説明

インクジェット記録装置による画像形成方法

【課題】記録ヘッドからインクがしばらく吐出されなかった後に画像を形成する際の画像の乱れを抑制することができ、良好な印字濃度で、オフセットによる被記録媒体の汚染を生じることなく良好な画像を形成することができる画像形成方法を提供すること。
【解決手段】2色以上のインクを用いる、2以上の記録ヘッドと、被記録媒体を排出する排出部とを備えるラインヘッド方式のインクジェット記録装置により画像形成する際に、顔料と樹脂と水と有機溶剤とを含み、樹脂の酸価が特定の範囲である2色以上のインクを、樹脂の酸価を基準とする特定の順序で吐出して画像を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2色以上のインクを用いる、2以上の記録ヘッドを備えるラインヘッド方式のインクジェット記録装置による画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、記録技術の急速な進歩により銀塩写真に匹敵する高精細な画質を得ることが可能となっていることから、インクジェット記録方式により画像を形成するインクジェット記録装置が画像形成装置として広く使用されている。
【0003】
かかるインクジェット記録装置について、画像の品質を維持しつつ、画像形成速度を向上させることが強く望まれている。そして、画像形成速度を高速化するためには、ラインヘッド方式のインクジェット記録装置の使用が有効である。しかし、ラインヘッド方式のインクジェット記録装置において高速で画像形成を行った場合、インクが紙等の被記録媒体に浸透する前に被記録媒体が排出ローラーで搬送されて排出されてしまい、インクが排出ローラーに付着(オフセット)することがあり、この場合には画像不良が発生しやすくなる。オフセットの発生を抑制するためには、インクの吐出量を低減することや、インクの被記録媒体への浸透性や乾燥性を高めることが考えられるが、かかる場合、前者では十分な濃度の画像を形成しにくく、後者では記録ヘッドからインクがしばらく吐出されなかった後に画像を形成する際に、インクの粘度変化等によるインクの吐出不良が生じ、画像の乱れが生じる場合がある。
【0004】
かかる事情から、紙等の被記録媒体へのインクの浸透性に優れ、良好な濃度の画像を形成でき、インクがしばらく吐出されなかった後に画像を形成する際の画像の乱れが発生しにくい画像形成方法として、水の含有量が全インク質量に対し10質量%以上、50質量%未満であり、また、有機溶媒の少なくとも1種は、SP値が16.5以上、24.6未満の水溶性有機溶媒であって、SP値が16.5以上、24.6未満の水溶性有機溶剤の含有量が、全インク質量の30質量%以上であるインクから構成されるインクセットを用い、インクセットのなかでインク中の色材濃度が高いインクほど印字順序を早くする、ラインヘッド方式のインクジェット記録装置による画像形成方法が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−145926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の画像形成方法によれば、良好な印字濃度で画像を形成できる。しかし、特許文献1に記載の画像形成方法に用いるインクでは、樹脂により顔料が分散された顔料分散体が使用されている。そして、オフセットの問題の発生のしやすさと、記録ヘッドからインクがしばらく吐出されなかった後に画像を形成する際の画像の乱れの発生のしやすさとは、顔料分散体の調製条件や、顔料分散体の調製に用いた樹脂の性質に大きく影響される。このため、特許文献1に記載の画像形成方法では、必ずしも、記録ヘッドからインクがしばらく吐出されなかった後に画像を形成する際の画像の乱れの抑制と、オフセットによる被記録媒体の汚染の抑制とを解決できない。
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、記録ヘッドからインクがしばらく吐出されなかった後に画像を形成する際の画像の乱れを抑制することができ、良好な印字濃度で、オフセットによる被記録媒体の汚染を生じることなく良好な画像を形成することができる画像形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、2色以上のインクを用いる、2以上の記録ヘッドと、被記録媒体を排出する排出部とを備えるラインヘッド方式のインクジェット記録装置により画像形成する際に、顔料と樹脂と水と有機溶剤とを含み、樹脂の酸価が特定の範囲である2色以上のインクを、樹脂の酸価を基準とする特定の順序で吐出して画像を形成することにより上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0009】
(1) 2色以上のインクを用いる、2以上の記録ヘッドと、被記録媒体を排出する排出部とを備えるラインヘッド方式のインクジェット記録装置による画像形成方法であって、
前記2色以上のインクは、顔料と樹脂と水と有機溶剤とを含み、
前記2色以上のインクは、インクに含まれる樹脂の酸価が60〜200mgKOH/g以上であり、
最後に吐出されるインクに含まれる樹脂の酸価が、1色目に吐出されるインクに含まれる樹脂の酸価よりも高く、
最後に吐出されるインクに含まれる樹脂の酸価が100〜200mgKOH/gである、画像形成方法。
【0010】
(2) 前記1色目に吐出されるインクに含まれる樹脂の酸価が60〜100mgKOH/gである、(1)記載の画像形成方法。
【0011】
(3) 2色目から最後に吐出されるインクに含まれる樹脂の酸価が、それぞれ、前の順に吐出されるインクに含まれる樹脂の酸価以上である、(1)、又は(2)記載の画像形成方法。
【0012】
(4) 前記2色以上のインクが、インクに含まれる前記樹脂と前記顔料とについて、樹脂の質量/顔料の質量の値が0.3以上1.0未満である、(1)〜(3)何れか記載の画像形成方法。
【0013】
(5) 最後に吐出されたインクが前記被記録媒体表面に着弾してから、該着弾箇所が前記排出部に接触するまでの時間が1秒以内である、(1)〜(4)何れか記載の画像形成方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、記録ヘッドからインクがしばらく吐出されなかった後に画像を形成する際の画像の乱れを抑制することができ、良好な印字濃度で、オフセットによる被記録媒体の汚染を生じることなく良好な画像を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、ラインヘッド型の記録方式のインクジェット記録装置の概略構成を示す側面断面図である。
【図2】図2は、図1に示されるインクジェット記録装置の搬送ベルトを上方から見た平面図である。
【図3】図3は、ラインヘッド型の記録方式のインクジェット記録装置の構成を示すブロック図である。
【図4】図4は、ラインヘッド型の記録方式のインクジェット記録装置に用いられるラインヘッドと記録用紙上に形成されたドット列の一部を示す拡大平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施できる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の要旨を限定するものではない。
【0017】
本発明の画像形成方法は、2色以上のインクを用いる、2以上の記録ヘッドと、被記録媒体を排出する排出部とを備えるラインヘッド方式のインクジェット記録装置による画像形成方法である。また、本発明の画像形成方法は、顔料と樹脂と水と有機溶剤とを含むインクを用いる画像形成方法であって、各記録ヘッドから吐出されるインクに含まれる樹脂の酸価が所定の範囲の値であり、1色目のインクと最後に吐出されるインクとに含まれる樹脂の酸価が所定の関係を満たし、最後に吐出されるインクに含まれる樹脂の酸価を特定の範囲の値としたものである。以下、本発明に関して、インク、インクの製造方法、及び画像形成方法について順に説明する。
【0018】
〔インク〕
本発明において用いるインクは、顔料と樹脂と水と有機溶剤とを含むものである。また、本発明において用いるインクは、必要に応じ、インクに含まれる成分の溶解状態を安定化させる溶解安定剤、及びインクから液体成分の揮発を抑制してインクの粘性を安定化させる保湿剤を含んでいてもよい。なお、本発明において用いるインクにおいて、顔料と樹脂とは、顔料分散体として含有される。
【0019】
本発明では、2色以上のインクが使用されるが、インクの数は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。種々の色相の画像を良好に形成でき、記録ヘッドの数を少なくしインクジェット記録装置を小型化しやすいことから、ブラックインク、シアンインク、イエローインク、及びマゼンタインクからなる4色のインクを使用するのが好ましい。
【0020】
以下、本発明において用いるインクに関して、顔料分散体、水、有機溶剤、溶解安定剤、及び保湿剤について順に説明する。
【0021】
(顔料分散体)
顔料分散体中に含有させることができる顔料は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されず、従来からインクジェット記録装置用インクの着色剤として使用されている顔料から適宜選択して使用できる。シアンインクに使用される顔料の具体例としてはC.I.ピグメントブルー15等の青色顔料が挙げられ、イエローインクに使用される顔料の具体例としては、C.I.ピグメントイエロー74、93、95、109、110、120、128、138、139、151、154、155、173、180、185、193等の黄色顔料が挙げられ、マゼンタインクに使用される顔料としてはC.I.ピグメントレッド122、202等の赤色顔料が挙げられ、ブラックインクに使用される顔料としてはC.I.ピグメントブラック7(B.K−7、カーボンブラック)等の黒色顔料等が挙げられる。
【0022】
上記の他の色相の顔料の具体例としては、C.I.ピグメントオレンジ34、36、43、61、63、71等の橙色顔料、C.I.ピグメントバイオレット19、23、33等の紫色顔料等が挙げられる。これらの顔料を2種以上組み合わせて用い、インクの色相を所望の色相に調整することができる。
【0023】
なお、マゼンタインクについては、広い色域で、良好な色相を再現できることから、顔料としてC.I.ピグメントレッド122(P.R−122)を用いるのがより好ましい。
【0024】
インクにおける顔料の含有量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。典型的には、シアンインクでは6〜8.5質量%が好ましく、イエローインクでは6〜8.5質量%が好ましく、マゼンタインクでは7.5〜8質量%が好ましく、ブラックインクでは6〜7.5質量%が好ましい。各色のインクにおける顔料の含有量をかかる範囲とする場合、良好な印字濃度で画像を形成でき、記録ヘッドからインクがしばらく吐出されなかった後に画像を形成する際の画像の乱れを抑制できる良好な間欠吐出性(記録ヘッドからインクがしばらく吐出されなかった後に画像を形成する際のインク吐出性能)を実現でき、オフセットによる被記録媒体の汚染も生じにくくなる。
【0025】
顔料分散体に含まれる樹脂は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されず、従来から顔料分散体の製造に用いられている種々の樹脂から適宜選択して使用できる。好適な樹脂の具体例としては、スチレン−アクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−マレイン酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−マレイン酸ハーフエステル共重合体、ビニルナフタレン−アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合体等が挙げられる。これらの樹脂の中では、調製が容易で、顔料の分散効果に優れることから、スチレン−アクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−マレイン酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸アルキルエステル共重合体等の、スチレンに由来する単位と、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、又はメタクリル酸エステルに由来する単位とを含むスチレン−アクリル系樹脂が好ましい。上記の樹脂は、ラジカル重合により得られる。
【0026】
本発明では、顔料分散体の調製に用いる樹脂として、酸価が60〜200mgKOH/gの樹脂を用いる。樹脂の酸価は、樹脂を合成する際に、アクリル酸、メタクリル酸等の酸性の官能基(例えばカルボキシ基)を有する単量体の使用量を適宜調整することにより調整できる。具体的には、酸性の官能基を有する単量体の使用量を増やすことにより酸価を高めることができる。樹脂の酸価は以下の方法に従って、滴定により測定できる。
【0027】
<酸価測定方法>
樹脂10gを300mlの三角フラスコに秤量し、エタノール:ベンゼン=1:2の混合溶媒約50ml加えて樹脂を溶解させる。次いで、フェノールフタレイン指示薬を用い、あらかじめ標定された0.1mol/Lの水酸化カリウムエタノール溶液で滴定し、滴定に用いた水酸化カリウムエタノール溶液の量から、下記計算式(1)で酸価(mgKOH/g)を求めた。なお、樹脂によって、エタノール:ベンゼン=1:2の混合溶媒約50mlに溶解しないものは、エタノール50ml、あるいは、エタノール/純水=1:1の混合溶媒約50mlのどちらか溶解するほうを選択して、他は同じ操作にて滴定を行った。
計算式(1)
A=(B×f×5.611)/S
式中、Aは樹脂の酸価(mgKOH/g)、Bは滴定に用いた0.1mol/L水酸化カリウムエタノール溶液の量(ml)、fは0.1mol/リットル水酸化カリウムエタノール溶液のファクター、Sは、樹脂の質量(g)、5.611は、水酸化カリウムの式量(56.11/10)である。
【0028】
顔料分散体の調製に用いる樹脂の重量平均分子量(Mw)は本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されないが、10000〜200000であるのが好ましく、10000〜100000であるのがより好ましい。顔料分散体に含まれる樹脂の重量平均分子量(Mn)はゲルろ過クロマトグラフィーにより測定できる。樹脂の重量平均分子量が過小であれば、オフセットによる被記録媒体の汚染が生じやすく、良好な濃度の画像を形成しにくい。樹脂の重量平均分子量が過大であれば、記録ヘッドからインクがしばらく吐出されなかった後に画像を形成する際のインクの吐出不良が生じやすい。
【0029】
本発明において使用するインクにおける樹脂の使用量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されないが、インクに含まれる樹脂の質量と顔料の質量とが、樹脂の質量/顔料の質量の値として、0.3以上1.0未満となるのが好ましい。樹脂、及び顔料の質量をかかる範囲とすることにより、良好な印字濃度を有する画像の形成と間欠吐出性とを実現できる。
【0030】
顔料と樹脂とを含む顔料分散体を製造する方法は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されず、従来知られる方法から適宜選択できる。好適な方法としては、例えば、ナノグレンミル(浅田鉄工株式会社製)、MSCミル(三井鉱山株式会社製)、ダイノミル(株式会社シンマルエンタープライゼス製)等のメディア型湿式分散機を用いて、水等の適切な液体の媒体中において、顔料と樹脂とを混練して顔料分散体とする方法が挙げられる。メディア型湿式分散機による処理では、顔料を粉砕分散するために小粒径のビーズを用いる。ビーズの粒子径は特に限定されず、典型的には粒径0.5〜1.0mmである。また、ビーズの材質は特に限定されず、ジルコニア等の硬質の材料が使用される。
【0031】
(水)
本発明において用いるインクは、水性インクであり、水を必須に含む。インクに含まれる水は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されず、従来から、水性インクの製造に使用されている水から、所望の純度の水を適宜選択して使用できる。インクにおける水の含有量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。水の含有量は、後述する、他の成分の使用量に応じて適宜変更される。インクにおける典型的な水の含有量としては、インクの全質量に対して20〜70質量%が好ましく、30〜60質量%がより好ましい。
【0032】
(有機溶剤)
本発明において用いるインクは、インクの被記録媒体への浸透を促進させる目的等で有機溶剤を含む。好適な有機溶剤の具体例としては、エチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテルが挙げられる。これらの有機溶剤は、1種類を単独で用いても、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。インクにおける有機溶剤の含有量はインクの全質量に対して10〜60質量%が好ましく、20〜50質量%がより好ましい。
【0033】
(溶解安定剤)
溶解安定剤は、インクに含まれる成分を相溶化してインクの溶解状態を安定化させる成分である。溶解安定剤の具体例としては、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、及びγ−ブチロラクトン等が挙げられる。これらの溶解安定剤は2種以上を組み合わせて用いることができる。インクが溶解安定剤を含有する場合、溶解安定剤の含有量は、インクの全質量に対して1〜20質量%が好ましく、3〜15質量%がより好ましい。
【0034】
(保湿剤)
保湿剤は、インクから液体成分の揮発を抑制してインクの粘性を安定化させる成分である。保湿剤の具体例は、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオジグリコール、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール等のアルキレングリコール類;グリセリンである。これらの、保湿剤の中では、水等の液体成分の揮発の抑制効果に優れることからグリセリンがより好ましい。保湿剤は2種以上を組み合わせて用いることができる。インクが保湿剤を含有する場合、保湿剤の含有量は、インクの全質量に対して5〜50質量%が好ましく、10〜40質量%がより好ましい。
【0035】
〔インクの製造方法〕
インクの製造方法は、顔料分散体、水、有機溶剤等のインク成分を均一に混合することができれば特に限定されない。インクジェット記録装置用インクの製造方法の具体例としては、インクの各成分を混合機により均一に混合した後、孔径10μm以下のフィルターにより異物や粗大粒子を除去する方法が挙げられる。なお、インクを製造する際には、必要に応じて溶解安定剤、保湿剤等の成分や、界面活性剤、酸化防止剤、粘度調整剤、pH調整剤、防腐防カビ剤等の、従来からインクジェット記録装置用のインクに加えられている種々の添加剤を加えることができる。
【0036】
〔画像形成方法〕
以下、図面を参照して、本発明の2色以上のインクを用いる、2以上の記録ヘッドと、被記録媒体を排出する排出部とを備えるラインヘッド方式のインクジェット記録装置による画像形成方法について説明する。ここでは、好適な例として、4つの記録ヘッドを備えるラインヘッド型の記録方式のインクジェット記録装置を用い、被記録媒体として記録用紙を用いて、ブラックインク、シアンインク、マゼンタインク、及びイエローインクを用いて画像を形成する場合に関して説明する。かかる場合、少ない色数のインクで種々の色相を良好に表現でき、インクジェット記録装置を小型化できる。図1は、ラインヘッド型の記録方式のインクジェット記録装置の概略構成を示す側面断面図であり、図2は、図1に示すインクジェット記録装置の搬送ベルトを上方からみた平面図である。
【0037】
図1に示すように、インクジェット記録装置100の左側部には記録用紙Pを収容する給紙トレイ2(給紙部)が設けられており、この給紙トレイ2の一端部には収容された記録用紙Pを、最上位の記録用紙Pから順に一枚ずつ後述する搬送ベルト5へと搬送給紙するための給紙ローラー3及び給紙ローラー3に圧接され従動回転する従動ローラー4が設けられている。
【0038】
給紙ローラー3及び従動ローラー4の用紙搬送方向Xの下流側(図1において右側)には、搬送ベルト5が回転自在に配設されている。搬送ベルト5は、用紙搬送方向Xの下流側に配置されたベルト駆動ローラー6と、上流側に配置され搬送ベルト5を介してベルト駆動ローラー6に従動回転するベルトローラー7とに掛け渡されており、ベルト駆動ローラー6が時計方向に回転駆動されることにより、記録用紙Pが矢印X方向に搬送される。
【0039】
ここで、用紙搬送方向Xの下流側にベルト駆動ローラー6を配置したことにより、搬送ベルト5の用紙送り側(図1において上側)はベルト駆動ローラー6に引っ張られるようになるため、ベルトテンションを張ることができ、安定した記録用紙Pの搬送が可能となる。なお、搬送ベルト5には誘電体樹脂製のシートが用いられ、継ぎ目を有しない(シームレス)ベルト等が好適に用いられる。
【0040】
また、搬送ベルト5の用紙搬送方向Xの下流側には、図中時計回りに駆動され画像が記録された記録用紙Pを装置本体外へと排出する排出ローラー8a、及び排出ローラー8aの上部に圧接され従動回転する従動ローラー8bが設けられており、排出ローラー8a及び従動ローラー8bの下流側には、装置本体外へと排出された記録用紙Pが積載される排紙トレイ10が設けられている。
【0041】
従動ローラー8bは記録用紙Pの印字面に直接触れるため、従動ローラー8bの表面を形成する素材は撥水性材料であるのが好ましい。従動ローラー8bの表面を撥水性材料により形成することにより、記録用紙Pに浸透していないインクのローラーへの付着を抑制でき、オフセットの発生を抑制しやすい。好適な撥水材料としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−フッ化ビニリデン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン−エチレン共重合体、クロロトリフルオロエチレン−フッ化ビニリデン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル等のフッ素樹脂が挙げられる。従動ローラー8bと同様に、記録用紙Pの印字面に接触する部材の表面は撥水性材料により形成するのが好ましい。
【0042】
そして、搬送ベルト5の上方には、搬送ベルト5の上面に対して所定の間隔が形成されるような高さに支持され、搬送ベルト5上を搬送される記録用紙Pへと画像の記録を行うラインヘッド11a、11b、11c、及び11dが配設されている。これらのラインヘッド11a〜11dには、インクに含まれる樹脂の酸価が60〜200mgKOH/gである4色(シアン、マゼンタ、イエロー及びブラック)の着色インクが、1色目のラインヘッド11aから吐出されるインクに含まれる樹脂の酸価が、4色目のラインヘッド11dから吐出されるインクに含まれる樹脂の酸価よりも低く、4色目に吐出されるインクに含まれる樹脂の酸価が100〜200mgKOH/gとなるように充填されており、各ラインヘッド11a〜11dからそれぞれの着色インクを吐出することにより記録用紙P上にカラー画像が形成される。
【0043】
インクに含まれる樹脂と顔料との質量比(樹脂/顔料質量比)は特に限定されないが、0.3以上1.0未満であれば、良好な印字濃度で画像を形成でき、記録ヘッドからインクがしばらく吐出されなかった後に画像を形成する際の画像の乱れを抑制できる。
【0044】
また、インクに含まれる樹脂の酸価が60〜200mgKOH/gであれば、良好な印字濃度で画像を形成でき、記録ヘッドからインクがしばらく吐出されなかった後に画像を形成する際の画像の乱れと、オフセットによる記録用紙Pの汚染とを抑制できる。樹脂の酸価が低すぎる場合、形成画像の印字濃度が低下し、オフセットにより記録用紙Pが汚染されやすくなる。樹脂の酸価が高すぎる場合、記録ヘッドからインクがしばらく吐出されなかった後に画像を形成する際に、形成した画像に乱れが生じやすい。樹脂の酸価が低すぎる場合、形成画像の印字濃度が低下する場合がある。
【0045】
なお、ラインヘッドが排出部8に近いほど、インクが十分に乾燥しきらないうちに記録用紙Pが排出部に到達しやすくなるため、オフセットによる記録用紙Pの汚染は生じやすくなる。よって、ラインヘッド11dは排出部8に最も近いため、4色のインクを吐出して画像を形成する際に、ラインヘッド11dより吐出される4色目のインクが、オフセットによる記録用紙の汚染に最も影響を与える。このため、4色目に吐出されるインクに含まれる樹脂の酸価を100mgKOH/g以上という高めの値に設定することにより、オフセットによる記録用紙Pの汚染が抑制される。
【0046】
良好な画像を形成するためには、1色目には印字濃度の高い画像を形成できるインクを吐出するのが好ましい。インクの顔料濃度を高めれば、形成した画像の画像濃度を高めることができるが、この場合、間欠吐出性が損なわれる場合がある。しかし、インクに含まれる樹脂の酸価を下げれば、インクの間欠吐出性を改善することができる。よって、1色目に吐出されるインクに含まれる樹脂の酸価を、4色目に吐出されるインクに含まれる樹脂の酸価よりも低くすることにより、1色目に吐出されるインクの顔料の含有量を高めたとしても、1色目に吐出されるインクの間欠吐出性を良好な状態に維持しやすい。かかる場合、1色目に吐出されるインクに含まれる樹脂の酸価は、60〜100mgKOH/gであるのが好ましい。これによって、本発明の画像形成方法によれば良好な画像を形成できる。
【0047】
さらに、ラインヘッド11aは排出部8から遠いため、記録用紙P上のインク液滴の着弾点が、排出部8に到達するまでにインクの乾燥が進行しやすい。このため、ラインヘッド11aから吐出されるインクは、オフセットにより記録用紙Pの汚染が生じやすい酸価の低い樹脂を含むインクであっても、オフセットによる記録用紙Pの汚染が生じにくい。
【0048】
最初に吐出されるインクと、最後に吐出されるインクとの中間に吐出されるインク、即ち、ラインヘッド11b、及び11cから、2色目、及び3色目に吐出されるインクに含まれる樹脂の酸価は、60〜200mgKOH/gであれば特に限定されない。ラインヘッド11b、及び11cは、4色目のインクを吐出するラインヘッド11dよりも、排出部8から離れた位置に配置される。このため、酸価が低すぎる場合、オフセットにより記録用紙Pが汚染されやすい傾向があっても、樹脂の酸価が60mgKOH/g以上であれば、2色目、及び3色目に吐出されるインクに起因する、オフセットによる記録用紙Pの汚染は起こりにくい。
【0049】
なお、樹脂の酸価が高い程、オフセットによる記録用紙Pの汚染が起こりにくく、吐出順が遅いインクほど、排出部8に近いラインヘッドから吐出されるために記録用紙Pの汚染が起こりやすい。このため、オフセットによる記録用紙Pの汚染をより抑制しやすくするためには、2色目〜4色目に吐出されるインクに含まれる樹脂の酸価は、前の順に吐出されるインクに含まれる樹脂の酸価以上であるのが好ましい。
【0050】
第2実施形態について、4色のインクを用いて画像を形成する方法について説明しているが、最初に吐出されるインクと、最後に吐出されるインクと、これらのインクの中間に吐出されるインクに含まれる樹脂の酸価の関係は、3色、又は5色以上の多色のインクを用いて画像を形成する場合でも同様である。
【0051】
各ラインヘッド11a〜11dの内、ラインヘッド11dから吐出されたインクの液滴が記録用紙Pに着弾してから、記録用紙Pにおけるインクの着弾箇所が、排出ローラー8a、及び従動ローラー8bからなる記録用紙Pを排出する排出部8に到達するまでの時間は装置を小型化するためには1秒以内であるのが好ましい。かかる時間を1秒以内とした場合であっても、本発明の画像形成方法によれば、高速での画像形成時のオフセットの発生の抑制の効果が充分に得られる。
【0052】
また、記録用紙Pに各ラインヘッド11a〜11dから吐出され、記録用紙Pに打ち込まれるインクの総量は10g/m以下が好ましく、7g/m以下がより好ましい。インクの吐出量をかかる量とすることにより、オフセットの発生を抑制しつつ高速で画像形成しやすい。
【0053】
これらのラインヘッド11a〜11dは、図2に示すように、搬送方向と直交する方向(図2の上下方向)に複数のノズルが配列されたノズル列を備え、搬送される記録用紙Pの幅以上の記録領域を有しており、搬送ベルト5上を搬送される記録用紙Pに対して、一括して1行分の画像を記録することができるようになっている。
【0054】
なお、ラインヘッド型の記録方式のインクジェット記録装置においては、搬送ベルト5の幅寸法以上に形成された長尺のヘッド本体の長手方向に複数のノズルを配列させることで、記録用紙Pの幅以上の記録領域を有するように構成されたラインヘッドを用いているが、例えば各々複数個のノズルを備えた短尺のヘッドユニットを搬送ベルト5の幅方向に複数配列することにより、搬送される記録用紙Pの幅方向全幅にわたって画像を記録できるようにしたラインヘッドを用いても構わない。
【0055】
また、ラインヘッド11a〜11dのインクの吐出方式としては、例えば、図示しない圧電素子(ピエゾ素子)を用いてラインヘッド11a〜11dの液室内に生じる圧力を利用してインクの液滴を吐出する圧電素子方式や、発熱体によって気泡を発生させ、圧力をかけてインクを吐出するサーマルインクジェット方式等、各種方式を適用することができる。インクの吐出方式は、吐出量の制御が容易であることから圧電素子方式が好ましい。
【0056】
図3は、ラインヘッド型の記録方式のインクジェット記録装置の構成を示すブロック図である。図1及び図2と共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。インクジェット記録装置100には制御部20が備えられており、制御部20には、インターフェイス21、ROM22、RAM23、エンコーダー24、モーター制御回路25、ラインヘッド制御回路26、及び電圧制御回路27等が接続されている。
【0057】
インターフェイス21は、例えば、図示しないパソコン等のホスト装置とデータの送受信を行う。制御部20は、インターフェイス21を介して受信された画像信号に、必要に応じて変倍処理あるいは階調処理を施して画像データに変換する。そして、後述する各種制御回路に制御信号を出力する。
【0058】
ROM22は、ラインヘッド11a〜11dを駆動させて画像記録を行う際の制御プログラム等を記憶している。RAM23は、制御部20により変倍処理或あるいは階調処理された画像データを所定の領域に格納する。
【0059】
エンコーダー24は、搬送ベルト5を駆動する排紙側のベルト駆動ローラー6に接続されており、ベルト駆動ローラー6の回転軸の回転変位量に応じてパルス列を出力する。制御部20は、エンコーダー24から送信されるパルス数をカウントすることで回転量を算出し、用紙の送り量(用紙位置)を把握する。そして制御部20は、エンコーダー24からの信号に基づいて、モーター制御回路25及びラインヘッド制御回路26に制御信号を出力する。
【0060】
モーター制御回路25は、制御部20からの出力信号により記録媒体搬送用モーター28を駆動する。記録媒体搬送用モーター28は駆動してベルト駆動ローラー6を回転させ、搬送ベルト5を図1の時計回りに回動させて用紙を矢印X方向へと搬送する。
【0061】
ラインヘッド制御回路26は、制御部20からの出力信号に基づいて、RAM23に格納された画像データをラインヘッド11a〜11dへ転送し、転送された画像データに基づいてラインヘッド11a〜11dからのインクの吐出を制御する。かかる制御と、記録媒体搬送用モーター28によって駆動する搬送ベルト5による用紙の搬送の制御とにより、用紙への記録処理が行われる。
【0062】
電圧制御回路27は、制御部20からの出力信号に基づいて給紙側のベルトローラー7に電圧を印加することにより交番電界を発生させ、搬送ベルト5に用紙を静電吸着させる。静電吸着の解除は、制御部20からの出力信号に基づいてベルトローラー7又はベルト駆動ローラー6を接地させることにより行われる。なお、ここでは給紙側のベルトローラー7に電圧を印加する構成としたが、排紙側のベルト駆動ローラー6に電圧を印加する構成としてもよい。
【0063】
ラインヘッド型の記録方式のインクジェット記録装置を用いてドットを形成する方法を、図4を用いて具体的に説明する。なお、図4では図1及び図2に示したラインヘッド11a〜11dのうち、ラインヘッド11aを例に挙げて説明するが、他のラインヘッド11b〜11dについても全く同様に説明される。
【0064】
図4に示すように、ラインヘッド11aには複数個のノズルからなるノズル列N1、N2が記録用紙Pの搬送方向(矢印X方向)に並設されている。つまり、記録用紙Pの搬送方向の各ドット列を形成するノズルとして、ノズル列N1、N2に各1個ずつ(例えばドット列L1ではノズル12a及び12a’)、合計2個のノズルを備えている。なお、ここでは説明の便宜のため、ノズル列N1、N2を構成するノズルのうち、ドット列L1〜L16に対応する12a〜12p及び12a’〜12p’までの各16個のノズルのみを記載しているが、実際にはさらに多数のノズルが記録用紙Pの搬送方向と直交する方向に配列されているものとする。
【0065】
そして、このノズル列N1、N2を順次用いて被記録媒体としての記録用紙P上に画像を形成する。例えば、記録用紙Pを記録用紙Pの搬送方向に移動させながら、記録用紙Pの幅方向(図の左右方向)1行分のドット列D1をノズル列N1からのインク吐出(図の実線矢印)により形成した後、次の1行分のドット列D2をノズル列N2からのインク吐出(図の破線矢印)により形成し、さらに次の1行分のドット列D3を再びノズル列N1からのインク吐出により形成する。以下、ドット列D4以降もノズル列N1、N2を交互に用いて同様に形成する。
【0066】
以上説明した画像形成方法によれば、記録ヘッドからインクがしばらく吐出されなかった後に画像を形成する際の画像の乱れを抑制することができ、良好な印字濃度で、オフセットによる被記録媒体の汚染を生じることなく良好な画像を形成することができる。このため、本発明の画像形成方法はラインヘッド方式を採用した、種々のインクジェット記録装置において好適に利用される。
【実施例】
【0067】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
【0068】
〔調製例1〕
容量1000mlの四つ口フラスコに、スターラー、窒素導入管、コンデンサー、及び滴下ロートを取り付け、イソプロピルアルコール100g、及びメチルエチルケトン300gをフラスコに加えた。次いで、窒素バブリングをしながら、フラスコ内の溶媒が還流開始するまで加熱した。滴下ロートに、スチレン(St)80g、メタクリル酸メチル(MMA)68g、アクリル酸ブチル(BA)40g、及びメタクリル酸(MAA)3.7g、及び開始剤(アゾビスイソブチロニトリル(AIBN))0.3gからなる溶液を入れ、四つ口フラスコを70℃に加熱して還流させた状態で、単量体と開始剤とを滴下した。滴下終了後、さらに6時間、加熱、還流を行った。6時間還流後、AIBN0.1gを含むメチルエチルケトンを15分かけて滴下した。滴下終了後、さらに5時間、加熱、還流を行い、重量平均分子量40000のスチレン−アクリル樹脂(樹脂1)を得た。なお、樹脂1の重量平均分子量の測定は下記方法に従って行った。また、樹脂1の酸価を測定したところ、30mgKOH/gであった。
【0069】
樹脂1の製造方法から、メタクリル酸(MAA)の使用量と、製造条件とを適宜変更して、樹脂1とは重量平均分子量、及び酸価の異なる樹脂2〜7を調製した。樹脂の酸価は、全単量体の質量に対するMAAの質量の比率を調整することにより調整できる。例えば、全単量体の質量に対するMAAの質量の比率を、樹脂1を製造する場合の2倍にすれば、得られる樹脂の酸価は、約60となる。また、樹脂の重量平均分子量は、例えば、重合時の反応温度を上げることにより下げることができ、重合時に使用する溶媒の量や、開始剤の使用量を減らすことにより上げることができる。但し、開始剤の使用量を減らす場合、重合反応が停止し、残留モノマーが増える場合があるため、注意を要する。
【0070】
<重量平均分子量測定条件>
カラム:TSKgel、Super Multipore HZ−H(東ソー株式会社製、4.6mmID×15cm)
カラム本数:3本
溶離液:テトラヒドロフラン
流速:0.35ml/分
サンプル注入量:10μl
測定温度:40℃
検出器:IR検出器
検量線は、標準試料(TSK standard,polystyrene、東ソー株式会社製)から、F−40、F−20、F−4、F−1、A−5000、A−2500、A−1000、及びn−プロピルベンゼンの8種を選択して作成した。
【0071】
【表1】

【0072】
〔参考例1〕
(シアンインク1〜7(C1〜C7)の調製)
以下の方法に従って、顔料の含有量が6質量%であり、インクにおける樹脂/顔料質量比が0.3であり、樹脂酸価が30〜240であるシアンインクC1〜C7を調製した。
【0073】
スチレン−アクリル樹脂(樹脂1〜7)4.5質量%、シアン色顔料(P.B−15:3)15質量%、界面活性剤(サーフィノール465、アセチレンジオールのエチレンオキシド付加物(日信化学工業株式会社製))0.5質量%、及び残余の量のイオン交換水をダイノミル(株式会社シンマルエンタープライゼス社製)に仕込み、0.5mm径のジルコニアビーズをダイノミルのベッセルに充填した後、分散処理を行い、樹脂の酸価が、30、70、90、100、150、200、及び240mgKOH/gである7種の顔料分散体を調製した。
【0074】
なお、スチレン−アクリル樹脂は中和当量の1.1倍のNaOH水溶液で中和した。また、Naの質量は樹脂の質量として計算し、NaOH水溶液に含まれる水や中和反応で生じた水の質量はイオン交換水の質量として計算した。顔料分散体の調製後、顔料の平均粒子径が70〜130nmの範囲内であることを確認した。顔料の平均粒子径の測定は、顔料分散体をイオン交換水により300倍に希釈した液を試料として用い、ゼータサイザー ナノ(シスメックス株式会社製)により行った。
【0075】
表2に記載の酸価の樹脂を含有する顔料分散体を用い、顔料分散体40質量%、界面活性剤(サーフィノール465、アセチレンジオールのエチレンオキシド付加物(日信化学工業株式会社製))0.5質量%、トリエチレングリコールモノブチルエーテル5質量%、2−ピロリドン5質量%、1,2−オクタンジオール0.5質量部、及びグリセリンとイオン交換水との合計が49質量%となるようにこれらの成分を撹拌機により均一に混合した後、孔径5μmのフィルターによりろ過して、C1〜C7のインクを得た。なお、グリセリン、及びイオン交換水の含有量を、インクの25℃における粘度が6mPa.secとなるように、それぞれ調整した。また、下記方法に従い、C1〜C7のインクを用いた場合の形成画像の印字濃度、間欠吐出性、及び形成画像のオフセットの評価を行った。C1〜C7のインクの樹脂/顔料質量比、樹脂の種類、及び樹脂の酸価と、形成画像の印字濃度、間欠吐出性、及び形成画像のオフセットの評価結果とを表2に記す。
【0076】
<印字濃度評価方法>
被記録媒体として普通紙(A4、PPC用紙)を用い、記録ヘッドから吐出されるインクの打ち込み量が15g/mとなるように10cm×10cmのベタ画像を印画した。画像が形成された普通紙を一昼夜、常温常湿環境下に保存した後、画像部の印字濃度をポータブル反射濃度計RD−19(グレタグマクベス社製)により測定し、ベタ画像内の10箇所の印字濃度の平均値を、C1〜C7のインクによる印字濃度とした。印字濃度1.0以上を○と判定し、印字濃度1.0未満を×と判定した。
【0077】
<間欠吐出性評価方法>
ヘッド内部に保温可能なヒーター及び温度検知機能を有した記録ヘッドを用いて、保温設定温度を25℃として、10℃15%RH環境下における間欠吐出性の評価を行った。
具体的には、ヘッド長手方向のライン画像を印字させた後に、21mm以上の任意の非印字区間を経た後に、再度ヘッド長手方向のライン画像を印字させ、ライン画像の印字状態を顕微鏡観察して間欠吐出性を評価した。A3縦ライン相当の非印字区間(420mm)を隔ててライン画像を形成した場合にライン画像に乱れが生じない場合を100%として間欠吐出性を数値化した。例えば、先に形成したライン画像との間に420mmの非印字区間を設けたライン画像に乱れが無く、441mmの非印字区間を設けたライン画像に乱れが生じる場合、間欠吐出性の数値は100%となり、336mmの非印字区間を設けたライン画像に乱れが無く、357mmの非印字区間を設けたライン画像に乱れが生じる場合、間欠吐出性の数値は80%となる。間欠吐出性が100%以上である場合を○と判定し、間欠吐出性が100%未満である場合を×と判定した。
【0078】
<オフセットの評価>
排出ローラーに最も近い位置の記録ヘッド(図1における11dに相当)にインクを充填し、ノズル形成面から出ている余剰液をワイプブレードによりかきとった。記録ヘッドのノズル面と記録用紙Pとの距離を1mmに固定し、記録用紙Pの給紙部から排出部までの記録用紙Pの搬送速度を846.7mm/秒に設定した。記録用紙Pとして用紙(IJW(王子製紙株式会社製))をA4サイズにカットしたものを用い、記録ヘッドから、記録用紙Pへのインクの打ち込み量が15g/mとなるように吐出して、10cm×10cmのベタ画像を連続10枚印画した。10枚目に印画された記録用紙Pについて、オフセットによる記録用紙Pの汚れの評価を以下の方法に従って行った。
【0079】
まず、画像が形成された記録用紙Pの画像オフセット部(ローラーに付着したインクにより用紙汚れが発生する部分)をイメージスキャナ(GT−X820(セイコーエプソン株式会社製))で読み込み、しきい値220にて2値化を行った。2値化された画像の黒色画素数と全体の画素数とから下式に基づき、オフセットの発生の指標となるオフセット面積率を算出した。オフセット面積率が高い程、オフセットによる記録用紙Pの汚れの程度が激しい。目視によりオフセットによる記録用紙Pの汚れを確認できるオフセット面積率が0.030を超える場合であることから、オフセット面積率0.030を超える場合を×と判定し、オフセット面積率0.030以下を○と判定した。
(オフセット面積率算出式)
オフセット面積率(%)=100×黒色画素数/全体の画素数
【0080】
【表2】

【0081】
表2によれば、樹脂酸価が30mgKOH/g超240mgKOH/g未満、好ましくは60〜200mgKOH/gの範囲であれば、良好な印字濃度と間欠吐出性とを実現でき、オフセットによる被記録媒体の汚染も生じにくいことが分かる。
【0082】
〔参考例2〕
(シアンインク8〜13(C8〜C13)の調製)
以下の方法に従って、顔料の含有量が6質量%であり、樹脂の酸価が100mgKOH/gであり、インクにおける樹脂/顔料質量比が0.25〜1.0であるシアンインクC8〜C13を調製した。
【0083】
スチレン−アクリル樹脂(樹脂4)3.75〜15質量%、シアン色顔料(P.B−15:3)15質量%、界面活性剤(サーフィノール465、アセチレンジオールのエチレンオキシド付加物(日信化学工業株式会社製))0.5質量%、及び残余の量のイオン交換水をダイノミル(株式会社シンマルエンタープライゼス社製)に仕込み、0.5mm径のジルコニアビーズをダイノミルのベッセルに充填した後、分散処理を行い、樹脂/顔料質量比が0.25、0.3、0.7、0.8、0.9、及び1.0である6種の顔料分散体を調製した。
【0084】
顔料分散体として表3に記載の樹脂/顔料質量比の顔料分散体を用いることの他は、参考例1と同様にしてC8〜C13のインクを得た。また、参考例1と同様に、C8〜C13のインクの印字濃度、間欠吐出性、及びオフセットの評価を行った。C8〜C13のインクの樹脂/顔料質量比、樹脂の種類、及び樹脂の酸価と、形成画像の印字濃度、間欠吐出性、及び形成画像のオフセットの評価結果とを表3に記す。
【0085】
【表3】

【0086】
表3によれば、樹脂/顔料質量比が0.3以上1.0未満であれば、良好な印字濃度と間欠吐出性とを実現でき、オフセットによる被記録媒体の汚染も生じにくいことが分かる。
【0087】
〔参考例3〕
(シアンインク14〜18(C14〜C18)の調製)
以下の方法に従って、顔料の含有量が4〜9質量%であり、樹脂の酸価が100mgKOH/gであり、インクにおける樹脂/顔料質量比が0.3であるシアンインクC14〜C18を調製した。
【0088】
スチレン−アクリル樹脂(樹脂4)4.5質量%、シアン色顔料(P.B−15:3)15質量%、界面活性剤(サーフィノール465、アセチレンジオールのエチレンオキシド付加物(日信化学工業株式会社製))0.5質量%、及び残余の量のイオン交換水をダイノミル(株式会社シンマルエンタープライゼス社製)に仕込み、0.5mm径のジルコニアビーズをダイノミルのベッセルに充填した後、分散処理を行い顔料分散体を調製した。
【0089】
顔料分散体26.7〜60質量%、界面活性剤(サーフィノール465、アセチレンジオールのエチレンオキシド付加物(日信化学工業株式会社製))0.5質量%、トリエチレングリコールモノブチルエーテル5質量%、2−ピロリドン5質量%、1,2−オクタンジオール0.5質量部、及び残余の量のグリセリンとイオン交換水とを撹拌機により均一に混合した後、孔径5μmのフィルターによりろ過して、顔料の含有量が、4、6、8、8.5、及び9質量%である、C14〜C18のインクを得た。なお、グリセリン、及びイオン交換水の含有量を、インクの25℃における粘度が6mPa.secとなるように、それぞれ調整した。また、参考例1と同様に、C14〜C18のインクを用いた場合の形成画像の印字濃度、間欠吐出性、及び形成画像のオフセットの評価を行った。C14〜C18のインクの、顔料含有量、樹脂/顔料質量比、樹脂の種類、及び樹脂の酸価と、形成画像の印字濃度、間欠吐出性、及び形成画像のオフセットの評価結果とを表4に記す。
【0090】
【表4】

【0091】
表4によれば、シアンインクでは、顔料の含有量が6〜8.5質量%であれば、良好な印字濃度と間欠吐出性とを実現しやすく、オフセットによる被記録媒体の汚染が生じにくいことが分かる。ただし、表2から分かるように、樹脂酸価を上げる等の方法によりオフセットによる被記録媒体の汚染を生じにくくすることができ、また、表3から分かるように、樹脂の酸価を下げる等の方法により間欠吐出性を改善でき、顔料の含有量を増加させる等の方法により印字濃度を高めることができる。このように、シアンインクの顔料の含有量は6〜8.5質量%に限定されない。
【0092】
〔参考例4〕
(イエローインク1〜7(Y1〜Y7)の調製)
以下の方法に従って、顔料の含有量が6質量%であり、樹脂の酸価が30〜240mgKOH/gであり、インクにおける樹脂/顔料質量比が0.3であるイエローインクY1〜Y7を調製した。
【0093】
スチレン−アクリル樹脂(樹脂1〜7)4.5質量%、イエロー色顔料(P.Y−74)15質量%、界面活性剤(サーフィノール465、アセチレンジオールのエチレンオキシド付加物(日信化学工業株式会社製))0.5質量%、及び残余の量のイオン交換水をダイノミル(株式会社シンマルエンタープライゼス社製)に仕込み、0.5mm径のジルコニアビーズをダイノミルのベッセルに充填した後、分散処理を行い、樹脂の酸価が、30、70、90、100、150、200、及び240mgKOH/gである7種の顔料分散体を調製した。
【0094】
表5に記載の酸価の樹脂を含有する顔料分散体を用い、顔料分散体40質量%、界面活性剤(サーフィノール465、アセチレンジオールのエチレンオキシド付加物(日信化学工業株式会社製))0.5質量%、トリエチレングリコールモノブチルエーテル5質量%、2−ピロリドン5質量%、1,2−オクタンジオール0.5質量部、及びグリセリンとイオン交換水との合計が49質量%となるようにこれらの成分を撹拌機により均一に混合した後、孔径5μmのフィルターによりろ過して、Y1〜Y7のインクを得た。なお、グリセリン、及びイオン交換水の含有量を、インクの25℃における粘度が6mPa.secとなるように、それぞれ調整した。また、参考例1と同様に、Y1〜Y7のインクを用いた場合の形成画像の印字濃度、間欠吐出性、及び形成画像のオフセットの評価を行った。Y1〜Y7のインクの樹脂/顔料質量比、樹脂の種類、及び樹脂の酸価と、形成画像の印字濃度、間欠吐出性、及び形成画像のオフセットの評価結果とを表5に記す。
【0095】
【表5】

【0096】
表5によれば、樹脂酸価30mgKOH/g超240mgKOH/g未満、好ましくは60〜200mgKOH/gの範囲であれば、良好な印字濃度と間欠吐出性とを実現でき、オフセットによる被記録媒体の汚染も生じにくいことが分かる。また、イエローインクは、色相の特徴として、オフセットによりインクが被記録媒体に付着したとしても、画像の汚れとして認識されにくい。
【0097】
〔参考例5〕
(イエローインク8〜12(Y8〜Y12)の調製)
以下の方法に従って、顔料の含有量が4〜9質量%であり、樹脂の酸価が100mgKOH/gであり、インクにおける樹脂/顔料質量比が0.3であるイエローインクY8〜Y12を調製した。
【0098】
スチレン−アクリル樹脂(樹脂4)4.5質量%、イエロー色顔料(P.Y−74)15質量%、界面活性剤(サーフィノール465、アセチレンジオールのエチレンオキシド付加物(日信化学工業株式会社製))0.5質量%、及び残余の量のイオン交換水をダイノミル(株式会社シンマルエンタープライゼス社製)に仕込み、0.5mm径のジルコニアビーズをダイノミルのベッセルに充填した後、分散処理を行い顔料分散体を調製した。
【0099】
顔料分散体26.7〜60質量%、界面活性剤(サーフィノール465、アセチレンジオールのエチレンオキシド付加物(日信化学工業株式会社製))0.5質量%、トリエチレングリコールモノブチルエーテル5質量%、2−ピロリドン5質量%、1,2−オクタンジオール0.5質量部、及び残余の量のグリセリンとイオン交換水とを撹拌機により均一に混合した後、孔径5μmのフィルターによりろ過して、顔料の含有量が、4、6、8、8.5、及び9質量%である、Y8〜Y12のインクを得た。なお、グリセリン、及びイオン交換水の含有量を、インクの25℃における粘度が6mPa.secとなるように、それぞれ調整した。また、参考例1と同様に、Y8〜Y12のインクを用いた場合の形成画像の印字濃度、間欠吐出性、及び形成画像のオフセットの評価を行った。Y8〜Y12のインクの、顔料含有量、樹脂/顔料質量比、樹脂の種類、及び樹脂の酸価と、形成画像の印字濃度、間欠吐出性、及び形成画像のオフセットの評価結果とを表6に記す。
【0100】
【表6】

【0101】
表6によれば、イエローインクでは、顔料の含有量が6〜8.5質量%であれば、良好な印字濃度と間欠吐出性とを実現しやすく、オフセットによる被記録媒体の汚染が生じにくいことが分かる。ただし、イエローインクも、シアンインクと同様の理由により顔料の含有量は6〜8.5質量%未満に限定されない。
【0102】
〔参考例6〕
(マゼンタインク1〜4(M1〜M4)の調製)
以下の方法に従って、顔料の含有量が7質量%であり、樹脂の酸価が30〜240mgKOH/gであり、インクにおける樹脂/顔料質量比が0.3であるマゼンタインクM1〜M4を調製した。
【0103】
スチレン−アクリル樹脂(樹脂1、2、6、及び7)4.5質量%、マゼンタ色顔料(P.R−122)15質量%、界面活性剤(サーフィノール465、アセチレンジオールのエチレンオキシド付加物(日信化学工業株式会社製))0.5質量%、及び残余の量のイオン交換水をダイノミル(株式会社シンマルエンタープライゼス社製)に仕込み、0.5mm径のジルコニアビーズをダイノミルのベッセルに充填した後、分散処理を行い、樹脂の酸価が、30、70、200、及び240mgKOH/gである4種の顔料分散体を調製した。
【0104】
表7に記載の酸価の樹脂を含有する顔料分散体を用い、顔料分散体46.7質量%、界面活性剤(サーフィノール465、アセチレンジオールのエチレンオキシド付加物(日信化学工業株式会社製))0.5質量%、トリエチレングリコールモノブチルエーテル5質量%、2−ピロリドン5質量%、1,2−オクタンジオール0.5質量部、及びグリセリンとイオン交換水との合計が49質量%となるようにこれらの成分を撹拌機により均一に混合した後、孔径5μmのフィルターによりろ過して、M1〜M4のインクを得た。なお、グリセリン、及びイオン交換水の含有量を、インクの25℃における粘度が6mPa.secとなるように、それぞれ調整した。また、参考例1と同様に、M1〜M4のインクを用いた場合の形成画像の印字濃度、間欠吐出性、及び形成画像のオフセットの評価を行った。M1〜M4のインクの樹脂/顔料質量比、樹脂の種類、及び樹脂の酸価と、形成画像の印字濃度、間欠吐出性、及び形成画像のオフセットの評価結果とを表7に記す。
【0105】
【表7】

【0106】
M1〜M4では、広い色域で、良好な色相を再現できることから、マゼンタ色顔料として着色力にやや劣るP.R−122を用いている。このため、表7では、P.R−122を用いる場合、樹脂の酸価が70mg/KOHgでは画像濃度がわずかに劣る結果となった。しかし、P.R−122を着色力の高いマゼンタ色顔料へ変更する方法や、シアンインクで確認されているように、インク中の顔料濃度を上げる方法、及び樹脂/顔料質量比を上げる方法等によって、樹脂酸価が70mgKOH/g程度であっても、良好な濃度の画像を形成できるマゼンタインクを調製することができる。
【0107】
また、表7によれば、樹脂酸価30mgKOH/g超〜240mgKOH/g未満、好ましくは60〜200mgKOH/gの範囲であれば、良好な間欠吐出性を実現でき、オフセットによる被記録媒体の汚染も生じにくいことが分かる。
【0108】
〔参考例7〕
(マゼンタインク5〜10(M5〜M10)の調製)
以下の方法に従って、顔料の含有量が6〜9質量%であり、樹脂の酸価が100mgKOH/gであり、インクにおける樹脂/顔料質量比が0.3であるマゼンタインクM5〜M10を調製した。
【0109】
スチレン−アクリル樹脂(樹脂4)4.5質量%、マゼンタ色顔料(P.R−122)15質量%、界面活性剤(サーフィノール465、アセチレンジオールのエチレンオキシド付加物(日信化学工業株式会社製))0.5質量%、及び残余の量のイオン交換水をダイノミル(株式会社シンマルエンタープライゼス社製)に仕込み、0.5mm径のジルコニアビーズをダイノミルのベッセルに充填した後、分散処理を行い顔料分散体を調製した。
【0110】
顔料分散体40〜60質量%、界面活性剤(サーフィノール465、アセチレンジオールのエチレンオキシド付加物(日信化学工業株式会社製))0.5質量%、トリエチレングリコールモノブチルエーテル5質量%、2−ピロリドン5質量%、1,2−オクタンジオール0.5質量部、及び残余の量のグリセリンとイオン交換水とを撹拌機により均一に混合した後、孔径5μmのフィルターによりろ過して、顔料の含有量が、6、7、7.5、8、8.5、及び9質量%である、M5〜M10のインクを得た。なお、グリセリン、及びイオン交換水の含有量を、インクの25℃における粘度が6mPa.secとなるように、それぞれ調整した。また、参考例1と同様に、M5〜M10のインクを用いた場合の形成画像の印字濃度、間欠吐出性、及び形成画像のオフセットの評価を行った。M5〜M10のインクの、顔料含有量、樹脂/顔料質量比、樹脂の種類、及び樹脂の酸価と、形成画像の印字濃度、間欠吐出性、及び形成画像のオフセットの評価結果とを表8に記す。
【0111】
【表8】

【0112】
表8によれば、マゼンタインクでは、顔料の含有量が7.5〜8質量%であれば、良好な印字濃度と間欠吐出性とを実現しやすく、オフセットによる被記録媒体の汚染が生じにくいことが分かる。ただし、マゼンタインクも、シアンインクと同様の理由により顔料の含有量は7.5〜8質量%未満に限定されない。
【0113】
〔参考例8〕
(ブラックインク1〜7(K1〜K7)の調製)
以下の方法に従って、顔料の含有量が6質量%であり、樹脂の酸価が30〜240mgKOH/gであり、インクにおける樹脂/顔料質量比が0.3であるブラックインクK1〜K7を調製した。
【0114】
スチレン−アクリル樹脂(樹脂1〜7)4.5質量%、ブラック色顔料(B.K−7)15質量%、界面活性剤(サーフィノール465、アセチレンジオールのエチレンオキシド付加物(日信化学工業株式会社製))0.5質量%、及び残余の量のイオン交換水をダイノミル(株式会社シンマルエンタープライゼス社製)に仕込み、0.5mm径のジルコニアビーズをダイノミルのベッセルに充填した後、分散処理を行い、樹脂の酸価が、30、70、90、100、150、200、及び240mgKOH/gである7種の顔料分散体を調製した。
【0115】
表9に記載の酸価の樹脂を含有する顔料分散体を用い、顔料分散体40質量%、界面活性剤(サーフィノール465、アセチレンジオールのエチレンオキシド付加物(日信化学工業株式会社製))0.5質量%、トリエチレングリコールモノブチルエーテル5質量%、2−ピロリドン5質量%、1,2−オクタンジオール0.5質量部、及びグリセリンとイオン交換水との合計が49質量%となるようにこれらの成分を撹拌機により均一に混合した後、孔径5μmのフィルターによりろ過して、K1〜K7のインクを得た。なお、グリセリン、及びイオン交換水の含有量を、インクの25℃における粘度が6mPa.secとなるように、それぞれ調整した。また、参考例1と同様に、K1〜K7のインクを用いた場合の形成画像の印字濃度、間欠吐出性、及び形成画像のオフセットの評価を行った。K1〜K7のインクの樹脂/顔料質量比、樹脂の種類、及び樹脂の酸価と、形成画像の印字濃度、間欠吐出性、及び形成画像のオフセットの評価結果とを表9に記す。
【0116】
【表9】

【0117】
表9によれば、樹脂酸価30mgKOH/g超〜240mgKOH/g未満、好ましくは60〜200mgKOH/gの範囲であれば、良好な印字濃度と間欠吐出性とを実現でき、オフセットによる被記録媒体の汚染も生じにくいことが分かる。
【0118】
〔参考例9〕
(ブラックインク8〜26(K8〜K26)の調製)
以下の方法に従って、顔料の含有量が5〜8.5質量%であり、樹脂の酸価が100mgKOH/gであり、インクにおける樹脂/顔料質量比が0.3であるブラックインクK8〜K13を調製した。また、顔料の含有量が5〜8.5質量%であり、樹脂の酸価が90mgKOH/gであり、インクにおける樹脂/顔料質量比が0.3であるブラックインクK14〜K19を調製した。さらに、顔料の含有量が5〜9質量%であり、樹脂の酸価が70mgKOH/gであり、インクにおける樹脂/顔料質量比が0.3であるブラックインクK20〜K26を調製した。
【0119】
スチレン−アクリル樹脂(樹脂4、酸価100)4.5質量%、ブラック色顔料(B.K−7)15質量%、界面活性剤(サーフィノール465、アセチレンジオールのエチレンオキシド付加物(日信化学工業株式会社製))0.5質量%、及び残余の量のイオン交換水をダイノミル(株式会社シンマルエンタープライゼス社製)に仕込み、0.5mm径のジルコニアビーズをダイノミルのベッセルに充填した後、分散処理を行い顔料分散体Aを調製した。また、スチレン−アクリル樹脂(樹脂4)を、スチレン−アクリル樹脂(樹脂3、酸価90)に変更する他は、顔料分散体Aと同様に顔料分散体Bを調製した。さらに、スチレン−アクリル樹脂(樹脂4)を、スチレン−アクリル樹脂(樹脂2、酸価70)に変更する他は、顔料分散体Aと同様に顔料分散体Cを調製した。
【0120】
顔料分散体A33.3〜56.7質量%、界面活性剤(サーフィノール465、アセチレンジオールのエチレンオキシド付加物(日信化学工業株式会社製))0.5質量%、トリエチレングリコールモノブチルエーテル5質量%、2−ピロリドン5質量%、1,2−オクタンジオール0.5質量部、及び残余の量のグリセリンとイオン交換水とを撹拌機により均一に混合した後、孔径5μmのフィルターによりろ過して、顔料の含有量が、5、6、7、7.5、8、及び8.5質量%である、K8〜K13のインクを得た。
【0121】
また、顔料分散体Aを顔料分散体Bに変える他は、K8〜K13のインクと同様にして、顔料の含有量が、5、6、7、8、8.5、及び9質量%である、K14〜K19のインクを得た。さらに、顔料分散体Aを顔料分散体Cに変え、顔料分散体の使用量を33.3〜60質量%に変える他は、K8〜K13のインクと同様にして、顔料の含有量が、5、6、7、8、8.5、9、及び9.5質量%である、K20〜K26のインクを得た。
【0122】
なお、K8〜K26のインクを調製する際、グリセリン、及びイオン交換水の含有量を、インクの25℃における粘度が6mPa.secとなるように、それぞれ調整した。また、参考例1と同様に、K8〜K26のインクを用いた場合の形成画像の印字濃度、間欠吐出性、及び形成画像のオフセットの評価を行った。K8〜K13のインクの、顔料含有量、樹脂/顔料質量比、樹脂の種類、及び樹脂の酸価と、形成画像の印字濃度、間欠吐出性、及び形成画像のオフセットの評価結果とを表10に記す。K14〜K19のインクの、顔料含有量、樹脂/顔料質量比、樹脂の種類、及び樹脂の酸価と、形成画像の印字濃度、間欠吐出性、及び形成画像のオフセットの評価結果とを表11に記す。K20〜K26のインクの、顔料含有量、樹脂/顔料質量比、樹脂の種類、及び樹脂の酸価と、形成画像の印字濃度、間欠吐出性、及び形成画像のオフセットの評価結果とを表12に記す。
【0123】
【表10】

【0124】
【表11】

【0125】
【表12】

【0126】
表10によれば、樹脂の酸価が100mgKOH/gであるブラックインクでは、顔料の含有量が6〜7.5質量%であれば、良好な印字濃度と間欠吐出性とを実現しやすく、オフセットによる被記録媒体の汚染が生じにくいことが分かる。また、表11によれば、樹脂の酸価が90mgKOH/gであるブラックインクでは、顔料の含有量が6〜8質量%であれば、良好な印字濃度と間欠吐出性とを実現しやすく、オフセットによる被記録媒体の汚染が生じにくいことが分かる。さらに、表12によれば、樹脂の酸価が70mgKOH/gであるブラックインクでは、顔料の含有量が6〜8.5質量%であれば、良好な印字濃度と間欠吐出性とを実現しやすく、オフセットによる被記録媒体の汚染が生じにくいことが分かる。ただし、ブラックインク(K8〜K26)も、シアンインクと同様の理由により顔料の含有量は上記の好ましい範囲に限定されない。
【0127】
また、良好な画像を形成するためにはブラックインクにより形成される画像の濃度は高い程よいことが知られている。このため、ブラックインクにより形成される画像の濃度は1.2以上であることが好ましい。表10、表11、及び表12によれば、樹脂の酸価を下げるほど画像濃度が高くなる傾向があることが分かり、ブラックインクについては、顔料の酸価を90mgKOH/g以下とすることにより、望ましい画像濃度を実現しやすくなることが分かる。
【0128】
〔参考例10〕
(インクジェットヘッドの位置のオフセットへの影響の確認)
参考例9で調製したブラックインクK23を用いて、記録ヘッドの位置を図1における11d(4色目)に相当する位置から、11a(1色目)、11b(2色目)、及び11c(3色目)に相当する位置に変えて、オフセットの評価を行った。各記録ヘッドから排出部の従動ローラーまでの被記録媒体の移動時間、オフセット面積率、及びオフセットの有無の判定を表14に記す。
【0129】
【表13】

【0130】
表13によれば、K23のブラックインクは、4色目の記録ヘッドから吐出される場合にはオフセットにより被記録媒体を汚染しやすいが、1〜3色目の記録ヘッドから吐出される場合には、オフセットによる被記録媒体の汚染が生じにくいことが分かる。このことから、印字濃度や間欠吐出性に問題のないインクであれば、4色目の記録ヘッドでのオフセットの評価において、ややオフセット面積率が高いインクであっても、1〜3色目の記録ヘッドから吐出されるインクとして使用できることが分かる。
【0131】
〔実施例1〜5、比較例1、及び比較例2〕
参考例10で用いたインクジェット記録装置を用いて、シアンインク、イエローインク、マゼンタインク、ブラックインクの4色のインクを用いて印画した場合のオフセットの評価を行った。なお、実施例で用いたインクは、参考例で調製されたインクのうち、印字濃度、及び間欠吐出性の良好なインクから選択された。実施例、及び比較例におけるオフセットの評価は以下の方法に従って行った。
【0132】
<オフセットの評価>
各色の記録ヘッド(図1における11a〜11dに相当)にインクを充填し、ノズル形成面から出ている余剰液をワイプブレードによりかきとった。記録ヘッドのノズル面と記録用紙Pとの距離を1mmに固定し、記録用紙Pの給紙部から排出部までの搬送速度を846.7mm/秒に設定した。記録用紙Pとして用紙(IJW(王子製紙株式会社製))をA4サイズにカットしたものを用い、記録ヘッドから、記録用紙Pへの各色のインクの打ち込み量が1.5g/m(4色合計で6g/m)となるように吐出して、10cm×10cmのベタ画像を連続10枚印画した。10枚目に印画された記録用紙Pについて、オフセットによる記録用紙Pの汚れの評価を単色のインクと同様の方法で行った。
【表14】

【0133】
実施例1〜6では、酸価が60〜200mgKOH/gである樹脂を含むインクを使用し、4色目に吐出されるインクに含まれる樹脂の酸価が、1色目に吐出されるインクに含まれる樹脂の酸価よりも高く、4色目に吐出されるインクに含まれる樹脂の酸価が100mgKOH/g以上である。このため、実施例1〜6では、オフセットによって被記録媒体が汚染されにくい。
【0134】
比較例1では、排出部8から最も遠い1色目のラインヘッド11aから、オフセットによる被記録媒体の汚染が起こりにくい、酸価の高い樹脂を含むインクを吐出し、排出部から最も近い4色目のラインヘッド11dから、オフセットによる被記録媒体の汚染が起こりやすい、酸価の低い樹脂を含むインクを吐出しているために、被記録媒体にオフセットによる汚染が生じている。
【0135】
比較例2は、酸価が60〜200mgKOH/gである樹脂を含むインクを使用しており、4色目に吐出されるインクに含まれる樹脂の酸価が、1色目に吐出されるインクに含まれる樹脂の酸価よりも高い。しかし、比較例2では、4色目に吐出されるインクが、オフセットにより被記録媒体を汚染しやすい、酸価が100未満の樹脂を含むインクであるため、被記録媒体のオフセットによる汚染が生じている。
【符号の説明】
【0136】
2 給紙トレイ
3 給紙ローラー
4 従動ローラー
5 搬送ベルト
6 ベルト駆動ローラー
7 ベルトローラー
8 排出部
8a 排出ローラー
8b 従動ローラー
10 排紙トレイ
11a、11b、11c、11d ラインヘッド
12a〜12p、12a’〜12p’ ノズル
20 制御部
30 検出手段
100 インクジェット記録装置
D1〜D4 ドット列(行方向)
L1〜L16 ドット列(搬送方向)
N1、N2 ノズル列
P 記録用紙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2色以上のインクを用いる、2以上の記録ヘッドと、被記録媒体を排出する排出部とを備えるラインヘッド方式のインクジェット記録装置による画像形成方法であって、
前記2色以上のインクは、顔料と樹脂と水と有機溶剤とを含み、
前記2色以上のインクは、インクに含まれる樹脂の酸価が60〜200mgKOH/g以上であり、
最後に吐出されるインクに含まれる樹脂の酸価が、1色目に吐出されるインクに含まれる樹脂の酸価よりも高く、
最後に吐出されるインクに含まれる樹脂の酸価が100〜200mgKOH/gである、画像形成方法。
【請求項2】
前記1色目に吐出されるインクに含まれる樹脂の酸価が60〜100mgKOH/gである、請求項1記載の画像形成方法。
【請求項3】
2色目から最後に吐出されるインクに含まれる樹脂の酸価が、それぞれ、前の順に吐出されるインクに含まれる樹脂の酸価以上である、請求項1、又は2記載の画像形成方法。
【請求項4】
前記2色以上のインクが、インクに含まれる前記樹脂と前記顔料とについて、樹脂の質量/顔料の質量の値が0.3以上1.0未満である、請求項1〜3何れか記載の画像形成方法。
【請求項5】
最後に吐出されたインクが前記被記録媒体表面に着弾してから、該着弾箇所が前記排出部に接触するまでの時間が1秒以内である、請求項1〜4何れか記載の画像形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−18246(P2013−18246A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−155263(P2011−155263)
【出願日】平成23年7月13日(2011.7.13)
【出願人】(000006150)京セラドキュメントソリューションズ株式会社 (13,173)
【Fターム(参考)】