説明

インクジェット記録用布帛

【課題】表面割れ、折り割れ、インク吸収性に優れたインクジェット記録用布帛を提供する。
【解決手段】繊維素材からなる基材において、表面粗さがJIS B 0601で規定される算術平均粗さ値(Ra値)が8μm以上であり、少なくとも一方の表面にサブミクロン顔料、バインダー、可塑剤を含有するインク受容層を有するインクジェット記録用布帛において、該サブミクロン顔料が気相法アルミナまたは擬ベーマイトであり、バインダーが少なくとも第1のバインダー及び第2のバインダーを含有し、第1のバインダーが20℃の4質量%水溶液の粘度が70mPa・s以上であり、かつ第2のバインダーが20℃の4質量%水性溶液の粘度が70mPa・s未満であり、第1のバインダー及び第2のバインダーの各々4質量%水溶液ないし水性溶液を質量比1/1で混合した際の20℃の粘度が15mPa・s以上300mPa・s以下であり、第1のバインダーがポリビニルアルコールもしくはポリビニルアルコール変性物であることを特徴とするインクジェット記録用布帛。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録用布帛に関するものであり、更に詳しくは、基材上に、少なくとも一方の表面にサブミクロン顔料、バインダー、可塑剤を含有するインク受容層を有するインクジェット記録用布帛である。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェットプリンターやプロッターの目ざましい進歩により、フルカラーでしかも高精細な画像が容易に得られるようになってきた。
【0003】
インクジェット記録方式は、種々の作動原理によりインクの微小液滴を飛翔させて紙等の記録材料に付着させ、画像・文字等の記録を行うものである。インクジェット記録方式はコンピューターにより作成した文字や各種図形等の画像情報のハードコピー作成装置として、種々の用途において近年急速に普及している。特に注目されているインクジェットプリンターの利用分野として、大型のインクジェットプロッターを用いて美術画や写真を印字することが挙げられる。これらの分野で用いられるインクジェット記録用シートには、高画質であることに加えて、意匠性を高めるため、表面の平滑性を下げることが要求される。
【0004】
このような要求に応えるべき記録用シートの素材として、耐久性や強度の面から布帛が優れている。この布帛を用いたインクジェット記録用シートとしてこれまでにも様々な提案がなされてきており、カチオン性の物質を含有する布帛が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、この布帛では鮮明な画像を得るには不十分であった。
【0005】
一方、インクジェット印刷方式により油絵風画像を得ることができるインクジェット記録用シートが提案されている(例えば、特許文献2参照)。しかし、この布帛では油絵風画像を得ることができたが、インク受容層が割れてしまうため、布帛を折り曲げることが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許3444954号公報
【特許文献2】特開2001−158163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、インク受容層塗工時の乾燥後の表面のひび割れ(以下表面割れと記す)、折り割れ、インク吸収性に優れたインクジェット記録用布帛を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題に対し検討を行った結果、課題の解決は、繊維素材からなる基材において、表面粗さがJIS B 0601で規定される算術平均粗さ値(Ra値)が8μm以上であり、少なくとも一方の表面にサブミクロン顔料、バインダー、可塑剤を含有するインク受容層を有するインクジェット記録用布帛において、該サブミクロン顔料が気相法アルミナまたは擬ベーマイトであり、バインダーが少なくとも第1のバインダー及び第2のバインダーを含有し、第1のバインダーが20℃の4質量%水溶液の粘度が70mPa・s以上であり、かつ第2のバインダーが20℃の4質量%水性溶液の粘度が70mPa・s未満であり、第1のバインダー及び第2のバインダーの各々4質量%水溶液ないし水性溶液を質量比1/1で混合した際の20℃の粘度が15mPa・s以上300mPa・s以下であり、第1のバインダーがポリビニルアルコールもしくはポリビニルアルコール変性物であることを特徴とするインクジェット記録用布帛によって達成される。
【0009】
前記ポリビニルアルコールまたはポリビニルアルコール変性物が重合度3500以上であることが好ましい。
【0010】
また、第2のバインダーがポリビニルアルコールまたはポリビニルアルコール変性物であることが好ましい。
【0011】
また、第2のバインダーが澱粉または澱粉変性物であることが好ましい。
【0012】
また、第2のバインダーがラテックスまたはエマルジョン類であることが好ましい。
【0013】
また、可塑剤がジオール化合物であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、表面割れ、折り割れ、インク吸収性に優れたインクジェット記録用布帛が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のインクジェット記録用布帛を詳細に説明する。
【0016】
本発明のインクジェット記録用布帛に用いられる繊維素材からなる基材は、表面粗さがJIS B 0601で規定される基準長2.5mm、カットオフ値0.8mmで測定した際の算術平均粗さ値(Ra値)が8μm以上である。インクジェットプリンターを用いて美術品、写真等を印字する際には、一般的に用いられるインクジェット記録用紙による印字物では、表面に平滑性があるため、十分に画家、写真家の意図が伝わらない。そこで、算術平均粗さ値(Ra値)を8μm以上にすることで、画家、写真家の意図に沿うことができ、意匠性を高めることができる。本発明において算術平均粗さ値(Ra値)が8μm以上であれば特に制限はないが、好ましくは10〜20μmにすることが好ましい。算術平均粗さ値(Ra値)が20μmを超えるものでは、画質に悪影響を及ぼすことがある。
【0017】
本発明に用いられる繊維素材は特に制限されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートまたはその変性ポリマーのホモポリマーもしくはコポリマーのようなポリエステル系繊維、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレンまたはその変性ポリマーのホモポリマーもしくはコポリマーのようなポリオレフィン系繊維、アクリル繊維、モダクリル繊維等のようなポリアクリロニトリル系繊維、ナイロン6、ナイロン66等のようなナイロン系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ウレタン繊維等の有機合成繊維、また、レーヨン等の再生セルロース繊維やコラーゲンアルギン酸、キチン質等を溶液にしたものを紡糸した繊維等のような再生繊維、アセテート繊維のような半合成繊維、麻、木綿、パルプ等のセルロース繊維や羊毛、絹等のタンパク質繊維のような天然繊維、ガラス繊維、炭素繊維のような無機系繊維等の各種繊維が挙げられ、これらを単独または組み合わせて使用することができる。
【0018】
繊維素材としてポリエステル系繊維は、温度や湿度に対する寸法安定性が良好であるので好ましい。ポリエステル系繊維を使用する場合、真直で平行な細繊維の集合体からなるマルチフィラメント糸で織った布は平滑であるが吸収性が少ない。このマルチフィラメント糸にクリンプ加工やループ加工を施した加工糸で織った布は繊維配列が乱れ、インク吸収性が改善することから更に好ましい。
【0019】
本発明に用いる繊維素材からなる基材があらかじめカチオン系定着剤、カチオン系柔軟剤、水溶性吸収性樹脂、無機顔料、界面活性剤、水溶性金属塩、酸化防止剤、紫外線吸収剤、着色顔料、蛍光増白剤等の添加物を含んでいてもよい。
【0020】
本発明に用いられるサブミクロン顔料とは、その分散液を基板上に散布し、走査型電子顕微鏡で観察した時に、観察野において粒子が占める面積の80%以上を、長辺1μm以下の粒子が占める無機顔料を指す。サブミクロン顔料の種類としては、気相法アルミナまたは擬ベーマイトである。気相法アルミナまたは擬ベーマイトを用いることで、折り割れ性に優れ、本発明に用いることができる。
【0021】
特に、該観察野において粒子が占める面積の80%以上を、長辺400nm以下の粒子が占める気相法アルミナまたは擬ベーマイトを用いることで、特に高い表面光沢が得られることから好ましい。また、該観察野において粒子が占める面積の80%以上を、長辺100〜400nmの粒子が占める気相法アルミナまたは擬ベーマイトを用いると、インク受容層の塗液を塗工後、高速に乾燥しても表面割れなどの欠陥が生じにくいことからより好ましい。
【0022】
本発明において、インク受容層はバインダーとして少なくとも第1のバインダー及び第2のバインダーを含有する。バインダーの役割として、塗工面の表面強度を保ち、表面割れを防止することが挙げられる。本発明に用いられる繊維素材からなる基材は、表面粗さとしてJIS B 0601で規定される算術平均粗さ値(Ra値)が8μm以上であり、表面の形状が凹凸であるから、表面割れを抑制する凹凸に適応した表面強度を保つためには、一般的に用いられる平滑性が高い基材よりも、バインダー添加量を増量する必要がある。しかしながら、バインダー添加量を増加するとインク吸収性が低下し、インクジェット記録用布帛として用いることができない。バインダー添加量を増量することなく、表面の凹凸に適応した表面強度を得るために、本発明において用いられる第1のバインダーは20℃の4質量%水溶液のブルックフィールド粘度(以下、単に「粘度」と記載する)が70mPa・s以上であり、かつ第2のバインダーは20℃の4質量%水性溶液の粘度が70mPa・s未満であり、第1のバインダー及び第2のバインダーの各々4質量%水溶液ないし水性溶液を質量比1/1で混合した際の20℃の粘度が15mPa・s以上300mPa・s以下であり、第1のバインダーがポリビニルアルコールもしくはポリビニルアルコール変性物である。
【0023】
本発明において、第1のバインダーの4質量%水溶液と第2のバインダーの4質量%水性溶液を質量比1/1で混合した際の粘度は15mPa・s以上300mPa・s以下である。粘度が15mPa・s未満である場合には、表面割れが生じやすくなるため、また、粘度が300mPa・sを超える場合には粘度が高すぎて塗工が困難になるため、使用することができない。表面割れを抑制し、塗工を容易に行うという点で、好ましくは粘度が15mPa・s以上100mPa・s以下である。
【0024】
本発明において、第1のバインダーには、20℃の4質量%水溶液の粘度が70mPa・s以上であるポリビニルアルコールまたはポリビニルアルコール変性物であればよく、70mol%から100mol%までの種々けん化度のポリビニルアルコールを使用できる。またシリル基、カルボキシル基、アミノ基、アセトアセチル基等の種々官能基を導入した、または、エチレン等他の単量体をランダム的、グラフト的、またはブロック的に導入した変性ポリビニルアルコールも使用することができる。インク吸収性の点で、好ましくは粘度が70mPa・s以上150mPa・s以下である。
【0025】
本発明において、第2のバインダーには、水性溶液すなわち水溶性または水分散性の溶液であり、水性溶液として20℃の4質量%の粘度が70mPa・s未満である各種公知のバインダーを使用することができる。水性溶液となる第2のバインダーとしては水溶性バインダーと水分散性バインダーがある。水溶性バインダーとしては、例えば、メチルセルロース、メチルヒドロキシエチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、及びヒドロキシエチルセルロース等のセルロース系化合物、澱粉、酸化澱粉、燐酸エステル化澱粉、カチオン化澱粉等の澱粉及びその変性物、ゼラチン及びその変性物、カゼイン、プルラン、アラビアゴム、及びアルブミン等の天然高分子樹脂またはこれらの誘導体、ポリビニルアルコール及びその変性物、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン等のビニルポリマー、ポリエチレンイミン、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、及び無水マレイン酸またはその共重合体等を挙げることができる。水分散性バインダーとしては、例えば、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−アクリル共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のラテックスやエマルジョン類を挙げることができる。なかでも、第1のバインダーとの混和性、インク受容層の塗液の相溶性の点で、ポリビニルアルコールまたはポリビニルアルコール変性物、澱粉または澱粉変性物、ラテックスもしくはエマルジョン類が好ましい。インク吸収性の点で、好ましくは粘度が25mPa・s以上70mPa・s未満である。
【0026】
本発明に用いられるバインダーの含有量は、少なすぎると乾燥時に表面割れが生じることがある。一方でバインダーの含有量が多すぎるとインク吸収性が低下することがある。具体的には、バインダーの含有量はサブミクロン顔料の2〜40質量%であることが好ましく、5〜30質量%であることがより好ましい。また、第1のバインダーと第2のバインダーの比率は、用いるバインダーによって最適比率は異なるが、表面割れ防止効果とインク吸収性のバランスから7/3〜3/7が好ましい。
【0027】
本発明のインク受容層は可塑剤を含有する。本発明に用いられる繊維素材からなる基材において、第1のバインダー及び第2のバインダーを含有するインク受容層が可塑剤を含有することにより、より一層表面割れを防止することができる。
【0028】
本発明に用いられる可塑剤は、インク受容層の塗液との相溶性が優れているものが好ましい。例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のジオール類、グリセリン、ジグリセリン、ブタントリオール、トリエタノールアミン、エタノールアセトアミド、尿素及びその誘導体、ソルビトール等の単糖類等を挙げることができる。この中でも、より表面割れを防止できる点で、ジオール類が特に好ましい。
【0029】
本発明に用いられる可塑剤の添加量は特に制限はないが、インク吸収性、表面割れ防止効果の観点から、サブミクロン顔料の5〜50質量%が好ましく、15〜40質量%が特に好ましい。
【0030】
本発明のインク受容層には、必要に応じて、界面活性剤、消泡剤、増粘剤、蛍光増白剤、着色剤、耐水化剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、カチオン性高分子電解質など各種公知の添加剤を添加することもできる。
【0031】
本発明において、インク受容層は単一層であっても複数層であってもよい。単一層の場合は、その層自体が前記したインク受容層となる。複数層の場合は、少なくとも最外層が前記したインク受容層となり、最外層以外の層は、必ずしも前記したインク受容層の組成である必要はなく、最外層以外の層は公知の顔料またはバインダーを含有する塗工層であってもよい。
【0032】
本発明において、インク受容層の塗液を塗工する方法に特に制限はなく、エアナイフコーター、ブレードコーター、ロッドブレードコーター、バーコーター、リバースロールコーター、コンマコーター(登録商標)、ゲートロールコーター、フィルムトランスファーコーター、リップコーター、ダイコーター、カーテンコーター等各種の塗工方法を用いることができる。これらのうち、カーテンコーターは、得られる塗工層の均一性が高く、更にインク受容層の塗工に際しては塗液の基材への浸透が生じにくく非常に良好な面質を与えるので、好ましく使用される。本発明のインク受容層の塗液を基材上に塗工する量に特に制限はないが、インク吸収性と経済性を両立させるためには通常、固形分として10〜25g/mを塗工することが好ましい。ただし、特に多量のインクを吸収することを求められる場合には、30g/m程度を塗工することが好ましいこともある。
【実施例】
【0033】
以下本発明の実施例を示す。また、本実施例中で、特に明示しない限り部は質量部、%は質量%を示すものとする。
【0034】
(実施例1)
[処理組成物1の調製]
水420部に、ホウ酸(HBO)40部とホウ酸塩であるホウ砂(Na・10HO)40部を溶解し、ホウ酸/ホウ砂における質量比が1/1となる合計濃度16%の処理組成物1を調製した。
【0035】
[アルミナ水和物ゾルの調製]
水299部に酢酸1部を混合し、擬ベーマイト構造を有するアルミナ水和物(サソール社製Disperal HP14)100部を添加し、そのまま2時間攪拌し、固形分濃度25%のアルミナ水和物ゾルを得た。この分散物を水で100倍に希釈し、ガラス基板上に散布して走査型電子顕微鏡で観察したところ、観察野において粒子が占める面積の80%以上を、長辺100〜400nmの粒子が占めていた。
【0036】
[インク受容層の塗液1の調製]
上記のアルミナ水和物ゾルの400部(固形分100部)に、第1のバインダーとしてけん化度88mol%のポリビニルアルコール(クラレ社製PVA235:4%水溶液の粘度が、20℃において75mPa・s)の10%水溶液50部(固形分5部)を添加し、更に、第2のバインダーとしてけん化度92mol%のポリビニルアルコール(クラレ社製PVA624:4%水溶液の粘度が、20℃において50mPa・s)の8%水溶液50部(固形分4部)を添加し、可塑剤としてジエチレングリコールを15部添加し、インク受容層の塗液1を調製した。
【0037】
[インクジェット記録用布帛の作製]
基材として、ポリエステル布(算術平均粗さ値(Ra値)17μm)を用い、その上に処理組成物1を、乾燥後の付着量が1g/mとなるようにエアナイフコーターを用いて塗布し、熱風型乾燥機を用いて乾燥させ、インク受容層の塗液1を、乾燥後の塗工量が15g/mとなるようにカーテンコーターを用いて塗工し、熱風型乾燥機を用いて乾燥させ、実施例1のインクジェット記録用布帛を作製した。
【0038】
(実施例2)
[気相法アルミナゾルの調製]
水400部に気相法アルミナ(日本アエロジル社製アエロジル酸化アルミニウムC)100部を添加し、ホモミキサーを用いて分散し、固形分濃度20%の気相法アルミナゾルを得た。この分散物を水で100倍に希釈し、ガラス基板上に散布して走査型電子顕微鏡で観察したところ、観察野において粒子が占める面積の80%以上を、長辺100〜400nmの粒子が占めていた。
【0039】
[インク受容層の塗液2の調製]
上記の気相法アルミナゾルの500部(固形分100部)に、第1のバインダーとしてけん化度88mol%のポリビニルアルコール(クラレ社製PVA235)の10%水溶液50部(固形分5部)を添加し、更に、第2のバインダーとしてけん化度92mol%のポリビニルアルコール(クラレ社製PVA624)の8%水溶液50部(固形分4部)を添加し、可塑剤としてジエチレングリコールを15部添加し、インク受容層の塗液2を調製した。
【0040】
[インクジェット記録用布帛の作製]
インク受容層の塗液1の代わりに、インク受容層の塗液2を用いた以外には、実施例1と同様にして実施例2のインクジェット記録用布帛を作製した。
【0041】
(実施例3)
第2のバインダーとして、けん化度92mol%のポリビニルアルコール(クラレ社製PVA624)を用いる代わりにけん化度92mol%のポリビニルアルコールの分子量違い(クラレ社製PVA617:4%水溶液の粘度が、20℃において35mPa・s)の8%水溶液50部(固形分4部)を用いた以外は、実施例1と同様にして実施例3のインクジェット記録用布帛を作製した。
【0042】
(実施例4)
第2のバインダーとして、けん化度92mol%のポリビニルアルコール(クラレ社製PVA624)を用いる代わりにノニオン性ポリウレタン樹脂(大日本インキ化学工業社製ボンディック2220:4%水溶液の粘度が、20℃において5mPa・s)の40%水溶液25部(固形分10部)を用いた以外は、実施例1と同様にして実施例4のインクジェット記録用布帛を作製した。
【0043】
(実施例5)
第2のバインダーとして、けん化度92mol%のポリビニルアルコール(クラレ社製PVA624)を用いる代わりに澱粉(日本食品加工社製MS−4600:4%水溶液の粘度が、20℃において10mPa・s)の10%水溶液10部(固形分1部)を用いた以外は、実施例1と同様にして実施例5のインクジェット記録用布帛を作製した。
【0044】
(実施例6)
可塑剤として、ジエチレングリコールを用いる代わりにポリエチレングリコールを用いた以外は、実施例1と同様にして実施例6のインクジェット記録用布帛を作製した。
【0045】
(実施例7)
可塑剤として、ジエチレングリコールを用いる代わりに尿素を用いた以外は、実施例1と同様にして実施例7のインクジェット記録用布帛を作製した。
【0046】
(実施例8)
基材として、ポリエステル布(算術平均粗さ値(Ra値)9μm)を用いた以外は、実施例1と同様にして実施例8のインクジェット記録用布帛を作製した。
【0047】
(実施例9)
第1のバインダーとして、けん化度88mol%のポリビニルアルコール(クラレ社製PVA235)を用いる代わりにけん化度88mol%のポリビニルアルコールの分子量違い(クラレ社製PVA245:4%水溶液の粘度が、20℃において180mPa・s)の8%水溶液62.5部(固形分5部)を用いた以外は、実施例1と同様にして実施例9のインクジェット記録用布帛を作製した。
【0048】
(実施例10〜16)
第1、第2のバインダーの量を表1の通り変化させた以外は、実施例1と同様にして実施例10〜16のインクジェット記録用布帛を作製した。
【0049】
【表1】

【0050】
(比較例1)
[気相法シリカ分散液の調製]
水392部を攪拌しながら、400mPa・秒の粘度を有するジメチルジアリルアンモニウムクロライド重合体の50%水溶液8部(固形分4部)、気相法シリカ(BET法による比表面積90m/g)100部を添加し、ブレード型分散機を使用して予備分散した。得られた予備分散液をコロイドミルで処理して、固形分濃度20.8%の気相法シリカ分散液を得た。この分散物を水で100倍に希釈し、ガラス基板上に散布して走査電子顕微鏡で観察したところ、観察野において粒子が占める面積の80%以上を、長辺が100〜400nmの粒子が占めていた。
【0051】
[インク受容層の塗液3の調製]
上記の気相法シリカ分散液の480部(固形分100部)に、第1のバインダーとしてけん化度88mol%のポリビニルアルコール(クラレ社製PVA235)の10%水溶液50部(固形分5部)を添加し、更に、第2のバインダーとしてけん化度92mol%のポリビニルアルコール(クラレ社製PVA624)の8%水溶液50部(固形分4部)を添加し、可塑剤としてジエチレングリコールを15部添加し、インク受容層の塗液3を調製した。
【0052】
[インクジェット記録用布帛の作製]
インク受容層の塗液1の代わりに、インク受容層の塗液3を用いた以外には、実施例1と同様にして比較例1のインクジェット記録用布帛を作製した。
【0053】
(比較例2)
[不定形シリカ分散液の調製]
水280部を攪拌しながら、水酸化ナトリウムの10%水溶液20部(固形分2部)を混合し、不定形シリカ(トクヤマ社製ファインシールX37B)100部を添加し、ブレード型分散機で処理して、固形分濃度25%の不定形シリカ分散液を得た。
【0054】
[インク受容層の塗液4の調製]
上記の不定形シリカ分散液の400部(固形分100部)に、第1のバインダーとしてけん化度88mol%のポリビニルアルコール(クラレ社製PVA235)の10%水溶液50部(固形分5部)を添加し、更に、第2のバインダーとしてけん化度92mol%のポリビニルアルコール(クラレ社製PVA624)の8%水溶液50部(固形分4部)を添加し、可塑剤としてジエチレングリコールを15部添加し、インク受容層の塗液4を調製した。
【0055】
[インクジェット記録用布帛の作製]
インク受容層の塗液1の代わりに、インク受容層の塗液4を用いた以外には、実施例1と同様にして比較例2のインクジェット記録用布帛を作製した。
【0056】
(比較例3)
第1のバインダーとして、けん化度88mol%のポリビニルアルコール(クラレ社製PVA235)を用いる代わりにノニオン性ポリウレタン樹脂(大日本インキ化学工業社製ボンディック2220)の40%水溶液25部(固形分10部)を用い、更に、第2のバインダーとしてけん化度92mol%のポリビニルアルコール(クラレ社製PVA624)を用いる代わりに澱粉(日本食品加工社製MS−4600)の10%水溶液10部(固形分1部)を用いた以外は、実施例1と同様にして比較例3のインクジェット記録用布帛を作製した。
【0057】
(比較例4)
バインダーとして、けん化度88mol%のポリビニルアルコール(クラレ社製PVA235)の10%水溶液90部(固形分9部)を添加し、更に、けん化度92mol%のポリビニルアルコール(クラレ社製PVA624)を用いない以外は、実施例1と同様にして比較例4のインクジェット記録用布帛を作製した。
【0058】
(比較例5)
可塑剤としてのジエチレングリコールを用いない以外は、実施例1と同様にして比較例5のインクジェット記録用布帛を作製した。
【0059】
[バインダー混合粘度測定]
実施例1〜16、比較例1〜5のインクジェット記録用布帛について、第1のバインダー及び第2のバインダーの各々4%水溶液ないし水性溶液を質量比1/1で混合した際の20℃のブルックフィールド粘度を測定した。
【0060】
[表面割れの評価]
実施例1〜16、比較例1〜5のインクジェット記録用布帛について、インク受容層の表面割れを、次の基準の通り目視にて評価した。実使用上問題ないものは、△以上の評価のものである。
○:表面割れが全くない
△:微細な表面割れが若干認められる
×:はっきりとした表面割れが存在する
【0061】
[折り割れの評価]
実施例1〜16、比較例1〜5のインクジェット記録用布帛について、未印字の布帛を、塗工面を外側にして2つ折りし、それを開いた際に表面に割れが生じているかどうかを、次の基準の通り目視にて評価した。実使用上問題ないものは、○の評価のものである。
○:割れが生じない
×:割れが生じる
【0062】
[インク吸収性の評価]
実施例1〜16、比較例1〜5のインクジェット記録用布帛について、イエロー、マゼンタ、シアン単色100%と、イエローとマゼンタ、マゼンタとシアン、シアンとイエローの2重色200%をそれぞれ印字して、印字終了の10秒後にPPC用紙を印字部に重ねて軽く圧着し、PPC用紙に転写したインク量の程度を、次の基準の通り目視にて評価した。実使用上問題ないものは、△以上の評価のものである。
○:転写が全くない
△:やや転写する
×:はっきりと転写する
【0063】
実施例1〜16、比較例1〜5のインクジェット記録用布帛の評価結果を表2に示す。
【0064】
【表2】

【0065】
表2より、実施例1〜16の、繊維素材からなる基材において、表面粗さがJIS B 0601で規定される算術平均粗さ値(Ra値)が8μm以上であり、少なくとも一方の表面にサブミクロン顔料、バインダー、可塑剤を含有するインク受容層を有するインクジェット記録用布帛において、該サブミクロン顔料が気相法アルミナまたは擬ベーマイトであり、バインダーが少なくとも第1のバインダー及び第2のバインダーを含有し、第1のバインダーが20℃の4質量%水溶液の粘度が70mPa・s以上であり、かつ第2のバインダーが20℃の4質量%水性溶液の粘度が70mPa・s未満であり、第1のバインダー及び第2のバインダーの各々4質量%水溶液ないし水性溶液を質量比1/1で混合した際の20℃の粘度が15mPa・s以上300mPa・s以下であり、第1のバインダーがポリビニルアルコールもしくはポリビニルアルコール変性物であることを特徴とするインクジェット記録用布帛は、表面割れ、折り割れ、インク吸収性が良好である。
【0066】
一方、比較例1〜5のインクジェット記録用布帛については、表面割れ、折り割れ、インク吸収性が悪く、実使用上問題となるレベルであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維素材からなる基材において、表面粗さがJIS B 0601で規定される算術平均粗さ値(Ra値)が8μm以上であり、少なくとも一方の表面にサブミクロン顔料、バインダー、可塑剤を含有するインク受容層を有するインクジェット記録用布帛において、該サブミクロン顔料が気相法アルミナまたは擬ベーマイトであり、バインダーが少なくとも第1のバインダー及び第2のバインダーを含有し、第1のバインダーが20℃の4質量%水溶液の粘度が70mPa・s以上であり、かつ第2のバインダーが20℃の4質量%水性溶液の粘度が70mPa・s未満であり、第1のバインダー及び第2のバインダーの各々4質量%水溶液ないし水性溶液を質量比1/1で混合した際の20℃の粘度が15mPa・s以上300mPa・s以下であり、第1のバインダーがポリビニルアルコールもしくはポリビニルアルコール変性物であることを特徴とするインクジェット記録用布帛。
【請求項2】
ポリビニルアルコールまたはポリビニルアルコール変性物が重合度3500以上である請求項1記載のインクジェット記録用布帛。
【請求項3】
該第2のバインダーがポリビニルアルコールまたはポリビニルアルコール変性物である請求項1記載のインクジェット記録用布帛。
【請求項4】
該第2のバインダーが澱粉または澱粉変性物である請求項1記載のインクジェット記録用布帛。
【請求項5】
該第2のバインダーがラテックスまたはエマルジョン類である請求項1記載のインクジェット記録用布帛。
【請求項6】
該可塑剤がジオール化合物である請求項1記載のインクジェット記録用布帛。

【公開番号】特開2011−201263(P2011−201263A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−73137(P2010−73137)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】