説明

インクジェット記録用紙

【課題】長網抄紙機を用いてインクジェット記録用紙を製造した場合の、微細繊維の抜け、紙層内の填料分布の二面性による表裏差を改善し、裏面に印字した場合のインクの滲みを低減し、裏面における記録した印字の鮮明さ、インク発色濃度に優れる普通紙タイプのインクジェット記録用紙とする。
【解決手段】原料としてパルプを主成分とし、かつ長網抄紙機により抄造された基材の表面及び裏面に、それぞれクリアーコート層が設けられたインクジェット記録用紙であって、前記表面のクリアーコート層と、前記裏面のクリアーコート層とが、異なる塗工手段によって設けられ、これらのクリアーコート層は、いずれも水溶性バインダー及びカチオン性高分子定着剤を主成分とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長網抄紙機で抄紙した場合の紙面の表裏差を改善し、表裏共に印刷適性に優れるインクジェット記録用紙に関するものである。特に、裏面に印字した場合のインクの滲みを改善し、裏面における記録した印字の鮮明さ、インク発色濃度に優れる普通紙タイプのインクジェット記録用紙に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録は、インクの微小液滴を種々の作動原理により記録材料に付着させ、画像、文字等の記録を行うものであり、高速、低騒音、多色化が容易であるという利点を有しており、近年の技術進歩により、印字品質の高い記録が可能になってきている。
【0003】
また、近年では、環境保護・再資源化の観点から、用紙の一方面だけではなく、両面印刷可能な紙の需要が高まって来ている。しかしながら、現在汎用されている普通紙タイプのインクジェット記録用紙の殆どのものは、片面しか印刷できなかったり、あるいは両面印刷が可能であっても、一方の面についてはインクが滲んだり、印字の鮮明さ、インクの発色濃度に欠ける等の欠点があった。
【0004】
このように用紙の表面と裏面とによってインクの滲み方や、印字の鮮明さ、インク発色濃度に差が出てしまうのは、抄紙される際のワイヤー上での脱水の調整が不充分であったり、プレス部での表裏の脱水がコントロールされずに製造されたりするためであり、表裏面の紙中填料率が異なるため、両面印刷を施した場合には、表裏で印刷が著しく異なってしまう。
【0005】
ところで、抄紙方法において、抄紙機は、長網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機、コンビネーション抄紙機、丸網抄紙機、ヤンキー抄紙機などが製紙業界では、公知であるが、上記に述べた紙の表裏差によるインクの滲みや、画像の鮮明さ、インク発色濃度の差は、長網抄紙機を用いた場合に、より顕著に見られる現象である。
【0006】
抄紙機として古くから知られる長網抄紙機は、ストックインレットから流出されたパルプスラリーを長網の下部に設けた脱水ゾーンを介して下方から自然脱水する方式であるが、下方からだけ脱水されるために微細繊維が抜け、紙層内の填料分布に二面性が発生し、裏面のインクジェット適性が、表面に比べ低下していた。
【0007】
この点、インクジェット記録用紙において、表裏両面の記録濃度を改善する例として、基紙の表層及び裏層の紙中填料率を調整した記録用紙(例えば、特許文献1参照。)や、ツインワイヤー領域に設けられた脱水装置により抄紙時における地合分散性を改善する脱水装置等が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0008】
しかしながら、特許文献1は、長網抄紙機を使用する場合には、歩留り向上剤の使用、ワイヤー上での脱水の調整、プレス部での表裏の脱水を調整したとしても、表裏の紙面の品質差を改善することは困難である。また、特許文献2は、長網抄紙機の初期脱水ゾーンに連接してツインワイヤー領域を設けるため、設備費がかさむ問題がある。
【特許文献1】特開平8‐260382号公報
【特許文献2】特開平8‐92891号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする主たる課題は、長網抄紙機を用いてインクジェット記録用紙を製造した場合の、紙層内の微細繊維や填料分布の二面性による表裏差を改善し、特に裏面に印字した場合のインクの滲みを低減し、裏面における記録した印字の鮮明さ、インク発色濃度に優れる、普通紙タイプのインクジェット記録用紙を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題を解決した本発明は、次のとおりである。
〔請求項1記載の発明〕
原料としてパルプを主成分とし、かつ長網抄紙機により抄造された基材の表面及び裏面に、それぞれクリアーコート層が設けられたインクジェット記録用紙であって、
前記表面のクリアーコート層と、前記裏面のクリアーコート層とが、異なる塗工手段によって設けられ、
これらのクリアーコート層は、いずれも水溶性バインダー及びカチオン性高分子定着剤を主成分とする、ことを特徴とするインクジェット記録用紙。
【0011】
〔請求項2記載の発明〕
動的吸水性試験における初期吸水特性の超音波透過強度が100%に到達するまでの時間が、表面側及び裏面側のいずれも0.10秒〜0.50秒とされ、
JIS P 8122に準拠したステキヒトサイズ度が、表面側及び裏面側のいずれも11秒〜45秒とされている、請求項1記載のインクジェット記録用紙。
【0012】
〔請求項3記載の発明〕
前記表面のクリアーコート層の塗工量が、0.5〜1.5g/m2、前記裏面のクリアーコート層の塗工量が1.5〜2.5g/m2とされている、請求項1又は請求項2記載のインクジェット記録用紙。
【0013】
〔請求項4記載の発明〕
前記表面のクリアーコート層はロール塗工方式によって、前記裏面のクリアーコート層はブレード塗工方式によって、それぞれ塗工され、かつ
「前記裏面のクリアーコート層の塗工量」−「前記表面のクリアーコート層の塗工量」が、0.4g/m2〜2.0g/m2とされている、請求項1〜3のいずれか1項に記載のインクジェット記録用紙。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、長網抄紙機を用いてインクジェット記録用紙を製造した場合の、紙層内の微細繊維や填料分布の二面性による表裏差を改善し、特に裏面に印字した場合のインクの滲みを低減し、裏面における記録した印字の鮮明さ、インク発色濃度に優れる、普通紙タイプのインクジェット記録用紙となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、本発明の実施の形態に係るインクジェット記録用紙について説明する。なお、本発明は、必ずしも以下の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲を逸脱しない範囲内において、その構成を適宜変更できることはいうまでもない。
本形態のインクジェット記録用紙は、基材の表面及び裏面に、それぞれクリアーコート層が設けられたものである。
【0016】
〔基材〕
本形態において、基材の原料パルプの種類は特に限定されず、例えば、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、セミケミカルパルプ(SCP)、砕木パルプ(GP)、ケミグランドパルプ(CGP)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、ディインキングパルプ(DIP)、ウエストパルプ(WP)等を使用することができる。中でも、インクジェット適性の点から、広葉樹クラフトパルプを使用することが好ましい。原料パルプ中、広葉樹クラフトパルプは、30〜50重量%含まれていることが好ましい。
また、本形態においては、環境保護、資源の有効利用の風潮に応えるべく、全原料パルプ成分中に古紙パルプを高配合し、中性pH領域で抄紙することが好ましい。
【0017】
古紙パルプの原料となる古紙の種類としては、雑誌古紙、チラシ古紙、色上古紙、新聞古紙、ケント古紙、上白古紙、コート古紙、複写古紙等の公知の種々の古紙を使用することができ、これらの古紙を離解し、脱墨あるいは漂白処理したものを使用することもできる。古紙パルプは、全原料パルプ中の20質量%以上含有することが好ましく、40〜60質量%含有することがより好ましい。古紙パルプの含有が20質量%以上の場合においては、古紙パルプ中の灰分を有効に利用でき、得られるインクジェット記録用紙の不透明度を効果的に高めることができる。
【0018】
また、これらの原料パルプからなるパルプスラリーに、必要に応じて内添サイズ剤、填料、歩留まり向上剤、紙力増強剤等の各種添加剤を適宜添加し、長網抄紙機にて抄紙することができる。
【0019】
〔内添サイズ剤〕
本形態において、基材には、内添サイズ剤を含ませることができ、この内添サイズ剤としては、例えば酸性抄紙用ロジンサイズ剤、中性抄紙用変性ロジンサイズ剤、アルケニルコハク酸系サイズ剤、アルキルケテンダイマー系サイズ剤、アルケニル無水コハク酸系サイズ剤、ワックス系サイズ剤、スチレン樹脂系サイズ剤、オレフィン樹脂系サイズ剤、スチレン‐アクリル樹脂系サイズ剤、高級脂肪酸系サイズ剤、カチオンポリマー型サイズ剤等があげられる。
【0020】
本形態において内添サイズ剤は、基材にサイズ効果を付与する成分である。本形態に用いられる内添サイズ剤としては特に限定がないが、中性領域でも安定したサイズ効果を発現するアルキルケテンダイマーサイズ剤が好ましい。アルキルケテンダイマー(AKD)は、時間の経過に伴ってサイズ度が向上すると考えられている。すなわち、アルキルケテンダイマーは徐々に加水分解され、脱炭酸してケトンになるにつれて、サイズ成分(AKD/ケトン混合物)がより疎水性になり、サイズ度が向上する特徴を有するため、表面と裏面の両面のインク滲みを改善する本形態においては、好ましく用いられる。また、アルキルケテンダイマーサイズ剤を使用した場合には、後述するクリアーコート層との相溶性がよく、基材とクリアーコート層との間で、良好な層状構成を維持することができる。
【0021】
アルキルケテンダイマーは、原料パルプ中、固形分換算で0.20〜0.40質量%、好ましくは0.25〜0.30質量%となるように、含有させることが好ましい。0.20質量%未満では十分なサイズ効果が得られず、基材の中までインクが浸透し、インクの裏抜けの問題があり、0.40質量%を超えるとインクの乾燥不良の問題がある。
【0022】
〔填料〕
本形態において、基材には、填料を含ませることができ、この填料としては、例えば、炭酸カルシウム、クレー、焼成クレー、水酸化アルミニウム、二酸化チタン、珪酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、アルミノ珪酸塩、シリカ、パイロフェライト、セリサイト、ベントナイト等の鉱物質填料やポリスチレン樹脂微粒子、尿素ホルマリン樹脂微粒子及び熱膨張性微小中空粒子やその他有機系填料が適宜使用され、単独で使用してもよいが複数組合せて使用してもよい。ただし、本形態においては、炭酸カルシウムが、インクセット性等の印刷品質に優れる点から好適である。この炭酸カルシウムの含有量は、原料パルプ対し5〜20質量%とするのが好ましい。その理由は、炭酸カルシウム含有量が5質量%未満では、インク乾燥性が悪化し、印刷機ロールのインク付着が多くなり、掃除の頻度が多くなるとともに、紙の不透明度が低下し、裏抜けする問題があり、他方、炭酸カルシウムの含有量が20質量%を超えると、表面強度低下の問題がある。
【0023】
さらに、用紙全体(基材とクリアーコート層)は、JIS P 8251に準じた灰分率が5〜20質量%、好ましくは8〜13質量%となるように、填料を含有することが好ましい。灰分率が5質量%未満では基材表裏面(特に裏面)の平滑度の低下、インク発色性の低下の問題があり、20質量%を超えるとパルプの繊維間結合が減少し、剛度が低下しやすく、紙紛発生量が増加するため好ましくない。
【0024】
このほかに添加剤としては、例えば、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール系高分子化合物、尿素樹脂、メラミン樹脂、澱粉等の紙力増強剤、硫酸バンド等の薬品定着剤、ポリアクリルアミド、アクリルアミド‐アミノメチルアクリルアミドの共重合体の塩、カチオン化澱粉、ポリエチレンイミン、ポリエチレンオキサイド、アクリルアミド‐アクリル酸ナトリウムの共重合物等の濾水性あるいは歩留まり向上剤、消泡剤、染料、抗菌剤、紫外線吸収剤、架橋剤等を挙げることができる。
【0025】
〔抄紙方法〕
本形態の基材は、上記原料を用いて抄紙して製造することができる。抄紙は、例えば、長網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機、オントップ抄紙機、ハイブリッド抄紙機、丸網抄紙機等の抄紙機を用いて抄紙することができるが、本形態においては、長網抄紙機を用いて抄造する際に問題となる微細繊維の抜けによる、裏面における印字鮮明度、インク裏抜け、インク発色、インク乾燥性を改善することをすることを目的とするので、長網抄紙機を使用する。
【0026】
〔クリアーコート層〕
本形態のインクジェット記録用紙においては、基材の表面及び裏面に、それぞれ水溶性バインダー及びカチオン性高分子定着剤を主成分(50質量%以上)とするクリアーコート層が設けられている。
【0027】
水溶性バインダーとしては特に限定されず、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ酢酸ビニル、酸化澱粉、アセチル化澱粉、エステル化澱粉、エーテル化澱粉、カチオン化澱粉、ヒドロキシルエチルエーテル化澱粉(HES)、自家変性澱粉(APS澱粉)、酵素変性澱粉、尿素燐酸エステル化澱粉、陽性化澱粉、ウレタンのエステル化澱粉、デキストリン等の澱粉類、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体、カゼイン、合成タンパク、大豆タンパク等のタンパク質類等のバインダーを適宜使用でき、単独で使用しても良いが、複数組合せて使用しても良い。本形態においては、粘液の安定性が良く、安価に出来ることから、酸化澱粉を使用することが好ましい。水溶性バインダー含有量は固形分換算で0.5〜12質量%とすることが好ましく、さらに好ましくは2.0〜10質量%、より好ましくは、5.0〜9.0質量%を含有することが、表裏両面の印字鮮明度、表面強度の点で好ましい。0.5質量%未満では印字鮮明度、インク裏抜け、インク発色が劣り、12質量%を超えると、インク乾燥性が劣る。
【0028】
また、カチオン性高分子定着剤は、インクを基材に定着させ、印刷部の耐水性を向上させることができる。カチオン性高分子定着剤は例えば、例えばジシアンジアミド・ホルマリン重縮合物に代表されるジシアン系インク定着剤、ジシアンジアミド・ジエチレントリアミン重縮合物に代表されるポリアミン系インク定着剤、エピクロルヒドリン・ジメチルアミン付加重合物、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド・SO2共重合物、ジアリルアミン塩・SO2共重合物、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド重合物、アリルアミン塩の重合物、ジアルキルアミノエチル(メタ)アクリレート4級塩重合物等のポリカチオン系インク定着剤等が挙げられ、本形態においては、変性ポリアミン系インク定着剤を使用することが好ましい。カチオン性高分子定着剤含有量は固形分換算で0.5〜2.0質量%とすることが、表裏両面の印字鮮明度、インク発色性の点で好ましく、0.5質量%未満では印字鮮明度が劣り、2.0質量%を超えると、インク発色性が劣る。
【0029】
さらに、本形態では、クリアーコート層に、表面サイズ剤が含有されていると好ましいものとなる。表面サイズ剤としては、例えばパラフィンワックスエマルジョン、アルキルケテンダイマー、アルケニルコハク酸無水物、ロジン、シリコン樹脂エマルジョン、スチレン‐アクリル酸系共重合体、スチレン‐マレイン酸系共重合体、酢酸ビニル‐マレイン酸系共重合体、スチレン‐アクリル酸‐アクリル酸エステル系共重合体、スチレン‐マレイン酸‐マレイン酸エステル系共重合体、オレフィン‐マレイン酸系共重合体などが挙げられ、本形態においては、スチレン系のスチレン‐アクリル酸共重合体を用いることが好ましい。スチレン系のサイズ剤は、基材中の硫酸バンド(金属イオン)と反応して、親水性基を疎水化することによりサイズ効果を発現する特性を持っている。すなわち、硫酸バンドのカチオン基(アルミイオン)を介してパルプ繊維とスチレン系サイズ剤のアニオン基が結合し、サイズ剤がパルプ繊維に定着する。その際、疎水基(水をはじく構造)が繊維の表面を覆うためサイズ効果が発現する。また、スチレン系の定着剤を使用することにより、トナーの定着性を向上させることができる。これは、トナーに含有されている着色粒子と紙を接着させるバインダーが、スチレン系樹脂であり、相溶性が良いためである。一方、オレフィン系の表面サイズ剤を使用した場合には、TAPPI T 458 om−89に準拠した基材表面とインクの接触角が大きくなるため、インクの吸収速度が遅く、インクの乾燥性が悪くなる問題がある。スチレン系の表面サイズ剤は、ある程度のインクの吸収速度がありつつも、印刷した場合のインクの裏抜けをしにくい特性を持っている。
【0030】
本形態において、スチレン‐アクリル酸共重合体含有量は固形分換算で0.05〜0.2質量%とすることが、表裏両面の印字鮮明度の点で好ましく、0.05質量%未満では印字鮮明度が劣り、0.2質量%を超えると、網点の再現性が悪くなる場合があり、バーコードを印刷した場合の読取り適性に劣る恐れがある。また、インク乾燥性が劣る。
【0031】
クリアーコート層が含有する水溶性バインダー、カチオン性高分子定着剤及びスチレン系サイズ剤の質量比は、各成分による効果がバランスよく発現される限り特に限定がないが、水溶性バインダー:カチオン性高分子定着剤:スチレン系サイズ剤が、40:5:0〜40:25:3であるのが好ましく、40:10:0.5〜40:20:2であるのがより好ましい。
【0032】
基材の両面に、水溶性バインダーとカチオン性高分子定着剤とスチレン系表面サイズ剤を含有するクリアーコート層を単に設けるには、例えば水溶性バインダー、カチオン性高分子定着剤及びスチレン系表面サイズ剤を前記範囲の質量比にて適宜配合したクリアーコート液を、例えばカレンダーコーター、サイズプレスコーター、ビルブレードコーター、メタリングバーコーター、エアナイフコーター、グラビアコーター等を用いて塗工する方法によることができるが、本形態においては、基材の両面に塗工するビルブレードコーターを用いる方法を採用することが好ましい。
【0033】
ビルブレードコーターは、片面ブレード、片面ロールで両面同時に塗工を行う設備である。基材は塗料の液溜りを通過して下に移動する。この時、塗料が基材両面に塗布され、次に基材はホルダーに取付けた柔軟なブレードとバッキングロールによって形成されるニップ(接触部)を通過する。このニップを通過する時、基材の両面に対する計量と平滑が行われ、塗工される。
【0034】
本形態では、基材表面のクリアーコート層は、ロールによるフィルムトランスファー塗工方式により塗布する方法が好ましい。フィルムトランスファー塗工方式は、塗工機に対する基材の引っ掛かりが生じないため安定性の点で優れるからである。また、裏面のクリアーコート層は、ブレードで掻き取るブレード塗工方式を使用することが好ましい。長網抄紙機により抄造されるインクジェット記録用紙の基材において、紙層内の微細繊維や填料分布の二面性は、裏面において顕著に見られる現象である。そこで、本形態においては、基材裏面はブレード方式で塗工することにより、基材表面の微細な凸凹に関係無く、繊維の抜け、填料分布のバラツキを補正するようにクリアーコート液を塗布することができ、非常に高い平滑性を得ることが出来る。一方で、裏面にロール塗工方式で塗工した場合には、填料のばらつきによる凹凸の形に合わせて、塗料が塗工されていくため、紙の表面における平滑度は改善されない。しかし、表面は抄紙時における微細繊維や填料の抜けやばらつきが少なく、表面性に優れるため、ロール塗工方式でクリアーコート液を少量で被膜性を得ながら塗工することができる。
【0035】
本形態では、長網抄紙による紙層内の填料分布の表裏差を改善するため、クリアーコート液の塗工量は、「表面のクリアーコート層の塗工量」が0.5〜1.5g/m2、「裏面のクリアーコート層の塗工量」が1.5〜2.5g/m2であることが好ましい。表裏面に塗工されるクリアーコート液の塗工量が前記下限値未満の場合には、クリアーコート層を設けた効果が充分に発現されず、印刷部の滲み、発色濃度を改善することが出来ない。他方、前記上限値を超える場合には、コスト上昇を招くと共に、基紙両面に被覆層が形成され、インク吸収乾燥性が低下し、インクの擦れや、招く恐れがある。
【0036】
さらに「裏面のクリアーコート層の塗工量」−「表面のクリアーコート層の塗工量」は、0.4g/m2〜2.0g/m2とされることがより好ましい。「裏面のクリアーコート層の塗工量」−「表面のクリアーコート層の塗工量」の塗工量差を0.4g/m2〜2.0g/m2とするのは、紙層内の微細繊維や填料分布の二面性は、裏面において顕著に見られる現象であるため、表面と裏面が同等の品質となるように、裏面の塗工量を多くする必要があるためである。
【0037】
さらに、クリアーコート層の表面は、平坦化処理を施すのが好ましい。本形態のインクジェット記録用紙においては、表面又は裏面のクリアーコート層に、例えば可変情報をインクジェット記録により印字、印刷することができる。
【0038】
表面又は裏面のクリアーコート層の平坦化処理を施すには、例えば熱ロールを有するソフトカレンダーを用いることができる。熱ロールを有するソフトカレンダーによる紙繊維に対するおだやかな平坦化処理は、比較的高温の熱ロールにより繊維相互の結合が良くなるとともに、紙の強度を向上させ印刷機における走行性も良くなる。また、弾性ロールは変形性が高いため、柔らかいニップによっても紙の薄い部分でもミクロの平滑度が改善される。さらにソフトニップが加熱されると表面の熱圧縮は非常に均一になり、紙層内部の小さい圧縮差を消し去り、ミクロのプロファイルが均一となりインキののりが良くなり、印刷画面は調和のとれたものとなる。本形態においては、表面のクリアーコート層と、裏面のクリアーコート層上の平坦化処理を行うことで、クリアーコート層面の水溶性バインダー、カチオン性高分子定着剤の浸漬により生じた凹凸を平坦にし、インクジェット記録時の印字、印刷情報の精細度を向上させることができる。
【0039】
以上の平坦化処理は、前記ビルブレード塗工機と一連をなす、いわゆるオンマシンのカレンダーによって行ってもよいし、塗工機と一連ではなく、完全に別体のオフマシンのカレンダーによって行ってもよい。
【0040】
〔インクジェット記録用紙〕
本形態のインクジェット記録用紙は、表裏両面におけるインクジェットインクの吸収乾燥性及び印字情報の鮮明性確保の観点から、動的吸水性試験における初期吸水特性の超音波透過強度が100%に到達するまでの時間が、表面側及び裏面側のいずれも0.10秒〜0.50秒とされているのが好ましく、0.20秒〜0.40秒とされているのがより好ましい。かかる吸水時間が0.10秒未満の場合には、インクジェット記録用紙としての耐水性が不充分になる恐れがあり、逆に0.50秒を超える場合には、インクジェットインクの顕色剤層での定着性が低く、印刷面の汚れや滲みが発生する恐れがある。かかる吸水時間を0.10〜0.50秒に調整することで、例えば高速インクジェット印刷機(商品番号:S6240J、(株)内田洋行製)にて、100m/分で印刷を行った場合でも、鮮明な印刷が可能になり、印刷面の汚れや滲みは発生しない。
【0041】
吸水時間を調整する方法は、内添サイズ剤の添加量やクリアーコート液の塗工量、クリアーコート液に含まれる表面サイズ剤の配合量等によって調整することができるが、本形態においては、特に表面はロール塗工方式で所定のクリアーコート液を所定量塗工し、裏面はブレード塗工方式で所定のクリアーコート液を所定量塗工することにより、吸水時間を調整するのが好ましい。
【0042】
また、この吸水性試験を行うにあたっては、ESTサイズ度計(商品名:EST、Emtec社製)を用いるのが好ましい。近年のインクジェットプリンターは、極めて高速であり、実際の印刷条件に近い状態で品質管理をする必要があり、瞬間的な(実際に印刷が行われている状態の動的な)用紙の吸水度管理が必要となる。このような状況のもとに、印刷用紙に対してもより高品質なものが求められていることに鑑み、本実施形態においては、ESTサイズ度計を用いて瞬間的な吸水性試験値を測定する。
【0043】
一方、本形態のインクジェット記録用紙は、JIS P 8122に準拠したステキヒトサイズ度が、表面側及び裏面側のいずれも11秒〜45秒とされているのが好ましく、20秒〜39秒にするのがより好ましく、さらには28秒〜32秒とされているのが最も好ましい。ステキヒトサイズ度が、11秒未満であると、印字鮮明度、インク裏抜け、インク発色が悪くなる問題があり、45秒を超えると、インクの吸収性が低く、記録面にインクが溜まり、擦れ、裏移りが生じやすく、またインク乾燥性が悪くなる問題がある。本形態の所定のステキヒトサイズ度のインクジェット記録用紙を用いることにより、インクが非常に早く紙に吸収され、インクが乾燥しやすくなり、ドット径が必要以上に大きくなることがなくなり、インクが重なって滲むことがなくなる。
【0044】
ステキヒトサイズ度を調整する方法は、内添サイズ剤の添加量やクリアーコート液の塗工量クリアーコート液に含まれる表面サイズ剤の配合量等によって調整することができるが、本形態においては、特に表面はロール塗工方式で所定のクリアーコート液を所定量塗工し、裏面はブレード塗工方式で所定のクリアーコート液を所定量塗工した上で吸水時間を調整するのが好ましい。
【実施例】
【0045】
次に、本発明の実施例を説明するとともに、本発明の技術的優位性を示す。
【0046】
〔実施例1〕
広葉樹クラフトパルプ(LBKP)50質量%に、古紙パルプ(DIP)50質量%の比率構成からなるパルプスラリーを調整した。かくして得られたパルプスラリーに、内添サイズ剤として、アルキルケテンダイマー(AKD、星光PMC社製:AS−267)を固形分換算で0.24質量%配合し、填料として、炭酸カルシウム(東洋電化工業株式会社製:TNC−C30)を配合し、灰分が10質量%となるようにし、長網抄紙機にて抄紙した。その後、ビルブレードコーターにて水溶性バインダーとして酸化澱粉(日本食品加工社製:MS−3800)を固形分換算で3.0質量%、カチオン性高分子定着剤として変性ポリアミン系インク定着剤(星光PMC社製:T−DK168)を固形分換算で0.75質量%、表面サイズ剤として、スチレン−アクリル酸共重合体(星光PMC社製:SS−2700)を固形分換算で0.075質量%を配合したクリアーコート液を、基材表面に1.0g/m2、基材裏面に2.0g/m2塗工し、その後ソフトカレンダーにて平坦化処理を施し、坪量80g/m2の試験紙を得た。
【0047】
そして、この試験紙の表面と裏面の両面に対して、温度20℃、湿度20%の条件下で、インクジェットプリンター(PM950C:セイコーエプソン社製)によって、印字した。この印字は、3原色(シアン、マゼンタ、イエロー)の重ね色で構成される赤、緑、紫をそれぞれ交互に、大きさ3.0cm×3.0cmとなるように行った。
【0048】
〔他の実施例及び比較例〕
実施例1について、表1に示すように各種条件を変化させて、実施例2〜33及び比較例とした。また、全ての実施例及び比較例について、動的吸水性、サイズ度、印字鮮明度、インク裏抜け、インク発色、インク乾燥性を評価し、表2に示した。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
各種条件及び評価項目の詳細は、次に示すとおりである。
【0052】
(動的吸水性)
超音波透過強度が100%に到達する吸水時間を、ESTサイズ度計(商品名:EST、Emtec社製)を用いて測定した。この測定においては、まず、試験紙(75mm×50mm)を両面テープでフォルダーに固定し、溶媒(水350ml)を満たした試験容器に沈める。この際、フォルダーは、試験容器内に設けられた、超音波の発信素子と受信素子との間に沈める。試験紙と溶媒とが接触してから0.025秒後に測定を開始する。超音波の透過強度は溶媒が試験紙中へ浸透するのに伴って変化するので、超音波透過強度(%)と経過時間(s)とのグラフがESTサイズ度計のモニターに表示される。このグラフを読みとることによって吸水時間を求めることができる。なお、測定用の超音波周波数は2MHzである。
【0053】
(サイズ度)
JIS P 8122に準拠してステキヒトサイズ度を測定した。
【0054】
(印字鮮明度)
キャノン(株)製のインクジェットプリンタ(型番:BJシリーズ)を使用し、印字モードを普通紙:文書にして、サイテックス社製のインク(型番:1069)でアルファベットおよび数字を印字した時の滲み(繊維に沿って流れる現象)の有無を目視により観察し、評価した。
◎:インクの滲みなし。
○:若干インクの滲みが見られるが文字の判別に支障はない。
△:若干インクの滲みが見られ、文字の判別が多少困難である。
×:インクの滲みが多く、文字の判別が困難である。
【0055】
(インク裏抜け)
キャノン(株)製のインクジェットプリンタ(型番:BJシリーズ)を使用し、印字モードを文書:パターンにして、サイテックス社製のインク(型番:1069)でベタ印字した後、裏面へのインク抜けの有無を目視により観察し、評価した。
◎:印字が透けて見えない。
○:若干印字が透けて見えるが、表面に印刷した文字の判別に支障はない。
△:若干印字が透けて見え、表面に印刷した文字の判別が多少困難である。
×:印字が全体的に透けて見え、表面に印刷した文字の判別が困難である。
【0056】
(インク発色)
キャノン(株)製のインクジェットプリンタ(型番:BJシリーズ)を使用し、印字モードを文書:パターンにして、サイテックス社製のインク(型番:1069)でベタ印字した後、ベタ印字部の濃度をインク濃度計(Macbeth社製)により計測して評価した。
◎:インク濃度 1.20以上。
○:インク濃度 1.16〜1.19。
△:インク濃度 1.00〜1.15。
×:インク濃度 1.00未満。
【0057】
(インク乾燥性)
キャノン(株)製のインクジェットプリンタ(型番:BJシリーズ)を使用し、印字モードを文書:パターンにして、サイテックス社製のインク(型番:1069)でベタ印字した後、5秒後にベタ部を指でこすり指へのインク付着度合いを目視にて判断した。
◎:指の汚れなし。
○:指の汚れはほとんどなく、文字の擦れによる判別に支障はない。
△:指の汚れが若干あり、文字の擦れによる判別が多少困難である。
×:指が汚れがあり、文字の擦れによる判別が困難である。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、特に、長網で抄紙した場合の紙面の表裏差を改善し、裏面に印字した場合のインクの滲みを改善し、裏面における記録した印字の鮮明さ、インク発色濃度に優れる普通紙タイプのインクジェット記録用紙として、適用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料としてパルプを主成分とし、かつ長網抄紙機により抄造された基材の表面及び裏面に、それぞれクリアーコート層が設けられたインクジェット記録用紙であって、
前記表面のクリアーコート層と、前記裏面のクリアーコート層とが、異なる塗工手段によって設けられ、
これらのクリアーコート層は、いずれも水溶性バインダー及びカチオン性高分子定着剤を主成分とする、ことを特徴とするインクジェット記録用紙。
【請求項2】
動的吸水性試験における初期吸水特性の超音波透過強度が100%に到達するまでの時間が、表面側及び裏面側のいずれも0.10秒〜0.50秒とされ、
JIS P 8122に準拠したステキヒトサイズ度が、表面側及び裏面側のいずれも11秒〜45秒とされている、請求項1記載のインクジェット記録用紙。
【請求項3】
前記表面のクリアーコート層の塗工量が、0.5〜1.5g/m2、前記裏面のクリアーコート層の塗工量が1.5〜2.5g/m2とされている、請求項1又は請求項2記載のインクジェット記録用紙。
【請求項4】
前記表面のクリアーコート層はロール塗工方式によって、前記裏面のクリアーコート層はブレード塗工方式によって、それぞれ塗工され、かつ
「前記裏面のクリアーコート層の塗工量」−「前記表面のクリアーコート層の塗工量」が、0.4g/m2〜2.0g/m2とされている、請求項1〜3のいずれか1項に記載のインクジェット記録用紙。

【公開番号】特開2009−154507(P2009−154507A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−338757(P2007−338757)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(390029148)大王製紙株式会社 (2,041)
【Fターム(参考)】