めることができる両親媒性ブロック共重合体の好ましい例として、疎水性ブロックセグメント(A)と親水性ブロックセグメント(C)の間に、さらに異なる親水性ブロックセグメント(B)を有する構造が挙げられる。さらに、親水性ブロックセグメント(C)側のポリマー末端に、水酸基を有する、置換基或いは繰り返し単位構造(D)が結合した構造が挙げられる。これらの異なる3つのブロックセグメントに水酸基部分Dが結合したABC−Dのうち、以下の構成の両親媒性ブロック共重合体について以下により詳細に説明する。すなわち、Aブロックに疎水性ブロックセグメント、Bブロックに非イオン性親水ブロックセグメント、Cブロックにイオン性親水ブロックセグメントというABC−D型トリブロックポリマーである両親媒性ブロック共重合体について説明する。
【0042】
Aブロックに該当する疎水性ブロックセグメントは、例えば、疎水性の置換基を有する繰り返し単位構造が挙げられる。これは単独重合体であっても構わないが、他の繰り返し単位との共重合体であっても構わない。共重合体の場合、Aブロックセグメント全体として疎水性であれば、親水性繰り返し単位構造との共重合であっても構わない。上記の共重合体としては、例えば、ランダム共重合体やブロック共重合体、さらに傾斜型共重合体などがある。
【0043】
疎水性ブロックセグメントとして、好ましくはポリアルケニルエーテル構造からなる繰り返し単位構造を有するブロックセグメントである。具体的には、下記一般式(1)、又は下記一般式(2)で表されるような繰り返し単位構造が挙げられるが、本発明において、両親媒性ブロック共重合体における疎水性ブロックセグメントはこれらに限定されない。
【0044】

【0045】
一般式(1)中、Aは、置換されていてもよいポリアルケニルエーテル基を表す。該ポリアルケニルエーテル基は、炭素原子数1乃至5までの直鎖状又は分岐状のアルキル基、又はハロゲン原子で置換されていてもよい。
【0046】
Bは、炭素原子数1乃至15までの直鎖状又は分岐状の、置換されていてもよいアルキレン基を表す。該アルキレン基の置換基としては、例えばエチレン、プロピレン、ブチレンなどが挙げられる。
【0047】
mは、0乃至30まで、好ましくは1乃至10までの整数を表す。mが複数のときは、それぞれのBは異なっていてもよい。
【0048】
Dは、単結合又は炭素原子数1乃至10までの直鎖状又は分岐状の、置換されていてもよいアルキレン基を表す。アルキレン基としては、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチレン、へキシレン、へプチレン、オクチレンなどが例として挙げられる。
【0049】
Eは、置換されていてもよい芳香族環、又は置換されていてもよい縮環、又は置換されていてもよい芳香族環が単結合で3つまで結合した構造、又はメチレン基のいずれかを表す。芳香族環の構造としては、例えば、フェニル、ピリジレン、ピリミジル、ナフチル、アントラニル、フェナントラニル、チオフェニル、フラニルなどが挙げられる。
【0050】
1は、炭素原子数1乃至5までの直鎖状、又は分岐状の、置換されていてもよいアルキル基、又は置換されていてもよい芳香族環を表す。芳香族環の構造としては、例えば、フェニル基、ピリジル基、ビフェニル基などが挙げられる。置換基としては、アルキル基、アルコキシ基などが挙げられる。
【0051】
また、該芳香族環又はメチレン基のいずれかにおいてR1に置換されていない水素原子は置換されていてもよい。置換基としては、例えば、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子などが挙げられる。
【0052】

【0053】
一般式(2)中、Aは、置換されていてもよいポリアルケニルエーテル基を表す。ポリアルケニルエーテル基を構成するアルキレン基は、炭素原子数1乃至5までの直鎖状又は分岐状のアルキレン基、又はハロゲン原子で置換されていてもよい。
【0054】
1は、炭素原子数1乃至15までの直鎖状又は分岐状の、置換されていてもよいアルキレン基を表す。該アルキレン基の置換基としては、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレンなどが挙げられる。
【0055】
mは、0乃至30まで、好ましくは1乃至10までの整数を表す。mが複数のときは、それぞれのB1は異なっていてもよい。
【0056】
Jは、炭素原子数3乃至15までの、置換されていてもよい直鎖状、又は分岐状のアルキル基、又は置換されていてもよい芳香族環、置換されていてもよい縮環、置換されていてもよい芳香族環が単結合で3つまで結合した構造のいずれかを表す。アルキル基としては、例えば、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基などが挙げられる。芳香族環の構造としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、ピリジル基、ビフェニル基などが挙げられる。置換基としては、アルキル基、アルコキシ基などが挙げられる。
【0057】
疎水性ブロックセグメントとなる繰り返し単位構造の具体例として、例えば、

などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0058】
また、非イオン性親水ブロックセグメントであるBブロックとしては、例えば、ヒドロキシル基、ポリオキシエチレン鎖などを置換基又は側鎖として有する繰り返し単位構造を含有するブロックセグメントが挙げられる。具体的な例でいえば、ポリビニルアルコールなどのモノマーを繰り返し単位として有するブロックセグメントであるが、好ましくはポリアルケニルエーテル構造からなる繰り返し単位構造を有するブロックセグメントである。具体的には、下記一般式(3)で表されるような繰り返し単位構造が挙げられるが、本発明において、非イオン性親水ブロックセグメントはこれらに限定されない。
【0059】

【0060】
一般式(3)中、Aは、置換されていてもよいポリアルケニルエーテル基を表す。ポリアルケニルエーテル基を構成するアルケニル基は炭素原子数1乃至5までの直鎖状又は分岐状のアルキル基、又はハロゲン原子で置換されていてもよい。
【0061】
B’は、炭素原子数1乃至5までの直鎖状又は分岐状の、置換されていてもよいアルキレン基を表す。好ましくは、炭素原子数1乃至2までの直鎖状アルキレン基である。該アルキレン基の置換基としては、例えば、メチレン、エチレン、プロピレンなどが挙げられる。
【0062】
mは、0乃至30まで、好ましくは、1乃至10までの整数を表す。mが複数のときはそれぞれのB’は異なっていてもよい。
【0063】
D’は、単結合又は炭素原子数1乃至5までの直鎖状又は分岐状の、置換されていてもよいアルキレン基を表す。アルキレン基としては、メチレン、エチレン、プロピレンなどが例として挙げられる。
【0064】
Kは、炭素原子数1乃至3までの、置換されていてもよい直鎖状、又は分岐状のアルキル基、又はヒドロキシル基のいずれかを表す。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基などが挙げられる。
【0065】
一般式(3)で表される繰り返し単位構造は、親水性を示す。したがって、上記の構造は、ユニット単体では、オキシエチレン基やヒドロキシル基のように親水性の場合や、オキシプロピレン基やエチル基、プロピル基のように疎水性の場合が含まれる。この場合は、全体で親水性とならなければならず、例えば、Kがプロピル基の場合(B’O)mがある程度長いオキシエチレン基で、Kがヒドロキシル基の場合は(B’O)mがオキシプロピレン基となる。非イオン性親水ブロックセグメントとなる繰り返し単位構造の具体例として、例えば、

などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0066】
また、イオン性親水ブロックセグメントであるCブロックとしては、例えば、カルボン酸、カルボン酸塩などを有する繰り返し単位構造を含有するブロックセグメントが挙げられる。好ましくは、ポリアルケニルエーテル構造からなる繰り返し単位構造を有するブロックセグメントである。具体的には、下記一般式(4)で表されるような繰り返し単位構造が挙げられるが、本発明において、イオン性親水ブロックセグメントはこれらに限定されない。
【0067】

【0068】
一般式(4)中、Aは、置換されていてもよいポリアルケニルエーテル基を表す。該ポリアルケニルエーテル基は、炭素原子数1乃至5までの直鎖状又は分岐状のアルキル基、又はハロゲン原子で置換されていてもよい。
【0069】
B”は、炭素原子数1乃至15までの直鎖状又は分岐状の、置換されていてもよいアルキレン基を表す。該アルキレン基の置換基としては、例えばエチレン、プロピレン、ブチレンなどが挙げられる。
【0070】
mは、0乃至30まで、好ましくは1乃至10までの整数を表す。mが複数のときはそれぞれのB”は異なっていてもよい。
【0071】
D”は、単結合又は炭素原子数1乃至10までの直鎖状又は分岐状の、置換されていてもよいアルキレン基を表す。アルキレン基としては、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチレン、へキシレン、へプチレン、オクチレンなどが例として挙げられる。
【0072】
E”は、置換されていてもよい芳香族環、又は置換されていてもよい縮環、又は置換されていてもよい芳香族環が単結合で3つまで結合した構造、又はメチレン基のいずれかを表す。芳香族環の構造としては、例えば、フェニル、ピリジレン、ピリミジル、ナフチル、アントラニル、フェナントラニル、チオフェニル、フラニルなどが挙げられる。
【0073】
2は、−COO-Mの構造を表す。Mは、1価又は多価の金属カチオンを表す。Mの具体例としては、例えば、一価の金属カチオンとしては、ナトリウム、カリウム、リチウムなどが、多価の金属カチオンとしては、マグネシウム、カルシウム、ニッケル、鉄などが挙げられる。Mが、多価の金属カチオンの場合には、Mは、アニオンCOO-の2個以上と対イオンを形成している。
【0074】
また、該芳香族環又はメチレン基のいずれかにおいて、R2に置換されていない水素原子は置換されていてもよい。置換基としては、例えば、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子などが挙げられる。好ましくは、カルボン酸基が芳香族炭素と結合した芳香族カルボン酸誘導体をCセグメントの側鎖に有する。
【0075】
イオン性親水性ブロックセグメントとなる繰り返し単位構造の具体例として、例えば、

などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0076】
本発明における両親媒性ブロック共重合体に含有される疎水性ブロックセグメントの含有量は、5質量%以上95質量%以下、好ましくは10質量%以上90質量%以下の範囲である。また、親水性ブロックセグメントの含有量は、5質量%以上95質量%以下、好ましくは10質量%以上90質量%以下の範囲である。
【0077】
前記両親媒性ブロック共重合体が、ABC型トリブロックポリマー化合物である場合、ブロックセグメントABCにおいて、疎水性ブロックセグメントAの含有量は、5質量%以上95質量%以下、好ましくは5質量%以上90質量%以下の範囲である。非イオン性親水ブロックセグメントBの含有量は、5質量%以上95質量%以下、好ましくは10質量%以上90質量%以下の範囲である。イオン性親水ブロックセグメントCの含有量は、1質量%以上90質量%以下、好ましくは1質量%以上80質量%以下の範囲である。
【0078】
また、本発明のインクに用いることができる両親媒性ブロック共重合体の数平均分子量(Mn)は、500以上10,000,000以下であり、好ましく用いられる範囲としては1,000以上1,000,000以下である。10,000,000を超えると、高分子鎖内、高分子鎖間の絡まり合いが多くなりすぎ、溶媒に分散しにくかったりする。500未満である場合、分子量が小さく高分子としての立体効果が出にくかったりする場合がある。各ブロックセグメントの好ましい重合度は、それぞれ、独立して3以上10,000以下である。さらに好ましくは3以上5,000以下である。さらに好ましくは3以上4,000以下である。
【0079】
(ポリマーの合成)
本発明で使用する、被覆樹脂や樹脂分散剤などのポリマー化合物は、主にカチオン重合などの方法で合成することができる。開始剤としては、以下のものが例として挙げられる。塩酸、硫酸、メタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸、過塩素酸などのプロトン酸や、BF3、AlCl3、TiCl4、SnCl4、FeCl3、RAlCl2、R1.5AlCl1.5などのルイス酸とカチオン源の組み合わせ。なお、Rはアルキルを示す。また、カチオン源としては、プロトン酸や水、アルコール、ビニルエーテルとカルボン酸の付加体などが挙げられる。これらの開始剤を重合性化合物(モノマー)と共存させることにより重合反応が進行し、ポリマー化合物を合成することができる。
【0080】
本発明において、さらに好ましく用いられる重合方法について説明する。ポリビニルエーテル構造を含むポリマーの合成法は、多数報告されている(例えば、特開平11−080221号公報)。その中でも、青島らによるリビングカチオン重合による方法(ポリマーブレタン誌15巻、1986年417頁、特開平11−322942号公報、特開平11−322866号公報)が代表的である。リビングカチオン重合でポリマー合成を行うことにより、ホモポリマーや2成分以上のモノマーからなる共重合体、さらにはブロックポリマー、グラフトポリマー、グラジエントポリマーなどの様々なポリマーを長さ(分子量)を正確に揃えて合成することができる。また、他にHI/I2系、HCl/SnCl4系などでリビング重合を行うこともできる。
【0081】
(顔料分散液の調製)
本発明のインクを得るためには、樹脂により被覆された顔料が樹脂分散剤により、後述する水性媒体に分散されてなる分散液を用いることが好ましい。上述したような、樹脂により被覆された顔料が含有された分散液の作製方法としては、以下の方法が挙げられる。分散剤としての樹脂分散剤と、樹脂により被覆された顔料とを水性媒体に添加し、混合撹拌した後、後述の分散手段を用いて分散を行い、必要に応じて、遠心分離処理、ろ過などを行って所望の分散液を得る。また、より好ましい作製方法としては、転相法が挙げられる。中でも樹脂により被覆された顔料と、分散剤としての樹脂分散剤とを含有する混合体を有機溶媒相とし、該有機媒体相に水を注入するか、水中に該有機媒体相を注入する方法が好ましい。前記の分散液中における顔料の粒子径(平均分散粒子径)は、特に限定されるものではないが、粒子径は、好ましくは60nm以上500nm以下、より好ましくは60nm以上200nm以下である。粒子径が500nm以下の顔料を用いることにより、目詰まりの発生を抑制することができ、一層充分な吐出安定性を実現することができる。また、顔料の平均分散粒子径は、光散乱法、電気泳動法、レーザードップラー法などを用いた市販の粒径測定機器により求めることができる。
【0082】
上記した顔料の分散処理の際に使用される分散機は、一般に使用される分散機なら、如何なるものでもよいが、例えば、サンドミル、パールミル、ダイノーミル、ボールミル、ロールミル、ナノマイザー及びホモジナイザーなどが挙げられる。
【0083】
(水性媒体)
本発明にかかるインクは、水を必須成分とするが、インク中の水の含有量は、インク全質量に対して、30質量%以上であることが好ましく、また、95質量%以下であることが好ましい。また、水と水溶性溶剤が併用された水性媒体が使用される場合も多い。水と併用される構成材料としては、例えば、以下のものが挙げられる。メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、n−ペンタノールなどの炭素数1乃至5のアルキルアルコール類。ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのアミド類。アセトン、ジアセトンアルコールなどのケトン又はケトアルコール類。テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類。ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのオキシエチレン又はオキシプロピレン重合体。エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオールなどのアルキレン基が2乃至6個の炭素原子を含むアルキレングリコール類。1,2,6−ヘキサントリオール、グリセリン、トリメチロールプロパンなどのトリオール類。エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル、ブチル)エーテルなどのグリコールの低級アルキルエーテル類。トリエチレングリコールジメチル(又はエチル)エーテル、テトラエチレングリコールジメチル(又はエチル)エーテルなどの多価アルコールの低級ジアルキルエーテル類。モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアルカノールアミン類。スルホラン、N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、尿素、エチレン尿素、ビスヒドロキシエチルスルフォン、ジグリセリン、トリグリセリンなど。勿論、これらに限定されるものではない。特に良好なものとしては、エチレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、ポリエチレングリコール、エチレン尿素、トリメチロールプロパンが挙げられる。水と併用される水溶性溶剤の種類や含有量は、特に限定されないが、インク全量に対して、例えば、3質量%以上であることが好ましく、また、60質量%以下であることが好ましい。
【0084】
(界面活性剤)
本発明にかかるインクにおいて、よりバランスのよい吐出安定性を得るためには、インク中に界面活性剤をさらに含有させることが好ましい。中でも、ノニオン系界面活性剤を併用することが好適である。ノニオン系界面活性剤の中でも、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物が特に好ましい。これらのノニオン系界面活性剤のHLB(Hydrophile−Lipophile Balance)値は、10以上である。こうして併用される界面活性剤の含有量は、インク全量に対して、0.01質量%以上5質量%以下、好ましくは0.05質量%以上4質量%以下、より好ましくは0.1質量%以上3質量%以下である。
【0085】
(その他の添加剤)
また、本発明にかかるインクには、所望の物性値を有するインクとするために、上記した成分の他に必要に応じて、添加剤として、粘度調整剤、消泡剤、防腐剤、防カビ剤、酸化防止剤などを添加することができる。添加剤の選択は、インクの表面張力が25mN/m以上、好ましくは28mN/m以上になるようにすることが好ましい。
【0086】
<インクジェット記録方法>
本発明のインクジェット記録方法は、インクジェット記録ヘッドを用いて、10pl以下の液滴量でインクを付与して記録を行うインクジェット記録方法において、上記インクが、本発明のインクジェット記録用インクであることを特徴とする。
【0087】
<インクジェット記録用インクの製造方法>
本発明のインクジェット記録用インクの製造方法は、水、樹脂により被覆された顔料、該顔料を分散する樹脂分散剤を含有するインクジェット記録用インクの製造方法である。そして、以下の工程を少なくとも有することを特徴とする。すなわち、親水性モノマーユニットと疎水性モノマーユニットとから構成され、かつ、該親水性モノマーユニットの構成比率が1mol%以上50mol%以下である水不溶性樹脂を顔料に被覆する工程である。さらに該樹脂が被覆された顔料を樹脂分散剤を用いた転相法により分散する工程である。
【0088】
<インクジェット記録装置>
次に、本発明に用いることができるインクジェット記録装置について、インクジェットプリンタを具体例として説明する。
本具体例は、サーマル方式のプリンタであるが、本発明のインクは、サーマル方式のプリンタ用インクとしてより効果的である。サーマル方式の場合、駆動源である発熱ヒーター上にインク構成成分に起因する不溶物が堆積され不吐出を引き起こす。この現象は、染料インクの場合は、あまり発生しない現象であるが、顔料インクの場合は、問題となることが多い。しかし、本発明のインクを用いることにより、このような不溶物の堆積に起因する不吐出の問題を効果的に解決することができる。
【0089】
図1は、吐出時に気泡を大気と連通する吐出方式の液体吐出ヘッドとしての液体吐出ヘッド及びこのヘッドを用いる液体吐出装置であるインクジェットプリンタの一例の要部を示す概略斜視図である。図1において、インクジェットプリンタは、ケーシング1008内に長手方向に沿って設けられる記録媒体としての用紙1028を図中に示す矢印Pで示す方向に間欠的に搬送する搬送装置1030を含んで構成されている。また、搬送装置1030による用紙1028の搬送方向Pに略直交する矢印S方向に、ガイド軸1014に沿って略平行に往復運動する記録部1010と、記録部1010を往復運動させる駆動手段としての移動駆動部1006とを含んで構成されている。
【0090】
上記搬送装置1030は、互いに略平行に対向配置されている一対のローラユニット1022a及び1022bと、一対のローラユニット1024a及び1024bと、これらの各ローラユニットを駆動させるための駆動部1020とを備えている。かかる構成により、搬送装置1030の駆動部1020が作動状態とされると、用紙1028が、それぞれのローラユニット1022a及び1022bと、ローラユニット1024a及び1024bにより狭持されて、矢印P方向に間欠送りで搬送されることとなる。移動駆動部1006は、所定の間隔をもって対向配置される回転軸に配されるプーリ1026a、及び、プーリ1026bに巻きかけられるベルト1016を含んで構成されている。また、ローラユニット1022a、及び、ローラユニット1022bに略平行に配置され記録部1010のキャリッジ部材1010aに連結されるベルト1016を、順方向及び逆方向に駆動させるモータ1018を含んで構成されている。
【0091】
モータ1018が作動状態とされてベルト1016が矢印R方向に回転したとき、記録部1010のキャリッジ部材1010aは矢印S方向に所定の移動量だけ移動される。また、モータ1018が作動状態とされてベルト1016が図中に示した矢印R方向とは逆方向に回転したとき、記録部1010のキャリッジ部材1010aは矢印S方向とは反対の方向に所定の移動量だけ移動されることとなる。さらに、移動駆動部1006の一端部には、キャリッジ部材1010aのホームポジションとなる位置に、記録部1010の吐出回復処理を行うための回復ユニット1026が記録部1010のインク吐出口配列に対向して設けられている。
【0092】
記録部1010には、インクジェットカートリッジ(以下、単にカートリッジと記述する場合がある)1012Y、1012M、1012C及び1012Bが、各色ごとにそれぞれ、キャリッジ部材1010aに対して着脱自在に備えられる。この場合の色とは、例えば、イエロー、マゼンタ、シアン及びブラックである。記録部1010は、インクジェットカートリッジ1012Y、1012M、1012C及び1012Bが各色、例えば、イエロー、マゼンタ、シアン及びブラック毎にそれぞれ、キャリッジ部材1010aに対して着脱自在に備えられる。
【0093】
図2は、上述のインクジェット記録装置に搭載可能なインクジェットカートリッジの一例を示す。図示した例におけるインクジェットカートリッジ1012は、シリアルタイプのものであり、インクジェット記録ヘッド100と、インクを収容するインクタンク1001とで主要部が構成されている。
【0094】
インクジェット記録ヘッド100には、インクを吐出するための多数の吐出口832が形成されており、インクは、インクタンク1001から図示しないインク供給通路を介して液体吐出ヘッド100の共通液室(不図示)へと導かれるようになっている。図2に示したインクジェットカートリッジ1012は、インクジェット記録ヘッド100とインクタンク1001とを一体的に形成し、必要に応じてインクタンク1001内に液体を補給できるようにしたものである。また、この液体吐出ヘッド100に対し、インクタンク1001を交換可能に連結した構造を採用するようにしてもよい。なお、インクジェット記録ヘッドを備えたインクジェットカートリッジが記録ユニットである。
【実施例】
【0095】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。なお、文中「部」及び「%」とあるのは、特に断りのない限り質量基準である。また、残部とは全体を100部とし、各成分を差し引いた残りをいう。
【0096】
<被覆樹脂の合成>
(被覆樹脂αの合成)
下記のような疎水性モノマーユニットAと、親水性モノマーユニットBとから構成される被覆樹脂αを、アルミニウム触媒を用いたリビングカチオン重合により、下記に述べる方法で合成した。なお、被覆樹脂αにおける親水性モノマーユニットの構成比率は7mol%であった。
【0097】
(1)疎水性モノマーユニットA:

【0098】
(2)親水性モノマーユニットB:

【0099】
具体的には、先ず、ブロックポリマーの合成に用いる三方活栓を取り付けたガラス容器内を窒素置換した後、窒素ガス雰囲気下、250℃に加熱して吸着水を除去した。その後、系を室温に戻した後、Aユニットである疎水性モノマーユニットとなるモノマー成分5.0mmol、及びBユニットである親水性モノマーユニットとなるモノマー成分のシリルエーテル保護体0.6mmol。さらには、酢酸エチル16mmol、1−イソブトキシエチルアセテート0.05mmol、及びトルエン11mlを加え、反応系を冷却した。系内温度が0℃に達したところで、エチルアルミニウムセスキクロリド(ジエチルアルミニウムクロリドとエチルアルミニウムジクロリドとの等モル混合物)を0.2mmol加え重合した。重合反応の停止は、系内に0.3質量%のアンモニア/メタノール水溶液を加えて行った。反応混合物溶液をジクロロメタンにて希釈し、0.6M塩酸で3回、次いで蒸留水で3回洗浄した。得られた有機相をエバポレーターで濃縮・乾固し、真空乾燥させたものより、目的物である被覆樹脂αを得た。
【0100】
(被覆樹脂βの合成)
下記のような疎水性モノマーユニットAと、親水性モノマーユニットBとから構成される被覆樹脂βを、被覆樹脂αの合成と同様の方法で合成した。なお、被覆樹脂βにおける親水性モノマーユニットの構成比率は13mol%であった。
【0101】
(1)疎水性モノマーユニットA:

【0102】
(2)親水性モノマーユニットB:

【0103】
<樹脂により被覆された顔料の作製>
(被覆顔料Aの作製)
機械的攪拌装置を備えた500mLナスフラスコの中に、被覆樹脂α5g、カーボンブラック顔料10g(製品名Monarch880 キャボット・スペシャル・ケミカルズ製)、テトラヒドロフラン240mLを添加し、よく混合した。次に、ロータリエバポレータを用いて、テトラヒドロフランを留去し、被覆顔料Aを得た。
【0104】
(被覆顔料Bの作製)
被覆樹脂αに代えて被覆樹脂βを使用した以外は、被覆顔料Aの作製と同様の方法で被覆顔料Bを得た。
【0105】
(被覆顔料Cの作製)
被覆樹脂αに代えてスチレンアクリル酸ランダム共重合体(重量平均分子量6万、酸価10mgKOH/g、親水性モノマーユニット6mol%)を使用した以外は、被覆顔料Aの作製と同様の方法で被覆顔料Cを得た。
【0106】
(被覆顔料Dの作製)
被覆樹脂αに代えてエポキシ樹脂「エピコート828」(油化シェルエポキシ社製品、親水性モノマーユニットなし)を被覆樹脂として使用した以外は、被覆顔料Aの作製と同様の方法で被覆顔料Dを得た。
【0107】
(被覆顔料Eの作製)
被覆樹脂αに代えて水系アクリル樹脂「ジョンクリル450」を被覆樹脂として使用した以外は、被覆顔料Aの作製と同様の方法で被覆顔料Eを得た。
【0108】
<被覆樹脂の水不溶性の評価>
上記で得た被覆樹脂1gをそれぞれ水100gの中に入れ、超音波分散器にて良く攪拌し、24時間放置後、目視にて沈殿、又は凝集の状態を確認した。評価基準は下記の通りである。評価結果を表1に示す。
水溶性樹脂:沈殿又は凝集が目視にて確認できない。
水不溶性樹脂:沈殿又は凝集が目視にて確認できる。
【0109】

【0110】
以上の評価結果より、被覆顔料A〜Dに使用した被覆樹脂は水不溶性であることが示された。また、被覆顔料Eに使用した被覆樹脂は水溶性樹脂であることが示された。
【0111】
<樹脂分散剤の合成>
(樹脂分散剤Aの合成)
下記のような繰り返し単位からなるブロックセグメントA、B及びCからなる3元ブロック共重合体である樹脂分散剤Aを、アルミニウム触媒を用いたリビングカチオン重合により、下記に述べる方法で合成した。
【0112】
(1)疎水性ブロックセグメントA:

【0113】
(2)非イオン性親水性ブロックセグメントB:

【0114】
(3)イオン性親水性ブロックセグメントC:

【0115】
具体的には、先ず、ブロックポリマーの合成に用いる三方活栓を取り付けたガラス容器内を窒素置換した後、窒素ガス雰囲気下、250℃に加熱して吸着水を除去した。その後、系を室温に戻した後、Aブロックである疎水性ブロックセグメントを構成する繰り返し単位となるモノマー成分5.0mmol、酢酸エチル16mmol、1−イソブトキシエチルアセテート0.05mmol及びトルエン11mlを加え反応系を冷却した。系内温度が0℃に達したところで、エチルアルミニウムセスキクロリド(ジエチルアルミニウムクロリドとエチルアルミニウムジクロリドとの等モル混合物)を0.2mmol加え重合を開始した。分子量を、時分割に分子ふるいカラムクロマトグラフィー(GPC)を用いてモニタリングし、Aブロックの重合の完了を確認した。
【0116】
次いで、Bブロックである非イオン性親水性ブロックセグメントを構成する前記した繰り返し単位となるモノマーを1.2mmol添加し、重合を続行した。上記と同様に、GPCを用いるモニタリングによって、Bブロックの重合の完了を確認した。その後、これらに、1mmolの上記したCブロックであるイオン性親水性ブロックセグメントを構成する前記した繰り返し単位となるモノマー成分のエチルエステル体のトルエン溶液を添加して、重合を続行した。重合が10ユニット進行した時点で、重合反応を停止した。重合反応の停止は、系内に0.3%のアンモニア/メタノール水溶液を加えて行った。反応混合物溶液をジクロロメタンにて希釈し、0.6M塩酸で3回、次いで蒸留水で3回洗浄した。
【0117】
得られた有機相をエバポレーターで濃縮・乾固したものを真空乾燥させたものを、セルロースの半透膜を用いてメタノール溶媒中透析を繰り返し行い、モノマー性化合物を除去し、目的物であるトリブロックポリマーを得た。化合物の同定は、NMR及びGPCを用いて行った。
【0118】
さらに、上記で得られたトリブロックポリマーを、ジメチルホルムアミドと水酸化ナトリウム水混合溶液中で加水分解し、Cブロック成分が加水分解され、ナトリウム塩化されたトリブロックポリマーを得た。化合物の同定は、NMR及びGPCを用いて行った。さらに、水分散液中で0.1Nの塩酸で中和して、上記Cブロック成分がフリーのカルボン酸になったトリブロックポリマーである樹脂分散剤A
を得た。化合物の同定は、NMR及びGPCを用いて行った。
【0119】
(樹脂分散剤Bの合成)
公知のラジカル重合により、以下のような繰り返し単位を有する2元ランダム共重合体、樹脂分散剤Bを合成した。
(1)疎水性ブロックセグメントA:

【0120】
(3)イオン性親水性ブロックセグメントB:

【0121】
<顔料分散液の調製>
超音波発生装置の槽内に機械的攪拌装置を備えた500mLナスフラスコを入れ、この中に、樹脂分散剤、被覆顔料、テトラヒドロフラン120mLを添加しよく混合した。次に、ブロックポリマーの中和率が100%になるだけのKOHを含むアルカリ水溶液を滴下注入することで転相させた後に、60分間プレミキシングを行い、ナノマイザーYSNM−2000AR(吉田機械興業社製)を用いて、5時間分散を行った。この分散液からロータリエバポレータを用いて、テトラヒドロフランを留去し、濃度調整を行って被覆顔料濃度6%の顔料分散液を得た。
【0122】
<インクの調製>
顔料分散液に、グリセリン、ジエチレングリコール、トリメチロールプロパン、アセチレノールEH(川研ファインケミカル社製)を用いて、以下の組成でインクを調製した。また、pHもKOHを用いて、全てのインクで9.5に調整している。
【0123】
(インクの組成)
・顔料分散液 67部
・ジエチレングリコール 5部
・グリセリン 7部
・トリメチロールプロパン 7部
・アセチレノールEH 0.5部
・イオン交換水 残部
【0124】
〈実施例1〉
被覆顔料として被覆顔料A、樹脂分散剤として樹脂分散剤Aを、それぞれ用いて、上記した方法で、被覆顔料濃度6%、樹脂分散剤濃度4%の顔料分散液を得た。次いで、上記した方法で、インクを調製して、実施例1のインクを得た。
【0125】
〈実施例2〉
被覆顔料として被覆顔料A、樹脂分散剤として樹脂分散剤Bを、それぞれ用いて、上記した方法で、被覆顔料濃度6%、樹脂分散剤濃度4%の顔料分散液を得た。次いで、上記した方法で、インクを調製して実施例2のインクを得た。
【0126】
〈実施例3〉
被覆顔料として被覆顔料B、樹脂分散剤として樹脂分散剤Aを、それぞれ用いて、上記した方法で、被覆顔料濃度6%、樹脂分散剤濃度4%の顔料分散液を得た。次いで、上記した方法で、インクを調製して実施例3のインクを得た。
【0127】
〈実施例4〉
被覆顔料として被覆顔料C、樹脂分散剤として樹脂分散剤Aを、それぞれ用いて、上記した方法で、被覆顔料濃度6%、樹脂分散剤濃度4%の顔料分散液を得た。次いで、上記した方法で、インクを調製して実施例4のインクを得た。
【0128】
〈比較例1〉
被覆顔料として被覆顔料D、樹脂分散剤として樹脂分散剤Bを、それぞれ用いて、上記した方法で、被覆顔料濃度6%、樹脂分散剤濃度4%の顔料分散液を得た。次いで、上記した方法で、インクを調製して比較例1のインクを得た。
【0129】
〈比較例2〉
被覆顔料として被覆顔料E、樹脂分散剤として樹脂分散剤Bを、それぞれ用いて、上記した方法で、被覆顔料濃度6%、樹脂分散剤濃度4%の顔料分散液を得た。次いで、上記した方法で、インクを調製して比較例2のインクを得た。
【0130】
〈比較例3〉
被覆顔料の代わりにカーボンブラック、樹脂分散剤として樹脂分散剤Bを、それぞれ用いて、上記した方法で、被覆顔料濃度6%、樹脂分散剤濃度4%の顔料分散液を得た。次いで、上記した方法で、インクを調製して比較例3のインクを得た。用いたカーボンブラックは、キャボット・スペシャル・ケミカルズ社製の製品名「Monarch880」である。
【0131】
<評価>
(保存安定性)
各インクをテフロン(登録商標)製の容器に入れ密封し、60℃で2ヶ月間保存した。このようにして得られたインクを、インクタンク(BJF900用)に10g注入し、サーマルインクジェット方式プリンタ、キヤノン社製BJF900(吐出液滴量4.5pl)に搭載した。次いで、駆動周波数1kHzで2パス全ベタの条件で印字を行い、プリンタインク流路中のインク詰まりによる印字状況を観察した。なお、印字は、インクタンクを交換し最大3タンク分実施した。評価基準は以下の通りである。評価結果を表2に示した。
A:3タンク使用してもインク吐出不良発生なし。
B:2番目又は3番目のタンク使用中に、インク吐出不良が発生した。
C:1番目のタンク使用中に、インク吐出不良が発生した。
【0132】
(インクジェット吐出性)
各インクをテフロン(登録商標)製の容器に入れ密封し、60℃で2ヶ月間保存した。このようにして得られたインクを、サーマルインクジェット方式プリンタ、キヤノン社製BJF900搭載のインクジェット記録用ヘッドを用いて、吐出させた。吐出は、駆動周波数10kHzにて、駆動電圧を、標準電圧及び標準電圧の1.1倍の2条件で行った。そして、標準電圧の場合における液滴の吐出速度と、標準電圧の1.1倍における液滴の吐出速度とを比較し、その低下率を算出した。評価基準は以下の通りである。評価結果を表2に示した。
S:標準電圧の1.1倍における液滴の吐出速度の低下が10%未満。
A:標準電圧の1.1倍における液滴の吐出速度の低下が10%以上20%以下。
B:標準電圧の1.1倍における液滴の吐出速度の低下が20%を超える。
C:標準電圧の1.1倍の条件において、不吐出となる。
【0133】

【0134】
以上の評価結果より、本発明により、インクジェット記録方法に適し、樹脂にて被覆された顔料を水系媒体中に、樹脂分散剤により高度に分散し、粒子径を制御したインクを提供することができる。すなわち、保存安定性が良好であり、広範囲な駆動条件で吐出した際に、とりわけサーマルインクジェット方式にも良好で安定した応答性を維持できることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0135】
【図1】インクジェットプリンタの要部を示す概略斜視図である。
【図2】液体吐出ヘッドを備えたインクジェットカートリッジの一例を示す概略斜視図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、樹脂により被覆された顔料、及び該顔料を分散する樹脂分散剤を含有するインクジェット記録用インクにおいて、該顔料を被覆している樹脂が、親水性モノマーユニットと疎水性モノマーユニットとから構成され、かつ、該親水性モノマーユニットの構成比率が1mol%以上50mol%以下である水不溶性樹脂であることを特徴とするインクジェット記録用インク。
【請求項2】
親水性モノマーユニットが、ヒドロキシル基、カルボキシル基及びエチレンオキサイド基の少なくともひとつの基を有する請求項1に記載のインクジェット記録用インク。
【請求項3】
樹脂分散剤が、両親媒性ブロック共重合体である請求項1又は2に記載のインクジェット記録用インク。
【請求項4】
樹脂分散剤が、疎水性ブロックセグメント、非イオン性親水性ブロックセグメント、及びイオン性親水性ブロックセグメントが順に並ぶ構造を有するブロック共重合体である請求項1乃至3のいずれか1項に記載のインクジェット記録用インク。
【請求項5】
樹脂分散剤が、ポリアルケニルエーテル構造をモノマーユニット構造として含有するブロック共重合体である請求項1乃至4のいずれか1項に記載のインクジェット記録用インク。
【請求項6】
インクジェット記録ヘッドを用いて、10pl以下の液滴量でインクを付与して記録を行うインクジェット記録方法において、上記インクが、請求項1乃至5のいずれか1項に記載のインクジェット記録用インクであることを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載のインクジェット記録用インクの製造方法において、親水性モノマーユニットと疎水性モノマーユニットとから構成され、かつ、該親水性モノマーユニットの構成比率が1mol%以上50mol%以下である水不溶性樹脂を顔料に被覆する工程と、該樹脂が被覆された顔料を樹脂分散剤を用いた転相法により分散する工程とを、少なくとも有することを特徴とするインクジェット記録用インクの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−174124(P2010−174124A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−17764(P2009−17764)
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】