説明

インクジェット記録用シートの製造方法およびインクジェット記録用シート

【課題】光沢性と、インク吸収性、インク吸収速度、印字濃度、画像均一性(ドットの真円性)、インク受容層の強度を兼ね備え、また、塗工液のハンドリング性も高いインクジェット記録用シートを提供する。
【解決手段】支持体上に、または支持体上に形成された少なくとも1層の下塗り層上に、温度変化により親水性と疎水性を示し、親水性を示す温度領域では塗液が増粘又はゲル化する感温性高分子化合物及び顔料を含有する塗液を、該感温性高分子化合物が疎水性を示す温度領域で塗工して塗液塗被層を形成し、該塗液塗被層を感温性高分子化合物が親水性を示す温度領域まで温度変化させて増粘又はゲル化させ、増粘又はゲル化した塗被層にカチオン性化合物を含有する表面塗工液を塗布・含浸することにより、カチオン性化合物を表面及び/又は内部に有するインク受容層を形成することを特徴とするインクジェット記録用シートの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェット記録用シート、インクジェット記録用シートの製造方法、インクジェット記録物に関する。中でも、光沢性、インク吸収性、インクドットの真円性に優れるインクジェット記録用シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタによる記録は、騒音が少なく、高速記録が可能であり、かつ、多色化が容易なために多方面で利用されている。
インクジェット記録用シートには、インクジェット記録の高速化、多色化に対応するため、高いインク吸収性が求められる。そのため、現在、インクジェット記録用シートとしては、主に、インク吸収性に富むように工夫された上質紙や、表面に多孔性顔料を塗工した塗工紙等が適用されている。
しかし、これら従来のインクジェット記録用シートは、表面光沢の低い、いわゆるマット調のものが主体であり、デジタルカメラで撮影した写真画像等の写真印刷には適さない。そのため、表面光沢の高い、優れた外観を有するインクジェット記録用シートが要望されている。
【0003】
表面光沢を有する記録用紙としては、支持体上に表面光沢に優れたインク受容層を設けた光沢紙がある。
このような光沢紙としては、例えば、樹脂被覆紙、合成紙、フィルム等の非浸透性で高平滑な支持体に微細な顔料と接着剤を主成分とするインク受容層を設けた、写真調の画像を記録可能な「フォト光沢紙」や、透気性支持体に顔料と接着剤を主成分とするインク受容層を設け、該受容層が湿潤状態の間に鏡面ロールに圧接、乾燥して光沢面を写し取った「キャスト光沢紙」が広く知られている。
このような光沢紙にあっては、光沢性とインク吸収性の両立、更には鮮明な画像を得るためにドットの真円性が、重要品質として要求されて来た。
【0004】
これらの品質を得る手段として、本発明者らは、数nmから数十nmの一次粒子からなる2次粒子径が数十nmから数百nmのシリカ微粒子を上記支持体に塗布した空隙を有する受容層を提案し、非浸透性で高平滑な支持体が好ましい事を示した。(特許文献1)
しかし、単に空隙を有する受容層を用いただけでは画像の耐水性が必ずしも十分とは言い難く、本発明者らは、該課題を解決するため、平均粒子径数百nmの微粒シリカにカチオン樹脂を添加し、これを凝集後、粉砕する事によりカチオン樹脂により表面処理した微細なシリカを用いて画像耐水性を改善する方法を提案した。(特許文献2)
一方、さらに従来の銀塩写真の画質に近づけるには、さらなる高濃度化と高光沢化を要求されている。このため、2層以上の積層構造の記録層とし、内側層にゲル法シリカを含み、最外層に1μm以下の微粒子を含む記録体の提案がある。(特許文献3)
【0005】
さらに、インクジェット記録用シートに光沢を付与する方法としては、キャスト法の他に、スーパーカレンダーやグロスカレンダー等のカレンダー装置を用い、圧力や温度をかけたロール間に通紙することで塗工層表面を平滑化する方法が知られている。
しかし、インクジェット記録用シートの場合は、光沢を付与する目的で、高線圧下でカレンダー処理を行うと、光沢は向上するが、塗工層中の空隙が減少し、インクの吸収が遅くなるとともに、吸収容量も低下する。そのため、印字後、インク受容層に吸収されずにインクがあふれ、印字のにじみやベタ部の均一性が低下する等の印字適性の低下が生じてしまう。このことから、カレンダー処理では、インクジェット記録用として必要なインク吸収性を確保できる低線圧条件を選択せざるを得ず、したがって、インクジェット記録用として必要な印字適性と光沢性とをともに有するインクジェット記録用シートを得ることは困難である。
【0006】
なお、最近、ポリビニルアルコール及び/又はポリビニルアルコール誘導体の共存下に重合して得られる、一定の温度(感温点)以下の温度領域では親水性を示し、感温点より高い温度領域では疎水性を示す高分子化合物を含有する高分子エマルジョンと、これを用いて塗工液層を形成した記録媒体が提案されている(例えば、特許文献4参照。)。
【特許文献1】特開平09−286165号公報
【特許文献2】特開平10−181191号公報
【特許文献3】特開2001−277712号公報
【特許文献4】特開2003−40916号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献4の高分子エマルジョンを用いて塗工層を形成した記録媒体は、ある程度のインク吸収性、表面光沢は有している。しかし、現在の、インクジェット記録の高速化、記録画像の高精細化、フルカラー化といった用途の拡大に伴う、さらなる光沢や、高画質、高記録濃度等の高印字適性の要求に応えるには充分ではなく、特にインク吸収量、インク吸収速度、印字濃度の向上が求められている。
本発明は、光沢性と、インク吸収性、印字濃度、画像均一性(ドットの真円性)、インク受容層の強度を兼ね備え、また、塗工液のハンドリング性も高く、しかも環境にも配慮したインクジェット記録用シート、及びインクジェット記録用シートの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたもので、新規のインクジェット記録用シートを提案するものである。得られたインクジェット記録用シートは、光沢性や、印字にじみ等の記録適性や、顔料インクの記録適性にも優れ、かつ印字濃度が高いため印字画像の色彩が鮮やかで、極めて実用性の高いインクジェット記録用シートである。
【0009】
(1)本発明は、支持体上に、または支持体上に形成された少なくとも1層の下塗り層上に、温度変化により親水性と疎水性を示し、親水性を示す温度領域では塗液が増粘又はゲル化する感温性高分子化合物及び顔料を含有する塗液を、該感温性高分子化合物が疎水性を示す温度領域で塗工して塗液塗被層を形成し、該塗液塗被層を感温性高分子化合物が親水性を示す温度領域まで温度変化させて増粘又はゲル化させ、増粘又はゲル化した塗被層にカチオン性化合物を含有する表面塗工液を塗布・含浸することにより、カチオン性化合物を表面及び/又は内部に有するインク受容層を形成することを特徴とするインクジェット記録用シートの製造方法である。
【0010】
(2)支持体又は支持体上に形成された少なくとも1層の下塗り層に、感温性高分子化合物が親水性を示す温度領域の処理液を塗布した後、感温性高分子化合物及び顔料を含有する塗液を塗布する(1)記載のインクジェット記録用シートの製造方法である。
(3)支持体上に下塗り層を有し、該下塗り層中に平均粒子径1〜12μmの顔料を含有する(1)又は(2)記載のインクジェット記録用シートの製造方法である。
(4)上記(1)〜(3)のいずれか1項の記載の製造方法で製造した記載のインクジェット記録用シートである。
【発明の効果】
【0011】
本発明のインクジェット記録用シートの製造方法で製造されたインクジェット記録用シートは、光沢性と、インク吸収性、インク吸収速度、印字濃度、画像均一性(ドットの真円性)、インク受容層の強度を兼ね備え、また、塗工液のハンドリング性も高く、しかも環境にも配慮したインクジェット記録用シートとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
「支持体」
本発明で用いる支持体としては、特に限定されるものではなく、透気性支持体、非透気性支持体が使用できる。
透気性支持体としては、一般の塗工紙に使用される酸性紙、あるいは中性紙等の紙基材が適宜使用される。また透気性を有する樹脂シート類も用いることができる。
【0013】
透気性支持体である紙基材は、木材パルプと必要に応じ含有する顔料を主成分として構成される。木材パルプは、各種化学パルプ、機械パルプ、再生パルプ等を使用することができる。これらのパルプは、紙力、抄紙適性等を調整するために、叩解機により叩解度を調整できる。パルプの叩解度(フリーネス)は特に限定しないが、一般に250〜550ml(CSF:JIS P−8121)程度である。紙送り歯車の傷を軽減するには叩解度を進めるほうが望ましいが、用紙に記録した場合にインク中の水分によって起こる用紙のボコツキや記録画像のにじみは、叩解を進めないほうが良好な結果を得る場合が多い。従ってフリーネスは300〜500ml程度が好ましい。
【0014】
顔料は不透明性等を付与したり、インク吸収性を調整する目的で紙基材に配合される。紙基材に配合される顔料としては、炭酸カルシウム、焼成カオリン、シリカ、ゼオライト、酸化チタン等が挙げられる。特に焼成カオリン、シリカ、ゼオライトは、インク中の溶媒を吸収するため、好適に使用される。
紙の紙力とインク吸収性のバランスから、紙基材中顔料の配合量は1〜20質量%程度が好ましい。
【0015】
紙基材にはさらに、助剤としてサイズ剤、定着剤、紙力増強剤、カチオン化剤、歩留り向上剤、染料、蛍光増白剤等を添加することができる。さらに、抄紙機のサイズプレス工程において、デンプン、ポリビニルアルコール類、カチオン樹脂等を塗布・含浸させ、表面強度、サイズ度等を調整できる。
サイズ度(100g/mの紙として)は1〜250秒程度が好ましい。サイズ度が低いと、塗工時に皺が発生する等操業上問題となる場合があり、高いとインク吸収性が低下したり、印字後のカールやコックリングが著しくなる場合がある。より好ましいサイズ度の範囲は4〜230秒、更に好ましくは30〜210秒である。基材の坪量は、特に限定されないが、20〜400g/m程度である。
【0016】
非透気性支持体としては、樹脂フィルム、不織布等、あるいは樹脂フィルムをコート紙や上質紙等と接着剤を介して貼合せたもの、または紙に樹脂をラミネートしたもの等の樹脂被覆紙が使用される。中でも、樹脂フィルムあるいは樹脂をラミネートした紙を使用することが、耐水性に優れる。
【0017】
樹脂フィルムとしては、熱可塑性樹脂であるポリエステル樹脂、オレフィン樹脂、ナイロン等が例示できる。ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン酢酸ビニル共重合体からなるもの、またはこれらを主成分とするものを例示できる。また、これらの熱可塑性樹脂を1種または2種以上適宜選択して混合して使用でき、他の熱可塑性樹脂としてポリスチレン、アクリル酸エステル共重合体等を混合して使用することもできる。
【0018】
これら熱可塑性樹脂を縦方向および/または横方向に延伸して成形したフィルムも使用できる。この他、この熱可塑性樹脂中に無機質微細粉末を混合してフィルムを形成し、これを例えば1軸延伸処理または2軸延伸処理して紙状の層としてもよい。本発明においては、このようなフィルムを複数層積層して得られた多層フィルムを支持体として使用し、例えば、基材層と両面または片面に紙状の層を設けた2〜3層フィルム、または更にその少なくとも片面の紙状の層上に表面層を形成した3〜5層フィルム等を使用してもよい。このように熱可塑性樹脂を紙状の層としたものは一般に合成紙として知られている。
【0019】
また、樹脂をラミネートした紙としては、熱可塑性樹脂を押出しラミネートした紙が例示でき、熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン樹脂やポリエステル樹脂が例示できる。熱可塑性樹脂中には、二酸化チタンなどの顔料をはじめ、染料や紫外線吸収剤などの助剤を適宜配合することができる。
【0020】
支持体は、その上に形成されるインク受容層、光沢層、必要により形成される下塗り層の形成方法、或いは、使用される用途などに応じて、上記例示の支持体の中から適宜選択使用できる。勿論、蛍光染料、蛍光顔料などにより色目を調節したり、帯電防止層、アンカー層、バリヤー層を付与してもよく、コロナ処理などを施しても構わない。
【0021】
「下塗り層」
本発明は、支持体とインク受容層の間に、下塗り層を形成してもよい。下塗り層は、主にインクジェットプリンターのインク成分中の溶媒を速やかに吸収する層である。下塗り層は、顔料と接着剤を主成分として含有する。下塗り層中の顔料は、カオリン、クレー、焼成クレー、非晶質シリカ(無定形シリカともいう)、合成非晶質シリカ、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、二酸化チタン、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、サチンホワイト、珪酸アルミニウム、アルミナ、コロイダルシリカ、ゼオライト、合成ゼオライト、セピオライト、スメクタイト、合成スメクタイト、珪酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、珪藻土、スチレン系プラスチックピグメント、ハイドロタルサイト、尿素樹脂系プラスチックピグメント、ベンゾグアナミン系プラスチックピグメント等、一般塗工紙製造分野で公知公用の各種顔料を1種もしくはそれ以上を、併用することができる。これらの中でも、インク吸収性の高い無定形シリカ、アルミナ、ゼオライトを主成分として含有させるのが好ましい。
【0022】
これらの顔料の平均粒子径(凝集顔料の場合は凝集粒子径)は1〜12μm程度が好ましく、より好ましくは2〜10μm、である。1μm未満であるとインク吸収速度向上の効果に乏しくなり、12μmを超えて大きいと光沢層を設けた後での平滑性や光沢が不十分となるおそれがある。異なる平均粒子径を併用することも可能である。
なお、インク吸収性を調整したり、下塗り層上に塗工する塗工液の浸透を制御する目的で、副成分として平均粒子径の小さい顔料を配合することができる。この様な顔料としてはコロイダルシリカ、アルミナゾルが挙げられ、特にコロイダルシリカが好ましい。
副成分として配合されるコロイダルシリカ(コロイダルシリカ(a))は、エチレン性不飽和結合を有するモノマーを重合させてなる重合体樹脂(b)と組み合わせて配合されることが好ましい。
すなわち、下塗り層中には、コロイダルシリカ(a)と、エチレン性不飽和結合を有するモノマーを重合させてなる重合体樹脂(b)とを含有させるか、あるいは、コロイダルシリカ(a)と重合体樹脂(b)との複合体(c)を含有させることが好ましい。これにより、表面光沢がより向上する。さらに、その理由は不明であるが、記録体を高光沢仕上げするために、表面層が湿潤状態にある間に、加熱された鏡面仕上げの金属面に圧着、好ましくは圧着・乾燥させる場合、鏡面仕上げの金属面からの離型性が向上する傾向がある。
【0023】
下塗り層の接着剤としては、カゼイン、大豆蛋白、合成蛋白等の蛋白質類、澱粉や酸化澱粉等の各種澱粉類、ポリビニルアルコール、カチオン性ポリビニルアルコール、シリル変性ポリビニルアルコール等の変性ポリビニルアルコールを含むポリビニルアルコール類、カルボキシメチルセルロースやメチルセルロース等のセルロース誘導体、スチレン−ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体の共役ジエン系重合体ラテックス、アクリル系重合体ラテックス、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のビニル系重合体ラテックス、水性ポリウレタン樹脂、水性ポリエステル樹脂等一般に塗工紙用として用いられている従来公知の接着剤が単独、あるいは併用して用いられる。
【0024】
なお、水性ポリウレタン樹脂は、ウレタンエマルジョン、ウレタンラテックス、ポリウレタンラテックス等とも通称されている。また、ポリウレタン樹脂は、ポリイソシアネート化合物と活性水素含有化合物との反応から得られるものである。比較的多数のウレタン結合及び尿素結合を含む高分子化合物である。
【0025】
下塗り層の顔料と接着剤の配合割合は、その種類にもよるが、一般に顔料100質量部に対し接着剤1〜100質量部、好ましくは2〜50質量部の範囲で調節される。
【0026】
その他、一般塗工紙の製造において使用される分散剤、増粘剤、消泡剤、帯電防止剤、防腐剤等の各種助剤が適宜添加される。下塗り層中には、蛍光染料、着色剤を添加することもできる。
【0027】
下塗り層中にはカチオン性化合物を実質的に含有しないことが好ましい。インク受容層の表面にカチオン性化合物を多く配合することにより、印字濃度の高い記録を得ることができる。なお、下塗り層中には、カチオン性界面活性剤等を助剤的に微量添加しても差し支えない。
【0028】
上記材料をもって構成される下塗り層用塗工液は、一般に固形分濃度を5〜50質量%程度に調整し、紙基材上に乾燥質量で2〜60g/m、好ましくは2〜30g/m程度、更に好ましくは4〜20g/m程度になるように塗工する。塗工量が2g/mより少ないと、インク吸収性改良効果が充分に得られなかったり、インク受容層を設けた際に光沢が十分に出ないおそれがあり、一方60g/mより多いと、印字濃度が低下したり、インク受容層の強度が低下し粉落ちや傷が付き易くなる場合がある。
【0029】
下塗り層用塗工液は、ブレードコーター、エアーナイフコーター、ロールコーター、ブラシコーター、チャンプレックスコーター、バーコーター、リップコーター、グラビアコーター、カーテンコーター、スロットダイコーター、スライドコーター等の各種公知公用の塗工装置により塗工、乾燥される。さらに、必要に応じて下塗り層の乾燥後にスーパーキャレンダー、ブラシ掛け等の平滑化処理を施すこともできる。
【0030】
「インク受容層」
本第1発明は、インク受容層の形成方法が特徴的なものとなっている。
すなわち、支持体上に、または支持体上に形成された少なくとも1層の下塗り層上に、温度変化により親水性と疎水性を示し、親水性を示す温度領域では塗液が増粘又はゲル化する感温性高分子化合物と顔料を含有する塗液を、該感温性高分子化合物が疎水性を示す温度領域で塗工し、該感温性高分子化合物が親水性を示す温度領域まで温度変化させて増粘又はゲル化させ、増粘又はゲル化した塗被層にカチオン性化合物を含有する表面塗工液を塗布・含浸することにより、カチオン性化合物を表面及び/又は内部に有するインク受容層を形成する。特に、インクジェット記録用シートのインク受容層面に含有する全カチオン性化合物のうち、75質量%以上が、表面塗工液により付与することが好ましい。
【0031】
温度変化により親水性と疎水性を示し、親水性を示す温度領域では塗液が増粘又はゲル化することを特徴とする感温性高分子化合物と顔料を含有する塗液を塗布し、該感温性高分子化合物が親水性を示す温度領域まで温度変化させて増粘またはゲル化させることにより、塗被層を乾燥する工程でのひび割れの発生を抑制する効果と、塗液の増粘又はゲル化を温度変化のみで行い、増粘剤やゲル化剤、架橋剤等を塗工する必要が無いことで、塗工に伴って発生する塗被層の不均一な膨潤を防いで平滑性を低下させない効果を有するものである。
【0032】
更に、表面塗工液にカチオン性化合物を含有することにより、得られたインクジェット記録用シートは、染料タイプのインクジェットインクで印字を行うと、印字濃度が高いため、印字画像の色彩が鮮やかな画像を得ることができる。この理由は必ずしも定かではないが、カチオン性化合物を表面塗工液で塗布・含浸、好ましくはインク受容層面側の全カチオン性化合物の75質量%以上を表面塗工液に含有させることにより、インクジェット記録用シートのインクを受ける側の表面付近に多量のカチオン性化合物が存在し、表面側から厚み方向に向かって徐々に濃度が低くなるように層内に存在させることができ、染料タイプのインクジェットインクで印字を行なった際、供給されたインク染料の大部分がインク受容層表面付近で保持されるものと思われる。
また、カチオン性化合物によっては、カチオン性化合物をインク受容層用の塗液に配合するよりも、表面塗工液に配合する方が、インク受容層のインク吸収性が向上する。おそらく、カチオン性化合物の種類によっては、インク受容層の増粘又はゲル化に悪影響を及ぼすことがあり、インク受容層の空隙が低下しているものと考えられる。更に、一旦表面を表面塗工液で湿潤されるためか、表面の光沢性が得られる傾向にある。
【0033】
なお、表面塗工液に含有されるカチオン性化合物の量が、インクジェット記録用シートのインク受容層面に含まれるカチオン性化合物の75質量%以上となることが好ましい。表面処理液に含有されるカチオン性化合物の量が少なくなると、染料タイプのインクジェットインクで印字を行なった際に供給されたインク染料の大部分を層表面付近で保持できなくなるためか、印字濃度が低下する傾向にある。
【0034】
このような構成を採用することにより、光沢性に優れ、染料インクに対する印字濃度が高く、印字にじみを防ぎ、ドットの真円性に優れ、更に顔料インク記録適性にも優れるインクジェット記録用シートとなる。
【0035】
次に、インク受容層の構成成分などについて説明する。インク受容層の成分としては、感温性高分子化合物を必須成分とし、更に、インク吸収を担う顔料、必要に応じて接着剤等を用いることができる。
【0036】
「感温性高分子化合物」
感温性高分子化合物としては、(1)感温点(親疎水性が変化する温度)未満の温度域では親水性、感温点以上の温度で疎水性を呈するもの、逆に(2)感温点以下の温度域で疎水性、感温点より高い温度域で親水性を呈するものが挙げられる。ゲル化剤や架橋剤を用いないで、温度変化により増粘又はゲル化が行なわれるため、ゲル化等が均一となり、得られるインク受容層の光沢性や平滑性が向上し、染料インクタイプのインクジェットプリンターで印字した際の濃度が向上する。
【0037】
(1)のタイプでは、感温点以上の温度に調整した塗工液を塗工後、感温点未満に冷却することで、塗被層を増粘又はゲル化することができる。(2)のタイプでは、逆に、感温点以下の温度に調整した塗工液を塗工後、感温点より高い温度に加熱することで、塗被層を増粘又はゲル化することができる。
(2)のタイプでは、温度を上げて増粘又はゲル化する際に、水分が蒸発するので、表面塗工液付与時の塗被層の水分量を制御することが相対的に難しい。したがって、本発明では、塗工後、温度を下げることで、塗被層を増粘又はゲル化できる(1)のタイプが特に好適である。以下、このタイプについて言及する。
【0038】
感温性高分子化合物における親疎水性の変化は、例えば、感温性高分子化合物と水とが共存する系において、温度変化に伴う、粘度や透明性、感温性高分子化合物の水に対する溶解性等の急激な変化として現れる。
したがって、感温点未満の温度域では親水性、感温点以上の温度で疎水性を呈するタイプでは、感温性高分子化合物と水とが共存する系の温度を、感温性高分子化合物が疎水性を示す温度域(感温点以上の温度)から徐々に降下させたときの温度−粘度曲線において、粘度が急激に変化(増粘)する転移点を感温点として測定することができる。
その他、感温性高分子化合物が疎水性を示す温度域(感温点以上の温度)において得られる感温性高分子化合物の水分散液を徐々に冷却したときに、該分散液が透明化あるいはゲル化し始める温度を、感温点として測定することもできる。
感温性高分子化合物は、感温点を挟んで疎水性から親水性の変化は、可逆的な変化であっても、不可逆的な変化であっても構わない。しかし、感温性高分子化合物と水を含む系に、シリカなどの顔料が存在する場合、その変化は不可逆的に行なわれ、感温点を以上の疎水性を示す温度領域で塗工した塗液層が、冷却後は、親水性を示し、増粘又はゲル化した層となり、この層を再度加熱しても、疎水性に戻らないので、通常の乾燥方法が採用できる。
【0039】
感温性高分子化合物の感温点は特に限定しないが、0〜30℃、特に10〜25℃が好ましい。感温点が0℃以上であれば、塗被層を比較的容易に感温点未満とすることができ、増粘又はゲル化の効率が良好となる。なお、感温点未満とするのに長時間を要すると、その間に塗工液が下塗り層や透気性支持体に浸透し、良好な光沢層が形成されず、光沢性が低下する恐れがある。また、感温点が30℃以上では、塗工時の温度管理が困難となり、塗工と同時に増粘又はゲル化するなど、均一塗工や、増粘又はゲル化の制御等が困難となる。
【0040】
用いて好適な感温性高分子化合物としては、特開2003−40916号公報に開示されている、ポリビニルアルコール及び/又はその誘導体の存在下に重合して得られる感温性高分子化合物が挙げられる。
具体的には、ポリビニルアルコール及び/又はその誘導体の存在下で、単独重合によって温度応答性(親疎水性の変化)を呈する高分子化合物が得られるモノマー(主モノマー(M))、及び必要に応じてこれと共重合可能で、単独重合によっては温度応答性を呈する高分子化合物が得られないモノマー(副モノマー(N))を重合して得られる高分子化合物が挙げられる。
ポリビニルアルコール及び/又はその誘導体、主モノマー(M)、副モノマー(N)は、各々1種あるいは2種以上用いることができる。
【0041】
ポリビニルアルコールとしては、ケン化度96〜100%のポリビニルアルコール(完全ケン化型ポリビニルアルコール)、ケン化度76〜95%のポリビニルアルコール(部分ケン化型ポリビニルアルコール)等が挙げられる。ポリビニルアルコール誘導体としては、シラノール変性やカチオン変性等の変性ポリビニルアルコール、メルカプト基やケト基を導入したポリビニルアルコール等が挙げられる。これらの重合度は特に限定されないが、300〜4000のものが好ましく用いられる。
感温性高分子化合物中のポリビニルアルコール及び/又はその誘導体の含有率は特に制限はないが、光沢層の耐水性の観点から、0.1〜50質量%、特に0.5〜20質量%が好ましい。
【0042】
主モノマー(M)としては、N−アルキル又はN−アルキレン置換(メタ)アクリルアミド誘導体、ビニルメチルエーテル等が挙げられる。
具体的には、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−シクロプロピル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−n−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−メチル−N−n−プロピルアクリルアミド、N−メチル−N−イソプロピルアクリルアミド、N−(メタ)アクリロイルピロリジン、N−(メタ)アクリロイルピペリジン、N−テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリルアミド、N−メトキシプロピル(メタ)アクリルアミド、N−エトキシプロピル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロポキシプロピル(メタ)アクリルアミド、N−エトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−(2,2−ジメトキシエチル)−N−メチルアクリルアミド、N−メトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−(メタ)アクリロイルモルホリン等が挙げられる。
【0043】
副モノマー(N)としては、親油性ビニル化合物、親水性ビニル化合物、イオン性ビニル化合物等が挙げられる。
ここで、親油性ビニル化合物としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、グリシジルメタクリレート、スチレン、α−メチルスチレン、エチレン、イソプレン、ブタジエン、酢酸ビニル、塩化ビニル等が挙げられる。
親水性ビニル化合物としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、メチレンビスアクリルアミド、2−メチル−5−ビニルピリジン、N−ビニル−2−ピロリドン、N−アクリロイルピロリジン等が挙げられる。
イオン性ビニル化合物としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、クロトン酸、ブテントリカルボン酸、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノメチル等のカルボン酸基含有モノマー、2−アクリルアミド−2−メチル−プロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、(メタ)アクリルスルホン酸等のスルホン酸基含有モノマー、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有モノマー等が挙げられる。
【0044】
主モノマー(M)と必要に応じて用いられる副モノマー(N)の共重合割合は特に制限はないが、副モノマー(N)の割合が多すぎれば、温度応答性を示さなくなるので、感温性高分子化合物中における副モノマー(N)の割合は50質量%以下、特に30質量%以下が好ましい。
【0045】
感温性高分子化合物は、高分子エマルジョンの形態で光沢層用塗工液に配合することが好ましい。かかる高分子エマルジョンは、例えば旭化成(株)社から、ALB−221、ALB−244等の商品名で市販されている。また、調製して用いることもできる。上記高分子エマルジョンは、特開2003−040916号公報に記載の方法にて調製できる。すなわち、感温性高分子化合物の感温点以上の温度下で、ポリビニルアルコール及び/又はその誘導体の存在下、上述したモノマーを用いて重合反応を行うことで調製できる。より具体的には、水に乳化剤を溶解し、ポリビニルアルコール及び/又はその誘導体と主モノマー(M)、必要に応じて副モノマー(N)、ラジカル重合開始剤を加えて乳化重合する方法等が挙げられる。モノマーやラジカル重合開始剤は、一括添加、連続添加、あるいは分割添加することができる。
【0046】
この高分子エマルジョンと、顔料等の他の成分を混合することで、インク受容層用の塗工液が調製できる。
塗工液の溶媒としては水が好適に用いられるが、感温性高分子化合物の感温点の調整や、キャスト仕上げ時の乾燥を遅くして、印刷適性の良好なインク受容層を得る等の理由から、水の代わりに有機溶媒を用いたり、水と有機溶媒を併用することもできる。
インク受容層用塗工液は、調製後塗工するまでの間、感温点以上の温度に保持されていることが好ましい。
【0047】
「顔料」
インク受容層を構成する顔料としては、特に制限はないが、カオリン、クレー、焼成クレー、非晶質シリカ(無定形シリカ)、合成非晶質シリカ、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化チタン、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、サチンホワイト、珪酸アルミニウム、アルミナ、コロイダルシリカ、ゼオライト、合成ゼオライト、セピオライト、スメクタイト、合成スメクタイト、珪酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、珪藻土、スチレン系プラスチックピグメント、ハイドロタルサイト、尿素樹脂系プラスチックピグメント、ベンゾグアナミン系プラスチックピグメント等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を用いることができる。
【0048】
顔料の平均粒子径は特に制限はないが、平均粒子径10〜1000nmの微細顔料が好ましく用いられる。1000nmより大きいとインク受容層の透明度が低下して、印字濃度が低下したり、光沢度が低下する。一方10nmより小さいとインク吸収性が不足してニジミが発生することがある。かかる平均粒子径の顔料を用いることで、良好なインク吸収性を発現させつつ、インク受容層の透明性の低下や、これに起因する印刷時の発色性の低下(すなわち印刷濃度の低下)を抑制できる。
【0049】
微細顔料としては、気相法シリカ、メソポーラスシリカ、活性ケイ酸を縮合させて製造された湿式法シリカのコロイド状物、アルミナ酸化物、及びアルミナ水和物から選ばれる少なくとも1種、特に気相法シリカ及び/又はアルミナ酸化物が好ましく用いられる。
【0050】
なお、本明細書において、顔料の「平均粒子径」は、顔料の形態(粉体やスラリー状)に関係なく、3%の顔料水分散液を200g調整し、これを市販のホモミキサーで攪拌分散した後(分散条件は1000rpm、30分間とする。)、直ちに電子顕微鏡(SEM及び/又はTEM)にて観察し、1万〜40万倍の電子顕微鏡写真を撮像し、5cm四方中の粒子のマーチン径を測定し、これを平均して求めるものとする(「微粒子ハンドブック」、朝倉書店、p52、1991年参照)。
【0051】
気相法シリカは、フュームドシリカとも呼ばれ、一般的には火炎加水分解法によって作られる。具体的には四塩化珪素を水素及び酸素と共に燃焼して作る方法が一般的に知られているが、四塩化珪素の代わりにメチルトリクロロシランやトリクロロシランなどのシラン類も、単独または四塩化珪素と混合した状態で使用することが出来る。
メソポーラスシリカは、1.5〜100nmに平均細孔径を有するシリカ多孔体である。また、アルミニウム、チタン、バナジウム、ホウ素、マンガン原子等を導入したメソポーラスシリカも使用できる。多孔体の物性としては特に限定されないが、BET比表面積(窒素吸着比表面積)は200〜1500m/gが好ましく、細孔容積としては0.5〜4ml/gが好ましい。
また、コロイド状に分散したシリカシード液にアルカリを添加したのち、該シード液に対し活性珪酸水溶液及びアルコキシシランから選ばれる少なくとも1種類からなるフィード液を少量ずつ添加してシリカ微粒子を成長させて得る2次シリカ分散体は、特開2001−354408号公報などに記載されている方法で得ることが可能である。
【0052】
アルミナは、一般的に結晶性を有する酸化アルミニウムとも呼ばれる。一般的に、χ、κ、γ、δ、θ、η、ρ、擬γ、α結晶を有するアルミナが挙げられる。光沢感やインク吸収性から、気相法アルミナ、γ、δ、θ結晶を有するアルミナが好ましく選択される。粒度分布がシャープで、成膜性が特に優れる気相法アルミナ(フュームドアルミナ)は特に好ましい。気相法アルミナは、ガス状アルミニウムトリクロライドの高温加水分解によって形成される。
また、アルミナ水和物は特に限定するものではないが、インク吸収性や成膜性の観点からベーマイト又は擬ベーマイトが好ましく選択される。アルミナ水和物の製造方法は例えばアルミニウムイソプロポキシドを水で加水分解する方法(B.E.Yoldas,Amer.Ceram.Soc.Bull.,54,289(1975)など)やアルミニウムアルコキシドを加水分解する方法(特開平06−064918号公報)などが挙げられる。
【0053】
「接着剤」
インク受容層には、上記感温性高分子化合物が接着剤の作用を有するが、インク受容層強度やインク吸収性などを調節するために、公知の接着剤を適宜配合できる。例えば、カゼイン、大豆蛋白、合成蛋白等の蛋白質類、澱粉や酸化澱粉等の各種澱粉類、ポリビニルアルコール、カチオン性ポリビニルアルコール、シリル変性ポリビニルアルコール等の変性ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコール類、カルボキシメチルセルロースやメチルセルロース等のセルロース誘導体、スチレン−ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体の共役ジエン系重合体ラテックス、アクリル系重合体ラテックス、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のビニル系重合体ラテックス、水性ポリウレタン樹脂、水性ポリエステル樹脂等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を用いることができる。なお、水性ポリウレタン樹脂は、ポリウレタンエマルジョン、ポリウレタンラテックス等の形態で好適に用いられる。
【0054】
顔料と接着剤(感温性高分子化合物を含めた量)の配合比はこれらの組み合わせに応じて設定され、特に制限はないが、顔料100質量部に対し、接着剤を1〜100質量部、特に2〜50質量部とすることが好ましい。
【0055】
「インク受容層用塗液」
本発明のインク受容層は、上記感温性高分子化合物及び顔料を含有し、必要に応じて接着剤を有する塗液を、感温性高分子化合物が疎水性を示す温度領域で塗工するが、この塗液には、カチオン性化合物を配合することができる。カチオン性化合物は、インク中の着色剤(染料及び/又は着色顔料)成分を定着する成分で、印刷の発色性や保存性を向上するために必要に応じて用いられる。
【0056】
カチオン性化合物としては、(1)ポリエチレンポリアミンやポリプロピレンポリアミン等のポリアルキレンポリアミン類又はその誘導体、(2)第2級又は第3級アミノ基や第4級アンモニウム基を有するアクリル重合体や、それらのアクリルアミドの共重合体、(3)ポリビニルアミン及びポリビニルアミジン類、(4)ジシアンジアミド・ホルマリン共重合体に代表されるジシアン系カチオン性化合物、(5)ジシアンジアミド・ポリエチレンアミン共重合体に代表されるポリアミン系カチオン性化合物、(6)エピクロルヒドリン・ジメチルアミン共重合体、(7)ジアリルジメチルアンモニウム−SO重縮合体、(8)ジアリルアミン塩・SO重縮合体、(9)ジアリルジメチルアンモニウムクロライド重合体、(10)ジアリルジメチルアンモニウムクロライド−アクリルアミド共重合体、(11)アリルアミン塩の共重合体、(12)ジアルキルアミノエチル(メタ)アクリレート4級塩共重合体、(13)アクリルアミド・ジアリルアミン共重合体、(14)5員環アミジン構造を有するカチオン性樹脂、(15)ジメチルアミノプロピルアクリルアミド重合体等が挙げられる。これらは1種又は2種以上用いることができる。
【0057】
中でも、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド重合体、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド−アクリルアミド共重合体、アクリルアミド・ジアリルアミン共重合体の塩酸塩、ジシアンジアミド−ポリエチレンアミン共重合体、及び5員環アミジン構造を有するカチオン性樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種を使用することが、発色性に優れ、にじみが少なく、発色ムラのない優れた印刷が得られるので好ましい。
【0058】
本発明は、後で述べる表面塗工液にカチオン性化合物を配合するため、インク受容層用塗液に配合するカチオン性化合物は、全インク受容層中のカチオン性会合物のうち、25質量%以下にとどめることが好ましい。なお、配合するカチオン性化合物と、表面塗工液に配合するカチオン性化合物は異なるものを使用することができる。
【0059】
なお、顔料として好適に用いられるシリカは一般にアニオン性を呈するため、カチオン性化合物と凝集体を生成する場合がある。これは特に微細シリカで顕著である。この場合、一般に市販されている非晶質シリカ(数μmの比較的大きな二次粒子径を有する)にカチオン性化合物の少なくとも一部を添加し分散させてから、粉砕微細化する、あるいは微細化したシリカ二次粒子分散体にカチオン性化合物を添加混合し、一旦凝集させた後、再度粉砕する等の手順を採ることが好ましい。これによって、粒径の大きい凝集体の生成を抑制し、顔料を所望の粒径に調整することができる。
このようにして処理した顔料は、カチオン性化合物が一部結合した構造を呈することで安定化しているのか、更にカチオン性化合物を追添しても凝集し難いという特性を有する。以下、かかる顔料を、カチオン性微細顔料と称す。カチオン性微細顔料に用いられる顔料としては、シリカの他、アルミノシリケート等があるが、シリカ、特に気相法シリカが好ましい。
【0060】
カチオン性微細顔料中における顔料カチオン性化合物との質量比は特に制限はないが、顔料100質量部に対して、カチオン性化合物を1〜30質量部、特に3〜20質量部とすることが好ましい。また、インク受容層を構成する全顔料中に占めるカチオン性微細顔料の比率を50質量%以上とすることが、インク受容層の透明性が優れるので好ましい。
【0061】
インク受容層用塗液には、一般の塗工紙の製造において使用される分散剤、増粘剤、消泡剤、帯電防止剤、防腐剤、蛍光増白剤、着色剤等の各種添加剤を添加することができる。またインク受容層用塗液には、表面塗工液の項で後述するような保存性改良材を添加することができ、また好ましい。
【0062】
支持体上、又は必要に応じて設けられる下塗り層上に、上記塗工液を塗工する方法としては、ブレードコーター、エアーナイフコーター、ロールコーター、ブラシコーター、チャンプレックスコーター、バーコーター、リップコーター、グラビアコーター、カーテンコーター、スロットダイコーター、スライドコーター、スプレー等の各種公知公用の塗工装置が使用できる。この中でもエアーナイフコーター、リップコーター、スライドコーター、カーテンコーター、スロットダイコーターが好適に用いられる。これらの塗工装置を用いると、支持体や下塗り層の微少な凹凸の影響を受けにくく均一な厚さで塗被層を形成できるためか、光沢感がより良好になる傾向にある。
【0063】
インク受容層は、複数層形成してもよい。この場合、感温性高分子化合物と顔料を含有する塗液を、多層塗工を行った後に増粘又はゲル化して形成してもよいし、塗工と増粘又はゲル化を繰り返して形成してもよい。それぞれの層で塗料配合が異なっていてもよく、塗工量が異なっていてもよい。
【0064】
塗工量は、特に制限はないが、絶乾質量(複数層形成する場合はその合計)で、1〜50g/m、さらには1〜30g/m、特に1〜15g/mが好ましい。塗工量を1g/m以上とすることで、優れた光沢性とインク吸収性が得られ、50g/m以下とすることで、インク受容層のひび割れが抑制され、インクジェット印刷時のドットの真円性等が良好なものとなる。
【0065】
塗工された塗液層は、未乾燥の状態、あるいは若干乾燥された状態で感温点以下の温度に冷却する。冷却する方法としては特に制限はないが、冷風機、クーリングロール、低温ガスなどを用いて冷却することができる。冷却によって、塗液層が増粘又はゲル化する。
過度の冷却はゲル化の度合いが強固になりすぎ、かえって光沢性を損なう場合があるので、感温点より10℃低い温度〜感温点の範囲内で、冷却することが好ましい。
【0066】
また、塗被層を形成する下地面(透気性支持体あるいは下塗り層の表面)は、冷風をあてたり、感温点未満の温度の処理液を塗布するなどして、あらかじめ感温点未満、特に感温点より10℃以上低い温度に冷却しておくことが好ましい。これによって、塗工後の冷却効率を高めることができる。特に、感温点未満の温度の処理液を下地面に直接塗布する方法が、下地面を速やかに冷却することができ、好ましい。また、塗被層の冷却効率の観点から、処理液が未乾燥のうちにインク受容層用塗工液を塗工することが好ましい。
かかる手順を採用することで、塗工後、塗被層を速やかに増粘又はゲル化させることができ、その結果、インクジェット記録用等としての印刷適性に優れ、顔料インクに対しても良好な印刷適性を呈するインク受容層が形成できる。
【0067】
特に、塗液を塗工する前のシートに、感温点よりも低い処理液(例えば、冷水等)をシートに塗布する方法が、シートの温度を速やかに変化させることができ、最も好ましい。処理液を塗布する際の液の温度は、感温点より10℃以上低いと、光沢層用塗液の温度変化が迅速に行われ、好ましい。この場合、インクジェット記録用シートとしては、均一な記録が行え、顔料インクに対しても優れた記録適性を得ることができる。
【0068】
処理液としては、水や有機溶媒等が用いられ、使用の簡便性の点で水が好ましく用いられる。処理液に、カチオン性化合物や保存性改良剤を添加すると、該成分が支持体や下塗り層に浸透し、耐水性の向上や耐熱湿にじみの向上効果が見られ、好ましい。その他、硼素化合物やジルコニウム化合物等の架橋剤、pH調製剤、界面活性剤、消泡剤、防腐剤等の助剤を添加することもできる。また、感温性高分子化合物の感温点の調整や、キャスト加工時の乾燥を遅くして、印刷適性の良好な光沢層を得るために、有機溶媒を配合又は併用することもできる。
【0069】
なお、(2)の化合物の場合、感温点未満の温度に調節した塗液を塗布した後、感温点以上の温度まで加温することで、塗液塗被層が増粘又はゲル化することになる。このようなの化合物としては、例えば特開平8−244334号公報などに開示されている化合物を例示できる。例えば、熱風機、赤外線ヒーターなど塗工面が加熱できる方法により、温度を上昇させることにより、塗被層が増粘又はゲル化するとよい。
【0070】
「表面塗工液」
表面塗工液は、カチオン性化合物を含有する。インク受容層用塗液を塗工後、塗液塗被層が増粘又はゲル化状態させた塗被層に、表面塗工液を塗布・含浸することにより、塗被層の表面或いは表面の近傍に多くのカチオン性化合物を有するインク受容層を得ることができる。塗布する面である塗被層が、乾燥された状態で表面塗工液を塗布・含浸しても、半乾燥状態(ある程度水分を有する状態)で表面塗工液を塗布・含浸しても、未乾燥状態で表面塗工液・含浸してもよい。乾燥状態で塗工すると、効率よく表面塗工液が塗被層中に含浸でき、また内部にある程度(例えば15%以上)の水分を有する状態で塗工すると、表面塗工液のカチオン性化合物が表面に多く分布することができ、適宜調節することができる。
【0071】
カチオン性化合物の配合量は、好ましくは1〜50質量%、より好ましくは2〜20質量%、更に好ましくは2〜10質量%の範囲で調節される。配合量が1質量%以上とすることで、インクジェット記録用シートのインク受容層面に含有する全カチオン性化合物の75質量%以上を塗布することが容易となる。50質量%以下とすることで、塗布量が多くなりすぎてインク受容層中の空隙をふさぎ、インクの吸収性を悪化させる傾向を抑制できる。
【0072】
カチオン性化合物としては、例えば、カチオン性基として、第1級〜第3級アミノ基、又は第4級アンモニウム塩基を有するカチオン性高分子化合物からなるインク定着剤が好適に用いられる。
この高分子化合物の構成としては、第1級〜第3級アミノ基、又は第4級アンモニウム塩基を有するモノマーの単独重合体や、これらカチオン性基を有する持つモノマーと、これらカチオン性基を持たないモノマーの共重合体、又は上記塩基性基の対イオンを置換した塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、有機酸塩等が挙げられる。
例えば、1)ポリエチレンポリアミンやポリプロピレンポリアミンなどのポリアルキレンポリアミン類又はその誘導体、2)第2級アミノ基、第3級アミノ基や第4級アンモニウム基を有するアクリル重合体、3)ポリビニルアミン及びポリビニルアミジン類、4)ジシアンジアミド・ホルマリン共重合体に代表されるジシアン系カチオン性化合物、5)ジシアンジアミド・ポリエチレンアミン共重合体に代表されるポリアミン系カチオン性化合物、6)エピクロルヒドリン・ジメチルアミン共重合体、7)ジアリルジメチルアンモニウム−SO重縮合体、8)ジアリルアミン塩−SO重縮合体、9)ジアリルジメチルアンモニウムクロライド重合体、10)ジアリルジメチルアンモニウムクロライド−アクリルアミド共重合体、11)アリルアミン塩の共重合体、12)ジアルキルアミノエチル(メタ)アクリレート4級塩共重合体、13)アクリルアミド・ジアリルアミン共重合体、14)5員環アミジン構造を有するカチオン性樹脂等のカチオン性化合物が例示できる。
【0073】
中でも、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド重合体、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド−アクリルアミド共重合体、アクリルアミド・ジアリルアミン共重合体の塩酸塩、ジシアンジアミド−ポリエチレンアミン共重合体及び5員環アミジン構造を有するカチオン性樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種のカチオン性化合物を使用することが、印字濃度が高くなり、にじみが少なく、均一な発色が得られ、鮮明で高精細な画像が得られるので好ましい。これらの高分子化合物の水溶性ポリマーや水溶性ラテックス粒子が、共に好ましく用いられる。
該カチオン性高分子化合物の分子量としては、2000〜400000が好ましい。前記分子量を2000以上とすることで、キャスト加工した際の光沢性が向上する傾向にある。また400000以下とすることで、表面塗工液がしみ込みにくくなり、印字部の耐水性が低下する傾向を抑制できる。
【0074】
一方で、低分子量のカチオン性化合物も使用可能である。低分子量のカチオン性化合物としては、炭素数12以上のカチオン性界面活性剤や、水溶性多価金属塩が挙げられる。カチオン性界面活性剤としては、ステアリン酸アンモニウムクロライド、オレイン酸アンモニウムクロライド等が挙げられる。水溶性多価金属塩としては、塩化アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硫酸亜鉛、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウム、ミョウバン等が使用可能である。
【0075】
これらのインク定着剤は単独もしくは併用されて使用される。特に、高分子量のカチオン性化合物を主として、少量の低分子のカチオン性化合物を併用することで、記録用シートのインクを受ける側の表面付近に多量のインク定着剤が存在し、表面側から厚み方向に向かって徐々に濃度が低くなるように層内に存在させることができやすくなり、好ましい。
【0076】
これらインク定着剤は、主に表面塗工液に配合して塗布されるが、下塗り層やインク受容層の塗工量が多い場合には、表面塗工液中のインク定着剤が下塗り層やインク受容層の内部まで浸透しにくくなり、印字部の耐水性が低下しやすい傾向がある。この場合、下塗り層用塗液やインク受容層用塗液にカチオン性化合物を配合することもできる。下塗り層用塗液やインク受容層用塗液へのカチオン性化合物の配合量は特に限定しないが、インクジェット記録用シートのインク受容層面に含有される全カチオン性化合物の25質量%未満の量とすることが好ましい。
【0077】
表面塗工液を塗工後、成形面に圧接し、成形面を剥離することにより、成形面をインク受容層面に写し取ることができる。平滑な成形面を写し取れば高光沢なインク受容層面が得られ、凹凸面を写し取れば凹凸を有するインク受容層面が得られる。成形面としては、ロールやドラムであっても、フィルムやシートであっても構わない。最も光沢性を高めるためには、クロム鍍金された鏡面ドラムを用いるとよい。
【0078】
成形面に圧接する場合、その成形面よりインク受容層面の剥離をスムーズに行なうため、離型剤を用いることができる。離型剤は、表面塗工液に含有させる方法のほかに、インク受容層用塗工液中に含有させる方法、成形面に塗布する方法等があり、いずれも成形面からの離型性に優れるため好ましく適用でき、これらの方法を適宜組み合わせて採用することもできる。その中でも、表面塗工液に離型剤を含有させる方法は、少ない離型剤の使用量で効果が発現しやすく、特に好ましい。
【0079】
離型剤としては、ステアリルリン酸カリウム等の高級脂肪酸エステル、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド等の高級脂肪酸アミド、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス等のポリオレフィンワックス類、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、オレイン酸カリウム、オレイン酸アンモミウム等の高級脂肪酸アルカリ塩類、レシチン、シリコーンオイル、シリコーンワックス等のシリコーン化合物、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素化合物が挙げられる。
これらの中でも高級脂肪酸アミドを含有すると、成形面などからの離型性を著しく向上させる効果を有し、且つ印字画像のにじみを抑制する効果をも有するため好ましい。特に記録層または表面塗工液にカチオン性化合物を含有する場合、その効果は顕著である。
【0080】
離型剤の配合量は、表面塗工液に含有させる場合は0.05〜20質量%、好ましくは0.1部〜10質量%、より好ましくは0.1〜5質量%の範囲で調節される。記録層に含有させる場合は、顔料100質量部に対し0.1〜50質量部、好ましくは0.3〜30質量部、より好ましくは0.5〜20質量部の範囲で調節される。ここで配合量が少ないと、離型性改善の効果が得られにくく、多いと逆に光沢が低下したり、インクのハジキや記録濃度の低下が生じる場合がある。
【0081】
表面塗工液には、記録像の保存性を改良するために、保存性改良剤を配合することができる。保存性改良剤としては、ポリ塩化アルミニウム等のアルミニウム化合物や、炭酸ジルコニウムアンモニウム、酢酸ジルコニウム等のジルコニウム化合物等の水溶性多価金属塩や、ビス[2−(2−ヒドロキシエチルチオ)エチル]スルホン、2−(フェニルチオ)エタノール等の含イオウ化合物、ベンゾトリアゾールや酸化セリウム等の紫外線吸収剤、ヒンダードアミン化合物等のラジカル捕捉剤、ビタミンC、ビタミンE、ジブチルヒドロキシトルエン、ルチン等の酸化防止剤などが配合できる。中でも、ビス[2−(2−ヒドロキシエチルチオ)エチル]スルホンは、インクジェットプリンターで印字した際の画像の耐光性が向上するため、好ましい。
【0082】
表面塗工液には、助剤として、アルミナ、非晶質シリカ、コロイダルシリカ、クレーや炭酸カルシウム、プラスチックピグメント等の顔料を添加することもできる。例えば、光沢性を高めたり、プリンター走行性を改善したりする等の目的で配合できる。
【0083】
また、表面塗工液には、塗布量の調整などの目的で、必要に応じて、スチレン−ブタジエンラテックス、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体ラテックス等の合成樹脂ラテックスやカゼイン、大豆蛋白、合成蛋白等の蛋白質類、澱粉や酸化澱粉等の各種澱粉類、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースやメチルセルロース等のセルロース誘導体類、ポリカルボン酸、ポリアクリル酸、アクリルエマルジョン、ポリアマイド、ポリエステル、アルカリ増粘型や非イオン界面活性剤等の各種増粘剤や流動変性剤、塩化ナトリウム、塩化アンモニウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウム、第一燐酸ナトリウム、燐酸アンモニウム、ポリリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、蟻酸ナトリウム、蟻酸アンモニウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、モノクロル酢酸ナトリウム、マロン酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム、酒石酸カリウム、クエン酸カリウム、乳酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、アジピン酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、アルミン酸ナトリウム等の無機酸や有機酸のアンモニウム塩や金属塩類、更には、メチルアミン、ジエタノールアミン、ジエチレントリアミン、ジイソプロピルアミン、トリエタノールアミン、エタノールアミン、エタノールアミン等の低分子アミン類、リン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレエーテルリン酸エステル塩、アルキルフェノールエーテルリン酸エステル塩などのリン酸エステル類、ポリオキシエチレン、アルキルエーテル、ポリオキシエチレンやアンモニア水、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテルやアジピン酸ジグリシジルエステル等の多官能性エポキシ化合物、尿素−ホルムアルデヒド系、ポリアミド−エピクロロヒドリン系、グリオキザール等の各種耐水化剤や印刷適正向上剤等の各種添加剤を表面塗工液中に0.05〜10質量%、好ましくは0.1〜5質量%の範囲で添加して調整することも可能である。
【0084】
さらに、表面塗工液には、分散剤、消泡剤、着色剤、蛍光染料、帯電防止剤、防腐剤等の各種助剤も適宜添加される。表面塗工液の塗布は、複数回に分けて塗布してもかまわない。複数回に分けることで、例えば混合すると凝集してしまうような複数の添加物の組み合わせでも表面塗工液として塗布することができる。
【実施例】
【0085】
以下に実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、勿論本発明の範囲はこれらにより限定されるものではない。また、例中の「部」及び「%」は特に断らない限り、それぞれ「質量部」及び「質量%」を示す。
【0086】
〔支持体の作製〕
「基紙の作製」
カナダ標準ろ水度(JIS P8121)が250mlまで叩解した針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)と、カナダ標準ろ水度が280mlまで叩解した広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)とを、重量比2:8の割合で混合し、濃度0.5%のパルプスラリーを調製した。このパルプスラリー中にパルプ絶乾重量に対しカチオン化澱粉2.0%,アルキルケテンダイマー0.4%,アニオン化ポリアクリルアミド樹脂0.1%,ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン樹脂0.7%を添加し、十分に攪はんして分散させた。
上記組成のパルプスラリーを長網マシンで抄紙し、ドライヤー、サイズプレス、マシンカレンダーを通し、坪量180g/m、緊度1.0g/cmの原紙を製造した。上記サイズプレス工程に用いたサイズプレス液は、カルボキシル変性PVAと塩化ナトリウムとを2:1の重量比で混合し、これを水に加えて加熱溶解し、濃度5%に調製した。サイズプレス液を紙の両面の合計で25ml/m塗布して基紙を得た。
【0087】
「支持体の作製」
基紙の両面にコロナ放電処理を施した後、バンバリーミキサーで混合分散した下記のポリオレフィン樹脂組成物1を基紙のフェルト面側に塗工量が27g/mとなるようにして、またポリオレフィン樹脂組成物2(裏面用樹脂組成物)を基紙のワイヤー面側に塗工量が30g/mとなるようにして、T型ダイを有する溶融押し出し機(溶融温度320℃)で塗布し、基紙のフェルト側を鏡面のクーリングロール、ワイヤー側を粗面のクーリングロールで冷却固化して、平滑度(王研式、J.TAPPI No.5)が6000秒、不透明度(JIS P8138)が93%の樹脂被覆した支持体を製造した。
【0088】
(ポリオレフィン樹脂組成物1)
長鎖型低密度ポリエチレン樹脂(密度0.926g/cm、メルトインデックス20g/10分)35質量部、低密度ポリエチレン樹脂(密度0.919g/cm、メルトインデックス2g/10分)50質量部、アナターゼ型二酸化チタン(石原産業社製、商品名:A−220)15質量部、酸化防止剤0.03質量部、群青0.09質量部、蛍光増白剤0.3質量部。
【0089】
(ポリオレフィン樹脂組成物2)
高密度ポリエチレン樹脂(密度0.954g/cm、メルトインデックス20g/10分)65質量部、低密度ポリエチレン樹脂(密度0.924g/cm、メルトインデックス4g/10分)35質量部。
【0090】
(微細顔料の調製)
下記組成、及び特性の微細顔料AおよびBを調製した。
「微細顔料Aの調製」
平均粒子径1.0μmの気層法シリカ(商品名:アエロジルA300、日本アエロジル(株)製、平均1次粒子:約0.008μm)をホモミキサーにより分散した後、平均粒子径が0.15μmになるまで高速流衝突型ホモジナイザーで粉砕分散し、10%の水分散液を調製した。
【0091】
「微細顔料B(カチオン性化合物含有)の調整」
平均粒子径1.0μmの気層法シリカ(商品名:アエロジルA300、日本アエロジル(株)製、平均1次粒子:約0.008μm)をホモミキサーにより分散した後、平均粒子径が0.08μmになるまで高速流衝突型ホモジナイザーで粉砕分散し、10%の水分散液を調製した。
該分散液100部に、5員環アミジン構造を有するカチオン性化合物(商品名:ハイマックスSC−700M、ハイモ(株)製)10部を添加し、高速流衝突型ホモジナイザーで更に分散し、平均粒子径が0.15μmの10%の水分散液を調整した。カチオン性化合物の含有率は全固形分の9.1質量%であった。
【0092】
(下塗り層用塗液の調製)
下記組成、及び特性の下塗り層用塗液A〜Dを調製した。
「下塗り層用塗液Aの調製」
合成非晶質シリカ(商品名:ファインシールX−60、(株)トクヤマ製、平均二次粒子径6.2μm)100部、シリル変性ポリビニルアルコール(商品名:R1130、クラレ(株)製)25部、蛍光染料(商品名:WhitexBPS(H)、住友化学(株)製)2部。固形分濃度15%。
【0093】
「下塗り層用塗液B(カチオン性化合物含有)の調製」
合成非晶質シリカ(商品名:ファインシールX−60、(株)トクヤマ製、平均二次粒子径6.2μm)100部、シリル変性ポリビニルアルコール(商品名:R1130、クラレ(株)製)25部、蛍光染料(商品名:WhitexBPS(H)、住友化学(株)製)2部、5員環アミジン構造を有するカチオン性化合物(商品名:ハイマックスSC−700M、ハイモ(株)製)3部。固形分濃度15%。カチオン性化合物の含有率は全固形分の2.3質量%であった。
【0094】
「下塗り層用塗液C(カチオン性化合物含有)の調製」
合成非晶質シリカ(商品名:ファインシールX−60、(株)トクヤマ製、平均二次粒子径6.2μm)100部、シリル変性ポリビニルアルコール(商品名:R1130、クラレ(株)製)25部、蛍光染料(商品名:WhitexBPS(H)、住友化学(株)製)2部、5員環アミジン構造を有するカチオン性化合物(商品名:ハイマックスSC−700M、ハイモ(株)製)5部。固形分濃度15%。カチオン性化合物の含有率は全固形分の3.8質量%であった。
【0095】
「下塗り層用塗液Dの調製」
前記微細顔料A100部、ポリビニルアルコール(商品名:PVA140、クラレ(株)製)25部、蛍光染料(商品名:WhitexBPS(H)、住友化学(株)製)2部。固形分濃度15%。
【0096】
「下塗り層用塗液Eの調製」
合成非晶質シリカ(商品名:ファインシールX−45、(株)トクヤマ製、平均二次粒子径4.3μm)100部、シリル変性ポリビニルアルコール(商品名:R1130、クラレ(株)製)25部、蛍光染料(商品名:WhitexBPS(H)、住友化学(株)製)2部に、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド重合体を含むカチオン性化合物(商品名:ユニセンスCP−102、センカ(株)製)3部。固形分濃度15%。カチオン性化合物の含有率は全固形分の2.3質量%であった。
【0097】
(インク受容層用塗液の調製)
下記組成、及び特性のインク受容層用塗液A〜Cを調製した。
「インク受容層用塗液A」
前記微細顔料A100部、感温性高分子化合物(ALB−A244、旭化成(株)製、感温点24℃、アニオン性)20部、消泡剤0.1部。固形分濃度10%。なお、各材料を混合する際の温度は40℃であった。
【0098】
「インク受容層用塗液B(カチオン性化合物含有)」
前記微細顔料B(カチオン性化合物含有)100部、感温性高分子化合物(ALB−221、旭化成(株)製、感温点24℃、カチオン性)20部、消泡剤0.1部。固形分濃度10%。なお、各材料を混合する際の温度は40℃であった。カチオン性化合物の含有率は全固形分の7.6質量%であった。
【0099】
「インク受容層用塗液C」
上記微細顔料A100部、ポリビニルアルコール(商品名:PVA145、クラレ(株)製)20部、消泡剤0.1部。固形分濃度10%。
【0100】
(表面塗工液の調製)
下記組成、及び特性の表面塗工液A〜Bを調製した。
「表面塗工液A」
水を表面塗工液Aとした。
【0101】
「表面塗工液B(カチオン性化合物含有)」
5員環アミジン構造を有するカチオン性化合物(商品名:ハイマックスSC−700M、ハイモ(株)製)を4.5%含有する水溶液を調製した。カチオン性化合物の含有率は全固形分の90質量%であった。
【0102】
「表面塗工液C(カチオン性化合物含有)」
アクリルアミド−ジアリルアミン共重合体の塩酸塩を含むカチオン性化合物(商品名:スミレーズレジン1001、住友化学(株)製)を4.5%含有する水溶液を調製した。カチオン性化合物の含有率は全固形分の90質量%であった。
【0103】
「表面塗工液D(カチオン性化合物含有)」
ジアリルジメチルアンモニウムクロライド−アクリルアミド共重合体重合体を含むカチオン性化合物(商品名:PAS−J−81、日東紡(株)製)を4.5%含有する水溶液を調製した。カチオン性化合物の含有率は全固形分の90質量%であった。
【0104】
実施例1
前記支持体上に、前記下塗り層用塗液Aを、乾燥質量で6g/mになるように、エアーナイフコーターで塗工、乾燥し、下塗り層を形成した。
下塗り層に水を塗布し、下塗り層表面の温度を12℃に調整した後、下塗り層上に、前記インク受容層用塗液Aを、塗工液温度25℃で、絶乾質量で4g/mになるようにダイコーターで塗工した。このときの塗被層の水分は22%であった。続いて塗被層に前記表面塗工液B(カチオン性化合物含有)を塗布し、ドライヤーで乾燥し、インクジェット記録用シートを得た。塗布された表面塗工液の絶乾質量は0.5g/mであった。なおカチオン性化合物は、表面塗工液にのみ含有されていた。
【0105】
実施例2
前記下塗り層用塗液B(カチオン性化合物含有)を用いた以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録用シートを得た。塗布された表面塗工液の絶乾質量は0.6g/mであった。カチオン性化合物は、下塗り層用塗液と表面塗工液に含有され、含有率はそれぞれ、20%、80%であった。
【0106】
実施例3
前記下塗り層用塗液E(カチオン性化合物含有)を用いた以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録用シートを得た。塗布された表面塗工液の絶乾質量は1.3g/mであった。カチオン性化合物は、下塗り層用塗液と表面塗工液に含有され、含有率はそれぞれ、30%、70%であった。
【0107】
比較例1
前記インク受容層用塗液B(カチオン性化合物含有)と、前記表面塗工液Aとを用いた以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録用シートを得た。塗布された表面塗工液の絶乾質量は0.1g/mであった。カチオン性化合物は、インク受容層用塗液にのみ含有されていた。
【0108】
比較例2
前記透気性支持体上に、前記下塗り層用塗液Aを、乾燥質量で6g/mになるように、エアーナイフコーターで塗工、乾燥し、下塗り層を形成した。
下塗り層上に、前記インク受容層用塗液Cを絶乾質量で4g/mになるようにダイコーターで塗工した。このときの塗被層の水分は22%であった。続いて塗被層に前記表面塗工液B(カチオン性化合物含有)を塗布し、ドライヤーで乾燥し、インクジェット記録用シートを得た。塗布された表面塗工液の絶乾質量は0.6g/mであった。カチオン性化合物は、表面塗工液にのみ含有されていた。
【0109】
比較例3
前記支持体上に、前記下塗り層用塗液Aを、乾燥質量で6g/mになるように、エアーナイフコーターで塗工、乾燥し、下塗り層を形成した。
下塗り層に水を塗布し、下塗り層表面の温度を21℃に調整した後、下塗り層上に、前記インク受容層用塗液Bを、塗工液温度24℃で、絶乾質量で4g/mになるようにダイコーターで塗工し、冷風機で22℃に冷やした。このときの塗被層の水分は22%であった。この塗被層上に表面塗工液を塗布せずに、そのままインクジェット記録用シートとした。なおカチオン性化合物は、インク受容層用塗液にのみ含有されていた。
【0110】
実施例4
前記支持体上に、前記下塗り層用塗液Aを、乾燥質量で6g/mになるように、エアーナイフコーターで塗工、乾燥し、下塗り層を形成した。
下塗り層に水を塗布し、下塗り層表面の温度を21℃に調整した後、下塗り層上に、前記インク受容層用塗液Aを、塗工液温度25℃で、絶乾質量で4g/mになるようにダイコーターで塗工した。次いで、冷風機で22℃に冷やした後、塗被層の水分が11%になるまで熱風乾燥機で乾燥した。続いて塗被層に前記表面塗工液B(カチオン性化合物含有)を塗布し、ドライヤーで乾燥し、インクジェット記録用シートを得た。塗布された表面塗工液の絶乾質量は0.6g/mであった。カチオン性化合物は、表面塗工液にのみ含有されていた。
【0111】
実施例5
前記下塗り層用塗液Dを、乾燥質量で12g/mになるように、エアーナイフコーターで塗工、乾燥し、下塗り層を形成した以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録用シートを得た。塗布された表面塗工液の絶乾質量は0.6g/mであった。カチオン性化合物は、表面塗工液にのみ含有されていた。
【0112】
実施例6
前記支持体上に、前記下塗り層用塗液Eを、乾燥質量で6g/mになるように、エアーナイフコーターで塗工、乾燥し、下塗り層を形成した。ついで下塗り層上に、前記インク受容層用塗液Aを、塗工液温度25℃で、絶乾質量で4g/mになるようにダイコーターで塗工するとともに、冷風をあてて塗被層を22℃に冷却した、このときの塗被層の水分は18%であった。続いて塗被層に前記表面塗工液B(カチオン性化合物含有)を塗布し、ドライヤーで乾燥し、インクジェット記録用シートを得た。塗布された表面塗工液の絶乾質量は0.8g/mであった。カチオン性化合物は、下塗り層用塗液と表面塗工液に含有され、含有率はそれぞれ、20%、80%であった。
【0113】
実施例7
前記表面塗工液Cを用いた以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録用シートを得た。塗布された表面塗工液の絶乾質量は0.1g/mであった。カチオン性化合物は、インク受容層用塗液にのみ含有されていた。
【0114】
実施例8
前記表面塗工液Dを用いた以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録用シートを得た。塗布された表面塗工液の絶乾質量は0.1g/mであった。カチオン性化合物は、インク受容層用塗液にのみ含有されていた。
【0115】
(評価方法、及び評価基準)
上記実施例、比較例で得られたインクジェット記録用シートについて、光沢性及びインクジェット記録における印字適性を下記の基準で評価した。その結果を表1に示す。また、表1には、各インクジェット記録用シートの、下塗り層用塗液、インク受容層用塗液、表面塗工液のそれぞれのカチオン性化合物の含有率と、インク受容層用塗液の感温性高分子化合物の有無と、表面塗工液塗布前のインク受容層の水分の値とを併記する。
【0116】
「水分の測定」
インク受容層の水分の測定は、赤外線水分計KJT−100((株)ケット科学研究所製)を用いて行った。
【0117】
「光沢性」
光沢シート表面に対し横方向より、光沢感、平滑感を目視により評価した。
◎:極めて高い光沢感がある。
○:高い光沢感がある。
△:光沢感がある。
×:光沢感がやや劣る。
××:光沢が無くマット調。
【0118】
「インクジェット記録特性」
・評価用プリンター
プリンターA:市販の染料インクタイプのインクジェットプリンター(商品名:PM−G800、セイコーエプソン(株)製)
プリンターB:市販の顔料インクタイプのインクジェットプリンター(商品名:PX−G900、セイコーエプソン(株)製)
【0119】
・印字濃度
プリンターA(染料インクタイプ)を用いて黒のベタ印字を行ない、その印字濃度をマクベス反射濃度計(Macbeth RD−914)で測定した。
【0120】
・印字にじみ
プリンターA(染料インクタイプ)を用いて、ブラック、シアン、マゼンダ、イエロー、レッド、グリーン、ブルーの各色ベタを、互いに境界を接するようにマス目状に配置した印字を行ない、各色間の境界部でのインクのにじみを目視にて評価した。
◎:印字のにじみは全く認められず、優れたレベル。
○:印字のにじみがわずかに認められるが実用上問題の無いレベル。
△:印字のにじみがややあり、実用上やや問題となるレベル。
×:印字のにじみが著しく、実用上重大な問題となるレベル。
【0121】
・インクドットの真円性
プリンターA(染料インクタイプ)を用いて、各インク滴が重ならないような、インク密度の低いハーフトーンの印字を行ない、ハーフトーン(10%階調)印字部分を光学顕微鏡にて200倍に拡大して観察し、それぞれのインクドットの形状が真円を示しているかどうかを目視にて評価した。
◎:インクドットの形状が真円であり、非常に良好なレベル。
○:インクドットの形状が円形であり、良好なレベル。
△:インクドットの形状はほぼ円形であるものの一部に形状の乱れが見られ、やや不良なレベル。
×:インクドットの形状が不安定であり、不良なレベル。
【0122】
・顔料インクの記録適性
プリンターB(顔料インクタイプ)を用いて、写真画像(JIS X 9204準拠「高精細カラーディジタル標準画像(XYZ/SCID)データ」、画像の識別記号:N1、画像の名称:グラスと女性)の印字を行ない、印字部の均一性を目視にて評価した。
◎:印字部は均一で印字ムラは認められず、優れたレベル。
○:印字ムラがわずかに認められるが実用上問題の無いレベル。
△:印字ムラがややあり、実用上やや問題となるレベル。
×:印字ムラがあり、実用上重大な問題となるレベル。
【0123】
【表1】

【0124】
実施例1乃至実施例3は、表面塗工液のカチオン性化合物を含有するのに対し、比較例1は表面塗工液にカチオン性化合物を含有しない。実施例1乃至実施例3のインクジェット記録用シートは、全ての評価項目で優れており、且つ印字濃度も高いため印字画像の色彩が鮮やかだった。これに対し、表面塗工液にカチオン性化合物の含有しない比較例1のインクジェット記録用シートは、光沢性や印字濃度が高くないため、印字画像の色彩が鮮やかさで劣っている。
実施例1、2、3のインクジェット記録用シートは、表面塗工液のカチオン性化合物の含有量を異なるものである。表面塗工液によるカチオン性化合物の付与が75%未満の実施例3では、実施例1及び2に比べ印字濃度が高くないため、印字画像の色彩が鮮やかさで、実施例1及び実施例2のインクジェット記録用シート程ではなかった。
感温性高分子化合物を用いなかった比較例2のインクジェット記録用シートは平滑性の高い塗工面を形成できなかったため、印字濃度は実施例1に比べ低めだった。また、インクドットの真円性に劣るため印字画像が鮮明ではなく、顔料インクの記録適性にも劣っていた。
比較例3は、表面塗工液を付与することなく、仕上げたインクジェット記録用シートである。表面塗工液を用いないと、光沢性が得られないことがわかる。
実施例1と実施例4は、表面塗工液塗布前の水分量のみ相違する。表面塗工液塗布前のインク受容層の水分が12質量%以上である実施例1のインクジェット記録用シートが、光沢性に優れることがわかる。
実施例5は、下塗り層の顔料の粒子径を変更した例である。顔料の平均粒子径が1〜12μmである実施例1のインクジェット記録用シートが、印字にじみに優れることがわかる。
実施例6のインクジェット記録用シートは、下塗り層に冷水の塗布がなく冷風で冷却する例である。インク受容層の塗工直後にわずかに下塗り層にしみこむため、塗膜の平滑性が低下して、光沢性がやや劣るが、実施例1の記録用シートに近い品質が得られている。
実施例7〜8は、インク定着剤として使用するカチオン性化合物が実施例1のインクジェット記録用シートと異なるが、どれも実施例1と同等の品質を示し、良好なものである。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明のインクジェット記録用シートは、写真画質を狙った染料系や顔料系インクジェットプリンターに適した記録適性を持ち、かつ、印字濃度が高いため印字画像の色彩が鮮やかな、極めて実用性の高いものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に、または支持体上に形成された少なくとも1層の下塗り層上に、温度変化により親水性と疎水性を示し、親水性を示す温度領域では塗液が増粘又はゲル化する感温性高分子化合物及び顔料を含有する塗液を、該感温性高分子化合物が疎水性を示す温度領域で塗工して塗液塗被層を形成し、該塗液塗被層を感温性高分子化合物が親水性を示す温度領域まで温度変化させて増粘又はゲル化させ、増粘又はゲル化した塗被層にカチオン性化合物を含有する表面塗工液を塗布・含浸することにより、カチオン性化合物を表面及び/又は内部に有するインク受容層を形成することを特徴とするインクジェット記録用シートの製造方法。
【請求項2】
支持体又は支持体上に形成された少なくとも1層の下塗り層に、感温性高分子化合物が親水性を示す温度領域の処理液を塗布した後、感温性高分子化合物及び顔料を含有する塗液を塗布する請求項1記載のインクジェット記録用シートの製造方法。
【請求項3】
支持体上に下塗り層を有し、該下塗り層中に平均粒子径1〜12μmの顔料を含有する請求項1又は2記載のインクジェット記録用シートの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項の記載の製造方法で製造したインクジェット記録用シート。


【公開番号】特開2006−142760(P2006−142760A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−339017(P2004−339017)
【出願日】平成16年11月24日(2004.11.24)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】